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【 外伝 】旧世界の勇者と新世界の勇者ザッツロード6世

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【 ガルバディア城 城門前 】

猛吹雪の中 リジューネが宝玉を握り結界を張りつつローレシア第一部隊と共に険しい表情で城門を見上げる メテーリが密かに喜んで言う
「な~んだ!会いたくなければ 城門を開けなければ良いだけじゃない!?心配して損しちゃったっ」
メテーリがヴァッガス、ロドウと笑顔を見合わせる ガイが真剣な面持ちで言う
「…いや、そうはならない 私の考えは甘かった リジューネ陛下はここまでを考え 第一部隊員を連れ立ったのだ」
メテーリ、ヴァッガス、ロドウが疑問して メテーリが思わず言う
「え?」
第一部隊長がリジューネの横に跪いて言う
「陛下っ!付近の吹雪は増すばかり これ以上の停滞は 隊員らの生命に影響致します!どうかっ!」
リジューネが第一部隊長を横目に顔を顰め 片手を門に着いて言う
「ガルバディア城が ローレシアの王を拒んでいる… これがシリウス様が仰られたと言う ガルバディアの封印か だが…」
リジューネが城門を見上げて叫ぶ
「我が名はっ!ローレシア帝国皇帝 リジューネ!ガルバディアに在し 我らローレシアの別部隊 多国籍部隊隊長らへ力を貸し与えたと言う シリウスBを名乗る者よ!私はローレシアの王として お前を確認する義務がある!今すぐこの門を開き 我らを受け入れよ!」
皆が城門を見上げる 城門に変化は無い リジューネが怒りを抑えて言う
「お前がこの門を開けられる事は 多国籍部隊の彼らから聞き及んでいる!お前の行いが 真にこの世界を思ってのものなら!我らから隠れる必要は無い!この私の前で お前の言動に偽りの無き事を 証明致せ!」
第一部隊員らが苦しそうに城門を見上げる 城門に変化は無い 皆がリジューネへ向く リジューネが言う
「私は!力を持つお前の正体を確認するまで ここを動くつもりは無い!私がローレシアへ戻らなければ 残された者たち全ての力を持って このガルバディアを襲撃するだろう!我らは!例え死しても 巨大な力を持つお前を 新世界へ向かわせる訳には行かぬのだ!」
第一部隊員らがどよめき顔を見合わせる リジューネが目を伏せる 皆がリジューネを見る 一時の間の後 リジューネの脳裏にシリウスBの声が響く
『お前がその命を掛け 守るべき民を道連れにしてまで 私の正体を確認しようとは… シリウスAが ローレシア王へ 何の疑いも抱かなかった事が 今なら頷ける』
リジューネが驚いて目を開き周囲を確認する 周りの者たちがリジューネの行動に疑問する リジューネが門を見据えて言う
「お前がシリウスBか?何処に居る!?姿を見せよ!」

玉座の間

シリウスBが目を開き ホログラムのモニターに映る門前の様子を見て僅かに苦笑する

城門前

リジューネが城門を見据えている 脳裏にシリウスBの声が響く
『良いだろう お前の連れる兵たちの体温も限界に近付いている これ以上 お前の我が侭で 吹雪の中に立たせる事は 見るに苦しい』
リジューネがムッとして言う
「我が侭だとっ!?」
第一部隊長が言い辛そうにリジューネの顔を覗き込んで言う
「へ…陛下?如何致しましたか?」
リジューネが驚いて振り返って言う
「何を言う!?シリウスBを名乗る者が!シリウス様から この世界を任された 私の任務を 愚弄しているではないか!?」
第一部隊長と周囲の隊員らが驚き顔を見合わせた後 第一部隊長がリジューネへ向いて言う
「い、いえ… 我らには 何も… リジューネ陛下のお言葉と吹雪の音の他 聞こえるものはありません」
リジューネが驚いて言う
「何!?ハッキリと 耳元… いや、頭の中に響く様に」
メテーリが仲間たちに身を寄せて言う
「ねぇ…もしかして」
ロドウが笑顔で言う
「うん、きっと シリウス様だね」
シリウスBの声がリジューネの脳裏に響く
『お前たちを城内へ招き入れ話をしてやろう …ただし、お前の連れて来た兵たちの記憶は 後に消去する 彼らは お前の招集に集まってからの記憶を 全て忘れるだろう』
リジューネが驚いて言う
「彼らの記憶を!?その様な事が…っ!?」
シリウスBが苦笑して言う
『その程度の事は造作も無い 私は お前たちが神と崇めるシリウスAと 同等の力を持つ片割れ お前が会いに来た このガルバディアの王なのだからな?』
リジューネが呆気に取られるのと同時に 目の前の城門が数字の羅列に覆われ 皆が驚く中消える リジューネが僅かに怯んだ後気を取り直して言う
「進軍!」
リジューネが歩き出す 第一部隊長がハッとして慌てて言う
「は…はっ!総員リジューネ陛下に続け!」
隊員らが慌てて歩き出す ガイたちが顔を見合わせた後頷き合って第一部隊に続く

リジューネを先頭に 皆が城内エントランスに辿り着く 皆が立ち止まり周囲を見て リジューネが先に続く扉へ目を向けてガイへ言う
「ガイ隊長 かの者はあの先か?」
ガイが一度リジューネを見た後 視線を同じくして言う
「は… 恐らくそうであるかと」
リジューネが気付き不満そうな表情でガイへ振り返って言う
「恐らくとは、どう言う意味だ?貴殿らは シリウスBと幾度も対面したのであろう?」
ガイがリジューネへ向いて言う
「はい、対面し会話を行いました しかし、我らがガルバディア城へ招かれる際は いつも城門からの通路の先が 玉座の間へと繋がっており それ以前の部屋へ送られる事は無かったもので」
メテーリが会話に入って来て言う
「シリウス様が いつも私たちの行くべき場所へ 道を繋いでくれるのよ」
ヴァッガスがメテーリに言う
「まぁ 逆に言っちまえば 別の所には行けねぇーって事だよな?」
リジューネが不満そうに腕組みをして言う
「全てを操作しようとでも言うつもりか?」
ガイが苦笑して言う
「行くべき場所へ 導いて下されているだけです そうでなければ 恐らく玉座の間へと続くあの扉は 閉じられている筈です」
メテーリが小首を傾げて言う
「シリウス様がここまで来てくれるのかな?」
ヴァッガスが苦笑して言う
「ハッ まさか 邪魔な兵士は ここで待機させろって事だろ?何処の世界に 武装した一個部隊と他国の王を そのまま玉座の間に通す奴が居るんだよ?」
ロドウが軽く笑って言う
「でも、シリウス様なら 連れて入っても心配はないだろうけどね?」
ヴァッガスが呆れて言う
「あぁ… あの機械兵を止めちまう位ぇなんだから どうって事ねぇか?」
ガイが苦笑して改めてリジューネへ向いて言う
「リジューネ陛下、兵たちはここで休ませ 我らと共にシリウス様の元へ参りましょう」
リジューネがガイを見た後兵たちを振り返る 兵たちがホールの暖かさに安堵の表情を浮かべ 悴んだ手や体を擦っている リジューネがガイへ向き直って言う
「そうだな、では… ライハス隊長!サリア副隊長!」
ガイたちが驚く 第一部隊長と副隊長がハッと顔を上げ 急いでリジューネの元へ来て跪いて返事をする
「「はっ!」」
リジューネが言う
「隊員らはここへ留まらせ 我らは玉座の間へ向かう 同行せよ」
第一部隊長と副隊長が再び返事をする
「「はっ!」」
ガイたちが驚いてリジューネへ向き ガイが言うのを制してリジューネが言う
「奴の味方と分かっているお前たちでは 私の護衛は勤まらん 彼らを同行させる」
リジューネがガイの答えを聞くよりも早く玉座の間へ向けて歩き出す ガイが一瞬止めに掛かるがリジューネたちが先行して行く ヴァッガスがガイの横へ来て言う
「後はシリウス様に任せようぜ?俺らが言ったって あの頑固女は聞かねぇーって」
リジューネが遥か先で咳払いをする ヴァッガスが衝撃を受ける ガイが苦笑して言う
「そうだな、後はシリウス様にお任せし 我らは…謝罪の言葉でも考えておくか」
ガイがリジューネへ続く メテーリがヴァッガスの横に来て言う
「ガイはシリウス様への謝罪の言葉を考えるんだろけど ヴァッガスはリジューネ陛下への言い訳を考えなきゃね~?」
メテーリがくすくす笑ってガイに続く ヴァッガスが怒って言う
「うっうるせぇえよ!」
ヴァッガスが表情を困らせる ロドウが笑顔で通り過ぎ ヴァッガスが怒って続く

玉座の間

リジューネが歩いて来て シリウスBの姿を確認すると共に驚いて立ち止り悲鳴を言い掛ける
「ひ…っ!?」
シリウスBが言う
「ローレシア帝国の女帝 リジューネ・デネシア 歓迎はしない 私が闇の王であると聞かされながら よくも多くの兵を連れて来てくれたものだ」
リジューネが表情を顰めて言う
「あ、あれが… シリウス様の片割れ だと!?」
シリウスBが僅かに首を傾げて言う
「私への当て付けであったにしては多すぎる それでも彼らの命を危険に晒してまで連れて来た …リジューネ・デネシア お前は何に怯えている?」
リジューネがシリウスBへ向いたまま言う
「ガイ隊長 確認する あの者が 貴殿らへ力を与えたと言う」
ガイがリジューネへ向いて言う
「はい、あちらの方が 我らにお力添えを下された 我らの神シリウス様の片割れであられる シリウスB様です」
リジューネがシリウスBへ向き直って視線を強める シリウスBが少ないプログラムを表示させていたのを消しリジューネへ向く リジューネが一瞬間を置いた後笑い出す
「ふ… はは… ははは… あっははははははっ!」
ガイたちが驚いて疑問する リジューネの後方に控える第一部隊長と副隊長が一瞬驚いた後顔を見合わせる シリウスBが不満そうに僅かに疑問してリジューネを見る リジューネが笑いを収め 笑んで言う
「何に怯えているかだと?教えてやろう 私が何を警戒し ローレシア最強の第一部隊を 従えてやって来たのかを!…それはっ!」
リジューネが剣を引き抜きシリウスBへ向けて叫ぶ
「この世界の敵!シリウス様の敵である 貴様だ!異世界の破壊神 ソル!」
シリウスBが驚いて言う
「何っ!?何故 お前が その名を…っ!?」
リジューネが微笑して言う
「驚いたか?ふふっ 無理も無い まさか この私に正体を暴かれてしまうとは 思いもしなかったであろうな?」
メテーリが呆気に取られて言う
「え…?何?一体どう言う事!?」
リジューネが笑んで言う
「彼らを騙し、この世界を救う神にでも 化けるつもりであったのか?それとも この世界を我が物とする事で 我らの神シリウス様を 脅迫するつもりであったのか?何にしろ 貴様の目論見は たった今潰えたのだ 残念だったな?」
シリウスBが一度目を伏せ息を吐いてから改めて言う
「お前がその名を知っていた事には驚いた ローレシアのどの記述を確認しても 破壊神ソルの名は存在しない お前はその名をどうやって知りえた?」
リジューネが笑んで言う
「我らの思惑通りか …破壊神ソルは 我らの神シリウス様の敵と言われるほどの者 ならば その能力も シリウス様に匹敵するほどである筈 従って 我らローレシア王家の王位継承者は 前王から次の王へと 一度のみの口頭で 語り継いで来たのだ 如何に我らの神シリウス様であられても 世界中の人々の言葉を確認する事は不可能であると言う シリウス様ご本人からの助言を受けてな」
シリウスBが軽く舌打ちをして言う
「…チッ シリウス 何処まで己の民を信頼していたのだ 馬鹿者が」
リジューネがムッとして怒って言う
「我らの神シリウス様を侮辱するな!」
シリウスBが一瞬呆れた後 気を取り直して言う
「破壊神ソルは 確かに シリウスの敵と言っても過言ではない そして、かの者は この世界と新世界、両世界の敵だ お前の話は粗方正しい しかし、重大な間違えがある 私はその 破壊神ソルでは無い」
リジューネが剣を振るい怒って言う
「その様な言葉だけで 逃れられると思ってか!?」
シリウスBが言う
「ソルは シリウスを超える力を持つと言われている 故に、お前たちが神と崇めるシリウスは ソルベキアの民や ローレシアの民へ力を与え 共に戦おうとしたのだ …それほどの力を持つ かの者が わざわざお前たちの味方を真似る事など すると思うのか?奴がこの世界に現れたのなら さっさとこのガルバディアを破壊し 繋がりを持つ新世界へ 攻撃を仕掛けるだろう」
リジューネがシリウスBの言葉に押され一瞬悩んだ後 気を取り直して言う
「黙れ!惑わそうとしても無駄だ!」
シリウスBが言う
「聞く耳を持たないと言うのか?」
リジューネが剣を向け苦笑して言う
「貴様がシリウス様の名を騙っていなければ 私もその言動に惑わされていただろう しかし、貴様の予てからの嘘が 私に気付かせてくれたのだ」
シリウスBが言う
「何?」
リジューネが言う
「我らローレシア王家が語り継いで来たのは 破壊神ソルの名だけではない!その姿をも 語り継いで来たのだ!」
シリウスBが疑問に表情を歪めて言う
「姿だと?…馬鹿な ソルは貴様らが生まれるより以前から 姿をくらまし 1000年を超える今となっても その姿は確認されていない!」
リジューネが笑んで言う
「では 教えてやる!破壊神ソルの姿 それは ”人の肌色を持たぬ 青白い体に光りを纏い 色を持たぬ髪が 緋色の瞳を隠す” 当に貴様の姿 そのものだ!」
シリウスBが呆気に取られて言う
「な…っ?」
リジューネが剣を構えて言う
「これで言い逃れは出来まい!破壊神ソル!我らの神 シリウス様に替わり この私が ソルベキアの力とローレシアの力 そして アバロンの力を持って 貴様を討ち取ってくれる!」
リジューネの剣に着けられた機械がうなりを上げ リジューネが言い終えると共に声を上げてシリウスBへ向かう
「やぁああーっ!!」
リジューネの剣にソルベキアのプログラムとローレシアの魔法が纏わる シリウスBが舌打ちをしてバリアプログラムを発生させる 皆が呆気に取られて見つめる シリウスBがリジューネを見据えた後 一つ息を吐いて言う
「一体何の間違えで その様な紛い事が言い伝えられてしまったのか… 何にしても いい迷惑だ」
シリウスBが目を開き 僅かに体が光ると バリアプログラムが変化して リジューネを弾き飛ばす リジューネが何とか身を翻し 床に片手を着けたまま後方へ飛ばされて言う
「クッ…!」
第一部隊長と副隊長が慌てて言う
「「リジューネ陛下っ!」」
リジューネが体勢を立て直して剣を構える ガイたちが困惑してメテーリとロドウ、ヴァッガスが問う様にガイを見上げる ガイが困った様子で皆の視線を受け取った後シリウスBへ向く シリウスBが言う
「私がソルであったなら尚更… お前程度の力では 私を倒す事など不可能だ お前に出来る事は何も無い 新世界の助けが来るまで ローレシアにて留まっているが良い」
リジューネが視線を強めて言う
「我らが新世界へ誘われる その時を狙っているのか!?」
シリウスBが目を閉じて言う
「しつこい奴だ… 私が何であれ お前が対処できる相手ではない事が 今ので十分に理解出来た筈だ 再び向かって来ようとも その装置の出力は 先ほどの70%にも満たない 元よりお前の力では 私へ傷を付ける事すら 不可能なのだ」
リジューネが怒って叫ぶ
「黙れ 化け物!」
シリウスBが驚いて言う
「ば… ばけもの…だと?」
リジューネが剣を振り周囲の者たちを見て言う
「何をしている!?お前たち!破壊神ソルが この世界を奪えば 我らが新世界へ向かう事も許されぬのだ!それだけではない!我らがこの者を倒さねば!ローレシアに居る民たちも!いずれは あの化け物に 滅ぼされてしまうのだぞ!」
シリウスBが怒りを押し殺して言う
「私が…化け物…?この数百年 シリウスに代わり 悪魔力を振り撒いた愚かなお前たちを守り続けた私を… このシリウスBを化け物と呼ぶのか!?」
リジューネが剣を向けて言う
「黙れ これ以上シリウス様の名を騙るな!何を言っても無駄だ!我らをお守り下されたのは 我らの神シリウス様を置いて他には無い!我らの神の名を騙り 神聖なるガルバディア城に踏み入るだけでなく 有ろう事かシリウス様の玉座へ身を置くとは!今すぐその座から離れよ!」
シリウスBが怒りに瞳の色を増して言う
「このガルバディアの王である私に 玉座を離れろとは…っ!?おのれ 許せんっ!」
シリウスBが周囲に攻撃プログラムを発生させ シリウスBの体が光を帯びる 皆が圧倒的な迫力に驚き身動きできなくなる メテーリが怯えて言う
「な、何っ!?何!?どうなっちゃうのよ~っ!?」
リジューネが恐ろしさに怯えかける体を叱咤して 必死に剣を構え言う
「私はっ ローレシアの王だっ 我らには シリウス様のお力があるのだ…っ」
リジューネが僅かに前に出る メテーリが怯えてヴァッガスに縋り付く ヴァッガスが驚きハッとして言う
「お、おおお落ち着けよメテーリ!シリウス様は俺らと一緒に戦った仲間だぜ!俺らに攻撃する訳ねーだろ!?」
ガイが焦って言う
「ああ、そうだっ あのシリウス様が 仲間である我らを攻撃する筈が無い しかしっ このままでは リジューネ陛下が」
シリウスBがハッとして言う
「…仲間?」
シリウスBがガイたちを見る ガイたちが困った様子で顔を見合わせている リジューネがきつく目を瞑って剣を握り締める シリウスBが数回瞬きをして落ち着きを取り戻し怒りを納める 周囲のプログラムやシリウスBの身の変化が収まり 怯えていた第一部隊隊長と副隊長が呆気に取られる シリウスBが言う
「…たかが愚民の言葉に 平静を乱されるとは 私も愚かであった」
ガイたちが呆気に取られた後 顔を見合わせホッとする リジューネが剣を向けて言う
「ぐ、愚民!?私は貴様の民などではない!私は!」
シリウスBが苦笑して言う
「シリウスAの民であるとでも?…フッ ならばシリウスAの治める 新世界へ向かうその日まで 大人しくしていろ」
リジューネが意を決して襲い掛かる
「うるさい!貴様の言葉になど従ってなるものか!破壊新ソルっ!覚悟ー!」
シリウスBが僅かに目を細めて言う
「これ以上お前に付き合うつもりはない」
シリウスBがプログラムを発生させ 数字の羅列がリジューネの身を覆う シリウスBが言う
「今更引けぬのなら 私が直接ローレシアへ送り返してやる クック… 精々 貴様が化け物と罵る この私に感謝するのだな」
シリウスBが微笑する リジューネが怒って言う
「黙れ 化け物ーっ!」
リジューネが再び剣を振りかざすと共に シリウスBを除く全ての者が 数字の羅列に覆われ消える シリウスBが苦笑して言う
「フッ… 無力な」
シリウスBが目を閉じると 頬に僅かな切り傷が走り血が出る シリウスBが僅かに驚き視線を向けて言う
「…奴の攻撃が 私に傷を?」
シリウスBが視線を前に置いて言う
「力を与えてもいない新人類の攻撃が 私に傷を負わせるとは… 一人ではこの程度の力でも 多くが集まれば いずれは 我らを超える存在にも 成り得るのか…?」
シリウスBが目を細めて言う
「…シリウス お前の計算は 正しいのかもしれないな」
シリウスBが目を閉じる シリウスBの血が光を放ち 傷が消える

