14 / 61
12-4 勇者たちの旅立ち
しおりを挟む
15年後――
【 北の世界 ローンルーズ 】
近未来的な部屋の中、アンドロイドのデスが部屋の片付けをしている 散らかった本を一冊ずつ片手で拾いもう片方の手へと積み上げる 種類別、番号順に几帳面に揃えられ ゆうに人の持たれる重量を超えた高さを維持して まったくブレる事無く移動する バッツスクロイツの不機嫌な帰宅を告げる声が聞こえる
「ただいまっ!」
アンドロイドのデスが最後の本を片手に振り返った先 近未来的なドアが自動で開いて バッツスクロイツが部屋へ入って来る バッツスクロイツの姿を確認したアンドロイドのデスが後方に在る時計で時間を確認してから バッツスクロイツへ視線を戻す バッツスクロイツは着ていた上着を投げ捨てて 近くのソファへどさっと座る アンドロイドのデスが積み上げられた本を近くのサイドテーブルに置いてから バッツスクロイツが脱ぎ捨てた上着を拾って クローゼットへ持って行く その作業をしている間にバッツスクロイツがイライラしながら愚痴る
「あ~あ、…ったく、折角忙しい中 時間作ったって言うのによ あいつらの話って言ったら どれもこれもアンドロイドの悪口ばっかりでさっ それも 自分の思ってる事を分かってくれないだの 今まで一度もやらせた事の無い事を 初めてやらせたってのに それが出来ないのはおかしいだの… 当ったり前だっての!その挙句に 理由はアンドロイドのヴァージョンが低いせいだとか バグなんじゃないか?とかって…っ」
バッツスクロイツの上着を自動クリーニング機へセットしたアンドロイドのデスが戻って来て 先ほどサイドテーブルへ置いた本の山を持ち上げる その間も愚痴り続けていたバッツスクロイツが 急にアンドロイドのデスの腕掴んで話を続ける
「お前はどう思う!?頭に来るだろ?あいつら知ってるんだぜ 俺がアンドロイド開発第一人者の息子だって!!」
バッツスクロイツが勢いに任せて掴んだ腕を引っ張る アンドロイドのデスが自分と同様に揺れる本の山を上手くコントロールする バッツスクロイツは気にせず話を続ける
「その証拠にあいつら リコールするの面倒だから最新のアンドロイドくれって、俺に言うんだ!ふざけんなっての!」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスの腕を離す アンドロイドのデスは一度強く湾曲した本の山を修正してから 本を運んで行く 後ろではバッツスクロイツのため息が聞こえる
アンドロイドのデスが手にコーヒーカップを持って戻って来る バッツスクロイツは変わらず不機嫌にソファの背にもたれ掛かっている アンドロイドのデスがバッツスクロイツにカップを差し出す バッツスクロイツが礼を述べつつ受け取って飲んで言う
「ん?あぁ ありがと …ぶっ!?」
バッツスクロイツが口を押さえて怒る
「おいデス!いい加減 ホットミルク持ってくるの止めてくれよ これで何回目だよ?」
アンドロイドのデスは何も言わずに見下ろしている バッツスクロイツが肩の力を抜いてソファに身を静めながら言う
「今度からコーヒーな?何度も言ってるし 作り方も教えただろ?ったく… 俺が赤ん坊の時から面倒見てるんだったら、19年の成長ぐらい分かってくれよ…?」
バッツスクロイツが文句を言いながらもホットミルクを飲む 飲み終わったカップをアンドロイドのデスへ渡す アンドロイドのデスが受け取ったカップを返却しに一度去る それを見送ったバッツスクロイツが時計を見て言う
「まだ10時か… モニター起動!」
バッツスクロイツの前に映像が流れ始める それを詰まらなそうに眺める アンドロイドのデスは戻って来ると モニターを見ているバッツスクロイツの身体を抱え上げる バッツスクロイツが驚いて言う
「おわっ!!な、何するんだデス!?」
アンドロイドのデスは何も言わずにバッツスクロイツを運ぶ バッツスクロイツはその間もがいている
移動した先の部屋は自動でドアが開いて明かりが付く 壁へ向くとベッドが壁から飛び出してくる 布団類はクリーニングされたようにビニールパッキングされているが、飛び出した後、そのビニールが消える バッツスクロイツが焦って言う
「は?ちょっと デス!?俺は まだ寝ないって!まだ10時だぞ!?」
バッツスクロイツが文句を言うが アンドロイドのデスはバッツスクロイツをベッドへ寝かせて布団を掛ける バッツスクロイツが起きようとするが アンドロイドのデスがそれを押さえてベッドへ寝かせ 子供をあやす様にポンポンと軽くたたく バッツスクロイツが怒って言う
「だからっ!もう俺は19歳だってのにっ!!」
何度も起きようとするがその度に戻され アンドロイドのデスはベッドの横に跪いたまま動かない バッツスクロイツが怒って言う
「ぬ~~っ!だから俺は もう 19!はぁ~ もう良いや… やる事もないし…」
バッツスクロイツが仕方なく抵抗するのを止めると あっという間に眠ってしまう バッツスクロイツが眠った事を確認して アンドロイドのデスが部屋の明かりを消す
【 ツヴァイザー城 】
ツヴァイザー国ではローレシア国の勇者が旅に出た と言う話題で持ち切りになっている
「ローレシアの勇者様が旅立たれたそうだ」
「これで大地の魔物が居なくなる」
「ローレシアの勇者様がきっと 今度こそ世界を救ってくれる筈だ!」
そんな声が城下町ではちらほらと聞かれる 城の警備に当たる兵士達も浮き足立って言う
「ローレシアの勇者様は また共に戦う仲間を集めるんだろうな?」
「今度はもしかしたら… この国にも来るかもしれないぞ!?」
普段は怠けている兵達も今日はまじめに稽古を行ったりしている それを リーザロッテが面白くない顔で見渡している その後方に2人の護衛兵 レイトとヴェインが現れ レイトが言う
「姫様、こちらにおられましたか ソーロス陛下がお呼びです」
リーザロッテが顔を向けないまま問う
「ねぇ レイト、あなたも勇者様の お供になりたいのかしら?」
レイトが突然の問い掛けに 一瞬、間を置いてから答える
「は?…はい そうですね」
リーザロッテが表情を顰めて振り返って言う
「でも!勇者様が あなたを誘いに来る事は無いわ、知ってるでしょ?ローレシアの勇者様が声を掛ける国は 決まってるもの!」
リーザロッテの言葉に レイトが続ける
「ローレシア領地内の魔法使いと魔術師、占い師、そしてアバロンの大剣使い しかし先代2代目勇者のお供になる事を拒んだ国もあったとか」
リーザロッテがムッとして言う
「…その空いた席に就こうって言うの?」
レイトが表情を変えずに言う
「万が一にもローレシアの勇者殿から お声が掛かれば 私は胸を張って このツヴァイザー国の槍術を披露して見せたいと存じます!」
レイトが言葉と共に片手に持っている槍に力を込める リーザロッテがその言動を見て一瞬微笑むが 苦笑して言う
「…そう そうよね?このツヴァイザーの槍の技術は アバロンの大剣やローゼントの長剣 彼らに続く …いえ、彼らを しのぐものよ!」
リーザロッテが言葉の後半に声を張る レイトが答えて言う
「はっ!姫様!もちろんでございます!このレイト、常日頃から ツヴァイザー国の兵として恥じる事無き様 槍術を磨いております!」
レイトが自信を持って自分の槍をリーザロッテに見せる リーザロッテが笑顔を見せた後 疑問して言う
「そうよね でも… 勇者と言えばローレシア、勇者のお供と言えば魔力者とアバロンの大剣使い 皆そう言うわ… 確かにローレシア領域の魔力者とアバロンの大剣使いの力は 分からなくも無いけれど… どうして勇者がローレシアなのかしら?」
リーザロッテの言葉に レイトが一瞬、呆気に取られた後 少し考えてから答える
「は?…えー それは、昔 この大陸を我が物としようとした 悪の王を退治したのが 当時のローレシアの王子であったが為 かと…?」
リーザロッテが首を傾げて言う
「でも、それは100年以上前の話でしょ?2代目や現代の3代目勇者だって言われている ローレシアの王子様はどうなのかしら?」
レイトが答える
「はっ 続く2代目と 現、3代目の勇者であるローレシアの王子は 悪の王を退治した1代目の勇者の子孫である為 …かと思われます」
リーザロッテが変わらず問う
「それって重要な事?」
レイトが呆気に取られて言う
「は?」
リーザロッテが問う
「初代勇者であるローレシアの王子様が どれほど武術に優れていたかは知らないけれど、今のローレシアは剣の技術だって アバロン所かローゼントにも劣っているのだし、大体 ローレシアの主な戦力は魔力者だって話じゃない?それなのにローレシアの勇者である 王子様は剣士なのよ?もし 魔王と戦うのに魔力者以外の力が必要なら もっと別の国から起用すれば良いじゃない?」
レイトが呆気に取られながら答える
「は、はい… 確かに…」
リーザロッテが頷いてヴェインへ声を掛ける
「ヴェイン、あなたは?」
レイトより一歩後ろに居たヴェインが 驚いて顔を上げて言う
「は?」
リーザロッテがヴェインに問う
「あなたの槍の技術は アバロンやローゼントに劣るのかしら?」
リーザロッテの唐突な問いに ヴェインが慌てて答える
「え!?あ!じ、自分もツヴァイザーの兵として 日々槍術を磨いておりますので!アバロンの大剣使いやローゼントの長剣使いなど 恐れるに足りません!」
ヴェインが先ほどのレイトと同様に自分の槍をリーザロッテに見せる リーザロッテが満面の笑みを浮かべ 再び城下の町を見下ろして言う
「決めた!」
リーザロッテの言葉にレイトとヴェインは何事かと視線を向ける リーザロッテが振り返り続きを言う
「今回は私が、世界を救う 勇者 になるわ!」
レイトとヴェインが呆気に取られる リーザロッテが意気揚々と言う
「そうと決まれば すぐにでも出発しないと!ローレシアの勇者は もう旅立っているのだもの、これ以上遅れは取られなくてよ!」
リーザロッテが言い終えると共に自室へと急ぐ 自分の前から立ち去るリーザロッテを レイトが止めて言う
「お、お待ち下さいっ 姫様!」
その言葉に振り返るリーザロッテ レイトが続ける
「…ご冗談 で御座いますよね?」
リーザロッテが首を傾げて言う
「本気よ?」
レイトが慌てて声を上げる
「いけません!」
レイトが自身の大声にハッとして 声を落ち着かせて言う
「ひとたび城の外へ出れは そこは魔物化した動物達の住処です」
リーザロッテが苦笑して言う
「分かっているわ、その元凶を倒しに行くのだから」
レイトが困った表情で言う
「いいえっ お分かりでありません!その魔物らは姫様に襲い掛かって参ります!」
リーザロッテが強気に言う
「ええ、そうでしょうね?」
レイトが一瞬呆気に取られるが 気を取り直して言う
「姫様のお命が危険に晒されます!」
リーザロッテが1つため息を吐いてから レイトへ不機嫌そうに言う
「ねぇレイト、私は姫だけど子供じゃないの 城の外がどうなっているかぐらい分かっているわ 他国へ招かれた事だってあるのだし」
レイトが問う
「では、その魔物らから どの様にして御身を守られるおつもりですか?」
リーザロッテが普通に答える
「それはローレシアの勇者と同じよ?」
レイトが言う
「ローレシアのザッツロード王子は 幼少の頃より剣技を学ばれておられる筈です」
リーザロッテが軽く笑って言う
「でも、魔王を倒せるほどの腕ではないのでしょ?」
レイトが一瞬呆気に取られた後 少し困って言う
「…は、はぁ… 恐らくは…」
リーザロッテが微笑して言う
「なら私も同じよ!各国から集めた強い兵に 戦わせているのじゃない?」
レイトが少し間を置いて言う
「…確かに 間違ってはおられない部分もあるかと… しかし、ザッツロード王子は 自身を守る事は出来るかと思われます」
リーザロッテが少し表情を堅くして言う
「分かったわ、それなら私も自身の身ぐらい 自分で守るわよ?」
レイトが真剣な表情で言う
「どの様にして守られるおつもりですか?」
リーザロッテが軽く微笑んで言う
「彼が剣なら 私は槍よ、当然でしょ?」
レイトが変わらず問う
「姫様は 槍術を学ばれておられるのですか?」
リーザロッテが自信のある表情で言う
「いいえ?でもずっと見てきたわ、自分の身ぐらい守れる筈よ」
レイトが言葉を返し切れなくなり思考を巡らす リーザロッテがその沈黙を了承と取って微笑んで言う
「さあ!そうとなれば!まずはお父様にお伝えしないと!」
リーザロッテの言葉にレイトがあっと声を漏らして言う
「そうでした、陛下がお待ちかねです 遅くなってしまいました どうかお急ぎを」
リーザロッテは嬉しそうに返事をして 早足で向かう
「ええ!」
レイトがホッと胸を撫で下ろす
玉座の間 リーザロッテから話を聞いたツヴァイザー国王が笑って言う
「あっはっは 何を馬鹿な事を言っている?」
リーザロッテが少し怒った表情で言う
「私は本気ですわ!お父様」
ツヴァイザー国王は変わらず笑って言う
「はっはっは さて、それより、リーザロッテ、お前に縁談の話が来ているのだ」
リーザロッテが怒った表情で言う
「お父様!」
ツヴァイザー国王が微笑んで言う
「相手はスプローニ国のアシル王子だ、お前も何度か会ったことがあるだろう?」
リーザロッテが記憶を巡り そして言う
「スプローニ国のアシル王子、あの方は私より20も離れている お方ですわ」
ツヴァイザー国王が上機嫌で言う
「正確には21歳の差だそうだ、しかし、このツヴァイザーより南にあるスプローニが我が国と交流を深めれば、更に南にある我が国の友好国シュレイザーに挟まれる ベリオルの町も いずれ我らの領地に入るであろう」
リーザロッテが気を落ち着かせて言う
「領地を広げるのであれば 現行友好条約を交しているシュレイザーに南を任せて 我がツヴァイザーは北のベネテクトとの仲を深めるべきだと思いますわ」
リーザロッテの言葉にツヴァイザー国王が一瞬、呆気に取られて考える リーザロッテが続けて言う
「ベネテクト国の王子様とお会いした事はありませんが、年の頃は近いと聞いています」
ツヴァイザー国王が少し考え思い出した様に言う
「ベネテクト国の… ベーネット王子か?うむ… いや、あの国は無理だ ベネテクトの現国王バーネット2世は アバロンとの交流しか考えておらん」
リーザロッテの提案に首を振ったツヴァイザー国王は向き直り 改めて言う
「なんにしろ、数日の内にはアシル王子が我がツヴァイザー国にいらっしゃるとの事だ、良いな?」
ツヴァイザー国王の言葉に沈黙するリーザロッテが思い出して言う
「…お父様?ですから私は 勇者として旅に!」
リーザロッテの話を本気に取る事は無く ツヴァイザー国王が微笑と共に言う
「勇者の旅より アシル王子との縁談の方が大切だ、良いな?」
リーザロッテが一瞬間を置いてから意を決して言う
「分かったわ」
リーザロッテが一言言い残し ツヴァイザー国王の前から去っていく 彼女が玉座の間を出ると 待っていたレイトとヴェインが付き従う さっさと自室へ向かうリーザロッテの様子に レイトとヴェインは顔を見合わせ彼女の思考を思案するが 想像が付かず何も言わないままリーザロッテを部屋まで送る
【 アバロン城 】
ヴィクトールの前で家臣らが報告している
「ヴィクトール陛下、魔王討伐の為ローレシアが再び勇者を選出し 旅立たせたそうです」
「ローレシアからの連絡によると 宝玉の力が戻っていない状態でも その魔力を増幅させる方法を編み出したとの事」
「一向に収まらない悪魔力の増加は やはり魔王を倒さねば収まらないと言う話です」
ヴィクトールが間を置いて言う
「ベネテクト国からの連絡では 悪魔力は祠にある祭壇に隠されている 魔力穴から排出されているとあった そして、その場所にはローレシアへ聖魔力を送る装置が付けられていると その裏づけ調査はどうなっている?」
家臣たちが資料を探して 家臣Aが答える
「祠の祭壇の調査は15年前の世界的な悪魔力の増加の際に ガルバディア国に残されていた宝玉を使用し 2代目勇者殿方が強力な結界を張ったせいもあり 現在 祠の調査は行えない状態になっております」
ヴィクトールが問う
「その2代目勇者らの行方の調査はどうなった?魔王の島よりヘクターたちにより救出され ガルバディアの宝玉を使用し 全国の祠に強力な結界を張った その後の足取りは?」
家臣Bが言う
「その後の足取りは 一向に確認が取られていません 世界中の国々へ連絡を入れましたが この15年 何処にも現れたという報告は入っておりません」
ヴィクトールが問う
「ヘクターとデスへ命じた 魔王討伐はどうなっている?」
家臣Cが言う
「アバロン3番隊隊長ヘクターと相棒のプログラマーのデス殿へ アバロンの宝玉を用いて魔王の討伐は 可能であるかと確認したのですが…」
家臣Cに皆の視線が集まる 家臣Cが困った様子で続ける
「ま、『魔王の討伐はローレシアの勇者様じゃないと ダメな気がする』…との返答を頂いております」
皆が呆れる ヴィクトールが立ち上がる 家臣たちが驚く ヴィクトールが歩き出す 家臣Aが慌てて声を掛ける
「ヴィ、ヴィクトール陛下っ!?どちらへ!?」
ヴィクトールが視線を向けないまま答える
「私が直接ヘクターと会って話をして来る デスのプログラムとヘクターの力が有れば 魔王だろうと何だろうと退治する事など 可能なはずだ!それを断る理由があると言うのなら 聞き出して確認をする!」
家臣Bが慌てて言う
「それでしたら 今すぐ2人を呼び付けます 何も陛下自らが向かわれなくともっ」
ヴィクトールが歩みを続けて言う
「ベネテクト城の建設が進んでいる このままでは もうじき完成してしまう ベネテクト国から謙譲された資料の確証が得られないままでは これ以上彼を留めておく方法が無い …もう時間が無いんだ!」
【 ベネテクト城 】
ベネテクト城 地下室 ベーネットが部屋の扉を開けたまま自室で本を読んでいる バーネットが手前の部屋へ入って来る ベーネットが顔を向ける バーネットが椅子に座り 机に足を乗せて書類を確認する モフュルスがやって来てバーネットへ報告している ベーネットが視線を本へ戻す バーネットの声が聞こえて来る
「おいっ!モフュルスっ!アバロンのメイデ王女は もうとっくに戴冠可能な15歳になりやがったってぇえのに 向こうからは 何にも言って来やがらねぇってのは どう言う事だぁっ!?」
モフュルスが答える
「正式な連絡ではございませんが ヴィクトール陛下の御好意により ベネテクト城の完成までは バーネット様の王位を延長する様にと…」
バーネットが声を荒げて言う
「ざけんじゃねぇえ!あの野郎ぉお!どこまで俺を蔑(さげす)めば 気が済みやがる!!」
モフュルスが焦って言う
「しかし、バーネット様…」
バーネットが叫んだ後 怒りを押し殺して言う
「うるせぇええ!それに… あの町の様子はぁ 何だぁ?」
モフュルスが困った様子で言う
「今月は メイデ王女の15歳のお誕生月になります、ですからベネテクトの町や村は それをお祝いして」
バーネットが机を叩き付けて言う
「知るかぁああ!!何で他国の王女の誕生月を祝いやがるんだぁあ!?この国はまだベネテクト国だろ!?今月は… 今日はバーネット1世ベネテクトが デネシアの野郎共にぶっ殺された日だろぉおがぁあっ!!」
バーネットが再び机を叩き付ける ベーネットが視線をバーネットたちの方へ向ける バーネットがうすら笑って言う
「は… はっは… なら良い さっさとベネテクト城を完成させてぇ 次はデネシアの王女と アバロンの王がぁ どんな手ぇ 使ってきやがるか 試してやるかぁ?」
バーネットが笑う モフュルスが心配そうな声で言う
「バーネット様 少しお休み下さい きっと今は あの町の様子のせいで 御気分を害しておられるだけなのでしょう ベネテクトの民も、ヴィクトール陛下も 皆バーネット様の事を 心配しております」
ベーネットが立ち上がり部屋の扉を閉じる
【 アバロン国 】
ヴィクトールがアバロン3番隊訓練所の上部にある橋の上にやって来る 橋の手すりにウィザードが腰掛け3番隊の練習風景を眺めている ヴィクトールがウィザードへ声を掛ける
「デス、ヘクターを呼んでくれないかい?」
ウィザードが振り返り言い掛ける その間にヴィクトールがウィザードの直ぐ横までやって来る
「ヘクターは… っ!」
ウィザードが言葉を途中で切り 身を浮かせてヴィクトールから遠ざかる ヴィクトールが一瞬、呆気に取られて問う
「え?ヘクターは?」
ウィザードが橋の手すりの 外側へ身を浮かせて言う
「お前!私のそばに来るな!」
ヴィクトールが驚き ウィザードへ手を伸ばして言う
「え!?何で?」
ウィザードが焦って言う
「嫌いだ!今日のお前は 私の嫌いな感じだ!」
ヴィクトールが呆気に取られ ウィザードを掴もうと追いかけて言う
「き、嫌いな感じって?僕は何も…!?」
ウィザードが怒って言う
「嫌いだ!私は それが嫌いだ!それを持つ お前も嫌いだ!」
ウィザードが逃げて行く ヴィクトールが慌てて追いかけて言う
「あっ!ちょっと待ってくれ デス! …って!?うわっ!」
ヴィクトールが橋から落ちる ウィザードが驚く ヴィクトールが橋下の訓練場に落下し 地に座ったままぶつけた頭を擦っている 3番隊隊員たちが驚き集まって来て言う
「ヴィクトール陛下!?」 「ヴィクトール陛下!大丈夫ですかい!?」
ヴィクトールが苦笑しながら立ち上がって言う
「イ…タタ… あ、ああ 大丈夫だ 問題ない」
隊員たちが橋を見上げて言う
「あんな橋の上から落っこちて無事だなんて… 流石はアバロンの王 ヴィクトール陛下だな~?はははは!」
隊員たちが笑う ヴィクトールが照れながら周囲を見渡す ヴィクトールの様子を見て隊員が言う
「所で 一体なんったって あんな所から落っこちて来なさったんだ?ヴィクトール陛下?」
ヴィクトールが声を掛けて来た隊員へ向かって言う
「いや その… うっかりデスを追いかけてしまって」
隊員たちの視線が 皆から離れて 宙に浮いているウィザードを見る ヴィクトールが気を取り直して言う
「と、それより ヘクターは何処だろうか?」
隊員たちが言う
「ああ、ヘクターだったら 今日は休みを取ってますぜ?」
ヴィクトールが疑問する 他の隊員が言う
「何でもタニアさんに怒られて… とか?何とかで~?」
隊員たちが顔を見合わせ それ以上は分からないと言った素振りを見せる ヴィクトールが首を傾げて言う
「ヘクターがタニアさんに怒られて 3番隊の訓練に来ない?」
隊員たちが頷く ヴィクトールが少し考えてから言う
「…そうか では直接 家へ向かってみよう 邪魔をしてすまなかった 訓練を続けてくれ」
ヴィクトールが立ち去る
街中 ヴィクトールが全身を覆うローブを纏ってアバロンの城下町を歩いて行く ヘクターの家の前で立ち止まり扉をノックする 間もなくタニアの声と共に扉が開かれる ヴィクトールが軽く首を傾げて言う
「私はヘクターの親しい友人なのだが、ヘクターは在宅だろうか?」
タニアが首を傾げ少し考える様子で言う
「ヘクターは今 出掛けているんです 帰りは ちょっと遅くなるんじゃないかしら?」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られてから考えながら言う
「そうか… 遅くなってしまうのか」
タニアがヴィクトールの顔を覗き込んで言う
「あの…?」
ヴィクトールがタニアへ向いて問う
「3番隊の訓練を休んで何処へ向かったのか …行き先は聞いていないだろうか?」
タニアが微笑して言う
「行き先はガルバディアです」
ヴィクトールが驚いて問う
「ガルバディアへ!?ウィザードもプログラマーも無事戻って来たと言うのに 何故今更ガルバディアへ向かう必要が!?」
タニアが一瞬驚いた後 可愛く怒って言う
「もうっ ヘクターったら 私に黙って勝手にガルバディアの国王様と約束をしてしまったんですよ?お陰で私たちの可愛い息子の片方が 生まれて直ぐにガルバディアへ送られる事になってしまって」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られてから言う
「あ、ああ ヘクターから聞いたよ しかし、それは15年前の話だね?それとも、今日ヘクターがガルバディアへ向かった事と何か関係が…?」
タニアが微笑んで言う
「今日は、その子を迎えに行かせたんです!」
ヴィクトールが一瞬、驚いてから微笑んで言う
「そうか… では良かった、これで家族全員が この家に集まれると言う事だね?」
タニアが笑顔を見せる 間を置いて タニアが表情を落として言う
「でも、今度はヘクターが… また勇者様の為に戦うって言うんです 折角、家族全員と 私のお義兄さんでもあるデスと ヘクターの相棒のデスも入って 全員揃うのに…」
ヴィクトールが疑問して言う
「ヘクターが勇者の為に?いや、今回のローレシアの勇者のお供には ヘクターではなく息子のオライオンに頼むと 言っておいた筈なのだが?」
タニアが苦笑して言う
「ええ、今回の3代目勇者様のお供には息子のオライオンなんですけど、それとは別で 前回の2代目勇者様と そのお仲間の魔力者さんたちを助けるためにって… はぁ、もうヘクターったら アバロンの宝玉を盗みに行くだなんて言うんですよ?」
ヴィクトールが衝撃を受けて驚いて言う
「えぇええっ!?そ、それは どう言う事!?」
タニアが苦笑したまま言う
「アバロンの宝玉が ローレシアの3代目勇者様に渡される前に ヘクターが手に入れて それを使って 今、行方不明の2代目勇者様と そのお仲間の居場所を ローレシアの王様から聞き出すんですって ヘクターったら強引なんだから」
タニアが笑う ヴィクトールが焦って言う
「で、では ヘクターはアバロンの宝玉を餌に ローレシアの王を強請(ゆす)ろうというのか!?」
タニアが愛らしく微笑んで言う
「そうみたいです」
ヴィクトールが衝撃を受けてから 視線を落として言う
「な…っ 何でヘクターは 僕にそれを伝えてくれなかったんだ…?ヘクターの事だ それは相棒のプログラマーのデスと相談の上での策である筈 デスが作る作戦プログラムなら全ての面において完璧だ それを僕に伝えないなんて どうして…!?」
タニアが不思議そうにヴィクトールを覗き込んで言う
「でも… デスが調べた範囲では ローレシアのお城に2代目勇者様とお仲間の方の存在は 確認出来ないらしくて… だから、」
ヴィクトルがタニアへ視線を向けて問う
「『だから』!?」
タニアが笑顔で言う
「今回の作戦は ヘクターお得意のアバロン式『何となく、そんな気がする』作戦なんです」
ヴィクトールが転びそうになる ヴィクトールが気を取り直して言う
「そ、そんな!?『何となく、そんな気がする』作戦などで アバロンの宝玉を盗み出そうなんて言うのかいっ!?」
タニアが笑って言う
「ヘクターったら 絶対ローレシアの王様がザッツたちを隠してるんだ!なんて言い切るんですよ?デスもデスで、ヘクターがそう思うなら 仕方がないからその作戦で行こうって言うんです 私、デスはホログラムになっちゃって 昔より機械的な考え方をするのかと思ったら すっかりヘクターのアバロン式に慣れてしまっているみたいで なんだか不思議な感じなんです でも私は、今のデスの柔軟な考え方の方が 人らしくて良いと思うので… だから、今回のヘクターとデスの アバロン城襲撃作戦も 特別に許可しちゃいました!」
ヴィクトールが慌てて叫ぶ
「許可しないでーっ!」
タニアが疑問する ヴィクトールがハッとして視線を逸らして言う
「ど、どうしよう… ヘクターだけならともかく デスが一緒ではアバロン城のどこに宝玉を隠したって 見付かってしまう… だからと言って部隊を配置して防ぐなんて事は もっての他だし 僕ではヘクターに太刀打ち出来ない 今ここで宝玉をローレシアに渡されてしまっては 例え2代目勇者殿を助けたところで 3代目勇者とローレシアの動向が まったく分からないと言うのに…っ」
ヴィクトールが身体の向きを変え 頭を抱えて叫ぶ
「あぁーっ こんな時 バーネット!君が居てくれたらーっ!」
タニアが首を傾げる ニーナとミーナがタニアの後ろからやって来てミーナが言う
「お母さん、私たち やっぱり先に行く事にしたわ」
ニーナが言う
「もう1人のお兄ちゃんに ご挨拶出来ないのは残念だけど 3代目勇者様に遅れてしまってはダメなの」
タニアが振り返る ヴィクトールが疑問してニーナとミーナへ向く タニアが残念そうな表情で言う
「そう… それじゃ、気を付けてね?本当に、無理はしちゃダメよ?」
ニーナとミーナが笑顔で頷き 2人が手を繋いで ヴィクトールの横を過ぎて行く ヴィクトールが2人の姿を見送った後 タニアへ向き直って言う
「3代目勇者様に遅れてはいけない… とは?彼女たちはヘクターと貴方の娘さんで…」
タニアが困った様子で微笑んで言う
「ええ、みんなローレシアの勇者様のせいで大忙しなんです ヘクターとデスは2代目勇者様を助けに行くと言うし、オライオンは今日連れて帰ってくる兄と一緒に3代目勇者に同行するって言うし 2人の娘はその3代目勇者様たちの情報を集めるんだって」
ヴィクトールが少し驚き問う
「3代目勇者たちの情報とは!?」
タニアが苦笑して言う
「デスが… ローレシアの勇者の伝説は何か裏がある筈だって言うんです でも、2代目3代目の勇者様はきっとただローレシアの王様に使われているだけだから 本人たちに聞いても分からない 今までに確認した方法とはまったく違う方法では無いと 暴けないかもしれないって… それを聞いた娘たちが それなら自分たちが調べてみるって言い始めてしまって…」
ヴィクトールが驚いて言う
「それはそうかもしれないがっ あの子たちだけで その様な危険な事を!」
タニアが軽く笑って言う
「父と兄が世界の為に戦っていると聞いて あの子たちも、何かをしたいって気持ちなんです でも、あの子たちは魔法アイテムを使って移動魔法を使えるだけなので ただローレシアや他の国へ行って 勇者様のお話を聞いて回る事しか出来ません 最も、それだけなら 身の危険などもそれほど無いと思うので 行かせてあげる事にしたんです」
ヴィクトールがハッとして立ち去る タニアが驚いて声を掛ける
「あ、あの…」
ヴィクトールが立ち去り タニアが不思議そうに言う
「お名前 聞けなかったわ…?」
ミーナが店でアイテムを購入している その後方でニーナが首を傾げて言う
「魔法アイテムだけじゃなくて ちゃんとお薬も買わないとダメだって 最初に言ったの~」
ヴィクトールがミーナを見つけて走って来る ニーナがヴィクトールへ振り向く ヴィクトールが微笑んで言う
「君、ヘクターの娘さんだったよね?えっと…」
ニーナが少し驚いた様子で答える
「うん、ヘクターは私たちの世界一のお父さんなの」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「ローレシアの勇者の情報を集めに行くのは危険だ、少なくともローレシアへは行ってはいけない」
ニーナが首を傾げて問う
「ローレシアの勇者様のお話は ローレシアで聞くのが一番なの だから、ローレシアにはどうしても行かなくちゃいけないの」
ヴィクトールが少し困った表情で 腰を下ろしニーナと高さを合わせて言う
「君達の考えは正しい しかし、ローレシアの勇者の伝説には 国家単位の大きな事が絡んでいるんだ そこへ、その国家すら動かす事も出来るヘクターの その娘が 万が一にもローレシアに捕まってしまっては困る …少し難しい話かもしれないが 君たちは とても大切な存在なんだ ヘクターにとっても 僕にとっても…」
ニーナが呆気に取られた後 首を傾げて言う
「お父さんは、いつも私たちに お前達は世界一の娘たちだ って言ってくれるの 私たちが 『大切な存在』だって言う お兄さんの言っているのは そう言う事?」
ヴィクトールが呆気に取られた後 軽く笑って言う
「うん、そうだね?その『世界一の娘たち』を ローレシアに奪われてしまったら ヘクターはとっても悲しむだろう?そして、きっと どんな事をしてでも 取り戻そうとする」
ニーナが微笑んで言う
「うん!お父さんはプログラマーのデスさんと一緒に 助けに来てくれるの!世界一の大剣使いと世界一のプログラマーで世界一の相棒の お父さんとデスさんなら きっとローレシアのお城も壊しちゃうくらいなのー!」
ヴィクトールの脳裏にローレシア城の破壊される風景が浮かぶ ヴィクトールが衝撃を受けて焦って言う
「ああっ!そ、そう、そう!だから それで 国家亀裂が生じてしまってっ アバロンとローレシアそれにデネシアが…っ ああ、いや、そうじゃなくてっ!」
ニーナが疑問して首を傾げる ヴィクトールが一息吐いて気を静めて言う
「とにかく 君たちだって ヘクターや 君たちのお母さんや 兄弟を 悲しませたくはないだろ?その為にも ローレシアへは行ってはいけない 他の国へ行くなとまでは言わない だから ローレシアにだけは 行かないで欲しい…」
ニーナがヴィクトールへ向いたまましばらく考える ヴィクトールがニーナを見つめる ニーナが間を置いて言う
「…お兄さんも 悲しいの?」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られた後 寂しそうに微笑んで言う
「ああ、僕も悲しむよ?そして、万が一その様な事態になって ヘクターが君達を救い出そうとするなら その時は僕も協力する しかし、そうならない事が一番だ …大切な人を奪われ それを取り戻そうとする事は とても難しくて とても… 辛いんだ…」
ヴィクトールが言葉を詰まらせ視線を落とす ニーナがヴィクトールの前で首を傾げる 間を置いてしゃがみ ヴィクトールの頬に手を触れて言う
「お兄さんの大切な人は まだ 取り戻せて居ないの?」
ヴィクトールがハッとしてニーナの顔を見る ニーナが視線が合わないまま言う
「私、目が見えないの でも、そのお陰で双子のミーナよりも 見えないモノが見えるんじゃ無いかって 良く言われるの お兄さんは今とっても寂しい気持ち… ずっとずっと… その大切な人は 今どこに居るの?寂しいのなら会いに行くと良いの!きっと その寂しい気持ちも 嬉しい気持ちに変わるから!」
ヴィクトールが呆気に取られる ニーナが笑顔を見せる ヴィクトールが悲しそうに笑顔を作って言う
「その人とは… 会えないんだ すぐ隣の国に居るのに 何処で何をしているかまで 分かっているのに…」
ニーナが首を傾げる ヴィクトールが気を取り直して言う
「それでも、彼は生きて居てくれている それなら、いつか再び 会える日が来るかもしれない …でも、君達の場合は ローレシアに捕まってしまったら その命まで危険に晒される可能性があるんだ、だから」
ニーナが立ち上って笑顔で言う
「大丈夫、私たち 移動魔法が使えるの!捕まっちゃいそうになった時は 移動魔法で逃げちゃえば大丈夫なの!」
ヴィクトールが困った表情で言う
「うん… それは そうかもしれないが…」
店の扉が開きミーナが出て ニーナへ声を掛ける
「ごめんニーナ、回復薬の種類が多くて 時間が掛かっちゃった」
ニーナがミーナの方へ向いて言う
「ううん、大丈夫なの お兄さんとお話してたから」
ミーナが疑問してニーナの前に居るヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが立ち上がりニーナへ言う
「分かった、それでは これを持って行ってくれ」
ニーナが疑問してヴィクトールへ向く ヴィクトールが宝玉の入った袋をニーナの手に握らせて言う
「この中には とても綺麗な宝石が入っている だが、誰にも見せてはいけない 万が一ローレシアに捕まった時には この宝石に強く願うんだ アバロンへ帰して欲しいと」
ニーナが疑問して宝玉の入った袋を触り確かめようとする ヴィクトールが立ち去ろうとする ニーナが慌てて言う
「お兄さん、ありがとうなの 私たちの旅が終ったら ちゃんとお返しするの!お兄さんのお名前は?」
ヴィクトールが立ち止まり振り返って言う
「君たちがアバロンへ戻れば 私には分かり 私が受け取りに行く それまで大切に預かっていてくれ」
【 ガルバディア城 】
ヘクターとオライオンがガルバディア城の前に居る オライオンがヘクターの後ろでガルバディア城と周囲を見渡し言う
「これがガルバディア城… なんっつうかー」
ヘクターが少し顔を動かしてオライオンへ向く オライオンが言う
「俺だったら ぜってぇー 住みたくねぇっ!」
ヘクターが笑って言う
「ああ、俺もだぜ アバロンとは正反対 まったく草も木もなくて 人も居ねー …こんな所に15年も閉じ込められてちゃ 可愛そうだよな?」
オライオンがムッとしながら言う
「一歩間違ってたら 俺がガルバディアに送られてたかも しれなかったんだろ?ったく 酷い父親だよなー?」
ヘクターが苦笑する プログラマーのホログラムが現れて言う
『そうなったのは 私とウィザードのデスを助ける為であった そして、我々が無事助かった事により その後のザッツロードの救出や 結界の問題も解消された ヘクターの選択は 最良の選択であったと言える』
オライオンがプログラマーへ向き表情を渋らせる プログラマーがオライオンへ向いて言う
『だが、例え最良の選択であったとしても その為に その身を犠牲にされざるを得なかった お前の兄は 今頃我々を憎んでいる可能性は十分にある』
オライオンがヘクターへ向く ヘクターが顔を上げ目を閉じて言う
「俺の兄貴であるウィザードのデスは 昔ガルバディアから自由になったら 一番に 自分をガルバディアへ送った親父を探し出して 復讐するつもりだったらしい、今回も理由はなんであれ 状況は同じだ あいつは俺を憎んでるに決まってる」
オライオンが視線を落とし考えてから ガルバディア城を見上げる ヘクターが歩き始める オライオンが慌てて追いかけて問う
「そん時は どーすんだよ!?俺の兄貴が 親父を攻撃して来るんだろ!?ガルバディアで 何んかの実験にされてんなら!…もし、あのウィザードみたいにされてたら 親父とデスのプログラムで戦っても!」
ヘクターが笑んで言う
「俺は戦わねーよ、当ったりめーだろ?俺の手であいつを これ以上傷つけたりしたら 3日間飯抜き所じゃなくなっちまう」
プログラマーが苦笑して言う
『あの時のタニアの怒りは 恐ろしいものであったな… 声を荒げる事もなく 静かに放たれた『3日間、ご飯抜きだからね』の言葉は 今まで私が聞いて来た中の どのような言葉よりも恐ろしかった』
オライオンが疑問する ヘクターが視線を向けないまま軽く笑んで言う
「言葉が怖かった訳じゃねーんだ、あの時の… タニアの心の痛みが 何よりも辛くて痛くってよ… タニアも色々知ってたから 俺のした事を 全力で非難出来なかったんだ」
オライオンが表情を困らせて言う
「じゃぁ、兄貴が 親父を殺そうとして来たら どーするんだよ?」
ヘクターが足を止める オライオンが疑問してヘクターを見上げる ヘクターが笑んで言う
「全力で 正面から受け止めるっ!」
オライオンが驚き疑問する ヘクターが両腕を広げて叫ぶ
「来い!迎えに来たぜっ!!」
オライオンが呆気に取られる ガルバディア城の上方の壁が吹き飛び ヘクターの広げられた両腕の胸に 白い翼を背に持つ シュライツが舞い降りる ヘクターがシュライツを抱き締めて言う
「遅くなっちまって悪かったな… やっと ガルバディア国王が 連れてって良いって 言ってくれたぜ… ごめんな… お前一人に…」
シュライツが顔を上げ ヘクターへ向き 分からない言葉で喋る ヘクターが呆気に取られる オライオンがハッとしてヘクターへ言う
「お、おい、親父!そいつが俺の兄貴なのか!?それで!?な、何って言ってんだよ!?」
シュライツが言葉を止める ヘクターが呆気にとられたまま オライオンへ向いて言う
「あ、ああ… えっと…」
ヘクターが再びシュライツへ向く シュライツが首を傾げる ヘクターが苦笑して言う
「お前、俺を… 許してくれるのか?」
シュライツが笑顔で何かを言う ヘクターが苦笑して言う
「う…ん?はは… まぁ良い、分かんねーけど、もし 許せなかったら いつでも復讐してくれよ 俺に」
シュライツが首を傾げる オライオンが呆気に取られた状態から微笑み 軽く笑って言う
「兄貴は 親父に復讐する気は ねぇってよ!」
ヘクターが驚きオライオンへ向く シュライツがオライオンの前に浮き 笑顔で何かを言う オライオンが笑顔でうなずく ヘクターとプログラマーが顔を見合わせ ヘクターがオライオンへ問う
「お、おい、オライオン!お前はっ こいつが何て言ってるのか 分かるのかよっ?」
オライオンがヘクターへ向いて言う
「当ったりめーだろ?こいつは俺の兄貴で 俺の世界一の相棒なんだぜ?な?」
シュライツが笑顔で何か言う ヘクターが呆気に取られ プログラマーへ向く プログラマーが呆気に取られた表情から微笑み言う
『言葉が伝わっているとは思えない、だが… 恐らく 彼らは伝わっているのだろう そして』
ヘクターとプログラマーの前で オライオンとシュライツが笑顔で会話をしている それを見てから プログラマーがヘクターへ言う
『2人とも 我々を許してくれたらしい 流石、世界一の父親であるお前の 息子たちだな?』
ヘクターが驚く プログラマーが笑んだ後 オライオンたちへ向く ヘクターがプログラマーの視線の先へ顔を向けて言う
「…はは、そっか 流石 俺の 世界一の息子たちだぜ」
オライオンとシュライツが笑顔で話を続けている
【 ツヴァイザー城 】
城門前 城の門が開く音に 門兵が振り返る リーザロッテがローブを纏い出て来る 門兵が呼び止めようとする リーザロッテが言う
「私よ」
門兵が一瞬考え すぐに驚いて言う
「姫様!?このような夜更けに如何なさいました!?」
リーザロッテが言う
「ちょっと用があるの 通してもらえる?」
門兵が一度道を空けようとするが 思い出した様にもう一度制して言う
「お1人で?護衛の者は連れてはいないのですか?」
リーザロッテが門兵の言葉に束の間沈黙し 案を巡らしてから門兵へ言う
「護衛は… すぐそこで待っているわ、近くだから大丈夫よ?」
門兵が心配しながら言う
「…そうですか では…」
リーザロッテが出来るだけ落ち着いてゆっくりと歩き 城下町へと急ぐ
城下町の門前で再びリーザロッテは門兵へ言う
「門の外に私の護衛兵を待たせているわ、通してもらえる?」
リーザロッテの堂々とした言葉に 門兵は疑いを持つ事無く返事をして門を開く リーザロッテが軽く礼を言って門を抜ける 共に出た門兵が見渡す限り 他の兵などは見えない 門兵が問う
「姫様、護衛兵はどちらに?」
門兵の言葉にリーザロッテは出来る限り落ち着いて振り返って言う
「すぐ… そこよ?」
リーザロッテの言葉に門兵はもう一度辺りを見渡してから問う
「そこ…と申されますと?私の目には…」
リーザロッテが答える
「そこの…正面の角を曲がった所に」
リーザロッテが指差すその場所は門からだいぶ離れている 門兵は疑問しながらも仕方なく言う
「では、あの角までご一緒いたします 見える範囲ではありますが、万が一にも魔物が飛び出した際 ここからでは間に合いません」
リーザロッテがギクッと一瞬息を飲んでから言う
「大丈夫よっ!あなたは門を閉めて町を守って頂戴」
リーザロッテの言葉に門兵は顔を横に振って言う
「町も大切ですが、姫様はもっと大切です ご安心を、門兵は私の他にも控えておりますので」
門兵の言葉にリーザロッテは仕方なく 隠していた槍に手を掛けて言う
「そう… ありがとう、あなた優しいのね」
リーザロッテが門兵から少し離れ顔を向けて微笑む リーザロッテの言葉に門兵は安心して微笑する 次の瞬間 リーザロッテが力一杯 槍の柄を門兵の腹に叩き付ける 門兵が悲鳴を上げる
「ぐあっ!!」
リーザロッテが言うと共に駆け出す
「ごめんなさいっ!」
門兵が腹を抱えうずくまりながら必死にリーザロッテを呼ぶ リーザロッテは振り返る事無く走って行く リーザロッテが門兵の視界から消えた頃 門兵の横に2頭の馬がやって来る 門兵が言う
「姫様がっ」
門兵が短い言葉と共に道の先を指差す それを見たレイトとヴェインが頷き合い馬を走らせる 道の先一度曲がった更に先にある分かれ道 レイトとヴェインは二手に分かれる
リーザロッテが城下町の光が届かない場所まで走り切った所で上がる息を整えて言う
「はぁ はぁ… 強く叩いてしまったけど… 大丈夫よね?」
リーザロッテが心配げに一度後方を見てから気を取り直して前方へ視線を戻す その横で草の茂みが動く リーザロッテがハッとして槍を構える 魔物化した狼が迫ってくる リーザロッテが慣れない槍を構え言う
「く、来るなら 来なさい!」
狼が唸り声を響かせる リーザロッテは槍を構えたまま周囲を見て息を飲む 狼がリーザロッテに襲い掛かる 正面から牙を剥いて襲い掛かる狼に リーザロッテが槍を振るう 細身の槍が狼に当たる しかし大したダメージを与える事は出来ず 狼は体制を立て直し再び牙を剥く リーザロッテが一歩後退り言う
「ど、どうしたら…っ」
リーザロッテが今まで見てきた兵士や父の槍術を思い出すが槍を持つ手は汗ばみ震える 狼が再び襲い掛かって来る リーザロッテが狼の攻撃に槍を振い 再び狼の攻撃から身を守る そこへ更なる眼光が光り 次々と狼が集まり群れになる リーザロッテが焦り槍を握り締め後退り息を飲む 狼たちが襲い掛かろうとする その時レイトの声が響く
「姫様!!」
リーザロッテが振り返って叫ぶ
「レイト!?」
颯爽と現れたレイトは馬から飛び降りて リーザロッテの前に立ち 槍を構えて言う
「私の後ろから離れないで下さい!姫様っ」
リーザロッテが戸惑いながら言う
「え、ええ!」
狼の群れを相手に レイトは怯む事無く華麗なる槍術を見せる リーザロッテが思わず見惚れる さほど時間を掛ける事無く狼の群れを退治する 戦いを終え レイトが構えを解除する リーザロッテが大絶賛で言う
「すごい…っ すごい すごい!すごいわ!レイト!!」
リーザロッテの声に振り返ったレイトへ リーザロッテが抱き付く レイトが驚き硬直して言う
「ひ、ひめさまっ」
リーザロッテが笑顔で言う
「レイト!私、貴方がこんなに凄いなんて知らなかったわ!あ、違うのよ!?貴方が強いって事は知ってたわ!でも あんな狼の群れを たった一人で退治してしまうだなんて!」
リーザロッテが興奮がひと段落させレイトから離れ 自分の持つ槍を見てから言う
「やっぱり!ツヴァイザーの槍使いは凄いわっ!こんなに強い騎士を誘いに来ないだなんて、ローレシアの勇者の目は節穴よ!」
リーザロッテが言いながら手放していた荷物を拾ってから道を歩き始める レイトが慌てて呼び止める
「姫様!」
リーザロッテが立ち止まる レイトがリーザロッテの前へ向かい跪いて問う
「姫様、お怪我はございませんか?」
リーザロッテが戸惑いながら答える
「え… ええ 怪我は 無いわ」
リーザロッテが視線を逸らす レイトがホッと胸を撫で下ろして言う
「そうでしたか、ご無事で何よりです」
リーザロッテが間を置いて問う
「…怒らないの?」
レイトが呆気に取られて言う
「は?」
レイトが間を置いて気を取り直して言う
「姫様のご出立に もっと早く気付くべきでした、申し訳ありません」
リーザロッテが驚いて問う
「どうして!何でレイトが謝るのよ!?」
リーザロッテがレイトへ視線を向ける レイトが軽く微笑んで言う
「姫様の有言実行は 私が護衛の任へ付いた当時から変わらぬもの それに気付けなかったのは 私の失態です」
リーザロッテが間を置いて言う
「… 私を連れ戻すの?」
リーザロッテが言うと共に一歩レイトから遠ざかり槍を構える レイトが自分へ向けられている矛先を見つめ 続けて その持ち主の手元へと目を向ける レイトが立ち上がる リーザロッテがレイトの動きに再び槍を構え直して言う
「近付かないで!」
とっくに槍の間合いに入られているにも関わらずリーザロッテが叫ぶ レイトがリーザロッテの槍を持つ手を示して言う
「姫様、武器は 素手で持ってはいけません 手を傷つけてしまいます」
レイトが言うと共に視線を上げ優しく微笑む リーザロッテが困り 視線を巡らせて返す言葉を捜し戸惑いながら言う
「で、でも… 昔の貴方は素手で持っていたでしょう?」
レイトが一瞬驚き微笑んで言う
「ご存知でしたか はい、あの頃私は長時間槍を扱っていられる様にと わざと負担を与え 手を鍛えていたのです」
リーザロッテが視線を落として言う
「…そうだったの」
レイトが優しく言う
「旅をなさるのでしたら 例え武器を持たずとも 手を守るものを していた方が良いですよ?」
リーザロッテが寂しそうに言う
「私の知らない事ばかりね… 魔物を相手にした時も どうしたらダメージを与えられるのか 分からなかったわ…」
レイトが軽く笑って言う
「初めて槍を手にして、身を守られただけでも 大したものです」
リーザロッテが静かに言う
「慰めは要らないわ」
レイトが気を取り直して言う
「慰めではありません、槍は 扱うのが一番難しい武器だと言われています それを操り身を守る事は 決して簡単な事ではございません」
リーザロッテが一瞬驚いた後 寂しそうに微笑んで言う
「そう… ありがとう…」
レイトが心配して言う
「姫様…」
落ち込んでしまったのではないかと心配するレイトが何とか元気付けようと声を掛けようとした時 リーザロッテがパッと表情を切り替えて言う
「それじゃ!私、急がなきゃ!」
レイトが呆気に取られて言う
「え?」
リーザロッテが笑顔で言う
「私は戦えないって事が分かったのよ!だったら、早く強い仲間を手に入れないと いけないでしょ?」
リーザロッテが歩き始める レイトが驚いたまま言う
「え?いや、その…!?姫様?」
リーザロッテが立ち止まり振り返って言う
「私、行くわ!レイト?この馬をもらえるかしら?馬で行かなければ また魔物に襲われてしまうもの!」
リーザロッテが馬の横まで行った所で レイトが声を上げる
「お待ち下さい!姫様!」
リーザロッテが馬に乗ろうとする レイトが馬の手綱を握り止めて言う
「姫様!」
リーザロッテがレイトへ向いて強気に微笑んで言う
「レイト、私、必ず強い戦士を集めて見せるわ!ツヴァイザーの勇者になって この世界を救うのよ!」
レイトが一瞬視線を落とした後 リーザロッテへ向いて言う
「でしたらっ 私をお連れ下さい!」
リーザロッテが驚いてレイトへ顔を向けて言う
「え?」
レイトが表情を強めて言う
「私が共に参ります!他国の者に…っ 姫様を預ける事など出来ません!」
リーザロッテが呆気に取られた表情で問う
「レイト… 来てくれるの?」
レイトが苦笑して言う
「姫様が お戻りになられないのでしたら こうするしか有りません、私が… 姫様をお守り致します!」
【 北の世界 ローンルーズ 】
バッツスクロイツがバスルームから出て言いながら ダイニングルームへ向かう
「デースー?今日はフレークじゃなくて トーストでー バターは要らないから」
向かった先 テーブルの上に朝食の用意がされている バッツスクロイツがテーブルに着くとアンドロイドのデスがトーストを運んで来る バッツスクロイツがモニターを見ながらトーストを食べる 続けてコーヒーカップを見ないまま手に取って口に運ぶ 中身に驚いて吹き出す バッツスクロイツが怒って言う
「こら!デス!昨日の夜も言っただろ!?俺に持ってくる飲み物はコーヒー… はぁ… まぁいっか…」
服を着替えたバッツスクロイツが玄関前でアンドロイドのデスへ言う
「今日はいつも通りの時間に帰るから、9時過ぎても心配するなよ?」
バッツスクロイツが家を出て行く アンドロイドのデスがそれを見送る
アンドロイド研究室
人間と見分けが付かない最新のアンドロイドが並ぶ バッツスクロイツが診察台の上に横たわっているアンドロイドへ近付く 5人ほどの部下が続く バッツスクロイツがアンドロイドを見ながら言う
「それで?このアンドロイドの症状は?データチェックには 何も引っかかってないんだろ?」
部下が答える
「はい、身体機能、AI、共に正常です」
バッツスクロイツがアンドロイドの横に立って言う
「じゃ、どこがおかしいって?」
バッツスクロイツが 置かれているカルテを見る 部下が答える
「オーナーからの説明では『自分の思っている通りに動かない』との事です」
バッツスクロイツが部下の言葉を聞いて 表情を歪ませ部下へ向き直って問う
「それって、やっぱり その『思っている』って事を 教えていない状態で の話だよな?」
部下が戸惑いながら言う
「…恐らくそうだと思います」
バッツスクロイツが言う
「返却!」
バッツスクロイツがカルテを叩きつけながら声を荒げる
「教えていない事は出来ないって伝えとけ!」
部下が空かさず言う
「それは言ったのですが… 常識的な事が出来ないと…」
バッツスクロイツが振り返って問う
「その『常識的な事』って?」
部下が焦りながら言う
「はい… 喉が渇いた時に飲み物を持ってこない、見たい時に モニターを出さない、着たい服を用意しない、起きたいと思った時間に起こさない… 等です」
バッツスクロイツが呆れて言う
「はぁ?何だそれ!?こっちなんか 何百回言って作り方を教えたって コーヒー持って来ないぞ!?」
部下が首を傾げて言う
「は?」
バッツスクロイツが溜め息を吐いて言う
「…はぁ、とにかく返却!そーゆー事は出来ないって 分かるまで言っとけ!…次は?」
バッツスクロイツが気を落ち着かせて 隣の診察台へ移る 部下が言う
「こちらは身体能力が低いとの事で、パワーを上げて欲しいそうです」
バッツスクロイツが一度部下へ視線を向けた後 アンドロイドを見ながら言う
「パワー?AT460-THだろ?パワーもスタミナもそこそこ有る筈だ、間接部品の消耗か?」
バッツスクロイツが周囲の検査用機械を操作し始める 部下が書類を見ながら言う
「いえ、間接部品は前回の定期点検で異常なしとの事で、オーナーが言うには… 移動マシーンの駐車時に マシーンを持ち上げ 駐車スペースへ置ける様にと…」
バッツスクロイツが操作を止め 苛立ちを再発させ怒鳴る
「クレーンマシーンでも買えって言っといてっ!次っ!」
バッツスクロイツがイライラしながら次の診察台へ移る 部下が直ぐに答える
「こちらは 毎日違う顔になる仕様に 改造して欲しいとの要望なのですが…」
バッツスクロイツが怒りを押し殺す
「~~~っ!!」
バッツスクロイツの自宅、アンドロイドのデスが部屋の掃除をしている バッツスクロイツが帰って来る バッツスクロイツの不機嫌な帰宅の挨拶 アンドロイドのデスが時間を確認する バッツスクロイツが部屋に入って来てイライラしながら上着を脱ぎ捨ててソファへドサッと腰を下ろす アンドロイドのデスが掃除の手を休めバッツスクロイツの上着を拾ってクローゼットへ向かう バッツスクロイツが片手で額を押さえ呻きながらソファの背にもたれて天上を見上げ愚痴を始める
「まったく!どいつもコイツも!アンドロイドを何だと思ってるんだ!?自分の脳ミソん中まで分かるとでも思ってんのかっつーのっ!」
バッツスクロイツのもとへ デスがマグカップを持ってくる バッツスクロイツがそれを受け取り、中身を確認せずに口へ運び音を立てて飲んだ後、カップを片手に地面を見据え 間を置いて言う
「………ん?」
バッツスクロイツが顔を上げカップにわずかに残る中身がコーヒーだった事に驚き呆気に取られて言う
「デス…お前…」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げる アンドロイドのデスは何もせずにバッツスクロイツの前に居る バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見た後 微笑して言う
「はは… 何百回言ったって記憶しなくって、何~の改良もしてないのに… 何で変わったんだ?お前…」
