上 下
55 / 61

1-15 ローゼントの新女王とスプローニ

しおりを挟む
【 エド町 港 】

エド町からの臨時船が出航する アシルとベルグルが甲板に居る 港には離れていく臨時船を見送るローゼントの民たちが居る ベルグルがそれを見て表情を困らせてから 隣に居るアシルへ向いて言う
「ローゼントの人たち …大丈夫ッスよね!?今は皆 アンネローゼ女王様の事で 落ち込んじゃってるッス…けどっ けどっ!ヴェルアロンスライツァー副隊長が居るッスから!今は皆でスプローニへ行ってッスね!スプローニで皆で仲良く暮らすッス!でもって いつかローゼントを ソルベキアから取り戻してッスね!?」
アシルが腕組みをして考えていて言う
「国を奪われ 女王も王配すら 実質不在となり 活気を失ったローゼントの民… それをスプローニへ迎え入れる… か、やはり無理か…」
ベルグルが呆気に取られて言う
「へ…?アシル王子?い、今… 今、何って言ったッスか!?」
アシルが港へ背を向けて言う
「亡き女王の無念を晴らす!だとか 国を取り戻す!だとかよ? …そう言った事に 躍起になってくれてるのかと 期待してたんだがな?ローゼントの民ってぇのは 噂に聞く王配殿と同様に 王に仕える者たち だったのかもしれん」
ベルグルが呆気に取られる アシルが目を細めて言う
「あれじゃ… どんなに頼もうが スプローニの民は受け入れてはくれねぇぜ?…どうする?スプローニの王様よ?」
アシルが空を見上げる

【 スプローニ城 病室 】

ロキが入室して目的の人物へ視線を向け言いながら歩く
「…スプローニの王子であった アシル元王子の力を借りる事となった …これで 何とか エドに居るローゼントの民を スプローニへ招き入れる事が出来る筈だ …卿の体も 全身に打撲はあるものの 骨折もなし 脳波にも異常は無い しばらく休めば 再び剣を取って戦えるとの事」
ロキが立ち止まり 表情を悲しめて言う
「…ローゼントの状況は スプローニの者に監視させている 今回のソルベキアによる ローゼントの奇襲は スプローニは勿論他国のいずれも 良しとはしていない …卿が 先頭に立ち ローゼントの奪還を行うとなれば このスプローニは勿論多くの国が手を貸してくれるだろう そうと在れば… 卿が立たずして どうする?ヴェルアロンスライツァー?」
ロキの視線の先 ヴェルアロンスライツァーが放心したままベッドへ寝かされている ロキが間を置いて目を閉じ 静かに言う
「…アンネローゼ女王は …即死であっただろうとの事だ …ロボット兵の あの大きな武器で突かれたのでは …当然だな 苦しまずに逝けただけでも 良かっただろう …本来 槍で刺されてという 命の奪われ方は 長時間における呼吸困難の苦しみと薄れ行く意識の恐ろしさに 人は恐怖すると言う …それらが無く逝けたのであれば」
ロキがヴェルアロンスライツァーを見る ヴェルアロンスライツァーに変化は無い ロキが表情を困らせて言う
「ヴェル… お前がこのままでは お前は… お前の愛した アンネローゼ女王の民たちさえ 守れない …言った筈だ 王を守るには 王の身は勿論だが 共に 全てを守らねばならないと…」
ロキがヴェルアロンスライツァーを見て目を閉じ息を吐く 扉がノックされ衛兵が言う
「陛下 ローゼントの大臣より 陛下の連絡に対する 返答が送られて参りました」
ロキが振り返る

王の部屋

ロキが通信機へ向かって怒って言う
「何故だ!?何故 今すぐに向かうなどとっ!?」
通信モニターの先 ローゼントの大臣が言う
『ロキ国王様 貴方様からのお言葉に 私並びにローゼントの皆は 感謝致しております』
ロキが言う
「…それはっ 卿からの返答の連絡にて既に確認した 俺が言っているのは その事ではなく 何故 今すぐに兵を率いて ローゼントへ向かうなどと… そんな事をしても ただ無駄死になるだけだと 分からないとでも言うのかっ!?」
通信モニターの先 ローゼントの大臣が言う
『それは 重々承知の上でございます 我らはもう… 国も王も失いました かくなる上は 残された全ての力を使い ソルベキアに一矢を報いる他に無いのです』
ロキが言う
「全てを失ってなど居ないっ!諸卿には ヴェルがっ!…王配のヴェルアロンスライツァーが 居るではないかっ!?」
通信モニターの先 ローゼントの大臣が微笑して言う
『ヴェルアロンスライツァー殿下の事も聞き及んでおります お体に重大な損傷がある訳もないながら 以前として 意識を取り戻されないと… そちらは 言うまでもありません ヴェルアロンスライツァー殿下は我らと同様に… いえ、それ以上に 我らの女王 アンネローゼ様を愛しておられたのです よって そちらにあります殿下の御身は 既に抜け殻も同然 とは言え これからの戦いに 殿下のその御身も共に 向かわせたいと思います ロキ国王様 どうか 我々の想いを ご了承下さい…』
通信モニターの先 ローゼントの大臣が深々と頭を下げる ロキが歯を食いしばって視線を落として言う
「何か… 何か方法は無いのかっ 彼らを救う… 奴を救う方法が…っ」
扉がノックされ 衛兵が扉を開けて慌てて言う
「ロキ陛下っ!」
ロキが疑問して振り返る

医療室

ロキが怒って言う
「何故 今まで黙っていた!?」
医師が言う
「常識的に考えれば例え一時命を取り留める事が出来ようとも 母体が生命活動を停止してからの時間からして 無事である筈が無いと …しかし、この子は 命を取り留めたのです これはまさに 奇跡としか言い様がありません」
ロキが保育器の中で寝かされている赤ん坊を見る 赤ん坊は指を咥えて眠っている ロキが微笑して言う
「…これなら ローゼントの王は失われていないっ …すぐに ローゼントの皆へ連絡を!」
大臣が言う
「いいえ 陛下 安易にお知らせしてはなりませんっ」
ロキが言う
「どう言う事だ?彼らとて 亡きアンネローゼ女王の子が無事であったと聞けば 喜ぶに決まっている!」
大臣と医師が顔を見合わせてから苦笑し合う ロキが疑問する 医師が軽く頭を下げて言う
「いえ…失礼致しました ロキ陛下 陛下の御反応は 人として とても正しきお姿であると 私めにも分かっております」
ロキが大臣へ向いて言う
「…どういう意味だ?」
大臣が表情を落として言う
「陛下… 王族とは 己の国と共に 民が そして、財があってこその王族でございます 今… この子にあるのは 元ローゼント国女王のご息女と言う 言わば 飾りに過ぎない王位なのです ともすれば 王女の号さえも授かる事は困難であるとも言えます」
ロキが呆気に取られて言う
「な…っ!?」
医師が言う
「…折角の奇跡を持って 無事で居てくれたが この子にとっても 残されたローゼントの民たちの為にも …陛下 この子は スプローニの孤児院へ 誰の子とも知らせずに 送るのが最良の対処であると」
大臣が言う
「おおっ そうであった 良かった… これほどまでに懸命に生きる命を 失わせてしまおうなどと考えていた自分が 何とも心苦しい」
医師が言う
「いえ、ラグヴェルス陛下が あの孤児院を作って下されていたお陰だ そうでなければ その決定をなされたこの子の命を 失わせるのは私の役目であったのです」
大臣が保育器に触れて覗き込みながら言う
「良かったなぁ?坊主… いや、女の子だったか?これは失敬失敬」
医師が軽く笑う ロキが沈黙を破って言う
「…いや、この子は 女王となる …ローゼントの新たなる女王に!」
大臣と医師が呆気に取られてロキを見る

城下町

アシルがスプローニ城を遠目に見て言う
「…なんだろうな?外装も何も まったく変わっちゃねぇ筈なんだか… 今は まったく違う城を眺めている気分だぜ」
ベルグルが疑問して言う
「へ?違う城ッスか?う~ん… スプローニ城は やっぱりスプローニ城ッス!少っしも変わってないッスよ?」
アシルが苦笑して言う
「ふん… 気分の問題って奴だよ」
ベルグルが首を傾げて言う
「気分ッスか?…スプローニ城は 気分で違う城になっちゃうッスか!?う~… なんって言うか やっぱりアシル王子も ロキ隊長と同じ様に 難しい事を言うッスね?」
アシルが苦笑して言う
「はっはっ… 人と同等の知能だけを与えられた お前たち先住民族には まだまだ 人と同等の 情緒ってモンまでは 理解が及ばねぇんだろうよ?」
ベルグルが呆気に取られて言う
「ジョウチョ?」
アシルが笑んで 胸に手を当てて言う
「目や耳だけじゃねぇ ここで受け止めて感じる 感覚って奴だ」
ベルグルが胸に手を当てて首を傾げて言う
「ここで受け止めて 感じるッスか…?」
ベルグルが胸に意識を集中させた後 疑問して胸に当てた手で数回胸を叩いて 咽て疑問する アシルが先を歩きながら言う
「その様子じゃ 当分分かりそうにねぇな?ははっ」
ベルグルが衝撃を受け慌てて追いかけて言う
「ああっ ま、待ってくださいッス!アシル王子ー!」
アシルとベルグルがスプローニ城へ向かう

玉座の間

ロキが通信モニターへ向いて言う
「…と言う事だ 諸卿の新たな女王は 俺の正式な養女として このスプローニの王ロキが保護をする 共に国を追われた諸卿もまた ローゼントの地を取り戻すその日まで 我がスプローニにて」
大臣たちがロキの言葉を聞いて顔を見合わせる ロキが言う
「…以上だ これであるなら 諸卿が生きながらえる理由にもなるだろう?今すぐに ローゼントへ向かう等と言う騎士たちを止め 今日はエドの地にて休み 明日にでも 諸卿の王が在する このスプローニへの路へ就くんだ スプローニは諸卿の来国を 先に居る ローゼントの新女王と共に 待っている」
通信モニターに映るローゼントの大臣が呆気に取られた後 深々と頭を下げる 通信モニターが切れると ロキが一息吐き大臣らへ向いて言う
「…諸卿も 聞いての通りだ 早急に ローゼントの民を迎え入れる準備を…」
ロキが言い終える前に ロキの頭を拳骨が殴る ゴッと鈍い音が響くと同時に ロキが頭を抱えて言う
「…痛っ … てぇ… な、何が…?」
ロキが見上げた先 アシルが拳骨を握り締め 不満に満ちた表情から怒りを表して言う
「『何が』 じゃねえ!何 勝手な事 してやがるんだ!?お前はっ!」
ロキが呆気に取られて言う
「…アシル王子」
アシルが不満そうに言う
「元」
ロキが苦笑して言う
「…いつの間に そこに?」
アシルが言う
「今だ たった今 お前が勝手な通信を送って 挙句 訳の分からねぇ指示を大臣たちに言った所で 戻りの挨拶も抜きに 殴ってやった」
ロキが表情を引きつらせつつ 平静を装って言う
「…俺は卿へ 俺の頭を殴って欲しいなどと 依頼した覚えは無いのだが?」
アシルが言う
「こっちだって 頼まれた覚えはねぇ お陰で手が痛くなったぞ この石頭っ」
ロキが不満そうに言う
「…石頭?…いや、そんな事より アシル王子」
アシルが言う
「元!」
ロキが言う
「…卿も聞いていたのなら 話は早い ローゼントの元女王 アンネローゼ殿の忘れ形見である ローゼントの新女王は 俺の養女とする事にした これにより ローゼントの民を無謀な仇討ちから守り スプローニの地へ導く理由となった 後は 受け入れるこちら側の準備なのだが」
アシルがロキの頭を拳骨で殴る 再び鈍い音が響くと ロキが殴られた頭を抑え怒りを押し殺しながら言う
「グッ… …くぅ …何故殴るっ!?」
アシルが殴り終えた体制で言う
「…お前は いつからこのスプローニの独裁者になったんだ?」
ロキが疑問して言う
「…独裁者?」
アシルが言う
「親父は 独裁者に このスプローニの王位を 渡したつもりはねぇ筈だ」
ロキが言う
「…俺が独裁を行っていると?」
アシルが言う
「やってねぇってぇのか?」
ロキが沈黙する アシルが再び殴ろうとする ロキが慌てて言う
「ま、待てっ」
アシルが止まる ロキが気を落ち着かせて言う
「…俺は ただ あいつを… いや、ローゼントの民を 救ってやりたいと思っているだけだ …このスプローニの王であれば それが可能であると …そう考える事が 独裁であると言うのか?確かに 俺1人の考えであり 無理は承知の上だ …だが、それが …スプローニの王として 間違っていると?」
アシルが言う
「…間違っちゃいねぇ」
ロキがムッとして怒って言う
「…なら 何故殴る!?言っておくが 俺は父親にだって殴られた事はないんだぞっ!?」
アシルが言う
「お前はア●ロかっ!?」
アシルが気を切り替えて言う
「お前の その考えや行動は 間違っちゃいねぇ …ローゼントの連中を上手く押し留めたもんだ 奇跡的なモンに助けられはした様だがな?」
ロキが気を静めて言う
「…ふむ …では?」
アシルが怒って言う
「だがっ!…問題はそこからだ 行き場の無い連中を このスプローニへ迎え入れる その準備をしろ だと?何を勝手な事を言ってやがるっ!?」
ロキが困って言う
「…しかし、彼らが来る以上 その場所を用意せねばならんのも当然 そして この地に用意するとなれば 少しでも速く スプローニの皆で取り掛からねば」
アシルが顔を近づけて言う
「いつから このスプローニは てめぇの モノに なった?」
ロキが呆気に取られて言う
「…それは …無論 俺がこの国の王位を継承した その日か ら…っ!?」
ロキの頭が拳骨に殴られる ロキが辛そうに頭を抱えて言う
「…てぇ~っ」
アシルが拳骨を胸に言う
「スプローニの国はっ!土地はっ!国王のモノじゃねぇ …そこに住み そこで働き そこで生きる 民のモノだっ お前はそこへ 勝手に 他の国の連中を連れ込んで 挙句 そいつらを迎える準備をしろだと!?」
ロキが呆気に取られて言う
「…スプローニの国は 国王のモノでは ない…と?」

城門前 バルコニーを見上げる場

シャルロッテが笑顔で言う
「ロキ国王様の国民へ向けての 初演説だそうです ピーちゃん?貴方もこのスプローニの民として ちゃんと聞くのですよー?」
シャルロッテが両手で作った手の平に乗っているトカゲがピーと鳴く ロイが腕組みをした状態で不安そうな表情を逸らす シャルロッテがふと気付きロイを振り返って言う
「ロイ?」
シャルロッテがロイへ向いて顔を覗き込むように言う
「どうかしたのですか?折角のロキ国王様の晴れ舞台… いえ、晴れ舞台と言ってしまうのは ちょっと不謹慎ですね でも 国王として 国民へ向けてお話するなんて 王位継承式の あの時以来ですよ?…あの時だって お話をしたのはラグヴェルス前王様だけでしたし ロキ国王様が国民へ向けてお話しするのは 実質今日が初めてです ここはやはり 仲間として 声にせずとも ここから応援をしなくてはっ …と思うのですが?」
ロイがバツの悪そうに言う
「…それは 確かに貴女の言う事が 仲間として正しいのかもしれんが」
シャルロッテが一瞬呆気に取られた後微笑んで言う
「…? でしたらっ!ロイもほらっ 早く前に出てください 皆前へ前へと行ってしまって いつの間にか一番乗りで来た私たちが 一番後ろになってしまいました」
シャルロッテがロイの手を引く ロイは動かない シャルロッテが再び不思議そうに振り返って言う
「ロイ?」
ロイが視線を落として言う
「…いや なんと言うか …やはり 俺は見たくない」
シャルロッテが呆気に取られてから 慌てて言う
「え…?ど、どどどっ どうしてっ!?な、なななな 何でですか!?ロイ …ロイっ!?」
ロイが背を向けて去ろうとする シャルロッテが慌てて追い駆けて言う
「ロイっ!?何処へ行くのです!?もう演説が始まっちゃいますよっ!ロイっ!?」
ロイが歩みを続けながら言う
「…帰る 俺は… 俺の憧れた あのロキ隊長が 皆に土下座する姿など …見たくない」
シャルロッテが驚き呆気に取られた後 再び追い駆けながら言う
「え…?えぇええぇっ!?ど、どどど どう言う事です!?国王様が ど、どどどど 土下座だなんてっ そ、そそそそそんな話は 前代未聞ですぅ~っ!」
トカゲがピーと鳴く ロイとシャルロッテが立ち去る

