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孤児院への訪問

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「ブランシュ、子供は好きか?」
唐突な質問に一瞬戸惑った。
「え?好きですが・・・」
「明日、孤児院へ訪問することが決まった」
「同行しても良いんですか!?」
ブランシュは喜んだ。
「ああ、お前のお披露目でもあるからな」
ナックスでは王族の娘や、貴族の娘は奉仕活動を義務付けられている。
その一つが孤児院訪問だ。
ナックスには孤児院が5つもあるらしい。
孤児院の子供達も高い教育を受けられているそうだ。
その話を聞いて凄いことだなとブランシュは感心した。
ブランシュの祖国、ルミールには孤児院は1つだけ。
特に教育は行われていない。
教養さえあれば孤児院を出た後も1人で生きていくには困らない。
早速、ルミールにその事を手紙に書いた。
手紙をメイドに渡し、ルミールへ送るよう頼んだ。
「明日は孤児院訪問かぁ・・・楽しみだな」
ブランシュは嫁ぐ前、祖国の孤児院に足しげく通っていた。
皆に本を読んで聞かせたり、一緒に走り回って遊んだりしていた。
孤児院の子供達のブランシュに良く懐いてくれていた。
翌日、馬車に乗り孤児院へ出発した。
孤児院まで半日かかるそうだ。
機嫌のいいブランシュを見て、ルークは言った。
「そんなに孤児院に行けることが嬉しいのか?」
「はい!」
「そうか、そんなに子供が好きなのか」
ルークは嬉しそうにそう言った。
「今日はあまりはしゃぎすぎないようにしますね。お淑やかなのは難しいですけど・・・」
「はははは、ありのままのブランシュでいいんだぞ。取り繕ってもぼろが出るだろう?」
「それはそうですけど・・・」
馬車に揺られて半日。
ようやく、孤児院に辿り着いた。
ルークは先に馬車から降り、ブランシュに手を差し伸べた。
ブランシュはその手を取り馬車から降りた。
孤児院は活気にあふれていた。
子供達は走り回り、皆楽しそうに過ごしていた。
もう勉強の時間は終わった後らしい。
「まぁまぁ、こんなところまでよく来てくださいました」
年配の女性が出迎えてくれた。
「皆、集まって!!」
そうシスターが言うと子供たちは綺麗に一列に並んだ。
ここの孤児院は教会も兼ねてあるようだ。
子供たちは皆シスターのいう事をよく聞いていた。
「皆に今日は紹介したい人がいるんだ」
ルークはそう言い一歩下がった。
「皆様、初めましてブランシュと申します。宜しくお願いいたします」
そう言い、子供たちやシスター、年配の女性に深々と頭を下げた。
「王妃様!私たちにそんな風に頭を下げないでください!!畏れ多いことです!」
振り返るとルークだけが微笑んでいた。
(何か挨拶がおかしかっただろうか・・・?)
ブランシュはそう思ったが今はそれは聞けない。
帰りの馬車でルークに聞こう。
「さあ、皆さんも王妃様にご挨拶なさい」
そう言われ子供たちがブランシュに挨拶をした。
「王妃様ようこそおいでくださいました。宜しくお願いいたします」
皆声を揃え、はっきりした声で言った。
ブランシュは驚いた。
「皆、凄いのね。ちゃんと挨拶出来るなんて」
すると1人の小さい女の子が近寄ってきた。
「おうひさま、これどうぞ」
一輪の花を差し出してきた。
「ありがとう」
ブランシュは心が温かくなるのを感じた。
花はまだ新しいものだった。
きっとブランシュの為に摘んできてくれたに違いない。
「王妃様はそんな花じゃ喜ばないわよ。もっと高価な物じゃなきゃ」
ブランシュはその発言にムッとした。
「そんなことありません!私は高価な物に興味ありません!!」
「どうだか。今、王妃様が着ている物は高価なドレスじゃありませんか」
ブランシュにそう言うその少女は14歳くらいに見える。
「では、こうしましょう。貴方の服を貸してください。それに着替えてきます」
さすがにこの発言にはルークも戸惑った様子だった。
「いけません!王妃様にそんな・・・」
「構いません。言ったことを証明したいだけです」
「シュシュ!王妃様に謝りなさい!!」
「・・・」
シュシュはシスターの言葉を無視し、自室にブランシュを連れて行った。
施設内は清潔で教会も美しかった。
きょろきょろ辺りを見回しているうちにシュシュの部屋についた。
シュシュは無言で洋服をブランシュに差し出した。
ブランシュはドレスを脱ぎ捨て、シュシュの服を着た。
シュシュは目を見開いて驚いていた。