バッツスクロイツがカップをアンドロイドのデスに返す アンドロイドのデスがカップの返却へ行く バッツスクロイツが1つ息を吐く アンドロイドのデスが戻って来るとバッツスクロイツが言う
「…父さんが初めてアンドロイドを発明した時は 皆すっごい喜んで… ただ 人と同じ様に立って、歩いただけでも 大喜びしたって話だ、それなのに…いつの頃からか、それが当たり前になって、命令すれば何でもやる様になって… それが当たり前になって、今度は…」
バッツスクロイツが言葉を切って 自分の前で聞いているアンドロイドのデスを見て言う
「俺には分からないよ 何で皆、何でもかんでも出来る様にしたがるんだ?何で満足出来ないんだろ?俺は…そうだなぁ 強いて言えば お前と話でも出来たら 良いかも…」
バッツスクロイツが言いながら苦笑する アンドロイドのデスは無言のままで居る バッツスクロイツが気付いた様に言う
「…って?あれ?そう言えば、俺が子供の頃から お前は話さないのが当たり前だったから そんなアンドロイドの初歩的な事 考えてもみなかった」
バッツスクロイツが勢いを付けて立ち上がって言う
「よし!仕事エスケープして来ちゃったし!折角だから 今日はお前のヴァージョンアップでもするか!そうとなれば まずは… お前の設計図を探さないと!」
バッツスクロイツが機嫌よく別の部屋へ向かう アンドロイドのデスがその後姿を見つめる
バッツスクロイツが書類棚を確認して言う
「おっかし~なぁ~?」
バッツスクロイツが書類を1つ抜き出し 少し見て床へ落とす 床には既にいくつもの設計図が落ちており アンドロイドのデスが それを部屋の片隅へ積んで行く バッツスクロイツが首を傾げて言う
「ちゃんと型式順に並んでるのに… 試作機の設計図はここじゃないのか?…あぁ、もしかして」
バッツスクロイツが部屋を移動する アンドロイドのデスがそれに続く
バッツスクロイツとアンドロイドのデスがエレベーターで地下へ向かう バッツスクロイツが言う
「旧研究施設に置きっ放しなのかな?」
バッツスクロイツが辿り着いた先でエレベーターを降り、古い研究施設を進む バッツスクロイツの一歩後ろを歩くアンドロイドのデスは何かを知っている様子で少しためらっているバッツスクロイツはそれに気付かない バッツスクロイツとアンドロイドのデスが 長期間使われていない様子の研究施設の手動扉を開けて入り 大きな机の上にある大量の紙の山を漁り始めて バッツスクロイツが言う
「歴史的大発明アンドロイド試作機の設計図が無いなんて… どう言う事だ?これじゃ~ どこにAI直結の回路があるか 分かんないんだよな~?」
バッツスクロイツが困った様子で腕を組んで考える アンドロイドのデスが相変わらず片付けをする バッツスクロイツが1つため息を吐いて アンドロイドのデスを見て言う
「仕方ない、分解して確かめるか」
バッツスクロイツが言ってアンドロイドのデスへ近づく アンドロイドのデスは無言のまま立ち尽くす バッツスクロイツが後一歩のところで立ち止まって言う
「あぁ、ここで止めたら 俺が運ばなきゃいけないや… ファクトリーの研究室は使えないし~ ここの施設で大丈夫かなぁ?」
バッツスクロイツが言いながら別の部屋を確認する為に部屋を出て いくつかの部屋を確認していると 一箇所他と違う場所がある バッツスクロイツが首を傾げて言う
「あれ?なんだ?ここ?アンドロイド開発の部屋じゃないみたいだ?」
バッツスクロイツが不思議そうに中へ入り 更に続く扉を見つける 扉を開けると その先は暗い洞窟になっている バッツスクロイツが一度戻ってライトを片手に戻って来て 中を照らしながら言う
「…こんな場所があるなんて 知らなかった そう言えば…」
バッツスクロイツが言葉とともに振り返って言う
「この部屋って 俺が物心付いた頃には いつも鍵が掛けられてたっけ…?」
バッツスクロイツが視線を前方の洞窟へ向ける 一瞬怯んだ後 意を決して歩き出す バッツスクロイツの後ろからアンドロイドのデスが付いて来る 進んで行った先に光るものが見えて来る バッツスクロイツがその光の強さに目を細めて 光の元である宝玉へ近付いて言う
「…なんだ?これ」
バッツスクロイツが触れてみようと手を伸ばす 寸での所で引っ込め しばらくじっと眺め 間を置いた後 おもむろに宝玉を手に取って言う
「おっ?…大丈夫だ ガラス玉?中にLEDでも?」
バッツスクロイツが様々な角度から眺めて 分からない様子で首をかしげる やがて元に戻そうと宝玉のあった場所にある 魔力穴を見る そこにガルバディアのCITCが付いている バッツスクロイツが言う
「あれ?CITCじゃないか?何でこんなのが…」
バッツスクロイツが手を伸ばそうとする その手が掴まれる バッツスクロイツが一瞬驚いて振り返る アンドロイドのデスがバッツスクロイツの腕を引く バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げて微笑んで言う
「大丈夫だって、旧式のCITCは放電式じゃないから 直接触れてもショートはしないんだ」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスの手を除けてCITCに触れる その瞬間 逆の手に持ったままでいた宝玉がCITCと通電して CITCがバッツスクロイツを吸い込む バッツスクロイツが驚いて声を上げる
「うわっ!?なんだ!?わああああ!!!」
アンドロイドのデスがバッツスクロイツの手を掴み 引き戻そうとするが共に飲み込まれてしまう
【 ? 】
バッツスクロイツが悲鳴を上げながら落下する アンドロイドのデスがバッツスクロイツを受け止める バッツスクロイツが言う
「…っつう~ 何だぁ?」
バッツクロイスがそのままの状態で周囲を見回す バッツスクロイツがアンドロイドのデスの腕から降り 1、2歩歩いて辺りを見渡して言う
「どこだ?うちの研究施設やファクトリーでも無いな?…どっかの提携会社とワープロードを結んでたのか?にしても 随分旧式な感じだ… ひょっとしてここも今は閉鎖された旧研究施設とかかな?」
バッツスクロイツが歩き始める アンドロイドのデスが後ろに続く バッツスクロイツが辺りを確認し 何かの端末を見つけて言う
「お?なんだ、電源通ってるじゃないか?」
バッツスクロイツが操作しながら言う
「随分古いシステムプログラム組んでるなぁ~ ここなんて… ターベルンやダンテの配列使ったら半分で済むのに」
バッツスクロイツが思わず改良して言う
「これで良しっ」
バッツスクロイツが操作を終えて笑顔を作る どこからか爆発音が響く バッツスクロイツが一瞬、息を飲んで驚いて周囲を見渡して言う
「な、何!?なになにっ!?」
バッツスクロイツが自分がやってしまったのかと焦りつつ システムを確認して自分のせいではないとホッと胸を撫で下ろして言う
「俺じゃ… ないよな?ふぅ びっくりした~ けど… 何だったんだ 今の?行ってみるか?」
バッツスクロイツが一度息を吐いてから 音のした方へ向いて言い歩き出そうとするが アンドロイドのデスがバッツスクロイツの腕を掴んで道を先行する バッツスクロイツが驚いて言う
「え?お、おいデス?どこへ連れてく気だ?おまえ、ここのデータでも持ってるのか?」
アンドロイドのデスは何も言わずにバッツスクロイツを連れて行く 建物の外へ出た2人 バッツスクロイツが今までに見た事の無い風景に驚いて言う
「な… なんだ?ここ…?上空モニターも 環境映像も 見た事のない物ばかり… まるで 別世界…ってゆーの?…ん?別世界…?」
バッツスクロイツがしばらく考え やがて思い出して言う
「まさか!あの『南の果て』にある世界ってやつじゃ!?」
バッツスクロイツが改めて 周囲の城壁の外にある 森林や空の雲を見渡し 歩きながら言う
「間違いない… 本物の植物が自生しているし あれは上空モニターじゃない… これが…」
バッツスクロイツが感心しながら歩いて向かった先 何かに気付いて そちらを指差して声を上げる
「あ、デス!見ろよあそこ!人が…!」
バッツスクロイツの指差す先 ヘクターたちがシュライツと共に立ち去って行く バッツスクロイツが走り追いかける ヘクターたちがの門の先で ウィザードのデスと合流し 移動魔法でアバロンへ向かってしまう バッツスクロイツが門を出た時ヘクターたちは居なくなっている バッツスクロイツが首を傾げて言う
「あれ?居なくなっちゃったや… う~ん…?」
バッツスクロイツがどうしようか考える アンドロイドのデスが歩き始める バッツスクロイツが声を掛ける
「あ、おいっ!?デス!?」
バッツスクロイツの声にアンドロイドのデスが振り返る バッツスクロイツがしばらく考えた後 一緒に歩き始めて言う
「まぁ、そうだな?折角だし… 行ってみるか?」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスと共に ガルバディア城を後にする
【 アバロン国 】
ヴィザードの移動魔法でヘクターたちが家の前に辿り着く ヘクターが家の扉を開けて入り言う
「タニアー!連れて来たぜー!俺とタニアの… 天使!なーんてな!?」
ヘクターがシュライツをタニアへ向ける タニアが驚きシュライツを見つめる シュライツが首を傾げてタニアを見つめる オライオンがシュライツの横に来て言う
「シュライツ!この人が俺たちの母ーちゃんだぜ?すげー美人だろ?」
ヘクターが照れながら言う
「だよなー!流石世界一の嫁さんだぜー!」
ウィザードとプログラマーが顔を見合わせ溜め息を吐く タニアが不思議そうにシュライツの羽を広げる シュライツが疑問する
ヘクターたちが食卓を囲っている ヘクターの横にタニア ヘクターの後ろに居るウィザードとプログラマー オライオンの横に居るシュライツ タニアがシュライツを見て言う
「色々と話に聞いていたから どんな身体にされてしまうのかと 心配していたけど…」
タニアの言葉に皆の視線がシュライツへ向く シュライツが手掴みで料理を食べている シュライツが皆の視線に顔を上げ疑問する タニアが苦笑して言う
「フワフワしているのはしょうがないとして、『身体が透き通って』いたり『触れられなかったり』しなくて良かったわ」
タニアの表情が笑顔になる ヘクターの後方の2人が衝撃を受ける ヘクターが笑顔で言う
「だろー!?しかも天使になったんだぜ?なんか縁起良いじゃねーか?」
オライオンがヘクターの言葉に疑問して 一度シュライツを見てからプログラマーへ問う
「なー?デス その、親父がずっと言ってる『天使』ってなんだ?」
オライオンの問いにプログラマーが向いて言う
『天使とは空想上の存在だ 神に仕える者であり 一般的に その姿は白い翼が背にある人の姿を 絵がかれる事が多い』
ウィザードが疑問し ヘクターがオライオンへ向いて言う
「なんだよ?オライオン お前、天使を知らなくて シュライツをシュライツって呼んでたのか?」
タニアが疑問して言う
「あら?シュライツのシュライツには 何か意味があるの?」
ヘクターがタニアへ向いて言う
「ああ、前のアバロンの王、ヴィクトール12世様の相棒の名前だぜ?何でもヴィクトール12世様は天使を飼っていたらしいんだ」
プログラマーが言う
『『シュライツ』とは古いアバロンの言葉で『天使』を現す言葉だ ヴィクトール12世が天使を飼っていたと言うその話は 本物の天使ではなく その名を付けられた生命体を 飼っていたと言う事なのだろう』
ウィザードが首を傾げて言う
「私はベネテクトの王から ガルバディアが天使を作っていた と言う話を聞いた そして、昔はベネテクト国内にも その天使が現れたとか…」
タニアが考えて言う
「それじゃ… アバロンの前の国王様が飼っていらしたと言う天使は ガルバディアの作った天使で 天使の姿に似ているから シュライツと言う名前が付けられたのね?」
プログラマーが頷き シュライツを見て言う
『そして 今度はそのアバロンの王が名付けた天使にちなんで この生命体がシュライツと名付けられた…』
ウィザードが首を傾げて言う
「元々は空想上のモノが時を経て 空想では無い生命体として 考えられる様になる… ガルバディア国王のやりたい事は その様な事なのか?」
皆の視線がプログラマーへ向く プログラマーが少し困ってから言う
『私は確かにガルバディア国王の複製ではあるが 本人では無い 彼が何を望み天使の姿の生命体を作っているのかなどは 分かりかねる』
ヘクターが軽く笑って言う
「本当は んなめんどーな事は 考えてねーんじゃねーか?」
プログラマーが問う
『では どの様に考えていると?』
ヘクターが笑顔で言う
「天使は元々は神様の遣いなんだろ?だったら『何となく縁起が良さそうだから!』とかよ?」
ウィザードが少し考えた後 笑顔になる プログラマーが呆れる タニアが苦笑して言う
「神様の遣いなら 確かに縁起は良いのかもしれないわね?」
ヘクターとタニアが笑う オライオンがムッとして言う
「それじゃ このシュライツは天使じゃねーよ!」
皆がオライオンへ向く オライオンが言う
「だって、天使は神様の遣いなんだろ?それって神様の相棒って事じゃねーか?このシュライツは俺の相棒なんだ!だから天使じゃねーよ!」
オライオンが言い終えると共にシュライツへ向く シュライツが疑問する プログラマーが軽く笑って言う
『天使は神様の相棒と言うよりは 配下だろうな?』
オライオンがムッとして言う
「なら尚更違うっ!」
ヘクターが軽く笑って言う
「まぁ、そのシュライツはお前の相棒なんだから 神様の配下でも相棒でもねーよ」
オライオンが軽く笑って頷き シュライツへ向く シュライツが笑顔で答える タニアが言う
「それにしても その大きな白い翼は ちょっと目立ってしまうわね 旅に連れて行くのなら デスの様にローブか何か羽織っていた方が良いみたい」
皆の視線がウィザードへ向く ヘクターがシュライツへ向いて言う
「そうだな、その羽みたいに目立つ色は 魔物にも襲われやすいし 物珍しいから 誰かに持ってかれちまう かもしれねーな?」
シュライツが衝撃を受けて怒る オライオンがムッとして言う
「誰かに持ってかれるなん事はねーよ!俺が守ってやるんだ!」
皆が微笑む プログラマーがホログラムのモニターを表示させながら言う
『その旅立ちの日は近い ローレシアの3代目勇者の現在のルートから考えると 明日にもこのアバロンへ訪れるだろう』
ヘクターがプログラマーへ向いて言う
「ニーナとミーナの居場所は分からねーのか?」
プログラマーがホログラムのモニターを増やしながら言う
『私が確認出来るのは各国の宿のデータのみだ ローレシアの勇者らの場合は分かるが 機械化のされて居ない宿に泊まられては 分かりかねる 今夜のデータで確認する範囲にニーナやミーナの名は存在しない』
ウィザードがプログラマーへ問う
「何故ローレシアの勇者らの場合は分かると言い切れるのだ?機械化のされて居ない宿に泊まれば 彼らの場合でも分からなくなる」
プログラマーが苦笑して言う
『ローレシアの勇者はローレシアの王子だ 機械化がされて居ない程の 設備の低い宿には宿泊しない』
ウィザードが納得する ヘクターが笑んで言う
「そういやー ザッツたちと一緒の時は良い宿に泊まれて 良かったよなー お陰で他国でも …まぁ アバロンほどじゃーなかったけど 中々美味いモンも食えたし」
オライオンが疑問して言う
「なー?勇者様は世界を救う旅をしてるんだろ?そんな 金持ちの旅みたいな事で良いのかよー?」
プログラマーが苦笑して言う
『金持ちの旅…と言うほどの物では無いが 少し上のランクと言ったところだ』
オライオンが考える タニアが思い出して言う
「あ、そう言えば ヘクター、今日 貴方の『親しい友人』だって言う人が 貴方を尋ねて来たの」
ヘクターが疑問して言う
「あ?親しい友人?」
タニアが頷いて言う
「ええ、お名前を訊こうと思ったのだけど 聞けずに終ってしまって…」
ヘクターが首を傾げて言う
「親しい友人かー?う~ん…」
タニアが考えながら言う
「ローブを纏っていたから お顔が見えなくて… でも何処かで聞いた事がある声をしていたの 私何処で聞いたのかしら?とっても優しい声の方だったわ それと… ちょっと、おっちょこちょいさんみたいな 愛嬌もある感じで!」
タニアがくすくす笑う ヘクターが疑問する ウィザードがプログラマーへ向いて問う
「お前の力で タニアの言う様な人物を探せないのか?」
プログラマーが不満そうな表情で言う
『お前たちの情報は 常に直感的過ぎて 私は嫌いだ』
ウィザードが疑問して言う
「お前のその言い方を 私は何処かで聞いた事がある」
プログラマーが呆れて言う
『お前の真似だ』
ウィザードが首を傾げる プログラマーがタニアへ向いて言う
『それで、どの様な会話をしたのだ?『ちょっと、おっちょこちょいさん』まで判ると言う事は 体感時間にて おおよそ5分以上の会話をしていた可能性が高い』
タニアが考えて言う
「えっと… ヘクターは何処か?ってお話から シュライツのお話や ローレシアの勇者様のお話や …アバロン城襲撃予定のお話かしら?」
プログラマーが衝撃を受ける タニアが思い出そうと考え続ける ヘクターが向いて言う
「誰だか分かんねー奴と そんだけ長く話して居られたって事は 結構、面白い奴だったんだろーな?」
タニアが笑顔で言う
「ええ、お話している間も 良く驚いてくれたり 慌ててくれたりするから 何だかとっても楽しくて」
ヘクターとウィザードが笑顔で肯定する プログラマーが呆れる タニアが思い出して言う
「あ!それから!名前を呼んで助けを求めたりもしていたみたい?えっと… そう!『あぁー こんな時!バーネット!君が居てくれたらーっ!』って!」
タニアがくすくす笑う ヘクター、ウィザード、プログラマーが同時にハッとする
【 アバロン城 】
玉座の間 ヴィクトールが頭を抱えている 隣の玉座にレリアンが座っていて 横目にヴィクトールを見て薄っすら微笑む 家臣A、Bが顔を見合わせ 浮かない表情でヴィクトールへ視線を向ける 家臣Cが慌ててやって来て 家臣たちへ情報の共有をして騒ぐ レリアンが視線を向ける 家臣たちがヴィクトールのもとへ向かい声を荒げる
「ヴィクトール陛下!ローレシアが!」
ヴィクトールは無反応 家臣たちが顔を見合わせる レリアンが言う
「ローレシアが?何かあったのですか?」
家臣たちが焦り再び顔を見合わせる レリアンがムッとして言う
「報告を続けなさい 命令です!」
家臣たちが困り ヴィクトールを見る ヴィクトールが1つ息を吐いて言う
「報告を頼む」
家臣たちがヴィクトールへ向いて言う
「ローレシアが…っ べ、ベネテクトへ融資を!ベネテクトがっ」
ヴィクトールが顔を上げる 家臣Cが言う
「ベネテクトが ローレシアと 友好条約を 交しました!」
ヴィクトールが息を飲み言葉を失う レリアンが驚いて叫ぶ
「なんですって!?どう言う事です!?詳しい報告をなさい!」
家臣たちがレリアンへ向いて 家臣Aが言う
「詳しい事は分かりません これはローレシア国とベネテクト国の外交となりますので」
家臣Bが言う
「我々に分かるのは 公表された両国の情報のみとなります」
レリアンがヴィクトールへ向いて叫ぶ
「ヴィクトール陛下!今すぐベネテクト国のあの者へ連絡を!詳しい情報を確認するべきです!」
ヴィクトールが間を置いて言う
「連絡は… 必要ない」
レリアンが驚いて言う
「陛下!ベネテクトは このアバロンへ謙譲された国です!仮の王であるあの者が ローレシアと友好条約を交すなど!その様な事を 勝手に行わせると言うのは!」
ヴィクトールが言う
「友好条約は条約と呼ばれているだけで 実際は国王同士の口約束の様な物だ 平和条約とは異なり 友好条約を交した国への攻撃も 逆に支援を強要する効力も無い 従って 友好条約をどの国と交すかは その国の王と相手国の王との問題になる ベネテクト国が仮にアバロン国へ謙譲されていようとも 交してはならない等と 取り締まる事は出来ない」
レリアンが言う
「しかし 陛下!」
ヴィクトールが立ち上がり玉座の間を出て行く レリアンが声を掛ける
「ヴィクトール陛下!?どちらへ!?ヴィクトール陛下!!」
ヴィクトールが立ち去る
ヴィクトールがアバロン城のバルコニーへ出て城下町を見下し溜め息を付く ウィザードが現れ言う
「オライオンから伝言だ『ローレシアの勇者様の王様旅行に付き合うより 俺は世界一の相棒と2人で 魔王を倒す方法を見つけ出す』…と?」
ウィザードが首を傾げる ヴィクトールが視線を向けないまま言う
「デス… 君ならどう思う?」
ウィザードが疑問する ヴィクトールが悲しげに微笑んで言う
「君の一番の友人だと思っていた者が 君の父親を殺した国の王女と結婚して 君の国を奪って… 君が命を掛けて その友人の国を助けてあげたと言うのに その友人は君に何の恩返しもしてくれないんだ」
ウィザードが間を置いて言う
「その友人は 私から何もかも奪って行くのだな 私の父親も 私の居場所も 私の命さえも」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「そうだね… 全て奪って行ってしまう 最低な友人だ…」
ウィザードが問う
「その様な者は 友人ではなく 敵と言うのでは無いのか?」
ヴィクトールが一瞬驚いた後悲しそうに微笑んで言う
「そう…だね… 友人でも何でも無い… 敵だ…」
ウィザードが首を傾げて言う
「だが私なら、まずはその友人のもとへ行き 何故私にその様な事をするのかを問う その上で合意が得られなければ その場で縁を切れば良い」
ヴィクトールがウィザードを見上げて言う
「まずは友人のもとへ… そうだね最初から 彼と共に話し合って決めていたら良かったんだ 彼なら分かってくれるからなんて 勝手に考えて 勝手に決めてしまったから… あの時ちゃんと2人で話し合ってさえいれば もしかしたら もっと良い案も見付かったかもしれない 例え同じ結果であったとしても 少なくとも 連絡が途切れる前に 一度はちゃんと話が出来たんだ…」
ウィザードが言う
「今からでも話をしに行けば良い お前が友人で居たいと思うのなら 理由を述べて謝罪をすれば 例え許されなくとも お前の気持ちは相手に伝わる」
ヴィクトールがバルコニーの手すりに顔を埋めて言う
「もう… 無理だよ… 彼はローレシアと友好条約を交した ベネテクト国建国当時から ローレシアは ずっとベネテクトへ条約を求めていた それを断り続ける事が ベネテクトからアバロンへの友好の証だったんだ それを交したという事 これは… バーネットが僕を見放したと言う事なんだ もうベネテクトの王はアバロンの王のために 道を塞ぐ事は無い」
ウィザードが問う
「…お前たちはアバロンの王とベネテクトの王として友人なのか?それともヴィクトール13世とバーネット2世として友人なのか?」
ヴィクトールがハッとしてウィザードへ向く ウィザードが首を傾げる ヴィクトールが視線を落として言う
「分…からない 彼は… でも、僕は… ずっと…」
ヴィクトールが俯き言葉を失う ウィザードが間を置いて言う
「答えが分かったら 謝りに行くと良い あの男は心の広い男だ 国王としてお前を許さなくとも 1人の人としてなら お前を許すかもしれない」
ウィザードが飛び去る
【 ベネテクト城 】
ベネテクト城の建設が行われている荒野に 鞭の音が響く 重い石材を運んでいた巨人族の奴隷たちがビクッとすくみ上がり 音の方を見る 石材を落として壊した巨人族Aがバーネットの足元に跪き 恐ろしさに震えながら謝っている バーネットがその前で鞭を片手に 腰にレッドレイピアを携え 再びその鞭を床に振るう 響く音 周りの奴隷たちも恐ろしさに震える バーネットが怒鳴る
「これで何度目だっ!!石材は ひとっつも無駄には出来ねぇって 何度言ったら分かりやがるっ!!」
再び響く鞭の音 巨人族Aの悲鳴に近い謝罪声
「す、すみませんでしたっ バーネット陛下っ も、もう2度と…」
周囲の奴隷達がさらに震え上がる バーネットが声を荒げる
「俺は意味のねぇ謝罪なざ 聞きたかねぇんだよ!出来るのか出来ねぇのかって それを聞いてんだぁあ!!」
再び振り上げられた鞭 奴隷たちが我が事のように縮こまり目を瞑る そこにベーネットの声が響く
「お待ち下さいっ!」
奴隷たちがぱっと表情を明るめて声の方を向く ベーネットの登場に バーネットが1人眉を顰める ベーネットがバーネットと巨人族Aの間に立って言う
「この者は この数週間、1日も休まず作業を行っています 体力も限界に近いのです」
バーネットが冷たい微笑で言う
「ハッ!だから何だぁ?数週間だろうが、一年だろうが デネシアの奴隷が毎日働く事の 何がおかしい?」
バーネットが鞭を肩に掛け首を傾げる ベーネットがバーネットの言葉に怒りを覚えつつ 怒りを押し殺して言う
「これだけの重労働を架しているのです 彼らへ休みを与えるべきです」
ベーネットの言葉に周囲の奴隷たちが表情を明るめる バーネットがその様子に表情をしかめて言う
「そうか?なら簡単だ… 代わりに てめぇが働け?」
周囲にどよめきが走る ベーネットが表情を顰める バーネットが笑んで言う
「こいつを休ませたかったら、てめぇが代わりに働くんだ それなら俺は文句はねぇ …もっともぉ?」
言葉を切って 続ける
「お前の貧弱な体で この石材を運べるのかぁ?」
バーネットがニヤリと笑う ベーネットが言葉を失う バーネットが笑う 周囲の奴隷たちが消沈する 巨人族Aがバーネットを見ている バーネットがそれに気付き鞭を振り上げ言う
「何見てやがる?そんなに コイツが欲しいのかぁあっ!?」
バーネットが鞭を振り下ろす 巨人族Aが痛みに備え強く目を瞑る 鞭の音が響く 巨人族Aが自身に来ない痛みに 恐る恐る目を開く 巨人族Aを庇ったベーネットが鞭に打たれ痛みを堪えつつ バーネットを見上げる その強い目線にバーネットが笑う
「ほう?良いぜ?お前が替わりに 打たれるってぇのもよぉお!」
続けて何度も鞭が振るわれる 奴隷たちが目を背ける 度重なる鞭にベーネットが膝を付く バーネットが笑う 奴隷たちが絶望する 笑いを収めたバーネットが周囲を見渡して言う
「…何してやがる?さっさと作業を続けろ!てめぇらも 打たれてぇのかぁあ!!」
奴隷たちが逃げるように作業へ戻って行く 1人の奴隷が走り出すと共に足を絡ませ転ぶ バーネットがその背後に立つ 奴隷がバーネットを見上げ声を引きつらせる
「ひぃっ!」
バーネットの鞭を持つ手が持ち上がる 奴隷が目を瞑る バーネットの声がする
「うッ!?」
予想外の声に 奴隷が目を開き見上げると 自分の前に立つバーネットの体からレッドレイピアの刃が突き出ている バーネットが自身の後ろへ視線を向ける レッドレイピアはバーネットの背から刺された形になっている バーネットを攻撃したベーネットが極度の緊張に息を切らせている
「…はぁ…はぁ…っ」
バーネットが表情をしかめて言う
「て…めぇ……」
バーネットが声を絞り出すと ベーネットが言う
「これ以上… 彼らを苦しめる事は 許さないっ たとえ大金を払って雇った …貴方の嫌いなデネシアの者であっても!彼らはこの世界に生きる 全ての生命と同じ 尊い命を持つ者たちなんだっ!」
言い終えると共に引き抜かれるレッドレイピア バーネットの口から鮮血が吐き出され膝を付く レッドレイピアに塗られたベネテクト王家の毒が体に回り 目の瞳孔が散大する 傷口からも大量の出血が起き バーネットが倒れる 周囲にどよめきが起こる いまだ息を荒くしていたベーネットが その息を整えて言う
「この者を 我らの国から追い出せっ!」
奴隷たちから喝采が上がる
「ベーネット陛下だ!」「ベーネット国王陛下の誕生だ!!」「ベーネット陛下万歳!!」
奴隷たちが喝采を上げながらバーネットの体を軽く持ち上げ 皆で城の門まで共に行き バーネットを城門の外へ放り投げる バーネットの体が城の外へ叩きつけられると再び喝采が上がり 普段は閉められる事の無いその扉が音を立てて閉ざされる 閉ざされた扉の内側に立っていたベーネットは 閉じていく扉の隙間に 自分がその命を奪った バーネットの姿を見つめている
【 ツヴァイザー国 】
リーザロッテとレイトがツヴァイザー国の最南端の町に辿り着く 朝市でにぎわう町の中に紛れ込んで リーザロッテがレイトへ問う
「旅には何が必要かしら?」
リーザロッテの問いにレイトが答える
「この町からスプローニまでは さほど距離がありませんので 2日程の水と食料、それと万が一に備え薬が少しもあれば十分かと」
リーザロッテが頷き近くにあった薬屋を眺める リーザロッテが物珍しそうに物色する レイトが見守る その後もリーザロッテからの質問に答えつつ 2人は買い物を終える
リーザロッテとレイトが朝市の場を離れ 町の門へ続く道を行く 道中 リーザロッテが開店準備を行う衣類店のショーウィンドーに飾られてる一着の鮮やかなドレスに目を奪われて言う
「素敵…」
リーザロッテが思わず口にして立ち止まる レイトが隣に立って言う
「きっと姫様にお似合いですよ」
リーザロッテがレイトへ振り返る レイトが軽く微笑む リーザロッテが微笑んで言う
「ありがとう でも 今は我慢しないとね?魔王を倒しに行く旅にドレスは不向きだし …凱旋の時に着ようかしら?」
レイトが笑顔で肯定する リーザロッテが思い出し、少し残念そうに言う
「…あ、でも お父様がお怒りになるわ お父様は派手なドレスを嫌うのよ」
リーザロッテの言葉にレイトが首を傾げて言う
「そうなのですか?」
リーザロッテが肩の力を抜いて言う
「ええ、だからお母様も いつも地味なドレスを着ていらしたわ お父様はね?とっても心配性なのよ?綺麗なドレスを お母様が着ていると、他の男性に取られてしまうのではないかって」
レイトが意外そうに言う
「そうでしたか…」
リーザロッテが苦笑してレイトへ向いて言う
「男の人って 皆そうなのかしら?レイトもそう思う?」
リーザロッテの問いに レイトが少し考えてから言う
「確かにそちらの心配が まったく無いとは言えませんが、女性がお召しになりたいと申されるのでしたら 男は他の輩から そちらをお召しになった女性をお守りするものかと?」
レイトの答えに リーザロッテが満足そうに微笑む そんなやり取りをしているリーザロッテとレイトは その自分たちを物陰から見ている目がある事には気付かない
町門の外 リーザロッテとレイトが門の外へ出ると 物陰からヴェインが現れ リーザロッテたちの前へ立ち塞がって言う
「姫様、お探しいたしました」
リーザロッテが驚いて言う
「ヴェイン!?」
ヴェインが言う
「まさか、本当に勇者になる等と… それに、レイト1人では何の役にも立ちません、せいぜいスプローニまでの護衛が出来る程度です」
リーザロッテが一瞬驚いた後 怒って言う
「そんな事は無いわ!レイトは強いのよ!?」
ヴェインが苦笑して言う
「姫様、レイト程度の戦力の持ち主は世界中にごまんと居ます 姫様は世界をご存知ないのです」
レイトが一歩踏み出して声を荒げる
「ヴェイン!貴様っ 姫様に何たる口を!」
ヴェインがレイトを無視して続ける
「さあ、姫様 現実を受け入れ 城へお戻り下さい 今なら陛下もお許し下さいます」
ヴェインの言葉にリーザロッテは間を置いてから言う
「…ねぇヴェイン?貴方とレイトって どちらが強いのかしら?」
リーザロッテの言葉に2人が反応し 互いに顔を見合わせる リーザロッテが続ける
「あなた達は手合わせをした事があって?」
レイトが答える
「いえ、訓練程度のもののみで 正式には…」
リーザロッテが言う
「私、お父様に連れられて他国の交流試合を見た事があるの それを踏まえた上で 私は、レイトの槍術は大したものだと思うわ きっと~」
リーザロッテがわざと言葉を区切り ヴェインへ向き直って微笑んで言う
「レイトは貴方より強いわ!」
リーザロッテの挑発に ヴェインがその怒りの矛先を言葉の通りに 自身の持つ槍をレイトへ向けて言う
「分かりました、それならばっ もし私がレイトに負ける様でしたら ここをお通しします!そして、私が勝った際にはっ」
リーザロッテが自信を持って言う
「ええ!もちろんっ!その時は 私が城に戻るわ!そうでしょ?」
ヴェインが無言のまま頷く リーザロッテが微笑みレイトの横へ行って言う
「ごめんなさい レイト …信じてるわ!」
レイトが視線をヴェインへ向けたまま答える
「ご期待に沿います」
【 ベネテクト国 郊外の町 】
バッツスクロイツがアンドロイドのデスと共に道を歩いている バッツスクロイツが町の様子を見て言う
「随分賑ってるーって感じだなー?人々も活気があるーって感じだし 町の感じも…?贅沢さは感じないけど 貧富の差が無いーって言うの?」
バッツスクロイツの周りを元気な子供たちが駆け抜け 近くを笑顔の大人たちが歩いて行く バッツスクロイツが微笑んでから ベネテクト城を見上げて言う
「…の割には あの工事現場みたいな所は… 酷い有様だったなぁ?まぁ… 逆よりは全ッ然ナイスな感じだけど!」
バッツスクロイツが笑う 間を置いて力無くうな垂れ腹の虫が鳴く バッツスクロイツが腹を押さえて歩きながら言う
「やばい… 何とか食料を得ないと… この活気ある町の中で 何故か野垂れ死にしている 少年Aになっちゃう…」
バッツスクロイツとアンドロイドのデスが町を出て行く
町の喧騒が消え 自然の音だけが聞こえる様になった頃に バッツスクロイツの耳に聞き慣れた機械音が聞こえる バッツスクロイツが疑問して言う
「ん?…なんだ?あれ…?」
バッツスクロイツの視線の先 ロスラグが走りながら泣いて叫ぶ
「あー!何でこんな時に限って故障しちゃうッスかー!?日々装備の確認を怠るなって言われているのにー やっちまったッスー!ロキ隊長に叱られちゃうッスよー!」
ロスラグが 自分を追って来るロボット兵の攻撃を避け 崖の岩肌を背に言う
「や、やばいッス!絶体絶命のピンチッス!こ… こうなったら もう2度と人の姿になれないかもしれないけど 犬の姿に戻って逃げるしか…」
ロボット兵がロスラグへ襲いかかる バッツスクロイツが叫ぶ
「おい!こっちだ!」
ロスラグが顔を向ける バッツスクロイツがロボット兵に石を投げる ロボット兵がバッツスクロイツに気を取られる ロスラグがバッツスクロイツの方へ走る バッツスクロイツが逃げ出す ロスラグが合流して言う
「あ、ありがとうッス!助かったッスー!」
バッツスクロイツが走りながら言う
「いやぁー そうでもないってー?何てったってー?まだ助かって無いーって感じだしー?だからっ?それはー助かった後にー 聞くって事でー!」
ロスラグが焦って言う
「えー!?何でッスかー!?あんたのその隣のロボット兵で あのロボット兵を倒してくれるんじゃ無いッスかー!?」
バッツスクロイツが驚いて言う
「いー いや、いやいや!無理無理無理!こいつは ただの家政婦アンドロイドなんだ 起重力だって最新のアンドロイドの10分の1ぐらいしか無いはずだし スピードも無いし 大体 戦闘プログラムなんて入って無いから 敵を敵と見なして攻撃するなんて事はー!」
ロスラグが驚いて言う
「なーっ!?それじゃ 何で俺を助けたッスかー!?そんなんでどうやって戦うつもりなんッスかー!?戦えないロボット兵なんてー!平和過ぎて 俺大好きッスよー!」
バッツスクロイツが呆気に取られた後 笑って言う
「そうだよなー!?平和ボケも結構ー?悪く無いかもってー?俺もちょっとー 今だけはー?今だけは 思っちゃうかもっ!!」
ロスラグとバッツスクロイツが崖に追い詰められる ロスラグがバッツスクロイツへ向いて言う
「こ、これこそ絶体絶命の大ピンチッス…」
バッツスクロイツが苦笑して言う
「あ、ああ… そうみてーね?は…はは…」
2人がロボット兵を見て焦る ロボット兵が2人に武器を振り上げる 2人が怯える アンドロイドのデスがロボット兵を押さえつける バッツスクロイツが驚いて叫ぶ
「デスっ!?」
ロボット兵がアンドロイドのデスを見て振り払う アンドロイドのデスが地面に倒れる バッツスクロイツが一瞬驚き 次に怒ってロボット兵に向かって叫ぶ
「俺のデスに 何するんだーっ!!」
バッツスクロイツがロボット兵に体当たりする ロボット兵が先の動作で体勢を崩していた所に バッツスクロイツの体当たりを受けて倒れる バッツスクロイツがロボット兵の配線に気付き 首もとの配線を引抜いて ロボット兵を停止させる ロスラグが驚いて言う
「あ… あいつ…?武器も使わずに ロボット兵を倒しちゃったッス…」
バッツスクロイツが食料にがっついている ロスラグが呆気に取られた後 笑顔で同様に食料を食べる バッツスクロイツが一息吐くと 残った食料を アンドロイドのデスの口へ流し込む ロスラグが驚いて言う
「えー!?そのロボット兵 食料の保管も出来るッスかー!?」
バッツスクロイツが作業を終えてロスラグへ向いて言う
「あっはは!違うって?ボーイ このアンドロイドは試作機だから 動力源が人と同じ食物なんだ、面白いだろ?昔はさ?アンドロイドは人とまったく同じ構造の物にしようって考えられていたから 人と同じ物を同じ様に摂取させて 人と同じ様に扱われる様に設計されていたんだ」
ロスラグが不思議そうに言う
「あんどろいど…?」
バッツスクロイツは ロスラグの疑問を相槌と勘違いして 話を続ける
「うん… けど いつの間にかアンドロイドは人の扱う道具にされちゃって 便利であれば何でも良いや って感じでさ… そこそ今なんて便利を越えて それ以上の道具にしろって?もう ほんっとあいつらムチャクチャでさ…っ」
バッツスクロイツが愚痴を続ける ロスラグが首を傾げて聞いていて言う
「つまりー あんたは良い奴って事ッス!」
ロスラグが笑顔で言い閉める バッツスクロイツが疑問して言う
「え?良い奴?」
ロスラグが微笑んで言う
「そおッス!俺はあんまり難しい話は分からないッスけど、あんたはこのロボット兵の事が大好きなんッス!だから あの時、あんたのロボット兵を突き飛ばしたソルベキアのロボット兵に飛びかかる位怒ったッスよ!大切なものを守るために戦える あんたは後住民族の中の強い人たちッス!俺の大好きなロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長と同じッス!」
ロスラグが笑顔でバッツスクロイツを見る バッツスクロイツが呆気に取られつつ言う
「大好き…?そっか… そうなんだ?俺ずっと… ずっと他の連中に 俺のデスを物扱いされてる気がして 頭に来てたんだっ …そうだよな?俺は ずっと こいつと一緒で こいつに育てられて… 家族みたいな気持ちでいたのに 他の奴らは 物扱いするから…っ」
バッツスクロイツが自身の心境を理解して微笑む 間を置いて ロスラグへ向いて言う
「…で?そのぉ~ソルベキア?あとぉ… 何とか隊長とか… 何か長いのとか… それ 何?」
ロスラグが怒って言う
「ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長ッス!!」
バッツスクロイツが首を傾げる
話を聞き終えたバッツスクロイツが言う
「そっかぁ~ ここはベネテクト国って言う国なのか それで… あのソルベキアのロボット兵って言うのが 悪魔…力?とか言うので モンスター化する 野生の動物を退治する筈なんだけど たまにエラーとか起こして 管轄外の国へ エスケープしちゃうと?」
ロスラグが頷いて言う
「そうッス!そこに見える国境を抜けちゃえば ツヴァイザー国になるッスけど ここはまだベネテクト国ッス!ベネテクトはロボット兵を断ってるッスけど たまにおかしくなったロボット兵がツヴァイザーからこっちに来ちゃうッス ソルベキアのロボット兵が配備されて 確かに魔物の被害は減ったッスけど ロボット兵は魔物も、魔物じゃない動物も どっちも殺しちゃうッス!俺は 魔物になってない動物は助けてあげたいッス だから 野生動物が保護されてるベネテクトで ツヴァイザーから来ちゃう ロボット兵が居ないか 勝手に見張ってるんッス!」
バッツスクロイツが笑顔で言う
「へぇー ロボット兵から野生動物を守るなんて… そんな危険な事を 何の見返りも無くしてるなんて ロスっちの方こそ『良い奴』じゃないか?俺 そんな優しい奴と会ったの… もしかして 初めてー かも?」
ロスラグが驚いて言う
「え?そ、そうなんッスか?えっと~ 嬉しいけど… ちょっと寂しい気持ちも出来たッス …何でッスかね?」
ロスラグが首を傾げる バッツスクロイツが笑顔で言う
「それはー、ロスっちが本当に『良い奴』だからだって事だぜー?はははっ」
ロスラグが難しく悩む顔をする バッツスクロイツが笑って言う
「よし!んじゃ、もう少し こっちの世界をエンジョイしちゃおう!きっと俺が今までに会った事の無い ナイスなボーイズやガールズが たっくさん居そうな気がする!」
ロスラグが呆気に取られてから言う
「うー… 所で本当に、バッツは何処の国の人なんッスか?バッツの匂いは俺 今までに嗅いだ事の無い匂いッス」
バッツスクロイツが疑問して言う
「え?匂い?俺コロンとかは付けない派だけど?クリーニングも無臭タイプだし?」
ロスラグが首を傾げる バッツスクロイツが軽く笑って言う
「まぁ とりあえず、あのソルベキアのロボット兵のAIからデータ引っ張って プログラム解析すれば 即席とは言え デスにその戦闘プログラムをダウンロード出来るだろうと思うんだ それでもし、デスが戦えるようだったら さっきロスっちが言ってた 賞金稼ぎって言うので お金を貯めて ロスっちの国へ行ってご馳走代返すから それまで…」
バッツスクロイツが宝玉を差し出して言う
「もし、俺が来なかったら この宝石を売って金にしてよ」
ロスラグが驚いて言う
「えー!?いや、俺は 宝石なんていらないッスよ!」
バッツスクロイツが微笑んで言う
「いやぁ、おごらせっぱなしーってのは 良く無いし?きっとプログラム解析くらい上手く行くと思うから 少しの間だけこれで」
ロスラグが立ち上がり 身を避けて言う
「いらないッスよ!俺は!そんなの無くっても バッツが来てくれるって信じてるッス!!」
バッツスクロイツが驚いた表情から微笑んで言う
「オーケー!分かった!んじゃ 俺もロスっちを信じてー あ!そうだ、それじゃ これ着ててくれよ!」
ロスラグが疑問する バッツスクロイツが上着を脱いで渡して言う
「俺こっちの人って なんかまだ見分け付かなくてさ?もし、ロスっちの国へ行った時 ロスっちにソックリな人が一杯居たら 見つけるの大ー変ー!…だから これ着てて!」
ロスラグが驚いてから受け取って喜んで言う
「えー!?良いッスか!?こんなカッコ良いの初めて見たッス!俺 実はずっと良いなーって思って 何処で買ったのかなー?って ずっと匂いかいでたんッスー!」
バッツスクロイツが笑顔で言う
「良い!?良い!?良いだろー!?やっぱこの良さ分かるー!?テラッセルの最新ジャケだぜ!?46万もしたんだ!ソッコー購入したって感じでさー!」
バッツスクロイツとロスラグが盛り上がっている
【 アバロン城 玉座の間 】
ヴィクトールの前にザッツロード7世と仲間たちが跪いている ヴィクトールが言う
「では、貴公らは 各国から集めた宝玉の力を どの様にして増幅させるのか その方法をキルビーグ国王からは 聞かされていないのだな?」
ザッツロードが答える
「はい、我々はまず宝玉を集めローレシアへ持ち帰り ローレシアとソルベキアの科学力を用いて…」
ザッツロードが焦り 間を置いてヴィクトールへ向く ヴィクトールが言う
「分かった、貴公らへ確認した所で 無駄なのだろう ローレシアとソルベキアの科学技術の進歩だ 漏洩を防ぐ為にも 他国へ回る貴公らへ伝えない事は 有効な手段であると言える」
ザッツロードたちが驚いてヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが玉座へ身を静めて言う
「貴公の話は分かった、そして 残念だが我が国の宝玉は 現在、他の者へ託されている」
ヴィクトールの言葉にザッツロードの後ろに控えていたソニヤが声を上げる
「えぇええ!?」
ハッと口を押さえて小さくなるソニヤ 隣のラナが無言で叱る ザッツロードへ視線を戻したヴィクトールが続けて言う
「更に、貴公へ託す予定であった兵が 先日旅に出てしまった わざわざ足を運ばせてしまった様だが 現在 我がアバロン国が貴公へ託す事が出来るものは 何も無いのだ」
言葉を聞いたザッツロードが思わず沈黙する ヴィクトールが目を細めて言う
「残念ではあるが、これが事実だ 理解頂きたい 3代目勇者ザッツロード殿」
ザッツロードが何とか返事をする
「…はい」
伝令の兵が玉座の間の入り口に立って言う
「ヴィクトール陛下、お客様が…」
ザッツロードへ視線を向けていたヴィクトールが 伝令の言葉にハッと視線を兵へ向け言う
「分かった、すぐに向かう」
伝令の兵が返事と共に立ち去る ヴィクトールが玉座から立ち上がって言う
「話は以上だ 私は失礼させてもらう」
ザッツロードが返事をする
「はい、有難う御座いました」
ザッツロードが言い終わる前にヴィクトールはザッツロードの横を過ぎ 玉座の間を後にする ザッツロードが下げていた顔を上げ ヴィクトールが出て行った方を見る
【 アバロン城 客室 】
バーネットが目を覚まし 見覚えのある天上を見て 自分の居場所と状況を理解して起き上がろうとするが 叶わず声を出す
「…うっ つぅ…」
バーネットが力を抜いてベッドに再び身を静めて息を吐く モフュルスが気付いて近くへ来て言う
「バーネット様、気付かれましたか?」
バーネットが相手を確認しないままに言う
「何でまだ傍に居やがるんだ?俺はもう… ベネテクトの王じゃぁ無くなったんだぜ」
モフュルスが苦笑し 沈黙が流れる バーネットが問う
「…でぇ?」
モフュルスが静かに答える
「はい、バーネット様を追い出したベネテクト国に 間もなくしてツヴァイザー国が押し入った模様です」
バーネットがハッとして言う
「それで?」
モフュルスが笑顔で答える
「はい、バーネット様を隠密裏に受け入れて下さったヴィクトール陛下が すぐにアバロンの偵察部隊を入れて下されていたお陰で、ベーネット様はご無事でした」
バーネットが沈黙する モフュルスが続ける
「更に申しますと、その後ベーネット様ご自身が こちらのアバロン国へお越しになりまして ヴィクトール陛下へ一個部隊の借り入れを申請致しました ヴィクトール陛下のご配慮の下 アバロン国3番隊の助力を得て ベーネット様は見事 ツヴァイザー国を討ったとの事です」
バーネットが少し驚いて言う
「3番隊…っ 他国の援護に 一国の最強部隊を出しやがるなんて… 何考えてやがるんだ ヴィクトールの奴…」
モフュルスが微笑んで笑う
「ほっほっほ…」
バーネットが少し困った表情で舌打ちをする
「…チッ」
モフュルスが優しく微笑んで言う
「バーネット様を受け入れて下されただけでなく、ベーネット新ベネテクト国王陛下への御配慮 しっかりと御礼を申し上げませんと?」
バーネットが言う
「うるせぇ…分かってる」
モフュルスが微笑んで笑う
「ほっほっほ」
バーネットが一息吐いて言う
「寝る!」
モフュルスが静かに言う
「はい、ヴィクトール陛下には 毒の中和に まだ時間が掛かるとお伝えしておきます」
モフュルスが立ち去る
部屋の外 モフュルスとヴィクトールが話をしている ヴィクトールが微笑して言う
「そう… では 命に別状は無いのだね?」
モフュルスが微笑んで言う
「はい、ベネテクト王家の毒の中和薬は ベネテクト一族の血中に含まれる成分ですので 元々あの毒で バーネット様がお命を落とされる事は無いのです」
ヴィクトールが言う
「毒に関してはそうであっても レイピアは細身であれ 急所を突けば一撃で命を奪う事も出来る 今回ベーネット殿がそれを外されたのは やはり肉親であったが為だろう」
モフュルスが苦笑する ヴィクトールが苦笑を返して言う
「彼の看病を頼む …なんて、僕が言う必要もないのだろうけど?」
モフュルスが微笑んで言う
「はい、ベネテクトの民は皆 我らベネテクトの王 バーネット様への恩を 忘れる事は決してありません」
【 ツヴァイザー国近郊 】
リーザロッテがレイトの腕の傷へ回復薬を流し込む レイトが悲鳴を上げる
「あ゛ぁああーっ!!」
リーザロッテが慌てて謝る
「えっ!?ご、ごめんなさい!」
リーザロッテが自身の手に持つ回復薬を見て言う
「私、間違った使い方をしたかしら?」
レイトが激痛に顔を歪めつつ言う
「ぐぅ… い、いいえ、間違ってはおりません この薬は…っ その様にして 使うものですので…」
リーザロッテが間違っていなかった事にホッと胸を撫で下ろし 再びレイトの傷口へ薬を流し込む レイトが悲鳴を上げる
「あぁああーっ!」
ヴェインがその光景を見ている レイト以上の傷を負っているが 薬は少しずつ布に湿らせ傷口に当てている ヴェインの視線の先 レイトが先ほどの戦闘よりダメージを受けた様子で倒れる リーザロッテが疑問してレイトの傷を確認して 笑顔で立ち上がりヴェインへ振り返る ヴェインがハッとして視線を逸らす リーザロッテがヴェインの横に来て言う
「ねぇヴェイン?私、あなたに言う事があるの」
ヴェインが息を飲む リーザロッテがが言う
「あなたが… 一緒に来てくれて 私 とっても嬉しいわ!」
リーザロッテが笑顔を向ける ヴェインがハッとして僅かに視線を向けて言う
「… 姫様…」
リーザロッテが微笑んで言う
「これからはレイトと一緒に この世界を救う為 力を貸して頂戴ね?」
ヴェインが言葉を失う リーザロッテが軽く笑って言う
「頼りにしてるわ!」
ヴェインが一度視線を落としてから言う
「…姫様 申し訳有りませんでした」
ヴェインがリーザロッテへ向き直って言う
「非力ながら… 自分も ご一緒をさせていただきます」
リーザロッテが笑顔で言う
「非力なんかじゃないわよ?貴方もツヴァイザーの騎士でしょ?今回は、同じツヴァイザーのレイトが相手だったのですもの?」
ヴェインが小さな声で返事をする
「はい…」
リーザロッテが笑顔で言う
「さ、元気を出して!レイトに負けず 貴方にも頑張ってもらわなきゃ!」
リーザロッテが言葉と共に ヴェインの腕を取る ヴェインが驚き言う
「え?あ、ひ、姫様!?自分はっ 自分でっ!ぎゃーっ!!」
リーザロッテがヴェインの傷へ回復薬を流し込む ヴェインが悲鳴を上げる リーザロッテが笑顔で手当てを続けて言う
「うふふっ」
【 スプローニ国 】
リーザロッテとレイトとヴェインがスプローニ国へ到着する 城下町の門前で門兵と話し 要所要所に居るスプローニ兵へ話しかけている
リーザロッテが歩きながら言う
「先代勇者のお供だった 現スプローニ国第2部隊長のロキの次に強いのは 第3部隊の隊長ですって?ロキもそうだけど どうして第2、第3部隊長なの?部隊長って強い人から1、2、3では無いのかしら?」
リーザロッテの問いにレイトが答える
「一概にそうとは言い切られません、たとえ力で第1部隊の長を倒しても 部隊をまとめ指揮を執る能力が無ければ 上位の隊長の任には就かれませんので」
ヴェインが付け加える
「それとは別に、その者の希望で 下位の部隊長や、その他の任へ就く事もあります …レイトの様に」
レイトが慌てて言う
「ヴェインッ!!」
リーザロッテが少し驚いてからヴェインへ問う
「え?」
レイトがそれを遮って言う
「いえ、何でもございませんっ 姫様?さぁ、これから如何致しましょう!?」
レイトの慌て様に リーザロッテは不思議そうな顔をしながら言おうとする
「…ええ、もちろんローレシアの勇者の仲間を誘う気は無いわ?だから、ロキの次に強いと言う 第3部隊長の…」
リーザロッテが言い掛けて言葉を切る レイトとヴェインが何事かとリーザロッテの顔を覗き込むと リーザロッテが2人へ言う
「その前に、2人とも?その『姫様』って言うのを 止めてもらわないとね?」
リーザロッテの言葉にレイトとヴェインが顔を見合わせる リーザロッテが言う
「だってそうでしょ?これからどんどん仲間が増えるのだもの?そうとなれば 私も、皆と同じ様に 名前で呼ばれたいわ!」
レイトとヴェインが声を合わせて言う
「「しかし、姫様!」」
リーザロッテが指差して言う
「ほらまたっ!私の事はリーザで良いわ、ね?」
リーザロッテが強引に2人を納得させて スプローニ城へ向かう
スプローニ城の門兵から教えられた訓練所へ向かったリーザロッテたちを 激しい銃声が迎える リーザロッテが言う
「あれがスプローニ国第3部隊長のロイね?」
リーザロッテの目前 第3部隊の訓練所では ロイが複数人を相手に訓練を行っている
リーザロッテの前でロイが言う
「…大方、ベリオルか何処かの金持ちの娘と言った所か?だが、俺は そんな連中の道楽に付き合うつもりは無い」
ロイの言葉にレイトとヴェインが反応するが リーザロッテが無言で2人を抑え ロイへ言う
「確かにお金は集めてきたけど 道楽ではないわ 私は本気よ?」
ロイが無表情に言う
「…ならば、その金で兵を雇う事だ この国にも質の良い傭兵は居る」
リーザロッテが強気に言う
「お金で雇われる兵に興味がないの 私は 強くなりたいと思っている兵を 集めているのだから」
ロイがリーザロッテの言葉にわずかな反応を見せる リーザロッテが続ける
「私たちの目的は魔王を倒して世界を平和にする事 戦ってお金を集めるのが目的でなくってよ!…あ、もちろん 旅に必要なものにお金を惜しむ気は無いわ?」
自分の言葉を黙って聞くロイに リーザロッテが続けて言う
「あなたは強くなりたいと思っているのでしょ?私の目にはそう見えたの 丁度 もうこの国に あなたの相手を出来る人は 居ないのではなくて?」
ロイが沈黙する リーザロッテが笑みを湛えて言う
「私たちは世界を回るわ!あのアバロンやローゼントにも!ね?」
【 アバロン城 客室 】
バーネットが目を覚まし 痛む傷を抑えながら起き上がり部屋を出て行く
玉座の間 ヴィクトールが遠来の兵と話をしている 入口の前でその様子を伺いながら ヴィクトールが空くのを待つ
伝達兵がバーネットの来場を告げる
「『お客様』がお見えです」
ヴィクトールがハッと息を飲む バーネットが入って来て 所定の謁見の位置よりずっと後ろで跪き 頭を下げて言う
「ヴィクトール陛下 この度は私並びにベネテクト国 新国王への並々ならぬ御配慮の程 有り難く御礼申し上げます」
ヴィクトールが一瞬驚き 悲しげな表情で言う
「バーネット…」
バーネットが頭を下げたまま言う
「今後ともアバロン国 並びにベネテクト国の親交が末永く続く事を願うと共に 私もこれ以上のご迷惑を掛けぬよう早々に立ち去らせて頂きます では」
バーネットが言い終えると同時に立ち上がり さっさと背を向けて歩き始める ヴィクトールが思わず玉座から立ち上がって言う
「待ってくれ!バーネット!」
バーネットがヴィクトールの呼び止めに足を止める ヴィクトールがバーネットの背へ言葉を探してから言う
「…まだ …毒が、完全に消えていないのだろ?ベネテクト王家の毒は例え 解毒を行っても5日間は消えないそうじゃないか?その状態で 長い距離を移動するのは 危険だ」
バーネットが背を向けたまま返答する
「近郊の町などで様子を見るつもりです」
ヴィクトールが慌てて言う
「君はっ!ベネテクトで死んだはずの人だっ その君が… ベネテクトに程近い このアバロンで見付かればどうなるか… ベネテクト国の新国王ベーネット殿にも迷惑がかかる!アバロンの王としてっ 私は…っ 君をこの城から出す訳には行かないっ!」
沈黙が流れる ヴィクトールが気を落ち着けて言う
「バーネット 今はまず その身を休めてくれ」