城内 演説バルコニー所の直前

ロキが呆気に取られて固まった後 固まった体で回れ右をして言う
「…帰る」
アシルがロキの肩を掴んで言う
「何処へだ?お前の家はこの城だろう」
ロキが固まった後 うわずった声で言う
「…お、俺は …俺は!あの 戦場へ!」
アシルが言う
「今は何処の国も戦ってねぇ 従って 何処にも戦場はねぇ が お前の戦場だけは ここにある」
アシルがロキの固まった体を振り返らせる ロキが視線を下げて向けた先 民衆の大群がある ロキが倒れそうになる ベルグルが慌てて叫ぶ
「ロキ隊長っ!」
アシルがロキの頭を鷲掴みにして大群を見せて言う
「おらっ しっかり見やがれ スプローニの皆が お前の話を聞いてやろうと わざわざ駆け付けてくれたんだぞ!?」
ロキが視線をアシルへ向けて言う
「…こ、国王の 王位継承のときより 遥かに多いのだが?何故だ?国の王が変わる時より 多いだなんて…」
アシルがニヤリと笑んで言う
「それはなぁ?知りてぇかぁ?」
ロキが疑問する アシルが言おうとすると鐘が鳴る ロキとアシルが一瞬呆気に取られ空を見上げる 大臣がやって来て言う
「陛下 お時間です」
ロキとアシルが大臣へ向いて一瞬、沈黙が流れる ロキがハッとして慌てて言う
「まっ!ままままっ 待てっ!まだっ …まだ 何もっ!」
アシルが一つ息を吐いてから言う
「はぁ… まぁ良い 今は んな事言ってる場合じゃねぇからな おいっ へっぽこ国王」
ロキが困り果てた表情でアシルを見る アシルが言う
「情けねぇ面するんじゃねぇよ?相手はこのスプローニの民 …皆 お前の仲間だ」
ロキが呆気に取られて言う
「…仲間?」
アシルが苦笑して言う
「ふんっ 仲間じゃパッとしねぇか?なら お前ら流に言えば 同じ部隊の隊員だ そいつらへ 隊長のお前が 現状の説明と これからの指示をして 後は協力を頼めば良い それだけだ お前は元スプローニ第二部隊の隊長だろ だったら部下への指示くらい お手のものなんじゃねぇのか?」
ロキが言う
「…ぶ、部下への指示と同じで良いのか?」
アシルが仕方なさそうに言う
「今回はしょうがねぇ 時間もねぇしな?そんな感じでも 皆納得してくれるだろう だが、忘れるんじゃねぇぞ?しっかり頼み込むんだ それこそ本当に土下座してでもな?」
ロキが気を落ち着かせ 自分に言い聞かせるように言っている
「…部下に言うのと同じ …部下に言うのと同じ …そうだ 俺は第二部隊の隊長」
ベルグルがぽかーんとロキを見上げて言う
「ロキ隊長?」
ロキが目を閉じて言う
「…そうだ 俺は “ロキ隊長”」
アシルが呆れて言う
「…おい 聞いてんのか?」

演説の場

ロキがバルコニーに立つ ざわめいていた群集がしんと静まってロキを見上げる ロキが一瞬怖気そうになるが手を握り締めて凛と立って言う
「…まずは 急な召集に 皆集まってくれた この事に礼を言う」
アシルが後方で聞いていて笑んで言う
「…ふんっ 出だしは悪くねぇ 流石は親父が見込んだ 部隊長だ」 
ベルグルが嬉しそうにアシルを見てからロキへ視線を戻す ロキが言う
「…単刀直入に言う 皆も知っての通り 我らスプローニの同盟国 ローゼントが先刻 ソルベキアの奇襲により国を追われた だが!ローゼントの女王、アンネローゼ殿は 自らの命と引き換えに ローゼントの兵を… 民を守った!しかし、その彼らは 今 自国へ戻る事も許されず 一時を凌いだエドの地に留まる事も許されず 途方に暮れ 挙句 女王が命と引き換えに守った 彼らの命を持って ソルベキアへ一矢を報いようなどと言い出す始末だ」
民衆が悲壮の表情でざわめく ロキが言う
「…したがって 俺は 今は亡きローゼントの女王 アンネローゼ殿の息女を 養女として引き受け このスプローニの地に置き 共に生きる事を選んだ!彼女は 俺の… スプローニ王の娘であると共に ローゼントの新たな女王となるだろう!」
民衆が驚き顔を見合わせる ロキが言う
「…そして ローゼントの新たな女王となる 彼女が居る このスプローニへ!今、ローゼントの兵が 民が向かっている 従って 諸卿は その彼らを迎え入れるため」
アシルが視線を強める 民衆がロキへ注目している ロキが言おうとする
「その準備を 全力を持って今すぐに 行え…っ」
ロキの両膝の裏を瞬時にナイフの柄が突く ロキが驚く間も無く前方に倒れ 危うく両手を床に着いて四つん這いになる その横に立ったアシルを 横目に見上げて怒って言い掛ける
「何をっ!?」
アシルが凛と立って声を張る
「我らの同盟国ローゼントが 我らの王であるロキ国王にとって 最も友好を厚くしていた国である事は 諸卿も知っての事と思う ローゼントの王配ヴェルアロンスライツァーは このロキ国王の相棒とされた騎士であり それは両国の前王の時代も同じであった!故に!このスプローニの王は いつの時代もローゼントの窮地を放っては置けないと ありとあらゆる手段を講じようとする その結果が これだ」
アシルがロキを示す ロキが呆気に取られそのままの姿で居る 民衆が四つん這いのロキを見る アシルが言う
「ローゼント一国の国民を 丸々受け入れる …それは このスプローニにとっても 大きな負担となる …それが分かっていながらも 諸卿に頼む他になかった!ロキ国王は諸卿へなみなみならぬ負担を強いる その事へ対し 嘆願の言葉も謝罪の言葉も もはや考え付かぬとの事だ!従ってこのように 高い場所からではあるが 諸卿へ頭を下げ 身を賭して頼み込んでいる!」
ロキが呆気に取られ一瞬民衆を見る 民衆が驚き見上げている ロキがハッとして改めて頭を下げる アシルが言う
「…どうだろうか!?諸卿!この 身勝手なスプローニ王の心中を酌み 協力をしてもらえるだろうか!?無論 諸卿が協力してくれるとなれば ロキ国王は勿論 スプローニの国は全力を持って 諸卿の生活を保障する!」
ロキが視線を変えぬままアシルの言葉に聞き入っている 民衆が一瞬の静寂の後周囲と語り 間もなくして何処かしこから拍手が起き始め やがて盛大な拍手が成り上がる アシルが静かに微笑して言う
「諸卿の勇気とスプローニへの信頼に 敬意を称す!」
アシルが敬礼する ロキが静かに目を閉じる

城内

ロキが城内へ戻って来る その後ろにアシルが続いている 大臣たちがアシルへ駆け寄ってきて言う
「アシル王子!ローゼントの民を受け入れる 住居の確保に見込みが付きました 約半数は仮設の住まいとなりますが その住居も何とか明日の夜までには」
もう1人の大臣がほぼ同時に言う
「アシル王子!ローゼントの民へ与える食料なのですが 何とか数日分は確保がなされます しかし それ以降は やはり、他国からの支援を得られませんと」
アシルが言う
「よし、住居についてはそのまま続行させて 可能な限り正式な住居の建築も進行させてくれ 食料の支援と共に建築材料の支援も持ちかける 相手はまずシュレイザーだな それから」
ロキが一度目を閉じてから意を決してアシルへ向いて言う
「…アシル王子 やはり俺は 卿へ」
アシルがロキへ向いて言う
「おい お前 ツヴァイザーと友好を取り次いだそうだな?」
ロキが一瞬呆気に取られてから言う
「…あ、ああ」
アシルが考える姿で言う
「…そうとなれば シュレイザーに次いで声を掛けるのはツヴァイザーだ なんてったって 受け入れているのはローゼントの民 ツヴァイザーの現女王にとっては 母親の国だからな?きっと喜んで支援に協力を …いや、明日一番にでも 自ら支援に名乗りを上げるかもしれん」
ロキが呆気に取られた状態から改めて言う
「…あ、アシル王子 それで」
アシルが言う
「よし、そうとなれば やはりシュレイザーだ 今すぐシュレイザーへ現状の説明をして 支援をふんだくるっ!」
ロキが呆気に取られて言う
「…ふ、ふんだくる?」
アシルがロキへ向き直って言う
「おう 任せろ なんてったって あの国を一番に守ってやってるのは このスプローニだからな?こういう時には 大いに活用してやらなけりゃぁならん」
ロキが呆気に取られて言う
「…そう 言うものなのか」
アシルが得意そうに言う
「そっちは俺に任せろ な~に 心配はねぇ 上手くやってやる」
ロキが言う
「…心配はしていないが …いや、そうじゃなかった それより アシル王子」
アシルが思いついて言う
「…と、いや、待てよ?そう軽くも行かねぇか …何しろ今の俺は 元王子でしかねぇんだった スプローニの名の下に シュレイザーから支援を引き出すには立場が足りねぇ」
ロキが言う
「…ああ、それにも良いだろう アシル王子 俺は卿へ 王位を返還…」
アシルがロキの言葉を無視して言う
「おい、お前 お前国王として 今すぐ俺へ何か位を与えやがれ …そうだな この際 スプローニにおける ローゼント復旧復興援助部隊 隊長 なんてどうだ?」
ロキが衝撃を受け呆れて言う
「…復旧復興援助部隊?どんな部隊だ?そもそも部隊と言うのは…」
アシルが嬉しそうに言う
「うん!こいつは 我ながら良いネーミングだぜ この役職の隊長に協力しねぇだなんて 他国への目前 なかなか出来るもんじゃねぇからな!」
ロキが言う
「…それはそうかもしれないが …いや、そうではなく 俺は卿へ」
アシルがロキを無視して言う
「よぉお~し!そうとなったら 早速 復旧復興援助部隊隊長の 出陣だぜ!…良いなぁ?こういうの!俺もやっぱりスプローニの民として 一度は部隊って奴に属してみたか…!」
ロキが大きく息を吸い 声を荒げて叫ぶ
「アシル王子っ!」
アシルがうるさそうに耳を押さえて振り返って言う
「…た~ うるせぇなぁ!ここには犬だって居るんだ そんな大きな声出すんじゃねぇ!」
ロキが近寄って言う
「…ならば それ程の大声を出させるな …先刻から俺は 卿へ意見しようと 卿を呼んでいる」
アシルが呆れて言う
「…だったら 人の敬称くれぇ 間違えずに言えってもんだろう?俺は アシル元王子 …もしくは 復旧復興支援部隊隊長だ」
ロキが一瞬呆れて言う
「…いや、その部隊の結成はまだ… と、そうではなく アシル王子 俺は卿へ 正式に王位を返還したい」
アシルが目を細める ロキが言う
「…先ほどのことで いや、それ以前からだ アシル王子 俺は… はっきり言おう …ラグヴェルス前王から王位を継承された時 俺は卿の事を誤解していた 俺は 貴方がラグヴェルス前王から 王としての素質が無いのだと 見放され そして …代わりに 俺が選ばれたのだと」
アシルが苦笑し腕組みをして言う
「…ふんっ それで間違ってねぇよ」
ロキが言う
「いやっ!間違っているっ!…貴方には 王としての素質が十分に有るっ …少なくとも この俺などより ずっと」
アシルが黙ってロキを見る ロキが言う
「…俺は 分からない 昨夜からずっと考えていたが 俺が選ばれた理由などではなく …何故 ラグヴェルス陛下は 貴方へ譲らなかったのか…」
アシルが一度目を閉じてから改めて言う
「… お前 俺の名を知っているか?」
ロキが呆気に取られてアシルを見る アシルが苦笑して言う
「アシルだとか アシル元王子だとか言うなよ?俺の 正式な名前の方だ」
ロキが一瞬考えた後言う
「…貴方の名前は …そうだ 王子の名は スプローニ国憲法七千六百八十五条六項の下封じられた …従って貴方の名は」
アシルが微笑して言う
「スプローニ国憲法7685条6項 その者の名は その者の命運を賭するその時まで 何人たりとも口にする事を禁じる …俺が唯一正確に覚えているスプローニ国憲法だ 今までこの法律の下 名を封じられた者は俺を含めて3人しか居ねぇ オマケに前の2人は命運を歌われたその名を賭する事無く 永遠に名を封じられたまま眠っちまった」
ロキが呆気に取られる アシルがロキを見て言う
「スプローニの王は その人物の先を見る力を持っている …って話だ 生憎 俺は名付けなんてした事がねぇから分からんが …ともかく、その命運を歌って与える名は 表に出来ねぇ時もある そんな時付けられる仮の名 …俺のアシルって名はそれだ スプローニの言葉にしたって何の意味もねぇ」
ロキがアシルを見る アシルが言う
「…そんな事をした親父が 俺ではなくお前に王位を譲った それがどう言う事か …分かったか?」
ロキが少し考えてから言う
「…ああ」
アシルが苦笑して 背を向けようとしながら言う
「ふっ ならこの話は終わりだ お前も腹括って」
ロキが言う
「…貴方の正式な名が何なのか 何を意味しているのか 俺は知らない …だが、その内に 貴方が “スプローニの王にならない” とでも歌われているのか?」
アシルが止まる ロキが言う
「…スプローニ国憲法七千六百八十五条六項は名に囚われる事の無い様 その者を開放するための法律でもある 与えられた名の下に努力する事は悪くは無いが そのせいで身動きが取られなくなるのでは意味が無い アシル王子 運命はその時その場所に生きる者が 己の考えと力で切り開けば良い筈だ」
アシルが驚きロキを見る ロキが言う
「…俺に スプローニの王位は重く 使いこなす事は出来そうに無い だが、アシル王子 貴方なら この力を有効に使える そして、今のスプローニには 王位を持った貴方が必要な筈だ」
アシルが苦笑して言う
「いや… それは違うな 今、このスプローニの王位が必要なのは やっぱり お前の方だ」
ロキが不満そうにアシルを見る アシルが笑んで言う
「お前に王位が無くなったら お前が養女に迎えた ローゼントの新女王はどうなる?」
ロキがハッと呆気に取られる アシルが苦笑して言う
「そいつまで 俺に譲るだなんて言うなよ?俺は 実の子も無しに 養子を迎えるつもりはねぇからなぁ?」
ロキが視線を逸らして考える アシルが微笑して言う
「…そう言うことだ お前がスプローニの王である事は これから迎え入れるローゼントの民は勿論 既に迎えている ローゼントの新女王様や お前の相棒で抜け殻になっちまってる あのローゼントの王配殿を守る事に繋がっている …まぁ それら全てを見捨てて その上で俺に返還すると そこまで言うなら考えてやっても良いが?」
ロキが衝撃を受けハッとして慌てて言う
「なぁっ!?いやっ!す、すまんっ!もう少し考えさせて…っ!」
アシルが笑って言う
「ハッ!まぁ そう言うことだ お前はもう スプローニ王としての力を十分に使っちまってる 今更 後戻りは出来ねぇぞ?」
ロキが考える アシルが立ち去りつつ言う
「…だが さっきの言葉は良かった …覚えておいてやる スプローニの王 ロキの言葉としてな?」
ロキが呆気に取られて言う
「…さっきの?」
ロキがアシルを見る アシルが立ち去る

ヴェルアロンスライツァーの病室

ロキが苦笑して言う
「…と 言う事で 結局俺は スプローニの王のまま そして アシル補佐官のお陰で シュレイザーからの支援も無事取り次ぐ事が出来た …あぁ 言ってなかったか?アシル王子は」

回想

ロキの頭がグーで殴られる ゴッと言う鈍い音 玉座に座っているロキが頭を抱えて痛がっている 横にロキを殴り終えたアシルがムッとした表情で居る ロキが振り返って言う
『…な にを…』
アシルが怒って言う
『おいっ!こらっ!このへっぽこ国王!…なんだぁ~?“補佐官”ってぇのはっ!?』
ロキが頭を抑えつつ上体をあげて言う
『…何だも何も …やはり 復旧復興支援部隊と言うのは 大体 部隊と言うのは 複数人の集まりで …いや、出来る事なら 貴方には第二国王の称号を与えられればと思ったのだが 現行 このスプローニの第二国王は コレと言う事になっており』
ロキの隣に居たベルグルが衝撃を受け慌てて言う
『コ、コレ!?またッスか!?また俺コレに降格しちゃったんッスか!?ロキ隊長!?』
ロキが改めてアシルへ言う
『…中途半端な地位などより 補佐官である方が良いと推測したまでだ 貴方が王位を剥奪された事は周知の事 それを払拭する為にも 国王補佐官というのは 貴方にとっても良い筈だ』
アシルが不満そうな表情で視線を逸らして言う
『…チッ …折角部隊長になれると思ったのに 余計な気利かせやがって』
ロキが首を傾げて言う
『…何か?』
アシルがロキへ視線を向けて言う
『オマケに どこぞのへっぽこ王子が得ていた 補佐官の称号たぁ…ったく …フンッ 何でもねぇよ!』
ロキが微笑して言う
『…現在各国がこのスプローニの動向に目を光らせている よって 貴方にスプローニ国王補佐官の称号が課せられたことも 各国が確認している… これからは 名実共にその様に振舞って頂きたい アシルほさ…』
大臣たちがアシルへ群がって口々に言う
『アシル王子っ 先ほどシュレイザーから連絡があり 資材物資 食料物資共に アシル王子の提示したとおりの 支援を行うと連絡が』
『アシル王子っ 本日早朝に ツヴァイザーより連絡があり アシル王子が全国へ向けて発信しておりました 資材・食料物資の支援要請に 全力を持って協力したいと』
『アシル王子っ こちらも本日早朝に アシル王子が3大国家宛てに発信しておりました ソルベキア対策に対しまして 3国共に』
ロキが衝撃を受け慌てて言う
『…っ しょ、諸卿も既知だろう!?これからは アシル王子ではなく アシル補佐官と』
アシルが大臣たちへ向いて言う
『そうか、予測通りの反応だな ならこっちも予定通り 支援協力の申し出があった国へは 俺が用意しておいた感謝状と共に 各国に合わせて作っておいた支援要請リストの発送を リストの添付先には十分注意してくれ 頼む』
大臣たちがかしこまって言う
『ははーっ 直ちに取り掛かります アシル王子!』
ロキが表情を困らせて言う
『…だから 王子ではなく 補佐官と…』
ベルグルが喜んでアシルへ駆け寄り声を上げる
『アシル王子ー!俺たちにも何か出来る事は無いッスかー!?俺もスプローニの第二国王様として 先住民族の犬たちや 普通の犬たちと協力したいッスよー!』
アシルがベルグルへ向いて微笑して言う
『お?そうか またお前たちが協力してくれるのか なら助かる 実は お前たちにしか出来ない事があるんだが?』
ベルグルが一瞬驚いた後目を輝かせて言う
『お…俺たちにしか出来ない事ッスか!?やるッス!やるッスよー!アシル王子!何でも言って下さいッスー!』
ロキが呆れて言う
『…王子ではなく 補佐官… そもそも 元王子であって』
老犬のしわれた吠え声が響く
『ワフッ!』
皆の視線が玉座の間の入り口へ向く ポチを連れたスプローニの民が現れて言う
『いやぁ~ すんません うちのポチがどういう訳か 久しぶりに王宮に行きたいと聞かなくて きっと ローゼントの皆をスプローニへ迎え入れる事に 協力でもしたいと思ってるんじゃないですかね~?』
ポチがアシルの前に来てアシルを見上げてひと吠えする
『ワフッ』
アシルが笑って言う
『あっはははっ ポチ爺に 王子と呼ばれるのは 何十年振りだ?』
ロキが衝撃を受ける ポチがアシルへ向き変な声で鳴き始める
『ウゥ~ワウウ~フゥ~ウゥゥ~…』
アシルが考えながら言う
『…あぁ 俺もその件に関しては同じ考えだ …だが、俺は そうであっても 可能性はあると思ってだな』
ロキが呆れて言う
『…会話に …なっている のか?』
ベルグルが考え深そうに頷きながら言う
『やっぱりポチ爺ちゃんは反対だったんッスね~ でも アシル王子は可能性があると思っていたから止めなかったんッスか… ポチ爺ちゃんは喧嘩までして止め様としてたッスね~ ふむ~…』
ロキが衝撃を受けベルグルへ向く ポチが吠える
『ワフッ!ウ~ワワワワフッ!ワフッ!』
アシルが笑んで言う
『そうか 協力してくれるか ポチ爺が来てくれるなら 百人力… いや百犬力だなっ?』
ポチが笑んで吠える
『ワゥウウウッ!ワフッ!』
アシルが楽しそうに笑う
『あっはははははっ!そいつは心強い!』
ベルグルが喜んで言う
『凄いッスっ!ポチ爺ちゃんが何百年ぶりに やる気を出したッスよ!流石アシル王子ッス!あのポチ爺ちゃんに 『任せなされ アシル王子!』とまで言わせたッスよ!』
ロキが衝撃を受けベルグルへ叫ぶ
『だから何よりも前にっ 王子の称号は 改めろとっ!』
ロキ以外の者たちが笑顔でいる

