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2章

アナザーゲートキーパーズ 『再会』

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翌朝

ユウヤが玄関を開けた先 カルが微笑して言う
「お早うさーん!ユウヤー!」
ユウヤが言う
「お早うカル、それにヴィンと… あれ?」
ユウヤが疑問して周囲を見渡しながら言う
「今日は… ディークは?」
ユウヤがヴィンへ向く ヴィンが微笑して言う
「彼は直接ユーノス殿の御自宅へと向かった」
ユウヤが言う
「あ… そうなんですか?」
ユウヤが思う
(そうか… ディークは元々この街に居たヴァンパイアなんだし それなら?住所を伝えれば ある程度は分かったりするのかもな?)
ユウヤが言う
「えっと?では…?」
カルが言う
「今日はワイがユウヤの家に居るねんて!安心して行って来ーやー?ユウヤ!」
ユウヤが思う
(そっか、やっぱりそうだよな?本部の場所は分かったからって一瞬…)
ユウヤがチラッとヴィンを見る ヴィンがユウヤの視線に一瞬疑問するが 次に苦笑して言う
「ユウヤがどうしてもと望むのであれば…?」
ユウヤがハッとして言う
「えっ!?あっ いえ…っ!」
ユウヤが思う
(しまった…っ また思った事が…)
ヴィンが微笑して言う
「私とカルの2人でユウヤの完全な護衛を行う …と言うものであっても構わないが?」
ユウヤが呆気に取られてから慌てて言う
「へ…?い、いえっ!?まさか!?俺一人に2人をだなんて!?そこまでしてもらわなくても良いですっ!?」
ユウヤが思う
(いくらなんでもヴァンパイアを2人も護衛になんてっ!)
カルが楽しそうに言う
「ワイはそれでもかまへんよー!?」
ユウヤが慌てて言う
「いや!?だから、それは良いってっ!大体ヴァンパイアが1人も居れば十分おつりが来るだろ!?それも…っ!」
ユウヤが思う
(これから向かう警察本部にもしヴァンパイアが居たとしても それは また あの少年ヴァンパイアたちである筈だし… それならヴィンが1人で十分だと言う事は分かってる)
カルが言う
「せやかてな?いくらユウヤの為かて昨日みたいな無茶したらアカンねんで?ヴィン!?自分ホンマ分かっとるん?」
ヴィンが苦笑して言う
「フッ… そうだな?やはりあのような場合においては戦闘タイプのヴァンパイアである諸侯を羨ましくも思うが… もっとも?それこそ気化タイプの薬の使用が出来ない場合などでなければ そちらの心配もまた不要となる」
ユウヤが思う
(気化タイプの薬の使用が出来ない場合…?それって確か昨日の?あの雨の中で少年ヴァンパイアたちの相手をした時の話だよな?ヴィンはあの時 何か薬を使っていたのか… 知らなかった…)
カルが言う
「ふーん?せやったら今日は大丈夫みたいやな?…良かったな!ユウヤ!」
ユウヤが呆気にとられた状態から慌てて言う
「え?…あ、うんっ そうだな?」
ユウヤが思う
(正直さっきの話から何が“良かったな!“なのかは良く分からないけど …まぁ良いか?“良かった”のなら?)
ヴィンが微笑して言う
「それでは早速向かおうか?ユウヤ?」
ユウヤが気を取り直して言う
「…はい!お願いします!」

警察本部前

ユウヤが白い外壁を見て言う
「マルス街センターサイドから聖域までの間にある白い外壁… ここが警察本部?」
ヴィンが言う
「私の確認し得た限りに置いて こちらの建造物に関しては一切の情報が得られなかった その事からしても恐らく こちらがユウヤの目指していた その場所である可能性は限りなく高い」
ユウヤがヴィンへ向いて言う
「一切の情報が?」
ヴィンが言う
「ああ、この建物が何時この場所に誰が何の目的にて… そして現在の所有者に至るまでの情報が全て得られなかった …即ち抹消されたのだろう 最も確実な情報隠蔽…とは言え この場所がそれほどの事を行う必要がある場所であると言う事も同時に知らせてしまうのだが… この不完全さが また彼ららしくもあると言った所か…」
ユウヤが言う
「彼ららしく…?人間らしいという事ですか?」
ヴィンが苦笑して言う
「…フッ そうかもしれないな?」
ユウヤが思う
(そうか… そうだよな?ヴィンの言う通り情報を抹消するだけでは返ってその不自然さが 浮き彫りになってしまう… ヴァンパイアのヴィンであるならきっともっと完全な方法で…)
ヴィンが言う
「とは言え情報が得られなかった事は事実この場所の重要性は分かろうとも内部の構造などは一切分からない従って十分に用心して向かおうか?ユウヤ?」
ユウヤが言う
「はい、そうですね …では」
ヴィンが頷く

正門前

警備の警察官3人が居る 3人が次々に頸部を殴られうめき声を上げる
「うっ!?」 「ぐっ?!」 「な…っ!?」
ヴィンが振り向いた先で ユウヤが銃のグリップで殴り終えた姿でホッとする ヴィンが微笑して言う
「お見事」
ユウヤが苦笑して言う
「俺一人の手では それこそ一人の相手が手一杯ですが」
ヴィンの前後に2人が倒れている ユウヤが自身の前に倒れている警官を見下ろしてから言う
「それにしても門の警備に3人も置くなんて…」
ユウヤが思う
(もしかしたらこれも?昨日までの各街の警察署と同じで俺たちが来る事へ対する警備の強化なのか…?)
犬の鳴き声が聞こえる ユウヤがハッとする 門の中に沢山の警察犬が集まって来る ヴィンが試験管の薬を振り撒く 薬の成分を前に犬たちが次々に眠りに着く ユウヤが言う
「警察犬まで居ると言う事はこれも俺たちに対する警戒でしょうか?門の警備も強化されていたみたいですし?」
ヴィンが言う
「いや?恐らく、これらはこの場所に置かれる通常の警備状態であると思われる」
ユウヤが呆気に取られて言う
「え?そうでしょうか?」
ヴィンが言う
「監視塔に備えられている緊急を知らせるベルの収納箇所が3つ… そして、警備を行っていた彼ら自身にも緊張の程が見られなかった… 我々の奇襲に備えての特設であったのなら彼らには相応の緊張があって然り門内の警察犬も1匹ないしそれ以上を門の外へも配備するだろう その全てが門の内に置かれていた怠慢からしても この状態は通常の状態であると示唆される」
ユウヤが呆気にとられつつ言う
「な… なるほど…」
ヴィンがユウヤへ向いて微笑して言う
「とは言え、そちらの警備内容は十分に通常の警備を逸脱している ユウヤが先ほど口にした 警備強化された施設へ侵入すると言う その心構えにて程良いだろう」
ユウヤが苦笑した後 気を取り直して言う
「はいっ」
ユウヤが高い門を見上げる ヴィンがユウヤの横に立つ

館内 1F

警備の男が慌てて言う
「し、侵入者 …っ!」
警備の男の頭にリボルバーが向けられ それを持つユウヤが言う
「この本部の本部長 …もしくは長官は何処にいますか?」
ユウヤの後方で ヴィンの周りに警備の男たちが倒れている 警備の男がユウヤの後方を見てからユウヤを見て焦る ユウヤがポケットから試験管を取り出して言う
「もう一度聞きます この本部の…」
ユウヤが片手で試験管のふたを外す

ユウヤが試験管にふたをしてポケットに入れながら言う
「この通路の先の110号室の扉の先に階段があるそうです」
ユウヤの足元で警備の男が怯えて言う
「す、すみません…っ 長官…っ どうか… どうか…っ」
ヴィンが警備の男を一瞥してからユウヤへ言う
「では早速そちらへと向かおうかユウヤ?」
ユウヤが言う
「はい どうやら”長官”は相当恐ろしい方の様ですね?」
ユウヤが警備の男を見る ヴィンが言う
「…ふむ その様だ」

階段

ユウヤが駆け上り 中間の踊り場を抜け その先を見て気付いて言う
「扉… あの先が長官室?」
ヴィンが言う
「いや?この建物の大きさからして そちらは無いと思われる」
ユウヤが一度ヴィンの顔を見てから表情を強めて言う
「それなら…っ」

