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12-2 美しい花嫁と勇敢な海賊たち

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【 アバロン城 】

玉座に座るヴィクトールが何か深く考えている様子 そこへ伝達の兵が現れて言う
「申し上げます!ベネテクト国大臣モフュルス様よりヴィクトール陛下へ伝達です」
ヴィクトールがハッとして言う
「モフュルス殿が!?何と!?」
兵士が傅いたまま言う
「はっ!ローゼント国からの宣戦布告の理由が判明し、その解決のために ベネテクト国国王バーネット2世様が アバロン領域にてツヴァイザー国の者と戦闘行為を行う可能性が有り その際は御了承を頂きたいとの事です」
ヴィクトールが表情をしかめて言う
「バーネットが単独で アバロン領域でツヴァイザーの者と?…どう言う事だ?詳しい内容は!?」
伝令の兵が返事をして言う
「はっ!モフュルス様からは そちらの言葉のみの伝達で 詳しい内容は知らされておりません 了承の有無の返答を欲しいとの事ですが」
ヴィクトールが視線を強めて言う
「バーネット2世国王の指示であるのなら アバロン領域で ベネテクトの者が何を行おうとも 事後承諾で良いと伝えろ!」
伝令の兵が返事をして立ち去る 家臣らが慌てて駆け寄って言う
「ヴィクトール陛下!!いくらなんでも 何をしても良い とは言い過ぎでございますっ!!」
ヴィクトールがムッと視線を向けて言う
「バーネットがアバロンや僕に 不利益になる事をする訳がないだろ!それより 僕に黙って アバロン国内のバーネットへの特権を解除したのは誰!?」
家臣らが焦る ヴィクトールが3人を見据える 家臣らが焦って言う
「あ、あれは致し方有りません!ヴィクトール陛下 アバロンの王は貴方様ですっ!アバロン全域の特権を他国の王にいつまでも許していては」
「そ、そうでございます!あれは他国に対する アバロンの有り方を示す姿として 宜しくない状態で御座いましたっ!」
「あのままの状態では 折角ヴィクトール13世陛下がアバロンの新国王となったのに 先代同様にアバロン国に2人の王が居る様な状態に陥りかねません」
ヴィクトールが家臣らを見据えたまま言う
「今回の事だけじゃない、君達は先代ベネテクト国王バーネット1世様がデネシアに捕まった時も それを救い出そうとした父上の邪魔ばかりしていたよね!?」
家臣らが焦って言う
「邪魔立てを致した訳では御座いません、あの時のヴィクトール12世元国王陛下は 御乱心されておられ 普段の冷静さを欠かれていたのです」
「そ、その通りで御座います、あの時デネシアを攻め落としたりしては 折角バーネット1世殿が助けてくださったアバロンが ローレシアとソルベキアに攻め落とされていたかもしれないのですっ」
「そうです!バーネット1世様はローレシアがアバロンを狙っていると いち早く感付かれ、自国が不利に陥る事も省みず ローレシアの指示で対側へ回り込んでいだデネシア部隊を殲滅させたのですぞ!?その御恩を無に帰してしまっては お亡くなりになられたバーネット1世様も浮かばれませんっ!」
ヴィクトールが視線を落として言う
「でも僕は… あれは 元々バーネット1世様を捉えようとした ローレシアの策だったのではないかと思うんだ…」
家臣らが顔を見合わせ 家臣らが言う
「そうであったとしても ベネテクトが道を塞がず あのままアバロンがローレシアとデネシア そして恐らくソルベキアの3国からの奇襲を受けていたら アバロンは無事では済まなかったと思われます」
「その通りで御座います 先手を打たれたバーネット1世様の機転が無ければ アバロンは3国からの奇襲を無防備な状態で受けていた事でしょう バーネット様親子が囚われるだけで ベネテクト国も一応の保護がなされる状態で済んだのは 最小限の被害だったと思われます」
「良くも悪くも あの一件で世界中の宝玉戦争が終結したのです 我らアバロンが帝国と成り得なかった事は まこと残念では御座いましたが あの直後にアバロンがデネシアを攻め落とし その間にローレシアとソルベキアからの襲撃を受けていたら きっとアバロンに今の繁栄はなかったでしょう」
ヴィクトールが目を閉じて言う
「…アバロンは友情と慈愛の国だ 友と生き慈愛を持って民を守る その両方が無ければ アバロンの王とは言えない 父上とバーネット1世様は それらを片方ずつ持ち合わせていたんだ 友情を受け持つ父上が それを達しなかった事 それは裏切りだ…」
家臣らが顔を見合わせてから言う
「し、しかし 現アバロン国国王ヴィクトール13世陛下は その両方を持ち合わせておられます!」
「はい、ヴィクトール13世国王陛下ならば お1人でも十分に アバロン国を帝国へのし上げる事も可能です」
「そうです、今世代こそ 我らのアバロン国がアバロン帝国として世界を指揮する時です 今はローレシアの勇者伝説に手を貸している素振りを見せておき 隙を見て…」
ヴィクトールが家臣Cへ強い視線で声を荒げる
「私は!勇者ザッツロードを蔑むつもりは無いっ!」
ヴィクトールの声に家臣らが怯える ヴィクトールがそれに気付き 気を静めて言う
「…彼らは 本気でこの世界を救うという目的のために戦っている 私は彼らを信じたい …もし、信じられないとすれば それはローレシアだ あの国はデネシアを使い きっとまた このアバロンへ何らかの策略を仕掛けて来るはず かの2国からは目を離してはいけない」
家臣達が顔を見合わせ頷き 微笑んで家臣らのみの会話をする
「やはりヴィクトール13世陛下は素晴らしい きっと今度こそ 我らがアバロンを帝国へと成し遂げてくれよう」
「うむ、ヴィクトール12世前国王陛下が お気を落とされた時には もう我らの命の有るうちには 成し遂げられぬと思って居たが」
「ああ、ヴィクトール13世王子は 立派なアバロン国王と成られた もはや心配はいらん」
家臣らが頷き合いヴィクトールへ視線を向ける ヴィクトールが真剣な表情で考えている そこへ伝令の兵が現れて言う
「申し上げます!ベネテクト国 バーネット国王から ヴィクトール陛下へ通信が入っております!」
ヴィクトールが一瞬間を置いてから 笑顔になって言う
「バーネットから!?すぐに繋い…っ いやっ!自室で受けるっ!そちらへ回してくれっ!すぐに回してっ!」
ヴィクトールが言い終えるより早く伝令の兵の横を駆け抜ける 伝達の兵が言う
「は、は…っ!直ちに…」
伝令の兵が呆気に取られたまま ヴィクトールが去って行った方向を見る 家臣らが呆れてから慌てて言う
「や、やはりっ!ベネテクトの王は何とかせにゃーならん!」
「何故 我らのアバロンの王は 毎度毎度 こうなってしまうのだ!?」
「これで3代目だぞっ!どうなっておる!?」

ヴィクトールが自室に飛び込んで通信に出て言う
「バーネット!ごめんね!お待たせっ!」
通信機のモニターのバーネットが驚いてから言う
『…いや 待たされちゃいねぇから 謝らねぇで良い …っと、んな事より、ちょいと手ぇ貸して欲しいんだが』
ヴィクトールが驚く

【 ベネテクト城 】

バーネットの持つ通信機のモニターに映るヴィクトールが笑顔で叫ぶ
『もちろんだよ!バーネット!何でも言って!!』
通信機を持つバーネットが 呆気に取られてから笑って言う
「…はっはー!何でも ってな?んな事言ったら おめぇえ?『ちょいとローレシアでも ぶっ潰してくれ』とか 言っちまうぞぉ?」
通信機のモニターのヴィクトールが笑顔で言う
『うん!それじゃ 一緒にやろう!』
バーネットが慌てて叫ぶ
「おいっ!否定しやがれぇええ!!」
ヴィクトールが苦笑して言う
『冗談だよ バーネット?いくら僕でも バーネットがそんな事 本気で言うとは思わないよ?』
バーネットが軽く笑って言う
「そっちで否定かよ?…まぁ良い、今は そのローレシアの勇者様… いや?その仲間の方か?そいつらに感謝しねーといけねぇしな」
通信機のヴィクトールが疑問して言う
『え?どう言う意味だい?バーネット?』
バーネットが左腕の感覚を確かめながら言う
「いや、こっちの話しだ それより 頼み事の内容なんだが…」
ヴィクトールが表情をまじめにする バーネットが言う
「ローゼントの野郎共がベネテクトに宣戦布告して来やがった理由が分かった、奴らはツヴァイザーに自国の姫を人質に取られて 脅されてやがるってぇえ話だ ローゼントの連中は本気でベネテクトを潰す気はねぇ だから てめぇには 俺らがツヴァイザーからローゼントの姫さんを助け出すまでの間 ローゼントの連中を足止めしといて貰いてぇんだ 戦う必要はねぇ、ちょいと世間話でもしててくれよ」
通信機のモニターのヴィクトールが視線を上げて考えてから笑顔で言う
『う~ん 僕としては~… 世間話より 折角だから久し振りに ローゼントの騎士と 試合でもしたいんだけどなぁ?』
バーネットが焦って言う
「てめぇええが新たな敵を作ってどぉおおすんだ この脳筋大剣使い共がぁああ!!」
ヴィクトールが照れながら言う
『しょうがないじゃない?大剣使いは皆剣で語らうんだよ?きっとローゼントの長剣使いとも 仲良く語れると思うんだけど?』
バーネットが怒って言う
「知るかぁあ!俺は大剣使いじゃねぇえ!って、んな事はどうでも良いが、無理に止めようとはしなくて良いからな?ローゼントの連中なら 無差別に町の住民だのを襲う事もねぇはずだ、その間にローゼントの姫さんを助け出して来るからよ?偵察の報告じゃ もう連中はツヴァイザーの領地に入ってるはずだ なるべく急ぐが それまで頼むぜ」
ヴィクトールが頷いて言う
『うん、分かった バーネットも気を付けてね?あっそれから ローゼントの姫君によろしくね?…もしかして バーネットの妃候補に成ったりして?』
ヴィクトールが言いながら視線を上げて考える バーネットが焦って言う
「んな余計な事考えてねぇえで ローゼントの連中の事を考えて置けってんだっ!!じゃあなっ!?頼んだぞ!!」

【 アバロン城 】

甲冑姿のヴィクトールが玉座の間の入口前を通り過ぎる 家臣らが気付き 慌てて駆け付けて来て言う
「ヴィクトール陛下!?甲冑など着てどちらへ向かわれるのですか!?」
「まさか!アバロン領地内のベネテクト国兵の 援護に向かわれるおつもりではっ!?」
「それは なりませんぞっ!!領地内での交戦を許可しただけでなく アバロン国王までそこに入られては!!」
ヴィクトールが苦笑して振り返って言う
「いや、戦いに行く訳ではない ちょっと世間話に行くだけだよ?」
ヴィクトールが微笑む 家臣らが慌てて言う
「どこの国に世間話に甲冑を着て行く事などあるものですか!!」
「陛下!貴方はアバロンの王ですぞ!軽率な行動はお控え下され!!」
「だいたい!衛兵も付けずに外出されるなど 一国の国王として許されませぬ!!」
ヴィクトールが思い出した様子で言う
「あ、それより?」
家臣らが疑問してヴィクトールへ向く ヴィクトールが笑顔で言う
「ローゼントの姫君って どんな人かな?知ってる?」
家臣らが顔を見合わせて言う
「確かお亡くなりになられた ローゼント国の王妃様と同じ栗色の髪で」
「瞳の色はローゼント国の女性らしい 緑色であったかと…」
「最近は余り外には お出になられないと言う話を耳に致しました」
ヴィクトールが少し考えて言う
「う~ん… その容姿ではベネテクト国の王妃には なりそうにないかな?折角贈り物でも考えようと思ったのだけど また次の機会にしよう さて、急がないと」
ヴィクトールが立ち去る 家臣らが慌てて追う ヴィクトールがアバロン城の出口で馬に乗り 家臣らの制止を振りきって出立する

【 アバロン国~ベネテクト国間 国境 】

ローゼント国2、3部隊を引き連れ ローゼント国国王ハリッグが先頭で馬を進めている ハリッグがアバロン、ベネテクト間の国境の前に居る ヴィクトールに気付いて言う
「なんと… まさか アバロン国国王自らが現れるとは…」
ヴィクトールがハリッグの姿を確認して馬を降りる ハリッグが部隊を止め 一人先行し 手前で馬を降りてヴィクトールのもとへ近づく ヴィクトールも近づき 互いに立ち止まったところで ヴィクトールが言う
「お久し振りです、ハリッグ国王陛下」
ハリッグが静かに苦笑して言う
「ああ、ヴィクトール13世殿、すっかりたくましくなられた 優に10数年振りとなるだろう」
ヴィクトールが軽く微笑んで言う
「私の父ヴィクトール12世と手合わせされていたのを覚えています ハリッグ陛下の長剣の太刀筋は 幼心にも美しく見え 今でも強く印象に残っています」
ハリッグが軽く笑って言う
「はっは… しかし、貴殿の御尊父には敵わなかった そのヴィクトール12世殿が 早々に王位を譲り その剣をも手放してしまったと聞き 私は驚いたものだ」
ヴィクトールが軽く苦笑して言う
「父は志を共にしていたベネテクト国の当時の国王バーネット1世様を救い出せなかった事を悔やみ 剣を手放しました しかし、今 その剣と志は アバロン国の王位と共に 私が引き継いでいます」
ヴィクトールが言い終えると共に自身が装備している アバロン国国王の剣に手を掛ける ハリッグが目を細めて言う
「…では、貴殿の御尊父の友人であるこの私が 貴殿が引き継がれたであろう その力と志の強さを 確認して差し上げなければならぬかな?」
ヴィクトールが笑んで言う
「是非、お願いしたいと思い ここでお待ちしておりました」
ハリッグが微笑してゆっくり頷く 2人が剣を抜く ローゼント国部隊の隊長らがローゼント国王へ視線を向ける ローゼント国王が彼らへ軽く顔を向けて言う
「手出しは不要だ これは ローゼント国とアバロン国の友好試合 お前達は黙って観戦しておれ」

