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1-13 王子たちの決意
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【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが苦笑笑顔で目前のやり取りを眺めなからシチューを口へ運ぶ ザッツロードの前でアシルと看守が睨み合い 看守が笑んで言う
「良いのか?本当に…?」
アシルが頬を引きつらせつつニヤリと笑んで言う
「出来るもんなら やってみろぉ…?それこそ!もう二度と…っ 二 度 と!薬なんざ 飲んでやらねぇぞ~?」
看守がアシルから離した位置に 酒瓶のふちを持ちブラブラと落とそうとしている ザッツロードが苦笑して言う
「なんだか お二人は とっても仲が良いですよね?」
アシルがザッツロードへ向き怒って叫ぶ
「どこがだっ!ローレシアのへっぽこ第二王子!」
ザッツロードが頬を引きつらせて言う
「へ…へっぽこ…」
ザッツロードが苦笑している 看守が酒瓶のふたへ手を掛けて言う
「なら… これでどうだ?」
看守が酒瓶のふたの封を音を立ててあける アシルが衝撃を受ける 看守が言う
「さぁ?開けたぞ~?このままお前が 薬を飲まないのなら…」
看守が蓋の開いた酒瓶を傾け始める アシルが衝撃を受け慌てて言う
「ぬあっ!ま、待てっ!?」
看守がニヤリと笑んでアシルを見る アシルが表情を困らせた後ぐっと堪えてから言う
「い いぃいやっ!駄目だっ!やっぱり飲まねえ!」
看守が驚く アシルが看守を指差して叫ぶ
「どぉおせっ 貴様はっ!俺が薬を飲んだ途端 そいつを引っ込めて笑って帰りやがるんだろ!分かってるんだ!だから もう二度と…っ 三度と騙されてたまるかぁああ!」
アシルが腕組みをしてぷいっと背を向ける 看守が衝撃を受け困って言う
「なっ!?ち、違うっ!今度こそくれてやる!ほ、ほらっ もう栓も開けた な?な?」
アシルがチラリと視線を向けるが改めてプイッと顔を逸らす 看守が困って腕時計を見る ザッツロードがミニトマトを口に入れてからナイフとフォークをトレーに置き 手を合わせて言う
「ご馳走様でした」
ザッツロードが微笑して看守を見る 看守がザッツロードを不満そうに見てからアシルへ言う
「むぅ… こっちは夕食所か お前が薬を飲まぬ限り 帰宅を許されんのだぞっ!?それこそ夕食もお預けであると言うのにぃ… おいっアシル!こらっ!こっち来いっ!」
アシルが衝撃を受け怒って振り返って言う
「俺は 貴様の犬かっ!?」
ザッツロードが看守へ言う
「でしたら… いい加減 それ一つ位アシル王子へ渡してはどうです?…安酒 なのでしょう?」
ザッツロードが苦笑する 看守が困った後言う
「それはそうだが… 渡した後に 奴が薬を飲まなかったらどうする?それこそ…」
ザッツロードが表情を困らせ言う
「う~ん… それはそうですが」
ザッツロードがアシルを見る アシルとザッツロードの視線が合う アシルがフンッと顔を逸らす ザッツロードが苦笑して言う
「あぁ… えっと…」
ザッツロードが思い付いて言う
「あ!でしたら?こう言うのはどうでしょう?そのお酒を 先にアシル王子へ渡すのでもなく 貴方が持って待つのでもなく 私が一度預かる!…と言うのは?」
アシルと看守が疑問して言う
「「はぁ…?」」
ザッツロードが苦笑して言う
「牢屋の看守が大変である事は 私も多少知っています …そして、今は アシル王子と共に こちらへ囚われる気持ちも分かります つまり、中立 …と言う事で?」
アシルと看守が呆気に取られてザッツロードを見る ザッツロードが微笑する
ザッツロードが酒瓶を持っている 看守が言う
「さぁ アシル!」
アシルがニヤリと笑んで言う
「クックックック… ローレシアの第二王子殿… お前がここに来てくれて 初めて良かったと思ったぜ…?さあっ!」
アシルがザッツロードへ手を向ける ザッツロードが酒瓶を看守の方へ向ける アシルが呆気に取られる ザッツロードが微笑して言う
「私は今 中立です …これは これからのアシル王子や私の為でもあるのですから 約束は守りましょう?」
アシルが驚き呆気に取られて言う
「はぁ…?」
看守が笑んで言う
「はっはっは!流石はローレシアの王子にして このソルベキアの補佐官殿!」
ザッツロードが苦笑して言う
「ローレシアへは 毎度迷惑を掛けてしまう 駄目な第二王子ですが」
アシルがわずかに表情を困らせて言う
「クッ…」
アシルが悔しがって看守を見る 看守がニヤニヤしている アシルが舌打ちをして言う
「チィ… まぁ良い 気には入らんが …背に腹はなんとやらって奴だ」
アシルが床に落ちている薬を拾う 看守が言う
「おいっ 水も飲んで見せるんだぞ!?」
アシルが不満そうに言う
「分かってる!何度やってると思ってるんだっ?」
アシルが続いてペットボトルを拾い ザッツロードを確認してから看守を見る 看守が見つめている アシルが不満そうに薬の封を開け薬を飲み込み 再びザッツロードを確認してから水を飲む ザッツロードがアシルを見てホッとする 看守が目を光らせ 瞬時にザッツロードの手から酒瓶を奪う アシルが叫ぶ
「ぶあぁああっ!?」
ザッツロードが驚き呆気に取られてから 気付いて自分の手を見て言う
「え…?…あっ!」
ザッツロードが看守を振り返る 看守がニヤリと笑んで酒瓶をちらつかせる ザッツロードが呆気に取られて言う
「いつの間に…」
ザッツロードの頭が叩かれる ザッツロードが痛がって言う
「痛っ!」
アシルが殴り終えた姿で居て ザッツロードを締め上げて叫ぶ
「あにやってやがるんだああ!?このへっぽこ王子がああっ!」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「す、すみません… まさか 彼に 裏切られてしまうとは 思ってもいなくて」
アシルがザッツロードを揺すって言う
「そらあ どお言う事だあ?さっきまで お前は思いっきり俺を 警戒してただろうがあっ!?」
ザッツロードが苦笑してアシルを抑えようとしている 看守が笑って言う
「あっはははははっ!いやぁ~助かった!…それじゃ また明日な?アシル …それから ザッツロード補佐官殿」
看守がザッツロードの夕食トレーを回収する ザッツロードが締め上げられたまま看守へ向いて言う
「あ、はい お休みなさい」
看守が笑顔で立ち去る アシルが怒って言う
「なに仲良く挨拶交わしてやがるんだっ!?お前はぁああ!?」
ザッツロードが苦笑する
アシルが定位置へ横になって言う
「…たくっ クソ… 畜生が…」
ザッツロードが一息吐いて言う
「アシル王子…」
ザッツロードがアシルを見るアシルは背を向けている ザッツロードが苦笑して言う
「…確かに 彼はアシル王子を あのお酒で釣ってますが …王子はあの薬と水しか摂取していませんよね?…少なくとも 私がここへ来てから …その … あの薬は栄養剤だって言ってました それを拒否するのは… アシル王子?」
つかの間の沈黙 アシルが言う
「…元 王子」
ザッツロードが不意を突かれて言う
「え?」
アシルが顔を向けて言う
「…何度も言ってんだろ 元!王子だ」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言う
「あ… ああ… そうでしたね …スプローニの王位には ロキが着いたのだから アシル王子は…」
アシルが再び背を向けて言う
「ケッ…」
ザッツロードが表情を落として言う
「…だから …ですか?」
アシルが目を閉じている その後ろへ視線を向けてザッツロードが言う
「…ロキに 王位を奪われてしまったから …それで 自暴自棄に?」
アシルが表情をしかめて言う
「…そんなんじゃねぇ」
ザッツロードが意外な返答に疑問して言う
「え?それじゃ…?」
ザッツロードの疑問にアシルが沈黙する 再びの沈黙の後 ザッツロードが言う
「…えっと …あの アシル王子も」
アシルが不満そうに言う
「元!」
ザッツロードが一瞬驚いた後苦笑して言う
「あっ… あは… …では アシル元王子も スプローニの銃使い なのですよね?ラグヴェルス前王も 銃使いで… 以前の旧大陸から 民を迎える時も戦われて… えっと ローゼントのハリッグ前王と一緒に それで 勝利したと…聞きました …僕は その時は 戦えなかったけど」
ザッツロードが一度視線を落とし はっとして言う
「あ!いや、僕の事は良いんですが!…あの時は アシル王子… 元!王子も やっぱり…戦っておられたんですよね?…その スプローニを守るために!」
アシルが目を開いていて思い出している
回想
アシルがラグヴェルスへ向かって叫ぶ
『な!?この状況で 父上がローゼントへ向かうだとっ!?何を言うっ!?父上の目には あの門前に群がる 機械兵どもが 見えないのか!?』
ラグヴェルスが銃を確認して言う
『…無論見えている 老いたとは言え わしの目はそれ程衰えてはおらん 少なくとも わしの手に この銃がある限り』
ラグヴェルスが銃をコートへしまう アシルが顔をしかめて言う
『だったら何故!?』
ラグヴェルスが目を閉じて言う
『…あいつが …ハリッグがローレシアの魔法使いを わしらへ送ってくれた これならスプローニは守られるだろう だが、問題は あちらの方だ 今は、全国へと あの機械兵がばら撒かれている この状況では ローレシアも必要最低限の魔法使いしか ローゼントへ送っておらぬはず それを このスプローニへも送ったとあれば 間違いなく ソルベキアの隣国であるローゼントは 窮地に立たされて居る』
アシルがラグヴェルスを見る ラグヴェルスが目を開いて言う
『…そうなると分かっていて あいつは送ってくれた …この事に わしは答えねばならん …奴の相棒として』
アシルが悔しそうに言う
『父上…っ 父上はこのスプローニの国より 己の相棒との絆を取ると言うのかっ!?…ならばっ ならばスプローニの指揮は 俺が執る!』
ラグヴェルスがアシルを見る アシルが手を振り払って言う
『この状況で 国王である父上が国を離れるとなれば!残された兵を束ねるのは 当然 父上の息子であり スプローニ唯一の王子である 俺を置いて他にはない!俺が前線で ローレシアの魔法使いを含む 全部隊の指揮を執り 父上の… 貴方の国王としての権威を守ってくれる!』
ラグヴェルスが呆気に取られた後苦笑して表情を落とす アシルが疑問する アシルの後方からロイの声が掛かる
『…陛下 スプローニ第三部隊隊長のロイ 参りました』
アシルが疑問して振り返る ラグヴェルスが言う
『…来たか …ロイ隊長 これより卿へ ローゼントより派遣されし ローレシアの魔法使いを含む このスプローニ全部隊の指揮権を与える』
ロイが僅かに驚く アシルが驚きラグヴェルスへ振り返って叫ぶ
『父上!?』
ラグヴェルスがアシルへ言う
『…そして アシル お前は』
アシルが驚き呆気に取られる ラグヴェルスがアシルの前を抜けロイの前で足を止めて言う
『…ロイ隊長 わしもロキも居らぬが スプローニの部隊を 頼んだぞ』
ロイが僅かに驚いた後軽く礼をして言う
『…御意っ』
ラグヴェルスが立ち去る ロイがラグヴェルスの後姿を見る アシルが唇を震わせた後叫ぶ
『…何故だっ!?父上っ!!』
回想終了
アシルが視線を強める ザッツロードが視線を落とし苦笑して言う
「…良いな~ 自分の国を守るため 自分の国で戦うって …きっと とても」
アシルが目を閉じて一息吐く ザッツロードが疑問する アシルが言う
「…俺は …戦ってねぇ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?そう… だったのですか …あ、でもっ あの…っ」
ザッツロードが気を取り直して微笑して言う
「アシル元王子も ロキやロイみたいに 2つの銃を同時に使うのですか?」
アシルがムッとする ザッツロードは見えないので微笑したまま言う
「2つの銃を同時に使う場合は 二丁銃使いって言うそうですね!実は私は先日まで 銃使いは ロキとロイの2人しか見た事がなかったので ローレシアで合同練習があった時に その時になって初めて 1丁銃の使い手を見たんです …あ 1丁の場合は 普通に 銃使い だけで良いのかな?…あはっ」
アシルが不満そうな表情で居る ザッツロードが一人で考えて言う
「…けど どうして銃使いは皆 二丁銃使いにならないんだろう?折角手は二つあるのだから 銃も2つ持ったら良いのに… 重いのかなぁ?…確かに軽くはないだろうけれど …でもあれで重いと言ったら アバロンの大剣使いなんて…」
アシルが溜息を吐く
「はぁ…」
ザッツロードがはっとして苦笑して言う
「ああっ…すみません うるさいですよね?ごめんなさい… 言葉にしないで 黙って考える様にします…」
アシルが言う
「二丁の銃を使うってぇのは お前が考える程 簡単なもんじゃねぇんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが言う
「一丁であってもそうだ お前はただ 銃ってもんは対象へ向けて引き金を引けば 当たるとでも思ってやがるんだろぉが… 実際はそんな簡単なもんじゃねぇ …二丁なら尚更 銃は距離の二乗倍で 照準がずれちまう その照準だって 相当な訓練がなけりゃぁ 瞬時に合わせる事だって出来やしねぇ …お前が撃ったんじゃ カイッズの巨人族が相手でも 掠りもしねぇだろうぜ」
ザッツロードが呆気に取られる アシルが言う
「…双方の手に銃を持てば 距離の二乗倍所か 左右の距離まで加わる その照準は尚更合わせ辛くなる おまけにロキやロイ程にもなれば 扱う銃は最高位の殺傷力を持つ物だ 威力が強ければその分 自身へ帰って来る反動もデカくなる …お前の話し振りじゃ 一度も銃を使った事がねぇんだろぉ?威力の強い銃は 一発撃っただけで 普通の奴は腕の感覚を失う 瞬間的には 呼吸すら止まるってモンだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「…そんな凄いものを 彼らはあんな風に…」
ザッツロードの脳裏にロキやロイの戦闘風景が思い出される アシルが不満そうに言う
「…だってぇのに 銃使いは後方の安全な所からパンパン撃ってるだけの 腰抜けだとか抜かしやがって お前ら剣士に何が分かりやがる?」
ザッツロードが苦笑して言う
「あ… はい 僕は 一応剣士ですが…」
アシルが一息吐いて言う
「…あぁ ローレシアは魔法使いの国だったな」
ザッツロードが苦笑する
「あは…」
アシルが目を閉じて言う
「…とは言え 接近戦をする剣士が 命がけだって言いてぇ気持ちは 分からなくもねぇ 敵と面と向かって武器を合わせるんだからなぁ?」
ザッツロードが微笑して言う
「はい」
アシルが言う
「…なら お前の知ってる 奴ら… ロキとロイはどうだ?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが言う
「…奴らは お前が… いや、剣士どもが言いやがる様に 後方の安全な所から 銃を撃ってやがったか?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ…」
ザッツロードの脳裏にロキとロイの姿が浮かぶ アシルが言う
「…奴ら二丁銃使いは 唯一銃使いの中で接近戦を行う …まぁ 奴らを真似て 接近戦の真似事をやる連中は居るがなぁ?…実際は出来ちゃいねぇ …出来ねぇんだよ」
ザッツロードが言う
「何故?」
アシルが言う
「…簡単な話だ 銃が一丁だから」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが言う
「一丁じゃ 間に合わねぇんだ 言っただろぉ?銃ってぇのは 一発の反動がデケェんだって …次の一発を撃つそれまでの間に どうしても剣士の攻撃を受けちまう …だから 接近戦をするには二丁銃じゃなけりゃならねぇ …ついでに言っちまえば 二丁銃使いの連中は 遠距離攻撃がド下手なんだぜ?笑っちまうよな?ケッ…クククッ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?そう…なんだ?あのロキとロイが… はは 何だか 意外です あははっ」
【 スプローニ国 訓練所 】
ロイがくしゃみをする
「…っくしっ!」
シャルロッテが疑問してモバイルPCから顔を上げて言う
「ロイ?寒いのですか?」
シャルロッテがモバイルPCを操作して首を傾げて言う
「うん?でも体温は正常値だし…」
ロイが銃を持った手の袖で軽く口をぬぐって言う
「…いや …寒くは ない」
シャルロッテがロイを見て微笑してから再びモバイルPCへ向き直りタイピングをしながら言う
「それでは 次は遠距離での訓練に移りますよ?ロイ 10メートルラインまで後退して下さい」
ロイが表情をしかめて言う
「…シャル やはり俺は 遠距離の訓練は」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「昨日の命中率は58.4%です ロキ陛下から第二部隊の隊長を正式に任された以上 彼ら第二部隊員たちの命中率98.9%を目指して もう少し訓練をして強化しないと… いざと言う時 隊長の貴方がそんなでは 恥ずかしいですから」
ロイが10メートルラインに立ってから困って言う
「…俺は …接近戦専門なんだ …第二部隊の隊長を任されたからと言って 急に変えろと言われても… やはり 困る」
シャルロッテが澄まして言う
「そんな事では駄目ですっ 苦手であっても努力して頑張る姿こそ 良い父親の姿ですから」
ロイが渋々銃を向けた後 驚きに目を見開いて言う
「…シャル 今 …何と?」
シャルロッテがロイを見た後モバイルPCで微笑を隠す ロイが呆気に取られて瞬きをする
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが得意げに言う
「…ですから きっと魔法使いたちは いつも本を読んでいるだなんて そんな印象が持たれているんでしょうね …しかし、実際 意識を集中させる事のみで それまで感じられなかった魔力を感じ取ると言うのは難しくて だからやっぱり 過去の大魔法使いと言われる偉人たちが書き記した書物などは とっても貴重で 魔法使いたちは皆 それを捜し求めているんだと思います… と言っても 僕は」
アシルが寝転びながらもザッツロードを見て考え深げに話を聞いて疑問する ザッツロードが照れ苦笑して頭を掻きながら言う
「僕は子供の頃から城にある多くの魔法書へ 一通り目を通しては見たんですが 頭で理解出来ても なかなか再現までは出来なくて… やっぱり魔法使いとしての才能がないのかなぁ… はは…」
アシルがザッツロードへ向けていた体勢を変え天上を向いて一息吐く
「フン…」
ザッツロードがハッとして言う
「あっ ああっ 御免なさい …また 僕自身の事を話出してしまって」
アシルが目を閉じて考えながら言う
「… お前はさっき言ってただろう…?同じ場所で同じ魔力を感じ取るにしても 魔法使いによっては 暖かい魔力だとか 熱い魔力だとか… 感じ方が人それぞれなんだって」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?あ、はい そうなんです でも、ソルベキアの研究者たちに言わせると どちらも同じ魔力数値らしいんですが」
アシルが目を開いて言う
「…そいつはつまり 魔力の属性ってやつが 関係してるんじゃねぇのか?」
ザッツロードがアシルを見る アシルが言う
「魔法使いたちが空気中から感じ取る魔力… 熱い魔力 冷たい魔力 ピリピリする魔力 吹き抜ける魔力 圧迫する魔力 お前がさっき言っていた それらの魔力ってのは 5大魔法属性 火、水、雷、風、土を感じ取ってるんだろ …それなら 例えば 火属性を得意とする魔法使いなら 火の魔力を暖かいと感じ取る …逆に その対極属性である 水属性を得意とする魔法使いなら」
ザッツロードがハッとして言う
「そうか…っ 自分が得意とする属性の対極であるのなら 確かに 同じ火属性の魔力を同量感じ取っても その感覚は 暖かいと熱いに分かれるのかもしれない!」
ザッツロードが嬉しそうに言う
「考えた事もありませんでした でも 確かにそれなら 火の魔法を得意とした僕の仲間 ソニヤが暖かい魔力が多いと言った時に 対極の水…いえ、氷の魔術を得意としたラナが 熱い魔力が多くて氷の精霊様が集まってくれないと言ってた!あの時のっ …僕はてっきり 彼女たちが魔法使いと 魔術師 反発する2人であるからかと思っていたけれどっ …あ」
ザッツロードが照れる アシルが苦笑して言う
「ケッ… やっぱり また お前の身の上話だったなぁ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「すみません… つい」
アシルが軽く笑んで言う
「フン… まぁ 何にしろ そう言う事で お前自身も そうなんだろ?」
ザッツロードが疑問して言う
「え?」
アシルがツンと澄ました表情で目を閉じて言う
「だからっ いくら多くの魔術書を読んで 頭に入れたところで お前に合わない属性魔力を得ようとしても 再現は難しいんだろぉがよ?」
ザッツロードが呆気に取られた後考えて言う
「…そうか …そうなのかもしれない …それなら!僕に合う属性の魔法なら もっと上手く!…て」
ザッツロードが落ち込んで言う
「僕は 5大属性の全てが不得意な 低ランク魔法使いなんだった…」
アシルがザッツロードを横目に見る ザッツロードが困り苦笑で頭を掻く アシルが不満そうに言う
「それじゃぁ しょうがねぇな…?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい…」
アシルが言う
「今ある余計な知識を全部捨てて お前の魔法使いとしての 本当の属性を確認する事から始めたらどぉだ?…てな 魔法なんかまったく使えねぇ奴の言葉だ 本気にするなよ?」
アシルが苦笑する ザッツロードが呆気に取られた後微笑して言う
「…なるほど そうですね 最初から知識ばかり詰め込むんじゃなくて 一度真っ白な状態から… 本当の属性を確認する事から やり直して見るのも良いのかも知れない!」
ザッツロードがやる気に満ちる アシルが呆れて言う
「…お前 予想以上に単純な奴だな」
【 スプローニ城下町 道中 】
ロイが神妙な面持ちで歩いている シャルロッテが後ろに続きながら苦笑して言う
「昨日の命中率は58.4%… それでも一昨日に比べれば0.1%の向上でしたが…」
シャルロッテが困り笑顔で言う
「今日の命中率は36.3%でした!向上所か 急降下です!脳波も乱れていたし …ロイ?」
ロイが立ち止まる シャルロッテが首を傾げて立ち止まる ロイが顔を向けて言う
「…貴女が言った言葉に 脳波も照準も乱されていたんだ」
シャルロッテが疑問して言う
「え?」
ロイが向き直って言う
「…『え?』では無い 俺は貴女に あんな言葉を言わせるような事をした覚えは無い …大体 貴女は先住民族であり 俺は後住民族 …遺伝子情報がどうと言う 詳しい話は理解しきれんが それでも」
シャルロッテが苦笑して言う
「はい… 先住民族と後住民族は 遺伝子的にもまったくの別生物です いくら私たちが 後住民族のロイたちの姿を現していようとも… 人と人以外の動物である以上 その間に子孫は出来ません」
ロイが表情を困らせて言う
「…では あの言葉は どう言う事だ?」
シャルロッテが微笑して言う
「えへ…っ はいっ!それは!」
シャルロッテが笑顔になる ロイが疑問する
シャルロッテが孤児院の前に居る ロイが一歩踏み出して言う
「…ここは 孤児院」
シャルロッテが微笑して言う
「はい!しかも この孤児院はスプローニだけではなく 全世界の戦争孤児を受け入れている 前スプローニ国王 ラグヴェルス様が設立させた 特別な孤児院です!」
孤児院の中の子供たちがシャルロッテに気付き喜んでやって来る
「あ!メガネのお姉ちゃん!」「チャルねーちゃんだー」「わーいおねーちゃん!きのうも待ってたんだよー」
シャルロッテが子供たちをあやしながら言う
「ごめんね 皆 お姉ちゃん 昨日はお出掛けしていたものだから」
ロイが疑問している 院長が出て来て言う
「ああ シャルロッテさん ソルベキアからの書類は届きました これで 後は申請書を頂ければ」
シャルロッテが微笑む ロイが言う
「…ソルベキアからの書類?…申請書?…シャル もしや貴女は」
シャルロッテがロイへ向いて微笑して言う
「ソルベキアの民である私では 本来はその資格を得る事が出来ないんです …でも 院長さんが 私を信頼してくれて」
ロイが呆気に取られる 院長がロイへ向いて言う
「シャルロッテさんはロイ様の相棒をされており 尚且つ 以前の戦いにおいても スプローニやツヴァイザーを守るため ロイ様や他のお仲間と共に 戦中にて戦って居られた… それ程の方であるのならと思い 私の方からラグヴェルス前陛下へ 特別にお伺いを立てました所」
シャルロッテが苦笑して言う
「…私が ソルベキアの国籍を捨て このスプローニへ忠誠を誓うと言う事であるのなら 私を信じて頂けると」
ロイが驚いて言う
「…っ!シャル 貴女はソルベキアの国籍をっ!?」
シャルロッテが困り苦笑で言う
「お父様にも了承を頂きました それが 私の選ぶ道であると言うのなら 構わないと …でも、一度ソルベキアの国籍を捨てると 以後ソルベキアへの入国は許されません お父様とお会いする事も 難しくなってしまいますが」
院長が立ち去る ロイが院長へ一度視線を向けた後 シャルロッテへ強い視線で言う
「…そうまでして 何故だ?スファルツ卿は …貴女のたった一人の家族なのだろう?」
シャルロッテが俯いて言う
「はい… そうです でも…」
院長が虫かごを持って戻って来て言う
「昨夜… 恐らく あの戦争の時の夢でも見たのでしょう 恐ろしさの余り 折角ラグヴェルス前陛下に人の姿へして頂いたと言うのに」
院長が虫かごを見せる 中に赤トカゲが一匹入っていてシャルロッテへ向いてピーと鳴く シャルロッテが呆気に取られて言う
「あららっ」
院長が虫かごを開ける 赤トカゲがシャルロッテの手を伝って肩へやって来てピーピーと鳴く シャルロッテが苦笑して言う
「うん、うん… そう、怖かったのね 大丈夫よ ソルベキアでは怖かったでしょうけど このスプローニには 強い銃使いさんたちが一杯居て 皆を守ってくれるから」
ロイが見つめている 赤トカゲがピーと鳴いてシャルロッテへ甘える シャルロッテが微笑む 院長が微笑して言う
「今日はもう遅いですし これからでは申請書の受理も明日になってしまいます しかし、今回は既にラグヴェルス前陛下からの 直接の許可を頂いて居ますので シャルロッテさんさえ宜しければ…」
シャルロッテが喜んで言う
「え!?今日からっ い、いいいいっ今から!?い、良いんですかぁ!?」
院長が軽く笑って言う
「ええ 実は 彼がこの姿ですと 子供たちが面白がってしまって… 喜んで遊ぶのは良いのですが やはり子供たちでは 何かあってはと心配で 今日も一日中 このかごの中で 子供たちから離していたのです しかし、それでは 楽しそうに遊ぶ 友達の姿を眺めるだけに 可愛そうでもありますから もちろん そちらのご都合が宜しければの話ですが」
シャルロッテが喜んで言う
「は、ははは はいー!こここ、こちらのご都合は ぜっ絶好調でございますぅ!」
院長が微笑んで言う
「ああ、それは良かった 良かったなー?ピー助?」
赤トカゲが嬉しそうにピーと鳴く シャルロッテが笑顔になる ロイが呆気に取られている
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが嬉しそうに話している
「…な訳で ローレシアの先住民族は 生まれてすぐ 人の姿になってしまうので 自分が先住民族であることを知らない場合も有るんです おまけに 本来の馬の姿に戻った時には 馬なのに4本足で立つ事を知らなかったりするんですよ!?」
アシルが笑って言う
「っはははっ なんだそらっ!?まさか 馬の癖に 2本足で立とうとなんかするんじゃねぇだろうなぁ!?」
ザッツロードが笑って言う
「そうなんですよ!いや、本当なんですって!」
2人が笑い終えると ザッツロードが苦笑しながら言う
「まぁ、それは本当に極端な話なんですけど それ位 ローレシアでは先住民族も人の姿で 僕らと同じ様に過ごしているんです」
アシルが言う
「へぇ… まぁ ソルベキアの連中も皆人の姿だが 大半は先住民族だって言うしな?」
ザッツロードが言う
「そうですね それに ソルベキアは機械の国だから 先住民族も後住民族も同じ様に過ごせるのかも知れない… ローレシアはすぐに分かるんです」
アシルが言う
「フン… 魔法が使えるのが後住民族で 使えねぇのが先住民族って事か」
ザッツロードが言う
「はい」
アシルが苦笑して言う
「まぁ そうなっちまうか…」
ザッツロードが言う
「スプローニはどうなんですか?やっぱり 銃使いになるのが後住民族で 先住民族たちは…」
アシルが言う
「こっちは… ソルベキアと一緒にはされたかねぇが 銃に関しては 先住民族も後住民族もねぇ 人の姿であれば引き金は引けっからなぁ…」
ザッツロードが言う
「あ… なるほど」
アシルが軽く息を吐いて言う
「…とは言え 先住民族が戦いを好まねぇのは お前の所も同じだろ?それでも 共に国を守ろうって奴は 銃を持って戦う奴も居る …ついでに言やぁ 他の武器を持つ奴も居る …いや、どちらかと言えば 先住民族はそう言う奴が多いかもな 犬どもは 銃の音や火薬の匂いが気に入らねぇってよ な訳もあって うちはどんな武器を使おうが そいつが その部隊で上手くやっていけるなら 入隊を許可している」
ザッツロードが言う
「それで スプローニ上位の第二部隊でさえ 銃と剣を使うロスラグや 長剣使いのヴェルが入る事も許されたんですね!…あ!それに」
アシルが疑問する ザッツロードが微笑して言う
「銃使いであっても 二丁銃の兵士と一丁銃の兵士が混合ですね!第二部隊の隊長だったロキに 第三部隊の隊長だったロイ 彼らは二丁銃だけど 他の銃使いは一丁銃が多いですよね?」
アシルが溜息を吐いて言う
「はぁ… だから そいつに関しては さっきも言っただろう?」
ザッツロードが疑問して言う
「え?」
アシルが言う
「二丁銃は 難しいんだ 第二第三部隊のそれは むしろ 隊長をそいつらにする事で 隊員にも二丁銃を扱えるよう 指導させようとした結果だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ… そう だったんだ」
アシルがザッツロードへ向いて言う
「当たりめぇだろうぉ?単純計算では 二丁銃使いってぇのは 一丁の奴の1.5倍の戦力になる それだけでも価値は有る上に 二丁銃を扱える銃使いは スプローニを置いて他にはいねぇ 奴らはスプローニの宝だ 出来るもんなら いくらでも増やしてぇ …だから 親父は 王位を得てから すぐにそれを開始した 親父の頃にも1人だけいたんだ 二丁銃を使う奴が… あのロキの父親だった奴がな?」
ザッツロードが言う
「ロキの…?それで二代続いての二丁銃使いに」
アシルが言う
「ロキの父親 ロンキウスはそれまでスプローニでさえ失われていた 二丁銃の技術を完全に復活させた優秀な銃使いだった だから親父は 自分が王位を継承すると すぐに ロンキウスをスプローニ第一部隊の隊長にして 奴と同じく二丁銃を扱える銃使いを増やそうとしたんだ」
ザッツロードが気付いて言う
「へぇ… うん?しかし…?」
アシルが言う
「ああ …それでも結局 奴へ与えた部隊から 二丁銃を扱える兵は生まれなかった 今、スプローニで二丁銃を扱えるのは ロンキウスの息子 ロキと ロキの甥に当たる ロイ その2人だけだ その上 厳密に言えば ロンキウスによって 二丁銃の能力を得たのは 奴の息子 ロキ1人だけだったんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「そんな… 一体どうして?」
アシルが仰向けに体勢を変えて軽く息を吐いて言う
「ロンキウスは 自分の力不足だと言い 親父も二丁銃使い復活に掛けて 躍起になっていた分 その結果に… いや あの頃の親父には 多くの事が…」
ザッツロードが疑問して言う
「え?スプローニに… その頃のラグヴェルス国王に何か?」
アシルが息を吐き目を閉じて言う
「ふぅ… 何でもねぇ とにかく ロンキウスはその責任を自ら一身に受けて スプローニ第一部隊長の地位から 同盟国シュレイザーの常駐部隊隊長なんて地位まで叩き落され スプローニを追い出されて… そのまま シュレイザーで死んじまった」
ザッツロードが驚いて言う
「死んで…!?」
アシルが目を開いて言う
「スプローニの民は 歳より若く見られるし それに似合う位 長寿な事も有名だが… ロンキウス隊長は 親父よりも若かった …死因は今でも分かってねぇ」
ザッツロードが沈黙する アシルが言う
「…ロンキウス隊長は …俺にとっても 恩の有る人だった」
ザッツロードがアシルを見る アシルが言う
「…隊長も 親父の期待を受けて その期待に答えようと 努力はしていたんだ」
ザッツロードが言う
「…それでも 出来なかったんですよね?二丁銃使いの育成は…」
アシルが目を閉じて言う
「ああ… だが、隊長は何も悪くねぇ そもそも 一度通常の銃使いになっちまった奴を そいつらを後から接近戦の二丁銃使いにしようってぇのが 間違いなんだよ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが目を開いて言う
「これは ロンキウス隊長も親父も… ロキやロイも分かってねぇ …だが 俺には分かる 本気で二丁銃を扱う銃使いを増やそうと思うのなら もっと 最初から 根本的に育て方を変えなけりゃならねぇ 今のやり方のままじゃ 駄目だっ だから 俺はっ!」
アシルが黙る ザッツロードが見つめていて言う
「アシル 王子は…!?」
アシルが息を吐いて落ち着いて言う
「チィ… 俺は 俺のやり方で スプローニの銃使いたちを 変えるつもりで居た …もちろん 今まで通り 一丁銃の奴も必要だ スプローニだからって 皆が皆 二丁銃の接近戦だけじゃ その価値も半減だ 一丁の奴も二丁の奴も居て… 他の武器を扱う連中も ローレシアの魔法使いの連中も来るってぇなら受け入れる それで、スプローニの兵は アバロンとは違う 銃使いをメインに 総合的に穴のねぇ 最強部隊になれるんだ」
ザッツロードが感心して言う
「銃使いも 他の武器の兵も… 魔法使いも 先住民族たちも居る… スプローニは 凄い国ですね!」
アシルが笑んで言う
「おうよ!…とは言え まずはメインとなる二丁銃の連中を育ててやらなけりゃぁ その凄ぇスプローニも始まらねぇ 魔法使いやら先住民族やら 周りばっかり集まっちまってもなぁ?」
ザッツロードが軽く笑う
「はははっ」
アシルが苦笑した後言う
「…スプローニにとって 二丁銃使いは宝だと言ったが 訂正する …そうじゃねぇ 本当の宝は そのスプローニに集う 全てだ 二丁も一丁も関係ぇねぇ 武器を持たねぇ連中だって その兵士たちを育てる だから スプローニに集まる民は 全てが国の宝だ」
ザッツロードが尊敬の眼差しで見ている
【 スプローニ国 シャルロッテの部屋 】
シャルロッテが嬉しそうに眺める先 赤トカゲが皿に注がれているミルクを舐めてピーと鳴く シャルロッテが微笑して言う
「そう 美味しいの?良かった 一杯飲んで 大きくなるのよ?」
赤トカゲが嬉しそうにピーと鳴いてミルクを舐める その向こうに ロイが夕食を前に赤トカゲを見て沈黙している シャルロッテがロイの様子に気付き ロイへ言う
「ロイ?…食欲が無いのですか?今日はピー君のお迎えを祝って 折角ステーキにしましたのに… やっぱりちょっと時間が遅くなってしまったせいでしょうか…?」
ロイが不満そうに言う
「…祝い事であろうが無かろうが …貴女の料理は 常に肉か魚を焼くだけの物 …これがステーキなら 昨日の焼き魚も 一昨日の焼き鳥もステーキと言う事になるのだが?」
シャルロッテが衝撃を受け 慌ててモバイルPCを叩き始めて言う
「そ、そそそそっ それはっ そ、そのっ ス、ステーキの定義に付きましてはっ あああ、厚く切った獣肉や魚肉を鉄板などで焼いた料理とされ 特に牛肉を使ったビーフステーキが代表とされますがっ 定義を元に制定するのでしたらっ 魚も鳥も 本日の豚肉であっても 一応 ステーキはステーキと言う事になりましてっ!」
ロイが沈黙して言う
「…では 俺の間違えだな …貴女が正しい」
シャルロッテがハッとして慌ててモバイルPCを片付けて言う