回想終了

ロキが軽く頭を抱えながら苦笑して言う
「…まったく 何がどうなっているのか まぁ そうであっても 皆一応 俺を国王として認めてはいるらしい だから アシル補佐官が王子と呼ばれようが 何と呼ばれようが …いや、いずれは 彼へ王位を返還する時が来るのかもな だとしても 俺はその時まで」
ロキがヴェルアロンスライツァーを見る ヴェルアロンスライツァーは変化無く放心状態のまま居る ロキが苦笑して言う
「…スプローニの王として お前や ローゼントの皆を 守ってやる …だから 安心しろ ヴェル」
ヴェルアロンスライツァーに変化は無い ロキが苦笑して立ち上がり言う
「…また来る」
ロキが病室を去る 扉が閉じられる ヴェルアロンスライツァーに変化は無い

【 ローレシア城 ザッツロードの部屋 】

ザッツロードが安堵の表情で言う
「本当によかった…っ!」
通信モニターに映るアシルが言う
『ふんっ へっぽこ王子にそんな顔させるほど 心配されていたとはな?俺も落ちたもんだぜ …ま、礼は言っておいてやる 俺を助け出そうと 色々動いてくれてたそうじゃねぇか?』
ザッツロードが苦笑して言う
「はい… でも、僕がやれた事は 自国内で出来る事をやっていた程度で 結局 アシル王子を助け出すのには至らなくて」
通信モニターのアシルが苦笑して言う
『…今回はたまたま お前より早い連中が俺を助け出してくれたってだけだ そこにはもしかしたらお前の働きも益をもたらしていたかも知れねぇ …結果は重要だが それより何よりも 必要なのは 何かに向けて 自分が今出来る事を 全力でやるって事だ』
ザッツロードが一瞬呆気に取られた後 嬉しそうに微笑して頷いて言う
「はいっ アシル王子!」
通信モニターのアシルが疑問して言う
『あん?…おう …と、それでだ お前に通信したのは それに対する礼だけじゃなくてだな?』
ザッツロードが微笑してから言う
「はい!分かっています スプローニへ迎え入れたローゼントの民へ対する 支援の件ですね?実は、私からも父上へお願いしているのですが」
通信モニターのアシルが言う
『ああ、ローレシアからは 一応支援協力の連絡を受けている …が、こういっちゃ何だが ローレシアほどの国なら もっと… こー… だなぁ?』
ザッツロードが言う
「はい、詳細は伏せられていますが 私の目から見ていても 支援の幅はあまり広くない様に見えます 父上がどうお考えなのかは分かりませんが ローゼントはローレシアの同盟国だったのですから もっと手厚い支援があっても良いと」
通信モニターのアシルが言う
『一般の国として見るなら 十分協力を得ている だから これ以上は  余りせびるつもりはねぇんだが… ローレシアは穀物が豊富だろ?出来れはその辺りの支援を 少し強化してもらえると助かるんだ お前の方からやんわりと進言してもらえねぇか?』
ザッツロードが頷いて言う
「分かりました!穀物なら今は収穫の時期ですし 余剰穀物も十分あるはずなので 早急に送らせます!」
通信モニターのアシルが苦笑して言う
『おう 助かるぜ …けど、本当に 無理は言うなよ?お前はローレシアの王子なんだからな?他国へ気を配るのは良いが まずは自国を守れよ?父王と喧嘩して良い事なんて これっぽっちもねぇもんだからな?』
ザッツロードが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「それは… ふふっ そちらは実体験からの ご忠告ですか?アシル王子?」
通信モニターのアシルが怒って言う
『るせぇ!言っとくが俺は 親父に喧嘩を売ったことは 一度しかねぇんだぞっ!?』
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あれ?そうなんだ?」
通信モニターのアシルがふと後方を気にしてから向き直って言う
『…と、そろそろ時間だ それじゃ、支援の件 無理のねぇ程度で頼む』
ザッツロードが気を取り直して言う
「あ、はいっ!お任せ下さい!」
通信モニターのアシルが苦笑して言う
『ああ!期待してるぜ この礼はいつかする』
通信が切れる ザッツロードが微笑して言う
「ふふ… やっぱり アシル王子は 国王らしいや …ん?」
ザッツロードが首をかしげ空を見上げて言う
「僕は… 何を基準に 国王らしい と思っているんだろう?なんと言うか アシル王子は… 誰かに似ているような…」
ザッツロードが考えた後改めて言う
「いや、きっと 国王とされる人の人格が 僕の中で形成されているんだ 僕も… その様になれるよう努力しないと!うんっ そのためにも まずっ」
ザッツロードが部屋を出て行く

【 スプローニ国 墓地 】

国内に別れの鐘が鳴り響いている 人々が喪服で悲しんでいる ロキが神妙な面持ちで居る ベルグルが声を殺しながら溢れる涙を何度も拭っている 牧師が葬儀の言葉を読み上げている
「主よ… 我らは皆 かの者の旅立ちを 共に悲しみながらも 共に祈り送らんとしています かの者は 多くの者に見送られ 今 貴方の元へ旅立つ… どうか これから貴方の元へ向かいます」
アシルが一度目を伏せた後 顔を向ける アシルの向いた先 多くの花に囲われた棺がある 牧師が言う
「我らの仲間 我らの王であった ラグヴェルス スファルタス メルロルン ベイク ワイッサ シュトルゼリン フォルラー はその命運の元 友の国ローゼントを守りし戦いの内にて その命を失いました 今再び故郷の地へ戻りし彼を 我らは謹んで見送る 我らの魂 この銃声が聞えたとき 主よ 彼のために その門を開きたまえ」
皆が視線を向ける 助手がラグヴェルスの銃を取り 静かに歩いてアシルの元へ向かう アシルが僅かに視線を強める 助手が礼をして銃をアシルへ掲げる アシルが一度目を閉じた後 銃を取る 助手が礼をして下がる アシルが銃を天に掲げて構える 皆が目を閉じて祈りを捧げる アシルが目を閉じ引き金を引こうとする 途端銃を持つ手が痙攣し指が動かなくなる アシルが表情をしかめて思う
『…クッ 畜生っ!こんな 時まで…っ!』
数人の人々が疑問して片目を開け始める 元から目を閉じずに敬礼していたロキが疑問してアシルを見る アシルが平静を装いつつ僅かに顔を顰めながら手を下ろし ロキへ振り返り向かう ロキが疑問する アシルがロキの前で立ち止まって言う
「…王を送るのは 次の王の役目だ」
ロキが一瞬驚いた後言う
「…いや 本来は残される家族が …今までも 次の王が その息子であったからでは…?」
アシルがバツの悪そうな表情で怒って言う
「るせぇっ …良いから お前が撃て」
ロキが呆気に取られて言う
「…しかし …っ!」
アシルがロキへ銃を押し付ける ロキが驚き慌てて受け取る ロキが銃を握り直す アシルが背を向けながら言う
「…王を送る時は 2発だ …間違えるなよ?」
ロキが呆気に取られつつ 気を取り直して言う
「…あ、…ああ」
アシルが元の場所へ戻る ロキが周囲を見渡す 疑問していた人々が納得の様子で再び祈りの体制に戻る ロキがそれを確認して 一度ラグヴェルスの棺へ顔を向けてから頷き 銃を掲げ目を閉じて引き金を引く 重く力強い銃声が響く 人々が祈りを強くする 間を置いて再び 重い しかし、何処となく消え行く銃声が 城下の町に響く 一度銃を握ったその手を握り締め 敬礼していたアシルが目を開き ラグヴェルスの棺へ視線を向けて思う
『…父上 …貴方が俺に 王位を継がせなかった事を 今 初めて良かったと思っている …だが、今だけだ 今が終わったら また… 一度きりの喧嘩の再開だ』
アシルが苦笑してラグヴェルスの顔を見る ラグヴェルスは安らかな微笑を讃えている

【 ツヴァイザー城 玉座の間 】

レイトが慌てて叫ぶ
「いけませんっ!姫様っ!」
リーザロッテが怒って振り返って言う
「レイト!なぜ止めるのでして!?ローゼントはお母様の国!その民が今スプローニへ到着したのでしてよ!?ここは真っ先にお母様の実の娘である私が向かい 民たちの悲しみと疲れを受け止めて差し上げるの!それこそがお母様の娘である 私の務めでしてよっ!?」
レイトが駆け寄って言う
「姫様のそちらのお気持ちは私にも十分に分かりますっ しかしながらっ かの国スプローニには かつて姫様に壮絶な無礼を行おうとしたと言う あの アシル元王子が在城でありっ その様な危険な場所に 姫様を向かわせるなどっ!」
リーザロッテが一瞬呆気に取られた後困りながら言う
「…っ それは…」
レイトが言う
「かの時には 場所はこのツヴァイザーであり 周囲には 姫様をお守りする優秀勇敢なるツヴァイザーの兵たちが居りました 故に 事無きを得たとの事ですが 今度はそうは参りません 場所がスプローニとなれば 姫様をお守りできるのは」
リーザロッテが少し考えてから言う
「でしたら レイト!貴方も私と共に スプローニへいらっしゃれば宜しいのではなくてっ!?」
レイトが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
リーザロッテが言う
「そうでしてよっ!それなら私の身の上は安全ですし 何より スプローニには ヴェルアロンスライツァー王配もいらっしゃるのですから 貴方も お父様のお見舞いが出来るのでしてよ!丁度良いわっ!?ね?そうではなくって?」
レイトが困りつつ言う
「…それは」
リーザロッテが微笑んで言う
「レイト お父様へのお見舞いは しっかりしておいた方が宜しくてよ?貴方の たった一人のお父様でしてよっ?」
レイトが苦笑して言う
「はい… 確かに そうではありますが… 正直 私としては ヴェルアロンスライツァーはローゼントの王配にして かの時を共に戦った仲間であるとしか思えません そして恐らく彼は 私が自分の息子である事を 知らないのだと思います」
リーザロッテが驚いて言う
「えぇっ!?それは 本当でしてっ!?」
レイトが苦笑して言う
「はい、私の母は ヴェルアロンスライツァーへ 彼の子を身ごもった とだけ伝え それ以降は 双方共に何の連絡も行っていないと言っておりましたので」
リーザロッテが呆気に取られて言う
「…では 本当にヴェルアロンスライツァーは このツヴァイザーへの一時の在任のために ツヴァイザーの民との間に 貴方と言う子を設けたのでして…?」
レイトが苦笑して言う
「はい、彼は アンネローゼ女王の傍に居る為でしたら 何でも行うと言う男でしたから」
リーザロッテが怒りを溜め爆発させて叫ぶ
「なんって強情で身勝手な方でして!?例えお母様への忠誠に厚いとおっしゃってもっ!自分が行った事に対する対処は しっかり行うのが常識でしてよっ!?」
レイトが苦笑して言う
「はい… 確かに強情で身勝手では有りましたが お陰で 当時は衣食さえままならなかった母は ヴェルアロンスライツァーに保護をされ その後は 私共々十分な補償の上で 先日 他の者と再婚を果たすまで 何の不自由無く過ごす事が出来ました …ですので 一応の対処は行っていたものと…」
リーザロッテが槍の柄で床を突いて叫ぶ
「そんなっ 金銭だけの繋がりでは足りなくってよ!レイト!今からでも貴方はヴェルアロンスライツァーへ 自分が息子であるとお伝えなさいっ!そのためにも 私と一緒に 今すぐスプローニへ向かうのでしてよっ!」
レイトが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?その件に関してはもう… いえ、それよりも 姫様と共に私までツヴァイザーを空けると言うのは 今はソルベキアがどの様な動きをするか 各国が神経を尖らせて居る時でも有りますし」
リーザロッテが歩き出す レイトが慌てて声を掛ける
「姫様っ!?」
リーザロッテが振り返って言う
「レイトっ!?何をぼさっとしていらっしゃるのでしてっ!?ソルベキアがいつ動くとも分からない時でしてよ!?さっさと行って さっさと戻ってこなくてはいけないわ!貴方もキビキビと動きなさいっ!」
レイトが呆気に取られて言う
「…なるほど、スプローニならば このツヴァイザーの隣国 万が一ソルベキアがツヴァイザーへ向かおうにも 我等の方が…」
リーザロッテが遠くから叫ぶ
「レイトっ!」
レイトが慌てて言う
「はっ!姫様!直ちにっ!」
レイトがリーザロッテの元へ走る リーザロッテが再び歩き始める