館内 2F

扉が叩き開かれる 同時に周囲に居た警官たちが一斉射撃を行う 警官たちが射撃を止めて目を凝らす 硝煙の中にアイアンシールドがある 警官たちがそれに気付いてハッと息を吸うのと共に皆が眠りに着いて倒れる アイアンシールドが収納される ヴィンが収納されたアイアンシールドを手に立っていて 後ろからマスクを付けたユウヤが現れ周囲を見て言う
「また通路ですね」
ヴィンが言う
「ああ、では彼らの内の1人を目覚めさせ再び…」
遠くから警官の声が聞こえる
「こっちだ!居たぞー!」
ヴィンとユウヤが顔を向ける 警官たちがユウヤたちへ銃を構えて その内の1人が驚く 視線の先に居たはずのユウヤたちが居ない 警官が驚いてユウヤたちの元居た場所の周辺を探すが 後方で打撃音と共に悲鳴が聞こえる
「ぐっ!?」 「がぁっ!?」
警官が驚いて振り返った目の前にリボルバーが向けられる 警官が向けられている銃口から視線を上げる 正面に居るユウヤが試験管のふたを片手で開けながら言う
「長官室へ通じる道は何処ですか?その場所を!…あっ!?」
ユウヤが思わずこぼした声と同じく 試験管に残っていた僅かな薬が気化して消える ユウヤが試験管へ向けていた視線を警官へ向ける 警官がリボルバーの銃口とユウヤを交互に見て困惑している ユウヤが思う
(しまった…っ 自白薬が…)
ユウヤの手にある試験管の横に薬の入った試験管が向けられる ユウヤが気付いて顔を向ける ヴィンが横に居て言う
「この通路から長官室へ向かう その方法は?」
警官が意識を朦朧とさせて言う
「2…10号室… か… 2…30号室…」
ヴィンが言う
「最も早く長官室へ通じる方は?」
警官が言う
「2…30…」
ユウヤがヴィンを見て頷く ヴィンが頷き返す
 
230号室

ユウヤが通路からドアを開ける 上下階へ通ずる階段の中頃に出る ユウヤが階段へ出て下階を見て言う
「この階段は1階から通じていたのか…」
ユウヤがヴィンへ向いて言う
「俺が最初からさっきのヴィンのように問い質していたら」
ヴィンがユウヤに続いて階段へ入って来て言う
「私も最初の階段が2階へ至るモノであった為に それがフェイクであると気付いたのだよ 長官室へ至るルートは他に直通のものがある筈だと… 最も、先程のあの者が長官室ほどの重要な場所へ至る 本物の直通のルートを知らなければ こちらもフェイクと言う事になるが」
ユウヤが言う
「そうか… なるほど?そうですね?」
ヴィンがユウヤへ微笑して言う
「元の情報が無い以上 私の考察もその場の情報から算出しているに過ぎない …従ってユウヤも十分に気を付けて欲しい定義から求められる解答は必ずとも人間の正解とは限らないのだから」
ユウヤが一瞬呆気に取られた後気を引き締めて言う
「は、はいっ 分かりました」
ユウヤが思う
(そうだヴィンに頼ってばかりではいけない俺も…っ)
ユウヤが手に持っているリボルバーを確認してから階段へ向かう

階段通路

ユウヤが階段を上りながら見上げて言う
「階段が終わる… あの扉の向こうが?」
ユウヤが思う
(また通路に出るのか?それとも…?)
ヴィンが言う
「建物の外観からは どちらとも考えられるが…」
ユウヤが考えてから言う
「ここは4階… 建物の外観からしたら最上階ですよね?だとしたら…」
ユウヤがドアを見て気付いて思う
(このドアはさっきまでのとは違う)
ユウヤが気を引き締め リボルバーを握り締めて言う
「俺が先に行きます」
ヴィンが頷く

長官室

長官が言う
「なるほど 君が…」
長官の前にユウヤが居る 長官が言う
「メルス街警察署のユウヤ巡査か」
ユウヤが言う
「お初にお目に掛かります分不相応は承知ですがどうか自分の話を聞いて下さい 我々人間が生きて行く為に必要な事です」
長官が言う
「ほう?」
ユウヤが反応して言う
「現在確認されている各街の少年少女たちのヴァンパイア化現象… このままでは人類は皆ヴァンパイアになってしまいます それを止めるにはヴァンパイアの協力が必要なのです 今ヴァンパイアとなった少年少女たちは勿論それ以前の…」
長官が言う
「100歳以上を生きたヴァンパイアの血をヴァンパイアとなる以前の人間に与える事 それにより人間が人間のままで居られる…」
ユウヤが一瞬反応してから言う
「…はい、そうです ですから それをすぐに開始しなければ…」
長官が言う
「我々しか知り得なかったその事を 君が知ってしまったが為に各街の署長たちにも知られてしまった… まったく厄介な事をしてくれたものだ」
ユウヤが驚いて言う
「え…?我々しか知らなかった?ではっ!?貴方方は知っていたのですか!?一体いつから!?」
ユウヤが思う
(俺が知るよりも以前に知っていたのなら何でもっと早くに行動を起こさなかったんだ!?)
長官が言う
「いつから?それはもちろん私がこの本部に入る事となった… もう30年以上昔の事だ正確な年数は覚えていないな?」
ユウヤが驚いて言う
「30年以上っ!?それではっ 14年前のあの時だって!?」
ユウヤが思う
(知っていた!?知っていてヴァンパイアの殲滅作戦を!?)
ユウヤが言う
「何故ですか!?その事を知っていたのに何故ヴァンパイアの殲滅を!?それに何故…っ!?」
ユウヤが思う
(その後の対策は!?)
ユウヤが言う
「知っていたのならっ なぜ人間の子供たちを14年間も放置していたのですか!?お陰で彼らは今!」
長官が言う
「ああ、お陰で彼らは我々の支配が叶う弱いヴァンパイアとして生まれ変わってくれた」
ユウヤが驚いて言う
「弱いヴァンパイアとして…!?」
ユウヤが今までに対峙してきた少年ヴァンパイアたちを思い出して言う
「それじゃ… まさかっ!?」
ユウヤが思う
(わざと…っ!?)
ユウヤが長官へ向いて言う
「意図的に彼ら人間の子供たちをヴァンパイアにしたと言うのですかっ!?」
長官が笑んで言う
「まぁそうと言う事になるかな?」
ユウヤが怒って叫ぶ
「何故そんな事をっ!?」
長官が言う
「何故?何故何故と… はっはっは!そんな事は考える必要は無いだろう?君も私も?」
ユウヤが疑問して言う
「あ… 貴方も俺も?」
長官が言う
「階級は異なろうとも君も私も同じ警察組織の人間だ… そうとなれば我々は上からの命令に従って居れば良い」
ユウヤが驚いて言葉を失う 長官が言う
「それだけだ… 分かったかな?ユウヤ巡査?」
ユウヤが怒りに手を震わせて言う
「分かりませんっ …分かりたくも無いっ!」
ユウヤが長官へリボルバーを向ける 長官が軽く笑って言う
「まぁ君ならそう言うとは思っていたが… 組織とはそう言うものだろう?だからこそ、それに沿わない君のような者は… こうするしかない」
長官が指を鳴らす 扉からジャックが現れる ユウヤが気付き言う
「貴方は!トランペスターキングの!?」
ユウヤが無意識に近付こうとするのをヴィンが手で遮って言う
「ユウヤ」
ユウヤがヴィンを見る ヴィンが言う
「様子がおかしい… 安易に近付いてはいけない」
ユウヤが言う
「え…?」
ジャックがユウヤを見る ユウヤがジャックを見る 一瞬の後 ジャックが吸血衝動をあらわしてユウヤへ襲い掛かる ユウヤが驚く ヴィンがジャックの腕を掴み抑えてユウヤへ言う
「ユウヤは下がり給え!」
ユウヤが慌てて言う
「は、はいっ!」
ユウヤがその場を離れて後方の出入り口付近へ向かう ジャックが追いかけようとする ヴィンが試験管を取り出しジャックの顔に振り掛ける ジャックが怒ってヴィンを見る ヴィンが僅かに驚いて言う
「解除薬が効かない!?薬で操られているのではないのか…っ …っ!」
ジャックがヴィンへ攻撃を繰り出す ユウヤがハッとして言う
「ヴィンっ!」
ジャックがヴィンへ攻撃を繰り出しヴィンが攻撃を避ける ユウヤが途切れ途切れに見える様な目の前の攻防を見て思う
(あの人はっ いや、あのヴァンパイアは戦闘タイプのヴァンパイアだ!今までの若いヴァンパイアたちとは違って人間の俺の目では動きに追い付けないっ それに… このままではっ!?)
ジャックとヴィンの攻防が一瞬止む ヴィンの息が上がっている ジャックは変わらずヴィンを見ている ユウヤが思う
(押されてるっ 戦闘タイプのヴァンパイアが相手では知能派ヴァンパイアであるヴィンでは…っ)
ジャックとヴィンの戦いが再開される ヴィンがジャックの攻撃を受け流し試験管の薬を振り掛けるが ジャックは顔に掛かった薬に一瞬反応するだけで すぐに攻撃を再開する ヴィンが表情をしかめて舌打ちする
「ク…ッ」
ユウヤが見つめる先でヴィンが幾つかの薬を使うが効果が出ない 長官がニヤリと笑んで笑い声を漏らす
「…っふっふっふ」
ユウヤが一度長官へ視線を向けてからヴィンへ視線を戻し気付いて思う
(ヴィンの薬が効かないのか?あ…っ!あれはっ!)
ユウヤの視線の先 ヴィンの持つ試験管に黒い2本のラインが見える ユウヤがハッとして思う
(黒いラインの試験管っ ヴァンパイアの命を奪う薬!?)
ユウヤが思わず叫ぶ
「ヴィンっ!!」
ユウヤが思う
(駄目だっ!そのヴァンパイアはエースさんの仲間で…っ!それに、きっと彼は100年以上を生きたヴァンパイアだ!だとしたら尚更っ!)
ユウヤが叫ぶ
「彼を殺してはっ!」
ヴィンがジャックへ薬を振り掛ける ジャックの顔に薬が掛かり肌が焼け ジャックが悲鳴を上げる
「がぁああーーっ!」
ユウヤが焦る ヴィンがジャックを見て言う
「痛みに反応をしたか…」
ユウヤがヴィンへ向いて言う
「ヴィン!なんとか彼を助けられませんかっ!?」
ヴィンがユウヤを横目に見て言う
「方法は…」
長官が怒って言う
「何をやっているんだっ さっさとそいつらを始末しろ!」
ユウヤが長官を見る ジャンクが長官の言葉に反応して ヴィンとユウヤが長官に近付けないように立ち塞がる ヴィンが気付いて言う
「…トップオーダーは奴の護衛か」
ユウヤが言う
「トップオーダー?」
ヴィンが言う
「彼は恐らく女ヴァンパイアの誘惑… もしくは、その血を使っての洗脳を受けている そうとなれば彼を正気に戻す方法は…」
ジャックがヴィンへ襲い掛かる ヴィンが回避をしながら言う
「方法は3通り… 1つは彼へそれを行った女ヴァンパイアを探し出し、その者に直接洗脳の解除を行わせる」
ユウヤが言う
「それは…」
長官が言う
「えぇえいっ まどろっこしい!」
ユウヤが長官を見る ジャックがそれに反応して長官の前に立つ ヴィンが言う
「もう1つはトップオーダーの対象自体を消してしまう方法」
ユウヤが長官へ向けている視線を強める ジャックがヴィンを攻撃する ヴィンが回避の限界を見せつつ言う 
「…クッ!」
ジャックの攻撃をヴィンがギリギリ回避する ユウヤが思う
(1つ目の何処に居るのか分からないその女ヴァンパイアを探す事は今は出来ない… 2つ目のトップオーダーの対象を …彼が今、守ろうとしているのは)
ユウヤの視線の先で長官が歯痒そうにジャックとヴィンの攻防を見ている ユウヤがジャックとヴィンを見て表情を強める ヴィンが言う
「後の1つはトップオーダーの対象… あの者への現状の脅威である我々が…」
長官が怒って言う
「さっさと始末をしろっ!」
ジャックが声を上げてヴィンへ襲い掛かる ヴィンが試験管の薬を振り掛けつつ言う
「この場から消える事っ!」
ユウヤが即決して言う
「ヴィンっ!」
ジャックが薬に皮膚を焼かれて悲鳴を上げる
「がぁああーーっ!」
ヴィンがユウヤへ視線を向けて言う
「先に!」
ユウヤが頷き後方の扉を叩き開いて部屋から逃げ出す 長官がハッとして言う
「逃がすな!追え!!」