「い、いいいいいっいえっ!滅相もございませんっ!つ、つつつ、つまりっ そのっ ロイが言いたい事は わ、私の料理はいつもステーキ… いえっ いつも焼いただけの料理であると言う事で… ご、ごめんなさい…っ」
シャルロッテが表情を悲しめて俯く ロイが沈黙してから言う
「…いや その推測も正しいが」
シャルロッテが衝撃を受ける ロイがシャルロッテの前に置かれているコップを見て言う
「…飲み物でしか養分を摂取しない ソルベキアの先住民族である貴女に用意をさせている以上 形だけでも 俺たちの食事を用意してくれるだけで 十分だ」
ロイがスープを飲む シャルロッテが驚き苦笑して言う
「そ… そのスープも お店で売っていたものを買って来て あ、暖めただけ… です」
ロイがサラダを食べながら言う
「…先住民族と後住民族で 共に暮らしているのは スプローニでは珍しい事ではない 俺たち以外にも この様な暮らしをしている者が… よって 店頭でも 貴女がこうして手に取る品が充実しているだろう?…この国は そう言う国だ 従って この料理は それらの定義に沿って 正しいと言う事になる …違うか?」
シャルロッテが呆気に取られた後表情を和らげ嬉しそうに微笑んで言う
「はい!そ、その定義で… う、ううううっ 嬉しいっですぅ!」
シャルロッテがモバイルPCで顔を隠す ロイが手を止めて言う
「…所で …その …」
ロイが赤トカゲを見る 赤トカゲがミルクを飲み終えピーと鳴いてゲップをする シャルロッテが軽く笑って言う
「はい、よく飲めました!」
シャルロッテが赤トカゲの背を撫でる 赤トカゲが嬉しそうに尻尾を振る ロイが不満そうに言う
「…貴女が言っていた 父親の姿がどうである とか言うのだが …まさか」
シャルロッテがロイへ向き苦笑して言う
「はい!そのっ あれは… ちょっとした 言葉の比喩と言いましょうか」
ロイが言う
「…比喩?」
シャルロッテが苦笑して言う
「私は… この子を自分の子として 育てる事にしたんです だから 里親…って事になりますね 今日から… 正式には 明日申請書の受理が終わったら 私はこの子のお母さんになります」
ロイが軽く頷く シャルロッテが微笑して言う
「でも、私に旦那様は居ないので この子には やっぱり お父様が居ません だから きっと…」
ロイが沈黙する シャルロッテが苦笑して言う
「私とほとんど一日一緒に居る ロイの姿は この子にとって お父様に近い人に映るんじゃないかな …と思って …そ、そう言う意味で 言ったんですぅっ!」
ロイが脱力して言う
「…なんだ …そう言う事か…」
シャルロッテが慌てて言う
「あ、ああああっ あのぉっ ご、ごごごごごっ ごめんなさいっ!わ、私 ま、ままま まさか ロイの命中率に あ、ああああっ あんなにっ 影響が出るとは お、おおおおっ思わなくてっ!」
ロイが片手で軽く頭を抱える シャルロッテが慌てて立ち上がって頭を下げて言う
「ご、ごめんなさいっ ごめんなさいっ!そのっ やっぱり!今日の あ、あああ あのデータは な、無かった事にぃ!あ、あああ 明日っ 改めて 昨日のデータとのっ ひ、比較検証をっ!」
シャルロッテが慌てている ロイが考えている
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが言う
「…そう言えば ローレシアの先住民族は ほとんど元の姿には戻りませんが スプローニの先住民族 犬たちは 逆に余り人の姿にはならないのですか?ロスラグ… いや、ベルグルも 先の戦いの直前に 初めて人の姿になったとか」
アシルが少し疲れた様子で軽く考えながら言う
「あぁ~…?犬たち …そうだなぁ まぁ犬にもよるが あいつらはチョイチョイ 犬になったり人になったりしてるぜ?で、毎日親父や俺が 散歩がてら 街中を歩いてっと 人の姿になりてぇ連中は擦り寄って来やがるんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え!?そんな感じで?それじゃ… その度に!?」
アシルが軽く考えながら言う
「まぁ こっちも それなりに慣れちまうけどな 面倒臭ぇっちゃ臭ぇが…」
ザッツロードが微笑して言う
「流石は… 犬にも国籍を与える国ですね!」
アシルが起き上がり掛け怒って言う
「馬鹿にしてんのかぁ!?」
ザッツロードが慌てて言う
「い、いえいえっ!まさかっ!」
アシルが体勢を戻して言う
「スプローニも何も …何処の国だって元々は あいつらの国だったんだ… そこへ後住民族の俺らが入り込んでって 国だとか城だとか 他国とのいざこざだって始めやがったんじゃねぇか?そこの先住民族に国籍を与えて 何が可笑しい?」
アシルがプンッと怒っている ザッツロードが呆気に取られた後微笑して言う
「あ… …可笑しく 無いです」
アシルが疑いの眼差しを向けて言う
「あぁ…?」
ザッツロードが微笑して言う
「スプローニの先住民族の事を大切に思ったり… スプローニの銃使いたちの事を真剣に考えたり 国に集まる皆の事を 宝だと思う… 私の父が 言っていました 国王とは その国に住む者 全ての事を第一に考え その為の方法を 考え得る事が出来る そう言う者で あるべきであると」
アシルがザッツロードを見たまま疑問した後 フンッと視線を天上へ戻して言う
「ふんっ… あったりめぇだろぉ?それ以外の奴に 国王が務まるかぁ?」
ザッツロードが微笑して言う
「はいっ!そうですね!」
アシルがザッツロードへ背を向けながら言う
「ケッ… やっぱり変な奴だなぁ ローレシアの第二王子殿ってぇのは… 何考えてるのか掴めねぇ 訳分からねぇ王子だって そぉ言われてるの お前知ってたかぁ?」
ザッツロードが衝撃を受け言う
「えっ!?…そ、そうなんですか 知らなかった」
アシルが笑う ザッツロードが悪笑んでアシルへ向いて言う
「あ!アシル王子だってっ …えっと 長身で深緑色の髪で…と言うのは外見の説明ですが 常にアルコール中毒みたいな言動な人だって 言われてましたよ!?」
アシルがまんざらでもない様子で言う
「ふん…悪ぃか?スプローニの民は 王子がそう比喩されちまう程 酒好きだって事だろ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「そうでしょうか?僕は 比喩ではなくアシル王子 その人の説明であると思いますが?」
アシルが言う
「るせぇ!」
ザッツロードが軽く笑う
【 スプローニ城 玉座の間 】
ロキが玉座に座っていて 大臣たちが前に居る ロキが言う
「…そうか 助かった …俺は 諸卿に頼りきりだな」
大臣らが微笑み言う
「いえ、事務的な事に加え 国政に関しましても 今回は我々の方で可能な限りを行う様にと 予てよりラグヴェルス前陛下から 仰せ付かっておりますので… どうぞこれからも お気遣い無く 我々へお任せ下さい ロキ陛下」
他の大臣らが頷いて見せる ロキが苦笑して言う
「…ああ 頼りにしている …とは言ってもな 国王である俺が スプローニの国政を把握出来ていないと言うのは やはり問題だろう …これから 諸卿の時間のある時にでも 俺へ教えてくれないか?」
大臣らが苦笑し大臣が言う
「はい ロキ陛下がそう仰るのでしたら… ただ、国政と一言に言いましても 特にこのスプローニに関しては 少々込み入っておりますので 我々はともかくとして 陛下のお時間を考えますと…」
他の大臣が苦笑して言う
「そうですな… 概要だけでも ざっと1、2年ほど掛かってしまうかもしれませんな?」
ロキが衝撃を受けて言う
「が… …概要だけで そんなに か…?」
他の大臣が言う
「はい、その間にも情報は増える事を考えれば 概要から内容へ踏み入る頃には 内政外政共に 今とはだいぶ変わっていると思われます 特に 今は変化の激しい時にありますので それらを考えますと 一通り国政が落ち着きました頃にでも 改めて始められた方が宜しいかもしれません」
大臣らが頷き合ってロキへ向く ロキが表情を困らせて言う
「…スプローニは ベネテクト程ではないが この大陸において歴史の浅い国であるとされている …そうであっても 国の情報と言うものは そんなに膨大なものなのか?」
大臣らが顔を見合わせ苦笑した後 大臣が言う
「確かにスプローニは ツヴァイザーより分裂した新国にして その歴史はベネテクトに近い短さではありますが 一部隊が建国した国であり 尚且つ 他国とは異なるさまざまな点故に 内政はもちろんですが 引いては他国との関わり 外政が特に複雑になっております それらを把握するには スプローニの歴史 先住民族の犬たちやシュレイザーの先住民族も大きく関わり 更にはソルベキアの…」
ロキが困り焦って言う
「ま、…待ってくれ …今は それ位で …十分だ」
大臣らが呆気に取られ顔を見合わせ苦笑する ロキが表情を困らせて言う
「…参ったな」
大臣らが苦笑して言う
「これらの事は かつてはスプローニの王族が 幼い頃より学ぶものでした …ですので どうか、ロキ陛下の世代におきましては 我々へ御一任下さい 勿論、重大な決定事に関しましては ロキ国王へ十分なご説明を致しました上で ご判断を仰ぐと言う事で」
ロキが表情を困らせつつ言う
「…ああ …そう なりそうだな」
他の大臣が言う
「その間に我々は 時期国王となられる レビ王子の方へ本格的に国政をお教えいたしませんとなりませんが… レビ王子の外遊は いつ頃終了なさるのでしょうか?」
ロキが衝撃を受ける 他の大臣が大臣らへ言う
「レビ王子は現在17歳であったな?少々遅いくらいだ… そろそろ始めねば こちらも間に合わなくなってしまう」
他の大臣が大臣へ言う
「そうだな せめて王子が どれほどスプローニの歴史をご存知であるのか その辺りの確認程度はしておかねば こちらの準備も出来かねるな?」
ロキが一瞬呆気に取られた後困惑して言う
「…そうか 今更だが あいつが時期スプローニ王か」
大臣らがロキへ向いて言う
「はい、もちろんです!…それとも ロキ陛下は 他の者へ王位を譲られるおつもりで?」
他の大臣が慌てて言う
「そうということでしたら そちらの方へお教えしなければ…っ ロキ陛下?その様な予定があられるのでしょうか?」
ロキが衝撃を受け慌てて言う
「あ…っ …いや …まだ 次の事までは…」
大臣が言う
「そうですか では お決まりになりました際は どうか 我々にも 可能な限りお早めにお知らせ下さい」
他の大臣が言う
「それまでは レビ王子へお教えする方向で宜しいでしょうか?そのつもりで 準備の方を整えますので」
ロキが困惑しつつ言う
「あ… ああ…」
大臣らが顔を見合わせ微笑み合った後 大臣が言う
「所でロキ陛下?当のレビ王子は 現在 何処にいらっしゃるのでしょうか?」
ロキが沈黙する 他の大臣が言う
「我々としましては 可能であれば 一度でもスプローニへお戻り頂き まずはご挨拶と 今後の事についてのお話を致したいのですが… そもそも 陛下は王子とのご連絡を 取られておるのでしょうか?」
大臣らがロキを見る ロキが無表情に焦りの汗を掻きつつ 間を置いて言う
「… …連絡は 取っていない」
大臣らが一瞬呆気に取られ顔を見合わせた後言う
「では レビ王子は現在どちらに?」
ロキが長い間を置いた後答える
「… … … …分からん」
大臣らが沈黙して呆れの汗を掻く
【 第5プラント バッツスクロイツの家 外部 】
レビが物陰に隠れつつ 遠くを確認する 周囲は瓦礫の廃墟遠くを帝国軍の車が走っている レビが目を細める 帝国軍の車が止まる レビが疑問する
「…?」
レビが注目していると 帝国軍の車から帝国ロボが下ろされる レビが目を細めて言う
「…あれはっ バッツが言っていた 帝国軍の機械兵士かっ!?」
帝国ロボがレビへ向く レビがハッとして身を隠す 帝国ロボがレビへ向かって移動する レビが表情をしかめて小声で言う
「…クッ まさか この距離で 見つかったっ!?」
レビが片手をコートの中へ入れ銃を取り出そうとする 帝国ロボが止まりレビの隠れている物陰を見据えレーザー照準を合わせる レビが銃を握り締め考える
『…どうする!?応戦を…っ?だが… そのせいで 俺だけではなく 皆の存在が…っ!?』
レビが銃を握り締める 足元にねずみがやって来てチュウチュウと鳴く レビがハッと驚き言う
「…チッピィッ!」
帝国ロボがランチャーを発砲する レビがはっとすると 物陰にしていた物が吹き飛ぶ レビが瓦礫と共に飛ばされ 瓦礫の下敷きになる レビの腕の隙間に守られていたチッピィが顔を向ける レビが瓦礫に押しつぶされそうになっていて 義手を柱にして瓦礫を支えている 義手が瓦礫の重さに悲鳴を上げる レビが押しつぶされそうになりつつ顔をしかめて言う
「…グッ」
チッピィが心配してレビを見て チュウチュウ鳴いた後ハッと気付いて物陰から出て外を見る 帝国ロボが瓦礫を退かしたりしながら周囲を確認している チッピィがレビを見る レビは義手が壊れかけ瓦礫に頭が押しつぶされそうになる チッピィがレビへ向かおうとするが 再び帝国ロボへ向く 帝国ロボがレビの居る瓦礫に顔を向ける チッピィがはっとして帝国ロボとレビを交互に見る 帝国ロボがレビの方へ向かう レビが銃を柱にして瓦礫を抑え視線を瓦礫の向こうに迫っている帝国ロボへ向ける 帝国ロボが瓦礫に手を掛ける レビが視線を強める チッピィが意を決して 瓦礫から帝国ロボの視界に出て行く 帝国ロボがチッピィを見る チッピィがチュウチュウと鳴いてから 逃げ去って行く 帝国ロボがそれを見たまま止まっている レビがチッピィの行動に呆気に取られている
帝国軍の車
車内に居る帝国兵2人 Yが言う
「ネズミ?…先程の熱源はあれか?」
Xが言う
「かもな?超高性能熱源探知機 …性能が高過ぎるのも問題か」
Yが言う
「…だな?そもそも この一帯は先の浄化作戦で 殲滅させたんだ 人所か犬や猫さえ残っていないと言う話だったが …ネズミぐらいは居るのかもしれん」
Xが言う
「なら、偵察ロボは回収して良いか?無駄遣いして砲弾だけじゃなく 燃料を浪費したとあっては またどやされる…」
Yが言う
「ああ… 最近はうるさいからな 回収してくれ」
Xが操作をしながら言う
「了解」
レビが見つめる先 動きを止めていた帝国ロボが上体を戻し 旋回して帝国軍の車へ戻って行く レビがホッと息を吐く 帝国ロボが帝国軍の車へ回収され 帝国軍の車が去って行く レビがそれらを確認した後瓦礫の隙間から一気に身をすり抜けさせる 瓦礫が崩れ落ち砂埃が収まった先 レビが仰向けに居る チッピィがやって来て顔の横でチュウチュウと鳴く レビが視線を向け苦笑して言う
「…チッピィ …また卿に 助けられた」
チッピィが驚く レビが身を起こし壊れかけた義手を抑えながら 瓦礫に身を隠しつつ言う
「…戻るか これ以上 危険を冒すわけに行かん」
チッピィがチュウチュウ頷く レビがチッピィへ手を向ける チッピィがレビの手を伝って肩へ乗る レビが周囲を警戒しながら移動し 地下室への入り口を隠して置かれている壊れたドアを退け その先へ向かう
レビが通路を抜け 奥の扉を開くと その先 地下ラボでバッツスクロイツがコンピュータを操作している 金田がレビへ向き言う
「あ!お帰り レビ!何~処行ってたんだよ?お前の2人の相棒 すっげー心配してたぜ?」
ブレードがレビへ向く 金田がブレードを見て苦笑した後疑問して言う
「あれ?もう一人…てか もう一匹は?」
チッピィがレビの肩でチュウチュウと鳴く 金田が気付き言う
「居た!なんだ そっか、お前がレビを 呼んで来てくれたのか」
レビが疑問して言う
「…俺を呼んで?」
金田が微笑して言う
「ああ、やっとこれからの行動が決まったんだ だから 俺やコイツやねずみさんで アンタを探してたんだ けど、何処の部屋にも居なくて… 一体何処に行ってたんだよ?」
バッツスクロイツがコンピュータの操作を終え一息吐き後方の皆の方へ椅子を向けながら言う
「よーしっと!」
レビが金田へ答える
「…少し 外の様子を確認しようと」
バッツスクロイツが驚き怒って言う
「外の様子をって!?まさかっ 地下階段を隠している あの扉の外へ行ったんじゃないよね!?」
レビが言いづらそうに言う
「…少し位ならと」
バッツスクロイツが怒って言う
「何で!?駄目って言ったでしょっ!?あの扉は あらゆる探査システムを防ぐ特殊合板で作られているし ここは 地下20メートルだから 探査システムにはバレないけど 帝国の超高性能熱源探知機なら 地上に居る人をキャッチする事なんて それこそ100メートル先の物陰だって可能なんだ!ここは君たちの第2プラントとは違う!もっと機械技術の発展した大陸なんだから!勝手な行動はしないで!」
レビが呆気に取られた後 視線を落として言う
「…すまん …軽率だった」
バッツスクロイツが表情を困らせる 金田が驚き呆気に取られていた状態から苦笑して言う
「ま、まぁまぁ~?本人も反省しているし 謝ってるんだ… それに 別の世界 …じゃなかった 別の大陸の事って言うのは 誰だって分からないもんだぜ?俺だって… 初めてヴィクトールたちの大陸へたどり着いたときなんて まるで演劇の会場に入っちまったのかと思ったくらいで」
バッツスクロイツが金田の言葉にハッとする レビが表情を落とす チッピィが心配そうにレビとバッツスクロイツを見る バッツスクロイツが気を取り直して言う
「…そう…だよね うん、…ごめんレビ 俺… 俺っち!ちょっち言い過ぎちゃいましたーって感ーじー!?」
レビが呆気に取られる 金田がバッツスクロイツを見る バッツスクロイツがバツの悪そうな表情で言う
「このプラントの状況は… 俺が居た頃よりずっとずっと悪化してて …ちょっと参っちゃってたんだ それで …ごめんっ!」
バッツスクロイツがレビへ手を合わせて言う
「うん!元はと言えば 超高性能探知機の事なんかも?しっかり説明ーしなかった!俺っちが悪かったんだもんね!」
金田が微笑する レビが言う
「…いや …卿は高性能なその類のものが有る為 それを遮る あの破損した扉の外には出ないようにと …確かに言っていた 今回の事は 俺の過失だ すまない …今後は 卿の指示に全面的に従う」
金田がレビとバッツスクロイツを見てから苦笑し笑んで言う
「よーし!これぞ 雨降って字固まる!って奴だ!」
バッツスクロイツとレビが呆気に取られ バッツスクロイツが疑問して言う
「雨降って…じかたまる?」
金田が苦笑して言う
「ちょっと失敗する事で それ以前よりずっと良くなるって事さ!これで バッツも レビも 互いの信頼が確固たるものになった!…って 感じ するだろ!?」
バッツスクロイツが苦笑して言う
「ああ… どっちかって言ったら 年下のレビっちが 俺よりずっと大人だって事が分かったよ イキナリ怒り出したりした俺を 許してくれたし その俺の指示に 今後は従うだなんて 中々言えるものじゃないもの」
レビが言う
「…いや、俺は本心で言ったんだ 卿の忠告を無視したお陰で 先程は 本当に死に掛けた まるで 俺たちの大陸にある ソルベキアのロボット兵… あれの小型なモノに襲われ 俺は… このチッピィに 助けられた」
チッピィが嬉しそうにチュウチュウ鳴く 金田が呆気に取られる バッツスクロイツが言う
「ソルベキアのロボット兵に似た 小型のモノ…か 多分 帝国の探査ロボだね」
レビが言う
「…探査ロボ?…俺は卿が言っていた 機械兵士と言うものかと思ったのだが?人の様に両腕が有って ランチャー砲を使用した」
バッツスクロイツがコンピュータを操作しながら言う
「うん、それなら 間違いなく探査ロボだ これだろ?」
モニターに探査ロボの映像が映し出される チッピィが驚いてチュウと鳴く レビが眼を細めて言う
「…ああ これだ …では 機械兵士と言うのは?」
バッツスクロイツがコンピュータを操作しながら言う
「帝国の機械兵士は 用途によって多少違うけど 大きさは探査ロボより一回り小さいかな… 基本的に対人兵器であって 何より…」
モニターに様々な機械兵士が映し出される レビと金田が見る バッツスクロイツが言う
「機械兵士たちには ヒューマンパーツが… 人の脳みそが使われているんだ だから 大きさも 人と同等が良いとされてる」
レビと金田が視線を強め 金田が言う
「人の脳みそだけ… しかも その人の記憶や何やらは 全部消されてるんだろ?…酷い話だよな」
バッツスクロイツが言う
「この場合 記憶は消去されていると言うより 記憶を保存している部分を 削り取られていると言った方が正しいかな… だから、記憶喪失や 記憶の封印とは違って …どんな奇跡が置きたって その脳核が 失った記憶を …自己を取り戻す事は無いんだ」
レビが義手を握り締めて言う
「…恐ろしい 話だ」
バッツスクロイツが表情を悲しめて言いながらレビたちの方へ体の向きを戻す
「うん… って!?レビっち!」
バッツスクロイツが驚く レビが呆気に取られて言う
「…レ、レビっち?」
バッツスクロイツがレビの義手を掴んで言う
「どうしちゃったの!?これっ!」
レビが言う
「あ… …ああ、先程の 探査ロボの攻撃で …いや、厳密に言えば それによって破壊された 瓦礫を支え …その重みで」
バッツスクロイツが表情をしかめて言う
「神経経路の配線が密集してる この間接部がこんなに曲がっちゃってっ レビっち腕痛いでしょっ!?」
レビが困りつつ言う
「…ああ …だがこの義手は 以前から多少痛みがある物で …少し悪化した程度だ 我慢できないほどでは」
バッツスクロイツが立ち上がって言う
「もうぅ!これだから 意地っ張りなスプローニの人はっ!今から今後の作戦 説明するつもりだったけど そっちはちょっちタンマッ!レビっち こっち来て!」
バッツスクロイツがレビの腕を引いて部屋を出ようとする レビが呆気に取られされるがままに続く バッツスクロイツが振り返って言う
「デス、悪いけど さっきのまとめといてくれ こっちの文字を全部第2プラントの文字に変換して 出来たら 金っちにも分かるように それから、金っちとブレードっちは 終わったら頼みたい事があるから 今のうち 休んでおいてくれる?」
アンドロイドのデスが頷く 金田が一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「了解!楽しみにしてるよ!キャプテン!」
バッツスクロイツが呆気に取られて言う
「へ?キャプテン?」
金田が微笑して言う
「当然だろ?バッツは俺たち 連合艦隊の艦長さ!アンタの舵取りに 俺の命預けるぜ!」
バッツスクロイツが驚き呆気に取られる ブレードとアンドロイドのデスがバッツスクロイツへ向いて頷く バッツスクロイツが呆気に取られているとレビが言う
「…俺もだ キャプテン 卿に 預ける …そして」
皆がバッツスクロイツへ向く レビが言う
「…卿の指令なら 俺はどんな作戦も遂行してみせる」
バッツスクロイツが呆気に取られた後 微笑んで頷く
【 ソルベキア城 地下牢 】
月明かりが差し込む アシルがあくびをする ザッツロードが考え事をしていてアシルを見てから 間を置いて言う
「…何故 …ですか?」
アシルが眠そうに言う
「ふあ… あぁ…?」
ザッツロードが表情を落として言う
「アシル王子は… 何故 スプローニの王位を 継承しなかったんですか?」
アシルが視線を強める ザッツロードが強い視線で言う
「ロキが強い銃使いである事は 十分知っています 仲間として… 1人の人としても、彼はとても優秀な人です しかしっ …アシル王子も先程言っておられました スプローニに住む全ての者が スプローニの宝であると そして、これからのスプローニのあり方や その後の事 …僕には ロキが そこまでの思想を持って居るとは思えない 彼は一人の銃使いであり 一人の兵士でした スプローニの第二部隊長の隊長として これからも戦い続けるべきでは なかったのでしょうかっ!?」
アシルが沈黙する ザッツロードがアシルへ言う
「アシル王子!?」
アシルが目を閉じて息を吐き ザッツロードへ背を向けて言う
「…あいつは優秀な奴だ 物事を全体的に見る事も出来る 人の使い方も…何とかなるだろう アバロンや …お前 他の国とも認識が強い 今後のスプローニの発展には程良いんだろうがよ…?」
ザッツロードが怒って言う
「誤魔化さないで下さいっ!スプローニの世襲王位継承は!スプローニ国の建国以来 ずっと途絶えることなく一血族で続いていますっ よほどの事が無い限り その純血の王制が変わる事なんて有り得ないっ!そして… 貴方は スプローニ王としての資格を 十分に持ち合わせています!…なのに何故!?どうしてロキなんですか!?スプローニを捨てて 貴方はこんな所で遊んでいて良いのですか!?」
アシルが人知れず唇を噛み 左手を右手で握り締める ザッツロードが叫ぶ
「アシル王子っ!」
アシルが叫ぶ
「うるせぇええっ!」
ザッツロードが黙って見つめる アシルが腕を握り締めて言う
「スプローニを捨てるだぁ…!?んな事… して たまるか…っ」
ザッツロードが悔しそうに言う
「ならっ!どうしてっ!?」
アシルが言う
「俺はっ!… …銃を持てねぇ…」
ザッツロードが疑問する
「え…?」
アシルが静かに言う
「…俺ら王家始まって以来の 遺伝って奴だ スプローニの王族には 必ず現れる …筋肉も神経も何の異常もねぇ癖に 唯一 銃を撃とうとすると 指一本動かせなくなる」
ザッツロードが呆気に取られる アシルが言う
「…今までの 歴代のスプローニ王たちも 皆、左右どちらかの手にその症状が現れた …親父は右だった だから 利き手は右だが 銃だけは左で… それでも上等な銃使いとしての腕を持っていた …だが 俺は」
ザッツロードが言う
「アシル 王子は?」
アシルが苦笑して言う
「ははっ… 俺はな?一族始まって以来 初めて その症状が… 両手に現れたんだ」
ザッツロードが驚く アシルが笑んで言う
「それで親父は 俺ら一族が スプローニの王位を譲り渡す その時だと考えたらしい …だから俺には 王位を譲らなかった …最初からそのつもりでいやがったんだよ 親父は だから 国王としての教育を 俺には何一つさせようとしなかった …スプローニには 他国を超える膨大な 国政があるってぇのに」
ザッツロードが言う
「他国を超える…?スプローニは それ程 歴史の長い国では なかった筈ですが?」
アシルが笑んで言う
「だからこそ そこには 歴史の長い他国との複雑な関係があるんだ その中でも特に 先住民族とのかかわりが深い シュレイザーやソルベキアなんかがなぁ?…スプローニが先住民族を重んじるのは 何もスプローニの民が犬好きだからとか そんな簡単な話じゃねぇ …ただの一部隊だった連中が 国として認められるには 様々な力を味方に付け それを利用し 時には利用されなけりゃ ならなかった」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「利用するだけではなく 利用される必要が…?」
ザッツロードが気を取り直して言う
「国を司る者として 第一王子であった兄上と 同等の教育を受けていた僕でも そんな事は聞いた事も」
アシルが苦笑して言う
「ローレシアほどの国ともありゃぁ 必要ねぇんだろうよ?うちにはうちの… お前ん所には お前ん所なりのやり方が あってしかるべきだ …だからこそ 親父がそれを 俺に学ばせようとしなかった事が …俺には許せなかった」
ザッツロードがアシルを見る アシルが苦笑して言う
「だから 仕返しに 親父が唯一教えようとした スプローニ国憲法は 覚えてやらなかったぜ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?スプローニ国憲法を…?王子であった 貴方が?」
アシルが言う
「へっ!あんな見せ掛けだけのモンなんざ 俺にはどうでも良いんだよ …もっとも 独学でスプローニの国政を学んでた俺には そこまでやる余裕なんざ これっぽっちも無かったが…」
ザッツロードが驚いて言う
「独学で…!?国王としての一国の国政を 独学で学ぶだなんて… 僕には想像も出来ない」
アシルが息を吐いて言う
「いつか見返してやろうと思ってたんだがな?フー… あんな苦労したってぇのに 結局… 何んっの役にも立たなかったな…」
アシルが目を閉じる ザッツロードが見つめている
【 ソルベキア国 近郊 】
ジークライトが茂みから顔を出し 周囲を見た後顔を引っ込めて言う
「警備兵なんかの姿は 全然 見えねーぜ?これの何処が 超厳重警戒なんだ?デス?」
ジークライトが振り返った先 デスが目を閉じて周囲にプログラムを発生させていて言う
「警戒は物理的にではなく ソルベキア城とスファルツの屋敷周囲に 今までの数倍の赤外線センサーが起動している」
ジークライトが疑問しつつ 再びソルベキア城を見ながら言う
「セキガイセンセンサー?」
デスが目を開きジークライトを見ながら周囲のプログラムを動かしつつ言う
「今… それらのセンサーを回避 もしくは無効化するプログラムを…」
ジークライトが目の前にある赤外線センサーに気付き指で触れようとする デスがジークライトの肩を掴み 引き込んで言う
「…作っている最中だ 手始めに赤外線センサーを お前の目でも認識出来るプログラムを実行させた 今 お前の目の前に見える赤い線 それが赤外線センサーを目視化したもの …それに触れると ソルベキアのシステムに感知される …分かったか?」
ジークライトが慌てて赤外線センサーから離れて言う
「おわっ ま、まじかよ?こんな赤い線で?」
デスが苦笑して言う
「実際には目に見えるものではなく 手で触れられるものでもない だが… そうだな その線と同じ様に 水が流れていると考えれば良い その水に触れれば」
ジークライトが納得して言う
「そうか!この水の流れを止まらせると それが 下流のソルベキアに ばれちまうって事だな!」
デスが苦笑して言う
「フッ… そう言う事だ だから」
デスが示して言う
「それらの 赤い線には一切触れず スファルツの屋敷へ向かわねばならない」
ジークライトが笑んで言う
「よし!まかせ…!…って」
ジークライトが呆気に取られて言う
「どうやってやれってんだよっ!?これをっ!?」
ジークライトの先 無数の赤外センサーが張り巡らされている
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが体育座りで膝を抱えて考えている
回想
幼いザッツロードが表情を困らせ本を読み漁っている キルビーグ2世がやって来て微笑して言う
「ザッツ どうしたんだ?そんなに悩んで」
ザッツロードが顔を上げ言う
「あ、兄上」
キルビーグ2世がザッツロードの横から本を覗き込んで言う
「うん?何だ 他国の国勢調査書じゃないか?ザッツ 父上も言っていただろう?まずは自国の事を知らなければ 他国の事はそれからだと」
ザッツロードが困って言う
「はい… しかし 兄上 兄上は ローレシアの活力を上げる方法を父上から問われ ソルベキアでも アバロンでもない 他の国との親睦を深めるべきであると すぐに意見を述べていました でも 僕は…」
キルビーグ2世が呆気に取られ ザッツロードの見ていた調査書を見た後笑って言う
「あっはははっ ザッツ 私は何も ソルベキアやアバロンや その他の国の情報を知っていたから あのような意見を 父上へ申し上げた訳ではないぞ?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?ち、違うのですか?」
キルビーグ2世が言う
「ローレシアは今新たに アバロンの大剣使いたちと交流を深めようとしている けれど… 正直、難しい それは誰にでも分かっている事だ アバロンにはガルバディアがある そして 既に我らローレシアと協力関係にあるソルベキアだが… 彼らがローレシアに来てから ローレシアの魔法使いたちは活力を失ってしまった 父上はその状況を改良しようと思案しているが」
ザッツロードが見つめる キルビーグ2世が言う
「そもそも 彼らの技術が 私たちと同調するかと言う事が 問題だった 彼らの技術が凄い事は 分かっているけれど… 彼らは 我々と共にあるのではなく 彼らは彼らのみであろうとしている」
ザッツロードが言う
「それは 僕も思います なんと言うか 彼らは… その… …冷たいんです」
キルビーグ2世がザッツロードを見る ザッツロードが視線を落として言う
「僕は… 彼らが怖いです いつか 彼らが このローレシアを 奪ってしまうのではいかと…」
キルビーグ2世が呆気に取られた後微笑して言う
「そう、それで良いんだ ザッツ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
キルビーグ2世が微笑して言う
「父上が聞きたかった事は ローレシアのこれからの国策じゃない ザッツは分かっているじゃないか!」
ザッツロードが言う
「えっと…?兄上?」
キルビーグ2世が言う
「一度手に入れてしまったソルベキアとの関係を 変える事は難しい 増して それを改善する方法は もっと難しい それでも その方法を探すのなら 私は アバロンではなく 別の国を求めるしかないのではないか と …私が言ったのはそれだけの事だ」
ザッツロードが感心して言う
「わぁ… やっぱり 兄上は凄いです」
キルビーグ2世が呆気に取られた後笑って言う
「ザッツ まだ分かっていないのか?ザッツは私より もっと凄いじゃないか?」
ザッツロードが驚いて呆気に取られ言う
「へ?」
キルビーグ2世がザッツロードの肩を叩いて言う
「ソルベキアの力を得ようとした我々だったが そのソルベキアが 結果として脅威になっているんだ 残念だが ソルベキアとの関係を断ち切らなければ ローレシアは奪われる ザッツは今言っただろ?ザッツは私より3歳も年下なのに 父上や私が認識しきれていなかった その事に気付いている とても凄い事だ!」
ザッツロードが困惑して言う
「え?…えっと」
キルビーグ2世が微笑して言う
「父上は ローレシアの現状を維持したまま回復させようとしか考えておられない 私も…実はそうだった その為の方法として ローレシアへ入り込んだソルベキアを 抑える為の 他国の力を得ようと けど… やはり それは難しいんだ こうなれば 断固手を打たなければならないのかもしれない よし!ザッツ!父上へ申し上げよう!ソルベキアと 手を切るべきだと!」
ザッツロードが驚いて叫ぶ
「えぇええーっ!?」
キルビーグ2世が言う
「驚く事は無いだろう?ザッツが言ったじゃないか?」
ザッツロードが慌てて言う
「そ、そそ、それは言いましたがっ!僕にはっ そんな危険な事手に負えませんっ」
キルビーグ2世が呆気に取られた後大笑いする ザッツロードが困り怒って言う
「あ、兄上っ!?笑い事ではっ!」
キルビーグ2世が微笑して言う
「ザッツ ローレシアは 国王一人で行っている訳じゃない ザッツや私が父上へ申し上げれば 父上はそれを ローレシアの皆で話し合い そして、皆で判断する …もちろん その最終決定をするのは父上になるけれど その時は ローレシアの皆が父上の味方だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「皆が… 味方に?」
キルビーグ2世が頷いて言う
「そうだよ ザッツ 国王は一人じゃない ザッツや私… 国の皆と共に一国を作り守る者だ だから ザッツも自分の思いや考えを どんどん父上へ なんなら私へ言ったら良い 一人で悩み 書庫に篭るのではなく 皆で考え 皆で共に 戦うんだ」
ザッツロードが尊敬の眼差しで言う
「兄上… はいっ!分かりました!」
キルビーグ2世が微笑して頷いて言う
「よし!行こう!ザッツ!」
キルビーグ2世が手を差し出す ザッツロードが喜んで手を向けて言う
「はい!兄上!」
回想終了
ザッツロードが強い意志で顔を上げて言う
「はいっ 兄上っ」
ザッツロードが顔を向ける アシルが背を向けている ザッツロードが立ち上がる
【 スプローニ城 玉座の間 】
大臣が言う
「ロキ陛下 たった今 アシル元王子の居場所と 状況が判明致しました」
ロキが言う
「…居場所の方は ソルベキアではなかったのか?」
大臣が言う
「はい、ソルベキアはソルベキアで間違いは無いのですが その詳細となります 所在場所は ソルベキア城の地下牢であると」
ロキが言う
「…地下牢?」
大臣が紙書類を見ながら言う
「はい」
ロキが溜息を吐いて言う
「はぁ… …では その罪状の方は やはり酒乱による?」
大臣が言う
「その罪状なのですが 不審な事に 酒乱などの酒による罪状とは なっていないのです」
ロキが疑問して言う
「…酒による罪状ではない?…では 一体何であると?」
大臣がロキへ向いて言う
「不明…であると」
ロキが困惑し言う
「…では やはり 酒乱による迷惑条例にでも」
大臣が言う
「いえ、この事は我々にとって むしろ 怪しく思われるのです」
ロキが疑問して言う
「…どういう意味だ?」
大臣がロキへ向いて言う