【 ローレシア帝国 城下町 】

フォーリエルが団子を食べて言う
「お?この団子 ちょっとコゲてっけど 美味いな!なんっつーか このコゲ具合が 醤油の味を 引き立たせてるってーか~?」
テスクローネがうなずいて言う
「うん、タレの熟成度の低さが 上手く補われている」
フォーリエルが気付いて言う
「あれ?けど… 美味いのに沢山食いてーってならないな?テスの団子だと もっと食欲をそそられるんだけど…」
フォーリエルが首を傾げつつお茶を飲む テスクローネが苦笑して言う
「それはきっと 味が濃すぎるせいだろう 熟成度を高める事には成功しているけど 焦げ目が多い分せっかくの隠し味である はちみつの甘みが消えてしまってる 塩分も少し多めかな… これでは喉が渇いてしまうし 味を濃さで満足させてしまっては 数を食べさせることは出来ない」
フォーリエルがお茶を飲み終え軽く笑んで言う
「この辺りで店を出せば ここの客は テスの店の常連になるんじゃねーか?」
テスクローネが軽く笑って言う
「ふふっ どうかな?この辺りは店が敷き詰まっているから 新たに店を構えるには場所の確保が難しい それに新参者は謙虚に始めないと」
フォーリエルが悪戯に笑んで言う
「でもって 気付いた時には みーんなテスの店に行くようになっちまうんだろ?その頃には テスに客を取られた団子屋が皆潰れて 一等地が空き店舗になるって?」
テスクローネが笑って言う
「はははっ 店を経営する事は そんなに簡単ではないと思うけど そうだな そんな事を夢見て頑張るのも 面白いのかな?」
フォーリエルが喜んで言う
「おうっ!剣士も団子屋も一緒だぜ!戦う相手が居た方が 強くなれるってな!」
テスクローネが一瞬呆気に取られた後笑い出す フォーリエルがつられて笑う フォーリエルが気付いて言う
「…はははっ!ああ、それで?」
テスクローネが疑問して言う
「うん?」
フォーリエルが覗き込んで言う
「結界の制御プログラムをやった 今回の報酬で その団子屋を始めるんだろ?女帝様は いくら払ってくれるって?」
テスクローネが苦笑して言う
「うん、結界の制御プログラムの他に 解析が出来なくなっていた 古いガルバディアの外部保存装置の解析も行って 更に 急遽増加したエネルギー分配のシステムプログラムも行ったんだ 当初の契約に上乗せ400って言ってたから 合計で600かな?」
フォーリエルが一瞬驚いた後 感心して言う
「600ゴールドかよ!すげーな!」
テスクローネが笑顔で言う
「ああ、団子屋を始めるには十分だ それから フォーリエルにも山分けするよ」
フォーリエルが驚いて言う
「は?お、俺に!?」
テスクローネが微笑んで言う
「もちろん プログラムを行ったのは私だけど その私を助けて 支えてくれたのは フォーリエルの他居ないだろ?」
フォーリエルがテスクローネの視線にハッとして頬を赤らめ 顔を逸らして慌てて言う
「あ、あああ ああ!そ、そーだな!そう言えばっ そうだな!俺はー… 何度お前の自殺を止めたか 分かんねーや!」
テスクローネが軽く笑って言う
「うん、それに それだけじゃない 私にも 私の好きな事があって それを夢として 追い求めると言う事を教えてくれた 特殊な力を持つ道具ではなく 人として生きる事を 君は私に教えてくれたんだ」
フォーリエルが焦って言う
「い、いやあ お、大げさだぜ!俺はその… た、ただ… あ、ああ!そうだ!俺はただ!お前が作ってくれた団子が好きで もっと食いたいって思ったからよ!」
テスクローネが笑う フォーリエルが恥ずかしさに困って怒った様に言う
「だ、だから!もう 死のうとなんかするなよな!お前が死んじまったら お前の作る団子が食えねーじゃんかよ!」
テスクローネが微笑んで頷いて言う
「うん、もう命を粗末にはしない フォーリエルが世界一の剣士になるのも見届けないとな もちろん団子も提供させてもらうよ」
フォーリエルが腕組みをして頷いて言う
「うん!それなら良い 俺が世界一の剣士になるまでは 絶対、何が何でも生きようと自分でも頑張る事!俺が世界一の剣士になったら 俺が守ってやるから安心すれば良いぜ」
テスクローネが微笑して言う
「まるでフォーリエルがアバロンの大剣使いで 私がガルバディアのベネテクトみたいだな ベネテクトは相棒の大剣使いが必ず守るから 戦場でも完全無防備でプログラムに専念出来たって言うし」
フォーリエルが疑問して言う
「あれ?俺が聞いた話では アバロンの大剣使いは 相棒のベネテクトが常にプログラムで守ってくれるから 防御を一切考えずに攻撃だけに専念出来たって話だったぜ?」
テスクローネとフォーリエルが疑問して顔を見合わせる 一瞬間を置いた後 2人で笑い出し テスクローネが困って言う
「どちらも相棒に防御を委託していては やられてしまうな」
フォーリエルが苦笑して言う
「ああ、それに 俺らどっちも アバロンの大剣使いでも ガルバディアのベネテクトでもねー エド国の武器屋の息子と 同じく 問屋の息子だぜ?」
テスクローネが一瞬驚き視線を落とすが何事も無かった様に微笑して言う
「ああ、そうだな」

【 ローレシア城 玉座前エントランス 】

第一部隊員らが疑問して顔を見合わせ 口々に言う
「…あれ?俺たち何で集合してたんだっけ?」
「確か…重要任務で急遽 武装召集が掛かったんだよな?」
「リジューネ陛下の召集命令だったんじゃなかったか?」
「ああ!そうか!陛下の召集命令なら 重要任務だな!」
隊員らが納得して頷き合った後 首を傾げて言う
「…それで?その重要任務って 何だったっけ?」
隊員らが一瞬考えた後 皆の後頭部に焦りの汗が落ちる

玉座の間

副隊長が隊員らの様子を見て戻り言う
「かの者が言っていた通り 隊員らは任務内容を忘れている様子です」
第一部隊長が言う
「それはつまり 我らがガルバディアへ向かった事も 忘れていると言う事か…」

玉座前エントランス

隊員らが自分らの鎧に付いた雪に疑問する 僅かに残っていた雪が溶けて消える それが雪であった事に気付けないまま首を傾げる

玉座の間

リジューネが視線を強めて言う
「多くの隊員らの記憶を操作し 我らを遠く離れたガルバディアから一瞬にしてこのローレシアへ… 移動魔法陣を使用しないだけでなく これほど多くの者を移動させる事など 最上級魔力者をいくら集めても行えぬ …そして奴は 私の剣を …シリウス様がお力を与えた 3大国家の力を易々と弾き返した」
第一部隊長がリジューネへ向いて言う
「多国籍部隊のガイ隊長の話からすれば かの者は 大量の機械兵を相手にする事も可能であると」
副隊長が言う
「更に、ローンルーズの精密機械兵ファクトリーを 一瞬にして破壊する力も有しています」
リジューネが言う
「やはり我等だけでは対抗し兼ねるか… すぐに新世界へ!新世界ローレシアの王 イシュラーン殿へ通信を繋ぐ様伝えよ!」
副隊長が返事をして走り去る リジューネが第一部隊長と共に玉座の間を出て行く ガイたちが見送り メテーリが言う
「ね、ねぇ!?どうする!?」
ヴァッガスが気楽そうに困って言う
「どうするって言われてもなぁ?」
メテーリがヴァッガスへ怒って言う
「ヴァッガスになんか聞いてない!」
ヴァッガスが衝撃を受けメテーリへ怒って言う
「なぁ!?さっきはビビッて 俺に抱き付いて来たくせに!」
メテーリが衝撃を受け慌てて言う
「あっ!あああっ あれはっ!た、たまたまよ!たまたま!」
ヴァッガスが衝撃を受けて言う
「なっ!?たまたまかよ!?」
ロドウがガイへ向いて言う
「とりあえず 僕たちも行こうか?ガイ」
ガイがロドウへ向き頷いて言う
「ああ、我らは 我らの判断で行動しよう」
ガイとロドウがリジューネの後を追う ヴァッガスとメテーリが顔を見合わせハッとして顔を逸らした後 メテーリが言いながら追いかける
「あー 待って ガイ!ロドウ!2人とも 私を置いて行かないでったらー」
ヴァッガスが衝撃を受け 慌てて追い掛けて言う
「あ!メテーリ そら どー言う意味だ!?」