バーネットが言葉を返さずに居る ヴィクトールが兵に命じる
「彼を客室へ御送りしろ」
兵が返事をして バーネットを客室へ向かわせる ヴィクトールが重いため息を吐いてから 玉座へ腰を下ろして俯く 家臣たちが緊張を抜き 顔を見合わせる
夕刻 バーネットがベッドに仰向けに寝ている ヴィクトールがやって来る モフュルスが微笑みヴィクトールを部屋へ通し、自分は部屋を出て行く ヴィクトールがバーネットへ声を掛ける
「バーネット」
バーネットは返事をしない ヴィクトールが困りつつ バーネットの傍へ行く バーネットが背を向ける ヴィクトールが言葉を探して言う
「バーネット… 傷は… 大丈夫?痛みは… そんなに無いって モフュルス殿が…」
ヴィクトールがバーネットを見る バーネットの顔は見えない ヴィクトールが視線を落として言う
「バーネット 僕は… 君に謝らないと… でも… 一杯あり過ぎて… その… ごめん… たくさん迷惑を掛けてしまって でも、僕は… 君に… 何も返せなくて… それでも… 僕も 必死に探して… だけど… 何も 出来なかったんだ… ごめん… ごめんね バーネット…」
ヴィクトールがぼろぼろ泣き始める バーネットが悔しそうな表情で言う
「てめぇは何にも悪くねぇえだろ… 謝る必要なんざねぇ…」
ヴィクトールが泣きながら言う
「でも 僕はっ… 僕は… 君と ずっと仲良くして居たかったんだ…っ 絶対 喧嘩なんかしたく無いって… ずっと 昔から思っていたのに…」
バーネットが息を吐いて言う
「喧嘩なんざしてねぇよ… ガキじゃあるめぇし…」
ヴィクトールが苦しそうに怒って言う
「じゃ… じゃあっ!?何で 通信を繋いでくれないの?僕は… 毎日君に通信を送ってたよ?毎日君の事を考えて… 君に… 無視 されても…っ ずっと 君と また話を出来る日を信じて 待っていた… ずっと… どんなに辛くても 悲しくても 泣かない様に 頑張って来たよ… でも…っ バーネット 君は…っ」
バーネットが苦笑する ヴィクトールが泣きながら言う
「もう嫌だ…っ 嫌だよ!バーネット!僕を無視しないでっ 僕と話をしてよ!約束したじゃないか!?2人で… 世界を救おうって!2人で悪魔力を世界から無くそうって!一緒に… 一緒にやろうって 言ったじゃないかっ!!バーネット!それ なのに…っ」
ヴィクトールが泣き崩れる バーネットが苦笑して起き上がり ヴィクトールを見下ろして言う
「はっは… 何言ってやがるんだ?俺はずっと その約束を守って来たぜ?」
ヴィクトールが顔を上げる バーネットが軽く笑って言う
「後一歩の所まで来てたんだ てめぇのお陰で デネシアにバレる事も無く ローレシアに付け入る理由まで持てた 後一歩って所で… へっ!…ベーネットの奴に邪魔されちまったぁ っはははっ!」
バーネットが笑う ヴィクトールが呆気に取られる バーネットが傷の痛みに衝撃を受けて痛がる ヴィクトールが驚き慌てて言う
「あぁ!無理しちゃダメだよ!バーネット!」
バーネットが苦笑して言う
「っはっは… だなぁ?ちょいと無理ぃ し過ぎちまったらしい… お陰でベネテクトの王の座を失っちまったぁ これじゃぁもう… 何の役にも立てやしねぇ …悪かったな ヴィクトール…」
ヴィクトールが驚く バーネットが微笑して言う
「後はぁ てめぇだけ… だな?これじゃぁ ただ生きてるってだけで 先代と変わりゃしねぇや…」
ヴィクトールが怒って言う
「違うっ!違うよ バーネット!君は生きているんだ!君は… 生きていてくれたっ 父上の時とは 違うんだっ!」
バーネットが驚く ヴィクトールが詰め寄って言う
「だからもう!僕と話をしなくなるなんて止めてよ!?僕を無視しないで!ちゃんと聞いて ちゃんと答えてっ!お願いだから… もう2度と…っ」
ヴィクトールが涙を流す バーネットが呆気に取られてから 苦笑して言う
「…分かったよ 分かったから もう泣くんじゃねぇよ?お前はアバロンの王だろ?俺とは違って まだちゃぁんと王の座に着いてやがるんだから しっかりしろよ?」
ヴィクトールが一瞬驚いた後 強く言う
「僕はっ!アバロンの王としてじゃない!ヴィクトール13世として君の親友で居たいんだよ バーネット!」
バーネットが呆気に取られてヴィクトールを見る ヴィクトールが泣き続ける バーネットが苦笑して言う
「分かった、悪かった… アバロンの王とじゃぁなくて 俺はヴィクトール13世の親友だ だから もう、泣くんじゃねぇよ 相変わらずてめぇは 泣き虫ヴィクトールだなぁ?」
ヴィクトールが泣きながら微笑んで言う
「君が泣かせたんだよ…」
バーネットが苦笑して言う
「はっは… だなぁ?そんじゃぁもう 俺のせいで 泣かせはしねぇよ 約束してやる」
ヴィクトールがバーネットを見上げて言う
「絶対だよ?」
バーネットが笑って言う
「ああ… 絶対だ」
【 ベリオルの街 】
リーザロッテと仲間たちがベリオルの街へ辿り着く リーザロッテが言う
「そうね… アバロンやローゼントの兵も欲しいところだけど そろそろ魔王を倒す為の方法や、その肝心な魔王の居場所なんかを調べる必要があると思うのよ」
リーザロッテの言葉に レイトが言う
「情報収集でしたらこのベリオルの街は打って付けかと思われます、この街の裕福な者達の中には歴史的な書物や物に興味を持つ者も多いかと」
リーザロッテがレイトの答えに満足気な微笑を返す 2人の会話にロイが助言する
「…更にその金持ちらは 自分のコレクションを自慢するのが 何よりの楽しみだ、貴姉の目的を話せば 喜んで協力するものと思われる」
リーザロッテが笑顔で言う
「それは好都合ね!」
リーザロッテと仲間たちは街の金持ちコレクターから情報収集を行う
リーザロッテが歩きながら言う
「初代勇者ザッツロード1世は この大陸の国々が所持していた宝玉の力を使って 悪しき魔力が噴き出す 魔界とこの世界を繋ぐ 穴を封印した」
「魔王の強力な魔力を封じる為に 魔界との穴を塞ぎ 悪しき魔力を遮断する必要がある」
「封印に使った宝玉は その魔力が弱まってしまった為 複数の宝玉を持ち寄って魔力を増幅させなければ 魔王を封じる事が出来なかった」
リーザロッテが入手した情報に満足して言う
「『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所を 記した地図』を写させて貰ったわ!宝玉を持って まずはここへ行かなくてはね!」
リーザの言葉にロイが言う
「…ならば まず その宝玉を手に入れなければならない だが、宝玉は各国の宝だ …幸先は暗いな」
リーザロッテが首を傾げて言う
「貰うのではなくて借りるのなら 何とかならないかしら?」
レイトが言う
「リーザ様ならば そちらも可能かと思われます」
ロイが疑問する ヴェインが言う
「しかし、それらの話は事実なのだろうか?全て金持ちコレクターの道楽が集めた 偽の勇者話だと言う可能性も…」
リーザロッテが軽く笑って言う
「その可能性も無いとは言え無いわ でも、この『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所を 記した地図』 この場所を確認して それが実在していたら!その他の話とも辻褄が合うのよ?それなら、これらの話は全部本物って事でしょ?」
ロイが疑問する ヴェインが半信半疑に言う
「確かに… そう かも しれません…」
レイトが微笑んで言う
「では、まずは その場所へと向かいましょう!そして、確認をしてから 宝玉をお借りしに行くという事で」
リーザロッテが微笑み返事をしようとするが 疑問して言う
「…いいえ?先に宝玉を借りなければならないわ だってそうでしょ?ローレシアの勇者は まず宝玉を手に入れるために旅をするのだから、こちらも急いで手に入れないと 彼らに全て奪われてしまうわ?」
レイトが表情を困らせる リーザロッテが笑顔で言う
「そうと決まれば まずは宝玉よ!ここから一番近いのはスプローニね?…戻る事になってしまうけれど この際しょうが無いわ!今日はこの街で宿を取って 明日一番に行きましょ?」
リーザロッテが先行する レイトが焦りながら言う
「は、はい…」
ロイとヴェインが顔を見合わせる
レイト、ヴェイン、ロイが宿の一室に居て話しをしている ヴェインが言う
「リーザ様は本気であれらの話を信じているのだろうか?」
ロイが向いて言う
「…俺は勇者の話が何であれ 他国へ向かうまでの間と 他国の者と戦う それらの切っ掛けがあれば良い」
レイトが苦笑する ヴェインがレイトへ向いて言う
「お前はリーザ様の調べられた勇者話を信じている様子だったが 意外だな?」
ロイが言う
「…いや、卿はあれらの話を信じてはいない 卿も俺と同じだ 目的は違うようだが?」
ヴェインが疑問する レイトが軽く笑って言う
「リーザ様はツヴァイザー国の復興を求めていらっしゃるのだ その方法として 今回はローレシアの勇者に対抗しようと …私は 例え それらが叶わなくとも リーザ様を助け、守る事さえ出来れば それで良い」
ヴェインが一瞬呆気に取られてから 苦笑して言う
「なるほどな?本来ならば ツヴァイザー国第1部隊隊長の座へ就くべきだと言うのに それを断り続けて リーザ様の護衛兵を続ける騎士の言葉は違うな」
レイトが苦笑して言う
「それは 言わないでくれるという約束だったでは無いか」
ヴェインが軽く笑う レイトが少し怒り微笑する ロイが疑問して言う
「…ツヴァイザー国の王子は先の大戦時に 暗殺されたと聞いた そして女王はシュレイザー国に幽閉され 現在ツヴァイザー国に居るのは王と王女のみ… まさかとは思っていたが やはりリーザはリーザロッテ王女なのか?」
レイトとヴェインが衝撃を受けて焦る ロイが見つめる ヴェインが焦って言う
「い、いやいや!?何度も言っているだろ!?リーザ様は… リーザロッテ王女の影武者だと!」
レイトも焦って言う
「そ、そうだとも!まさかリーザロッテ王女様が たった2人の護衛兵と この戦乱と魔物の蔓延る世界を旅される訳があるまい!?」
レイトとヴェインがわざとらしく2人で笑う ロイが疑いのまなざしを向けてから 気を取り直して言う
「…所で、例の勇者話を聞いている時だが 皆気になる事を言っていた」
レイトとヴェインが笑いを止めロイへ向く レイトが言う
「ああ、我々の前に 同じく勇者の話を聞いて回っている男が居たと」
ヴェインが少し考える様子で言う
「我々の他にも 勇者になろう等と思っている者でも居るのだろうか?」
同宿 別室 オライオンが言う
「初代勇者ザッツロード1世は この大陸の国々が所持していた宝玉の力を使って 悪しき魔力が噴き出す魔界と この世界を繋ぐ穴を封印した」
「魔王の強力な魔力を封じる為に 魔界との穴を塞ぎ 悪しき魔力を遮断する必要がある」
「封印に使った宝玉は その魔力が弱まってしまった為 複数の宝玉を持ち寄って魔力を増幅させなければ 魔王を封じる事が出来なかった」
オライオンが『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所を 記した地図』を見ながら考える シュライツが隣で首を傾げる オライオンがひらめいて言う
「なぁ?これってよー?結果的に全部ダメだったって事だろ?」
ロスラグが現れて言う
「そうッスね!結果的に魔物は この世界に また出て来ちゃったッスし!魔王も倒せなかったッス!」
オライオンが笑顔で言う
「ならよ!?これの… 逆をやったら 今度こそ世界から魔物が居なくなって 魔王も倒せるんじゃねーか!?」
ロスラグが驚いて言う
「あー!そーッスね!オライオンすげーッス!!チョー頭良いッスー!!」
オライオンが照れて言う
「そっかー!俺頭良いんだー!?いやー!初めて言われたぜー!あはははは!」
シュライツが笑顔で騒ぐ
【 アバロン城 】
深夜 バーネットが深い眠りから覚める 起き上がり 意を決してベッドを出る
ヴィクトールが自室で遅くまで書類を確認している 一息吐いて軽く微笑む 席を立ちバルコニーへ出る バルコニーの手すりに手を置いて眺めていると 剣を振るう音に気付き 周囲を見渡し 地上にあるランタンの明かりを垣間見る バーネットがローブを羽織って ランタンの淡い光だけを供に 夜の闇の中で剣を振るっている ヴィクトールが一瞬驚いた後、微笑して見守る バーネットが速度と慣性を利用した剣さばきを行う 怒りに任せた最後の一刀は木の幹に引っかかる バーネットが衝撃を受け焦って引き抜く その様子にヴィクトールが呆気に取られた後、微笑んで見守る
翌日 城の通路を歩くヴィクトールに家臣らが続き 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下、本日は先日融資を行った ベハムツ卿から昼食会のお誘いが入っております」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下、その前にデネシアのハレルト大臣がいらっしゃるとの連絡が入っておりますので是非ともハレルト殿と御昼食を」
家臣Cが言う
「それよりもヴィクトール陛下、新たな提携先として カイッズ国のエレヌハイム伯爵から 是非アバロンの料理を堪能させて欲しいとのお話が」
ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「昼食くらい… 気軽に取らせて貰えないのかい?アバロンの料理は確かに美味しいけど そう言う人たちと食べている時は ほとんど味なんて感じていられないんだよ?」
家臣Aが言う
「そうは仰いましても、昼食時は謁見時間を気にせずに お話を勧められる絶好の機会と言う事で 皆、陛下とのお時間を得たいと必死なのです」
家臣Bが言う
「裏を返せば、逆にアバロンへ融資を行わせる好機とも取られます ヴィクトール陛下は歴代のアバロン王の中でも その腕前は並々ならぬものですので 今回もどうか」
家臣Cが言う
「それならやはりカイッズ国のエレヌハイム伯爵にアバロンの料理を御紹介するという形で!」
家臣たちが向き合って どの人物との食事会にヴィクトールを出席させるかを言い合う ヴィクトールが呆れてから振り返って言う
「それなら僕は 今日はバーネットと取る事にするよ!」
ヴィクトールが笑顔になる 家臣たちが衝撃を受けてから怒って 家臣Aが言う
「何を申されますか!ヴィクトール陛下!」
家臣Bが言う
「そうです!日々の昼食会こそ アバロンへ融資をもたらす絶好の機会!一日も無駄には出来ませんぞ!?」
家臣Cが言う
「そうです!カイッズ国のエレブハイム伯爵は 今日しかアバロンに御滞在致しません!」
ヴィクトールが軽く微笑んで言う
「ベハムツ卿へは融資を行ったのだから後は向こうの結果を待つだけだし、ハレルト殿はレリアンを迎えに来ただけだろ?カイッズ国のエレヌハイム伯爵は前々からアバロンからの融資を狙っていると言う噂を聞いているから 融資をさせられる事はあっても して貰う事は難しいよ」
家臣たちが呆気に取られる ヴィクトールが笑顔で言う
「だから、今日は彼と昼食を取る 16年前に彼をデネシアから助け出した時は カイッズ国とのイザコザのせいで取られなかったんだ だから彼とはもう24年振りだね!きっと…」
家臣たちがヴィクトールに注目する ヴィクトールが一度考えた後、笑顔で続ける
「時間を気にせず話していたら 夕方になっても終らないんじゃないかな?」
ヴィクトールが歩き出す 家臣たちが慌ててヴィクトールを止めようとする ヴィクトールがバーネットの部屋まで来る 家臣たちが止めようとするが ヴィクトールが扉をノックして声を掛けながら開ける
「バーネット、調子はどうだい?良かったら… …あれ?」
ヴィクトールが部屋の中を見渡す 家臣たちが疑問する ヴィクトールが首を傾げて部屋の中でバーネットを探す 家臣たちが顔を見合わせて 家臣Aが言う
「ベネテクト国へ戻られたのじゃろか?」
家臣Bが言う
「それは無理じゃろう?現在もベネテクト国は新国王を定着させるために バーネット2世は死んだと広めている所なんじゃから」
家臣Cが言う
「アバロンでもそれは同じじゃ、だからアバロンの町を歩く事だって良からぬ事 それぐらいの事 あのバーネット殿なら分かるはずじゃて」
家臣たちが相談を終えてヴィクトールへ向く ヴィクトールが1人で考えている ヴィクトールが昨夜のバーネットの剣の稽古を思い出し ハッとして部屋を飛び出す 家臣たちが慌てて止めようとするが まったく間に合わず ヴィクトールが走り去る
一方その頃 バーネットはローブを纏った状態で馬に跨り 眼下に広がるデネシア城を見下ろしている バーネットが手綱を握る手を 握り締めて馬を走らせる
ヴィクトールが早馬に乗り駆け抜ける 国境警備兵の敬礼も目に入らず一目散にデネシア城を目指す
【 デネシア城 】
バーネットがデネシア城の門前で馬を飛び下り、そのままの勢いで 門兵たちの制止を振り切り 一気に城内の地下牢を目指す 次々に襲い掛かる警備兵の手や魔法をかわして殴り倒し 辿り着いた地下牢 そこに居る目当ての人物を見付け 叫びながら襲い掛かる バーネットの襲撃に いつぞやの拷問兵も慌てて剣を抜くが、次の瞬間には抜いた剣は弾き飛ばされ その衝撃のままに尻を着く バーネットが拷問兵に剣先を突き付け言う
「俺を覚えているか!?」
拷問兵が目前の剣先に怯えながら バーネットを見上げて言う
「だ…っ 誰だ!?お前は!?お前なんか 俺は…」
バーネットが言いながらローブのフードを外して言う
「忘れたとは言わせねぇっ」
拷問兵がバーネットの顔を見て言う
「お、お前は あの時の…っ ベネテクト国の王子っ!?」
拷問兵の脳裏に バーネット1世の命を奪った時 泣き叫んでいたバーネット王子の姿が浮かぶ バーネットが笑って言う
「はっはー 『王子』じゃねぇよ?あん時てめぇが 親父を殺した…っ てめぇが俺を!ベネテクトの国王にしやがったんじゃねぇか!?忘れたかぁあ!!」
バーネットが近付く 拷問兵が迫り来る剣先に震えながら声も出せずに頷く バーネットが再び笑い言う
「ハッ!もっとも、今の俺は… その国王の地位を失っちまったけどなぁ?地位も国も… 今の俺には何もねぇ… あるのは てめぇへの… あの時の礼だけだ!」
拷問兵の顔の横に剣が突き刺さる バーネットがにやりと笑って言う
「簡単に殺してはやらねぇぜ?親父と同じ様に ゆっくり… 何度も何度も苦しめて それから殺してやる!」
拷問兵が怯えて言う
「ひぃい!た、頼む 助けてくれ!や、止めてくれ…」
バーネットが一瞬、間を置いてから叫ぶ
「ざけんなぁあ!てめぇは!俺が泣いて叫んで頼んだって 親父を殺しやがったじゃねぇえかぁあ!!許さねぇ… てめぇも 同じ様にぶっ殺す!!」
拷問兵の顔の横に突き刺されていた剣が引き抜かれ 拷問兵の前に構えられる 拷問兵が目を強く閉じる 後方から声が響く
「止めるんだバーネット!!」
バーネットの剣が後一歩の所で止まる バーネットが振り返る ヴィクトールが息を切らせて飛び込んで来た姿でいる バーネットが目を見開いて驚く ヴィクトールに続きアバロン国の兵士たちも現れる バーネットが中断していた行動を再開させようとする ヴィクトールが叫ぶ
「バーネット!!」
ヴィクトールがバーネットを後ろから押さえる バーネットが叫ぶ
「離せヴィクトール!!」
ヴィクトールが言う
「ダメだ!止めるんだ!」
ヴィクトールの力に押さえられ バーネットの剣は兵に届かない 拷問兵がその様子に安心しニヤリと笑い 立ち上がって言う
「残念だったなバーネット王子?おっと国王だったか?いや元国王か?」
拷問兵が笑う 周囲に居たデネシアの兵たちも笑い始めて言う
「またひっ捕らえて吊るしてやらねぇと」
「ああ、お前用の手枷足枷も残ってるぜ?何てったって我がデネシア国は平和主義の国だ、めったに拷問だの何だのなんてねぇから どれもこれもお前ら親子専用に作ったものばかりだ」
兵たちが笑う バーネットが怒り再び襲いかかろうとするが ヴィクトールの強力な力を振り切れない そこにデネシア国王ローゼックが現れて言う
「何事だ?騒がしい」
バーネットが振り返る ヴィクトールの後方 牢獄入り口に居るローゼックを見上げる ローゼックがバーネットを見てから ヴィクトールへ向いて声を掛ける
「ヴィクトール殿、確か 彼は貴殿の友人だったな?我がデネシア国に何用だろうか?」
ヴィクトールが横目にローゼックを見る ヴィクトールの腕から解放されたバーネットが ゆっくりとローゼックへ向かおうとする ヴィクトールがハッとして 再びバーネットを抑える バーネットが叫ぶ
「離せヴィクトール!ヴィクトール!!」
ヴィクトールが自身も心の葛藤に苦しみながら言う
「バーネット… 頼む… 堪えるんだ…」
バーネットが叫び続ける
「離せっ!離せっつってんだ!離せよヴィクトール!」
ローゼックが苦笑してから 後方へ従えていたデネシア国の兵に指示を送る ヴィクトールがその様子に気付いて言う
「バーネット すまない…」
ヴィクトールがバーネットの頸椎を叩き気絶させる バーネットがギリギリまで意識を持ち続けようとするが 視界が薄れて行く
「ちく…しょう…」
ヴィクトールがバーネットの身を抱き止める ローゼックが残念そうに失笑してから兵へ指示を出す
「…ふん、保護してやれ」
ローゼックの指示で動き出したデネシア兵をを前に ヴィクトールが言う
「触るな!」
間近に来ていたデネシア兵が ヴィクトールの声に驚き動きを止める ヴィクトールがローゼックへ顔を向けて言う
「…彼は、我がアバロン国で保護をします」
ヴィクトールの周囲に仕えていたアバロン兵が駆け付ける ヴィクトールがアバロン兵たちへバーネットの身を預けながら言う
「丁重に、まだ傷が癒えていないんだ」
ヴィクトールの言葉に アバロン兵たちが無言で頷き バーネットを下がらせる ヴィクトールがそれを確認してから 改めてローゼックへ向き直って言う
「お騒がせを致しました ローゼック国王お詫び致します」
ヴィクトールが敬礼する ローゼックが頷いて言う
「まったくだ、貴殿の詫びがなければ 即座に捕らえ刑に罰していた所だな?」
ヴィクトールが言う
「騒ぎを起こした事に対してはお詫びをします しかしながら、彼のしようとした事を 詫びるつもりは有りません」
ローゼックが眉をひそめて言う
「何んだと?」
ヴィクトールが言う
「彼は… 我がアバロンの友人はっ このデネシア国に預けられている ベネテクト国 元国王バーネット1世様の亡骸を 受け取りに来たのです」
ローゼックが沈黙する ヴィクトールが続ける
「彼は今休んでいますが、その目的は 私が代わってでも行うべき事!どうか この私に勤めさせて頂きたいと存じます」
ヴィクトールがローゼックへ強い視線を向ける 引き下がる様子の無いヴィクトールに 仕方なくローゼックが答える
「…好きにするが良い、何者かがどうにかしていなければ 今も同じ場所にある筈だ おい、ヴィクトール殿をご案内してやれ」
デネシア兵の1人が返事をして ヴィクトールの前へ出る ローゼックが不満そうにその場を立ち去る 案内のデネシア兵が道を案内する ヴィクトールとアバロン兵たちが その後に続く
地下牢を出て地上階を進み 行き止まりの扉の前で 案内のデネシア兵が立ち止まって言う
「こちらです」
兵が扉を手で示す ヴィクトールが扉に近付く 兵が言い辛そうに言う
「あの… …お目になされない方が 宜しいかと…」
ヴィクトールが兵の言葉に振り返り 理由を問おうとした所へ バーネットがやって来て言う
「ああ… 親父も見られたくねぇだろうぜ…」
ヴィクトールが振り返った先 バーネットがアバロン兵たちと共に来て ヴィクトールの横で立ち止まって言う
「親父は 格好付けたがる奴だったからな… あんな姿 見られたくねぇ筈だ」
ヴィクトールがバーネットへ言う
「バーネット、君は… 知っているのか?」
バーネットが苦笑して言う
「ああ、見させられたからな?」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られてから理解して アバロン兵たちを下がらせる バーネットがヴィクトールへ視線を向ける ヴィクトールが言う
「僕は、我が父 ヴィクトール12世の代わりに 確認する義務がある」
ヴィクトールが扉を見据える バーネットがヴィクトールを見て軽く笑って言う
「…後悔しても知らねぇぞ?夜、一緒に寝てやらねぇからなぁ?」
ヴィクトールが苦笑を向ける 2人のやり取りを確認して 案内のデネシア兵が 扉の鍵にある番号を合わせようとする バーネットがそれを制して言う
「いや、お前も下がってくれ 俺がやる」
デネシア兵が驚いて言う
「しかし?」
バーネットが案内のデネシア兵に替わって操作をしながら言う
「いつか助けに来ようと思ってたからな 覚えてたんだよ」
鍵が音を立てて外れる 少ない力で扉が開き始める バーネットがその扉に手を掛けて開く 開かれた扉の向こう そこにある光景にヴィクトールが息を飲む
差し込まれる真昼の太陽の下 十字に掲げられた木片に張り付けられた 一体のミイラ バーネットが軽く笑って言う
「親父 迎えに来てやったぜ?」
バーネット1世は当時のその時のまま放置されている ミイラ化した身体に無数の剣が刺されている バーネットがバーネット1世の前へ向かって言う
「へっ!親父の奴 何本刺されても笑いやがってよ 痛くも痒くもねぇって… あの野郎が痺れを切らすまで 笑ってやがった…」
バーネットがバーネット1世の顔に刺された 最後の一刀に手を伸ばして言う
「流石にコイツは痛かっただろう?今抜いてやるぜ…」
バーネットの後ろから ヴィクトール12世の声が届く
「バーネット…っ」
ヴィクトールが驚いて振り返って言う
「父上っ!?」
バーネットが驚き身動きを止めている 思いもしなかった人物の声に父を助けようとしていた手が震える その手が包まれる バーネットがヴィクトール12世へ向いて言う
「…ヴィクトール 陛下…っ」
ヴィクトール12世が静かに微笑んで言う
「遅くなって すまない」
ヴィクトール12世がバーネットの手を離す バーネットが無意識に一歩下がる ヴィクトール12世がバーネット1世と正面から向かい合い その姿を見つめて言う
「バーネット…」
ヴィクトール12世が目を細めて言う
「すまなかった… 全ては私の… 私の責任だ」
ヴィクトール12世が瞳を閉じ悔いる 当時の事を思い出し怒りと悲しみで肩を震わして言う
「私は… 分かっていた… きっと君が助けてくれると そして、今度も共に 切り抜ける事が出来る筈だと… まさか ロ…」
ヴィクトール12世が涙を流して話を続けようとするが 言葉を止め顔を横に振ってから言う
「…私は 必死に策を探した しかし 結局 君を助けられなかった… すまない… バーネット すまない…」
ヴィクトール12世が涙ながらに繰り返す その様子を見ていたバーネットが ふと父を見上げ言う
『…遅せぇんだよ もう良い… こんな姿… 見られたかねぇんだよ…』
ヴィクトール12世がその声に顔を上げ静かに微笑んで言う
「ああ… そうだった 君は…いつも見惚れるほど格好の良い男だった 今も…変わらないがな?」
ヴィクトール12世が言いながら 剣に手を伸ばして言う
「ありがとう バーネット また会おう」
ヴィクトール12世が剣を抜く バーネット1世は銀の混じる砂になってこぼれ落ちる バーネットが一緒に崩れ膝を着き 骨と砂だけになった バーネット1世に手を伸ばし、思い出した様に泣き崩れる 駆け寄ったヴィクトールが肩を支える
アバロン国へ帰る馬車の中 ヴィクトール12世がバーネット1世の遺骨の包まれた物を抱いている
回想
ヴィクトール12世が遺骨の包まれた布をバーネットへ向ける バーネットが言う
「親父は ヴィクトール陛下に会いたがっていました、その陛下に支えてもらえてるんだ きっと今、親父はとても喜んでいる筈です それに… 本当は俺が ベネテクトへ連れ帰ってやるべきなのに 俺は国へ帰ることすら出来ません… こんな俺に ベネテクト国王バーネット1世の身を支える資格は無い」
ヴィクトールが言う
「バーネット…」
回想終了
馬車がアバロン城へ帰り着く アバロン兵たちの敬礼を受けつつ ヴィクトール12世が馬車を降り ヴィクトールとバーネットが続く 城の前でバーネットが足を止める ヴィクトールが気付いて振り返って言う
「バーネット?」
ヴィクトールの声にヴィクトール12世が足を止める バーネットが跪いて言う
「ヴィクトール陛下、どうか… 不甲斐ない私めに代わり 父の遺骨をベネテクト国へ届けるよう 兵を遣わせて頂きたく存じます」
ヴィクトールが問う
「良いのかい バーネット?君の手で連れ帰りたかったのでは?」
バーネットが答える
「俺の… 私の失態で バーネット1世の帰還を遅らせる訳には参りません どうか…」
バーネットが頭を下げる ヴィクトールがヴィクトール12世へ向く ヴィクトール12世が向き直って言う
「バーネット2世、貴公の尊父には 今宵はこのアバロンにて寛いで頂き 明朝にもベネテクト国へお送りしよう」
バーネットが頭を下げたまま言う
「お心遣い 恐れ入ります」
ヴィクトール12世が頷き城の奥へ去って行く いつまでも頭を下げ続けるバーネットへヴィクトールが声を掛ける
「バーネット、僕らも中へ」
バーネットが言う
「…ヴィクトール、すまねぇ…」
ヴィクトールが疑問して言う
「え…っ?」
バーネットが言う
「もっと俺が ベネテクトの王で居られたら… 親父の様に、お前の役に立てたかもしれなかった」
ヴィクトールが言う
「何を言っているんだ バーネット!?いつも助けてもらっていた!」
バーネットが沈黙する ヴィクトールは続けようとするが 周囲を気にして バーネットの腕を引いて言う
「さぁ、中へ… 少し休もう」
城内
バーネットが兵に付き添われて客室へ向かう ヴィクトールがその後姿を見送ってから 玉座の間へ向かおうとする その前でヴィクトール12世がバーネットの後姿を見ている ヴィクトールが問う
「父上?」
ヴィクトール12世が ヴィクトールへ向いて言う
「ヴィクトール」
ヴィクトールが答える
「はい、父上」
ヴィクトール12世が言う
「バーネットから… 彼から目を離すな 今の彼は 何もかも失ってしまっている 父を取り戻すという目的も果たしてしまった」
ヴィクトール12世が言い終えると共に 自分の抱えるバーネット1世の遺体の包まれた物を静かに撫でる ヴィクトールが一度視線を落としてから ヴィクトール12世を見て言う
「父上 私はどうしたら?」
ヴィクトール12世が顔を上げて言う
「彼の居場所を守ってやれ、彼は今、故郷のベネテクトへ戻る事すら許されない それでも このアバロンに留まる事が 許されるのだという事を お前が 知らせるのだ」
ヴィクトール12世の言葉に ヴィクトールが強く言う
「はい 分かりましたっ 御助言を ありがとうございます」
ヴィクトールが敬礼する ヴィクトール12世が頷き立ち去る ヴィクトールが既に見えなくなったバーネットが去った通路へ顔を向ける
【 ベリオルの街 】
宿を出たリーザロッテと仲間たち リーザロッテが言う
「さあ!さっそくスプローニへ行きましょ!この大陸で宝玉を所持している国は スプローニとシュレイザー… でもシュレイザーにはちょっと…」
レイトが言う
「『魔界との穴を塞ぎ 悪しき魔力を遮断』と言う事をなさるのでしたら、宝玉は1つでも得られれば宜しいのでは無いでしょうか?」
リーザロッテが微笑んで言う
「それもそうね!その宝玉の魔力が無くなる頃には 私たちの勇者としての行動が認められて 逆にローレシアの勇者たちが 私たちへ謙譲してくるかもしれないわ!そうでなくても 各国の国王に認められさえすれば…!」
リーザロッテが話しながら歩いている所へ シャルロッテが横道から走って来て 止まりきれずにぶつかる 2人が声を合わせる
「「きゃっ!」」
地面に倒れそうになったリーザロッテをレイトが慌てて抱き止める 一方、シャルロッテは地面に尻餅を着く シャルロッテが地に打った腰を擦りながら言う
「いったた~…」
レイトに受け止められたリーザロッテもぶつかった腕を抑えながら シャルロッテを心配して言う
「あなた、大丈夫?」
リーザロッテの言葉に シャルロッテがハッとして 勢い良く起き上がり リーザロッテの顔を確認してから 慌てた様子で言う
「あ、ああっあの!こ、ここここの先にはっ!い、行っちゃダメですぅ!」
リーザロッテが驚いて疑問する
「え?」
シャルロッテが何か言いたげに慌てて周囲を見渡しながら口をぱくぱくさせるが 言葉が追い付かない様子でハッと大通りの方を向いて叫ぶ
「あ、ああっ!も、ももももう時間がっ!こっちですっ!」
シャルロッテが言うが早いかリーザロッテの手を引いて 自分が駆けて来た横道へリーザロッテを引き込む ヴェインが声を荒げる
「おい!貴様っ!」
シャルロッテが振り返って言う
「あ、あなた達もっ!ツ、ツヴァイザーの方は 急いで!!」
皆が驚き シャルロッテの言葉に従って横道へ入る シャルロッテが一度ホッと胸を撫で下ろしてから 身体に引っ掛けていたモバイルPCを開いて素早いタイピングを行う リーザロッテがその様子に言う
「あなた… もしかしてプログラマー?」
リーザロッテがシャルロッテへ問い掛けている間に ヴェインが横道から顔を出し、大通りの様子を伺う 視線の先大通りを通る人物を確認して思わず声にする
「あれは!シュレイザーの部隊!?」
ヴェインの言葉にリーザロッテと仲間たちが驚く シャルロッテが落ち着いて言う
「はい、ツヴァイザーの国王が リーザロッテ王女の捜索命令を出したんです、もうスプローニとシュレイザーには近付けません」
リーザロッテが言う
「スプローニへ行って宝玉を借りる事は出来ないわね…」
リーザロッテが考える様子を見せる シャルロッテが続ける
「それどころか、もう このベリオルにも居られません すぐに港からアバロン運河を渡らないと」
シャルロッテがタイピングを続ける レイトが言う
「すぐと言っても 船に乗るには乗船券が必要だ、他国へ向かう便ならば 券を買う際に 身分を明かさなければならない」
レイトが言い終わる頃、シャルロッテがタイピングを終了させ顔を上げながら言う シャルロッテはモバイルPCのモニターが視界に入らなくなると言葉が片言になる
「乗船券の手配が終りました、後は… ル、ルルルートに気を付けながらっ 乗船場所に行ってっ そ、そのっ わ、わわわ私がっ 後は大丈夫にしますからぁっ!」
シャルロッテの変貌に リーザロッテが呆気に取られて言う
「あなた… 変わってるわね?」
シャルロッテがモバイルPCに顔を隠しながら言う
「よ、よくっ 言われ ますぅ…」
リーザロッテが軽く微笑む ヴェインがシャルロッテへ槍を向けて言う
「貴様!なぜ我々の事を知っている!?そして、なぜ我々の 味方の様な真似をするのだ!?」
シャルロッテが驚いて怯えて言う
「ひゃぁっ!」
リーザロッテが一瞬驚いた後 ヴェインへ向いて怒って言う
「ヴェイン!」
ヴェインが槍の矛先をシャルロッテの首へ向ける シャルロッテが怯えながら言う
「ご、ごめんなさいっ!わ、私っ た、たまにっ リーザロッテ様の 事っ み、観ててっ」
シャルロッテの言葉に ヴェインが矛先を更に首へ近付ける シャルロッテが更に慌てて言う
「きゃぁーっ う、うううそですっ ご、ごめんなさいっ!たまにじゃ無くってっ そ、そのっ 結構っ ひ、頻繁に…っ」
リーザロッテが呆気に取られる ヴェインが今にも槍を突き刺しそうな様子で言う
「貴様ぁ~っ」
リーザロッテがハッと状況を理解して ヴェインを止めて言う
「ヴェイン、槍を下ろして」
ヴェインが顔を向けないまま言う
「しかし 姫様!」
リーザロッテが強い口調で言う
「ヴェイン!槍を下ろしなさい!」
ヴェインが一瞬、間を置いて返事をする
「…はっ」
ヴェインが槍を下ろす シャルロッテがへたり込む リーザロッテが言う
「あなた、名前は?」
シャルロッテが怯えながら言う
「シャ、シャルロッテ と も、申し…ます…」
リーザロッテが微笑んで言う
「シャルロッテね?それじゃ…シャル?あなた ずっと私を観てたのよね?」
シャルロッテが申し訳なさげに言う
「…はい ごめんなさい…」
リーザロッテが苦笑してから言う
「なら… 私たちが何をしようとしてるかも 分かってるのよね?」
シャルロッテが俯いてから言う
「…はい、ツヴァイザーの勇者になる為に… 魔王を討伐する為… 宝玉が必要で… で、でもスプローニやシュレイザーには行けなくて…」
リーザロッテが一つ一つに頷き 全て言い終えたシャルロッテの肩をぽんと叩いて言う
「そう!それなら!…今から あなたも、私たちの仲間ね?」
シャルロッテがリーザロッテを見上げて呆気に取られた後 驚いて叫ぶ
「え?…えぇええ!?わ、私 も!?」
リーザロッテが笑顔で言う
「もちろんよ!プログラマーが仲間になってくれるだなんて 素晴らしいわ!さ!そうと決まれば 乗船所へ急がないと!シャル!さっそく私たちの行く道を 教えて頂けて?」
シャルロッテがリーザロッテの満面の笑顔の前でおどおどするが モバイルPCを開きタイピングを開始して言う
「は、はいっ!…大通りでは聞き取り調査が行われているので ここは迂回しなければいけません A、C地区の聞き取りは 終了しているので…」
リーザロッテがシャルロッテの説明に満足して頷いている中 ロイがレイトへ言う
「…どうやら本当に ツヴァイザーのリーザロッテ王女だった様だな?」
ロイがレイトに続いてヴェインへ視線を向ける レイトとヴェインが苦笑して レイトが何とか返事をする
「…あ、ああ …すまん」
レイトとヴェインが視線を逸らす リーザロッテがシャルロッテの説明を聞き終えて言う
「では そのルートね?…レイト!ヴェイン!ロイ!行くわよ!3人とも急ぎなさい!」
リーザロッテと仲間たちがその場を後にする リーザロッテと仲間たちが立ち去った その場所を オライオンが歩いて来て言う
「スプローニの宝玉は手に入れたから 次はシュレイザーだな!」
オライオンとともに歩くロスラグが笑顔で言う
「オライオンは先代勇者の仲間だった ヘクター隊長の息子ッスから 国王様も安心して宝玉を預けてくれるッスね!」
オライオンがロスラグへ向いて言う
「ああ!…その代わり 何で今回は勇者様と一緒じゃねーんだ?って聞かれるから それに答えるのが いっつもめんどーでよー?」
ロスラグがオライオンの顔を覗き込んで言う
「何って答えるッスか?値段の高い宿に泊まりたく無いから って 答えるッスか?」
オライオンが軽く笑って言う
「俺は そー答えたかったんだけど それじゃーダメだって 親父の相棒のプログラマーに言われてさ?だから」
ロスラグがオライオンに注目する オライオンが軽く笑って言う
「デスには悪いけど、魔王の島の結界のプログラムが 実はもう時間切れでーす!ってな?」
ロスラグが衝撃を受けて叫ぶ
「えー!そうなんッスかー!?俺知らなかったッスー!!それに それって チョー大変な事ッスよー!?」
オライオンが一瞬呆気に取られた後 笑顔で言う
「嘘だって!けど俺が言うと 本当みたいに聞こえるらしくってよ!王様も驚いて 焦って貸してくれるんだよなー!」
ロスラグがホッとして言う
「へ?な… なんだ~ 嘘ッスかー… 俺すっげー心配したッスよ!オライオン悪い奴ッス!俺 やっぱオライオンとは別行動するッス!!」
ロスラグが怒って立ち去る オライオンがあっと声を上げた後 軽く笑って言う
「あ… あぁ~ 行っちゃったよ けど 本当は… 嘘じゃ無いんだって言ったら ロスラグの奴 もっと心配するんだろーな?」
シュライツが首を傾げる
【 アバロン城 】
城の通路を歩くヴィクトールに家臣たちが続いて 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下、本日はアバロンのモリエル伯爵から昼食会のお誘いが入っております」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下、その前にツヴァイザーのエルロス大臣がいらっしゃるとの連絡が入っておりますので 是非ともエルロス殿と御昼食を」
家臣Cが言う
「それよりもヴィクトール陛下、新たな部隊としてアバロン海軍を編成するのに機良く シュレイザーのピュッケル提督から 是非アバロンの料理を堪能させて欲しいとの」
ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「いつもいつも 昼食くらい… 気軽に取らせて貰えないのかい?アバロンの料理は確かに美味しいけど そう言う人たちと食べている時は ほとんど味なんて感じていられないんだよ?」
家臣Aが言う
「そうは仰いましても、昼食時は謁見時間を気にせず お話を勧められる絶好の機会と言う事で 皆様は是非とも陛下とのお時間を得たいと必死なのです」
家臣Bが言う
「裏を返せば、逆にアバロンへ融資を行わせる好機とも取れます ヴィクトール陛下は歴代のアバロン王の中でも その腕前は並々ならぬものですので 今回もどうか」
家臣Cが言う
「融資よりも アバロン海軍編成に当たり シュレイザーのピュッケル提督にアバロンの料理を御紹介するという形で」
家臣たちが向き合って どの人物との食事会にヴィクトールを出席させるかを言い合う ヴィクトールが呆れてから振り返って言う
「それなら僕は… 今日はバーネットと取る事にするよ!」
ヴィクトールが笑顔になる 家臣たちが衝撃を受けてから怒って 家臣Aが言う
「何を申されますか!ヴィクトール陛下!」
家臣Bが言う
「そうです!日々の昼食会こそ アバロンへ融資をもたらす絶好の機会!一日も無駄には出来ません!」
家臣Cが言う
「そうです!融資ではなく アバロン海軍編成のための シュレイザーのピュッケル提督は 今日しかアバロンに御滞在致しません!」
ヴィクトールが軽く微笑んで言う
「モリエル伯爵は伯爵と名乗りたかったから各部署に名前を売っているだけだって噂だから アバロンに融資が出来る様な財産は無いと思うし、ツヴァイザーのエルロス殿は先のベネテクト攻略失敗で打ち切られたベネテクトからの融資をアバロンへ求めて来るだけだろ?ピュッケル提督は開戦時に誰よりも早く撤退の指示を出して艦隊を守りはするけど攻略した事は一度もないって言う 守り専門の艦隊提督だ アバロンに引き込んでも意味が無いよ」
家臣たちが呆気に取られる ヴィクトールが笑顔で言う
「だから、今日は彼と昼食を取る 16年前に彼をデネシアから助け出した時に引き続き 昨日もデネシアへ攻め込だ彼を迎に行ったせいで 昼も夜も取れなかったんだ!だから彼とはもう24年振りだね?きっと…」
家臣たちがヴィクトールに注目する ヴィクトールが一度考えた後笑顔で続ける
「時間を気にせず話していたら 夜になっても終らないんじゃないかな?」
ヴィクトールが歩き出す 家臣たちが慌ててヴィクトールを止めようとする ヴィクトールがバーネットの部屋まで来て扉をノックして声を掛けながら開ける
「バーネット、調子はどうだい?良かったら… …あれ?」
ヴィクトールが部屋の中を見渡す 家臣たちが疑問する ヴィクトールが首を傾げて部屋の中でバーネットを探す 家臣たちが顔を見合わせて 家臣Aが言う
「ベネテクト国へ戻られたのじゃろか?」
家臣Bが言う
「それは無理じゃろう?現在もベネテクト国は新国王を定着させるために バーネット2世は死んだと広めている所なんじゃから」
家臣Cが言う
「アバロンでもそれは同じじゃ、だからアバロンの町を歩く事だって良からぬ事 それぐらいの事はあのバーネット殿なら分かるはずじゃて」
家臣たちが相談を終えてヴィクトールへ向く ヴィクトールが1人で考えている 間を置いて首を傾げる
アバロン城下町酒場 バーネットがローブを纏い 賞金稼ぎの掲示板の前で独り言を言う
「くっそぉ… あの日俺がぶっ殺されるって分かってたら もっと有り金を所持しておいたってぇのに… 金が無けりゃ宿に泊まる事も メシにありつく事も出来やしねぇ まずは生活資金だ …ったく なんたってアバロンは国内へ滞在する民に 最低限の保障をしねぇんだぁ?民への愛がなってねぇぜ…」
アバロン城内 ヴィクトールが家臣たちと衛兵に抑えられている 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下!落ち着いてくだされ!昨日の件を踏まえ国境警備の兵には警戒を強化させております!バーネット殿はアバロンからは出られません!」
家臣Bが言う
「そうです!ヴィクトール陛下!先日のデネシアの一件からバーネット殿の生存を何とかもみ消した所 それを不意になど バーネット殿はなさらないはずです!」
ヴィクトールが家臣たちへ向いて言う
「それは そうだけどっ!一緒に悪魔力と戦おうって言ったのに!僕に黙ってバーネットは何処へ行ったのっ!?彼は先代同様 いざとなったら 己の身を省みないからっ!」
家臣Cが慌てて言う
「ヴィクトール陛下!御安心を!バーネット殿は所持金もほとんど無いとの事ですので 夜にはこの城へお戻りになる筈です!」
ヴィクトールが呆気に取られて言う
「所持金?」
ヴィクトールが動きを止める 家臣たちがホッと息を吐く
アバロン城下町酒場 バーネットに書類が手渡される バーネットが疑問する 酒場のマスターが言う
「それじゃ、この書類に名前を書いてくれ」
バーネットが衝撃を受けて焦って言う
「あ!?な、名前っ!?」
酒場のマスターが軽く微笑んで言う
「ああ、アバロンは依頼の賞金を一度城の方で預かっておいて 後日達成した者へ支払われる様になっているんだ こうして置く事で城の方でも腕利きの賞金稼ぎが居る事が把握出来たり 依頼主が支払いを逃れたりする事の無い様に確認する事も出来る」
バーネットが焦る 酒場のマスターが笑顔で書類を勧める
アバロン城内 ヴィクトールが家臣たちと衛兵に押さえられている 家臣Aが言う
「バーネット殿が賞金稼ぎをされるのでしたら お名前ですぐに分かります!」
家臣Bが言う
「もし バーネット殿のお名前が確認されましたら すぐにヴィクトール陛下へお伝え致しますので!」
家臣Cが言う
「ヴィクトール陛下!落ち着かれて下され、バーネット殿は先代同様 賞金稼ぎをする国王でありました!今更、賞金稼ぎ程度で 命を失われる事はございません!」
ヴィクトールが家臣たちへ向いて言う
「それはそうだけどっ!一緒に悪魔力と戦おうって言ったのに!何で1人で賞金稼ぎになんか行っちゃうの!?」
家臣Aが言う
「それはきっと ヴィクトール陛下と共に悪魔力と戦うために その資金集めに向かわれたものかと」
家臣Bが言う
「そうです!ヴィクトール陛下 バーネット殿はヴィクトール陛下と共に戦うため 立ち上がられたのです!」
家臣Cが言う
「バーネット殿はベネテクト国王時代からアバロンからの融資を断り続けてきたお方です きっと今回も御自分で資金を得て 悪魔力の調査を行うのではないかと」
ヴィクトールが呆気に取られ動きを止める 家臣たちがホッと息を吐く ヴィクトールが表情を強めて言う
「なら僕も!一緒に賞金稼ぎをする!!」
家臣たちが驚き 皆でヴィクトールを押さえ付ける 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下!何を仰るのです!貴方はアバロンの王ですぞ!!」
家臣Bが言う
「そうです!アバロンの王たるヴィクトール陛下が 賞金稼ぎなど!!」
家臣Cが言う
「そうです!バーネット殿はもう国王ではないのです!ヴィクトール陛下は アバロンの王なのですぞ!!」
ヴィクトールが怒って言う
「離してくれっ!それなら僕も 今すぐアバロンの王を辞めるよ!悪魔力と戦うため 彼と一緒に 賞金稼ぎをする!」
家臣Aが言う
「何を仰いますか!ヴィクトール陛下!」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下!落ち着いてくだされ!貴方様以外に このアバロンの王は務まりませぬ!」
家臣Cが周囲を見渡して言う
「おいっ 誰か何とかしろ!ヴィクトール陛下が御乱心だ!」
ヴィクトールが玉座に座って言う
「絶対だからね!?賞金稼ぎの受諾者にバーネットの名前を見付けたら すぐに教えて!すぐに捕まえて!すぐに連れて来るんだよっ!?」
家臣たちが溜め息を吐く 衛兵らが呆気に取られる
アバロン城下町酒場 バーネットが書類を酒場のマスターへ提出して言う
「これで良いだろ?」
酒場のマスターが衝撃を受けてバーネットの顔を覗き込む バーネットがイラッとした表情で叫ぶ
「俺が『ヴィクトール13世』に見えるってぇええのか!?あぁあ!?」
酒場のマスターがビクッと驚いた後 顔を横に振って言う
「い、いやいや、まったく見えないが… このアバロンの王である ヴィクトール13世陛下と同じ名前とは… 何とも?」
バーネットが怒って言う
「うるせぇええ!!後であいつから受け取る!だからこれで 受託させやがれ!!」
アバロン城玉座の間 ヴィクトールの前に兵が現れて言う
「申し上げます!ヴィクトール陛下!賞金稼ぎの受託者名に…!」
ヴィクトールが思わず立ち上がって言う
「バーネットを見つけたのかい!?」
兵が一瞬呆気に取られ困った様子で言う
「あ…い、いえ、バーネット殿のお名前は ございません…」
ヴィクトールが息を吐き玉座へ身を静めてから顔を上げ適当に言う
「じゃ何?」
兵がハッとして 慌てて言う
「それがっ 賞金稼ぎ受託者の名前に ヴィ、ヴィクトール陛下の…っ お名前が…」
ヴィクトールと家臣たちが呆気に取られる 一瞬の後 家臣たちが慌ててヴィクトールへ駆け寄って言う
「ヴィクトール陛下!!アバロンの王たる貴方様が 賞金稼ぎなどっ!!」
「御身分を おわきまえ下され!!」
「いかに陛下とおあらされ様とも そのような勝手を 我々に黙って!!」
ヴィクトールが呆気に取られた後 苦笑して言う
「何を言っているんだ?僕を止めたのは 君たちじゃないか?」
家臣たちが衝撃を受け 気を取り直し苦笑して言う
「そ、そうでございました…っ」
「現に ヴィクトール陛下は 今 我々の目の前におられます!」
「と、言う事は?偶然 まったく同じ世代の何処かの『ヴィクトール』殿がアバロンへお越しになり賞金稼ぎを…」
皆が笑い いっせいに気付いてハッとする ヴィクトールが怒って立ち上がって叫ぶ
「今すぐ 賞金稼ぎのヴィクトール13世を ひっ捕らえよーーっ!!」
夜アバロン城
バーネットが通信機に言う
「はっはー 何だよ そんじゃ とっくにベネテクトじゃぁ 俺が生きてるって バレてたんじゃねぇか?もっと早く知らせろよなぁ?お陰で今日の昼なんざ ヴィクトールの奴にひっ捕らえられて 泣きながら叫ばれて大変だったんだぜぇ?」
通信機のモニターのベーネットが苦笑して答える
『そうは言われましても 私も本日ヴィクトール12世様がお越しになるまで 貴方の生存を知らなかったのですよ?それどころか、知らなかったのは私だけで モフュルス殿が貴方を保護した事を知っていたベネテクトの民たちは 私や他国から貴方を守るために『バーネット2世は死んでしまった』と 言い広めていたそうです』
バーネットが一瞬呆気に取られた後 軽く微笑んで言う
「あぁ… やっぱりベネテクトの民は 今でもバーネット1世への恩を 忘れちゃいねぇんだな」
ベーネットが苦笑して言う
『それは勿論ですが、ベネテクトの民は 貴方への恩も忘れては居ません むしろ、今回の事は 貴方へ対する 民からの愛だと思いますよ?』
バーネットが驚き 苦笑して言う
「いや… 俺は何にもやれちゃ居なかった… その結果 てめぇにぶっ殺され掛けた訳だしな?」
ベーネットが苦笑して言う
『御謙遜を?それに、本当に貴方が 民に愛される事も無いような酷い国王であったのなら 私はあの時 急所を外したりなどはしませんでした』
バーネットが呆気に取られた後笑って言う
「ハッ!てめぇが俺を殺しそびれたのは てめぇの剣の腕がなってねぇからだろーがぁ?」
ベーネットが軽く笑って言う
『はい、そうかもしれませんね?それでは 今度こそ貴方を殺しそびれないよう しっかりと腕を磨いておきますので どうぞベネテクト国へいらっしゃる際は お背中に気を付けて?』
ベーネットが笑顔を向ける バーネットが慌てて言う
「2度もてめぇに ぶっ殺されて 堪るかぁああ!!」
バーネットが気を取り直して言う
「それはそうと、ツヴァイザーとやりあったってぇ?てめぇの指揮能力で防げたたぁ ツヴァイザーも随分腕が落ちたじゃねぇか?あそこは昔はどーしようもねぇ国だったが アンネローゼが女王になってからは 元々国技に指定していた槍術をたたき上げていやがった そこそこの国力を付けてやがった筈だってぇのに…」
ベーネットが答える
『はい、私もそれを警戒していたのですが 今回、ツヴァイザーはあまり本気では無かった様に思えます』
バーネットが問う
「そりゃどー言う事だ?」
ベーネットが答える
『最初は 私が貴方をベネテクト国から追放した事を受けての ツヴァイザーからの侵略であると踏んだのですが 確認を続けるうちに どうやらツヴァイザーの女王アンネローゼ殿を幽閉している シュレイザーからの脅迫があった模様で』
バーネットが疑問して言う
「シュレイザーだぁ?あのチョッポクルスが ベネテクトを襲うなんざ…」
ベーネットが頷いて言う
『はい、私もそう思います しかしモフュルス殿の調べによると どうやらその可能性が極めて高いらしいのです 現在も確認を続けているので 何か分かりましたら すぐに貴方へ知らせるようにと…』
バーネットが軽く笑って言う
「いや、俺に知らせる必要はねぇ」
ベーネットが疑問する バーネットが軽く笑ったまま言う
「俺はもうベネテクトの王じゃねぇ 戴冠式は先代に続き してやれなかったが… まぁまぁの王位継承式だったぜ?おかげで 俺もあいつと仲直りが出来やがった訳だしなぁ?」
ベーネットが苦笑する バーネットが言う
「ベーネット、ベネテクトの民と国を頼んだぜ?ベネテクトの王は てめぇだ」
ベーネットが呆気に取られた後 静かに微笑んで言う
『分かりました 父上 ベーネット・ベネテクト ベネテクト国の王位を 確かに継承致しました』
【 ソルベキア国 】
ベリオルの街からソルベキアへやって来たリーザロッテたち リーザロッテが言う
「宝玉はこのソルベキアにもあるわ シャル、ツヴァイザーからの私の捜索命令は ソルベキアには伝わって居ないのよね?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「はい、リーザロッテ王女の捜索令状は 大陸東部のみになります 大陸中部や西部には伝わっていません」
レイトがリーザロッテへ言う
「しかし、リーザ様 ソルベキアはローレシアと様々な条約を交しているため 例えツヴァイザーの名を出しても ローレシアの勇者を差し置いて リーザ様へ宝玉を預けて頂けるものとは思えません」
リーザロッテが考えてから言う
「確かにそうね それに、ソルベキアは隣国のローゼントとの仲も悪いし そのローゼントの元王女であったお母様の娘である私には 宝玉を貸しては下さらないかもしれないわ ローレシアの勇者が手に入れていない別の国の宝玉を捜した方が良さそうね?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「ちなみに、このソルベキアの宝玉はまだ ローレシアの勇者の手には渡って居ません 現在ローレシアの勇者たちはスプローニ国周囲に居るものと思われます」
ヴェインが言う
「ローレシアの勇者がソルベキアを後回しにしたと言う事は ローレシアからアバロンそしてベネテクトからスプローニへ向かったのだろうか?」
ロイがヴェインへ向いて言う