【 スプローニ城 玉座の間 】

アシルが不満そうに言う
「何ぃ?ツヴァイザーの女王と王配が ローゼントの民を見舞いに来るだと?」
玉座に座っているロキが衝撃を受ける 大臣Aがアシルを見上げて言う
「はい、先ほど連絡を受けたのですが お二方は既にツヴァイザーを出ていると言う事で 恐らく御到着は昼食の後か その時に当たるかと…」
アシルが嫌そうに言う
「ケッ… こっちは食料難に陥るかって時に わざわざその時間を選びやがったのか?…まさか、ローゼントの民へ対する こっちの配給状態を確認しようなんて裏じゃねぇだろうなぁ?」
大臣Bが言う
「食料に関しましては アシル王子が支援増強要請をして頂きました ローレシアから 今までの2割増の穀物支援を頂いておりますので 先日までの試算よりは幾分上方修正がなされました」
アシルが少し驚いて言う
「2割増?…それだけか?」
大臣Bが紙資料をめくりながら言う
「はい… そうですね、1万6千の予定を1万7千6百と言う数字に変わりましたので 丁度2割に当たるかと」
アシルが視線を落として言う
「そうか… 思ってたより少なかったな まぁ 向こうにも何かあるんだろう 今後に期待しつつ その数字のまま試算を続けておいてくれ」
大臣が礼をして立ち去る アシルが言う
「後、声を掛けて置いた デネシアからの資材支援に対する返答は まだ無いか?」
大臣Cが言う
「はい、返答の程はまだ頂けておりません 先日の連絡時にも 検討するとのお言葉のみで… 正直このままでは難しいのではないかと」
アシルが考えて言う
「デネシアは新女王ファニアだったな… 認識はまったくねぇが 噂じゃ そこそこの切れ者だって言う話だ ここは向こうの出方を少し探るか…」
アシルが考える ロキが間を置いて言い辛そうに言う
「…所で アシル補佐官 …ツヴァイザーの2人の件だが …いや、むしろ リーザロッテ女王の来国に関して… なのだが…」
アシルが目を閉じて考えている状態から疑問して振り返り言う
「…あぁ?なんだ?今はそれより 資材支援の強化が問題なんだ ツヴァイザーじゃ ちょいと足りねぇ分野だからな そっちはお前に任せるぜ テキトーにあしらっとけ」
ロキが呆気に取られて言う
「…?…良いのか?」
アシルが再び考えていた状態から振り返り少し嫌そうに言う
「なんだよ?良いのかも何もねぇ ツヴァイザーからの支援は十分だ これ以上は向こうだって厳しい筈だからな しっかり礼を言って 昼食時に当たっちまうならしょうがねぇ そっちの準備も抜かりなく やっておいてやれ」
ロキが呆気に取られた状態から慌てて言う
「… …あ、ああ、その辺りの事は 俺でも分かっているつもりだ 問題は… そこではなくて だな」
アシルが考えていた状態から溜息と共にロキへ向き直って怒って言う
「だったら何だっ!?こっちはこっちで考えてるんだ 言いたい事が有るなら!」
ロキが言う
「なら言わせてもらうが!」
アシルが一瞬驚き体制を戻して言う
「…お、おう」
ロキが気を取り直して言う
「…ツヴァイザーの女王 リーザロッテは… 卿にとって特別な存在ではないのか?…その …言ってしまえば 好意を抱いていると」
アシルが呆気に取られて言う
「…は?好意?…俺が?…あのガキに?」
ロキが衝撃を受け言う
「ガッ… ガキ…!?」
アシルが溜息を吐いて言う
「はぁ… あのなぁ?お前 俺は確かに若く見られるが もうすぐ49だぞ?」
ロキが衝撃を受ける アシルが呆れて言う
「何が悲しくて21も下の 既婚の女に好意を抱かなけりゃならねぇんだ?しかも口を開けばキャンキャンとやかましい女で… あんなのはスプローニの民で気に入る奴はいねぇだろ?」
ベルグルが笑顔で言う
「俺はー!元気なリーザロッテ女王様は 大好きッスよー!?」
アシルが苦笑して言う
「ああ… お前たちは いつだって元気な奴が好きだからな?」
アシルがベルグルの頭を撫でる ベルグルが嬉しそうに撫でられている ロキが呆気に取られて言う
「…?? どう言う事だ?確か 卿が以前 ツヴァイザーで捕らえられた際の 卿の罪状と言うのは…」
アシルが考えながら言う
「…とは言え あの眠り姫の姿は美しかったなぁ …あれぞ まさに 物語に出て来る眠り姫 そのもので」
ロキが衝撃を受け 思わず立ち上がってアシルを指差して叫ぶ
「や、やはりっ!卿は紛れもなく 眠りに就いていたリーザロッテ女王へ く… 口付けをしようとっ!」
アシルが笑んで言う
「何で女ってぇのは 眠っている時の姿が あんなにも美しいんだかなぁ?どんなやかましい女も 眠ってる時は良いってもんだ」
ロキが呆れ汗を掻いて言う
「…まさか アシル補佐官 卿には …そういった趣味が?」
アシルがプンッと怒って言う
「るせぇっ!人の趣味に文句付けんじゃねぇ!別に お前に迷惑が掛かる訳じゃ ねぇだろっ!?」
ロキが慌てて叫ぶ
「一歩間違えば 一国単位の大迷惑を蒙る所だったんだぞっ!せめて 他国の女王へは自粛をしろっ!」
アシルが笑んで言う
「いやぁ… あの女王の姿ってのがまた 更にそそ…」
ロキが叫ぶ
「人として スプローニの補佐官として 自粛しろって言ってんだぁああっ!!」

通路

ロキが通路を歩いて溜息を吐いて言う
「はぁ… …とは言え アシル補佐官が リーザロッテ女王へ 好意を抱いている訳では なかったと 言うのは一安心と言った所か…」
ベルグルが一緒に歩いていて疑問してロキを覗き込んで言う
「え?何でッスか!?何でアシル王子がリーザロッテ女王様の事 好きじゃなかったッス て言うのが 良い事なんッスか!?ロキ隊長?」
ロキがツンと言う
「…当然だ 既婚の しかも友好国の女王へ対し 元王子であるこのスプローニの補佐官が 好意を抱き続けていたともなれば またいつ同様の事件を起こすとも限らん …まぁ今後は 各国の者がガルバディアの国王の下 眠りに着かされる事など無いだろうからな 就寝中の女王の姿を目にする事などは無いだろう」
ベルグルが理解出来ない様子で目を瞬かせて言う
「はあ…?」
ロキが考えて言う
「…とは言え リーザロッテ女王は 用を済ませたら早々に帰国させなければならんな …このスプローニに泊まらせなどしたら それこそあのアシル王子の餌食に…っ」
ロキの脳裏に邪悪なアシルの像が浮かぶ ロキが青ざめて身震いする ベルグルが疑問して言う
「ロキ隊長…?」
ロキが気を取り直し微笑して言う
「…よし、なんにしろ これで安堵の条件は整った 奴へ今日の挨拶を済ませたら 早々に昼食へ」
ベルグルがロキを呼ぶ
「ロキ隊長」
ロキが病室のドアノブに手を掛けて言う
「…こちらがさっさと昼食を済ませていれば 例え あちらの来国がその時間に当たろうとも 昼食へ同席する必要も無い そうとなれば適当にあしらえるだろう」
ベルグルがロキを呼ぶ
「ロキ隊長!」
ロキが軽く息を吐きながら目を閉じて言う
「…はぁ 出来る事なら 今すぐにもそちらを済ませてしまいたいが 今日は朝に挨拶をする事が出来なかったからな これ以上は遅らせられん 奴は時間にはうるさい男だ」
ベルグルが困り怒ってロキを呼ぶ
「う~… ロキ隊長っ!」
ロキが不満そうにベルグルへ向いて言う
「…なんだ?さっきから わんわんとうるさい」
ベルグルが困り怒って言う
「今は人の姿ッスから ワンワンは言ってないッスっ!って そうじゃなくってッスね!」
ロキが病室のドアを開きながら言う
「…だったら何だ?言いたい事があるなら はっきり言えといつも」
床を突く音と共に 甲高い叫び声が響く
「貴方はそれでもっ!このレイトの父親でしてっ!?」
ロキが驚き呆気に取られて立ち尽くす ベルグルが困って言う
「リーザロッテ女王様なら とっくにスプローニに到着してるッスよ!?ロキ隊長!」
ロキがベルグルへ向き困り怒って言う
「そう言う事は もっと早くに言えっ!」
ロキが気を取り直しリーザロッテへ向いて言う
「…リーザロッテ女王 貴女たちの来国を歓迎する …が ここは 俺の相棒が休む病室だ 声を荒げるのは控えて貰いたい」
ロキが視線を強める レイトが表情を困らせつつロキへ向いて言う
「ロキ国王… 申し訳ありません しかしながら 我が女王は」
リーザロッテがヴェルアロンスライツァーを見据えたまま言う
「何とかおっしゃったら如何でしてっ!?貴方の息子が今ここに!貴方を見舞いにいらしたのでしてよっ!?お礼の一つ位 言ってみては如何でしてっ!?」
ロキが近くへ着て言う
「…ヴェルはアンネローゼ女王を守れなかった事 そして、目の前でその命が失われた事で 正常な意識を保てる状況にないんだ 奴を知る貴女へ ここまで言えば その心情を察する事ぐらい 貴女にも出来るだろう?」
リーザロッテがムッとして言う
「お母様の件で悲しんでいるのは 貴方だけではなくってよ!?お母様の娘である私も!ローゼントの皆も!ツヴァイザーの皆だって!皆悲しんでいるのっ!それでも皆 その苦しみを乗り越えて前へ進もうとしていらっしゃるのよ!貴方は ローゼントの王配でしてよっ!?国を奪われ行き場を失った民たちを置いて 相棒の好意の内に いつまでも暢気に眠っていて宜しいと思ってっ!?」
ロキが間を置いて言う
「…それ位で良いだろう …そろそろ外へ」
リーザロッテが怒りを飲み込んで ヴェルアロンスライツァーへ掴み掛って言う
「お母様を守りきれなかっただけでなく!貴方は ローゼントの民まで 見殺しになさるおつもりっ!?」
ロキが叫ぶ
「やめろっ!!」
リーザロッテとレイトが驚きロキを見る ロキが平静を取り戻して言う
「…アンネローゼ女王は 自らの意志でヴェルの前に立ち 命を落とした… ヴェルは… 己に出来る事を十分に果たした その結果だ …俺にも非はあった 俺がもっと早くに… スプローニ王としての振る舞いなど考えず ただ 1人の銃使いとして ヴェルと共に向かっていれば 別の結果も …あったのかもしれん」
リーザロッテがロキを見て言う
「…彼がお母様を助けに向かったとき 貴方は躊躇したとおっしゃるのでして?」
ロキが視線を逸らして間を置いて言う
「…ああ そうだ」
リーザロッテが目を見開くと 次の瞬間 ロキの頬を平手打ちする パシンッという鋭い音 ベルグルが目を丸くしている レイトが呆気に取られた後 遅いと分かっていながらも慌ててリーザロッテを抑えて言う
「い、いけませんっ 姫様っ!」
リーザロッテがハッとして言う
「…っ …ごめんなさい」
ロキが一度目を閉じてから言う
「…いや …俺が あの時すぐに 奴と共に向かっていれば …こんな事にも ならなかったのかもな」
ロキがヴェルアロンスライツァーを見る 皆がヴェルアロンスライツァーを見る ヴェルアロンスライツァーは変わらぬまま放心している ロキが視線を悲しませる リーザロッテが気付き ロキを叩いた手を握り言う
「…貴方は スプローニの王でしてよ ローゼントの王配であるヴェルアロンスライツァーと 同じ考えで動くのは 許されない事だわ …それは 私でも分かる事でしてよ …だから ごめんなさい…」
リーザロッテがロキを叩いた手を擦る ロキが苦笑して言う
「…最近は頭を殴られる事に慣れて来たんだが 平手打ちされたのは久しぶりだ あれだけ強く叩けば貴女の手もだいぶ痛かっただろう?大丈夫か?」
リーザロッテが苦笑して言う 
「貴方の方は大丈夫だったみたいでしてね?ふふっ 貴方を平手打ちしていたと言うのは どんな女性でして?随分鍛えられていらっしゃるみたいだけど」
ロキが苦笑して言う
「…母親だ 今も シュレイザーの防衛に当たっている スプローニ唯一の女兵士だ」
リーザロッテが微笑して言う
「そう… きっとそうとうに気丈な方なのでしょうね?唯一の女性兵士だなんて」
ロキが苦笑して言う
「…貴女の尊母 アンネローゼ女王も 気丈であった …最期の時まで 強く凛々しく… そして愛らしい女性だった」
リーザロッテが呆気に取られて言う
「愛らしい…?お母様が?」
ロキが微笑して言う
「ああ… 彼女には 深夜に通信を送られたりもした 今更だが思い出せば ローゼントのバラは 唯 強く美しいだけではなく …やはり1人の女性だったな?」
リーザロッテが驚いて言う
「お、お母様が 深夜に貴方へ通信を!?」
ロキが苦笑して言う
「…望みとあらば昼食を共にしながらにでも 語るか?」
リーザロッテが一瞬驚いた後笑顔で言う
「ええ!友好国スプローニの王から 昼食の席に招かれるだなんて素敵な事ね!朝食も取らずに来てしまったものだから 喜んで同席させて頂きますわっ!ロキ国王!」
ロキが衝撃を受け言う
「うっ… …とは言え あまり豪華なモノは期待してくれるな 今は …少々物資不足な状況だ」
リーザロッテが笑顔で言う
「ご安心なさって!ロキ国王!こちらもスプローニの状況は十分察して居りましてよ!昼食は勿論 ベネテクトへも声を掛け 食料や物資を積んで参りましたの!」
ロキが驚いて言う
「…そう …なのか?」
リーザロッテが笑んで言う
「ええ!ローゼントの秀才アンネローゼ女王の娘を 余り甘く見て下さらないで!私だって ただ叫んでいるだけではありませんでしてよー!?オーホッホッホッホッホッ!」
リーザロッテが高笑いする ロキが耳を塞ぐ ベルグルが喜んで言う
「流石リーザロッテ女王様ッス!元気なだけじゃなくて 凄いッスー!」
ロキが困り苦笑で言う
「…あ、ああ… 凄いのは良いが やはりもう少し…」
リーザロッテが高笑いして言う
「オーホッホッホッホッ!お褒めの言葉はよろしくてよ!さぁ、そろそろ私たちが連れて来た料理人が調理を済ませているでしょうから ロキ国王 昼食の場所を提供していただけて?」
ロキが頷いて言う
「…ああ、それなら 十分な場所を提供出来る」
ロキが一度ヴェルアロンスライツァーを見てから言う
「…では リーザロッテ女王 我々は一足先に向かおう …レイト王配」
リーザロッテがロキの言葉にレイトを見る レイトがヴェルアロンスライツァーへ向いていた状態からハッとしてロキへ向き直って言う
「は、はいっ!」
ロキが微笑して言う
「…以前 奴が言っていた …今更 卿へ名乗り出る術が 無いと」
レイトが目を丸くする リーザロッテが驚きレイトを見る ロキが微笑して言う
「…長剣と槍 …違いは有れど それでも彼は十分 立派な騎士になった 私に教えられる事は ありそうに無い 少し… 残念だったかもな …と」
レイトが息を飲む ロキが言う
「…後は一度でも 奴と武器を交える事が出来ていたら 良かったな?」
レイトが溢れそうになる涙を見せず頭を下げて言う
「有難うございます!」
ロキが背を向けつつ言う
「…まぁ 文句の一つ位は言っておいても良いだろう …なんなら リーザロッテ女王の様に一発位なら 俺も大目に見てやる …だがそれ以上は 相棒として奴を庇うつもりだ」
リーザロッテが軽く笑ってからロキへ続きつつ レイトへ言う
「それじゃ 先に行ってましてよ!レイト!相棒のロキが許可を下さったのだから ばしっと言って差し上げなさいっ!オーホッホッホッホッホッ!」
リーザロッテが高笑いする ロキがうるさそうにする 2人が病室を出る 2人に続こうとしたベルグルが笑顔で言う
「そおッスよ!言いたい事は ちゃーんと口に出して言うのが一番ッス!ヴェルアロンスライツァー副隊長は いつもロキ隊長に言ってたッス!私にだけは 腹の内を言ってくれって!つまり、ロキ隊長はいっつも言いたい事を お腹の中に溜めとくッスね!だから いっつも いろんな人に誤解されてッスねー!」
ロキが怒って叫ぶ
「うるさいっ 馬鹿犬っ!」
ロキがベルグルを病室から摘み出す レイトが微笑して顔を挙げ ヴェルアロンスライツァーへ向き直る ヴェルアロンスライツァーは変わらない レイトが微笑して言う
「…腹の内を か… それじゃ 一言だけ ずっと… 私は 貴方を見つめながら 貴方を呼びたかったのです…」
レイトがヴェルアロンスライツァーを見つめて言う
「父上 と…」
ヴェルアロンスライツァーは変わらない レイトが微笑して言う
「出来れば 返事をして貰えると 嬉しかったのですが… それは では… またの機会にでも」
レイトが苦笑する ヴェルアロンスライツァーは変わらない レイトが頷いて言う
「…立派な騎士になった …か …では 余り長い事 姫様のお傍を離れる訳には参りません すぐに向かいます!」
レイトが外へ向かおうとして はたと立ち止まり 僅かにヴェルアロンスライツァーへ向いて言う
「その… 母は お陰さまで良い人に出会えたと 言っていました 父上とは似ても似つかない ただ、お金持ちの方で… 正直私には 理解出来ません 義理の弟も出来たみたいなのですが… 会った事も 会うつもりも ありません …向こうもそうみたいで 私とは 一切連絡を …いえ、私は!」
レイトがヴェルアロンスライツァーへ向き直り敬礼して言う
「ローゼントの騎士 ヴェルアロンスライツァーの息子である事を 誇りに思っています この想いに 偽りは 無いっ!」
レイトが強い視線でヴェルアロンスライツァーを見つめた後 一度礼をして立ち去る 

昼食の場

レイトが入室すると同時に リーザロッテの高笑いと声が聞こえる
「オーホッホッホッホッホッ!流石お母様でしてね!私も見習いましてよーっ!」
ロキが怒って言う
「深夜に 痴話喧嘩で 他国の王に通信を送るなどっ 見習うんじゃないっ!」
レイトが軽く笑い 気を取り直して言う
「遅くなりました」
リーザロッテとロキが向く レイトが来ると使いの者が椅子を引く レイトがそれに座っているとリーザロッテが言う
「あら、レイト もっとゆっくりなさって居ても 宜しかったのでしてよ?」
レイトが微笑する レイトのグラスに酒が注がれる中 レイトが言う
「はい お心遣いを有難うございます しかしながら 父には 騎士として立派にあれと ロキ国王を通して 伝えられましたので」
ロキが苦笑して言う
「…まぁ 奴のアンネローゼ様一筋にも 俺はだいぶ迷惑を被ったが」
リーザロッテがくすくす笑う レイトが呆気にとられて言う
「父が騎士としてあるために… ロキ国王へご迷惑を?」
ロキが頭を抱えながら言う
「ああっ!…奴との事を思い出せば どれだけその事で苦労を掛けられた事か!」
レイトが笑んで言う
「では 是非そちらのお話も伺いつつ 昼食を御一緒させて頂きます」
ロキが微笑してグラスを上げて言う
「…ローゼントの女王アンネローゼと 我が相棒ヴェルアロンスライツァーに」
リーザロッテがグラスを上げて言う
「ローゼントの聡明なるバラ お母様と その騎士ヴェルアロンスライツァーに」
レイトが微笑した後グラスを上げ言う
「姫様のご尊母アンネローゼ様と 我が父ヴェルアロンスライツァーに」
3人がグラスをあおる