機械室

ソルベキアの民が機械の操作を行っている リジューネがベハイムから話を聞き終えて言う
「通信は行えないだと!?」
ベハイムが言う
「はい、こちらから 新世界のローレシアへ通信を送る際は 受信時の倍以上のエネルギーを必要とします」
リジューネが言う
「エネルギーは十分に確保されているだろう?構わぬ 緊急事態なのだ 直ぐに新世界へ通信を送れ!」
ベハイムが言う
「エネルギーは確保されているのですが その出力は絞られているのです それを解除しなければ 現状では送信エネルギーが足りません」
リジューネが不満そうに怒って言う
「では 出力の絞りを解除すれば良かろう!?何を躊躇しているのだ!?」
ベハイムが言う
「我らソルベキアの研究者に躊躇いはありません 結界制御プログラムと共に依頼された テスクローネ殿のエネルギー出力制御プログラムを ソルベキアのプログラムへ変更する リジューネ陛下からのその御許可さえ頂ければ 直ぐにでも 通信作業を行えます」
リジューネが驚いて言う
「な…っ そ、そうか」
リジューネが視線を下げる ベハイムが笑んで言う
「プログラムの 変更許可を頂いた… と言う事で宜しいですか?」
リジューネが言う
「エネルギー出力の装置は ローレシアに残されていたガルバディアのシステムを利用している 従って そのプログラムをソルベキアのものへ変更する事は 許可出来ない」
ベハイムが苦笑して言う
「陛下、例えガルバディアのシステムであっても それはもう ガルバディアの民が滅亡した はるか昔の遺産です 彼らの亡き後 我らソルベキアはずっと技術進歩に励んで参りました 従って、今の我らの技術は ガルバディアに次ぐものとなっております リジューネ陛下としては 過去のソルベキアの不手際をご心配されての事と思われますが どうか今の我らを信頼し ソルベキアのプログラムへ変更のご許可を…」
リジューネが苦笑して言う
「私はソルベキアの技術を信用していない訳ではないのだ ただ、我らローレシアは ガルバディアの親友であった そのガルバディアの民が居ない今 残されたガルバディアの物やプログラムを 私は出来うる限り後世へ残したいと思っている それだけなのだ」
ベハイムが一瞬驚き苦笑して言う
「しかし、リジューネ陛下 我らは近い内に 新世界へ移ります 後に このローレシアに残る者は居りません」
リジューネが表情を困らせて言う
「う、うむ… そうだな」
ベハイムが微笑して言う
「でしたら」
リジューネが一度ベハイムから視線を離し下げた後 改めて言う
「いや、テスクローネを呼べ!」
第一部隊長と副隊長がハッとして顔を見合わせる リジューネがベハイムへ向いて言う
「テスクローネはどこへ行った?エネルギー出力に手を拱いていたのなら 彼へ声を掛けたのだろう?」
ベハイムが言う
「そうしたかったのですが テスクローネ殿は現在 専用のシステムルームにも 与えられたお部屋にも いらっしゃらないご様子で」
リジューネが言う
「どこにも居なかったのか?」
ベハイムが言う
「念の為、食堂へも確認へ行ったのですが そちらにもいらっしゃいませんでした」
リジューネが言う
「城からは出るなと言っておいたのに…」
ベハイムが首を傾げて言う
「確か、以前 テスクローネ殿は お供の方とご一緒に 城下へお散歩に向かっていたとの 噂を耳にしましたが」
リジューネが言う
「直ぐに城下へ行き テスクローネを探してまいれ!」
第一部隊長と副隊長が返事をして立ち去る
「「はっ!」」
リジューネが第一部隊長と副隊長を見送った後 ガイたちを見る ガイたちがハッとして慌てて機械室から出て行く ベハイムがリジューネの後方で僅かに目を細める

【 ローレシア帝国 城下町 】

ガイたちが歩きながらメテーリがガイへ問う
「ねぇ?私たちもテスクローネって人を探す訳?」
ロドウが言う
「リジューネ陛下は その人に機械を操作してもらわないと 新世界への連絡が取れないみたいだったもんね?」
ヴァッガスが頭の後ろに手を組んで言う
「どっちかっつーと 女帝様の我が侭って感じだったけどなー?」
ガイが言う
「我々は多国籍部隊ではあるが 実質 このローレシアの部隊と言う事になる リジューネ陛下の命令には 従う義務があるのだ」
メテーリが拗ね気味に言う
「知らなかったぁー」
ロドウがメテーリへ向き苦笑して言う
「メテーリは多国籍部隊の隊員だけど 元々ローレシアの民だよね?なのに どうしてリジューネ陛下の事を 悪く思うの?」
メテーリが少し困って言う
「別に悪く思ってる訳じゃないけど…」
ガイが向いて言う
「実は、私もその事に関し 少し気になっていた メテーリは母君はもちろん ずっと過去の世代から ローレシアの部隊ではなく この多国籍部隊に属している それは、何らかの理由があるのだろうか?」
皆の視線がメテーリに向く メテーリが衝撃を受け焦って言う
「え!?えっとぉ… そう 言われても 私もよくは知らないけど ずっとそうだったから 私もそうしてるってだけだけど?」
ヴァッガスが呆れる ガイとロドウが苦笑する メテーリが衝撃を受け怒って言う
「し、知らないものは 知らないのよ!何か悪いっての!?」
メテーリがガイとロドウに凄む 2人が苦笑し ガイが言う
「いや、悪くは無い 気分を害したのなら すまなかった」
ヴァッガスが呆れて言う
「けどよぉ?普通ー 本人が気にしねぇか?俺たち多国籍部隊は ガイも言ってた通り 一応ローレシアの部隊だけど 実際はローレシアに住んでる癖に その部隊に属するのは嫌だ ってー連中の集まりだぜぇ?そこに ローレシアの最上級魔力者の母親と娘が属してるなんてよぉ?…あぁ、娘は 最上級魔力者じゃぁ 無かったかぁ?」
メテーリが衝撃を受け怒って言う
「一言多いわよ!馬鹿ヴァッガス!」
ヴァッガスが衝撃を受け焦って言う
「おまっ!馬鹿ヴァッガスはねぇーだろ!?」
ガイが苦笑して言う
「元々多国籍部隊の結成は 国の異なる3人の戦士から始まったと言う そこに その3人の仲間であった ローレシアの魔力者…メテーリの祖先の方が入っていた為 世代を超えてメテーリや母君が 多国籍部隊に属している …と 私は勝手に解釈していたのだがな?」
ロドウが微笑して言う
「僕の先祖様は その3人が作った多国籍部隊に憧れて 入隊したんだって 歴史書に書いてあったよ」
ヴァッガスが言う
「ハッ!俺の先祖様は 素直にローレシアの保護に縋って 何にもしねーで居たって話だ」
ロドウが笑顔で言う
「でも、ヴァッガスのお陰で ツヴァイザーやスプローニの人たちも一杯 多国籍部隊に入ってくれたから ヴァッガスの名前は歴史書に残さなきゃね」
ヴァッガスが衝撃を受け恥ずかしがって焦って言う
「なっ!?お、俺の名前を お前たちシュレイザーの歴史書に残すなんて 可笑しいだろ!?」
ロドウが微笑んで言う
「そんな事無いよ 僕たちの歴史書は 皆の日記で出来てるんだから 僕の日記には もうヴァッガスの名前が数え切れないくらい書いてあるよ?」
ヴァッガスが衝撃を受け恥ずかしがって焦って言う
「ばっ!馬鹿野郎ぉっ 全部消しとけって!」
ロドウが笑顔で居る ヴァッガスが顔を赤らめてそっぽを向く メテーリが2人の様子を見た後 ガイへ向いて言う
「それで?えっと~ テスクローネだっけ?その人 一応探すって言ったって 私、その人の顔も特徴も 知らないんだけど?」
ガイが言う
「メテーリは以前ベネテクトの爆薬を受け取る際 不在であったからな ヴァッカスとロドウは私と共に彼を見ているだろう?」
ヴァッガスが言う
「ああ、爆薬の使い方と その威力を説明してくれた奴だろ?」
ロドウが言う
「あの人プログラマーだったんだね?そんな風には見えなかったけど」
ヴァッガスが言う
「あんま顔は覚えてねーな 俺はどっちかってーと そいつの横に居た剣士の方が気になっちまって」
ロドウが言う
「あの剣士の人も少し変わってたよね まるでアバロンの大剣使いみたいな姿で」
ヴァッガスが言う
「ああ、けど 目の色は青じゃなかっただろ?アバロンの大剣使いは 青い瞳だって話だ 絵に残されてる奴らだって皆そ-だろ?」
ロドウが微笑んで言う
「うん 歴史書にもそう書かれてるよ あの剣士はきっとエドかソルベキアの人だろうね?」
メテーリが怒って言う
「ちょっと!剣士の事なんて どーでも良いから 肝心なのは テスクローネって人の方よ!」
ガイが思い付いて言う
「うむ、そうだな テスクローネ殿は恐らくエド国の民だろう エド国古来の服装をしていた そして、ロドウたちの話している剣士は テスクローネ殿の友人か何かだ ただの衛兵とは違い とても親しそうにしていた」
メテーリが言う
「そう言えば さっき研究者の人も お供を連れてって言ってたから 今もその人と一緒に居るのかな?」
ガイが言う
「あの出で立ちで 更に、アバロンの大剣使いの様な剣士を連れているのなら 人の目に留まる 聞き込みをしてみよう」
ガイたちが頷き合い近くの出店へ向かう

団子屋店先

第一部隊長が言う
「テスクローネ殿 お探ししました」
ガイたちが遠くからやって来て メテーリが指差して言う
「あ!第一部隊の!」
ヴァッガスが言う
「チッ… 先を越されちまったか」
ガイたちが向かう 副隊長がテスクローネへ言う
「リジューネ陛下より ローレシア城からは外出されない様にとの お達しが出されている筈ですが?」
テスクローネが言う
「それは任務中の話でしょう?リジューネ陛下からのご依頼であった プログラムやシステム操作は全て終わらせました にも拘らず その後の指示も無く 連絡の付かないガルバディアへ向かってしまったのは リジューネ陛下と貴方方の方ではありませんか?」
第一部隊長が気付いて言う
「うん?何故テスクローネ殿が 陛下と我らがガルバディアへ向かった事を?」
テスクローネが一瞬驚いた後言う
「何故って… 自国の王が外出されたのなら その側近はご存知なのでは?」
副隊長が小声で言う
「側近は兵も大臣らも 陛下と我らがガルバディアへ向かった記憶を消されていた… そして、皆 先程の確認で テスクローネ殿と接触はしていないと」
第一部隊長が副隊長へ向いて言う
「彼らが記憶を消される以前に接触し 話をしていたのかもしれん」
副隊長が納得して頷く 第一部隊長がテスクローネへ言う
「何にしろ 陛下は貴殿へ 急ぎのご依頼があるとの事 我らと共に城へお戻り願いたい」
テスクローネがひとつ溜息を吐き しょうがないといった様子で頷く 第一部隊長と副隊長が安心しテスクローネを城への道へ促す ヴァッガスが軽く言う
「俺らの出番は無かったな?」
ガイが苦笑する テスクローネがガイの隣を通過すると共に振り向いて言う
「ガルバディアには とても強い力を持つ方がいらっしゃる様ですね?ベネテクトの力を遥かに超える… まるで シリウス様の様な方が」
ガイが驚いて通過したテスクローネを振り返る テスクローネは何事も無かった様に歩いて行く メテーリとヴァッガスがガイの様子に疑問して メテーリが言う
「ガイ?どうかした?」
ガイがテスクローネの後姿を見ながら言う
「彼は シリウス様の事に気付いている」
メテーリが言う
「え?」
ヴァッガスが言う
「あの第一部隊長が言ってた様に 側近とかに聞いたんじゃねーのか?」
ガイが振り返って言う
「側近の兵や大臣らが シリウス様に関する情報を出したとは思えない そもそも リジューネ陛下がガルバディアへ向かう事は 機密事項だったのだ」
メテーリが言う
「じゃぁ… 何で知ってるの?」
ガイたちがテスクローネの去った後を見る

【 ローレシア城 機械室 】

リジューネが振り返って言う
「テスクローネ殿 戻られたか」
テスクローネを先頭に 第一部隊長と副隊長 ガイたちがやって来て テスクローネが苦笑して言う
「リジューネ陛下も お早いご帰城で 私のつたない計算では ローレシアからガルバディアへ向かい 何らかの用事を済ませて戻るのでしたら 少なくとも3、4日は掛かるものと思っていました」
リジューネが目を細めて言う
「何故 私がガルバディアへ向かった事を知っている?私を監視していたのか?」
テスクローネが苦笑して言う
「ええ、拝見いたしました 監視していた訳ではありませんよ ガルバディア城のモニターに映っていたものを たまたま拝見しただけです 3時間ほど前に …しかし、その後 たった3時間の間にローレシアへ戻り 私の捜索命令を出されるとは… 空でも飛んで戻られたのですか?」
ヴァッガスがニヤリと笑んで言い掛けるのを制し メテーリが笑んで言う
「大ー正解!」
リジューネがメテーリを睨み付ける メテーリがはっとして口をふさぐ ヴァッガスが苦笑して言う
「懲りねぇなぁ?」
メテーリが怒ってヴァッガスを睨み付ける ヴァッガスがニヤニヤ笑う ロドウが笑顔で言う
「でも ヴァッガスも同じ事 言い掛けてたよね?」
ヴァッガスが衝撃を受け焦る リジューネが気を取り直して言う
「テスクローネ殿 私は取り急ぎ 新世界のローレシアへ連絡を取らねばならない そのためには 使用するエネルギーを増やさねばならないとの事 貴殿が管理しているエネルギーの出力調整を頼む」
テスクローネが苦笑して言う
「私は出力の設定を依頼されただけで 管理を任された覚えは無いですが …分かりました 分配量を再調整しましょう」
リジューネが強めていた視線を和らげて言う
「うむ、急いでくれ」
テスクローネが機械操作盤へ向かう 同室に居るソルベキアの研究者たちが見つめる テスクローネが操作盤に手をかざすと 周囲にプログラムの数字の羅列が浮かび上がる 皆が見つめる中 ガイたちが驚き メテーリが言う
「ね、ねぇっ あれっ!」
ヴァッガスが驚き頷いて言う
「あ、ああ…」
ロドウが言う
「まるで…」
ガイが真剣な眼差しで言う
「シリウス様の様だ」
メテーリ、ヴァッガス、ロドウが驚いてガイへ振り返り 言ってはいけない事を言ったとの反応を示して無言で怒る ガイが皆の様子に驚き疑問し首を傾げる

