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雷属性のウィザード
1話 ウィザード様と奉者
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アールモンドが灯魔作業をしている
《俺はアールモンド… アールモンド・レイモンド 見ての通り…》
アールモンドが杖を掲げると 灯魔台の上部に集まっていた 雷の魔力が 一度跳ね上がり灯魔口へ降り 灯魔台に雷の魔力が灯る
《…ウィザードだ》
アールモンドの周囲に 雷の残り魔力がちら付く
《…ウィザードってぇのは》
アールモンドが振り向くと 後方に居た アーサーが微笑して言う
「お見事!」
アールモンドが 微笑を隠して鼻で笑って言う
「ふんっ …今更 この程度の灯魔作業 褒めたって 何も出ねえぞ?アーサー?」
アールモンドが アーサーの居る場所まで歩いて来る
アーサーが軽く笑って言う
「あれぇ~?”この程度の灯魔作業”?ふ~ん?それなら…?」
アーサーが アールモンドの歩みに 合わせて歩いていた状態から ひょいと飛び出して 閉鎖されていたドアを開くと その先へ向けて 愛嬌良く公表する
「お待たせしました~!皆さんー?次回は皆さんのウィザード様!アールモンド・レイモンド ウィザード様による 公開灯魔作業ですよー!」
外に居た大勢の女性ファン達が 黄色い悲鳴を上げて喜んで言う
「キャー!アールモンド様ぁー!」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「あっ!?おいっ!俺は そんな事っ!」
アーサーが続けて言う
「しかも!次回は 本邦初公開! アールモンド・レイモンド ウィザード様による 上級灯魔作業を 御覧に入れますので!」
アールモンドが慌てて言う
「って!?ちょっと待て!次の灯魔台はっ!」
アーサーが微笑して言う
「どうぞ皆さん!乞うご期待をー!」
アールモンドが怒って言う
「アーサーっ!!」
ファン達が歓声を高めて言う
「キャー!アールモンド様が 上級灯魔作業ですってー!」 「すっごーい!今はまだ アイザック様しか成功させて居ない上級灯魔作業なのにー!」 「私たちのアールモンド様がー!」 「素敵ー!」 「アールモンド様ぁー!」
アーサーが微笑をたたえて居る その後ろで アールモンドが怒りを抑え 周囲に雷の魔力がほとばしっている
2人が屋外まで来ると アールモンドが杖を地に突く
アールモンドが 不満を噛み殺し待っている アーサーが ファンたちの相手をして居る ファンたちが警備員に抑えられつつも アーサーへ集って居る
《…で、ウィザードってぇのは そもそもは この世界の天変地異を抑える為に 神が遣わした天使に仕えた人間… の事だったとか その天使に選ばれた者だったとかって…
俺も元が何だったのかなんてぇのは 分からねぇけど とりあえず 今も昔もウィザードがやる事は この世界を守る結界を維持するための 灯魔作業をやる事
そしてウィザードは それが出来る 数少ねぇ人間なんだ …てぇのに》
アールモンドが 怒りと共に 閉じていた目を開くと言う
「アーサーっ 置いてくぞっ!」
アーサーがファンたちへ苦笑して言う
「ごめんね~?そろそろ行かないと?次の灯魔作業の時間に 遅れちゃうから?ウィザード様への御奉納は この辺で~?」
《奉納…?はっ!何言ってんだ?》
アーサーが受け取っている沢山の手紙から内容が見える
『…と結婚出来ますように』 『~を神様にお願いして下さい』 『…ルモンド様と一緒に写真を…』
アーサーがファンたちから解放され アールモンドの下へ向っている
《それこそ 大昔のウィザードは 人と神との間だと言われ その人々に崇拝される存在だった》
大昔の様子が見える 人々がウィザードを崇拝している
《…だがそれも》
近代的な街中に アールモンドが歩いていると 道行く人が指差し 陰口を言う
「何あれ?」 「どっかでイベントでもあるんじゃない?」 「イベントに行くのにアレって…」 「魔法使いか何かのつもりかな?」 「カッコ良いと思ってるのかな?」 「ダッサ…」 「クスクス…」
アールモンドがムッとして顔を逸らす
《こーなったと 思ったら…》
ファンたちが言う
「アールモンド様ぁー!」 「次の灯魔作業 頑張ってくださーい!」
《こーなった… まぁ どうでもいいっ》
アーサーがファンたちへ手を振りつつ言う
「ありがとねー!皆の気持ちは アールモンド様に ちゃーんと伝わってるからね~!これからも応援宜しくね~!」
ファンたちが喜ぶ
アーサーがアールモンドの横に到着すると アールモンドが杖を上げる 二人の周囲に風が舞うと 次の瞬間 二人の姿が風に消える
《…で 言い忘れてたが》
屋敷前のエントランスに アールモンドとアーサーが肩を組んで現れる 移動魔法の残り風が アーサーの片手に抱えて居た手紙の山から 数枚の手紙をさらう
アーサーが気付くと言う
「おっと?」
アーサーがアールモンドと組んでいた片手を離し それを捕まえると 微笑して言う
「危ない 危ない?」
アールモンドがアーサーを見ていた状態から顔を背けて言う
「どうせ 捨てるゴミだろ」
アーサーが言う
「あれぇ~?またまたぁ~?そんな事 言っちゃって~?アーリィーってば?」
アールモンドがふんっと不満の声を残して 歩き始める
《この何とも緩い奴は アーサー …俺の》
アーサーがアールモンドを追って言う
「ホントは 気になってるんじゃないのぉ?この手紙の内容?」
アールモンドが顔を向けないまま言う