翌日

王の部屋

外では定時の鐘が鳴り響いている ロキがうっすら目を開き ハッとして飛び起きて叫ぶ
「しまった!今は何時だっ!?」
ロキの寝かされていたベッドの横で ベルグルが上体を起こして 笑顔で叫ぶ
「はいッス!いつも通りッスー!定時の鐘が鳴っている 今は午前9時ッスよー!ロキ隊長ー!」
ロキがベルグルへ向いて叫ぶ
「馬鹿犬!?今日も卿が俺をベッドへ運んだのか!?それには礼を言うが!朝は起こせといつも言っているだろう!?」
ベルグルが笑顔で言う
「はいッスー!いつも通り俺は 朝の7時と8時にロキ隊長を起こそうとしたッスー!けど ロキ隊長は いつも通り起き無かったッスー!でもって俺はいつも通り怒られて殴られて また怒られてるッスけど これもいつも通りッスー!でも ロキ隊長?ロキ隊長をベッドに運んだのは 今回は俺じゃないッスよー!ロキ隊長ー!」
ロキが着替えをしようとしていた手を止めて言う
「…卿では無かったのか?では…」
ロキが考えてから首を傾げて言う
「…いや、やはり俺は 自分でベッドに戻った覚えは…」
ベルグルが笑顔で言う
「はいッスー!ロキ隊長はー やーっぱりいつも通り椅子で寝ちゃってたッスー!けど 俺が来たときには 丁度 アシル王子が目を覚ましてッスねー!」
ロキが驚いて言う
「ま、まさかっ あのスプローニ史上最低最悪と言われた アシル王子が俺をっ!?」
ベルグルが笑顔で言う
「アシル王子は ロキ隊長を起こしてベッドへ向かわせようとしたッスー!けどロキ隊長は やーっぱりいつも通り 怒って殴って言う事聞かなくってッスねー!」
ロキが衝撃を受け 頭を擦りながら言う
「…っ …そういえば 薄っすらと あの拳骨に殴られた記憶が…」
ベルグルが苦笑して言う
「俺もー 2人が夜中に本気の喧嘩を 始めちゃうんじゃないかって ハラハラしたッスー!けど そんな時 アシル王子がッスねー!」
ロキが衝撃を受け慌てて言う
「…ま、まさか あのアシル王子が 大人の振る舞いで 俺をたしなめた等と言うのではっ!?」
ベルグルが笑顔で言う
「ちょっと本気でロキ隊長を殴って 背負い投げで ベッドに放り込んだッスー!でもって そのまま怒って出て行っちゃったッスから… あ!そおッスね!ベッドに放り込まれたロキ隊長に毛布を掛けたのは俺ッス!だから ロキ隊長をベッドに運んだのは俺じゃないっすけど ロキ隊長に毛布を掛けたのは俺ッス!これで正解ッスね!ロキ隊長!?」
ロキが呆れて言う
「…そうか では …毛布を掛けてくれた事へ礼を言う」
ベルグルが笑顔で言う
「はいッス!どういたしましてッス!」
ロキが会話を終え室外へ向かおうとする ベルグルがハッとして言う
「あ!それならロキ隊長!?アシル王子にも 今度ベッドへ運んでくれた事へお礼を言うッスよ!?ロキ隊長!?」
ロキが言う
「…ベッドへ 放り投げてくれた事への 礼の間違えだろう?」
ベルグルが疑問して首を傾げて言う
「う~…?うん、そうッスね!ベッドへ放り投げてくれた事のお礼で 間違えないッス!」
ロキが溜息を吐き扉を閉めようとして 止めて言う
「…所で そのアシル王子が城を出たかどうか …までは分かるか?」
ベルグルが気付き笑顔で言う
「勿論分かるッス!アシル王子が アシル王子の部屋を出て歩いて行った音が聞えたッスのは ロキ隊長を最初に起こそうとして殴られる いつもの予定の時間より 2時間位前だったッス!」
ロキが視線を落として言う
「…では 早朝の5時と言う事か 部屋を出たのがその時間と言う事なら それ以前に …フッ 結局 俺は見習う事ばかりか …やはり本物の王には 適わんな」
ベルグルが目を丸くする ロキが扉を閉める

【 デネシア城 玉座の間 】

レリアンが微笑して言う
「…と言う事で 私たちも今は ソルベキアの動向へ目を光らせております よって、物資も出来うる限り 蓄えておきたいと言う考えでありますので 残念ながら 貴方からのご依頼に沿うことは難しい様です」
アシルがあごを引き視線を強めて言う
「ソルベキアの動向に目を光らせ 万が一の事態に備え 蓄えを強化する事は間違いではないが その事態に備え 他国からの様々な支援をも得られるよう 取り計らっておくのも得策と思われるのだが?…我らスプローニと共に 我らが保護をしたローゼントの騎士たちは 今のこの窮地へ手を差し伸べてくれた国へは それ相応の誠意を持つだろう」
レリアンが苦笑して言う
「もちろん 今後とも 今行っております スプローニへの支援は続けさせて頂きます …とは言え 私どもデネシアは それに対する見返りを求めるつもりはありません」
アシルとレリアンが視線をぶつけ合い互いに胸中を探る アシルが思う
(ク… 流石はデネシアのレリアン前女王 包み隠そうとする言葉をはっきりと言い返して その上 念を込めて否定してきやがるとは…っ 噂に聞いていた通り 女と侮って掛かると痛い目に合う 豪腕女王か …それだけじゃない なんと言うか この …拒絶感 そもそも、補佐官とは言え 俺は奴に作らせたスプローニ王の令状の下 女王への謁見を求めたと言うのに)
レリアンが思う
(噂に聞いていた スプローニの王子とは… 少々離れているわね 噂では 王族としてどうしようもなく スプローニ史上最低とまで歌われ… 父王に見放された落ちぶれ王子と言う話だった筈… 一体どう言う事?唯の噂だったと言うには 話が違いすぎるわ …でも この方はっ)
レリアンが軽く咳払いをして言う
「…お話は それだけで宜しかったでしょうか?アシル補佐官?」
アシルが少し焦りレリアンを見上げる レリアンが微笑して言う
「遠路スプローニより 早い時間にお越し頂いた事 ご苦労様でした しかしながら スプローニ補佐官アシル殿… いえ、スプローニ元王子 アシル殿 今後はどうか お1人での来国はお控え頂けると 私も安心できます なにしろ この国は 我が娘 ファニアが納める 女王の国でございますので」
アシルが衝撃を受ける レリアンが悪微笑で言う
「まだ若く未婚の娘を持つ母として 私は 私の相棒の国ツヴァイザーにて 無礼を行ったと言う 貴方の来国には 少々胸を騒がされるのですよ?」
アシルが表情をしかめて思う
(グッ… やはり そのせいかっ レリアン前女王が ファニア女王の代わりにと聞いた時から まさかとは思っていたが…っ)
レリアンが勝利の微笑を湛えて言う
「スプローニへの支援増強を狙うのでしたら ロキ国王を連れてくるべきでしたね?アシル元王子?」
アシルが目を閉じ顔を逸らした状態で怒りを抑え 改めて平静を装ってレリアンへ向き直って言う
「わ… 我が王は 現行スプローニの地を離れる事を許されず… それは 元とは言え女王の座にあった レリアン元女王ならば お分かりの事かと?」
レリアンが衝撃を受け僅かに表情をしかめる アシルが悪微笑を隠しつつ言う
「どうやら過去にはデネシアの不信王と呼ばれた ローゼック故デネシア王同等に その娘であるレリアン女王もまた 他国の代表を信じる事が難しい 不信女王…いや、不信元女王であった事は 良く分かった」
レリアンがムッとする アシルが微笑して言う
「ああ… 忘れるところだった 貴女の国デネシア国からの この度の 多大なる!…支援には スプローニの一同共にローゼントの難民たち 全ての者が!感謝している …スプローニの現王 ロキからの!伝言であります 麗しの レリアン元女王 …それでは スプローニからの特使 補佐官アシルは!これにて… 失敬!」
アシルが身を翻して立ち去る レリアンがムッと怒りを溜め込み 玉座の間の扉が閉じられると 怒って叫ぶ
「なんって 失礼なっ!スプローニ史上最低最悪の王子とは まさにこの事でしてね!キーッ!くやしぃい~~っ!」

城門外

城を出たアシルが舌打ちをして言う
「支援の増援どころか減援されたりしてなぁ… チッ… 抑えようとは思ったが 押さえ切れなかった… 俺もまだまだ スプローニ王として… いや、補佐官として未熟…」
アシルが溜息を吐き呆れて言う
「…スプローニ王でもねぇんだ 別に …抑える必要もねぇか?」
アシルが脱力したまま歩き始める ふと気付き顔を向けた先 芝生が生い茂る中 ファニアが安らかな寝息を立てている アシルが衝撃を受け叫ぶ
「ぬあぁああーーっ!あ、あれはぁああ!?」
アシルの目に映るファニアの姿がどんどん美化されて行く いつの間にか芝生は生い茂る花となり 周囲には煌びやかな光が舞い ファニアの肌が潤い 柔らかな唇が誘う アシルが幻想にクラクラしながらファニアに近づき自制の理性に表情をゆがめながら言う
「わ、我がいとしの眠り姫っ!…い、いや いかんっ 駄目だっ!…たった今だって あのデネシアの元女王に その前科で支援の強化を断られっ!…あのへっぽこ国王ロキにも スプローニのために自粛をしろとっ…だ、だがっ」
アシルがファニアを見つめる 心臓が高鳴る アシルが強く目を閉じながら言う
「ぐ…っ お 俺のっ 俺の眠り姫…っ 俺の伴侶となる女は 俺が 口付けで目を覚まさせる 眠り姫であるとっ そう 俺は言われ それを信じてきたからこそ この49年っ俺は未だに…っ」
アシルが目を開き ファニアを見て つばを飲み込んで言う
「…ゴクッ ど どうするっ どうするアシル!?俺はっ も、もう後が無いっ 49だぞっ!?これが本当に最後かもしれんっ この女…っ いやっ!この女性こそっ この眠り姫こそがっ!俺のっ!俺のーっ!」
ファニアの枕になっていたドラゴンが首をかしげ ファニアに顔を近づけたアシルへ炎を吐く アシルが呆気に取られて焦げる ドラゴンが言う
『我らが姫に何をする?』
アシルが呆れに止まった後 ゆっくり声のした上空へ顔を上げ 普段の意識を取り戻して叫ぶ
「黙れ!この間抜けドラゴンがっ!先住民族において もっとも優れた英知を持つとされた ドラゴンの末裔である 貴様らが 何と言うことをする!?俺が 普通の後住民族だったら 危うく消し炭になっていた所だぞっ!」
ドラゴンが驚いて言う
『…消し炭にならない …コイツは 普通の後住民族じゃない?』
ドラゴンが首を傾げてから もう一度アシルへ炎を放つ アシルが驚いて燃やされる 炎が止んで間を置いてから怒って叫ぶ
「すわーっ!だからと言って 燃やすなぁあ!この馬鹿竜!俺は普通じゃないが 普通の後住民族だ!ただ ちょっと 貴様らの力に対して 丈夫なだけだ!熱いもんは熱いっ!」
ファニアがアシルの大声に疑問して目を覚ましながら言う
「ローゼックお爺様…?」
ファニアが声の方を向く ファニアの視線の先 アシルが両手を腰に当て怒ってドラゴンへ向かって言っている
「良いか!?今回は俺であったから助かったんだぞ!?今後は無作為に炎を吐き掛けるんじゃないっ!普通の後住民族だけじゃない!普通の先住民族であろうとも!あの炎を浴びれば無事では居られない筈だ!お前は力を持つ者として 己の力を熟知し 無益な殺傷をするなっ!」
ドラゴンが唸る アシルが言う
「…ふん そうか 己の力が分からなかったのではしょうがない ならば… そうだな 仲間同士で炎を浴びせあったらどうだ?ドラゴンの皮膚であるなら 多少の火傷程度で済むだろう」
ファニアが呆気に取られて言う
「ドラゴンたちと… お話を?…あ、あのっ」
アシルがファニアの声に顔を向けて言う
「うん?なんだ?悪いが俺は今 コイツと大事な話をしている 用があるなら後にしてくれ」
ファニアがアシルの姿に目を丸くして視線を逸らし頬を染めつつ言う
「あ、あのっ しかし…っ ドラゴンたちとのお話も大切ですが 今はその… そちらのお洋服は もしや… と申し上げるまでもなく 私のドラゴンが燃やしてしまったのでしょう?でしたら 私は…っ その、黙っては居られませんので…っ」
アシルがファニアの言動に疑問して自分の体へ視線を向けながら言う
「うん?服?ああ…さっきの炎で 少し焦げでも… ぬあっ!?」
アシルが視線を向けた先 アシルの服は前面が全て燃え落ちてしまっている ファニアが顔を逸らしつつもチラチラと視線を向けて恥ずかしがっている アシルが炭で黒くなった顔を赤くして恥ずかしがって言う
「ふ、服がっ まさか 全て燃え落ちていたとは…っ」
ファニアが恥ずかしがりながら言う
「も、申し訳ありません…っ 何処のどなた様かは存じませんが 私のドラゴンが大変失礼な事をっ す、すぐに 新しい服を用意させますのでっ」

【 ガルバディア城 玉座の間 】

バーネットが目を開き静かに言う
「…残念だが そいつは出来ねぇ」
バーネットの目前頭を下げていたイシュラーンが静かに顔を上げ言う
「…バーネット様 ソルベキアの所業は バーネット様もご存知の通りかと」
バーネットが言う
「ああ… もちろん 全部見たぜ?」
イシュラーンが表情を険しくして言う
「でしたら何故!?…ソルベキアのガライナは 異世界の神の力を手に入れたとの事です バーネット様 その様な力は このガルバディアの力でっ この世界の神の力で相殺する他にありますまいっ!?」
バーネットが言う
「ガライナが その力を 神の力と知らずに 手に入れたって言いやがるんなら そう言う事も考えなけりゃならねぇが… 今回は そぉじゃねぇ」
イシュラーンが言う
「ではっ …バーネット様は …ガルバディアは 異世界の王の侵略を 許すと言うのかっ?!」
バーネットがイシュラーンを見つめる イシュラーンが怒りを押し殺す バーネットが言う
「てめぇは今… 相棒を失った事で 冷静な判断力に欠いてやがる 頭冷やして出直しやがれ」
イシュラーンが踏み出して言う
「バーネット様っ!」
バーネットが静かに言う
「もう、吹雪の中 ガルバディアの城門前で 這い蹲って開門を待ったりなんか しやがるんじゃねぇぞ?」
イシュラーンが言う
「バーネット様っ!?」
バーネットが指を鳴らすと イシュラーンの周囲に移動プログラムが纏わり イシュラーンが慌てて言う
「お待ち下さいっ!どうかソルベキアを!奴らはこの世界にとって!…バーネット様っ!!」
イシュラーンが移動プログラムで消える バーネットが一息吐いて玉座に身を沈ませる 柱の影からヴィクトールが顔を出して言う
「…バーネット?」
バーネットが顔を向けて言う
「おう、もう出て来やがっても良いぜぇ?ヴィクトール」
ヴィクトールがバーネットの傍に来て イシュラーンが消えた場所を見ながら言う
「僕は… 一応 このガルバディアの …バーネットの相棒でしょ?折角イシュラーン殿を迎え入れたんだったら 僕だって… それなりに 声を掛けて上げたかったのに」
バーネットが目を閉じて言う
「ああ、…てめぇがそんな気持ちで居やがると 分かっていたから 下がらせてやったんだぁ…」
ヴィクトールが疑問して言う
「え?それは どう言う事?バーネット?僕がイシュラーン殿を励ますと分かっていたから 下がらせただなんて… ひどいよぉ バーネットはいつからそんなイヂワルになったの?それは…確かに 以前から 僕にあんなことや あんな… それこそ お婿に行けなくなっちゃうような ひどいイヂワルはしていたけど でも 僕 バーネットは 僕以外にはそんな事…っ」
一瞬の暗転 ヴィクトールが鞭に縛られ踏まれて居て苦笑笑顔で言う
「ほら?だから…っ 僕にはこんなだけど 僕以外の他の人をいぢめるなんて事 バーネットは…っ」
バーネットが他方を見て言う
「奴は 隙をみて そんなてめぇを人質に取ってでも 俺にソルベキアを潰させるつもりだった筈だ」
ヴィクトールが驚いてバーネットを見る バーネットが静かに言う
「今の奴は ソルベキアを… いや?ソルベキアに自由を与えている このガルバディアさえ 敵視してやがる 俺へ向けられていた あの殺意が何よりの証拠だ そこに 無防備なてめぇが それこそ哀れんで居やがったりなんざ しやがったら どうなるかくれぇ …分かりやがるだろぉ?」
ヴィクトールが驚いて言う
「あのイシュラーン殿が そんなっ…!?」
ヴィクトールが鞭を解きながら立ち上がる バーネットが言う
「どんなに温厚で 優しいと言われてる奴だってなぁ?自分が本当に大切にしている者を失ったり… 自分の思う様に動けなかったり… そんな状況に置かれちまって どぉしようもなくなっちまうと 平時にはそれこそ馬鹿な事だと分かっている様な事でも 本気でやっちまったりするもんだぁ… 人ってぇのは 弱ぇ生き物だからなぁ?」
ヴィクトールが視線を落として言う
「うん… それは 僕にも心当たりがあるよ 今考えればって… でも、その時は必死で どうにかしてでもやらなくちゃ!って… そんな風に思っちゃうんだよね」
バーネットが苦笑して言う
「ああ… そういうこった …今のあいつが正にそう言う状態だ だが、奴は ああ見えて強ぇ奴だぜ?ローレシアの魔力者としての 力も… 心もな?」
ヴィクトールが微笑して言う
「バーネット…」
ヴィクトールが笑顔で言う
「バーネットは イシュラーン殿を信じているんだね!?」
バーネットが微笑して言う
「…フンッ おうよっ!あったりめぇーだろぉ?俺は この第2プラント ガルバディアの王 慈愛の王 バーネット2世様だぜぇ?」
ヴィクトールが笑顔で笑い言う
「ふふ… 流石僕のご主人様!… …代理の王様だけどね?」
ヴィクトールが笑顔で見つめる バーネットが笑んだまま間を置く 吹雪のガルバディア城 城内から鈍い殴り音が聞える ヴィクトールの声が続く
「いったぁ~っ!バーネット酷いにゃ~ 殴らないでー!」
バーネットの声が続く
「るせぇえ!この馬鹿猫野郎がぁああ!」