テスクローネがプログラムを終え 振り返って言う
「エネルギーの出力設定を変更しました これで、こちらから新世界へ向けての通信も可能です」
リジューネが頷き ソルベキアの研究者らへ向いて言う
「直ぐに通信を繋げ!」
ベハイムが言う
「かしこまりました リジューネ陛下」
研究者らが機械操作盤を操作する テスクローネがその様子を見つつ リジューネへ振り返って言う
「通信に使うエネルギーの出力制限を解除したので いくらでも送信は可能ですが こちらからの通信は差し控えた方が宜しいですよ?」
リジューネがテスクローネへ向いて言う
「ああ、話は聞いている こちらからの送信には 受信時に比べ多くのエネルギーを使用するそうだな しかし、今は それを強いてでも行わねばならぬ時なのだ」
テスクローネが研究者らの様子を見て言う
「ガルバディアの通信システムを一度破損させ それを復旧させたとはいえ 彼らのやり方では 暗い部屋に落とした物を探すのと同じ程 新世界への通信網を捜索するのは困難です その点 新世界からの通信は すでに通された道を辿るも同然 こちらから新世界への捜索に時間がかかれば その間にエネルギーは大量に消費される…ご連絡は 次の新世界からのものを 待つ訳にはいかないのですか?」
リジューネがテスクローネを見て考えてから言う
「新世界の作戦は佳境に入ったと聞いたが いつ終えるとは明確ではない そして、我らの新世界への転送が実現するのであれば尚更 シリウス様にお知らせ致さねばならない事なのだ」
テスクローネが諦めた様子で言う
「…そこまでおっしゃるのでしたら 仕方の無い事かもしれません が、今度またエネルギーの増幅を行おうにも ローンルーズにはもう小規模な機械兵ファクトリーしかありませんし 別の国のファクトリーを破壊する事は難しいです」
リジューネが無言で頷く フォーリエルが苦笑して言う
「それとも またガルバディアの助っ人さんに 手を貸してもらえるような 契約でもして来たのかねぇ?」
リジューネがフォーリエルを見た後テスクローネへ向く テスクローネが目を閉じて言う
「フォーリエル 一庶民の我々が 陛下の執務に深入りするのは禁物だ…と それは私も同じかな?」
テスクローネが苦笑して立ち去る フォーリエルが気楽に了解の意思を示してテスクローネに続きながら言う
「へーい」
リジューネが研究者らへ目を向ける ベハイムがやって来て言う
「新世界との通信が繋がりましたら 陛下へご連絡を入れます」
リジューネがベハイムへ向いて言う
「そんなに時間がかかるのか?」
ベハイムが苦笑して言う
「どれほど掛かるかは 正直見当が付きません 先ほどテスクローネ殿がおっしゃられた様に 暗室での探し物は 継続の力か偶然の奇跡によるものと思われますので」
リジューネが言う
「では、最悪 部屋中を探し回って見つけるのに どれくらい掛かる?」
ベハイムが苦笑して言う
「2、3日かそれ以上… 可能な限りの策を尽くし 全力で取り組ませて頂きます」
リジューネが表情を落として言う
「そんなに掛かるのか…」
テスクローネが出口付近で振り返り苦笑して言う
「偶然の奇跡で 陛下や我々が この部屋を出た途端に 呼び戻される事だってありますよ?案外、探し物は足元かもしれません」
ベハイムが苦笑して言う
「足元にあっても 気付けなければ 最も遅い発見となるでしょう」
フォーリエルとヴァッガスが噴出し笑いそうになるのをハッとして堪える ヴァッガスをガイたちが フォーリエルをテスクローネが無言で怒る リジューネがテスクローネへ向いて言う
「その間に使われるエネルギーは どれ程のものになるだろうか?」
テスクローネが苦笑して言う
「最悪の場合で 中規模ファクトリー1基分と言った所でしょうか それを丸々結界の維持に使うのでしたら約3ヶ月 農作物の生産に当てるのなら 楽に2,3年分にはなるでしょうね」
ベハイムが苦笑して言う
「とは申しましても 我々は後に3年もこの地に留まる事は無いでしょう 新世界へ行くのですから 今の我々に必要なのは 残り数ヶ月の時を維持する エネルギーのみです」
リジューネが一度視線を落とした後 改めてベハイムへ言う
「貴殿らの力に期待する」
ベハイムが軽く頭を下げて敬礼する リジューネが立ち去ろうとする ガイたちが顔を見合わせメテーリが言う
「中規模ファクトリー 1箇所分を使われちゃうって」
ヴァッガスが視線を逸らし嫌そうに言う
「じゃぁ~ その1箇所は 一番制圧が楽だった 第2ファクトリーって事にしとこーぜぇ?」
ロドウが言う
「えー?第2ファクトリーは ファクトリー破壊作戦の最後を締め括った所なんだから 別の所が良いよ」
メテーリが首を傾げて言う
「それじゃー 第4ファクトリー?」
ヴァッガスが衝撃を受け慌てて言う
「あ!待てよ!第4ファクトリーは 俺が一番活躍した所じゃねーか!やめろよ!」
ロドウが言う
「それじゃー シリウス様にほとんどやってもらっちゃった 第5ファクトリーかなぁ?」
ヴァッガスがまあまあな様子で言う
「あ~ あそこかぁ あそこならぁ」
ガイが振り返り苦笑して言う
「私としては メテーリが我らの事を思い 心からの気持ちを声にしてくれた あの第5ファクトリーは 最も思い入れがあるのだが?」
メテーリが衝撃を受け慌てて言う
「あ、あああっ あれは!シリウス様がいぢわるだったからー!」
ヴァッガスが面白そうに言う
「メテーリお得意の 早とちり だったんだろ~?」
メテーリが怒って言う
「ヴァッガスっ!」
ヴァッガスが笑う メテーリがヴァッガスをつねる ヴァッガスが痛がる ガイとロドウが2人の様子に微笑む リジューネがガイたちの会話を顔だけ振り返った状態で聞いて居り視線を下ろし 小さく独り言を言う
「シリウス様…」
リジューネが否定するように強く目を閉じ顔を振った後立ち去る テスクローネが一部始終を見送り フォーリエルが首を傾げる

絵画の間

リジューネが絵を見上げて言う
「”そのお方 黄金の長き髪に 美しき肌を隠し 愁いを帯びた碧き瞳は 優しく我らを見守る” …あの者がシリウス様の片割れなどであるはずが無い 奴の姿は破壊神ソルの姿そのもの… なのに何故」
リジューネが目を細め困惑し目を閉じて頭を振って言う
「新世界へ通信さえ繋がれば… シリウス様にご報告さえすれば良い 奴の力…奴の姿… 奴は破壊神ソルで間違いないのだ 我らをお守り下されたのは奴ではない シリウス様は 新世界から 今も我らを見守って下されているのだ」
リジューネが絵を見上げ 一瞬間を置いて言う
「…ならば シリウス様は とうにソルの存在に 気付かれているのだろうか?我らローレシアの王は この世界に残された民と生きる様 命じられただけ 我らがシリウス様の敵のご報告をするなど 無用の徒労であろうか?大量のエネルギーを消費してまで…」
リジューネが手で顔を覆って言う
「分からん… 私は… どうしたら良いのだ?」
いっとき間を置いて 部屋の扉がノックされ声が届く
「陛下!リジューネ陛下!」
リジューネが顔を向ける 部屋の外から声が届く
「新世界との連絡が 繋がったとの事です!」
リジューネがハッとして言う
「分かった!直ぐに向かう!」
リジューネが部屋を出て行く 部屋中に飾られた絵には 歴代のローレシアの王と 姿が様々に異なるシリウスが描かれた絵が飾られている

機械室

リジューネが入って来ると ベハイムが振り向く リジューネが微笑してい言う
「早かったな 貴殿らの努力の賜物か!」
ベハイムが苦笑して言う
「残念ながら…」
リジューネが笑んで言う
「ふっ 謙遜する必要はあるまい 偶然と言われる奇跡も努力の結晶だ」
ベハイムが言う
「我らの努力が結晶となるよりも早く 新世界からお声が掛かってしまいました」
リジューネが驚いて言う
「新世界からだと!?」
リジューネが顔を向ける ザッツロード6世が通信モニターへ向かい驚いて言う
「そんなっ!アバロンが帝国となり!ヴィクトール陛下がバーネット陛下と共に 世界を統一したのではなかったのですか!?」
通信モニターのイシュラーンが困った様子で言う
『うむ、確かに  夢の世界にて 彼らはアバロン帝国の第一第二皇帝として君臨し 世界中の国々を動かして見せた しかし、後一歩の所で 良からぬ手違いが起きてしまい 一人きりになってしまったヴィクトール13世殿では その後の進展が図れぬだけでなく アバロン帝国さえも潰えてしまったのだ』
ザッツロード6世が視線を落として言う
「それでまた… 世界をやり直すだなんて… これでは幾ら経っても」
ラーニャ、ミラ、レーミヤが顔を見合わせ ザッツロード6世を見る リジューネがザッツロード6世の隣に来る ザッツロード6世が気付く 通信モニターのイシュラーンが言う
『いや、今度は ただ世界をやり直している訳ではない ガルバディアのプログラマー 夢の世界にて お前たちの仲間となった あの世界一のプログラマーである デス殿が力を貸してくれる そして何より ヴィクトール13世殿とバーネット2世殿がアバロンの皇帝となるまでは 同じ歴史を使用出来るとの事 これにより今までよりも遥かに 期間を短くする事が可能だ』
リジューネが言う
「世界中の国々を統一し 我らを新世界へ導く為の力を取り戻す… 転送装置に使用する宝玉の行方が分かっているのなら ただそれを説明し 一時借り受けるという事が何故出来ないのだ?」
通信モニターのイシュラーンが リジューネに気付き向いて言う
『我々の住む世界の他に もう一つの世界が存在する そのような事は 数百年前に 旧世界の事を忘れ去ってしまった彼らに説明しても そう易々とは受け入れてもらえるものではありますまい?そして、宝玉は 各国の王がそれぞれ力を与えねば 本来の力を発揮しないのです 各国の国宝と国王を動かすには 全てを知らせ信頼を得られなければ難しい』
ザッツロード6世がリジューネへ向き表情を困らせつつ言う
「仕方がありません もう一度あの世界をやり直せるなら… ヴィクトール陛下とバーネット陛下なら 今度こそ きっとやり遂げてくれます」
リジューネがザッツロード6世へ向いて言う
「貴殿は何故 その2人を敬愛するのだ?今目の前のモニターに居られる 貴殿の御尊父にして 我らローレシアの新世界の王イシュラーン殿へ その思いを託す事を何故しない?」
ザッツロード6世が衝撃を受け困って言う
「あ~… えっとぉそれは… 僕たちのローレシアは 様々な面で アバロンに劣ってしまっていると言いますか… ソルベキアの次に各国からの信用を欠いてしまっていると言いますかぁ… そのぉ… すみません」
通信モニターのイシュラーンが苦笑して焦りの汗を掻く ラーニャがため息をついて言う
「はぁ… 残念だけど そーなのよねぇ…」
ミラが言う
「分かってはいても 新世界ローレシアの王子であるザッツが言うと 悲しくなるわ」
レーミヤが困った様子で苦笑する リジューネが怒りを押し殺す イシュラーンが気を取り直して言う
『ガルバディア国王が策から遠退いてしまった今 同じくガルバディアの力を持つデス殿が味方に付いてくれた事は心強い 我々もこれで腹を括り アバロン帝国への全面協力を行うつもりだ』
リジューネがハッとして言う
「何…!?イシュラーン殿!今、何と おっしゃられた!?」
イシュラーンが気付きすまなそうに言う
『リジューネ皇帝 すまなんだ… 新世界では 我らローレシアは帝国には なれそうにない』
リジューネが焦って言う
「そこではない!ガルバディア国王が策から遠退いた とは!?ガルバディア国王とは 我らの神 シリウス様の事ではあらぬのか!?」
イシュラーンが呆気に取られて言う
『うん?ああ…そうだが?』
リジューネが怒って言う
「それが!?策から離れたとは!?新世界で行われている その 策 というのは!元を正せば この世界を救う為のものであったのではないのか!?シリウス様は 今も我らを!この世界を守り続けて下されているのだろう!?だと言うのに!」
イシュラーンが呆気に取られ少し考えた後 軽く首を傾げてザッツロード6世へ言う
『ザッツ、旧世界では ガルバディア国王が殻に閉じ篭ってしまった事は 知られていないのか?』
ザッツロード6世が困って言う
「あ、ああ… それは… そのぉ~」
リジューネがザッツロード6世へ食い掛かって言う
「何だ!?一体どういう事か!?ザッツロード6世!」
ザッツロード6世がリジューネの気迫に負けて後ず去って言う
「す、すみませんっ そのっ リジューネ陛下は ガルバ… いえっ シリウス国王の事を 敬愛されていたのでっ とても…言い出せず…」
通信モニターのイシュラーンが言う
『リジューネ皇帝、我ら新世界のローレシアは ガルバディアの王 シリウス様からの信頼を 失わせてしまいました』
リジューネが驚いて言う
「な… なんだと…っ?」
ベハイムが言う
「僭越ながら 新世界のガルバディアから送られた最後の通信 その内容を リジューネ陛下はご存知ですよね?」
リジューネが驚き ベハイムへ振り返って言う
「無論だ! ”新たな世界へ救われた人々は 約束を忘れた 闇の世界に今も生きる仲間たちよ それでも彼は 世界を守る”」
ベハイムが言う
「正式にはこうです ”新たな世界へ救われた人々は 約束を忘れ 神の国を滅ぼし 我らの神を封じた 闇の世界に今も生きる仲間たちよ それでも彼は 世界を守り続けるだろう”」
リジューネが驚いて言う
「神の国を滅ぼし 我らの神を封じた!?新世界のガルバディアを滅ぼしたのは 新世界へ救われた人々であったと言うのか!?」
通信モニターのイシュラーンが言う
『更に その神を封じたのは 紛れも無く この新世界のローレシアの王であったとの事です 600年前までローレシア城にて保管されていた 神の御神体をローレシアの王 ラグハーンは何処かへ隠す事で封じ 更には シリウス国王の大切な相棒のお命を奪ったと それ以来 こちら新世界のローレシアは シリウス国王からの信頼を 完全に失ってしまったのです』
リジューネが呆気に取られて言う
「我らローレシアが… ローレシアの王が シリウス様を…!?何という事だ…」
通信モニターのイシュラーンが言う
『封じられた御神体は 今もローレシアの者が探し続けているが 依然その封印場所は分かっていない だが、ガルバディア国王は 新たな相棒を得る事で 少なからずお力を取り戻しつつある お陰で現在まで 夢の世界の作戦が続けて来られたのだ』
リジューネが驚きの表情のままモニターを見上げる イシュラーンが悲壮の表情のまま言う
『我らローレシアの行った事は とても許される事ではない それでもガルバディア国王は 我らに力を貸して下されているのです』
リジューネが驚きの表情のまま困惑して言葉を失う

【 ガルバディア城 】

シリウスBが頬杖を着きつつモニターを眺めて言う
「神の御神体を隠され封じられた… なるほど それでか…」
シリウスBがモニターを消して溜息を吐き言う
「シリウスとの連絡が付かなくなって600年 これで全ての辻褄が合う あいつは己の民に本体を封じられ 故に力を失った こちらの世界へ現れる所か たかだか私との連絡さえ行えなくなったのだ それでも… 愚か者めっ シリウス 信じていた民に裏切られても尚 奴らを守り続けるのか…っ」
シリウスBが怒り体の表面に光が強まる シリウスBがハッとして思い出す