【 ツヴァイザー国 】

隠密に忍び込んだバーネットとベネテクト兵数名 ベネテクト兵の誘導に従いバーネットが向かった先 ツヴァイザー城下町の教会 ベネテクト兵の言葉を聞いてバーネットが言う
「ハッ!自国がすぐ隣の国を潰そうって時に その黒幕と婚儀とは おめでてぇえ姫様だな?」
ベネテクト兵がバーネットへ言う
「モフュルス様の調査では ローゼント国王女アンネローゼ殿は 相手のガイフォース王子がその様な企てを行っている事を 知らずに居るのではないかとの事です」
バーネットが苦笑して言う
「なら俺は挙式の最中に そのお姫様の前で 愛する婚約者をぶっ殺す 最悪な国王じゃねぇか?それじゃー姫様が帰ったローゼント国が 改めてベネテクト国へ攻め込んで来やがるのも時間の問題だなぁ?」
バーネットが町の見取り図を確認する バーネットの下に伝達の兵が来て言う
「陛下っ  アバロン、ベネテクト間の国境にて アバロンの国王とローゼントの国王が一騎打ちを開始したとの事です」
バーネットが衝撃を受け 表情をしかめて言う
「なぁあ!?あ、あのバカ!本っ当に剣で語ろうってのか!?ローゼントの国王までっ!…ったく 剣士って奴ぁどいつもこいつも そんなのばっかりなのかぁあ?もっと平和的に語れねぇのかよ?…とは言え、始まっちまったもんはどうしよーもねぇ こっちも開始するぞ!」
バーネットが教会を見据える

教会の中ではアンネローゼとガイフォースが司祭の前に立っている 司祭が言葉を言い終え2人に促す 2人が向き合い 誓いの口付けを行おうとする そのガイフォースの後方のステンドグラスが割れ バーネットが飛び込んで来る 鞭を上部の梁に引っ掛け ガイフォースへ蹴り込む アンネローゼが驚き そのまま後方へ後退る 一瞬遅れてガイフォースが振り返り バーネットの蹴りを腕で防御して蹴りの威力を抑えた腕を振り払うが その反動でガイフォースが後方に倒れる バーネットが着地してガイフォースを見てから アンネローゼを確認して微笑する アンネローゼが呆気に取られる バーネットがアンネローゼの手首をつかみ教会の出入り口へ向かって走り始める アンネローゼが驚きながらも バーネットに引っ張られて走り始める ガイフォースが痛みに耐えながら起き上がり 周囲の兵へ叫ぶ
「捕らえろーっ!決して逃がすなー!!」
控えていたツヴァイザー兵たちが槍を構えてバーネットへ向かう バーネットが兵たちへ視線を向け もう片方の手に持った通信機のスイッチを押す 教会の出入り口から内側へ向かって爆風が巻き起こる 周囲の兵が怯む 

教会の出入り口に残る爆煙の中からバーネットが目を守りながら駆け出て来る バーネットに手を引かれながらアンネローゼが目を閉じながらも バーネットの導きのままに走る 教会の中ではガイフォースが取り出した通信機に叫ぶ
「アンネローゼ姫が連れ去られたっ!直ちに姫と賊を捕らえよ!!」

教会からの道には 婚儀を祝うたくさんの人集りが出来ている そこへアンネローゼの手を引いてバーネットが走る 周囲の町人らが驚き呆気に取られる ツヴァイザー兵たちが町人らを押し退けて入り込み バーネットへ槍を構えて襲い掛かって来る バーネットが通信機のスイッチを押す 道の中心ラインに沿って次々に爆発が起きる 兵たちが驚き身動きを止められる 爆煙で遮られる その中を バーネットとアンネローゼが突っ切る 道の先 城下町の門前にツヴァイザーの部隊が集まり 隊長が叫ぶ
「アンネローゼ王妃をさらった賊は 間もなくこの爆風の中を突っ切ってくるはずだ!皆の者!決して怯むではないぞ!我らの手で アンネローゼ王妃を取り戻すのだ!!」
隊長の言葉に部下達が声を上げる 爆風の中バーネットが兵たちの声に口角を上げて言う
「ハッ!馬鹿野郎共が!そんな単純で堪るかよ?」
爆発が続く中 バーネットが その爆発ラインを外れて右折する アンネローゼが驚き体勢を崩しそうになる それをバーネットが受け止めて言う
「おっと もう少しだ、悪いが 我慢して一緒に走って貰うぜ?…にしても 意外と頑張ってくれるじゃねぇか?もしかして ローゼントの部隊が姫さんをダシに ベネテクトへ進軍させられてやがるって事を知ってるのかぁ?」
バーネットの言葉にアンネローゼが驚いて言う
「ローゼントの部隊がベネテクトに!?まさかツヴァイザーが!?」
バーネットが笑んで言う
「その『まさか』だ!…ってぇえ訳で ちょいと怖いかも知れねぇが 我慢してくれよ!?」
町の城壁を背にツヴァイザーの兵が集まり槍を構える バーネットとアンネローゼがそれを見る バーネットが通信機のスイッチを押す 城壁が破壊され その瓦礫が兵たちに圧し掛かる 兵たちが慌てて逃げる 城壁の先に掘りがある アンネローゼがバーネットへ向いて問う
「行き止まり!?どうするおつもり!?」 
バーネットが口角を上げて言う
「悲鳴は上げても良いが 泣かねぇでくれよなっ!?」
バーネットの言葉にアンネローゼが疑問する バーネットがアンネローゼの引いていた手を離して先行する アンネローゼが驚き失速する バーネットが先行した先で振り返り 鞭を取り出し それをアンネローゼへ放って鞭の先でアンネローゼの身を縛る 驚くアンネローゼ バーネットが進行方向へ向けて走りながら叫ぶ
「行くぞぉお!!野郎共ぉお!!受け取りやがれぇええ!!」
鞭を掘りの先へ振るう アンネローゼの身が宙を舞い 堀の先へ向けて飛ぶ アンネローゼが悲鳴を上げる
「きゃぁあああ!?」
掘りの先にベネテクト兵が現れ 布を張ってアンネローゼを受け止める それを確認したバーネットが笑い 自分は走ってきた勢いのままに掘りへ向かってジャンプ 掘りの真ん中を過ぎ失速する バーネットが舌打ちしつつ ダイナマイトを取り出し ワンプッシュして身を守る ダイナマイトが破裂し その爆発の勢いで足りない分を補い 掘りの先まで辿り着く ベネテクト兵らに受け止められたバーネットが立ち上がり 兵らへ指示を出す
「よし!撤収だ!」
兵たちが馬を引いて来る バーネットがアンネローゼを馬に乗せ 自分も乗って馬を走らせる ベネテクト兵たちが続く 撤収ルートをベネテクト兵たちが確保している バーネットが来るとそれに加わり共に撤収する アンネローゼがバーネットの馬のたずなを持つ腕を見て驚いて言う
「酷い怪我です!早く治療をしないと!」
バーネットが一度視線を向けてから 前方へ視線を戻し笑って言う
「はっはーっ!こんなもん 大した事ねぇよ!クソ親父にひっ叩かれた方が 100倍痛てぇってもんだ!」
バーネットたちがツヴァイザーとベネテクト間の国境を抜ける その先にローゼントの部隊が待ち構えている アンネローゼが気付いて叫ぶ
「お父様っ!!」
ローゼント国王の隣にヴィクトールが居る バーネットがそれに気付いて軽く笑う ヴィクトールが気付いて苦笑する

【 ベネテクト国 】

バーネットが馬を降り アンネローゼを下ろす アンネローゼが一度バーネットへ顔を向ける バーネットが軽く微笑んで 無言で行けと諭す アンネローゼが微笑みローゼント国王のもとへ走る ローゼント国王が馬を降り 駆けて来たアンネローゼを抱き止める バーネットがローゼント国王とヴィクトールの間に歩いて来る アンネローゼとローゼント国王へ向けていた視線をヴィクトールへ向け 軽く笑って言う
「よう、ヴィクトール、足止め 助かったぜ ありがとな!」
ヴィクトールが笑顔で言う
「うん、君の役に立てて嬉しいよ バーネット!」
バーネットが苦笑して言う
「にしてもてめぇ… 本当に剣で語りやがったってなぁ?」
ヴィクトールが苦笑して言う
「そうだよ?しかも 負けちゃった!てへっ」
バーネットが衝撃を受けて慌てて言う
「なぁあ!?てめぇえ!馬鹿野郎っ!!負けてやがるんじゃねぇえ!!」
ヴィクトールが苦笑して頭を掻く ローゼント国王が微笑んで言う
「いや、あれはヴィクトール殿が わざと剣を引かれたのだ 私が連れているローゼントの兵らへ 自国の王の無様な姿を見せまいとしてな?」
バーネットが呆気に取られローゼント国王へ視線を向ける ヴィクトールが苦笑して言う
「とんでもない、私の腕では まだまだローゼントの白き閃光と言われたほどの ハリッグ陛下の長剣に太刀打ち出来なかったと言う事です」
ローゼント国王が苦笑して言う
「はっはっは… 昔の話しだ だが、やはり友を想い振るわれる 大剣使いの一撃を受け止めるのは 今も変わらず難しい」
ヴィクトールが笑顔で答える
「いえいえ、娘を想われる長剣使いの鋭さには 何度もヒヤヒヤさせられました 昔は私の父も紙一重でかわしていた様ですし」
バーネットが苦笑して言う
「その頃こっちは 婚儀に殴り込んで 純白ドレスの花嫁かっさらって ついでに町をぶっ壊して来たぜぇ?」
ローゼント国王とヴィクトールが顔を見合わせ笑う アンネローゼが呆気に取られた後くすくすと笑う バーネットが一息吐いて見せる

【 アバロン城 】

自室で通信を行っているヴィクトールが叫ぶ
「バーネット!!聞いたよ!!ツヴァイザーがベネテクトに宣戦布告して来たって!!知ってるぅう!?」
通信機のモニターのバーネットがうるさそうな顔で呆れて答える
『ああ、相変わらず『知ってる』から安心しろ』
ヴィクトールが驚いた様子から叫ぶ
「安心なんて出来ないよ!!何で知らせてくれなかったのっ!?バーネットからーーっ!!」
モニターのバーネットが怒って叫ぶ
『うるせぇええ!!いちいちてめぇに知らせて堪るかーっ!!こっちだって一国としてのプライドってモンが あんだよぉおお!!』
ヴィクトールが一瞬呆気に取られた後 泣きながら叫ぶ
「そうだよね!ごめんね バーネット!!僕、分からなかったよぉおおおーっ!!」
モニターのバーネットが焦って叫ぶ
『ぬぁあ!?泣くんじゃねぇええ!!分かったからっ 泣くなっつってんだ!!せめて泣くか叫ぶか どっちかにしやがれぇえ!!』
ヴィクトールが気を取り直して言う
「それはそうと、バーネット 本当に大丈夫なの?兵とか足りなかったら言ってよ?バーネット、いつも僕が声を掛けるまで1人でやろうとするから 僕は心配なんだよ?」
バーネットが軽く笑って言う
『はっはー!いつまでも心配されて堪るかってんだ!兵も助けも要らねぇよ、心配ねぇ!あんま甘く見るなよぉ?』
バーネットの言葉にヴィクトールが苦笑して言う
「バーネットの事 甘く見たりなんて僕はしないよ、ただ バーネットはお父上もそうだったけど いざって時に自分の身を省みないから… 僕も君も、アバロンもベネテクトも親友なんだから 忘れないでね?僕は いつだって助けに行くから 君も… 助けに来てくれるよね?」
バーネットが苦笑して言う
『当ったりめぇーだ!てめぇみてぇえな泣き虫放っておいたら どーなるか分かったもんじゃねぇからな?助けてやるし助けて貰うから たまには信用して黙って見てやがれ!』
ヴィクトールが微笑んで言う
「うん、分かった もちろん信用してるよ!バーネットは『見た目に似合わず』戦略家だしね?」
ヴィクトールが笑顔になる モニターのバーネットが衝撃を受け怒って叫ぶ
『悪気無く一言多いんだ!てめぇえはぁああ!!』

玉座の間 通信を終らせたヴィクトールが玉座へ向かう 戻り際 家臣たちへ声を掛ける
「僕が外して居る間に 何かあったかい?さっき話してた 悪魔力の件、詳しい情報は?何時頃までに集まるかな?」
ヴィクトールが玉座に座る 家臣たちが集まって来て言う
「ヴィクトール陛下が お席を外されて居る間に アバロン領域内で新たに3件の魔物の被害 アバロン領地外で2件の大きな魔物の被害 それにスプローニ国でも1件 大きなものが有ったとの報告が入りました スプローニ国部隊が出動したとの事です」
「悪魔力を測定する機械をソルベキアがシュレイザーと共に開発しているとの事ですが 完成は難しいという話しです、それよりも現行通り区間別に区切って魔物の数を確認いたします方が 早く的確だと思われます」
「デネシア国の大臣ハレルト殿より ヴィクトール陛下へ謁見の許可を求める通信が入りました 折り返し許可の有無を欲しいと言われております」
ヴィクトールが目を閉じて考えてから言う
「アバロン国内の町や村の警備を強化、共に魔物の数を確認するのに1部隊を放ってくれ、デネシアの大臣が謁見で 僕に何の用があるって?」
家臣A、Bがヴィクトールの指示を受けて立ち去る 家臣Cが一歩ヴィクトールへ近づいて言う
「詳しいお話しは伺っておりません ただ、デネシア国は先のガルバディアとアバロンからの攻撃により受けた被害に合わせ 魔物化したドラゴンに襲われた被害もあり 国営国政共に大打撃を受け 現在も復興中ですが 余りはかどってはおらん様子です 恐らくそれらに対する援助を求めに来られるものかと」
ヴィクトールが軽く息を吐いてから言う
「デネシアはベネテクト国の王と王子を幽閉した国だ そして、その扱いは この大陸にある平和協定に著しく背くものだった 今更それを棚に上げ このアバロンに援助を求めるなど…っ」
家臣Cが少し間を置いて言う
「確かにそうでは有りますが デネシア国は現在 友好協定を結んでいるローレシアにすら見離されている状態であるとの話です それ故に 最後の希望としてローレシア同等に近郊である アバロンへ助けを求めているものかと思われます この悪魔力が急増している世界で 彼らも生き残るのに必死なのでしょう」
ヴィクトールが強い視線を家臣Cへ向けて言う
「苦しい時に助け合い、幸福を共に喜び合うのが友好国であり、この大陸の平和協定だ それを乱す国が 苦しい時にのみ助けを請うなど その様な国は… ソルベキアだけで十分だ」
家臣Cが苦笑してから言う
「そのソルベキアすら、この悪魔力の脅威から世界を守るための 悪魔力測定装置の開発を3大国家の1つであるシュレイザーと共に行っており、ローレシアは悪魔力の元では無いかと思われている 魔王を倒すべく勇者を遣わしております、3大国家の2国が 悪魔力の脅威を前に戦っている今、最後の一国であるこのアバロンが出来る事は 友情と慈愛の国を象徴する 他国への援助ではないかと」
ヴィクトールが視線を逸らし少し考えてから 再び大臣Cへ顔を向け言う
「ではお前は 我がアバロンの一番の友好国であるベネテクト国の前王の命を奪ったデネシア国を このアバロンが救うべきだというのか?バーネット1世前ベネテクト国国王陛下は我らアバロンを救った 偉大なる友人であったと言うのにっ!」
ヴィクトールが玉座の肘掛を叩く 大臣Cが一度視線を落とし 再びヴィクトールへ戻して言う
「ヴィクトール陛下、確かにバーネット1世様の件は陛下の仰る通りで御座います しかし、あの頃と今では世界は変わっております あの頃は悪魔力の脅威が この世界から消えており 各国は宝玉と自国の栄誉のために戦いを行っておりました 故に どこの国も戦いに明け暮れ自国領土の拡大を計っておりました それはこのアバロンも同じ事」
ヴィクトールが大臣Cから視線を逸らして考える 大臣Cが言う
「今この世界は再び手を取り合い 悪魔力の脅威と戦わねばならぬ時です あの世界的な宝玉戦争を終らせたのが アバロンであるなら 今回の悪魔力の脅威に置いて世界を結ぶ事が出来るのも このアバロンではないかと私は思うのです」
ヴィクトールが俯き目を閉じて考える 大臣Cが静かに言う
「ヴィクトール陛下、まずは デネシア国の大臣ハレルト殿のお話を伺うと言うだけでも…?」
大臣Cの言葉にヴィクトールが顔を上げて言う
「…分かった、謁見の許可を送ってくれ」
大臣Cが深々と頭を下げてから立ち去る ヴィクトールが片手で額を押さえ俯く