【 スプローニ城 ヴェルアロンスライツァーの病室 】

ロキが微笑して言う
「…待たせたな ヴェル この子が お前とアンネローゼ殿との子 ローゼントの新女王だ」
ロキがヴェルアロンスライツァーへ抱いていた赤ん坊を見せる 赤ん坊はすやすや眠っている ロキが苦笑して言う
「…今は眠っているから大人しいが 目を覚ましている時は 保育器の中であっても 元気に手足を動かしている …今日 やっとここへ連れて来る事ができた お前が動けなかった為に 会わせる事が出来なかったんだ …僻むなよ?俺だって 早く卿へ会わせたいと思っていた」
ロキが視線を赤ん坊からヴェルアロンスライツァーへ向ける ヴェルアロンスライツァーは変わらない ロキが一瞬表情を悲しめるが苦笑して言う
「…先ほど保育器から出たばかりであるというのに この子にはもう 大きな任務が課せられている …これから スプローニ王である俺の助力を受け この子は… ローゼントの王位を継承する ヴェル ローゼントの女王が再び君臨するんだ これで、卿からは王配の称号が外されるが 新たなローゼント女王の誕生だ 卿も… また王を守る剣として 立ち上がったらどうだ?ヴェル…?ヴェルアロンスライツァー?」
ヴェルアロンスライツァーは変わらない ロキがそれを見て苦笑して言う
「…やはり 愛しのアンネローゼ様でなければ 駄目か?」
病室の外から声が掛かる
「ロキ陛下 そろそろお時間です」
ロキが一度目を閉じてから苦笑して赤ん坊へ言う
「…時間だそうだ 貴女の準備は良いか?」
ロキの視線の先 赤ん坊はすやすや眠っている ロキがそれに微笑してから ヴェルアロンスライツァーを見て部屋を後にしようとして はたと思い出して言う
「…と、ヴェル この子がローゼントの女王になるに当たり どうしても名が必要となる …今までは卿が付けるのが当然と 過ごしてきたが とうとう限界だ よって ヴェルアロンスライツァー 卿の相棒である俺が 卿が改めてこの子へ名を与えるその日までの 仮の名として考えさせてもらった …この子の名は ローゼントの新たなる女王となる お前とアンネローゼ殿との娘の名は」
ロキが一度ヴェルアロンスライツァーを見てから 赤ん坊を見て言う
「アンネレーシア」
アンネレーシアが一瞬薄っすらと目を開きロキを見上げる ロキがヴェルアロンスライツァーを見て言う
「アンネはローゼントの言葉で バラを示す レーシアは… すまないが スプローニの言葉だ 意味は 『その地に咲く』 …ローゼントの言葉を捜したのだが 上手く見つける事が出来なかった よって この子の名は アンネレーシア・ローゼント このバラは… いつの日か再び 諸卿の国 ローゼントの地に咲き誇るだろう」
ロキがヴェルアロンスライツァーを見つめ一瞬表情を悲しめた後 アンネレーシアを見る アンネレーシアはすやすや眠っている ロキが苦笑して言う
「…父娘揃って 俺へまかせっきりか」
ロキが苦笑して身を翻して言う
「…いつか この貸しは返して貰うぞ ヴェル?それまでは 気が済むまでそこで寝ていろ …諸卿の事は 俺が まとめて守ってやる」
ロキが病室を出て行く ヴェルアロンスライツァーは変わらない

ロキが病室を出ると 正装した大臣たちが道を示す ロキが頷いてから赤ん坊へ言う
「…行くぞ?レーシア」
赤ん坊が薄っすら目を開き 嬉しそうに手足を動かす ロキが苦笑して言う
「…フッ 大した度胸だ 貴女はやはり ローゼントの気高きバラ あのアンネローゼ殿の娘だ」
ロキが歩く 大臣たちが続く 赤ん坊が嬉しそうな声を僅かに出す

スプローニ城 エントランス

場を埋め尽くすローゼントの騎士たち ロキと大臣たちが現れると皆が敬礼する ロキが皆に向き直る 大臣たちがそそくさと準備を整え 用意された場所にロキが赤ん坊を寝かせる 赤ん坊は不思議そうに見つめている ロキがローゼントの騎士たちへ向き言う
「…これより 諸卿 ローゼントの新たなる女王へ ローゼントの同盟国 スプローニの王が王位の移行を代行する ローゼントの新女王 アンネレーシア・ローゼントは ローゼントの全ての騎士たちの了承を持って 王位の移行を受け入れるものとする ローゼントの騎士たちよ この者を諸卿の新たなる王として 諸卿の新たなる先導者として認めるのなら その意思を示せ!」
ローゼントの騎士たちが全員跪いて礼を捧げる ローゼントの騎士たちが跪いた事で その後方にいたスプローニの兵士たちが見えるようになる ロキが頷き言う
「…ローゼントの意志は示された よって このアンネレーシア・ローゼントを ローゼント国の新女王と定める!」
ロキが王冠を掲げ 赤ん坊の横に置く 赤ん坊はすやすや眠っている ロキが苦笑する

スプローニ城 バルコニー

ローゼントの観衆が集まっている所 ロキがバルコニーに現れる その手に先ほどの状態のまま すやすや眠る赤ん坊その横に王冠が置かれている 観衆がそれを見上げ表情を明るめ始める ロキが微笑し言う
「…ローゼントの新たなる女王 アンネレーシア・ローゼントが 今日ここに ローゼントの全ての騎士に認められ 君臨した事を ローゼントの同盟国 スプローニの王が確認した!」
観衆が喝采を上げ 何処からか声が掛かり始め 喝采が高まる
「我らの新女王だ!」「ローゼントの新たなるバラだ!」「ローゼントのバラ!新たなる女王アンネレーシア様 ばんざーい!」
ロキが赤ん坊を見る 赤ん坊が目を覚まし 嬉しそうに手足を動かす ロキが微笑する

ヴェルアロンスライツァーの病室

外の喝采が聞える ヴェルアロンスライツァーは変わらず居る

【 ベネテクト城 玉座の間 】

ベーネットが映像を横目に見て言う
「これで ローゼントは繋がれた …か」
リーザロッテの声が響く
「ベーネット国王!?聞いていらして!?」
ベーネットが表情を困らせる リーザロッテが槍の柄で床を叩いて言う
「まだ お話は終わっていらっしゃらなくてよっ!?ぼやっとしていらっしゃるみたいだけど 私の話を聞いてらしてっ!?」
ヴィクトール14世が困り苦笑で言う
「そうは言われても… リーザロッテ女王?ベネテクトからの支援はもう限界だと ベーネットは先ほどから何度も…」
リーザロッテがムッとして言う
「猫息子は黙ってらしてっ!私はベーネット国王に言ってるのでしてよっ!」
ヴィクトール14世が衝撃を受けて言う
「ねっ!?猫息子っ!?」
ベーネットが言う
「リーザロッテ女王…」
ヴィクトール14世が泣きそうになるのを堪えている ベーネットが苦笑して言う
「あまり無理を言われないで下さい ベネテクトとて 元々それほど資源の多い国ではないのですから …それから 私の猫 ううんっ!いえ、私の相棒にして このベネテクトの国王補佐官である ヴィクトール14世をあまりいぢめないで下さいね?それは 私の今後の楽しみ… いや、何でも」
ベーネットが顔を逸らす ヴィクトール14世が疑問して言う
「え?ベーネット?今何か言った?」
ベーネットが誤魔化して言う
「い、いいえ!?何も言ってませんよ ヴィクトール?」
ヴィクトール14世が疑問した後 笑顔になって言う
「うん、そうだよね?ベーネットはバーネット様たちやシリウス様とは違うのだから 僕をいじめたりなんか しないよね?」
ベーネットが視線を逸らしたまま言う
「ええ… もちろん…」
ヴィクトール14世が笑顔でベーネットを覗き込もうとする ベーネットが更に顔を逸らす リーザロッテが言う
「噂に伺いましたわ!ベーネット国王!」
ベーネットが衝撃を受けて言う
「え!?う、噂にって 何を…っ」
ヴィクトール14世が呆気に取られ 首を傾げて言う
「ベーネット?」
ベーネットがハッとして平静を装う リーザロッテが言う
「これから来月の上旬頃に向けて アバロン運河の上流 ベネテクト領の漁場では 鮭が豊富に取られるのだそうでしてね?ローゼントの民は お肉もお魚も好む方々だけど 生憎スプローニでは余り魚は取られないそうなの そうとなれば これからの季節 ベネテクトで取られるその鮭を沢山送って差し上げれば ローゼントの民もきっと 大いに喜ぶ事でしてよ!」
ベーネットが言う
「確かに… これからベネテクトは鮭漁が主になりますが その鮭は 我々ベネテクトにとっての大きな産業になっているのです 鮭の身は アバロンやエドでも需要があり 鮭の卵であるイクラは 以前からスプローニへ輸出し 魚を好まない彼らにも 唯一貴重がられています よって両者はこのベネテクトに大きな益をもたらすものですので…」
リーザロッテが一瞬驚いた後 身を乗り出して言う
「この非常事態においても それらをスプローニへ高額で提示なさるとおっしゃるの!?なんて薄情なっ!」
ベーネットが押されて言う
「ぐ…っ いや、何も 高額で売りつけると言っている訳では …ただ、それらを 支援物資として全て無償で送ってしまっては 我々とて」
リーザロッテが腕組みをして言う
「でしたら!…いくらでして?」
ベーネットが呆気に取られて言う
「…は?」
リーザロッテが言う
「その鮭のお値段でしてよ!きっと今頃は スプローニに置いて ローゼントの新女王の戴冠を行っている筈でしてよ!私たちツヴァイザーは その新女王誕生へのお祝いとして こちらのベネテクトの物資を 買い取って 送って差し上げるわ!…本来なら そちらのお祝いには 新女王が身に付ける物を送るのが常識だけれど この様な時ですもの そちらは諦めてでも お母様に代わって 幼い身でローゼントの民を一身に受ける事になってしまった彼女と 彼女を支援するスプローニの為 私は!ツヴァイザーは!全力で両国を支援して差し上げましてよ!」
ベーネットが押されて悔しそうに言う
「ぐぅ…」
リーザロッテが背を向けて言う
「まぁ よろしくってよ?お魚のお値段だなんて 国王が知っていらっしゃるものでもないですものね?イクラでもいくらでも宜しいから ツヴァイザーの… 私宛てに請求書を送った上で 可能な限り早く スプローニへ送って頂けて?後は… そうね?私たちツヴァイザーが送る事が出来ない ローゼント新女王への豪華な装飾品でも 考えてくだされば宜しいのではなくって?オーホッホッホッホッホ!」
リーザロッテが立ち去る ヴィクトール14世が呆気に取られた後言う
「わぁ… 凄いなぁリーザロッテ女王 まるで いつものベーネットみたいに 相手を上手く言いくるめていたね?僕、ベーネットやバーネット様方以外に あそこまで言う人は 初めて見…」
ベーネットが怒り怒って叫ぶ
「畜生ぉおお!この俺がっ!論争で負けちまうとはっ!これからガルバディアへ行こうって時に… これじゃ 親父に会わせる面がねぇえ!」
ヴィクトール14世が呆気に取られた後 徐々に表情を悲しませ大泣きして叫ぶ
「うあぁあーーん 怖いよぉお~~ こんなの 僕のベーネットじゃないよぉお~~っ!」
ベーネットが衝撃を受け 慌てて言う
「ぬあぁっ しまったっ 俺とした事が…っ おいっ こらっ!ヴィクトール 泣くんじゃねぇ!」
ヴィクトール14世が泣きながら叫ぶ
「うわぁ~~ん 僕の優しいベーネットは何処にいっちゃったのぉ~~っ!?」
ベーネットが衝撃を受け言う
「だっ!?だからっ 誰がてめぇの ベーネットっ …わ、分かったっ 分かったから 分かりましたからヴィクトール 泣かないで下さいっ …おらっ!泣くんじゃねぇっ」
ベーネットがヴィクトール14世の頭を殴る ヴィクトール14世が転びながら言う
「にゃあっ!?」

【 スプローニ城 玉座の間 】

アシルが紙資料を見て言う
「追加の食糧支援としてベネテクトの鮭が5万か… 中々の数字じゃねぇか!」
大臣Aが微笑んで言う
「はい!先日のスプローニの国内資料 ローゼントの民が好む食料リストの 誤送信としてツヴァイザーへ送った資料が 上手くリーザロッテ女王の目まで届きました様で 早くも翌日にはリーザロッテ女王ご自身が ベネテクトへ向かったと言う情報を確認して御座います 恐らく その時に」
アシルが笑んで言う
「はは…っ まぁ 今回は事情が事情だ 誤送信だってぇ嘘がバレてたとしても アンネローゼ女王の実の娘でもある あの眠り姫一号は動いてくれてただろうな…」
大臣Aが首を傾げて言う
「眠り姫一号?」
アシルが慌てて言う
「ああっ いや、何でもねぇっ こっちの話だ」
大臣Aが不思議そうに言う
「そうですか… ああ、それと アシル王子 王子が先日私へ渡された あのデネシア国のお洋服ですが」
アシルが言う
「ああ」
アシルが資料をめくる 大臣Aが言う
「王子が仰った通り デネシアのファニア女王へ 礼状と共に お送り致しました」
アシルが資料を見ながら言う
「そうか 助かった 手間を掛けたな」
大臣Aが言う
「いえいえ 滅相も御座いません …ただ 何故 アシル王子がデネシア国のお洋服を?それも 中々上質なもので… あれだけの物となりますと スプローニ国内は勿論 ベリオルの大市場でも… そもそも、デネシア国の洋服と言うのは 中々出回る事はありませんし…」
アシルが一度大臣を見てから視線を逸らして言う
「ああ… まぁ うん、先日デネシアに行ったときに ちょっとな?…うん?」
再び資料へ目を戻したアシルが気付いて言う
「デネシアからの資材支援が…」
大臣Aが微笑んで言う
「はい、流石はアシル王子 デネシアからも見事な支援の増強を!これで ベネテクトからの食料と デネシアからの資材は 予定数を遥かに超え しばらくの間 それらの心配は無用と成りました はい!」
大臣Aが満足そうに頷く アシルが呆気に取られた様子から微笑して言う
「…ファニア女王か レリアン元女王の目が光る中 難しかっただろうに… なるほど 噂通り若くとも優秀な女王様だ よし、いつか この礼はしっかりしなけりゃな!」
アシルが笑む 大臣Aが疑問した後 別の理解をして満足そうに頷いて言う
「はい、各国へのお礼は いつの日かローゼントの民たちと共に このスプローニが行う事となりましょう …あ、それと 忘れる所でした アシル王子」
アシルが大臣Aへ向く 大臣Aが新たな資料を出して言う
「先ほど、ツヴァイザーから ローゼントの新女王へ 戴冠祝いの品が贈られてまいりました ローゼント仕立ての美しいお洋服に御座います」
アシルが言う
「ん?そうか… ああ、それは あいつに伝えてやってくれ 俺はノータッチだ」
大臣Aが言う
「おや、失礼を こちらではなく アシル王子へお伝えするのは こちらでした ツヴァイザーからはそれらと共に 新たに支援物資として 小麦と、支援金が送られてまいりました」
アシルが一瞬驚いて言う
「支援金?…ツヴァイザーに豊富な小麦はともかくとして 金までか…」
大臣Aが言う
「本来なら 戴冠祝いに掛けようと言う分を 今回は支援金とする とのお言葉が添えられております」
アシルが微笑して言う
「そうか、分かった いつもの礼状に その心遣いに感謝する と付け加えて送ってくれ 頼む」
大臣Aが礼をして言う
「はい、畏まりました 直ちに」
アシルが微笑して頷き 資料を確認しながら言う
「ふん… これで 各国からの支援は一通り絞れるだけ搾り取れた… デネシアやツヴァイザーからの 予想外の追加支援 こいつも入って スプローニの財政は 何とかなりそう… うん?」
アシルが資料を次々に見て確認する 大臣Aが部下に指示を出し終えた後 アシルへ向いて言う
「アシル王子 各国からの支援は 現状で最上級と言えます 今後は 別の方法を」
アシルが目を細めて言う
「…ちょっと待ってくれ …こいつは…」
大臣Aが疑問して言う
「はい?何か?」