【 回想 】

ガイたちが顔を見合わせ困り リジューネが恐ろしさに怯えかける体を叱咤して 必死に剣を構え言う
『私はっ ローレシアの王だっ 我らには シリウス様のお力があるのだ…っ』
リジューネが僅かに前に出る メテーリが怯えてヴァッガスに縋り付く ヴァッガスが驚きハッとして言う
『お、おおお落ち着けよメテーリ!シリウス様は俺らと一緒に戦った仲間だぜ!俺らに攻撃する訳ねーだろ!?』
ガイが焦って言う
『ああ、そうだっ あのシリウス様が 仲間の我らを攻撃する筈が無い しかしっ このままでは リジューネ陛下が』
シリウスBがハッとして言う
『…仲間?』

【 回想2 】

シリウスBが振り返って言う
『仲間だと?』
シリウスAが笑顔で言う
『そうじゃ 我は我の民たちを 仲間と思うておるのじゃ』
シリウスBが冷静に怒って言う
『何を言っている シリウス 何の知識もない ただ、動物より多少の知能があるだけの新人類を 仲間などと』
シリウスAが微笑して言う
『彼らも我らと同じ人ではあらぬか?ならば我ら同様に力を与えてやれば きっと使いこなせる様になる筈なのじゃ』
シリウスBが驚いて言う
『力を与えるだと!?馬鹿を言うな!我らは我らの国を守ると共に そこに住む奴らが 力を得る事の無い様 監視するのが役目!それをお前が力を与えようなど!』
シリウスAが言う
『新たな生命 新たな人である彼らが 身に余る力を持ち世界を滅ぼす事態とならぬ様 監視する… か じゃが、Bよ 我は』
シリウスBが衝撃を受け怒って言う
『私をBと呼ぶな!A!』
シリウスAが続けて言う
『我は アウグスタのその考えに 反対じゃ』
シリウスBが驚いて言う
『何…っ!?』
シリウスAが別の方向を見て言う
『我らの先祖が遠い過去 身に余る力を持ち 世界を滅ぼしてしまった事は事実 しかし我は それが力を持ち過ぎた故の過ちとは 思えぬのじゃ』
シリウスBが呆気に取られたまま話を聞く シリウスAが言う
『アウグスタは世界を守る事しか考えず そこに育まれる命を粗末にしよる 彼らが我らを超える事を恐れ その知識、力が 我らへ近づいた時点で 全ての生命を絶やし 世界をやり直す… その様な事が これ以上許されてはならぬ』
シリウスBが少し考えた後 冷静に言う
『例えお前がそう考えようとも… 我らの国を除く9の国が アウグスタを頂点に 新たな命の監視を行う事へ合意している お前一人が反対した所で…』
シリウスAが振り返って言う
『我は一人ではあらぬ』
シリウスBが疑問する シリウスAが笑顔で言う
『我には仲間が大勢居るのじゃ!我の民たちが皆!我の仲間じゃ!』
シリウスBが呆気に取られた後 溜息を吐いて言う
『無力な民などいくら居っても』
シリウスAが笑んで言う
『そして お前が居る!B!』
シリウスBが衝撃を受け叫ぶ
『だから Bと呼ぶなとっ』
シリウスAが笑顔で言う
『我の最高のパートナーである シリウスBがのう?』
シリウスBが呆気に取られる シリウスAが微笑む シリウスBが慌てて視線を逸らし 恥ずかし困って言う
『う… うん シリウスBか それなら良い』
シリウスBが目を閉じて一瞬間を置いた後ハッと気付いて言う
『…ん?いや、待て!シリウス!まさか本気で!?』
シリウスAが笑んで言う
『我とお前 そして我らの仲間たちならば きっと出来るのじゃ これ以上アウグスタの思い通りにさせてはならぬ 我らは我らの先祖が滅ぼした世界を再生し そこへ生まれた彼らと共に これからもずっと生きて行くのじゃ!その為にはまず…』
シリウスBが表情を困らせる

【 回想終了 】

シリウスBが前方へ視線を下ろし考えながら言う
「新世界へ向かった民は シリウスを裏切った… それでも あいつは己が民を信じ 今も守り続けている あいつが信じた民というのは」
シリウスBの脳裏に ガイ、ヴァッガス、ロドウ、メテーリの姿が浮かぶ シリウスBが苦笑して言う
「…今なら 少しはお前の気持ちが 分からなくもない そして」
シリウスBの脳裏にリジューネの姿が浮かぶ シリウスBが真剣に考えて言う
「何かに惑わされ 過ちを犯す 弱き者の宿命… お前は 我が身を預けた程の ローレシア王の裏切りを 許したのか…」
シリウスBが間を置いて苦笑して言う
「…っははは 流石は 奴らの神だな シリウス …私には 到底真似は出来そうにない」
シリウスBが周囲にプログラムを表示させる

【 ローレシア帝国 】

絵画の間

リジューネが絵画を見上げ心苦しそうに目を閉じる

ザッツロード6世がリジューネの様子を扉の外から覗いていて 視線を下げ立ち去る 

ザッツロード6世が歩いて来ると 大臣らが気付き慌てて駆け寄ってきて呼び止める
「「ザッツロード王子っ!」」
ザッツロード6世が一瞬驚いて振り返って言う
「え?私に何か?」
大臣らが顔を見合わせ困る ザッツロード6世が疑問して首を傾げる 大臣らが頷き合ってからザッツロード6世へ向いて言う
「ザッツロード王子っ どうか 我らにお力をお貸し下さい!」
ザッツロード6世が疑問したまま言う
「私が!?…えっと あ、はい 私に出来る事なら 喜んで」
大臣Bが言う
「実は、予てから 我らローレシア帝国へ助言を下されていたお方が 先ほど このローレシアへお戻りになられたのです」
ザッツロード6世が少し驚いて言う
「ローレシア帝国に助言をしていた方?」
大臣Aが言う
「はい、そこで そのお方とのお話を ザッツロード王子にして頂けないかと」
ザッツロード6世が驚いて叫ぶ
「僕がっ!?一体何故!?」
ザッツロード6世の声の大きさに 大臣らが慌てる 

絵画の間に居るリジューネが疑問して顔を出入り口へ向ける

客室

部屋の扉がノックされる 室内に居るローブの男が振り返って言う
「どうぞ」
ザッツロード6世が聞き覚えのある声に不思議そうに顔を上げ 言ってドアを開ける
「えっと… はい、失礼します」
ローブの男がザッツロード6世の入室に少し驚いて言う
「あれ?君は?」
ザッツロード6世が入って直ぐの場所に立ち言う
「ザッツロード6世と言います えっと… 新世界ローレシアの… 第二王子です」
ローブの男が不思議そうに言う
「新世界の…?」
ザッツロード6世が困った様子で言う
「はい… そうで」
ローブの男が言葉の途中で喜んで言う
「わー ほんとー!?君も新世界から来たの!?ザッツロード6世?ザッツロード?えーっと ちょっと聞いた事ないかな でも ま、いっか!?嬉しいな!僕 新世界の仲間に会うのは ざっと30年振りだよ!あははっ!」
ローブの男がザッツロード6世の手を掴み ぶんぶん強く握手をする ザッツロード6世が呆気に取られて焦る ザッツロード6世がハッとして言う
「あ、あの!では もしや貴方が!貴方が新世界ローレシアから 旧世界へ向かった 最初の使者であると言う ヴィクトール11世様!?」
ヴィクトール11世が微笑む

ヴィクトール11世が言う
「そうか… 新世界ローレシアの現王イシュラーン殿も シリウスの体を見つけられていないのか…」
ザッツロード6世が言う
「はい、私も旧世界へ向かう直前に聞いた話なのですが ローレシアは 今もガルバディア国王の御神体を探していると」
ヴィクトール11世が苦笑して言う
「う~ん… それじゃやっぱり 新世界の夢の世界を使った作戦が成功して 皆が協力してくれる様になってからじゃないと シリウスが力を取り戻す事は難しいね」
ザッツロード6世が疑問して言う
「シリウスが力を取り戻す…?あの、」
ザッツロード6世がヴィクトール11世へ呼びかける ヴィクトール11世が一人で考え事をしている状態から顔を向けて言う
「ん?」
ザッツロード6世が言う
「ヴィクトール11世様は 旧世界を救う為の最初の使者として 新世界より転送されたのですよね?私も新世界からの使者として来たのですが その… 正直 何をしたら良いのか分からなくて…」
ヴィクトール11世が苦笑して言う
「僕は使者なんかじゃないよ 僕は僕の勝手で この旧世界に来たんだ」
ザッツロード6世が驚いて言う
「え?勝手で…とは?」
ヴィクトール11世が言う
「うん、僕はね シリウスの双子の兄弟である シリウスBに会いに来たの」
ザッツロード6世が呆気に取られて言う
「シリウス…B?シリウス国王の!?あのガルバディア国王の双子の兄弟!?」
ヴィクトール11世が言う
「そうなんだ!シリウスは君も知っての通り 600年前のローレシア王ラグハーンに 本体を隠されてしまってから その当時使っていた体の細胞を使って 新たな体を作っていたんだ けど、長い年月を経る内に …えっと 遺伝子情報?だっけ?それがおかしくなって 力が弱まっちゃったり 体の寿命が短くなってしまったりしちゃってね?」
ザッツロード6世が呆気に取られる ヴィクトール11世が変わらず続ける
「だから、本体を封印しないで 今もその体を維持してるって言う シリウスの弟… ああ、本当は兄も弟も無くて 同時に生まれたらしいけど とりあえずBだから弟で良いよね?彼の細胞を分けてもらおうと思って来たんだ けど僕が来たって嫌だって断られちゃった!折角無理して来たのにね?てへっ」
ヴィクトール11世が照れる ザッツロード6世が目をぱちくりさせた後慌てて言う
「待って下さいっ!シリウスの弟って!?あのガルバディア国王に御兄弟が!?その方が 今この旧世界に居るのですか!?それに 本体を隠されたガルバディア国王が ま、まるで他の体に移って生きていらっしゃるような!?そんな事が!?」
ヴィクトール11世が不思議そうに見た後 笑顔で言う
「そうだよ?新世界には僕のご主人様のシリウスが居る こっちの旧世界には シリウスの双子の兄弟である シリウスBが居るんだ!シリウスはね 皆と仲良くしたいからって いつの世代でも格好良く見える様に 世代の流行に合わせた体を作って 皆の前に出るようにしてたんだって!あ、でもね!それは自分の為じゃないんだよ?皆だって自分たちの王様が 格好良かったら 嬉しいでしょ?だからシリウスは皆の為を思って 皆の好きな姿にしてたんだよ!…うーん けど、やっぱりちょっと ミーハーかもね?えへへっ」
ヴィクトール11世が シリウスAが自分の姿を鏡で見て微笑している姿を思い出し 薄っすら頬を染める ザッツロード6世が気を取り直して言う
「私は 新世界のガルバディア国王は ガルバディアの民であるデスと言うプログラマーが 代行しているものだと思っていました」
ヴィクトール11世が首を傾げて言う
「デス?えーっと たぶん僕はその人の事は知らないだろうけど… 僕がこっちに来た後に作られた人かな?ちなみに もし、その人がデスって名前なら ただのガルバディアの民ではなくって シリウスの親衛隊であるベネテクトだよ デス何って言うの?後に続く称号で そのベネテクトの優位が分かるよ」
ザッツロード6世が呆気に取られて言う
「え?ベネテクト?…ああ、そう言えば リジューネ陛下が仰っていた」
ヴィクトール11世が首を傾げて言う
「リジューネ陛下?」
ザッツロード6世が微笑して言う
「はい、ベネテクトは ガルバディア国王の近衛騎士団の総称であると」
ヴィクトール11世が微笑んで言う
「うん、けど 騎士団であったのは ずっと前!シリウスが正式にアバロンを相棒国としてからは 騎士団は解散して皆がプログラマーになって アバロンの大剣使いをサポートするようになったから それからはベネテクトは親衛隊になったんだよ?」
ザッツロード6世が苦笑して言う
「そう…だったんですか はは… やっぱり僕は 何も知らないお飾り勇者なのかな… いくら知識を得ようとしても ちっとも皆に追いつけないや…」
ヴィクトール11世が一瞬疑問した後微笑んで言う
「そんな事無いよ 『己の知識に満足し、新たな情報を求めなくなった時こそ 力を失う』 シリウスがいつも言ってたよ?…君は、新たな知識を求め続けてる きっとこれからもっと沢山の知識を得て 力に出来るようになるよ」
ザッツロード6世が呆気に取られた後微笑して言う
「ヴィクトール様… はい、ありがとうございます!」
ヴィクトール11世が笑顔で頷いてから言う
「うん!…所で さっきの リジューネ陛下って誰?」
ザッツロード6世が驚いて言う
「え?誰って… このローレシア帝国の女帝陛下ではありませんか?」
ヴィクトール11世がポカーンとした後言う
「ローレシアの女帝? …あれ?今って 何年だっけ?」
ザッツロード6世が疑問して言う
「え?何年って…」
ヴィクトール11世が首を傾げ斜め上を見上げながら言う
「うーん僕がローレシアを出て ガルバディアへ行ったのはローレシア暦1990年… それからアバロンへ向かって… ローゼントに行って…」
ヴィクトール11世が指折り考えている ザッツロード6世が言う
「アバロンやローゼント?まさかっ この旧世界の!?」
ヴィクトール11世がザッツロード6世へ向いて言う
「ん?うん!ハリヤーグ皇帝にも言ったけど もしかしたら 滅亡したこの旧世界の他国にも 宝玉があるんじゃないかって!僕はそれを探して 世界中の廃墟になった国々を回ったんだ それでね!全部見つけて来たんだよ!ほら!」
ヴィクトール11世が宝玉の入った袋を取り出して見せる ザッツロード6世が驚いて言う
「この世界にも宝玉が!?」
ヴィクトール11世が微笑んで言う
「うん!でもね、やっぱり宝玉の力は失われてしまってたんだ だから 僕はこれから もう一度ガルバディアへ行って シリウスBにこれを直せないか聞いてみるつもり!」
ザッツロード6世が呆気に取られる ヴィクトール11世が笑顔で続ける
「でも、その前に一度 ハリヤーグ皇帝に挨拶しようと思って!ハリヤーグ殿は 僕の事をとっても心配してくれてね?シリウスの猫である僕に何かあっては大変だって …それでー ここで待っていたのだけど ハリヤーグ皇帝はまだ時間が空かないのかなぁ?」
ザッツロード6世が言う
「シリウスの猫…?えっと ヴィクトール様 ハリヤーグ前ローレシア皇帝陛下は5年ほど前にお亡くなりになったそうです 今はリジューネ陛下が このローレシア帝国を治められておられます」
ヴィクトール11世が呆気に取られてから言う
「え…?お亡くなりに …そうか 残念だな せめてこの世界を救う為の宝玉が存在していた事を お知らせ出来れば良かったのに …では、そのリジューネ女帝に頼まれて君が私との会合を?」
ヴィクトール11世がザッツロード6世を見て首を傾げる ザッツロード6世が衝撃を受け慌てて言う
「あ、いや、そのっ 良くは分からなかったのですが リジューネ陛下は今手が離せないとかで 代わりにお話をして欲しいと頼まれ」
ヴィクトール11世が不思議そうに見た後苦笑して言う
「…ふーん? まぁ いっか!ハリヤーグ殿に会えないのなら 僕が伝えたかった事は 宝玉があったよって事だから!君からそう伝えておいてくれよ!」
ヴィクトール11世が歩き出す ザッツロード6世が驚いて言う
「え!?いや、リジューネ陛下へお会いしなくて 宜しいのですか?」
ヴィクトール11世が歩きながら振り返って言う
「うん!僕は早くシリウスBに この宝玉を見てもらわないと!」
ザッツロード6世が言う
「では ガルバディアへ!?」
ヴィクトール11世が窓を開けて言う
「うん!それじゃ、ザッツロード6世 リジューネ殿によろしく!」
ザッツロード6世が慌てて言う
「あ、はい!それは伝えますが!ヴィクトール様!どちらへ!?ここは3階ですよ!ヴィクトール様!!」
ザッツロード6世が慌てて窓へ駆け寄る ヴィクトール11世が窓から飛び出し 木々を渡り 軽やかに去って行く ザッツロード6世が呆気に取られて言う
「す、すごい… 僕よりずっと大柄なのに あんなに軽やかに まるで猫みたいだ…」
リジューネが部屋の扉を叩き開いて入って来て叫ぶ
「ザッツロード王子!」
ザッツロード6世が一瞬驚き微笑して振り返って言う
「あ、リジューネ陛下 御用は済まれたのですか?あは… もう少し早ければ ヴィクトール様と」
リジューネがザッツロード6世の前に立ち 軽く周囲を見てから言う
「そのヴィクトール様とやらは どこへ行った!?」
ザッツロード6世が微笑して言う
「たった今 この窓から出て行ってしまいました」
リジューネが驚いて言う
「ここからだと!?」
リジューネが窓の外を確認する ザッツロード6世が苦笑して言う
「はい、凄いですよね この高さを物ともせず 向かわれました」
リジューネがザッツロード6世へ振り返って言う
「向かった?どこかへ向かうと言っていたのか?」
ザッツロード6世が言う
「はい、ガルバディアへ向かうそうです あ、リジューネ陛下へ言伝で 旧世界の宝玉を全て集めたと …ははっ やっぱりヴィクトール様は 新世界でも旧世界でもお凄い方ですね 僕など 足元にも及びそうにありません」
リジューネが呆気に取られて言う
「ガルバディアへ…!?」
ザッツロード6世が少し考えてから言う
「リジューネ陛下 私もガルバディアへ行っても宜しいでしょうか?このままローレシア帝国に居ても 私は何の役にも立てそうにありません それなら せめて私も ヴィクトール様の後を追い」
リジューネがザッツロード6世へ向いて言う
「ザッツロード王子 貴殿は確か 夢の世界とは言え ヴィクトールの名を継ぐ者との 面識があるのだったな?」
ザッツロード6世が一瞬呆気に取られて言う
「え?あ、はい 私が知るのはヴィクトール13世様です」
リジューネが言う
「では聞くが 貴殿が先ほどまで会っていた ヴィクトール様とやらは そのヴィクトール13世と近い者であると 見受けられたか?」
ザッツロード6世が一瞬疑問してから言う
「え?えっと… はい、近いと言うよりも まるでヴィクトール13世様と話している様でした 年齢も私の知るヴィクトール13世様と 同じ位に思え…」
ザッツロード6世がハッとする リジューネが言う
「そうだ 貴殿が先ほどまで面会していた ヴィクトール11世を名乗る者は 今より35年以上過去にこの世界へやって来た 新世界からの最初の使者 多くのアバロンの民が 60年の生涯を終える中 その者が生きていれば 年齢は60をとうに超える それが この悪魔力と機械兵、魔物が蔓延る世界を回り 全ての宝玉を携え戻って来るとは?あまつさえ この高さを物ともせず 飛び降りるなど 常人には不可能だ」
ザッツロード6世が呆気に取られて窓の外を見る リジューネが言う
「ヴィクトール11世と我が父 ハリヤーグ前ローレシア皇帝が 各国に残されているやも知れぬ 宝玉の話をしたと言う事は聞き及んでいる そして、ヴィクトール11世が それらを探すと言い残したと言う事も」
ザッツロード6世が言う
「では、リジューネ陛下は 陛下の御用を済ませる間に 私にヴィクトール11世様を確認させようと?」
リジューネが言う
「いや、かの者が 今このローレシアに戻ると言う事は ありえぬ事態であった 故に… 大臣らは私の身を案じ 私に伝えぬまま 貴殿をかの者へ面会させたとの事だ すまなかった 彼らの不穏に気付き 今しがた問い正しここへ参ったが 私は用事に取り込んでなど 居らなかったのだ」
ザッツロードが呆気に取られた後苦笑して言う
「そうでしたか… では、すみませんでした」
リジューネがザッツロード6世へ向き直って言う
「何故貴殿が謝る?新世界からの使者である貴殿へ 無礼を働いたのはこちらの方だ」
ザッツロード6世が言う
「私はヴィクトール11世様との面識はありませんが その孫に当たる13世様の事は 存じているつもりです だからこそ あの方がヴィクトール11世様であると 確信したにも拘らず 年齢の事など 基本的な事にも気付けず」
リジューネが言う
「確信した…?」
ザッツロード6世がハッとして言う
「あ… すみません そうである筈は無いんでしたね だとしたら ヴィクトール様に良く似た 偽者か…何か…」
リジューネが言う
「偽者であれ何であれ 奴が貴殿へ伝えた事は 貴殿や私を ガルバディアへ向かわせる為の魂胆か?それとも…?」
ザッツロード6世が言う
「その者が言うには この世界のガルバディアには シリウスBと言う名の 新世界のシリウス国王の 双子の御兄弟がいらっしゃるそうです」
リジューネが驚いて言う
「今…何と?」
ザッツロード6世が疑問してい言う
「え?ですから シリウスBと言う名の もう一人のガルバディア国王が この世界のガルバディアにいらっしゃると」
リジューネが険しい表情で言う
「シリウスB… クッ… では ヴィクトール11世を名乗ったその者も あの化け物の差し金か!?」
ザッツロード6世が言う
「化け物?」
リジューネがザッツロード6世へ向いて言う
「ザッツロード王子、ガルバディアへは近づくな」
ザッツロード6世が驚いて言う
「え?」
リジューネが言う
「貴殿をガルバディアへおびき寄せる 罠である可能性もある 奴の言葉に惑わされるな」
ザッツロード6世が言う
「ガルバディアには 何かあるのですか?罠と言うからには… それに シリウスB」
リジューネが制して言う
「ザッツロード王子、貴殿は我らを新世界へ導く勇者だ それ以外の事は 必要ない」
リジューネが出口へ向かう ザッツロード6世が呆気に取られて目で追う リジューネが出口の前で振り返って言う
「奴の話は忘れ 今まで通り このローレシアに滞在してくれ」
ザッツロード6世が言う
「え?あ… はぁ…」
リジューネが立ち去る ザッツロード6世が表情を落とし視線を下げた後 窓へ振り返り近づき 窓の外を見る