「…ローレシアからガルバディア、ベネテクト、スプローニの可能性もある」
リーザロッテがシャルロッテへ向いて言う
「シャル、アバロンとガルバディアの宝玉がどうなっているかは分かって?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「宝玉がどうなったかは分からないですが ローレシアの勇者たちの宿記録から考えると ヴェインさんが言ったルートを通った可能性が有力です」
リーザロッテが考えて言う
「それではアバロンの宝玉は渡ってしまった可能性が高いわね 残るはシュレイザーとソルベキアとガルバディア… 今彼らがスプローニ周辺にいると言う事はシュレイザーの宝玉は彼らに奪われてしまうでしょうから 残るはソルベキアとガルバディア… そうとなれば やっぱり ソルベキア国王にもお願いしてみましょ?国を閉ざしているガルバディアよりは可能性があるかもしれないわ」
ロイが言う
「…だが、ソルベキアの王と謁見を行い ツヴァイザーの王女である事を明かしてしまっては 例え捜索令状が出されて居ない大陸中部であっても 貴姉がソルベキアに居る事がツヴァイザーへ伝わってしまうのではなかろうか?」
リーザロッテが困った表情で言う
「それはそうかもしれないけれど… そうでもしなければ 宝玉は手に入らないわ ここは仕方なく」
シャルロッテがハッとして言う
「そ、そそそれなら!わ、私 1つ名案がありますぅ!!」
皆がシャルロッテを見る レイトとヴェインが顔を見合わせ レイトが言う
「名案かどうかは聞いてみなければ分からんが…」
ヴェインが苦笑して言う
「自ら『名案』と言い放つとは…」
リーザロッテが問う
「その名案とは?」
【 ソルベキア城 玉座の間 】
ソルベキア国王が言う
「ローレシア国2代目勇者ザッツロード殿の仲間 スプローニ国のロキ殿とローゼント国のヴェルアロンスライツァー殿 よくぞ我がソルベキア国へ参られた それで、用件は?」
ソルベキア国王の言葉に ローゼント国の鎧を着たレイトが言う
「はっ!本日は3代目勇者ザッツロードに代わり 我々がこのソルベキア国の宝玉を預かりに 伺わせて頂きました」
レイトの横で ロイが言う
「…公にはされておりませんが 現在アバロンに滞在している我々の仲間である 元ガルバディアのプログラマーが作り上げた 魔王の島の結界のプログラムは既に限界に達しており 一刻の猶予もありません」
レイトが冷や汗を掻きながら続ける
「従って ザッツロードの故郷であるローレシアとの親睦の厚い このソルベキア国のガライナ国王陛下であらされば この非常事態に仲間を遣わせた ザッツロードの非礼をお許し頂けるのではないかと思い 僭越ながら我々2人が 宝玉の受け取りに伺わせて頂きました」
ソルベキア城の外 リーザロッテとヴェインとシャルロッテが待っている リーザロッテが言う
「確かに、本来仲の悪いローゼント国の騎士と スプローニ国の銃使いが2人で訪れれば 先代勇者の仲間だったヴェルアロンスライツァーとロキに見えなくは無いかもしれないけれど… 本当に大丈夫かしら?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「ソルベキアは国王との謁見には 事前に生態識別確認を行うので 例え外見が似ていたとしても それだけではすぐに正体が暴露されてしまいます」
ヴェインが驚いて言う
「な!?それでは!彼らは国王への詐欺容疑で 捕らえられてしまうではないか!?」
リーザロッテとヴェインがシャルロッテへ詰め寄る シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「しかし、生態識別確認は最近始められたもので 収集してあるデータはかなり少ないんです 親子やとても近い親戚に当たる人物だったりすると その差が分からない程度で」
リーザロッテが慌てて言う
「シャル!例え同じスプローニ国のロイとロキが とても近い親戚だったとしても レイトとヴェルアロンスライツァーじゃ 国すら違ってよ!?」
ヴェインが言う
「そもそも 同じスプローニ国で 名前さえも似ていたとしても ロイとロキが とても近い親戚である可能性は分かりかねる!」
シャルロッテが2人の慌て様に首を傾げて言う
「え?レイトさんはヴェルアロンスライツァーさんの息子さんですし、ロイさんはロキさんの甥子さんですよ?」
リーザロッテとヴェインが衝撃を受けて顔を見合わせる シャルロッテが不思議そうに眺めてから言う
「あれ?もしかして 知らなかったんですか?その証拠に… ほらー!」
シャルロッテが指差す リーザロッテとヴェインがシャルロッテの指す方を向く
レイトとロイが疲れた様子でソルベキア城から出てくる レイトが言う
「例えリーザ様のご命令であっても この命だけは… もう… もう…」
ロイがレイトの言葉に続けて言う
「…二度と御免だ」
レイトの手にソルベキアの宝玉が握られている
【 結界の島 】
プログラマーが結界の島の前へホログラムを現していて 周囲にホログラムのモニターをいくつも出しながら 結界を確認している 海岸に置かれたモバイルPCと宝玉を見て 表情をひそめる
【 ローレシア城下町 】
ヘクターがローブに身を隠してローレシア城を見上げている ウィザードが後ろに居る ヘクターが視線を変えずに言う
「デス、どうだった?やっぱり結界はヤベーのか?」
何もない空間からプログラマーの声がする
『ああ、いかにプログラムを改良しようとも 元々蓄えられていた宝玉の聖魔力には限界がある』
ヘクターが視線を変えて言う
「アバロンの宝玉は どっか行っちまったって言うし ザッツたちの居所も分からねー… ヴェルやロキは諦めちまってるし…」
ウィザードが言う
「ヴィクトール国王はベネテクトの元国王との仲を改善したお陰で 悪魔力や魔王との戦いを再開する気になったと言っていたが?」
ヘクターが視線を向けないまま言う
「ヴィクトールは 3代目勇者と今のローレシアと戦わなきゃならねー 2代目勇者だったザッツたちを助ける余裕なんてねーんだ そうとなれば… ザッツたちはやっぱり俺たちが助けてやらねーと…」
ウィザードがプログラマーの姿を探しながら言う
「姿を隠して行けるのならば お前がローレシア城内を確認してくれば 良いのではないのか?」
何もない空間からプログラマーの声がする
『ローレシアは 我らガルバディアのプログラマーが 国外へ出る様になってから ローレシア城には近付けぬ様 ソルベキアへ依頼し 防御プログラムを組ませていた』
ウィザードが首を傾げて言う
「お前の力を持ってしても それを逃れる事は出来ないのか?」
ヘクターが何も見えない空間へ向く ヘクターの視線の先からプログラマーの声がする
『前回の捜索時に 苦労をさせられた… どう言う訳かソルベキアは かなりの力を入れて『私の』進入を 拒もうとしているらしい』
ヘクターが横目にローレシア城を見上げて言う
「けど、結果として 城内にザッツたちは居なかったんだろ?それでも まだ『お前』が入るのを拒むって事は… 何か俺たちに すげー見られちゃ困る物があるんだろーな?」
プログラマーが答える
『その可能性が極めて高い 防御プログラムが 『私を』標的にしている事からも ザッツロード6世らが関係している可能性が示唆される』
ウィザードがヘクターへ向いて言う
「どうする?お前がやりたいと言うのであれば 我らの力を持ってして ローレシア国の1つ程度 破壊出来る」
ヘクターが笑って言う
「まーそう言うなって?昔の俺だったら そうしただろうけど 今の俺には守んなきゃいけねーもんが たくさんあるんだ!帰るべきアバロンもアバロンを維持するヴィクトールも守んなきゃいけねー 今ならロキとヴェルの言ってた事が分かるぜ 国も王も 俺には両方大切だ」
プログラマーが言う
『そして、お前が彼らへ答えた 仲間であるザッツロードらも 助け出さなければならない… 例え一国を破壊する力を有していても 我らだけでは難しいな?』
ヘクターが溜め息を吐いて言う
「ああ… やっぱ皆の力がねーとダメみてーだ ここは一先ず アバロンへ帰ろうぜ?」
ヘクターが苦笑する ウィザードが頷き移動魔法を使う
【 アバロン城 】
ヴィクトールが城の通路を走っている 家臣たちが追いかけながら家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下ー!!本日はアバロンのレオンハルト公爵から昼食会のお誘いがーっ!!」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下ー!!その前にスプローニのライドン大臣がいらっしゃるとの連絡が入っておりますので是非ともライドン殿とーっ!!」
家臣Cが言う
「それよりもヴィクトール陛下ー!!新たな融資先として アバロン情報部を編成するのに機良く シュレイザーのハップリン教授から 是非アバロンの料理をー!!」
ヴィクトールが走りながら振り返って言う
「今日こそ バーネットと昼食を取る!それらは全て却下だ!!」
家臣Aが言う
「そうは仰いましても、ヴィクトール陛下ー!!」
家臣Bが言う
「裏を返せば、逆にアバロンへ 融資を ヴィクトール陛下!!」
家臣Cが言う
「融資よりも アバロン情報部を シュレイザーのハップリン教授ですぞ 陛下ー!!」
家臣たちが向き合って どの人物との食事会にヴィクトールを出席させるかを言い合おうとするが ヴィクトールが振り返って言う
「レオンハルト殿の邸宅は競売に掛けられている アバロンへの融資なんか無理だ!スプローニのライドン殿は両国の友好を確認に来るだけ!!ハップリン殿の研究は 良質チーズ製作に置ける微生物研究!今のアバロンには必要ないっ!!」
家臣たちが呆気に取られる ヴィクトールがバーネットの部屋の前で笑顔で言う
「だから、今日は彼と昼食を取る 16年前に彼をデネシアから助け出した時に引き続き 先日はデネシアへ攻め込んで 昨日も賞金稼ぎのヴィクトール13世を名乗っていた彼をひっ捕らえていたせいで 昼も夜も取れなかったんだ だから彼とはもう24年振りだね きっと…」
家臣たちがヴィクトールに注目する ヴィクトールが一度考えた後笑顔で続ける
「時間を気にせず話していたら 明日の朝になっても終らないんじゃないかな?って事で!」
家臣たちが衝撃を受ける ヴィクトールが声を掛けながら扉を開ける
「バーネット!…あれ?」
ヴィクトールが部屋の中を見渡す 家臣たちが疑問する ヴィクトールが疑問して部屋の中でバーネットを探す 家臣たちが顔を見合わせ 家臣Aが言う
「ベネテクト国へ戻られたのじゃろか?」
家臣Bが言う
「そうかもしれんの?現在はベネテクト国の新国王の定着も終り バーネット2世は生きとった事も 広まっちょる事じゃし?」
家臣Cが言う
「アバロンでもそれは同じじゃ、だからアバロンの町を歩く事だって特に問題ない それぐらいの事はあのバーネット殿なら分かるはずじゃて」
家臣たちが相談を終えてヴィクトールへ向く ヴィクトールが怒りを湧き上がらせて叫ぶ
「今すぐバーネット2世・ベネテクトを ひっ捕らえよーーっ!!」
玉座の間 バーネットが両脇をアバロン兵に抑えられスライドして連れて来られる ヴィクトールが玉座から立ち上がり泣きながら叫ぶ
「バーネット!!君と言う人はー!!何で いつもいつも 僕に黙って出て行っちゃうのーーっ!!」
バーネットが怒って言う
「るせぇええ!!俺が出歩くのに イチイチてめぇに許可なんざ取って 堪るかぁああ!!でもって 国家部隊使って ひっ捕らえやがるんじゃねぇええ!!」
ヴィクトールがバーネットと昼食を取りながら ヴィクトールが言う
「それで、バーネット 君に頼みがあるんだ」
バーネットが疑問して言う
「あぁ?俺はもうベネテクトの王じゃねぇんだ アバロンの王の役になんざ立てねぇぜ?」
ヴィクトールが微笑んで言う
「うん、僕ではなくて」
バーネットが疑問して言う
「てめぇじゃなくて?」
バーネットがヴィクトール14世へ剣の稽古を付けている それを見守るヴィクトールのもとへヴィクトール12世が来る ヴィクトールが気付いて言う
「父上が昔、私の剣の稽古役にバーネット1世様を付けて下されたのは こういう事だったのですね?」
ヴィクトール12世が優しく微笑んで言う
「ああ… 実に懐かしい風景だ 力と勢いの大剣に対し 速度と慣性を利用する細身のレイピア 一見 稽古の相手としては相応しく無い様に見えるが その実 互いの長所短所を見極め それを補う事も そこから得られる事も実に多い そして何より」
ヴィクトール14世が バーネットの攻撃に床に倒れ 涙目になる バーネットが怒って言う
「こんくれーで泣いてんじゃねぇええ!!この泣き虫ヴィクトールがぁああ!!」
ヴィクトール14世が一瞬の後 思いっきり泣きながら叫ぶ
「だってーっバーネット様が怖いからーっ!!」
バーネットが怒って叫ぶ
「てめぇええは アバロンの王子だろぉお!!この程度でビビッてんじゃねぇええ!!」
ヴィクトールが一瞬驚き 微笑んで言う
「私も良くバーネット1世様に言われました『お前はアバロンの王子だろう』と… 昔は 自分がいずれこのアバロンを支える事となる アバロンの王子だなんて どうしても実感が持てず そして自信も持てなかった」
ヴィクトール12世が軽く笑って言う
「彼の稽古を必要としなくなる頃には あの子も自信を持てる様になる そして、バーネット2世の居場所もこのアバロンに定着しているだろう」
ヴィクトールが疑問して言う
「ヴィクトールがバーネットの稽古を必要としなくなる頃には 稽古役のバーネットの居場所はアバロンから無くなってしまうのでは?」
ヴィクトール12世が立ち去ろうとする足を止め 振り返って微笑んで言う
「それがこのアバロンと言う国だ きっとお前たちなら 成し遂げられるだろう」
ヴィクトールが疑問する ヴィクトール12世が微笑んで立ち去る
【 デネシア国 城下町 】
ニーナとミーナが道を歩いている ミーナが言う
「ローレシア領域の町や村、城下町も回って調べたのに どれもこれも おとぎ話みたいな勇者様の伝説ばっかり…」
ニーナが微笑んで言う
「勇者様はドラゴンの背に乗って 魔王の島へ行って宝玉の精霊様の力を借りて 魔王を倒して封印したのー」
ミーナが溜め息を吐いて言う
「ドラゴンなんて居ないし、お父さん達の話で宝玉の力だけでは 魔王は倒せないって分かってるし 魔王を今封印しているのはプログラマーのデスさんの力じゃない?」
ニーナが首を傾げて言う
「んー?でも ウィザードのデスさんは ベネテクト国の王様と一緒に ドラゴンを退治したって言ってたよ?」
ミーナが苦笑して言う
「それはガルバディアの実験体か何かだって言ってたじゃない?ガルバディアがそう言う実験を始めたのは 私たちのお爺ちゃんたちの頃の話だから 初代勇者様たちの時代には ガルバディアの実験体自体 居なかったんだから」
ニーナが微笑んで言う
「それじゃー 初代勇者さんの頃に ドラゴンは居ないのー」
ミーナが苦笑した後 落ち込んで言う
「せっかく私たちも力になりたいって アバロンを出てきたのに 結局 何にもならなかったね…?」
ニーナがミーナの方を向き 少し寂しそうな表情で言う
「うん… でも、私ミーナと旅が出来て とっても楽しかったよ?」
ミーナが呆気に取られた後 微笑んで言う
「そうだね、私も楽しかった アバロン以外の国で色んな人と話すのも 良いものだね?」
ニーナが笑顔で言う
「うん!アバロンだけじゃなくて 他の国にも 優しい人が一杯居るって 分かったのー」
ニーナとミーナがデネシア国の移動魔法陣に到着する ミーナが言う
「…ねぇ ニーナ?このままアバロンへ帰るより もう少し他の国を回ってみようか?兄さんが向かった大陸東部の方とかも…?」
ニーナが呆気に取られた後 微笑んで言う
「そうだね!勇者さんのお話は聞けないかもしれないけど もしかしたらお父さんのお友達にも 会えるかもしれないのー」
ミーナが笑顔で言う
「それじゃ、ここからアバロンだと アバロンに帰りたくなっちゃうかもしれないから ガルバディアの方に行こうか?」
ニーナが笑顔で頷いて言う
「うん!ガルバディアはプログラマーのデスさんの故郷なの デスさんは今アバロンに居るけど もう1人のお兄ちゃんと ウィザードのデスさんがお世話になった国でもあるのー」
2人が歩きながらミーナが言う
「そうだねー 一体 どんな国かなー?」
ニーナが言う
「きっと機械が一杯の国なのー」
【 スプローニ国 領内荒野 】
バッツスクロイツの前で アンドロイドのデスがロボット兵を倒す バッツスクロイツが軽く笑って言う
「これで依頼のお仕事 おーしまーい デスー お疲れー!」
アンドロイドのデスが戦闘モードを解除して バッツスクロイツのそばへ来る バッツスクロイツが苦笑して言う
「いやぁー それにしても?まさか戦闘プログラム無しで こんなにばっちり戦えちゃうなんてなー?もしかして…」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げて言う
「Demonic Subaltern Uhlanって… 父さんの趣味で名付けただけじゃなくて 本当に そのまんまの意味… だったり… して…?」
バッツスクロイツが疑問する 間を置いて笑い出して言う
「んな訳ないよなー?あの平和ボケした世界に 騎士が必要だなんて 誰も思わないーってね?」
バッツスクロイツがロボット兵の部品を取って言う
「それにしても せっかくロスっちに返すお金手に入れたのに ロスっちどこ行っちゃったんだー?もう少しこの国に居てみようかなー?それとも別の国に…?」
バッツスクロイツが道端の石に腰掛け考える 遠くからラナとセーリアが対人移動魔法で バッツスクロイツを目掛けて飛んでくる アンドロイドのデスが気付く ラナが叫ぶ
「セーリア!!手前よ!!てまえー!!」
バッツスクロイツが声に気付き 顔を上げて驚く ラナとセーリアがバッツスクロイツの手前で アンドロイドのデスに掴まれ押さえられる セーリアが言う
「ご、御免なさい…っ」
ラナが溜め息を吐いて言う
「危なかった…」
バッツスクロイツが目を丸くして言う
「な…!?何で 空からレディが飛び込んで…!?」
ラナとセーリアがアンドロイドのデスの手から開放される ラナがアンドロイドのデスを見て言う
「そう… そう言う事ね!?セーリア!」
セーリアが苦笑する バッツスクロイツが疑問して言う
「はぁ?…て言うか 君ら この前の…?」
セーリアがバッツスクロイツへ向いて言う
「先日お助けを頂いたばかりだと言うのに 不躾なお願いがあって参りました どうか、私たちの仲間を お助け頂けないでしょうか?」
バッツスクロイツが呆気に取られて言う
「え?何?俺が?」
ラナがバッツスクロイツの腕を掴んで泣きそうな顔をして言う
「お願い!一緒に来て!早くしないと ザッツとソニヤがっ!!」
バッツスクロイツが驚いてから 気を取り戻して言う
「あ、ああ 分かった…?あ、いや… 分かんないけど?とりあえず 切羽詰ってるって事は分かったよ?…俺たちが一緒に行けば 良いんだよな?」
ラナとセーリアが笑みを見せる
【 デネシア国 】
リーザロッテと仲間たちが移動魔法陣に現れる リーザロッテが言う
「さぁ、次はガルバディアへ急ぎましょ!」
レイトが問う
「リーザ様?宝玉はとりあえず1つ手に入れたのですから 次に我々が向かうのは『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所』では無かったでしょうか?」
リーザロッテが振り返って笑顔で言う
「その『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所』とガルバディアの宝玉 両方が同じ場所にあるのよ?ローレシアの勇者たちも まだガルバディアには行っていないのだから どうせなら ガルバディアの宝玉と その魔界との穴の場所 両方をいっぺんに制覇してしまうのよ!」
リーザロッテが歩き出す レイトが困った表情で視線で追う ロイが隣に来て言う
「…ガルバディアの国王へは 先の作戦は役立たないと思われる そして、万が一有効だったとしても 俺は行わない 卿のみにて行え」
レイトが焦ってロイへ向く ロイが歩き出す シャルロッテが来て言う
「も、もももし有効だった時にはっ レイトさんのローゼント甲冑姿をっ ま、また見られますねっ?」
レイトが衝撃を受けてから 僅かに頬を染めつつ言う
「わ、私はツヴァイザーの騎士だ!ローゼントの騎士の真似事など もう二度と…っ!」
ヴェインが横に来て言う
「シャルではなく、リーザ様が命じられても しないつもりか?」
レイトがヴェインへ向いて言う
「リーザ様はツヴァイザーの王女様であらされるっ シャルとは異なりローゼントの甲冑姿などを 好まれる筈が無かろう!?」
シャルロッテがモバイルPCに顔を隠しながら言う
「で、でもっ リーザも レイトさんの甲冑姿は 素敵だって言ってましたよ?」
レイトが衝撃を受けてシャルロッテへ向いて言う
「ひ、姫様がっ!?」
ヴェインが呆れて言う
「…それで?姫様がツヴァイザーの騎士であるお前に ローゼントの甲冑を装着しろと 命じられたら?」
レイトが答える
「姫様からの恩命とあれば 私は従うまで!」
ヴェインが溜め息を吐いて言う
「やはり お前は あのヴェルアロンスライツァーの息子なのだな…」
リーザロッテが振り返って呼ぶ
「そこの3人 急ぎなさい!?ローレシアの勇者に遅れを取る訳には行かなくてよっ!?」
レイトがリーザロッテへ向いて答える
「はっ!直ちに!リーザ様!」
ヴェインが呆れる シャルロッテがくすくす笑う
【 アバロン城 】
玉座の間の手前にある部屋で バーネットがヴィクトール14世の剣の稽古をしている その様子が見える玉座に座るヴィクトールの前で 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下、スプローニ国に続きローゼント国との連絡も途絶えてしまいました」
家臣Cが言う
「やはりシュレイザー国が各国へ アバロンとの連絡を停止するよう伝達したと言う ベネテクト国のベーネット殿からの連絡は正しい情報ではないかと思われます」
ヴィクトールが真剣な表情で考えながら言う
「そうか… では、やはり… 先日のスプローニの大臣ライドン殿との昼食は 取っておくべきだったかなぁ?」
ヴィクトールが苦笑する 家臣Bが怒って言う
「ですから!私めは ライドン殿と昼食を取られる様にと!!」
ヴィクトールが照れて言う
「しょうがないじゃないか?あの時はバーネットに ヴィクトールの稽古役を任命する必要があったのだから それに翌日には 今までに断った者たちを全て合わせて 大昼食会を行って アバロンへの3つの融資を約束させて シュレイザー国への海からの密偵と自白チーズの製作も取り次いだのだし?…もっとも それらの者とも連絡が出来なくなってしまったから 意味がなかったけどね?」
家臣Bが怒って言う
「ですから!全てを別の日に回してでも ライドン殿との昼食を優先するべきだったのです!」
家臣Aがが言う
「どれも今更言っても意味がありませぬ 今は連絡が取られなくなってしまった各国への処理を考えませぬと」
ヴィクトールが頷いて言う
「うん、連絡が途絶えてしまったのはローレシア、ソルベキア、ローゼント、カイッズ、ツヴァイザー、スプローニ、シュレイザー… むしろ連絡が繋がっている国を数えた方が 早い状態だね?」
家臣Cが言う
「連絡が繋がっているのが デネシアとベネテクト そしてヴィクトール陛下のみと言う事になりますが ガルバディア …これら3つの国は現在もアバロンとの連絡を続けている国… 言わば アバロンの味方と言う事になりますな?」
ヴィクトールが表情を少し悩ませて言う
「つまり我らを除く10の国の内 半分以上の7カ国が アバロンの敵となってしまった事になるね?ガルバディアは確かに強い科学力を持っては居るが 部隊などは有して居ない それに ソルベキアとの戦いに加勢して貰う事は出来ても 一国で他国を押さえる事は難しい… デネシアもローレシアを押さえきれないし ベネテクトだけで東の大陸を押さえる事も出来ない…」
家臣Bが焦って言う
「ヴィクトール陛下!?我らアバロンは どうなってしまうのでしょうか!?」
手前の部屋 ヴィクトール14世が玉座の間から聞こえる会話に一瞬顔を向けて怯える バーネットが気付いてヴィクトール14世を強く攻撃する ヴィクトール14世が剣を弾かれ床に倒れる バーネットが言う
「戦いの最中に気ぃ散らしてんじゃねぇええ!!」
ヴィクトール14世がバーネットを見上げて言う
「し、しかし バーネット様…っ」
ヴィクトール14世が俯く バーネットがヴィクトール14世を見下ろして言う
「ハッ!てめぇはアバロンの王子だろ?そのくせ このアバロンってぇ国を信じられねぇのかよっ?」
ヴィクトール14世が驚いてバーネットへ向く
玉座の間では会話が続けられていて ヴィクトールが言う
「各国が突然連絡を止めたのには 何か意味があるはずだ そして、それは 直接アバロンへの攻撃ではない 現に物流や人の移動への制限はされていないのだから… 本気でこのアバロンを攻め込るつもりであるのなら 連絡を止めるよりも それらの動きを止める方が よっぽど打撃になる」
家臣たちが顔を見合わせる ヴィクトールが家臣たちへ言う
「直ちに連絡を止めた各国へ使者を送れ!通信ではなく 直接向かい話を聞いて来るんだ!」
家臣たちが返事をして立ち去る
手前の部屋 ヴィクトール14世が呆気に取られる バーネットが軽く笑って言う
「アバロンと他国との繋がりは そんなに弱っちぃもんじゃねぇんだよ 国王同士の友好条約は 国家条約では無い代わりに 時にはそれ以上の強さを見せる アバロンはローレシアとソルベキア以外の 全ての国と それらを交している そして 例え国同士の戦いがあろうとも そいつは一度も途絶えちゃいねぇんだ」
ヴィクトール14世が驚いた表情でバーネットを見上げる バーネットがヴィクトール14世を見下ろして言う
「…けど?それもてめぇで全部 潰えっちまうかもなぁ?」
ヴィクトール14世が驚いて言う
「えっ!?」
バーネットが剣を肩に掛けて言う
「各国がアバロンとの友好条約を死守して来たのは それだけアバロンが強かったからだ 友情と慈愛を力として 全てを受け入れ全てを守る… その強さが他国の王たちを認めさせ 例え国同士で戦う事があっても 決して忘れさせはしなかった …だが、てめぇはどうだぁ?ちょいと連絡が途切れて無視されただけで ビビって俺の剣にぶっ飛ばされて 腰抜かしてんじゃねぇか?」
ヴィクトール14世が怯える バーネットが笑んで言う
「てめぇみてぇな ただの弱虫の泣き虫なんざ 他国の王が認める訳がねぇ アバロンはもうダメだ このアバロンはヴィクトール13世で終わりだ 今までずっと信じて手を貸してくれた 他国の王からも見放されて てめぇのせいで このアバロンはぶっ潰れちまう …まぁ良いんじゃねぇか?いつまでも過去の栄誉にすがっているだけの アバロンの王なんざ情けねぇ ただのカスだ てめぇのせいで この栄誉あるアバロンが 他国の王に蔑まれるよか とっととぶっ潰れて終わった方が良いだろう?」
ヴィクトール14世が落ち込む バーネットが続ける
「哀れなのは民だ てめぇはとっととくたばって消えられるかもしれねぇが 残されたアバロンの民たちはそうはいかねぇ 過去の栄誉のせいで より無様な扱いを受ける事になる 何処の国へ行ったって てめぇのアバロンのろくでもねぇ民なんざ 受け入れて貰えるかも分からねぇ そうだろう?てめぇが無駄に王位なんざ継いでみろ?そのてめぇのアバロンに騙された他国の奴らから 残されたアバロンの民は蔑まれて生きるんだぜ?」
ヴィクトール14世が震えながら言う
「ぼ… 僕は…っ」
バーネットがため息を吐き背を向けて言う
「俺はてめぇの指導役を降りる わざわざ俺の居場所を作ってくれたあいつには悪いが てめぇはダメだ まったく王の素質がねぇ あぁ、ついでに伝えといてやるよ このアバロンは終わりだってなぁ?あいつも泣いて落ち込むんじゃねぇか?けど、しょうがねぇよな?ヴィクトール13世のガキが こんな役立たずじゃ …いや?ひょっとして てめぇの父親である ヴィクトール13世も本当は ただのカスだったんじゃねぇか?過去のアバロンの栄誉にすがっているだけのよ?てめぇと同じ ただの泣き虫ヴィクトールなんだよ!」
ヴィクトール14世が驚き 表情を怒らせて立ち上がって言う
「父上を悪く言うなっ!!」
バーネットが振り返って口角を上げて言う
「ハッ!悪く言うなだぁ?冗談じゃねぇ 俺はベネテクトの王として あいつには山ほど貸しがあるんだ …だってぇのに 本当はただのカス野郎だったなんてなぁ?俺の方が落ち込みてぇ気分だぜ?まぁ今更言っても仕方ねぇ そうとなりゃ この際 俺が機をみて このアバロンを乗っ取ってやれば 全ての貸しが戻って来るぜ!アバロンの国も民も俺のもんだ!難なら ついでに あいつと一緒に てめぇも俺の下に付けてやっても良いぜぇ?…あぁ やっぱりダメだ 親子揃って泣いてるだけじゃ 気分も萎えるってもんだよなぁ?あっははははっ!」
バーネットが笑う ヴィクトール14世が怒り バーネットへ攻撃しながら叫ぶ
「わた…さないっ!渡さない!このアバロンは!!渡さないっ!!アバロンの国も民も父上も お前になんか渡さないんだーっ!!」
バーネットがヴィクトール14世の振るわれた大剣をレイピアで押さえる レイピアが折れる バーネットが少し焦って回避する ヴィクトール14世が怒りのままに バーネットへ攻撃を続ける バーネットが回避して 予備の剣を手に取り応戦する
玉座の間 ヴィクトールがバーネットたちの様子に気付いて顔を上げる 家臣Aが戻って来て言う
「ヴィクトール陛下 この際ですので 連絡が途切れていない国に関しましても 念のため使者を送り… ヴィクトール陛下?」
手前の部屋 バーネットがヴィクトール14世の勢い任せの大剣の攻撃に押され始める バーネットが言う
「お、おいっ?てめぇ…っ いい加減 気づき…っ」
ヴィクトール14世が怒りのままに大剣を振って言う
「アバロンは!友情と慈愛の国!父上は ずっとお前を 親友だって言ってたのに!お前と一緒に戦うんだって 言ってたのに!お前みたいに父上を 裏切る奴なんか 僕は 大嫌いだっ!!お前に取られる位なら 僕が…っ! 僕がっ!このアバロンの王になるっ!僕が皆を!父上もアバロンも 全てを 守るんだーっ!うああああーーっ!」
ヴィクトール14世の大剣を受け バーネットの手にある剣が弾かれて バーネットが地に倒れる ヴィクトール14世が大剣を振り上げ叫びながら振り下ろす バーネットが焦る ヴィクトール14世が振り下ろした大剣を ヴィクトールが大剣で受け止める ヴィクトール14世がハッとしてヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが軽く笑って言う
「うん、上出来だ ヴィクトール でも、彼は私の大切な親友だ とどめは刺さないであげてくれ」
ヴィクトール14世が呆気に取られたまま言う
「ち、父上っ!?しかしっ この者は…っ 父上を 裏切って…っ アバロンを…っ!」
バーネットが溜め息を吐いて言う
「…はぁ 遅せぇんだよ?ヴィクトール…」
ヴィクトールがバーネットへ向いて言う
「ごめんバーネット、なかなかヴィクトールが『アバロンの王になる』って言ってくれなかったから」
バーネットが立ち上がり ヴィクトールが大剣を鞘へ収める ヴィクトール14世が疑問しながらヴィクトールへ向いて言う
「父上…?」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「ヴィクトール、バーネットとの剣の稽古は これで終了だ」
ヴィクトール14世が呆気に取られて言う
「え?しかし… バーネット…様との稽古は 先日始めたばかりで…」
バーネットが手を擦りながら言う
「てめぇはとっくに 大剣使いとしての力を持ってやがったんだ 足りて無かったのは それを使おうとする意思だ」
ヴィクトールが微笑んで言う
「大剣使いに必要な素質は 大剣を自在に扱うための力と勢い しかし、そのどちらも 強い意思が無ければ 扱う事は難しい ヴィクトール、お前は 私と同じで、例えそれらを持ち合わせていたとしても 表に出す事が苦手なのだろう しかし、一度その力に気付ければ 後は自分を信じれば良い それが出来なければ 自分の守りたいものを強く思うんだ それがアバロンであっても 誰か大切な人であっても きっとお前なら 大剣使いとしての力を 扱える様になる」
ヴィクトール14世が呆気に取られた後 バーネットへ向いて言う
「で、では…?バーネット様は 私にそれを気付かせる為に?…わざと?」
バーネットが呆れて言う
「当ったりめぇだろ?このアバロンの一番の友好国の王であった俺が?今更アバロンもヴィクトールも裏切って堪るかってんだ!」
ヴィクトールが微笑んで言う
「歴代のアバロンの王子は ベネテクトの王に剣の指導を受けているんだ 理由は大剣と細身の剣との違いから得られる剣術の取得の他に アバロンとベネテクトの友情の強さを 身を持って知る事も含まれている」
バーネットが苦笑して言う
「はっはー 本当の所は 歴代アバロン王が自分の息子を 厳しく躾けられねぇから なんじゃねぇのか?」
ヴィクトールが照れながら言う
「あっははっ 確かにそうなのかもしれないね?自分の守りたい者である我が子に対して大剣は振えないし 子も守るべきアバロンの王である 自分の父親に対して力を発揮する事は難しいだろうし」
バーネットが笑んで言う
「その点こっちは ガキの頃から鞭打って ベネテクトの王として叩き上げてやるけどなぁ?」
ヴィクトールが青ざめて言う
「バーネット1世様がバーネットを躾けている姿は 今でも僕の悪夢として度々夢に見るよ…」
バーネットが笑顔を見せる ヴィクトール14世が怯える
【 竜族の村周辺 】
ニーナの手を引き ミーナが周囲を見渡しながら言う
「森に入ってから 全然方向が分からなくなっちゃった どっちに行こう…?」
ニーナが首を傾げて言う
「やっぱり一度 デネシアに移動魔法で戻る?あんまり森の奥へ行っちゃうと 魔物が出てくるかもしれないの…」
ミーナが軽く笑って言う
「魔物が出てきたら その時移動魔法で逃げちゃえば良いでしょ?それまでもう少し歩いてみようよ?せっかくここまで来たんだし」
ニーナが微笑む ミーナが頷いて言う
「でも、方向が分からないのは困るよね?どうして急にコンパスがおかしくなっちゃったのかな…?」
ニーナが少し考えて言う
「前にお母さんが読んでくれた本の中に 強い魔力があると磁気がおかしくなっちゃうってあったの コンパスって磁気を感じているんでしょ?」
ミーナが驚いた様子で言う
「そうだね コンパスは磁気を感じて北を指すね …でも強い魔力なんて この森の中にあるのかな?」
ミーナが見渡す ニーナが間を置いて言う
「ミーナ?向こうの方にね 魔力を感じるよ?」
ミーナがニーナの示す方へ向いて言う
「向こうか… うーん 多分ガルバディアへの方向では無いと思うんだけど その魔力の元を確認するのは 良いかも知れないね?行ってみようか?」
ニーナが頷いて言う
「うん!いざとなったら この袋に入ってる宝石さんに お願いすれば良いの!」
ミーナが苦笑して言う
「それはローレシアに捕まっちゃった時でしょ?その宝石って言うのが ニーナのお守りなのは分かるけど」
ニーナが頬を赤らめて言う
「あ… そうだったの 間違えちゃダメだよね ローレシアに捕まっちゃった時だけなの…」
ミーナが微笑んで言う
「でもローレシアに捕まった時に使う …やっぱり魔法アイテムなのかな?ねぇ、ニーナ ちょっとだけ見せてよー?」
ニーナが困って言う
「ダ~メ~っ」
ニーナとミーナが歩いて行く
【 デネシア国近郊 】
リーザロッテと仲間たちが ガルバディアへ向かって歩いている シャルロッテが言う
「あら?この反応…」
リーザロッテが気付き 振り返って言う
「シャル 何かあって?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「ソルベキアで手に入れた宝玉の性質を確認していたんですが その宝玉と同じ反応がこの近く… あちらの森の中から?」
シャルロッテが言葉と共に森へ視線を向ける 皆が森を見る リーザロッテが地図を確認する レイトが言う
「あの森は確かデネシア国が指定している 保護地域だったはずです そして以前 ドラゴンが現れデネシアの城下町を襲い それが逃げ込んだ森でもあったかと?」
リーザロッテが少し驚いてから森へ視線を向けて考える ヴェインがレイトへ言う
「デネシアの情報など ツヴァイザーにはあまり入らないと言うのに 随分詳しいんだな?」
ロイが言う
「…ドラゴンの話なら 俺も知っている ベネテクト国の前王バーネット2世が 退治したと言う噂だ」
リーザロッテが驚いて言う
「ベネテクトの前王が ドラゴンを倒したと言うのっ?」
ヴェインが苦笑して言う
「バーネット2世国王が倒したのではなく、恐らく兵を引き連れ討伐したのでしょう」
リーザロッテが苦笑して言う
「そうよね…?ドラゴンほどのものを倒すのに 1人2人で倒すなんて事 無理よね?」
シャルロッテがモバイルPCの操作を終えて言う
「や、ややややっぱりっ あの森の中に 宝玉の反応がありますぅ!」
リーザロッテと仲間たちが顔を見合わせ リーザロッテが笑んで言う
「なら行くわよ!」
リーザロッテが歩き出す レイトが慌てて言う
「し、しかし リーザ様!?万が一 再びドラゴンが現れでもしたら!」
リーザロッテが振り返って言う
「その時は 私たちが退治すれば良いのではなくて?ベネテクトの前王が出来たのなら 私たちにも出来るに決まっていてよ!」
仲間たちが顔を見合わせ苦笑してから リーザロッテの後を追う
【 竜族の村周辺 】
森の中 ニーナに手を引かれてミーナが歩いていて言う
「特に何にも無いみたいだけど…?」
ニーナが立ち止まって言う
「ここだよ ミーナ?何か魔力の強そうな物はあるの?」
ミーナが言う
「えー?何にも無いよ?見渡す限りただの森だし… ん?待って?」
ミーナが警告板を見つけて読む
「なになに?『この周囲を保護地域とし、何人たりとも立ち入る事を禁ずる ローレシア国』うん?ここはデネシア領域なのに 何でローレシアの警告があるのかな?」
ミーナが考える ニーナが間を置いて笑顔で言う
「なら、そこの人たちに 聞いてみたら良いの!行ってみよう?ミーナ?」
ミーナが驚いて言う
「え?『そこの人たち』って?私たち以外…」
ニーナが笑顔で手を引いて言う
「こっち!何だか楽しそうなの!早く行くのー」
ミーナが手を引かれながら驚いて言う
「え!?あ、ダメだよ 入っちゃいけないって ローレシアの…」
ニーナとミーナが透明なバリアをすり抜け 竜族の村に入り込む
同じ場所に リーザロッテと仲間たちが現れ シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「この周囲で反応が消えました 再度捜索していますが まったく…」
リーザロッテが考える ヴェインが言う
「この場所まで移動して消えると言う事は 何者かが宝玉を所持して移動していたと言う事か…?」
レイトがヴェインへ向いて言う
「何者かが所持している事はあったとしても 突然消えるとは一体…?」
ロイが警告板を見付けて言う
「…そして、デネシア領域である この場所において ローレシアの警告とは 興味深いな?」
皆がロイの言葉に 警告板を見て驚く リーザロッテが笑んで言う
「ローレシアが入るなと警告しているのよ!?さあっ!行くわよっ 皆!!」
リーザロッテが先行する 皆が驚き呆気に取られ レイトが言う
「あ、わわわっ!?ひ、姫様っ!お待ち下さいっ!」
レイトが止めるより早く リーザロッテが透明なバリアに入って消える 皆が驚き レイトが慌てて追って言う
「姫様ーっ!!」
レイトがバリアに消える 残った仲間たちが顔を見合わせてから 後を追う
【 竜族の村 】
リーザロッテが結界を抜け周囲を見渡している そこへレイトが慌てて入り込んで来て言う
「姫様っ!…こ、これは?一体…」
リーザロッテがレイトへ少し顔を向けて言う
「外から見た時は何も無い ただの森だったのに 一歩入った途端 こんな村があるだなんて」
レイトが頷いて言う
「はい、どうやら外部から 隠されていた様ですね?」
仲間たちが入って来て 辺りを見渡す シャルロッテがモバイルPCを操作して言う
「すごいっ この村は全体が魔力のバリアに囲われ 外部からの一切を遮断しています」
ロイが言う
「…見た目だけでなく その他の魔力や通信類も遮断していると言う事か」
シャルロッテがモバイルPCを操作して言う
「あ、しかし、一部の魔力が周囲の魔法バリアを中和させています この魔力のお陰で 私たちは進入する事が出来たのかもしれません」
リーザロッテが振り返って言う
「では、何者かが私たちの到来を知って その中和を行ったとでも?」
シャルロッテが頷いて言う
「はい、その証拠に 今はその中和が解除されています ですから たぶん…」
ヴェインがハッとして外へ出ようとして弾かれる ロイが驚き レイトが向き直り槍を構える ロイが銃を構える リーザロッテが言う
「待ちなさい 2人とも!」
武器を構えた2人がリーザロッテへ向き直る リーザロッテが言う
「私たちを迎えた者が居ると言うのなら その者と会うのが先よ」
レイトが言う
「し、しかし 姫様!?我々を迎えた者が居たとしても 我らの行動を制限されては 脅迫を受ける可能性もあります」
リーザロッテが苦笑して言う
「ここへ来たのは私たちの意思よ?その私たちを相手が迎え入れると言うのなら 是非とも会って話をしてみたいわ?」
リーザロッテと仲間たちのもとに 竜族Aとニーナとミーナが現れ ニーナが言う
「ね?女の人と銃使いさんが居るでしょ?」
リーザロッテと仲間たちが振り返る 竜族Aが感心して言う
「ホントだ 女の人は声で分かったとしても 銃使いが居る事が分かるなんて」
リーザロッテがニーナたちへ言う
「あなた方が 私たちをこの村へ迎え入れて下さった 方でして?」
ミーナが慌てて言う
「あ、私たちは 長老さんに頼まれて 皆さんを お迎えに来たんです」
レイトが言う
「長老?では、この村の長老が我々を迎え入れたと?」
ニーナが笑顔で言う
「迎え入れるのは、村の人たちが 皆で力を合わせてやったの!皆の力で結界を中和したんだって 竜族さんたちもアバロンの人たちと一緒で 皆仲良しさんなのー!」
リーザロッテと仲間たちが驚いてヴェインが言う
「竜族とは?それに何故アバロンが!?」
ミーナが軽く怒って言う
「ニーナ?また、すぐにアバロンの事を言っちゃ ダーメ!」
ニーナが照れて言う
「あ~… ごめんなさいなの どうしても言っちゃうの~」
リーザロッテと仲間たちが顔を見合わせる 竜族Aが笑顔で言う
「うん!お姉ちゃん達も 悪い人じゃないみたい 皆の所に来て?僕たちが案内するから」
ニーナとミーナ、竜族Aが先行する リーザロッテと仲間たちが呆気に取られた後 リーザロッテが歩き出す レイトが言う
「リーザ様…っ?」
リーザロッテが振り返って言う
「何してるの?早くいらっしゃい?それとも 貴方たちは『悪い人』だったのかしら?」
仲間たちが顔を見合わせ 苦笑して後を追う
リーザロッテと仲間たち ニーナとミーナを迎え 竜族の長老が言う
「我々は竜族と呼ばれる種族、あなた方もデネシア国に居る巨人族をご存知じゃろう?彼らと似たような存在じゃ」
ミーナが問う
「デネシアの巨人族は その名の通り 私たちより身体の大きい人だけど… 竜族って言うのは?」
ニーナが笑顔で言う
「ミーナ?それじゃ、竜族さんは 竜の姿なの?」
リーザロッテが疑問して言う
「え?竜の姿って…?」
長老が笑う ミーナが苦笑して言う
「ニーナ、竜族さんたちは 私たちと同じ姿だよ?」
ニーナが苦笑して照れる リーザロッテが首を傾げる ミーナがリーザロッテへ向いて言う
「ニーナは目が見えないんです、でも そのお陰で私たちは この村を見つける事が出来て」
長老が微笑んで言う
「いやいや、ニーナ殿が言う通り 我々は元は竜の姿なのじゃよ」
皆が驚き疑問する 長老が微笑んで言う
「言葉で言っても難しいかも知れんの?では 先日生まれた竜族の子をお見せしよう」
長老が言うと共に 竜族Aが竜族の子供を持って現れ リーザロッテたちへ見せる リーザロッテが驚いて言う
「ドラゴンの子供だわ!?」
皆が驚く 竜族Aに抱かれた小さなドラゴンが1声鳴いて 小さな炎を吐く ミーナとシャルロッテが声を合わせて言う
「「可愛い~!」」
長老が笑って言う
「ほっほっほ、じゃが この子もそろそろ人の姿に変えてやらねばならんのじゃ このまま後数ヶ月も置いてしまうと 物心が付く前に炎を吐いて 村を焼いてしまう事もあるのでな?」
皆が長老へ疑問の視線を向ける 竜族Aが言う
「この村は竜族が元の姿で居るには小さすぎるんだ でも外に出るのは危険だから 人の姿で過ごす事にしてるんだよ」
リーザロッテが少し怒って言う
「それでしたら この小さな村に留まっていらっしゃらないで この森全てを使う位で過ごしたら 宜しいのではなくて?」
長老が顔を横に振って言う
「外の世界はあなた方の世界、大きさは違えど あなた方に姿の似ている巨人族とは違い 我々が共存するのは難しい」
リーザロッテが怒って言う
「だからと言って!あなた方竜族が この村の中で小さくなっている必要は無くってよ!?それこそ大きなドラゴンになって 戦ったら宜しいのよ!」
長老と竜族Aが驚いた後 微笑んで長老が言う
「我々竜族は 確かに大きな身体を持ってはいるが 皆さんの様な心の強さは持ち合わせておらんのです 戦って広い場所を得る事より 穏やかに小さな土地で過ごす事を 皆選んでおるのです」
リーザロッテが表情を落として言う
「そんな…」
ロイが無表情に問う
「…では、なぜ俺たちを迎え入れた?現状に満足しているのなら 結界を中和させ自分たちの存在を知らせてしまう事は その平穏を乱す事になる」
ロイの言葉に 皆が長老へ視線を送る 長老が頷いて言う
「それは 我々と共にあなた方の住むこの世界に関わる 事態が訪れてしまったが故 力無き我らにこの世界を守る力をお貸し頂きたいと思い 宝玉を所持される国王様を招かせて頂いたのです」
皆が驚く リーザロッテが言う
「では、私たちが宝玉を持っていたから 村の結界を中和して招き入れたのね?」
ミーナが驚いて言う
「それじゃ、リーザは」
ニーナが笑顔で言う
「宝玉を保管する どこかの国のお姫様なのー」
レイトが焦る リーザロッテがニーナとミーナへ向いて言う
「ええ 私はツヴァイザー国の王女よ!…ただ、この宝玉はソルベキアから預かったものだけれどね?」
ニーナとミーナが首を傾げる レイトが苦笑しながら言う
「そ、それでも、リーザ様が現在 宝玉を所持されておられる 王族である事は変わりません ね…?」
長老が微笑んで言う
「我々は長きに渡り外界との接触を絶っておりましたが故に 現在の外の世界がどの様になっているかは分かりませぬが 貴女様のようなお優しい方が宝玉を所持しておられるという事は とても嬉しい限りです」
リーザロッテが問う
「それで、さっきのお話の続きは?『世界を守る力を貸して欲しい』とおっしゃったわよね?それって ローレシアの勇者に関係している 魔王討伐の事じゃ」
長老が疑問して言う
「ローレシアの勇者様の事は分かりますが 魔王とは?」
リーザロッテたちが呆気に取られ リーザロッテが言う
「魔王とは… って 何をおっしゃるの?ローレシアの勇者は100年以上昔の初代から 3代目の現代に至るまで 全て魔王を倒すために旅立ったのよ?」
長老と竜族Aが疑問し 顔を見合わせた後 説明する
説明を聞き終えたリーザロッテが驚いて言う
「ではっ!初代勇者であるローレシアのザッツロード王子は 各国の宝玉を集めるだけで 実際にあの島へ結界を張ったのは 竜族の方々だったのね!?」
長老が頷いて言う
「当時あの島の存在を知っていたのは 我々竜族の者のみ そして我々は あの島の悪魔力を封じ込めるために 皆様方が作られた宝玉の力を使い 結界を張りました」
竜族Aが言う
「その時結界の防人になった竜族の魂が 僕たちに伝えて来たんです もうすぐあの島の結界が壊れてしまうと」
レイトが言う
「しかし、あの島の結界は 2代目勇者が一度破壊し 新たな結界をガルバディアのプログラマーが作り上げ 今もそれを維持しているはず」
ニーナが言う
「その結界は もうすぐ時間切れになってしまうの」
リーザロッテたちが驚いてニーナへ顔を向ける ミーナが続きを言う
「そのガルバディアのプログラマーは 私たちのお父さんの相棒で 本人がそう言っているので 嘘ではありません」
ロイが言う
「…では諸卿の父親と言うのは アバロン3番隊隊長のヘクターと言う事か」
ニーナが笑顔で言う
「アバロン3番隊隊長のヘクターは 私たちの世界一のお父さんなのー」
ミーナが同じく笑顔になってから ハッとして言う
「ニーナ、お父さんの事も すぐに言っちゃダメー」
ニーナが照れて言う
「ごめんなさいなの でもミーナ?今は言っても良い所だったと思うのー」
ミーナが少し考えてから 笑顔で言う
「うーん そっかぁ… ごめーん、そうだったかも?」
ヴェインが言う
「そ、それはそうとっ!?結界が時間切れと言うのは 本当の事だったのか!?」
シャルロッテがモバイルPCに顔を隠しながら言う
「そ、そそそソルベキアのガライナ陛下をっ 脅かす為の嘘のつもりがっ ほ、本当だったなんて…っ」
レイトが言う
「なるほど… 恐らく各国の上層部にのみ知られている事で 我々庶民には公にされていない事であったのだ それ故に ガライナ王も我々の言葉に 差ほど驚かず また 我らの事を信じる由縁にも なったのかもしれない」
ロイが言う
「…確かに、悪魔力の塊である あの島の結界が時間切れだと 世界中の者に知られては 人々がどのような暴動を起こすか分かりかねる」
長老が言う
「あの島へ結界を張る事はとても大変な事 それでも宝玉の力と 我々竜族全員の魔力を使えば 100年は難しくとも 数十年の年月を防ぐ事が可能だと思われます どうか我々に再び宝玉をお与え下さい」
リーザロッテたちが顔を見合わせ リーザロッテが言う
「あなた方の仰る事を 疑うつもりは無いのだけど、あなた方は本当に それでよろしくて?」
長老がリーザロッテへ顔を向ける リーザロッテが言う
「あなた方はこの小さな村に閉じ込められていると言うのに 世界の危機には自分たちの身も省みず 私たちをこの場所に招いて世界を守ろうとしている… あなた方こそ勇者よ それなのに ローレシアと勇者達は そのあなた方をこの村に閉じ込めて 自分たちは勇者と名乗って世界を回り 宝玉の力を我が物にしようと言うのよ?」
ミーナが疑問して言う
「それってちょっと 違うんじゃないかな?」
皆の視線がミーナへ向く ニーナが言う
「ローレシアは少ない宝玉の力を増幅するために 世界中の宝玉を集めて回ってるのー 宝玉は2代目勇者さんたちが全部使っちゃったから 1個づつの力が少ないのー」
長老が驚いて言う
「なんと!?全部使ってしまったとは!?」
リーザロッテが驚き宝玉を取り出して確認する 長老が驚く竜族Aが言う
「これじゃ足りない!これじゃ ほんの少しの間しか 結界は持たないよ!」
レイトが言う
「では、ローレシアは宝玉の力を増幅し その宝玉の力を持って 再び結界を張ろうと言う事だろうか?」
ヴェインが言う
「そうとは限らない、現にあの島の結界は 初代の時も2代目の時も どちらもローレシアの勇者では無い者が結界を張っている」
シャルロッテが言う
「そ、そそそそれにっ あの島の魔王になってしまった 初代の結界の防人だった竜族さんは ど、どうなってしまったのでしょうぅ?」
リーザロッテが考えながら言う
「そうよね?最初の結界の防人になった竜族が魔王と呼ばれ 今も あの島に悪魔力と共に封じられてしまっている… その竜族の魂というのは どう言う事でして?」
竜族Aが答える
「結界の防人となった竜族の魂は 今もあの島に居るんだ 今も結界を守り続けている」
レイトが考えて言う
「魔王と呼ばれながらも その実は 今もあの島の結界を守っている 防人と言う事だろうか?」
ヴェインが考えて言う
「では、魔王と呼ばれながらも その実は 魔王では無いと言う事ではないか!?」
ニーナがミーナへ言う
「ねぇミーナ?竜族さんたちから聞いたお話を お父さんたちにも教えた方が良いと思うの これってプログラマーのデスさんが言ってた ローレシアの勇者さんの伝説の裏って言うのだと思うの」
ミーナが考えて言う
「うん、そうだね お父さんたちが知りたがってた ローレシアの勇者の伝説の裏は この事かもしれないね?」
リーザロッテが問う
「それを知りたがっていたと言う事は あなた方のお父様… 2代目勇者の仲間だったアバロンのヘクター隊長は 仲間のザッツロード王子を疑っていらっしゃるって事なのかしら?」
ニーナが答える
「お父さんたちは 行方不明になってしまった2代目勇者さんたちを探しているのー」
レイトが驚いて言う
「行方不明!?2代目勇者ザッツロード王子は 現在も魔王を倒す為の方法を求め旅をしていると」
ロキが言う
「…なるほど、確かに 2代目勇者が旅を続けて居るのであれば 3代目勇者が選出されるのは おかしいとも思える」
リーザロッテが立ち上がって言う
「つまり!直接 ローレシアのキルビーグ国王か ローレシアの勇者ザッツロード王子とお会いして 真相を問い詰めれば良いのよ!」
レイトが驚いて言う
「しかしっ 姫様!」
リーザロッテが長老へ向いて言う
「私たちが ローレシアへ向かって真相を確かめるわ!その上で あなた方の協力が必要とあれば 再び宝玉を持って この場所へ来るから 一度私たちを村から出して頂戴!」
竜族の村を出たリーザロッテと仲間たちとニーナとミーナ リーザロッテが言う
「私たちは竜族の方々から聞いた話を持って ローレシアへ向かうわ 貴方方はアバロンへ向かうのでしてね?」
ニーナがミーナへ言う
「ねぇミーナ?どうする?このままアバロンに帰るより リーザロッテ王女様と一緒に ローレシアに確認に行った方が良いと思うの」
ミーナが考えながら言う
「そうだよね?竜族さんたちのお話だけじゃ 実際の所は分からないのだし…」
ニーナが笑顔で言う
「いざとなったら お守りがあるのー!」
ミーナが苦笑して言う
「もぅ、ニーナったら 本当はそのお守りを 使いたいだけなんじゃないの?」
ニーナが頬を赤らめて言う
「え…?ち、違うのっ!これはお守りなの!」
ミーナが軽く笑って言う
「はいはい、分かーった」
リーザロッテが呆気に取られた後 微笑んで言う
「貴方方も来ると言うのなら一緒にいらしたら良いわ!私にはローレシアの勇者顔負けの 仲間たちが付いているのですから!」
【 北の世界 ローンルーズ 】
近未来的な部屋の中、アンドロイドのデスが部屋の片付けをしている 散らかった本を一冊ずつ片手で拾いもう片方の手へと積み上げる 種類別、番号順に几帳面に揃えられ ゆうに人の持たれる重量を超えた高さを維持して まったくブレる事無く移動する バッツスクロイツの不機嫌な帰宅を告げる声が聞こえる
「ただいまっ!」