「なってねぇよ …どぉせ連中の下らねぇ 願望だろ?ンなもん見てたら 灯魔作業が出来なくなっちまうよ?」
《何度も言う様だが ウィザードの役目は この世界を守る為に 灯魔作業をやる事だ そして、その灯魔作業に必要な力は 自然界の5大属性 そいつを操るのに 人の持つ雑念や煩悩は 邪魔になる》
アーサーがアールモンドの様子に苦笑すると静かに言う
「けど 本当に 純粋で 綺麗な気持ちを込めて 書かれている ファンレターもあるんだよ?アーリィー 知らないでしょ?」
アールモンドが歩みを止めて顔を向ける
アーサーが手紙の一つを読んで言う
「『日々偉大なる灯魔作業を行う アールモンド様!…に お仕えする 気さくで優しいアーサー奉者様!』」
アールモンドが衝撃を受ける
アーサーが続けて手紙を読む
「『アールモンド様はいつも アーサー様へお叱りの御様子ですが そんな中であっても 常に優しい笑みをたたえて 私たちの 御相手をして下さるアーサー奉者様を 私たちはお慕い申し上げております!どうかこれからも変わらずに…!』」
アールモンドが怒って言う
「そいつは お前に対する 純粋なファンレターだろうが!」
アールモンドが怒って立ち去る
アーサーが苦笑して続きを言う
「『…無力な私たちに代わり アールモンド様の御力になって下さい 世界を守る灯魔作業の ご無事とご健闘を 陰ながらお祈りしております。』…本当アーリィーは 俺が居ないと 何も出来ないんだから?」
遠くでアールモンドが叫ぶ
「アーサーっ!!」
アーサーが軽く笑って言う
「ハイハイ?今 行くよ?アーリィー」
アーサーがアールモンドの下へ急いでいる
アールモンドが進行方向へ顔を戻して言う
「…ったく 」
《さっきの純粋なファンレターだとか言ってた奴にも書かれて居た様に アーサーは 今 割と有名な俺の奉者だ》
アーサーが近くまで来ると アールモンドが歩みを再開する
《…ちなみに奉者ってぇのは ウィザードに仕える人間の事で 食事はもちろん掃除やら何やら ウィザードの身の回りの世話をする奴の事を言う
…てぇのは 嘘なんだが 現代の一般常識ではそう言う事になっていて そいつをやってるのが普通だ …が》
アールモンドが屋敷へ入ると メイドが礼をして言う
「おかえりなさいませ アールモンド様」
アールモンドが舌打ちをしてから言う
「チッ… 誰が…」
アーサーが到着して言う
「ただいま!ハミネさん!」
メイドがアーサーへ微笑して言う
「おかえりなさいませ アーサー様」
アールモンドがメイドへ言う
「誰が 俺の名を 呼んで良いと言ったっ!?」
メイドがハッとすると 表情を落として言う
「…も、申し訳ございません …坊ちゃま」
アールモンドが言う
「違うっ」
アーサーが言う
「アーリィー…」
アールモンドがメイドをにらんで言う
「ウィザード様と 呼べと言った筈だ 忘れたのかっ!?」
メイドが困りつつ言う
「し、しかし そちらのご指示を頂きました 以前とは変わりまして 今ではウィザード様方は お名前を伏せては 居られない様ですので…」
アールモンドが言う
「…そうじゃない 俺がっ お前に名を 呼ばれたくないってだけだっ!」
アールモンドが踵を返して立ち去る メイドが沈黙する アーサーがメイドを見て一瞬間を置いてから 苦笑して言う
「…ごめんね ハミネさん?アーリィー 今日はちょっと 機嫌が良くないみたいで?」
メイドが顔を上げ アーサーへ微笑して言う
「いえ、アールモンド坊ちゃまが 私にお厳しいのは 昔からの事ですので」
アーサーが言う
「うん… でも もう少し優しくしてあげる様にって 今度アーリィーの機嫌の良い時にでも 言って置くから 今日の所は 許してあげてもらえないかな?」
アーサーがメイドへ微笑する
メイドが苦笑して言う
「ありがとうございます アーサー様 アールモンド坊ちゃまは 昔からアーサー様の ご指示には従われるご様子ですので どうか宜しくお願い致します」
アーサーが言う
「俺が アーリィーに指示を出したりなんかした事は 一度も無いけどね?アーリィーは優しいから 俺のお願いを受け入れてくれているだけだよ?それじゃ?」
メイドが言う
「はい ご公務お疲れ様で御座いました アーサー様」
メイドが礼をする アーサーが立ち去ると メイドが礼を上げ肩で息を吐き立ち去る アーサーが横目にその様子を見ていて 口角を上げる
アールモンドが自室のソファに身を静めて居る ドアが開かれアーサーが入室しながら言う
「ハミネさんには フォローをして置いたからね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ふんっ 余計な事を…」
アーサーが微笑んで言う
「お礼なんて 良いよアーリィー!いつもの事じゃない?」
アールモンドが言う
「言ってねぇよっ」
アーサーが笑う
アールモンドが溜息を吐いて言う
「…たくっ お前は何も 知らねぇんだよ アーサー?アイツは…っ」
アーサーが言う
「ハミネさんが?」
アールモンドが沈黙する
《俺はウィザード… である前に この町の貴族 レイモンド家の跡取りで 親父は大手コンサルタント レイモンドグループの会長だ… んな訳で両親は昔から仕事に忙しく 俺はこの無駄に広い屋敷で 家の使用人らに育てられて来た …さっきのメイドもその一人で…》
アールモンドが言う
「金の為に… ただそれだけの為に へこへこしてやがるだけなんだよ 言葉の上じゃ 俺の為なら 何でもするとか言っときながら その裏じゃ…っ」
アールモンドが表情を悔しめて思う
(俺の耳に聞こえてねぇとでも思っていたのか…っ それとも…っ!?)