シュシュの服のサイズはブランシュにぴったりだった。
ドレスより動きやすい。
「さぁ、皆が心配するから戻りましょう」
「・・・口だけではないのですね」
「え?」
シュシュの小さな呟きはブランシュには聞こえなかった。
ルークの元に戻るとルークは呆れた声を出した。
「ブランシュ・・・」
「すみません。悔しくってつい・・・」
「お前がそれでいいなら俺は何も言わないがあまりやりすぎるなよ」
「はい」
ブランシュはシスターに案内され、施設の見学をしてまわった。
それが終わると後は自由にして良いと言われたのでルークの元へ戻ろうとした。
すると花をくれた少女が泣いていた。
ブランシュは少女に駆け寄り話かけた。
「どうしたの?」
「ボールがきのえだに引っかかったの」
少女が指さしたほうを見ると赤いボールが木の枝に引っかかっていた。
「ちょっと待ってて、取ってきてあげる」
「え?でもあんなにたかいところにあるのよ?」
「大丈夫」
そう少女に微笑みかけ安心させようとした。
少女は安心したように泣き止んだ。
「さてと・・・」
ブランシュは辺りを見渡した。
(よし!人の気配はないわ)
ブランシュは軽々木に登り始めた。
ブランシュのその行動に泣いていた少女は驚いた。
「おうひさま!あぶないです!!」
少女はブランシュの身を案じた。
ボールを手に取り、ブランシュは木からひょいっと降りてきた。
そしてそのボールを少女に渡した。
「あ・・・ありがとうございます」
「ボール、今度はあんまり高く上げたら駄目だよ?」
そう言い残しその場を去ろうとした。
すると、どうやら一部始終見ていたらしきシュシュと目が合った。
(しまった・・・見られてた・・・)
ブランシュは踵をかえし、急いでその場から離れようとした。
「王妃様!お話があります!」
シュシュがブランシュを呼び止めた。
「・・・何でしょうか?」
ひきつった笑みを浮かべシュシュを見た。
シュシュは目に涙を浮かべていた。
「先ほどは失礼な物言いをして、その上着替えて頂きすみませんでした」
「・・・気にしてないですよ?」
「私が気にします!」
シュシュの瞳から涙がこぼれた。
「どうして泣いているの?何か嫌な事でも?」
「自分に嫌気がさしたんです。王妃様はご立派な方です」
「いいえ、私はー・・・立派なんかじゃないわ」
「そんなことありません。孤児の声を聞き、きちんと目を見て話してくださいます」
それが当たり前だと思っていたのでその発言に驚いた。
「それが普通じゃないの?」
「はい、他の王族や貴族の方々は私たちの事を汚らしい物でも見るような目で見ます」
「え?」
「話かけても無視されることも多いのです」
「だから・・・私を試したの?」
「・・・はい、でもまさかここまでされるなんて思わなくって」
どうやら着替えた事と木に登りボールを取った事をいっているようだ。
「あれは私が好きでやったことなので気にしないで」
「ですが・・・!!」
「それだけ嫌な思いをしてきたのなら試したくなるのも分かるわ」
そろそろルークが心配している頃だろう。
もう戻らなければ・・・。
「私、そろそろルーク様の所へ戻ります」
「あ、それならお召しかえをしてから戻られてください!」
「ふふふふ、そうね」
ブランシュはシュシュと打ち解けたことが嬉しかった。
「じゃあ行きましょう」
ブランシュはシュシュの手を握り部屋に戻った。
そして着替えてルークの待つ場所へ行った。
ルークはシュシュと仲良くなっているブランシュの姿を見て安心した。
「ルーク様!ただいま戻りました」
「あの少女とは仲良くなったようだな」
「はい」
「そろそろ帰らねばならないがもういいか?」
「はい」
2人は馬車に乗り込んだ。
帰りの馬車の中でシュシュが話してくれたことをルークに話した。
するとルークは苦々しい顔をした。
「その話は他の孤児からも聞いている」
「何か解決策があればいいのですが・・・」
それは難しい話だ。
偏見や差別はそう簡単には無くならない。
「それより、ブランシュ。お前木に登ったな?」
「なっ、見てたんですか!?」
ルークはすっとブランシュの頭に手を伸ばし葉っぱを取った。
その葉っぱをブランシュに見せた。
「怪我がないのなら良いがあまりやりすぎるなと言っただろう?」
「すみません」
ブランシュは肩を落とした。
「だが、お前が正しいと思った事が出来たのならもうそれでよい」
「ありがとうございます!!」
こうして2人は帰路についた。
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