【 ベネテクト国 】

ベネテクト城 地下部屋 ツヴァイザー国を返り討ちにしたバーネットが 喜びのままに自室へ戻って来る ドアを蹴り開けると モフュルスが慌てて駆け寄って来る バーネットが笑顔で言う
「おいっ!モフュルス!!聞きやがれっ!!あのツヴァイザーが土下座して謝って来やがったぜ!!はっはー!どんなもんだってんだ!?ベネテクト国 再建の一歩としちゃー まぁまぁだよなぁ!?」
バーネットが言いながら椅子に腰掛け 机に足を乗せて 続きを言う
「ああ、ヴィクトールに繋いでくれ どぉせ あの泣き虫が心配してるだろぉからよ?…あー、それに魔物の件でも 確認してぇ事がるんだ 何かよぉ?あの昔使ってたとか言う 宝玉を保管する祠の周囲で…」
バーネットが話し続けるため 話し出す切っ掛けを見出せずに居たモフュルスが バーネットの言葉を制して言う
「バーネット様っ!それよりも 大変な事がっ!」
話を続けようとしていたバーネットが 言葉を止めてモフュルスへ視線を向けて言う
「あぁあ?『それよりも大変な事』だぁ?どれ より大変だってんだぁ?てめぇえ!?もし、ベネテクト国の勇士に対して言いやがったら 例えてめぇえでも一発…っ!!」
再びモフュルスがバーネットの言葉を制して言う
「アバロンのヴィクトール13世殿が!デ…ッ デネシアの王女と こ、婚約を…っ!!」
バーネットが呆気に取られて止まる 騒がしかった空間が静まり バーネットがゆっくりと その表情を苦笑に変えながら言う
「は…?な… 何… 言って やがるんだ?お、おい?おいおい?モフュルス?いくら何でも てめぇ… その 冗談 は…っ」
モフュルスが苦しそうに顔を横に振ってから言う
「冗談では ございませんっ!!この私が この様な事をっ 冗談でなど…っ!例え先代 バーネット1世陛下の鞭に打たれようとも 決して!決して!言ってなるものですかっ!!」
バーネットが驚きの表情のまま固まる その脳裏に 父バーネット1世が殺された時の映像が蘇る 無数の剣を体中に刺され 十字架に張り付けられているバーネット1世 幼いバーネットが泣き叫ぶ前で 最後の一刀が刺し込まれる 8年前のバーネットが全力で止めろと叫ぶ姿

バーネットが怒り叫ぶ
「ふざけんじゃねぇええ!!ヴィクトールッ!!あの野郎!!俺を 裏切りやがったぁああ!!」
バーネットが叫びながら机の上の物を払い除け 机に両拳を叩き付ける 周囲に紙資料が舞い散り 音を立てて床に落ちる

【 アバロン国 】

国王の結婚に活気付くアバロン 人々の笑顔 たくさんの花束 他国のお偉い方 婚儀当日 婚礼衣装を着たヴィクトールのもとで 家臣たちが忙しそうに報告をする
「各国からの祝電や 祝いの品々が届けられております!ローゼント、ローレシア、スプローニ、シュレイザー…」
「式には各国の上層部の者と共に ローゼントとローレシア、スプローニ国からは 国王もいらしておられます!それから…」
「アバロン城周囲の警備に各国の部隊も当たっております、ローゼントとローレシアに関しては 国王の護衛兵も式典会場の周囲に配置され…」
ヴィクトールが浮かない表情で視線を逸らしたまま 静かに問う
「ベネテクトからは… 何も無いのだね…?」
家臣たちが衝撃を受け 互いに顔を見合わせて焦りながら紙資料を漁り 1人が見つけて言う
「あ!ベネテクト国が制圧したツヴァイザー国に ローゼント国王女が 正式に女王として 入られたそうです!その手筈は ベネテクト国のバーネット国王陛下とローゼント国のハリッグ国王陛下が…!」
家臣Aが言葉を止めて ヴィクトールの顔色を伺う ヴィクトールが苦笑して言う
「それじゃ… ローゼントの… アンネローゼ王女の結婚式には… 2回も出たんだね?バーネットは…」
家臣たちが顔を見合わせて困る そこへ伝達の兵が現れて言う
「ヴィクトール陛下、式典会場の準備が整いましたっ!」
兵の言葉に ヴィクトールは返事をする事も無く 浮かない表情のまま立ち上がり歩き出す 伝令の兵の横を通る時に兵へ言う
「分かった、ありがとう…」
兵が呆気に取られつつ 慌てて返事をする
「…は、はっ!」
兵が返事を終えヴィクトールの背を見つめる 家臣たちが慌てて兵の下へ駆け寄って言う
「何時でも良い!ベネテクト国から何かあったら すぐに伝えるんじゃっ!」
「バーネット殿に関する事でも良い!何でも良いから すぐに伝えるのじゃぞっ!?」
「もう ベネテクト国だろうと バーネット殿のだろうと どちらでも良い!何時でも、何でも良いから すぐに伝えるのじゃっ!」
兵が驚き焦って返事をする
「は、はっ!」

【 ベネテクト国 】

バーネットが建設途中の城が在る高台から アバロンの方を見ている 続いて自国の近郊の町へ視線を向ける 町では友好国アバロンの 国王結婚式を共に喜ぶベネテクト国民たちの姿が見える バーネットが表情をしかめて その場を後にする 

歩いているバーネットのもとに モフュルスが来て言う
「バーネット様、アバロンの他 ローゼントやローレシア、ツヴァイザーのアンネローゼ女王からも 連絡が入っておりますが…」
バーネットが顔を向けないまま言う
「内容はどれも一緒だろ?忙しいから行かねぇって 返しとけよ」
モフュルスが一度視線を逸らしてから言う
「…バーネット様、こうなってしまった事は 確かに心苦しい事では有りますが… しかし、デネシアがアバロンと友好条約を交した今 ベネテクトとアバロンとの友好を崩してしまっては…っ ベネテクト国は 単独では生き残れません」
バーネットが足を止め 間を置いて言う
「…俺にアバロンへ行って あいつらを祝って来いって 言うのか?」
モフュルスが一度視線を落とし再び後ろからバーネットを見て言う
「例え行く事が叶わなくとも 祝電を送るだけでも… バーネット様っ ベネテクトの民は決してデネシアを許した訳では有りません!ベネテクトの王と王子を幽閉と言う名で捕らえ 地下牢に繋ぎ止めていた事は皆 存じております お二方がデネシアで不合理な拷問を受けていた事も …それでもベネテクトの民たちは 我らの王が この国へ戻るまでの間 デネシアの兵に怯えさせられながらも 必死に堪えて 待ち続けて参りました その彼らでさえ 友好国のアバロンを慕い 今日と言う日を共に祝っているのですっ バーネット様、貴方様は この国の王です、バーネット1世様が守り通した このベネテクト国を…!」
バーネットが言う
「…分かった もう良い」
バーネットが自室へ向かう モフュルスが表情を落として バーネットの後ろ姿を見送る

【 アバロン城 式典会場 】

結婚式が執り行われている最中 家臣たちの下へ伝達の兵が駆けて来てメモを渡す それを見た家臣たちが無言で喜び合い ヴィクトールへ伝える隙を待つ

ヴィクトールが式典会場の別室で バーネットからの電報を読んでいる
『親愛なるアバロン国国王ヴィクトール13世殿 本日の婚儀への欠席を深くお詫びする ベネテクト国は貴公の祝賀を国民並びに国王共々祝い喜んでいる 今後とも両国の祝祭を 共に祝い共に喜ぶ事を望み それをなす為にも 変わらぬ友好をここに表す バーネット2世・ベネテクト』
電報を読み終えたヴィクトールが 用紙を持つ手を下げて上を向く 家臣たちが喜んでヴィクトールのもとへ駆け寄って言う
「ヴィクトール陛下!バーネット様も 本日の祝賀を喜んで下さっております!」
「ベネテクト国大臣のモフュルス殿より バーネット様は少々お風邪を召されているとの連絡が入っております」
「後日改めてお祝いにいらっしゃるかも知れませんな!?」
ヴィクトールが一度目を閉じ開いてから言う
「完全に… 嫌われちゃった…」
大臣たちが驚き顔を見合わせてからヴィクトールへ向いてハッとする ヴィクトールが無言で涙を流している事に気付き 再び大臣たちで顔を見合わせて困る

半年後――

ヴィクトールが玉座に座っていて 国王の業務的な謁見を終らせ束の間の時間が空く ヴィクトールが深い溜め息と共にうな垂れる 家臣たちが顔を見合わせ表情を困らせ手を拱いている ヴィクトールが気付き顔を上げる 伝達の兵がやって来て跪いて連絡を行う
「申し上げます 悪魔力の影響は大陸中央部 及び北部、東部、南部が共に強まっており 西部の大陸からは魔物の姿が消えたとの事 しかし、大陸西部の魔物が その他の大陸へ移ったと言う事は 魔物の種類からして考え辛く 恐らく魔物の増加は 悪魔力の増加が原因ではないかと考えられております」
ヴィクトールが言う
「大陸西部とは具体的に どの辺りを範囲としている?」
ヴィクトールの問いに兵が答える
「はっ!大陸西部はローレシア領域 及びデネシア領域とし、ガルバディア領域は北部と認識しております」
ヴィクトールが間を置いて問う
「その2国の領域からは魔物が消失し ガルバディア領域の西部には 存在が確認されているのだな?」
兵が答える
「はっ!その様に確認されております ガルバディア領域の西部には 他の大陸と同様に 魔物の増加が確認されております」
ヴィクトールが言う
「分かった 引き続き調査を行い 報告を頼む」
兵が返事をして立ち去る ヴィクトールが報告を元に考えているが その表情は浮かない 家臣たちが困り3人で互いを突っつき合いながら気の利いた言葉を諭す ヴィクトールが再び溜め息を吐く 家臣たちがヴィクトールへ言う
「ヴィクトール陛下!?魔物の量は やはり今までに無い勢いで この半年急増しております」
「各国も その対応に追われており 国政等もままならぬ状態です このような時こそ 世界中の国々が団結し 悪魔力の脅威に 立ち向かう必要があると 思われます!」
「そ、そうです!そして その役目は やはり我らのアバロン国であると!」
ヴィクトールが視線を家臣たちへ向けてから 肩を落として言う
「このアバロンでさえ 魔物の増加に対処する兵の増員に多額の国財を浪費している… デネシア国は大陸西部に在る為 それらの心配も無く アバロンからの融資を得て 国の復元に全力を上げ この半年でそれらの7割以上を成し遂げた…」
家臣たちが顔を見合わせてから 笑顔を作って言う
「はい!やはりアバロンからの融資が 多いに功を奏したものだと思われます!ほぼ壊滅状態であったデネシア国にも 今や活気が戻りつつあるとの事です!」
「デネシア国の復興に関しましては まさにアバロンを象徴する 友情と慈愛の精神の現れ!たった半年で 過去アバロンが破壊した城や ガルバディアが灰と化した城下町 それら全てが復元されたのです!」
「それらの事は他国にも知られております!アバロンの力と志を象徴するのにも 役立っておるでしょう!」
ヴィクトールが家臣たちへ向けていた視線を落とし 微笑んで言う
「あの国の復興の早さには 僕も驚いたよ… きっと ベネテクトだって アバロンが融資を行えば とっくに復元されていたはずなのに」
家臣たちがギクッと焦り 慌てて言葉を繋げる
「べ、ベネテクト国におかれましてはっ 先代、先々代もアバロンからの融資は受け取らず 自国のみで その復元に精を出されておられるのだとかっ!?」
「そ、その通りで御座います 先代ヴィクトール12世元国王陛下の時代にも バーネット1世様は戦争などで負った自国の被害は 自国で行うと申され 一切の融資を受け取らなかったと!」
「現在のベネテクト国国王バーネット2世殿も アバロンからの融資を断っておりますので!?」
家臣たちが焦る中 ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「しかし、それは悪魔力の影響が 今ほど無い頃の話だ 現にベネテクト城の再建作業もこの所はかどっていない ベネテクト国は大陸東部に位置している きっと… 城の再建所ではないんだ このアバロンでさえ それ程余裕がないのだから」
家臣たちが再び顔を見合わせ 互いに良い言葉を探し出そうと言う
「で、でしたらきっと 近い内に友好国であるアバロンに 融資を頼まれるかもしれません」
「そうです!その時には 王妃様の故郷であるデネシア国に与えたのと 同等に与えられれば それこそアバロン国の友情と慈愛を象徴する事にも!」
「バーネット様はヴィクトール陛下と王妃様の婚礼時にも 一国の王としての手筈を踏まれたお方です この悪魔力の影響からベネテクト国を守るには 友好国のアバロンを頼る他に無い筈!きっと近い内に連絡を送って来られるでしょう!」
ヴィクトールが少し怒って言う
「僕はっ ベネテクト国に頼って貰いたいんじゃないっ 婚礼の祝電みたいに 国の為にやらされた事で 連絡を送られたって そんなのはっ!」
大臣たちが焦る ヴィクトールがうな垂れて続ける
「…国の為に協力するのは悪くない 力を合わせて 悪魔力から世界を守ろうと約束した… その為になら 一国の王として どんな事だって出来る でも…」
ヴィクトールが黙る 家臣たちが顔を見合わせてから言う
「で、でしたら!?そちらを成し遂げられたら 宜しいのではないでしょうか!?」
ヴィクトールが家臣たちへ視線を向ける 家臣たちが慌てながら続ける
「そ、そうです!今は 世界中の国々が悪魔力と戦っております!このアバロンが それらを全て統一し 一団となって悪魔力と戦う!…そうなればバーネット様も?きっとアバロンとヴィクトール陛下を信頼し 再び共に戦って下さるでしょう!?」
家臣Bの言葉に ヴィクトールが顔を向けて問う
「信頼?…バーネットは デネシアと友好を結んだ僕やアバロンへの信頼を 失っていると言う事なのかな?」
家臣Cが言う
「このアバロンが世界中の国を全て統一し 帝国となり その力をしっかりと表して見せれば!バーネット様もきっとヴィクトール陛下の志を 認めて下さるものと思われます!」
ヴィクトールが家臣Cへ向いて問う
「認める…?僕やアバロンが世界の国々と力を合わせて 悪魔力と戦う姿を見せれば バーネットは僕やアバロンを認めてくれるのかな?」
家臣たちが表情を明るめて言う
「勿論です!各国が悪魔力の脅威に怯えている今こそ このアバロンとヴィクトール陛下が 先陣を切って悪魔力と戦えば バーネット様は勿論、各国もアバロンとヴィクトール陛下の力と志を認め 共に手を取り合い 戦う事が出来ましょう!」
「そうです!勇者を繰り出したローレシアが各国からの信頼を失いつつある今 そのローレシアの元友好国であったデネシア国を救ったのは 紛れも無くこのアバロンです!」
「デネシア国の次に救うのは 悪魔力の脅威に脅かされている この全世界!今こそ このアバロンとヴィクトール陛下が立ち上がるべき時です!」
家臣たちが気合を入れた体勢で止まる 一瞬間を置いてから ヴィクトールが微笑んで言う
「そうだね… このままでは 何も変わらない… それなら?アバロンと僕に出来る事を全力でやって それを認めて貰う… バーネットだけでなく、他の国々にも そうすれば 本当に この世界を救えるかもしれないっ」
家臣たちが表情を明るめ顔を見合わせる ヴィクトールが顔を上げて言う
「よし!ではまず全世界の魔物による被害を確認!支援が行き届いて居ない場所へ アバロン部隊と物資を送れ!ローレシアの勇者らの動向と 結果の報告を!ソルベキア国とシュレイザー国が開発している悪魔力測定装置の進行状態を確認してくれっ」
家臣たちが笑顔で返事をして各自が急いで向かう ヴィクトールが微笑み 玉座の間にある 友好国の国印 ベネテクト国の物を見て言う
「バーネット、僕は 君との約束を続けるよ きっとまた 一緒に 世界を守るために戦えるはずだ 僕は君を信じる!」