通路

ユウヤが通路を走りながら思う
(あの階段から出てきた扉は410号室だった!415… 413… …そこだっ!)
ユウヤが410号室のドアノブを掴んで開けようとするがロックがされている ユウヤが驚いて言う
「あっ!?開かないっ!?」
ユウヤが思う
(そんなっ!?どうしたら…っ!?)
ユウヤの後方で大きな音が響く ユウヤがハッとして振り返る ヴィンが叩き付けられた壁からずり落ちる ユウヤが驚いて叫ぶ
「ヴィンっ!?」
ヴィンが顔を上げて言う
「他の扉をっ!」
ユウヤがハッとして言う
「…はいっ!」
ユウヤが手当たり次第にドアノブを開けようとするが どの扉も開かない ユウヤが最後のドアノブを掴んで思う
(頼むっ 開いてくれっ!)
ユウヤがドアノブを回す ドアが開く ユウヤがハッとして言う
「開いたっ!」
ユウヤがドアを開けて先を見る 階段が続いている ユウヤが思う
(来たときと同じような階段が!これなら きっと…っ!?)
後方でジャックの悲鳴が聞こえる
「うあぁああーーっ!」
ユウヤが振り返る ヴィンが試験管をジャックへ向けている 試験管には3本の黒いラインがある ユウヤが気付いて思う
(黒い3本のライン… あれはっ!)
ユウヤの脳裏に白金の劇薬で殲滅した少年ヴァンパイアたちの姿が思い出される ユウヤが慌てて言う
「ヴィン!見付けましたっ!階段を!」
ヴィンが視線を向けて言う
「分かった では…っ」
ヴィンがジャックを見る ジャックが顔を上げ視界にヴィンを入れた後 後方にいるユウヤを見て吸血衝動を現す ヴィンが試験管を構え直して言う
「ユウヤが先に!ここは私が抑える!」
ユウヤが呆気に取られて言う
「え…っ?」
ヴィンが言う
「早くっ!」
ユウヤがジャックを見る ジャックがユウヤへ向かい襲い掛かる ヴィンが表情を焦らせて言う
「攻撃対象が替わったっ 痛め付け過ぎたか…っ!?逃げろ!ユウヤ!」
ユウヤがリボルバーを持つ手を一瞬動かすが 慌てて階段へ逃げ込む ユウヤが急いで階段を降りて行くが 瞬く間にジャックが追い付き 牙を剥いて襲い掛かって来る ユウヤが気配に振り返り驚き階段を踏み外して悲鳴を上げる
「あっ!うわぁあーーっ!」
ユウヤが振り返った状態のまま階段を落下する そのユウヤへ正面からジャックが襲い掛かって来る ユウヤがリボルバーの引き金に掛かっている指を僅かに震わせる ヴィンがジャックの腕を引き ヴィンの後方へ払い除け その勢いのままにユウヤの背後へ回る ユウヤが言う
「あ…っ」
ユウヤの持つリボルバーがジャックへ向けられる ユウヤが驚き後方へ視線を向ける ヴィンがユウヤの手ごとリボルバーを構えている ユウヤがハッとして思う
(駄目だっ この銃には…!ヴァンパイア殺しのっ 銀の銃弾が!!)

銃声が響く

同時にヴィンを背にユウヤが階段の踊り場に落下する ユウヤがヴィンの身体の緩衝を受けても十分に息を止められる程の衝撃に一瞬表情を苦しめるが慌てて顔を上げる ジャックがユウヤの前に落下して リボルバーの銃弾を受けた箇所を手で抑えながらユウヤへ向いて牙を剥く ユウヤが息を飲む
「ッ!」
ジャックがユウヤへ襲い掛かる ユウヤが迫りくる死の恐怖に観念して顔を背ける ジャックが悲鳴を上げる
「ぎゃぁああーーっ!!」
ユウヤがハッとして正面へ顔を向ける ユウヤの前でジャックが膝を着き苦しんでいる ユウヤが一瞬呆気に取られた後 ハッとして振り返る ユウヤの後方に居るヴィンの手に中身の無くなった3本ラインの試験管が握られている ユウヤが目を丸くして言う
「そんな…っ それじゃ!?」
ユウヤが正面へ向き直る ジャックが力尽きて倒れる ユウヤが慌てて駆け寄って言う
「だ、大丈夫ですか!?」
ジャックが息を切らしてユウヤを見上げる リボルバーに打ち抜かれた傷口から血が広がる ユウヤが言う
「ち… 血があふれてっ!?」 
ジャックの目から生気が失われて行く ユウヤがジャックの傷口を押さえて言う
「出血が止まらないっ!?」
ユウヤが気付いて思う
(まさか…っ!?銀の銃弾で撃ったからっ!?ヴァンパイアの再生能力が効かないのかっ!?)
ジャックが言う
「…エー …ス すま… ねぇ…」
ユウヤがハッとしてジャックの顔を見る ジャックが息絶える ユウヤが目を見開いて言う
「そんな…っ」
ジャックの体が腐敗して朽ちて行く ユウヤが言う
「あ…っ ああ…っ!」
ユウヤがジャックの傷口へ当てていた手を握る ジャックの体が砂になる ユウヤが表情を悲しめて言う
「エースさんの… 仲間だったのに… …っ!?」
ユウヤが傷口を抑えて握ったままでいた ジャックの服の内ポケットから スペードのジャックのカードが銃弾に打ち抜かれた状態で見付かる ユウヤがカードを手に言う
「…”ジャック”」
ユウヤが表情を悲しめて悔やむ 上部で物音がする ユウヤがハッと顔を上げる 長官がドアを開け見下ろしていて言う
「なっ!?何!?やられたのか!?」
ユウヤが立ち上がり 長官を見上げる 長官が怯えの悲鳴を上げる
「ひぃっ!?」
長官が慌ててドアを閉める ユウヤがハッとして言う
「あっ!?待てっ!!」
ユウヤが階段を駆け上がりながら思う
(“ジャック”さんの為にもっ!)
ユウヤがドアノブを掴んで開けようとするがドアは開かない ユウヤが呆気に取られて言う
「えっ!?」
ユウヤの後方にヴィンがやって来て言う
「逆側からでは開かれない構造なのだろう 来た道も同じく… そうとなればこちらは出口へ至る為だけの通路ではないかと」
ユウヤが410号室の扉が開かなかった事を思い出して ヴィンへ向いて言う
「では!一度この階段を降りて、もう一度来た時のあの階段へ!?」
ヴィンが言う
「もしくは途中の階の扉は開くかもしれないが…」
ユウヤが言う
「それなら急いでその扉を!」
ユウヤが階段を降り始める ヴィンが言う
「ユウヤ」
ユウヤが3階へ降り立ち 扉を前に思う
(行きの階段でも途中の3階に扉があった… と言う事は もしかしたら!?この扉が開けばっ!)
ヴィンが言う
「ユウヤっ 待ち給え!」
ユウヤが行動を止めてヴィンへ向く ヴィンがやって来て言う
「今再び向かうより一度体勢を整えた方が」
ユウヤが思う
(一度体勢を…?)
ユウヤが言う
「一度この本部を出た方が良いと言う事ですか!?何故です!?今ならまだっ!」
ユウヤが思う
(相手の戦力であったジャックさんは倒した …その今なら!)
ユウヤが言う
「あちらにこれ以上の戦力があるとは思えませんっ 今こそ行くべきです!」
ヴィンが言う
「確かに彼以上の力を有した者が先ほどの場所に控えている可能性は低くあるが同時に相手の戦力が想定のものだけだとは限られていない そして今ここで別の戦力が相手となった場合 今の我々では」
ユウヤが言う
「相手が人間なら俺も戦えますっ ですから!」
ユウヤがリボルバーを握り締めて思う
(彼の死を無駄には出来ないっ!)
ユウヤが手にしたままでいたジャックのカードを見てからポケットへ仕舞い 扉を見据える