「ソルベキアは我々スプローニにとっても 関係の薄い国ではございません ラグヴェルス前陛下は勿論ですが アシル王子… 失礼、アシル元王子も 個人的にソルベキアとの関わりを持っておられました いわば ソルベキアはアシル元王子の事を 良く知って居る筈なのです 従って もし、アシル元王子を拘束する 何らかの必要があるのなら その罪状には 酒乱による迷惑条例抵触とでも記載して 公の元 拘束すれば済む事です それを行わず 秘密裏に拘束していた… この事は とても不審であると 思えて成りません」
ロキが軽く首を傾げて言う
「…ソルベキアがアシル元王子を 拘束したいのであれば その事実を隠すと言うのは通常ではないのか?わざわざ拘束の事実を表に出し 偽の罪状である条例抵触を記載する位ならば 拘束自体を隠す方が」
大臣が言う
「アシル元王子は 元王子であられます 現王子であるのならともかくとして 元の王子が国を追われている現状において その者を罪状を持って捕らえたとあれば 当のソルベキアから賠償請求を起こさない限り スプローニから釈放を求める事は 無いと言うのが 当然の事です …王位を継承したロキ陛下にとって現状 アシル元王子は 自由な身でない事が 返って好ましい訳でありますので」
ロキが視線を強める 大臣が言う
「そうでありながら ソルベキアはアシル元王子の存在を 我々へ隠しました」
ロキが言う
「…ソルベキアはアシル元王子から このスプローニの情報を 聞き出そうとしているとも考えられる …元とは言え 王子であった者だ スプローニの重要情報を」
大臣が目を伏せて言う
「…ラグヴェルス前陛下は スプローニのそれらを アシル王子には隠しました アシル王子が知っているのは 国の有り方に関する国政の表面部分に過ぎません …スプローニの重要情報と言えるものに関しては 何度問われようとも 我々はお教えしていないのです」
ロキがあっけに取られた後 間を置いて言う
「…そうなのか …ラグヴェルス陛下は やはり あのアシル王子の事を 早くから見放していたのだな」
大臣が驚いてロキを見る ロキが視線を逸らして言う
「…正直に言えば スプローニの一兵士として この国を守っていた頃から …俺はあのアシル王子に関しては 気に病んでいた …あの者が 後のスプローニ王となるのかと」
ロキが軽く額を押さえ苦笑して言う
「…まぁ まさかその王位を 俺が譲られるとは思っても居なかったが スプローニ国憲法の一つもまともに言えない王が このスプローニの王に なろうなどとは 俺はもちろん 他の兵や民たちも」
大臣が表情を悲しめて怒って言う
「アシル王子はっ!」
ロキが驚いて大臣を見る 大臣がハッとして慌てて紙資料をいじりながら言う
「し、失礼致しました… え、ええとっ ああ、そうでした 他にも… はい、ロキ陛下から確認を命じられておりました…」
門兵が伝達する
「ベルグル第二国王陛下の御帰城…」
犬のベルグルが門兵の伝達の途中で駆け込んで来る 大臣が続けて言う
「ベルグル第二国王の居場所につきましても情報が」
ベルグルがロキの横へ来て吠える
「わんっ!」
ロキが大臣へ向いて言う
「…その報告は たった今 不要となった」
大臣が疑問して顔を上げ言う
「…は?…あっ」
大臣がベルグルの存在に気付く ロキが不満そうにベルグルへ言う
「…以前も言った筈だ ベルグル …第二国王となったからには」
ベルグルがハッとして吠える
「わふっ!?うぅう~~わんっわん ぅ~~うわふっう~…わんっわんっ!」『あー!ご、ごめんなさいッス!ロキ隊長!第二国王となったからには 勝手に長い間 国を空けてはいけないッス!それは 俺もちゃんと覚えていたッスよー!けど!今回はちょっとッスね!それ頃じゃない位 大変なんッスよー!ロキ隊長ー!』
ベルグルがワンワン吠えている ロキが嫌そうに言う
「…ええいっ 無駄吠えはするなと これもいつも言っているだろう!」
ベルグルが衝撃を受け吠える
「わんっ!?わんっわわんっ!」『あー!そうだったッス!今は犬の姿だったッス!忘れてたッスー!』
ロキが腕組みをして言う
「…そもそも …俺が卿を最後に見た時 卿は紛れも無く人の姿であった …勝手に先住民族の姿へ戻るなとは言わんが 再び人の姿になりたいからと それを理由に ここへ戻って来られるのでは 堪らんのだが?」
ベルグルが困り鳴いて思う
『うー そ、それはっ… そんなつもりは無かったッスけどっ けど、今はそれも必要かもしれないッス!ロキ隊長!だからお願いしますッス!俺をっ!』
ロキがムッとして言う
「…何を言っているのか分からん …そもそも、第二国王ともなる者が ワンワンと吠えたぐるな」
ベルグルが衝撃を受け クーンクーンと鳴く
『あー!そうだったッスー!俺らはどっちの姿であっても どっちの言葉も分かるッスけど!後住民族の人たちは 俺たちの言葉が 分からないんだったッスー!こんな時 どうしたら良いッスかー!?俺分からないッスよ!こんな大変な時なのにッスー!』
ロキがムッとして言う
「…第二国王たる者!その様な情けない吠え方をするなっ!」
ベルグルが慌てて吠える
「わんっ!」
ロキが言う
「…良し」
ベルグルが嬉しそうに尻尾を振る 大臣が呆れの汗を掻く
ロキが宝玉の欠片に意識を集中させる欠片から光が放たれ ベルグルの体に光が纏わり ベルグルが人の姿になる ロキが軽く息を吐いて欠片をしまう ベルグルが慌てて言う
「ロキ隊長!大変ッスよ!」
ロキがムッとして言う
「…その前に?」
大臣が疑問する ベルグルがハッとして慌てて言う
「う…?あ!俺を人の姿にしてくれて 有難うございますッス!ロキ隊長!」
ロキが満足げに言う
「…良し その言葉は 誰に対してでも忘れるな スプローニ国憲法二千六条三項 例え国王であろうとも 謝意を示す言葉は決して忘れてはならない… これは第一国王である現俺へ対してのものだろうが 第二国王である卿とて 守るべきだろう」
ベルグルが言う
「はいッス!ロキ隊長!」
ロキが言う
「…それで?」
ベルグルがハッとして言う
「ハッ!そうだったッス!大変ッスよ!ロキ隊長!」
ロキが腕組みをして言う
「…だから 何が大変なのかと聞いている」
ベルグルがロキへ詰め寄って叫ぶ
「アシル王子が!ソルベキアに捕まっちゃってるッス!」
沈黙が流れる ロキが間を置いて言う
「…知っている」
ベルグルが驚いて言う
「へ!?…あ!ろ、牢屋にッスよ!?ソルベキアの連中が!アシル王子を地下牢に捕らえてるッスよ!」
ロキが息を吐いて言う
「…それも、つい先程 大臣より伝え聞いた所だ」
ベルグルが衝撃を受け驚いて叫ぶ
「えー!そうだったッスかー!にしても 流石 ロキ隊長ッス!こんな一大事にも 相変わらずチョー冷静沈着ッス!」
ロキが呆れて言う
「…卿はどんな時でも 慌しいな」
ベルグルが衝撃を受け困って言う
「うー…っ そ、それは… これから俺も!ロキ隊長みたいになれるように頑張るッス!けどっ!」
ロキが疑問して言う
「…けど?」
ベルグルがロキへ詰め寄って言う
「やっぱり俺はっ!こんな時は そんな風にしていられないッス!ロキ隊長!」
ロキが言う
「…卿の言う こんな時は と言うのは 今までの卿の言葉から推測して アシル元王子がソルベキアに捕まっている時において …と言う事で良いのか?」
ベルグルが焦って言う
「そうッス!それで良いッスよ!大正解ッスー!」
ロキが言う
「…では 改めて問おう …卿は 何故それほどまでに 取り乱している?」
ベルグルが驚き困り怒って言う
「何故って… 当たり前ッス!アシル王子が ソルベキアに捕まってるんッスよ!でもって…!」
ベルグルがはっとして表情を和らげ喜んで言う
「…あ なるほど そうなんッスか?…すごいッス …凄いッス!ロキ隊長!流石はロキ隊長ッス!やっぱり ロキ隊長は凄い人ッスー!」
ロキが不満そうに言う
「…ええいっ 相変わらず卿は!主文が抜けているぞ!それも正す様にと言った筈だ!」
ベルグルが衝撃を受け慌てて言う
「あー!そうだったッス!御免なさいッス!ロキ隊長!俺、あんまりにもロキ隊長が凄すぎて 主文も何も お留守になっちゃったッスよー!」
ロキが溜息を吐き 片手で頭を抑えて言う
「…はぁ …それで?今度は 一体 何が凄いんだ?好い加減 落ち着いて話せ」
ベルグルが衝撃を受け慌てて言う
「はっ!…はいッス!ロキ隊長!ロキ隊長は凄いッス!主文は もうとっくに ソルベキアへ スプローニの部隊を向かわせているって事ッス!」
ロキが疑問して言う
「…?…俺はそんな事は まったく していないが?」
ベルグルが衝撃を受け叫ぶ
「…う?…えぇええーーッスー!」
ロキが言う
「…そもそも 何故スプローニの部隊を ソルベキアへ向かわせる必要がある?」
ベルグルが慌てて言う
「それはっ もちろんッスね!」
伝達兵が走り込んで来て叫ぶ
「ロキ陛下!大変です!友好国ローゼントに!ソルベキアの部隊が進軍しました!」
ロキが驚いて言う
「何っ!?」
【 ローゼント城 玉座の間 】
ローゼント兵が駆け込んで来て叫ぶ
「申し上げます!ソルベキアへ向け再三発信いたしました アンネローゼ様の声明に対する ソルベキアからの返答はございません!尚 奴らは現在も 我らローゼントへ向け 兵を進軍させております!」
アンネローゼが言う
「ローレシアのキルビーグ国王からのお返事は?」
大臣が言う
「ソルベキアへ在中させている ザッツロード7世王子とは 未だ連絡が繋がらないとの事です」
アンネローゼが言う
「…そうですか それでは 仕方がありません ヴェルアロンスライツァー」
ヴェルアロンスライツァーが傅いて言う
「はっ!」
アンネローゼが言う
「直ちに ローゼントに居る 全ての兵を戦闘配備へ 共に、私の方から 貴方の名を持って スプローニのロキ国王へ 援軍の要請をいたします 宜しいですね?」
ヴェルアロンスライツァーが礼をして言う
「はっ!ヴェルアロンスライツァー 直ちにローゼントの全軍を持って交戦の準備に当たります!スプローニ王への伝達は アンネローゼ様へ御一任致します」
アンネローゼが頷いて言う
「分かりました では そちらは頼みます」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「御意!」
ヴェルアロンスライツァーが立ち去る アンネローゼが言う
「通信を!直ちにスプローニへ繋ぎなさい」
【 スプローニ城 玉座の間 】
ロキが立ち上がり言う
「…直ちに スプローニ第三部隊 共に魔法銃使い部隊を ローゼントへ送れ!」
スプローニ兵が返事をして立ち去る
「はっ!」
ベルグルが驚いて言う
「ローゼント… ヴェルアロンスライツァー副隊長がっ!」
ロキがベルグルへ向いて言う
「…ベルグル 卿が言っていた スプローニの部隊をソルベキアへ送れと言ったのは まさかこの事であったと言うのか?」
ベルグルが頭を左右に振って言う
「ち、違うッス!」
ロキが言う
「…そうか」
ロキが玉座へ腰を下ろす ベルグルが慌てて言う
「あっ!け、けどっ!ロキ隊長!」
ロキがベルグルへ向いて言う
「今は余裕が無い ベルグル …俺へ伝えたい事があるのなら しっかり考え まとめてから言ってくれ」
ベルグルが一瞬驚く ロキが真剣な表情で言う
「…それと、今回は 先住民族の諸卿の力を借りる事になるかもしれん 相手はソルベキア …先住民族赤トカゲの国だからな」
ベルグルが驚く ロキが言う
「…共に 諸卿のスピードは あの機械兵に匹敵する …これは あの夢の世界の情報ではあるが 相手は機械技術に優れたソルベキア …いざと言う時には その様な情報にも頼らざるを得ん」
ベルグルが一点を見据えて考える ロキがベルグルを見てから間を置いて言う
「…考えはまとまったか?」
ベルグルが表情を困らせて言う
「考えは… か、考える事が一杯あって 俺…っ 混乱しちゃってるッス でも、ロキ隊長!俺はっ!」
ロキが苦笑して言う
「フッ… 俺も同じだ ベルグル 従って 今は …何を置いても あいつを助ける事を考えろ …あいつは俺の相棒であり 卿にとっても 大切な副隊長殿だろう?色々あるが今は まず その事だけを」
ベルグルが意を決して言う
「…俺は!…ヴェルアロンスライツァー副隊長の事は 全部ロキ隊長に任せるス!」
ロキが驚いて言う
「…なん…だと?」
ベルグルが強い視線で言う
「その代わり!アシル王子の事は 全部俺に任せて欲しいッス!ロキ隊長!」
ロキが呆気に取られる ベルグルが言う
「アシル王子は!スプローニの王子様で 俺たち先住民族にとっても 大切な王子様ッス!もちろんヴェルアロンスライツァー副隊長の事は すっごく心配ッス!けどっ その心配は …やっぱり俺一匹の意見ッス!だから!ヴェルアロンスライツァー副隊長の事は ロキ隊長に任せるッス それで 俺は!スプローニの第二国王として!スプローニの犬たちの代表として!アシル王子を助けに行くッスよ!」
ロキが呆気に取られて言う
「…第二国王として …犬たちの代表として …あのアシルを?…本気で 言っているのか?ベル!?」
ベルグルが強い視線で言う
「本気ッス!犬の先住民族の皆とも 普通の犬たちとも話してきたッス!例え …ラグヴェルス陛下がアシル王子から王位を取っちゃったって やっぱり 俺たちの王子様は アシル王子で変わらないッス!これからも ずっと!アシル王子は スプローニの!俺たちの王子様ッスよー!」
ベルグルが走り去る 最中 犬の姿に戻る ロキが慌てて叫ぶ
「待てっ!ベル!ベルグル!」
ベルグルは去って行く ロキが困惑して言う
「…どう言う事だ?あのスプローニ史上 最悪の汚点とされた アシル王子に 何故犬たちが…?」
伝達兵が駆け込んで来て言う
「申し上げます!ローゼント国アンネローゼ女王より!ヴェルアロンスライツァー王配の名を持って 友好国スプローニからの援軍を要請したいとの連絡が入りました!共に情報として ソルベキア在中のローレシア国王子ザッツロード7世との連絡は 現在不通になっているとの事です!」
ロキが伝達兵を見て言う
「…そうか 分かった …援軍に関しては 既に向かわせてあると返答しろ …後 ザッツロード王子の事だったか?そちらは 了解したと返答を…」
大臣が言う
「ロキ陛下 先程申し上げ逃しました情報ですが アシル… 元王子の捕らえられております その牢には どう言う訳か ソルベキアの補佐官とされた ローレシアのザッツロード7世王子が共に捕らえられているとの事です」
ロキが驚いて言う
「何っ!?どう言う事だ!?」
大臣が言う
「詳細に付きましては 現在確認中と言う事で」
ロキが困惑して言う
「…何だ!?一体 何が …どうなっている!?」
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードがアシルの横に腰を下ろし 顔を向けずに言う
「アシル王子… 僕は 駄目な王子です」
アシルが起きていて身動きはせず視線だけをザッツロードへ向ける ザッツロードも身は動かさずに前を見据えて言う
「何とか表面的にでも 自分に出来る事はしようと思って… 王子らしくしようと思って ソルベキアの補佐官を強行した結果 こんな所に入れられる事になってしまって… その上 こうなってしまった事を ローレシアへ伝えられていない現状に 安堵したりして… けど 僕は間違ってました」
アシルが見つめている ザッツロードが顔を上げて言う
「王子らしくしよう だなんて 思うものではないんです 僕は… 元からローレシアの第二王子 例え一国の王にはなれずとも 時期国王となる兄王子や 現王の父 それに… いつも僕を心配してくれる ルーゼック第二国王や大臣たちや ローレシアの皆と共に… 共に考え共に戦わなければならなかったんです 自分の為に… ローレシアの為に!」
アシルが苦笑する ザッツロードがアシルへ向いて微笑して言う
「そして… それは アシル王子も 同じではないですか?」
アシルが一瞬呆気に取られてから不満そうに視線を逸らす ザッツロードがアシルへ向き直って言う
「アシル王子だって!スプローニの王子として生まれ!王子として生きて来た筈です!例え… 銃が持てずとも スプローニの為に考え スプローニの皆と共に… 共に戦おうとしていた筈です!」
アシルが聞きたくない話に目をつぶる ザッツロードが言う
「僕もアシル王子も 国王にはなれません… しかし 例えそうであっても 自分たちの国へ戻り 自国の王や皆と共に 成すべき事を成さなければならない!違いますかっ!?」
アシルが不満そうに言う
「…ふんっ 俺を お前と一緒にするな お前は腐ろうとも王子だろ?第二王子だろうが何だろうが」
ザッツロードが言う
「貴方だって!スプローニ歴代の王族でしょう!?少なくとも 貴方はスプローニの王子だったんです!例え地位を失おうとも それまでに国の皆から受けていた 尊敬と期待に 答えたいとは思わないのですか!?貴方は“王子”と呼ばれていた 今だって 元とは言え 王子と呼ばれているのでしょう!?」
アシルが視線を逸らし歯噛みして目を瞑る 視界に 犬たちと共に居た様子が思い出される ザッツロードが上体を戻し 再び前を見据えて言う
「…僕はここを出ます ローレシアへ戻って 父や兄… 皆と共に ローレシアの名の下に …戦う!」
アシルが目を開きザッツロードを見る ザッツロードは強い視線で正面を見据えている アシルが苦笑して言う
「…はっ …そうやって言葉だけ言った所でな?ここはソルベキアの牢屋だぜ?どうやって お前の言う 皆とやらの所へ戻るつもりだ?」
ザッツロードが顔を上げて言う
「この牢は ソルベキア城の地下であっても そう深い場所ではありません 空気取りの窓から差し込む明かりは 直下ではなく 少しこちらへ傾いている これは この牢の場所が それ程地上から離れていない証拠です」
アシルが空気取りの窓へ視線を向ける 月明かりが僅かに斜めに入っている ザッツロードが言う
「それと、ここへ連れて来られる際 目隠しをされ 視界は遮られていましたが 降りた段数から考えて 恐らくここは地下二階 そして 階段を終えてから この牢まで歩いた距離は割と短かった 通り過ぎた他の牢の数は ここと同じ広さのものであれば 2つから3つ 4つまでは行かなかったと思います …この事から この檻さえ出られれば 階段までの間に他の看守と遭遇する可能性は低い筈です」
アシルが苦笑して言う
「へぇ… 人に言われるままの へっぽこ王子だと思ってたが 多少はやるじゃねぇか?」
ザッツロードが苦笑して言う
「夢の世界とは言え それなりに鍛えられて来ましたから」
アシルが目を閉じて言う
「そう言えば お前はあの ガルバディア国王に選ばれた連中の一人だったっけなぁ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい… けど、折角選んで頂いたのに あまり有意義な事は 出来ませんでしたが… その分もっ」
アシルが苦笑して言う
「フッ… そうみたいだな?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?」
アシルが上体を起こし腕組みをして言う
「この地下牢は お前の言う通り それ程深い場所じゃねぇ それ所か 階数は地下半階 地上からの階段数はたったの15段だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?15段?地下半階って…?い、いえ 私は ここへ連れて来られる際 もっと多くの段数をっ」
アシルが言う
「それは …お前もそうだったんだろう?連れて来られる以前に居た場所が 玉座の間だった筈だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ、はい そうでした」
アシルが言う
「ソルベキア城は 元々要塞そのものなんだ だから 囚人となる者へ 罪状を言い伝えた後に 牢屋へ連れて行くその道すがらに多くの仕掛けが組み込んであって 囚人の脱獄を防ぐと共に それらの情報が外部に漏れることを防いでいる …ついでに お前が最初に言った 窓から差し込む外光 こいつにもトリックが仕込まれてる …見てろ」
アシルが言い終えると共に ペットボトルのキャップを空気取りの窓へ投げ付ける 白いキャップが月光に照らされつつ 窓の奥の壁へ向かう ザッツロードが気付いて言う
「あっ!」
キャップが壁に当たる以前に見えなくなり 後に壁に当たる音がして落ちて行く ザッツロードが言う
「光に照らされて 見えている壁に当たる筈の それ以前に…」
アシルが言う
「外光は 多分鏡か何かに反射させる事で この場所へ送られてるんだろう だから 普通ならありえねぇ 自然の外光に極端な 傾きってもんが付いちまうんだ」
ザッツロードが感心した後 ハッとして言う
「へぇ… あ、そ それでは?先程の この場所が地下半階であるというのは?」
アシルが言う
「ソルベキア城は 正面から入れば 地上から約1階分の階段を上った先に入り口がある この時点でソルベキア城は 地上2階にあると考えて良い そして、玉座の間はその先にある 従って 玉座の間も 地上2階にある …だが ソルベキアには正面入り口以外の出入り口ってのが3箇所あって その3箇所は共に 正面入り口より一階下 つまり 地上階にあるんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「…知らなかった」
アシルが苦笑して言う
「ハッ 同盟国ローレシアの王子様や ソルベキアの補佐官殿として入るんなら 正面入り口以外有り得なかったんだろぉ?」
ザッツロードが苦笑した後疑問して言う
「はい… …うん?しかし、それは アシル王子も同じであったのでは?」
アシルが不満そうに言う
「元」
ザッツロードが衝撃を受け苦笑する アシルが言う
「まぁ 確かにそうだったが 俺はいつだって他国へ行く際は 得られる限り その国の情報を手に入れる その情報元が そういった細かい事も調べるのが得意だったんだ」
ザッツロードが不思議そうに言う
「細かい事が得意…?」
アシルが気を取り直して言う
「とは言っても 俺だって正面以外の入り口を使ったのは この前が初めてだったぜ?ローゼントから隠密に 泥酔した野郎を引きずり込むには そう言った場所が妥当なんだろ?」
ザッツロードが納得して微笑して言う
「ああ!なるほど!」
アシルが衝撃を受け怒って言う
「おいっ 真っ直ぐ納得しやがるんじゃねぇ!」
ザッツロードが照れる アシルが笑んで言う
「だが、お陰で 今まで把握し切れなかった この地下牢の階数が分かったって訳だ その地上階の入り口から 玉座の間へ向かうまでに上る階段 その段数が48 そして、玉座の間から この牢屋まで連れて来られる際に 降りた段数は63 どちらの階段も 一段の高さは同じだった」
ザッツロードが感心して言う
「へぇ…」
アシルがザッツロードを見て言う
「…それで?」
ザッツロードが意表を突かれて言う
「え?」
アシルが不満そうに言う
「この牢屋の場所が分かった所で どうやってそこの檻を出るつもりだ?お前は?」
ザッツロードが言う
「あ、はい それは」
ザッツロードが檻の外を見ながら言う
「ここの看守は 3度の食事の時の他 夜間に一度 明け方に一度 合計5回の見回りを行います その中において 夜間と明け方 この間がもっとも長い時間が空きます ですから」
アシルがザッツロードを見ている ザッツロードが苦笑して言う
「脱獄はその間に 夜間の見回りの際 僕が仮病を使って看守を引き込みますので… アシル王子 どうかその隙に」
アシルが視線を強めて言う
「…お前 自分を囮に俺を…?」
ザッツロードが恐ろしい微笑で言う
「僕を心配して入って来るでしょう その看守を …ひとおもいに殺っちゃって下さい」
アシルが衝撃を受け慌てて言う
「ぬぁあ!?お、お前っ!?」
ザッツロードが笑顔で言う
「冗談です アシル王子の事ですから どの場所を殴れば相手の意識を失わせる事が出来るのか その場所を明確に心得て居られるのでしょう?それをお願いします」
アシルが呆れて言う
「どういう意味だ そいつは?…と、その前にお前 いい加減 へっぽこなのか優秀なのか 優しいんだか残忍なのかをハッキリさせろ」
ザッツロードが苦笑する
【 スプローニ城 玉座の間 】
大臣が言う
「たった今 ローゼントから報告がありました ローゼント城及び城下町へ進軍していた ソルベキアの兵が動きを止めたとの事です」
他の大臣が言う
「こちらもたった今入った報告です スプローニ第二部隊 及び 魔法銃使い部隊が 無事ローゼントの港へ到着したとの知らせが入りました 引き続き ローゼント城へ向かうとの事です」
ロキが言う
「…分かった …スプローニ部隊へは これからも連絡を欠かさぬよう伝えてくれ」
大臣が返事をする ロキが言う
「…それと、部隊の中 もしくは 船に同乗して ベル… ベルグル第二国王の姿を見たものは居ないか その確認を頼む」
大臣が言う
「かしこまりました …して、ロキ陛下 もし それらの中において ベルグル第二国王陛下の姿を確認した場合はどのように?陛下へ 確認したとの連絡を行うだけで 宜しいのでしょうか?」
ロキが言う
「…いや …捕らえろ」
大臣が驚いて言う
「は!?い、今 何と?」
ロキが言う
「…如何に第二国王の王位を持とうとも このスプローニへ危害を与える可能性がある その様な作戦を行おうとしているとなれば 奴を捕らえ 場合によっては収監しておく必要も有る」
大臣が言う
「し、しかしっ ベルグル第二国王はっ」
ロキが言う
「…スプローニ国元王子 アシルを脱獄させようと企んでいる それも …相手は渦中のソルベキアだ 現状 ローゼントへ向かっていたソルベキア部隊は 動きを止めているとの事だが そのソルベキアがローゼントを攻撃するよりも先に スプローニの者が ソルベキアを襲撃したとなればどうなる?」
大臣が驚き困って言う
「そ、そうなりました際は…っ」
ロキが言う
「…何があろうとも スプローニは勿論 襲撃の的とされているローゼントであろうとも ソルベキアへ先に手を出す事は許されない …分かったら ベルグルを探せ どうあっても ソルベキアへは近づけさせるな!」
大臣が慌てて言う
「ははっ!」
【 ソルベキア城 地下牢 】
アシルが息を吐きながら立ち上がって言う
「ふぅ… やっぱりお前には へっぽこ王子の名が似合ってるぜ」
ザッツロードが呆気に取られつつ苦笑して言う
「そんなぁ… 今回は自分でも 頑張った方だと思ったんですが」
アシルが言う
「ここの見回りは お前の言う通り5回 だが3度の食事の時を除き 他の2回はきっちり同じ時間に見回りを行う そんな看守を気絶させて そいつが時間通りに戻らなかったらどうだ?何か有りましたって ご丁寧に伝えるだけじゃねぇか?そうでなくとも 夜間の脱獄ってのは一番目を光らされる所だ 看守の行動はずらせねぇ …分かったか?へっぽこ王子?」
ザッツロードが苦笑して言う
「なるほど… しかし、それでしたら アシル王子は なんと言う名がお似合いで …どうやってここを抜けようと?」
アシルが数歩歩いた先ザッツロードを振り返って言う
「俺か?俺の名は ふん… そうだな … …やっぱり」
アシルが牢の扉の前に膝を着いて言う
「スプローニの 元王子」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して立ち上がって言う
「それじゃぁ 今と変わらないではありませんか?」
アシルがコートを探りながら言う
「ハッ!だったらお前は これからは間違えずに呼べよ?元が付かねぇ 唯の王子様が こんな事を出来たりなんか… しねぇもんだ」
アシルがコートの裾から針金を取り出す ザッツロードが呆気に取られて言う
「そんな所に… て、まさかっ!?」
アシルが針金を鍵穴へ入れながら言う
「夜間の見回りの時間まで まだある筈だが 一応見張っとけ へっぽこ王子」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言う
「ふふ…っ …はいっ 分かりました アシル 元 王子!」
アシルが鼻で笑いながら鍵穴を探る ザッツロードが微笑して檻の外を監視する
【 ローレシア城 玉座の間 】
ルーゼックが驚いて叫ぶ
「であるからにしてっ!あのザッツロードは 早急にローレシアへ戻すようにと申したのだ!わざわざソルベキアへ置いて 戦乱の最中に連絡が付かなくなるなど… 何処まで間抜けであるのだっ!?」
キルビーグが言う
「だが… これなら 我らローレシアが ローゼントへ力を貸し 共にソルベキアを襲撃する その理由が整った事になるだろう?」
ルーゼックが驚きキルビーグへ向いて言う
「キルビーグ… き、貴様はっ 一体何を申して居るのだ!?ザッツロード7世がソルベキアに何ぞされよったのかもしれぬのだぞっ!?貴様はこのローレシアの第二王子にして 貴様の息子である あやつの事が 心配ではあらぬのか!?」
キルビーグが視線を強めて言う
「ソルベキアは… 我が息子 キルビーグ2世を先の戦乱に紛れて暗殺した国だ 今まではその確たる証拠が掴めぬが故に 追求する事も… キルビーグの死去さえも 皆へ伝えられずに居た あれから数年 未だ確固たる証拠の方は掴めぬが …今こそ」
ルーゼックが驚いて言う
「キルビーグ… まさか 貴様はその為に… …この様な事態が起こる事を求め ザッツロードをソルベキアへ送ったとでも言うのか!?キルビーグっ!?」
キルビーグが目を瞑って言う
「ザッツは… ガルバディアに シリウス国王に選ばれた者だ きっと 何があろうとも あいつの身は守られる …しかし キルビーグは 現実世界においても あの夢の世界でさえ 助ける事は叶わなかった… ザッツには 危険な目に合わせ悪いとは思っているが これが私に出来る キルビーグへの唯一の償いだ 何としても ソルベキアへ一矢を報いるその為に… その為であるなら私は」
ルーゼックが視線を強める キルビーグが目を開き立ち上がって言う
「直ちに ローレシアの部隊を集結!同盟国ローゼントへ向かわせよ!共に ローゼントへ通達を!我らローレシアは ローゼントへ加勢すると!」
伝達兵が返事をする
「はっ!直ちに!」
伝達兵が立ち去る キルビーグが玉座へ腰を下ろす ルーゼックが表情をいぶかしめて言う
「…ローゼントへ加勢するフリをして その実 ソルベキアを襲撃致すつもりか?」
キルビーグが微笑して言う
「…隙あらば な?」
ルーゼックが目を閉じ息を吐いて言う
「…温厚な皮を被った 恐ろしい男よ 貴様は」
キルビーグが苦笑する
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが檻にしがみついて外の様子を伺っている アシルが表情をしかめつつ鍵穴を探りながら言う
「う~… くっそ… 流石に… 中々上手くは行かねぇモンだ…」
ザッツロードが呆気に取られ驚いて言う
「あの まさか… アシル王子?その作業を実際に行うのは 初めてなのですかっ!?」
アシルが不満そうな表情で言う
「元!」
ザッツロードが苦笑する アシルが一息吐いて言う
「まさかってなぁ?…そもそも 俺がこんな事を学んだのだって ついこないだ …2度も投獄されて 11ヶ月と2週間もひたすら檻ってモンを見てれば 欲しいと思った知識は こんな事だった… とは言え まさか本当に実践する日が来るとはな」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「2度も投獄?一体何故… あ、けど …僕も1度投獄されていました ついこの間まで …でも 鍵開けを学ぼうなんて そんな事を考えた事無かったなぁ 不器用な僕には出来る気もしないし はは…」
アシルが言う
「…それとなぁ?何度も言ってるが 俺だってスプローニの元!王子だぞ?何が悲しくて 王子がこんな作業に慣れてなけりゃならねぇ?」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言いかける
「確かに しかし…」
アシルがザッツロードをにらんで言う
「アシル王子なら慣れてそうだ なんて言いやがったら」
ザッツロードが苦笑して言う
「あはっ まさか!ただ、何となく アシル王子なら 出来そうだったので 意外でしたと」
アシルが怒って叫ぶ
「同じだろうぉがぁあ!?てんめぇええ!…っ!?」
アシルがザッツロードの胸蔵を掴んでいてハッとする ザッツロードが疑問する
看守が檻の前に来て中を見る アシルとザッツロードが定位置で アシルが寝転んでいて ザッツロードが膝を抱えて眠っている 看守が頷き立ち去る 足音が遠ざかるとザッツロードが顔を上げる アシルが檻の前にやって来る ザッツロードがアシルへ向く アシルが言う
「これで時間の余裕は 無くなったぜ」
ザッツロードが表情を強めて言う
「本番… ですね?」
アシルが鍵穴の前に屈む ザッツロードが再び檻にしがみついて外を見る アシルが3本目の針金を手に言う
「見張っとけよ?」
ザッツロードが言う
「はいっ …そちらは お願いします」
アシルが鍵穴へ針金を入れて言う
「…ああ 任せろ 大体感覚は掴めた」
ザッツロードが呆気に取られた後微笑する
【 ローゼント国 城下町門前 】
ヴェルアロンスライツァーが全軍の前に立っている ローゼント兵がやって来て言う
「申し上げます!スプローニ国第二部隊 共に 魔法銃使い部隊が合流いたしました!両部隊を代表し ラント第二部隊長が殿下へご挨拶したいと」
ラントがやって来る ヴェルアロンスライツァーが顔を向け微笑して言う
「ラント 貴殿であったか!」
ラントがヴェルアロンスライツァーへ傅いて言う
「…ヴェルアロンスライツァー王配殿下 スプローニ国第二部隊共に魔法銃使い部隊 スプローニ国国王ロキ陛下の命により 参上仕りました」
ヴェルアロンスライツァーが一瞬呆気に取られてから気を取り直して言う
「…うむ、承知した スプローニ国ロキ国王 及び 貴殿たちの支援に ローゼント国女王アンネローゼに代わり このヴェルアロンスライツァーが礼を申す」
ラントが苦笑して顔を上げる ヴェルアロンスライツァーが微笑して言う
「と、堅苦しいのは ここまでで良いか?ラント?」
ラントが立ち上がり微笑して言う
「はい!ヴェルアロンスライツァー副隊長!」
ヴェルアロンスライツァーが軽く笑って言う
「ふっ… ベルグルではないのだ 貴殿まで 私を過去のその呼び名で呼ぶ事はなかろう?」
ラントが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「そうでした つい 以前の癖で」
ヴェルアロンスライツァーが微笑して言う
「その節は 貴殿や第二部隊の皆には世話になった 無論 当時隊長であったロキにも」
ラントが微笑して言う
「それは こちらも同じです ヴェルアロンスライツァー殿下 我ら第二部隊は お二人が居た頃が もっとも活気があり 邁進しておりました」
ヴェルアロンスライツァーが軽く疑問して言う
「私やロキが去った後 第二部隊は ロイ第三部隊隊長へ引き継がれた筈では?」
ラントが言う
「はい、そうであったのですが ロイ隊長はつい先日 ご本人の希望で 再び第三部隊の隊長へ戻られたのです それで」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「そうか… それで 貴殿が隊長に?」
ラントが敬礼して言う
「はっ!及ばずながら このラントが スプローニ国第二部隊の隊長を 勤めさせて頂いております!」
ヴェルアロンスライツァーが頷いて言う
「うむ… 貴殿であるなら 私も安心して任せられる …頼りにしているぞ!?ラント隊長!」
ラントが敬礼して言う
「はっ!お任せ下さい!」
【 ローゼント城 玉座の間 】
大臣が言う
「先程 スプローニからの援軍が到着し 城下正門前の部隊に就いて居られる ヴェルアロンスライツァー殿下と合流したとの事です」
アンネローゼが言う
「分かりました 支援内容や部隊の配備に付いては ヴェルアロンスライツァーから指示を得るようにと伝えて下さい」
大臣が伝達兵へ向く伝達兵が返事をして立ち去る アンネローゼが言う
「進軍が止まっている ソルベキア軍に動きは?」
大臣が言う
「現在も警戒を続けさせておりますが 今の所 動きは見られない様です」
アンネローゼが考える 伝達兵がやって来て言う
「申し上げます!同盟国ローレシアより入電 この度の事態に ローレシアからも援軍を送るとの事です!」
アンネローゼが疑問して言う
「ローレシアから?…ローレシアの魔法使いたちは 既に 魔法剣部隊として配置に就いている筈ですが?」
伝達兵が言う
「はっ!それら既存の魔法使いたちの他 新たに ローレシアから 魔法使いの部隊を送るとの事です!」
アンネローゼが呆気に取られて言う
「そう… ですか 予定外ではありましたが 助かります では その事をヴェルアロンスライツァーへも伝え ローレシアからのご好意を 有り難く受け取る事としましょう」
伝達兵が返事をして立ち去る 大臣がアンネローゼへ向いて言う
