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図書館から異世界へ第二部 その2

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色々あったけど何とか南地区と呼ばれるところへたどり着いた。
酷い日照りで作物があまり育っていない。何とか存在している植物たちも枯れて言っていた。
「綾香様、熱いですが大丈夫ですか?」
沙希が気を使ってくれる。
「沙希ちゃんのほうこそ体は大丈夫?熱いのは平気?」
38℃くらいありそうな気温だ。蒸し暑さはなくカラッと熱い。
「ふふ、この南地区は何回か来たことがあるのでこのくらいの暑さなら平気です。」
日本でもこの気温は真夏日だ。日本みたいに湿気がないぶんまだましだろう。
かっかっかと蹄の音がした。
外を見てみると愁宋がいた。輿を止めて、愁宋の馬へ乗るよう促された。
「綾香、ここからは輿で行くのは危ない。道がガタガタしているんだ。俺の馬へ一緒に乗ってくれ」
愁宋とはあれから少しきまづい空気が流れる程度でとくにお互い何もこの間のことは話さない。
「ええ、わかったわ、じゃあ、沙希ちゃんはどうするの?」
「加賀と一緒に乗ってもらう」
「それじゃあ安心ね」

こうして南地区に入ることになったが、愁宋の体温を背中に感じ少しどきりとしてしまう。あの夜のことを思い出してしまう。
(この人わざとああいう風なことしたりするからたちが悪いわ)
馬の手綱を持つ彼の手を見ると触られていた感触までも思い出してしまった。
「俺、あのことは謝らないからな。はっきりしない綾香が悪い」
彼を見上げ、顔を見る。
無表情でよく感情の読めない顔をしていた。
「そのことは・・・もういいわ」
済んでしまったことはしょうがないし、それなりに報復もした。
「それよりこの村、本当に日照りが続いているのね。土がカラカラに乾いているし、農作物もほぼ全滅といっていいほど枯れはてているわ」
そんな綾香の言葉を聞いて愁宋は少し険しい顔をした。
「ああ、ここまでなるまでなぜ南地区の話が俺の耳に入ってこなかったんだ」
「くそっ!」
心底悔しそうに低い声で愁宋は言った。
「でも、まだ間に合うんでしょう?何か雨乞いの儀式をするって聞いたんだけど」
「雨乞い、というよりは俺が雨を降らせるんだ。」
「水を司っているって言ったけどそんなことができるの?」
「・・・できる。俺しかできるものがいないしな。このまま放っておくわけにはいかない」
また愁宋は悲しそうに見える。
こんなときなんて声をかければいいのか綾香には分らなかった。
とてもじゃないが気さくに頑張って、なんて言葉をかけるの不適切のような気がした。
馬に揺られて連れてこられたのは南地区にある大泉だった。大きな泉があった場所は枯れはて、土にひび割れができている。
南地区の住人はほかの地区へ避難し今は無人の村と化していた。
儀式をするときは危険を避けるため人を非難させてからするらしい。
(全部沙希ちゃんに教えてもらったことだけど本当なのかな)
「愁宋、儀式って危険なことなの?」
愁宋は少し間をあけ答えた。
「・・・稀に力が暴走することがあって、神官たちが危険だと判断したんだ。それから住人は避難させるようになったんだ。」
「暴走するとどうなるの?」
「わからない。俺は覚えていないんだ。ただ、水を呼びすぎて辺り一面海のようになってしまう。しばらく人が住めない状態になる。」
「危険ね」
「ああ」

「綾香手を」
「うん」
馬から降りるとき綾香は愁宋の手を借り下りた。
加賀と沙希がこちらにやってきた。
「愁宋様、儀式のご準備をいたしますのでこちらへお願いいたします」
加賀が恭しく愁宋に声をかけた。
「綾香、行ってくるからなるべく高いところに登って避難しておいてくれ。何が起こるかわからないからな」
「・・・気を付けてね?」
愁宋は綾香の唇に軽く口づけをした。
加賀と沙希は見ていないふりをしている。
「なっ」
「そんな顔をしてかわいい事を言う綾香が悪い。言っただろう期待してしまうと」
それから愁宋は綾香と沙希に背を向け片手を振りながら儀式の準備をしに行ってしまった。
「綾香様、本当に愁宋様の正妃様にはならないんですか?」
がっつり今のを見られてしまっていては説得力がないかもしれないが否定しておこう。
「ならないわ。私はー・・・」
(あれ、帰るからと続けようとしたのにどうして言えなかったの?)




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