【 ベネテクト国 】

バーネットが自室へ足音高く帰って来る 室内に居たモフュルスが顔を上げる バーネットが勢い良く扉を開け 椅子へ向かいながら言う
「やっぱりだっ!あの祠の周囲には魔物の数だけじゃねぇ 種類も違って来ていやがる!きっと今までの悪魔力の量では魔物化しなかった野生動物どもが 魔物化しちまってる!…ってぇえ事はだ!あの祠が悪魔力の元凶である可能性が!クソデケェって事だ!」
バーネットが椅子に座り机に足を乗せながら続ける
「悪魔力に対抗するには聖魔力だ… 聖魔力ってぇのは 確か~ あの宝玉に蓄積されるってぇ奴だろ?ソルベキアの開発する機械を待って 測定するなんざ悠長な事やってねぇで、まずはあの祠に 宝玉の聖魔力を使った馬鹿強ぇえ魔法バリアか何かを張って置いたら良い その後に その近くで種類の違う魔物が増えず、尚且つ魔物の数も増えなければ それはそのまま結果として繋がるんだ!…てぇえ 事でモフュルス!」
バーネットがモフュルスへ向いて指を指す モフュルスが笑顔で返事をする
「はい、バーネット様」
バーネットが言う
「今すぐ 宝玉と聖魔力の魔法バリアを張れる魔力者を呼べ!ベネテクト城の裏にある あの古い祠に 聖魔力の強力な魔法バリアを張らせろ!」
モフュルスが笑顔のまま答える
「はい、バーネット様 お言葉ですが 宝玉はこのベネテクト国だけでなく 他の国々もローレシアの勇者様へ貸し出されてしまわれているので 手配は難しいと思われます」
バーネットがハッとしてから言う
「はっ!そ、そうだったぜ… まさか あの忘れてた宝玉が こんなに重要なものになりやがるとは… んならっ!しょうがねぇえ!聖魔力の強力な魔法バリアを張れる魔力者だ!」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「はい、バーネット様 お言葉ですが 悪魔力を防ぐほどの強い聖魔力の魔法バリアを張られる魔力者となると、それはローレシア領域にある魔力者たちの町や村からとなります しかしながらローレシア国はデネシア国の元友好国、そして現在も一部の協定が結ばれている為 そのローレシア領域の魔力者を連れて来るのは少々難しいかと…」
バーネットが呆気に取られた後イライラと頭を掻きながら叫ぶ
「だぁああ!ちくしょうっ!他の国に知らせるためにも 明確な結果が無けりゃぁあダメだ!そうじゃなかったら うちみてぇなハグレ国の意見なんざ 誰も聞き入れやしねぇ!」
バーネットが机を叩いて言う
「こうなりゃぁあ 最終手段だ!モフュルス!大金押し付けて ローレシア領域の魔力者を 引っ張って来やがれ!!」
バーネットがびしっとモフュルスへ指差して叫ぶが モフュルスは変わらぬ笑顔で言う
「はい、バーネット様 お言葉ですが…」
モヒュルスの言葉の途中で バーネットが机を叩いて言う
「んだぁあ!?今は悪魔力の脅威から世界を救う前に この国だって守らなきゃならねぇえ!!デネシア関連のローレシア領域の町だとか村だとか言ってねぇえで!頼み込んででも 大金押し付けてでも 連れてきやがれ!!」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「はい、バーネット様 頼み込むのは 私めがいくらでも頭を下げて参りますが… あいにく押し付けて見せるだけの大金が御座いません」
モフュルスの言葉にバーネットが呆気に取られる モフュルスが変わらぬ笑顔で続ける
「ついでに、もし 魔力者殿の御好意で 破格の金額で執り行っていただけるとしても その後の成果の確認作業などを行うのも 現在の財政では困難でありますかと」
バーネットが勢いのままに立ち上がって叫ぶ
「んだとぉお!?どぉお言う事だてめぇえ!?んなら ここにあるベネテクト王家の宝を全部売っ払ってでも!!」
バーネットが言いながら宝物庫の扉を叩き開き 遅れて顔を室内へ向ける 部屋の宝が無くなっている バーネットが悲鳴を上げて叫ぶ
「なぁああーっ!?」
バーネットがモフュルスへ顔を向けて叫ぶ
「おいぃいい!!モフュルス!!ここに在ったベネテクト王家の宝は どうしやがったぁあ!?」
バーネットがモフュルスを締め上げて言う
「てめぇえ!!いつの間に移動させやがったんだぁ!?パクったんなら ただじゃおかねぇえぞぉおお!?」
バーネットが凄みを利かせてモフュルスを見る モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「移動させても、盗んでもおりません 全て悪魔力の影響により増加した 魔物退治用の傭兵を雇う費用に使ってしまいました 後はバーネット様からの依頼で ローレシアの勇者様とソルベキアが開発している機械の進行報告 及び アバロン国の動向調査 それら全てを執り行うのに 元々在った国財は勿論、こちらの宝も全て無くなってしまったのです」
バーネットが衝撃を受けモフュルスを手放し 頭を抱えて悲鳴を上げて言う
「ぐあぁああ!!しまったぁああ!悪魔力の影響調査と国内の魔物退治に気を取られて 財源確保の賞金稼ぎを忘れてたぜぇええ!」
バーネットがモフュルスを指差して叫ぶ
「てめぇええ!モフュルス!!なんでもっと早く言わなかったんだ!?馬鹿野郎ぉおお!!」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「お伝えしようにもバーネット様は常に 悪魔力の影響と国内の魔物の被害確認や アバロン国のヴィクトール様の件をお考えの様でしたので 賞金稼ぎの余裕は無いものとの判断をさせて頂きました 現に国内の魔物処理だけで 現在は手一杯の状態 この上 他国の賞金稼ぎなどをやった所でその賞金も すぐに費えてしまいます」
バーネットがモフュルスの言葉に押され 表情を悩ませて言う
「ぐぅ…っ んなら どうしろってんだ?折角ここまで悪魔力の影響や あの祠に付いて調べ上げたってぇえのに…」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「バーネット様、ここまでやられればもう十分で御座います 今までに調べ上げられた悪魔力についての資料をアバロンへ謙譲し、融資の依頼を行なうべきです バーネット様とてお分かりのはずです、アバロンがデネシアと協定を結んだのは」
バーネットが顔を背けて言う
「分かってる、あいつだって好きでやった訳じゃねぇってんだろう?アバロンだって バーネット1世の恩を忘れちゃいねぇ筈だ あのまま放っといたらローレシアから見捨てられたデネシアは ガルバディアとアバロンから受けた打撃で潰れていた デネシアを侵略したアバロンが、もう1つの要因であるガルバディアのウィザードまで得てるとなっちゃぁ尚更だ」
モフュルスが軽く笑って言う
「でしたら もう… きっとヴィクトール殿も お待ちの筈です、現にあの日以降 一日も欠かさずヴィクトール殿からは バーネット様宛に通信が入っております」
バーネットが溜め息を吐き俯いて顔を横に振る モフュルスが困った表情で一歩近づく バーネットが顔を上げて言う
「ああ、分かってるよ あの泣き虫がずっと待ってやがる けど、こっちだって この半年強情を張って来たんだ 戻るからには それなりの手土産が無けりゃ 格好が付かねぇだろ?」
モフュルスが苦笑して言う
「ですから、そちらは あの悪魔力の資料で」
バーネットがモフュルスの言葉を制して言う
「あれだけじゃダメだ、あれはどれも推測だ ひとっつも確証がねぇ あんな状態で持って行って 融資を得て 実際に調べてみたら全部ガセでした なんて言ってみろ?それこそ俺はベネテクト国の面汚しじゃねぇか?」
モフュルスが苦笑して言う
「確かにそうかもしれませんが… このままではベネテクト国内の魔物退治をするのが手一杯 これ以上の悪魔力の調査どころか… ベネテクト城の再建も難しくなりますぞ?」
モフュルスの最後の言葉にバーネットが衝撃を受け 慌ててモフュルスを締め上げて言う
「ちょ、ちょっと待て!それはっ こ、困る!それじゃぁあ 俺の城が いつまで経っても建たねぇえじゃねぇえか!?」
モフュルスが再び笑顔で言う
「そうは申されましても 現在の財政ではベネテクト城再建の資金を 魔物退治を行う傭兵への報酬として使用する他ありません バーネット様、現在は どちらの国も同様な状態ですので どうかベネテクト城の再建に関しましては」
バーネットが怒って叫ぶ
「ふざけんじゃねぇえ!その どこの国だって城ぐらいあんだろぉお!?いざって時に民を避難させる為にも 城は必要だ!!」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「確かに城は有事の際は民の避難先となり得ますが、あいにく このベネテクト城に関しましては近郊の町からも遠く 有事の避難先としては相応しくはあられないかと… それでしたら町や村に相応の施設を建設する方が 有効かと思われます」
バーネットがイライラと頭を掻きながら言う
「だぁああ!!うるせぇええ!一国の王だってぇえのに!いつまでも地下室暮らしなんざしてられっか!!城の再建は止めるんじゃねぇえ!何とかして国財を探し出せぇえ!!」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「お言葉ですがバーネット様、私の知り得る限り ベネテクト国の国財はこちらにありました宝のみで御座いました ここは一先ず、城の再建は思い切って停止し まずは悪魔力の調査とアバロンとの友好の回復が先決かと」
バーネットが再び悲鳴を上げながら叫ぶ
「ぐぬぬっ!ちくしょぉお!分かったぁ!城の再建は停止だ!魔物退治の傭兵への報酬と 悪魔力調査の資金に当てろ!」
モフュルスが笑顔で言う
「流石は あのバーネット1世様の血を引き継がれるお方です バーネット様にはそう仰って頂けると思い …すでに その様に手配をさせて頂きました」
バーネットが衝撃を受け一瞬止まった後 モフュルスを締め上げて叫ぶ
「てめぇええ!!国王は俺だろ!!勝手に先行すんじゃねぇええ!!」
モフュルスが変わらぬ笑顔で言う
「勿論で御座いますバーネット様、手配をしただけでで 決行は致しておりませんので御心配無く」
バーネットがモフュルスを手放して溜め息を付いて言う
「とは言え、このままじゃぁデネシアに捕まってた時と変わらず 一生地下室暮らしになっちまう… さっさと悪魔力を無くして 城の建設でもしねぇと 国王らしくねぇ所じゃなくなるな」
バーネットの表情の落ちた顔を見たモフュルスが苦笑して言う
「バーネット様、国王と言うのは 何も城に住んで 玉座に座り指示を送るだけの者ではありません バーネット1世様もそうで御座いましたが このベネテクト国の国王は代々、民と共に生き 民を愛する王で在りました バーネット様は歴代の それらベネテクト国王と同等か それ以上のお方で有ると 私めは思っております」
バーネットがモフュルスの言葉に苦笑して言う
「ハッ!んな上等なもんじゃねぇよ 現に俺は今 アバロンとの友好に亀裂を生じさせてる そのせいか知らねぇが 町を歩いても 誰も俺に気付かねぇし国王扱いもしやがらねぇ」
バーネットの言葉に モフュルスが苦笑して言う
「それは気付いて居ないのではなく 先代国王バーネット1世元陛下がお決めになられた 国王が黒色の髪を見せている時には 畏まる必要は無いという取り決めからかと?」
バーネットが笑って言う
「まぁ、それも有るかも知れねぇが… 俺も自分で言うのも何だが イマイチ自分が国王だぁ なんて気がしなくってよぉ?まぁ いまだに王子気分って訳でもねぇんだが…」
モフュルスが軽く笑って言う
「それはきっと 正式に戴冠式などを 執り行っていないせいでは無いでしょうか?」
バーネットが納得した様子で言う
「ああ、そうか… そうかもしれねぇな?」
バーネットが言いながら壁に在るバーネット1世の肖像画を見上げ 軽く笑ってから近くの鏡へ視線を向ける 間を置いて 鏡をじっと見つめる モフュルスが疑問する 一瞬間を置いてバーネットが叫ぶ
「あぁああーっ!!」
モフュルスが驚き バーネットへ詰め寄って言う
「ど、どうされました バーネット様!?」
バーネットがモフュルスの襟首を掴んで叫ぶ
「おいっ!モフュルス!!てめぇええ!!何で今の今まで言いやがらなかったんだぁあ!?」
モフュルスが呆気に取られて言う
「…と、申されますと!?」
バーネットが再び鏡を見てから 鏡を指差して叫ぶ
「ねぇえだろ!?俺の頭の上に 王冠がよ!!」
モフュルスがバーネットの指差す鏡を見て 続いて バーネットの頭上を見てから叫ぶ
「なんとーっ!そうでございましたー!」
バーネットがモフュルスの身を揺らしながら叫ぶ
「てめぇええ!!モフュルス!何で知らせなかったぁあ!?国王が自国で王冠も乗っけてなけりゃ 誰が王だか分からねぇえじゃねぇええか!!」
モフュルスが苦笑しながら言う
「い、いえっ 分からない事も無いと思われますが …確かに、盲点で御座いました」
バーネットが頭を抱えて叫ぶ
「あぁああ!ちくしょぉおお!あいつだって乗っけてたぞー!?ヴィクトールだって立派な アバロン国王の王冠を乗っけてやがったってぇえのにっ!!」
バーネットがモフュルスの襟首をつかみ揺らしながら言う
「王位を譲られて この8年と半年!考っがえもしなかったぁあ!おいっ!モフュルス!!てめぇえ!よくも俺に恥をかかせやがったなぁあ!?これじゃぁ自国の町ん中を国王が 裸で歩く様なもんじゃねぇえかぁああ!!」
モフュルスが揺らされながら苦笑して言う
「それは申し訳御座いませんでした、私めも どうもバーネット様を 幼少の頃からお世話を受け持っておりましたが故に 何の違和感も無く受け入れてしまっておりました」
バーネットがモフュルスを手放し顔を赤らめながら睨む モフュルスが苦笑しながら言う
「王冠でしたらすぐにでも手配をさせられます、御安心を それほど豪華なものでなければ 急がせれば 数日の内に御用意出来る筈ですので」
バーネットが腕組みをして考える モフュルスが笑顔で言う
「形はどのように致しましょう?やはり歴代のベネテクト国国王と同系で バーネット1世様と同じく 全体的にスマートな形で 宝石類は少なめの方が宜しいでしょうか?…正直、現在このベネテクト城に 残されている宝石類は少なくなってきておりますので あまり豪華に散りばめるとなりますると 少々手間も掛かります故に」
バーネットが少し考えてから言う
「…いや、やっぱり今は良い」
モフュルスが驚いてから言う
「は?良いとは?」
バーネットが宝物庫の中へ入って言う
「その資金は さっきてめぇえが言ってた 町や村に相応の避難場所を作るってやつに当てろ ここに残る宝石類も全部売っ払えば何とか足りやがるだろう」
モフュルスが驚いたまま言う
「し、しかしバーネット様っ」
バーネットが宝物庫の中を漁りながら言う
「今はそれ頃じゃねぇ 城もねぇのに 王だ何んだなんて言ってられねぇだろ?今 在るのは領地と民だけだ だったら その領地に民を守る施設を作る方がよっぽど重要だぜ」
モフュルスが言葉を失い 壁に在るバーネット1世の肖像画を見上げて言う
「バーネット1世様 貴方様のご子息 バーネット2世様は立派なベネテクト国の王となられました 歴代のベネテクト国王に勝るとも劣らない 民と共に生き、民を愛する王で御座います」
モフュルスが言い終えると共に視線をバーネットへ向ける バーネットが宝物庫を漁りながら言う
「…にしても アレだけあった宝が これっきしになっちまうたぁ やっぱりベネテクトは… …ん?なんだぁ?この紙っ切れは?」
バーネットが言いながら くるまれた紙を広げる モフュルスが近づいて来て言う
「バーネット様、どうかなさいましたか?」
モフュルスが言いながらバーネットの手に持つ 広げられた世界地図を覗き込んで言う
「世界地図に御座いますね?」
バーネットが軽く笑って言う
「しかも、見ろよ?いかにもって やつだろぉ?」
モフュルスがバーネットの指差す部分を見て言う
「…はて?何の印でしょうか?まるで…」
バーネットが言う
「宝の地図 …なんてな?」
地図には南西の海上に×印が付けられている バーネットが軽く笑って言う
「おいおい、いくら何んでも こんな分かりやすい宝の地図なんざ ありやがる訳が…」
バーネットが言って投げ捨てようとするが 間を置いてもう一度地図を見る モフュルスがバーネットへ首を傾けて言う
「バーネット様?」

【 海上 】

晴天の空の下 海賊船の船首にバーネットが仁王立ちで立っている 波の音と共に海賊達の下品な笑い声が聞こえる カイザがやって来て声を掛ける
「どうだい?俺の船の乗り心地は?」
バーネットが口角を上げて言う
「ああ、悪くねぇ …と、言っても 俺は船は初めてなんだ 良いも悪いも分かんねぇけどな?」
カイザが爆笑して言う
「あっはっはっ まったくイカれた奴だよアンタは!初めての船だってのに、海賊船に乗るだなんてよ?それともなにか?どれが海賊船で、どれが客船だか 分からなかったのか?」
カイザの言葉に他の海賊たちも笑う バーネット言う
「ああ、分かんねぇな?取り合えず、一番強そうな船を選んでみただけだぜ?」
海賊が一瞬呆気に取られてから盛大に笑う カイザが上機嫌にバーネットの肩を叩きながら言う
「あっはっはっ!気に入った!ますます気に入ったぜ アンタ!初めて合った時から面白い奴だとは思ったが…」

回想

カイザたちが町で買い付けを終えて船へ戻って来る 船への橋げたの前で見上げている黒い人影 カイザがいぶかしんで近付き声を掛ける
『おい?アンタ、俺らの船に何か用か?』
ゆっくり振り返った相手 バーネットがニヤッと笑んで言う
『ああ、用があったから待ってたんだぁ』
バーネットが言いながら一枚の地図をカイザの目前に突き付ける カイザが一瞬身を退けてから 地図へ目を向ける バーネットが続けて言う
『俺をここへ連れて行け 報酬は… 適当に払ってやる』
カイザがバーネットの言葉に地図から視線を上げると その顔に金貨の入った袋がぶつけられる カイザが一瞬イラッとしながらも袋の中を確認する 次の瞬間 カイザがまんべんの笑顔で言う
『さあさあ!乗った乗った!おめぇらーーっ!出っ向ーだーーーっ!』

回想終了

カイザが地図を確認しながら言う
「何処の誰だか知らねぇけど、この地図の場所に 一体何があるんだ?」
バーネットが答える
「さぁな?知らねぇ」
カイザが驚いて言う
「え?」
カイザが地図から顔を上げる バーネットが海の彼方を見ながら言う
「だから 何があるのかを 確認しに行くんだ もしかしたら…」
カイザがバーネットを見上げたまま真剣な表情で言う
「も、もしかしたら…っ?」
バーネットが視線を空へ変えて 気の抜けた様子で言う
「ただ そこらにあった地図に 誰かが てきとーに印を付けただけ …なのかもな?」
カイザが転びそうになって言う
「なっ!?お、おいっ!ホンキか!?あんたっ!そんなんで!?」
バーネットが笑って言う
「はっはー、まぁ良いじゃねぇか?お前ら海賊だろ?地図に印がありゃ~ 行ってみたくも なるだろうがよ?それで… 本当にお宝があったら 嬉しいじゃねぇか?」
バーネットが言いながら立ち去る カイザがポカーンとその後姿を見送る バーネットが船室へ入って消えると カイザが思い出した様に地図を見て言う
「お宝?宝の地図だって言うのか!?これ… がぁ?いや… まさかなぁ?」
カイザがもう一度バーネットの去って行った方を見て言う
「…まったく、海賊みてぇな奴だぜ?」

夜、甲板で食事をする海賊達とバーネット バーネットが言う
「後どの位で着くんだ?そろそろ飽きてきたんだが…」
バーネットの言葉に海賊達が笑って言う
「そろそろって?まだ丸一日経って無いぜ?ダンナ」
バーネットが肩を落として言う
「半日位で着くかと思ってたんだ… 退屈でたまらねぇよ」
海賊たちが笑い言う
「あっはっはっは 聞いたか?約1800マイルを半日だってよ?」
「そりゃダンナ、空でも飛んでもらわねぇと」
にぎわう甲板 海賊達が面白がってバーネットに色々と聞く バーネットも初めて話す相手に楽しんでいる バーネットが言う
「…所で海賊ってぇのは 港町以外には行かねぇのか?例えば… 冬の間は陸に上がって 何かするとかよ?」
バーネットの問いに海賊達が一度顔を見合わせた後 笑って答える
「俺らは海賊の町ヴィルトンの出身だぜ?冬の間中 ずっと陸になんか上がってたら 死んじまうってもんだ!」
「ああ!俺なんて一週間で土に根が張っちまいそうだ」
海賊たちが笑い合う バーネットが不思議そうに言う
「そうか?俺なんて一週間も船の上に居たら 干乾びるか 船の一部にでもなっちまいそうだ」
バーネットの答えに 海賊たちの大半が笑い 一部が不快そうに言う
「ずっと陸の上で生きるなんて真っ平だぜ、地面の上で這いつくばって 右も左も地面があって おまけに山なんかに囲まれてみろよ?息が苦しくなるぜ」
「ああ!人は多いし、国同士は争ってばかりでよ?重てぇ甲冑着込んで剣やら盾やら持って いつだって狭ぇ土地の奪い合いよ!」
「ああ!そうだ!そもそも、国なんかがあるからいけねぇんだ!色んな国の王様が狭い土地を 奪い合ってやがる」
「陸の人間は心が狭ぇんだよ、陸の大きさと同じだぜ!いつの間にか魔物も現れて 陸になんか住んでる奴らの気が知れねぇ!」
海賊たち仲間たちの言葉に頷いてみせる バーネットが不機嫌な表情で言う
「なら てめぇらは 酒は飲まねぇのか?」
海賊たちがバーネットへ顔を向ける バーネットが続けて言う
「米は?パンも食わねぇのかよ?家畜の肉もチーズも要らねぇのか?」
バーネットから少し離れ 今まで人々の声でバーネットらの会話が聞こえていない場所で 肉の塊にかぶり付いている海賊とチーズをナイフで串刺しにしている海賊が何事かと振り返る バーネットの近くに居たカイザが軽く笑って言う
「いや… そんな事はねぇけどよ?」
バーネットが手にしていた肉を振りながら言う
「陸が無くって、土が無けりゃ穀物は育てられねぇ、土に生える草が無けりゃ家畜は育てられねぇ 家畜を育てる人間が居なけりゃ肉もチーズもねぇだろ?」
それでもバーネットの言葉を肯定しない海賊たちに バーネットは続ける
「そりゃ、海には魚が居るんだから 飢え死んじまう事はねぇかもしれねぇけど、それだけじゃぁな?少なくとも俺は無理だ」
張り詰めていた空気が和らぐ それでも誰も言葉を発しないので バーネットが苦笑して言う
「陸には食い物があって、それを作る人が居て、そいつらが集まる村や町があって もっと集まって国がある、そこに住む民を守るための国政が必要で、国を守る為に兵が居て、そこに~ そうだなぁ?ついでにって感じで国王が居るんだ」
海賊達が驚いて言う 
「国王は『ついでに』か?」
バーネットが苦笑して言う
「あったりめぇえだろ?国王だけ居て、兵も、民も居なかったらぁ そいつは何んだよ? ただの人じゃねーか?」
海賊たちが表情を緩ませて言う
「ちげーねぇ!」「そりゃ傑作だ!」
バーネットが苦笑して言う
「だろ?」
海賊達が笑い出す バーネットが一息吐いて 空を見上げて言う
「国王ってのは… 民の奴隷で良いんだ 俺はそう思う」
波の音に消えそうなバーネットの独り言は それでも海賊たちには聞こえている 皆不思議そうに それで居て満足気にバーネットを見ている 皆の様子を見たカイザがバーネットを見て呆気に取られる

甲板で眠っていたバーネット含む海賊たちを朝日が照らす頃 見張りの海賊の声が響く
「島だ!島が見えたぞー!」
マストの上の見張り台からの声に 眠っていた海賊達が目をこすりながら起き上がる 彼らと共に起き上がったバーネットが首を鳴らしながら見上げた先で カイザが双眼鏡を手に確認して言う
「この位置に島があるなんてなぁ… 俺らの持つ地図には何も描かれていなかったのに」
バーネットが笑んで言う
「なら描き直しておけよ?ベネテクトに持って来れば得意だぜ?」
カイザが床に座ってバーネットを見て問う
「何でベネテクトなんだよ?」
バーネットがカイザから双眼鏡を奪い取って眺めながら言う
「ベネテクトはしょっちゅう地図を描き換えてんだよ、隣のやんちゃな国のお陰でよ!」
カイザが首を傾げて言う
「はあ?」
島を確認したバーネットが口角を上げ 双眼鏡を離して言う
「それより上陸だろ!?急げよ?もう待ってらんねぇぜ!」
カイザが笑って言う
「っはは!まぁそう 焦るりなさるなって!まだ島が見えただけだ」

島に上陸したカイザとバーネット 数人の仲間を連れて島の洞窟へ入って行く 暗い洞窟の中を カイザの持つランタンの明かりだけで進む 洞窟の奥まで辿り着いたバーネットたち、扉の先からあふれる光を見て バーネットが扉を押し開く カイザがその先を見て声を上げる 
「そんな!まさかっ!?」
そこには絵に描いたような宝の山がある 無言で驚くバーネットの後ろから カイザを含む海賊たちが 我先にと宝に飛び付く カイザたちが宝をすくい上げ喜んでいる中 バーネットが1人冷静に光の元を探す 眩い金銀財宝を尻目に漁ると そこに宝玉がある バーネットが驚いて手に取って言う 
「こいつは…」
バーネットが宝玉を手に入れ 振り返って カイザたちに声を掛ける
「よし、地図の示していたものは分かった、戻るぞ?」
バーネットの言葉に 海賊たちとカイザが驚き言う
「ちょ、チョット待てよ!?この宝は!?どうするんだ?」
カイザたちがバーネットの顔を見る 皆の視線の先 バーネットが彼らの視線と周囲の財宝を眺めてから 軽く息を吐いて言う
「ならぁ… 適当に持って行くか?」
海賊たちが大喜びで着ている服に財宝を詰め込む カイザがハッとして遅れて彼らから良さそうな宝を取り上げている そんな彼らを眺めながら バーネットが近くにあった王冠を手に取る 王冠は大きく豪華な宝石が散りばめてある バーネットが煌びやかな宝石の輝きに目を細める