「魔法使いの国ローレシアから更なる増援とは 予定外ではありましたが 順調に各国から援軍が届き 心強いかぎりですな?」
アンネローゼが視線を落とす 大臣が疑問して言う
「アンネローゼ様?」
アンネローゼがはっとして言う
「え?…あ、はい そうですね 多くの援軍を得られると言う この事は ローゼントにとって とても喜ばしい事です」
他の大臣が大臣へ言う
「欲を言えば アバロンからも援軍を送ってもらえれば より心強くあったのだがな?」
大臣が一瞬呆気に取られた後紙資料をめくりながら言う
「そう言われて見れば…」
アンネローゼが言う
「…アバロンは現在 代理の王が治める国です 国同士の争いに 安易に援軍を送る事は難しいのでしょう …それでも ローゼントが 援軍の要請を行うのであれば 取り計らっては頂けると思われますが」
大臣が言う
「では アンネローゼ様 ここは一つ アバロンへも援軍の要請を送っては如何でしょう?アバロンはハリッグ前王陛下の時代より ローゼントの友好国として長く有りました きっとすぐにでも…!」
アンネローゼが言う
「アバロンが友好を結んでいたのは ハリッグと前アバロン王ラインツ殿です 両国の国王が替わってからは… 残念ながら 国王同士で結ばれる 友好条約は交わされておりません …いいえ それよりも」
大臣が疑問する アンネローゼが言う
「例え アバロンから援軍を得たとしても ソルベキアが本気で攻めて来るのでは …このローゼントは 守りきれません」
大臣たちが驚く アンネローゼが視線を落として言う
「ソルベキアが 今まで私たちへ手を出さなかった事は ソルベキアがこの世界に仇名す者ではないと言う証拠であった筈です しかし… ここへ来て そのソルベキアが動き始めた… これこそ ガルバディア国王が案じていた この世界の …戦いの始まりであるのかもしれません」
大臣たちが驚き言う
「ア、アンネローゼ様!?一体何を仰られ…っ」
アンネローゼが十字架の首飾りを握り締めて言う
「どうか進軍を止めたソルベキアが… このまま引き返して下さいます様…」
大臣たちが心配して顔を見合わせる
【 ソルベキア城 地下牢 】
牢の扉の鍵が音を立てて外れる ザッツロードがはっとして振り向く アシルが両手と口で針金を支えた状態で呆気に取られる ザッツロードが喜んで言う
「開いたーっ!」
ザッツロードが殴られる ザッツロードが頭を抱えて言う
「痛っ…」
アシルが殴り終えた状態で 小声で怒って言う
「声がデカイっ!」
ザッツロードが苦笑して言う
「すみません…」
アシルが扉を静かに押して小声で言う
「…ここからが本番だ 行くぞっ!?」
ザッツロードが頷いて小声で言う
「はいっ!」
アシルとザッツロードが扉を飛び出す アシルが階段通路の横で立ち止まり 通路の様子を伺う ザッツロードがその後ろに立つ アシルが言う
「聞け …この先 短けぇ階段を上がった先 左に1人 他にホールを周回する兵が1人 合計2人が居る筈だ」
ザッツロードが一瞬驚いた後慌てて言う
「…はいっ」
アシルがザッツロードへ向いて言う
「まずはお前が先行して 階段を上がった左の奴を“抑えろ” 続いて俺が 周回している奴を抑える …良いな?」
ザッツロードが慌ててアシルの服を引いて言う
「ま、待って下さいっ」
アシルが向き直って言う
「あぁ…?」
ザッツロードが表情を困らせて言う
「あ、あの… “抑えろ”とは?」
アシルが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「さっきお前も言ってただろ?ひとおもいに殺れって」
ザッツロードが驚いて言う
「えぇええーっ!?」
アシルが殴る ザッツロードが痛がる アシルが小声で怒って言う
「こっちだって冗談に決まってるっ!…騒がれねぇ様にして 意識を失わせろって事だよっ!」
ザッツロードが再びアシルの服を強く引いて言う
「ぐ、具体的にはっ!?その…っ 僕は こういうのは初めてでっ」
アシルが怒って言う
「俺だって初めてだっ!」
アシルがはっとして周囲を警戒する 周囲はしんとしている アシルがホッとしてザッツロードへ向き直って言う
「この へっぽこ王子がっ …良いか?まずは騒がれねぇ様に口を押さえて 頸部を… お前じゃ届かねぇかもしれねぇ 腹で良い 思いっきり殴ってやれ!」
ザッツロードが自分の拳を見ながら言う
「な、なるほど… 分かりましたっ」
アシルが言う
「ほら、お前が先だ 合図するから …しくじるなよ!?」
アシルがザッツロードを先に立たせる ザッツロードが表情をこわばらせつつ言う
「は、はいっ」
アシルが階段へ向き直り 目を閉じて壁に耳を付ける ザッツロードが呆気に取られ真似をする アシルの耳に周回している兵士の足音が響く ザッツロードが疑問して首を傾げる アシルがザッツロードの肩を掴んで進行方向へ向かせる ザッツロードが慌てつつ されるがままに向き直る アシルが音を聞き目を開くと視線を強めて ザッツロードを押し出すと共に言う
「今だっ 行けっ!」
ザッツロードが意を決して駆け上がり 階段横に居た兵士に掴みかかって言う
「えーいっ!」
兵士が驚いて声を出そうとする
「なっ!?むぐっ…!」
ザッツロードが兵士にしがみ付いて口を塞ぐ その横をアシルが飛び出し 一目散に向かう 周回していた兵士が振り向き 驚くと同時にアシルが掴み掛かり 兵士の口を押さえて頸部へ打撃を与える 兵士が悲鳴を上げて気絶する
「脱ご…っ!ぐっ!…」
アシルが手を離すと兵士が倒れる アシルが言う
「よし… 行くぞっ!…ん?」
アシルの視線の先 ザッツロードが兵士にしがみ付いて兵士がもだえている アシルが呆れ向かう ザッツロードが必死に兵士にしがみ付いている 兵士がザッツロードに抑えられている口から手を離させようとしながら言う
「おにょれっ 離せっ… ぐっ!…」
ザッツロードが疑問すると兵士が脱力して倒れる アシルが兵士を殴り終えた状態で居る ザッツロードが表情を困らせて言う
「あ… すみま…」
アシルがザッツロードへ向いて言う
「次は向こうだ 外に2人 出入り口の左右から 同時にやるぞ?」
ザッツロードが一瞬驚いた後慌てて言う
「は、はいっ」
アシルが苦笑して言う
「…今度はしくじるなよ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はいっ!」
アシルとザッツロードが出入り口の左右に背を壁に付けて立つ ザッツロードがアシルを見る アシルが壁の向こうを伺ってからザッツロードへ向く ザッツロードがアシルを見る アシルが合図のカウントを指三本から行う 3,2,1次の瞬間 アシルとザッツロードが同時に壁の向こうの門兵へ掴みかかる 門兵2人が驚く ザッツロードが気合を入れて襲い掛かり 自分側の門兵の口を押さえると共に 歯を食いしばって渾身のパンチを門兵の腹に食らわせる 門兵が悲鳴を上げ意識を失って倒れる
「う…っ!」
ザッツロードが自分へ倒れて来る門兵に呆気に取られつつ 思わずその身を労わる様に横たえさせる ザッツロードが門兵の腰に備えられている短銃とナイフに気付く アシルの声が届く
「おいっ へっぽこっ!」
ザッツロードがはっとしてアシルを見る アシル側の門兵が意識を失って座り込んでいる その門兵の腰に備えられている武器へ アシルが手を伸ばしながら言う
「ぼさっとするなっ まだ終わってねぇぞ!」
ザッツロードがはっとして言う
「はっ はいっ」
アシルが言う
「そいつの武器を取れ」
アシルの言葉にザッツロードが慌てて言う
「はいっ… えっと、どちらを…?」
ザッツロードが 自分側の門兵の武器を再び見て 一度短銃へ手を伸ばすが僅かに考え ナイフへ手を伸ばし変えて言う
「…僕では こちらしか」
ザッツロードが門兵のナイフを取って立ち上がる アシルの声が届く
「お前はこっちだ」
ザッツロードが振り向くと剣が放られる ザッツロードが慌てて受け取って手にした剣を見る そのザッツロードへアシルが言う
「ローレシアの第二王子様は 剣と魔法を操れるんだろぉ?」
ザッツロードが呆気に取られてアシルへ向き苦笑して言う
「どちらも… 中途半端ですが」
アシルが軽く苦笑して言う
「中途半端でも 使えねぇよか 良いじゃねぇか?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?」
アシルが気を取り直して言う
「…そいつは俺へ寄越せ 急ぐぞ」
ザッツロードが言われてもう片方の手に持っているナイフを思い出し 慌てて放って言う
「あっ はいっ」
アシルが放られたナイフを受け取り走り出す ザッツロードが剣を腰へ装備しつつ続く
住宅街
薄暗い住宅街をアシルが走って行く ザッツロードがアシルへ追いついて言う
「アシル王子っ どちらへ!?」
アシルが表情をしかめつつ言う
「何処でも良い 急いで城壁を超えなけりゃ 脱獄に気付かれるのは 時間の問題…」
アシルの言葉の途中でソルベキア中にサイレンが鳴り響く アシルとザッツロードが立ち止まってソルベキア城を振り返り ザッツロードが言う
「気付かれた…」
アシルが舌打ちをして言う
「チッ… 思ってたより早かったな こうなりゃぁ 選んでなんか居られねぇ 一番近い門をさっさと抜けねぇと」
ザッツロードがはっとして言う
「門を抜けるんですか!?」
アシルが言う
「当たりめぇだろっ ソルベキアの城壁は人の力で登れるようなもんじゃねぇっ そうとなれば ここから一番近い 西門を突破するしか」
ザッツロードが一瞬驚いてから視線を落とす アシルが言う
「時間がねぇっ 行くぞっ!」
アシルが向かおうとする ザッツロードがはっとして言う
「待って下さいっ アシル王子っ!」
アシルが向かおうとしていた体を止め振り返る ザッツロードが言う
「西門は今っ 最新の機械設備を建設している最中の筈です そうなれば 通常の門の警備の他に その装置を警備する兵も配備されている筈っ そこを抜けるのは…っ」
アシルが一瞬呆気に取られた後考えて言う
「そうか… そいつは確かに …なら北門 …いや、北はソルベキアのメインストリートだ そこを抜ける訳には行かねぇ… 東へ行っても港で行き止まり …畜生っ なら 一番遠いが一度南へ向かって」
ザッツロードが言う
「アシル王子っ」
アシルがムッとして言う
「なんだよっ!?こっちは時間のねぇこの時に 南へ向かう方法を考えてる最中だろっ!?」
ザッツロードが言う
「北でも南でもない 門へ向かうのではなく 一度… ソルベキアの者へ 匿って貰いましょう!」
アシルが呆気に取られて言う
「はあっ?正気かっ!?」
ザッツロードが言う
「ソルベキアのスファルツ卿をご存知ですか!?ソルベキアに置いて 唯一ローレシアの…っ 私の味方になってくれた方です!」
アシルが言う
「スファルツ卿…?スファルツ …何処かで聞いた名だ 確か…」
アシルが考える ザッツロードが詰め寄って言う
「私が脱獄したとなれば ソルベキアはまずスファルツ卿を疑うと思われます 私とスファルツ卿の関係は ガライナ国王も知っています」
アシルが衝撃を受け怒って言う
「それじゃっ 駄目だろっ!?」
ザッツロードが言う
「だからこそ!行くんですっ!」
アシルが困って言う
「…裏をかくって事か?」
ザッツロードが言う
「それもありますが… 警戒態勢に入った門を 我々2人だけで抜ける事は やっぱり難しいと思われます …それに、スファルツ卿なら」
アシルがザッツロードを見る ザッツロードが微笑して言う
「きっとスファルツ卿なら 僕を 必ず助けてくれる …きっと力になってくれる筈です!…ご迷惑は とても掛けてしまいますが…」
アシルが苦笑して言う
「まぁ、…そいつは後々にでも 十分な礼をすれば良いだろ?ローレシアの王子様としてよぉ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はいっ」
アシルがソルベキア城を見る ソルベキア城からソルベキア兵が現れ始める アシルがザッツロードへ向いて言う
「決まりだな …場所は?」
ザッツロードが走り始めて言う
「こっちです!」
ザッツロードに続いてアシルが走る 二人が走り去ってしばらく後 ソルベキア兵たちが同じ方向へ向かう
【 ローゼント城 近郊 】
ソルベキア軍が停留している
見張り台
ローゼント兵が双眼鏡でソルベキア軍の様子を見て隣に居る人物へ向く ローゼント兵の視線の先 ヴェルアロンスライツァーがソルベキア軍の居る場所を見て 視線を強め立ち去る
玉座の間
伝達兵が大臣へ伝える 大臣が考えてから 玉座に居るアンネローゼへ向く アンネローゼが表情を落としつつも視線は強く 片手を膨らんでいる腹へ触れる
【 ローレシア城 玉座の間 】
伝達兵が言う
「申し上げます!ソルベキアの監視を行っております者より ザッツロード王子は現在 ソルベキア城の地下牢へ 幽閉されていると連絡です!」
キルビーグとルーゼックが驚き キルビーグが視線を落とす ルーゼックがキルビーグの様子を見てから視線を戻して言う
「その連絡内容に 間違いはあらぬのか?」
伝達兵が言う
「はっ!ソルベキアの監視を行っております その者は 己の目と耳でザッツロード7世王子である事を確認したとの事です!その者は 先住民族です この事からも恐らく この情報に間違いはないものと思われます」
ルーゼックが表情を怒らせて言う
「監視を行って居る その者が確認を行ったとあれば ザッツロード7世を収監致したのは それ以前であったはず… でありながらも 当のソルベキアからローレシアへは何の連絡も入っておらぬとは…っ キルビーグ!」
ルーゼックの問い掛けに キルビーグが一度視線を合わせるが 視線を戻して言う
「ソルベキアから連絡が入るまで 先の情報は… 聞かなかった事とする」
ルーゼックが驚き息を飲む
「っ!」
伝達兵が呆気に取られてキルビーグとルーゼックを見る キルビーグが目を閉じる ルーゼックが歯を食いしばり浮かせていた身体を玉座へ戻して伝達兵を見る 伝達兵と視線が合う ルーゼックが言う
「…下がって良い」
伝達兵が一度呆気に取られてから言う
「…はっ 下がります」
伝達兵が退室する ルーゼックが表情を落として心配する
【 スプローニ城 玉座の間 】
ロキが顔を上げて言う
「…ソルベキアに動きはなし か… …奴らは …何を待っている?」
大臣が驚いて言う
「待っている …とは?ソルベキアは 何か を待っていると?」
ロキが視線を強めて言う
「…もしくは 既に何かが 起きている… か…」
大臣が疑問する ロキが言う
「…ベルグル第二国王の居場所は掴めたか?」
大臣が慌てて言う
「はっ…え、えぇと ベルグル第二国王の居場所に関しましては… まだ情報が入っておりません」
ロキが言う
「…国内に留まっている スプローニ全軍を上げ 早急に探し出すように」
大臣が言う
「はい、現状その様に致しておりますが 未だに…」
ロキが息を吐いて言う
「…そうか」
大臣が紙資料を見て言う
「うん?ロキ陛下 ベルグル第二国王の情報では 無いのですが…」
ロキが言う
「何だ?」
大臣が言う
「スプローニ国内 及び シュレイザーに置きましても 先住民族の犬と共に 通常の犬たちまでが 姿を消したと… これは一体」
ロキが驚き立ち上がって叫ぶ
「スプローニ国内の全国境を閉鎖しろ!共に シュレイザー在中のスプローニ部隊へ伝達!直ちにシュレイザーの各国境へ向かい…!」
大臣が呆気に取られている 伝達兵が走って来て言う
「申し上げます!たった今 スプローニ領域のアバロン運河にて!」
ロキが顔を向ける 伝達兵が言う
「多数の犬が 運河を泳ぎ 対岸 ローゼント領域へ向かっているとっ!その先頭に居ります犬が その色や大きさから ベルグル第二国王陛下ではないかとの報告です!」
大臣が驚きロキへ向く ロキが困り怒って言う
「…あの 馬鹿犬がっ」
【 アバロン運河 】
多数の犬たちが運河を泳いで渡っている 先頭を泳ぐ犬のベルグルが後方を確認した後 ふと気付いて後方の岸を見上げる ベルグルの視線の先スプローニ兵が双眼鏡を離し通信機を着信させる ベルグルが耳をそばだてるが聞こえず 一度視線を逸らして考えてから 再び泳ぎ出す
【 スプローニ城 玉座の間からの通路 】
ロキが通信機をしまいながら 玉座の間から出て来る 大臣らがロキに続いて言う
「ロキ陛下っ どうか 十分にお気をつけ下さいっ 現行スプローニ領地内にソルベキアの部隊は確認されておりませんが このスプローニはローゼントの最友好国である事は周知の事!ソルベキアがローゼントを落とすのなら 次に もしくは同時に狙われると言う事もございます!そして ロキ陛下は スプローニの王であります!レビ王子もお戻りで無い現状で 陛下にもしもの事があっては…っ」
ロキが間を置いて言う
「…スプローニは国となる前は 一部隊であった 例え国王が居らずとも 今は多くの隊長が スプローニ部隊を治めている …俺にもしもの事があった時は 奴らの中から次の王を探せ」
大臣が驚いて言う
「な、何を申されます!陛下っ!確かにスプローニの歴史はそうでありますが それはもう何百年も昔の事っ スプローニは既に 一国として成り立っておるのです!その国の王を いずれかの部隊長に任せようなどとはっ!」
ロキが視線を強めて言う
「…この国と同じ アバロンの現状でさえ 王に有事の際は アバロンにて 一番の力を持つ大剣使いが 王へ変わると言う …兵が王となる事が同じなら このスプローニとて アバロンと同様の事が出来るだろう?…俺は 今回のこの事態だけは 何としても俺がけじめを付ける …後は任せた」
ロキが言い終えると共に宝玉の欠片を握り締め走り出す 大臣が呼び止めるように言う
「ロキ陛下!」
ロキが去って行く 大臣が困り怒って玉座の間へ戻って行く
【 ソルベキア国 城下町 】
サイレンが鳴り響く中ザッツロードとアシルが走っている ザッツロードが道を曲がり行くと その道の先にソルベキア兵が居て驚いて振り返る ザッツロードがはっとして言う
「あっ!」
ソルベキア兵が一瞬疑問する
「むっ!?」
ソルベキア兵が目を凝らす ザッツロードが道を変えて言う
「なら… こちらからっ!」
ザッツロードとアシルが道を変えて走る ソルベキア兵が慌てて言う
「は、発見ー!脱獄囚を発見したーっ!」
ソルベキア兵が慌てて通信機を操作して言う
「こちらT98WR地点!脱獄囚を発見した!対象は現在 T98WRからT97RRへ…」
アシルが振り向き舌打ちをして言う
「チッ… こうなったら 袋のねずみだ 戦闘は免れねぇ… おいっ へっぽこ王子!目的地はまだかっ!?」
ザッツロードが言う
「もうすぐです!あの角を曲がり 2つ先の通路へ行けば!」
アシルが表情を強張らせて言う
「残り2ブロック… 間に合うかっ?」
ザッツロードが角を曲がりアシルが続くが アシルが曲がった先にザッツロードが立ち止まっていて激突する アシルが悲鳴と共に後ろへ倒れるが すぐに顔を上げて怒って言う
「おいっ!何突っ立って」
ザッツロードが静かに剣を抜いて言う
「…ここは僕が食い止めます」
アシルが疑問して言う
「あぁ…?」
アシルがザッツロードへ向けていた視線を正面へ向ける ザッツロードたちの正面先にソルベキア兵の一団が剣や槍を構えている ザッツロードが視線を強め剣を握る手に力を込めて言う
「…その間に アシル王子は 何とかここを切り抜けて」
アシルが立ち上がって言う
「へっぽこのお前に そんな大仕事 任せられるか」
ザッツロードが軽く顔を向けて言う
「僕はこれでも ガルバディア国王に選ばれ 夢の世界で それなりに修行して来ました …今は その時の仲間が居ない分 難しくはなると思いますが あの位の戦力相手なら …きっと何とかなります」
アシルが苦笑して言う
「へぇ… そいつは驚いた お前がそこまで言うとはねぇ」
ソルベキア兵の団長が剣を向けて叫ぶ
「突撃ー!」
ソルベキア兵の一団がザッツロードたちへ向かって来る ザッツロードが言う
「行って下さい!アシル王子っ!」
ザッツロードが言うと共にソルベキア団へ向かいつつ呪文を詠唱し叫ぶ
「炎よっ!我が前に在する物を 全て焼き尽くせ!」
ザッツロードが左手をなぎ払うと炎が放たれる ソルベキア兵たちが驚く ザッツロードが目を光らせて言う
「よしっ 今だっ!やぁあーーっ!」
ザッツロードが右手に持った剣で ソルベキア兵を攻撃する ソルベキア兵たちが慌てて応戦するがザッツロードが優位に戦う アシルが目を細めて言う
「へぇ… こいつが ローレシア第二王子の力か …フンッ やるじゃねぇか 確かに ガルバディア国王に選ばれるだけのモンなのかもな?」
ザッツロードが振り向いて言う
「アシル王子!」
アシルがザッツロードを見て微笑する ザッツロードが前へ向き直ると 剣や槍を持ったソルベキア兵がはっとして慌てて武器を構える ザッツロードが微笑し左手で印を切って言う
「炎よ 汝の力 今再び我が前に…」
剣や槍を持ったソルベキア兵たちが後ず去り一気に下がる ザッツロードが疑問して言う
「…あれ?」
下がったソルベキア兵たちの後方に銃を持ったソルベキア兵たちが構えている ザッツロードが驚き言う
「えっ!?ソルベキアに銃使いがっ!?」
ソルベキア銃使いたちが照準をザッツロードへ合わせる ザッツロードがはっとする その横をアシルが駆け抜ける ザッツロードが驚き慌てて言う
「アシル王子っ!」
アシルが言う
「銃使いを前に 止まるんじゃねぇ!」
ソルベキア銃使いたちへソルベキア団長が剣でアシルを示して叫ぶ
「発砲ー!」
ソルベキア銃使いたちが一斉に発砲する ザッツロードが慌てて叫ぶ
「アシル王子ーっ!」
アシルが目を凝らし 銃弾の嵐を避けながら言う
「ド素人が!そんなんじゃ 牛にすら 当たんねぇよ!」
ソルベキア銃使いたちが驚く アシルが両手にナイフを持ってソルベキア銃使いたちへ突っ込み両手両足の体術を持って攻撃を行う ソルベキア銃使いたちが次々に倒される ザッツロードが呆気に取られて言う
「す… すごい 銃弾の嵐の中なのに どうやって…?」
ソルベキア銃使いたちがアシルに倒される ザッツロードが呆気に取られている アシルが倒れているソルベキア銃使いたちを見下ろして言う
「ケ…ッ 折角銃を持てるってぇのに ろくな訓練もしてねぇから 照準が合わねぇんだ」
アシルが残りの剣と槍をもったソルベキア兵たちを見る ソルベキア兵たちがアシルとザッツロードを見る ザッツロードが微笑して言う
「よーし… 僕だってっ」
ザッツロードが左手で印を切る アシルがナイフを構える ソルベキア兵たちが一瞬武器を構えようとするが 瞬時に引く アシルが疑問すると ソルベキア団長がアシルへ剣を向けて叫ぶ
「発射ー!」
ソルベキア兵たちが引いた後方 ガトリングガンがアシルへ向けられている アシルが驚き言う
「なぁっ!?」
ガトリングガンが発砲される アシルが慌てて両手のナイフを自身の前でクロスさせて防御しようとする アシルへ向けられていた銃弾が数発アシルのコートを掠めた後 銃弾が全てアシルの目前で弾かれる アシルが疑問して片目づつ開いて前方を見て驚いて言う
「あぁ?何だこの… まるで光の盾!?」
アシルの目前に光の盾があり ガトリングガンの銃弾を弾いている アシルが目を瞬かせた後はっとして後方を振り返る ガトリングガンが弾切れをして止まる ソルベキア兵たちが慌てて弾倉を差し替える ザッツロードがアシルの横へ来て苦笑して言う
「…良かった 上手く行って」
アシルが感心して言う
「魔法攻撃に剣 それに加えて 光の盾とは チ…ッ ローレシアの王子様は 派手に決めてくれるじゃねぇかよ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「あ、いや… あの盾は 僕の仲間 ソイッドの魔術師が教えてくれた 光の魔術で …普段、彼女たちの様に 精霊様と仲良くしている訳ではない 僕ら魔法使いには 中々難しいんです …ですから」
アシルが疑問する ザッツロードがホッと苦笑して言う
「いっつも失敗してて 今回初めて成功したので 僕も驚いている所なんですよ!あはははっ」
アシルが衝撃を受け 慌てて怒る
「初めてだったのかよっ!?それじゃっ 今 俺を助けられたのは 偶然だってぇのかっ!?」
ガトリングガンの充填が完了する音がする アシルが振り向く ザッツロードがはっとして慌てて言う
「あっ!あわわっ!ひ、光の精霊よっ!」
ガトリングガンがアシルへ向く アシルが口角を上げて言う
「ハッ… だから言ってるだろ?」
ガトリングガンが発射される アシルが走り言う
「照準が甘ぇええんだよっ!」
皆が驚く中 アシルがあっという間にガトリングガンの操作をする兵の元までたどり着き 飛びつく様に攻撃して倒す ソルベキア兵たちが驚く アシルがソルベキア兵たちを見て笑むと ガトリングガンをソルベキア兵たちへ向けて言う
「スプローニの …本物の銃使いの力を 知りてぇか?」
ガトリングガンがソルベキア兵たちへ向く ソルベキア兵たちが慌てて逃げ出す 団長が慌てて言う
「た、退却ーっ!」
団長が退却しようと振り返る頃には他のソルベキア兵たちはもう居ない 団長が驚き一目散に逃げて行く アシルが苦笑して言う
「ヘッ!弱っちぃでやんの… あんなんで 一国が守れるのか?」
ザッツロードがやって来て言う
「アシル王子… 銃は撃てないのでは?」
アシルがザッツロードを見て言う
「…ふんっ おうよ だが撃とうとさえ思わなけりゃ 構えるぐれぇは出来る」
ザッツロードがアシルが持っているガトリングガンを見る アシルがガトリングガンの引き金へ手を向けようとする 途中でその手が動きを止めガタガタと痙攣する アシルが顔をしかめ もう片方の手で痙攣する手を掴み引き戻すと痙攣が止まる ザッツロードが見ていて呆気に取られている アシルが気を取り直して言う
「…行くぞ」
ザッツロードがはっとして慌てて言う
「あっ は、はいっ!」
アシルとザッツロードが走り去る
【 ローゼント城 近郊 】
ソルベキア軍 軍隊長が言う
「状況は?」
ソルベキア軍隊員が言う
「はっ!現在も ソルベキア城下町にて交戦中との事ですが 報告によると どうやら奴らの行動は 今作戦に対する ローゼント側の作戦との関係は無いとの見解であります」
軍隊長が考えながら言う
「…そうか」
伝達兵がやって来て敬礼してから言う
「ソルベキアから新たな情報ですっ ソルベキア第6警備部隊が 奴らに撃墜されたとの事です これで、現在ソルベキア国内に居ります 戦闘部隊に予備は無くなったとの事」
軍隊長が言う
「うん?予備部隊は第6警備部隊の他にも 第3警備部隊と特殊捕獲部隊も1部隊が残されて居るだろう?捕獲部隊へ襲撃用装備を持たせ 第3警備部隊と共に向かわせろ」
伝達兵が言う
「そちらの両部隊は 既に別件にて出動済みであります 第6警備部隊の撤退を受け 彼らも現行の作戦と同時進行にて 襲撃犯への応戦へ参加したいとの事 応戦の許可を与えて宜しいでしょうか?」
軍隊長が疑問して言う
「うん?…どう言う事だ?現在ソルベキアは 突如現れた 襲撃犯と 交戦しているのではないのか?…ええいっ構わん 応戦でも交戦でも良い!さっさと そちらを終結する様にと伝えろ!これ以上待ってられん!」
伝達兵が返事をして立ち去る
【 ソルベキア国 城下町 】
ザッツロードとアシルが走っている ザッツロードが2つ先の曲がり角を見て言う
「もう少しっ あの角まで行けばっ」
1つ目の曲がり角からロボット兵が現れ ザッツロードの目の前に止まる ザッツロードが驚いて立ち止まって言う
「そんなっ ロボット兵がっ!?」
ロボット兵の操縦士がザッツロードを確認し 続いて立ち止まったアシルを確認して言う
「…襲撃犯2名を確認 これより …迎撃する」
ロボット兵がザッツロードへ機関銃を向け発砲する ザッツロードが慌てて身を守る体勢で止まる
「うわぁっ!」
銃弾がザッツロードの側面を打ち抜く ロボット兵の操縦士が舌打ちをしてロボット兵を後退させる ザッツロードが呆気に取られて疑問する アシルが近くへ来て言う
「良い判断だ 銃撃に近過ぎる距離なら 下手に動くより 立ち止まってれば良い」
ザッツロードが苦笑して言う
「ぐ…偶然でしたが」」
アシルがロボット兵を見上げる ロボット兵の操縦士が機械操作をしながら言う
「二名の情報を確認 転送情報を考慮し 距離を置いての作戦を遂行する」
ロボット兵の操縦士の見ているモニターに情報が映し出されている アシルが表情を険しくして言う
「コイツは流石に相手が悪ぃ 何とか隙を突いて抜けるしか…」
ロボット兵が後退して距離を置いて銃を構える アシルが表情をしかめて言う
「…と 言ってる間に 距離を置いての作戦を選択しやがったか …まぁそうだろうな こっちの武器は 剣とナイフだってぇんだ」
ザッツロードが剣に手を当てて考えている アシルが悔しそうに言う
「その剣でもナイフでも あいつの装甲を斬る事はできねぇ こうなったら… しょうがねぇ どちらかが囮になって」
ザッツロードが頷いて言う
「アシル王子」
アシルが疑問して言う
「あぁ?」
ザッツロードが剣を抜いて言う
「短剣ではなく 剣を扱ったことは有りますか?…僕が この剣に魔力を送ります …ですから」
ザッツロードがアシルへ剣の塚を向けて言う
「アシル王子は 魔力を得たこの剣で 奴を倒して下さい!」
アシルが驚いて言う
「お、俺に魔法剣を使えって言うのか!?」
ザッツロードが苦笑して言う
「本来 魔力を持たない人が 魔法剣を扱うには 数週間から数ヶ月の訓練が必要になります しかし」
アシルが真剣な表情で言う
「それを必要としねぇ 何か、特別な方法が?」
ザッツロードが笑顔で言う
「アシル王子なら きっと出来る!僕… 何となく そんな気がするんです!」
アシルが怒って叫ぶ
「んだそりゃぁあ!?勝手な事言ってんじゃねぇええっ!!」
ロボット兵が構える アシルとザッツロードが一度そちらを見てから ザッツロードが気を引き締めアシルへ剣を放って言う
「時間が有りませんっ 行きます!」
アシルが放られた剣を慌てて受け取ると 既に魔法詠唱に入っているザッツロードを見てから剣を見て 自棄になってに言う
「なぁああ!クソッ!どうなっても知らねぇえぞっ!?」
アシルが剣を構える ロボット兵の操縦者がアシルとザッツロードの様子をモニターで見て言う
「やはり特殊剣を扱おうとしているっ 急がねばっ!」
モニターの照準が設定されているが 操縦士が待ちきれない様子で歯噛みして発砲ボタンを押す ロボット兵の機関銃からアシルへ向け発砲される アシルが焦って剣の刃で銃弾を数発防いだ後 怒り叫んで走り出す
「グ…ッ このデカ物がぁあ!」
アシルが剣を持ってロボット兵へ叫びながら駆け向かう
「うおぉおおおーっ!」
銃弾がアシルの体を掠める ロボット兵の操縦士が焦って言う
「ひぃっ な、何故っ 当たらないっ!?これが報告にあった奴らの力か!?く、来るっ!」
ザッツロードが詠唱を終えアシルへ向かって叫ぶ
「アシル王子!剣を掲げて下さい!」
アシルがロボット兵の前でジャンプして剣を掲げる ザッツロードがその剣へ魔法を放つ 炎の魔法がアシルの持つ剣へ纏る ロボット兵の操縦士が驚いて叫ぶ
「何にぃ!?炎だとっ!?じょ、情報と違うぞっ!」
魔法剣を得たアシルが歯を食いしばって剣を叩き下ろしながら叫ぶ
「食らえぇええーっ!」
魔法剣がロボット兵を切り裂く ロボット兵の操縦士が叫ぶ
「うわぁああっ!じょ、情報転送!機体を捨て 離脱するっ!」
ロボット兵の操縦士がボタンをいくつか押すと ロボット兵の頭部が後ろへ下がり 操縦士が緊急脱出で発射されそのまま飛んで行く アシルが着地してロボット兵を見上げて後方へ退避する ロボット兵がゆっくり倒れ爆発する ザッツロードが喜んで言う
「やったぁっ!」
アシルが一息吐いて剣を見る 視線の先 間を置いて剣にヒビが入り破裂する様に砕け散る アシルが呆気に取られる ザッツロードがやって来て言う
「通常の剣では 耐えられないんです… 魔法剣は 元から魔力の込められた剣か もしくは 刀身の広い 大剣でないと」
アシルが苦笑して柄を捨てて言う
「らしいな?…あんなんじゃ 剣も手も持たねぇぜ…」
アシルが自分の両手を見る 両手が火傷を負っている ザッツロードが衝撃を受け慌てて言う
「わあっ!ご、御免なさいっ 僕は普段 魔法剣を使用する側で 魔法を与える側には慣れていなくってっ… す、すぐ回復魔法を」
アシルが呆れて言う
「…お前の その場当たり対応は 元の性格か?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いえ… どちらかと言うと 夢の世界で鍛えられて… と言いますか それまでの僕は いつもただ 見ているだけで 何も出来なくて… アシル王子 手をっ」
アシルが苦笑した後言う
「フッ… いや、回復は後だ 次来られたら もう対処のし様がねぇ」
アシルが向かおうとする ザッツロードが心配して言う
「しかしっ 応急処置だけでもっ」
アシルが振り向いて言う
「捕まったら元も子もねぇだろ!?行くぞ」
アシルが走り出す ザッツロードが慌てて追って言う
「あ、待って下さいっ アシル王子っ」
2つ目の曲がり角が間近に見える 先頭を走るザッツロードが喜んで言う
「そこを曲がればっ!」
アシルがはっとして叫ぶ
「止まれ!へっぽこ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え?」
ザッツロードが立ち止まってアシルへ振り返ると ザッツロードの前に轟音と共にロボット兵が降り立つ ザッツロードが正面を向き驚いて言う
「…そんなっ また…」
アシルがザッツロードの後ろで立ち止まり 振り返って舌打ちをして言う
「チ…ッ 挟まれた」
アシルの視線の先に もう一体のロボット兵が轟音と共に降り立ち 捕獲用の両手をガシャガシャと音立てる アシルが目を細めて言う
「…いかにも捕らえますって感じだなぁ? …うん?なら 何でさっきのデカ物は?」
【 スプローニ城 近郊 】
ソルベキア軍隊長が歯痒んで言う
「くぅうう… 本国からの報告は まだかっ!?」
伝達兵が走って来て敬礼して言う
「報告です!」
ソルベキア軍隊長が叫ぶ
「遅いぞっ!結論だけ言え!」
伝達兵が言う
「はっ!敗北致しました!」
ソルベキア軍隊長が転びそうになって叫ぶ
「黙れぇえ!」
伝達兵が口ぱくだけで返事をする ソルベキア軍隊長が怒って言う
「ぐぅ… 他に報告はっ!?」
伝達兵が言う
「はっ!第6警備部隊の機体から 襲撃犯の全貌が送信され 情報の再確認を願いたいとの事です」
ソルベキア軍隊長が伝達兵からモニターを奪い取りながら言う
「何ぃ?見せろっ!情報の再確認とは何だ!?こっちはこっちでやっていると言うのに… ソルベキアの城下で暴れる襲撃犯を始末する お前らは そんな単純な命令も理解出来んのかっ!?」
伝達兵が言う
「はっ!軍隊長のそちらの単純命令により あちらの部隊は混乱しているとの事 隊長の示した2人の襲撃犯は この者たちで間違いないでしょうか?」
ソルベキア軍隊長がモニターを見て衝撃を受け言う
「目標の確認だと!?今更何を言っている!?そちらに間違えなどっ…ぬっ!?だ、誰だ!?こいつらはっ!?」
伝達兵が言う
「はっ!その者たちは 1人はローレシアの第二王子であり 我らソルベキアの補佐官でも有る ザッツロード7世 もう1人は スプローニ国元王子 アシル 我らが追求していた 別大陸の力に関する 重要参考人であります よって…」
ソルベキア軍隊長が呆気に取られたまま伝達兵を見る 伝達兵が無表情に言う
「この2名を刺殺 もしくは 口の利けぬほどの重症を与えた者は 誰であろうと 処刑するとの ガライナ国王からの指令であります」
ソルベキア軍隊長が衝撃を受け慌てて叫ぶ
「のわぁああっ!?ガ、ガライナ陛下からの指令がっ!?ば、馬鹿者っ!何故それを先に言わぬ!?直ちに この2人への攻撃を中止!攻撃ではなく 捕獲しろと伝えろ!」
伝達兵が言う
「はっ!既に捕獲部隊が 2名を包囲したとの報告です」
ソルベキア軍隊長が怒って叫ぶ
「馬鹿者ーっ!それを一番最初に言わぬかっ!」
ソルベキア軍隊長がホッと一息吐いて言う
「ふぅ… 何にしても これで助かったな 重要人物2名を捕獲したとなれば ローゼントの襲撃と共に 俺の評価がいっきに急上昇 …よし!もうこれ以上の待機は不要だ!全軍戦闘準備!進軍する!」
伝達兵が言う
「…しかし、第6警備部隊の最後の一体が 今も…」
ソルベキア軍隊長が剣を向けて叫ぶ
「ソルベキア軍!進軍ー!」
ソルベキア軍隊長を乗せた車両を始め全軍が動き去る 伝達兵が後に残り微笑する
【 ソルベキア国 城下町 】
ザッツロードが表情を困らせ アシルと背を合わせ 2体の捕獲ロボと向き合って居る ザッツロードが言う
「今度は2体… 剣もなくなってしまったし 短剣では… 魔力を灯す事は難しい …アシル王子は手を怪我してしまっているし」
アシルが2体の捕獲ロボを観察して言う
「…おい」
ザッツロードが意を決して言う
「アシル王子 僕が 囮になります ですから」