【 ローレシア帝国 結界付近 】

多国籍部隊の隊員らが結界に近づいて来る魔物を退治している しばらくすると魔物たちが何かに気付き逃げて行く 一緒に戦っていたザッツロード6世が疑問して顔を上げる 多国籍部隊の隊員らが顔を見合わせる ザッツロード6世が微笑して言う
「魔物たちが逃げて行った… 僕たちの勝利」
多国籍部隊員がザッツロード6世の言葉を制して叫ぶ
「総員緊急退避ーーっ!!」
ザッツロード6世が疑問して言う
「え?」
多国籍部隊員らが慌てて結界の内側へ逃げ戻る ザッツロード6世が疑問して言う
「魔物の群れを退治したのに… どうしたんだろう?」
ラーニャとミラが頷き合いザッツロード6世の手を引いて結界の内側へ走り出す ザッツロード6世が2人の急な行動に驚いて言う
「わっ!ど、どうしたんだい 2人とも!?」
ラーニャが慌てて言う
「どうしたんだい じゃない!」
ミラが言う
「魔物が逃げ出したと言う事は 奴らが来るわ」
ザッツロード6世が疑問して言う
「奴ら?」
ザッツロード6世とラーニャ、ミラが退避する途中で レーミヤが多国籍部隊員Aに回復魔法を施している ミラがレーミヤへ向いて言う
「レーミヤ!機械兵が来るわよ!退避して!」
レーミヤが顔を向け困って言う
「え、ええ…」
多国籍部隊員Aがレーミヤへ言う
「レーミヤ殿 私の事は構いません どうか退避を!」
レーミヤが向いて言う
「もう少しよ 頑張って」
レーミヤが再び回復魔法を施す ザッツロード6世が顔を向けていて 驚いて言う
「…はっ!レーミヤっ!」
レーミヤがザッツロード6世の声に顔を上げる レーミヤの後ろに機械兵が居る レーミヤが振り返り驚き怯え言う
「あ…ああっ」
機械兵が武器を振り上げる レーミヤが恐ろしさに目を瞑り 回復魔法を施していた多国籍部隊員Aの服を思わず握る ザッツロード6世が叫ぶ
「レーミヤーーッ!!」
ザッツロード6世がラーニャとミラの拘束を振り払って駆け付けようとする 機械兵が武器を振り下ろす レーミヤが身を固くする ザッツロード6世が焦る ラーニャとミラが怯える

金属のぶつかり合う音が響く

ザッツロード6世が呆気に取られて見る ラーニャとミラが呆気に取られた後 表情を綻ばせ2人で喜び合う レーミヤを庇っていた多国籍部隊員Aが振り返って言う
「ヴァッガス副隊長…」
レーミヤが瞑っていた目を開き見上げる ヴァッガスが振り返り笑んで言う
「よう!仏頂面隊長の右腕 瀕死の重傷を負いつつも 女を庇う…かぁ? はっは~ん やってくれるねぇ?」
ザッツロード6世が呆気に取られて言う
「き…機械兵の攻撃を… 受け止めた!?」
メテーリが遠くから叫ぶ
「こらー!馬鹿ヴァッガスー!余計な事言ってないで 早く退避させなさーい!」
ヴァッガスが衝撃を受け怒って言う
「おめっ!?おめぇらの耳で そこからじゃ聞こえねーくせにっ!?」
ロドウが笑顔でやって来て言う
「メテーリは ヴァッガスが言いそうな事なら お見通しなんだよ」
メテーリがヴァッガスの視線の先 遠くで怒っている ヴァッガスが苦笑して言う
「へっ!それで俺が喋れねー時も 色々言い当てやがったのか」
ロドウが多国籍部隊員Aを抱き上げる ガイが空から降りて来て言う
「機械兵の一群が集まりつつある 奴らに情報を与えてはならない 急いで退避するぞ」
ヴァッガスが不満そうに言う
「チッ… こいつら程度なら 余裕でぶっ倒せるのによぉ」
ガイが言う
「我らの情報が機械兵に行き渡れば 奴らはこのローレシア帝国に総攻撃を仕掛けてくる可能性がある いくら我々でも 世界中の機械兵を相手にする事は出来ない」
ヴァッガスが溜息と共に言う
「はぁ… 了ー解」
ヴァッガスが軽く機械兵を払い飛ばす

メテーリがヴァッガスの様子を見て怒って言う
「もう!ヴァッガスったら!シリウス様に警告されたって言うのに 機械兵に力を見せ付けてどーするのよっ」
ザッツロード6世がメテーリを見ていて言う
「あの…」
メテーリが自分への呼び掛けに気付いて振り返る

ガイたちがやって来ると ザッツロード6世とラーニャ、ミラが来て ザッツロード6世が言う
「仲間を助けてくれて有難う」
ガイが一度レーミヤを見てから言う
「いや、こちらこそ 私の部下を助けて頂いた上に その貴殿の仲間を危険に晒してしまった 部下には まず、自身の防衛を徹底する様にと 指導しておく よって、どうか今回の事は平にお許し願いたい」
ガイが頭を下げる ザッツロード6世が慌てて言う
「ああっ いえっそんな 戦いに危険は付き物ですから… あ、けど 防衛の徹底は良いと思います …ははっ」
ザッツロード6世が頭を掻く ガイが首を傾げて言う
「…失礼だが 貴殿はどちらの部隊の者であろうか?私はローレシア部隊長の顔と名は 一通り確認してあるのだが」
ザッツロード6世が改めて言う
「はい、申し遅れました 私はザッツロード6世と申します 貴方方が あの多国籍部隊であると言う事は 先ほどメテーリ副隊長から伺いました」
ガイがはっとして言う
「ザッツロード6世… では、貴方が 新世界からの勇者と言う」
ラーニャが首を傾げて言う
「この前機械室で会ったわよね?」
ミラが言う
「私たちは見ていたけど 向こうは大して気にして なかったんじゃないの?」
ガイが言う
「…ああ、失礼しました 先日は遠くからの後姿のみであった為 確かな確認が取られず」
ヴァッガスがメテーリを見て呆れて言う
「それはそうと 俺たちが多国籍部隊だって事以外 余計な事なんか言っちまってねぇ~よな?メテーリ?」
メテーリが衝撃を受け慌てて言う
「わ、私は余計な事なんて!」
ザッツロード6世が言う
「いえ、構いません それより、貴方方に折り入ってお伺いしたいのです ガルバディアに居る シリウスBと言う名の 御方の事を」
ガイが驚きヴァッガスとロドウがメテーリを見下ろす メテーリが縮こまって言う
「う… ごめんなさい…」