【 ガルバディア城 玉座の間 】

アバロン直通散歩道が開かれる 玉座にだらけて座りながらプログラムを行っているバーネットが疑問して顔を向けながら言う
「あぁ?どぉしやがった?ずいぶん早ぇ… なんだ 3世じゃねぇか」
ベーネットがやって来て苦笑して言う
「私を誰とお間違えで?」
バーネットがだるそうに周囲にプログラムを現しながら そのうちの一つを何となく見つつ言う
「今、俺の猫が アバロンに飯を食いに行ってやがるんだぁ その道が開きやがれば…」
ベーネットが呆気に取られてから苦笑して言う
「…ふふっ 随分と暢気ですね 父上 その様な無防備な状態で あの散歩道から 万が一異世界の王でも現れやがったら どうするおつもりで?防壁も張らずに セントラルコンピュータから情報を引き出していては 攻撃プログラムと同時に送られるハッキングは 防ぎきれませんよ?」
バーネットが一瞬ベーネットを見てからフンと顔を逸らして言う
「…はっ!それこそ あの道が奴らに奪われる頃には アバロンが大騒動になってやがるだろぉ?ガルバディアの相棒 アバロンの大剣使いどもが いつも通りだらけてやがる間は 心配ねぇよ」
ベーネットが苦笑して言う
「やれやれ だらけてやがるのは どちらの方ですかね?」
バーネットがムッとして言う
「んだと?大体てめぇはっ!ツヴァイザーの女王に 上手く言いくるめられやがって …ベネテクトの財を得損なった奴が 良く言いやがるぜ!」
ベーネットが衝撃を受け言う
「うっ… み、見てやがったんですね?」
バーネットが呆れて言う
「あったりめぇだぁ!俺はガルバディアの代理国王兼!ベネテクトの第2国王様だからなぁ?まだまだ てめぇに ベネテクトの民は任せられねぇよ!」
ベーネットが不満そうな表情を見せてから 気を切り替えて言う
「う~…その件に付きましては こちらも最後の足掻きとして ツヴァイザーへは請求書を送らず 全て私の財で …と、それはそうと 父上 アバロンの王ヘクターに使われた 移動プログラムについてなのですが 私の方でもやはり解析は難しく 最終手段として考えられる方法を試したいと」
バーネットがベーネットへ向いて言う
「…あん?最終手段だぁ」

【 スプローニ城 アシルの部屋 】

アシルがメガネを掛け 酒を片手に分厚い本を読んでいる 遠くから激しい足音が響きアシルが疑問して顔を上げる と間もなく 部屋の扉が乱暴に開けられてロキが叫ぶ
「アシル補佐官っ!どう言う事だっ!!」
アシルが不満そうにメガネを外しながら言う
「…どうってぇ?何の話だ?」
ロキがずかずか入り込んで来て言う
「とぼける気か!?…俺の手配した医者を 何故勝手に止めたのかと 聞いているんだ!」
アシルが溜息をついて言う
「無駄な事に 金を使っているから 止めてやったんだ 感謝される所だろう?」
ロキがアシルの胸倉を掴んで言う
「無駄な事だとっ!優秀な医者を付ける事の どこがっ!?」
アシルがムッとして言う
「優秀な医者なら良い だが… そいつらはもう とっくにさじを投げちまったじゃねぇか?」
ロキがあっけにとられる アシルが言う
「今、お前に集ってやがる連中は お前の… いや、このスプローニの金目当ての 藪医者ども… ともすれば 本当に医者なのかさえ怪しいって連中じゃねぇか?そんな連中に スプローニの金をくれてやる余裕は ねぇんだよ!」
アシルがロキの手を振り払う ロキが悔しそうに言う
「…例え 医師の資格が怪しかろうが ヴェルの意識を取り戻せる その方法があるのならっ」
アシルが言う
「ねぇよ」
ロキがアシルへ顔を上げる アシルが冷ややかな目でロキを見下ろして言う
「…んな事は 俺に言われなくとも とっくに気付いてるんだろう?これ以上… 馬鹿なまねは するな」
ロキが驚き 悔しそうに視線を落とす アシルが静かに見つめる

【 アバロン城 食堂 】

ヴィクトールが嬉しそうに食事を取りながら笑顔で言う
「あ~ん うんうん… あー!美味しい!やっぱりアバロンの料理は世界一だ!」
ヴィクトールの前にあるテーブルから ホログラムのレクターが笑顔で浮き上がってきながら言う
『そんな世界一の料理がある 世界一のアバロンの王様に なりたくはねーか?ヴィクトール13世?』
ヴィクトールが驚いて言う
「わぁ!レクター!?…もう 脅かさないでくれよ 相変わらず君と言う人は」
ヴィクトールが困り怒った表情を見せる レクターが微笑する ヴィクトールが苦笑して言う
「それに、よりにもよって この僕にアバロンの王様だって?」
レクターが微笑して言う
『ああ!夢の世界で 夢のように ではなく この現実世界で 現実に…!』
ヴィクトールがレクターの言葉を制して言う
「悪い冗談はよしてくれよ レクター 大体 このアバロンの王様はヘクターだし 君は」
レクターが苦笑笑顔で言う
『ああ!そうだった!私は代理国王だった …そんな気がする!だから お前もやるなら ヘクターが戻るまでの 代理国王なんだが それでも』
ヴィクトールが笑顔で言う
「そうであっても 僕はアバロンの王様をやるつもりはないよ レクター」
レクターが苦笑して言う
『…そうなのか?』
ヴィクトールが笑顔で言う
「もちろん!だって僕は ガルバディアの飼い猫 バーネットの猫なんだから!えへへっ」
ヴィクトールが照れる レクターが微笑して言う
『ああ!それなら心配ねぇ!お前はバーネットの猫のままでも アバロンの代理国王様を出来る!それは あの夢の世界でも確認済みだ!だから ヴィクトール』
ヴィクトールがまじめな表情で微笑して言う
「レクター …どうしたんだい?アバロンの代理国王は ヘクターの兄である 君であってしかるべきだ …それに 君は十分 その役目を果たしているじゃない?ローゼック殿だって 君の代理国王としての仕事振りは とても高く評価していた その証拠に 現在は国政も国益も 歴代のアバロンにおいてトップクラスだ 胸を張って良いと思うけど?」
レクターが困り苦笑で言う
『ああ… それは確かにそうなんだが それだけじゃ… いや、そんなんじゃ駄目なんだ そんな物はアバロンが本当に必要としている事じゃねー アバロンに必要な国力 それは アバロンの皆の 活力そのものなんだ …だから私では それを上げてやる事は出来ない …そんな気がする』
ヴィクトールが呆気に取られた後否定して言う
「そんな事はないよ レクター 君だって」
レクターが苦笑笑顔で言う
『私は アバロンの力を奪われた ガルバディアの実験体だ …そんな私では やはり アバロンの王様なんて 代理であっても勤まらねー …そこでヴィクトール!アバロンの力は薄いとは言え 一応私よりはある お前なら!』
ヴィクトールが衝撃を受け怒って言う
「一言多いよ!レクターっ!」
ヴィクトールが涙目になる レクターが笑顔で照れながら言う
『ああ!すまねー!アバロンの力は薄い上 泣き虫でも有るお前なら!の間違えだった!』
ヴィクトールが怒って言う
「更に一言足してどうするのっ!」
レクターがまじめな表情で微笑して言う
『…お前になら 任せられる …アバロンにもしもの事が起きた時 助けに戻ってくれるのが ヴィクトールの名を継ぐ お前の一族だろ?現に たった数年前までは 過去の清算の元 王位を離れていた我々が 戻るまでの長きを勤めていてくれた ヴィクトール12世から直接王位を譲られなかったとは言え お前がアバロンの王になるのなら アバロンの皆は誰も反対したりはしねーと思う だからヴィクトール 一度真剣に』
ヴィクトールが微笑して言う
「僕は真剣に、本気で言っているんだ レクター ヘクターが戻るまでの 今のアバロンを支えるのは 君であって間違いない それに… 君なら!僕以上に アバロンを守り 高める事が出来るってね!」
レクターが表情を困らせて言う
『…ヴィクトール やっぱりお前は アバロンの力が薄れちまってる …いや、バーネットの傍で いつもにゃーにゃーしてるから 猫並みの知性に落ちまったんじゃねーか?』
ヴィクトールが衝撃を受け慌てて言う
「なっ 何で君がそれを 知ってるのかにゃっ!?」
レクターが苦笑して言う
『このアバロンの活力の下がりっぷりは…誰の目に見たって分かる筈だ このままじゃ 本当にアバロンは力を失う …別大陸の王たちが攻めて来やがるかもしれねーって この時に…』
レクターが視線を落とす ヴィクトールがそれを見てから間を置いて言う
「…レクター」
束の間 2人が沈黙する ヴィクトールが苦笑して言う
「…そうだね?確かに ”今の君”では 駄目なのかもしれないね?」
レクターが疑問して言う
『うん?”今の私”では?』
ヴィクトールが言う
「うん やっぱり君は レクターじゃないと!」
レクターが疑問して言う
『私が… 私じゃないと?』
ヴィクトールが微笑して言う
「違うよ 私じゃない ”俺”でしょ?レクター」
レクターが呆気に取られる ヴィクトールが言う
「昔の君は 確かにアバロンの力のないレクターで変わりなかった でも、君は君であり 偽者の 間抜け大剣使いレクターでは無かった」
レクターが驚いてヴィクトールを見る ヴィクトールが微笑して言う
「もう 良いんじゃないかな レクター?本当の君は 確かにアバロンの民にしては珍しく 少し近寄りがたくて 怖いところも有ったけど そんな君を認め 愛してくれた人まで居るじゃない?その人と一緒になるために 多くの人に親しまれる人格を作って 築いていくのは 悪い事ではなかったかもしれない けど やっぱり 偽者の君に 本当に惹かれる人は 居ないんだよ そして、そんな君自身に 君は自信を失っている」
レクターが呆気に取られている ヴィクトールがお茶目に気付き 照れながら言う
「…うん?あ!自身に自信 だって!あははははっ!」
レクターが衝撃を受け表情を困らせる ヴィクトールが笑いを収めて言う
「ね?レクター アバロンの… この世界の本当の危機が起ころうとしてるんだ そんな時こそ 君が持っている 本当の力を発揮させるべきなんじゃないかな?…代理とは言え アバロンの王として ね?」
レクターが呆気に取られて言う
『私の… 本当の力を…?』
レクターのホログラムが消えると その後ろに本体のレクターが居てヴィクトールを見る ヴィクトールがレクターを見て微笑し 席を立ってトレーを持つ レクターが言う
「食べねーのか?」
ヴィクトールが笑顔で言う
「うん!アバロンの料理は今日も美味しいけど 僕… てへっ なんだか急に バーネットに会いたくなっちゃった!だから 僕は 僕の居るべきガルバディアへ!帰るよ!」
ヴィクトールがトレーを片付けに向かう レクターが呼び止めるように手を向けて言う
「あっ ヴィクトール…」
ヴィクトールが片付け場で食堂の人と話している
「おばちゃんっ ごめんっ!僕急いで帰らないとだから!今日もとっても美味しかったよ!」
おばちゃんが言う
「あら 忙しいんだねぇ でも食事はちゃんと食べないと ほら、これ持っていきな?」
ヴィクトールがおばちゃんからおにぎりを受け取りながら言う
「ええ!?良いのぉ!?」
おばちゃんが笑顔で言う
「ああ!たまにはバーネット様にも 食堂に来るように言ってね?おばちゃんたち ご馳走用意して待ってるから!」
ヴィクトールが笑顔で言う
「うん!伝えるよ!有難う!おばちゃん!」
おばちゃんが笑顔で頷く ヴィクトールがおにぎりを見てから微笑み走り去る レクターがその後姿を見送った後苦笑して言う
「想いのままに 自分らしく…か アバロンの大剣使いとして 有るべき姿 だな ヘクター… お前も… 同じだ だから 勝手にどっかに行っちまったお前を アバロンの皆は誰一人悪くは言わねー… その点私は…」
レクターの脳裏に城下の様子をモニターで見るレクターの姿が思い出される モニターにはアバロンの民が不満そうに顔を左右に振る姿が映されている 記憶の中のレクターが視線を落とす レクターが意を決して目を開き正面を見て一瞬沈黙する
「…」
レクターが通信機を取り出して通信を繋ぐ 通信モニターにラザイヤが映って言う
『あら?レクター どうしたの?いつもは執務中 なるべく私への通信はしない様にするって…』
レクターが言う
「ラザイヤ… お前に また迷惑を掛けちまう… それでも 構わねーか?」
ラザイヤが呆気に取られる レクターが言う
「結婚する前みてーに… ”あのレクターの女だ”って …後ろ指さされっちまうかもしれねー お前だけじゃねー… 今度は ニーナまで…」
ラザイヤが呆気に取られた状態から微笑して言う
『構わないわ レクター 当然でしょ?私は そんな貴方を愛した女なのよ?』
レクターがラザイヤを見る ラザイヤが言う
『お父様に認めてもらうため 貴方は十分にやってくれたわ お父様は ローゼントへ向かう前に 私に言ってくれたの ”お前は良い男と結婚した”って あいつなら何があってもお前を守り抜いてくれるだろう ってね?レクター もう十分よ 貴方は 本当の貴方に戻って?私の愛した 悪魔の様な貴方に』
ラザイヤが笑む レクターが目を閉じて言う
「そうか… お前がそう言ってくれるなら 俺を止める奴は もう居ねー… ラザイヤ!」
レクターが悪笑んで言う
「今すぐ城へ来い 俺の下へ」
ラザイヤが言う
『分かったわ レクター!』
レクターが偉そうに立ち去る

玉座の間

入り口の門兵が一瞬疑問して 驚き慌てて敬礼する その横をレクターが過ぎ入り 門兵2人が驚きに顔を見合わせた後 慌てて号令する
「レ、レクター陛下のお戻りですっ!」
玉座の間に居た大臣たちが気軽に顔を向けようとして驚く その大臣たちを尻目に レクターが玉座へ行儀悪くどさっと座り言う
「ソルベキアとローゼントの現状を確認しろ 後は、ローレシアだ ローレシアの通信記録を洗い出せ」
大臣たちが顔を見合わせ大臣Aが疑問して言う
「ローレシアの…っ でありますか?ローレシアの通信記録を確認したところで それがアバロンに何の関わりが?」
レクターが大臣Aへ向き視線を強めて言う
「うるせぇ!国王代理の俺が言ってんだろ!」
大臣たちが驚き大臣Aが慌てて言う
「はっ!はいっ 直ちにっ!」
大臣Aが走り去ると 大臣BとCが顔を見合わせる レクターがムッとして 大臣BとCを交互に指差しながら言う
「てめーはソルベキアの現状!てめーはローゼントの現状を確認しやがれ!いちいち指示されなきゃ動けねーのかっ!?」
大臣BとCが衝撃を受け慌てて言う
「「はっ!ははー!た、直ちに!」」
大臣BとCが逃げるように走り去る 門兵が言う
「ラザイヤ代理王妃様のご来場です!」
ラザイヤが入室してくる レクターがラザイヤを見て言う
「遅ぇーぞ!ラザイヤ!」
ラザイヤが微笑して言う
「ごめんなさい レクター 久しぶりに貴方と一緒に人前に出るのだもの 少しくらい 身なりに時間を掛けてしまっても 仕方がないじゃない?」
ラザイヤがレクターの近くへ来ると レクターがラザイヤを抱きしめて言う
「身なりなんて気に掛けなくったって おめーは世界一良い女だぜ 間違えねぇ 俺の傍にさえ居れば それだけで良い」
ラザイヤがうっとりレクターを見上げて言う
「レクター…」
レクターがラザイヤを見て悪微笑してから 正面へ向いて言う
「おいっ!バーネット!」
正面にホログラムモニターが現れバーネットが映る バーネットが一瞬驚いて視線を向けると レクターが言う
「てめーがガルバディアの王になってから ガルバディアの情報がボロボロだぜ!てめーは猫となんざ遊んでやがらねーで この世界の防衛を本気でやりやがれ!そんなんだから別大陸の王に 好き勝手されやがるんだっ!馬鹿野郎っ!」

【 ガルバディア城 玉座の間 】

バーネットが呆気に取られて言う
「な…」
目の前のホログラムモニターに映るレクターが言う
『いつまでもシリウスBの手を借りやがって!情けねぇにも程があんだろっ!てめーはバーネット1世様と違って 出来損ないの上 へなちょこなロストヒューマンなんだから 俺ら新人類の振りをしながら 上等なプログラムなんざ出来ねぇーんだ!てめーは身なりを気にする前に てめーがやるべき事をまっとうしやがれ!』
ホログラムモニターが消える バーネットが呆気に取られたまま言う
「な…っ なぁっ…!?」
アバロン直通散歩道からヴィクトールが現れて言う
「ただいまー!バーネッ…ト…?」
ヴィクトールが呆気に取られて目を瞬かせる バーネットがトランスしてプログラムをやりながら怒って叫ぶ
「上等だぁああ レクターの野郎ぉお!!ならやってやるぜぇえ!この俺様の力を 舐めやがるんじゃねぇええ!!」
ヴィクトールが呆気に取られた後笑顔でバーネットの横へ来て言う
「バーネット… どうしちゃったのかにゃ?なんだかとってもやる気満々で トランスしちゃって!でも、僕 そんな君も やっぱり大好きだよ!バーネット!」
ヴィクトールが笑顔でおにぎりの包みを開いてぱくっと食べる