回想

バーネット1世とヴィクトール12世が談笑している それを見上げる幼いバーネット

画面が切り替わり バーネット1世とバーネットが居る バーネットがバーネット1世へ問う
「なぁ親父?なんで親父の乗っけてる王冠はそんなに地味なんだ?ヴィクトール陛下みたいな 綺麗で豪華なヤツの方が 格好良いぜ!」
バーネット1世が振り返って言う
「ハッ!ならぁ てめぇえはどう思う?」
バーネットが疑問してバーネット1世を見上げる バーネットへ向き直ったバーネット1世が言う
「もしてめぇが、どっかの国の 一庶民だとする」
バーネットが一瞬呆気に取られた後 うんと頷く バーネット1世が口角を上げて続ける
「んで、てめぇは すげぇド貧乏で 今日食う物だって買えねぇんだ、困ったてめぇは そのどっかの国のどっかの城へと向かう」
バーネットが想像している バーネット1世がそれを確認しながら続ける
「てめぇが辿り着いた先には すげぇ豪華でデケェ城が建ってやがってなぁ?てめぇは恐る恐る入ってってぇ ビビっちまうような玉座の間に通されるんだ そこには黄金の玉座にふん反り返った 偉そぉな国王が座ってやがる、でぇ その国王は首が潰れっちまいそうなほど ドデカくって豪華な王冠を頭に乗っけてやがってだな?その野郎が てめぇを見下して言いやがる『小汚ねぇ一庶民がぁ この俺様に何の用がありやがる?』ってな?さぁ… てめぇはどぉーするよぉ?」
話しの途中から苛立っていたバーネットが怒って言う
「ぶっ殺すっ!!」
バーネット1世が大笑いする バーネットが怒ったまま言う
「俺は今日食う物も買えねぇんだぞ!?豪華な城の中をビクビクしながら それでも必死に行った先で そんな国王が居たら!俺はそいつをぶっ殺して 町の皆で城の宝を山分けにするんだ!」
バーネット1世が口角を上げて言う
「それじゃぁ、こっちはどぉだ?てめぇが行った先には こぢんまりした城があってだな?そこそこの装飾の玉座の間で てめぇがちょいと頑張ればぁ 何とかなりそうな程度の玉座に座った王が そこそこの装飾の王冠を頭に乗っけて てめぇに聞くんだ『何だてめぇ?今日食うもんも買えねぇのか?なら… 俺と一緒に 賞金稼ぎにでも行くかぁ?』ってなぁ?」
バーネット1世が再び爆笑する バーネットが転びそうになりながら言う
「そ、それは親父じゃねぇか!俺はっ!俺は… そいつに食い物買ってやれる位の 金を与えてやりたい…」
バーネット1世が笑いを収め軽く微笑んで言う
「なら てめぇは 俺よりもっと頑張らねぇとだぜ?はっはー てめぇに出来るのかねぇ?」
バーネットが言う
「俺はやる!食い物が買えねぇ一庶民が居ない国を作って アバロンのヴィクトール12世より豪華な王冠を乗っけられる国王になるんだ!」

回想終了

バーネットが手に持った王冠を一度見る バーネットの様子に気付いたカイザが声を掛ける
「ダンナ、どうかしたのか?」
カイザに声に バーネットが顔を上げ 海賊たちがたっぷり財宝を服に詰め込んだのを確認して言う 
「いや、何でもねぇ 気が済んだなら船へ戻ろうぜ?」
バーネットが苦笑し王冠を手放して歩き出す 海賊たちがバーネットの後に続く バーネットが軽く笑って言う
「俺はまだ… 王冠すら乗っけられねぇや」

【 ベネテクト城 】

ベネテクト城 地下の部屋 扉が蹴り開かれ バーネットが言う
「おいっ!モフュルス 聞きやがれ!」
モフュルスがバーネットへ駆け向かい言おうとする バーネットが椅子へ向かいながら言う
「あの地図は 本当に宝の地図だったぜ!しかも 聞いて驚け!ありやがった宝は こいつだ!」
バーネットが言いながら机に宝玉を置く モフュルスが宝玉を見る バーネットが続ける
「こいつがありゃぁ 聖魔力の結界だって張れるだろ!?しかも ちゃぁんと本物の宝もありやがった!あいつを使えば悪魔力の調査も十分に行えるはずだ!…と言いてぇトコだが まずは民への支援だな?支援もしねぇまま 中途半端な悪魔力の調査をやってたら どっかの国の一庶民に ぶっ殺されて 町のやつらに宝を山分けされちまう」
バーネットが笑いながら椅子に座り机に足を乗せる モフュルスが言う
「バーネット様、バーネット様が いらっしゃらない間にですが…」
バーネットが笑みを収めて振り返って言う
「あん?俺が居ない間にどぉした?」
モフュルスが言い辛そうに言う
「はい… アバロンから発表が有りました アバロン国に… 待望の一子が ヴィクトール14世殿が お生まれになったとの事です」
バーネットが衝撃を受けて叫ぶ
「あぁあっ!?」
モフュルスが苦笑しながら言う
「お祝いの品や祝電は勿論ですが… 我がベネテクト国も そろそろ世継ぎを 考えねばなりませんなぁ?ふぉっふぉっふぉ…」
モフュルスが笑う バーネットが若干焦りながら言う
「こ、こっちが 悪魔力だとか 財政がどぉおだとか言ってる時に…っ あの野郎ぉ… 余裕抜かしてやがるじゃねぇええかぁああ!モフュルス!てめぇえも 何がおかしいっ!?」
バーネットがモフュルスの首を絞めながら モフュルスを揺らして言う
「笑ってんじゃねぇえ!この野郎がぁああ!」

【 アバロン城 】

城下は王子の誕生に賑っている

玉座の間 玉座に座るヴィクトールの前で 家臣たちが集まっていて言う
「各国から ヴィクトール14世王子の誕生へ お祝いの品や祝電が届いております」
「各国の国王方からも 機を見てお祝いに訪れたいとの御連絡も入っております」
「ツヴァイザー国のアンネローゼ女王からは レリアン王妃様宛ての ねぎらいのお言葉も添えられておりました」
ヴィクトールと家臣たちが ヴィクトールの隣の玉座に座るレリアンへ顔を向ける レリアンが静かに笑って言う
「うふふ、さすがはアンネローゼ女王ですね?子を生む女の苦労は 各国国王の殿方には 解りかねるものですからね?」
ヴィクトールが苦笑して言う
「そこは突かれると厳しいな?」
家臣たちが顔を見合わせ笑って言う
「いやはや、確かに?そう言った事も踏まえまして 王の座に女性の方が就かれる国が有るのは 良い事やもしれませぬな?」
皆が笑う レリアンが言う
「そうですね?この世界に1国だけではなく もう1つ2つ有って頂けると 私たち女性も もっと 世界へ貢献が出来るのでしょうね?」
家臣Bが首を傾げて言う
「そうですなぁ もう1つぐらいでしたら… シュレイザー国辺りなら 良いかもしれませんな?」
ヴィクトールが苦笑して言う
「そんな事を言っては チョッポクルス殿が怒られるのではないか?」
家臣たちが笑って言う
「いやいや?その前にヴィクトール陛下が そちらのお名前を呼んだ事に対して 怒られますぞ?」
ヴィクトールがあっという表情をしてから 笑って言う
「あははっ そうだったね?昔はよく怒られていたかな 特にバーネットが…」
ヴィクトールが言い掛けた言葉を止めて視線を落とす 家臣たちがハッとして顔を見合わせる レリアンが微笑んで言う
「そうですね?隣国のベネテクト国辺りにもう1人 女性が王位に就いて下されると 私も嬉しく思います」
ヴィクトールが怒りを抑える 家臣たちが焦り何とかしようと慌てて手に持っている紙資料を漁り 家臣Aが言う
「あ、ああ!そのベネテクト国からも!?ヴィクトール14世王子の誕生を祝う祝電が届いております!」
家臣Bが紙資料を見ながら言い掛けて驚く
「それに加え…?な、なんとっ!?そ、それに加え!」
皆が家臣Bに注目する 隣で家臣Cが気付き他方へ走って行く ヴィクトールが家臣Cの向かった先へ視線を向けていると 家臣Bが続きを言う
「ベネテクト国バーネット国王からは!レリアン王妃様宛でっ!は、花束が贈られておりますっ!!」
皆が驚き ヴィクトールが思わず言う
「バーネットがレリアンにっ!?」
家臣Cが花束を持って駆け戻って来る 皆の視線の先 家臣Cが一度ヴィクトールを見てから 真っ赤な花の花束をレリアンへ手渡す ヴィクトールがその花を見てギクッと衝撃を受ける レリアンが少し驚いてから微笑を浮かべ 受け取りながら言う
「まぁ… 綺麗な花です事… ヴィクトール陛下?私、ベネテクト国の王から 花束を頂けるなんて 思いも致しませんでした」
ヴィクトールが表情を引きつらせながら返答に困っている レリアンが花束の花びらに触れようとする ヴィクトールが慌てて言う
「あぁあっ!そ、それにはっ!!」
レリアンが少し驚いて顔を向ける 家臣Cが手にしていた祝電をヴィクトールへ向けた状態で止まっている ヴィクトールが視線を泳がせ その目が家臣Cの手に気付く 家臣Cがヴィクトールの視線に気付いて言う
「あ、はい、それと こちらがヴィクトール陛下宛の バーネット国王からの祝電です」
ヴィクトールが慌ててそれを奪い取って読み ふぅと息を吐く 一連の事を見ていた家臣たちとレリアンが疑問して 家臣Aが問う
「ヴィクトール陛下?如何なされました?」
ヴィクトールが玉座に身を静めて言う
「ああ… その花はベネテクト王家の花で 代々ベネテクト国王が持つ レッドレイピアに塗られている 猛毒の元なんだ」
その場に居るヴィクトール以外の皆がギクッと驚き レリアンが慌てて花束を投げ捨てる ヴィクトールが軽く笑い 花束を拾って言う
「しかし、この花束の毒は抜かれているから 心配ないとの事だ 良かったな?レリアン」
ヴィクトールが少し悪っぽい微笑を浮かべて 花束をレリアンへ渡そうとする レリアンがそれを避けて叫ぶ
「きゃっ きゃぁあ!その様な花を 私宛に贈り付けて来るだなんてっ!ゆ、許せません!!」
レリアンの反応にヴィクトールが疑問して言う
「え?毒さえなければ 綺麗な花だと思うが?」
家臣たちが呆れる

【 海賊船フェリペウス号 】

海上を行く船の上 カイザが甲板で寝転がって独り言を言う
「ふぁあ~… ふぅ この前のダンナのお陰で 高騰した船の燃料が買えたのは良かったが このままソルベキアが大陸の燃料を 買い占める様になったら キツイよなぁ…」
カイザが目を閉じて言う
「海賊業が出来なくなったら… 陸に上がって農場でも開くかぁ?ダンナも言ってたよなぁ 陸に済む奴が居るから 食い物も着る物もあるんだって… あれ?着る物は言って無かったっけか?」
カイザが笑いながら立ち上がって言う
「さぁてぇ 燃料が買えなくて 陸に取り残されちまったスカルの奴の為に いっちょ仕事でもするっか?俺って優し~よなぁ~?」
カイザが言いながらブリッジに向かう そのカイザの後方 船首部分に天使が現れる カイザがふと気付いて振り返り驚いて言う
「おわっ!て、天使様!?」
カイザが慌てて駆け向かう 天使が静かに水平線を指差す カイザが一瞬天使を見てからすぐに 天使が指差す方を見て コンパスを取り出し確認して言う
「ほぼ真西か!この方向にっ!?」
カイザが再び顔を向けると天使は消えている カイザが呆気に取られてから笑みを浮かべ 振り返って叫ぶ
「おいっ!野郎どもーーっ!!起きやがれーー!天使様の御導きだぁあーーーっ!!」
カイザの姿が見えるブリッジの上の屋根に天使が座っている 船の進行が変えられるのを確認した天使が振り返り飛び去る