ザッツロードが苦笑笑顔で目前のやり取りを眺めなからシチューを口へ運ぶ ザッツロードの前でアシルと看守が睨み合い 看守が笑んで言う
「良いのか?本当に…?」
アシルが頬を引きつらせつつニヤリと笑んで言う
「出来るもんなら やってみろぉ…?それこそ!もう二度と…っ 二 度 と!薬なんざ 飲んでやらねぇぞ~?」
看守がアシルから離した位置に 酒瓶のふちを持ちブラブラと落とそうとしている ザッツロードが苦笑して言う
「なんだか お二人は とっても仲が良いですよね?」
アシルがザッツロードへ向き怒って叫ぶ
「どこがだっ!ローレシアのへっぽこ第二王子!」
ザッツロードが頬を引きつらせて言う
「へ…へっぽこ…」
ザッツロードが苦笑している 看守が酒瓶のふたへ手を掛けて言う
「なら… これでどうだ?」
看守が酒瓶のふたの封を音を立ててあける アシルが衝撃を受ける 看守が言う
「さぁ?開けたぞ~?このままお前が 薬を飲まないのなら…」
看守が蓋の開いた酒瓶を傾け始める アシルが衝撃を受け慌てて言う
「ぬあっ!ま、待てっ!?」
看守がニヤリと笑んでアシルを見る アシルが表情を困らせた後ぐっと堪えてから言う
「い いぃいやっ!駄目だっ!やっぱり飲まねえ!」
看守が驚く アシルが看守を指差して叫ぶ
「どぉおせっ 貴様はっ!俺が薬を飲んだ途端 そいつを引っ込めて笑って帰りやがるんだろ!分かってるんだ!だから もう二度と…っ 三度と騙されてたまるかぁああ!」
アシルが腕組みをしてぷいっと背を向ける 看守が衝撃を受け困って言う
「なっ!?ち、違うっ!今度こそくれてやる!ほ、ほらっ もう栓も開けた な?な?」
アシルがチラリと視線を向けるが改めてプイッと顔を逸らす 看守が困って腕時計を見る ザッツロードがミニトマトを口に入れてからナイフとフォークをトレーに置き 手を合わせて言う
「ご馳走様でした」
ザッツロードが微笑して看守を見る 看守がザッツロードを不満そうに見てからアシルへ言う
「むぅ… こっちは夕食所か お前が薬を飲まぬ限り 帰宅を許されんのだぞっ!?それこそ夕食もお預けであると言うのにぃ… おいっアシル!こらっ!こっち来いっ!」
アシルが衝撃を受け怒って振り返って言う
「俺は 貴様の犬かっ!?」
ザッツロードが看守へ言う
「でしたら… いい加減 それ一つ位アシル王子へ渡してはどうです?…安酒 なのでしょう?」
ザッツロードが苦笑する 看守が困った後言う
「それはそうだが… 渡した後に 奴が薬を飲まなかったらどうする?それこそ…」
ザッツロードが表情を困らせ言う
「う~ん… それはそうですが」
ザッツロードがアシルを見る アシルとザッツロードの視線が合う アシルがフンッと顔を逸らす ザッツロードが苦笑して言う
「あぁ… えっと…」
ザッツロードが思い付いて言う
「あ!でしたら?こう言うのはどうでしょう?そのお酒を 先にアシル王子へ渡すのでもなく 貴方が持って待つのでもなく 私が一度預かる!…と言うのは?」
アシルと看守が疑問して言う
「「はぁ…?」」
ザッツロードが苦笑して言う
「牢屋の看守が大変である事は 私も多少知っています …そして、今は アシル王子と共に こちらへ囚われる気持ちも分かります つまり、中立 …と言う事で?」
アシルと看守が呆気に取られてザッツロードを見る ザッツロードが微笑する
ザッツロードが酒瓶を持っている 看守が言う
「さぁ アシル!」
アシルがニヤリと笑んで言う
「クックックック… ローレシアの第二王子殿… お前がここに来てくれて 初めて良かったと思ったぜ…?さあっ!」
アシルがザッツロードへ手を向ける ザッツロードが酒瓶を看守の方へ向ける アシルが呆気に取られる ザッツロードが微笑して言う
「私は今 中立です …これは これからのアシル王子や私の為でもあるのですから 約束は守りましょう?」
アシルが驚き呆気に取られて言う
「はぁ…?」
看守が笑んで言う
「はっはっは!流石はローレシアの王子にして このソルベキアの補佐官殿!」
ザッツロードが苦笑して言う
「ローレシアへは 毎度迷惑を掛けてしまう 駄目な第二王子ですが」
アシルがわずかに表情を困らせて言う
「クッ…」
アシルが悔しがって看守を見る 看守がニヤニヤしている アシルが舌打ちをして言う
「チィ… まぁ良い 気には入らんが …背に腹はなんとやらって奴だ」
アシルが床に落ちている薬を拾う 看守が言う
「おいっ 水も飲んで見せるんだぞ!?」
アシルが不満そうに言う
「分かってる!何度やってると思ってるんだっ?」
アシルが続いてペットボトルを拾い ザッツロードを確認してから看守を見る 看守が見つめている アシルが不満そうに薬の封を開け薬を飲み込み 再びザッツロードを確認してから水を飲む ザッツロードがアシルを見てホッとする 看守が目を光らせ 瞬時にザッツロードの手から酒瓶を奪う アシルが叫ぶ
「ぶあぁああっ!?」
ザッツロードが驚き呆気に取られてから 気付いて自分の手を見て言う
「え…?…あっ!」
ザッツロードが看守を振り返る 看守がニヤリと笑んで酒瓶をちらつかせる ザッツロードが呆気に取られて言う
「いつの間に…」
ザッツロードの頭が叩かれる ザッツロードが痛がって言う
「痛っ!」
アシルが殴り終えた姿で居て ザッツロードを締め上げて叫ぶ
「あにやってやがるんだああ!?このへっぽこ王子がああっ!」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「す、すみません… まさか 彼に 裏切られてしまうとは 思ってもいなくて」
アシルがザッツロードを揺すって言う
「そらあ どお言う事だあ?さっきまで お前は思いっきり俺を 警戒してただろうがあっ!?」
ザッツロードが苦笑してアシルを抑えようとしている 看守が笑って言う
「あっはははははっ!いやぁ~助かった!…それじゃ また明日な?アシル …それから ザッツロード補佐官殿」
看守がザッツロードの夕食トレーを回収する ザッツロードが締め上げられたまま看守へ向いて言う
「あ、はい お休みなさい」
看守が笑顔で立ち去る アシルが怒って言う
「なに仲良く挨拶交わしてやがるんだっ!?お前はぁああ!?」
ザッツロードが苦笑する
アシルが定位置へ横になって言う
「…たくっ クソ… 畜生が…」
ザッツロードが一息吐いて言う
「アシル王子…」
ザッツロードがアシルを見るアシルは背を向けている ザッツロードが苦笑して言う
「…確かに 彼はアシル王子を あのお酒で釣ってますが …王子はあの薬と水しか摂取していませんよね?…少なくとも 私がここへ来てから …その … あの薬は栄養剤だって言ってました それを拒否するのは… アシル王子?」
つかの間の沈黙 アシルが言う
「…元 王子」
ザッツロードが不意を突かれて言う
「え?」
アシルが顔を向けて言う
「…何度も言ってんだろ 元!王子だ」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言う
「あ… ああ… そうでしたね …スプローニの王位には ロキが着いたのだから アシル王子は…」
アシルが再び背を向けて言う
「ケッ…」
ザッツロードが表情を落として言う
「…だから …ですか?」
アシルが目を閉じている その後ろへ視線を向けてザッツロードが言う
「…ロキに 王位を奪われてしまったから …それで 自暴自棄に?」
アシルが表情をしかめて言う
「…そんなんじゃねぇ」
ザッツロードが意外な返答に疑問して言う
「え?それじゃ…?」
ザッツロードの疑問にアシルが沈黙する 再びの沈黙の後 ザッツロードが言う
「…えっと …あの アシル王子も」
アシルが不満そうに言う
「元!」
ザッツロードが一瞬驚いた後苦笑して言う
「あっ… あは… …では アシル元王子も スプローニの銃使い なのですよね?ラグヴェルス前王も 銃使いで… 以前の旧大陸から 民を迎える時も戦われて… えっと ローゼントのハリッグ前王と一緒に それで 勝利したと…聞きました …僕は その時は 戦えなかったけど」
ザッツロードが一度視線を落とし はっとして言う
「あ!いや、僕の事は良いんですが!…あの時は アシル王子… 元!王子も やっぱり…戦っておられたんですよね?…その スプローニを守るために!」
アシルが目を開いていて思い出している
回想
アシルがラグヴェルスへ向かって叫ぶ
『な!?この状況で 父上がローゼントへ向かうだとっ!?何を言うっ!?父上の目には あの門前に群がる 機械兵どもが 見えないのか!?』
ラグヴェルスが銃を確認して言う
『…無論見えている 老いたとは言え わしの目はそれ程衰えてはおらん 少なくとも わしの手に この銃がある限り』
ラグヴェルスが銃をコートへしまう アシルが顔をしかめて言う
『だったら何故!?』
ラグヴェルスが目を閉じて言う
『…あいつが …ハリッグがローレシアの魔法使いを わしらへ送ってくれた これならスプローニは守られるだろう だが、問題は あちらの方だ 今は、全国へと あの機械兵がばら撒かれている この状況では ローレシアも必要最低限の魔法使いしか ローゼントへ送っておらぬはず それを このスプローニへも送ったとあれば 間違いなく ソルベキアの隣国であるローゼントは 窮地に立たされて居る』
アシルがラグヴェルスを見る ラグヴェルスが目を開いて言う
『…そうなると分かっていて あいつは送ってくれた …この事に わしは答えねばならん …奴の相棒として』
アシルが悔しそうに言う
『父上…っ 父上はこのスプローニの国より 己の相棒との絆を取ると言うのかっ!?…ならばっ ならばスプローニの指揮は 俺が執る!』
ラグヴェルスがアシルを見る アシルが手を振り払って言う
『この状況で 国王である父上が国を離れるとなれば!残された兵を束ねるのは 当然 父上の息子であり スプローニ唯一の王子である 俺を置いて他にはない!俺が前線で ローレシアの魔法使いを含む 全部隊の指揮を執り 父上の… 貴方の国王としての権威を守ってくれる!』
ラグヴェルスが呆気に取られた後苦笑して表情を落とす アシルが疑問する アシルの後方からロイの声が掛かる
『…陛下 スプローニ第三部隊隊長のロイ 参りました』
アシルが疑問して振り返る ラグヴェルスが言う
『…来たか …ロイ隊長 これより卿へ ローゼントより派遣されし ローレシアの魔法使いを含む このスプローニ全部隊の指揮権を与える』
ロイが僅かに驚く アシルが驚きラグヴェルスへ振り返って叫ぶ
『父上!?』
ラグヴェルスがアシルへ言う
『…そして アシル お前は』
アシルが驚き呆気に取られる ラグヴェルスがアシルの前を抜けロイの前で足を止めて言う
『…ロイ隊長 わしもロキも居らぬが スプローニの部隊を 頼んだぞ』
ロイが僅かに驚いた後軽く礼をして言う
『…御意っ』
ラグヴェルスが立ち去る ロイがラグヴェルスの後姿を見る アシルが唇を震わせた後叫ぶ
『…何故だっ!?父上っ!!』
回想終了
アシルが視線を強める ザッツロードが視線を落とし苦笑して言う
「…良いな~ 自分の国を守るため 自分の国で戦うって …きっと とても」
アシルが目を閉じて一息吐く ザッツロードが疑問する アシルが言う
「…俺は …戦ってねぇ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?そう… だったのですか …あ、でもっ あの…っ」
ザッツロードが気を取り直して微笑して言う
「アシル元王子も ロキやロイみたいに 2つの銃を同時に使うのですか?」
アシルがムッとする ザッツロードは見えないので微笑したまま言う
「2つの銃を同時に使う場合は 二丁銃使いって言うそうですね!実は私は先日まで 銃使いは ロキとロイの2人しか見た事がなかったので ローレシアで合同練習があった時に その時になって初めて 1丁銃の使い手を見たんです …あ 1丁の場合は 普通に 銃使い だけで良いのかな?…あはっ」
アシルが不満そうな表情で居る ザッツロードが一人で考えて言う
「…けど どうして銃使いは皆 二丁銃使いにならないんだろう?折角手は二つあるのだから 銃も2つ持ったら良いのに… 重いのかなぁ?…確かに軽くはないだろうけれど …でもあれで重いと言ったら アバロンの大剣使いなんて…」
アシルが溜息を吐く
「はぁ…」
ザッツロードがはっとして苦笑して言う
「ああっ…すみません うるさいですよね?ごめんなさい… 言葉にしないで 黙って考える様にします…」
アシルが言う
「二丁の銃を使うってぇのは お前が考える程 簡単なもんじゃねぇんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが言う
「一丁であってもそうだ お前はただ 銃ってもんは対象へ向けて引き金を引けば 当たるとでも思ってやがるんだろぉが… 実際はそんな簡単なもんじゃねぇ …二丁なら尚更 銃は距離の二乗倍で 照準がずれちまう その照準だって 相当な訓練がなけりゃぁ 瞬時に合わせる事だって出来やしねぇ …お前が撃ったんじゃ カイッズの巨人族が相手でも 掠りもしねぇだろうぜ」
ザッツロードが呆気に取られる アシルが言う
「…双方の手に銃を持てば 距離の二乗倍所か 左右の距離まで加わる その照準は尚更合わせ辛くなる おまけにロキやロイ程にもなれば 扱う銃は最高位の殺傷力を持つ物だ 威力が強ければその分 自身へ帰って来る反動もデカくなる …お前の話し振りじゃ 一度も銃を使った事がねぇんだろぉ?威力の強い銃は 一発撃っただけで 普通の奴は腕の感覚を失う 瞬間的には 呼吸すら止まるってモンだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「…そんな凄いものを 彼らはあんな風に…」
ザッツロードの脳裏にロキやロイの戦闘風景が思い出される アシルが不満そうに言う
「…だってぇのに 銃使いは後方の安全な所からパンパン撃ってるだけの 腰抜けだとか抜かしやがって お前ら剣士に何が分かりやがる?」
ザッツロードが苦笑して言う
「あ… はい 僕は 一応剣士ですが…」
アシルが一息吐いて言う
「…あぁ ローレシアは魔法使いの国だったな」
ザッツロードが苦笑する
「あは…」
アシルが目を閉じて言う
「…とは言え 接近戦をする剣士が 命がけだって言いてぇ気持ちは 分からなくもねぇ 敵と面と向かって武器を合わせるんだからなぁ?」
ザッツロードが微笑して言う
「はい」
アシルが言う
「…なら お前の知ってる 奴ら… ロキとロイはどうだ?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが言う
「…奴らは お前が… いや、剣士どもが言いやがる様に 後方の安全な所から 銃を撃ってやがったか?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ…」
ザッツロードの脳裏にロキとロイの姿が浮かぶ アシルが言う
「…奴ら二丁銃使いは 唯一銃使いの中で接近戦を行う …まぁ 奴らを真似て 接近戦の真似事をやる連中は居るがなぁ?…実際は出来ちゃいねぇ …出来ねぇんだよ」
ザッツロードが言う
「何故?」
アシルが言う
「…簡単な話だ 銃が一丁だから」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが言う
「一丁じゃ 間に合わねぇんだ 言っただろぉ?銃ってぇのは 一発の反動がデケェんだって …次の一発を撃つそれまでの間に どうしても剣士の攻撃を受けちまう …だから 接近戦をするには二丁銃じゃなけりゃならねぇ …ついでに言っちまえば 二丁銃使いの連中は 遠距離攻撃がド下手なんだぜ?笑っちまうよな?ケッ…クククッ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?そう…なんだ?あのロキとロイが… はは 何だか 意外です あははっ」
【 スプローニ国 訓練所 】
ロイがくしゃみをする
「…っくしっ!」
シャルロッテが疑問してモバイルPCから顔を上げて言う
「ロイ?寒いのですか?」
シャルロッテがモバイルPCを操作して首を傾げて言う
「うん?でも体温は正常値だし…」
ロイが銃を持った手の袖で軽く口をぬぐって言う
「…いや …寒くは ない」
シャルロッテがロイを見て微笑してから再びモバイルPCへ向き直りタイピングをしながら言う
「それでは 次は遠距離での訓練に移りますよ?ロイ 10メートルラインまで後退して下さい」
ロイが表情をしかめて言う
「…シャル やはり俺は 遠距離の訓練は」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「昨日の命中率は58.4%です ロキ陛下から第二部隊の隊長を正式に任された以上 彼ら第二部隊員たちの命中率98.9%を目指して もう少し訓練をして強化しないと… いざと言う時 隊長の貴方がそんなでは 恥ずかしいですから」
ロイが10メートルラインに立ってから困って言う
「…俺は …接近戦専門なんだ …第二部隊の隊長を任されたからと言って 急に変えろと言われても… やはり 困る」
シャルロッテが澄まして言う
「そんな事では駄目ですっ 苦手であっても努力して頑張る姿こそ 良い父親の姿ですから」
ロイが渋々銃を向けた後 驚きに目を見開いて言う
「…シャル 今 …何と?」
シャルロッテがロイを見た後モバイルPCで微笑を隠す ロイが呆気に取られて瞬きをする
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが得意げに言う
「…ですから きっと魔法使いたちは いつも本を読んでいるだなんて そんな印象が持たれているんでしょうね …しかし、実際 意識を集中させる事のみで それまで感じられなかった魔力を感じ取ると言うのは難しくて だからやっぱり 過去の大魔法使いと言われる偉人たちが書き記した書物などは とっても貴重で 魔法使いたちは皆 それを捜し求めているんだと思います… と言っても 僕は」
アシルが寝転びながらもザッツロードを見て考え深げに話を聞いて疑問する ザッツロードが照れ苦笑して頭を掻きながら言う
「僕は子供の頃から城にある多くの魔法書へ 一通り目を通しては見たんですが 頭で理解出来ても なかなか再現までは出来なくて… やっぱり魔法使いとしての才能がないのかなぁ… はは…」
アシルがザッツロードへ向けていた体勢を変え天上を向いて一息吐く
「フン…」
ザッツロードがハッとして言う
「あっ ああっ 御免なさい …また 僕自身の事を話出してしまって」
アシルが目を閉じて考えながら言う
「… お前はさっき言ってただろう…?同じ場所で同じ魔力を感じ取るにしても 魔法使いによっては 暖かい魔力だとか 熱い魔力だとか… 感じ方が人それぞれなんだって」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?あ、はい そうなんです でも、ソルベキアの研究者たちに言わせると どちらも同じ魔力数値らしいんですが」
アシルが目を開いて言う
「…そいつはつまり 魔力の属性ってやつが 関係してるんじゃねぇのか?」
ザッツロードがアシルを見る アシルが言う
「魔法使いたちが空気中から感じ取る魔力… 熱い魔力 冷たい魔力 ピリピリする魔力 吹き抜ける魔力 圧迫する魔力 お前がさっき言っていた それらの魔力ってのは 5大魔法属性 火、水、雷、風、土を感じ取ってるんだろ …それなら 例えば 火属性を得意とする魔法使いなら 火の魔力を暖かいと感じ取る …逆に その対極属性である 水属性を得意とする魔法使いなら」
ザッツロードがハッとして言う
「そうか…っ 自分が得意とする属性の対極であるのなら 確かに 同じ火属性の魔力を同量感じ取っても その感覚は 暖かいと熱いに分かれるのかもしれない!」
ザッツロードが嬉しそうに言う
「考えた事もありませんでした でも 確かにそれなら 火の魔法を得意とした僕の仲間 ソニヤが暖かい魔力が多いと言った時に 対極の水…いえ、氷の魔術を得意としたラナが 熱い魔力が多くて氷の精霊様が集まってくれないと言ってた!あの時のっ …僕はてっきり 彼女たちが魔法使いと 魔術師 反発する2人であるからかと思っていたけれどっ …あ」
ザッツロードが照れる アシルが苦笑して言う
「ケッ… やっぱり また お前の身の上話だったなぁ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「すみません… つい」
アシルが軽く笑んで言う
「フン… まぁ 何にしろ そう言う事で お前自身も そうなんだろ?」
ザッツロードが疑問して言う
「え?」
アシルがツンと澄ました表情で目を閉じて言う
「だからっ いくら多くの魔術書を読んで 頭に入れたところで お前に合わない属性魔力を得ようとしても 再現は難しいんだろぉがよ?」
ザッツロードが呆気に取られた後考えて言う
「…そうか …そうなのかもしれない …それなら!僕に合う属性の魔法なら もっと上手く!…て」
ザッツロードが落ち込んで言う
「僕は 5大属性の全てが不得意な 低ランク魔法使いなんだった…」
アシルがザッツロードを横目に見る ザッツロードが困り苦笑で頭を掻く アシルが不満そうに言う
「それじゃぁ しょうがねぇな…?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい…」
アシルが言う
「今ある余計な知識を全部捨てて お前の魔法使いとしての 本当の属性を確認する事から始めたらどぉだ?…てな 魔法なんかまったく使えねぇ奴の言葉だ 本気にするなよ?」
アシルが苦笑する ザッツロードが呆気に取られた後微笑して言う
「…なるほど そうですね 最初から知識ばかり詰め込むんじゃなくて 一度真っ白な状態から… 本当の属性を確認する事から やり直して見るのも良いのかも知れない!」
ザッツロードがやる気に満ちる アシルが呆れて言う
「…お前 予想以上に単純な奴だな」
【 スプローニ城下町 道中 】
ロイが神妙な面持ちで歩いている シャルロッテが後ろに続きながら苦笑して言う
「昨日の命中率は58.4%… それでも一昨日に比べれば0.1%の向上でしたが…」
シャルロッテが困り笑顔で言う
「今日の命中率は36.3%でした!向上所か 急降下です!脳波も乱れていたし …ロイ?」
ロイが立ち止まる シャルロッテが首を傾げて立ち止まる ロイが顔を向けて言う
「…貴女が言った言葉に 脳波も照準も乱されていたんだ」
シャルロッテが疑問して言う
「え?」
ロイが向き直って言う
「…『え?』では無い 俺は貴女に あんな言葉を言わせるような事をした覚えは無い …大体 貴女は先住民族であり 俺は後住民族 …遺伝子情報がどうと言う 詳しい話は理解しきれんが それでも」
シャルロッテが苦笑して言う
「はい… 先住民族と後住民族は 遺伝子的にもまったくの別生物です いくら私たちが 後住民族のロイたちの姿を現していようとも… 人と人以外の動物である以上 その間に子孫は出来ません」
ロイが表情を困らせて言う
「…では あの言葉は どう言う事だ?」
シャルロッテが微笑して言う
「えへ…っ はいっ!それは!」
シャルロッテが笑顔になる ロイが疑問する
シャルロッテが孤児院の前に居る ロイが一歩踏み出して言う
「…ここは 孤児院」
シャルロッテが微笑して言う
「はい!しかも この孤児院はスプローニだけではなく 全世界の戦争孤児を受け入れている 前スプローニ国王 ラグヴェルス様が設立させた 特別な孤児院です!」
孤児院の中の子供たちがシャルロッテに気付き喜んでやって来る
「あ!メガネのお姉ちゃん!」「チャルねーちゃんだー」「わーいおねーちゃん!きのうも待ってたんだよー」
シャルロッテが子供たちをあやしながら言う
「ごめんね 皆 お姉ちゃん 昨日はお出掛けしていたものだから」
ロイが疑問している 院長が出て来て言う
「ああ シャルロッテさん ソルベキアからの書類は届きました これで 後は申請書を頂ければ」
シャルロッテが微笑む ロイが言う
「…ソルベキアからの書類?…申請書?…シャル もしや貴女は」
シャルロッテがロイへ向いて微笑して言う
「ソルベキアの民である私では 本来はその資格を得る事が出来ないんです …でも 院長さんが 私を信頼してくれて」
ロイが呆気に取られる 院長がロイへ向いて言う
「シャルロッテさんはロイ様の相棒をされており 尚且つ 以前の戦いにおいても スプローニやツヴァイザーを守るため ロイ様や他のお仲間と共に 戦中にて戦って居られた… それ程の方であるのならと思い 私の方からラグヴェルス前陛下へ 特別にお伺いを立てました所」
シャルロッテが苦笑して言う
「…私が ソルベキアの国籍を捨て このスプローニへ忠誠を誓うと言う事であるのなら 私を信じて頂けると」
ロイが驚いて言う
「…っ!シャル 貴女はソルベキアの国籍をっ!?」
シャルロッテが困り苦笑で言う
「お父様にも了承を頂きました それが 私の選ぶ道であると言うのなら 構わないと …でも、一度ソルベキアの国籍を捨てると 以後ソルベキアへの入国は許されません お父様とお会いする事も 難しくなってしまいますが」
院長が立ち去る ロイが院長へ一度視線を向けた後 シャルロッテへ強い視線で言う
「…そうまでして 何故だ?スファルツ卿は …貴女のたった一人の家族なのだろう?」
シャルロッテが俯いて言う
「はい… そうです でも…」
院長が虫かごを持って戻って来て言う
「昨夜… 恐らく あの戦争の時の夢でも見たのでしょう 恐ろしさの余り 折角ラグヴェルス前陛下に人の姿へして頂いたと言うのに」
院長が虫かごを見せる 中に赤トカゲが一匹入っていてシャルロッテへ向いてピーと鳴く シャルロッテが呆気に取られて言う
「あららっ」
院長が虫かごを開ける 赤トカゲがシャルロッテの手を伝って肩へやって来てピーピーと鳴く シャルロッテが苦笑して言う
「うん、うん… そう、怖かったのね 大丈夫よ ソルベキアでは怖かったでしょうけど このスプローニには 強い銃使いさんたちが一杯居て 皆を守ってくれるから」
ロイが見つめている 赤トカゲがピーと鳴いてシャルロッテへ甘える シャルロッテが微笑む 院長が微笑して言う
「今日はもう遅いですし これからでは申請書の受理も明日になってしまいます しかし、今回は既にラグヴェルス前陛下からの 直接の許可を頂いて居ますので シャルロッテさんさえ宜しければ…」
シャルロッテが喜んで言う
「え!?今日からっ い、いいいいっ今から!?い、良いんですかぁ!?」
院長が軽く笑って言う
「ええ 実は 彼がこの姿ですと 子供たちが面白がってしまって… 喜んで遊ぶのは良いのですが やはり子供たちでは 何かあってはと心配で 今日も一日中 このかごの中で 子供たちから離していたのです しかし、それでは 楽しそうに遊ぶ 友達の姿を眺めるだけに 可愛そうでもありますから もちろん そちらのご都合が宜しければの話ですが」
シャルロッテが喜んで言う
「は、ははは はいー!こここ、こちらのご都合は ぜっ絶好調でございますぅ!」
院長が微笑んで言う
「ああ、それは良かった 良かったなー?ピー助?」
赤トカゲが嬉しそうにピーと鳴く シャルロッテが笑顔になる ロイが呆気に取られている
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが嬉しそうに話している
「…な訳で ローレシアの先住民族は 生まれてすぐ 人の姿になってしまうので 自分が先住民族であることを知らない場合も有るんです おまけに 本来の馬の姿に戻った時には 馬なのに4本足で立つ事を知らなかったりするんですよ!?」
アシルが笑って言う
「っはははっ なんだそらっ!?まさか 馬の癖に 2本足で立とうとなんかするんじゃねぇだろうなぁ!?」
ザッツロードが笑って言う
「そうなんですよ!いや、本当なんですって!」
2人が笑い終えると ザッツロードが苦笑しながら言う
「まぁ、それは本当に極端な話なんですけど それ位 ローレシアでは先住民族も人の姿で 僕らと同じ様に過ごしているんです」
アシルが言う
「へぇ… まぁ ソルベキアの連中も皆人の姿だが 大半は先住民族だって言うしな?」
ザッツロードが言う
「そうですね それに ソルベキアは機械の国だから 先住民族も後住民族も同じ様に過ごせるのかも知れない… ローレシアはすぐに分かるんです」
アシルが言う
「フン… 魔法が使えるのが後住民族で 使えねぇのが先住民族って事か」
ザッツロードが言う
「はい」
アシルが苦笑して言う
「まぁ そうなっちまうか…」
ザッツロードが言う
「スプローニはどうなんですか?やっぱり 銃使いになるのが後住民族で 先住民族たちは…」
アシルが言う
「こっちは… ソルベキアと一緒にはされたかねぇが 銃に関しては 先住民族も後住民族もねぇ 人の姿であれば引き金は引けっからなぁ…」
ザッツロードが言う
「あ… なるほど」
アシルが軽く息を吐いて言う
「…とは言え 先住民族が戦いを好まねぇのは お前の所も同じだろ?それでも 共に国を守ろうって奴は 銃を持って戦う奴も居る …ついでに言やぁ 他の武器を持つ奴も居る …いや、どちらかと言えば 先住民族はそう言う奴が多いかもな 犬どもは 銃の音や火薬の匂いが気に入らねぇってよ な訳もあって うちはどんな武器を使おうが そいつが その部隊で上手くやっていけるなら 入隊を許可している」
ザッツロードが言う
「それで スプローニ上位の第二部隊でさえ 銃と剣を使うロスラグや 長剣使いのヴェルが入る事も許されたんですね!…あ!それに」
アシルが疑問する ザッツロードが微笑して言う
「銃使いであっても 二丁銃の兵士と一丁銃の兵士が混合ですね!第二部隊の隊長だったロキに 第三部隊の隊長だったロイ 彼らは二丁銃だけど 他の銃使いは一丁銃が多いですよね?」
アシルが溜息を吐いて言う
「はぁ… だから そいつに関しては さっきも言っただろう?」
ザッツロードが疑問して言う
「え?」
アシルが言う
「二丁銃は 難しいんだ 第二第三部隊のそれは むしろ 隊長をそいつらにする事で 隊員にも二丁銃を扱えるよう 指導させようとした結果だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ… そう だったんだ」
アシルがザッツロードへ向いて言う
「当たりめぇだろうぉ?単純計算では 二丁銃使いってぇのは 一丁の奴の1.5倍の戦力になる それだけでも価値は有る上に 二丁銃を扱える銃使いは スプローニを置いて他にはいねぇ 奴らはスプローニの宝だ 出来るもんなら いくらでも増やしてぇ …だから 親父は 王位を得てから すぐにそれを開始した 親父の頃にも1人だけいたんだ 二丁銃を使う奴が… あのロキの父親だった奴がな?」
ザッツロードが言う
「ロキの…?それで二代続いての二丁銃使いに」
アシルが言う
「ロキの父親 ロンキウスはそれまでスプローニでさえ失われていた 二丁銃の技術を完全に復活させた優秀な銃使いだった だから親父は 自分が王位を継承すると すぐに ロンキウスをスプローニ第一部隊の隊長にして 奴と同じく二丁銃を扱える銃使いを増やそうとしたんだ」
ザッツロードが気付いて言う
「へぇ… うん?しかし…?」
アシルが言う
「ああ …それでも結局 奴へ与えた部隊から 二丁銃を扱える兵は生まれなかった 今、スプローニで二丁銃を扱えるのは ロンキウスの息子 ロキと ロキの甥に当たる ロイ その2人だけだ その上 厳密に言えば ロンキウスによって 二丁銃の能力を得たのは 奴の息子 ロキ1人だけだったんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「そんな… 一体どうして?」
アシルが仰向けに体勢を変えて軽く息を吐いて言う
「ロンキウスは 自分の力不足だと言い 親父も二丁銃使い復活に掛けて 躍起になっていた分 その結果に… いや あの頃の親父には 多くの事が…」
ザッツロードが疑問して言う
「え?スプローニに… その頃のラグヴェルス国王に何か?」
アシルが息を吐き目を閉じて言う
「ふぅ… 何でもねぇ とにかく ロンキウスはその責任を自ら一身に受けて スプローニ第一部隊長の地位から 同盟国シュレイザーの常駐部隊隊長なんて地位まで叩き落され スプローニを追い出されて… そのまま シュレイザーで死んじまった」
ザッツロードが驚いて言う
「死んで…!?」
アシルが目を開いて言う
「スプローニの民は 歳より若く見られるし それに似合う位 長寿な事も有名だが… ロンキウス隊長は 親父よりも若かった …死因は今でも分かってねぇ」
ザッツロードが沈黙する アシルが言う
「…ロンキウス隊長は …俺にとっても 恩の有る人だった」
ザッツロードがアシルを見る アシルが言う
「…隊長も 親父の期待を受けて その期待に答えようと 努力はしていたんだ」
ザッツロードが言う
「…それでも 出来なかったんですよね?二丁銃使いの育成は…」
アシルが目を閉じて言う
「ああ… だが、隊長は何も悪くねぇ そもそも 一度通常の銃使いになっちまった奴を そいつらを後から接近戦の二丁銃使いにしようってぇのが 間違いなんだよ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
アシルが目を開いて言う
「これは ロンキウス隊長も親父も… ロキやロイも分かってねぇ …だが 俺には分かる 本気で二丁銃を扱う銃使いを増やそうと思うのなら もっと 最初から 根本的に育て方を変えなけりゃならねぇ 今のやり方のままじゃ 駄目だっ だから 俺はっ!」
アシルが黙る ザッツロードが見つめていて言う
「アシル 王子は…!?」
アシルが息を吐いて落ち着いて言う
「チィ… 俺は 俺のやり方で スプローニの銃使いたちを 変えるつもりで居た …もちろん 今まで通り 一丁銃の奴も必要だ スプローニだからって 皆が皆 二丁銃の接近戦だけじゃ その価値も半減だ 一丁の奴も二丁の奴も居て… 他の武器を扱う連中も ローレシアの魔法使いの連中も来るってぇなら受け入れる それで、スプローニの兵は アバロンとは違う 銃使いをメインに 総合的に穴のねぇ 最強部隊になれるんだ」
ザッツロードが感心して言う
「銃使いも 他の武器の兵も… 魔法使いも 先住民族たちも居る… スプローニは 凄い国ですね!」
アシルが笑んで言う
「おうよ!…とは言え まずはメインとなる二丁銃の連中を育ててやらなけりゃぁ その凄ぇスプローニも始まらねぇ 魔法使いやら先住民族やら 周りばっかり集まっちまってもなぁ?」
ザッツロードが軽く笑う
「はははっ」
アシルが苦笑した後言う
「…スプローニにとって 二丁銃使いは宝だと言ったが 訂正する …そうじゃねぇ 本当の宝は そのスプローニに集う 全てだ 二丁も一丁も関係ぇねぇ 武器を持たねぇ連中だって その兵士たちを育てる だから スプローニに集まる民は 全てが国の宝だ」
ザッツロードが尊敬の眼差しで見ている
【 スプローニ国 シャルロッテの部屋 】
シャルロッテが嬉しそうに眺める先 赤トカゲが皿に注がれているミルクを舐めてピーと鳴く シャルロッテが微笑して言う
「そう 美味しいの?良かった 一杯飲んで 大きくなるのよ?」
赤トカゲが嬉しそうにピーと鳴いてミルクを舐める その向こうに ロイが夕食を前に赤トカゲを見て沈黙している シャルロッテがロイの様子に気付き ロイへ言う
「ロイ?…食欲が無いのですか?今日はピー君のお迎えを祝って 折角ステーキにしましたのに… やっぱりちょっと時間が遅くなってしまったせいでしょうか…?」
ロイが不満そうに言う
「…祝い事であろうが無かろうが …貴女の料理は 常に肉か魚を焼くだけの物 …これがステーキなら 昨日の焼き魚も 一昨日の焼き鳥もステーキと言う事になるのだが?」
シャルロッテが衝撃を受け 慌ててモバイルPCを叩き始めて言う
「そ、そそそそっ それはっ そ、そのっ ス、ステーキの定義に付きましてはっ あああ、厚く切った獣肉や魚肉を鉄板などで焼いた料理とされ 特に牛肉を使ったビーフステーキが代表とされますがっ 定義を元に制定するのでしたらっ 魚も鳥も 本日の豚肉であっても 一応 ステーキはステーキと言う事になりましてっ!」
ロイが沈黙して言う
「…では 俺の間違えだな …貴女が正しい」
シャルロッテがハッとして慌ててモバイルPCを片付けて言う
「い、いいいいいっいえっ!滅相もございませんっ!つ、つつつ、つまりっ そのっ ロイが言いたい事は わ、私の料理はいつもステーキ… いえっ いつも焼いただけの料理であると言う事で… ご、ごめんなさい…っ」
シャルロッテが表情を悲しめて俯く ロイが沈黙してから言う
「…いや その推測も正しいが」
シャルロッテが衝撃を受ける ロイがシャルロッテの前に置かれているコップを見て言う
「…飲み物でしか養分を摂取しない ソルベキアの先住民族である貴女に用意をさせている以上 形だけでも 俺たちの食事を用意してくれるだけで 十分だ」
ロイがスープを飲む シャルロッテが驚き苦笑して言う
「そ… そのスープも お店で売っていたものを買って来て あ、暖めただけ… です」
ロイがサラダを食べながら言う
「…先住民族と後住民族で 共に暮らしているのは スプローニでは珍しい事ではない 俺たち以外にも この様な暮らしをしている者が… よって 店頭でも 貴女がこうして手に取る品が充実しているだろう?…この国は そう言う国だ 従って この料理は それらの定義に沿って 正しいと言う事になる …違うか?」
シャルロッテが呆気に取られた後表情を和らげ嬉しそうに微笑んで言う
「はい!そ、その定義で… う、ううううっ 嬉しいっですぅ!」
シャルロッテがモバイルPCで顔を隠す ロイが手を止めて言う
「…所で …その …」
ロイが赤トカゲを見る 赤トカゲがミルクを飲み終えピーと鳴いてゲップをする シャルロッテが軽く笑って言う
「はい、よく飲めました!」
シャルロッテが赤トカゲの背を撫でる 赤トカゲが嬉しそうに尻尾を振る ロイが不満そうに言う
「…貴女が言っていた 父親の姿がどうである とか言うのだが …まさか」
シャルロッテがロイへ向き苦笑して言う
「はい!そのっ あれは… ちょっとした 言葉の比喩と言いましょうか」
ロイが言う
「…比喩?」
シャルロッテが苦笑して言う
「私は… この子を自分の子として 育てる事にしたんです だから 里親…って事になりますね 今日から… 正式には 明日申請書の受理が終わったら 私はこの子のお母さんになります」
ロイが軽く頷く シャルロッテが微笑して言う
「でも、私に旦那様は居ないので この子には やっぱり お父様が居ません だから きっと…」
ロイが沈黙する シャルロッテが苦笑して言う
「私とほとんど一日一緒に居る ロイの姿は この子にとって お父様に近い人に映るんじゃないかな …と思って …そ、そう言う意味で 言ったんですぅっ!」
ロイが脱力して言う
「…なんだ …そう言う事か…」
シャルロッテが慌てて言う
「あ、ああああっ あのぉっ ご、ごごごごごっ ごめんなさいっ!わ、私 ま、ままま まさか ロイの命中率に あ、ああああっ あんなにっ 影響が出るとは お、おおおおっ思わなくてっ!」
ロイが片手で軽く頭を抱える シャルロッテが慌てて立ち上がって頭を下げて言う
「ご、ごめんなさいっ ごめんなさいっ!そのっ やっぱり!今日の あ、あああ あのデータは な、無かった事にぃ!あ、あああ 明日っ 改めて 昨日のデータとのっ ひ、比較検証をっ!」
シャルロッテが慌てている ロイが考えている
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが言う
「…そう言えば ローレシアの先住民族は ほとんど元の姿には戻りませんが スプローニの先住民族 犬たちは 逆に余り人の姿にはならないのですか?ロスラグ… いや、ベルグルも 先の戦いの直前に 初めて人の姿になったとか」
アシルが少し疲れた様子で軽く考えながら言う
「あぁ~…?犬たち …そうだなぁ まぁ犬にもよるが あいつらはチョイチョイ 犬になったり人になったりしてるぜ?で、毎日親父や俺が 散歩がてら 街中を歩いてっと 人の姿になりてぇ連中は擦り寄って来やがるんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え!?そんな感じで?それじゃ… その度に!?」
アシルが軽く考えながら言う
「まぁ こっちも それなりに慣れちまうけどな 面倒臭ぇっちゃ臭ぇが…」
ザッツロードが微笑して言う
「流石は… 犬にも国籍を与える国ですね!」
アシルが起き上がり掛け怒って言う
「馬鹿にしてんのかぁ!?」
ザッツロードが慌てて言う
「い、いえいえっ!まさかっ!」
アシルが体勢を戻して言う
「スプローニも何も …何処の国だって元々は あいつらの国だったんだ… そこへ後住民族の俺らが入り込んでって 国だとか城だとか 他国とのいざこざだって始めやがったんじゃねぇか?そこの先住民族に国籍を与えて 何が可笑しい?」
アシルがプンッと怒っている ザッツロードが呆気に取られた後微笑して言う
「あ… …可笑しく 無いです」
アシルが疑いの眼差しを向けて言う
「あぁ…?」
ザッツロードが微笑して言う
「スプローニの先住民族の事を大切に思ったり… スプローニの銃使いたちの事を真剣に考えたり 国に集まる皆の事を 宝だと思う… 私の父が 言っていました 国王とは その国に住む者 全ての事を第一に考え その為の方法を 考え得る事が出来る そう言う者で あるべきであると」
アシルがザッツロードを見たまま疑問した後 フンッと視線を天上へ戻して言う
「ふんっ… あったりめぇだろぉ?それ以外の奴に 国王が務まるかぁ?」
ザッツロードが微笑して言う
「はいっ!そうですね!」
アシルがザッツロードへ背を向けながら言う
「ケッ… やっぱり変な奴だなぁ ローレシアの第二王子殿ってぇのは… 何考えてるのか掴めねぇ 訳分からねぇ王子だって そぉ言われてるの お前知ってたかぁ?」
ザッツロードが衝撃を受け言う
「えっ!?…そ、そうなんですか 知らなかった」
アシルが笑う ザッツロードが悪笑んでアシルへ向いて言う
「あ!アシル王子だってっ …えっと 長身で深緑色の髪で…と言うのは外見の説明ですが 常にアルコール中毒みたいな言動な人だって 言われてましたよ!?」
アシルがまんざらでもない様子で言う
「ふん…悪ぃか?スプローニの民は 王子がそう比喩されちまう程 酒好きだって事だろ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「そうでしょうか?僕は 比喩ではなくアシル王子 その人の説明であると思いますが?」
アシルが言う
「るせぇ!」
ザッツロードが軽く笑う
【 スプローニ城 玉座の間 】
ロキが玉座に座っていて 大臣たちが前に居る ロキが言う
「…そうか 助かった …俺は 諸卿に頼りきりだな」
大臣らが微笑み言う
「いえ、事務的な事に加え 国政に関しましても 今回は我々の方で可能な限りを行う様にと 予てよりラグヴェルス前陛下から 仰せ付かっておりますので… どうぞこれからも お気遣い無く 我々へお任せ下さい ロキ陛下」
他の大臣らが頷いて見せる ロキが苦笑して言う
「…ああ 頼りにしている …とは言ってもな 国王である俺が スプローニの国政を把握出来ていないと言うのは やはり問題だろう …これから 諸卿の時間のある時にでも 俺へ教えてくれないか?」
大臣らが苦笑し大臣が言う
「はい ロキ陛下がそう仰るのでしたら… ただ、国政と一言に言いましても 特にこのスプローニに関しては 少々込み入っておりますので 我々はともかくとして 陛下のお時間を考えますと…」
他の大臣が苦笑して言う
「そうですな… 概要だけでも ざっと1、2年ほど掛かってしまうかもしれませんな?」
ロキが衝撃を受けて言う
「が… …概要だけで そんなに か…?」
他の大臣が言う
「はい、その間にも情報は増える事を考えれば 概要から内容へ踏み入る頃には 内政外政共に 今とはだいぶ変わっていると思われます 特に 今は変化の激しい時にありますので それらを考えますと 一通り国政が落ち着きました頃にでも 改めて始められた方が宜しいかもしれません」
大臣らが頷き合ってロキへ向く ロキが表情を困らせて言う
「…スプローニは ベネテクト程ではないが この大陸において歴史の浅い国であるとされている …そうであっても 国の情報と言うものは そんなに膨大なものなのか?」
大臣らが顔を見合わせ苦笑した後 大臣が言う
「確かにスプローニは ツヴァイザーより分裂した新国にして その歴史はベネテクトに近い短さではありますが 一部隊が建国した国であり 尚且つ 他国とは異なるさまざまな点故に 内政はもちろんですが 引いては他国との関わり 外政が特に複雑になっております それらを把握するには スプローニの歴史 先住民族の犬たちやシュレイザーの先住民族も大きく関わり 更にはソルベキアの…」
ロキが困り焦って言う
「ま、…待ってくれ …今は それ位で …十分だ」
大臣らが呆気に取られ顔を見合わせ苦笑する ロキが表情を困らせて言う
「…参ったな」
大臣らが苦笑して言う
「これらの事は かつてはスプローニの王族が 幼い頃より学ぶものでした …ですので どうか、ロキ陛下の世代におきましては 我々へ御一任下さい 勿論、重大な決定事に関しましては ロキ国王へ十分なご説明を致しました上で ご判断を仰ぐと言う事で」
ロキが表情を困らせつつ言う
「…ああ …そう なりそうだな」
他の大臣が言う
「その間に我々は 時期国王となられる レビ王子の方へ本格的に国政をお教えいたしませんとなりませんが… レビ王子の外遊は いつ頃終了なさるのでしょうか?」
ロキが衝撃を受ける 他の大臣が大臣らへ言う
「レビ王子は現在17歳であったな?少々遅いくらいだ… そろそろ始めねば こちらも間に合わなくなってしまう」
他の大臣が大臣へ言う
「そうだな せめて王子が どれほどスプローニの歴史をご存知であるのか その辺りの確認程度はしておかねば こちらの準備も出来かねるな?」
ロキが一瞬呆気に取られた後困惑して言う
「…そうか 今更だが あいつが時期スプローニ王か」
大臣らがロキへ向いて言う
「はい、もちろんです!…それとも ロキ陛下は 他の者へ王位を譲られるおつもりで?」
他の大臣が慌てて言う
「そうということでしたら そちらの方へお教えしなければ…っ ロキ陛下?その様な予定があられるのでしょうか?」
ロキが衝撃を受け慌てて言う
「あ…っ …いや …まだ 次の事までは…」
大臣が言う
「そうですか では お決まりになりました際は どうか 我々にも 可能な限りお早めにお知らせ下さい」
他の大臣が言う
「それまでは レビ王子へお教えする方向で宜しいでしょうか?そのつもりで 準備の方を整えますので」
ロキが困惑しつつ言う
「あ… ああ…」
大臣らが顔を見合わせ微笑み合った後 大臣が言う
「所でロキ陛下?当のレビ王子は 現在 何処にいらっしゃるのでしょうか?」
ロキが沈黙する 他の大臣が言う
「我々としましては 可能であれば 一度でもスプローニへお戻り頂き まずはご挨拶と 今後の事についてのお話を致したいのですが… そもそも 陛下は王子とのご連絡を 取られておるのでしょうか?」
大臣らがロキを見る ロキが無表情に焦りの汗を掻きつつ 間を置いて言う
「… …連絡は 取っていない」
大臣らが一瞬呆気に取られ顔を見合わせた後言う
「では レビ王子は現在どちらに?」
ロキが長い間を置いた後答える
「… … … …分からん」
大臣らが沈黙して呆れの汗を掻く
【 第5プラント バッツスクロイツの家 外部 】
レビが物陰に隠れつつ 遠くを確認する 周囲は瓦礫の廃墟遠くを帝国軍の車が走っている レビが目を細める 帝国軍の車が止まる レビが疑問する
「…?」
レビが注目していると 帝国軍の車から帝国ロボが下ろされる レビが目を細めて言う
「…あれはっ バッツが言っていた 帝国軍の機械兵士かっ!?」
帝国ロボがレビへ向く レビがハッとして身を隠す 帝国ロボがレビへ向かって移動する レビが表情をしかめて小声で言う
「…クッ まさか この距離で 見つかったっ!?」
レビが片手をコートの中へ入れ銃を取り出そうとする 帝国ロボが止まりレビの隠れている物陰を見据えレーザー照準を合わせる レビが銃を握り締め考える
『…どうする!?応戦を…っ?だが… そのせいで 俺だけではなく 皆の存在が…っ!?』
レビが銃を握り締める 足元にねずみがやって来てチュウチュウと鳴く レビがハッと驚き言う
「…チッピィッ!」
帝国ロボがランチャーを発砲する レビがはっとすると 物陰にしていた物が吹き飛ぶ レビが瓦礫と共に飛ばされ 瓦礫の下敷きになる レビの腕の隙間に守られていたチッピィが顔を向ける レビが瓦礫に押しつぶされそうになっていて 義手を柱にして瓦礫を支えている 義手が瓦礫の重さに悲鳴を上げる レビが押しつぶされそうになりつつ顔をしかめて言う
「…グッ」
チッピィが心配してレビを見て チュウチュウ鳴いた後ハッと気付いて物陰から出て外を見る 帝国ロボが瓦礫を退かしたりしながら周囲を確認している チッピィがレビを見る レビは義手が壊れかけ瓦礫に頭が押しつぶされそうになる チッピィがレビへ向かおうとするが 再び帝国ロボへ向く 帝国ロボがレビの居る瓦礫に顔を向ける チッピィがはっとして帝国ロボとレビを交互に見る 帝国ロボがレビの方へ向かう レビが銃を柱にして瓦礫を抑え視線を瓦礫の向こうに迫っている帝国ロボへ向ける 帝国ロボが瓦礫に手を掛ける レビが視線を強める チッピィが意を決して 瓦礫から帝国ロボの視界に出て行く 帝国ロボがチッピィを見る チッピィがチュウチュウと鳴いてから 逃げ去って行く 帝国ロボがそれを見たまま止まっている レビがチッピィの行動に呆気に取られている
帝国軍の車
車内に居る帝国兵2人 Yが言う
「ネズミ?…先程の熱源はあれか?」
Xが言う
「かもな?超高性能熱源探知機 …性能が高過ぎるのも問題か」
Yが言う
「…だな?そもそも この一帯は先の浄化作戦で 殲滅させたんだ 人所か犬や猫さえ残っていないと言う話だったが …ネズミぐらいは居るのかもしれん」
Xが言う
「なら、偵察ロボは回収して良いか?無駄遣いして砲弾だけじゃなく 燃料を浪費したとあっては またどやされる…」
Yが言う
「ああ… 最近はうるさいからな 回収してくれ」
Xが操作をしながら言う
「了解」
レビが見つめる先 動きを止めていた帝国ロボが上体を戻し 旋回して帝国軍の車へ戻って行く レビがホッと息を吐く 帝国ロボが帝国軍の車へ回収され 帝国軍の車が去って行く レビがそれらを確認した後瓦礫の隙間から一気に身をすり抜けさせる 瓦礫が崩れ落ち砂埃が収まった先 レビが仰向けに居る チッピィがやって来て顔の横でチュウチュウと鳴く レビが視線を向け苦笑して言う
「…チッピィ …また卿に 助けられた」
チッピィが驚く レビが身を起こし壊れかけた義手を抑えながら 瓦礫に身を隠しつつ言う
「…戻るか これ以上 危険を冒すわけに行かん」
チッピィがチュウチュウ頷く レビがチッピィへ手を向ける チッピィがレビの手を伝って肩へ乗る レビが周囲を警戒しながら移動し 地下室への入り口を隠して置かれている壊れたドアを退け その先へ向かう
レビが通路を抜け 奥の扉を開くと その先 地下ラボでバッツスクロイツがコンピュータを操作している 金田がレビへ向き言う
「あ!お帰り レビ!何~処行ってたんだよ?お前の2人の相棒 すっげー心配してたぜ?」
ブレードがレビへ向く 金田がブレードを見て苦笑した後疑問して言う
「あれ?もう一人…てか もう一匹は?」
チッピィがレビの肩でチュウチュウと鳴く 金田が気付き言う
「居た!なんだ そっか、お前がレビを 呼んで来てくれたのか」
レビが疑問して言う
「…俺を呼んで?」
金田が微笑して言う
「ああ、やっとこれからの行動が決まったんだ だから 俺やコイツやねずみさんで アンタを探してたんだ けど、何処の部屋にも居なくて… 一体何処に行ってたんだよ?」
バッツスクロイツがコンピュータの操作を終え一息吐き後方の皆の方へ椅子を向けながら言う
「よーしっと!」
レビが金田へ答える
「…少し 外の様子を確認しようと」
バッツスクロイツが驚き怒って言う
「外の様子をって!?まさかっ 地下階段を隠している あの扉の外へ行ったんじゃないよね!?」
レビが言いづらそうに言う
「…少し位ならと」
バッツスクロイツが怒って言う
「何で!?駄目って言ったでしょっ!?あの扉は あらゆる探査システムを防ぐ特殊合板で作られているし ここは 地下20メートルだから 探査システムにはバレないけど 帝国の超高性能熱源探知機なら 地上に居る人をキャッチする事なんて それこそ100メートル先の物陰だって可能なんだ!ここは君たちの第2プラントとは違う!もっと機械技術の発展した大陸なんだから!勝手な行動はしないで!」
レビが呆気に取られた後 視線を落として言う
「…すまん …軽率だった」
バッツスクロイツが表情を困らせる 金田が驚き呆気に取られていた状態から苦笑して言う
「ま、まぁまぁ~?本人も反省しているし 謝ってるんだ… それに 別の世界 …じゃなかった 別の大陸の事って言うのは 誰だって分からないもんだぜ?俺だって… 初めてヴィクトールたちの大陸へたどり着いたときなんて まるで演劇の会場に入っちまったのかと思ったくらいで」
バッツスクロイツが金田の言葉にハッとする レビが表情を落とす チッピィが心配そうにレビとバッツスクロイツを見る バッツスクロイツが気を取り直して言う
「…そう…だよね うん、…ごめんレビ 俺… 俺っち!ちょっち言い過ぎちゃいましたーって感ーじー!?」
レビが呆気に取られる 金田がバッツスクロイツを見る バッツスクロイツがバツの悪そうな表情で言う
「このプラントの状況は… 俺が居た頃よりずっとずっと悪化してて …ちょっと参っちゃってたんだ それで …ごめんっ!」
バッツスクロイツがレビへ手を合わせて言う
「うん!元はと言えば 超高性能探知機の事なんかも?しっかり説明ーしなかった!俺っちが悪かったんだもんね!」
金田が微笑する レビが言う
「…いや …卿は高性能なその類のものが有る為 それを遮る あの破損した扉の外には出ないようにと …確かに言っていた 今回の事は 俺の過失だ すまない …今後は 卿の指示に全面的に従う」
金田がレビとバッツスクロイツを見てから苦笑し笑んで言う
「よーし!これぞ 雨降って字固まる!って奴だ!」
バッツスクロイツとレビが呆気に取られ バッツスクロイツが疑問して言う
「雨降って…じかたまる?」
金田が苦笑して言う
「ちょっと失敗する事で それ以前よりずっと良くなるって事さ!これで バッツも レビも 互いの信頼が確固たるものになった!…って 感じ するだろ!?」
バッツスクロイツが苦笑して言う
「ああ… どっちかって言ったら 年下のレビっちが 俺よりずっと大人だって事が分かったよ イキナリ怒り出したりした俺を 許してくれたし その俺の指示に 今後は従うだなんて 中々言えるものじゃないもの」
レビが言う
「…いや、俺は本心で言ったんだ 卿の忠告を無視したお陰で 先程は 本当に死に掛けた まるで 俺たちの大陸にある ソルベキアのロボット兵… あれの小型なモノに襲われ 俺は… このチッピィに 助けられた」
チッピィが嬉しそうにチュウチュウ鳴く 金田が呆気に取られる バッツスクロイツが言う
「ソルベキアのロボット兵に似た 小型のモノ…か 多分 帝国の探査ロボだね」
レビが言う
「…探査ロボ?…俺は卿が言っていた 機械兵士と言うものかと思ったのだが?人の様に両腕が有って ランチャー砲を使用した」
バッツスクロイツがコンピュータを操作しながら言う
「うん、それなら 間違いなく探査ロボだ これだろ?」
モニターに探査ロボの映像が映し出される チッピィが驚いてチュウと鳴く レビが眼を細めて言う
「…ああ これだ …では 機械兵士と言うのは?」
バッツスクロイツがコンピュータを操作しながら言う
「帝国の機械兵士は 用途によって多少違うけど 大きさは探査ロボより一回り小さいかな… 基本的に対人兵器であって 何より…」
モニターに様々な機械兵士が映し出される レビと金田が見る バッツスクロイツが言う
「機械兵士たちには ヒューマンパーツが… 人の脳みそが使われているんだ だから 大きさも 人と同等が良いとされてる」
レビと金田が視線を強め 金田が言う
「人の脳みそだけ… しかも その人の記憶や何やらは 全部消されてるんだろ?…酷い話だよな」
バッツスクロイツが言う
「この場合 記憶は消去されていると言うより 記憶を保存している部分を 削り取られていると言った方が正しいかな… だから、記憶喪失や 記憶の封印とは違って …どんな奇跡が置きたって その脳核が 失った記憶を …自己を取り戻す事は無いんだ」
レビが義手を握り締めて言う
「…恐ろしい 話だ」
バッツスクロイツが表情を悲しめて言いながらレビたちの方へ体の向きを戻す
「うん… って!?レビっち!」
バッツスクロイツが驚く レビが呆気に取られて言う
「…レ、レビっち?」
バッツスクロイツがレビの義手を掴んで言う
「どうしちゃったの!?これっ!」
レビが言う
「あ… …ああ、先程の 探査ロボの攻撃で …いや、厳密に言えば それによって破壊された 瓦礫を支え …その重みで」
バッツスクロイツが表情をしかめて言う
「神経経路の配線が密集してる この間接部がこんなに曲がっちゃってっ レビっち腕痛いでしょっ!?」
レビが困りつつ言う
「…ああ …だがこの義手は 以前から多少痛みがある物で …少し悪化した程度だ 我慢できないほどでは」
バッツスクロイツが立ち上がって言う
「もうぅ!これだから 意地っ張りなスプローニの人はっ!今から今後の作戦 説明するつもりだったけど そっちはちょっちタンマッ!レビっち こっち来て!」
バッツスクロイツがレビの腕を引いて部屋を出ようとする レビが呆気に取られされるがままに続く バッツスクロイツが振り返って言う
「デス、悪いけど さっきのまとめといてくれ こっちの文字を全部第2プラントの文字に変換して 出来たら 金っちにも分かるように それから、金っちとブレードっちは 終わったら頼みたい事があるから 今のうち 休んでおいてくれる?」
アンドロイドのデスが頷く 金田が一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「了解!楽しみにしてるよ!キャプテン!」
バッツスクロイツが呆気に取られて言う
「へ?キャプテン?」
金田が微笑して言う
「当然だろ?バッツは俺たち 連合艦隊の艦長さ!アンタの舵取りに 俺の命預けるぜ!」
バッツスクロイツが驚き呆気に取られる ブレードとアンドロイドのデスがバッツスクロイツへ向いて頷く バッツスクロイツが呆気に取られているとレビが言う
「…俺もだ キャプテン 卿に 預ける …そして」
皆がバッツスクロイツへ向く レビが言う
「…卿の指令なら 俺はどんな作戦も遂行してみせる」
バッツスクロイツが呆気に取られた後 微笑んで頷く
【 ソルベキア城 地下牢 】
月明かりが差し込む アシルがあくびをする ザッツロードが考え事をしていてアシルを見てから 間を置いて言う
「…何故 …ですか?」
アシルが眠そうに言う
「ふあ… あぁ…?」
ザッツロードが表情を落として言う
「アシル王子は… 何故 スプローニの王位を 継承しなかったんですか?」
アシルが視線を強める ザッツロードが強い視線で言う
「ロキが強い銃使いである事は 十分知っています 仲間として… 1人の人としても、彼はとても優秀な人です しかしっ …アシル王子も先程言っておられました スプローニに住む全ての者が スプローニの宝であると そして、これからのスプローニのあり方や その後の事 …僕には ロキが そこまでの思想を持って居るとは思えない 彼は一人の銃使いであり 一人の兵士でした スプローニの第二部隊長の隊長として これからも戦い続けるべきでは なかったのでしょうかっ!?」
アシルが沈黙する ザッツロードがアシルへ言う
「アシル王子!?」
アシルが目を閉じて息を吐き ザッツロードへ背を向けて言う
「…あいつは優秀な奴だ 物事を全体的に見る事も出来る 人の使い方も…何とかなるだろう アバロンや …お前 他の国とも認識が強い 今後のスプローニの発展には程良いんだろうがよ…?」
ザッツロードが怒って言う
「誤魔化さないで下さいっ!スプローニの世襲王位継承は!スプローニ国の建国以来 ずっと途絶えることなく一血族で続いていますっ よほどの事が無い限り その純血の王制が変わる事なんて有り得ないっ!そして… 貴方は スプローニ王としての資格を 十分に持ち合わせています!…なのに何故!?どうしてロキなんですか!?スプローニを捨てて 貴方はこんな所で遊んでいて良いのですか!?」
アシルが人知れず唇を噛み 左手を右手で握り締める ザッツロードが叫ぶ
「アシル王子っ!」
アシルが叫ぶ
「うるせぇええっ!」
ザッツロードが黙って見つめる アシルが腕を握り締めて言う
「スプローニを捨てるだぁ…!?んな事… して たまるか…っ」
ザッツロードが悔しそうに言う
「ならっ!どうしてっ!?」
アシルが言う
「俺はっ!… …銃を持てねぇ…」
ザッツロードが疑問する
「え…?」
アシルが静かに言う
「…俺ら王家始まって以来の 遺伝って奴だ スプローニの王族には 必ず現れる …筋肉も神経も何の異常もねぇ癖に 唯一 銃を撃とうとすると 指一本動かせなくなる」
ザッツロードが呆気に取られる アシルが言う
「…今までの 歴代のスプローニ王たちも 皆、左右どちらかの手にその症状が現れた …親父は右だった だから 利き手は右だが 銃だけは左で… それでも上等な銃使いとしての腕を持っていた …だが 俺は」
ザッツロードが言う
「アシル 王子は?」
アシルが苦笑して言う
「ははっ… 俺はな?一族始まって以来 初めて その症状が… 両手に現れたんだ」
ザッツロードが驚く アシルが笑んで言う
「それで親父は 俺ら一族が スプローニの王位を譲り渡す その時だと考えたらしい …だから俺には 王位を譲らなかった …最初からそのつもりでいやがったんだよ 親父は だから 国王としての教育を 俺には何一つさせようとしなかった …スプローニには 他国を超える膨大な 国政があるってぇのに」
ザッツロードが言う
「他国を超える…?スプローニは それ程 歴史の長い国では なかった筈ですが?」
アシルが笑んで言う
「だからこそ そこには 歴史の長い他国との複雑な関係があるんだ その中でも特に 先住民族とのかかわりが深い シュレイザーやソルベキアなんかがなぁ?…スプローニが先住民族を重んじるのは 何もスプローニの民が犬好きだからとか そんな簡単な話じゃねぇ …ただの一部隊だった連中が 国として認められるには 様々な力を味方に付け それを利用し 時には利用されなけりゃ ならなかった」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「利用するだけではなく 利用される必要が…?」
ザッツロードが気を取り直して言う
「国を司る者として 第一王子であった兄上と 同等の教育を受けていた僕でも そんな事は聞いた事も」
アシルが苦笑して言う
「ローレシアほどの国ともありゃぁ 必要ねぇんだろうよ?うちにはうちの… お前ん所には お前ん所なりのやり方が あってしかるべきだ …だからこそ 親父がそれを 俺に学ばせようとしなかった事が …俺には許せなかった」
ザッツロードがアシルを見る アシルが苦笑して言う
「だから 仕返しに 親父が唯一教えようとした スプローニ国憲法は 覚えてやらなかったぜ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?スプローニ国憲法を…?王子であった 貴方が?」
アシルが言う
「へっ!あんな見せ掛けだけのモンなんざ 俺にはどうでも良いんだよ …もっとも 独学でスプローニの国政を学んでた俺には そこまでやる余裕なんざ これっぽっちも無かったが…」
ザッツロードが驚いて言う
「独学で…!?国王としての一国の国政を 独学で学ぶだなんて… 僕には想像も出来ない」
アシルが息を吐いて言う
「いつか見返してやろうと思ってたんだがな?フー… あんな苦労したってぇのに 結局… 何んっの役にも立たなかったな…」
アシルが目を閉じる ザッツロードが見つめている
【 ソルベキア国 近郊 】
ジークライトが茂みから顔を出し 周囲を見た後顔を引っ込めて言う
「警備兵なんかの姿は 全然 見えねーぜ?これの何処が 超厳重警戒なんだ?デス?」
ジークライトが振り返った先 デスが目を閉じて周囲にプログラムを発生させていて言う
「警戒は物理的にではなく ソルベキア城とスファルツの屋敷周囲に 今までの数倍の赤外線センサーが起動している」
ジークライトが疑問しつつ 再びソルベキア城を見ながら言う
「セキガイセンセンサー?」
デスが目を開きジークライトを見ながら周囲のプログラムを動かしつつ言う
「今… それらのセンサーを回避 もしくは無効化するプログラムを…」
ジークライトが目の前にある赤外線センサーに気付き指で触れようとする デスがジークライトの肩を掴み 引き込んで言う
「…作っている最中だ 手始めに赤外線センサーを お前の目でも認識出来るプログラムを実行させた 今 お前の目の前に見える赤い線 それが赤外線センサーを目視化したもの …それに触れると ソルベキアのシステムに感知される …分かったか?」
ジークライトが慌てて赤外線センサーから離れて言う
「おわっ ま、まじかよ?こんな赤い線で?」
デスが苦笑して言う
「実際には目に見えるものではなく 手で触れられるものでもない だが… そうだな その線と同じ様に 水が流れていると考えれば良い その水に触れれば」
ジークライトが納得して言う
「そうか!この水の流れを止まらせると それが 下流のソルベキアに ばれちまうって事だな!」
デスが苦笑して言う
「フッ… そう言う事だ だから」
デスが示して言う
「それらの 赤い線には一切触れず スファルツの屋敷へ向かわねばならない」
ジークライトが笑んで言う
「よし!まかせ…!…って」
ジークライトが呆気に取られて言う
「どうやってやれってんだよっ!?これをっ!?」
ジークライトの先 無数の赤外センサーが張り巡らされている
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが体育座りで膝を抱えて考えている
回想
幼いザッツロードが表情を困らせ本を読み漁っている キルビーグ2世がやって来て微笑して言う
「ザッツ どうしたんだ?そんなに悩んで」
ザッツロードが顔を上げ言う
「あ、兄上」
キルビーグ2世がザッツロードの横から本を覗き込んで言う
「うん?何だ 他国の国勢調査書じゃないか?ザッツ 父上も言っていただろう?まずは自国の事を知らなければ 他国の事はそれからだと」
ザッツロードが困って言う
「はい… しかし 兄上 兄上は ローレシアの活力を上げる方法を父上から問われ ソルベキアでも アバロンでもない 他の国との親睦を深めるべきであると すぐに意見を述べていました でも 僕は…」
キルビーグ2世が呆気に取られ ザッツロードの見ていた調査書を見た後笑って言う
「あっはははっ ザッツ 私は何も ソルベキアやアバロンや その他の国の情報を知っていたから あのような意見を 父上へ申し上げた訳ではないぞ?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?ち、違うのですか?」
キルビーグ2世が言う
「ローレシアは今新たに アバロンの大剣使いたちと交流を深めようとしている けれど… 正直、難しい それは誰にでも分かっている事だ アバロンにはガルバディアがある そして 既に我らローレシアと協力関係にあるソルベキアだが… 彼らがローレシアに来てから ローレシアの魔法使いたちは活力を失ってしまった 父上はその状況を改良しようと思案しているが」
ザッツロードが見つめる キルビーグ2世が言う
「そもそも 彼らの技術が 私たちと同調するかと言う事が 問題だった 彼らの技術が凄い事は 分かっているけれど… 彼らは 我々と共にあるのではなく 彼らは彼らのみであろうとしている」
ザッツロードが言う
「それは 僕も思います なんと言うか 彼らは… その… …冷たいんです」
キルビーグ2世がザッツロードを見る ザッツロードが視線を落として言う
「僕は… 彼らが怖いです いつか 彼らが このローレシアを 奪ってしまうのではいかと…」
キルビーグ2世が呆気に取られた後微笑して言う
「そう、それで良いんだ ザッツ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?」
キルビーグ2世が微笑して言う
「父上が聞きたかった事は ローレシアのこれからの国策じゃない ザッツは分かっているじゃないか!」
ザッツロードが言う
「えっと…?兄上?」
キルビーグ2世が言う
「一度手に入れてしまったソルベキアとの関係を 変える事は難しい 増して それを改善する方法は もっと難しい それでも その方法を探すのなら 私は アバロンではなく 別の国を求めるしかないのではないか と …私が言ったのはそれだけの事だ」
ザッツロードが感心して言う
「わぁ… やっぱり 兄上は凄いです」
キルビーグ2世が呆気に取られた後笑って言う
「ザッツ まだ分かっていないのか?ザッツは私より もっと凄いじゃないか?」
ザッツロードが驚いて呆気に取られ言う
「へ?」
キルビーグ2世がザッツロードの肩を叩いて言う
「ソルベキアの力を得ようとした我々だったが そのソルベキアが 結果として脅威になっているんだ 残念だが ソルベキアとの関係を断ち切らなければ ローレシアは奪われる ザッツは今言っただろ?ザッツは私より3歳も年下なのに 父上や私が認識しきれていなかった その事に気付いている とても凄い事だ!」
ザッツロードが困惑して言う
「え?…えっと」
キルビーグ2世が微笑して言う
「父上は ローレシアの現状を維持したまま回復させようとしか考えておられない 私も…実はそうだった その為の方法として ローレシアへ入り込んだソルベキアを 抑える為の 他国の力を得ようと けど… やはり それは難しいんだ こうなれば 断固手を打たなければならないのかもしれない よし!ザッツ!父上へ申し上げよう!ソルベキアと 手を切るべきだと!」
ザッツロードが驚いて叫ぶ
「えぇええーっ!?」
キルビーグ2世が言う
「驚く事は無いだろう?ザッツが言ったじゃないか?」
ザッツロードが慌てて言う
「そ、そそ、それは言いましたがっ!僕にはっ そんな危険な事手に負えませんっ」
キルビーグ2世が呆気に取られた後大笑いする ザッツロードが困り怒って言う
「あ、兄上っ!?笑い事ではっ!」
キルビーグ2世が微笑して言う
「ザッツ ローレシアは 国王一人で行っている訳じゃない ザッツや私が父上へ申し上げれば 父上はそれを ローレシアの皆で話し合い そして、皆で判断する …もちろん その最終決定をするのは父上になるけれど その時は ローレシアの皆が父上の味方だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「皆が… 味方に?」
キルビーグ2世が頷いて言う
「そうだよ ザッツ 国王は一人じゃない ザッツや私… 国の皆と共に一国を作り守る者だ だから ザッツも自分の思いや考えを どんどん父上へ なんなら私へ言ったら良い 一人で悩み 書庫に篭るのではなく 皆で考え 皆で共に 戦うんだ」
ザッツロードが尊敬の眼差しで言う
「兄上… はいっ!分かりました!」
キルビーグ2世が微笑して頷いて言う
「よし!行こう!ザッツ!」
キルビーグ2世が手を差し出す ザッツロードが喜んで手を向けて言う
「はい!兄上!」
回想終了
ザッツロードが強い意志で顔を上げて言う
「はいっ 兄上っ」
ザッツロードが顔を向ける アシルが背を向けている ザッツロードが立ち上がる
【 スプローニ城 玉座の間 】
大臣が言う
「ロキ陛下 たった今 アシル元王子の居場所と 状況が判明致しました」
ロキが言う
「…居場所の方は ソルベキアではなかったのか?」
大臣が言う
「はい、ソルベキアはソルベキアで間違いは無いのですが その詳細となります 所在場所は ソルベキア城の地下牢であると」
ロキが言う
「…地下牢?」
大臣が紙書類を見ながら言う
「はい」
ロキが溜息を吐いて言う
「はぁ… …では その罪状の方は やはり酒乱による?」
大臣が言う
「その罪状なのですが 不審な事に 酒乱などの酒による罪状とは なっていないのです」
ロキが疑問して言う
「…酒による罪状ではない?…では 一体何であると?」
大臣がロキへ向いて言う
「不明…であると」
ロキが困惑し言う
「…では やはり 酒乱による迷惑条例にでも」
大臣が言う
「いえ、この事は我々にとって むしろ 怪しく思われるのです」
ロキが疑問して言う
「…どういう意味だ?」
大臣がロキへ向いて言う
「ソルベキアは我々スプローニにとっても 関係の薄い国ではございません ラグヴェルス前陛下は勿論ですが アシル王子… 失礼、アシル元王子も 個人的にソルベキアとの関わりを持っておられました いわば ソルベキアはアシル元王子の事を 良く知って居る筈なのです 従って もし、アシル元王子を拘束する 何らかの必要があるのなら その罪状には 酒乱による迷惑条例抵触とでも記載して 公の元 拘束すれば済む事です それを行わず 秘密裏に拘束していた… この事は とても不審であると 思えて成りません」