ユウヤが気を引き締め扉を開く

警官が叫ぶ
「撃てーーっ!」
通路に居た警官たちが一斉に発砲する 警官が言う
「止め!…どうだ?」
射撃を止めた警官たちが注視する 皆の視線の先アイアンシールドが展開しているのが分かる 警官たちが初めて見る得体のしれない金属の球体に呆気に取られている前でアイアンシールドが収納され同時にユウヤが駆け出し銃を撃ち鳴らしながら走り抜ける 警官たちがハッとして再び銃を構えようとするが ユウヤの撃った銃が数人の警官たちの足に当たり 警官たちが悲鳴を上げて床へ腰を打つ 被弾を免れた警官が振り返って言う
「居たぞ!奴だ!動ける者は 奴を追えーっ!」
警官たちがユウヤを追う

ユウヤが走りながら部屋番号を確認して思う
(あの階段へ通じる扉は…っ!?)
ユウヤの前方の通路から 応援に駆け付けた警官たちがやって来て言う
「居たぞ!襲撃犯だ!」
ユウヤがハッとして立ち止まり 後方を返り見て思う
(前にも後ろにも警官が居る けど、この状態なら彼らは同士討ちを恐れて撃てない!今の内にっ!)
ユウヤが近くの部屋番号を確認して思う
(階段のある扉は 2階の210号室と4階の410号室だった そうとなれば この3階も!)
ユウヤが310号室を見付けて思う
(あった!310号室ここだっ!)
ユウヤの後方の警官たちが別の部屋のドアへ入る ユウヤの前方の警官が言う
「今だ!撃てー!」
警官たちが発砲を開始する ユウヤが310号室のドアノブを捻る ドアが開く ユウヤが思う
(助かったっ!後はここをっ!)
ユウヤが顔を上げ驚いて目を見開く 後方からヴィンの声が聞こえる
「ユウヤッ!」
ユウヤが思う
(無い…っ?階段がっ!?)
ユウヤがハッとして下を見て言う
「そんなっ!?」
ユウヤが思う
(何でっ!?310号室へ飛び込んだのにっ)
ユウヤが床の無い空間へ落下して悲鳴を上げる
「うわぁああーーっ!!」
ヴィンがユウヤを追って空間へ飛び込む 警官たちがやって来てユウヤの落ちた先を見下ろして笑んで言う
「っはは 掛かったな?よし、襲撃犯らは罠に掛かり自ら地下水路へ落下した 事件は一件落着だ」
下階で着水音が聞こえる 警官たちが立ち去りドアが閉まる

水中

ユウヤが水の中でもがきながら思う
(これは…っ 水かっ!?深いっ!早く…っ!)
ユウヤが水面を目指すが 強い流れにさらわれて中々上がれない ユウヤが苦しんで思う
(流れが…っ 強くて…っ)
ユウヤが表情を苦しめて言う
「く…っ!」
ユウヤが思う
(水が冷たくて体が上手く動かない…っ 苦しい…っ 早く…)
ユウヤの伸ばした手がコンクリートの壁に触れる ユウヤが驚いて思う
(そんな…っ!?ここは…っ!)
ユウヤが上面のコンクリートを殴って思う
(配管の中っ!?空間がっ!空気が無い…っ!?)
ユウヤが急流に流されて表情を苦しめ気泡を吐き出す ユウヤの腕が掴まれる ユウヤがハッとして顔を向ける ヴィンがユウヤの身体を水路の途中にある格子へ掴ませる

森の中

静かな湖の水面に ユウヤが顔を出し言う
「ぷはっ!はぁはぁはぁ…っ!」
ユウヤの後ろにヴィンが顔を出し静かに呼吸を整える ユウヤが荒い呼吸をしながらもヴィンを振り返ってから思う
(助かった…)
ユウヤが言う
「ヴィン…」
ヴィンが岸を見て言う
「岸辺へ… 体力が残っていないのなら」
ヴィンがユウヤへ手を向ける ユウヤがハッとして言う
「あっ いえ 大丈夫です」
ヴィンが微笑して頷く ユウヤが岸へ向かう