【 ベネテクト城 】

バーネットが紙資料を手に 頭を抱えて言う
「だぁ~… 遂に厳しくなってきやがった… こりゃぁ 後ひと月も持たねぇな…」
バーネットがうな垂れて机に突っ伏す 顔を横にして壁に有るバーネット1世の肖像画を見て言う
「悪ぃ… 親父… 俺は 一庶民に金を渡してやれる所か 一庶民が済む土地さえ 守ってやれそうにねぇ… もうすぐ親父の大親友 ヴィクトール12世の息子に 頭下げに行く事にならぁ… クソ情けねぇ…」
バーネットが両手で頭を抱える 部屋の扉が勢い良く開かれ モフュルスが飛び込んで来て満面の笑みで叫ぶ
「バーネット様!ついにお生まれになられましたぞ!!バーネット3世様が!!」
バーネットは動かない モフュルスが間を置いて首を傾けて言う
「バーネット様?」
モフュルスがバーネットの近くへ行って バーネットの顔を覗き込む バーネットが言う
「モフュルス、残念だが… ベネテクト国にバーネット3世は必要ねぇ」
モフュルスが驚いて言う
「なんとっ!?それは 一体どう言う意味で御座いますかっ!?」
バーネットが立ち上がり 寝室へ向かいながら言う
「この前のツヴァイザーへの支援で 財政が尽きた 明日にでも俺はアバロンへ行って ヴィクトール13世に土下座して来る… ベネテクト国を レリアン王妃様の御希望通り どうぞ女王様の国にでも して下さいってなぁ?」
モフュルスがバーネットの進行先へ回り込んで言う
「お待ち下さい バーネット様!まだ財政は何とかなります!現状を維持して 魔物から民を守る傭兵を雇う事へのみに徹すれば 少なくとも後2年…いえ3年は!何とか持ち堪える事が可能です!」
バーネットが顔を横に振って言う
「いや、ダメだ 現状を維持していたんじゃ ベネテクト城どころか 裏にあるアバロン城への道を塞ぐ城壁すら作れやしねぇ これじゃぁベネテクトがアバロンの友好国である意味がねぇんだよ」
モフュルスが顔を横に振って言う
「そちらは 国争いに置かれる重要施設であって 今はどこの国も魔物との戦いに明け暮れております アバロン程の国を襲おうと考える国はございません!従って…っ」
バーネットが一度目を閉じてから 強い視線で言う
「なら 何でデネシアは王女をアバロンへ送りやがったっ!?このやり方は10年前と同じだっ デネシアは今こそ ローレシアと手を組んで アバロンを潰そうとしてやがる!」
モフュルスが驚いて言う
「まさかっ!そんな事は有り得ません!あの頃は悪魔力の影響も少なく!各国は領地の奪い合いのみを行っておりましたっ 今はその様な事をしている場合ではございません!」
バーネットがモフュルスから視線を変えて言う
「だからこそだっ 各国がそう思ってる アバロンすら気付いていねぇえ!こんな時こそ 俺がっ …いやっ!ベネテクトが!アバロンを守る時なんだ!それなのに…っ てめぇのプライドで 友好に傷作って アバロンを危険に晒している!おまけに自国の政策もぼろぼろだっ!俺は…っ!…クソッ」
モフュルスが言葉を失う バーネットが正面を見据えて言う
「こんな国王に世継ぎなんざ必要ねぇ さっさとアバロンへ行って 今もローレシアにヘコヘコしてやがる 意地もプライドも無ぇデネシアに… バーネット1世を殺しやがった デネシアの王女に このベネテクト国を差し上げるしかねぇえんだよっ!!」
バーネットが正面のドアを殴り付ける モフュルスが問う
「か、借りにデネシアが 今回もローレシアと組んでアバロンを狙っているのだとしたら バーネット様がデネシアの王女へ ベネテクト国を渡してしまう事は それこそ奴らデネシアとローレシアの思惑通り アバロンを奴らへ渡してしまう事に なるのではないでしょうか?」
バーネットが苦笑して言う
「いや、そうはならねぇ… 少なくともアバロンは助かる デネシアは薄情な国だ 連中としては自分らが助かるんだったら 手を貸すのはローレシアでもアバロンでもかまわねぇんだ 俺がこのベネテクトをデネシアに譲れば デネシアはローレシアを裏切りアバロンへ付く ベネテクトがアバロンと共にあるのなら 奴らはローレシアと組んでアバロンを落とす」
モフュルスが困り言う
「バーネット様、それでしたら やはり まずはヴィクトール陛下へご連絡を!全てを話し 融資を受けて城壁を設け 共に戦うべきです!」
バーネットが苦笑して言う
「そうするには もう 遅ぇんだよ… もう少し早く悪魔力に関する事の立証が得られて …いや、俺が 馬鹿なプライドなんざ捨てて ヴィクトールに泣き付きゃぁ良かったんだ」
モフュルスが問う
「何故遅いのです?あの道に城壁を作る程度の事なら さほど時間は掛かりません」
バーネットが答える
「ツヴァイザーへの侵略 あれはシュレイザーからの宣戦布告だったが …考えても見ろよ?あのチョッポックルスが戦争なんざやる訳ゃねぇだろ?きっとソルベキアが関わってやがる それを操っているのはローレシアだ そしてデネシア… もう、いつデネシアとローレシアが ベネテクト領域からアバロンを襲うかなんて分かったもんじゃねぇ」
バーネットが寝室のドアを開けて言う
「明日の朝、アバロンへ向かう… モフュルス、 …悪かったな バーネット1世の息子である俺が ベネテクト国を潰しやがる…」
バーネットが扉を閉める モフュルスがバーネットの去った扉を見つめ 目を閉じる

深夜

バーネットが目を覚まして起き上がり部屋を出て行く 外へ出て城を見上げながら歩いて行く 崖下に在るベネテクト領域からアバロン城への道を見つめ 軽く苦笑して言う
「この道を守るために アバロンはベネテクトと友好条約を結んでいるんだ… 本当に 親友なんかじゃ ねぇのかもな?」
バーネットが溜め息を吐いて立ち去ろうとする 暗闇から唸り声と共に現れた魔物に気付き ハッとしてそちらへ顔を向け同時にレイピアを抜く 魔物が襲い掛かって来る バーネットが応戦し魔物を倒すと 別の魔物が現れる バーネットが驚いて 近くにある 祠へ顔を向けて言う
「やっぱり あの祠から 悪魔力が発生してやがるのか!?」
バーネットがもう一体の魔物を倒し 祠の前に立つ 祠からは黒い霧が発生している バーネットがそれを見て言う
「何だ?この黒い霧は?こんなの… 昼間確認してる時には 無かったはずだ!?」
バーネットが霧を見ながら祠へ入って行く

祠の中 祭壇に辿り着いたバーネットが 霧の発生源を辿り 祭壇にある魔力穴を見つけて言う
「何だ?この穴は?これが悪魔力の発生源なのか!?…ん?この機械は…?」
バーネットが穴の中にある機械を見る 機械には赤いトカゲのマークがある バーネットが言う
「こいつは ソルベキアの印!?何で このベネテクトに ソルベキアの機械がありやがる!?」
バーネットがCITCに触れる 意識が吸い込まれる様にローレシア城が見える バーネットが驚き手を引いて言う
「うおぁっ!?何んだ今のはっ!?ありゃ… ローレシア城…!?この機械は ソルベキアのモンだが この機械から悪魔力を ローレシアに送ってるのか!?」
バーネットが考える姿で魔力穴とCITCを見つめる しばらくすると表情を苦しめて言う
「う…っ なん…だ?この… 感じは…?そ… そうかっ これが… 悪魔力の… 魔物化 現象… ク ソッ… うかつ だっ… 」
バーネットが身を屈め 苦しみながら壁に手を付いて 外へ向かおうとするが 途中で倒れて意識を失う

【 海賊船フェリペウス号 】

フェリペウス号がソルベキアの艦隊に追われている カイザが通信でスカルと話している カイザが舵を切りながら言う
「スカル!早くしてくれっ!シュレイザーでもカイッツでもかまわねぇ!海賊船でも入港を許可している港を 早くっ!!」
通信機のスカルが言う
『今探してるっ!もう少しだ踏ん張ってろ!』
カイザがソルベキアの艦隊からの砲撃を振り切りながら言う
「くぅ~っ!こんな時 天使様が助けに来てくれればっ!あんな訳の分からねぇ島指差して 何だったってぇんだ!!」
カイザがレーダーを確認する レーダーの映像がブレて消える カイザが慌てて言う
「あぁあ!!ソルベキアのハッカーの仕業かっ!?スカルーーっ!聞こえるかっ!?頼むから早くしてくれぇーっ!」
カイザが電子機器を確認する 次々と計器類が狂って行く カイザが苦笑して言う
「あ… はは… お、終った…」
通信機からスカルの声が聞こえる
『おいカイザ!分かったぞ!ベネテクト国だ!そこの港は 閉鎖されてねぇ!急いで向かえ!』
カイザが肩を落として言う
「い~や、だ~めだ… 計器類が全てやられちまった これじゃぁ 出力調整も出来ねぇ…」
通信機のモニターからスカルが覗き込む様子で言う
『おいカイザ!?諦めるなって!お前には 天使様が付いてんだろ!?』
カイザが肩を落としたまま モニターへ顔を上げて言う
「その天使様にも 見捨てられちまったらしい…」
カイザが言い終えて視線を落とした目前で計器類が正常に戻る カイザが目を見開いて言う
「な…!?なんだ!?まさか…?」
カイザが顔を上げる カイザの視線の先に天使が居る カイザが呆気に取られる そこへソルベキア艦隊の砲撃が向かって来る カイザが驚き 思わず身を守る体勢で顔を背けるが 訪れないその後に疑問して閉じていた目を開く 天使が両手で砲弾を止めている カイザが驚いて言う
「なぁああ!?す、すげえぇえ!?」
砲弾が海に落とされる カイザが呆気に取られていると 天使が衝撃を受け 怒って水平線を指差す カイザがハッとしてその方向を見る 天使がその方向へ飛び去る カイザが慌てて舵を切って叫ぶ
「お、おーい ちょっとぉ~?怪力天使様ー!?待ってくれ~~っ!」

【 ベネテクト国 】

フェリペウス号がベネテクト国の港に停泊する

カイザが天使の後を追って走っていて ベネテクト城へ辿り着く 建設作業はされていない カイザが周囲を見渡しながら言う
「はぁ… はぁ… 今日の天使様は 随分と積極的ってぇ~か… 俺を何処へ導きてぇ~んだ?」
天使が瓦礫の中にある地下室への道へ向かう カイザが周囲を確認しながらそれに続く

カイザが地下への階段を降りて通路を歩く  天使の姿は無い カイザが言う
「ここは…?地下牢って訳じゃなさそうだな?それに… なんだかお宝の匂いがするぜ?…あ、もしかしてあれか!?廃墟になった城の地下に お宝が隠されているから 取りに来いってぇ導きか?いやぁ~ 天使様もやってくれるぜ~」
カイザが笑顔で進んで行く 辿り着いた扉には鍵が掛かっている カイザが中の様子を気にしながら 鍵穴に針金を入れて鍵を開ける 用心しながら扉を開け中へ入る

カイザが室内の様子を見て バーネット1世の肖像画に気付いて言う
「あれ?あのオッサン… なになに?バーネット1世?…あ~ 確か何年か前に死んだ ベネテクト国の王様だったな… うん?何か… 俺、この王様 見た事があるような…?」
カイザが首を傾げ少し考えてから言う
「まぁ良いか、それより… さて、どっちの扉にするかな?こういう時は 海賊の勘って奴で…」
カイザが宝の匂いを嗅ぎながら選んだ扉を開ける 宝物庫の中に入るがそこに宝は無い カイザが肩を落とし 宝物庫を出てもう1つの扉へ向いて言う
「ならこっちか?」
カイザが鍵を開けて中の様子を伺う ベッドに眠っているバーネットが居る カイザは気付かないまま周囲を見渡して 部屋の奥にある宝玉に気付き そっと中へ入る 宝玉を手に入れ 部屋を出ようとする バーネットが苦しそうに声を出す カイザがハッとして顔を向け バーネット背を見ながら後ろ足に部屋から出ようとしていると バーネットが寝返りを打ってカイザの方へ顔を向ける カイザが一瞬驚いた後 気付いて言う
「やべっ!?…て あ、あれ?誰かと思ったら… あん時のダンナじゃね~の?」
カイザが慎重な行動を取り止め 普通に歩いてバーネットへ近づき 改めて顔を確認する バーネットは苦しんでいる カイザがバーネットを起こそうと言う
「よう、ダンナ?久し振りだな、あんた~ あれか?このベネテクト国の人だったのか?こんな所に居るってぇ~と 城の使用人か何かか?おい、起きろってっ?」
バーネットが目を開く カイザが微笑して言う
「ダンナ、俺だよ!覚えてるだろ?この前は宝の島への案内 ありがとな?お陰で助かったわ~」
カイザが笑顔を向ける バーネットがカイザを見て起き上がる カイザがバーネットの様子に気付いて疑問して言う
「ん?どうした?ダンナ…?何か様子が…」
バーネットが苦しそうな表情で頭を振ってから言う
「…んじゃねぇ は、早く…逃げ…」
バーネットが苦しそうにうずくまる カイザが心配して声を掛ける
「え?逃げる?おい、どうしたんだ?ダンナ!」

【 アバロン城 】

ヴィクトールの自室に通信が入る ヴィクトールが気付きモニターを確認して言う
「…え!?ベネテクトのモフュルス殿からだ!」
ヴィクトールが慌てて着信させる 通信機からモフュルスが言う
『ヴィクトール様っ!どうかお力を お貸し下さい!バーネット様がっ』
ヴィクトールが驚いて叫ぶ
「バーネットがっ!?」

【 ベネテクト城 】

カイザが後ろを確認しながら慌てて地下室から逃げ出す すぐ後ろからバーネットがレイピアを片手に追いかけて来る カイザが振り返り バーネットが振るったレイピアをギリギリ避け 反動で尻餅を着いてバーネットを見上げる バーネットがレイピアを構えている カイザが慌てて叫ぶ
「ちょ、ちょと待ってくれ!一体 どうしちまったって言うんだ!?」
バーネットがレイピアを振う カイザが叫びながら回避をするが そのカイザの顔の横にバーネットのレイピアが突き刺さる カイザが怯えながらバーネットへ叫ぶ
「お、おおお俺がっ!?何したっての!?そりゃっ城の宝を狙った事は謝る!だからって~っ!」
バーネットがレイピアを引抜き 再び構えようとして頭を抱えて言う
「は、早く… 逃げやが…れ 俺 は…っ」
バーネットが再びレイピアを振るいカイザを攻撃する カイザが悲鳴を上げながら逃げ出す バーネットがカイザの後姿を見て叫ぶ
「待ちやがれぇええ!!」
バーネットが言いながらカイザを追い駆ける カイザが一度後ろを見てから前を向いて叫ぶ
「逃げろなのか 待てなのか はっきりしてくれ~~!」