ロキが軽く首を傾げて言う
「…ソルベキアがアシル元王子を 拘束したいのであれば その事実を隠すと言うのは通常ではないのか?わざわざ拘束の事実を表に出し 偽の罪状である条例抵触を記載する位ならば 拘束自体を隠す方が」
大臣が言う
「アシル元王子は 元王子であられます 現王子であるのならともかくとして 元の王子が国を追われている現状において その者を罪状を持って捕らえたとあれば 当のソルベキアから賠償請求を起こさない限り スプローニから釈放を求める事は 無いと言うのが 当然の事です …王位を継承したロキ陛下にとって現状 アシル元王子は 自由な身でない事が 返って好ましい訳でありますので」
ロキが視線を強める 大臣が言う
「そうでありながら ソルベキアはアシル元王子の存在を 我々へ隠しました」
ロキが言う
「…ソルベキアはアシル元王子から このスプローニの情報を 聞き出そうとしているとも考えられる …元とは言え 王子であった者だ スプローニの重要情報を」
大臣が目を伏せて言う
「…ラグヴェルス前陛下は スプローニのそれらを アシル王子には隠しました アシル王子が知っているのは 国の有り方に関する国政の表面部分に過ぎません …スプローニの重要情報と言えるものに関しては 何度問われようとも 我々はお教えしていないのです」
ロキがあっけに取られた後 間を置いて言う
「…そうなのか …ラグヴェルス陛下は やはり あのアシル王子の事を 早くから見放していたのだな」
大臣が驚いてロキを見る ロキが視線を逸らして言う
「…正直に言えば スプローニの一兵士として この国を守っていた頃から …俺はあのアシル王子に関しては 気に病んでいた …あの者が 後のスプローニ王となるのかと」
ロキが軽く額を押さえ苦笑して言う
「…まぁ まさかその王位を 俺が譲られるとは思っても居なかったが スプローニ国憲法の一つもまともに言えない王が このスプローニの王に なろうなどとは 俺はもちろん 他の兵や民たちも」
大臣が表情を悲しめて怒って言う
「アシル王子はっ!」
ロキが驚いて大臣を見る 大臣がハッとして慌てて紙資料をいじりながら言う
「し、失礼致しました… え、ええとっ ああ、そうでした 他にも… はい、ロキ陛下から確認を命じられておりました…」
門兵が伝達する
「ベルグル第二国王陛下の御帰城…」
犬のベルグルが門兵の伝達の途中で駆け込んで来る 大臣が続けて言う
「ベルグル第二国王の居場所につきましても情報が」
ベルグルがロキの横へ来て吠える
「わんっ!」
ロキが大臣へ向いて言う
「…その報告は たった今 不要となった」
大臣が疑問して顔を上げ言う
「…は?…あっ」
大臣がベルグルの存在に気付く ロキが不満そうにベルグルへ言う
「…以前も言った筈だ ベルグル …第二国王となったからには」
ベルグルがハッとして吠える
「わふっ!?うぅう~~わんっわん ぅ~~うわふっう~…わんっわんっ!」『あー!ご、ごめんなさいッス!ロキ隊長!第二国王となったからには 勝手に長い間 国を空けてはいけないッス!それは 俺もちゃんと覚えていたッスよー!けど!今回はちょっとッスね!それ頃じゃない位 大変なんッスよー!ロキ隊長ー!』
ベルグルがワンワン吠えている ロキが嫌そうに言う
「…ええいっ 無駄吠えはするなと これもいつも言っているだろう!」
ベルグルが衝撃を受け吠える
「わんっ!?わんっわわんっ!」『あー!そうだったッス!今は犬の姿だったッス!忘れてたッスー!』
ロキが腕組みをして言う
「…そもそも …俺が卿を最後に見た時 卿は紛れも無く人の姿であった …勝手に先住民族の姿へ戻るなとは言わんが 再び人の姿になりたいからと それを理由に ここへ戻って来られるのでは 堪らんのだが?」
ベルグルが困り鳴いて思う
『うー そ、それはっ… そんなつもりは無かったッスけどっ けど、今はそれも必要かもしれないッス!ロキ隊長!だからお願いしますッス!俺をっ!』
ロキがムッとして言う
「…何を言っているのか分からん …そもそも、第二国王ともなる者が ワンワンと吠えたぐるな」
ベルグルが衝撃を受け クーンクーンと鳴く
『あー!そうだったッスー!俺らはどっちの姿であっても どっちの言葉も分かるッスけど!後住民族の人たちは 俺たちの言葉が 分からないんだったッスー!こんな時 どうしたら良いッスかー!?俺分からないッスよ!こんな大変な時なのにッスー!』
ロキがムッとして言う
「…第二国王たる者!その様な情けない吠え方をするなっ!」
ベルグルが慌てて吠える
「わんっ!」
ロキが言う
「…良し」
ベルグルが嬉しそうに尻尾を振る 大臣が呆れの汗を掻く
ロキが宝玉の欠片に意識を集中させる欠片から光が放たれ ベルグルの体に光が纏わり ベルグルが人の姿になる ロキが軽く息を吐いて欠片をしまう ベルグルが慌てて言う
「ロキ隊長!大変ッスよ!」
ロキがムッとして言う
「…その前に?」
大臣が疑問する ベルグルがハッとして慌てて言う
「う…?あ!俺を人の姿にしてくれて 有難うございますッス!ロキ隊長!」
ロキが満足げに言う
「…良し その言葉は 誰に対してでも忘れるな スプローニ国憲法二千六条三項 例え国王であろうとも 謝意を示す言葉は決して忘れてはならない… これは第一国王である現俺へ対してのものだろうが 第二国王である卿とて 守るべきだろう」
ベルグルが言う
「はいッス!ロキ隊長!」
ロキが言う
「…それで?」
ベルグルがハッとして言う
「ハッ!そうだったッス!大変ッスよ!ロキ隊長!」
ロキが腕組みをして言う
「…だから 何が大変なのかと聞いている」
ベルグルがロキへ詰め寄って叫ぶ
「アシル王子が!ソルベキアに捕まっちゃってるッス!」
沈黙が流れる ロキが間を置いて言う
「…知っている」
ベルグルが驚いて言う
「へ!?…あ!ろ、牢屋にッスよ!?ソルベキアの連中が!アシル王子を地下牢に捕らえてるッスよ!」
ロキが息を吐いて言う
「…それも、つい先程 大臣より伝え聞いた所だ」
ベルグルが衝撃を受け驚いて叫ぶ
「えー!そうだったッスかー!にしても 流石 ロキ隊長ッス!こんな一大事にも 相変わらずチョー冷静沈着ッス!」
ロキが呆れて言う
「…卿はどんな時でも 慌しいな」
ベルグルが衝撃を受け困って言う
「うー…っ そ、それは… これから俺も!ロキ隊長みたいになれるように頑張るッス!けどっ!」
ロキが疑問して言う
「…けど?」
ベルグルがロキへ詰め寄って言う
「やっぱり俺はっ!こんな時は そんな風にしていられないッス!ロキ隊長!」
ロキが言う
「…卿の言う こんな時は と言うのは 今までの卿の言葉から推測して アシル元王子がソルベキアに捕まっている時において …と言う事で良いのか?」
ベルグルが焦って言う
「そうッス!それで良いッスよ!大正解ッスー!」
ロキが言う
「…では 改めて問おう …卿は 何故それほどまでに 取り乱している?」
ベルグルが驚き困り怒って言う
「何故って… 当たり前ッス!アシル王子が ソルベキアに捕まってるんッスよ!でもって…!」
ベルグルがはっとして表情を和らげ喜んで言う
「…あ なるほど そうなんッスか?…すごいッス …凄いッス!ロキ隊長!流石はロキ隊長ッス!やっぱり ロキ隊長は凄い人ッスー!」
ロキが不満そうに言う
「…ええいっ 相変わらず卿は!主文が抜けているぞ!それも正す様にと言った筈だ!」
ベルグルが衝撃を受け慌てて言う
「あー!そうだったッス!御免なさいッス!ロキ隊長!俺、あんまりにもロキ隊長が凄すぎて 主文も何も お留守になっちゃったッスよー!」
ロキが溜息を吐き 片手で頭を抑えて言う
「…はぁ …それで?今度は 一体 何が凄いんだ?好い加減 落ち着いて話せ」
ベルグルが衝撃を受け慌てて言う
「はっ!…はいッス!ロキ隊長!ロキ隊長は凄いッス!主文は もうとっくに ソルベキアへ スプローニの部隊を向かわせているって事ッス!」
ロキが疑問して言う
「…?…俺はそんな事は まったく していないが?」
ベルグルが衝撃を受け叫ぶ
「…う?…えぇええーーッスー!」
ロキが言う
「…そもそも 何故スプローニの部隊を ソルベキアへ向かわせる必要がある?」
ベルグルが慌てて言う
「それはっ もちろんッスね!」
伝達兵が走り込んで来て叫ぶ
「ロキ陛下!大変です!友好国ローゼントに!ソルベキアの部隊が進軍しました!」
ロキが驚いて言う
「何っ!?」
【 ローゼント城 玉座の間 】
ローゼント兵が駆け込んで来て叫ぶ
「申し上げます!ソルベキアへ向け再三発信いたしました アンネローゼ様の声明に対する ソルベキアからの返答はございません!尚 奴らは現在も 我らローゼントへ向け 兵を進軍させております!」
アンネローゼが言う
「ローレシアのキルビーグ国王からのお返事は?」
大臣が言う
「ソルベキアへ在中させている ザッツロード7世王子とは 未だ連絡が繋がらないとの事です」
アンネローゼが言う
「…そうですか それでは 仕方がありません ヴェルアロンスライツァー」
ヴェルアロンスライツァーが傅いて言う
「はっ!」
アンネローゼが言う
「直ちに ローゼントに居る 全ての兵を戦闘配備へ 共に、私の方から 貴方の名を持って スプローニのロキ国王へ 援軍の要請をいたします 宜しいですね?」
ヴェルアロンスライツァーが礼をして言う
「はっ!ヴェルアロンスライツァー 直ちにローゼントの全軍を持って交戦の準備に当たります!スプローニ王への伝達は アンネローゼ様へ御一任致します」
アンネローゼが頷いて言う
「分かりました では そちらは頼みます」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「御意!」
ヴェルアロンスライツァーが立ち去る アンネローゼが言う
「通信を!直ちにスプローニへ繋ぎなさい」
【 スプローニ城 玉座の間 】
ロキが立ち上がり言う
「…直ちに スプローニ第三部隊 共に魔法銃使い部隊を ローゼントへ送れ!」
スプローニ兵が返事をして立ち去る
「はっ!」
ベルグルが驚いて言う
「ローゼント… ヴェルアロンスライツァー副隊長がっ!」
ロキがベルグルへ向いて言う
「…ベルグル 卿が言っていた スプローニの部隊をソルベキアへ送れと言ったのは まさかこの事であったと言うのか?」
ベルグルが頭を左右に振って言う
「ち、違うッス!」
ロキが言う
「…そうか」
ロキが玉座へ腰を下ろす ベルグルが慌てて言う
「あっ!け、けどっ!ロキ隊長!」
ロキがベルグルへ向いて言う
「今は余裕が無い ベルグル …俺へ伝えたい事があるのなら しっかり考え まとめてから言ってくれ」
ベルグルが一瞬驚く ロキが真剣な表情で言う
「…それと、今回は 先住民族の諸卿の力を借りる事になるかもしれん 相手はソルベキア …先住民族赤トカゲの国だからな」
ベルグルが驚く ロキが言う
「…共に 諸卿のスピードは あの機械兵に匹敵する …これは あの夢の世界の情報ではあるが 相手は機械技術に優れたソルベキア …いざと言う時には その様な情報にも頼らざるを得ん」
ベルグルが一点を見据えて考える ロキがベルグルを見てから間を置いて言う
「…考えはまとまったか?」
ベルグルが表情を困らせて言う
「考えは… か、考える事が一杯あって 俺…っ 混乱しちゃってるッス でも、ロキ隊長!俺はっ!」
ロキが苦笑して言う
「フッ… 俺も同じだ ベルグル 従って 今は …何を置いても あいつを助ける事を考えろ …あいつは俺の相棒であり 卿にとっても 大切な副隊長殿だろう?色々あるが今は まず その事だけを」
ベルグルが意を決して言う
「…俺は!…ヴェルアロンスライツァー副隊長の事は 全部ロキ隊長に任せるス!」
ロキが驚いて言う
「…なん…だと?」
ベルグルが強い視線で言う
「その代わり!アシル王子の事は 全部俺に任せて欲しいッス!ロキ隊長!」
ロキが呆気に取られる ベルグルが言う
「アシル王子は!スプローニの王子様で 俺たち先住民族にとっても 大切な王子様ッス!もちろんヴェルアロンスライツァー副隊長の事は すっごく心配ッス!けどっ その心配は …やっぱり俺一匹の意見ッス!だから!ヴェルアロンスライツァー副隊長の事は ロキ隊長に任せるッス それで 俺は!スプローニの第二国王として!スプローニの犬たちの代表として!アシル王子を助けに行くッスよ!」
ロキが呆気に取られて言う
「…第二国王として …犬たちの代表として …あのアシルを?…本気で 言っているのか?ベル!?」
ベルグルが強い視線で言う
「本気ッス!犬の先住民族の皆とも 普通の犬たちとも話してきたッス!例え …ラグヴェルス陛下がアシル王子から王位を取っちゃったって やっぱり 俺たちの王子様は アシル王子で変わらないッス!これからも ずっと!アシル王子は スプローニの!俺たちの王子様ッスよー!」
ベルグルが走り去る 最中 犬の姿に戻る ロキが慌てて叫ぶ
「待てっ!ベル!ベルグル!」
ベルグルは去って行く ロキが困惑して言う
「…どう言う事だ?あのスプローニ史上 最悪の汚点とされた アシル王子に 何故犬たちが…?」
伝達兵が駆け込んで来て言う
「申し上げます!ローゼント国アンネローゼ女王より!ヴェルアロンスライツァー王配の名を持って 友好国スプローニからの援軍を要請したいとの連絡が入りました!共に情報として ソルベキア在中のローレシア国王子ザッツロード7世との連絡は 現在不通になっているとの事です!」
ロキが伝達兵を見て言う
「…そうか 分かった …援軍に関しては 既に向かわせてあると返答しろ …後 ザッツロード王子の事だったか?そちらは 了解したと返答を…」
大臣が言う
「ロキ陛下 先程申し上げ逃しました情報ですが アシル… 元王子の捕らえられております その牢には どう言う訳か ソルベキアの補佐官とされた ローレシアのザッツロード7世王子が共に捕らえられているとの事です」
ロキが驚いて言う
「何っ!?どう言う事だ!?」
大臣が言う
「詳細に付きましては 現在確認中と言う事で」
ロキが困惑して言う
「…何だ!?一体 何が …どうなっている!?」
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードがアシルの横に腰を下ろし 顔を向けずに言う
「アシル王子… 僕は 駄目な王子です」
アシルが起きていて身動きはせず視線だけをザッツロードへ向ける ザッツロードも身は動かさずに前を見据えて言う
「何とか表面的にでも 自分に出来る事はしようと思って… 王子らしくしようと思って ソルベキアの補佐官を強行した結果 こんな所に入れられる事になってしまって… その上 こうなってしまった事を ローレシアへ伝えられていない現状に 安堵したりして… けど 僕は間違ってました」
アシルが見つめている ザッツロードが顔を上げて言う
「王子らしくしよう だなんて 思うものではないんです 僕は… 元からローレシアの第二王子 例え一国の王にはなれずとも 時期国王となる兄王子や 現王の父 それに… いつも僕を心配してくれる ルーゼック第二国王や大臣たちや ローレシアの皆と共に… 共に考え共に戦わなければならなかったんです 自分の為に… ローレシアの為に!」
アシルが苦笑する ザッツロードがアシルへ向いて微笑して言う
「そして… それは アシル王子も 同じではないですか?」
アシルが一瞬呆気に取られてから不満そうに視線を逸らす ザッツロードがアシルへ向き直って言う
「アシル王子だって!スプローニの王子として生まれ!王子として生きて来た筈です!例え… 銃が持てずとも スプローニの為に考え スプローニの皆と共に… 共に戦おうとしていた筈です!」
アシルが聞きたくない話に目をつぶる ザッツロードが言う
「僕もアシル王子も 国王にはなれません… しかし 例えそうであっても 自分たちの国へ戻り 自国の王や皆と共に 成すべき事を成さなければならない!違いますかっ!?」
アシルが不満そうに言う
「…ふんっ 俺を お前と一緒にするな お前は腐ろうとも王子だろ?第二王子だろうが何だろうが」
ザッツロードが言う
「貴方だって!スプローニ歴代の王族でしょう!?少なくとも 貴方はスプローニの王子だったんです!例え地位を失おうとも それまでに国の皆から受けていた 尊敬と期待に 答えたいとは思わないのですか!?貴方は“王子”と呼ばれていた 今だって 元とは言え 王子と呼ばれているのでしょう!?」
アシルが視線を逸らし歯噛みして目を瞑る 視界に 犬たちと共に居た様子が思い出される ザッツロードが上体を戻し 再び前を見据えて言う
「…僕はここを出ます ローレシアへ戻って 父や兄… 皆と共に ローレシアの名の下に …戦う!」
アシルが目を開きザッツロードを見る ザッツロードは強い視線で正面を見据えている アシルが苦笑して言う
「…はっ …そうやって言葉だけ言った所でな?ここはソルベキアの牢屋だぜ?どうやって お前の言う 皆とやらの所へ戻るつもりだ?」
ザッツロードが顔を上げて言う
「この牢は ソルベキア城の地下であっても そう深い場所ではありません 空気取りの窓から差し込む明かりは 直下ではなく 少しこちらへ傾いている これは この牢の場所が それ程地上から離れていない証拠です」
アシルが空気取りの窓へ視線を向ける 月明かりが僅かに斜めに入っている ザッツロードが言う
「それと、ここへ連れて来られる際 目隠しをされ 視界は遮られていましたが 降りた段数から考えて 恐らくここは地下二階 そして 階段を終えてから この牢まで歩いた距離は割と短かった 通り過ぎた他の牢の数は ここと同じ広さのものであれば 2つから3つ 4つまでは行かなかったと思います …この事から この檻さえ出られれば 階段までの間に他の看守と遭遇する可能性は低い筈です」
アシルが苦笑して言う
「へぇ… 人に言われるままの へっぽこ王子だと思ってたが 多少はやるじゃねぇか?」
ザッツロードが苦笑して言う
「夢の世界とは言え それなりに鍛えられて来ましたから」
アシルが目を閉じて言う
「そう言えば お前はあの ガルバディア国王に選ばれた連中の一人だったっけなぁ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい… けど、折角選んで頂いたのに あまり有意義な事は 出来ませんでしたが… その分もっ」
アシルが苦笑して言う
「フッ… そうみたいだな?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?」
アシルが上体を起こし腕組みをして言う
「この地下牢は お前の言う通り それ程深い場所じゃねぇ それ所か 階数は地下半階 地上からの階段数はたったの15段だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?15段?地下半階って…?い、いえ 私は ここへ連れて来られる際 もっと多くの段数をっ」
アシルが言う
「それは …お前もそうだったんだろう?連れて来られる以前に居た場所が 玉座の間だった筈だ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ、はい そうでした」
アシルが言う
「ソルベキア城は 元々要塞そのものなんだ だから 囚人となる者へ 罪状を言い伝えた後に 牢屋へ連れて行くその道すがらに多くの仕掛けが組み込んであって 囚人の脱獄を防ぐと共に それらの情報が外部に漏れることを防いでいる …ついでに お前が最初に言った 窓から差し込む外光 こいつにもトリックが仕込まれてる …見てろ」
アシルが言い終えると共に ペットボトルのキャップを空気取りの窓へ投げ付ける 白いキャップが月光に照らされつつ 窓の奥の壁へ向かう ザッツロードが気付いて言う
「あっ!」
キャップが壁に当たる以前に見えなくなり 後に壁に当たる音がして落ちて行く ザッツロードが言う
「光に照らされて 見えている壁に当たる筈の それ以前に…」
アシルが言う
「外光は 多分鏡か何かに反射させる事で この場所へ送られてるんだろう だから 普通ならありえねぇ 自然の外光に極端な 傾きってもんが付いちまうんだ」
ザッツロードが感心した後 ハッとして言う
「へぇ… あ、そ それでは?先程の この場所が地下半階であるというのは?」
アシルが言う
「ソルベキア城は 正面から入れば 地上から約1階分の階段を上った先に入り口がある この時点でソルベキア城は 地上2階にあると考えて良い そして、玉座の間はその先にある 従って 玉座の間も 地上2階にある …だが ソルベキアには正面入り口以外の出入り口ってのが3箇所あって その3箇所は共に 正面入り口より一階下 つまり 地上階にあるんだ」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「…知らなかった」
アシルが苦笑して言う
「ハッ 同盟国ローレシアの王子様や ソルベキアの補佐官殿として入るんなら 正面入り口以外有り得なかったんだろぉ?」
ザッツロードが苦笑した後疑問して言う
「はい… …うん?しかし、それは アシル王子も同じであったのでは?」
アシルが不満そうに言う
「元」
ザッツロードが衝撃を受け苦笑する アシルが言う
「まぁ 確かにそうだったが 俺はいつだって他国へ行く際は 得られる限り その国の情報を手に入れる その情報元が そういった細かい事も調べるのが得意だったんだ」
ザッツロードが不思議そうに言う
「細かい事が得意…?」
アシルが気を取り直して言う
「とは言っても 俺だって正面以外の入り口を使ったのは この前が初めてだったぜ?ローゼントから隠密に 泥酔した野郎を引きずり込むには そう言った場所が妥当なんだろ?」
ザッツロードが納得して微笑して言う
「ああ!なるほど!」
アシルが衝撃を受け怒って言う
「おいっ 真っ直ぐ納得しやがるんじゃねぇ!」
ザッツロードが照れる アシルが笑んで言う
「だが、お陰で 今まで把握し切れなかった この地下牢の階数が分かったって訳だ その地上階の入り口から 玉座の間へ向かうまでに上る階段 その段数が48 そして、玉座の間から この牢屋まで連れて来られる際に 降りた段数は63 どちらの階段も 一段の高さは同じだった」
ザッツロードが感心して言う
「へぇ…」
アシルがザッツロードを見て言う
「…それで?」
ザッツロードが意表を突かれて言う
「え?」
アシルが不満そうに言う
「この牢屋の場所が分かった所で どうやってそこの檻を出るつもりだ?お前は?」
ザッツロードが言う
「あ、はい それは」
ザッツロードが檻の外を見ながら言う
「ここの看守は 3度の食事の時の他 夜間に一度 明け方に一度 合計5回の見回りを行います その中において 夜間と明け方 この間がもっとも長い時間が空きます ですから」
アシルがザッツロードを見ている ザッツロードが苦笑して言う
「脱獄はその間に 夜間の見回りの際 僕が仮病を使って看守を引き込みますので… アシル王子 どうかその隙に」
アシルが視線を強めて言う
「…お前 自分を囮に俺を…?」
ザッツロードが恐ろしい微笑で言う
「僕を心配して入って来るでしょう その看守を …ひとおもいに殺っちゃって下さい」
アシルが衝撃を受け慌てて言う
「ぬぁあ!?お、お前っ!?」
ザッツロードが笑顔で言う
「冗談です アシル王子の事ですから どの場所を殴れば相手の意識を失わせる事が出来るのか その場所を明確に心得て居られるのでしょう?それをお願いします」
アシルが呆れて言う
「どういう意味だ そいつは?…と、その前にお前 いい加減 へっぽこなのか優秀なのか 優しいんだか残忍なのかをハッキリさせろ」
ザッツロードが苦笑する
【 スプローニ城 玉座の間 】
大臣が言う
「たった今 ローゼントから報告がありました ローゼント城及び城下町へ進軍していた ソルベキアの兵が動きを止めたとの事です」
他の大臣が言う
「こちらもたった今入った報告です スプローニ第二部隊 及び 魔法銃使い部隊が 無事ローゼントの港へ到着したとの知らせが入りました 引き続き ローゼント城へ向かうとの事です」
ロキが言う
「…分かった …スプローニ部隊へは これからも連絡を欠かさぬよう伝えてくれ」
大臣が返事をする ロキが言う
「…それと、部隊の中 もしくは 船に同乗して ベル… ベルグル第二国王の姿を見たものは居ないか その確認を頼む」
大臣が言う
「かしこまりました …して、ロキ陛下 もし それらの中において ベルグル第二国王陛下の姿を確認した場合はどのように?陛下へ 確認したとの連絡を行うだけで 宜しいのでしょうか?」
ロキが言う
「…いや …捕らえろ」
大臣が驚いて言う
「は!?い、今 何と?」
ロキが言う
「…如何に第二国王の王位を持とうとも このスプローニへ危害を与える可能性がある その様な作戦を行おうとしているとなれば 奴を捕らえ 場合によっては収監しておく必要も有る」
大臣が言う
「し、しかしっ ベルグル第二国王はっ」
ロキが言う
「…スプローニ国元王子 アシルを脱獄させようと企んでいる それも …相手は渦中のソルベキアだ 現状 ローゼントへ向かっていたソルベキア部隊は 動きを止めているとの事だが そのソルベキアがローゼントを攻撃するよりも先に スプローニの者が ソルベキアを襲撃したとなればどうなる?」
大臣が驚き困って言う
「そ、そうなりました際は…っ」
ロキが言う
「…何があろうとも スプローニは勿論 襲撃の的とされているローゼントであろうとも ソルベキアへ先に手を出す事は許されない …分かったら ベルグルを探せ どうあっても ソルベキアへは近づけさせるな!」
大臣が慌てて言う
「ははっ!」
【 ソルベキア城 地下牢 】
アシルが息を吐きながら立ち上がって言う
「ふぅ… やっぱりお前には へっぽこ王子の名が似合ってるぜ」
ザッツロードが呆気に取られつつ苦笑して言う
「そんなぁ… 今回は自分でも 頑張った方だと思ったんですが」
アシルが言う
「ここの見回りは お前の言う通り5回 だが3度の食事の時を除き 他の2回はきっちり同じ時間に見回りを行う そんな看守を気絶させて そいつが時間通りに戻らなかったらどうだ?何か有りましたって ご丁寧に伝えるだけじゃねぇか?そうでなくとも 夜間の脱獄ってのは一番目を光らされる所だ 看守の行動はずらせねぇ …分かったか?へっぽこ王子?」
ザッツロードが苦笑して言う
「なるほど… しかし、それでしたら アシル王子は なんと言う名がお似合いで …どうやってここを抜けようと?」
アシルが数歩歩いた先ザッツロードを振り返って言う
「俺か?俺の名は ふん… そうだな … …やっぱり」
アシルが牢の扉の前に膝を着いて言う
「スプローニの 元王子」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して立ち上がって言う
「それじゃぁ 今と変わらないではありませんか?」
アシルがコートを探りながら言う
「ハッ!だったらお前は これからは間違えずに呼べよ?元が付かねぇ 唯の王子様が こんな事を出来たりなんか… しねぇもんだ」
アシルがコートの裾から針金を取り出す ザッツロードが呆気に取られて言う
「そんな所に… て、まさかっ!?」
アシルが針金を鍵穴へ入れながら言う
「夜間の見回りの時間まで まだある筈だが 一応見張っとけ へっぽこ王子」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言う
「ふふ…っ …はいっ 分かりました アシル 元 王子!」
アシルが鼻で笑いながら鍵穴を探る ザッツロードが微笑して檻の外を監視する
【 ローレシア城 玉座の間 】
ルーゼックが驚いて叫ぶ
「であるからにしてっ!あのザッツロードは 早急にローレシアへ戻すようにと申したのだ!わざわざソルベキアへ置いて 戦乱の最中に連絡が付かなくなるなど… 何処まで間抜けであるのだっ!?」
キルビーグが言う
「だが… これなら 我らローレシアが ローゼントへ力を貸し 共にソルベキアを襲撃する その理由が整った事になるだろう?」
ルーゼックが驚きキルビーグへ向いて言う
「キルビーグ… き、貴様はっ 一体何を申して居るのだ!?ザッツロード7世がソルベキアに何ぞされよったのかもしれぬのだぞっ!?貴様はこのローレシアの第二王子にして 貴様の息子である あやつの事が 心配ではあらぬのか!?」
キルビーグが視線を強めて言う
「ソルベキアは… 我が息子 キルビーグ2世を先の戦乱に紛れて暗殺した国だ 今まではその確たる証拠が掴めぬが故に 追求する事も… キルビーグの死去さえも 皆へ伝えられずに居た あれから数年 未だ確固たる証拠の方は掴めぬが …今こそ」
ルーゼックが驚いて言う
「キルビーグ… まさか 貴様はその為に… …この様な事態が起こる事を求め ザッツロードをソルベキアへ送ったとでも言うのか!?キルビーグっ!?」
キルビーグが目を瞑って言う
「ザッツは… ガルバディアに シリウス国王に選ばれた者だ きっと 何があろうとも あいつの身は守られる …しかし キルビーグは 現実世界においても あの夢の世界でさえ 助ける事は叶わなかった… ザッツには 危険な目に合わせ悪いとは思っているが これが私に出来る キルビーグへの唯一の償いだ 何としても ソルベキアへ一矢を報いるその為に… その為であるなら私は」
ルーゼックが視線を強める キルビーグが目を開き立ち上がって言う
「直ちに ローレシアの部隊を集結!同盟国ローゼントへ向かわせよ!共に ローゼントへ通達を!我らローレシアは ローゼントへ加勢すると!」
伝達兵が返事をする
「はっ!直ちに!」
伝達兵が立ち去る キルビーグが玉座へ腰を下ろす ルーゼックが表情をいぶかしめて言う
「…ローゼントへ加勢するフリをして その実 ソルベキアを襲撃致すつもりか?」
キルビーグが微笑して言う
「…隙あらば な?」
ルーゼックが目を閉じ息を吐いて言う
「…温厚な皮を被った 恐ろしい男よ 貴様は」
キルビーグが苦笑する
【 ソルベキア城 地下牢 】
ザッツロードが檻にしがみついて外の様子を伺っている アシルが表情をしかめつつ鍵穴を探りながら言う
「う~… くっそ… 流石に… 中々上手くは行かねぇモンだ…」
ザッツロードが呆気に取られ驚いて言う
「あの まさか… アシル王子?その作業を実際に行うのは 初めてなのですかっ!?」
アシルが不満そうな表情で言う
「元!」
ザッツロードが苦笑する アシルが一息吐いて言う
「まさかってなぁ?…そもそも 俺がこんな事を学んだのだって ついこないだ …2度も投獄されて 11ヶ月と2週間もひたすら檻ってモンを見てれば 欲しいと思った知識は こんな事だった… とは言え まさか本当に実践する日が来るとはな」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「2度も投獄?一体何故… あ、けど …僕も1度投獄されていました ついこの間まで …でも 鍵開けを学ぼうなんて そんな事を考えた事無かったなぁ 不器用な僕には出来る気もしないし はは…」
アシルが言う
「…それとなぁ?何度も言ってるが 俺だってスプローニの元!王子だぞ?何が悲しくて 王子がこんな作業に慣れてなけりゃならねぇ?」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言いかける
「確かに しかし…」
アシルがザッツロードをにらんで言う
「アシル王子なら慣れてそうだ なんて言いやがったら」
ザッツロードが苦笑して言う
「あはっ まさか!ただ、何となく アシル王子なら 出来そうだったので 意外でしたと」
アシルが怒って叫ぶ
「同じだろうぉがぁあ!?てんめぇええ!…っ!?」
アシルがザッツロードの胸蔵を掴んでいてハッとする ザッツロードが疑問する
看守が檻の前に来て中を見る アシルとザッツロードが定位置で アシルが寝転んでいて ザッツロードが膝を抱えて眠っている 看守が頷き立ち去る 足音が遠ざかるとザッツロードが顔を上げる アシルが檻の前にやって来る ザッツロードがアシルへ向く アシルが言う
「これで時間の余裕は 無くなったぜ」
ザッツロードが表情を強めて言う
「本番… ですね?」
アシルが鍵穴の前に屈む ザッツロードが再び檻にしがみついて外を見る アシルが3本目の針金を手に言う
「見張っとけよ?」
ザッツロードが言う
「はいっ …そちらは お願いします」
アシルが鍵穴へ針金を入れて言う
「…ああ 任せろ 大体感覚は掴めた」
ザッツロードが呆気に取られた後微笑する
【 ローゼント国 城下町門前 】
ヴェルアロンスライツァーが全軍の前に立っている ローゼント兵がやって来て言う
「申し上げます!スプローニ国第二部隊 共に 魔法銃使い部隊が合流いたしました!両部隊を代表し ラント第二部隊長が殿下へご挨拶したいと」
ラントがやって来る ヴェルアロンスライツァーが顔を向け微笑して言う
「ラント 貴殿であったか!」
ラントがヴェルアロンスライツァーへ傅いて言う
「…ヴェルアロンスライツァー王配殿下 スプローニ国第二部隊共に魔法銃使い部隊 スプローニ国国王ロキ陛下の命により 参上仕りました」
ヴェルアロンスライツァーが一瞬呆気に取られてから気を取り直して言う
「…うむ、承知した スプローニ国ロキ国王 及び 貴殿たちの支援に ローゼント国女王アンネローゼに代わり このヴェルアロンスライツァーが礼を申す」
ラントが苦笑して顔を上げる ヴェルアロンスライツァーが微笑して言う
「と、堅苦しいのは ここまでで良いか?ラント?」
ラントが立ち上がり微笑して言う
「はい!ヴェルアロンスライツァー副隊長!」
ヴェルアロンスライツァーが軽く笑って言う
「ふっ… ベルグルではないのだ 貴殿まで 私を過去のその呼び名で呼ぶ事はなかろう?」
ラントが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「そうでした つい 以前の癖で」
ヴェルアロンスライツァーが微笑して言う
「その節は 貴殿や第二部隊の皆には世話になった 無論 当時隊長であったロキにも」
ラントが微笑して言う
「それは こちらも同じです ヴェルアロンスライツァー殿下 我ら第二部隊は お二人が居た頃が もっとも活気があり 邁進しておりました」
ヴェルアロンスライツァーが軽く疑問して言う
「私やロキが去った後 第二部隊は ロイ第三部隊隊長へ引き継がれた筈では?」
ラントが言う
「はい、そうであったのですが ロイ隊長はつい先日 ご本人の希望で 再び第三部隊の隊長へ戻られたのです それで」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「そうか… それで 貴殿が隊長に?」
ラントが敬礼して言う
「はっ!及ばずながら このラントが スプローニ国第二部隊の隊長を 勤めさせて頂いております!」
ヴェルアロンスライツァーが頷いて言う
「うむ… 貴殿であるなら 私も安心して任せられる …頼りにしているぞ!?ラント隊長!」
ラントが敬礼して言う
「はっ!お任せ下さい!」
【 ローゼント城 玉座の間 】
大臣が言う
「先程 スプローニからの援軍が到着し 城下正門前の部隊に就いて居られる ヴェルアロンスライツァー殿下と合流したとの事です」
アンネローゼが言う
「分かりました 支援内容や部隊の配備に付いては ヴェルアロンスライツァーから指示を得るようにと伝えて下さい」
大臣が伝達兵へ向く伝達兵が返事をして立ち去る アンネローゼが言う
「進軍が止まっている ソルベキア軍に動きは?」
大臣が言う
「現在も警戒を続けさせておりますが 今の所 動きは見られない様です」
アンネローゼが考える 伝達兵がやって来て言う
「申し上げます!同盟国ローレシアより入電 この度の事態に ローレシアからも援軍を送るとの事です!」
アンネローゼが疑問して言う
「ローレシアから?…ローレシアの魔法使いたちは 既に 魔法剣部隊として配置に就いている筈ですが?」
伝達兵が言う
「はっ!それら既存の魔法使いたちの他 新たに ローレシアから 魔法使いの部隊を送るとの事です!」
アンネローゼが呆気に取られて言う
「そう… ですか 予定外ではありましたが 助かります では その事をヴェルアロンスライツァーへも伝え ローレシアからのご好意を 有り難く受け取る事としましょう」
伝達兵が返事をして立ち去る 大臣がアンネローゼへ向いて言う
「魔法使いの国ローレシアから更なる増援とは 予定外ではありましたが 順調に各国から援軍が届き 心強いかぎりですな?」
アンネローゼが視線を落とす 大臣が疑問して言う
「アンネローゼ様?」
アンネローゼがはっとして言う
「え?…あ、はい そうですね 多くの援軍を得られると言う この事は ローゼントにとって とても喜ばしい事です」
他の大臣が大臣へ言う
「欲を言えば アバロンからも援軍を送ってもらえれば より心強くあったのだがな?」
大臣が一瞬呆気に取られた後紙資料をめくりながら言う
「そう言われて見れば…」
アンネローゼが言う
「…アバロンは現在 代理の王が治める国です 国同士の争いに 安易に援軍を送る事は難しいのでしょう …それでも ローゼントが 援軍の要請を行うのであれば 取り計らっては頂けると思われますが」
大臣が言う
「では アンネローゼ様 ここは一つ アバロンへも援軍の要請を送っては如何でしょう?アバロンはハリッグ前王陛下の時代より ローゼントの友好国として長く有りました きっとすぐにでも…!」
アンネローゼが言う
「アバロンが友好を結んでいたのは ハリッグと前アバロン王ラインツ殿です 両国の国王が替わってからは… 残念ながら 国王同士で結ばれる 友好条約は交わされておりません …いいえ それよりも」
大臣が疑問する アンネローゼが言う
「例え アバロンから援軍を得たとしても ソルベキアが本気で攻めて来るのでは …このローゼントは 守りきれません」
大臣たちが驚く アンネローゼが視線を落として言う
「ソルベキアが 今まで私たちへ手を出さなかった事は ソルベキアがこの世界に仇名す者ではないと言う証拠であった筈です しかし… ここへ来て そのソルベキアが動き始めた… これこそ ガルバディア国王が案じていた この世界の …戦いの始まりであるのかもしれません」
大臣たちが驚き言う
「ア、アンネローゼ様!?一体何を仰られ…っ」
アンネローゼが十字架の首飾りを握り締めて言う
「どうか進軍を止めたソルベキアが… このまま引き返して下さいます様…」
大臣たちが心配して顔を見合わせる
【 ソルベキア城 地下牢 】
牢の扉の鍵が音を立てて外れる ザッツロードがはっとして振り向く アシルが両手と口で針金を支えた状態で呆気に取られる ザッツロードが喜んで言う
「開いたーっ!」
ザッツロードが殴られる ザッツロードが頭を抱えて言う
「痛っ…」
アシルが殴り終えた状態で 小声で怒って言う
「声がデカイっ!」
ザッツロードが苦笑して言う
「すみません…」
アシルが扉を静かに押して小声で言う
「…ここからが本番だ 行くぞっ!?」
ザッツロードが頷いて小声で言う
「はいっ!」
アシルとザッツロードが扉を飛び出す アシルが階段通路の横で立ち止まり 通路の様子を伺う ザッツロードがその後ろに立つ アシルが言う
「聞け …この先 短けぇ階段を上がった先 左に1人 他にホールを周回する兵が1人 合計2人が居る筈だ」
ザッツロードが一瞬驚いた後慌てて言う
「…はいっ」
アシルがザッツロードへ向いて言う
「まずはお前が先行して 階段を上がった左の奴を“抑えろ” 続いて俺が 周回している奴を抑える …良いな?」
ザッツロードが慌ててアシルの服を引いて言う
「ま、待って下さいっ」
アシルが向き直って言う
「あぁ…?」
ザッツロードが表情を困らせて言う
「あ、あの… “抑えろ”とは?」
アシルが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「さっきお前も言ってただろ?ひとおもいに殺れって」
ザッツロードが驚いて言う
「えぇええーっ!?」
アシルが殴る ザッツロードが痛がる アシルが小声で怒って言う
「こっちだって冗談に決まってるっ!…騒がれねぇ様にして 意識を失わせろって事だよっ!」
ザッツロードが再びアシルの服を強く引いて言う
「ぐ、具体的にはっ!?その…っ 僕は こういうのは初めてでっ」
アシルが怒って言う
「俺だって初めてだっ!」
アシルがはっとして周囲を警戒する 周囲はしんとしている アシルがホッとしてザッツロードへ向き直って言う
「この へっぽこ王子がっ …良いか?まずは騒がれねぇ様に口を押さえて 頸部を… お前じゃ届かねぇかもしれねぇ 腹で良い 思いっきり殴ってやれ!」
ザッツロードが自分の拳を見ながら言う
「な、なるほど… 分かりましたっ」
アシルが言う
「ほら、お前が先だ 合図するから …しくじるなよ!?」
アシルがザッツロードを先に立たせる ザッツロードが表情をこわばらせつつ言う
「は、はいっ」
アシルが階段へ向き直り 目を閉じて壁に耳を付ける ザッツロードが呆気に取られ真似をする アシルの耳に周回している兵士の足音が響く ザッツロードが疑問して首を傾げる アシルがザッツロードの肩を掴んで進行方向へ向かせる ザッツロードが慌てつつ されるがままに向き直る アシルが音を聞き目を開くと視線を強めて ザッツロードを押し出すと共に言う
「今だっ 行けっ!」
ザッツロードが意を決して駆け上がり 階段横に居た兵士に掴みかかって言う
「えーいっ!」
兵士が驚いて声を出そうとする
「なっ!?むぐっ…!」
ザッツロードが兵士にしがみ付いて口を塞ぐ その横をアシルが飛び出し 一目散に向かう 周回していた兵士が振り向き 驚くと同時にアシルが掴み掛かり 兵士の口を押さえて頸部へ打撃を与える 兵士が悲鳴を上げて気絶する
「脱ご…っ!ぐっ!…」
アシルが手を離すと兵士が倒れる アシルが言う
「よし… 行くぞっ!…ん?」
アシルの視線の先 ザッツロードが兵士にしがみ付いて兵士がもだえている アシルが呆れ向かう ザッツロードが必死に兵士にしがみ付いている 兵士がザッツロードに抑えられている口から手を離させようとしながら言う
「おにょれっ 離せっ… ぐっ!…」
ザッツロードが疑問すると兵士が脱力して倒れる アシルが兵士を殴り終えた状態で居る ザッツロードが表情を困らせて言う
「あ… すみま…」
アシルがザッツロードへ向いて言う
「次は向こうだ 外に2人 出入り口の左右から 同時にやるぞ?」
ザッツロードが一瞬驚いた後慌てて言う
「は、はいっ」
アシルが苦笑して言う
「…今度はしくじるなよ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はいっ!」
アシルとザッツロードが出入り口の左右に背を壁に付けて立つ ザッツロードがアシルを見る アシルが壁の向こうを伺ってからザッツロードへ向く ザッツロードがアシルを見る アシルが合図のカウントを指三本から行う 3,2,1次の瞬間 アシルとザッツロードが同時に壁の向こうの門兵へ掴みかかる 門兵2人が驚く ザッツロードが気合を入れて襲い掛かり 自分側の門兵の口を押さえると共に 歯を食いしばって渾身のパンチを門兵の腹に食らわせる 門兵が悲鳴を上げ意識を失って倒れる
「う…っ!」
ザッツロードが自分へ倒れて来る門兵に呆気に取られつつ 思わずその身を労わる様に横たえさせる ザッツロードが門兵の腰に備えられている短銃とナイフに気付く アシルの声が届く
「おいっ へっぽこっ!」
ザッツロードがはっとしてアシルを見る アシル側の門兵が意識を失って座り込んでいる その門兵の腰に備えられている武器へ アシルが手を伸ばしながら言う
「ぼさっとするなっ まだ終わってねぇぞ!」
ザッツロードがはっとして言う
「はっ はいっ」
アシルが言う
「そいつの武器を取れ」
アシルの言葉にザッツロードが慌てて言う
「はいっ… えっと、どちらを…?」
ザッツロードが 自分側の門兵の武器を再び見て 一度短銃へ手を伸ばすが僅かに考え ナイフへ手を伸ばし変えて言う
「…僕では こちらしか」
ザッツロードが門兵のナイフを取って立ち上がる アシルの声が届く
「お前はこっちだ」
ザッツロードが振り向くと剣が放られる ザッツロードが慌てて受け取って手にした剣を見る そのザッツロードへアシルが言う
「ローレシアの第二王子様は 剣と魔法を操れるんだろぉ?」
ザッツロードが呆気に取られてアシルへ向き苦笑して言う
「どちらも… 中途半端ですが」
アシルが軽く苦笑して言う
「中途半端でも 使えねぇよか 良いじゃねぇか?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?」
アシルが気を取り直して言う
「…そいつは俺へ寄越せ 急ぐぞ」
ザッツロードが言われてもう片方の手に持っているナイフを思い出し 慌てて放って言う
「あっ はいっ」
アシルが放られたナイフを受け取り走り出す ザッツロードが剣を腰へ装備しつつ続く
住宅街
薄暗い住宅街をアシルが走って行く ザッツロードがアシルへ追いついて言う
「アシル王子っ どちらへ!?」
アシルが表情をしかめつつ言う
「何処でも良い 急いで城壁を超えなけりゃ 脱獄に気付かれるのは 時間の問題…」
アシルの言葉の途中でソルベキア中にサイレンが鳴り響く アシルとザッツロードが立ち止まってソルベキア城を振り返り ザッツロードが言う
「気付かれた…」
アシルが舌打ちをして言う
「チッ… 思ってたより早かったな こうなりゃぁ 選んでなんか居られねぇ 一番近い門をさっさと抜けねぇと」
ザッツロードがはっとして言う
「門を抜けるんですか!?」
アシルが言う
「当たりめぇだろっ ソルベキアの城壁は人の力で登れるようなもんじゃねぇっ そうとなれば ここから一番近い 西門を突破するしか」
ザッツロードが一瞬驚いてから視線を落とす アシルが言う
「時間がねぇっ 行くぞっ!」
アシルが向かおうとする ザッツロードがはっとして言う
「待って下さいっ アシル王子っ!」
アシルが向かおうとしていた体を止め振り返る ザッツロードが言う
「西門は今っ 最新の機械設備を建設している最中の筈です そうなれば 通常の門の警備の他に その装置を警備する兵も配備されている筈っ そこを抜けるのは…っ」
アシルが一瞬呆気に取られた後考えて言う
「そうか… そいつは確かに …なら北門 …いや、北はソルベキアのメインストリートだ そこを抜ける訳には行かねぇ… 東へ行っても港で行き止まり …畜生っ なら 一番遠いが一度南へ向かって」
ザッツロードが言う
「アシル王子っ」
アシルがムッとして言う
「なんだよっ!?こっちは時間のねぇこの時に 南へ向かう方法を考えてる最中だろっ!?」
ザッツロードが言う
「北でも南でもない 門へ向かうのではなく 一度… ソルベキアの者へ 匿って貰いましょう!」
アシルが呆気に取られて言う
「はあっ?正気かっ!?」
ザッツロードが言う
「ソルベキアのスファルツ卿をご存知ですか!?ソルベキアに置いて 唯一ローレシアの…っ 私の味方になってくれた方です!」
アシルが言う
「スファルツ卿…?スファルツ …何処かで聞いた名だ 確か…」
アシルが考える ザッツロードが詰め寄って言う
「私が脱獄したとなれば ソルベキアはまずスファルツ卿を疑うと思われます 私とスファルツ卿の関係は ガライナ国王も知っています」
アシルが衝撃を受け怒って言う
「それじゃっ 駄目だろっ!?」
ザッツロードが言う
「だからこそ!行くんですっ!」
アシルが困って言う
「…裏をかくって事か?」
ザッツロードが言う
「それもありますが… 警戒態勢に入った門を 我々2人だけで抜ける事は やっぱり難しいと思われます …それに、スファルツ卿なら」
アシルがザッツロードを見る ザッツロードが微笑して言う
「きっとスファルツ卿なら 僕を 必ず助けてくれる …きっと力になってくれる筈です!…ご迷惑は とても掛けてしまいますが…」
アシルが苦笑して言う
「まぁ、…そいつは後々にでも 十分な礼をすれば良いだろ?ローレシアの王子様としてよぉ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はいっ」
アシルがソルベキア城を見る ソルベキア城からソルベキア兵が現れ始める アシルがザッツロードへ向いて言う
「決まりだな …場所は?」
ザッツロードが走り始めて言う
「こっちです!」
ザッツロードに続いてアシルが走る 二人が走り去ってしばらく後 ソルベキア兵たちが同じ方向へ向かう
【 ローゼント城 近郊 】
ソルベキア軍が停留している
見張り台
ローゼント兵が双眼鏡でソルベキア軍の様子を見て隣に居る人物へ向く ローゼント兵の視線の先 ヴェルアロンスライツァーがソルベキア軍の居る場所を見て 視線を強め立ち去る
玉座の間
伝達兵が大臣へ伝える 大臣が考えてから 玉座に居るアンネローゼへ向く アンネローゼが表情を落としつつも視線は強く 片手を膨らんでいる腹へ触れる
【 ローレシア城 玉座の間 】
伝達兵が言う
「申し上げます!ソルベキアの監視を行っております者より ザッツロード王子は現在 ソルベキア城の地下牢へ 幽閉されていると連絡です!」
キルビーグとルーゼックが驚き キルビーグが視線を落とす ルーゼックがキルビーグの様子を見てから視線を戻して言う
「その連絡内容に 間違いはあらぬのか?」
伝達兵が言う
「はっ!ソルベキアの監視を行っております その者は 己の目と耳でザッツロード7世王子である事を確認したとの事です!その者は 先住民族です この事からも恐らく この情報に間違いはないものと思われます」
ルーゼックが表情を怒らせて言う
「監視を行って居る その者が確認を行ったとあれば ザッツロード7世を収監致したのは それ以前であったはず… でありながらも 当のソルベキアからローレシアへは何の連絡も入っておらぬとは…っ キルビーグ!」
ルーゼックの問い掛けに キルビーグが一度視線を合わせるが 視線を戻して言う
「ソルベキアから連絡が入るまで 先の情報は… 聞かなかった事とする」
ルーゼックが驚き息を飲む
「っ!」
伝達兵が呆気に取られてキルビーグとルーゼックを見る キルビーグが目を閉じる ルーゼックが歯を食いしばり浮かせていた身体を玉座へ戻して伝達兵を見る 伝達兵と視線が合う ルーゼックが言う
「…下がって良い」
伝達兵が一度呆気に取られてから言う
「…はっ 下がります」
伝達兵が退室する ルーゼックが表情を落として心配する
【 スプローニ城 玉座の間 】
ロキが顔を上げて言う
「…ソルベキアに動きはなし か… …奴らは …何を待っている?」
大臣が驚いて言う
「待っている …とは?ソルベキアは 何か を待っていると?」
ロキが視線を強めて言う
「…もしくは 既に何かが 起きている… か…」
大臣が疑問する ロキが言う
「…ベルグル第二国王の居場所は掴めたか?」
大臣が慌てて言う
「はっ…え、えぇと ベルグル第二国王の居場所に関しましては… まだ情報が入っておりません」
ロキが言う
「…国内に留まっている スプローニ全軍を上げ 早急に探し出すように」
大臣が言う
「はい、現状その様に致しておりますが 未だに…」
ロキが息を吐いて言う
「…そうか」
大臣が紙資料を見て言う
「うん?ロキ陛下 ベルグル第二国王の情報では 無いのですが…」
ロキが言う
「何だ?」
大臣が言う
「スプローニ国内 及び シュレイザーに置きましても 先住民族の犬と共に 通常の犬たちまでが 姿を消したと… これは一体」
ロキが驚き立ち上がって叫ぶ
「スプローニ国内の全国境を閉鎖しろ!共に シュレイザー在中のスプローニ部隊へ伝達!直ちにシュレイザーの各国境へ向かい…!」
大臣が呆気に取られている 伝達兵が走って来て言う
「申し上げます!たった今 スプローニ領域のアバロン運河にて!」
ロキが顔を向ける 伝達兵が言う
「多数の犬が 運河を泳ぎ 対岸 ローゼント領域へ向かっているとっ!その先頭に居ります犬が その色や大きさから ベルグル第二国王陛下ではないかとの報告です!」
大臣が驚きロキへ向く ロキが困り怒って言う
「…あの 馬鹿犬がっ」
【 アバロン運河 】
多数の犬たちが運河を泳いで渡っている 先頭を泳ぐ犬のベルグルが後方を確認した後 ふと気付いて後方の岸を見上げる ベルグルの視線の先スプローニ兵が双眼鏡を離し通信機を着信させる ベルグルが耳をそばだてるが聞こえず 一度視線を逸らして考えてから 再び泳ぎ出す
【 スプローニ城 玉座の間からの通路 】
ロキが通信機をしまいながら 玉座の間から出て来る 大臣らがロキに続いて言う
「ロキ陛下っ どうか 十分にお気をつけ下さいっ 現行スプローニ領地内にソルベキアの部隊は確認されておりませんが このスプローニはローゼントの最友好国である事は周知の事!ソルベキアがローゼントを落とすのなら 次に もしくは同時に狙われると言う事もございます!そして ロキ陛下は スプローニの王であります!レビ王子もお戻りで無い現状で 陛下にもしもの事があっては…っ」
ロキが間を置いて言う
「…スプローニは国となる前は 一部隊であった 例え国王が居らずとも 今は多くの隊長が スプローニ部隊を治めている …俺にもしもの事があった時は 奴らの中から次の王を探せ」
大臣が驚いて言う
「な、何を申されます!陛下っ!確かにスプローニの歴史はそうでありますが それはもう何百年も昔の事っ スプローニは既に 一国として成り立っておるのです!その国の王を いずれかの部隊長に任せようなどとはっ!」
ロキが視線を強めて言う
「…この国と同じ アバロンの現状でさえ 王に有事の際は アバロンにて 一番の力を持つ大剣使いが 王へ変わると言う …兵が王となる事が同じなら このスプローニとて アバロンと同様の事が出来るだろう?…俺は 今回のこの事態だけは 何としても俺がけじめを付ける …後は任せた」
ロキが言い終えると共に宝玉の欠片を握り締め走り出す 大臣が呼び止めるように言う
「ロキ陛下!」
ロキが去って行く 大臣が困り怒って玉座の間へ戻って行く
【 ソルベキア国 城下町 】
サイレンが鳴り響く中ザッツロードとアシルが走っている ザッツロードが道を曲がり行くと その道の先にソルベキア兵が居て驚いて振り返る ザッツロードがはっとして言う
「あっ!」
ソルベキア兵が一瞬疑問する
「むっ!?」
ソルベキア兵が目を凝らす ザッツロードが道を変えて言う
「なら… こちらからっ!」
ザッツロードとアシルが道を変えて走る ソルベキア兵が慌てて言う
「は、発見ー!脱獄囚を発見したーっ!」
ソルベキア兵が慌てて通信機を操作して言う
「こちらT98WR地点!脱獄囚を発見した!対象は現在 T98WRからT97RRへ…」
アシルが振り向き舌打ちをして言う
「チッ… こうなったら 袋のねずみだ 戦闘は免れねぇ… おいっ へっぽこ王子!目的地はまだかっ!?」
ザッツロードが言う
「もうすぐです!あの角を曲がり 2つ先の通路へ行けば!」
アシルが表情を強張らせて言う
「残り2ブロック… 間に合うかっ?」
ザッツロードが角を曲がりアシルが続くが アシルが曲がった先にザッツロードが立ち止まっていて激突する アシルが悲鳴と共に後ろへ倒れるが すぐに顔を上げて怒って言う
「おいっ!何突っ立って」
ザッツロードが静かに剣を抜いて言う
「…ここは僕が食い止めます」
アシルが疑問して言う
「あぁ…?」
アシルがザッツロードへ向けていた視線を正面へ向ける ザッツロードたちの正面先にソルベキア兵の一団が剣や槍を構えている ザッツロードが視線を強め剣を握る手に力を込めて言う
「…その間に アシル王子は 何とかここを切り抜けて」
アシルが立ち上がって言う
「へっぽこのお前に そんな大仕事 任せられるか」
ザッツロードが軽く顔を向けて言う
「僕はこれでも ガルバディア国王に選ばれ 夢の世界で それなりに修行して来ました …今は その時の仲間が居ない分 難しくはなると思いますが あの位の戦力相手なら …きっと何とかなります」
アシルが苦笑して言う
「へぇ… そいつは驚いた お前がそこまで言うとはねぇ」
ソルベキア兵の団長が剣を向けて叫ぶ
「突撃ー!」
ソルベキア兵の一団がザッツロードたちへ向かって来る ザッツロードが言う
「行って下さい!アシル王子っ!」
ザッツロードが言うと共にソルベキア団へ向かいつつ呪文を詠唱し叫ぶ
「炎よっ!我が前に在する物を 全て焼き尽くせ!」
ザッツロードが左手をなぎ払うと炎が放たれる ソルベキア兵たちが驚く ザッツロードが目を光らせて言う
「よしっ 今だっ!やぁあーーっ!」
ザッツロードが右手に持った剣で ソルベキア兵を攻撃する ソルベキア兵たちが慌てて応戦するがザッツロードが優位に戦う アシルが目を細めて言う
「へぇ… こいつが ローレシア第二王子の力か …フンッ やるじゃねぇか 確かに ガルバディア国王に選ばれるだけのモンなのかもな?」
ザッツロードが振り向いて言う
「アシル王子!」
アシルがザッツロードを見て微笑する ザッツロードが前へ向き直ると 剣や槍を持ったソルベキア兵がはっとして慌てて武器を構える ザッツロードが微笑し左手で印を切って言う
「炎よ 汝の力 今再び我が前に…」
剣や槍を持ったソルベキア兵たちが後ず去り一気に下がる ザッツロードが疑問して言う
「…あれ?」
下がったソルベキア兵たちの後方に銃を持ったソルベキア兵たちが構えている ザッツロードが驚き言う
「えっ!?ソルベキアに銃使いがっ!?」
ソルベキア銃使いたちが照準をザッツロードへ合わせる ザッツロードがはっとする その横をアシルが駆け抜ける ザッツロードが驚き慌てて言う
「アシル王子っ!」
アシルが言う
「銃使いを前に 止まるんじゃねぇ!」
ソルベキア銃使いたちへソルベキア団長が剣でアシルを示して叫ぶ
「発砲ー!」
ソルベキア銃使いたちが一斉に発砲する ザッツロードが慌てて叫ぶ
「アシル王子ーっ!」
アシルが目を凝らし 銃弾の嵐を避けながら言う
「ド素人が!そんなんじゃ 牛にすら 当たんねぇよ!」
ソルベキア銃使いたちが驚く アシルが両手にナイフを持ってソルベキア銃使いたちへ突っ込み両手両足の体術を持って攻撃を行う ソルベキア銃使いたちが次々に倒される ザッツロードが呆気に取られて言う
「す… すごい 銃弾の嵐の中なのに どうやって…?」
ソルベキア銃使いたちがアシルに倒される ザッツロードが呆気に取られている アシルが倒れているソルベキア銃使いたちを見下ろして言う
「ケ…ッ 折角銃を持てるってぇのに ろくな訓練もしてねぇから 照準が合わねぇんだ」
アシルが残りの剣と槍をもったソルベキア兵たちを見る ソルベキア兵たちがアシルとザッツロードを見る ザッツロードが微笑して言う
「よーし… 僕だってっ」
ザッツロードが左手で印を切る アシルがナイフを構える ソルベキア兵たちが一瞬武器を構えようとするが 瞬時に引く アシルが疑問すると ソルベキア団長がアシルへ剣を向けて叫ぶ
「発射ー!」
ソルベキア兵たちが引いた後方 ガトリングガンがアシルへ向けられている アシルが驚き言う
「なぁっ!?」
ガトリングガンが発砲される アシルが慌てて両手のナイフを自身の前でクロスさせて防御しようとする アシルへ向けられていた銃弾が数発アシルのコートを掠めた後 銃弾が全てアシルの目前で弾かれる アシルが疑問して片目づつ開いて前方を見て驚いて言う
「あぁ?何だこの… まるで光の盾!?」
アシルの目前に光の盾があり ガトリングガンの銃弾を弾いている アシルが目を瞬かせた後はっとして後方を振り返る ガトリングガンが弾切れをして止まる ソルベキア兵たちが慌てて弾倉を差し替える ザッツロードがアシルの横へ来て苦笑して言う
「…良かった 上手く行って」
アシルが感心して言う
「魔法攻撃に剣 それに加えて 光の盾とは チ…ッ ローレシアの王子様は 派手に決めてくれるじゃねぇかよ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「あ、いや… あの盾は 僕の仲間 ソイッドの魔術師が教えてくれた 光の魔術で …普段、彼女たちの様に 精霊様と仲良くしている訳ではない 僕ら魔法使いには 中々難しいんです …ですから」
アシルが疑問する ザッツロードがホッと苦笑して言う
「いっつも失敗してて 今回初めて成功したので 僕も驚いている所なんですよ!あはははっ」
アシルが衝撃を受け 慌てて怒る
「初めてだったのかよっ!?それじゃっ 今 俺を助けられたのは 偶然だってぇのかっ!?」
ガトリングガンの充填が完了する音がする アシルが振り向く ザッツロードがはっとして慌てて言う
「あっ!あわわっ!ひ、光の精霊よっ!」
ガトリングガンがアシルへ向く アシルが口角を上げて言う
「ハッ… だから言ってるだろ?」
ガトリングガンが発射される アシルが走り言う
「照準が甘ぇええんだよっ!」
皆が驚く中 アシルがあっという間にガトリングガンの操作をする兵の元までたどり着き 飛びつく様に攻撃して倒す ソルベキア兵たちが驚く アシルがソルベキア兵たちを見て笑むと ガトリングガンをソルベキア兵たちへ向けて言う
「スプローニの …本物の銃使いの力を 知りてぇか?」
ガトリングガンがソルベキア兵たちへ向く ソルベキア兵たちが慌てて逃げ出す 団長が慌てて言う
「た、退却ーっ!」
団長が退却しようと振り返る頃には他のソルベキア兵たちはもう居ない 団長が驚き一目散に逃げて行く アシルが苦笑して言う
「ヘッ!弱っちぃでやんの… あんなんで 一国が守れるのか?」
ザッツロードがやって来て言う
「アシル王子… 銃は撃てないのでは?」
アシルがザッツロードを見て言う
「…ふんっ おうよ だが撃とうとさえ思わなけりゃ 構えるぐれぇは出来る」
ザッツロードがアシルが持っているガトリングガンを見る アシルがガトリングガンの引き金へ手を向けようとする 途中でその手が動きを止めガタガタと痙攣する アシルが顔をしかめ もう片方の手で痙攣する手を掴み引き戻すと痙攣が止まる ザッツロードが見ていて呆気に取られている アシルが気を取り直して言う
「…行くぞ」
ザッツロードがはっとして慌てて言う
「あっ は、はいっ!」
アシルとザッツロードが走り去る
【 ローゼント城 近郊 】
ソルベキア軍 軍隊長が言う
「状況は?」
ソルベキア軍隊員が言う
「はっ!現在も ソルベキア城下町にて交戦中との事ですが 報告によると どうやら奴らの行動は 今作戦に対する ローゼント側の作戦との関係は無いとの見解であります」
軍隊長が考えながら言う
「…そうか」
伝達兵がやって来て敬礼してから言う
「ソルベキアから新たな情報ですっ ソルベキア第6警備部隊が 奴らに撃墜されたとの事です これで、現在ソルベキア国内に居ります 戦闘部隊に予備は無くなったとの事」
軍隊長が言う
「うん?予備部隊は第6警備部隊の他にも 第3警備部隊と特殊捕獲部隊も1部隊が残されて居るだろう?捕獲部隊へ襲撃用装備を持たせ 第3警備部隊と共に向かわせろ」
伝達兵が言う
「そちらの両部隊は 既に別件にて出動済みであります 第6警備部隊の撤退を受け 彼らも現行の作戦と同時進行にて 襲撃犯への応戦へ参加したいとの事 応戦の許可を与えて宜しいでしょうか?」
軍隊長が疑問して言う
「うん?…どう言う事だ?現在ソルベキアは 突如現れた 襲撃犯と 交戦しているのではないのか?…ええいっ構わん 応戦でも交戦でも良い!さっさと そちらを終結する様にと伝えろ!これ以上待ってられん!」
伝達兵が返事をして立ち去る
【 ソルベキア国 城下町 】
ザッツロードとアシルが走っている ザッツロードが2つ先の曲がり角を見て言う
「もう少しっ あの角まで行けばっ」
1つ目の曲がり角からロボット兵が現れ ザッツロードの目の前に止まる ザッツロードが驚いて立ち止まって言う
「そんなっ ロボット兵がっ!?」
ロボット兵の操縦士がザッツロードを確認し 続いて立ち止まったアシルを確認して言う
「…襲撃犯2名を確認 これより …迎撃する」
ロボット兵がザッツロードへ機関銃を向け発砲する ザッツロードが慌てて身を守る体勢で止まる
「うわぁっ!」
銃弾がザッツロードの側面を打ち抜く ロボット兵の操縦士が舌打ちをしてロボット兵を後退させる ザッツロードが呆気に取られて疑問する アシルが近くへ来て言う
「良い判断だ 銃撃に近過ぎる距離なら 下手に動くより 立ち止まってれば良い」
ザッツロードが苦笑して言う
「ぐ…偶然でしたが」」
アシルがロボット兵を見上げる ロボット兵の操縦士が機械操作をしながら言う
「二名の情報を確認 転送情報を考慮し 距離を置いての作戦を遂行する」
ロボット兵の操縦士の見ているモニターに情報が映し出されている アシルが表情を険しくして言う
「コイツは流石に相手が悪ぃ 何とか隙を突いて抜けるしか…」
ロボット兵が後退して距離を置いて銃を構える アシルが表情をしかめて言う
「…と 言ってる間に 距離を置いての作戦を選択しやがったか …まぁそうだろうな こっちの武器は 剣とナイフだってぇんだ」
ザッツロードが剣に手を当てて考えている アシルが悔しそうに言う
「その剣でもナイフでも あいつの装甲を斬る事はできねぇ こうなったら… しょうがねぇ どちらかが囮になって」
ザッツロードが頷いて言う
「アシル王子」
アシルが疑問して言う
「あぁ?」
ザッツロードが剣を抜いて言う
「短剣ではなく 剣を扱ったことは有りますか?…僕が この剣に魔力を送ります …ですから」
ザッツロードがアシルへ剣の塚を向けて言う
「アシル王子は 魔力を得たこの剣で 奴を倒して下さい!」
アシルが驚いて言う
「お、俺に魔法剣を使えって言うのか!?」
ザッツロードが苦笑して言う
「本来 魔力を持たない人が 魔法剣を扱うには 数週間から数ヶ月の訓練が必要になります しかし」
アシルが真剣な表情で言う
「それを必要としねぇ 何か、特別な方法が?」
ザッツロードが笑顔で言う
「アシル王子なら きっと出来る!僕… 何となく そんな気がするんです!」
アシルが怒って叫ぶ
「んだそりゃぁあ!?勝手な事言ってんじゃねぇええっ!!」
ロボット兵が構える アシルとザッツロードが一度そちらを見てから ザッツロードが気を引き締めアシルへ剣を放って言う
「時間が有りませんっ 行きます!」
アシルが放られた剣を慌てて受け取ると 既に魔法詠唱に入っているザッツロードを見てから剣を見て 自棄になってに言う
「なぁああ!クソッ!どうなっても知らねぇえぞっ!?」
アシルが剣を構える ロボット兵の操縦者がアシルとザッツロードの様子をモニターで見て言う
「やはり特殊剣を扱おうとしているっ 急がねばっ!」
モニターの照準が設定されているが 操縦士が待ちきれない様子で歯噛みして発砲ボタンを押す ロボット兵の機関銃からアシルへ向け発砲される アシルが焦って剣の刃で銃弾を数発防いだ後 怒り叫んで走り出す
「グ…ッ このデカ物がぁあ!」
アシルが剣を持ってロボット兵へ叫びながら駆け向かう
「うおぉおおおーっ!」
銃弾がアシルの体を掠める ロボット兵の操縦士が焦って言う
「ひぃっ な、何故っ 当たらないっ!?これが報告にあった奴らの力か!?く、来るっ!」
ザッツロードが詠唱を終えアシルへ向かって叫ぶ
「アシル王子!剣を掲げて下さい!」
アシルがロボット兵の前でジャンプして剣を掲げる ザッツロードがその剣へ魔法を放つ 炎の魔法がアシルの持つ剣へ纏る ロボット兵の操縦士が驚いて叫ぶ
「何にぃ!?炎だとっ!?じょ、情報と違うぞっ!」
魔法剣を得たアシルが歯を食いしばって剣を叩き下ろしながら叫ぶ
「食らえぇええーっ!」
魔法剣がロボット兵を切り裂く ロボット兵の操縦士が叫ぶ
「うわぁああっ!じょ、情報転送!機体を捨て 離脱するっ!」
ロボット兵の操縦士がボタンをいくつか押すと ロボット兵の頭部が後ろへ下がり 操縦士が緊急脱出で発射されそのまま飛んで行く アシルが着地してロボット兵を見上げて後方へ退避する ロボット兵がゆっくり倒れ爆発する ザッツロードが喜んで言う
「やったぁっ!」
アシルが一息吐いて剣を見る 視線の先 間を置いて剣にヒビが入り破裂する様に砕け散る アシルが呆気に取られる ザッツロードがやって来て言う
「通常の剣では 耐えられないんです… 魔法剣は 元から魔力の込められた剣か もしくは 刀身の広い 大剣でないと」
アシルが苦笑して柄を捨てて言う
「らしいな?…あんなんじゃ 剣も手も持たねぇぜ…」
アシルが自分の両手を見る 両手が火傷を負っている ザッツロードが衝撃を受け慌てて言う
「わあっ!ご、御免なさいっ 僕は普段 魔法剣を使用する側で 魔法を与える側には慣れていなくってっ… す、すぐ回復魔法を」
アシルが呆れて言う
「…お前の その場当たり対応は 元の性格か?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いえ… どちらかと言うと 夢の世界で鍛えられて… と言いますか それまでの僕は いつもただ 見ているだけで 何も出来なくて… アシル王子 手をっ」
アシルが苦笑した後言う
「フッ… いや、回復は後だ 次来られたら もう対処のし様がねぇ」
アシルが向かおうとする ザッツロードが心配して言う
「しかしっ 応急処置だけでもっ」
アシルが振り向いて言う
「捕まったら元も子もねぇだろ!?行くぞ」
アシルが走り出す ザッツロードが慌てて追って言う
「あ、待って下さいっ アシル王子っ」
2つ目の曲がり角が間近に見える 先頭を走るザッツロードが喜んで言う
「そこを曲がればっ!」
アシルがはっとして叫ぶ
「止まれ!へっぽこ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え?」
ザッツロードが立ち止まってアシルへ振り返ると ザッツロードの前に轟音と共にロボット兵が降り立つ ザッツロードが正面を向き驚いて言う
「…そんなっ また…」
アシルがザッツロードの後ろで立ち止まり 振り返って舌打ちをして言う
「チ…ッ 挟まれた」
アシルの視線の先に もう一体のロボット兵が轟音と共に降り立ち 捕獲用の両手をガシャガシャと音立てる アシルが目を細めて言う
「…いかにも捕らえますって感じだなぁ? …うん?なら 何でさっきのデカ物は?」
【 スプローニ城 近郊 】
ソルベキア軍隊長が歯痒んで言う
「くぅうう… 本国からの報告は まだかっ!?」
伝達兵が走って来て敬礼して言う
「報告です!」
ソルベキア軍隊長が叫ぶ
「遅いぞっ!結論だけ言え!」
伝達兵が言う
「はっ!敗北致しました!」
ソルベキア軍隊長が転びそうになって叫ぶ
「黙れぇえ!」
伝達兵が口ぱくだけで返事をする ソルベキア軍隊長が怒って言う
「ぐぅ… 他に報告はっ!?」
伝達兵が言う
「はっ!第6警備部隊の機体から 襲撃犯の全貌が送信され 情報の再確認を願いたいとの事です」
ソルベキア軍隊長が伝達兵からモニターを奪い取りながら言う
「何ぃ?見せろっ!情報の再確認とは何だ!?こっちはこっちでやっていると言うのに… ソルベキアの城下で暴れる襲撃犯を始末する お前らは そんな単純な命令も理解出来んのかっ!?」
伝達兵が言う
「はっ!軍隊長のそちらの単純命令により あちらの部隊は混乱しているとの事 隊長の示した2人の襲撃犯は この者たちで間違いないでしょうか?」
ソルベキア軍隊長がモニターを見て衝撃を受け言う
「目標の確認だと!?今更何を言っている!?そちらに間違えなどっ…ぬっ!?だ、誰だ!?こいつらはっ!?」
伝達兵が言う
「はっ!その者たちは 1人はローレシアの第二王子であり 我らソルベキアの補佐官でも有る ザッツロード7世 もう1人は スプローニ国元王子 アシル 我らが追求していた 別大陸の力に関する 重要参考人であります よって…」
ソルベキア軍隊長が呆気に取られたまま伝達兵を見る 伝達兵が無表情に言う
「この2名を刺殺 もしくは 口の利けぬほどの重症を与えた者は 誰であろうと 処刑するとの ガライナ国王からの指令であります」
ソルベキア軍隊長が衝撃を受け慌てて叫ぶ
「のわぁああっ!?ガ、ガライナ陛下からの指令がっ!?ば、馬鹿者っ!何故それを先に言わぬ!?直ちに この2人への攻撃を中止!攻撃ではなく 捕獲しろと伝えろ!」
伝達兵が言う
「はっ!既に捕獲部隊が 2名を包囲したとの報告です」
ソルベキア軍隊長が怒って叫ぶ
「馬鹿者ーっ!それを一番最初に言わぬかっ!」
ソルベキア軍隊長がホッと一息吐いて言う
「ふぅ… 何にしても これで助かったな 重要人物2名を捕獲したとなれば ローゼントの襲撃と共に 俺の評価がいっきに急上昇 …よし!もうこれ以上の待機は不要だ!全軍戦闘準備!進軍する!」
伝達兵が言う
「…しかし、第6警備部隊の最後の一体が 今も…」
ソルベキア軍隊長が剣を向けて叫ぶ
「ソルベキア軍!進軍ー!」
ソルベキア軍隊長を乗せた車両を始め全軍が動き去る 伝達兵が後に残り微笑する
【 ソルベキア国 城下町 】
ザッツロードが表情を困らせ アシルと背を合わせ 2体の捕獲ロボと向き合って居る ザッツロードが言う
「今度は2体… 剣もなくなってしまったし 短剣では… 魔力を灯す事は難しい …アシル王子は手を怪我してしまっているし」
アシルが2体の捕獲ロボを観察して言う
「…おい」
ザッツロードが意を決して言う
「アシル王子 僕が 囮になります ですから」
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XD
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誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
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