ガイが言う
「貴方様が新世界ローレシアの王子殿下と言う事で 私は信頼しお話致しましたが どうか、くれぐれも これ以上シリウスB様の事を他者へ広める事は」
ザッツロード6世が言う
「はい、大丈夫です 私もガイ隊長の信頼に答えると共に この世界の人々の為 お力を貸して下されたシリウスB殿の事は 信じたいと思いますから」
メテーリが驚いて言う
「それじゃぁ 新世界ローレシアの王子様は シリウスB様が シリウス様の双子の兄弟だって事も信じてるの?」
ザッツロード6世がメテーリへ向いて言う
「私はヴィクトール11世様に 初めてその話を伺った時から 本当は信じていたんです しかし、私は リジューネ陛下や皆さんの様にシリウスB殿を 実際に自分の目で見て確認した訳ではありません ですから、私に知らせてくれた ヴィクトール11世と名乗った人物の事を信じ 話も信じる と言う事なんですが…」
ザッツロード6世が苦笑して頭を掻く メテーリが呆気に取られる ヴァッガスが首を傾げて言う
「人の話を 鵜呑みにしちまう王子様ってぇ~のも どーなんだろーなぁ?」
ガイが苦笑して言う
「いや、王族と言うものは 普段から多くの者と会い話を聞くものだ 中には 自分を騙そうとする者が居ると言うのも 残念ながら拭えない その中で どの人物が誠実に 自分に味方する者であり また、正しい情報であるかを見極めると言うのは 彼にとって必要不可欠な能力だ」
ロドウが疑問して言う
「でも… リジューネ陛下の言う通り 新世界からの最初の使者である ヴィクトール11世様が生きて居る可能性は 現実的にかなり低いし 身体能力だって 話を聞く限りじゃ 僕たちと同じか それ以上なんじゃないかな?」
ヴァッガスが手を頭の後ろに組んで言う
「魔物だけじゃなく 悪魔力と機械兵が居やがる世界を 自由に回って宝玉を集めて来る なんてな~?ありえねぇ~ぜ?」
メテーリが気付いて言う
「ん?でも待って、もし そのヴィクトール11世が 最初から宝玉を持っていたら 機械兵はともかく 悪魔力の中って言うのは 大丈夫なんじゃないかなぁ?」
皆がメテーリへ向く ラーニャがハッとして言う
「あ!そっかー!宝玉があれば 悪魔力の霧の中でも 魔物化しないで居られるんじゃない!?」
ミラが言う
「それは 私たちの夢の世界の話でしょ?この世界の宝玉がどんな物かは 実際に見てみないと分からないわ」
ラーニャがハッとして照れて言う
「あ… そっかぁ えへへ…」
ザッツロード6世が苦笑して言う
「僕らが必死に集めた情報は どれもあの夢の世界の話だからね… 何処までが似通っているかは 実際に確かめてみてからじゃないと 分からない」
ガイがザッツロード6世たちの話に首を傾げつつ メテーリへ向いて言う
「メテーリ、その 宝玉と言う物を所持していれば 悪魔力の中が大丈夫 と言うのは、どういう意味か?」
ラーニャが反応して言う
「あ、そうよ 貴方が 私たちの夢の世界と 同じ様な事言うから 思わず反応しちゃったんじゃない!」
メテーリが言う
「貴方たちの 夢の世界 とか言うのが 何だかは知らないけど 私に責任転換しないでよ!」
ラーニャとメテーリが無言で怒り合う ヴァッガスが呆れて言う
「それでー?何がどー大丈夫なんだぁ?…ってぇ~か お前らなんか似てるなぁ?やっぱ世界は違っても 同じローレシアの魔法使いだからかぁ?」
ラーニャとメテーリが衝撃を受け声を合わせて言う
「「似てないわよっ!馬鹿ヴァッガス!!」」
ヴァッガスが衝撃を受けて言う
「なぁ!?お、お前らっ!」
ザッツロード6世が苦笑して言う
「あの… それで、メテーリ副隊長の お話の続きの方は…?」
メテーリが一息吐いて怒りを沈め言う
「ふんっ あぁ、それは…」
皆が注目してロドウが言う
「それは?」
メテーリが一瞬視線を逸らしてから言う
「それは… その、詳しくは覚えてないけど 私のご先祖様が その宝玉のお陰で ソイッド村からローレシア帝国までの 悪魔力に満ちた道のりを 送って貰う事が出来たんだって…」
ミラが反応して言う
「ソイッド村からローレシアまでの道を?」
ガイが考えながら言う
「悪魔力は世界の南部が最も濃度が高い ソイッド村はこのローレシア大陸の最南端 そこからローレシアまでの道のりを歩く事は 通常では不可能だ」
メテーリが思い出しながら言う
「えぇっとぉ それでぇ~ 本当は私のご先祖様も新世界へ向かうつもりだったんだけど やっぱり こっちの世界に残ろうって けどぉ~ ソイッド村へはもう戻れなかったから 仕方なくローレシアに留まったって…」
ロドウが言う
「それじゃ メテーリは本当はソイッド村の魔術師なの?」
ミラが言う
「いいえ、彼女はソイッド一族の者ではないわ ソイッド族に赤毛の者は居ないもの」
メテーリが一生懸命記憶を呼び戻しながら言う
「うう~ん… 後確か~ ソイッド族は皆ソイッド村に留まる事を決めたから 誰も新世界へは行かなかったのよね…?だから 一族の宝であったシリウス様の絵を…」
皆が驚きザッツロード6世とラーニャが声を合わせる
「絵?」「え?」
ザッツロード6世が言い掛けるのを制して ラーニャが続けて言う
「ソイッド族が新世界に行かなかったって どー言う事よ!?だって 新世界にはソイッド村があるし ソイッド族も居るのよぉ!?」
ザッツロード6世が考え直してから言う
「ミラのソイッド一族とは 違う一族だった …って事かな?」
ミラが言う
「いいえ、私も話を聞いていて思い出した 私たちソイッド村の者は ローレシアの転送装置を使う事無く 新世界へ向かったって」
ラーニャが言う
「え?それじゃ… 何処の国の転送装置を使ったの?」
ロドウが言う
「僕たちの歴史書によれば 世界3大陸の皆は ローレシア大陸の者はローレシアの転送装置で 中央大陸の者はアバロンの転送装置で 東部大陸の者は ガルバディアの転送装置で新世界へ向かったって記録されているよ?」
ミラがメテーリを見て言う
「私たちの言い伝えでは 貴方が言った通り ソイッド族は新世界へ行く事を拒み 最後の瞬間まで村に留まったとされているの」
ラーニャが言う
「でも、言い伝えが残ってるって事は やっぱり新世界へ行ったのよね?それで、ローレシアの転送装置を使わなかったって事は ローレシア運河を越えて わざわざアバロンの転送装置を使ったって事?」
ザッツロード6世が言う
「ソイッド村はローレシアの管轄だから 村人全員をとなれば ローレシアの転送装置を使うしか無い筈だ それに、アバロンのある中央大陸は 国や人口が最も多い 他の大陸の者まで手が回るとは思えないよ」
ガイが考えながら言う
「悪魔力の中を動く事は 例え、宝玉と言う力に守られたとしても困難であった筈 わざわざローレシアを越え ガルバディアまで行くとも思えない」
メテーリが言う
「最後の瞬間まで村に留まったって事は その最後の瞬間に ソイッド村から新世界に行ったんじゃないの?」
メテーリ以外が顔を見合わせた後苦笑して ザッツロード6世が言う
「新世界へ行くには転送装置が必要なんだ 移動魔法で行けるものではないんだよ?」
メテーリが首を傾げて言う
「それじゃ、その転送装置が ソイッド村にあるのかも?」
ザッツロード6世が軽く笑って言う
「まさか、転送装置は ガルバディアの超精密機械だ それが ソイッド村にあるだなんて」
ミラがムッとして言う
「それはどういう意味よ ザッツ」
ミラがザッツロード6世に迫って言う
「田舎臭いソイッド村に 精密機械があったら可笑しいって事?」
ザッツロード6世がミラの怒りに押されつつ苦笑して言う
「あぁ…いや、その 可笑しい…と言えば ちょっとぉ… 不釣合いなんじゃないかと思って… ごめん」
ミラが怒って言う
「不釣合いって何よ?失礼ね ソイッド村には造船場だってあったし 宝玉だってあったのよ!?」
ラーニャが考えてから言う
「そう言えば 何でソイッド村には宝玉があったのかな?」
皆がラーニャを見る ラーニャが言う
「だってそうじゃない?ソイッド村は私たちのキャリトールの町より ずっと田舎なのに キャリトールやテキスツには無くって 何でソイッド村にあったの?」
ミラが言う
「ちょっ!…でもそう言われてみれば そうよね どちらかと言えば ヴィルトンの港町の方が まだ合ってるかもしれないわ」
ミラが一瞬怒るが視線を変え考える ザッツロード6世がハッとして言う
「そう言えば…」
皆がザッツロード6世へ向く ザッツロード6世が言う
「ヴィクトール11世様が持っていた宝玉 全部集めたと言っていたけど 2つ足りなかった… その内のひとつはローレシアの物 もうひとつはソイッド村の物だっ」
ガイが軽く驚いて言う
「ローレシアの物は ローレシアに保管されているとして ソイッド村にも宝玉がある事は メテーリや貴殿らの話からして 可能性は極めて高い」
ヴァッガスが言う
「ならソイッド村の宝玉は 今もソイッド村にあるって事か?」
ミラが言う
「そして、もしかしたら 転送装置も…?」
ザッツロード6世が言う
「転送装置はエネルギーが無ければ動かない けど、宝玉は もし存在しているのなら ヴィクトール11世様と同じ様に回収して この世界のガルバディアの王 シリウスB殿に 修復をお願いするべきかもしれない」
ガイたちが顔を見合わせた後メテーリが言う
「何でよ?」
ザッツロード6世が驚いて言う
「…え?」
メテーリが言う
「何で宝玉を修復させなきゃ いけない訳?」
ザッツロード6世が呆気に取られて言う
「何でって…」
ガイが苦笑して言う
「うむ、話の流れ的に ソイッド村の宝玉の有無を考える展開になったが 新世界へ向かう事を第一に考えている今の我々に その宝玉は正直必要ない」
ロドウが首を傾げて言う
「ヴィクトール11世と名乗った人も どうして宝玉を集めたんだろうね?」
ザッツロード6世が驚いて言う
「それはもちろん!宝玉には とても強い力が!」
ヴァッガスがリラックスして言う
「強い力ってエネルギーかぁ?けど、今はもう 生活に必要なエネルギーも 転送に必要なエネルギーも 両方揃ってるもんなぁ?」
ザッツロード6世が困って言う
「そう… 言われてみれば…」
ラーニャがザッツロード6世に背を向けて言う
「やっぱりザッツは 今も勇者様として 宝玉を集めなきゃ って気持ちなのね?」
ミラがラーニャと同様にして言う
「宝玉って言葉に過剰反応してるわ」
ザッツロード6世が振り返って焦って言う
「ふ、ふたりだって!」
ザッツロード6世が気を取り直して言う
「ヴィクトール様は きっと宝玉が必要だから 集めていた筈です!そして、それは!きっと この旧世界を救う為の力で…」
ガイが考えて言う
「この世界を救う…か 確かに、新世界への最初の使者であった ヴィクトール11世様は 多国籍部隊の者とも会い この世界を救う為に力を貸して下されると お約束をして頂いたと言うが」
メテーリが言う
「それじゃ、ヴィクトール11世だって言ったその人は やっぱり ヴィクトール11世本人で 今もこの世界を救う為に 宝玉を集めて直そうって言うの?」
ザッツロード6世が言う
「宝玉を全て集めれば その力で旧世界を救えるのかもしれない そうでなくとも その為の力には十分になりえるはずだ」
ガイたちが顔を見合わせる ザッツロード6世が言う
「ヴィクトール様は 今でも多国籍部隊の皆への約束を果たそうとしている 彼はアバロンの民だ 約束は必ず守る」
ガイたちが驚きザッツロード6世を見る ザッツロード6世の後ろでラーニャとミラが顔を見合わせ ラーニャが言う
「ザッツって ヴィクトール様の事になると どーしてこんなに自信を持った事が 言える様になるのかしら?」
ミラが呆れて言う
「アバロンは元々ローレシアのライバルだったって言うのに… アバロンの民でもないザッツが力説してるわ」
ガイが言う
「我々も 新世界へ向かう事より この世界を …我々の故郷を救えるのなら 叶えたいと思っているが」
ヴァッガスが笑んで言う
「へっへ~ ならよ?どーせ今は暇なんだ だったらヴィクトール11世が取り逃した ソイッド村の宝玉を捜しにでも行くか?」
ロドウが微笑して言う
「僕たちがその宝玉を持って行けば シリウス様も喜ぶかな?」
メテーリが微笑して言う
「そうよ!ただ会いに行くんじゃなくって 手土産があれば 私たちだって甘く見られずに済むじゃない!」
ヴァッガスが軽く笑んで言う
「けど、行き先は 悪魔力の濃い最南端の地 ソイッド村だぜ?俺らはともかく、メテーリは留守番だな?」
メテーリが衝撃を受け言う
「そっ…そうね 流石に今回は 付いて行けそうに無いわ…」
ザッツロード6世が言う
「メテーリ副隊長は無理で 貴方方は大丈夫だと言うのは?」
ガイ、ヴァッガス、ロドウが一瞬驚き困って ヴァッガスが言う
「ま、まぁ~ それは…なぁ?」
ミラが言う
「もしかして 機械兵と戦う力だけじゃなくて 悪魔力から身を守る力まで 与えられたって事?」
ガイが苦笑して言う
「…まぁそんな所か 我らなら悪魔力の影響を それほど受ける事無く活動が可能だ ソイッド村へ行き 話にあった宝玉を捜してみよう」
ラーニャが言う
「それじゃ、そっちは任せて 私たちはローレシアで待ってようか?」
ミラが言う
「そうね、ソイッド村は ローレシア帝国から離れている分 悪魔力だけじゃなく 魔物や機械兵も多いだろうし」
ザッツロード6世が視線を強めて言う
「でも、宝玉さえあれば ヴィクトール11世様と同じ様に 悪魔力の中であっても 共に行く事が出来る」
皆が驚く ザッツロード6世がガイへ向いて言う
「ガイ隊長、僕は この世界の機械兵とは戦えません しかし 私も共に 連れて行って頂けないでしょうか?」
ガイが呆気に取られて言う
「うん?あ、ああ… 悪魔力への対応が可能であるのなら 共に向かう事は構わないが…?」
ガイがヴァッガスとロドウへ視線で問う ヴァッガスとロドウが頷く ラーニャが驚いて言う
「ちょっと!ザッツ!私も共にって何よ!?行くんだったら私だって行くったら!」
ミラが言う
「行き先がソイッド村であると言うのなら 私が行かない訳がないでしょ?」
ザッツロード6世が2人へ振り返って苦笑する ラーニャが怒って見せる ミラが言う
「けど、その悪魔力への対応はどうするつもりなの?私たちは夢の世界とは違って 宝玉を持ってないのよ?」
ザッツロード6世が皆の視線を受けつつ 頷いてから言う
「うん、それは」