アンドロイドのデスが最後の本を片手に振り返った先 近未来的なドアが自動で開いて バッツスクロイツが部屋へ入って来る バッツスクロイツの姿を確認したアンドロイドのデスが後方に在る時計で時間を確認してから バッツスクロイツへ視線を戻す バッツスクロイツは着ていた上着を投げ捨てて 近くのソファへどさっと座る アンドロイドのデスが積み上げられた本を近くのサイドテーブルに置いてから バッツスクロイツが脱ぎ捨てた上着を拾って クローゼットへ持って行く その作業をしている間にバッツスクロイツがイライラしながら愚痴る
「あ~あ、…ったく、折角忙しい中 時間作ったって言うのによ あいつらの話って言ったら どれもこれもアンドロイドの悪口ばっかりでさっ それも 自分の思ってる事を分かってくれないだの 今まで一度もやらせた事の無い事を 初めてやらせたってのに それが出来ないのはおかしいだの… 当ったり前だっての!その挙句に 理由はアンドロイドのヴァージョンが低いせいだとか バグなんじゃないか?とかって…っ」
バッツスクロイツの上着を自動クリーニング機へセットしたアンドロイドのデスが戻って来て 先ほどサイドテーブルへ置いた本の山を持ち上げる その間も愚痴り続けていたバッツスクロイツが 急にアンドロイドのデスの腕掴んで話を続ける
「お前はどう思う!?頭に来るだろ?あいつら知ってるんだぜ 俺がアンドロイド開発第一人者の息子だって!!」
バッツスクロイツが勢いに任せて掴んだ腕を引っ張る アンドロイドのデスが自分と同様に揺れる本の山を上手くコントロールする バッツスクロイツは気にせず話を続ける
「その証拠にあいつら リコールするの面倒だから最新のアンドロイドくれって、俺に言うんだ!ふざけんなっての!」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスの腕を離す アンドロイドのデスは一度強く湾曲した本の山を修正してから 本を運んで行く 後ろではバッツスクロイツのため息が聞こえる
アンドロイドのデスが手にコーヒーカップを持って戻って来る バッツスクロイツは変わらず不機嫌にソファの背にもたれ掛かっている アンドロイドのデスがバッツスクロイツにカップを差し出す バッツスクロイツが礼を述べつつ受け取って飲んで言う
「ん?あぁ ありがと …ぶっ!?」
バッツスクロイツが口を押さえて怒る
「おいデス!いい加減 ホットミルク持ってくるの止めてくれよ これで何回目だよ?」
アンドロイドのデスは何も言わずに見下ろしている バッツスクロイツが肩の力を抜いてソファに身を静めながら言う
「今度からコーヒーな?何度も言ってるし 作り方も教えただろ?ったく… 俺が赤ん坊の時から面倒見てるんだったら、19年の成長ぐらい分かってくれよ…?」
バッツスクロイツが文句を言いながらもホットミルクを飲む 飲み終わったカップをアンドロイドのデスへ渡す アンドロイドのデスが受け取ったカップを返却しに一度去る それを見送ったバッツスクロイツが時計を見て言う
「まだ10時か… モニター起動!」
バッツスクロイツの前に映像が流れ始める それを詰まらなそうに眺める アンドロイドのデスは戻って来ると モニターを見ているバッツスクロイツの身体を抱え上げる バッツスクロイツが驚いて言う
「おわっ!!な、何するんだデス!?」
アンドロイドのデスは何も言わずにバッツスクロイツを運ぶ バッツスクロイツはその間もがいている
移動した先の部屋は自動でドアが開いて明かりが付く 壁へ向くとベッドが壁から飛び出してくる 布団類はクリーニングされたようにビニールパッキングされているが、飛び出した後、そのビニールが消える バッツスクロイツが焦って言う
「は?ちょっと デス!?俺は まだ寝ないって!まだ10時だぞ!?」
バッツスクロイツが文句を言うが アンドロイドのデスはバッツスクロイツをベッドへ寝かせて布団を掛ける バッツスクロイツが起きようとするが アンドロイドのデスがそれを押さえてベッドへ寝かせ 子供をあやす様にポンポンと軽くたたく バッツスクロイツが怒って言う
「だからっ!もう俺は19歳だってのにっ!!」
何度も起きようとするがその度に戻され アンドロイドのデスはベッドの横に跪いたまま動かない バッツスクロイツが怒って言う
「ぬ~~っ!だから俺は もう 19!はぁ~ もう良いや… やる事もないし…」
バッツスクロイツが仕方なく抵抗するのを止めると あっという間に眠ってしまう バッツスクロイツが眠った事を確認して アンドロイドのデスが部屋の明かりを消す
【 ツヴァイザー城 】
ツヴァイザー国ではローレシア国の勇者が旅に出た と言う話題で持ち切りになっている
「ローレシアの勇者様が旅立たれたそうだ」
「これで大地の魔物が居なくなる」
「ローレシアの勇者様がきっと 今度こそ世界を救ってくれる筈だ!」
そんな声が城下町ではちらほらと聞かれる 城の警備に当たる兵士達も浮き足立って言う
「ローレシアの勇者様は また共に戦う仲間を集めるんだろうな?」
「今度はもしかしたら… この国にも来るかもしれないぞ!?」
普段は怠けている兵達も今日はまじめに稽古を行ったりしている それを リーザロッテが面白くない顔で見渡している その後方に2人の護衛兵 レイトとヴェインが現れ レイトが言う
「姫様、こちらにおられましたか ソーロス陛下がお呼びです」
リーザロッテが顔を向けないまま問う
「ねぇ レイト、あなたも勇者様の お供になりたいのかしら?」
レイトが突然の問い掛けに 一瞬、間を置いてから答える
「は?…はい そうですね」
リーザロッテが表情を顰めて振り返って言う
「でも!勇者様が あなたを誘いに来る事は無いわ、知ってるでしょ?ローレシアの勇者様が声を掛ける国は 決まってるもの!」
リーザロッテの言葉に レイトが続ける
「ローレシア領地内の魔法使いと魔術師、占い師、そしてアバロンの大剣使い しかし先代2代目勇者のお供になる事を拒んだ国もあったとか」
リーザロッテがムッとして言う
「…その空いた席に就こうって言うの?」
レイトが表情を変えずに言う
「万が一にもローレシアの勇者殿から お声が掛かれば 私は胸を張って このツヴァイザー国の槍術を披露して見せたいと存じます!」
レイトが言葉と共に片手に持っている槍に力を込める リーザロッテがその言動を見て一瞬微笑むが 苦笑して言う
「…そう そうよね?このツヴァイザーの槍の技術は アバロンの大剣やローゼントの長剣 彼らに続く …いえ、彼らを しのぐものよ!」
リーザロッテが言葉の後半に声を張る レイトが答えて言う
「はっ!姫様!もちろんでございます!このレイト、常日頃から ツヴァイザー国の兵として恥じる事無き様 槍術を磨いております!」
レイトが自信を持って自分の槍をリーザロッテに見せる リーザロッテが笑顔を見せた後 疑問して言う
「そうよね でも… 勇者と言えばローレシア、勇者のお供と言えば魔力者とアバロンの大剣使い 皆そう言うわ… 確かにローレシア領域の魔力者とアバロンの大剣使いの力は 分からなくも無いけれど… どうして勇者がローレシアなのかしら?」
リーザロッテの言葉に レイトが一瞬、呆気に取られた後 少し考えてから答える
「は?…えー それは、昔 この大陸を我が物としようとした 悪の王を退治したのが 当時のローレシアの王子であったが為 かと…?」
リーザロッテが首を傾げて言う
「でも、それは100年以上前の話でしょ?2代目や現代の3代目勇者だって言われている ローレシアの王子様はどうなのかしら?」
レイトが答える
「はっ 続く2代目と 現、3代目の勇者であるローレシアの王子は 悪の王を退治した1代目の勇者の子孫である為 …かと思われます」
リーザロッテが変わらず問う
「それって重要な事?」
レイトが呆気に取られて言う
「は?」
リーザロッテが問う
「初代勇者であるローレシアの王子様が どれほど武術に優れていたかは知らないけれど、今のローレシアは剣の技術だって アバロン所かローゼントにも劣っているのだし、大体 ローレシアの主な戦力は魔力者だって話じゃない?それなのにローレシアの勇者である 王子様は剣士なのよ?もし 魔王と戦うのに魔力者以外の力が必要なら もっと別の国から起用すれば良いじゃない?」
レイトが呆気に取られながら答える
「は、はい… 確かに…」
リーザロッテが頷いてヴェインへ声を掛ける
「ヴェイン、あなたは?」
レイトより一歩後ろに居たヴェインが 驚いて顔を上げて言う
「は?」
リーザロッテがヴェインに問う
「あなたの槍の技術は アバロンやローゼントに劣るのかしら?」
リーザロッテの唐突な問いに ヴェインが慌てて答える
「え!?あ!じ、自分もツヴァイザーの兵として 日々槍術を磨いておりますので!アバロンの大剣使いやローゼントの長剣使いなど 恐れるに足りません!」
ヴェインが先ほどのレイトと同様に自分の槍をリーザロッテに見せる リーザロッテが満面の笑みを浮かべ 再び城下の町を見下ろして言う
「決めた!」
リーザロッテの言葉にレイトとヴェインは何事かと視線を向ける リーザロッテが振り返り続きを言う
「今回は私が、世界を救う 勇者 になるわ!」
レイトとヴェインが呆気に取られる リーザロッテが意気揚々と言う
「そうと決まれば すぐにでも出発しないと!ローレシアの勇者は もう旅立っているのだもの、これ以上遅れは取られなくてよ!」
リーザロッテが言い終えると共に自室へと急ぐ 自分の前から立ち去るリーザロッテを レイトが止めて言う
「お、お待ち下さいっ 姫様!」
その言葉に振り返るリーザロッテ レイトが続ける
「…ご冗談 で御座いますよね?」
リーザロッテが首を傾げて言う
「本気よ?」
レイトが慌てて声を上げる
「いけません!」
レイトが自身の大声にハッとして 声を落ち着かせて言う
「ひとたび城の外へ出れは そこは魔物化した動物達の住処です」
リーザロッテが苦笑して言う
「分かっているわ、その元凶を倒しに行くのだから」
レイトが困った表情で言う
「いいえっ お分かりでありません!その魔物らは姫様に襲い掛かって参ります!」
リーザロッテが強気に言う
「ええ、そうでしょうね?」
レイトが一瞬呆気に取られるが 気を取り直して言う
「姫様のお命が危険に晒されます!」
リーザロッテが1つため息を吐いてから レイトへ不機嫌そうに言う
「ねぇレイト、私は姫だけど子供じゃないの 城の外がどうなっているかぐらい分かっているわ 他国へ招かれた事だってあるのだし」
レイトが問う
「では、その魔物らから どの様にして御身を守られるおつもりですか?」
リーザロッテが普通に答える
「それはローレシアの勇者と同じよ?」
レイトが言う
「ローレシアのザッツロード王子は 幼少の頃より剣技を学ばれておられる筈です」
リーザロッテが軽く笑って言う
「でも、魔王を倒せるほどの腕ではないのでしょ?」
レイトが一瞬呆気に取られた後 少し困って言う
「…は、はぁ… 恐らくは…」
リーザロッテが微笑して言う
「なら私も同じよ!各国から集めた強い兵に 戦わせているのじゃない?」
レイトが少し間を置いて言う
「…確かに 間違ってはおられない部分もあるかと… しかし、ザッツロード王子は 自身を守る事は出来るかと思われます」
リーザロッテが少し表情を堅くして言う
「分かったわ、それなら私も自身の身ぐらい 自分で守るわよ?」
レイトが真剣な表情で言う
「どの様にして守られるおつもりですか?」
リーザロッテが軽く微笑んで言う
「彼が剣なら 私は槍よ、当然でしょ?」
レイトが変わらず問う
「姫様は 槍術を学ばれておられるのですか?」
リーザロッテが自信のある表情で言う
「いいえ?でもずっと見てきたわ、自分の身ぐらい守れる筈よ」
レイトが言葉を返し切れなくなり思考を巡らす リーザロッテがその沈黙を了承と取って微笑んで言う
「さあ!そうとなれば!まずはお父様にお伝えしないと!」
リーザロッテの言葉にレイトがあっと声を漏らして言う
「そうでした、陛下がお待ちかねです 遅くなってしまいました どうかお急ぎを」
リーザロッテは嬉しそうに返事をして 早足で向かう
「ええ!」
レイトがホッと胸を撫で下ろす
玉座の間 リーザロッテから話を聞いたツヴァイザー国王が笑って言う
「あっはっは 何を馬鹿な事を言っている?」
リーザロッテが少し怒った表情で言う
「私は本気ですわ!お父様」
ツヴァイザー国王は変わらず笑って言う
「はっはっは さて、それより、リーザロッテ、お前に縁談の話が来ているのだ」
リーザロッテが怒った表情で言う
「お父様!」
ツヴァイザー国王が微笑んで言う
「相手はスプローニ国のアシル王子だ、お前も何度か会ったことがあるだろう?」
リーザロッテが記憶を巡り そして言う
「スプローニ国のアシル王子、あの方は私より20も離れている お方ですわ」
ツヴァイザー国王が上機嫌で言う
「正確には21歳の差だそうだ、しかし、このツヴァイザーより南にあるスプローニが我が国と交流を深めれば、更に南にある我が国の友好国シュレイザーに挟まれる ベリオルの町も いずれ我らの領地に入るであろう」
リーザロッテが気を落ち着かせて言う
「領地を広げるのであれば 現行友好条約を交しているシュレイザーに南を任せて 我がツヴァイザーは北のベネテクトとの仲を深めるべきだと思いますわ」
リーザロッテの言葉にツヴァイザー国王が一瞬、呆気に取られて考える リーザロッテが続けて言う
「ベネテクト国の王子様とお会いした事はありませんが、年の頃は近いと聞いています」
ツヴァイザー国王が少し考え思い出した様に言う
「ベネテクト国の… ベーネット王子か?うむ… いや、あの国は無理だ ベネテクトの現国王バーネット2世は アバロンとの交流しか考えておらん」
リーザロッテの提案に首を振ったツヴァイザー国王は向き直り 改めて言う
「なんにしろ、数日の内にはアシル王子が我がツヴァイザー国にいらっしゃるとの事だ、良いな?」
ツヴァイザー国王の言葉に沈黙するリーザロッテが思い出して言う
「…お父様?ですから私は 勇者として旅に!」
リーザロッテの話を本気に取る事は無く ツヴァイザー国王が微笑と共に言う
「勇者の旅より アシル王子との縁談の方が大切だ、良いな?」
リーザロッテが一瞬間を置いてから意を決して言う
「分かったわ」
リーザロッテが一言言い残し ツヴァイザー国王の前から去っていく 彼女が玉座の間を出ると 待っていたレイトとヴェインが付き従う さっさと自室へ向かうリーザロッテの様子に レイトとヴェインは顔を見合わせ彼女の思考を思案するが 想像が付かず何も言わないままリーザロッテを部屋まで送る
【 アバロン城 】
ヴィクトールの前で家臣らが報告している
「ヴィクトール陛下、魔王討伐の為ローレシアが再び勇者を選出し 旅立たせたそうです」
「ローレシアからの連絡によると 宝玉の力が戻っていない状態でも その魔力を増幅させる方法を編み出したとの事」
「一向に収まらない悪魔力の増加は やはり魔王を倒さねば収まらないと言う話です」
ヴィクトールが間を置いて言う
「ベネテクト国からの連絡では 悪魔力は祠にある祭壇に隠されている 魔力穴から排出されているとあった そして、その場所にはローレシアへ聖魔力を送る装置が付けられていると その裏づけ調査はどうなっている?」
家臣たちが資料を探して 家臣Aが答える
「祠の祭壇の調査は15年前の世界的な悪魔力の増加の際に ガルバディア国に残されていた宝玉を使用し 2代目勇者殿方が強力な結界を張ったせいもあり 現在 祠の調査は行えない状態になっております」
ヴィクトールが問う
「その2代目勇者らの行方の調査はどうなった?魔王の島よりヘクターたちにより救出され ガルバディアの宝玉を使用し 全国の祠に強力な結界を張った その後の足取りは?」
家臣Bが言う
「その後の足取りは 一向に確認が取られていません 世界中の国々へ連絡を入れましたが この15年 何処にも現れたという報告は入っておりません」
ヴィクトールが問う
「ヘクターとデスへ命じた 魔王討伐はどうなっている?」
家臣Cが言う
「アバロン3番隊隊長ヘクターと相棒のプログラマーのデス殿へ アバロンの宝玉を用いて魔王の討伐は 可能であるかと確認したのですが…」
家臣Cに皆の視線が集まる 家臣Cが困った様子で続ける
「ま、『魔王の討伐はローレシアの勇者様じゃないと ダメな気がする』…との返答を頂いております」
皆が呆れる ヴィクトールが立ち上がる 家臣たちが驚く ヴィクトールが歩き出す 家臣Aが慌てて声を掛ける
「ヴィ、ヴィクトール陛下っ!?どちらへ!?」
ヴィクトールが視線を向けないまま答える
「私が直接ヘクターと会って話をして来る デスのプログラムとヘクターの力が有れば 魔王だろうと何だろうと退治する事など 可能なはずだ!それを断る理由があると言うのなら 聞き出して確認をする!」
家臣Bが慌てて言う
「それでしたら 今すぐ2人を呼び付けます 何も陛下自らが向かわれなくともっ」
ヴィクトールが歩みを続けて言う
「ベネテクト城の建設が進んでいる このままでは もうじき完成してしまう ベネテクト国から謙譲された資料の確証が得られないままでは これ以上彼を留めておく方法が無い …もう時間が無いんだ!」
【 ベネテクト城 】
ベネテクト城 地下室 ベーネットが部屋の扉を開けたまま自室で本を読んでいる バーネットが手前の部屋へ入って来る ベーネットが顔を向ける バーネットが椅子に座り 机に足を乗せて書類を確認する モフュルスがやって来てバーネットへ報告している ベーネットが視線を本へ戻す バーネットの声が聞こえて来る
「おいっ!モフュルスっ!アバロンのメイデ王女は もうとっくに戴冠可能な15歳になりやがったってぇえのに 向こうからは 何にも言って来やがらねぇってのは どう言う事だぁっ!?」
モフュルスが答える
「正式な連絡ではございませんが ヴィクトール陛下の御好意により ベネテクト城の完成までは バーネット様の王位を延長する様にと…」
バーネットが声を荒げて言う
「ざけんじゃねぇえ!あの野郎ぉお!どこまで俺を蔑(さげす)めば 気が済みやがる!!」
モフュルスが焦って言う
「しかし、バーネット様…」
バーネットが叫んだ後 怒りを押し殺して言う
「うるせぇええ!それに… あの町の様子はぁ 何だぁ?」
モフュルスが困った様子で言う
「今月は メイデ王女の15歳のお誕生月になります、ですからベネテクトの町や村は それをお祝いして」
バーネットが机を叩き付けて言う
「知るかぁああ!!何で他国の王女の誕生月を祝いやがるんだぁあ!?この国はまだベネテクト国だろ!?今月は… 今日はバーネット1世ベネテクトが デネシアの野郎共にぶっ殺された日だろぉおがぁあっ!!」
バーネットが再び机を叩き付ける ベーネットが視線をバーネットたちの方へ向ける バーネットがうすら笑って言う
「は… はっは… なら良い さっさとベネテクト城を完成させてぇ 次はデネシアの王女と アバロンの王がぁ どんな手ぇ 使ってきやがるか 試してやるかぁ?」
バーネットが笑う モフュルスが心配そうな声で言う
「バーネット様 少しお休み下さい きっと今は あの町の様子のせいで 御気分を害しておられるだけなのでしょう ベネテクトの民も、ヴィクトール陛下も 皆バーネット様の事を 心配しております」
ベーネットが立ち上がり部屋の扉を閉じる
【 アバロン国 】
ヴィクトールがアバロン3番隊訓練所の上部にある橋の上にやって来る 橋の手すりにウィザードが腰掛け3番隊の練習風景を眺めている ヴィクトールがウィザードへ声を掛ける
「デス、ヘクターを呼んでくれないかい?」
ウィザードが振り返り言い掛ける その間にヴィクトールがウィザードの直ぐ横までやって来る
「ヘクターは… っ!」
ウィザードが言葉を途中で切り 身を浮かせてヴィクトールから遠ざかる ヴィクトールが一瞬、呆気に取られて問う
「え?ヘクターは?」
ウィザードが橋の手すりの 外側へ身を浮かせて言う
「お前!私のそばに来るな!」
ヴィクトールが驚き ウィザードへ手を伸ばして言う
「え!?何で?」
ウィザードが焦って言う
「嫌いだ!今日のお前は 私の嫌いな感じだ!」
ヴィクトールが呆気に取られ ウィザードを掴もうと追いかけて言う
「き、嫌いな感じって?僕は何も…!?」
ウィザードが怒って言う
「嫌いだ!私は それが嫌いだ!それを持つ お前も嫌いだ!」
ウィザードが逃げて行く ヴィクトールが慌てて追いかけて言う
「あっ!ちょっと待ってくれ デス! …って!?うわっ!」
ヴィクトールが橋から落ちる ウィザードが驚く ヴィクトールが橋下の訓練場に落下し 地に座ったままぶつけた頭を擦っている 3番隊隊員たちが驚き集まって来て言う
「ヴィクトール陛下!?」 「ヴィクトール陛下!大丈夫ですかい!?」
ヴィクトールが苦笑しながら立ち上がって言う
「イ…タタ… あ、ああ 大丈夫だ 問題ない」
隊員たちが橋を見上げて言う
「あんな橋の上から落っこちて無事だなんて… 流石はアバロンの王 ヴィクトール陛下だな~?はははは!」
隊員たちが笑う ヴィクトールが照れながら周囲を見渡す ヴィクトールの様子を見て隊員が言う
「所で 一体なんったって あんな所から落っこちて来なさったんだ?ヴィクトール陛下?」
ヴィクトールが声を掛けて来た隊員へ向かって言う
「いや その… うっかりデスを追いかけてしまって」
隊員たちの視線が 皆から離れて 宙に浮いているウィザードを見る ヴィクトールが気を取り直して言う
「と、それより ヘクターは何処だろうか?」
隊員たちが言う
「ああ、ヘクターだったら 今日は休みを取ってますぜ?」
ヴィクトールが疑問する 他の隊員が言う
「何でもタニアさんに怒られて… とか?何とかで~?」
隊員たちが顔を見合わせ それ以上は分からないと言った素振りを見せる ヴィクトールが首を傾げて言う
「ヘクターがタニアさんに怒られて 3番隊の訓練に来ない?」
隊員たちが頷く ヴィクトールが少し考えてから言う
「…そうか では直接 家へ向かってみよう 邪魔をしてすまなかった 訓練を続けてくれ」
ヴィクトールが立ち去る
街中 ヴィクトールが全身を覆うローブを纏ってアバロンの城下町を歩いて行く ヘクターの家の前で立ち止まり扉をノックする 間もなくタニアの声と共に扉が開かれる ヴィクトールが軽く首を傾げて言う
「私はヘクターの親しい友人なのだが、ヘクターは在宅だろうか?」
タニアが首を傾げ少し考える様子で言う
「ヘクターは今 出掛けているんです 帰りは ちょっと遅くなるんじゃないかしら?」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られてから考えながら言う
「そうか… 遅くなってしまうのか」
タニアがヴィクトールの顔を覗き込んで言う
「あの…?」
ヴィクトールがタニアへ向いて問う
「3番隊の訓練を休んで何処へ向かったのか …行き先は聞いていないだろうか?」
タニアが微笑して言う
「行き先はガルバディアです」
ヴィクトールが驚いて問う
「ガルバディアへ!?ウィザードもプログラマーも無事戻って来たと言うのに 何故今更ガルバディアへ向かう必要が!?」
タニアが一瞬驚いた後 可愛く怒って言う
「もうっ ヘクターったら 私に黙って勝手にガルバディアの国王様と約束をしてしまったんですよ?お陰で私たちの可愛い息子の片方が 生まれて直ぐにガルバディアへ送られる事になってしまって」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られてから言う
「あ、ああ ヘクターから聞いたよ しかし、それは15年前の話だね?それとも、今日ヘクターがガルバディアへ向かった事と何か関係が…?」
タニアが微笑んで言う
「今日は、その子を迎えに行かせたんです!」
ヴィクトールが一瞬、驚いてから微笑んで言う
「そうか… では良かった、これで家族全員が この家に集まれると言う事だね?」
タニアが笑顔を見せる 間を置いて タニアが表情を落として言う
「でも、今度はヘクターが… また勇者様の為に戦うって言うんです 折角、家族全員と 私のお義兄さんでもあるデスと ヘクターの相棒のデスも入って 全員揃うのに…」
ヴィクトールが疑問して言う
「ヘクターが勇者の為に?いや、今回のローレシアの勇者のお供には ヘクターではなく息子のオライオンに頼むと 言っておいた筈なのだが?」
タニアが苦笑して言う
「ええ、今回の3代目勇者様のお供には息子のオライオンなんですけど、それとは別で 前回の2代目勇者様と そのお仲間の魔力者さんたちを助けるためにって… はぁ、もうヘクターったら アバロンの宝玉を盗みに行くだなんて言うんですよ?」
ヴィクトールが衝撃を受けて驚いて言う
「えぇええっ!?そ、それは どう言う事!?」
タニアが苦笑したまま言う
「アバロンの宝玉が ローレシアの3代目勇者様に渡される前に ヘクターが手に入れて それを使って 今、行方不明の2代目勇者様と そのお仲間の居場所を ローレシアの王様から聞き出すんですって ヘクターったら強引なんだから」
タニアが笑う ヴィクトールが焦って言う
「で、では ヘクターはアバロンの宝玉を餌に ローレシアの王を強請(ゆす)ろうというのか!?」
タニアが愛らしく微笑んで言う
「そうみたいです」
ヴィクトールが衝撃を受けてから 視線を落として言う
「な…っ 何でヘクターは 僕にそれを伝えてくれなかったんだ…?ヘクターの事だ それは相棒のプログラマーのデスと相談の上での策である筈 デスが作る作戦プログラムなら全ての面において完璧だ それを僕に伝えないなんて どうして…!?」
タニアが不思議そうにヴィクトールを覗き込んで言う
「でも… デスが調べた範囲では ローレシアのお城に2代目勇者様とお仲間の方の存在は 確認出来ないらしくて… だから、」
ヴィクトルがタニアへ視線を向けて問う
「『だから』!?」
タニアが笑顔で言う
「今回の作戦は ヘクターお得意のアバロン式『何となく、そんな気がする』作戦なんです」
ヴィクトールが転びそうになる ヴィクトールが気を取り直して言う
「そ、そんな!?『何となく、そんな気がする』作戦などで アバロンの宝玉を盗み出そうなんて言うのかいっ!?」
タニアが笑って言う
「ヘクターったら 絶対ローレシアの王様がザッツたちを隠してるんだ!なんて言い切るんですよ?デスもデスで、ヘクターがそう思うなら 仕方がないからその作戦で行こうって言うんです 私、デスはホログラムになっちゃって 昔より機械的な考え方をするのかと思ったら すっかりヘクターのアバロン式に慣れてしまっているみたいで なんだか不思議な感じなんです でも私は、今のデスの柔軟な考え方の方が 人らしくて良いと思うので… だから、今回のヘクターとデスの アバロン城襲撃作戦も 特別に許可しちゃいました!」
ヴィクトールが慌てて叫ぶ
「許可しないでーっ!」
タニアが疑問する ヴィクトールがハッとして視線を逸らして言う
「ど、どうしよう… ヘクターだけならともかく デスが一緒ではアバロン城のどこに宝玉を隠したって 見付かってしまう… だからと言って部隊を配置して防ぐなんて事は もっての他だし 僕ではヘクターに太刀打ち出来ない 今ここで宝玉をローレシアに渡されてしまっては 例え2代目勇者殿を助けたところで 3代目勇者とローレシアの動向が まったく分からないと言うのに…っ」
ヴィクトールが身体の向きを変え 頭を抱えて叫ぶ
「あぁーっ こんな時 バーネット!君が居てくれたらーっ!」
タニアが首を傾げる ニーナとミーナがタニアの後ろからやって来てミーナが言う
「お母さん、私たち やっぱり先に行く事にしたわ」
ニーナが言う
「もう1人のお兄ちゃんに ご挨拶出来ないのは残念だけど 3代目勇者様に遅れてしまってはダメなの」
タニアが振り返る ヴィクトールが疑問してニーナとミーナへ向く タニアが残念そうな表情で言う
「そう… それじゃ、気を付けてね?本当に、無理はしちゃダメよ?」
ニーナとミーナが笑顔で頷き 2人が手を繋いで ヴィクトールの横を過ぎて行く ヴィクトールが2人の姿を見送った後 タニアへ向き直って言う
「3代目勇者様に遅れてはいけない… とは?彼女たちはヘクターと貴方の娘さんで…」
タニアが困った様子で微笑んで言う
「ええ、みんなローレシアの勇者様のせいで大忙しなんです ヘクターとデスは2代目勇者様を助けに行くと言うし、オライオンは今日連れて帰ってくる兄と一緒に3代目勇者に同行するって言うし 2人の娘はその3代目勇者様たちの情報を集めるんだって」
ヴィクトールが少し驚き問う
「3代目勇者たちの情報とは!?」
タニアが苦笑して言う
「デスが… ローレシアの勇者の伝説は何か裏がある筈だって言うんです でも、2代目3代目の勇者様はきっとただローレシアの王様に使われているだけだから 本人たちに聞いても分からない 今までに確認した方法とはまったく違う方法では無いと 暴けないかもしれないって… それを聞いた娘たちが それなら自分たちが調べてみるって言い始めてしまって…」
ヴィクトールが驚いて言う
「それはそうかもしれないがっ あの子たちだけで その様な危険な事を!」
タニアが軽く笑って言う
「父と兄が世界の為に戦っていると聞いて あの子たちも、何かをしたいって気持ちなんです でも、あの子たちは魔法アイテムを使って移動魔法を使えるだけなので ただローレシアや他の国へ行って 勇者様のお話を聞いて回る事しか出来ません 最も、それだけなら 身の危険などもそれほど無いと思うので 行かせてあげる事にしたんです」
ヴィクトールがハッとして立ち去る タニアが驚いて声を掛ける
「あ、あの…」
ヴィクトールが立ち去り タニアが不思議そうに言う
「お名前 聞けなかったわ…?」
ミーナが店でアイテムを購入している その後方でニーナが首を傾げて言う
「魔法アイテムだけじゃなくて ちゃんとお薬も買わないとダメだって 最初に言ったの~」
ヴィクトールがミーナを見つけて走って来る ニーナがヴィクトールへ振り向く ヴィクトールが微笑んで言う
「君、ヘクターの娘さんだったよね?えっと…」
ニーナが少し驚いた様子で答える
「うん、ヘクターは私たちの世界一のお父さんなの」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「ローレシアの勇者の情報を集めに行くのは危険だ、少なくともローレシアへは行ってはいけない」
ニーナが首を傾げて問う
「ローレシアの勇者様のお話は ローレシアで聞くのが一番なの だから、ローレシアにはどうしても行かなくちゃいけないの」
ヴィクトールが少し困った表情で 腰を下ろしニーナと高さを合わせて言う
「君達の考えは正しい しかし、ローレシアの勇者の伝説には 国家単位の大きな事が絡んでいるんだ そこへ、その国家すら動かす事も出来るヘクターの その娘が 万が一にもローレシアに捕まってしまっては困る …少し難しい話かもしれないが 君たちは とても大切な存在なんだ ヘクターにとっても 僕にとっても…」
ニーナが呆気に取られた後 首を傾げて言う
「お父さんは、いつも私たちに お前達は世界一の娘たちだ って言ってくれるの 私たちが 『大切な存在』だって言う お兄さんの言っているのは そう言う事?」
ヴィクトールが呆気に取られた後 軽く笑って言う
「うん、そうだね?その『世界一の娘たち』を ローレシアに奪われてしまったら ヘクターはとっても悲しむだろう?そして、きっと どんな事をしてでも 取り戻そうとする」
ニーナが微笑んで言う
「うん!お父さんはプログラマーのデスさんと一緒に 助けに来てくれるの!世界一の大剣使いと世界一のプログラマーで世界一の相棒の お父さんとデスさんなら きっとローレシアのお城も壊しちゃうくらいなのー!」
ヴィクトールの脳裏にローレシア城の破壊される風景が浮かぶ ヴィクトールが衝撃を受けて焦って言う
「ああっ!そ、そう、そう!だから それで 国家亀裂が生じてしまってっ アバロンとローレシアそれにデネシアが…っ ああ、いや、そうじゃなくてっ!」
ニーナが疑問して首を傾げる ヴィクトールが一息吐いて気を静めて言う
「とにかく 君たちだって ヘクターや 君たちのお母さんや 兄弟を 悲しませたくはないだろ?その為にも ローレシアへは行ってはいけない 他の国へ行くなとまでは言わない だから ローレシアにだけは 行かないで欲しい…」
ニーナがヴィクトールへ向いたまましばらく考える ヴィクトールがニーナを見つめる ニーナが間を置いて言う
「…お兄さんも 悲しいの?」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られた後 寂しそうに微笑んで言う
「ああ、僕も悲しむよ?そして、万が一その様な事態になって ヘクターが君達を救い出そうとするなら その時は僕も協力する しかし、そうならない事が一番だ …大切な人を奪われ それを取り戻そうとする事は とても難しくて とても… 辛いんだ…」
ヴィクトールが言葉を詰まらせ視線を落とす ニーナがヴィクトールの前で首を傾げる 間を置いてしゃがみ ヴィクトールの頬に手を触れて言う
「お兄さんの大切な人は まだ 取り戻せて居ないの?」
ヴィクトールがハッとしてニーナの顔を見る ニーナが視線が合わないまま言う
「私、目が見えないの でも、そのお陰で双子のミーナよりも 見えないモノが見えるんじゃ無いかって 良く言われるの お兄さんは今とっても寂しい気持ち… ずっとずっと… その大切な人は 今どこに居るの?寂しいのなら会いに行くと良いの!きっと その寂しい気持ちも 嬉しい気持ちに変わるから!」
ヴィクトールが呆気に取られる ニーナが笑顔を見せる ヴィクトールが悲しそうに笑顔を作って言う
「その人とは… 会えないんだ すぐ隣の国に居るのに 何処で何をしているかまで 分かっているのに…」
ニーナが首を傾げる ヴィクトールが気を取り直して言う
「それでも、彼は生きて居てくれている それなら、いつか再び 会える日が来るかもしれない …でも、君達の場合は ローレシアに捕まってしまったら その命まで危険に晒される可能性があるんだ、だから」
ニーナが立ち上って笑顔で言う
「大丈夫、私たち 移動魔法が使えるの!捕まっちゃいそうになった時は 移動魔法で逃げちゃえば大丈夫なの!」
ヴィクトールが困った表情で言う
「うん… それは そうかもしれないが…」
店の扉が開きミーナが出て ニーナへ声を掛ける
「ごめんニーナ、回復薬の種類が多くて 時間が掛かっちゃった」
ニーナがミーナの方へ向いて言う
「ううん、大丈夫なの お兄さんとお話してたから」
ミーナが疑問してニーナの前に居るヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが立ち上がりニーナへ言う
「分かった、それでは これを持って行ってくれ」
ニーナが疑問してヴィクトールへ向く ヴィクトールが宝玉の入った袋をニーナの手に握らせて言う
「この中には とても綺麗な宝石が入っている だが、誰にも見せてはいけない 万が一ローレシアに捕まった時には この宝石に強く願うんだ アバロンへ帰して欲しいと」
ニーナが疑問して宝玉の入った袋を触り確かめようとする ヴィクトールが立ち去ろうとする ニーナが慌てて言う
「お兄さん、ありがとうなの 私たちの旅が終ったら ちゃんとお返しするの!お兄さんのお名前は?」
ヴィクトールが立ち止まり振り返って言う
「君たちがアバロンへ戻れば 私には分かり 私が受け取りに行く それまで大切に預かっていてくれ」
【 ガルバディア城 】
ヘクターとオライオンがガルバディア城の前に居る オライオンがヘクターの後ろでガルバディア城と周囲を見渡し言う
「これがガルバディア城… なんっつうかー」
ヘクターが少し顔を動かしてオライオンへ向く オライオンが言う
「俺だったら ぜってぇー 住みたくねぇっ!」
ヘクターが笑って言う
「ああ、俺もだぜ アバロンとは正反対 まったく草も木もなくて 人も居ねー …こんな所に15年も閉じ込められてちゃ 可愛そうだよな?」
オライオンがムッとしながら言う
「一歩間違ってたら 俺がガルバディアに送られてたかも しれなかったんだろ?ったく 酷い父親だよなー?」
ヘクターが苦笑する プログラマーのホログラムが現れて言う
『そうなったのは 私とウィザードのデスを助ける為であった そして、我々が無事助かった事により その後のザッツロードの救出や 結界の問題も解消された ヘクターの選択は 最良の選択であったと言える』
オライオンがプログラマーへ向き表情を渋らせる プログラマーがオライオンへ向いて言う
『だが、例え最良の選択であったとしても その為に その身を犠牲にされざるを得なかった お前の兄は 今頃我々を憎んでいる可能性は十分にある』
オライオンがヘクターへ向く ヘクターが顔を上げ目を閉じて言う
「俺の兄貴であるウィザードのデスは 昔ガルバディアから自由になったら 一番に 自分をガルバディアへ送った親父を探し出して 復讐するつもりだったらしい、今回も理由はなんであれ 状況は同じだ あいつは俺を憎んでるに決まってる」
オライオンが視線を落とし考えてから ガルバディア城を見上げる ヘクターが歩き始める オライオンが慌てて追いかけて問う
「そん時は どーすんだよ!?俺の兄貴が 親父を攻撃して来るんだろ!?ガルバディアで 何んかの実験にされてんなら!…もし、あのウィザードみたいにされてたら 親父とデスのプログラムで戦っても!」
ヘクターが笑んで言う
「俺は戦わねーよ、当ったりめーだろ?俺の手であいつを これ以上傷つけたりしたら 3日間飯抜き所じゃなくなっちまう」
プログラマーが苦笑して言う
『あの時のタニアの怒りは 恐ろしいものであったな… 声を荒げる事もなく 静かに放たれた『3日間、ご飯抜きだからね』の言葉は 今まで私が聞いて来た中の どのような言葉よりも恐ろしかった』
オライオンが疑問する ヘクターが視線を向けないまま軽く笑んで言う
「言葉が怖かった訳じゃねーんだ、あの時の… タニアの心の痛みが 何よりも辛くて痛くってよ… タニアも色々知ってたから 俺のした事を 全力で非難出来なかったんだ」
オライオンが表情を困らせて言う
「じゃぁ、兄貴が 親父を殺そうとして来たら どーするんだよ?」
ヘクターが足を止める オライオンが疑問してヘクターを見上げる ヘクターが笑んで言う
「全力で 正面から受け止めるっ!」
オライオンが驚き疑問する ヘクターが両腕を広げて叫ぶ
「来い!迎えに来たぜっ!!」
オライオンが呆気に取られる ガルバディア城の上方の壁が吹き飛び ヘクターの広げられた両腕の胸に 白い翼を背に持つ シュライツが舞い降りる ヘクターがシュライツを抱き締めて言う
「遅くなっちまって悪かったな… やっと ガルバディア国王が 連れてって良いって 言ってくれたぜ… ごめんな… お前一人に…」
シュライツが顔を上げ ヘクターへ向き 分からない言葉で喋る ヘクターが呆気に取られる オライオンがハッとしてヘクターへ言う
「お、おい、親父!そいつが俺の兄貴なのか!?それで!?な、何って言ってんだよ!?」
シュライツが言葉を止める ヘクターが呆気にとられたまま オライオンへ向いて言う
「あ、ああ… えっと…」
ヘクターが再びシュライツへ向く シュライツが首を傾げる ヘクターが苦笑して言う
「お前、俺を… 許してくれるのか?」
シュライツが笑顔で何かを言う ヘクターが苦笑して言う
「う…ん?はは… まぁ良い、分かんねーけど、もし 許せなかったら いつでも復讐してくれよ 俺に」
シュライツが首を傾げる オライオンが呆気に取られた状態から微笑み 軽く笑って言う
「兄貴は 親父に復讐する気は ねぇってよ!」
ヘクターが驚きオライオンへ向く シュライツがオライオンの前に浮き 笑顔で何かを言う オライオンが笑顔でうなずく ヘクターとプログラマーが顔を見合わせ ヘクターがオライオンへ問う
「お、おい、オライオン!お前はっ こいつが何て言ってるのか 分かるのかよっ?」
オライオンがヘクターへ向いて言う
「当ったりめーだろ?こいつは俺の兄貴で 俺の世界一の相棒なんだぜ?な?」
シュライツが笑顔で何か言う ヘクターが呆気に取られ プログラマーへ向く プログラマーが呆気に取られた表情から微笑み言う
『言葉が伝わっているとは思えない、だが… 恐らく 彼らは伝わっているのだろう そして』
ヘクターとプログラマーの前で オライオンとシュライツが笑顔で会話をしている それを見てから プログラマーがヘクターへ言う
『2人とも 我々を許してくれたらしい 流石、世界一の父親であるお前の 息子たちだな?』
ヘクターが驚く プログラマーが笑んだ後 オライオンたちへ向く ヘクターがプログラマーの視線の先へ顔を向けて言う
「…はは、そっか 流石 俺の 世界一の息子たちだぜ」
オライオンとシュライツが笑顔で話を続けている
【 ツヴァイザー城 】
城門前 城の門が開く音に 門兵が振り返る リーザロッテがローブを纏い出て来る 門兵が呼び止めようとする リーザロッテが言う
「私よ」
門兵が一瞬考え すぐに驚いて言う
「姫様!?このような夜更けに如何なさいました!?」
リーザロッテが言う
「ちょっと用があるの 通してもらえる?」
門兵が一度道を空けようとするが 思い出した様にもう一度制して言う
「お1人で?護衛の者は連れてはいないのですか?」
リーザロッテが門兵の言葉に束の間沈黙し 案を巡らしてから門兵へ言う
「護衛は… すぐそこで待っているわ、近くだから大丈夫よ?」
門兵が心配しながら言う
「…そうですか では…」
リーザロッテが出来るだけ落ち着いてゆっくりと歩き 城下町へと急ぐ
城下町の門前で再びリーザロッテは門兵へ言う
「門の外に私の護衛兵を待たせているわ、通してもらえる?」
リーザロッテの堂々とした言葉に 門兵は疑いを持つ事無く返事をして門を開く リーザロッテが軽く礼を言って門を抜ける 共に出た門兵が見渡す限り 他の兵などは見えない 門兵が問う
「姫様、護衛兵はどちらに?」
門兵の言葉にリーザロッテは出来る限り落ち着いて振り返って言う
「すぐ… そこよ?」
リーザロッテの言葉に門兵はもう一度辺りを見渡してから問う
「そこ…と申されますと?私の目には…」
リーザロッテが答える
「そこの…正面の角を曲がった所に」
リーザロッテが指差すその場所は門からだいぶ離れている 門兵は疑問しながらも仕方なく言う
「では、あの角までご一緒いたします 見える範囲ではありますが、万が一にも魔物が飛び出した際 ここからでは間に合いません」
リーザロッテがギクッと一瞬息を飲んでから言う
「大丈夫よっ!あなたは門を閉めて町を守って頂戴」
リーザロッテの言葉に門兵は顔を横に振って言う
「町も大切ですが、姫様はもっと大切です ご安心を、門兵は私の他にも控えておりますので」
門兵の言葉にリーザロッテは仕方なく 隠していた槍に手を掛けて言う
「そう… ありがとう、あなた優しいのね」
リーザロッテが門兵から少し離れ顔を向けて微笑む リーザロッテの言葉に門兵は安心して微笑する 次の瞬間 リーザロッテが力一杯 槍の柄を門兵の腹に叩き付ける 門兵が悲鳴を上げる
「ぐあっ!!」
リーザロッテが言うと共に駆け出す
「ごめんなさいっ!」
門兵が腹を抱えうずくまりながら必死にリーザロッテを呼ぶ リーザロッテは振り返る事無く走って行く リーザロッテが門兵の視界から消えた頃 門兵の横に2頭の馬がやって来る 門兵が言う
「姫様がっ」
門兵が短い言葉と共に道の先を指差す それを見たレイトとヴェインが頷き合い馬を走らせる 道の先一度曲がった更に先にある分かれ道 レイトとヴェインは二手に分かれる
リーザロッテが城下町の光が届かない場所まで走り切った所で上がる息を整えて言う
「はぁ はぁ… 強く叩いてしまったけど… 大丈夫よね?」
リーザロッテが心配げに一度後方を見てから気を取り直して前方へ視線を戻す その横で草の茂みが動く リーザロッテがハッとして槍を構える 魔物化した狼が迫ってくる リーザロッテが慣れない槍を構え言う
「く、来るなら 来なさい!」
狼が唸り声を響かせる リーザロッテは槍を構えたまま周囲を見て息を飲む 狼がリーザロッテに襲い掛かる 正面から牙を剥いて襲い掛かる狼に リーザロッテが槍を振るう 細身の槍が狼に当たる しかし大したダメージを与える事は出来ず 狼は体制を立て直し再び牙を剥く リーザロッテが一歩後退り言う
「ど、どうしたら…っ」
リーザロッテが今まで見てきた兵士や父の槍術を思い出すが槍を持つ手は汗ばみ震える 狼が再び襲い掛かって来る リーザロッテが狼の攻撃に槍を振い 再び狼の攻撃から身を守る そこへ更なる眼光が光り 次々と狼が集まり群れになる リーザロッテが焦り槍を握り締め後退り息を飲む 狼たちが襲い掛かろうとする その時レイトの声が響く
「姫様!!」
リーザロッテが振り返って叫ぶ
「レイト!?」
颯爽と現れたレイトは馬から飛び降りて リーザロッテの前に立ち 槍を構えて言う
「私の後ろから離れないで下さい!姫様っ」
リーザロッテが戸惑いながら言う
「え、ええ!」
狼の群れを相手に レイトは怯む事無く華麗なる槍術を見せる リーザロッテが思わず見惚れる さほど時間を掛ける事無く狼の群れを退治する 戦いを終え レイトが構えを解除する リーザロッテが大絶賛で言う
「すごい…っ すごい すごい!すごいわ!レイト!!」
リーザロッテの声に振り返ったレイトへ リーザロッテが抱き付く レイトが驚き硬直して言う
「ひ、ひめさまっ」
リーザロッテが笑顔で言う
「レイト!私、貴方がこんなに凄いなんて知らなかったわ!あ、違うのよ!?貴方が強いって事は知ってたわ!でも あんな狼の群れを たった一人で退治してしまうだなんて!」
リーザロッテが興奮がひと段落させレイトから離れ 自分の持つ槍を見てから言う
「やっぱり!ツヴァイザーの槍使いは凄いわっ!こんなに強い騎士を誘いに来ないだなんて、ローレシアの勇者の目は節穴よ!」
リーザロッテが言いながら手放していた荷物を拾ってから道を歩き始める レイトが慌てて呼び止める
「姫様!」
リーザロッテが立ち止まる レイトがリーザロッテの前へ向かい跪いて問う
「姫様、お怪我はございませんか?」
リーザロッテが戸惑いながら答える
「え… ええ 怪我は 無いわ」
リーザロッテが視線を逸らす レイトがホッと胸を撫で下ろして言う
「そうでしたか、ご無事で何よりです」
リーザロッテが間を置いて問う
「…怒らないの?」
レイトが呆気に取られて言う
「は?」
レイトが間を置いて気を取り直して言う
「姫様のご出立に もっと早く気付くべきでした、申し訳ありません」
リーザロッテが驚いて問う
「どうして!何でレイトが謝るのよ!?」
リーザロッテがレイトへ視線を向ける レイトが軽く微笑んで言う
「姫様の有言実行は 私が護衛の任へ付いた当時から変わらぬもの それに気付けなかったのは 私の失態です」
リーザロッテが間を置いて言う
「… 私を連れ戻すの?」
リーザロッテが言うと共に一歩レイトから遠ざかり槍を構える レイトが自分へ向けられている矛先を見つめ 続けて その持ち主の手元へと目を向ける レイトが立ち上がる リーザロッテがレイトの動きに再び槍を構え直して言う
「近付かないで!」
とっくに槍の間合いに入られているにも関わらずリーザロッテが叫ぶ レイトがリーザロッテの槍を持つ手を示して言う
「姫様、武器は 素手で持ってはいけません 手を傷つけてしまいます」
レイトが言うと共に視線を上げ優しく微笑む リーザロッテが困り 視線を巡らせて返す言葉を捜し戸惑いながら言う
「で、でも… 昔の貴方は素手で持っていたでしょう?」
レイトが一瞬驚き微笑んで言う
「ご存知でしたか はい、あの頃私は長時間槍を扱っていられる様にと わざと負担を与え 手を鍛えていたのです」
リーザロッテが視線を落として言う
「…そうだったの」
レイトが優しく言う
「旅をなさるのでしたら 例え武器を持たずとも 手を守るものを していた方が良いですよ?」
リーザロッテが寂しそうに言う
「私の知らない事ばかりね… 魔物を相手にした時も どうしたらダメージを与えられるのか 分からなかったわ…」
レイトが軽く笑って言う
「初めて槍を手にして、身を守られただけでも 大したものです」
リーザロッテが静かに言う
「慰めは要らないわ」
レイトが気を取り直して言う
「慰めではありません、槍は 扱うのが一番難しい武器だと言われています それを操り身を守る事は 決して簡単な事ではございません」
リーザロッテが一瞬驚いた後 寂しそうに微笑んで言う
「そう… ありがとう…」
レイトが心配して言う
「姫様…」
落ち込んでしまったのではないかと心配するレイトが何とか元気付けようと声を掛けようとした時 リーザロッテがパッと表情を切り替えて言う
「それじゃ!私、急がなきゃ!」
レイトが呆気に取られて言う
「え?」
リーザロッテが笑顔で言う
「私は戦えないって事が分かったのよ!だったら、早く強い仲間を手に入れないと いけないでしょ?」
リーザロッテが歩き始める レイトが驚いたまま言う
「え?いや、その…!?姫様?」
リーザロッテが立ち止まり振り返って言う
「私、行くわ!レイト?この馬をもらえるかしら?馬で行かなければ また魔物に襲われてしまうもの!」
リーザロッテが馬の横まで行った所で レイトが声を上げる
「お待ち下さい!姫様!」
リーザロッテが馬に乗ろうとする レイトが馬の手綱を握り止めて言う
「姫様!」
リーザロッテがレイトへ向いて強気に微笑んで言う
「レイト、私、必ず強い戦士を集めて見せるわ!ツヴァイザーの勇者になって この世界を救うのよ!」
レイトが一瞬視線を落とした後 リーザロッテへ向いて言う
「でしたらっ 私をお連れ下さい!」
リーザロッテが驚いてレイトへ顔を向けて言う
「え?」
レイトが表情を強めて言う
「私が共に参ります!他国の者に…っ 姫様を預ける事など出来ません!」
リーザロッテが呆気に取られた表情で問う
「レイト… 来てくれるの?」
レイトが苦笑して言う
「姫様が お戻りになられないのでしたら こうするしか有りません、私が… 姫様をお守り致します!」
【 北の世界 ローンルーズ 】
バッツスクロイツがバスルームから出て言いながら ダイニングルームへ向かう
「デースー?今日はフレークじゃなくて トーストでー バターは要らないから」
向かった先 テーブルの上に朝食の用意がされている バッツスクロイツがテーブルに着くとアンドロイドのデスがトーストを運んで来る バッツスクロイツがモニターを見ながらトーストを食べる 続けてコーヒーカップを見ないまま手に取って口に運ぶ 中身に驚いて吹き出す バッツスクロイツが怒って言う
「こら!デス!昨日の夜も言っただろ!?俺に持ってくる飲み物はコーヒー… はぁ… まぁいっか…」
服を着替えたバッツスクロイツが玄関前でアンドロイドのデスへ言う
「今日はいつも通りの時間に帰るから、9時過ぎても心配するなよ?」
バッツスクロイツが家を出て行く アンドロイドのデスがそれを見送る
アンドロイド研究室
人間と見分けが付かない最新のアンドロイドが並ぶ バッツスクロイツが診察台の上に横たわっているアンドロイドへ近付く 5人ほどの部下が続く バッツスクロイツがアンドロイドを見ながら言う
「それで?このアンドロイドの症状は?データチェックには 何も引っかかってないんだろ?」
部下が答える
「はい、身体機能、AI、共に正常です」
バッツスクロイツがアンドロイドの横に立って言う
「じゃ、どこがおかしいって?」
バッツスクロイツが 置かれているカルテを見る 部下が答える
「オーナーからの説明では『自分の思っている通りに動かない』との事です」
バッツスクロイツが部下の言葉を聞いて 表情を歪ませ部下へ向き直って問う
「それって、やっぱり その『思っている』って事を 教えていない状態で の話だよな?」
部下が戸惑いながら言う
「…恐らくそうだと思います」
バッツスクロイツが言う
「返却!」
バッツスクロイツがカルテを叩きつけながら声を荒げる
「教えていない事は出来ないって伝えとけ!」
部下が空かさず言う
「それは言ったのですが… 常識的な事が出来ないと…」
バッツスクロイツが振り返って問う
「その『常識的な事』って?」
部下が焦りながら言う
「はい… 喉が渇いた時に飲み物を持ってこない、見たい時に モニターを出さない、着たい服を用意しない、起きたいと思った時間に起こさない… 等です」
バッツスクロイツが呆れて言う
「はぁ?何だそれ!?こっちなんか 何百回言って作り方を教えたって コーヒー持って来ないぞ!?」
部下が首を傾げて言う
「は?」
バッツスクロイツが溜め息を吐いて言う
「…はぁ、とにかく返却!そーゆー事は出来ないって 分かるまで言っとけ!…次は?」
バッツスクロイツが気を落ち着かせて 隣の診察台へ移る 部下が言う
「こちらは身体能力が低いとの事で、パワーを上げて欲しいそうです」
バッツスクロイツが一度部下へ視線を向けた後 アンドロイドを見ながら言う
「パワー?AT460-THだろ?パワーもスタミナもそこそこ有る筈だ、間接部品の消耗か?」
バッツスクロイツが周囲の検査用機械を操作し始める 部下が書類を見ながら言う
「いえ、間接部品は前回の定期点検で異常なしとの事で、オーナーが言うには… 移動マシーンの駐車時に マシーンを持ち上げ 駐車スペースへ置ける様にと…」
バッツスクロイツが操作を止め 苛立ちを再発させ怒鳴る
「クレーンマシーンでも買えって言っといてっ!次っ!」
バッツスクロイツがイライラしながら次の診察台へ移る 部下が直ぐに答える
「こちらは 毎日違う顔になる仕様に 改造して欲しいとの要望なのですが…」
バッツスクロイツが怒りを押し殺す
「~~~っ!!」
バッツスクロイツの自宅、アンドロイドのデスが部屋の掃除をしている バッツスクロイツが帰って来る バッツスクロイツの不機嫌な帰宅の挨拶 アンドロイドのデスが時間を確認する バッツスクロイツが部屋に入って来てイライラしながら上着を脱ぎ捨ててソファへドサッと腰を下ろす アンドロイドのデスが掃除の手を休めバッツスクロイツの上着を拾ってクローゼットへ向かう バッツスクロイツが片手で額を押さえ呻きながらソファの背にもたれて天上を見上げ愚痴を始める
「まったく!どいつもコイツも!アンドロイドを何だと思ってるんだ!?自分の脳ミソん中まで分かるとでも思ってんのかっつーのっ!」
バッツスクロイツのもとへ デスがマグカップを持ってくる バッツスクロイツがそれを受け取り、中身を確認せずに口へ運び音を立てて飲んだ後、カップを片手に地面を見据え 間を置いて言う
「………ん?」
バッツスクロイツが顔を上げカップにわずかに残る中身がコーヒーだった事に驚き呆気に取られて言う
「デス…お前…」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げる アンドロイドのデスは何もせずにバッツスクロイツの前に居る バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見た後 微笑して言う
「はは… 何百回言ったって記憶しなくって、何~の改良もしてないのに… 何で変わったんだ?お前…」
バッツスクロイツがカップをアンドロイドのデスに返す アンドロイドのデスがカップの返却へ行く バッツスクロイツが1つ息を吐く アンドロイドのデスが戻って来るとバッツスクロイツが言う
「…父さんが初めてアンドロイドを発明した時は 皆すっごい喜んで… ただ 人と同じ様に立って、歩いただけでも 大喜びしたって話だ、それなのに…いつの頃からか、それが当たり前になって、命令すれば何でもやる様になって… それが当たり前になって、今度は…」
バッツスクロイツが言葉を切って 自分の前で聞いているアンドロイドのデスを見て言う
「俺には分からないよ 何で皆、何でもかんでも出来る様にしたがるんだ?何で満足出来ないんだろ?俺は…そうだなぁ 強いて言えば お前と話でも出来たら 良いかも…」