早馬を駆るヴィクトールがベネテクト城を見上げる 視線の先に カイザとバーネットが見える ヴィクトールがハッとして 馬を急がせる

カイザが短剣でバーネットのレイピアを防いでバーネットの顔を見て言う
「おいっ ダンナ!いい加減許してくれって!一体どうしちまったんだよ!?」
カイザがレイピアを払って後退する バーネットがレイピアを構える カイザが後退り言う
「こういう時は… 逃げるっきゃねぇ!悪いな!ダンナ!」 
カイザが逃げる バーネットが気付き追い駆ける カイザが軽く笑って言う
「へっへ~ 逃げ足だったら負けねぇ~よ!」
カイザがスピードを上げる バーネットが気付き表情をしかめてから鞭を振る カイザが鞭に足を取られて転んで言う
「なっ!…いってぇ~ マジかよっ!?」
カイザの見上げた先 バーネットがレイピアを振り上げる カイザが驚き観念して強く目を瞑る レイピアの振るわれた音に続いて 甲高い金属音が鳴り響く カイザが驚いて目を開くと バーネットのレイピアがヴィクトールの大剣に止められている カイザが更に驚いて大剣を伝ってヴィクトールを見上げて言う
「あ、あんたは…!?」
ヴィクトールがバーネットへ向いて言う
「バーネット!しっかりするんだ!悪魔力に負けてはいけない!」
バーネットの目に 床に腰を着いているカイザとヴィクトールが見える 次の瞬間 その2人がデネシアの兵に替わり ヴィクトールの方がバーネット1世を殺したデネシアの拷問官の姿に見える バーネットが目を見開き叫ぶ
「てめぇええは!親父の仇!!ぶっ殺す!!」
バーネットがヴィクトールに襲いかかる ヴィクトールがバーネットのレイピアを大剣で押さえて言う
「バーネット!しっかりするんだ!君は幻を見ている!悪魔力の魔物化現象…っ 君が教えてくれた事だよっ!?」
バーネットがレイピアを再びヴィクトールに振るう ヴィクトールがレイピアを大剣で払いながら叫ぶ
「バーネット!お願いだ!目を覚まして!僕はっ 君を傷付けたくない!バーネット!!」
バーネットのレイピアを受け止めたり 払ったりしながら ヴィクトールが呼び続ける カイザが理解して立ち上がってヴィクトールへ言う
「お、おい!金ぴかのダンナ!そっちのダンナは 悪魔力にやられちまってるのか!?だったら もう助けられねぇんだろ!?」
ヴィクトールがバーネットの攻撃から防戦しながらカイザへ向いて言う
「それはっ 抵抗力の低い生物だったり 強い悪魔力を受けて 魔物化してしまった場合だ 彼はっ 弱い悪魔力に長時間晒されてしまっただけで きっと 強い意思を持てば 何とかなる それか強い聖魔力… 宝玉が あればっ!」
ヴィクトールがバーネットへ向いて言う
「バーネット!君ならきっと!悪魔力の邪気に勝てるはずだ!バーネット!」
バーネットがヴィクトールを見る ヴィクトールがデネシアの拷問官に見え それがにやりと笑ってバーネットへ剣を向ける バーネットが怒って叫びながらヴィクトールを攻撃する
「あぁああ!!てめぇえだけは!!ぜってぇえに許さねぇええ!!」
ヴィクトールがバーネットの攻撃を受け止める ヴィクトールがバーネットへ向いて辛そうに叫ぶ
「バーネット…っ!」
カイザが呆気に取られながら ハッと気付いて宝玉を取り出して見る カイザがヴィクトールへ向いて言う
「お、おい!金ぴかのダンナ!その~ 宝玉ってのは… もしかして、これの事かぁ?」
ヴィクトールがカイザへ顔を向け カイザの手にある宝玉を見て驚いて言う
「な、なぜ 君が!?」
カイザがギクッとしながら慌てて言う
「あ~~ い、いや、そのっ… そっちのダンナの部屋に…」
カイザが苦笑する ヴィクトールが呆気に取られていた状態から 表情を明るめて言う
「何にしても それで何とかなるはずだ!君!僕がバーネットを抑えている間に その宝玉の力で彼の体から悪魔力を退けてくれ!」
カイザが驚いて言う
「お、俺が!?い、いや、んな事出来ねぇよ!こっちっとら 生まれた時から海賊だぜ!?魔力の精霊様には嫌われてるんだ!」
ヴィクトールがバーネットの攻撃を防ぎながら言う
「では!僕がやる!君は、バーネットを押さえていてくれ!」
カイザが慌てて言う
「えぇえー!?む、無理に決まってんだろ!?そのダンナすげえ強ぇえし 怖ぇ~んだからっ!」
ヴィクトールがバーネットの攻撃を払いながら言う
「バーネットの攻撃は 速度と慣性を利用してのものなんだっ 剣を振る手元の動きを良く見て 避けるか防げば 力で押される事は無い!」
ヴィクトールがカイザへ笑顔を向けて言う
「あ、その代わり、レッドレイピアには気を付けてね?ちょっとでも掠ったら 5日間すっごい苦しんだ後に 死んじゃうからね?」
カイザが泣きながら叫ぶ
「ぜってぇえー無理っ!!」
ヴィクトールがバーネットの攻撃を払って叫ぶ
「どちらか手伝ってくれ!僕1人では出来ない!」
カイザが短剣を持ってヴィクトールの横に立って言う
「な~ら仕方ねぇ、ダンナには悪いが 動けなくなる程度に 痛めつけてやるしか」
ヴィクトールが衝撃を受け焦ってカイザへ叫ぶ
「バーネットを攻撃しないでっ!!」
カイザが一瞬驚いてから 怒ってヴィクトールへ向いて叫ぶ
「んな事言ったって!しょうがね~だろっ!?」
バーネットが叫びながらヴィクトールへレイピアを振るう ヴィクトールがバーネットの攻撃を受け止めながら言う
「…グッ た、確かに そうかもしれない… それでは君!僕が彼を抑えるから!あ…あまり痛く無い様に攻撃を」
カイザがヴィクトールへ向いて叫ぶ
「それじゃ意味ないだろっ!!」
ヴィクトールがバーネットの攻撃を防ぎ カイザが攻撃を開始する バーネットがカイザの参戦に気付き 回避して鞭を振るって脅す カイザが悲鳴を上げて叫ぶ
「や、やっぱり怖ぇええ~~っ!!」
ヴィクトールがカイザへ叫ぶ
「君!心配するな!バーネットは威嚇をするだけで 実際に人へ鞭を打つ事はないんだ!その代わり 間違って当たると 死ぬほど痛いらしい!」
カイザが衝撃を受け逃げ出す ヴィクトールが驚き叫ぶ
「あっ 逃げたっ!?」
バーネットがヴィクトールに攻撃する ヴィクトールが一瞬焦って攻撃を受け止め バーネットの顔を見て言う
「こ、こうなったら… ごめんね!バーネット!」
ヴィクトールがバーネットへ攻撃を行う ヴィクトールが何度攻撃してもバーネットが立ち上がる ヴィクトールが表情をを悲しめて言う
「バーネット!お願いだ もう立たないで!」
バーネットが顔を上げて言う
「てめぇ…だけはっ… てめぇ…だけは ゆる…さ ぶ…こ ろ …ぶっ殺すっ!!」
ヴィクトールが表情を苦しめて言う
「…分かった、僕は 必ず君を助ける!僕を信じてくれ!バーネット!」

バーネットがレイピアを手放して倒れる ヴィクトールが慌てて駆け付け バーネットの身を起こして叫ぶ
「バーネット!ごめんね!今 助けてあげるから!」
ヴィクトールがカイザへ顔を向けて叫ぶ
「君!早く宝玉を!」
戦いに目を奪われていたカイザがハッとしてヴィクトールのもとへ行って宝玉を手渡す ヴィクトールが宝玉を手にバーネットを見て言う
「僕も魔力は無いけれど 強い意思があれば 宝玉の力を使う事が出来るはずなんだ」
ヴィクトールが目を閉じて宝玉に意識を集中させる 宝玉が光り カイザが宝玉の強い光りから目を守る 宝玉の力が増し バーネットが苦しむ バーネットの体から黒い霧が排除される 宝玉の光りが収まり ヴィクトールとカイザが一度宝玉を見てからバーネットへ顔を向ける バーネットが苦しそうに目を開き ヴィクトールを見て言う
「う… ヴィク トー ル…」
ヴィクトールが表情を明るめて喜んで言う
「バーネット!そうだよ、僕だよ!」
バーネットが一瞬、間を置いて 吐血する ヴィクトールが慌てて叫ぶ
「わーっ!!バーネット!!ごめんね!すぐに治療を!!」
ヴィクトールが慌てて辺りを見渡す バーネットがヴィクトールの腕を掴んで言う
「ヴィクトール 13世 陛下… ベネ テクト国 を… 謙 譲 致し ます…」
ヴィクトールが驚き バーネットへ顔を向ける バーネットがしばらくヴィクトールの顔を見た後に意識を失う ヴィクトールが慌てて声を掛ける
「バーネット!」
カイザが指差して ヴィクトールへ言う
「お、おい?なんだ?あいつらは?」
ヴィクトールがカイザの指す方を向いて立ち上がる カイザが逃げ出す その場にレリアンとアバロン兵 モフュルスが現れる レリアンがヴィクトールへ向いて言う
「ヴィクトール陛下、ベネテクト国の大臣のモフュルス殿より お知らせを頂きました ベネテクトの国王が 私にベネテクト国を お譲り下さると」
ヴィクトールがモフュルスへ視線を向ける モフュルスが静かに頷く ヴィクトールが一度地面に横たえているバーネットを見てから レリアンへ言う
「…そうか、では私は 無駄な労力を使ってしまった様だ 先のベネテクト国王による アバロン国王妃への脅迫が許せずに この者を討ち取ってしまった」
レリアンが苦笑して言う
「まぁ… それは嬉しゅうございます 陛下 …しかしながら、陛下とその元ベネテクト国王とは とても親しい仲である筈… 急にその仲を悪くなさるなんて どうなされたのですか?」
ヴィクトールがレリアンの横へ来て言う
「お前は アバロン国の第一王女を その身に宿している 私は父として 間もなく生まれてくる娘に この国を与えるつもりだ お前の望んだ通り この国は女王が治める国となる」
レリアンが驚きヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールがバーネットへ顔を向けて言う
「それまでの間 そこの男に この国を預けておく 死んでは居ないはずだ 治療をさせろ」
言い終えると共にヴィクトールが立ち去る レリアンがそれを見送ってから兵に命令する 柱の後ろに隠れていたカイザが逃げ出す

港へ至る道

カイザが歩きながら言う
「はぁ~… 結局 お宝はひとつも手に入らず おまけにダンナには殺され掛けるし 天使様はどうしちまったんだぁ~?」
カイザが再び溜め息を吐いた所に ヴィクトールが笑顔で現れて言う
「やあ?」
カイザが驚いて一歩後退ってから言う
「おわっ!…と?あぁ あんたはさっきの…」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「うん、さっきはありがとう 君が宝玉を持っていてくれなかったら バーネットを助けられなかった」
カイザが軽く笑って言う
「まぁ、ありゃぁ~ 元々 あのダンナの部屋にあった物だしな?礼を言われるのもなんだよな?」
ヴィクトールが笑顔で言う
「うん、まぁ そうなんだけどね?」
カイザが驚いて怒って叫ぶ
「あんた良い奴なんだか 悪い奴なんだか ハッキリしてくれ!」
ヴィクトールが笑顔のまま言う
「そんな君に頼みがあって来たんだ」
カイザが怒って言う
「その前に人の話しを聞けってのっ!」
ヴィクトールが宝玉を差し出して言う
「これを彼の部屋に戻しておいて欲しい」
カイザがヴィクトールの差し出した宝玉を見て言う
「うん?う~ん… まぁ あのダンナには借りがあるしな?…返した様な気もするがぁ やっぱり海賊は 仲間からお宝をくすねる訳には行かねぇ~か?よし、返しておくわ」
ヴィクトールが微笑んで言う
「ありがとう、君ならそう言ってくれるのではないかと思って?ちなみに、この宝玉は国宝だからね?盗んだりしたら 地の果て 海の果てまで追いかけて ひっ捕らえるからね?」
カイザが衝撃を受けて叫ぶ
「あんた!本当は悪い奴だろっ!?」
ヴィクトールがムッと怒って言う
「え?心外だなぁ?僕は、友情と慈愛の国 アバロンの王だよ?」
カイザがヴィクトールを指差して言う
「友情は分かったが 慈愛をもっと強調してくれっ!」
ヴィクトールが照れながら言う
「慈愛は 僕の3代前から 長期出張中なんだ」
カイザが怒って言う
「あんた王なら 今すぐ連れ戻せ!!」
ヴィクトールが言う
「それから 君は海賊なら 海の事は詳しいよね?」
カイザが衝撃を受けて言う
「その前に人の話しをっ!…いや もぉ良い、アバロンの王様にぁ 言葉が通じねぇって事が良く分かった で?そのアバロンの王様が 海について何を知りたいって言うんだ?」
ヴィクトールが苦笑して言う
「うん、実は まったく実証の無い話なのだけど 僕の父上の友人が デネシア国の西、遥か先の海に島が在って その島に何らかの秘密が有るらしい …と言うんだ しかし 地図を見る限り その位置に島などは無いのだよ それで実際に確認に行かせたのだけど、その近くの潮の流れがどうとかで それ以上の確認が出来ないんだ」
カイザが考える姿でヴィクトールの話を聞き 驚いて言う
「デネシア国の西… あのイカレタ潮の先に在る島ってのは… もしかして あの島の事じゃね~か?」
ヴィクトールが驚いて言う
「え!?島は本当にあるのかい!?」
カイザがヴィクトールを見て言う
「ああ、丁度そこに行って来た帰りなんだ 途中でソルベキアの艦隊に見付かっちまってよ?何とか逃げて来たんだが そしたら天… あ、いや、何でもねぇ…」
カイザが誤魔化しながら視線を逸らす ヴィクトールが詰め寄って言う
「島は実在するのだね!?君は、その島に上陸したのか!?」
カイザが一瞬驚いてから言う
「あ、ああ!もちろんだ 苦労して行って見つけたんだぜ?上陸して お宝を探すに決まってんだろ?」
ヴィクトールがカイザを見て言う
「それで?島には なにがあったんだ!?悪魔力の発生してそうな物などか あったりしたのか!?」
カイザが困った様子で言う
「いやぁ~?悪魔力がどうとかってのは 分かんね~けど… ああ?そういや やけに強い魔物とか居てよぉ 偉い苦労して島に在る洞窟まで行ったんだ そしたら御丁寧に入り口にバリアが張られててな?ちょうど陸に取り残されちまった相棒の海賊の仲間であ るソルベキアのハッカーを連れてたから そいつに解除させて奥まで行ったんだ、だが その先に有ったバリアはそんじょそこらのハッカーやプログラマーじゃ壊せねぇ位 頑丈らしくてよ?俺たちもすげーお宝があるかもしれねぇって~のに 落ち込んで退散したって話しよ」
ヴィクトールが考えながら話を聞き終えて言う
「島は実在して 本来海に魔物は居ないはずなのに やけに強い魔物が居て 厳重にバリアの張られた場所が有る… もしかして その島こそ ローレシアの勇者が魔王を倒した…?もしくは宝玉の力で封じた場所なのか…?」
ヴィクトールが考える カイザがヴィクトールの顔を覗き込む ヴィクトールが気を取り直して言う
「分かった、有難う とても有力な情報だ その島に行く必要が有った時には 君に頼む事にするよ」
カイザが衝撃を受け驚いてから言う
「え!?いや、ちょっと待て!?俺は もうあんな所には行きたくなんかないし 行く為の船の燃料を仕入れる金もね~んだよ!?」
ヴィクトールが一瞬呆気に取られてから微笑んで言う
「船の燃料なんて心配しなくても良い!もちろん僕が受け持つ!」
カイザが呆れながら言う
「あ~そうでした あんたはお金持ちのアバロンの王様だったっけな~?でも、やっぱり行かね~よ?あんな所行ったってお宝はね~んだし」
ヴィクトールが笑顔で言う
「それじゃ、僕は 君をベネテクト城不法侵入罪で ひっ捕らえないと?」
カイザが驚いて言う
「なぁ!?ちょ、ちょっと待てって!?」
ヴィクトールが笑顔で続ける
「ついでに、丁度ソルベキアへ向かうための手土産を探していたんだ ソルベキア艦隊が取り逃がした海賊を捕らえて差し上げれば きっと喜んでくれるよね?」
カイザが焦って言う
「わ~~かった!協力する!あの島まで連れてくって!」
ヴィクトールが軽く笑って言う
「ありがとう、君ならそう言ってくれると信じていたよ!あ、もちろん、その宝玉の件も忘れないでね?」
カイザが衝撃を受け 自身の手に持っている宝玉を見て泣きながら言う
「もう2度と王様となんか話したくね~~っ!」
ヴィクトールが笑顔を見せる
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