【 スプローニ城 通路 】

ロキが視線を落としつつ歩いている ベルグルが後ろに続きつつ 言葉を考えて唸りながら何とか話しかける
「う~… ロ、ロキ隊長?やっぱり… アシル王子がダメって言ったッスから…」
ロキが一度目を閉じ息を吐いてから改めて言う
「…今度はスプローニの国財ではなく 俺の… 国王の資金から賄っている アシル補佐官から 文句を言われるいわれは 無い…」
ベルグルが表情を困らせて言う
「う~… そう…なんッスか?でも 国王様のお金はッスね?やっぱりスプローニのお金で…」
ロキが立ち止まり ベルグルへ向いて言う
「…卿は あいつの… ヴェルの意識を 戻してやりたいとは思わないのか?」
ベルグルがハッとして慌てて言う
「思うッス!それチョー思ってるッスよ!ロキ隊長!」
ロキが息を吐き再び歩き出して言う
「…ならば 俺と同じだろう 従って 俺が国王資金で医者を手配した事は アシル補佐官には内密に」
ベルグルが言う
「内密?…内緒にするって事ッスか?」
ロキが苦笑して言う
「…ああ、内緒にするって事だ …そうしてくれ」
ベルグルが困って言う
「う~… けど、ロキ隊長?スプローニのお金の事は アシル王子は全部知ってるッス 内緒にしたって内密にしたって きっとばれちゃうッスよ?」
ロキが疑問して言う
「…そうなのか?何故だ?国の金ではなく 国王の私的な金だ …俺自身でさえ つい先日まで知らなかった事」
ベルグルが言う
「それはーッスね スプローニは国王様が 特別に」
ロキが話の途中で目的地である部屋の前の騒ぎに気付いて言う
「…待て、どうした?何事だ?」
部屋の監視がハッとして慌てて言う
「ロキ陛下!」
ロキがただならぬ様子に表情を強めて言う
「…どうした?奴に何か…?っ!」
ロキが室内の様子を見て驚き止まる ベルグルが疑問して言う
「…ロキ隊長?」

玉座の間

門兵が驚き慌てて言う
「ロ、ロキ陛下の御入室…っ!」
門兵が言い終えるより前に ロキが飛び込んで来て叫ぶ
「アシルーーっ!」
大臣たちと話し合っていたアシルが疑問して振り返りながら言おうとする
「…あぁ?なん…?っ!」
アシルが言い終えるより早く ロキがアシルを殴り付ける その場にいた者たちが驚き止まっている中 アシルが床に叩き付けられる アシルが頭部を床へ強打して目を見開く ロキがアシルへ掴みかかろうとすると ベルグルが追いついて来て ロキに手を掛けようとしながら言う
「ロキ隊長っ!ダメッス!」
ロキがベルグルを払い除け アシルへ掴みかかろうとする ベルグルが表情を強め アシルを庇いロキの前に立って言う
「ダメッスよ!ロキ隊長!アシル王子に乱暴しちゃダメッスよ!」
ロキが怒りに狂って叫ぶ
「退けっ!ベルグルっ!!」
ベルグルが強く目を閉じて叫ぶ
「ダメッス!退かないッスっ!俺はっ…俺はアシル王子を守るッス!」
ロキが驚き 脱力して言う
「…何故だ 卿は… 卿は ヴェルを奪われて 悔しくは無いのかっ!ヴェルは… ヴェルは!お前にとっても大切な ヴェルアロンスライツァー副隊長だろぉおっ!!」
ベルグルが悔しそうに歯を食いしばりながらも アシルを庇って立っている 硬直していた大臣が恐る恐る寄りながら言う
「ア… アシル王子…っ?」
アシルがゆっくり動きながら言う
「…う…ぅ ヴェルア… つが どう した?奪わ れ …だぁ?」
大臣が慌てて駆け寄って言う
「アシル王子っ ご無事で… っ!?」
アシルが言う
「俺は… 知らねぇ…」
ロキが一瞬呆気に取られるがすぐに怒って言う
「…う 嘘を言うなっ 俺が 俺が国王の資金で医者を雇ったと知った卿がっ 卿がヴェルを何処かへっ!そうでなければ!一体どうやって!?あの部屋の監視は ローゼントの騎士にさせている!彼らが外部からの侵入を許す筈がっ!」
アシルがふらつきながらも立ち上がる 大臣が心配そうに手を添えようとしている アシルが頭を抑えつつ言う
「…ならぁ… 他の方法 だろ… 人の目に触れず… 連れ出す 方法…」
緊迫した玉座の間に通信が入り 兵士が言う
「ア、…アバロンから 国王直通通信が入っております」
ロキが一瞬間を置き 顔を上げ言う
「…アバロンから?レクター殿か… くっ …分かった 繋いでくれ」
兵士が返事をして通信を繋ぐ ロキの前に通信モニターが運ばれてくるが それよりも早くラザイヤを小脇に抱いたレクターのホログラムが現れて言う
『おせーぞ!こっちで良い!』
ロキが一瞬驚き 疑問して言う
「…レクター代理国王?」
レクターがロキを見て間を置いて言う
『…ふん やっぱ てめーじゃねぇな?』
ロキが疑問して言う
「…どういう意味だ?」
レクターが言う
『俺が話すべき スプローニの王は てめーじゃねーって言ってんだ』
ロキが一瞬驚き ムッとして言う
「…聞き捨てならん 卿はスプローニの王と 通信を行いたいのでは無いのか?現状このスプローニの王は 俺だ」
レクターが鼻で笑って言う
『ふんっ そうなのか… じゃーしょうがねぇ そう言う事なら てめーに教えておいてやるぜ ソルベキアが …スプローニを狙ってるぜぇ?』
ロキが一瞬驚き気を引き締めて言う
「…なんだと?ソルベキアが?何故スプローニをっ!?」
レクターが微笑して言う
『てめーで確認しろ …って言ってやりてー所だが 1つ特別に教えてやる ソルベキアの連中は 今回、ロボット兵を使わねーつもりらしい これなら 奴らが何を狙っているのか …スプローニの王なら分かるよなぁ?』
ロキが疑問し視線を強めて言う
「…どう言う意味だっ 教える気があるのか無いのか ハッキリしろっ!」
レクターが苦笑して言う
『ふんっ これ以上 遊んでいる暇はねーって事だ 俺もお前らも この世界の全ての連中がよ?』
レクターのホログラムが消える ロキが慌てて言う
「おいっ!待てっ!」
大臣が叫ぶ
「アシル王子っ!」
ロキが声に振り返ると アシルが倒れる ロキが驚き呆気に取られる 大臣とベルグルが駆け寄り 大臣が叫ぶ
「アシル王子っ!?アシル王子っ!大変だっ すぐに医師を呼べっ!」
ロキが呆気に取られる

【 アバロン城 玉座の間 】

大臣Aが言う
「レクター陛下の仰る通り ローレシアはソルベキアと手を切った後も 親密に通信連絡を送りあっております その中には なんと我らアバロンの極秘情報までっ」
大臣Bが言う
「ソルベキアは現在 通常時は開かれている4方全ての門を閉ざし 外国からの入国を全て拒否した上 何やら国内で隠密に作業を行っておるとの情報が」
大臣Cが言う
「ローゼント国内の宝玉の捜索は 現在手詰まりの状況にて 今後はスプローニへ退避した ローゼントの民を用いて作業をおこなわせようと」
ラザイヤを小脇に抱いたレクターが言う
「分かったか…?」
大臣たちが疑問してレクターを見る レクターが視線を細めて言う
「お前らが平和だ平和だってぇ 言ってやがった この世界の現状がよぉ?」
大臣たちが呆気に取られる レクターが言う
「それらの情報をばら撒け アバロン国内だけじゃねー 他国にもばれる様にだ ああ、スプローニへは俺が伝えておいてやった こっちは噂が届く頃じゃ間に合わねー」
大臣たちが呆気に取られて顔を見合わせる レクターが大臣たちを見る 大臣たちがはっとして慌てて言う
「「「は!はははっ はい!直ちにーっ!」」」
大臣A、Bが逃げるように立ち去る中Cが書類を落とし慌てて拾う レクターが大臣Cへ言う
「よぉ それから アバロン2番隊から… そうだな 9番隊までの隊長へ伝えろ 現状の戦力数値を試算した上で ここへ集まれってな」
大臣Cが一瞬呆気に取られた後 慌てて言う
「隊長たちを…ですか?は、はいっ!直ちに!」
大臣Cが資料を撒き散らしつつ走り去る ラザイヤがくすっと笑ってレクターへ寄り添う レクターがラザイヤを抱きしめる

【 スプローニ城 アシルの部屋 】

アシルの意識の中に ロキの声が聞える
『…それから ローゼントの騎士はスプローニ兵の後方へ …前衛をスプローニの精鋭で固める!』
アシルが疑問して思う
(あぁ…?気でも狂ったか?)
アシルの意識の中 ロキが大臣たちへ指示を出している アシルが不満そうに思う
(馬鹿野郎…っ 騎士を後方に配備するなんて… んな事は させねぇ…)

城下町

町の門の前後、町中に兵士たちが配備されている スプローニの銃使いとローゼントの騎士たちの姿 ローゼントの騎士が前衛 スプローニの銃使いが後衛で配備されている

玉座の間

ロキが怒って言う
「何故だ!?ソルベキアは ローゼントを襲った上でここへ仕掛けてきた!そのローゼントの民である彼らを前衛に配備するなどっ!」
大臣が言う
「申し訳ありませんっ ロキ陛下!しかしながら、例え敵の狙いが何であろうと 剣士と銃士の配置は変えぬ様にと アシル王子からのご伝言であります」
ロキが一瞬呆気に取られ静かに言う
「アシル…補佐官は 現在口を利けない状態だと聞いたが?」

アシルの部屋

アシルがベッドに眠っている

玉座の間

大臣が一瞬間を置いてから言う
「直接言葉を介してでは有りませんが その様に指示を頂いております そして、万が一にもロキ陛下が異議を仰った際は」
ロキが疑問する 大臣がロキへ向いて言う
「ローゼントの騎士たちは 前衛を決して譲らないであろう事を 『ローゼントの騎士の相棒である ロキ陛下なら分かるはずだ』 …と伝えるようにと」
ロキが呆気に取られる

ロキの脳裏にヴェルアロンスライツァーの姿が思い出される ヴェルアロンスライツァーが振り返り 後方に居るロキへ微笑する ロキが不満そうに顔を逸らす

ロキが視線を逸らす 大臣が言う
「とは申しましても、ソルベキアが ローゼントの殲滅を狙っている可能性も十分に有り得ます よって、騎士たちへは ローゼントの為にも無理は致さず 見極めを持って後退するようにと…」
ロキが一息吐いて言う
「…それも アシル補佐官からの指示か?」
大臣が苦笑して言う
「いえ、こちらは スプローニ第2部隊 ラント隊長からの助言で御座います 第2部隊は ローゼント騎士団のサポートと保護を 全力で行うとも言っておりました」
ロキが視線を落として言う
「…そうか ラントですら分かる事を …俺は」
外で鐘の音が響く その場に居る者たちがハッと気を引き締める ロキが言う
「…来たかっ」

【 ガルバディア城 玉座の間 】

アバロン直通散歩道からヴィクトールが走って来て叫ぶ
「バーネット!スプローニに ソルベキアが進軍したって!知ってるっ!?」
バーネットが正面のホログラムモニターを眺めながら言う
「おうよ たった今そいつを観戦中だぁ」
ヴィクトールが驚き慌てて駆け寄って怒って言う
「観戦だなんてっ そんなっ!」
バーネットが言う
「落ち着きやがれ ヴィクトール スプローニへ進軍したソルベキア部隊には… ロボット兵は含まれてねぇ」
ヴィクトールが呆気に取られて言う
「…え?」
ヴィクトールがバーネットの見ているモニターを確認してから 言う
「ソルベキアが ロボット兵を使わないだなんて… 一体どうして?ロボット兵を使わないソルベキアの部隊では スプローニは落とせない筈だ 増して 今そのスプローニには ローゼントの騎士まで居ると言うのに」
バーネットが言う
「ソルベキアの連中は ローゼント殲滅を狙ってやがるってぇ情報だが… この情報が何処まで正しいのか… ただ、そんな事ぐれぇなら こんな大掛かりな進軍なんざ する必要はねぇ筈だ …連中の狙いは 本当にローゼントの残党を 殲滅させるってぇ事だけなのか?」
バーネットが考える ヴィクトールが心配そうにバーネットとモニターを交互に見る

【 スプローニ国 城下町門前 】

二丁銃のセキュリティが外される ローゼント騎士団の先頭にロキが手に銃を持ち正面を見る その視線の先にソルベキア部隊が立ち並ぶ ローゼント騎士団が構える

玉座の間

大臣が言う
「状況は!?」
兵士が跪いて言う
「は!イチサンマルマル ソルベキア部隊より発砲を確認!ロキ陛下の号令の下 ローゼント騎士団及びスプローニ部隊 ソルベキア軍と交戦に至りました!現在…!」

城下町 門前

ロキがソルベキア兵と戦いつつ 状況を確認し 相手にしていた敵を倒して叫ぶ
「ローゼント騎士団!進軍!一気に叩き潰せっ!」
ローゼント騎士団がロキの両脇を抜け突進して行く ロキが周囲を確認し 後方のスプローニ部隊へ叫ぶ
「スプローニ部隊!遅れるな!彼らに続け!」
ロキが叫び終えると共に ローゼント騎士団を追って駆け向かう スプローニ部隊が追いかける

玉座の間

兵士が続けて言う
「ロキ陛下が前線で指揮を執り ソルベキア軍を撃退中!勝機は 確実に我らへ有り!との事です!」
大臣たちがほっとして顔を見合わせる

アシルの部屋

アシルがベッドへ眠っている状態で表情をしかめる

王女の間

エレーナがアンネレーシアをあやしている それまで大人しかったアンネレーシアがふと気付きグズリ始める
「え…えっえっ あ~~ん…っ!」
エレーナが驚き あやしながら言う
「あら?どうなさいました?姫様?」
アンネレーシアが大泣きし始める
「あーーんっ!」
エレーナが驚いて言う
「あらあら!?どうなさったのかしら こんなに大きくお声を出されて?姫様?アンネ姫様?」
アンネレーシアが更に泣く エレーナが困りながらあやす

玉座の間

大臣Aが言う
「ローゼントの女王様も 厳重に保護してある ヴェルアロンスライツァー様の様なことがあっては… 今度こそ大変な事に」
大臣Bが頷いて言う
「うむ… そうだな …アンネレーシア様のお部屋は いつも以上に警備を行っておるのだな?」
兵士が言う
「はっ!アンネレーシア女王様のお部屋へ繋がる通路はもちろん 窓の外や その周囲にも ローゼントの騎士たちと共に 我らスプローニの兵が囲んでおります!」
大臣AとBが頷き ホッとする 大臣Aが言う
「それにしても ソルベキアはロボット兵も使わず 何を企んでいるのか?アシル王子は ソルベキアはローゼントの宝玉を得る為 あらゆる手段を講じておると…」
大臣Bが頷いて言う
「うむ… ローゼントの宝玉は我らの前王ラグヴェルス陛下やローゼントのハリッグ様が 命と引き換えに 何処かへ隠されたと言う… ローゼントの女王であられたアンネローゼ様もお亡くなりになり 王配であられたヴェルアロンスライツァー様とて お心を閉ざされ 確認する事は不可能だった それ故に ソルベキアはローゼントの民を使おうとでも 企んでいるのだろうか?」
大臣たちが顔を見合わせ分からないと言った素振りを見せる

【 ローレシア城 玉座の間 】

伝達兵が駆け込んできて言う
「申し上げます!スプローニ国にて行われておりました ソルベキア軍との戦いは ローゼント騎士団率いるスプローニ国の圧勝にて 終結したとの事です!」
ザッツロードがホッとして言う
「良かった…」
ザッツロードの後方 キルビーグが視線を強める ルーゼックがキルビーグへ向く

【 スプローニ国 城下町門前 】

ロキが銃の構えを解除し 周囲を確認しながら言う
「…周囲を確認!気を抜くな!相手はソルベキアだ!」

玉座の間

伝達兵が駆け込んできて言う
「スプローニ城周囲!及び城下町周辺に異常なし!前線の部隊も ロキ陛下の指示の元 順を追って解散するとの事です!」
大臣たちがホッとして顔を見合わせる

アシルの部屋

アシルが不満そうな表情で考える
(…結局何も無かったって言うのか?そんな筈はねぇ 何か… 連中の狙いは何だ?ソルベキアが求めるもの ローゼントの宝玉 …宝玉?いや、もし宝玉が必要なら なにもローゼントにこだわる必要はねぇ …こんな面倒な事をしてまで 連中は…?)
アシルの脳裏にソルベキアでの出来事が蘇る 泥酔しているアシルへガライナが言う
『お前は持っているはずだ!リゲル様のお力を!』
アシルが不満そうな表情で考える
(…リゲル様?誰なんだそいつは?大体 俺はあの力を… 力?そうか!あの力は!)
アシルが目を開く

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

スキルが全てを決める世界で、俺のスキルがビームだった件。ダークファンタジー世界をビームでぶち抜く。

あけちともあき
ファンタジー
スキルがすべてを決める世界。 意味不明なスキル、ビームを持って生まれたオービターは、居所なしとして村を追放された。 都会で成り上がろうと旅立つオービターは、世界から迫害されるという魔女に出会う。 この魔女がとても可愛く、オービターは彼女が好きになってしまう。 「好きです!!」 「いきなり告白するのはどうなの? でも君、すごい才能を持ってるわね!」 彼女に教えを受け、スキル:ビームの真価に目覚めるオービター。 それは、あらゆる行動をビームに変えてしまう最強のスキルだったのだ。 このまま二人でスローな生活もいいかなと思った矢先、魔女狩りが襲いかかる。 「魔女は世界を破壊するのだ! 生かしてはおけぬ!! そこをどけ小僧!!」 「俺の純情と下心を邪魔するのか! 許せねえ!! ぶっ倒す!!」 魔法がビームに、剣がビームに、石を投げたらそれもビームに。 棒を握って振り回したら、戦場をビームが薙ぎ払う。 「わははははは! 人が! ゴミのようだ!」 村を襲う盗賊団を薙ぎ払い、大発生したモンスターの群れを薙ぎ払い、空から落ちてくる隕石を撃ち落とす。 やがて、世界から集まる、世界の敵と目された仲間たち。 オービターの下心から始まった冒険は、世界を巻き込んでいくことになるのである。 これは、一人の男が世界を変える、愛と勇気の物語……!

処理中です...