バッツスクロイツが言いながら苦笑する アンドロイドのデスは無言のままで居る バッツスクロイツが気付いた様に言う
「…って?あれ?そう言えば、俺が子供の頃から お前は話さないのが当たり前だったから そんなアンドロイドの初歩的な事 考えてもみなかった」
バッツスクロイツが勢いを付けて立ち上がって言う
「よし!仕事エスケープして来ちゃったし!折角だから 今日はお前のヴァージョンアップでもするか!そうとなれば まずは… お前の設計図を探さないと!」
バッツスクロイツが機嫌よく別の部屋へ向かう アンドロイドのデスがその後姿を見つめる
バッツスクロイツが書類棚を確認して言う
「おっかし~なぁ~?」
バッツスクロイツが書類を1つ抜き出し 少し見て床へ落とす 床には既にいくつもの設計図が落ちており アンドロイドのデスが それを部屋の片隅へ積んで行く バッツスクロイツが首を傾げて言う
「ちゃんと型式順に並んでるのに… 試作機の設計図はここじゃないのか?…あぁ、もしかして」
バッツスクロイツが部屋を移動する アンドロイドのデスがそれに続く
バッツスクロイツとアンドロイドのデスがエレベーターで地下へ向かう バッツスクロイツが言う
「旧研究施設に置きっ放しなのかな?」
バッツスクロイツが辿り着いた先でエレベーターを降り、古い研究施設を進む バッツスクロイツの一歩後ろを歩くアンドロイドのデスは何かを知っている様子で少しためらっているバッツスクロイツはそれに気付かない バッツスクロイツとアンドロイドのデスが 長期間使われていない様子の研究施設の手動扉を開けて入り 大きな机の上にある大量の紙の山を漁り始めて バッツスクロイツが言う
「歴史的大発明アンドロイド試作機の設計図が無いなんて… どう言う事だ?これじゃ~ どこにAI直結の回路があるか 分かんないんだよな~?」
バッツスクロイツが困った様子で腕を組んで考える アンドロイドのデスが相変わらず片付けをする バッツスクロイツが1つため息を吐いて アンドロイドのデスを見て言う
「仕方ない、分解して確かめるか」
バッツスクロイツが言ってアンドロイドのデスへ近づく アンドロイドのデスは無言のまま立ち尽くす バッツスクロイツが後一歩のところで立ち止まって言う
「あぁ、ここで止めたら 俺が運ばなきゃいけないや… ファクトリーの研究室は使えないし~ ここの施設で大丈夫かなぁ?」
バッツスクロイツが言いながら別の部屋を確認する為に部屋を出て いくつかの部屋を確認していると 一箇所他と違う場所がある バッツスクロイツが首を傾げて言う
「あれ?なんだ?ここ?アンドロイド開発の部屋じゃないみたいだ?」
バッツスクロイツが不思議そうに中へ入り 更に続く扉を見つける 扉を開けると その先は暗い洞窟になっている バッツスクロイツが一度戻ってライトを片手に戻って来て 中を照らしながら言う
「…こんな場所があるなんて 知らなかった そう言えば…」
バッツスクロイツが言葉とともに振り返って言う
「この部屋って 俺が物心付いた頃には いつも鍵が掛けられてたっけ…?」
バッツスクロイツが視線を前方の洞窟へ向ける 一瞬怯んだ後 意を決して歩き出す バッツスクロイツの後ろからアンドロイドのデスが付いて来る 進んで行った先に光るものが見えて来る バッツスクロイツがその光の強さに目を細めて 光の元である宝玉へ近付いて言う
「…なんだ?これ」
バッツスクロイツが触れてみようと手を伸ばす 寸での所で引っ込め しばらくじっと眺め 間を置いた後 おもむろに宝玉を手に取って言う
「おっ?…大丈夫だ ガラス玉?中にLEDでも?」
バッツスクロイツが様々な角度から眺めて 分からない様子で首をかしげる やがて元に戻そうと宝玉のあった場所にある 魔力穴を見る そこにガルバディアのCITCが付いている バッツスクロイツが言う
「あれ?CITCじゃないか?何でこんなのが…」
バッツスクロイツが手を伸ばそうとする その手が掴まれる バッツスクロイツが一瞬驚いて振り返る アンドロイドのデスがバッツスクロイツの腕を引く バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げて微笑んで言う
「大丈夫だって、旧式のCITCは放電式じゃないから 直接触れてもショートはしないんだ」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスの手を除けてCITCに触れる その瞬間 逆の手に持ったままでいた宝玉がCITCと通電して CITCがバッツスクロイツを吸い込む バッツスクロイツが驚いて声を上げる
「うわっ!?なんだ!?わああああ!!!」
アンドロイドのデスがバッツスクロイツの手を掴み 引き戻そうとするが共に飲み込まれてしまう
【 ? 】
バッツスクロイツが悲鳴を上げながら落下する アンドロイドのデスがバッツスクロイツを受け止める バッツスクロイツが言う
「…っつう~ 何だぁ?」
バッツクロイスがそのままの状態で周囲を見回す バッツスクロイツがアンドロイドのデスの腕から降り 1、2歩歩いて辺りを見渡して言う
「どこだ?うちの研究施設やファクトリーでも無いな?…どっかの提携会社とワープロードを結んでたのか?にしても 随分旧式な感じだ… ひょっとしてここも今は閉鎖された旧研究施設とかかな?」
バッツスクロイツが歩き始める アンドロイドのデスが後ろに続く バッツスクロイツが辺りを確認し 何かの端末を見つけて言う
「お?なんだ、電源通ってるじゃないか?」
バッツスクロイツが操作しながら言う
「随分古いシステムプログラム組んでるなぁ~ ここなんて… ターベルンやダンテの配列使ったら半分で済むのに」
バッツスクロイツが思わず改良して言う
「これで良しっ」
バッツスクロイツが操作を終えて笑顔を作る どこからか爆発音が響く バッツスクロイツが一瞬、息を飲んで驚いて周囲を見渡して言う
「な、何!?なになにっ!?」
バッツスクロイツが自分がやってしまったのかと焦りつつ システムを確認して自分のせいではないとホッと胸を撫で下ろして言う
「俺じゃ… ないよな?ふぅ びっくりした~ けど… 何だったんだ 今の?行ってみるか?」
バッツスクロイツが一度息を吐いてから 音のした方へ向いて言い歩き出そうとするが アンドロイドのデスがバッツスクロイツの腕を掴んで道を先行する バッツスクロイツが驚いて言う
「え?お、おいデス?どこへ連れてく気だ?おまえ、ここのデータでも持ってるのか?」
アンドロイドのデスは何も言わずにバッツスクロイツを連れて行く 建物の外へ出た2人 バッツスクロイツが今までに見た事の無い風景に驚いて言う
「な… なんだ?ここ…?上空モニターも 環境映像も 見た事のない物ばかり… まるで 別世界…ってゆーの?…ん?別世界…?」
バッツスクロイツがしばらく考え やがて思い出して言う
「まさか!あの『南の果て』にある世界ってやつじゃ!?」
バッツスクロイツが改めて 周囲の城壁の外にある 森林や空の雲を見渡し 歩きながら言う
「間違いない… 本物の植物が自生しているし あれは上空モニターじゃない… これが…」
バッツスクロイツが感心しながら歩いて向かった先 何かに気付いて そちらを指差して声を上げる
「あ、デス!見ろよあそこ!人が…!」
バッツスクロイツの指差す先 ヘクターたちがシュライツと共に立ち去って行く バッツスクロイツが走り追いかける ヘクターたちがの門の先で ウィザードのデスと合流し 移動魔法でアバロンへ向かってしまう バッツスクロイツが門を出た時ヘクターたちは居なくなっている バッツスクロイツが首を傾げて言う
「あれ?居なくなっちゃったや… う~ん…?」
バッツスクロイツがどうしようか考える アンドロイドのデスが歩き始める バッツスクロイツが声を掛ける
「あ、おいっ!?デス!?」
バッツスクロイツの声にアンドロイドのデスが振り返る バッツスクロイツがしばらく考えた後 一緒に歩き始めて言う
「まぁ、そうだな?折角だし… 行ってみるか?」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスと共に ガルバディア城を後にする
【 アバロン国 】
ヴィザードの移動魔法でヘクターたちが家の前に辿り着く ヘクターが家の扉を開けて入り言う
「タニアー!連れて来たぜー!俺とタニアの… 天使!なーんてな!?」
ヘクターがシュライツをタニアへ向ける タニアが驚きシュライツを見つめる シュライツが首を傾げてタニアを見つめる オライオンがシュライツの横に来て言う
「シュライツ!この人が俺たちの母ーちゃんだぜ?すげー美人だろ?」
ヘクターが照れながら言う
「だよなー!流石世界一の嫁さんだぜー!」
ウィザードとプログラマーが顔を見合わせ溜め息を吐く タニアが不思議そうにシュライツの羽を広げる シュライツが疑問する
ヘクターたちが食卓を囲っている ヘクターの横にタニア ヘクターの後ろに居るウィザードとプログラマー オライオンの横に居るシュライツ タニアがシュライツを見て言う
「色々と話に聞いていたから どんな身体にされてしまうのかと 心配していたけど…」
タニアの言葉に皆の視線がシュライツへ向く シュライツが手掴みで料理を食べている シュライツが皆の視線に顔を上げ疑問する タニアが苦笑して言う
「フワフワしているのはしょうがないとして、『身体が透き通って』いたり『触れられなかったり』しなくて良かったわ」
タニアの表情が笑顔になる ヘクターの後方の2人が衝撃を受ける ヘクターが笑顔で言う
「だろー!?しかも天使になったんだぜ?なんか縁起良いじゃねーか?」
オライオンがヘクターの言葉に疑問して 一度シュライツを見てからプログラマーへ問う
「なー?デス その、親父がずっと言ってる『天使』ってなんだ?」
オライオンの問いにプログラマーが向いて言う
『天使とは空想上の存在だ 神に仕える者であり 一般的に その姿は白い翼が背にある人の姿を 絵がかれる事が多い』
ウィザードが疑問し ヘクターがオライオンへ向いて言う
「なんだよ?オライオン お前、天使を知らなくて シュライツをシュライツって呼んでたのか?」
タニアが疑問して言う
「あら?シュライツのシュライツには 何か意味があるの?」
ヘクターがタニアへ向いて言う
「ああ、前のアバロンの王、ヴィクトール12世様の相棒の名前だぜ?何でもヴィクトール12世様は天使を飼っていたらしいんだ」
プログラマーが言う
『『シュライツ』とは古いアバロンの言葉で『天使』を現す言葉だ ヴィクトール12世が天使を飼っていたと言うその話は 本物の天使ではなく その名を付けられた生命体を 飼っていたと言う事なのだろう』
ウィザードが首を傾げて言う
「私はベネテクトの王から ガルバディアが天使を作っていた と言う話を聞いた そして、昔はベネテクト国内にも その天使が現れたとか…」
タニアが考えて言う
「それじゃ… アバロンの前の国王様が飼っていらしたと言う天使は ガルバディアの作った天使で 天使の姿に似ているから シュライツと言う名前が付けられたのね?」
プログラマーが頷き シュライツを見て言う
『そして 今度はそのアバロンの王が名付けた天使にちなんで この生命体がシュライツと名付けられた…』
ウィザードが首を傾げて言う
「元々は空想上のモノが時を経て 空想では無い生命体として 考えられる様になる… ガルバディア国王のやりたい事は その様な事なのか?」
皆の視線がプログラマーへ向く プログラマーが少し困ってから言う
『私は確かにガルバディア国王の複製ではあるが 本人では無い 彼が何を望み天使の姿の生命体を作っているのかなどは 分かりかねる』
ヘクターが軽く笑って言う
「本当は んなめんどーな事は 考えてねーんじゃねーか?」
プログラマーが問う
『では どの様に考えていると?』
ヘクターが笑顔で言う
「天使は元々は神様の遣いなんだろ?だったら『何となく縁起が良さそうだから!』とかよ?」
ウィザードが少し考えた後 笑顔になる プログラマーが呆れる タニアが苦笑して言う
「神様の遣いなら 確かに縁起は良いのかもしれないわね?」
ヘクターとタニアが笑う オライオンがムッとして言う
「それじゃ このシュライツは天使じゃねーよ!」
皆がオライオンへ向く オライオンが言う
「だって、天使は神様の遣いなんだろ?それって神様の相棒って事じゃねーか?このシュライツは俺の相棒なんだ!だから天使じゃねーよ!」
オライオンが言い終えると共にシュライツへ向く シュライツが疑問する プログラマーが軽く笑って言う
『天使は神様の相棒と言うよりは 配下だろうな?』
オライオンがムッとして言う
「なら尚更違うっ!」
ヘクターが軽く笑って言う
「まぁ、そのシュライツはお前の相棒なんだから 神様の配下でも相棒でもねーよ」
オライオンが軽く笑って頷き シュライツへ向く シュライツが笑顔で答える タニアが言う
「それにしても その大きな白い翼は ちょっと目立ってしまうわね 旅に連れて行くのなら デスの様にローブか何か羽織っていた方が良いみたい」
皆の視線がウィザードへ向く ヘクターがシュライツへ向いて言う
「そうだな、その羽みたいに目立つ色は 魔物にも襲われやすいし 物珍しいから 誰かに持ってかれちまう かもしれねーな?」
シュライツが衝撃を受けて怒る オライオンがムッとして言う
「誰かに持ってかれるなん事はねーよ!俺が守ってやるんだ!」
皆が微笑む プログラマーがホログラムのモニターを表示させながら言う
『その旅立ちの日は近い ローレシアの3代目勇者の現在のルートから考えると 明日にもこのアバロンへ訪れるだろう』
ヘクターがプログラマーへ向いて言う
「ニーナとミーナの居場所は分からねーのか?」
プログラマーがホログラムのモニターを増やしながら言う
『私が確認出来るのは各国の宿のデータのみだ ローレシアの勇者らの場合は分かるが 機械化のされて居ない宿に泊まられては 分かりかねる 今夜のデータで確認する範囲にニーナやミーナの名は存在しない』
ウィザードがプログラマーへ問う
「何故ローレシアの勇者らの場合は分かると言い切れるのだ?機械化のされて居ない宿に泊まれば 彼らの場合でも分からなくなる」
プログラマーが苦笑して言う
『ローレシアの勇者はローレシアの王子だ 機械化がされて居ない程の 設備の低い宿には宿泊しない』
ウィザードが納得する ヘクターが笑んで言う
「そういやー ザッツたちと一緒の時は良い宿に泊まれて 良かったよなー お陰で他国でも …まぁ アバロンほどじゃーなかったけど 中々美味いモンも食えたし」
オライオンが疑問して言う
「なー?勇者様は世界を救う旅をしてるんだろ?そんな 金持ちの旅みたいな事で良いのかよー?」
プログラマーが苦笑して言う
『金持ちの旅…と言うほどの物では無いが 少し上のランクと言ったところだ』
オライオンが考える タニアが思い出して言う
「あ、そう言えば ヘクター、今日 貴方の『親しい友人』だって言う人が 貴方を尋ねて来たの」
ヘクターが疑問して言う
「あ?親しい友人?」
タニアが頷いて言う
「ええ、お名前を訊こうと思ったのだけど 聞けずに終ってしまって…」
ヘクターが首を傾げて言う
「親しい友人かー?う~ん…」
タニアが考えながら言う
「ローブを纏っていたから お顔が見えなくて… でも何処かで聞いた事がある声をしていたの 私何処で聞いたのかしら?とっても優しい声の方だったわ それと… ちょっと、おっちょこちょいさんみたいな 愛嬌もある感じで!」
タニアがくすくす笑う ヘクターが疑問する ウィザードがプログラマーへ向いて問う
「お前の力で タニアの言う様な人物を探せないのか?」
プログラマーが不満そうな表情で言う
『お前たちの情報は 常に直感的過ぎて 私は嫌いだ』
ウィザードが疑問して言う
「お前のその言い方を 私は何処かで聞いた事がある」
プログラマーが呆れて言う
『お前の真似だ』
ウィザードが首を傾げる プログラマーがタニアへ向いて言う
『それで、どの様な会話をしたのだ?『ちょっと、おっちょこちょいさん』まで判ると言う事は 体感時間にて おおよそ5分以上の会話をしていた可能性が高い』
タニアが考えて言う
「えっと… ヘクターは何処か?ってお話から シュライツのお話や ローレシアの勇者様のお話や …アバロン城襲撃予定のお話かしら?」
プログラマーが衝撃を受ける タニアが思い出そうと考え続ける ヘクターが向いて言う
「誰だか分かんねー奴と そんだけ長く話して居られたって事は 結構、面白い奴だったんだろーな?」
タニアが笑顔で言う
「ええ、お話している間も 良く驚いてくれたり 慌ててくれたりするから 何だかとっても楽しくて」
ヘクターとウィザードが笑顔で肯定する プログラマーが呆れる タニアが思い出して言う
「あ!それから!名前を呼んで助けを求めたりもしていたみたい?えっと… そう!『あぁー こんな時!バーネット!君が居てくれたらーっ!』って!」
タニアがくすくす笑う ヘクター、ウィザード、プログラマーが同時にハッとする
【 アバロン城 】
玉座の間 ヴィクトールが頭を抱えている 隣の玉座にレリアンが座っていて 横目にヴィクトールを見て薄っすら微笑む 家臣A、Bが顔を見合わせ 浮かない表情でヴィクトールへ視線を向ける 家臣Cが慌ててやって来て 家臣たちへ情報の共有をして騒ぐ レリアンが視線を向ける 家臣たちがヴィクトールのもとへ向かい声を荒げる
「ヴィクトール陛下!ローレシアが!」
ヴィクトールは無反応 家臣たちが顔を見合わせる レリアンが言う
「ローレシアが?何かあったのですか?」
家臣たちが焦り再び顔を見合わせる レリアンがムッとして言う
「報告を続けなさい 命令です!」
家臣たちが困り ヴィクトールを見る ヴィクトールが1つ息を吐いて言う
「報告を頼む」
家臣たちがヴィクトールへ向いて言う
「ローレシアが…っ べ、ベネテクトへ融資を!ベネテクトがっ」
ヴィクトールが顔を上げる 家臣Cが言う
「ベネテクトが ローレシアと 友好条約を 交しました!」
ヴィクトールが息を飲み言葉を失う レリアンが驚いて叫ぶ
「なんですって!?どう言う事です!?詳しい報告をなさい!」
家臣たちがレリアンへ向いて 家臣Aが言う
「詳しい事は分かりません これはローレシア国とベネテクト国の外交となりますので」
家臣Bが言う
「我々に分かるのは 公表された両国の情報のみとなります」
レリアンがヴィクトールへ向いて叫ぶ
「ヴィクトール陛下!今すぐベネテクト国のあの者へ連絡を!詳しい情報を確認するべきです!」
ヴィクトールが間を置いて言う
「連絡は… 必要ない」
レリアンが驚いて言う
「陛下!ベネテクトは このアバロンへ謙譲された国です!仮の王であるあの者が ローレシアと友好条約を交すなど!その様な事を 勝手に行わせると言うのは!」
ヴィクトールが言う
「友好条約は条約と呼ばれているだけで 実際は国王同士の口約束の様な物だ 平和条約とは異なり 友好条約を交した国への攻撃も 逆に支援を強要する効力も無い 従って 友好条約をどの国と交すかは その国の王と相手国の王との問題になる ベネテクト国が仮にアバロン国へ謙譲されていようとも 交してはならない等と 取り締まる事は出来ない」
レリアンが言う
「しかし 陛下!」
ヴィクトールが立ち上がり玉座の間を出て行く レリアンが声を掛ける
「ヴィクトール陛下!?どちらへ!?ヴィクトール陛下!!」
ヴィクトールが立ち去る
ヴィクトールがアバロン城のバルコニーへ出て城下町を見下し溜め息を付く ウィザードが現れ言う
「オライオンから伝言だ『ローレシアの勇者様の王様旅行に付き合うより 俺は世界一の相棒と2人で 魔王を倒す方法を見つけ出す』…と?」
ウィザードが首を傾げる ヴィクトールが視線を向けないまま言う
「デス… 君ならどう思う?」
ウィザードが疑問する ヴィクトールが悲しげに微笑んで言う
「君の一番の友人だと思っていた者が 君の父親を殺した国の王女と結婚して 君の国を奪って… 君が命を掛けて その友人の国を助けてあげたと言うのに その友人は君に何の恩返しもしてくれないんだ」
ウィザードが間を置いて言う
「その友人は 私から何もかも奪って行くのだな 私の父親も 私の居場所も 私の命さえも」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「そうだね… 全て奪って行ってしまう 最低な友人だ…」
ウィザードが問う
「その様な者は 友人ではなく 敵と言うのでは無いのか?」
ヴィクトールが一瞬驚いた後悲しそうに微笑んで言う
「そう…だね… 友人でも何でも無い… 敵だ…」
ウィザードが首を傾げて言う
「だが私なら、まずはその友人のもとへ行き 何故私にその様な事をするのかを問う その上で合意が得られなければ その場で縁を切れば良い」
ヴィクトールがウィザードを見上げて言う
「まずは友人のもとへ… そうだね最初から 彼と共に話し合って決めていたら良かったんだ 彼なら分かってくれるからなんて 勝手に考えて 勝手に決めてしまったから… あの時ちゃんと2人で話し合ってさえいれば もしかしたら もっと良い案も見付かったかもしれない 例え同じ結果であったとしても 少なくとも 連絡が途切れる前に 一度はちゃんと話が出来たんだ…」
ウィザードが言う
「今からでも話をしに行けば良い お前が友人で居たいと思うのなら 理由を述べて謝罪をすれば 例え許されなくとも お前の気持ちは相手に伝わる」
ヴィクトールがバルコニーの手すりに顔を埋めて言う
「もう… 無理だよ… 彼はローレシアと友好条約を交した ベネテクト国建国当時から ローレシアは ずっとベネテクトへ条約を求めていた それを断り続ける事が ベネテクトからアバロンへの友好の証だったんだ それを交したという事 これは… バーネットが僕を見放したと言う事なんだ もうベネテクトの王はアバロンの王のために 道を塞ぐ事は無い」
ウィザードが問う
「…お前たちはアバロンの王とベネテクトの王として友人なのか?それともヴィクトール13世とバーネット2世として友人なのか?」
ヴィクトールがハッとしてウィザードへ向く ウィザードが首を傾げる ヴィクトールが視線を落として言う
「分…からない 彼は… でも、僕は… ずっと…」
ヴィクトールが俯き言葉を失う ウィザードが間を置いて言う
「答えが分かったら 謝りに行くと良い あの男は心の広い男だ 国王としてお前を許さなくとも 1人の人としてなら お前を許すかもしれない」
ウィザードが飛び去る
【 ベネテクト城 】
ベネテクト城の建設が行われている荒野に 鞭の音が響く 重い石材を運んでいた巨人族の奴隷たちがビクッとすくみ上がり 音の方を見る 石材を落として壊した巨人族Aがバーネットの足元に跪き 恐ろしさに震えながら謝っている バーネットがその前で鞭を片手に 腰にレッドレイピアを携え 再びその鞭を床に振るう 響く音 周りの奴隷たちも恐ろしさに震える バーネットが怒鳴る
「これで何度目だっ!!石材は ひとっつも無駄には出来ねぇって 何度言ったら分かりやがるっ!!」
再び響く鞭の音 巨人族Aの悲鳴に近い謝罪声
「す、すみませんでしたっ バーネット陛下っ も、もう2度と…」
周囲の奴隷達がさらに震え上がる バーネットが声を荒げる
「俺は意味のねぇ謝罪なざ 聞きたかねぇんだよ!出来るのか出来ねぇのかって それを聞いてんだぁあ!!」
再び振り上げられた鞭 奴隷たちが我が事のように縮こまり目を瞑る そこにベーネットの声が響く
「お待ち下さいっ!」
奴隷たちがぱっと表情を明るめて声の方を向く ベーネットの登場に バーネットが1人眉を顰める ベーネットがバーネットと巨人族Aの間に立って言う
「この者は この数週間、1日も休まず作業を行っています 体力も限界に近いのです」
バーネットが冷たい微笑で言う
「ハッ!だから何だぁ?数週間だろうが、一年だろうが デネシアの奴隷が毎日働く事の 何がおかしい?」
バーネットが鞭を肩に掛け首を傾げる ベーネットがバーネットの言葉に怒りを覚えつつ 怒りを押し殺して言う
「これだけの重労働を架しているのです 彼らへ休みを与えるべきです」
ベーネットの言葉に周囲の奴隷たちが表情を明るめる バーネットがその様子に表情をしかめて言う
「そうか?なら簡単だ… 代わりに てめぇが働け?」
周囲にどよめきが走る ベーネットが表情を顰める バーネットが笑んで言う
「こいつを休ませたかったら、てめぇが代わりに働くんだ それなら俺は文句はねぇ …もっともぉ?」
言葉を切って 続ける
「お前の貧弱な体で この石材を運べるのかぁ?」
バーネットがニヤリと笑う ベーネットが言葉を失う バーネットが笑う 周囲の奴隷たちが消沈する 巨人族Aがバーネットを見ている バーネットがそれに気付き鞭を振り上げ言う
「何見てやがる?そんなに コイツが欲しいのかぁあっ!?」
バーネットが鞭を振り下ろす 巨人族Aが痛みに備え強く目を瞑る 鞭の音が響く 巨人族Aが自身に来ない痛みに 恐る恐る目を開く 巨人族Aを庇ったベーネットが鞭に打たれ痛みを堪えつつ バーネットを見上げる その強い目線にバーネットが笑う
「ほう?良いぜ?お前が替わりに 打たれるってぇのもよぉお!」
続けて何度も鞭が振るわれる 奴隷たちが目を背ける 度重なる鞭にベーネットが膝を付く バーネットが笑う 奴隷たちが絶望する 笑いを収めたバーネットが周囲を見渡して言う
「…何してやがる?さっさと作業を続けろ!てめぇらも 打たれてぇのかぁあ!!」
奴隷たちが逃げるように作業へ戻って行く 1人の奴隷が走り出すと共に足を絡ませ転ぶ バーネットがその背後に立つ 奴隷がバーネットを見上げ声を引きつらせる
「ひぃっ!」
バーネットの鞭を持つ手が持ち上がる 奴隷が目を瞑る バーネットの声がする
「うッ!?」
予想外の声に 奴隷が目を開き見上げると 自分の前に立つバーネットの体からレッドレイピアの刃が突き出ている バーネットが自身の後ろへ視線を向ける レッドレイピアはバーネットの背から刺された形になっている バーネットを攻撃したベーネットが極度の緊張に息を切らせている
「…はぁ…はぁ…っ」
バーネットが表情をしかめて言う
「て…めぇ……」
バーネットが声を絞り出すと ベーネットが言う
「これ以上… 彼らを苦しめる事は 許さないっ たとえ大金を払って雇った …貴方の嫌いなデネシアの者であっても!彼らはこの世界に生きる 全ての生命と同じ 尊い命を持つ者たちなんだっ!」
言い終えると共に引き抜かれるレッドレイピア バーネットの口から鮮血が吐き出され膝を付く レッドレイピアに塗られたベネテクト王家の毒が体に回り 目の瞳孔が散大する 傷口からも大量の出血が起き バーネットが倒れる 周囲にどよめきが起こる いまだ息を荒くしていたベーネットが その息を整えて言う
「この者を 我らの国から追い出せっ!」
奴隷たちから喝采が上がる
「ベーネット陛下だ!」「ベーネット国王陛下の誕生だ!!」「ベーネット陛下万歳!!」
奴隷たちが喝采を上げながらバーネットの体を軽く持ち上げ 皆で城の門まで共に行き バーネットを城門の外へ放り投げる バーネットの体が城の外へ叩きつけられると再び喝采が上がり 普段は閉められる事の無いその扉が音を立てて閉ざされる 閉ざされた扉の内側に立っていたベーネットは 閉じていく扉の隙間に 自分がその命を奪った バーネットの姿を見つめている
【 ツヴァイザー国 】
リーザロッテとレイトがツヴァイザー国の最南端の町に辿り着く 朝市でにぎわう町の中に紛れ込んで リーザロッテがレイトへ問う
「旅には何が必要かしら?」
リーザロッテの問いにレイトが答える
「この町からスプローニまでは さほど距離がありませんので 2日程の水と食料、それと万が一に備え薬が少しもあれば十分かと」
リーザロッテが頷き近くにあった薬屋を眺める リーザロッテが物珍しそうに物色する レイトが見守る その後もリーザロッテからの質問に答えつつ 2人は買い物を終える
リーザロッテとレイトが朝市の場を離れ 町の門へ続く道を行く 道中 リーザロッテが開店準備を行う衣類店のショーウィンドーに飾られてる一着の鮮やかなドレスに目を奪われて言う
「素敵…」
リーザロッテが思わず口にして立ち止まる レイトが隣に立って言う
「きっと姫様にお似合いですよ」
リーザロッテがレイトへ振り返る レイトが軽く微笑む リーザロッテが微笑んで言う
「ありがとう でも 今は我慢しないとね?魔王を倒しに行く旅にドレスは不向きだし …凱旋の時に着ようかしら?」
レイトが笑顔で肯定する リーザロッテが思い出し、少し残念そうに言う
「…あ、でも お父様がお怒りになるわ お父様は派手なドレスを嫌うのよ」
リーザロッテの言葉にレイトが首を傾げて言う
「そうなのですか?」
リーザロッテが肩の力を抜いて言う
「ええ、だからお母様も いつも地味なドレスを着ていらしたわ お父様はね?とっても心配性なのよ?綺麗なドレスを お母様が着ていると、他の男性に取られてしまうのではないかって」
レイトが意外そうに言う
「そうでしたか…」
リーザロッテが苦笑してレイトへ向いて言う
「男の人って 皆そうなのかしら?レイトもそう思う?」
リーザロッテの問いに レイトが少し考えてから言う
「確かにそちらの心配が まったく無いとは言えませんが、女性がお召しになりたいと申されるのでしたら 男は他の輩から そちらをお召しになった女性をお守りするものかと?」
レイトの答えに リーザロッテが満足そうに微笑む そんなやり取りをしているリーザロッテとレイトは その自分たちを物陰から見ている目がある事には気付かない
町門の外 リーザロッテとレイトが門の外へ出ると 物陰からヴェインが現れ リーザロッテたちの前へ立ち塞がって言う
「姫様、お探しいたしました」
リーザロッテが驚いて言う
「ヴェイン!?」
ヴェインが言う
「まさか、本当に勇者になる等と… それに、レイト1人では何の役にも立ちません、せいぜいスプローニまでの護衛が出来る程度です」
リーザロッテが一瞬驚いた後 怒って言う
「そんな事は無いわ!レイトは強いのよ!?」
ヴェインが苦笑して言う
「姫様、レイト程度の戦力の持ち主は世界中にごまんと居ます 姫様は世界をご存知ないのです」
レイトが一歩踏み出して声を荒げる
「ヴェイン!貴様っ 姫様に何たる口を!」
ヴェインがレイトを無視して続ける
「さあ、姫様 現実を受け入れ 城へお戻り下さい 今なら陛下もお許し下さいます」
ヴェインの言葉にリーザロッテは間を置いてから言う
「…ねぇヴェイン?貴方とレイトって どちらが強いのかしら?」
リーザロッテの言葉に2人が反応し 互いに顔を見合わせる リーザロッテが続ける
「あなた達は手合わせをした事があって?」
レイトが答える
「いえ、訓練程度のもののみで 正式には…」
リーザロッテが言う
「私、お父様に連れられて他国の交流試合を見た事があるの それを踏まえた上で 私は、レイトの槍術は大したものだと思うわ きっと~」
リーザロッテがわざと言葉を区切り ヴェインへ向き直って微笑んで言う
「レイトは貴方より強いわ!」
リーザロッテの挑発に ヴェインがその怒りの矛先を言葉の通りに 自身の持つ槍をレイトへ向けて言う
「分かりました、それならばっ もし私がレイトに負ける様でしたら ここをお通しします!そして、私が勝った際にはっ」
リーザロッテが自信を持って言う
「ええ!もちろんっ!その時は 私が城に戻るわ!そうでしょ?」
ヴェインが無言のまま頷く リーザロッテが微笑みレイトの横へ行って言う
「ごめんなさい レイト …信じてるわ!」
レイトが視線をヴェインへ向けたまま答える
「ご期待に沿います」
【 ベネテクト国 郊外の町 】
バッツスクロイツがアンドロイドのデスと共に道を歩いている バッツスクロイツが町の様子を見て言う
「随分賑ってるーって感じだなー?人々も活気があるーって感じだし 町の感じも…?贅沢さは感じないけど 貧富の差が無いーって言うの?」
バッツスクロイツの周りを元気な子供たちが駆け抜け 近くを笑顔の大人たちが歩いて行く バッツスクロイツが微笑んでから ベネテクト城を見上げて言う
「…の割には あの工事現場みたいな所は… 酷い有様だったなぁ?まぁ… 逆よりは全ッ然ナイスな感じだけど!」
バッツスクロイツが笑う 間を置いて力無くうな垂れ腹の虫が鳴く バッツスクロイツが腹を押さえて歩きながら言う
「やばい… 何とか食料を得ないと… この活気ある町の中で 何故か野垂れ死にしている 少年Aになっちゃう…」
バッツスクロイツとアンドロイドのデスが町を出て行く
町の喧騒が消え 自然の音だけが聞こえる様になった頃に バッツスクロイツの耳に聞き慣れた機械音が聞こえる バッツスクロイツが疑問して言う
「ん?…なんだ?あれ…?」
バッツスクロイツの視線の先 ロスラグが走りながら泣いて叫ぶ
「あー!何でこんな時に限って故障しちゃうッスかー!?日々装備の確認を怠るなって言われているのにー やっちまったッスー!ロキ隊長に叱られちゃうッスよー!」
ロスラグが 自分を追って来るロボット兵の攻撃を避け 崖の岩肌を背に言う
「や、やばいッス!絶体絶命のピンチッス!こ… こうなったら もう2度と人の姿になれないかもしれないけど 犬の姿に戻って逃げるしか…」
ロボット兵がロスラグへ襲いかかる バッツスクロイツが叫ぶ
「おい!こっちだ!」
ロスラグが顔を向ける バッツスクロイツがロボット兵に石を投げる ロボット兵がバッツスクロイツに気を取られる ロスラグがバッツスクロイツの方へ走る バッツスクロイツが逃げ出す ロスラグが合流して言う
「あ、ありがとうッス!助かったッスー!」
バッツスクロイツが走りながら言う
「いやぁー そうでもないってー?何てったってー?まだ助かって無いーって感じだしー?だからっ?それはー助かった後にー 聞くって事でー!」
ロスラグが焦って言う
「えー!?何でッスかー!?あんたのその隣のロボット兵で あのロボット兵を倒してくれるんじゃ無いッスかー!?」
バッツスクロイツが驚いて言う
「いー いや、いやいや!無理無理無理!こいつは ただの家政婦アンドロイドなんだ 起重力だって最新のアンドロイドの10分の1ぐらいしか無いはずだし スピードも無いし 大体 戦闘プログラムなんて入って無いから 敵を敵と見なして攻撃するなんて事はー!」
ロスラグが驚いて言う
「なーっ!?それじゃ 何で俺を助けたッスかー!?そんなんでどうやって戦うつもりなんッスかー!?戦えないロボット兵なんてー!平和過ぎて 俺大好きッスよー!」
バッツスクロイツが呆気に取られた後 笑って言う
「そうだよなー!?平和ボケも結構ー?悪く無いかもってー?俺もちょっとー 今だけはー?今だけは 思っちゃうかもっ!!」
ロスラグとバッツスクロイツが崖に追い詰められる ロスラグがバッツスクロイツへ向いて言う
「こ、これこそ絶体絶命の大ピンチッス…」
バッツスクロイツが苦笑して言う
「あ、ああ… そうみてーね?は…はは…」
2人がロボット兵を見て焦る ロボット兵が2人に武器を振り上げる 2人が怯える アンドロイドのデスがロボット兵を押さえつける バッツスクロイツが驚いて叫ぶ
「デスっ!?」
ロボット兵がアンドロイドのデスを見て振り払う アンドロイドのデスが地面に倒れる バッツスクロイツが一瞬驚き 次に怒ってロボット兵に向かって叫ぶ
「俺のデスに 何するんだーっ!!」
バッツスクロイツがロボット兵に体当たりする ロボット兵が先の動作で体勢を崩していた所に バッツスクロイツの体当たりを受けて倒れる バッツスクロイツがロボット兵の配線に気付き 首もとの配線を引抜いて ロボット兵を停止させる ロスラグが驚いて言う
「あ… あいつ…?武器も使わずに ロボット兵を倒しちゃったッス…」
バッツスクロイツが食料にがっついている ロスラグが呆気に取られた後 笑顔で同様に食料を食べる バッツスクロイツが一息吐くと 残った食料を アンドロイドのデスの口へ流し込む ロスラグが驚いて言う
「えー!?そのロボット兵 食料の保管も出来るッスかー!?」
バッツスクロイツが作業を終えてロスラグへ向いて言う
「あっはは!違うって?ボーイ このアンドロイドは試作機だから 動力源が人と同じ食物なんだ、面白いだろ?昔はさ?アンドロイドは人とまったく同じ構造の物にしようって考えられていたから 人と同じ物を同じ様に摂取させて 人と同じ様に扱われる様に設計されていたんだ」
ロスラグが不思議そうに言う
「あんどろいど…?」
バッツスクロイツは ロスラグの疑問を相槌と勘違いして 話を続ける
「うん… けど いつの間にかアンドロイドは人の扱う道具にされちゃって 便利であれば何でも良いや って感じでさ… そこそ今なんて便利を越えて それ以上の道具にしろって?もう ほんっとあいつらムチャクチャでさ…っ」
バッツスクロイツが愚痴を続ける ロスラグが首を傾げて聞いていて言う
「つまりー あんたは良い奴って事ッス!」
ロスラグが笑顔で言い閉める バッツスクロイツが疑問して言う
「え?良い奴?」
ロスラグが微笑んで言う
「そおッス!俺はあんまり難しい話は分からないッスけど、あんたはこのロボット兵の事が大好きなんッス!だから あの時、あんたのロボット兵を突き飛ばしたソルベキアのロボット兵に飛びかかる位怒ったッスよ!大切なものを守るために戦える あんたは後住民族の中の強い人たちッス!俺の大好きなロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長と同じッス!」
ロスラグが笑顔でバッツスクロイツを見る バッツスクロイツが呆気に取られつつ言う
「大好き…?そっか… そうなんだ?俺ずっと… ずっと他の連中に 俺のデスを物扱いされてる気がして 頭に来てたんだっ …そうだよな?俺は ずっと こいつと一緒で こいつに育てられて… 家族みたいな気持ちでいたのに 他の奴らは 物扱いするから…っ」
バッツスクロイツが自身の心境を理解して微笑む 間を置いて ロスラグへ向いて言う
「…で?そのぉ~ソルベキア?あとぉ… 何とか隊長とか… 何か長いのとか… それ 何?」
ロスラグが怒って言う
「ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長ッス!!」
バッツスクロイツが首を傾げる
話を聞き終えたバッツスクロイツが言う
「そっかぁ~ ここはベネテクト国って言う国なのか それで… あのソルベキアのロボット兵って言うのが 悪魔…力?とか言うので モンスター化する 野生の動物を退治する筈なんだけど たまにエラーとか起こして 管轄外の国へ エスケープしちゃうと?」
ロスラグが頷いて言う
「そうッス!そこに見える国境を抜けちゃえば ツヴァイザー国になるッスけど ここはまだベネテクト国ッス!ベネテクトはロボット兵を断ってるッスけど たまにおかしくなったロボット兵がツヴァイザーからこっちに来ちゃうッス ソルベキアのロボット兵が配備されて 確かに魔物の被害は減ったッスけど ロボット兵は魔物も、魔物じゃない動物も どっちも殺しちゃうッス!俺は 魔物になってない動物は助けてあげたいッス だから 野生動物が保護されてるベネテクトで ツヴァイザーから来ちゃう ロボット兵が居ないか 勝手に見張ってるんッス!」
バッツスクロイツが笑顔で言う
「へぇー ロボット兵から野生動物を守るなんて… そんな危険な事を 何の見返りも無くしてるなんて ロスっちの方こそ『良い奴』じゃないか?俺 そんな優しい奴と会ったの… もしかして 初めてー かも?」
ロスラグが驚いて言う
「え?そ、そうなんッスか?えっと~ 嬉しいけど… ちょっと寂しい気持ちも出来たッス …何でッスかね?」
ロスラグが首を傾げる バッツスクロイツが笑顔で言う
「それはー、ロスっちが本当に『良い奴』だからだって事だぜー?はははっ」
ロスラグが難しく悩む顔をする バッツスクロイツが笑って言う
「よし!んじゃ、もう少し こっちの世界をエンジョイしちゃおう!きっと俺が今までに会った事の無い ナイスなボーイズやガールズが たっくさん居そうな気がする!」
ロスラグが呆気に取られてから言う
「うー… 所で本当に、バッツは何処の国の人なんッスか?バッツの匂いは俺 今までに嗅いだ事の無い匂いッス」
バッツスクロイツが疑問して言う
「え?匂い?俺コロンとかは付けない派だけど?クリーニングも無臭タイプだし?」
ロスラグが首を傾げる バッツスクロイツが軽く笑って言う
「まぁ とりあえず、あのソルベキアのロボット兵のAIからデータ引っ張って プログラム解析すれば 即席とは言え デスにその戦闘プログラムをダウンロード出来るだろうと思うんだ それでもし、デスが戦えるようだったら さっきロスっちが言ってた 賞金稼ぎって言うので お金を貯めて ロスっちの国へ行ってご馳走代返すから それまで…」
バッツスクロイツが宝玉を差し出して言う
「もし、俺が来なかったら この宝石を売って金にしてよ」
ロスラグが驚いて言う
「えー!?いや、俺は 宝石なんていらないッスよ!」
バッツスクロイツが微笑んで言う
「いやぁ、おごらせっぱなしーってのは 良く無いし?きっとプログラム解析くらい上手く行くと思うから 少しの間だけこれで」
ロスラグが立ち上がり 身を避けて言う
「いらないッスよ!俺は!そんなの無くっても バッツが来てくれるって信じてるッス!!」
バッツスクロイツが驚いた表情から微笑んで言う
「オーケー!分かった!んじゃ 俺もロスっちを信じてー あ!そうだ、それじゃ これ着ててくれよ!」
ロスラグが疑問する バッツスクロイツが上着を脱いで渡して言う
「俺こっちの人って なんかまだ見分け付かなくてさ?もし、ロスっちの国へ行った時 ロスっちにソックリな人が一杯居たら 見つけるの大ー変ー!…だから これ着てて!」
ロスラグが驚いてから受け取って喜んで言う
「えー!?良いッスか!?こんなカッコ良いの初めて見たッス!俺 実はずっと良いなーって思って 何処で買ったのかなー?って ずっと匂いかいでたんッスー!」
バッツスクロイツが笑顔で言う
「良い!?良い!?良いだろー!?やっぱこの良さ分かるー!?テラッセルの最新ジャケだぜ!?46万もしたんだ!ソッコー購入したって感じでさー!」
バッツスクロイツとロスラグが盛り上がっている
【 アバロン城 玉座の間 】
ヴィクトールの前にザッツロード7世と仲間たちが跪いている ヴィクトールが言う
「では、貴公らは 各国から集めた宝玉の力を どの様にして増幅させるのか その方法をキルビーグ国王からは 聞かされていないのだな?」
ザッツロードが答える
「はい、我々はまず宝玉を集めローレシアへ持ち帰り ローレシアとソルベキアの科学力を用いて…」
ザッツロードが焦り 間を置いてヴィクトールへ向く ヴィクトールが言う
「分かった、貴公らへ確認した所で 無駄なのだろう ローレシアとソルベキアの科学技術の進歩だ 漏洩を防ぐ為にも 他国へ回る貴公らへ伝えない事は 有効な手段であると言える」
ザッツロードたちが驚いてヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが玉座へ身を静めて言う
「貴公の話は分かった、そして 残念だが我が国の宝玉は 現在、他の者へ託されている」
ヴィクトールの言葉にザッツロードの後ろに控えていたソニヤが声を上げる
「えぇええ!?」
ハッと口を押さえて小さくなるソニヤ 隣のラナが無言で叱る ザッツロードへ視線を戻したヴィクトールが続けて言う
「更に、貴公へ託す予定であった兵が 先日旅に出てしまった わざわざ足を運ばせてしまった様だが 現在 我がアバロン国が貴公へ託す事が出来るものは 何も無いのだ」
言葉を聞いたザッツロードが思わず沈黙する ヴィクトールが目を細めて言う
「残念ではあるが、これが事実だ 理解頂きたい 3代目勇者ザッツロード殿」
ザッツロードが何とか返事をする
「…はい」
伝令の兵が玉座の間の入り口に立って言う
「ヴィクトール陛下、お客様が…」
ザッツロードへ視線を向けていたヴィクトールが 伝令の言葉にハッと視線を兵へ向け言う
「分かった、すぐに向かう」
伝令の兵が返事と共に立ち去る ヴィクトールが玉座から立ち上がって言う
「話は以上だ 私は失礼させてもらう」
ザッツロードが返事をする
「はい、有難う御座いました」
ザッツロードが言い終わる前にヴィクトールはザッツロードの横を過ぎ 玉座の間を後にする ザッツロードが下げていた顔を上げ ヴィクトールが出て行った方を見る
【 アバロン城 客室 】
バーネットが目を覚まし 見覚えのある天上を見て 自分の居場所と状況を理解して起き上がろうとするが 叶わず声を出す
「…うっ つぅ…」
バーネットが力を抜いてベッドに再び身を静めて息を吐く モフュルスが気付いて近くへ来て言う
「バーネット様、気付かれましたか?」
バーネットが相手を確認しないままに言う
「何でまだ傍に居やがるんだ?俺はもう… ベネテクトの王じゃぁ無くなったんだぜ」
モフュルスが苦笑し 沈黙が流れる バーネットが問う
「…でぇ?」
モフュルスが静かに答える
「はい、バーネット様を追い出したベネテクト国に 間もなくしてツヴァイザー国が押し入った模様です」
バーネットがハッとして言う
「それで?」
モフュルスが笑顔で答える
「はい、バーネット様を隠密裏に受け入れて下さったヴィクトール陛下が すぐにアバロンの偵察部隊を入れて下されていたお陰で、ベーネット様はご無事でした」
バーネットが沈黙する モフュルスが続ける
「更に申しますと、その後ベーネット様ご自身が こちらのアバロン国へお越しになりまして ヴィクトール陛下へ一個部隊の借り入れを申請致しました ヴィクトール陛下のご配慮の下 アバロン国3番隊の助力を得て ベーネット様は見事 ツヴァイザー国を討ったとの事です」
バーネットが少し驚いて言う
「3番隊…っ 他国の援護に 一国の最強部隊を出しやがるなんて… 何考えてやがるんだ ヴィクトールの奴…」
モフュルスが微笑んで笑う
「ほっほっほ…」
バーネットが少し困った表情で舌打ちをする
「…チッ」
モフュルスが優しく微笑んで言う
「バーネット様を受け入れて下されただけでなく、ベーネット新ベネテクト国王陛下への御配慮 しっかりと御礼を申し上げませんと?」
バーネットが言う
「うるせぇ…分かってる」
モフュルスが微笑んで笑う
「ほっほっほ」
バーネットが一息吐いて言う
「寝る!」
モフュルスが静かに言う
「はい、ヴィクトール陛下には 毒の中和に まだ時間が掛かるとお伝えしておきます」
モフュルスが立ち去る
部屋の外 モフュルスとヴィクトールが話をしている ヴィクトールが微笑して言う
「そう… では 命に別状は無いのだね?」
モフュルスが微笑んで言う
「はい、ベネテクト王家の毒の中和薬は ベネテクト一族の血中に含まれる成分ですので 元々あの毒で バーネット様がお命を落とされる事は無いのです」
ヴィクトールが言う
「毒に関してはそうであっても レイピアは細身であれ 急所を突けば一撃で命を奪う事も出来る 今回ベーネット殿がそれを外されたのは やはり肉親であったが為だろう」
モフュルスが苦笑する ヴィクトールが苦笑を返して言う
「彼の看病を頼む …なんて、僕が言う必要もないのだろうけど?」
モフュルスが微笑んで言う
「はい、ベネテクトの民は皆 我らベネテクトの王 バーネット様への恩を 忘れる事は決してありません」
【 ツヴァイザー国近郊 】
リーザロッテがレイトの腕の傷へ回復薬を流し込む レイトが悲鳴を上げる
「あ゛ぁああーっ!!」
リーザロッテが慌てて謝る
「えっ!?ご、ごめんなさい!」
リーザロッテが自身の手に持つ回復薬を見て言う
「私、間違った使い方をしたかしら?」
レイトが激痛に顔を歪めつつ言う
「ぐぅ… い、いいえ、間違ってはおりません この薬は…っ その様にして 使うものですので…」
リーザロッテが間違っていなかった事にホッと胸を撫で下ろし 再びレイトの傷口へ薬を流し込む レイトが悲鳴を上げる
「あぁああーっ!」
ヴェインがその光景を見ている レイト以上の傷を負っているが 薬は少しずつ布に湿らせ傷口に当てている ヴェインの視線の先 レイトが先ほどの戦闘よりダメージを受けた様子で倒れる リーザロッテが疑問してレイトの傷を確認して 笑顔で立ち上がりヴェインへ振り返る ヴェインがハッとして視線を逸らす リーザロッテがヴェインの横に来て言う
「ねぇヴェイン?私、あなたに言う事があるの」
ヴェインが息を飲む リーザロッテがが言う
「あなたが… 一緒に来てくれて 私 とっても嬉しいわ!」
リーザロッテが笑顔を向ける ヴェインがハッとして僅かに視線を向けて言う
「… 姫様…」
リーザロッテが微笑んで言う
「これからはレイトと一緒に この世界を救う為 力を貸して頂戴ね?」
ヴェインが言葉を失う リーザロッテが軽く笑って言う
「頼りにしてるわ!」
ヴェインが一度視線を落としてから言う
「…姫様 申し訳有りませんでした」
ヴェインがリーザロッテへ向き直って言う
「非力ながら… 自分も ご一緒をさせていただきます」
リーザロッテが笑顔で言う
「非力なんかじゃないわよ?貴方もツヴァイザーの騎士でしょ?今回は、同じツヴァイザーのレイトが相手だったのですもの?」
ヴェインが小さな声で返事をする
「はい…」
リーザロッテが笑顔で言う
「さ、元気を出して!レイトに負けず 貴方にも頑張ってもらわなきゃ!」
リーザロッテが言葉と共に ヴェインの腕を取る ヴェインが驚き言う
「え?あ、ひ、姫様!?自分はっ 自分でっ!ぎゃーっ!!」
リーザロッテがヴェインの傷へ回復薬を流し込む ヴェインが悲鳴を上げる リーザロッテが笑顔で手当てを続けて言う
「うふふっ」
【 スプローニ国 】
リーザロッテとレイトとヴェインがスプローニ国へ到着する 城下町の門前で門兵と話し 要所要所に居るスプローニ兵へ話しかけている
リーザロッテが歩きながら言う
「先代勇者のお供だった 現スプローニ国第2部隊長のロキの次に強いのは 第3部隊の隊長ですって?ロキもそうだけど どうして第2、第3部隊長なの?部隊長って強い人から1、2、3では無いのかしら?」
リーザロッテの問いにレイトが答える
「一概にそうとは言い切られません、たとえ力で第1部隊の長を倒しても 部隊をまとめ指揮を執る能力が無ければ 上位の隊長の任には就かれませんので」
ヴェインが付け加える
「それとは別に、その者の希望で 下位の部隊長や、その他の任へ就く事もあります …レイトの様に」
レイトが慌てて言う
「ヴェインッ!!」
リーザロッテが少し驚いてからヴェインへ問う
「え?」
レイトがそれを遮って言う
「いえ、何でもございませんっ 姫様?さぁ、これから如何致しましょう!?」
レイトの慌て様に リーザロッテは不思議そうな顔をしながら言おうとする
「…ええ、もちろんローレシアの勇者の仲間を誘う気は無いわ?だから、ロキの次に強いと言う 第3部隊長の…」
リーザロッテが言い掛けて言葉を切る レイトとヴェインが何事かとリーザロッテの顔を覗き込むと リーザロッテが2人へ言う
「その前に、2人とも?その『姫様』って言うのを 止めてもらわないとね?」
リーザロッテの言葉にレイトとヴェインが顔を見合わせる リーザロッテが言う
「だってそうでしょ?これからどんどん仲間が増えるのだもの?そうとなれば 私も、皆と同じ様に 名前で呼ばれたいわ!」
レイトとヴェインが声を合わせて言う
「「しかし、姫様!」」
リーザロッテが指差して言う
「ほらまたっ!私の事はリーザで良いわ、ね?」
リーザロッテが強引に2人を納得させて スプローニ城へ向かう
スプローニ城の門兵から教えられた訓練所へ向かったリーザロッテたちを 激しい銃声が迎える リーザロッテが言う
「あれがスプローニ国第3部隊長のロイね?」
リーザロッテの目前 第3部隊の訓練所では ロイが複数人を相手に訓練を行っている
リーザロッテの前でロイが言う
「…大方、ベリオルか何処かの金持ちの娘と言った所か?だが、俺は そんな連中の道楽に付き合うつもりは無い」
ロイの言葉にレイトとヴェインが反応するが リーザロッテが無言で2人を抑え ロイへ言う
「確かにお金は集めてきたけど 道楽ではないわ 私は本気よ?」
ロイが無表情に言う
「…ならば、その金で兵を雇う事だ この国にも質の良い傭兵は居る」
リーザロッテが強気に言う
「お金で雇われる兵に興味がないの 私は 強くなりたいと思っている兵を 集めているのだから」
ロイがリーザロッテの言葉にわずかな反応を見せる リーザロッテが続ける
「私たちの目的は魔王を倒して世界を平和にする事 戦ってお金を集めるのが目的でなくってよ!…あ、もちろん 旅に必要なものにお金を惜しむ気は無いわ?」
自分の言葉を黙って聞くロイに リーザロッテが続けて言う
「あなたは強くなりたいと思っているのでしょ?私の目にはそう見えたの 丁度 もうこの国に あなたの相手を出来る人は 居ないのではなくて?」
ロイが沈黙する リーザロッテが笑みを湛えて言う
「私たちは世界を回るわ!あのアバロンやローゼントにも!ね?」
【 アバロン城 客室 】
バーネットが目を覚まし 痛む傷を抑えながら起き上がり部屋を出て行く
玉座の間 ヴィクトールが遠来の兵と話をしている 入口の前でその様子を伺いながら ヴィクトールが空くのを待つ
伝達兵がバーネットの来場を告げる
「『お客様』がお見えです」
ヴィクトールがハッと息を飲む バーネットが入って来て 所定の謁見の位置よりずっと後ろで跪き 頭を下げて言う
「ヴィクトール陛下 この度は私並びにベネテクト国 新国王への並々ならぬ御配慮の程 有り難く御礼申し上げます」
ヴィクトールが一瞬驚き 悲しげな表情で言う
「バーネット…」
バーネットが頭を下げたまま言う
「今後ともアバロン国 並びにベネテクト国の親交が末永く続く事を願うと共に 私もこれ以上のご迷惑を掛けぬよう早々に立ち去らせて頂きます では」
バーネットが言い終えると同時に立ち上がり さっさと背を向けて歩き始める ヴィクトールが思わず玉座から立ち上がって言う
「待ってくれ!バーネット!」
バーネットがヴィクトールの呼び止めに足を止める ヴィクトールがバーネットの背へ言葉を探してから言う
「…まだ …毒が、完全に消えていないのだろ?ベネテクト王家の毒は例え 解毒を行っても5日間は消えないそうじゃないか?その状態で 長い距離を移動するのは 危険だ」
バーネットが背を向けたまま返答する
「近郊の町などで様子を見るつもりです」
ヴィクトールが慌てて言う
「君はっ!ベネテクトで死んだはずの人だっ その君が… ベネテクトに程近い このアバロンで見付かればどうなるか… ベネテクト国の新国王ベーネット殿にも迷惑がかかる!アバロンの王としてっ 私は…っ 君をこの城から出す訳には行かないっ!」
沈黙が流れる ヴィクトールが気を落ち着けて言う
「バーネット 今はまず その身を休めてくれ」
バーネットが言葉を返さずに居る ヴィクトールが兵に命じる
「彼を客室へ御送りしろ」
兵が返事をして バーネットを客室へ向かわせる ヴィクトールが重いため息を吐いてから 玉座へ腰を下ろして俯く 家臣たちが緊張を抜き 顔を見合わせる
夕刻 バーネットがベッドに仰向けに寝ている ヴィクトールがやって来る モフュルスが微笑みヴィクトールを部屋へ通し、自分は部屋を出て行く ヴィクトールがバーネットへ声を掛ける
「バーネット」
バーネットは返事をしない ヴィクトールが困りつつ バーネットの傍へ行く バーネットが背を向ける ヴィクトールが言葉を探して言う
「バーネット… 傷は… 大丈夫?痛みは… そんなに無いって モフュルス殿が…」