アールモンドの記憶の中 部屋の外でメイドたちが話している
『あ~やんなっちゃうわっ わがままお坊ちゃんの ご機嫌取りなんて?』 『適当に寝かしつけて置けば良いのよぉ?』『それが本を読んでほしいなんて言われちゃってぇ?』
『なら、絵本でも持って行って 自分で読ませたら良いんじゃない?読んでお聞かせください!なんて言えば喜んで読むんじゃないかしら?』 『それが良いわね?それで楽しちゃおう!』
『今度の休暇は何時かしら?今月はお手当てが良かったから!』 『お坊ちゃまのご機嫌さえ取っておけばボーナスが付くんだから お屋敷付きは辞められないわよね!』
メイドたちが笑っている 扉の内側で幼いアールモンドが悔しがっている
アーサーがケロッと言う
「うん それはそうだろうね?」
アールモンドがアーサーを見る
アーサーが微笑して 部屋に用意されていた ティーセットをテーブルへ 運びながら言う
「彼女たちだって 仕事でやってるんだから 裏じゃアーリィーの事 めちゃくちゃに言ってるに 決まってるじゃない?それが人間ってものだよ?」
アールモンドが沈黙する
《…それと こいつも言い忘れていたが アーサーは 俺の奉者になる以前から 俺の世話役だ …だから付き合いは長くて 俺は こいつの事は良く知ってる …と言いてぇ所だったが…》
アーサーが言う
「それに本当に アーリィーの事 裏でも憂い慕っていて欲しい だなんて思うんなら アーリィー 今度は神様にでもならないと?」
アールモンドが言う
「神様?」
アールモンドが思う
(簡単に言ってくれる お前の言う神様が どの神様の事だかは知らねぇが その遥か手前のウィザードになるまでだって どれ程大変だったか…)
アールモンドが言う
「…知ってるくせによ?」
アーサーがアールモンドを一度見て軽く笑うと ティーケトルへ水差しの水を注ごうとする
アールモンドがハッとして言う
「あ、待てっ」
アーサーが動作を止め 疑問して言う
「え?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが視線を強めて言う
「…悪ぃ その水 替えて来てくれ アーサー」
アーサーが疑問して水を見て言う
「うん それは構わないけど?ティーセットと一緒に 新しくしていると思うけど?」
アーサーがアールモンドを見る
アールモンドが言う
「分かってる …けどそうじゃねぇ その水 用意したの さっきのアイツだ …残留魔力を感じる」
アーサーが納得して言う
「ああ そういう事?分かった それなら ちょっと待ってて?すぐ行ってくるから!」
アーサーが席を立つ
アールモンドが言う
「急がなくて良い …今日はそんなに 喉乾いてねぇし?」
アーサーが笑顔で言う
「うん ありがと アーリィー でも俺は 喉乾いちゃったよ?今日も不愛想な 誰かさんのお陰で フォローが忙しくって?」
アールモンドが衝撃を受けると 怒って言う
「なら さっさと行って来いよ!」
アーサーが笑って言う
「あっははっ それじゃ アーリィーのご機嫌が 良くなりますように~!って 俺の残留魔力が こもる様に 汲んで来るからね!期待しててよ アーリィー!」
アールモンドが衝撃を受け 怒って言う
「余計な魔力 使うんじゃねぇ!」
アーサーが笑って立ち去る
アールモンドが溜息を吐いて言う
「…ったく」
アーサーが出て行くと アールモンドが軽く息を吐いてソファに身を沈める
《…俺は たまにアイツが何を考えているのか 分からなくなる時がある》
アーサーが鼻歌交じりに機嫌よく通路を歩いている
アールモンドが不満げに アーサーの居た場所へ視線を向ける
《俺が 何処でどんな態度を取っても アイツは俺のフォローをする 俺がアイツへ何を言っても 笑って返してくる 文句を言っても怒らねぇし たまに冗談を言えば 上乗せして返して来る 何処までも底抜けに 能天気な奴なのかと思えば》
アーサーが 給湯室へ入ろうとすると 中からメイドたちの声が聞こえる アーサーが立ち止まると メイドの声が聞こえる
「今日も不機嫌真っ只中だったのよ?あの我儘お坊ちゃま」「あのお坊ちゃまが不機嫌なのは昔からじゃない?」 「ホント まったく可愛くない アールモンドさまぁー!なんて言ってる あの子たちに見せてやりたいわよ」 「ホントよね~?」 「「アッハハハハッ」」
アーサーが壁を背に溜息を吐くと 気を取り直して息を吸う
《さっきみてぇに…》
給湯室内のメイドたちに アーサーの声が聞こえる
「さ~て 早く戻らないと?」
メイドたちがハッとする アーサーが給湯室の出入り口に やって来て言葉を続ける
「不機嫌で我儘な お坊ちゃまに 怒られちゃうから?あ~れ~?ひょっとして 今の俺の独り言 聞かれちゃったかなぁ?」
《俺が思いもしない様な事を… 何時もの様子で…》
アーサーの白銀の瞳が怪しく煌めく メイドたちがゾクッとする 一瞬の後 アーサーが茶目っ気のある微笑で 人差し指を立てて言う
「もし 聞こえちゃってたなら アーリィーには 内緒にして置いてもらえます?ね?お願い?」
メイドたちがホッとする
《…いや やっぱり少し違う様な気が… する様な… しない様な…》
メイドたちが苦笑して言う
「も、もちろんで御座います!アーサー様」 「アーサー様も お大変で御座いましょう?お坊ちゃまとはいつもご一緒ですから!?」「アーサー様も た、たまには… 羽目を外されませんと?」
メイドたちが作り笑いをしながら立ち去って行く
アーサーがメイドたちを見送ると言う
「ま、俺には アーリィーから離れて 外さなきゃいけない羽目なんて 無いんだけど?」
アーサーが軽く肩の力を抜くと 間を置いて 自分の手にある水差しに気付き思い出して言う
「あ!忘れてたっ これじゃ本当アーリィーを 待たせちゃうじゃない?」
アーサーが急いで水差しの水を取り替えようとすると 蓋が落ちる アーサーが慌てている
《…やっぱり 気のせいか?》
アールモンドが言う
「…遅ぇ」
アールモンドが思う
(何か あったのか?それとも…?本当に急がなくて 良いと思ったのか?)
アールモンドが思い出して言う
「ん?まさか本当に…っ」
アールモンドが思う
(俺の機嫌が 良くなるようにって…?)