ユウヤが岸に上がり息を整えつつ周囲を見渡して言う
「ここは…?あの本部の白い外壁より 外側なのか?」
ユウヤが遠くに見える白い外壁と本部の建物を確認してホッと息を吐いてヴィンへ向いて言う
「ヴィン 助かりました 本当に…」
ヴィンが言う
「いや、私こそ あのトラップにもう少し早く気付いていれば」
ユウヤが言う
「トラップ?…そう言えば」
ユウヤが思う
(そうだ… 俺は間違いなくあの時310号室の扉に入った… その手前までの部屋番号も確認していたから間違えては居ないはず)
ユウヤが言う
「行きに入ったのが2階の210号室の扉で出た扉も4階の410号室でした だから俺は3階でもあの階段に通じる扉は310号室だと思って… それで間違いなく310号室の扉を開けた筈なのですが?」
ヴィンが苦笑して言う
「ああ、しかし3階のそれは 310号室ではなく… 言うなれば308号室であったのだろう」
ユウヤが呆気にとられて言う
「え?308号室…?1つ手前だった?それは…?」
ユウヤが思う
(何故…?)
ヴィンが言う
「1階と3階には階段が含まれる部屋番号の先に通路が存在する つまり その通路の分だけ 部屋番号が手前へと振られている」
ユウヤが呆気に取られて聞いていた状態からハッと思い出して言う
「そう言えば…っ!」
ユウヤが3階で正面からやって来た警官たちを思い出し 表情を落として言う
「確かに… 行きに見た2階の210号室の先や4階で逃げ戻ろうとした時も あの先に通路は無かった… …気付きませんでした」
ユウヤが肩を落として思う
(駄目だな俺 必死だったと言うのもあるけど… いや?それなら尚更か?各階の構造の違いに気付けなかった…)
ヴィンが苦笑して言う
「恐らくあの構造は意図して作られているトラップの1つなのだろう 一方通行の階段も然り 地下水路の構造と言い あの建物はかなり念入りに考えて作られている… その罠に掛かってしまったのであれば仕方がない」
ユウヤが苦笑して言う
「しかし、ヴィンは気付いていたのですし ヴィンの言う通り一度 体勢を立て直すべきでした… すみません」
ヴィンが微笑して言う
「今回は無事であったのだから それで良しとしよう ユウヤ」
ユウヤが言う
「…有難う御座います」
ユウヤが思う
(けど、一歩間違えば命を失っていた俺が一人だったら… ヴィンが居てくれなかったら)
ユウヤが顔を上げる ヴィンが歩き始める ユウヤがそれに続こうとする 風が吹く ユウヤが一度身を震わせて思う
(う…っ 安心したら急に寒く…っ それは、そうだよな?この真冬にあんなに冷たい水に入って… 増してこの寒空の下じゃ…っ)
ユウヤが両腕で身を擦りながら言う
「近くでタクシーを拾うかして早く家へ向かわないと… …ん?いや?えっと?」
ユウヤが思う
(そうだ?急ぐのなら尚更?それこそ、いつもの様にヴィンが俺を抱えて走れば?)
ユウヤがヴィンへ向く 丁度そのとき風が吹き ユウヤがくしゃみをする
「ふ…っ くしゅん…っ!」
ユウヤがくしゃみを終えて正面を見る ヴィンが立ち止まっている ユウヤがヴィンの近くへ来て身を震わせて言う
「ヴィン?」
遠くで犬の鳴き声がする ユウヤがハッとして慌てて言う
「犬の…っ?警察本部の門の中に居たっ あの警察犬たちか!?」
ユウヤが思う
(まずいっ ここでまた警官たちに見付かったらっ!?)
ユウヤがヴィンへ向いて言う
「ヴィン!急がないと…っ!…え?」
ユウヤの視線の先で ヴィンが倒れる ユウヤが驚き慌てて駆け寄って言う
「ヴィンっ!?どうしたのですか!?ヴィン!ヴィ…っ!?」
ユウヤがヴィンの肩を掴み驚いて思う
(この冷たさは…っ!?)
ユウヤがヴィンの身体を仰向けにして 首に手を触れて言う
「ヴィンっ!?」
ユウヤが思う
(冷たい!?同じ水に濡れた俺だって こんなに冷たくはっ!?それに…!?)
ユウヤがヴィンの呼吸を確認してから身体を揺すって言う
「ヴィンっ!起きて下さいっ!ヴィン!ヴィンっ!」
ヴィンは静かに寝息を立てて居る ユウヤが思う
(気を失っていると言うより まるで眠っている?…そうだ!あの時もっ!?)
ユウヤが車内で眠っていたヴィンの姿を思い出す ユウヤが思う
(あれは疲れや助手席の退屈のせいじゃ無かったと言う事なのか!?いや それより!)
犬の声が増えて近付いて来る ユウヤが声の方へ振り向いて思う
(今はどうにかしないと!?この状態で追っ手に襲われたらっ!)
ユウヤがリボルバーを構えるが その銃身から水が滴る ユウヤが慌てて思う
(ああっ 駄目だ濡れていてっ これでは脅しにも使えないっ)
ユウヤがハッと息を飲む 警察犬が現れ牙を剥いて襲い掛かって来る ユウヤが観念して思う
(やられるっ!)
ユウヤが強く目をつぶる 犬の悲鳴が響く
「キャンッ!」
犬が弾き飛ばされる ユウヤがハッとして顔を上げて言う
「ヴィンっ!?」
ユウヤが目の前に立ちふさがった者の姿に驚いて目を見開く エースが不適に笑って言う
「ははーん?よう?久しぶりだな?ゲートキーパーズ?」
ユウヤが驚いて言う
「エースさんっ!?どうして 貴方が!? …っ!」
ユウヤがハッとしてポケットに手を当てる 複数の警察犬たちがやって来て牙を剥く エースが言う
「俺の街でちょいと騒動を起こすって?お前のヴァンパイアから聞いていたからな?ついでに こっちもヤボ用があって様子を見に来たんだが?」
エースがヴィンを見る ユウヤがその様子に戸惑ってから意を決して言う
「エースさんっ!すみません 貴方に頼むのも筋違いなのかもしれませんが どうか俺たちに力を貸してもらえませんか!?」
遠くから警官たちがやって来て言う
「不審者を発見!奴らの仲間かっ!?」
ユウヤとエースが警官を見る エースがユウヤへ言う
「ふん?お前らの状況は… 正直分からんが どうやら今は」
エースがヴィンの横へ立ち ヴィンの身体を肩に担いで言う
「お前らの方へ付く他にねぇみたいだな?よし、お前も掴まれ!」
エースが空いている腕をユウヤへ向ける ユウヤが言う
「有難う御座います!」
ユウヤとエースが消える

マルス街 タクの店

エースとユウヤが現れる ユウヤが店を見て言う
「え?この店は…」
エースが店へ入りながら言う
「タクー?居るかー?」
ユウヤがエースに続いて店に入る 子供が顔を出して エースへ言う
「お帰りー!ヴァンパイアー!」
ユウヤが衝撃を受ける エースが言う
「おう リク 父ちゃんはどうした?」
リクが言う
「父ちゃんは上で休憩中ー!あれ?お客さんと… それは?死体?」
ユウヤが衝撃を受け慌てて言う
「あ、いやっ 俺はお客さんじゃなくて彼の… 友人で?そっちの彼も!それから死体じゃなくて …寝てるだけ だから?」
リクが言う
「ふーん?」
エースが言う
「そっか… ならリク?上の住居に風呂はあるよな?」
リクが疑問して言う
「え?お風呂?うん、あるけど?母ちゃんが家にはヴァンパイア入れちゃ駄目だって」
エースが歩きながら言う
「ああ、だが今はしょうがねぇ」
ユウヤが慌てて言う
「あっ エ、エースさんっ!?」
エースとユウヤがリクの前を去る

エースが階段を上がりドアの前に立って呼び鉄を鳴らす ユウヤが言う
「あのっ エースさん お気持ちはありがたいのですが…っ」
ユウヤが思う
(あの子がタクの息子なら住居だと言うコッチには奥さんも居るだろうし… それなら…っ)
ユウヤが言う
「俺たちは下の店舗の方でも!?」
ドアの中からタクの声が聞こえる
「はいー?どちらさまで?」
エースが言う
「タク 俺だ」
タクがドアを開けて言う
「エース こちらには例え貴方であってもヴァンパイアの皆さんにはご遠慮頂きたいと… …あれ?貴方は」
ユウヤが言う
「あぁっ ごめんな タク?俺もそう言ったんだけど…っ」
タクが驚いて言う
「ユウヤさん!?どうしたんですっ!?雨も降っていないのにずぶ濡れじゃないですか!?」
エースが言う
「タク 今すぐ風呂に湯を張れ 出来るだけ熱くしろ火傷する位で良い」
タクとユウヤが衝撃を受け ユウヤが言う
「あ…っ いやっ それは流石にっ」
ユウヤが思う
(確かに身体は冷えているけど いくらなんでもそれは…)
エースが言う
「それくらいじゃねぇと 今のこいつの身体は暖まらねぇよ」
エースが横目にヴィンを見る ユウヤが驚く タクが状況を察して言う
「分かりました どうぞユウヤさんも」

浴槽に湯が入れられている 浴室からタクが出て来て言う
「お湯だけじゃなく浴槽に加熱をしているので これでかなり温まると…」
エースがヴィンの白衣を脱がせながら言う
「おう」
ユウヤが言う
「あ、俺も手伝いますっ」
エースが言う
「良いからお前は体拭いて部屋で暖まっとけよ」
エースがヴィンを服ごと浴槽へ放り込む ユウヤが衝撃を受ける エースが浴槽の中でヴィンの服を脱がせ タクへ言う
「タク こいつ乾かしとけ そっちの奴のもな?」
ユウヤが慌てて言う
「ああっ いやっ その… 俺がやるんでっ 絞って干しておけば 少しは…」
タクが苦笑して言う
「それじゃユウヤさんも脱いで下さい?そのまま上がられると部屋も濡れてしまいますので」
ユウヤが困って言う
「あ、ああ そ、そっか… そうだよな?確かに…」