ヴィクトールがバーネットを見る バーネットの顔は見えない ヴィクトールが視線を落として言う
「バーネット 僕は… 君に謝らないと… でも… 一杯あり過ぎて… その… ごめん… たくさん迷惑を掛けてしまって でも、僕は… 君に… 何も返せなくて… それでも… 僕も 必死に探して… だけど… 何も 出来なかったんだ… ごめん… ごめんね バーネット…」
ヴィクトールがぼろぼろ泣き始める バーネットが悔しそうな表情で言う
「てめぇは何にも悪くねぇえだろ… 謝る必要なんざねぇ…」
ヴィクトールが泣きながら言う
「でも 僕はっ… 僕は… 君と ずっと仲良くして居たかったんだ…っ 絶対 喧嘩なんかしたく無いって… ずっと 昔から思っていたのに…」
バーネットが息を吐いて言う
「喧嘩なんざしてねぇよ… ガキじゃあるめぇし…」
ヴィクトールが苦しそうに怒って言う
「じゃ… じゃあっ!?何で 通信を繋いでくれないの?僕は… 毎日君に通信を送ってたよ?毎日君の事を考えて… 君に… 無視 されても…っ ずっと 君と また話を出来る日を信じて 待っていた… ずっと… どんなに辛くても 悲しくても 泣かない様に 頑張って来たよ… でも…っ バーネット 君は…っ」
バーネットが苦笑する ヴィクトールが泣きながら言う
「もう嫌だ…っ 嫌だよ!バーネット!僕を無視しないでっ 僕と話をしてよ!約束したじゃないか!?2人で… 世界を救おうって!2人で悪魔力を世界から無くそうって!一緒に… 一緒にやろうって 言ったじゃないかっ!!バーネット!それ なのに…っ」
ヴィクトールが泣き崩れる バーネットが苦笑して起き上がり ヴィクトールを見下ろして言う
「はっは… 何言ってやがるんだ?俺はずっと その約束を守って来たぜ?」
ヴィクトールが顔を上げる バーネットが軽く笑って言う
「後一歩の所まで来てたんだ てめぇのお陰で デネシアにバレる事も無く ローレシアに付け入る理由まで持てた 後一歩って所で… へっ!…ベーネットの奴に邪魔されちまったぁ っはははっ!」
バーネットが笑う ヴィクトールが呆気に取られる バーネットが傷の痛みに衝撃を受けて痛がる ヴィクトールが驚き慌てて言う
「あぁ!無理しちゃダメだよ!バーネット!」
バーネットが苦笑して言う
「っはっは… だなぁ?ちょいと無理ぃ し過ぎちまったらしい… お陰でベネテクトの王の座を失っちまったぁ これじゃぁもう… 何の役にも立てやしねぇ …悪かったな ヴィクトール…」
ヴィクトールが驚く バーネットが微笑して言う
「後はぁ てめぇだけ… だな?これじゃぁ ただ生きてるってだけで 先代と変わりゃしねぇや…」
ヴィクトールが怒って言う
「違うっ!違うよ バーネット!君は生きているんだ!君は… 生きていてくれたっ 父上の時とは 違うんだっ!」
バーネットが驚く ヴィクトールが詰め寄って言う
「だからもう!僕と話をしなくなるなんて止めてよ!?僕を無視しないで!ちゃんと聞いて ちゃんと答えてっ!お願いだから… もう2度と…っ」
ヴィクトールが涙を流す バーネットが呆気に取られてから 苦笑して言う
「…分かったよ 分かったから もう泣くんじゃねぇよ?お前はアバロンの王だろ?俺とは違って まだちゃぁんと王の座に着いてやがるんだから しっかりしろよ?」
ヴィクトールが一瞬驚いた後 強く言う
「僕はっ!アバロンの王としてじゃない!ヴィクトール13世として君の親友で居たいんだよ バーネット!」
バーネットが呆気に取られてヴィクトールを見る ヴィクトールが泣き続ける バーネットが苦笑して言う
「分かった、悪かった… アバロンの王とじゃぁなくて 俺はヴィクトール13世の親友だ だから もう、泣くんじゃねぇよ 相変わらずてめぇは 泣き虫ヴィクトールだなぁ?」
ヴィクトールが泣きながら微笑んで言う
「君が泣かせたんだよ…」
バーネットが苦笑して言う
「はっは… だなぁ?そんじゃぁもう 俺のせいで 泣かせはしねぇよ 約束してやる」
ヴィクトールがバーネットを見上げて言う
「絶対だよ?」
バーネットが笑って言う
「ああ… 絶対だ」
【 ベリオルの街 】
リーザロッテと仲間たちがベリオルの街へ辿り着く リーザロッテが言う
「そうね… アバロンやローゼントの兵も欲しいところだけど そろそろ魔王を倒す為の方法や、その肝心な魔王の居場所なんかを調べる必要があると思うのよ」
リーザロッテの言葉に レイトが言う
「情報収集でしたらこのベリオルの街は打って付けかと思われます、この街の裕福な者達の中には歴史的な書物や物に興味を持つ者も多いかと」
リーザロッテがレイトの答えに満足気な微笑を返す 2人の会話にロイが助言する
「…更にその金持ちらは 自分のコレクションを自慢するのが 何よりの楽しみだ、貴姉の目的を話せば 喜んで協力するものと思われる」
リーザロッテが笑顔で言う
「それは好都合ね!」
リーザロッテと仲間たちは街の金持ちコレクターから情報収集を行う
リーザロッテが歩きながら言う
「初代勇者ザッツロード1世は この大陸の国々が所持していた宝玉の力を使って 悪しき魔力が噴き出す 魔界とこの世界を繋ぐ 穴を封印した」
「魔王の強力な魔力を封じる為に 魔界との穴を塞ぎ 悪しき魔力を遮断する必要がある」
「封印に使った宝玉は その魔力が弱まってしまった為 複数の宝玉を持ち寄って魔力を増幅させなければ 魔王を封じる事が出来なかった」
リーザロッテが入手した情報に満足して言う
「『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所を 記した地図』を写させて貰ったわ!宝玉を持って まずはここへ行かなくてはね!」
リーザの言葉にロイが言う
「…ならば まず その宝玉を手に入れなければならない だが、宝玉は各国の宝だ …幸先は暗いな」
リーザロッテが首を傾げて言う
「貰うのではなくて借りるのなら 何とかならないかしら?」
レイトが言う
「リーザ様ならば そちらも可能かと思われます」
ロイが疑問する ヴェインが言う
「しかし、それらの話は事実なのだろうか?全て金持ちコレクターの道楽が集めた 偽の勇者話だと言う可能性も…」
リーザロッテが軽く笑って言う
「その可能性も無いとは言え無いわ でも、この『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所を 記した地図』 この場所を確認して それが実在していたら!その他の話とも辻褄が合うのよ?それなら、これらの話は全部本物って事でしょ?」
ロイが疑問する ヴェインが半信半疑に言う
「確かに… そう かも しれません…」
レイトが微笑んで言う
「では、まずは その場所へと向かいましょう!そして、確認をしてから 宝玉をお借りしに行くという事で」
リーザロッテが微笑み返事をしようとするが 疑問して言う
「…いいえ?先に宝玉を借りなければならないわ だってそうでしょ?ローレシアの勇者は まず宝玉を手に入れるために旅をするのだから、こちらも急いで手に入れないと 彼らに全て奪われてしまうわ?」
レイトが表情を困らせる リーザロッテが笑顔で言う
「そうと決まれば まずは宝玉よ!ここから一番近いのはスプローニね?…戻る事になってしまうけれど この際しょうが無いわ!今日はこの街で宿を取って 明日一番に行きましょ?」
リーザロッテが先行する レイトが焦りながら言う
「は、はい…」
ロイとヴェインが顔を見合わせる
レイト、ヴェイン、ロイが宿の一室に居て話しをしている ヴェインが言う
「リーザ様は本気であれらの話を信じているのだろうか?」
ロイが向いて言う
「…俺は勇者の話が何であれ 他国へ向かうまでの間と 他国の者と戦う それらの切っ掛けがあれば良い」
レイトが苦笑する ヴェインがレイトへ向いて言う
「お前はリーザ様の調べられた勇者話を信じている様子だったが 意外だな?」
ロイが言う
「…いや、卿はあれらの話を信じてはいない 卿も俺と同じだ 目的は違うようだが?」
ヴェインが疑問する レイトが軽く笑って言う
「リーザ様はツヴァイザー国の復興を求めていらっしゃるのだ その方法として 今回はローレシアの勇者に対抗しようと …私は 例え それらが叶わなくとも リーザ様を助け、守る事さえ出来れば それで良い」
ヴェインが一瞬呆気に取られてから 苦笑して言う
「なるほどな?本来ならば ツヴァイザー国第1部隊隊長の座へ就くべきだと言うのに それを断り続けて リーザ様の護衛兵を続ける騎士の言葉は違うな」
レイトが苦笑して言う
「それは 言わないでくれるという約束だったでは無いか」
ヴェインが軽く笑う レイトが少し怒り微笑する ロイが疑問して言う
「…ツヴァイザー国の王子は先の大戦時に 暗殺されたと聞いた そして女王はシュレイザー国に幽閉され 現在ツヴァイザー国に居るのは王と王女のみ… まさかとは思っていたが やはりリーザはリーザロッテ王女なのか?」
レイトとヴェインが衝撃を受けて焦る ロイが見つめる ヴェインが焦って言う
「い、いやいや!?何度も言っているだろ!?リーザ様は… リーザロッテ王女の影武者だと!」
レイトも焦って言う
「そ、そうだとも!まさかリーザロッテ王女様が たった2人の護衛兵と この戦乱と魔物の蔓延る世界を旅される訳があるまい!?」
レイトとヴェインがわざとらしく2人で笑う ロイが疑いのまなざしを向けてから 気を取り直して言う
「…所で、例の勇者話を聞いている時だが 皆気になる事を言っていた」
レイトとヴェインが笑いを止めロイへ向く レイトが言う
「ああ、我々の前に 同じく勇者の話を聞いて回っている男が居たと」
ヴェインが少し考える様子で言う
「我々の他にも 勇者になろう等と思っている者でも居るのだろうか?」
同宿 別室 オライオンが言う
「初代勇者ザッツロード1世は この大陸の国々が所持していた宝玉の力を使って 悪しき魔力が噴き出す魔界と この世界を繋ぐ穴を封印した」
「魔王の強力な魔力を封じる為に 魔界との穴を塞ぎ 悪しき魔力を遮断する必要がある」
「封印に使った宝玉は その魔力が弱まってしまった為 複数の宝玉を持ち寄って魔力を増幅させなければ 魔王を封じる事が出来なかった」
オライオンが『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所を 記した地図』を見ながら考える シュライツが隣で首を傾げる オライオンがひらめいて言う
「なぁ?これってよー?結果的に全部ダメだったって事だろ?」
ロスラグが現れて言う
「そうッスね!結果的に魔物は この世界に また出て来ちゃったッスし!魔王も倒せなかったッス!」
オライオンが笑顔で言う
「ならよ!?これの… 逆をやったら 今度こそ世界から魔物が居なくなって 魔王も倒せるんじゃねーか!?」
ロスラグが驚いて言う
「あー!そーッスね!オライオンすげーッス!!チョー頭良いッスー!!」
オライオンが照れて言う
「そっかー!俺頭良いんだー!?いやー!初めて言われたぜー!あはははは!」
シュライツが笑顔で騒ぐ
【 アバロン城 】
深夜 バーネットが深い眠りから覚める 起き上がり 意を決してベッドを出る
ヴィクトールが自室で遅くまで書類を確認している 一息吐いて軽く微笑む 席を立ちバルコニーへ出る バルコニーの手すりに手を置いて眺めていると 剣を振るう音に気付き 周囲を見渡し 地上にあるランタンの明かりを垣間見る バーネットがローブを羽織って ランタンの淡い光だけを供に 夜の闇の中で剣を振るっている ヴィクトールが一瞬驚いた後、微笑して見守る バーネットが速度と慣性を利用した剣さばきを行う 怒りに任せた最後の一刀は木の幹に引っかかる バーネットが衝撃を受け焦って引き抜く その様子にヴィクトールが呆気に取られた後、微笑んで見守る
翌日 城の通路を歩くヴィクトールに家臣らが続き 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下、本日は先日融資を行った ベハムツ卿から昼食会のお誘いが入っております」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下、その前にデネシアのハレルト大臣がいらっしゃるとの連絡が入っておりますので是非ともハレルト殿と御昼食を」
家臣Cが言う
「それよりもヴィクトール陛下、新たな提携先として カイッズ国のエレヌハイム伯爵から 是非アバロンの料理を堪能させて欲しいとのお話が」
ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「昼食くらい… 気軽に取らせて貰えないのかい?アバロンの料理は確かに美味しいけど そう言う人たちと食べている時は ほとんど味なんて感じていられないんだよ?」
家臣Aが言う
「そうは仰いましても、昼食時は謁見時間を気にせずに お話を勧められる絶好の機会と言う事で 皆、陛下とのお時間を得たいと必死なのです」
家臣Bが言う
「裏を返せば、逆にアバロンへ融資を行わせる好機とも取られます ヴィクトール陛下は歴代のアバロン王の中でも その腕前は並々ならぬものですので 今回もどうか」
家臣Cが言う
「それならやはりカイッズ国のエレヌハイム伯爵にアバロンの料理を御紹介するという形で!」
家臣たちが向き合って どの人物との食事会にヴィクトールを出席させるかを言い合う ヴィクトールが呆れてから振り返って言う
「それなら僕は 今日はバーネットと取る事にするよ!」
ヴィクトールが笑顔になる 家臣たちが衝撃を受けてから怒って 家臣Aが言う
「何を申されますか!ヴィクトール陛下!」
家臣Bが言う
「そうです!日々の昼食会こそ アバロンへ融資をもたらす絶好の機会!一日も無駄には出来ませんぞ!?」
家臣Cが言う
「そうです!カイッズ国のエレブハイム伯爵は 今日しかアバロンに御滞在致しません!」
ヴィクトールが軽く微笑んで言う
「ベハムツ卿へは融資を行ったのだから後は向こうの結果を待つだけだし、ハレルト殿はレリアンを迎えに来ただけだろ?カイッズ国のエレヌハイム伯爵は前々からアバロンからの融資を狙っていると言う噂を聞いているから 融資をさせられる事はあっても して貰う事は難しいよ」
家臣たちが呆気に取られる ヴィクトールが笑顔で言う
「だから、今日は彼と昼食を取る 16年前に彼をデネシアから助け出した時は カイッズ国とのイザコザのせいで取られなかったんだ だから彼とはもう24年振りだね!きっと…」
家臣たちがヴィクトールに注目する ヴィクトールが一度考えた後、笑顔で続ける
「時間を気にせず話していたら 夕方になっても終らないんじゃないかな?」
ヴィクトールが歩き出す 家臣たちが慌ててヴィクトールを止めようとする ヴィクトールがバーネットの部屋まで来る 家臣たちが止めようとするが ヴィクトールが扉をノックして声を掛けながら開ける
「バーネット、調子はどうだい?良かったら… …あれ?」
ヴィクトールが部屋の中を見渡す 家臣たちが疑問する ヴィクトールが首を傾げて部屋の中でバーネットを探す 家臣たちが顔を見合わせて 家臣Aが言う
「ベネテクト国へ戻られたのじゃろか?」
家臣Bが言う
「それは無理じゃろう?現在もベネテクト国は新国王を定着させるために バーネット2世は死んだと広めている所なんじゃから」
家臣Cが言う
「アバロンでもそれは同じじゃ、だからアバロンの町を歩く事だって良からぬ事 それぐらいの事 あのバーネット殿なら分かるはずじゃて」
家臣たちが相談を終えてヴィクトールへ向く ヴィクトールが1人で考えている ヴィクトールが昨夜のバーネットの剣の稽古を思い出し ハッとして部屋を飛び出す 家臣たちが慌てて止めようとするが まったく間に合わず ヴィクトールが走り去る
一方その頃 バーネットはローブを纏った状態で馬に跨り 眼下に広がるデネシア城を見下ろしている バーネットが手綱を握る手を 握り締めて馬を走らせる
ヴィクトールが早馬に乗り駆け抜ける 国境警備兵の敬礼も目に入らず一目散にデネシア城を目指す
【 デネシア城 】
バーネットがデネシア城の門前で馬を飛び下り、そのままの勢いで 門兵たちの制止を振り切り 一気に城内の地下牢を目指す 次々に襲い掛かる警備兵の手や魔法をかわして殴り倒し 辿り着いた地下牢 そこに居る目当ての人物を見付け 叫びながら襲い掛かる バーネットの襲撃に いつぞやの拷問兵も慌てて剣を抜くが、次の瞬間には抜いた剣は弾き飛ばされ その衝撃のままに尻を着く バーネットが拷問兵に剣先を突き付け言う
「俺を覚えているか!?」
拷問兵が目前の剣先に怯えながら バーネットを見上げて言う
「だ…っ 誰だ!?お前は!?お前なんか 俺は…」
バーネットが言いながらローブのフードを外して言う
「忘れたとは言わせねぇっ」
拷問兵がバーネットの顔を見て言う
「お、お前は あの時の…っ ベネテクト国の王子っ!?」
拷問兵の脳裏に バーネット1世の命を奪った時 泣き叫んでいたバーネット王子の姿が浮かぶ バーネットが笑って言う
「はっはー 『王子』じゃねぇよ?あん時てめぇが 親父を殺した…っ てめぇが俺を!ベネテクトの国王にしやがったんじゃねぇか!?忘れたかぁあ!!」
バーネットが近付く 拷問兵が迫り来る剣先に震えながら声も出せずに頷く バーネットが再び笑い言う
「ハッ!もっとも、今の俺は… その国王の地位を失っちまったけどなぁ?地位も国も… 今の俺には何もねぇ… あるのは てめぇへの… あの時の礼だけだ!」
拷問兵の顔の横に剣が突き刺さる バーネットがにやりと笑って言う
「簡単に殺してはやらねぇぜ?親父と同じ様に ゆっくり… 何度も何度も苦しめて それから殺してやる!」
拷問兵が怯えて言う
「ひぃい!た、頼む 助けてくれ!や、止めてくれ…」
バーネットが一瞬、間を置いてから叫ぶ
「ざけんなぁあ!てめぇは!俺が泣いて叫んで頼んだって 親父を殺しやがったじゃねぇえかぁあ!!許さねぇ… てめぇも 同じ様にぶっ殺す!!」
拷問兵の顔の横に突き刺されていた剣が引き抜かれ 拷問兵の前に構えられる 拷問兵が目を強く閉じる 後方から声が響く
「止めるんだバーネット!!」
バーネットの剣が後一歩の所で止まる バーネットが振り返る ヴィクトールが息を切らせて飛び込んで来た姿でいる バーネットが目を見開いて驚く ヴィクトールに続きアバロン国の兵士たちも現れる バーネットが中断していた行動を再開させようとする ヴィクトールが叫ぶ
「バーネット!!」
ヴィクトールがバーネットを後ろから押さえる バーネットが叫ぶ
「離せヴィクトール!!」
ヴィクトールが言う
「ダメだ!止めるんだ!」
ヴィクトールの力に押さえられ バーネットの剣は兵に届かない 拷問兵がその様子に安心しニヤリと笑い 立ち上がって言う
「残念だったなバーネット王子?おっと国王だったか?いや元国王か?」
拷問兵が笑う 周囲に居たデネシアの兵たちも笑い始めて言う
「またひっ捕らえて吊るしてやらねぇと」
「ああ、お前用の手枷足枷も残ってるぜ?何てったって我がデネシア国は平和主義の国だ、めったに拷問だの何だのなんてねぇから どれもこれもお前ら親子専用に作ったものばかりだ」
兵たちが笑う バーネットが怒り再び襲いかかろうとするが ヴィクトールの強力な力を振り切れない そこにデネシア国王ローゼックが現れて言う
「何事だ?騒がしい」
バーネットが振り返る ヴィクトールの後方 牢獄入り口に居るローゼックを見上げる ローゼックがバーネットを見てから ヴィクトールへ向いて声を掛ける
「ヴィクトール殿、確か 彼は貴殿の友人だったな?我がデネシア国に何用だろうか?」
ヴィクトールが横目にローゼックを見る ヴィクトールの腕から解放されたバーネットが ゆっくりとローゼックへ向かおうとする ヴィクトールがハッとして 再びバーネットを抑える バーネットが叫ぶ
「離せヴィクトール!ヴィクトール!!」
ヴィクトールが自身も心の葛藤に苦しみながら言う
「バーネット… 頼む… 堪えるんだ…」
バーネットが叫び続ける
「離せっ!離せっつってんだ!離せよヴィクトール!」
ローゼックが苦笑してから 後方へ従えていたデネシア国の兵に指示を送る ヴィクトールがその様子に気付いて言う
「バーネット すまない…」
ヴィクトールがバーネットの頸椎を叩き気絶させる バーネットがギリギリまで意識を持ち続けようとするが 視界が薄れて行く
「ちく…しょう…」
ヴィクトールがバーネットの身を抱き止める ローゼックが残念そうに失笑してから兵へ指示を出す
「…ふん、保護してやれ」
ローゼックの指示で動き出したデネシア兵をを前に ヴィクトールが言う
「触るな!」
間近に来ていたデネシア兵が ヴィクトールの声に驚き動きを止める ヴィクトールがローゼックへ顔を向けて言う
「…彼は、我がアバロン国で保護をします」
ヴィクトールの周囲に仕えていたアバロン兵が駆け付ける ヴィクトールがアバロン兵たちへバーネットの身を預けながら言う
「丁重に、まだ傷が癒えていないんだ」
ヴィクトールの言葉に アバロン兵たちが無言で頷き バーネットを下がらせる ヴィクトールがそれを確認してから 改めてローゼックへ向き直って言う
「お騒がせを致しました ローゼック国王お詫び致します」
ヴィクトールが敬礼する ローゼックが頷いて言う
「まったくだ、貴殿の詫びがなければ 即座に捕らえ刑に罰していた所だな?」
ヴィクトールが言う
「騒ぎを起こした事に対してはお詫びをします しかしながら、彼のしようとした事を 詫びるつもりは有りません」
ローゼックが眉をひそめて言う
「何んだと?」
ヴィクトールが言う
「彼は… 我がアバロンの友人はっ このデネシア国に預けられている ベネテクト国 元国王バーネット1世様の亡骸を 受け取りに来たのです」
ローゼックが沈黙する ヴィクトールが続ける
「彼は今休んでいますが、その目的は 私が代わってでも行うべき事!どうか この私に勤めさせて頂きたいと存じます」
ヴィクトールがローゼックへ強い視線を向ける 引き下がる様子の無いヴィクトールに 仕方なくローゼックが答える
「…好きにするが良い、何者かがどうにかしていなければ 今も同じ場所にある筈だ おい、ヴィクトール殿をご案内してやれ」
デネシア兵の1人が返事をして ヴィクトールの前へ出る ローゼックが不満そうにその場を立ち去る 案内のデネシア兵が道を案内する ヴィクトールとアバロン兵たちが その後に続く
地下牢を出て地上階を進み 行き止まりの扉の前で 案内のデネシア兵が立ち止まって言う
「こちらです」
兵が扉を手で示す ヴィクトールが扉に近付く 兵が言い辛そうに言う
「あの… …お目になされない方が 宜しいかと…」
ヴィクトールが兵の言葉に振り返り 理由を問おうとした所へ バーネットがやって来て言う
「ああ… 親父も見られたくねぇだろうぜ…」
ヴィクトールが振り返った先 バーネットがアバロン兵たちと共に来て ヴィクトールの横で立ち止まって言う
「親父は 格好付けたがる奴だったからな… あんな姿 見られたくねぇ筈だ」
ヴィクトールがバーネットへ言う
「バーネット、君は… 知っているのか?」
バーネットが苦笑して言う
「ああ、見させられたからな?」
ヴィクトールが一瞬、呆気に取られてから理解して アバロン兵たちを下がらせる バーネットがヴィクトールへ視線を向ける ヴィクトールが言う
「僕は、我が父 ヴィクトール12世の代わりに 確認する義務がある」
ヴィクトールが扉を見据える バーネットがヴィクトールを見て軽く笑って言う
「…後悔しても知らねぇぞ?夜、一緒に寝てやらねぇからなぁ?」
ヴィクトールが苦笑を向ける 2人のやり取りを確認して 案内のデネシア兵が 扉の鍵にある番号を合わせようとする バーネットがそれを制して言う
「いや、お前も下がってくれ 俺がやる」
デネシア兵が驚いて言う
「しかし?」
バーネットが案内のデネシア兵に替わって操作をしながら言う
「いつか助けに来ようと思ってたからな 覚えてたんだよ」
鍵が音を立てて外れる 少ない力で扉が開き始める バーネットがその扉に手を掛けて開く 開かれた扉の向こう そこにある光景にヴィクトールが息を飲む
差し込まれる真昼の太陽の下 十字に掲げられた木片に張り付けられた 一体のミイラ バーネットが軽く笑って言う
「親父 迎えに来てやったぜ?」
バーネット1世は当時のその時のまま放置されている ミイラ化した身体に無数の剣が刺されている バーネットがバーネット1世の前へ向かって言う
「へっ!親父の奴 何本刺されても笑いやがってよ 痛くも痒くもねぇって… あの野郎が痺れを切らすまで 笑ってやがった…」
バーネットがバーネット1世の顔に刺された 最後の一刀に手を伸ばして言う
「流石にコイツは痛かっただろう?今抜いてやるぜ…」
バーネットの後ろから ヴィクトール12世の声が届く
「バーネット…っ」
ヴィクトールが驚いて振り返って言う
「父上っ!?」
バーネットが驚き身動きを止めている 思いもしなかった人物の声に父を助けようとしていた手が震える その手が包まれる バーネットがヴィクトール12世へ向いて言う
「…ヴィクトール 陛下…っ」
ヴィクトール12世が静かに微笑んで言う
「遅くなって すまない」
ヴィクトール12世がバーネットの手を離す バーネットが無意識に一歩下がる ヴィクトール12世がバーネット1世と正面から向かい合い その姿を見つめて言う
「バーネット…」
ヴィクトール12世が目を細めて言う
「すまなかった… 全ては私の… 私の責任だ」
ヴィクトール12世が瞳を閉じ悔いる 当時の事を思い出し怒りと悲しみで肩を震わして言う
「私は… 分かっていた… きっと君が助けてくれると そして、今度も共に 切り抜ける事が出来る筈だと… まさか ロ…」
ヴィクトール12世が涙を流して話を続けようとするが 言葉を止め顔を横に振ってから言う
「…私は 必死に策を探した しかし 結局 君を助けられなかった… すまない… バーネット すまない…」
ヴィクトール12世が涙ながらに繰り返す その様子を見ていたバーネットが ふと父を見上げ言う
『…遅せぇんだよ もう良い… こんな姿… 見られたかねぇんだよ…』
ヴィクトール12世がその声に顔を上げ静かに微笑んで言う
「ああ… そうだった 君は…いつも見惚れるほど格好の良い男だった 今も…変わらないがな?」
ヴィクトール12世が言いながら 剣に手を伸ばして言う
「ありがとう バーネット また会おう」
ヴィクトール12世が剣を抜く バーネット1世は銀の混じる砂になってこぼれ落ちる バーネットが一緒に崩れ膝を着き 骨と砂だけになった バーネット1世に手を伸ばし、思い出した様に泣き崩れる 駆け寄ったヴィクトールが肩を支える
アバロン国へ帰る馬車の中 ヴィクトール12世がバーネット1世の遺骨の包まれた物を抱いている
回想
ヴィクトール12世が遺骨の包まれた布をバーネットへ向ける バーネットが言う
「親父は ヴィクトール陛下に会いたがっていました、その陛下に支えてもらえてるんだ きっと今、親父はとても喜んでいる筈です それに… 本当は俺が ベネテクトへ連れ帰ってやるべきなのに 俺は国へ帰ることすら出来ません… こんな俺に ベネテクト国王バーネット1世の身を支える資格は無い」
ヴィクトールが言う
「バーネット…」
回想終了
馬車がアバロン城へ帰り着く アバロン兵たちの敬礼を受けつつ ヴィクトール12世が馬車を降り ヴィクトールとバーネットが続く 城の前でバーネットが足を止める ヴィクトールが気付いて振り返って言う
「バーネット?」
ヴィクトールの声にヴィクトール12世が足を止める バーネットが跪いて言う
「ヴィクトール陛下、どうか… 不甲斐ない私めに代わり 父の遺骨をベネテクト国へ届けるよう 兵を遣わせて頂きたく存じます」
ヴィクトールが問う
「良いのかい バーネット?君の手で連れ帰りたかったのでは?」
バーネットが答える
「俺の… 私の失態で バーネット1世の帰還を遅らせる訳には参りません どうか…」
バーネットが頭を下げる ヴィクトールがヴィクトール12世へ向く ヴィクトール12世が向き直って言う
「バーネット2世、貴公の尊父には 今宵はこのアバロンにて寛いで頂き 明朝にもベネテクト国へお送りしよう」
バーネットが頭を下げたまま言う
「お心遣い 恐れ入ります」
ヴィクトール12世が頷き城の奥へ去って行く いつまでも頭を下げ続けるバーネットへヴィクトールが声を掛ける
「バーネット、僕らも中へ」
バーネットが言う
「…ヴィクトール、すまねぇ…」
ヴィクトールが疑問して言う
「え…っ?」
バーネットが言う
「もっと俺が ベネテクトの王で居られたら… 親父の様に、お前の役に立てたかもしれなかった」
ヴィクトールが言う
「何を言っているんだ バーネット!?いつも助けてもらっていた!」
バーネットが沈黙する ヴィクトールは続けようとするが 周囲を気にして バーネットの腕を引いて言う
「さぁ、中へ… 少し休もう」
城内
バーネットが兵に付き添われて客室へ向かう ヴィクトールがその後姿を見送ってから 玉座の間へ向かおうとする その前でヴィクトール12世がバーネットの後姿を見ている ヴィクトールが問う
「父上?」
ヴィクトール12世が ヴィクトールへ向いて言う
「ヴィクトール」
ヴィクトールが答える
「はい、父上」
ヴィクトール12世が言う
「バーネットから… 彼から目を離すな 今の彼は 何もかも失ってしまっている 父を取り戻すという目的も果たしてしまった」
ヴィクトール12世が言い終えると共に 自分の抱えるバーネット1世の遺体の包まれた物を静かに撫でる ヴィクトールが一度視線を落としてから ヴィクトール12世を見て言う
「父上 私はどうしたら?」
ヴィクトール12世が顔を上げて言う
「彼の居場所を守ってやれ、彼は今、故郷のベネテクトへ戻る事すら許されない それでも このアバロンに留まる事が 許されるのだという事を お前が 知らせるのだ」
ヴィクトール12世の言葉に ヴィクトールが強く言う
「はい 分かりましたっ 御助言を ありがとうございます」
ヴィクトールが敬礼する ヴィクトール12世が頷き立ち去る ヴィクトールが既に見えなくなったバーネットが去った通路へ顔を向ける
【 ベリオルの街 】
宿を出たリーザロッテと仲間たち リーザロッテが言う
「さあ!さっそくスプローニへ行きましょ!この大陸で宝玉を所持している国は スプローニとシュレイザー… でもシュレイザーにはちょっと…」
レイトが言う
「『魔界との穴を塞ぎ 悪しき魔力を遮断』と言う事をなさるのでしたら、宝玉は1つでも得られれば宜しいのでは無いでしょうか?」
リーザロッテが微笑んで言う
「それもそうね!その宝玉の魔力が無くなる頃には 私たちの勇者としての行動が認められて 逆にローレシアの勇者たちが 私たちへ謙譲してくるかもしれないわ!そうでなくても 各国の国王に認められさえすれば…!」
リーザロッテが話しながら歩いている所へ シャルロッテが横道から走って来て 止まりきれずにぶつかる 2人が声を合わせる
「「きゃっ!」」
地面に倒れそうになったリーザロッテをレイトが慌てて抱き止める 一方、シャルロッテは地面に尻餅を着く シャルロッテが地に打った腰を擦りながら言う
「いったた~…」
レイトに受け止められたリーザロッテもぶつかった腕を抑えながら シャルロッテを心配して言う
「あなた、大丈夫?」
リーザロッテの言葉に シャルロッテがハッとして 勢い良く起き上がり リーザロッテの顔を確認してから 慌てた様子で言う
「あ、ああっあの!こ、ここここの先にはっ!い、行っちゃダメですぅ!」
リーザロッテが驚いて疑問する
「え?」
シャルロッテが何か言いたげに慌てて周囲を見渡しながら口をぱくぱくさせるが 言葉が追い付かない様子でハッと大通りの方を向いて叫ぶ
「あ、ああっ!も、ももももう時間がっ!こっちですっ!」
シャルロッテが言うが早いかリーザロッテの手を引いて 自分が駆けて来た横道へリーザロッテを引き込む ヴェインが声を荒げる
「おい!貴様っ!」
シャルロッテが振り返って言う
「あ、あなた達もっ!ツ、ツヴァイザーの方は 急いで!!」
皆が驚き シャルロッテの言葉に従って横道へ入る シャルロッテが一度ホッと胸を撫で下ろしてから 身体に引っ掛けていたモバイルPCを開いて素早いタイピングを行う リーザロッテがその様子に言う
「あなた… もしかしてプログラマー?」
リーザロッテがシャルロッテへ問い掛けている間に ヴェインが横道から顔を出し、大通りの様子を伺う 視線の先大通りを通る人物を確認して思わず声にする
「あれは!シュレイザーの部隊!?」
ヴェインの言葉にリーザロッテと仲間たちが驚く シャルロッテが落ち着いて言う
「はい、ツヴァイザーの国王が リーザロッテ王女の捜索命令を出したんです、もうスプローニとシュレイザーには近付けません」
リーザロッテが言う
「スプローニへ行って宝玉を借りる事は出来ないわね…」
リーザロッテが考える様子を見せる シャルロッテが続ける
「それどころか、もう このベリオルにも居られません すぐに港からアバロン運河を渡らないと」
シャルロッテがタイピングを続ける レイトが言う
「すぐと言っても 船に乗るには乗船券が必要だ、他国へ向かう便ならば 券を買う際に 身分を明かさなければならない」
レイトが言い終わる頃、シャルロッテがタイピングを終了させ顔を上げながら言う シャルロッテはモバイルPCのモニターが視界に入らなくなると言葉が片言になる
「乗船券の手配が終りました、後は… ル、ルルルートに気を付けながらっ 乗船場所に行ってっ そ、そのっ わ、わわわ私がっ 後は大丈夫にしますからぁっ!」
シャルロッテの変貌に リーザロッテが呆気に取られて言う
「あなた… 変わってるわね?」
シャルロッテがモバイルPCに顔を隠しながら言う
「よ、よくっ 言われ ますぅ…」
リーザロッテが軽く微笑む ヴェインがシャルロッテへ槍を向けて言う
「貴様!なぜ我々の事を知っている!?そして、なぜ我々の 味方の様な真似をするのだ!?」
シャルロッテが驚いて怯えて言う
「ひゃぁっ!」
リーザロッテが一瞬驚いた後 ヴェインへ向いて怒って言う
「ヴェイン!」
ヴェインが槍の矛先をシャルロッテの首へ向ける シャルロッテが怯えながら言う
「ご、ごめんなさいっ!わ、私っ た、たまにっ リーザロッテ様の 事っ み、観ててっ」
シャルロッテの言葉に ヴェインが矛先を更に首へ近付ける シャルロッテが更に慌てて言う
「きゃぁーっ う、うううそですっ ご、ごめんなさいっ!たまにじゃ無くってっ そ、そのっ 結構っ ひ、頻繁に…っ」
リーザロッテが呆気に取られる ヴェインが今にも槍を突き刺しそうな様子で言う
「貴様ぁ~っ」
リーザロッテがハッと状況を理解して ヴェインを止めて言う
「ヴェイン、槍を下ろして」
ヴェインが顔を向けないまま言う
「しかし 姫様!」
リーザロッテが強い口調で言う
「ヴェイン!槍を下ろしなさい!」
ヴェインが一瞬、間を置いて返事をする
「…はっ」
ヴェインが槍を下ろす シャルロッテがへたり込む リーザロッテが言う
「あなた、名前は?」
シャルロッテが怯えながら言う
「シャ、シャルロッテ と も、申し…ます…」
リーザロッテが微笑んで言う
「シャルロッテね?それじゃ…シャル?あなた ずっと私を観てたのよね?」
シャルロッテが申し訳なさげに言う
「…はい ごめんなさい…」
リーザロッテが苦笑してから言う
「なら… 私たちが何をしようとしてるかも 分かってるのよね?」
シャルロッテが俯いてから言う
「…はい、ツヴァイザーの勇者になる為に… 魔王を討伐する為… 宝玉が必要で… で、でもスプローニやシュレイザーには行けなくて…」
リーザロッテが一つ一つに頷き 全て言い終えたシャルロッテの肩をぽんと叩いて言う
「そう!それなら!…今から あなたも、私たちの仲間ね?」
シャルロッテがリーザロッテを見上げて呆気に取られた後 驚いて叫ぶ
「え?…えぇええ!?わ、私 も!?」
リーザロッテが笑顔で言う
「もちろんよ!プログラマーが仲間になってくれるだなんて 素晴らしいわ!さ!そうと決まれば 乗船所へ急がないと!シャル!さっそく私たちの行く道を 教えて頂けて?」
シャルロッテがリーザロッテの満面の笑顔の前でおどおどするが モバイルPCを開きタイピングを開始して言う
「は、はいっ!…大通りでは聞き取り調査が行われているので ここは迂回しなければいけません A、C地区の聞き取りは 終了しているので…」
リーザロッテがシャルロッテの説明に満足して頷いている中 ロイがレイトへ言う
「…どうやら本当に ツヴァイザーのリーザロッテ王女だった様だな?」
ロイがレイトに続いてヴェインへ視線を向ける レイトとヴェインが苦笑して レイトが何とか返事をする
「…あ、ああ …すまん」
レイトとヴェインが視線を逸らす リーザロッテがシャルロッテの説明を聞き終えて言う
「では そのルートね?…レイト!ヴェイン!ロイ!行くわよ!3人とも急ぎなさい!」
リーザロッテと仲間たちがその場を後にする リーザロッテと仲間たちが立ち去った その場所を オライオンが歩いて来て言う
「スプローニの宝玉は手に入れたから 次はシュレイザーだな!」
オライオンとともに歩くロスラグが笑顔で言う
「オライオンは先代勇者の仲間だった ヘクター隊長の息子ッスから 国王様も安心して宝玉を預けてくれるッスね!」
オライオンがロスラグへ向いて言う
「ああ!…その代わり 何で今回は勇者様と一緒じゃねーんだ?って聞かれるから それに答えるのが いっつもめんどーでよー?」
ロスラグがオライオンの顔を覗き込んで言う
「何って答えるッスか?値段の高い宿に泊まりたく無いから って 答えるッスか?」
オライオンが軽く笑って言う
「俺は そー答えたかったんだけど それじゃーダメだって 親父の相棒のプログラマーに言われてさ?だから」
ロスラグがオライオンに注目する オライオンが軽く笑って言う
「デスには悪いけど、魔王の島の結界のプログラムが 実はもう時間切れでーす!ってな?」
ロスラグが衝撃を受けて叫ぶ
「えー!そうなんッスかー!?俺知らなかったッスー!!それに それって チョー大変な事ッスよー!?」
オライオンが一瞬呆気に取られた後 笑顔で言う
「嘘だって!けど俺が言うと 本当みたいに聞こえるらしくってよ!王様も驚いて 焦って貸してくれるんだよなー!」
ロスラグがホッとして言う
「へ?な… なんだ~ 嘘ッスかー… 俺すっげー心配したッスよ!オライオン悪い奴ッス!俺 やっぱオライオンとは別行動するッス!!」
ロスラグが怒って立ち去る オライオンがあっと声を上げた後 軽く笑って言う
「あ… あぁ~ 行っちゃったよ けど 本当は… 嘘じゃ無いんだって言ったら ロスラグの奴 もっと心配するんだろーな?」
シュライツが首を傾げる
【 アバロン城 】
城の通路を歩くヴィクトールに家臣たちが続いて 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下、本日はアバロンのモリエル伯爵から昼食会のお誘いが入っております」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下、その前にツヴァイザーのエルロス大臣がいらっしゃるとの連絡が入っておりますので 是非ともエルロス殿と御昼食を」
家臣Cが言う
「それよりもヴィクトール陛下、新たな部隊としてアバロン海軍を編成するのに機良く シュレイザーのピュッケル提督から 是非アバロンの料理を堪能させて欲しいとの」
ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「いつもいつも 昼食くらい… 気軽に取らせて貰えないのかい?アバロンの料理は確かに美味しいけど そう言う人たちと食べている時は ほとんど味なんて感じていられないんだよ?」
家臣Aが言う
「そうは仰いましても、昼食時は謁見時間を気にせず お話を勧められる絶好の機会と言う事で 皆様は是非とも陛下とのお時間を得たいと必死なのです」
家臣Bが言う
「裏を返せば、逆にアバロンへ融資を行わせる好機とも取れます ヴィクトール陛下は歴代のアバロン王の中でも その腕前は並々ならぬものですので 今回もどうか」
家臣Cが言う
「融資よりも アバロン海軍編成に当たり シュレイザーのピュッケル提督にアバロンの料理を御紹介するという形で」
家臣たちが向き合って どの人物との食事会にヴィクトールを出席させるかを言い合う ヴィクトールが呆れてから振り返って言う
「それなら僕は… 今日はバーネットと取る事にするよ!」
ヴィクトールが笑顔になる 家臣たちが衝撃を受けてから怒って 家臣Aが言う
「何を申されますか!ヴィクトール陛下!」
家臣Bが言う
「そうです!日々の昼食会こそ アバロンへ融資をもたらす絶好の機会!一日も無駄には出来ません!」
家臣Cが言う
「そうです!融資ではなく アバロン海軍編成のための シュレイザーのピュッケル提督は 今日しかアバロンに御滞在致しません!」
ヴィクトールが軽く微笑んで言う
「モリエル伯爵は伯爵と名乗りたかったから各部署に名前を売っているだけだって噂だから アバロンに融資が出来る様な財産は無いと思うし、ツヴァイザーのエルロス殿は先のベネテクト攻略失敗で打ち切られたベネテクトからの融資をアバロンへ求めて来るだけだろ?ピュッケル提督は開戦時に誰よりも早く撤退の指示を出して艦隊を守りはするけど攻略した事は一度もないって言う 守り専門の艦隊提督だ アバロンに引き込んでも意味が無いよ」
家臣たちが呆気に取られる ヴィクトールが笑顔で言う
「だから、今日は彼と昼食を取る 16年前に彼をデネシアから助け出した時に引き続き 昨日もデネシアへ攻め込だ彼を迎に行ったせいで 昼も夜も取れなかったんだ!だから彼とはもう24年振りだね?きっと…」
家臣たちがヴィクトールに注目する ヴィクトールが一度考えた後笑顔で続ける
「時間を気にせず話していたら 夜になっても終らないんじゃないかな?」
ヴィクトールが歩き出す 家臣たちが慌ててヴィクトールを止めようとする ヴィクトールがバーネットの部屋まで来て扉をノックして声を掛けながら開ける
「バーネット、調子はどうだい?良かったら… …あれ?」
ヴィクトールが部屋の中を見渡す 家臣たちが疑問する ヴィクトールが首を傾げて部屋の中でバーネットを探す 家臣たちが顔を見合わせて 家臣Aが言う
「ベネテクト国へ戻られたのじゃろか?」
家臣Bが言う
「それは無理じゃろう?現在もベネテクト国は新国王を定着させるために バーネット2世は死んだと広めている所なんじゃから」
家臣Cが言う
「アバロンでもそれは同じじゃ、だからアバロンの町を歩く事だって良からぬ事 それぐらいの事はあのバーネット殿なら分かるはずじゃて」
家臣たちが相談を終えてヴィクトールへ向く ヴィクトールが1人で考えている 間を置いて首を傾げる
アバロン城下町酒場 バーネットがローブを纏い 賞金稼ぎの掲示板の前で独り言を言う
「くっそぉ… あの日俺がぶっ殺されるって分かってたら もっと有り金を所持しておいたってぇのに… 金が無けりゃ宿に泊まる事も メシにありつく事も出来やしねぇ まずは生活資金だ …ったく なんたってアバロンは国内へ滞在する民に 最低限の保障をしねぇんだぁ?民への愛がなってねぇぜ…」
アバロン城内 ヴィクトールが家臣たちと衛兵に抑えられている 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下!落ち着いてくだされ!昨日の件を踏まえ国境警備の兵には警戒を強化させております!バーネット殿はアバロンからは出られません!」
家臣Bが言う
「そうです!ヴィクトール陛下!先日のデネシアの一件からバーネット殿の生存を何とかもみ消した所 それを不意になど バーネット殿はなさらないはずです!」
ヴィクトールが家臣たちへ向いて言う
「それは そうだけどっ!一緒に悪魔力と戦おうって言ったのに!僕に黙ってバーネットは何処へ行ったのっ!?彼は先代同様 いざとなったら 己の身を省みないからっ!」
家臣Cが慌てて言う
「ヴィクトール陛下!御安心を!バーネット殿は所持金もほとんど無いとの事ですので 夜にはこの城へお戻りになる筈です!」
ヴィクトールが呆気に取られて言う
「所持金?」
ヴィクトールが動きを止める 家臣たちがホッと息を吐く
アバロン城下町酒場 バーネットに書類が手渡される バーネットが疑問する 酒場のマスターが言う
「それじゃ、この書類に名前を書いてくれ」
バーネットが衝撃を受けて焦って言う
「あ!?な、名前っ!?」
酒場のマスターが軽く微笑んで言う
「ああ、アバロンは依頼の賞金を一度城の方で預かっておいて 後日達成した者へ支払われる様になっているんだ こうして置く事で城の方でも腕利きの賞金稼ぎが居る事が把握出来たり 依頼主が支払いを逃れたりする事の無い様に確認する事も出来る」
バーネットが焦る 酒場のマスターが笑顔で書類を勧める
アバロン城内 ヴィクトールが家臣たちと衛兵に押さえられている 家臣Aが言う
「バーネット殿が賞金稼ぎをされるのでしたら お名前ですぐに分かります!」
家臣Bが言う
「もし バーネット殿のお名前が確認されましたら すぐにヴィクトール陛下へお伝え致しますので!」
家臣Cが言う
「ヴィクトール陛下!落ち着かれて下され、バーネット殿は先代同様 賞金稼ぎをする国王でありました!今更、賞金稼ぎ程度で 命を失われる事はございません!」
ヴィクトールが家臣たちへ向いて言う
「それはそうだけどっ!一緒に悪魔力と戦おうって言ったのに!何で1人で賞金稼ぎになんか行っちゃうの!?」
家臣Aが言う
「それはきっと ヴィクトール陛下と共に悪魔力と戦うために その資金集めに向かわれたものかと」
家臣Bが言う
「そうです!ヴィクトール陛下 バーネット殿はヴィクトール陛下と共に戦うため 立ち上がられたのです!」
家臣Cが言う
「バーネット殿はベネテクト国王時代からアバロンからの融資を断り続けてきたお方です きっと今回も御自分で資金を得て 悪魔力の調査を行うのではないかと」
ヴィクトールが呆気に取られ動きを止める 家臣たちがホッと息を吐く ヴィクトールが表情を強めて言う
「なら僕も!一緒に賞金稼ぎをする!!」
家臣たちが驚き 皆でヴィクトールを押さえ付ける 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下!何を仰るのです!貴方はアバロンの王ですぞ!!」
家臣Bが言う
「そうです!アバロンの王たるヴィクトール陛下が 賞金稼ぎなど!!」
家臣Cが言う
「そうです!バーネット殿はもう国王ではないのです!ヴィクトール陛下は アバロンの王なのですぞ!!」
ヴィクトールが怒って言う
「離してくれっ!それなら僕も 今すぐアバロンの王を辞めるよ!悪魔力と戦うため 彼と一緒に 賞金稼ぎをする!」
家臣Aが言う
「何を仰いますか!ヴィクトール陛下!」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下!落ち着いてくだされ!貴方様以外に このアバロンの王は務まりませぬ!」
家臣Cが周囲を見渡して言う
「おいっ 誰か何とかしろ!ヴィクトール陛下が御乱心だ!」
ヴィクトールが玉座に座って言う
「絶対だからね!?賞金稼ぎの受諾者にバーネットの名前を見付けたら すぐに教えて!すぐに捕まえて!すぐに連れて来るんだよっ!?」
家臣たちが溜め息を吐く 衛兵らが呆気に取られる
アバロン城下町酒場 バーネットが書類を酒場のマスターへ提出して言う
「これで良いだろ?」
酒場のマスターが衝撃を受けてバーネットの顔を覗き込む バーネットがイラッとした表情で叫ぶ
「俺が『ヴィクトール13世』に見えるってぇええのか!?あぁあ!?」
酒場のマスターがビクッと驚いた後 顔を横に振って言う
「い、いやいや、まったく見えないが… このアバロンの王である ヴィクトール13世陛下と同じ名前とは… 何とも?」
バーネットが怒って言う
「うるせぇええ!!後であいつから受け取る!だからこれで 受託させやがれ!!」
アバロン城玉座の間 ヴィクトールの前に兵が現れて言う
「申し上げます!ヴィクトール陛下!賞金稼ぎの受託者名に…!」
ヴィクトールが思わず立ち上がって言う
「バーネットを見つけたのかい!?」
兵が一瞬呆気に取られ困った様子で言う
「あ…い、いえ、バーネット殿のお名前は ございません…」
ヴィクトールが息を吐き玉座へ身を静めてから顔を上げ適当に言う
「じゃ何?」
兵がハッとして 慌てて言う
「それがっ 賞金稼ぎ受託者の名前に ヴィ、ヴィクトール陛下の…っ お名前が…」
ヴィクトールと家臣たちが呆気に取られる 一瞬の後 家臣たちが慌ててヴィクトールへ駆け寄って言う
「ヴィクトール陛下!!アバロンの王たる貴方様が 賞金稼ぎなどっ!!」
「御身分を おわきまえ下され!!」
「いかに陛下とおあらされ様とも そのような勝手を 我々に黙って!!」
ヴィクトールが呆気に取られた後 苦笑して言う
「何を言っているんだ?僕を止めたのは 君たちじゃないか?」
家臣たちが衝撃を受け 気を取り直し苦笑して言う
「そ、そうでございました…っ」
「現に ヴィクトール陛下は 今 我々の目の前におられます!」
「と、言う事は?偶然 まったく同じ世代の何処かの『ヴィクトール』殿がアバロンへお越しになり賞金稼ぎを…」
皆が笑い いっせいに気付いてハッとする ヴィクトールが怒って立ち上がって叫ぶ
「今すぐ 賞金稼ぎのヴィクトール13世を ひっ捕らえよーーっ!!」
夜アバロン城
バーネットが通信機に言う
「はっはー 何だよ そんじゃ とっくにベネテクトじゃぁ 俺が生きてるって バレてたんじゃねぇか?もっと早く知らせろよなぁ?お陰で今日の昼なんざ ヴィクトールの奴にひっ捕らえられて 泣きながら叫ばれて大変だったんだぜぇ?」
通信機のモニターのベーネットが苦笑して答える
『そうは言われましても 私も本日ヴィクトール12世様がお越しになるまで 貴方の生存を知らなかったのですよ?それどころか、知らなかったのは私だけで モフュルス殿が貴方を保護した事を知っていたベネテクトの民たちは 私や他国から貴方を守るために『バーネット2世は死んでしまった』と 言い広めていたそうです』
バーネットが一瞬呆気に取られた後 軽く微笑んで言う
「あぁ… やっぱりベネテクトの民は 今でもバーネット1世への恩を 忘れちゃいねぇんだな」
ベーネットが苦笑して言う
『それは勿論ですが、ベネテクトの民は 貴方への恩も忘れては居ません むしろ、今回の事は 貴方へ対する 民からの愛だと思いますよ?』
バーネットが驚き 苦笑して言う
「いや… 俺は何にもやれちゃ居なかった… その結果 てめぇにぶっ殺され掛けた訳だしな?」
ベーネットが苦笑して言う
『御謙遜を?それに、本当に貴方が 民に愛される事も無いような酷い国王であったのなら 私はあの時 急所を外したりなどはしませんでした』
バーネットが呆気に取られた後笑って言う
「ハッ!てめぇが俺を殺しそびれたのは てめぇの剣の腕がなってねぇからだろーがぁ?」
ベーネットが軽く笑って言う
『はい、そうかもしれませんね?それでは 今度こそ貴方を殺しそびれないよう しっかりと腕を磨いておきますので どうぞベネテクト国へいらっしゃる際は お背中に気を付けて?』
ベーネットが笑顔を向ける バーネットが慌てて言う
「2度もてめぇに ぶっ殺されて 堪るかぁああ!!」
バーネットが気を取り直して言う
「それはそうと、ツヴァイザーとやりあったってぇ?てめぇの指揮能力で防げたたぁ ツヴァイザーも随分腕が落ちたじゃねぇか?あそこは昔はどーしようもねぇ国だったが アンネローゼが女王になってからは 元々国技に指定していた槍術をたたき上げていやがった そこそこの国力を付けてやがった筈だってぇのに…」
ベーネットが答える
『はい、私もそれを警戒していたのですが 今回、ツヴァイザーはあまり本気では無かった様に思えます』
バーネットが問う
「そりゃどー言う事だ?」
ベーネットが答える
『最初は 私が貴方をベネテクト国から追放した事を受けての ツヴァイザーからの侵略であると踏んだのですが 確認を続けるうちに どうやらツヴァイザーの女王アンネローゼ殿を幽閉している シュレイザーからの脅迫があった模様で』
バーネットが疑問して言う
「シュレイザーだぁ?あのチョッポクルスが ベネテクトを襲うなんざ…」
ベーネットが頷いて言う
『はい、私もそう思います しかしモフュルス殿の調べによると どうやらその可能性が極めて高いらしいのです 現在も確認を続けているので 何か分かりましたら すぐに貴方へ知らせるようにと…』
バーネットが軽く笑って言う
「いや、俺に知らせる必要はねぇ」
ベーネットが疑問する バーネットが軽く笑ったまま言う
「俺はもうベネテクトの王じゃねぇ 戴冠式は先代に続き してやれなかったが… まぁまぁの王位継承式だったぜ?おかげで 俺もあいつと仲直りが出来やがった訳だしなぁ?」
ベーネットが苦笑する バーネットが言う
「ベーネット、ベネテクトの民と国を頼んだぜ?ベネテクトの王は てめぇだ」
ベーネットが呆気に取られた後 静かに微笑んで言う
『分かりました 父上 ベーネット・ベネテクト ベネテクト国の王位を 確かに継承致しました』
【 ソルベキア国 】
ベリオルの街からソルベキアへやって来たリーザロッテたち リーザロッテが言う
「宝玉はこのソルベキアにもあるわ シャル、ツヴァイザーからの私の捜索命令は ソルベキアには伝わって居ないのよね?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「はい、リーザロッテ王女の捜索令状は 大陸東部のみになります 大陸中部や西部には伝わっていません」
レイトがリーザロッテへ言う
「しかし、リーザ様 ソルベキアはローレシアと様々な条約を交しているため 例えツヴァイザーの名を出しても ローレシアの勇者を差し置いて リーザ様へ宝玉を預けて頂けるものとは思えません」
リーザロッテが考えてから言う
「確かにそうね それに、ソルベキアは隣国のローゼントとの仲も悪いし そのローゼントの元王女であったお母様の娘である私には 宝玉を貸しては下さらないかもしれないわ ローレシアの勇者が手に入れていない別の国の宝玉を捜した方が良さそうね?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「ちなみに、このソルベキアの宝玉はまだ ローレシアの勇者の手には渡って居ません 現在ローレシアの勇者たちはスプローニ国周囲に居るものと思われます」
ヴェインが言う
「ローレシアの勇者がソルベキアを後回しにしたと言う事は ローレシアからアバロンそしてベネテクトからスプローニへ向かったのだろうか?」
ロイがヴェインへ向いて言う
「…ローレシアからガルバディア、ベネテクト、スプローニの可能性もある」
リーザロッテがシャルロッテへ向いて言う
「シャル、アバロンとガルバディアの宝玉がどうなっているかは分かって?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「宝玉がどうなったかは分からないですが ローレシアの勇者たちの宿記録から考えると ヴェインさんが言ったルートを通った可能性が有力です」
リーザロッテが考えて言う
「それではアバロンの宝玉は渡ってしまった可能性が高いわね 残るはシュレイザーとソルベキアとガルバディア… 今彼らがスプローニ周辺にいると言う事はシュレイザーの宝玉は彼らに奪われてしまうでしょうから 残るはソルベキアとガルバディア… そうとなれば やっぱり ソルベキア国王にもお願いしてみましょ?国を閉ざしているガルバディアよりは可能性があるかもしれないわ」