【 ローレシア帝国 玉座の間 】

リジューネが困惑して言う
「このローレシア帝国の宝玉を 借りたいだと?」
ザッツロード6世が言う
「はい、数日の間で良いのです どうか私に」
リジューネが一つ息を吐いて言う
「ザッツロード王子、貴殿も知っての通り 宝玉は国の宝だ 例え、新世界からの使者である貴殿であっても そう易々と貸し出せる物ではない」
ザッツロード6世が一瞬困った後言う
「それは…分かっています それでも どうか数日の間だけ 必ずお返しします!ですから」
リジューネが言う
「それで?」
ザッツロード6世が不意を突かれて言う
「え?」
リジューネが覗き込む様に言う
「私から宝玉を借り受け 貴殿は何を行おうと言うのか?この世界には 貴殿らの夢の世界の様な 魔王などと言う者は居らぬぞ?」
ザッツロード6世が苦笑して言う
「はは… はい、それは分かっています それらは 夢の世界にて帝国となるべき国を見定める その為の作り話でしたから… しかし、あの夢の世界のシナリオが 全て作り物であった訳ではないのです 現実世界にも存在する 宝玉や転送装置 この旧世界と言う世界 そして、ローレシア帝国も…」
リジューネが微笑して言う
「それでも 人々がこの世界の我々の事を 思い出すには至っておらぬのだな」
ザッツロード6世が言う
「その為の作戦は 新世界にて今も行われています その間 一足先にこの世界へ戻った私は ただ新世界の彼らを待つ訳には行かないのです それでは… 僕らが来た意味が無い」
リジューネが言う
「だとしても、貴殿らに出来る事も無い そして、もし何かあると言うのなら このローレシア帝国を任された私が 執り行うべきだ」
ザッツロード6世が言う
「リジューネ陛下は ローレシア帝国を維持する事が役目であるのでは?私は 新世界からの使者として この世界を救う手助けをしたいのです その為に!」
リジューネが言う
「その為に このローレシア帝国の宝玉が必要か?…ふふっ 面白いな 結局、貴殿らだけで出来る事は 何もないと言う事か」
ザッツロード6世が驚く リジューネが苦笑して言う
「いや、失礼 今のは聞かなかった事にしてくれ 私もこのローレシア帝国の為… ひいてはこの世界の為に 出来る事が無く 歯痒く思っている最中なのだ」
ザッツロード6世が言う
「個別では出来ない事も 皆で力を合わせれば出来る事があります」
リジューネが言う
「その一つが 私が貴殿へ 宝玉を貸し与える事であると?」
ザッツロード6世が呆気に取られてから言う
「え?あ… えっと…」
リジューネが苦笑して言う
「ふふっ 冗談だ」
ザッツロード6世が呆気に取られてから困った様に頭を掻いて言う
「ああ… はは…」
リジューネが言う
「宝玉は貸せない」
ザッツロード6世が衝撃を受けて言う
「え!?」
リジューネが言う
「以上だ ザッツロード王子 お引取り願おう」
ザッツロード6世が慌てて言う
「リジューネ陛下っ」
伝達の兵が敬礼して言う
「申し上げます テスクローネ殿が リジューネ陛下への謁見を願っております」
リジューネが伝達の兵へ向いて言う
「テスクローネが?よし、通せ!」
伝達の兵が敬礼して了解を示す リジューネがザッツロードへ向いて無言の退室を命じる ザッツロード6世が気付き視線を落として立ち去る 

ザッツロード6世とすれ違ってテスクローネがリジューネの前へやって来る テスクローネがザッツロード6世の退室を見送っていると リジューネが言う
「テスクローネ殿、何事か?」
テスクローネがリジューネの言葉に視線を正面のリジューネへ戻して言う
「ええ、ご依頼を受けていた ガルバディア製の外部記録装置の解析と 入力を終えたのでお持ちしました」
リジューネが疑問して言う
「入力?新たに情報を加えたと言う事か?私は解析を行う様にと」
テスクローネが微笑して言う
「ご心配無く 入力したのはリジューネ陛下の生態識別情報です これにより…」

ザッツロード6世が玉座の間の外へ出て テスクローネと会話を行っているリジューネを見る ラーニャとミラが来て ラーニャが言う
「ザッツ!どうだった!?」
ザッツロード6世がラーニャの声に振り返っていた顔を戻して言う
「あ… うん、駄目だって…」
ラーニャが呆気に取られた後落ち込む ミラが言う
「予想通りね」
ラーニャが怒って言う
「そんな予想が当たってどーするのよ!?多国籍部隊の人たちは 私たちの事待っててくれてるのよ!?そこへ 駄目でしたーなんて言える!?」
ミラが言う
「心配ないわ 最初からこうなるんじゃないかと思って レーミヤが向こうに待機してるのよ」
ラーニャが不満そうに言う
「駄目だった時の連絡をするために 待機させておくだなんて~」
ミラが通信機を取り出す ザッツロード6世がミラの通信機を押さえる ラーニャとミラが疑問してザッツロード6世を見る ザッツロード6世が言う
「リジューネ陛下が 僕の頼みを聞き入れてくれない事は 最初から分かってたんだ だからその後の事は 考えておいた」
ラーニャとミラが顔を見合わせる ザッツロード6世が2人へ向き 微笑して言う
「僕も、ただ言われるままに動く勇者様は そろそろ卒業しないとね?」
ザッツロード6世が歩き出す ラーニャとミラが驚いて呆気に取られた後 ラーニャが慌てて言う
「ちょ、ちょっとザッツ!?待って 何処行くのよー!?」
ザッツロード6世が軽く振り返り微笑して見せる ラーニャとミラが顔を見合わせ 慌てて追いかける

リジューネが本の表紙へ軽く手をかざす 本が薄っすらと光り僅かにプログラムが発生した後 本を止めている鍵が外れページが開かれる リジューネが目を丸くして言う
「これは…?」
テスクローネが言う
「内容はローレシア帝国の 国家記録の様です それも、今から600年以上過去の物であると」
リジューネが言う
「600年以上過去の?」
テスクローネが言う
「はい、ガルバディアの民が滅びたのが 今から600年程前ですので それまでの間 ローレシアの王がその本へ情報を記していたのでしょう その本は 生態識別情報の入力された ローレシアの王でなければ 新たに記載する事も 読む事も出来ない様に プロテクトが成されています」
リジューネが言う
「ガルバディアの民が滅びてからは ローレシアの王の情報を入力出来なくなった為に 残された情報はそれ以前の物と言う事か」
テスクローネが微笑して言う
「同時に、そこに残された情報を見る事が出来るのも 600年の時を経た 現代のローレシア王である リジューネ陛下のみです」
リジューネが微笑して言う
「父上も叔父上も…それ以前の王たちも これを見ようと様々な手を尽くし 成し得なかったと言う… テスクローネ殿、よくやってくれた!」
テスクローネが微笑して軽く敬礼して頭を下げる リジューネが言う
「貴殿の働きは私だけでなく 今後のローレシア帝国にも役立つだろう …貴殿には 感謝の言葉も無いな」
テスクローネが苦笑して言う
「陛下から感謝の言葉など飛んでも無い 私はこのローレシア帝国に住む一庶民として 当然の事を行ったまでです しかし、強いて言えば 感謝の言葉より 報酬の方が」
テスクローネが微笑する リジューネが呆気に取られた後笑い出して言う
「あっはははははっ!流石は エド国最大の問屋の息子だな 言葉よりも金か?」
テスクローネが軽く笑んで言う
「問屋の息子は勘当され 今は夢追い掛ける一人の青年です が、その為にも お金は必要なもので」
リジューネが笑んで言う
「分かった 約束通り 貴殿の働きに見合っただけの報酬を用意させる」
テスクローネが微笑して再び頭を下げて言う
「ありがとうございます リジューネ陛下」
リジューネが軽く笑い 大臣へ向いて言う
「大臣、私はしばらく席を外す 後は頼むぞ」
リジューネが立ち上がり これを読むんだとばかりに本を見せる 大臣らが頭を下げる テスクローネが微笑して言う
「では、私もこれにて」
リジューネがテスクローネへ向いて言う
「ああ、報酬は直ぐに貴殿へ渡らせる様 伝えておく」
テスクローネが軽く敬礼して立ち去る リジューネが去る 大臣らと衛兵が敬礼している

【 ローレシア帝国 多国籍部隊 宿舎 】

レーミヤが言う
「では、旧世界の人々は 残りたくて旧世界へ残った訳では 無かったという事なのね?」
ファルツエンプライアーが言う
「故郷のあるこの世界に残りたいと願った者が存在した事は確かです しかし、今このローレシア帝国に居る我々の祖先は 残されたこの帝国の転送装置を使い 新世界へ向かうつもりだったと聞かされています しかし、転送に使用するエネルギーの供給が 徐々に減り やがては連絡さえも途絶えてしまい 現代に至ると」
レーミヤが視線を下げて言う
「エネルギーの供給は 新世界からのものだった… それが途絶えてしまったのは やっぱり新世界の人々が この旧世界の事を忘れてしまったせいなのね…」
ファルツエンプライアーが言う
「新世界からのエネルギー供給で 我らが新世界へ向かうには 一度の転送の後 数十年の年月を待たなければならなかったそうです 新世界の人々が我らの事を忘れてしまうのも 無理の無い事なのかもしれません」
レーミヤが悲しそうに言う
「だからと言って 旧世界に残された人々の事を 忘れてしまうだなんて… この闇に包まれた世界で生き続ける事は どんなに苦しかった事か」
ファルツエンプライアーが苦笑して言う
「しかし、我らは待ち続け そして 貴方に出会えた 我らの長き時は 無駄では無かったのです」
レーミヤがファルツエンプライアーを見上げ微笑する ファルツエンプライアーが頷いて言う
「それに、我らもただ 新世界からの助けを待っていただけではありません いずれはこの世界を 我らの故郷を悪魔力や機械兵から取り戻そうと 皆で情報を集め その時に備えていました 例えばあれです」
ファルツエンプライアーが壁に掛けられた地図を指差して言う
「あの地図に記されているのは 各国や機械兵ファクトリーの分布 そして、悪魔力の濃度 それに…」
ファルツエンプライアーが棚を指差して言う
「あちらには シュレイザーの民が持つ 膨大な歴史書の中から 悪魔力や機械兵に関する情報を抜粋し収められています 我らが力を取り戻した時 奴らと戦う為の大切な資料です」
レーミヤが疑問して言う
「力を取り戻した時?」
ファルツエンプライアーが頷いて言う
「はい、我らの神 シリウス様がこの世界に戻られ 我らと共に この世界を救う その時です!」
レーミヤが呆気に取られた後 無理に微笑して言う
「そ、そう…」
レーミヤの通信機が鳴る レーミヤがハッとして言う
「あ、ごめんなさいっ」
ファルツエンプライアーが微笑して言う
「いえ、どうぞ」
レーミヤが通信機を着信させて言う
「ミラ、宝玉は …やっぱり駄目だったのかしら?」
レーミヤが苦笑する 通信機のモニターのミラが何か言う レーミヤが呆気に取られて言う
「…え?手に入れた?」

【 ローレシア帝国 絵画の間 】

リジューネが本のページをめくり真剣に読み入っている リジューネが微笑して言う
「シリウス様とローレシアの王は とても親しくしていたのだな 月に一度…多い時には 二度三度とローレシアへ招き 酒を酌み交わしていた… 道理で、ローレシアの民の口には合わぬ ボジョレーと言う名の葡萄酒が 今も残っている訳だ」
リジューネが本のページをめくり呆気に取られて言う
「な…っ!?シリウス様をお呼びする際は 城中の床を消毒した?…なるほど シリウス様は履物をはかれないのか 入り口ではシリウス様の猫のおみ足を拭き… 猫?」
リジューネが首を傾げページをめくり 衝撃を受け慌てて言う
「いやっ!これは猫ではなくっ」
伝達の兵が走って来て慌てて言う
「リジューネ陛下!大変です!」
リジューネが驚き立ち上がって言う
「どうした!?何事か!?」

機械室

リジューネが走って来ると 入り口の扉が破壊されている リジューネが驚き慌てて室内へ入り 中央を見て目を丸くして言う
「宝玉が…っ!」
リジューネの視線の先 宝玉を置いていた台座だけが残っている 兵A、Bがリジューネの後方に跪き言う
「申し訳ありませんっ!物音に気付き駆け付けたもの 既に遅く 宝玉も賊も取り逃がしてしまいました!」
「現在、緊急配備を敷き 城の出入り口を全て固めております!物音がしてから2分と掛ける事無く 取り行いました為 恐らく賊は 今も城内に居る者と推測されます!」
リジューネがハッとして兵らへ振り返り言う
「物音を確認し この場所へ最初に駆け付けた者は誰か?」
兵Aが顔を上げて言う
「はっ!自分が最初に駆け付け 警備体制を敷くと共に 中央出入り口へ向かいました!」
リジューネが真剣に言う
「その際 お前とすれ違う者は 無かったか?」
兵Aが一瞬疑問した後 改めて言う
「は… はっ!自分とすれ違った… はっ 不審者は ありませんでした」
リジューネが言う
「不審者?…では不審者以外には?この城の警備兵以外に お前とすれ違った者は無いか?」
兵Aが呆気に取られた後言う
「はっ… 警備兵以外では ザッツロード王子殿下とお仲間の方々とすれ違いました 宝玉を奪った賊と接触してはならないと思い お部屋への御退避をお願い致しました」
リジューネが怒って言う
「おのれっザッツロード6世!」
兵AとBが驚き顔を見合わせる リジューネが声を上げて言う
「城内の警備体制を解除!直ぐにザッツロード6世と その仲間を見付け出せ!」
兵らが驚いて顔を見合わせる リジューネが手を振り払って叫ぶ
「行けっ!」
兵らが慌てて返事をして走り去る

【 ローレシア帝国 結界端 】

レーミヤが心配げに立ち尽くしている所へ ザッツロード6世とラーニャ、ミラが対人移動魔法で飛んで来る 着地と共に ザッツロード6世がレーミヤへ言う
「レーミヤ!多国籍部隊の皆は!?」
レーミヤが戸惑いつつ言う
「ええ、行ける所まで先行するって」
メテーリが言う
「多国籍部隊の皆が集めた情報によると 聖魔力を使った移動魔法じゃ 反発する悪魔力の中を長く移動出来ないんだって だから、それほど遠くまでは行ってないだろうけど」
ザッツロード6世が微笑して言う
「この結界の外で 普通の人が行けない濃度の場所まで 行って居てくれれば良いんだ ラーニャ、ガイ隊長の所まで飛べるかい?」
ラーニャが魔力を集結し終え言う
「うん 行けるわ」
ザッツロード6世が微笑する ラーニャが移動魔法を詠唱する レーミヤが苦笑して言う
「ところで、ザッツ… 宝玉を盗み出したって本当なの?」
メテーリが呆れて言う
「王子様が 盗みだなんて…」
ザッツロード6世が呆気に取られて言う
「え?盗んだだなんて人聞きの悪い お借りしたんだよ?…許可は得てないけど」
ザッツロード6世が微笑する メテーリが言う
「それを 盗んだって言うのよ?王子様?」
レーミヤが苦笑する ラーニャの移動魔法が放たれ ザッツロード6世たちが飛んで行く

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