リビング

ユウヤが毛布に包まりストーブの前に居る エースがやって来て言う
「あー寒ぃ寒ぃっ 唯でさえ寒ぃ真冬にずぶ濡れの野郎ども担いで走ったせいで こっちまで 低体温睡眠に襲われちまいそうだぜ」
ユウヤが反応して言う
「低体温睡眠?」
エースがストーブに抱き付く エースの服の水分がストーブの熱に蒸発して音を鳴らす ユウヤが衝撃を受ける エースが言う
「ああ、今のあいつがそうだヴァンパイアの癖に真水に入るなんて どんだけ馬鹿なんだ あいつは?知能派のヴァンパイアの癖によ?」
ユウヤが呆気に取られた後 視線をそらして言う
「そう言う事だったのか… それと、それは俺のせいで… …どちらも」
エースが疑問して言う
「どちらも?」
エースがストーブに抱き付いていたのを止めて背中を押し付ける 蒸気と共に音が鳴る ユウヤが視線をそらしたまま言う
「昨日も雨の中で戦わせてしまって… それで雨に濡れて… さっきみたいに車の中で眠っていたんです それに今日は俺が… あの建物の罠に掛かって地下水路に落ちて その俺を助ける為に…」
エースが言う
「ふーん?けどよ?そら どっちだって そうなる以前に手を打てただろうよ?」
ユウヤがエースを見て言う
「え?そうなる以前に?」
エースが言う
「おうよっ …あ、コゲた」
エースがストーブの熱でコゲた髪の毛をこすり落とす ユウヤが考えていて言う
「…そう言えば それ以前に ヴィンは…」
ユウヤが思い出して思う
(あの少年ヴァンパイアたちとの戦いも 最初から薬を使って倒していたら?…それに今回も)
ユウヤが表情を落として言う
「ヴィンは… 一度、体勢を立て直そうと… 撤退しようと言っていたのに それを俺が…」
ユウヤが思う
(どちらも俺が…)
ユウヤが言う
「俺が無理を言ったから…」
ドアがノックされ クイーナがトレーを持って現れて言う
「温かい飲み物 持って来たわ」
ユウヤが顔を上げる クイーナがマグカップを向けて言う
「はい、ホットココア コーヒーより身体に優しいと思うから」
ユウヤが微笑して言う
「有難う御座います」
ユウヤがカップを受け取る クイーナが言う
「お洋服 今乾かしてるから もう少し待ってて?」
ユウヤが苦笑して言う
「本当に色々と ご迷惑を掛けてしまって すみません」
クイーナが微笑して言う
「良いですよ?タクのお友達の方なら大歓迎ですから」
ユウヤが呆気に取られる クイーナと一緒に来ていたタクが微笑する エースがクイーナの首筋を見て言う
「相変わらず美味そうだなぁクイーナ… 一口飲ませてくれねぇか?」
ユウヤが衝撃を受ける クイーナがエースへ怒って言う
「もうっ だから住居の方には来ないでって言ってるのに!」
クイーナがトレーでエースを殴ろうとする エースがひょいと避ける タクが言う
「エース… 本当にそれをやったら僕、怒りますからね?」
エースが苦笑して言う
「分かった分かってるってタク… 本気にするなよ?ちょっとしたヴァンパイア流の挨拶だろ…?なぁ?」
エースがクイーナの首を見て吸血衝動を見せる タクが怒って言う
「エース!」
タクがクイーナとエースの間に入って怒る エースが笑ってごまかす タクがクイーナを部屋の外へ向かわせつつ言う
「後は僕がやるからクイーナはリミの所へ」
クイーナが微笑して言う
「そうするわ」
エースが言う
「リミにも俺の血をくれてやるからよ?その時は…」
クイーナがエースへ向いて言う
「ええ、その時は一口くらいあげても良いかもね?」
エースが呆気に取られる クイーナが部屋を出て行く エースが笑って言う
「かはっ!まったく良い女だな?タク?」
タクが言う
「一口だって駄目です …また僕ので我慢して下さいね?エース?」
エースが言う
「分かってるよ 元々お前にはデカイ借りがあるんだ 今更 贅沢は言わねぇ」
ユウヤが言う
「…タクも知ってるんだな?人間とヴァンパイアの関係」
タクが言う
「はい… 僕も初めて聞いた時には驚きました けど最近になって現れ始めた少年少女のヴァンパイアたちの話を聞いて… それで息子のリクはエースのお陰で助かるのだと分かりました…娘のリミも」
ユウヤが言う
「うん… 俺も1人息子が居るんだけどヴィンのお陰で… だけど他の子供たちの事は俺の責任なんだ」
エースとタクがユウヤを見る ユウヤが視線を落として言う
「俺が14年前にヴァンパイア殲滅作戦をやらなければ… それは… 必要だったって言われた けど… 例えそうであっても もっと以前に打てる手があった筈で… 今回と同じ様に」
ユウヤが頭を抱えて言う
「本当にいつも上手くいかないんだよな… 俺がもっと賢くて力があれば…っ」
タクが言う
「ユウヤさん…」
エースが言う
「何言ってんだ?お前?」
ユウヤとタクがエースを見る エースが言う
「人間の癖に1人でここまでやりやがって大した奴だぜ?お前はよ?」
ユウヤが驚く タクが言う
「そうですよ?詳しい事は分かりませんがユウヤさんは それらの事を解決しようとして下さっているのでしょう?僕は その事実を知った所で何もしていません …何も出来ません そんな僕に比べたらユウヤさんはとても凄い方です!」
エースが言う
「そう言う事だ だからこそあのヴィーリッヒが協力してるんだろう?お前はあの天才ヴァンパイアが目指す人間とヴァンパイアの共存を図れる その人物なんだろうってよ?」
ユウヤが驚き呆気に取られて思う
(俺が…?それでヴィンは…)
タクが微笑してエースを見て言う
「だからエースも そんなユウヤさんに協力しているのですよね?」
エースが衝撃を受け視線をそらして言う
「ばっ 俺は そんなんじゃ…っ!」
エースの頬が赤くなっている タクが軽く笑う ドアがノックされる タクが振り向きそちらへ向かう エースが気を取り直して言う
「まぁ… 俺らだってな?このままじゃぁ本当にやべぇからゲートキーパーズが手に負えねぇって言うなら そん時ぁ力を貸さねぇ訳にも行かねぇんだが… それはそうと今回は随分と動きが遅ぇじゃねぇか?リックはどうしたよ?」
ユウヤが呆気にとられて言う
「え?リックは…?」
エースが言う
「うん?何だ会ってないのか?」
ユウヤが言う
「はい… 何処にいるのかも… あ、その代わりと言うか他のメンバーである2人には会っていますが」
ユウヤが思う
(…って あれ?カルは良いとしてディークはメンバーって事で良かったのか?)
エースが言う
「ふーん?」
ユウヤが気を取り直して言う
「あの… えっと?それでエースさんは?」
エースが疑問して言う
「ああ?」
ユウヤが言う
「あの場所で確か?確かヤボ用があったって…?それは…?」
ユウヤが横目にリボルバーの入れられている銃ホルダーを見て そこに隠したものを意識する エースが言う
「ああ、俺のヤボ用は… まぁお前らゲートキーパーズとは違ってな?本当に… そっちと比べちまったらヤボな用でよ?実は~」
ユウヤが言う
「“ジャック”さん…」
エースが反応してユウヤを見て言う
「…何で お前が?」
ユウヤが表情を悲しませる タクがユウヤの服を持って現れて2人の様子に疑問する

浴室

浴槽に頭を預けて眠っていたヴィンが目を覚まし 周囲を見渡して言う
「…っ!?ここは?」
ヴィンが状況を理解して湯から上がる

リビング

カーペットの上にジャックのカードが置かれている エースが言う
「…そうか 分かった」
ユウヤが言う
「すみませんでした 助ける事は出来なくても 俺たちがその場から逃げる事で何とか事態をやり過ごそうとしたのですが」
エースが言う
「アイツは狙った獲物は逃がしはしねぇ… お前が足を引っぱらなかったとしても逃げ切れなかっただろうよ?」
ユウヤが表情を落として言う
「でも もし あの場所に俺が居なければ… そうしたら…」
エースが言う
「何か言ってたか?」
ユウヤがエースの顔を見上げて言う
「え?」
エースが言う
「体から血が抜ければ その分だけ女ヴァンパイアの洗脳からは開放される… そうすれば1言くれぇは 正気の言葉を話せるだろう 何か… あの施設の事やあいつが手に入れた… 今回の事件の情報や何かを お前たちに?」
ユウヤが言う
「ジャックさんは 最後に…」
エースがユウヤを見る ユウヤが思い出して言う
「『エース すまねぇ』 と…」
エースが一瞬驚いた後 間を置いて笑い出す
「…ぷっ …ははっ あっははははっ!」
ユウヤが驚いてエースを見る エースが笑いながら言う
「あっはははっ あの馬鹿がっ!目の前に見知った連中が居るってぇのにっ …そいつらに向かってそこに居もしねぇ俺への言葉を言いやがったなんて… …馬鹿野郎が最後の最後に…っ」
エースがジャックのカードを手に取って言う
「最後こそ… ナイトらしく振る舞えって言うんだよ… ジャック」
エースがカードを持つ手に力を入れ涙の滲む目をそらす ユウヤが思う
(エースさん…)
ユウヤが言う
「彼を… ジャックさんを探していたんですね?」
エースが間を置いて言う
「…少し前にジョーカーの奴が何の根拠もねぇ噂を仕入れてきやがった」
ユウヤが言う
「噂?」
エースが言う
「ああ… それで この街のマルス城を警察の奴らから取り戻せるってよ?」
ユウヤが言う
「城を取り戻す?」
ユウヤが思う
(それは確かに現在各街にあるそれらは皆 警察が… ヴィンの城に関しては場内に入られない事から外回りの警備だけをしている様子だけど…)
ユウヤが言う
「城は… どの街のものも14年前からは警察が管理しているのでは?」
エースが言う
「ああ、そうだな?けど この街に関しては それ以前から警察のモンになってたんだ」
ユウヤが言う
「それ以前から?それは?この街は… この街の城はトランペスターキングであるエースさんのものだったのでは?」
エースが言う
「その俺は14年以上前… 今から50年以上前になるか?俺は初めてカードで人間に負けた」
ユウヤが呆気に取られて言う
「え…?カードで…?」
エースがトランプカードを手に現して言う
「俺がトランペスターキングと名乗らなくなったのは それが原因だ それで その時の賭けに出したのが…」
ユウヤが言う
「まさかっ!?城を?マルス城を賭けの対象にしたのですかっ!?」
エースが言う
「それだけじゃねぇ いや、もちろんそれもあるが… 城を賭けると言う事は この街の自由を… 奴らのやる事にヴァンパイアとして手を出さねぇって事も含まれている その大勝負に俺は負けたんだ」
ユウヤが呆気に取られて視線を泳がせる その視線にジャックのカードが止まる そこにジョーカーのカードが落とされる ユウヤが反応する エースが言う
「それをコイツが…」
ユウヤが言う
「噂… …それはつまり?」
エースが言う
「イカサマがあったんじゃねぇかってよ…?あの時のカードに」
ユウヤがジョーカーのカードを見る エースがジョーカーのカードを一度裏返してから再び表返す ジョーカーのカードがハートのエースに変わっている ユウヤが呆気に取られる エースが言う
「こんな風によ?カードの絵柄が変わる… そんなイカサマがあったんじゃねぇかってな?それを聞いたジャックの奴が問い質して来るってよ?出て行ったっきり …この様だ」
エースがハートのエースをずらす その下にあったジャックのカードが見える ユウヤが表情を落とす エースがハートのエースを更にずらすと その下にあったジョーカーのカードが現れる ユウヤが気付き言う
「ジョーカーさんは 一体何処で その噂を?」
エースが言う
「さぁな?」
ユウヤが呆気にとられて言う
「え?」
エースがカードを回収しながら言う
「俺らは仲間としてツルんではいるが普段は個人で動いてる… ヴァンパイアはそう言うもんだ 必要とあれば一時的に組む事はあっても互いに馴れ合う事はしねぇ」
ユウヤが言う
「しかし それではっ!?」
エースが言う
「だからジョーカーの奴が何処で誰と会って来たかなんて事は聞く必要もねぇし聞かねぇ事が 俺らの繋がりってもんだ」
ユウヤが言う
「それでもジャックさんはエースさんの為に」
エースが言う
「ああ… だからアイツはジャックなんだよ」
エースがジャックのカードを見せる ユウヤが表情を落とす ヴィンが言う
「その噂を流したのは…」
ユウヤが驚いて顔を向けて言う
「ヴィンっ!?」
ヴィンが部屋のドアの近くに立っていて ユウヤの反応に微笑する ユウヤが苦笑して言う
「目を覚ましたんですね?良かった…」
ヴィンがユウヤの近くへ来て言う
「すまなかった 私の方がユウヤに迷惑を掛けてしまうとは」
ユウヤが言う
「あ、いえっ 俺にと言うより…」
エースが言う
「あぁ ”ユウヤ”の言う通り」
ヴィンが不満そうな表情でエースを見る エースがニヤリと笑って言う
「迷惑を掛けられたのは俺の方だと思うんだがな?ヴィーンリッヒ?」
ヴィンが言う
「元を正せば貴方の配下が我々の敵の手に落ちていた事が 我々へ劣勢をもたらす悪因となった」
ユウヤが言う
「ヴィンっ それはっ!」
エースが言う
「それに関しては すまねぇ」
ユウヤが驚いてエースを見て言う
「え…っ?」
エースがジャックのカードを見て言う
「あいつが俺に謝ったのは そういう事だ… お前らゲートキーパーズの手を煩わせた その侘びを俺にするようにってな?…だから それに関しては俺が謝る」
ユウヤが思う
(そうか… あの言葉はそう言う事だったのか)
エースがユウヤへ向いて言う
「お前にも言い忘れてたな?」
ユウヤが慌てて言う
「えっ!?いえっ!俺は…っ」
エースが言う
「だから次の時は俺も手を貸すぜ?それにコイツだって?一応は役に立っただろう?」
エースがジャックのカードをヴィンへ向ける ヴィンが言う
「確かに ”一応”は?」
エースが苦笑する ユウヤが困惑しながら2人を見る エースが言う
「…知ってたって事か?」
ユウヤが疑問する ヴィンが言う
「あの建物には私の偵察を阻害する力があった その時点で あちらには相応のヴァンパイアが居ると言う事 …間違いなく知能派のヴァンパイアが付いている」
ユウヤが驚いて言う
「え…っ!?」
ヴィンが言う
「最も それだけであったのなら私の敵ではないが そこに …例え操られているとあっても 戦闘タイプのヴァンパイアまで居るとあっては こちらも戦力の増加をせざるを得ないと言う状況だった」
エースがうんうんと頷いて言う
「…悪かった」
ユウヤが困りつつ言う
「いや でも…っ それは… 仕方の無かった事で」
エースがユウヤへ向いて苦笑して言う
「良いんだ ユウヤ」
ユウヤがエースを見て言う
「しかし…」
ヴィンが言う
「ああ、ユウヤの言う通り仕方が無かったとは言え結果として我々は彼の捜索を行っていたトランペスターキングに助けられ その助力も得られる事となった 例えあちらのヴァンパイアが知能派とあろうと こちらに戦闘タイプのヴァンパイアの助力があるに越した事はない そして あの建物内部の状況も粗方把握をした現状はユウヤと私の2人だけで向かった先の状況より 万全の状態にて再度向かう事が出来る …彼の行いは無駄にはならないだろう 我々が求める この世界の確実な未来の為に」
エースが言う
「”確実な未来”… 今回で決まるって事か?」
ヴィンが言う
「その可能性は極めて高く そして もし次となれば そちらでの可能性は」
エースが言う
「ねぇな?」
ユウヤが呆気に取られている エースが言う
「そうとなりゃぁ 今回に全力を掛けるしかねぇ …ユウヤ?」
ユウヤが言う
「は、はい?」
エースが微笑して言う
「お前に賭けるぜ?俺の全てを」
エースがトランプのカードを見せる ユウヤが自身へ向けられているスペードのエースとジャック、クイーン、キング、4のカードを見て呆気に取られる

ユウヤの家

玄関を開け広げたカルが言う
「お帰りさーん ユウヤ!…お?何や?失敗でもしおったん?」
ユウヤが苦笑して言う
「う… うん まぁ その… 失敗と言うか …出直し かな?」
カルが言う
「そか!まぁしゃあないわ!元気出しユウヤ!」
ユウヤが言う
「うん… ありがとう カル」
カルが言う
「こっちは異常なんてまったくあらへんで?なんやったら次はワイもそっちへ行ったろか?」
ヴィンが言う
「いや経過はともかく予定通りトランペスターキングの力を借りる事となった」
ユウヤが反応する ヴィンが続けて言う
「従って明日もカルとディークには こちらの警備に就いて貰う予定だ」
カルが言う
「ん~ そかぁ?まぁしゃあないわ?ワイもホンマは そろそろそっちの方に行きたかってんけど あいつらに こっち任す訳には行かへんしな?」
ヴィンが言う
「ああ、彼らは それほど信用を置かれる者ではないからな」
ユウヤが呆気に取られて言う
「え?そんな…?」
ユウヤが思う
(確かに彼はゲートキーパーズのメンバーではないけれど それでも…)
ユウヤが思い出す

エースが微笑して言う
『お前に賭けるぜ?俺の全てを』

ユウヤが思う
(全てを賭けるとまで言ってくれた それなのに?)
ユウヤがふと気付いてヴィンを見上げる ヴィンが微笑して言う
「現状は彼の言葉通り彼が賭けるのは彼の全てと言われる あのカードと同じく彼自身でもあるが 賭け事は別の要因が加われば新たなルールの上に成り立つ事もある …彼が現状より面白いと思われるモノを見つければ彼は何の躊躇も無く そちらの新たなルールへと賭けるだろう」
ユウヤが呆気にとられて言う
「え?そ、そうなんですか けど俺には そんな風には…」
ユウヤが視線をそらす ヴィンが苦笑して言う
「ヴァンパイアとは所詮その程度の者」
ユウヤが驚いてヴィンを見る ヴィンが言う
「不死の命とは その様な怠慢をもたらす… 命とは限られているからこそ何かを成し遂げようと強くある事が出来る そして それこそが尊い命と言われるものなのだろう」
ユウヤが呆気に取られる ヴィンが苦笑してユウヤの頬に触れようとして止める

翌日 警察本部近郊

ユウヤとヴィンが現れユウヤが気付く エースが振り返って言う
「おいおい遅ぇーぞ?ヴァンパイアを寒空の下に待たせるなんて お前は俺らの敵なのか味方なのかどっちなんだよ?」
ユウヤが言う
「すみません エースさん それに…」
エースの後ろに居るスペード、クイーン、フォースが顔を向ける ユウヤが言う
「お仲間の… 皆さんも」
エースが言う
「お仲間じゃなくて こいつらは俺の配下 …それからそのエース”さん”ってぇのはいい加減止めろ気持ち悪ぃ エースで良い」
ユウヤが言う
「あ… はい、分かりました」
エースが言う
「その敬語もな?」
ユウヤが呆気に取られて言う
「え?しかし こちらが ご協力を頂いているのに」
エースが言う
「”ご協力” じゃねぇ 俺とお前は同じ目的を果たそうとする”仲間”だろ?」
ユウヤが呆気に取られる エースが言う
「だったら立場は同じ敬語は必要ねぇ筈だ」
ユウヤが微笑して言う
「分かった エースがそう言ってくれるのなら そうするよ」
エースが軽く笑って言う
「何だ?普通に話せるじゃねぇか… 変な奴だな お前 けど、やっぱ気に入ったぜ?」
ユウヤが呆気に取られてから微笑して言う
「え?…そうかな?なら 有難う?」
エースが呆気に取られてから笑い出して言う
「…ぷっ はははっ あー 本当にコイツは面白ぇ!天才科学者殿がご執着されるのも分かるってモンだぜ?」
エースがニヤリと笑んでヴィンを見る ユウヤが呆気に取られてその視線を追う ヴィンがエースへ言う
「無駄話は結構」
ユウヤが驚く エースが鼻で笑う ヴィンがユウヤへ向き言う
「では向かおうかユウヤ?」
ユウヤがハッとして気を引き締めて言う
「は、はいっ!」

警察本部入り口

門が叩き開かれ エースが叫ぶ
「おらぁあー!長官って奴は何処だーっ!?」
警官たちがサブマシンガンを放つ エースの仲間たちが軽く回避して警官たちを殴り失神させる ユウヤが呆気に取られて言う
「す、すごい…」
ユウヤが思う
(俺たちの時とは違って正に正面突破… と言うか)
エースが警官の一人を締め上げている 警官が言う
「い、105号室の扉の先に…っ」
エースが通路の先へ顔を向けて言う
「105号室?…はん?」
エースが警官を投げ捨ててそちらへ向かう ユウヤが疑問して言う
「え?105号室?」
ユウヤが通路の先を見る 部屋の先に通路があり警官たちが現れてエースたちに倒されている ユウヤが思う
(部屋の先に通路がある… つまり この階は1つ手前に部屋番号が割り振られている階だ そうとなれば長官室へ向かう事が出来る あの階段のある部屋番号は…っ)
ユウヤが慌てて言う
「エース!駄目だ!そこは…っ!」
ユウヤの声が聞こえるより先にエースが105号室の扉を開けて先へ向かってしまう ユウヤが慌てて言う
「エース!」
ユウヤが駆け付ける クイーンが振り向いて言う
「どうした?ユウヤ?」
ユウヤが一度クイーンへ振り向いてから 正面へ視線を戻しつつ言い掛ける
「ここは違うんだ!この先は… っ!?」
ユウヤの視線の先 先に入って行ったエースとスペードが通路を歩いている様子が見える ユウヤが呆気にとられて言う
「え?あれ?通路が… 続いている?てっきり また地下水路へ落ちる罠があるのかと…」
フォースが笑んで言う
「罠なら罠で面白ぇ!喜んで掛かってやるぜ!」
ユウヤが衝撃を受けて言う
「えぇえ!?」
ユウヤが顔を向ける 扉の先 通路の中でエースが振り返って疑問する その横をスペードがきょろきょろしながら過ぎて行く ヴィンが気付いて言う
「なるほど?これは ゲートか」
ユウヤが振り返って言う
「ゲート?」
フォースが言う
「じゃ!お先!」
フォースが通路へ向かう 一瞬その姿がブレる ユウヤが気付いて思う
(え?今 一瞬…?)
クイーンが面白そうに言う
「へぇ?それじゃ 俺もっ!」
ユウヤが驚いて言う
「あっ!?」
クイーンがゲートを抜けて周囲を見渡しながら歩いて行く ヴィンが観察して言う
「…ふむ、彼らは4人とも別々の空間へ転送された様子だ」
ユウヤが呆気にとられて言う
「別々の空間へっ!?」
ヴィンが言う
「彼らは近くに居ようとも まるで互いを認識していない様子が見て取られる そして転送が実行された事実は理解出来ていても その周囲の様子に対して 大きなリアクションを表しては居ない… この事からして彼らは恐らく この建物内の何処かへと個別に転送されたのだろう」
ユウヤが言う
「で、では どうしたらっ!?彼らを助けないと!?」
ヴィンが言う
「いや?彼らは皆ヴァンパイアであり相応の実力を有している 従って彼らは彼らなりに その場所に置かれた対処を各自にて行うだろう そして 最終的に合流出来るのであれば結果として我々にとっても効率の良いものとなる」
ユウヤが呆気にとられてから言う
「あ… そ、そうですか …そうですね?彼らは単独でも人間が相手なら負ける事は無いのでしょうし …では我々は?」
ユウヤが思う
(今 彼らと同じように このゲートを利用するのか?それとも…?)
ユウヤが言う
「前回の様に長官室を目指しますか?」
ヴィンが言う
「さて?どちらであっても私は構わないが前回と同じく長官室を目指すとあれば既にその前回と同じ方法では向かわれない様 対策を取られている可能性も十分に有り得るのだが …今のユウヤは何を求めるのだろうか?」
ユウヤが呆気にとられて言う
「え?今の俺が何を求めるか…?」
ユウヤがハッとして思う
(そうだ仲間が増えた事で気が抜けていたけれど俺は元々この警察本部に居る重役に会って人間とヴァンパイアの共存を説得するつもりだったんだ… うん?それじゃエースたちは?)
ヴィンが言う
「ユウヤの求めるものが彼らトランペスターキングらと同一であるのなら このゲートはユウヤを彼らの下へと誘うだろう」
ユウヤが驚いて言う
「え…!?」
ヴィンが言う
「ゲートとは その様なもの… 従って安易に利用する事は推奨されないユウヤの意思が固まっていないというのなら 前回同様に警官たちへ自白剤を用いて長官室への道や罠などを確認すれば良い」
ユウヤが呆気にとられて言う
「俺の意思…」
ユウヤがゲートを見て思う
(俺の意思が固まっていれば これで… 行けるのか?)
通路で警官の声が聞こえる
「襲撃犯を探せっ!またヴァンパイアが居るとの事だ 確認次第 即刻狙撃を!」
ユウヤがハッとしてヴィンへ向いて言う
「俺はっ この警察本部に居る上位の者に会いたいと思っていますっ でも それは…っ」
ユウヤが思う
(“長官”ではなかった… あの長官は”上からの命令に”と言っていた だからそれは つまり!?)
ユウヤが言う
「警察や長官を操る その者に会いたいっ!その者が居る場所へ行きたいですっ!」
ヴィンが頷いて言う
「結構 では早速その場所へと向かおうか?ユウヤ」
ヴィンがユウヤの腕を掴む ユウヤが驚いてヴィンへ向く ヴィンがユウヤの腕を引きゲートを抜ける 警官たちがやって来て言う
「居たぞ!撃てーーっ!」
警官たちが発砲する ゲートに銃弾が入る ゲートが歪み やがて消える 警官たちが驚き呆気に取られて言う
「な…っ!?」 「消えた…!?」

ユウヤの耳に銃声が響く ユウヤが思わず目をつぶった状態から疑問して目を開き 後方を確認して そこにある壁に驚いて思う
(え!?後ろには…!通路があった筈…?)
ユウヤがハッとして正面を向く 足音と共にドラクロアがやって来て言う
「困ったものだ… 我々の他にもゲートを抜け この場所へと辿り着く者が居ようとは… …それも」
ユウヤがドラクロアを見上げて驚く ドラクロアがユウヤを見下ろして言う
「人間が…」
ドラクロアが吸血衝動を見せる ユウヤが驚いて思う
(ヴァンパイア…っ!)
ヴィンが言う
「ドラクロア伯爵 すまないが私の獲物であるこの人間は ”彼”に会いたいと言っている」
ユウヤが驚いて思う
(ド、ドラクロア伯爵!?それに”彼”!?…それは!?)
ドラクロアがヴィンを見て言う
「ロンディウス公爵の息子だったか?何でも父親とは真逆に人間の味方に付いたとか…?クックック… その結果 自身までもがヴァンパイアとなったか?残念だ… 貴君の血の味は一度味わってみたいと思っていたものを」
ドラクロアが唇を舐める ヴィンが言う
「何百年前のお話だろうか?この世界にはもはや 階級による呼び分けなども存在しない …私や貴方の時代など忘却の彼方へと とっくに流れ去ってしまった」
ドラクロアが言う
「流れ去ったのであれば再び作り出せば良い… 永遠の命があれば失う物は何も無い」
ヴィンが言う
「哀れなヴァンパイア… 貴方のような者が居るから このような人間の歴史が繰り返されるのだろう 貴方を始末する事で人間の歴史が正しい姿へ戻るのであれば 私は何の躊躇も無く 貴方を始末する」
ドラクロアが笑んで言う
「出来はしない こちらには お前たちの…」
遠くから声が聞こえる
「おいおい?何が起きてるんだー?」
ユウヤが一瞬驚いて言う
「え…っ?」
ユウヤが思う
(今の声は…っ!?)
声が聞こえる
「ドラクロアー?駄目だぞー?客が来たんなら まずはリーダーである この俺の所に…!」
ユウヤが走り向かって言う
「テールっ!?」


続く
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