アールモンドが言う
「魔力を込めようとしてる なんてンじゃ…っ!?」
ドアが開く音がする アールモンドが顔を向けると アーサーが水差しを手に入室しながら言う
「ごめーん アーリィー?遅くなっちゃって」
アールモンドが言う
「いや… 別に…」
アーサーがアールモンドの横に来て言う
「はいっ コレなら大丈夫?」
アールモンドが アーサーの差し出した水差しを見て 軽く息を吐いて言う
「…別に お前が汲んで来たんだったら 何も… あ?おい まさか本当に?」
アーサーが一度微笑した後 疑問して言う
「え?本当に って?何が?」
アールモンドが言い辛そうに 視線を逸らして言う
「だから その… お前の魔力を込めてた… 何て言うンじゃ…?」
アーサーが呆気に取られて言う
「俺の魔力を?あっはははっ そんな事出来る訳ないじゃない アーリィー?俺はアーリィーと違って ウィザードでも魔法使いでも無いんだから ?魔法なんて使えないよ?」
アールモンドが言う
「魔法は使えなくても 魔力を込める事は 誰にだって出来る」
アーサーが言う
「へ?そうなの?へぇー?知らなかった」
アーサーが言い終えると 水差しの水をティーケトルへ注ぐ
アールモンドが言う
「知らなかった?」
アーサーが作業を止め 一度アールモンドへ向いて言う
「うん 考えた事も無かったよ?一応、奉者協会の講習会で 魔力と精神力については 聞いたけど 精神力はともかく 魔力は魔法を使う人にしか 無い力だと思ってたから?」
アールモンドが言う
「それじゃぁ 全く逆だぜ アーサー?そもそも お前は…」
アールモンドがハッとして言葉を止める 作業をしていたアーサーが手を止めて アールモンドを見て言う
「俺が?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが 自分へ向けられた アーサーの瞳を見つめてから バツの悪そうに視線を逸らして言う
「…ンでもねぇ」
アーサーが疑問した後言う
「え?酷いなぁ?アーリィーは アーリィーの世話役で アーリィーの奉者でもある俺に 隠し事はしないって 約束じゃない?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「う、うるせぇよっ!?大体お前はっ!?たかが 水替えるだけの事にっ どんだけ時間掛けてんだよ アーサー!?お前こそ 俺に隠し事してるんじゃ…っ!?」
アーサーが気付いて言う
「ああ!そういう事!?それならそうと 聞いてくれれば!」
アールモンドが アーサーを見る アーサーがティーポットへ茶葉を入れ お湯を注ぎつつ言う
「アーリィーに頼まれて 水を替えようと 給湯室へ行ったらね?先に室内に居た ハミネさんとリテルさんが アーリィーの 陰口を言ってたから」
アールモンドが表情をしかめて言う
「…またかよ アイツら…」
アーサーが アールモンドへ笑顔を向けて言う
「ホント 不機嫌で我儘で可愛くない アーリィー坊ちゃまの相手は 大変だよねー!って 俺も同意して置いたからね?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて叫ぶ
「同意してンじゃねぇよ アーサー!!」
アーサーが笑って言う
「あっははは!もちろん 本心なんかじゃ無いけど これで少しは彼女たちも 気を使ってくれるんじゃないかな?少なくとも この屋敷内で 自分たちの雇い主の 悪口は慎むようにって?」
アールモンドが言う
「はんっ どうだか…」
アールモンドがティーポットの上部へ手をかざす
《俺だって もう餓鬼じゃねぇンだ… アーサーの言う通り アイツらが俺の生活の 世話をするのも 俺に頭を下げるのも 本心から望んでいる事なんかじゃねぇ …仕事だからやっている それは分かってる 分かって…》
淡い黄色を帯びた光の輪が ふわっと浮かんで消える アールモンドがそのまま沈黙する
「…」
アーサーが疑問して言う
「ん?どうかした?アーリィー?紅茶の活性魔法 失敗しちゃったとか?」
アーサーが疑問しつつ 紅茶を自分側のカップへ注ぎ 一口飲むと 微笑して言う
「うん!おいしい!今日もちゃんと 美味しく出来てるよ?アーリィー?アーリィーにも 俺が注いで良い?」
アーサーがアールモンドの顔を見る
アールモンドが言い掛ける
「アーサー お前も…?」
アールモンドがアーサーへ向くと 2人の目が合い アールモンドがハッとする
アーサーが疑問して言う
「うん?俺が何?アーリィー?」
アーサーが笑顔を向ける
アールモンドがバツが悪そうに衝撃を受けると言う
「…いや 俺の」
アールモンドが思う
(俺の方こそ お前に)
アーサーが言う
「俺の…?」
アールモンドが一瞬辛そうな表情をしてから ムッと怒って言う
「『俺の残留魔力がこもる様に 汲んで来る』 って お前言ったじゃねぇか アーサーっ!?なのに魔力を込める方法が 分からねぇのかよ!?」
アーサーがハッとして言う
「ああ!それ すっかり忘れてたよ !ごめーん アーリィー!実は そのハミネさんたちが居なくなってから 水を替えようと 水差しの水を捨てた時に 蓋が落ちちゃってね?その蓋だけ 洗ってたら 今度は隣に置いてた 水差しの中にまで 泡が飛んじゃって?結局 どっちも洗ってたら 時間が掛かっちゃったんだ?やっぱり 慣れない事は やらない方が 良かったかな?今度からは…」
アールモンドが思う
(お前に言えねぇ… どうしようもねぇ 隠し事が 有るってぇのに…っ)
アールモンドが手を握り締める
アーサーが気付きながらも平静を装って 心配しつつも 話を続けている
「やっぱり 普段からそういう事を やってるメイドさんたちに お願いした方が…?あ!でもそれじゃ ダメなんだっけ?その残留魔力が… って 所で その残留魔力って なあに?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「そこからかよ!?だからさっきから 言ってるじゃねぇかっ 魔力は誰でも…!」
《俺は お前に どの面下げて訊ける?…お前のそれも 全部 …仕事なのか?…何て …聞きたくもねぇよ アーサー…》
大雨の中 雷鳴が轟いている 土手からの眺め
アールモンドが思う
(うん?雨?… …いや?今朝の空気からして 雨なんか降らねぇ 増してこんな…)
幼いアールモンドが 膝を抱えて涙を流しながら 震えている
アールモンドが思う
(あぁ… いつもの… 俺は今 夢を見ているのか… 寝ちまったのか 次の灯魔作業は?…時間は平気かよ アーサー?)
幼いアールモンドの上部に傘が当てられる
アーサーが携帯をしまいつつ 入室しながら言う
「灯魔台の準備は 出来てるって?それから 神館内にはアーリィーウィザード様の ファンの子たちも 大勢集まって…!」
アーサーが顔を向け 言葉を止めると微笑する アーサーの視線の先 アールモンドが居眠りをして居る
アールモンドの夢の中
不貞腐れている幼いアールモンドが 後ろから抱きしめられる 幼いアールモンドが呆気に取られる
アールモンドが思う
(…ったく 変わらねぇ)
幼いアールモンドが 一瞬怒ろうとするが 涙が溢れる
幼いアールモンドを 後ろから抱きしめている 幼いアーサーが 腕の力を強めて言う
『俺が助けるから』
幼いアールモンドが アーサーの腕の服を握る
アールモンドの身体に アーサーの上着が掛けられて居る アールモンドが手元にあった アーサーの上着を握ると 目を覚ます
アーサーが横を向いて言う
「目は覚めた?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ…」
アーサーが微笑して言う
「良かった!今日は ご機嫌だね!?アーリィー!」
アールモンドが言う
「…うるせぇよ アーサー」
アーサーが笑う
「あっはははっ」
アールモンドが呆れる アールモンドの横で アールモンドに寝寄り掛かられて居たアーサーが微笑んで居る
《俺はアールモンド… アールモンド・レイモンド 見ての通り…》
アールモンドが杖を掲げると 灯魔台の上部に集まっていた 雷の魔力が 一度跳ね上がり灯魔口へ降り 灯魔台に雷の魔力が灯る
《…ウィザードだ》
アールモンドの周囲に 雷の残り魔力がちら付く
《…ウィザードってぇのは》
アールモンドが振り向くと 後方に居た アーサーが微笑して言う
「お見事!」
アールモンドが 微笑を隠して鼻で笑って言う
「ふんっ …今更 この程度の灯魔作業 褒めたって 何も出ねえぞ?アーサー?」
アールモンドが アーサーの居る場所まで歩いて来る
アーサーが軽く笑って言う
「あれぇ~?”この程度の灯魔作業”?ふ~ん?それなら…?」
アーサーが アールモンドの歩みに 合わせて歩いていた状態から ひょいと飛び出して 閉鎖されていたドアを開くと その先へ向けて 愛嬌良く公表する
「お待たせしました~!皆さんー?次回は皆さんのウィザード様!アールモンド・レイモンド ウィザード様による 公開灯魔作業ですよー!」
外に居た大勢の女性ファン達が 黄色い悲鳴を上げて喜んで言う
「キャー!アールモンド様ぁー!」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「あっ!?おいっ!俺は そんな事っ!」
アーサーが続けて言う
「しかも!次回は 本邦初公開! アールモンド・レイモンド ウィザード様による 上級灯魔作業を 御覧に入れますので!」
アールモンドが慌てて言う
「って!?ちょっと待て!次の灯魔台はっ!」
アーサーが微笑して言う
「どうぞ皆さん!乞うご期待をー!」
アールモンドが怒って言う
「アーサーっ!!」
ファン達が歓声を高めて言う
「キャー!アールモンド様が 上級灯魔作業ですってー!」 「すっごーい!今はまだ アイザック様しか成功させて居ない上級灯魔作業なのにー!」 「私たちのアールモンド様がー!」 「素敵ー!」 「アールモンド様ぁー!」
アーサーが微笑をたたえて居る その後ろで アールモンドが怒りを抑え 周囲に雷の魔力がほとばしっている
2人が屋外まで来ると アールモンドが杖を地に突く
アールモンドが 不満を噛み殺し待っている アーサーが ファンたちの相手をして居る ファンたちが警備員に抑えられつつも アーサーへ集って居る
《…で、ウィザードってぇのは そもそもは この世界の天変地異を抑える為に 神が遣わした天使に仕えた人間… の事だったとか その天使に選ばれた者だったとかって…
俺も元が何だったのかなんてぇのは 分からねぇけど とりあえず 今も昔もウィザードがやる事は この世界を守る結界を維持するための 灯魔作業をやる事
そしてウィザードは それが出来る 数少ねぇ人間なんだ …てぇのに》
アールモンドが 怒りと共に 閉じていた目を開くと言う
「アーサーっ 置いてくぞっ!」
アーサーがファンたちへ苦笑して言う
「ごめんね~?そろそろ行かないと?次の灯魔作業の時間に 遅れちゃうから?ウィザード様への御奉納は この辺で~?」
《奉納…?はっ!何言ってんだ?》
アーサーが受け取っている沢山の手紙から内容が見える
『…と結婚出来ますように』 『~を神様にお願いして下さい』 『…ルモンド様と一緒に写真を…』
アーサーがファンたちから解放され アールモンドの下へ向っている
《それこそ 大昔のウィザードは 人と神との間だと言われ その人々に崇拝される存在だった》
大昔の様子が見える 人々がウィザードを崇拝している
《…だがそれも》
近代的な街中に アールモンドが歩いていると 道行く人が指差し 陰口を言う
「何あれ?」 「どっかでイベントでもあるんじゃない?」 「イベントに行くのにアレって…」 「魔法使いか何かのつもりかな?」 「カッコ良いと思ってるのかな?」 「ダッサ…」 「クスクス…」
アールモンドがムッとして顔を逸らす
《こーなったと 思ったら…》
ファンたちが言う
「アールモンド様ぁー!」 「次の灯魔作業 頑張ってくださーい!」
《こーなった… まぁ どうでもいいっ》
アーサーがファンたちへ手を振りつつ言う
「ありがとねー!皆の気持ちは アールモンド様に ちゃーんと伝わってるからね~!これからも応援宜しくね~!」
ファンたちが喜ぶ
アーサーがアールモンドの横に到着すると アールモンドが杖を上げる 二人の周囲に風が舞うと 次の瞬間 二人の姿が風に消える
《…で 言い忘れてたが》
屋敷前のエントランスに アールモンドとアーサーが肩を組んで現れる 移動魔法の残り風が アーサーの片手に抱えて居た手紙の山から 数枚の手紙をさらう
アーサーが気付くと言う
「おっと?」
アーサーがアールモンドと組んでいた片手を離し それを捕まえると 微笑して言う
「危ない 危ない?」
アールモンドがアーサーを見ていた状態から顔を背けて言う
「どうせ 捨てるゴミだろ」
アーサーが言う
「あれぇ~?またまたぁ~?そんな事 言っちゃって~?アーリィーってば?」
アールモンドがふんっと不満の声を残して 歩き始める
《この何とも緩い奴は アーサー …俺の》
アーサーがアールモンドを追って言う
「ホントは 気になってるんじゃないのぉ?この手紙の内容?」
アールモンドが顔を向けないまま言う
「なってねぇよ …どぉせ連中の下らねぇ 願望だろ?ンなもん見てたら 灯魔作業が出来なくなっちまうよ?」
《何度も言う様だが ウィザードの役目は この世界を守る為に 灯魔作業をやる事だ そして、その灯魔作業に必要な力は 自然界の5大属性 そいつを操るのに 人の持つ雑念や煩悩は 邪魔になる》
アーサーがアールモンドの様子に苦笑すると静かに言う
「けど 本当に 純粋で 綺麗な気持ちを込めて 書かれている ファンレターもあるんだよ?アーリィー 知らないでしょ?」
アールモンドが歩みを止めて顔を向ける
アーサーが手紙の一つを読んで言う
「『日々偉大なる灯魔作業を行う アールモンド様!…に お仕えする 気さくで優しいアーサー奉者様!』」
アールモンドが衝撃を受ける
アーサーが続けて手紙を読む
「『アールモンド様はいつも アーサー様へお叱りの御様子ですが そんな中であっても 常に優しい笑みをたたえて 私たちの 御相手をして下さるアーサー奉者様を 私たちはお慕い申し上げております!どうかこれからも変わらずに…!』」
アールモンドが怒って言う
「そいつは お前に対する 純粋なファンレターだろうが!」
アールモンドが怒って立ち去る
アーサーが苦笑して続きを言う
「『…無力な私たちに代わり アールモンド様の御力になって下さい 世界を守る灯魔作業の ご無事とご健闘を 陰ながらお祈りしております。』…本当アーリィーは 俺が居ないと 何も出来ないんだから?」
遠くでアールモンドが叫ぶ
「アーサーっ!!」
アーサーが軽く笑って言う
「ハイハイ?今 行くよ?アーリィー」
アーサーがアールモンドの下へ急いでいる
アールモンドが進行方向へ顔を戻して言う
「…ったく 」
《さっきの純粋なファンレターだとか言ってた奴にも書かれて居た様に アーサーは 今 割と有名な俺の奉者だ》
アーサーが近くまで来ると アールモンドが歩みを再開する
《…ちなみに奉者ってぇのは ウィザードに仕える人間の事で 食事はもちろん掃除やら何やら ウィザードの身の回りの世話をする奴の事を言う
…てぇのは 嘘なんだが 現代の一般常識ではそう言う事になっていて そいつをやってるのが普通だ …が》
アールモンドが屋敷へ入ると メイドが礼をして言う
「おかえりなさいませ アールモンド様」
アールモンドが舌打ちをしてから言う
「チッ… 誰が…」
アーサーが到着して言う
「ただいま!ハミネさん!」
メイドがアーサーへ微笑して言う
「おかえりなさいませ アーサー様」
アールモンドがメイドへ言う
「誰が 俺の名を 呼んで良いと言ったっ!?」
メイドがハッとすると 表情を落として言う
「…も、申し訳ございません …坊ちゃま」
アールモンドが言う
「違うっ」
アーサーが言う
「アーリィー…」
アールモンドがメイドをにらんで言う
「ウィザード様と 呼べと言った筈だ 忘れたのかっ!?」
メイドが困りつつ言う
「し、しかし そちらのご指示を頂きました 以前とは変わりまして 今ではウィザード様方は お名前を伏せては 居られない様ですので…」
アールモンドが言う
「…そうじゃない 俺がっ お前に名を 呼ばれたくないってだけだっ!」
アールモンドが踵を返して立ち去る メイドが沈黙する アーサーがメイドを見て一瞬間を置いてから 苦笑して言う
「…ごめんね ハミネさん?アーリィー 今日はちょっと 機嫌が良くないみたいで?」
メイドが顔を上げ アーサーへ微笑して言う
「いえ、アールモンド坊ちゃまが 私にお厳しいのは 昔からの事ですので」
アーサーが言う
「うん… でも もう少し優しくしてあげる様にって 今度アーリィーの機嫌の良い時にでも 言って置くから 今日の所は 許してあげてもらえないかな?」
アーサーがメイドへ微笑する
メイドが苦笑して言う
「ありがとうございます アーサー様 アールモンド坊ちゃまは 昔からアーサー様の ご指示には従われるご様子ですので どうか宜しくお願い致します」
アーサーが言う
「俺が アーリィーに指示を出したりなんかした事は 一度も無いけどね?アーリィーは優しいから 俺のお願いを受け入れてくれているだけだよ?それじゃ?」
メイドが言う
「はい ご公務お疲れ様で御座いました アーサー様」
メイドが礼をする アーサーが立ち去ると メイドが礼を上げ肩で息を吐き立ち去る アーサーが横目にその様子を見ていて 口角を上げる
アールモンドが自室のソファに身を静めて居る ドアが開かれアーサーが入室しながら言う
「ハミネさんには フォローをして置いたからね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ふんっ 余計な事を…」
アーサーが微笑んで言う
「お礼なんて 良いよアーリィー!いつもの事じゃない?」
アールモンドが言う
「言ってねぇよっ」
アーサーが笑う
アールモンドが溜息を吐いて言う
「…たくっ お前は何も 知らねぇんだよ アーサー?アイツは…っ」
アーサーが言う
「ハミネさんが?」
アールモンドが沈黙する
《俺はウィザード… である前に この町の貴族 レイモンド家の跡取りで 親父は大手コンサルタント レイモンドグループの会長だ… んな訳で両親は昔から仕事に忙しく 俺はこの無駄に広い屋敷で 家の使用人らに育てられて来た …さっきのメイドもその一人で…》
アールモンドが言う
「金の為に… ただそれだけの為に へこへこしてやがるだけなんだよ 言葉の上じゃ 俺の為なら 何でもするとか言っときながら その裏じゃ…っ」
アールモンドが表情を悔しめて思う
(俺の耳に聞こえてねぇとでも思っていたのか…っ それとも…っ!?)
アールモンドの記憶の中 部屋の外でメイドたちが話している
『あ~やんなっちゃうわっ わがままお坊ちゃんの ご機嫌取りなんて?』 『適当に寝かしつけて置けば良いのよぉ?』『それが本を読んでほしいなんて言われちゃってぇ?』
『なら、絵本でも持って行って 自分で読ませたら良いんじゃない?読んでお聞かせください!なんて言えば喜んで読むんじゃないかしら?』 『それが良いわね?それで楽しちゃおう!』
『今度の休暇は何時かしら?今月はお手当てが良かったから!』 『お坊ちゃまのご機嫌さえ取っておけばボーナスが付くんだから お屋敷付きは辞められないわよね!』
メイドたちが笑っている 扉の内側で幼いアールモンドが悔しがっている
アーサーがケロッと言う
「うん それはそうだろうね?」
アールモンドがアーサーを見る
アーサーが微笑して 部屋に用意されていた ティーセットをテーブルへ 運びながら言う
「彼女たちだって 仕事でやってるんだから 裏じゃアーリィーの事 めちゃくちゃに言ってるに 決まってるじゃない?それが人間ってものだよ?」
アールモンドが沈黙する
《…それと こいつも言い忘れていたが アーサーは 俺の奉者になる以前から 俺の世話役だ …だから付き合いは長くて 俺は こいつの事は良く知ってる …と言いてぇ所だったが…》
アーサーが言う
「それに本当に アーリィーの事 裏でも憂い慕っていて欲しい だなんて思うんなら アーリィー 今度は神様にでもならないと?」
アールモンドが言う
「神様?」
アールモンドが思う
(簡単に言ってくれる お前の言う神様が どの神様の事だかは知らねぇが その遥か手前のウィザードになるまでだって どれ程大変だったか…)
アールモンドが言う
「…知ってるくせによ?」
アーサーがアールモンドを一度見て軽く笑うと ティーケトルへ水差しの水を注ごうとする
アールモンドがハッとして言う
「あ、待てっ」
アーサーが動作を止め 疑問して言う
「え?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが視線を強めて言う
「…悪ぃ その水 替えて来てくれ アーサー」
アーサーが疑問して水を見て言う
「うん それは構わないけど?ティーセットと一緒に 新しくしていると思うけど?」
アーサーがアールモンドを見る
アールモンドが言う
「分かってる …けどそうじゃねぇ その水 用意したの さっきのアイツだ …残留魔力を感じる」
アーサーが納得して言う
「ああ そういう事?分かった それなら ちょっと待ってて?すぐ行ってくるから!」
アーサーが席を立つ
アールモンドが言う
「急がなくて良い …今日はそんなに 喉乾いてねぇし?」
アーサーが笑顔で言う
「うん ありがと アーリィー でも俺は 喉乾いちゃったよ?今日も不愛想な 誰かさんのお陰で フォローが忙しくって?」
アールモンドが衝撃を受けると 怒って言う
「なら さっさと行って来いよ!」
アーサーが笑って言う
「あっははっ それじゃ アーリィーのご機嫌が 良くなりますように~!って 俺の残留魔力が こもる様に 汲んで来るからね!期待しててよ アーリィー!」
アールモンドが衝撃を受け 怒って言う
「余計な魔力 使うんじゃねぇ!」
アーサーが笑って立ち去る
アールモンドが溜息を吐いて言う
「…ったく」
アーサーが出て行くと アールモンドが軽く息を吐いてソファに身を沈める
《…俺は たまにアイツが何を考えているのか 分からなくなる時がある》
アーサーが鼻歌交じりに機嫌よく通路を歩いている
アールモンドが不満げに アーサーの居た場所へ視線を向ける
《俺が 何処でどんな態度を取っても アイツは俺のフォローをする 俺がアイツへ何を言っても 笑って返してくる 文句を言っても怒らねぇし たまに冗談を言えば 上乗せして返して来る 何処までも底抜けに 能天気な奴なのかと思えば》
アーサーが 給湯室へ入ろうとすると 中からメイドたちの声が聞こえる アーサーが立ち止まると メイドの声が聞こえる
「今日も不機嫌真っ只中だったのよ?あの我儘お坊ちゃま」「あのお坊ちゃまが不機嫌なのは昔からじゃない?」 「ホント まったく可愛くない アールモンドさまぁー!なんて言ってる あの子たちに見せてやりたいわよ」 「ホントよね~?」 「「アッハハハハッ」」
アーサーが壁を背に溜息を吐くと 気を取り直して息を吸う
《さっきみてぇに…》
給湯室内のメイドたちに アーサーの声が聞こえる
「さ~て 早く戻らないと?」
メイドたちがハッとする アーサーが給湯室の出入り口に やって来て言葉を続ける
「不機嫌で我儘な お坊ちゃまに 怒られちゃうから?あ~れ~?ひょっとして 今の俺の独り言 聞かれちゃったかなぁ?」
《俺が思いもしない様な事を… 何時もの様子で…》
アーサーの白銀の瞳が怪しく煌めく メイドたちがゾクッとする 一瞬の後 アーサーが茶目っ気のある微笑で 人差し指を立てて言う
「もし 聞こえちゃってたなら アーリィーには 内緒にして置いてもらえます?ね?お願い?」
メイドたちがホッとする
《…いや やっぱり少し違う様な気が… する様な… しない様な…》
メイドたちが苦笑して言う
「も、もちろんで御座います!アーサー様」 「アーサー様も お大変で御座いましょう?お坊ちゃまとはいつもご一緒ですから!?」「アーサー様も た、たまには… 羽目を外されませんと?」
メイドたちが作り笑いをしながら立ち去って行く
アーサーがメイドたちを見送ると言う
「ま、俺には アーリィーから離れて 外さなきゃいけない羽目なんて 無いんだけど?」
アーサーが軽く肩の力を抜くと 間を置いて 自分の手にある水差しに気付き思い出して言う
「あ!忘れてたっ これじゃ本当アーリィーを 待たせちゃうじゃない?」
アーサーが急いで水差しの水を取り替えようとすると 蓋が落ちる アーサーが慌てている
《…やっぱり 気のせいか?》
アールモンドが言う
「…遅ぇ」
アールモンドが思う
(何か あったのか?それとも…?本当に急がなくて 良いと思ったのか?)
アールモンドが思い出して言う
「ん?まさか本当に…っ」
アールモンドが思う
(俺の機嫌が 良くなるようにって…?)
アールモンドが言う
「魔力を込めようとしてる なんてンじゃ…っ!?」
ドアが開く音がする アールモンドが顔を向けると アーサーが水差しを手に入室しながら言う
「ごめーん アーリィー?遅くなっちゃって」
アールモンドが言う
「いや… 別に…」
アーサーがアールモンドの横に来て言う
「はいっ コレなら大丈夫?」
アールモンドが アーサーの差し出した水差しを見て 軽く息を吐いて言う
「…別に お前が汲んで来たんだったら 何も… あ?おい まさか本当に?」
アーサーが一度微笑した後 疑問して言う
「え?本当に って?何が?」
アールモンドが言い辛そうに 視線を逸らして言う
「だから その… お前の魔力を込めてた… 何て言うンじゃ…?」
アーサーが呆気に取られて言う
「俺の魔力を?あっはははっ そんな事出来る訳ないじゃない アーリィー?俺はアーリィーと違って ウィザードでも魔法使いでも無いんだから ?魔法なんて使えないよ?」
アールモンドが言う
「魔法は使えなくても 魔力を込める事は 誰にだって出来る」
アーサーが言う
「へ?そうなの?へぇー?知らなかった」
アーサーが言い終えると 水差しの水をティーケトルへ注ぐ
アールモンドが言う
「知らなかった?」
アーサーが作業を止め 一度アールモンドへ向いて言う
「うん 考えた事も無かったよ?一応、奉者協会の講習会で 魔力と精神力については 聞いたけど 精神力はともかく 魔力は魔法を使う人にしか 無い力だと思ってたから?」
アールモンドが言う
「それじゃぁ 全く逆だぜ アーサー?そもそも お前は…」
アールモンドがハッとして言葉を止める 作業をしていたアーサーが手を止めて アールモンドを見て言う
「俺が?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが 自分へ向けられた アーサーの瞳を見つめてから バツの悪そうに視線を逸らして言う
「…ンでもねぇ」
アーサーが疑問した後言う
「え?酷いなぁ?アーリィーは アーリィーの世話役で アーリィーの奉者でもある俺に 隠し事はしないって 約束じゃない?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「う、うるせぇよっ!?大体お前はっ!?たかが 水替えるだけの事にっ どんだけ時間掛けてんだよ アーサー!?お前こそ 俺に隠し事してるんじゃ…っ!?」
アーサーが気付いて言う
「ああ!そういう事!?それならそうと 聞いてくれれば!」
アールモンドが アーサーを見る アーサーがティーポットへ茶葉を入れ お湯を注ぎつつ言う
「アーリィーに頼まれて 水を替えようと 給湯室へ行ったらね?先に室内に居た ハミネさんとリテルさんが アーリィーの 陰口を言ってたから」
アールモンドが表情をしかめて言う
「…またかよ アイツら…」
アーサーが アールモンドへ笑顔を向けて言う
「ホント 不機嫌で我儘で可愛くない アーリィー坊ちゃまの相手は 大変だよねー!って 俺も同意して置いたからね?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて叫ぶ
「同意してンじゃねぇよ アーサー!!」
アーサーが笑って言う
「あっははは!もちろん 本心なんかじゃ無いけど これで少しは彼女たちも 気を使ってくれるんじゃないかな?少なくとも この屋敷内で 自分たちの雇い主の 悪口は慎むようにって?」
アールモンドが言う
「はんっ どうだか…」
アールモンドがティーポットの上部へ手をかざす
《俺だって もう餓鬼じゃねぇンだ… アーサーの言う通り アイツらが俺の生活の 世話をするのも 俺に頭を下げるのも 本心から望んでいる事なんかじゃねぇ …仕事だからやっている それは分かってる 分かって…》
淡い黄色を帯びた光の輪が ふわっと浮かんで消える アールモンドがそのまま沈黙する
「…」
アーサーが疑問して言う
「ん?どうかした?アーリィー?紅茶の活性魔法 失敗しちゃったとか?」
アーサーが疑問しつつ 紅茶を自分側のカップへ注ぎ 一口飲むと 微笑して言う
「うん!おいしい!今日もちゃんと 美味しく出来てるよ?アーリィー?アーリィーにも 俺が注いで良い?」
アーサーがアールモンドの顔を見る
アールモンドが言い掛ける
「アーサー お前も…?」
アールモンドがアーサーへ向くと 2人の目が合い アールモンドがハッとする
アーサーが疑問して言う
「うん?俺が何?アーリィー?」
アーサーが笑顔を向ける
アールモンドがバツが悪そうに衝撃を受けると言う
「…いや 俺の」
アールモンドが思う
(俺の方こそ お前に)
アーサーが言う
「俺の…?」
アールモンドが一瞬辛そうな表情をしてから ムッと怒って言う
「『俺の残留魔力がこもる様に 汲んで来る』 って お前言ったじゃねぇか アーサーっ!?なのに魔力を込める方法が 分からねぇのかよ!?」
アーサーがハッとして言う
「ああ!それ すっかり忘れてたよ !ごめーん アーリィー!実は そのハミネさんたちが居なくなってから 水を替えようと 水差しの水を捨てた時に 蓋が落ちちゃってね?その蓋だけ 洗ってたら 今度は隣に置いてた 水差しの中にまで 泡が飛んじゃって?結局 どっちも洗ってたら 時間が掛かっちゃったんだ?やっぱり 慣れない事は やらない方が 良かったかな?今度からは…」
アールモンドが思う
(お前に言えねぇ… どうしようもねぇ 隠し事が 有るってぇのに…っ)
アールモンドが手を握り締める
アーサーが気付きながらも平静を装って 心配しつつも 話を続けている
「やっぱり 普段からそういう事を やってるメイドさんたちに お願いした方が…?あ!でもそれじゃ ダメなんだっけ?その残留魔力が… って 所で その残留魔力って なあに?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「そこからかよ!?だからさっきから 言ってるじゃねぇかっ 魔力は誰でも…!」
《俺は お前に どの面下げて訊ける?…お前のそれも 全部 …仕事なのか?…何て …聞きたくもねぇよ アーサー…》
大雨の中 雷鳴が轟いている 土手からの眺め
アールモンドが思う
(うん?雨?… …いや?今朝の空気からして 雨なんか降らねぇ 増してこんな…)
幼いアールモンドが 膝を抱えて涙を流しながら 震えている
アールモンドが思う
(あぁ… いつもの… 俺は今 夢を見ているのか… 寝ちまったのか 次の灯魔作業は?…時間は平気かよ アーサー?)
幼いアールモンドの上部に傘が当てられる
アーサーが携帯をしまいつつ 入室しながら言う
「灯魔台の準備は 出来てるって?それから 神館内にはアーリィーウィザード様の ファンの子たちも 大勢集まって…!」
アーサーが顔を向け 言葉を止めると微笑する アーサーの視線の先 アールモンドが居眠りをして居る
アールモンドの夢の中
不貞腐れている幼いアールモンドが 後ろから抱きしめられる 幼いアールモンドが呆気に取られる
アールモンドが思う
(…ったく 変わらねぇ)
幼いアールモンドが 一瞬怒ろうとするが 涙が溢れる
幼いアールモンドを 後ろから抱きしめている 幼いアーサーが 腕の力を強めて言う
『俺が助けるから』
幼いアールモンドが アーサーの腕の服を握る
アールモンドの身体に アーサーの上着が掛けられて居る アールモンドが手元にあった アーサーの上着を握ると 目を覚ます
アーサーが横を向いて言う
「目は覚めた?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ…」
アーサーが微笑して言う
「良かった!今日は ご機嫌だね!?アーリィー!」
アールモンドが言う
「…うるせぇよ アーサー」
アーサーが笑う
「あっはははっ」
アールモンドが呆れる アールモンドの横で アールモンドに寝寄り掛かられて居たアーサーが微笑んで居る
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