ロイが言う
「…だが、ソルベキアの王と謁見を行い ツヴァイザーの王女である事を明かしてしまっては 例え捜索令状が出されて居ない大陸中部であっても 貴姉がソルベキアに居る事がツヴァイザーへ伝わってしまうのではなかろうか?」
リーザロッテが困った表情で言う
「それはそうかもしれないけれど… そうでもしなければ 宝玉は手に入らないわ ここは仕方なく」
シャルロッテがハッとして言う
「そ、そそそれなら!わ、私 1つ名案がありますぅ!!」
皆がシャルロッテを見る レイトとヴェインが顔を見合わせ レイトが言う
「名案かどうかは聞いてみなければ分からんが…」
ヴェインが苦笑して言う
「自ら『名案』と言い放つとは…」
リーザロッテが問う
「その名案とは?」
【 ソルベキア城 玉座の間 】
ソルベキア国王が言う
「ローレシア国2代目勇者ザッツロード殿の仲間 スプローニ国のロキ殿とローゼント国のヴェルアロンスライツァー殿 よくぞ我がソルベキア国へ参られた それで、用件は?」
ソルベキア国王の言葉に ローゼント国の鎧を着たレイトが言う
「はっ!本日は3代目勇者ザッツロードに代わり 我々がこのソルベキア国の宝玉を預かりに 伺わせて頂きました」
レイトの横で ロイが言う
「…公にはされておりませんが 現在アバロンに滞在している我々の仲間である 元ガルバディアのプログラマーが作り上げた 魔王の島の結界のプログラムは既に限界に達しており 一刻の猶予もありません」
レイトが冷や汗を掻きながら続ける
「従って ザッツロードの故郷であるローレシアとの親睦の厚い このソルベキア国のガライナ国王陛下であらされば この非常事態に仲間を遣わせた ザッツロードの非礼をお許し頂けるのではないかと思い 僭越ながら我々2人が 宝玉の受け取りに伺わせて頂きました」
ソルベキア城の外 リーザロッテとヴェインとシャルロッテが待っている リーザロッテが言う
「確かに、本来仲の悪いローゼント国の騎士と スプローニ国の銃使いが2人で訪れれば 先代勇者の仲間だったヴェルアロンスライツァーとロキに見えなくは無いかもしれないけれど… 本当に大丈夫かしら?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「ソルベキアは国王との謁見には 事前に生態識別確認を行うので 例え外見が似ていたとしても それだけではすぐに正体が暴露されてしまいます」
ヴェインが驚いて言う
「な!?それでは!彼らは国王への詐欺容疑で 捕らえられてしまうではないか!?」
リーザロッテとヴェインがシャルロッテへ詰め寄る シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「しかし、生態識別確認は最近始められたもので 収集してあるデータはかなり少ないんです 親子やとても近い親戚に当たる人物だったりすると その差が分からない程度で」
リーザロッテが慌てて言う
「シャル!例え同じスプローニ国のロイとロキが とても近い親戚だったとしても レイトとヴェルアロンスライツァーじゃ 国すら違ってよ!?」
ヴェインが言う
「そもそも 同じスプローニ国で 名前さえも似ていたとしても ロイとロキが とても近い親戚である可能性は分かりかねる!」
シャルロッテが2人の慌て様に首を傾げて言う
「え?レイトさんはヴェルアロンスライツァーさんの息子さんですし、ロイさんはロキさんの甥子さんですよ?」
リーザロッテとヴェインが衝撃を受けて顔を見合わせる シャルロッテが不思議そうに眺めてから言う
「あれ?もしかして 知らなかったんですか?その証拠に… ほらー!」
シャルロッテが指差す リーザロッテとヴェインがシャルロッテの指す方を向く
レイトとロイが疲れた様子でソルベキア城から出てくる レイトが言う
「例えリーザ様のご命令であっても この命だけは… もう… もう…」
ロイがレイトの言葉に続けて言う
「…二度と御免だ」
レイトの手にソルベキアの宝玉が握られている
【 結界の島 】
プログラマーが結界の島の前へホログラムを現していて 周囲にホログラムのモニターをいくつも出しながら 結界を確認している 海岸に置かれたモバイルPCと宝玉を見て 表情をひそめる
【 ローレシア城下町 】
ヘクターがローブに身を隠してローレシア城を見上げている ウィザードが後ろに居る ヘクターが視線を変えずに言う
「デス、どうだった?やっぱり結界はヤベーのか?」
何もない空間からプログラマーの声がする
『ああ、いかにプログラムを改良しようとも 元々蓄えられていた宝玉の聖魔力には限界がある』
ヘクターが視線を変えて言う
「アバロンの宝玉は どっか行っちまったって言うし ザッツたちの居所も分からねー… ヴェルやロキは諦めちまってるし…」
ウィザードが言う
「ヴィクトール国王はベネテクトの元国王との仲を改善したお陰で 悪魔力や魔王との戦いを再開する気になったと言っていたが?」
ヘクターが視線を向けないまま言う
「ヴィクトールは 3代目勇者と今のローレシアと戦わなきゃならねー 2代目勇者だったザッツたちを助ける余裕なんてねーんだ そうとなれば… ザッツたちはやっぱり俺たちが助けてやらねーと…」
ウィザードがプログラマーの姿を探しながら言う
「姿を隠して行けるのならば お前がローレシア城内を確認してくれば 良いのではないのか?」
何もない空間からプログラマーの声がする
『ローレシアは 我らガルバディアのプログラマーが 国外へ出る様になってから ローレシア城には近付けぬ様 ソルベキアへ依頼し 防御プログラムを組ませていた』
ウィザードが首を傾げて言う
「お前の力を持ってしても それを逃れる事は出来ないのか?」
ヘクターが何も見えない空間へ向く ヘクターの視線の先からプログラマーの声がする
『前回の捜索時に 苦労をさせられた… どう言う訳かソルベキアは かなりの力を入れて『私の』進入を 拒もうとしているらしい』
ヘクターが横目にローレシア城を見上げて言う
「けど、結果として 城内にザッツたちは居なかったんだろ?それでも まだ『お前』が入るのを拒むって事は… 何か俺たちに すげー見られちゃ困る物があるんだろーな?」
プログラマーが答える
『その可能性が極めて高い 防御プログラムが 『私を』標的にしている事からも ザッツロード6世らが関係している可能性が示唆される』
ウィザードがヘクターへ向いて言う
「どうする?お前がやりたいと言うのであれば 我らの力を持ってして ローレシア国の1つ程度 破壊出来る」
ヘクターが笑って言う
「まーそう言うなって?昔の俺だったら そうしただろうけど 今の俺には守んなきゃいけねーもんが たくさんあるんだ!帰るべきアバロンもアバロンを維持するヴィクトールも守んなきゃいけねー 今ならロキとヴェルの言ってた事が分かるぜ 国も王も 俺には両方大切だ」
プログラマーが言う
『そして、お前が彼らへ答えた 仲間であるザッツロードらも 助け出さなければならない… 例え一国を破壊する力を有していても 我らだけでは難しいな?』
ヘクターが溜め息を吐いて言う
「ああ… やっぱ皆の力がねーとダメみてーだ ここは一先ず アバロンへ帰ろうぜ?」
ヘクターが苦笑する ウィザードが頷き移動魔法を使う
【 アバロン城 】
ヴィクトールが城の通路を走っている 家臣たちが追いかけながら家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下ー!!本日はアバロンのレオンハルト公爵から昼食会のお誘いがーっ!!」
家臣Bが言う
「ヴィクトール陛下ー!!その前にスプローニのライドン大臣がいらっしゃるとの連絡が入っておりますので是非ともライドン殿とーっ!!」
家臣Cが言う
「それよりもヴィクトール陛下ー!!新たな融資先として アバロン情報部を編成するのに機良く シュレイザーのハップリン教授から 是非アバロンの料理をー!!」
ヴィクトールが走りながら振り返って言う
「今日こそ バーネットと昼食を取る!それらは全て却下だ!!」
家臣Aが言う
「そうは仰いましても、ヴィクトール陛下ー!!」
家臣Bが言う
「裏を返せば、逆にアバロンへ 融資を ヴィクトール陛下!!」
家臣Cが言う
「融資よりも アバロン情報部を シュレイザーのハップリン教授ですぞ 陛下ー!!」
家臣たちが向き合って どの人物との食事会にヴィクトールを出席させるかを言い合おうとするが ヴィクトールが振り返って言う
「レオンハルト殿の邸宅は競売に掛けられている アバロンへの融資なんか無理だ!スプローニのライドン殿は両国の友好を確認に来るだけ!!ハップリン殿の研究は 良質チーズ製作に置ける微生物研究!今のアバロンには必要ないっ!!」
家臣たちが呆気に取られる ヴィクトールがバーネットの部屋の前で笑顔で言う
「だから、今日は彼と昼食を取る 16年前に彼をデネシアから助け出した時に引き続き 先日はデネシアへ攻め込んで 昨日も賞金稼ぎのヴィクトール13世を名乗っていた彼をひっ捕らえていたせいで 昼も夜も取れなかったんだ だから彼とはもう24年振りだね きっと…」
家臣たちがヴィクトールに注目する ヴィクトールが一度考えた後笑顔で続ける
「時間を気にせず話していたら 明日の朝になっても終らないんじゃないかな?って事で!」
家臣たちが衝撃を受ける ヴィクトールが声を掛けながら扉を開ける
「バーネット!…あれ?」
ヴィクトールが部屋の中を見渡す 家臣たちが疑問する ヴィクトールが疑問して部屋の中でバーネットを探す 家臣たちが顔を見合わせ 家臣Aが言う
「ベネテクト国へ戻られたのじゃろか?」
家臣Bが言う
「そうかもしれんの?現在はベネテクト国の新国王の定着も終り バーネット2世は生きとった事も 広まっちょる事じゃし?」
家臣Cが言う
「アバロンでもそれは同じじゃ、だからアバロンの町を歩く事だって特に問題ない それぐらいの事はあのバーネット殿なら分かるはずじゃて」
家臣たちが相談を終えてヴィクトールへ向く ヴィクトールが怒りを湧き上がらせて叫ぶ
「今すぐバーネット2世・ベネテクトを ひっ捕らえよーーっ!!」
玉座の間 バーネットが両脇をアバロン兵に抑えられスライドして連れて来られる ヴィクトールが玉座から立ち上がり泣きながら叫ぶ
「バーネット!!君と言う人はー!!何で いつもいつも 僕に黙って出て行っちゃうのーーっ!!」
バーネットが怒って言う
「るせぇええ!!俺が出歩くのに イチイチてめぇに許可なんざ取って 堪るかぁああ!!でもって 国家部隊使って ひっ捕らえやがるんじゃねぇええ!!」
ヴィクトールがバーネットと昼食を取りながら ヴィクトールが言う
「それで、バーネット 君に頼みがあるんだ」
バーネットが疑問して言う
「あぁ?俺はもうベネテクトの王じゃねぇんだ アバロンの王の役になんざ立てねぇぜ?」
ヴィクトールが微笑んで言う
「うん、僕ではなくて」
バーネットが疑問して言う
「てめぇじゃなくて?」
バーネットがヴィクトール14世へ剣の稽古を付けている それを見守るヴィクトールのもとへヴィクトール12世が来る ヴィクトールが気付いて言う
「父上が昔、私の剣の稽古役にバーネット1世様を付けて下されたのは こういう事だったのですね?」
ヴィクトール12世が優しく微笑んで言う
「ああ… 実に懐かしい風景だ 力と勢いの大剣に対し 速度と慣性を利用する細身のレイピア 一見 稽古の相手としては相応しく無い様に見えるが その実 互いの長所短所を見極め それを補う事も そこから得られる事も実に多い そして何より」
ヴィクトール14世が バーネットの攻撃に床に倒れ 涙目になる バーネットが怒って言う
「こんくれーで泣いてんじゃねぇええ!!この泣き虫ヴィクトールがぁああ!!」
ヴィクトール14世が一瞬の後 思いっきり泣きながら叫ぶ
「だってーっバーネット様が怖いからーっ!!」
バーネットが怒って叫ぶ
「てめぇええは アバロンの王子だろぉお!!この程度でビビッてんじゃねぇええ!!」
ヴィクトールが一瞬驚き 微笑んで言う
「私も良くバーネット1世様に言われました『お前はアバロンの王子だろう』と… 昔は 自分がいずれこのアバロンを支える事となる アバロンの王子だなんて どうしても実感が持てず そして自信も持てなかった」
ヴィクトール12世が軽く笑って言う
「彼の稽古を必要としなくなる頃には あの子も自信を持てる様になる そして、バーネット2世の居場所もこのアバロンに定着しているだろう」
ヴィクトールが疑問して言う
「ヴィクトールがバーネットの稽古を必要としなくなる頃には 稽古役のバーネットの居場所はアバロンから無くなってしまうのでは?」
ヴィクトール12世が立ち去ろうとする足を止め 振り返って微笑んで言う
「それがこのアバロンと言う国だ きっとお前たちなら 成し遂げられるだろう」
ヴィクトールが疑問する ヴィクトール12世が微笑んで立ち去る
【 デネシア国 城下町 】
ニーナとミーナが道を歩いている ミーナが言う
「ローレシア領域の町や村、城下町も回って調べたのに どれもこれも おとぎ話みたいな勇者様の伝説ばっかり…」
ニーナが微笑んで言う
「勇者様はドラゴンの背に乗って 魔王の島へ行って宝玉の精霊様の力を借りて 魔王を倒して封印したのー」
ミーナが溜め息を吐いて言う
「ドラゴンなんて居ないし、お父さん達の話で宝玉の力だけでは 魔王は倒せないって分かってるし 魔王を今封印しているのはプログラマーのデスさんの力じゃない?」
ニーナが首を傾げて言う
「んー?でも ウィザードのデスさんは ベネテクト国の王様と一緒に ドラゴンを退治したって言ってたよ?」
ミーナが苦笑して言う
「それはガルバディアの実験体か何かだって言ってたじゃない?ガルバディアがそう言う実験を始めたのは 私たちのお爺ちゃんたちの頃の話だから 初代勇者様たちの時代には ガルバディアの実験体自体 居なかったんだから」
ニーナが微笑んで言う
「それじゃー 初代勇者さんの頃に ドラゴンは居ないのー」
ミーナが苦笑した後 落ち込んで言う
「せっかく私たちも力になりたいって アバロンを出てきたのに 結局 何にもならなかったね…?」
ニーナがミーナの方を向き 少し寂しそうな表情で言う
「うん… でも、私ミーナと旅が出来て とっても楽しかったよ?」
ミーナが呆気に取られた後 微笑んで言う
「そうだね、私も楽しかった アバロン以外の国で色んな人と話すのも 良いものだね?」
ニーナが笑顔で言う
「うん!アバロンだけじゃなくて 他の国にも 優しい人が一杯居るって 分かったのー」
ニーナとミーナがデネシア国の移動魔法陣に到着する ミーナが言う
「…ねぇ ニーナ?このままアバロンへ帰るより もう少し他の国を回ってみようか?兄さんが向かった大陸東部の方とかも…?」
ニーナが呆気に取られた後 微笑んで言う
「そうだね!勇者さんのお話は聞けないかもしれないけど もしかしたらお父さんのお友達にも 会えるかもしれないのー」
ミーナが笑顔で言う
「それじゃ、ここからアバロンだと アバロンに帰りたくなっちゃうかもしれないから ガルバディアの方に行こうか?」
ニーナが笑顔で頷いて言う
「うん!ガルバディアはプログラマーのデスさんの故郷なの デスさんは今アバロンに居るけど もう1人のお兄ちゃんと ウィザードのデスさんがお世話になった国でもあるのー」
2人が歩きながらミーナが言う
「そうだねー 一体 どんな国かなー?」
ニーナが言う
「きっと機械が一杯の国なのー」
【 スプローニ国 領内荒野 】
バッツスクロイツの前で アンドロイドのデスがロボット兵を倒す バッツスクロイツが軽く笑って言う
「これで依頼のお仕事 おーしまーい デスー お疲れー!」
アンドロイドのデスが戦闘モードを解除して バッツスクロイツのそばへ来る バッツスクロイツが苦笑して言う
「いやぁー それにしても?まさか戦闘プログラム無しで こんなにばっちり戦えちゃうなんてなー?もしかして…」
バッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げて言う
「Demonic Subaltern Uhlanって… 父さんの趣味で名付けただけじゃなくて 本当に そのまんまの意味… だったり… して…?」
バッツスクロイツが疑問する 間を置いて笑い出して言う
「んな訳ないよなー?あの平和ボケした世界に 騎士が必要だなんて 誰も思わないーってね?」
バッツスクロイツがロボット兵の部品を取って言う
「それにしても せっかくロスっちに返すお金手に入れたのに ロスっちどこ行っちゃったんだー?もう少しこの国に居てみようかなー?それとも別の国に…?」
バッツスクロイツが道端の石に腰掛け考える 遠くからラナとセーリアが対人移動魔法で バッツスクロイツを目掛けて飛んでくる アンドロイドのデスが気付く ラナが叫ぶ
「セーリア!!手前よ!!てまえー!!」
バッツスクロイツが声に気付き 顔を上げて驚く ラナとセーリアがバッツスクロイツの手前で アンドロイドのデスに掴まれ押さえられる セーリアが言う
「ご、御免なさい…っ」
ラナが溜め息を吐いて言う
「危なかった…」
バッツスクロイツが目を丸くして言う
「な…!?何で 空からレディが飛び込んで…!?」
ラナとセーリアがアンドロイドのデスの手から開放される ラナがアンドロイドのデスを見て言う
「そう… そう言う事ね!?セーリア!」
セーリアが苦笑する バッツスクロイツが疑問して言う
「はぁ?…て言うか 君ら この前の…?」
セーリアがバッツスクロイツへ向いて言う
「先日お助けを頂いたばかりだと言うのに 不躾なお願いがあって参りました どうか、私たちの仲間を お助け頂けないでしょうか?」
バッツスクロイツが呆気に取られて言う
「え?何?俺が?」
ラナがバッツスクロイツの腕を掴んで泣きそうな顔をして言う
「お願い!一緒に来て!早くしないと ザッツとソニヤがっ!!」
バッツスクロイツが驚いてから 気を取り戻して言う
「あ、ああ 分かった…?あ、いや… 分かんないけど?とりあえず 切羽詰ってるって事は分かったよ?…俺たちが一緒に行けば 良いんだよな?」
ラナとセーリアが笑みを見せる
【 デネシア国 】
リーザロッテと仲間たちが移動魔法陣に現れる リーザロッテが言う
「さぁ、次はガルバディアへ急ぎましょ!」
レイトが問う
「リーザ様?宝玉はとりあえず1つ手に入れたのですから 次に我々が向かうのは『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所』では無かったでしょうか?」
リーザロッテが振り返って笑顔で言う
「その『悪しき魔力が噴出す 魔界との穴の場所』とガルバディアの宝玉 両方が同じ場所にあるのよ?ローレシアの勇者たちも まだガルバディアには行っていないのだから どうせなら ガルバディアの宝玉と その魔界との穴の場所 両方をいっぺんに制覇してしまうのよ!」
リーザロッテが歩き出す レイトが困った表情で視線で追う ロイが隣に来て言う
「…ガルバディアの国王へは 先の作戦は役立たないと思われる そして、万が一有効だったとしても 俺は行わない 卿のみにて行え」
レイトが焦ってロイへ向く ロイが歩き出す シャルロッテが来て言う
「も、もももし有効だった時にはっ レイトさんのローゼント甲冑姿をっ ま、また見られますねっ?」
レイトが衝撃を受けてから 僅かに頬を染めつつ言う
「わ、私はツヴァイザーの騎士だ!ローゼントの騎士の真似事など もう二度と…っ!」
ヴェインが横に来て言う
「シャルではなく、リーザ様が命じられても しないつもりか?」
レイトがヴェインへ向いて言う
「リーザ様はツヴァイザーの王女様であらされるっ シャルとは異なりローゼントの甲冑姿などを 好まれる筈が無かろう!?」
シャルロッテがモバイルPCに顔を隠しながら言う
「で、でもっ リーザも レイトさんの甲冑姿は 素敵だって言ってましたよ?」
レイトが衝撃を受けてシャルロッテへ向いて言う
「ひ、姫様がっ!?」
ヴェインが呆れて言う
「…それで?姫様がツヴァイザーの騎士であるお前に ローゼントの甲冑を装着しろと 命じられたら?」
レイトが答える
「姫様からの恩命とあれば 私は従うまで!」
ヴェインが溜め息を吐いて言う
「やはり お前は あのヴェルアロンスライツァーの息子なのだな…」
リーザロッテが振り返って呼ぶ
「そこの3人 急ぎなさい!?ローレシアの勇者に遅れを取る訳には行かなくてよっ!?」
レイトがリーザロッテへ向いて答える
「はっ!直ちに!リーザ様!」
ヴェインが呆れる シャルロッテがくすくす笑う
【 アバロン城 】
玉座の間の手前にある部屋で バーネットがヴィクトール14世の剣の稽古をしている その様子が見える玉座に座るヴィクトールの前で 家臣Aが言う
「ヴィクトール陛下、スプローニ国に続きローゼント国との連絡も途絶えてしまいました」
家臣Cが言う
「やはりシュレイザー国が各国へ アバロンとの連絡を停止するよう伝達したと言う ベネテクト国のベーネット殿からの連絡は正しい情報ではないかと思われます」
ヴィクトールが真剣な表情で考えながら言う
「そうか… では、やはり… 先日のスプローニの大臣ライドン殿との昼食は 取っておくべきだったかなぁ?」
ヴィクトールが苦笑する 家臣Bが怒って言う
「ですから!私めは ライドン殿と昼食を取られる様にと!!」
ヴィクトールが照れて言う
「しょうがないじゃないか?あの時はバーネットに ヴィクトールの稽古役を任命する必要があったのだから それに翌日には 今までに断った者たちを全て合わせて 大昼食会を行って アバロンへの3つの融資を約束させて シュレイザー国への海からの密偵と自白チーズの製作も取り次いだのだし?…もっとも それらの者とも連絡が出来なくなってしまったから 意味がなかったけどね?」
家臣Bが怒って言う
「ですから!全てを別の日に回してでも ライドン殿との昼食を優先するべきだったのです!」
家臣Aがが言う
「どれも今更言っても意味がありませぬ 今は連絡が取られなくなってしまった各国への処理を考えませぬと」
ヴィクトールが頷いて言う
「うん、連絡が途絶えてしまったのはローレシア、ソルベキア、ローゼント、カイッズ、ツヴァイザー、スプローニ、シュレイザー… むしろ連絡が繋がっている国を数えた方が 早い状態だね?」
家臣Cが言う
「連絡が繋がっているのが デネシアとベネテクト そしてヴィクトール陛下のみと言う事になりますが ガルバディア …これら3つの国は現在もアバロンとの連絡を続けている国… 言わば アバロンの味方と言う事になりますな?」
ヴィクトールが表情を少し悩ませて言う
「つまり我らを除く10の国の内 半分以上の7カ国が アバロンの敵となってしまった事になるね?ガルバディアは確かに強い科学力を持っては居るが 部隊などは有して居ない それに ソルベキアとの戦いに加勢して貰う事は出来ても 一国で他国を押さえる事は難しい… デネシアもローレシアを押さえきれないし ベネテクトだけで東の大陸を押さえる事も出来ない…」
家臣Bが焦って言う
「ヴィクトール陛下!?我らアバロンは どうなってしまうのでしょうか!?」
手前の部屋 ヴィクトール14世が玉座の間から聞こえる会話に一瞬顔を向けて怯える バーネットが気付いてヴィクトール14世を強く攻撃する ヴィクトール14世が剣を弾かれ床に倒れる バーネットが言う
「戦いの最中に気ぃ散らしてんじゃねぇええ!!」
ヴィクトール14世がバーネットを見上げて言う
「し、しかし バーネット様…っ」
ヴィクトール14世が俯く バーネットがヴィクトール14世を見下ろして言う
「ハッ!てめぇはアバロンの王子だろ?そのくせ このアバロンってぇ国を信じられねぇのかよっ?」
ヴィクトール14世が驚いてバーネットへ向く
玉座の間では会話が続けられていて ヴィクトールが言う
「各国が突然連絡を止めたのには 何か意味があるはずだ そして、それは 直接アバロンへの攻撃ではない 現に物流や人の移動への制限はされていないのだから… 本気でこのアバロンを攻め込るつもりであるのなら 連絡を止めるよりも それらの動きを止める方が よっぽど打撃になる」
家臣たちが顔を見合わせる ヴィクトールが家臣たちへ言う
「直ちに連絡を止めた各国へ使者を送れ!通信ではなく 直接向かい話を聞いて来るんだ!」
家臣たちが返事をして立ち去る
手前の部屋 ヴィクトール14世が呆気に取られる バーネットが軽く笑って言う
「アバロンと他国との繋がりは そんなに弱っちぃもんじゃねぇんだよ 国王同士の友好条約は 国家条約では無い代わりに 時にはそれ以上の強さを見せる アバロンはローレシアとソルベキア以外の 全ての国と それらを交している そして 例え国同士の戦いがあろうとも そいつは一度も途絶えちゃいねぇんだ」
ヴィクトール14世が驚いた表情でバーネットを見上げる バーネットがヴィクトール14世を見下ろして言う
「…けど?それもてめぇで全部 潰えっちまうかもなぁ?」
ヴィクトール14世が驚いて言う
「えっ!?」
バーネットが剣を肩に掛けて言う
「各国がアバロンとの友好条約を死守して来たのは それだけアバロンが強かったからだ 友情と慈愛を力として 全てを受け入れ全てを守る… その強さが他国の王たちを認めさせ 例え国同士で戦う事があっても 決して忘れさせはしなかった …だが、てめぇはどうだぁ?ちょいと連絡が途切れて無視されただけで ビビって俺の剣にぶっ飛ばされて 腰抜かしてんじゃねぇか?」
ヴィクトール14世が怯える バーネットが笑んで言う
「てめぇみてぇな ただの弱虫の泣き虫なんざ 他国の王が認める訳がねぇ アバロンはもうダメだ このアバロンはヴィクトール13世で終わりだ 今までずっと信じて手を貸してくれた 他国の王からも見放されて てめぇのせいで このアバロンはぶっ潰れちまう …まぁ良いんじゃねぇか?いつまでも過去の栄誉にすがっているだけの アバロンの王なんざ情けねぇ ただのカスだ てめぇのせいで この栄誉あるアバロンが 他国の王に蔑まれるよか とっととぶっ潰れて終わった方が良いだろう?」
ヴィクトール14世が落ち込む バーネットが続ける
「哀れなのは民だ てめぇはとっととくたばって消えられるかもしれねぇが 残されたアバロンの民たちはそうはいかねぇ 過去の栄誉のせいで より無様な扱いを受ける事になる 何処の国へ行ったって てめぇのアバロンのろくでもねぇ民なんざ 受け入れて貰えるかも分からねぇ そうだろう?てめぇが無駄に王位なんざ継いでみろ?そのてめぇのアバロンに騙された他国の奴らから 残されたアバロンの民は蔑まれて生きるんだぜ?」
ヴィクトール14世が震えながら言う
「ぼ… 僕は…っ」
バーネットがため息を吐き背を向けて言う
「俺はてめぇの指導役を降りる わざわざ俺の居場所を作ってくれたあいつには悪いが てめぇはダメだ まったく王の素質がねぇ あぁ、ついでに伝えといてやるよ このアバロンは終わりだってなぁ?あいつも泣いて落ち込むんじゃねぇか?けど、しょうがねぇよな?ヴィクトール13世のガキが こんな役立たずじゃ …いや?ひょっとして てめぇの父親である ヴィクトール13世も本当は ただのカスだったんじゃねぇか?過去のアバロンの栄誉にすがっているだけのよ?てめぇと同じ ただの泣き虫ヴィクトールなんだよ!」
ヴィクトール14世が驚き 表情を怒らせて立ち上がって言う
「父上を悪く言うなっ!!」
バーネットが振り返って口角を上げて言う
「ハッ!悪く言うなだぁ?冗談じゃねぇ 俺はベネテクトの王として あいつには山ほど貸しがあるんだ …だってぇのに 本当はただのカス野郎だったなんてなぁ?俺の方が落ち込みてぇ気分だぜ?まぁ今更言っても仕方ねぇ そうとなりゃ この際 俺が機をみて このアバロンを乗っ取ってやれば 全ての貸しが戻って来るぜ!アバロンの国も民も俺のもんだ!難なら ついでに あいつと一緒に てめぇも俺の下に付けてやっても良いぜぇ?…あぁ やっぱりダメだ 親子揃って泣いてるだけじゃ 気分も萎えるってもんだよなぁ?あっははははっ!」
バーネットが笑う ヴィクトール14世が怒り バーネットへ攻撃しながら叫ぶ
「わた…さないっ!渡さない!このアバロンは!!渡さないっ!!アバロンの国も民も父上も お前になんか渡さないんだーっ!!」
バーネットがヴィクトール14世の振るわれた大剣をレイピアで押さえる レイピアが折れる バーネットが少し焦って回避する ヴィクトール14世が怒りのままに バーネットへ攻撃を続ける バーネットが回避して 予備の剣を手に取り応戦する
玉座の間 ヴィクトールがバーネットたちの様子に気付いて顔を上げる 家臣Aが戻って来て言う
「ヴィクトール陛下 この際ですので 連絡が途切れていない国に関しましても 念のため使者を送り… ヴィクトール陛下?」
手前の部屋 バーネットがヴィクトール14世の勢い任せの大剣の攻撃に押され始める バーネットが言う
「お、おいっ?てめぇ…っ いい加減 気づき…っ」
ヴィクトール14世が怒りのままに大剣を振って言う
「アバロンは!友情と慈愛の国!父上は ずっとお前を 親友だって言ってたのに!お前と一緒に戦うんだって 言ってたのに!お前みたいに父上を 裏切る奴なんか 僕は 大嫌いだっ!!お前に取られる位なら 僕が…っ! 僕がっ!このアバロンの王になるっ!僕が皆を!父上もアバロンも 全てを 守るんだーっ!うああああーーっ!」
ヴィクトール14世の大剣を受け バーネットの手にある剣が弾かれて バーネットが地に倒れる ヴィクトール14世が大剣を振り上げ叫びながら振り下ろす バーネットが焦る ヴィクトール14世が振り下ろした大剣を ヴィクトールが大剣で受け止める ヴィクトール14世がハッとしてヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが軽く笑って言う
「うん、上出来だ ヴィクトール でも、彼は私の大切な親友だ とどめは刺さないであげてくれ」
ヴィクトール14世が呆気に取られたまま言う
「ち、父上っ!?しかしっ この者は…っ 父上を 裏切って…っ アバロンを…っ!」
バーネットが溜め息を吐いて言う
「…はぁ 遅せぇんだよ?ヴィクトール…」
ヴィクトールがバーネットへ向いて言う
「ごめんバーネット、なかなかヴィクトールが『アバロンの王になる』って言ってくれなかったから」
バーネットが立ち上がり ヴィクトールが大剣を鞘へ収める ヴィクトール14世が疑問しながらヴィクトールへ向いて言う
「父上…?」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「ヴィクトール、バーネットとの剣の稽古は これで終了だ」
ヴィクトール14世が呆気に取られて言う
「え?しかし… バーネット…様との稽古は 先日始めたばかりで…」
バーネットが手を擦りながら言う
「てめぇはとっくに 大剣使いとしての力を持ってやがったんだ 足りて無かったのは それを使おうとする意思だ」
ヴィクトールが微笑んで言う
「大剣使いに必要な素質は 大剣を自在に扱うための力と勢い しかし、そのどちらも 強い意思が無ければ 扱う事は難しい ヴィクトール、お前は 私と同じで、例えそれらを持ち合わせていたとしても 表に出す事が苦手なのだろう しかし、一度その力に気付ければ 後は自分を信じれば良い それが出来なければ 自分の守りたいものを強く思うんだ それがアバロンであっても 誰か大切な人であっても きっとお前なら 大剣使いとしての力を 扱える様になる」
ヴィクトール14世が呆気に取られた後 バーネットへ向いて言う
「で、では…?バーネット様は 私にそれを気付かせる為に?…わざと?」
バーネットが呆れて言う
「当ったりめぇだろ?このアバロンの一番の友好国の王であった俺が?今更アバロンもヴィクトールも裏切って堪るかってんだ!」
ヴィクトールが微笑んで言う
「歴代のアバロンの王子は ベネテクトの王に剣の指導を受けているんだ 理由は大剣と細身の剣との違いから得られる剣術の取得の他に アバロンとベネテクトの友情の強さを 身を持って知る事も含まれている」
バーネットが苦笑して言う
「はっはー 本当の所は 歴代アバロン王が自分の息子を 厳しく躾けられねぇから なんじゃねぇのか?」
ヴィクトールが照れながら言う
「あっははっ 確かにそうなのかもしれないね?自分の守りたい者である我が子に対して大剣は振えないし 子も守るべきアバロンの王である 自分の父親に対して力を発揮する事は難しいだろうし」
バーネットが笑んで言う
「その点こっちは ガキの頃から鞭打って ベネテクトの王として叩き上げてやるけどなぁ?」
ヴィクトールが青ざめて言う
「バーネット1世様がバーネットを躾けている姿は 今でも僕の悪夢として度々夢に見るよ…」
バーネットが笑顔を見せる ヴィクトール14世が怯える
【 竜族の村周辺 】
ニーナの手を引き ミーナが周囲を見渡しながら言う
「森に入ってから 全然方向が分からなくなっちゃった どっちに行こう…?」
ニーナが首を傾げて言う
「やっぱり一度 デネシアに移動魔法で戻る?あんまり森の奥へ行っちゃうと 魔物が出てくるかもしれないの…」
ミーナが軽く笑って言う
「魔物が出てきたら その時移動魔法で逃げちゃえば良いでしょ?それまでもう少し歩いてみようよ?せっかくここまで来たんだし」
ニーナが微笑む ミーナが頷いて言う
「でも、方向が分からないのは困るよね?どうして急にコンパスがおかしくなっちゃったのかな…?」
ニーナが少し考えて言う
「前にお母さんが読んでくれた本の中に 強い魔力があると磁気がおかしくなっちゃうってあったの コンパスって磁気を感じているんでしょ?」
ミーナが驚いた様子で言う
「そうだね コンパスは磁気を感じて北を指すね …でも強い魔力なんて この森の中にあるのかな?」
ミーナが見渡す ニーナが間を置いて言う
「ミーナ?向こうの方にね 魔力を感じるよ?」
ミーナがニーナの示す方へ向いて言う
「向こうか… うーん 多分ガルバディアへの方向では無いと思うんだけど その魔力の元を確認するのは 良いかも知れないね?行ってみようか?」
ニーナが頷いて言う
「うん!いざとなったら この袋に入ってる宝石さんに お願いすれば良いの!」
ミーナが苦笑して言う
「それはローレシアに捕まっちゃった時でしょ?その宝石って言うのが ニーナのお守りなのは分かるけど」
ニーナが頬を赤らめて言う
「あ… そうだったの 間違えちゃダメだよね ローレシアに捕まっちゃった時だけなの…」
ミーナが微笑んで言う
「でもローレシアに捕まった時に使う …やっぱり魔法アイテムなのかな?ねぇ、ニーナ ちょっとだけ見せてよー?」
ニーナが困って言う
「ダ~メ~っ」
ニーナとミーナが歩いて行く
【 デネシア国近郊 】
リーザロッテと仲間たちが ガルバディアへ向かって歩いている シャルロッテが言う
「あら?この反応…」
リーザロッテが気付き 振り返って言う
「シャル 何かあって?」
シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「ソルベキアで手に入れた宝玉の性質を確認していたんですが その宝玉と同じ反応がこの近く… あちらの森の中から?」
シャルロッテが言葉と共に森へ視線を向ける 皆が森を見る リーザロッテが地図を確認する レイトが言う
「あの森は確かデネシア国が指定している 保護地域だったはずです そして以前 ドラゴンが現れデネシアの城下町を襲い それが逃げ込んだ森でもあったかと?」
リーザロッテが少し驚いてから森へ視線を向けて考える ヴェインがレイトへ言う
「デネシアの情報など ツヴァイザーにはあまり入らないと言うのに 随分詳しいんだな?」
ロイが言う
「…ドラゴンの話なら 俺も知っている ベネテクト国の前王バーネット2世が 退治したと言う噂だ」
リーザロッテが驚いて言う
「ベネテクトの前王が ドラゴンを倒したと言うのっ?」
ヴェインが苦笑して言う
「バーネット2世国王が倒したのではなく、恐らく兵を引き連れ討伐したのでしょう」
リーザロッテが苦笑して言う
「そうよね…?ドラゴンほどのものを倒すのに 1人2人で倒すなんて事 無理よね?」
シャルロッテがモバイルPCの操作を終えて言う
「や、ややややっぱりっ あの森の中に 宝玉の反応がありますぅ!」
リーザロッテと仲間たちが顔を見合わせ リーザロッテが笑んで言う
「なら行くわよ!」
リーザロッテが歩き出す レイトが慌てて言う
「し、しかし リーザ様!?万が一 再びドラゴンが現れでもしたら!」
リーザロッテが振り返って言う
「その時は 私たちが退治すれば良いのではなくて?ベネテクトの前王が出来たのなら 私たちにも出来るに決まっていてよ!」
仲間たちが顔を見合わせ苦笑してから リーザロッテの後を追う
【 竜族の村周辺 】
森の中 ニーナに手を引かれてミーナが歩いていて言う
「特に何にも無いみたいだけど…?」
ニーナが立ち止まって言う
「ここだよ ミーナ?何か魔力の強そうな物はあるの?」
ミーナが言う
「えー?何にも無いよ?見渡す限りただの森だし… ん?待って?」
ミーナが警告板を見つけて読む
「なになに?『この周囲を保護地域とし、何人たりとも立ち入る事を禁ずる ローレシア国』うん?ここはデネシア領域なのに 何でローレシアの警告があるのかな?」
ミーナが考える ニーナが間を置いて笑顔で言う
「なら、そこの人たちに 聞いてみたら良いの!行ってみよう?ミーナ?」
ミーナが驚いて言う
「え?『そこの人たち』って?私たち以外…」
ニーナが笑顔で手を引いて言う
「こっち!何だか楽しそうなの!早く行くのー」
ミーナが手を引かれながら驚いて言う
「え!?あ、ダメだよ 入っちゃいけないって ローレシアの…」
ニーナとミーナが透明なバリアをすり抜け 竜族の村に入り込む
同じ場所に リーザロッテと仲間たちが現れ シャルロッテがモバイルPCを操作しながら言う
「この周囲で反応が消えました 再度捜索していますが まったく…」
リーザロッテが考える ヴェインが言う
「この場所まで移動して消えると言う事は 何者かが宝玉を所持して移動していたと言う事か…?」
レイトがヴェインへ向いて言う
「何者かが所持している事はあったとしても 突然消えるとは一体…?」
ロイが警告板を見付けて言う
「…そして、デネシア領域である この場所において ローレシアの警告とは 興味深いな?」
皆がロイの言葉に 警告板を見て驚く リーザロッテが笑んで言う
「ローレシアが入るなと警告しているのよ!?さあっ!行くわよっ 皆!!」
リーザロッテが先行する 皆が驚き呆気に取られ レイトが言う
「あ、わわわっ!?ひ、姫様っ!お待ち下さいっ!」
レイトが止めるより早く リーザロッテが透明なバリアに入って消える 皆が驚き レイトが慌てて追って言う
「姫様ーっ!!」
レイトがバリアに消える 残った仲間たちが顔を見合わせてから 後を追う
【 竜族の村 】
リーザロッテが結界を抜け周囲を見渡している そこへレイトが慌てて入り込んで来て言う
「姫様っ!…こ、これは?一体…」
リーザロッテがレイトへ少し顔を向けて言う
「外から見た時は何も無い ただの森だったのに 一歩入った途端 こんな村があるだなんて」
レイトが頷いて言う
「はい、どうやら外部から 隠されていた様ですね?」
仲間たちが入って来て 辺りを見渡す シャルロッテがモバイルPCを操作して言う
「すごいっ この村は全体が魔力のバリアに囲われ 外部からの一切を遮断しています」
ロイが言う
「…見た目だけでなく その他の魔力や通信類も遮断していると言う事か」
シャルロッテがモバイルPCを操作して言う
「あ、しかし、一部の魔力が周囲の魔法バリアを中和させています この魔力のお陰で 私たちは進入する事が出来たのかもしれません」
リーザロッテが振り返って言う
「では、何者かが私たちの到来を知って その中和を行ったとでも?」
シャルロッテが頷いて言う
「はい、その証拠に 今はその中和が解除されています ですから たぶん…」
ヴェインがハッとして外へ出ようとして弾かれる ロイが驚き レイトが向き直り槍を構える ロイが銃を構える リーザロッテが言う
「待ちなさい 2人とも!」
武器を構えた2人がリーザロッテへ向き直る リーザロッテが言う
「私たちを迎えた者が居ると言うのなら その者と会うのが先よ」
レイトが言う
「し、しかし 姫様!?我々を迎えた者が居たとしても 我らの行動を制限されては 脅迫を受ける可能性もあります」
リーザロッテが苦笑して言う
「ここへ来たのは私たちの意思よ?その私たちを相手が迎え入れると言うのなら 是非とも会って話をしてみたいわ?」
リーザロッテと仲間たちのもとに 竜族Aとニーナとミーナが現れ ニーナが言う
「ね?女の人と銃使いさんが居るでしょ?」
リーザロッテと仲間たちが振り返る 竜族Aが感心して言う
「ホントだ 女の人は声で分かったとしても 銃使いが居る事が分かるなんて」
リーザロッテがニーナたちへ言う
「あなた方が 私たちをこの村へ迎え入れて下さった 方でして?」
ミーナが慌てて言う
「あ、私たちは 長老さんに頼まれて 皆さんを お迎えに来たんです」
レイトが言う
「長老?では、この村の長老が我々を迎え入れたと?」
ニーナが笑顔で言う
「迎え入れるのは、村の人たちが 皆で力を合わせてやったの!皆の力で結界を中和したんだって 竜族さんたちもアバロンの人たちと一緒で 皆仲良しさんなのー!」
リーザロッテと仲間たちが驚いてヴェインが言う
「竜族とは?それに何故アバロンが!?」
ミーナが軽く怒って言う
「ニーナ?また、すぐにアバロンの事を言っちゃ ダーメ!」
ニーナが照れて言う
「あ~… ごめんなさいなの どうしても言っちゃうの~」
リーザロッテと仲間たちが顔を見合わせる 竜族Aが笑顔で言う
「うん!お姉ちゃん達も 悪い人じゃないみたい 皆の所に来て?僕たちが案内するから」
ニーナとミーナ、竜族Aが先行する リーザロッテと仲間たちが呆気に取られた後 リーザロッテが歩き出す レイトが言う
「リーザ様…っ?」
リーザロッテが振り返って言う
「何してるの?早くいらっしゃい?それとも 貴方たちは『悪い人』だったのかしら?」
仲間たちが顔を見合わせ 苦笑して後を追う
リーザロッテと仲間たち ニーナとミーナを迎え 竜族の長老が言う
「我々は竜族と呼ばれる種族、あなた方もデネシア国に居る巨人族をご存知じゃろう?彼らと似たような存在じゃ」
ミーナが問う
「デネシアの巨人族は その名の通り 私たちより身体の大きい人だけど… 竜族って言うのは?」
ニーナが笑顔で言う
「ミーナ?それじゃ、竜族さんは 竜の姿なの?」
リーザロッテが疑問して言う
「え?竜の姿って…?」
長老が笑う ミーナが苦笑して言う
「ニーナ、竜族さんたちは 私たちと同じ姿だよ?」
ニーナが苦笑して照れる リーザロッテが首を傾げる ミーナがリーザロッテへ向いて言う
「ニーナは目が見えないんです、でも そのお陰で私たちは この村を見つける事が出来て」
長老が微笑んで言う
「いやいや、ニーナ殿が言う通り 我々は元は竜の姿なのじゃよ」
皆が驚き疑問する 長老が微笑んで言う
「言葉で言っても難しいかも知れんの?では 先日生まれた竜族の子をお見せしよう」
長老が言うと共に 竜族Aが竜族の子供を持って現れ リーザロッテたちへ見せる リーザロッテが驚いて言う
「ドラゴンの子供だわ!?」
皆が驚く 竜族Aに抱かれた小さなドラゴンが1声鳴いて 小さな炎を吐く ミーナとシャルロッテが声を合わせて言う
「「可愛い~!」」
長老が笑って言う
「ほっほっほ、じゃが この子もそろそろ人の姿に変えてやらねばならんのじゃ このまま後数ヶ月も置いてしまうと 物心が付く前に炎を吐いて 村を焼いてしまう事もあるのでな?」
皆が長老へ疑問の視線を向ける 竜族Aが言う
「この村は竜族が元の姿で居るには小さすぎるんだ でも外に出るのは危険だから 人の姿で過ごす事にしてるんだよ」
リーザロッテが少し怒って言う
「それでしたら この小さな村に留まっていらっしゃらないで この森全てを使う位で過ごしたら 宜しいのではなくて?」
長老が顔を横に振って言う
「外の世界はあなた方の世界、大きさは違えど あなた方に姿の似ている巨人族とは違い 我々が共存するのは難しい」
リーザロッテが怒って言う
「だからと言って!あなた方竜族が この村の中で小さくなっている必要は無くってよ!?それこそ大きなドラゴンになって 戦ったら宜しいのよ!」
長老と竜族Aが驚いた後 微笑んで長老が言う
「我々竜族は 確かに大きな身体を持ってはいるが 皆さんの様な心の強さは持ち合わせておらんのです 戦って広い場所を得る事より 穏やかに小さな土地で過ごす事を 皆選んでおるのです」
リーザロッテが表情を落として言う
「そんな…」
ロイが無表情に問う
「…では、なぜ俺たちを迎え入れた?現状に満足しているのなら 結界を中和させ自分たちの存在を知らせてしまう事は その平穏を乱す事になる」
ロイの言葉に 皆が長老へ視線を送る 長老が頷いて言う
「それは 我々と共にあなた方の住むこの世界に関わる 事態が訪れてしまったが故 力無き我らにこの世界を守る力をお貸し頂きたいと思い 宝玉を所持される国王様を招かせて頂いたのです」
皆が驚く リーザロッテが言う
「では、私たちが宝玉を持っていたから 村の結界を中和して招き入れたのね?」
ミーナが驚いて言う
「それじゃ、リーザは」
ニーナが笑顔で言う
「宝玉を保管する どこかの国のお姫様なのー」
レイトが焦る リーザロッテがニーナとミーナへ向いて言う
「ええ 私はツヴァイザー国の王女よ!…ただ、この宝玉はソルベキアから預かったものだけれどね?」
ニーナとミーナが首を傾げる レイトが苦笑しながら言う
「そ、それでも、リーザ様が現在 宝玉を所持されておられる 王族である事は変わりません ね…?」
長老が微笑んで言う
「我々は長きに渡り外界との接触を絶っておりましたが故に 現在の外の世界がどの様になっているかは分かりませぬが 貴女様のようなお優しい方が宝玉を所持しておられるという事は とても嬉しい限りです」
リーザロッテが問う
「それで、さっきのお話の続きは?『世界を守る力を貸して欲しい』とおっしゃったわよね?それって ローレシアの勇者に関係している 魔王討伐の事じゃ」
長老が疑問して言う
「ローレシアの勇者様の事は分かりますが 魔王とは?」
リーザロッテたちが呆気に取られ リーザロッテが言う
「魔王とは… って 何をおっしゃるの?ローレシアの勇者は100年以上昔の初代から 3代目の現代に至るまで 全て魔王を倒すために旅立ったのよ?」
長老と竜族Aが疑問し 顔を見合わせた後 説明する
説明を聞き終えたリーザロッテが驚いて言う
「ではっ!初代勇者であるローレシアのザッツロード王子は 各国の宝玉を集めるだけで 実際にあの島へ結界を張ったのは 竜族の方々だったのね!?」
長老が頷いて言う
「当時あの島の存在を知っていたのは 我々竜族の者のみ そして我々は あの島の悪魔力を封じ込めるために 皆様方が作られた宝玉の力を使い 結界を張りました」
竜族Aが言う
「その時結界の防人になった竜族の魂が 僕たちに伝えて来たんです もうすぐあの島の結界が壊れてしまうと」
レイトが言う
「しかし、あの島の結界は 2代目勇者が一度破壊し 新たな結界をガルバディアのプログラマーが作り上げ 今もそれを維持しているはず」
ニーナが言う
「その結界は もうすぐ時間切れになってしまうの」
リーザロッテたちが驚いてニーナへ顔を向ける ミーナが続きを言う
「そのガルバディアのプログラマーは 私たちのお父さんの相棒で 本人がそう言っているので 嘘ではありません」
ロイが言う
「…では諸卿の父親と言うのは アバロン3番隊隊長のヘクターと言う事か」
ニーナが笑顔で言う
「アバロン3番隊隊長のヘクターは 私たちの世界一のお父さんなのー」
ミーナが同じく笑顔になってから ハッとして言う
「ニーナ、お父さんの事も すぐに言っちゃダメー」
ニーナが照れて言う
「ごめんなさいなの でもミーナ?今は言っても良い所だったと思うのー」
ミーナが少し考えてから 笑顔で言う
「うーん そっかぁ… ごめーん、そうだったかも?」
ヴェインが言う
「そ、それはそうとっ!?結界が時間切れと言うのは 本当の事だったのか!?」
シャルロッテがモバイルPCに顔を隠しながら言う
「そ、そそそソルベキアのガライナ陛下をっ 脅かす為の嘘のつもりがっ ほ、本当だったなんて…っ」
レイトが言う
「なるほど… 恐らく各国の上層部にのみ知られている事で 我々庶民には公にされていない事であったのだ それ故に ガライナ王も我々の言葉に 差ほど驚かず また 我らの事を信じる由縁にも なったのかもしれない」
ロイが言う
「…確かに、悪魔力の塊である あの島の結界が時間切れだと 世界中の者に知られては 人々がどのような暴動を起こすか分かりかねる」
長老が言う
「あの島へ結界を張る事はとても大変な事 それでも宝玉の力と 我々竜族全員の魔力を使えば 100年は難しくとも 数十年の年月を防ぐ事が可能だと思われます どうか我々に再び宝玉をお与え下さい」
リーザロッテたちが顔を見合わせ リーザロッテが言う
「あなた方の仰る事を 疑うつもりは無いのだけど、あなた方は本当に それでよろしくて?」
長老がリーザロッテへ顔を向ける リーザロッテが言う
「あなた方はこの小さな村に閉じ込められていると言うのに 世界の危機には自分たちの身も省みず 私たちをこの場所に招いて世界を守ろうとしている… あなた方こそ勇者よ それなのに ローレシアと勇者達は そのあなた方をこの村に閉じ込めて 自分たちは勇者と名乗って世界を回り 宝玉の力を我が物にしようと言うのよ?」
ミーナが疑問して言う
「それってちょっと 違うんじゃないかな?」
皆の視線がミーナへ向く ニーナが言う
「ローレシアは少ない宝玉の力を増幅するために 世界中の宝玉を集めて回ってるのー 宝玉は2代目勇者さんたちが全部使っちゃったから 1個づつの力が少ないのー」
長老が驚いて言う
「なんと!?全部使ってしまったとは!?」
リーザロッテが驚き宝玉を取り出して確認する 長老が驚く竜族Aが言う
「これじゃ足りない!これじゃ ほんの少しの間しか 結界は持たないよ!」
レイトが言う
「では、ローレシアは宝玉の力を増幅し その宝玉の力を持って 再び結界を張ろうと言う事だろうか?」
ヴェインが言う
「そうとは限らない、現にあの島の結界は 初代の時も2代目の時も どちらもローレシアの勇者では無い者が結界を張っている」
シャルロッテが言う
「そ、そそそそれにっ あの島の魔王になってしまった 初代の結界の防人だった竜族さんは ど、どうなってしまったのでしょうぅ?」
リーザロッテが考えながら言う
「そうよね?最初の結界の防人になった竜族が魔王と呼ばれ 今も あの島に悪魔力と共に封じられてしまっている… その竜族の魂というのは どう言う事でして?」
竜族Aが答える
「結界の防人となった竜族の魂は 今もあの島に居るんだ 今も結界を守り続けている」
レイトが考えて言う
「魔王と呼ばれながらも その実は 今もあの島の結界を守っている 防人と言う事だろうか?」
ヴェインが考えて言う
「では、魔王と呼ばれながらも その実は 魔王では無いと言う事ではないか!?」
ニーナがミーナへ言う
「ねぇミーナ?竜族さんたちから聞いたお話を お父さんたちにも教えた方が良いと思うの これってプログラマーのデスさんが言ってた ローレシアの勇者さんの伝説の裏って言うのだと思うの」
ミーナが考えて言う
「うん、そうだね お父さんたちが知りたがってた ローレシアの勇者の伝説の裏は この事かもしれないね?」
リーザロッテが問う
「それを知りたがっていたと言う事は あなた方のお父様… 2代目勇者の仲間だったアバロンのヘクター隊長は 仲間のザッツロード王子を疑っていらっしゃるって事なのかしら?」
ニーナが答える
「お父さんたちは 行方不明になってしまった2代目勇者さんたちを探しているのー」
レイトが驚いて言う
「行方不明!?2代目勇者ザッツロード王子は 現在も魔王を倒す為の方法を求め旅をしていると」
ロキが言う
「…なるほど、確かに 2代目勇者が旅を続けて居るのであれば 3代目勇者が選出されるのは おかしいとも思える」
リーザロッテが立ち上がって言う
「つまり!直接 ローレシアのキルビーグ国王か ローレシアの勇者ザッツロード王子とお会いして 真相を問い詰めれば良いのよ!」
レイトが驚いて言う
「しかしっ 姫様!」
リーザロッテが長老へ向いて言う
「私たちが ローレシアへ向かって真相を確かめるわ!その上で あなた方の協力が必要とあれば 再び宝玉を持って この場所へ来るから 一度私たちを村から出して頂戴!」
竜族の村を出たリーザロッテと仲間たちとニーナとミーナ リーザロッテが言う
「私たちは竜族の方々から聞いた話を持って ローレシアへ向かうわ 貴方方はアバロンへ向かうのでしてね?」
ニーナがミーナへ言う
「ねぇミーナ?どうする?このままアバロンに帰るより リーザロッテ王女様と一緒に ローレシアに確認に行った方が良いと思うの」
ミーナが考えながら言う
「そうだよね?竜族さんたちのお話だけじゃ 実際の所は分からないのだし…」
ニーナが笑顔で言う
「いざとなったら お守りがあるのー!」
ミーナが苦笑して言う
「もぅ、ニーナったら 本当はそのお守りを 使いたいだけなんじゃないの?」
ニーナが頬を赤らめて言う
「え…?ち、違うのっ!これはお守りなの!」
ミーナが軽く笑って言う
「はいはい、分かーった」
リーザロッテが呆気に取られた後 微笑んで言う
「貴方方も来ると言うのなら一緒にいらしたら良いわ!私にはローレシアの勇者顔負けの 仲間たちが付いているのですから!」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺
湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
眼球の魔法少女はそこに〝死〟を視る。
ひそかに闇市場で売買されるのは、一般人を魔法少女に変える夢の装置〝シャード〟だ。だが粗悪品のシャードから漏れた呪いを浴び、一般市民はつぎつぎと狂暴な怪物に変じる。
謎の売人の陰謀を阻止するため、シャードの足跡を追うのはこのふたり。
魔法少女の江藤詩鶴(えとうしづる)と久灯瑠璃絵(くとうるりえ)だ。
シャードを帯びた刺客と激闘を繰り広げ、最強のタッグは悪の巣窟である来楽島に潜入する。そこで彼女たちを待つ恐るべき結末とは……
真夏の海を赤く染め抜くデッドエンド・ミステリー。
「あんたの命の線は斬った。ここが終点や」
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
転生して来た勇者なのにそんな扱いですか?〜魔王がいないのでとりあえず王様ぶっ飛ばします!〜
ゴシ
ファンタジー
死の間際に女神から選択を迫られる江口軍太。
死ぬか勇者として転生するか。
そんな二択は1つしかない。
転生して勇者になり魔王軍と戦うしかない。
そう、戦うしかないはずなんだよ…
題名おかしくないか?
ファンタジー小説~1分で読める超短編集~
新都 蘭々
ファンタジー
各話1ページで完結&1分以内で読める文量です。毎日一話以上更新を試みます。
ショートショート/ファンタジー/西洋ファンタジー/RPG世界/勇者/魔王
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる