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11-4 魔王との決着
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ザッツロードとリーザロッテの2人で仲間たちへ会議の内容を説明し終えている 皆の視線が仲間のうちに居る先住民族のロスラグへ注がれる ロスラグの隣に居るロキとヴェルアロンスライツァーが顔を見合わせ ヴェルアロンスライツァーが言う
「我々が別の世界からやって来た後住民族だという話も信じがたいが…」
続けてロキが言う
「…『コレ』が先住民族の…犬か?」
ロキの言葉に ロスラグが言う
「コ、『コレ』って言わないで欲しいッス!ロキ隊長っ」
ロキが少し考えてから言う
「…では …犬か?」
ロスラグが困った様子で言う
「い、犬は~ 別の犬の先住民族たちも一緒になっちゃうッス」
2人の会話にヴェルアロンスライツァーがロキへ言う
「その言い方では『隊員A』の一族へ失敬であろう?我々を『人間』と呼ぶようなものだ」
ロキが言う
「…そうだな では… やはり『コレ』か」
ヴェルアロンスライツァーとロキの会話にロスラグが落ち込んで言う
「『コレ』でも『隊員A』でもなく名前で呼んで欲しいッス~」
彼らの会話を見ていたザッツロードが皆へ振り向いて言う
「とりあえず、そういう事で 僕たちは魔王になってしまった竜族のドラゴンを倒す事が役目だ そして 先代勇者たちの記憶を見る限り その戦いは難しいものになると思う 誰か一緒に行って貰えるかな?」
ザッツロードの言葉に皆が表情を強め ソニヤが言う
「もちろん!私は行くわ!」
ソニヤに続いてラナも頷いて言う
「私もよ、先代の記憶があるからこそ 出来る事もあるでしょうし」
2人の言葉にセーリアも頷く オライオンが近くへ来て言う
「俺は、その先代の記憶ってやつは無いけど 行くぜ!?2代目勇者の仲間だった アバロンの大剣使いヘクターの息子だもんな!シュライツ、お前も行くだろ?」
オライオンの後ろでシュライツが喜んで奇声を発する ザッツロードたちの会話を聞いていたヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせロスラグの両サイドから前へ出てヴェルアロンスライツァーが言う
「私も行こう、15年前の責任を果たさねばならない」
続けてロキが言う
「…俺も行く、魔王との決闘を 終らせねばならない」
ヴェルアロンスライツァーとロキの言葉に ザッツロードが一瞬驚いてから 微笑んで言う
「ありがとう、ヴェルアロンスライツァー、ロキ、2人が居てくれると とっても心強いよ」
ザッツロードの言葉にソニヤが怒る
「ちょっと それ!?私たちだけじゃ 心強くないって事!?」
ザッツロードが少し後ずさって言う
「いや… そんな事ないけど、やっぱり魔力を武器に移して戦うのが一番だし また…僕1人に2人とか3人分の魔力とか渡されても困るし… はは…」
ザッツロードたちの会話を聞いていたリーザロッテが一歩前へ出て言う
「当然、私も行くわ!」
レイトとヴェインが驚いて言う
「「姫様っ!!」」
ザッツロードも驚いて言う
「え!?い、いや… リーザロッテ王女を あの島へ お連れするなんて」
リーザロッテが一瞬驚き 怒って言う
「別に!あなたに連れて行って頂かなくても結構でしてよ?私たちは私たちだけで 魔王の島へ向かうという事でもね?」
レイトが焦って言う
「ひ、姫様っ!いくらなんでも 魔王の島へ向かわれるのは!」
リーザロッテがレイトへ振り返って言う
「バーネット第二皇帝陛下は 『勇者様』へご依頼を下さったわ?つまり、この私へのご依頼でもあってでしょ?」
ヴェインが焦って言う
「あれは …ザッツロードの方の勇者と言う意味だと」
リーザロッテがヴェインへ向いて言う
「では何?バーネット第二皇帝陛下は 私を勇者として認めていらしゃらないって事?それなら尚更だわ!!」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「リーザロッテ王女、今回は… 我々に任せて下さい、リーザロッテ王女の身に何かあっては アンネローゼ女王や、ツヴァイザー国の民に申し訳が立ちません」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが怒って言う
「それはそっちも同じでしょう?ザッツロード王子!あなたの身に何かあってもローレシアの民やキルビーグ陛下は悲しまれないとでも仰るの?」
ザッツロードが微笑して言う
「はい」
リーザロッテが驚いて言う
「え!?」
ザッツロードの返事にリーザロッテが驚き 皆も驚く ソニヤが焦って言う
「な、何言ってんのよザッツ…」
ザッツロードが苦笑して言う
「私は3代目勇者ザッツロードです、ローレシアでは 勇者ザッツロードは魔王を倒して世界を救うのが役目 先代勇者ザッツロード6世が失敗したという事で ローレシアの民は活気を失ってしまっているんです 私は、3代目勇者としても、ローレシア国第二王子としても なんとしても今回の任務を成し遂げなければならないのです ですから」
リーザロッテがザッツロードの頬を叩く ザッツロードと皆が驚く リーザロッテが叫ぶ
「あなたは何も分かっていないわ!自国の王や王子を失って悲しまない民は居ないのよ!?私はっ ツヴァイザーで民の悲しむ顔を見たわ!活気を失うのは 国王や王子の失態じゃない!自分たちの王や王子を失う事への悲しみなのよ!」
リーザロッテが槍の柄を床に叩き付けて言う
「私は行くわ!貴方が馬鹿な真似をして ローレシアの民を悲しませる様な事の無いように!私はツヴァイザーやローレシア… いいえ!世界中の民のために戦うのでしてよ!貴方を助ける為じゃないのだから 勘違いなさらないで頂戴ね!」
皆が呆気に取られる リーザロッテが後ろの仲間たちへ向き直り レイトとヴェインを見て言う
「貴方たちは!ツヴァイザーの民のために!王女である私を守るのよ!?分かっているでしょうね!?」
レイトとヴェインが驚き顔を見合わせ 敬礼して言う
「は、はいっ!勿論です!」「は、はっ!自分も勿論…っ」
リーザロッテが頷き ロイを指差して言う
「ロイ!貴方は!スプローニ国の為に戦うのよ!」
ロイが少し間を置いて答える
「…俺は いつだってそうしている」
リーザロッテが頷いて言う
「そう、なら良いのよ …シャル!」
続いてシャルロッテを指差して言う シャルロッテが焦って言う
「はっ はいぃ!!」
リーザロッテが言う
「あなたは…そうね、」
少し考えたリーザロッテが頷いて言う
「私の様になる事が目標だ って言ってたわよね?だったら勿論!付いて来るのよ!?」
シャルロッテが焦りながら言う
「えっ!?えぇええっと は、はいぃ!!」
リーザロッテが頷き 再びザッツロードへ向き直して言う
「そういう事だから、止めたって無駄よ?」
ザッツロードが呆気に取られたまま返事をする
「…あ…は、はい 分かりました、それでは… えっと…なるべく安全な所に居て下さいね…?」
リーザロッテが怒る
「ちょっと!それでは分かっていらっしゃらないでしょう!?」
ロスラグが自分の前に居るヴェルアロンスライツァーとロキを見上げてから前へ出て言う
「お、俺も行くッス!」
皆の視線がロスラグへ向く ヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせヴェルアロンスライツァーが言う
「貴殿を連れて行く訳にはいかない」
続けてロキが言う
「…卿は先住民族 悪魔力に関することは後住民族の我々の役目だ」
2人の言葉にロスラグが言う
「そ、それはおかしいッスよ!だって魔王は竜族の奴なんッスよ!?それに、この世界に関する事だったら 先住民族の俺だって行って戦うべきッス!」
ロスラグの言葉を聞いたヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせてからザッツロードへ向ける 無言の問いかけにザッツロードが困る ロスラグが言う
「俺!絶対行くッスからね!止めたって置いてったって 付いてくッスよ!?」
ロスラグの言葉にヴェルアロンスライツァーとロキが溜め息を吐いてからヴェルアロンスライツァーが言う
「止めて置いてかれた上で どの様に付いて来るのかは 理解しかねるが…」
ロキが言う
「…来るなら 精々安全な場所で 眺めていろ」
ロスラグが泣きながら叫ぶ
「見学しに行くんじゃ 無いッスっよー!」
ザッツロードが苦笑して言う
「それじゃぁ… みんな来てくれるって事で …ありがとう」
ザッツロードの言葉にリーザロッテがそっぽを向き ヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせ苦笑し 他が微笑む
【 ヴィルトンの港町 】
ザッツロードとリーザロッテ共に双方の仲間がヴィルトンの港町に居る リーザロッテがザッツロードへ向いて言う
「作戦が決行されるまでに その海賊のカイザって方を探すのでしてね?」
ザッツロードが振り返り答える
「はい、僕らを結界の島へ連れて行く 事が出来るのは その海賊カイザって人らしくて、発見したら ヴィクトール皇帝陛下とバーネット第二皇帝陛下のお名前を伝えれば きっと協力を約束してくれるだろうとの事です」
ザッツロードの言葉にレイトが言う
「それにしても 何故 両皇帝陛下のお知り合いが海賊なのか…?」
ヴェインが考えながら言う
「海賊が皇帝の友達… とでも言うのか?」
シャルロッテがオドオド言う
「ほ、ほんとはっ 海賊と言う名のっ ス、スパイと言う事もっ 考えられますぅ」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「いや~… 彼は 普通の海賊ですよ?たぶん」
リーザロッテが溜め息を吐いて言う
「普通の海賊って…」
ソニヤとラナが顔を見合わせ ソニヤが言う
「チョット女好きでだらしないのよね?」
ラナが言う
「チョットと言うか だいぶでしょ?」
オライオンが辺りを見渡して言う
「んで、見た目はどんな奴なんだ?手分けして探すんだろ?」
オライオンの言葉にセーリアが苦笑して言う
「見た目は…私たちが知っているのは15年前の姿だし…」
セーリアの言葉を聞いたリーザロッテが言う
「それなら名前で探すしかないわね?全員ばらばらになって探して、見つけたら通信で呼びかければ良いわ」
リーザロッテの言葉にソニヤが言う
「通信は、ソルベキアが一気に通信回線を取り止めちゃったから 繋がらないんじゃないの?」
ソニヤの言葉にシャルロッテが言う
「わ、私がっ ザッツロード王子の通信機に 回線を繋いでおきましたのでっ だ、大丈夫ですっ」
シャルロッテの言葉にザッツロードが驚いて言う
「え?いつの間に…」
シャルロッテが焦って言う
「あっ か、勝手にやっちゃいましたっ ご、ごめんなさいっ」
ザッツロードが自分の通信機を確認しながら顔を横に振って言う
「いや、ありがとう、助かるよ」
ザッツロードの礼に照れながらシャルロッテが続ける
「あ、あのっ それから 皆さんの通信機ともっ 回線を繋いであるのでっ こ、ここには居ないヴェルアロンスライツァーさんやロキさんとも お話出来ますっ」
ザッツロードが驚く
「それは凄い!」
リーザロッテが会話に気付いて言う
「そういえば、その2人と… ロスラグだったかしら?あの先住民族はどうしたの?人探しなら人員は多い方が良いのではなくて?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが答える
「ロスラグはスプローニ国に居る先住民族たちと一緒に 新しい魔力穴を作る事に協力しているそうです、ヴェルアロンスライツァーとロキはその護衛で」
ソニヤとリーザロッテが驚いて声を合わせる
「「あの2人がロスラグの護衛!?」ですって!?」
ソニヤとリーザロッテが顔を見合わせる ザッツロードが苦笑して言う
「ロスラグは とっても喜んでましたよ ははは…っ」
ザッツロードの過去の記憶が流れる ヴィクトールとバーネットの前に居るロスラグとヴェルアロンスライツァーとロキ 彼らとは別に柱の後ろに居るザッツロード ヴィクトールが言う
「…そうか、では先住民族が人の姿になるには 宝玉の聖魔力を使わねばならないのだな?」
バーネットが首をかしげながら言う
「俺がドラゴンになる時と逆って事か?」
ロスラグが頷いて言う
「バーネット第二皇帝陛下の場合は 元が人の姿だからドラゴンの姿へ変身するのに 聖魔力が必要なんッス 俺たち先住民族は元が動物の姿だから、人の姿に変身するのに聖魔力が必要なんッス!」
ヴィクトールが片手に持った宝玉を眺めながら言う
「うん、現在多くの宝玉が国外へ貸し出されている状態だ 貴公らを人の姿に変える作業が出来る国は このアバロン以外には無いだろう 貴公はもちろん他の先住民族の者にも 作業が終了したらアバロンへ来るよう伝えてくれ」
ロスラグが頷いて言う
「分かったっス!」
ヴィクトールが頷きヴィクトールとバーネットが立ち去ろうとする それを呼び止めるロスラグ
「あぁ~っそ、それとッスね…っ」
振り返ったヴィクトールがロスラグへ向き直り微笑んで言う
「何だ?我々に出来る事があるのなら 遠慮無く言ってくれ」
ロスラグが頭を掻きながら言い辛そうに言う
「あの~ 俺たち先住民族って 基本的に元の姿で戦ったりしないんッス ああっ む、昔は狩とかしてたみたいッスけど 今はしないし… だから~ その姿の時に 魔物とかに会うと困っちゃうんッス 他にも 先住民族だって気付かない人とかにも…」
ロスラグの言葉を聞いてバーネットが笑う
「はっはー 普通の犬と間違われて ペットにされちまったりしてな?」
バーネットの言葉に苦笑したヴィクトールが言う
「バーネット、失敬だ」
ロスラグが顔を横に振って言う
「いや、それよくあるッス!でもって~そのまま居心地良くって ペットになっちゃう奴らも 居るんッスけどー はははっ…あ、いや、だからッスね!」
話に流されたロスラグが慌てて両手を自分の前で横に振る ヴィクトールが微笑んで言う
「分かった それなら護衛を付けていれば 問題ないだろう」
ヴィクトールの言葉にロスラグが喜び 慌てて礼を言う ヴィクトールが頷き言う
「ロキ、ヴェルアロンスライツァー 聞いての通りだ、彼の護衛を頼む」
ヴェルアロンスライツァーとロキが驚き顔を見合わせてから ロスラグへ視線を向ける 2人の視線を受けたロスラグが驚く
「え?え?…ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長が お、俺の ご…ご…ご!?」
ヴィクトールが微笑んで言う
「2人共よろしく頼む、彼は我々後住民族の大切な協力者だ 十分、丁重にな?」
ヴィクトールへ顔を向けていたヴェルアロンスライツァーとロキが ヴィクトールへ跪き敬礼する ロスラグが慌ててそれに倣う
ザッツロードの記憶が終わり ザッツロードから話を聞いていた仲間たちが驚いて顔を見合わせる ラナが考えながら言う
「ロキとヴェルアロンスライツァー… あの2人が揃って 犬の護衛…」
ソニヤが言う
「なんか…想像すると~ 凄い事になるんだけど…?」
ソニヤとリーザロッテが想像する その後ろでザッツロードとセーリア、シャルロッテが苦笑している 想像し終えたソニヤがザッツロードへ言う
「ねえ!ザッツ!折角通信繋いでもらったんだから 早速確認してみない?」
ザッツロードが苦笑して言う
「向こうも忙しいだろうし 邪魔をしてはいけないよ」
ソニヤが怒って言う
「邪魔じゃなくて確認だったらぁ~」
セーリアが苦笑しながら言う
「それじゃ、海賊カイザが見付かってからって事で ね?」
ソニヤが残念そうに諦める リーザロッテがザッツロードへ言う
「それじゃ、私たちは町の東側へ行くわ そっちは逆よ?」
ザッツロードが頷いて言う
「はい、僕らは西側を探します」
オライオンがザッツロードへ向いて言う
「なら俺らは あの辺探してみるわ~」
オライオンが言いながら指差す ザッツロードが頷いて言う
「うん、それじゃ 見付かったらお互い連絡をすると言う事で」
オライオンが頷いて言う
「おう」
オライオンとシュライツが町の北側へ歩いて行く それを確認したザッツロードが振り返り言う
「僕らも手分けをして探そう」
ソニヤ、ラナ、セーリアが了承と共に去って行くザッツロードがそれを見送り歩き出す
町の人に話を聞くザッツロード 町の人が答える
「カイザか~最近どうしてるんだろうな?ジュニアの方はお宝見付けたって言ってたけどな?」
「カイザね~スカルの方なら見かけたけどなぁ?」
「カイザ?…お前 あいつの知り合いか?だったら…船の修理代 代わりに払ってもらおうか?」
町の人から話を聞き終えたザッツロードが首を傾げる 歩いて行くとラナに会う ザッツロードが声を掛ける
「ラナ、どうだい?カイザの情報はあったかい?」
ラナが顔を横に振る
「誰に聞いても最近は見ていないって 海に出てるのかもしれないわね」
ラナの言葉を聞いてザッツロードが考えながら言う
「そうか… 海に出てしまっているとしたら困るね」
ラナと合流したザッツロード 歩いていくとセーリアに会う ラナが問う
「セーリア、そっちはどう?」
二人に気付いたセーリアが向き直って言う
「数日前まで居たって話を聞いたわ」
セーリアの言葉にザッツロードが言う
「それじゃあ、ラナの言っていた通り 今は海に出てしまっているのかもしれないね」
セーリアを加え3人で歩いていくとソニヤに会う ソニヤが気付いて言う
「ザッツ、皆!どう?」
ソニヤの問いにセーリアが顔を横に振る ソニヤが肩を落として言う
「そお~ こっちもダメ、借金の取立てから逃げたんじゃないか~とか言うのだけ」
ソニヤの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「それは近いことを僕も言われたよ はは…」
最初の場所へ戻ってきたザッツロードたち セーリアが辺りを見渡して言う
「リーザロッテ王女やオライオンはまだみたいね?」
セーリアと同様に周囲を見渡したザッツロードが頷いて言う
「そうだね、もしかしたら 通信で知らせ合うまで 戻って来ないのかもしれない」
ザッツロードが言いながら通信機を取り出す それを見たソニヤが言う
「え!?こっちから連絡するの!?」
ソニヤの言葉に疑問するザッツロード
「え?ダメなのかい?」
ソニヤが顔を膨らして言う
「別に…ダメじゃないけど~」
ザッツロードが軽く笑って通信機を操作しようとする その時通信が入る 驚くザッツロードと仲間たちザッツロードが通信の相手を確認して 通信を繋ぎながら言う
「リーザロッテ王女だ …はい、こちら」
通信を繋いだ瞬間にリーザロッテの声が響く
『ちょっと!早く来なさい!!』
驚くザッツロード改めて通信を行う
「え?あ、あの リーザロッテ王女?一体…」
リーザロッテが叫ぶ
『良いから!すぐに来なさい!北東の広場まで来たら分かるわ!早く!!』
通信が切られる ザッツロードが驚いたまま仲間へ視線を送る ソニヤとラナが顔を見合わせ ソニヤが言う
「北東の… 確かオライオンが行ったのって」
ラナが言う
「北…と言うより この町の感じだと北東になりそうね」
ソニヤとラナに続きセーリアが言う
「まさか…ね?」
北東の広場へ向かったザッツロードたち 人集りを見つけて中へ入る 人を掻き分けて前へ出ると オライオンの叫び声が聞こえる
「取り消せっつってんだ!このデカ物!!」
オライオンが巨人族へ向かって怒っている 巨人族の男がにやりと笑って言う
「取り消す必要はねぇ~んだよ 俺の親父は アバロンの大剣使いヘクターを ボッコボコにしたんだ~」
オライオンが怒って言う
「んな訳ねぇええ!!」
巨人族の言葉を否定して叫ぶオライオン ザッツロードたちが苦笑して ソニヤが言う
「やっぱり…」
ラナが言う
「予想通りって言うか~」
セーリアが言う
「血は争えないわね」
苦笑するザッツロードたちの下にリーザロッテたちがやって来てリーザロッテが言う
「何をボサッとなさっているの!?早く止めなさい!」
リーザロッテの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「いや… たぶん 止められないと…」
ザッツロードに続きラナが言う
「止められるとしたら…」
ラナに続きセーリアが言う
「またあの人が来てくれると良いのだけど」
ザッツロードたちの返答にリーザロッテが怒る 丁度その時一発の銃声が響く リーザロッテらと周囲の野次馬がその方向へ視線を向ける ザッツロードが苦笑する スカルが叫ぶ
「おい!アルバレロジュニア!てめぇ 作業サボって何やってやがる!」
オライオンと向き合っていた巨人族の男が顔を上げ 名を呼ぶ
「ス、スカル船長!」
スカルが銃をしまい アルバレロジュニアとオライオンの下に来る スカルがオライオンを見て言う
「…あん?お前… アバロン3番隊元隊長ヘクターのガキじゃねぇのか?」
スカルの言葉にオライオンが頷いて言う
「俺はオライオン!アバロン3番隊元隊長ヘクターの息子だ!」
オライオンの言葉を聞いたスカルが笑って言う
「あっはははは!大方、このアルバレロジュニアに お前の親父の無様な負け話でも聞かされたんだろ?でもって そんな訳ねーとか?」
スカルの言葉にオライオンが頷きアルバレロジュニヤを指差して言う
「こんなデカ物に!俺の親父が負ける訳ねぇえ!!」
オライオンが叫び声を スカルが耳を塞ぎながら聞き 溜め息を吐いて言う
「それが 負けちまったんだよな~ 見事に無様によ?俺も~見てたから?知ってるんだわ」
オライオンがスカルの言葉に怒って剣を抜こうとする スカルがいち早く銃をオライオンの目前へ向ける スカルが続ける
「けどま、息子同士でリベンジって~のも 悪くねぇ… どうだい?オライオン?」
スカルの提案にオライオンが強く言う
「リベンジだかオレンジだか知らねーけど やる!俺とシュライツが居れば怖いモン無しだぜ!」
オライオンの言葉に オライオンの後ろに居るシュライツが奇怪な声と共に同意を表す スカルがそれを見て笑う
「あははははーっ!こいつぁ良い!気に入ったぜ …おいライザ!」
スカルが呼ぶと 一人の魔法使いが現れてスカルの下へ行く スカルが銃でアルバレロジュニアを指してライザへ言う
「アルバレロジュニアとヘクターの息子の決闘だ 手ぇ貸してやってくれ」
ライザがオライオンとシュライツを見て言う
「う~ん…勝てる気しないんだけど?」
スカルが笑って言う
「良いんだよ、この勝負は 勝ち負けは関係~ねぇ やる事に、…意味があるんだよ」
オライオンとアルバレロジュニアが首を傾げる
オライオンとシュライツ アルバレロジュニアとライザの決闘が行われる オライオンとシュライツが勝利する 地面に両手を着くアルバレロジュニア スカルがオライオンの横に立って言う
「どうだい?ヘクターの息子よ、気分は収まったか?」
オライオンが剣を鞘へ収めスカルへ向いて言う
「…何か、思ったより気分良くねーって感じだ、勝てるのは 分かってたし」
オライオンの返答にスカルが笑って言う
「そりゃ~な?お前が最高の相棒と 一緒に居るからだ だが もし?その最高の相棒を失って 1人になっちまったら… お前はどうする?」
スカルの言葉にオライオンが疑問する スカルが1つ息を吐いて周囲へ視線を逸らす その視線の先にザッツロードたちを見つける オライオンがそれに気付いてザッツロードへ声を掛ける
「あれ?お前らも居たのか?」
オライオンに言われザッツロードたちが近くへ来る ザッツロードたちの姿を見たスカルが言う
「止めに入らなかったんだな?お前ら仲間だろ?それとも~ こいつが勝つって 分かってたからか?」
スカルの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「いえ、どっちが勝つかって言うより… 止めても止められないだろうと思って」
ザッツロードの返答にスカルが軽く笑って言う
「まったく、懐かしい風景だぜ~ 最近のあいつは あの頃みたいな元気が無くってよ 見てて痛々しい、ありゃ~イケねぇ…」
スカルの言葉にザッツロードが驚き言う
「あいつとは… もしや!?」
スカルがザッツロードとオライオンを見て言う
「一昨日も来て 嫌がるカイザの奴に無理言って 船出させてたぜ?ヘクターがよ?」
スカルの言葉にザッツロードたちが驚く オライオンがスカルへ掴みかかって言う
「親父が!?親父が来てたのか!?」
オライオンの勢いに驚いたスカルが 平静を取り戻しオライオンの手を払いながら言う
「ああ、しょっちゅう来ちゃー カイザの奴に突っかかって 俺を相棒の所へ連れてけー!の一点張りだその度にカイザの奴が 俺を代わりに行かせようとしやがるから こっちも堪ったモンじゃねぇよ …それもあんな顔して言われちゃぁな ありゃイケねぇ~」
話を聞いていたザッツロードが問う
「貴方を代わりに行かせようと と言う事は 貴方も結界の島の場所を知っているのですか!?」
スカルが頷いて言う
「ああ、知ってるさ って~か、今じゃこの港で知らねぇ船乗りは居ねぇ 恐ろしい魔王の島だぜ?当然だろ?でもってぇ~ あの辺りはいっつも時化ってやがるから 誰も近づけねぇ~ってモンだ」
話を聞いていたリーザロッテが言う
「しかし、海賊カイザなら近づけるのでしょう?貴方も彼の知り合いの海賊なら 同様の事が出来るのではなくて?」
リーザロッテの言葉にスカルが笑って言う
「あっははははー、海賊か~俺がね~?」
スカルの言葉にザッツロードたちが驚く ザッツロードが問う
「貴方は海賊ではないのですか?」
ザッツロードの言葉にスカルが苦笑して言う
「お前らソルベキアの海賊討伐令を知らねぇのか?まぁ、陸に住んでる連中にゃー かんけーねぇ話だもんなぁ?」
ザッツロードたちが顔を見合わせる ザッツロードの無言の問いにリーザロッテが顔を横に振る その様子を見ていたスカルが溜め息を吐いて言う
「まぁ、そういう事だ、今は大人しく様子見中… じゃ、そういう事で!」
スカルが立ち去る ザッツロードが呼び止める
「待って下さいスカル!」
スカルがザッツロードらを振り返って言う
「悪いが、俺たちは船を出してやれねぇ ソルベキアの連中より 何より あの海域に行くって事が それだけの事だって話だ… じゃあな!」
スカルが立ち去る ザッツロードたちが顔を見合わせて リーザロッテが言う
「やはり 海賊カイザを探すしかない様ね」
レイトが言う
「しかしその者は ヘクターと言う者と一昨日港を出てしまったとの事 一度出た船が戻るのはいつになるのか…」
ヴェインが続けて言う
「おまけに行き先は 例の結界の島であるかもしれない」
シャルロッテがオドオド言う
「ぶ、無事にっ 戻ってきて頂けると 良いですが…」
ソニヤが怒って言う
「ちょっと!それどお~言う意味よ!?」
シャルロッテが驚いて言う
「ご、ごめんなさいっ」
ラナが腕組みをして言う
「本当に結界の島へ行ったのなら 何か方法を見つけたとか?」
ラナの言葉にソニヤが問う
「方法って何のよ?」
ラナが言う
「決まってるじゃない!ヘクターって言ったら先代勇者たちの仲間よ?私たちと同じ様に悪魔力に対応する事を調べているのでしょう?」
オライオンが顔を横に振って言う
「いや、親父は 相棒のプログラマーを助ける事しか考えて無いぜ?」
リーザロッテが少し怒って言う
「そんな!無責任な!」
ザッツロードが視線を落として言う
「いえ、彼はそうであっても仕方ないです それに、悪魔力へ対応する方法は僕たちが発見したではありませんか?」
途中から微笑を向けて言うザッツロード リーザロッテがそっぽを向いて言う
「ま、まぁそうよね!私たちが良案を得たのだから 良いわ 許してあげる!」
ザッツロードが苦笑する
【 アバロン城 】
玉座の間 ヴィクトールの前に跪くザッツロードが言う
「…と言う事で 海賊カイザは一昨日海へ出てしまったと」
ヴィクトールが言う
「実は、貴公らをヴィルトンへ向かわせて直ぐ その知らせを受けていたのだ 無駄足をさせてすまなかった」
ヴィクトールの言葉に少し驚くザッツロード 間を置いて言う
「…それと、聞いた所によると カイザと一緒に先代勇者の仲間であった アバロンの大剣使いヘクターの姿も確認されているとの事です もしかしたら 彼らの行き先は」
ヴィクトールが頷いて言う
「ああ、ヘクターが カイザと共に 結界の島へ向かってしまったとの事だ」
ザッツロードと仲間たちが驚きヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが少し言い辛そうに言う
「貴公らも知っての通り、あの島に現在張られている結界は ヘクターの相棒だったプログラマーの作ったプログラムと彼自身の意思で守られている バッツスクロイツの話によると 島の悪魔力を中和させるには その結界を解除させなければならないそうだ」
話を聞いていたリーザロッテが皆から一歩前へ出て言う
「しかし、ヴィクトール皇帝陛下、結界を張ったプログラマーの捜索は5年前に そのヘクターとヴェルアロンスライツァーらで行い 発見出来なかったと伺いましたわ」
リーザロッテの言葉にザッツロードが付け加える
「その時、プログラマーが使っていたモバイルPCから結界の期限を確認したと」
ヴィクトールが頷き言う
「そう、彼の発見は出来なかった しかし、ローレシアの研究結果である 宝玉の力を維持する為には人の意思が必要である という情報は どうやら間違えではないらしいのだ そうなると」
ヴィクトールの言葉にソニヤが声を上げる
「そのプログラマーは 生きているのね!?」
ソニヤの言葉にヴィクトールが頷いて言う
「その可能性が 有力とされる」
皆の表情が明るくなる オライオンが苦笑して両手を頭の後ろに回して言う
「まーったく!だったら親父も もう少しだけ待って 俺たちと一緒に行けば良いのによ~」
オライオンの言葉に皆が笑う ヴィクトールだけが笑わず表情を暗くする その様子に気付いてザッツロードが問う
「ヴィクトール皇帝陛下?何か問題でも?」
ザッツロードの言葉に皆が再びヴィクトールへ視線を向ける ヴィクトールが静かに言う
「あの島には悪魔力が蓄積されている、そして 過去、竜族の者が結界の防人として残った結果 その竜族が現在貴公らへ討伐を命じてある かの魔王に成り果ててしまった」
ザッツロードがハッとして言う
「で、では そのプログラマーも…!?」
ザッツロードの言葉に仲間たちから息を飲む声が聞こえる ヴィクトールが顔を横に振って言う
「…そうと決められている訳ではない ただ、可能性は高い …それをヘクターへ伝えた所 彼が飛び出して行ってしまったのだ 他に伝える方法が無かったとは言え 少々軽率であったかもしれないな」
ザッツロードたちが視線を落とす リーザロッテが問う
「ヴィクトール皇帝陛下、それで、海賊カイザとは接触出来ず その者の友人であるスカルと言う元海賊へ 交渉をしたのですが それも 叶いませんでした その者の話では あの海域へ行ける船乗りは 居ないのではないかとの事です これでは魔王退治が出来ません」
リーザロッテの言葉に皆の視線がヴィクトールへ向く ヴィクトールが少し考えてから言う
「ああ、カイザがヘクターと共に島へ向かってしまった事を受け 次の案として名の挙がる者が居るのだが…」
言葉を止めるヴィクトールを疑問して 仲間たちが顔を見合わせる ザッツロードが言う
「私たちを島へ送れる船乗りが居るのでしたら 我々で再び その者を捜索して参ります!」
ザッツロードの打診にヴィクトールが顔を横に振って言う
「いや、居場所は分かっている ただ 1つ問題があってな」
ザッツロードが再び問う
「問題とは?」
リーザロッテが声を上げる
「何か問題があるのでしたら 私たちが解決致しますわ!」
リーザロッテの言葉にザッツロードがヴィクトールへ向いて頷いて同意を示して言う
「私たちに出来る事でしたら 何でもします!どうかその問題を教えてください」
ザッツロードが真剣な眼差しでヴィクトールを見上げる ヴィクトールが一度息を吐いて言い辛そうに言う
「…では 貴公らは… …天使 という者の存在を信じるか?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「…え?…天使?」
沈黙が流れる ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「正直、私には信じ難い 先住民族や北の国までは信じられたが… 」
ソニヤが首を傾げて言う
「…まさか…天使様に連れて行ってもらうって言うんじゃ…」
ヴィクトールが顔を横に振って言う
「いや、そうではない …ただ その存在を信じ 探している男が居るのだ その者なら貴公らを あの島へ 連れて行けると思うのだが」
ラナが呆れた声で小声で言う
「…別の島へ連れて行かれなければ良いんだけど」
隣のシャルロッテが同じく呆れた表情で言う
「て、天国って島だったら… 困りますねっ?」
彼女らの内緒話にヴィクトールが咳払いを送る ラナとシャルロッテが焦る ヴィクトールが言う
「まぁ… 今回は世界を救う為の航海と言う事になる 彼も恐らく分かってくれるであろう」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが言う
「もし、我々を島へ連れて行く交換条件に その… 天使様を探してくれと言われたら…?」
途中から苦笑して問うザッツロードへ ヴィクトールが言い辛そうに言う
「当人曰く… 貴公らにも参戦してもらった 我らアバロンとソルベキアの戦い その折 彼はアバロン運河からその存在を確認したと言うのだ…」
ザッツロードが驚き仲間たちが顔を見合わせる レイトとヴェインが話す
「戦場で天国へ召す者を探していたのであろうか?」
「俺の聞いた話では 戦場に居る天使はヴァルキリーと言うらしい 戦場で天国へ連れ去る者を探すのだとか…」
2人の会話にリーザロッテが身を震わせ言う
「そ、それではっ 折角見つけても捕まえられないじゃないっ!」
セーリアが苦笑する横でソニヤが言う
「天使を捕まえるだなんて…出来る気がしないわ」
話を聞いていたオライオンが首を傾げて言う
「あの戦いの時ー 俺らは丁度 アバロン運河に近いところに居たけどよー 空に飛んでるのっつったら ドラゴンになってたバーネット第二皇帝陛下かシュライツだけだったぜ?」
オライオンの言葉に皆の視線がオライオンへ集まり 次に隣に浮かぶシュライツへ向く リーザロッテが腕組みをして言う
「あなたも天使みたいに浮かんでいらっしゃるのだから 私たちより天使の近くに居たのではなくて?」
リーザロッテの言葉にシュライツがビクッと身を震わせ 強く顔を横に振って否定する そのローブの下から白い羽が落ち それに気付いたセーリアが拾い不思議そうに眺めてからシュライツへ渡して言う
「はい、これ、落ちたわよ?羽飾りかしら?」
セーリアの言葉にオライオンが振り返って言う
「ああ、こいつ抜け羽激しくてよー」
オライオンが苦笑しながらそれを受け取って シュライツの前でひらひらさせる シュライツが照れる その様子を眺めていたソニヤとラナ、リーザロッテが顔を見合わせて 3人でシュライツを囲む オライオンが驚く シュライツが疑問する ソニヤが言う
「オライオン、今さ~?」
続いてリーザロッテが言う
「戦いの最中 貴方方は丁度アバロン運河の近くに居らしたと仰ったわよね?」
オライオンが首を傾げて言う
「ああ、居たぜ?だから知ってるんだ、アバロン運河の空には 何も居なかったって」
ラナが呆れて言う
「その何も居ないアバロン運河の上空には 貴方の相棒が浮いていたり したんじゃないの?」
ラナの言葉にオライオンが頷いて言う
「ああ、そうだな!シュライツだけが居たぜ?」
オライオンの言葉を聞いた3人が頷き合って 3人で一気にシュライツのローブを取り外す シュライツが驚いて悲鳴を上げてオライオンの背に隠れる 皆がシュライツの背にある白い翼に驚く シュライツが怒る オライオンが困った表情で言う
「あー 何するんだよ?驚いてるじゃねーか」
ザッツロードが驚いた表情のままヴィクトールへ言う
「あ…あの… ヴィクトール皇帝陛下 …天使が居ました」
ヴィクトールが苦笑して言う
「あ、ああ… その様だな?私も …信じる事にしよう」
シュライツがロープでぐるぐる巻きにされ悲鳴を上げている オライオンが慌てて言う
「俺の相棒に 何するんだー!」
ソニヤ、ラナ、リーザロッテが当然な顔をしてシュライツを囲って立っている セーリアとシャルロッテが苦笑している ザッツロードがその状況を確認し 視線をヴィクトールへ戻して問う
「それで ヴィクトール皇帝陛下、その、我々を島へ連れて行く事が出来る 船乗りというのは 今何処に…?」
ヴィクトールがザッツロードの後方に居る彼らの様子を確認しつつ ザッツロードへ顔を向けて言う
「ああ その者の名はカイザJr、言うまでも無く海賊カイザの息子だ 今はシュレイザー国の港に船を泊めていると連絡を受けている 貴公らがこれから向かってくれると言うのであれば 私の方から留まっておく様 伝えておこう」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが敬礼して言う
「ありがとうございます!直ぐに向かいます!」
ヴィクトールが頷いて言う
「うん… それは良いが、あれを手土産にすると言うのは… どうなのだろうか?」
ヴィクトールが苦笑する ザッツロードが一度振り返り 苦笑しながら言う
「あ…いや… た、多分大丈夫かと?」
ザッツロードの後ろから シュライツの悲鳴とオライオンの声が聞こえる
玉座の間を出たザッツロードたち ソニヤがザッツロードへ飛びついて言う
「ねぇザッツ!カイザJrはヴィクトール陛下が港に足止めして置いてくれるんだしさ?ロキとヴェルに連絡取ってみようよー!」
ソニヤのはしゃぎ様に セーリアが苦笑しながら言う
「ソニヤったら ロスラグの姿が見たいのよね?」
セーリアに指摘されたソニヤが一瞬焦り 両手を自分の前で横に振って言う
「え!?ほ、ほら、だってっ 先住民族の姿は!確認しておいた方が い、良いでしょ!?皆も!」
ザッツロードが苦笑して言う
「先住民族では無いけれど 先住民族と同じ様に姿を変えた バーネット第二皇帝陛下の姿は見たのだから 何となく分かる気もするけど…」
ザッツロードの返答にソニヤが焦り言い訳を続ける
「あ、あああ、あれはドラゴンだったじゃない!?ロスラグは犬なのよ!?」
ラナが腕組みをしてそっぽを向いて言う
「犬の方が尚更 想像付くわよね?」
ソニヤがラナへ向いて怒る ザッツロードが苦笑して言う
「まぁ、向こうの進行状態を ちょっと確認しておくのは良いかもしれないね?」
ソニヤが表情を明るめる ザッツロードが笑って通信機を取り出して操作する
皆がザッツロードの通信機に注目する 間も無くしてロキが通信に出る
『…こちらロキとヴェルアロンスライツァー …と …その他 だ』 『ッ!?ぅわんっ!』
ロキの言葉にザッツロードが苦笑する ロキの声に続き通信の向こうで不満そうな犬の鳴き声が入る ザッツロードが表情を戻して言う
「こちらザッツロードと仲間たちです、ロキ、そちらの状況はどうだろう?」
ザッツロードの問いに ロキが表情を変えないまま 間を置いて声調を変えずに答える
『…スプローニ国第二部隊 隊長、副隊長 両隊長が 日々健康的に 犬の散歩へ励んでいる』 『わんわんっ!』
ザッツロードが苦笑して言う
「あ… はは… それは良い事だね?」
ザッツロードが表情を引きつらせる ラナが呆れて言う
「ロキ 相当怒ってるわ」
ラナの横でセーリアが苦笑する ザッツロードが気を取り直して言う
「そ、それで、魔力穴は もう掘り始めているのかな?」
ロキが頷いて言う
『…すでに3箇所を終えている 我々の他にも同作業を行っている部隊がある 恐らく今日、明日中にも終了すると思われる』
ロキの報告にザッツロードが表情を明るめ言う
「それでは問題なく終了しそうだね?」
ロキが答える
『…問題ない、バッツスクロイツの方も順調だそうだ、そちらはどうだ?』
ロキの言葉にザッツロードが後方を振り返る ロープを外されたシュライツがオライオンの背に隠れながら自分を縛ったリーザロッテらを怒っている リーザロッテがそっぽを向いている ザッツロードが通信機へ向き直って言う
「う、うん、大丈夫だと思うよ」
ロキが言う
『…そうか こちらも終了次第合流する』
ロキが言い終えると共に通信を切ろうとする ソニヤが声を上げる ザッツロードが慌ててロキを止める
「あ!待ってくれ!ロキ!」
ロキが疑問する ザッツロードが苦笑して言う
「あの… 仲間がロスラグの姿を確認しておきたいって言うんだけど」
ソニヤが身を乗り出して通信機を覗き込む 通信機の中のロキが沈黙した後に言う
『…普通の犬だが?』 『!? わ、わんっわんっ!』
ザッツロードが苦笑する ソニヤが声を上げる
「いいのー!見せて見せてー!」
ソニヤの頼みに ロキが仕方なさそうに後方を確認して移動する ザッツロードの周囲に仲間たちが集まり通信機を覗き込む ザッツロードが苦笑する 通信機からロキの声が聞こえる
『…コレで良いか?』
通信機に可愛い小型犬が映る ザッツロードと仲間たちが驚く ソニヤが歓声を上げる
「可愛い~!!」
ザッツロードも驚いて言う
「ほ、ホントだ…」
画面が切り替わり ロキが通信機を 犬の散歩途中の女性の足下で 苦笑する女性のもと 小型犬の姿を通信機に映している ロキの後ろでヴェルアロンスライツァーが 大きな犬を横に従えた状態で言う
「ロキ、それは隊員Aではない そして 恐らく、先住民族でもない 通常の犬と思われる」
ロスラグが吠える
「わん!わん!わんっ!…くぅ~ん…」(俺はこっちッス!そっちじゃないッス!ロキ隊長っ!…ひどいッスよ~…)
画面が切り替わり ザッツロードが苦笑している ソニヤが声を上げる
「違う犬映してどーすんのよ!」
ザッツロードの仲間たちが苦笑する 通信機から再びロキの声がする
『…コレだった』 『わんっ!わわんっ!わんぅ!』
通信機に大きな犬が映る ザッツロードたちがおおーと声を上げる ラナが言う
「犬と言うより 狼に近い感じね」
ラナの言葉にロスラグが喜んで尻尾を振って吠える
『わんっ!』(そうなんッス!)
ザッツロードが苦笑して言う
「でも、本人達も犬って言ってたよね?」
ザッツロードの言葉にロスラグが怒って吠える
『わわんっ!う~~っわんっ!』(うるさいッス!ヘボ勇者は黙ってろッス!)
通信機にロキとヴェルアロンスライツァーが映り言う
『…以上だ では作業に戻る』
ザッツロードが表情を戻して言う
「あ、うん、よろしく 一応、そちらも気を付けて」
ロキが言う
『…了解』
通信が切れる ザッツロードが皆へ視線を向けて言う
「向こうもバッツも順調みたいだし、僕達も行こう」
皆が頷く リーザロッテが言う
「私たちが足を引っ張る訳には行かないわ 急ぎましょ?」
ソニヤがシュライツを振り返ってから言う
「でも、本当に 天使様を見つけてこなきゃダメって 言われたら?」
リーザロッテがソニヤと同様にシュライツを見てから言う
「あれを差しあげたら良ろしいのではなくて?」
シュライツが怒る ザッツロードが苦笑してから言う
「いや、その時は… 世界の危機だって事で 交渉してみましょう?」
ザッツロードの言葉を聞いて リーザロッテが腕組みをして言う
「まぁ、そうね?あれは背中に羽があるってだけで とても天使様とは思えないし?」
リーザロッテの言葉を聞いたヴェインが隣のレイトへ問う
「…ではリーザ様は何故あの者を縛り上げたのだ?」
レイトが苦笑しながら言う
「う…うむ… ちょっと試しただけ ではないか?好奇心…とか」
話を聞いていたシャルロッテが頬を赤くしながら言う
「ちょ、ちょっと… 危険な好奇心な気もしますぅ~」
リーザロッテが3人へ視線を向ける 3人が焦る 近くに居たロイが沈黙する
【 シュレイザー国 】
シュレイザー城下町へやってきたザッツロードたち 周囲を見渡してザッツロードが言う
「早速、港の方へ向かってカイザJrを探そう」
ザッツロードの言葉に皆が頷く ソニヤが城を見上げて言う
「ねぇ?あのシュレイザー国の元国王様も先住民族だったのよね?」
ザッツロードがソニヤへ振り向いて言う
「うん、そうだね 歴代のシュレイザー国の国王様もそうだったみたいだし」
ラナが問う
「なら あの元国王様も 今頃どこかで魔力穴を掘っているのかしら?ネズミの姿になって?」
ザッツロードが苦笑しその両脇でソニヤとラナが想像している ザッツロードが言う
「いや… たぶん指揮を執ってるんじゃ無いかな?元とは言え国王様だった訳だし」
ソニヤが呆れた様子で言う
「そう言われてみると ネズミが王様だったなんて なんだか変な感じよね?」
ラナが腕組みをして言う
「ネズミと言ってもただのネズミではなくて 先住民族よ?それより あの感じで指揮を執られたら ちゃんと魔力穴が掘られるのか その方が心配よ」
ザッツロードが苦笑したまま言う
「どっちも元国王様に 失礼だよ まぁ分からなくは無いけど…」
セーリアが苦笑する その横でリーザロッテが呆れて言う
「あなたも 失礼でしてよ?」
ザッツロードたちが港へ行く カイザの海賊船に近い形の船を見つけてソニヤが指差して言う
「ねえ!あの船!」
ザッツロードがソニヤの指差す船を見て頷いて言う
「うん、カイザの海賊船にそっくりだ 行ってみよう!」
ザッツロードたちが走って船へ向かう 甲板へ上がるザッツロードたち 甲板では海賊達が昼間から酒を飲み交わし話をしている
「おい~?まだ出港しねぇ~のかぁ~?もう飲めねぇ~よ~」
「アバロン帝国の皇帝さんから 出港停止食らっちまってんだ 何でも頼みごとがあるだとかよ~?」
「皇帝さん直々のご命令じゃぁ~ しょうがねぇ~…」
「いつから海賊は 皇帝さんのペットに成り下がったんだぁ?…まぁ ソルベキアに掴まっちまうよかぁマシかぁ?」
「どっちもゴメンだぜぇ」
ザッツロードが苦笑を表情にして周囲を見渡す ザッツロードに気付いた海賊が声を掛けて来る
「おいお前、勝手に乗船するんじゃねえよ?」
ザッツロードがその海賊へ言う
「あ、すみません、そのアバロンのヴィクトール皇帝陛下から 連絡が入っていると思うのですが」
ザッツロードに続いて上がって来たリーザロッテが言う
「カイザJrと仰る方は どちらの方でして?私たちは彼に用があってよ?」
リーザロッテの言葉に海賊達が笑って言う
「ああ、ジュニアなら船室に居るぜ?最も いくらお嬢さんが色気使ったってぇ あのジュニアの気は引けねぇと思うけどな?」
海賊達が笑う リーザロッテが怒って言う
「失礼ね!誰が色気などで気を引いたりなんか!」
続いて甲板へ上がって来たソニヤが笑って言う
「リーザの色気じゃ~ 足りないわよね~?」
リーザロッテが振り返って言う
「なんですって!?あなたに言われたくなくってよ!?」
リーザロッテの言葉にソニヤが怒る
「それ!どぉおーいう意味よ!?」
ソニヤとリーザロッテがいがみ合う その横を皆が通り過ぎラナが言う
「置いてくわよ」
ソニヤとリーザロッテがハッとして追いかける
扉をノックをして船室へ入るザッツロード 中に居る人物に声をかける
「あ、あの あなたがカイザJrですか?」
出入り口へ背を向けて椅子に座っているカイザJrが 顔だけを向けて返事をする
「あ~?もしかして あんたらがアバロンの皇帝さんの使いか?ま~ちくたびれたって~の…」
ザッツロードが軽く笑って言う
「すみません あの、僕たちは」
言いながら船室へ入って行くザッツロードたち カイザJrがザッツロードの言葉を遮るように手を振って言う
「ああ、聞いてる、魔王の島へ連れてけって話だろ?」
ザッツロードが表情を明るめて言う
「それでは!?」
カイザJrがザッツロードたちへ向いて言う
「悪いけど パス!」
ザッツロードとソニヤが声を上げる
「「えぇえ!?」」
カイザJrが耳を塞ぐ仕草をして見せる ザッツロードがカイザJrへ近づいて言う
「そ、そんなっ 世界を救うためなんです!お願いします!」
カイザJrが呆れた顔をして言う
「あのなぁ~?あんな所行ったら 世界が終る前に俺たちが終っちまうっつーの!」
リーザロッテが近くへ行って勢いをつけて言う
「それで世界が救われるのなら!喜んでその犠牲になるべきよ!」
リーザロッテの気迫に一瞬押されたカイザJrが怒って言う
「じょーだんじゃねぇ!世界が助かったって俺らが助からなかったら意味ねぇーっての!」
リーザロッテが怒って言う
「なんですってぇ!」
カイザJrへ掴みかかろうとするのをザッツロードが止める リーザロッテが言う
「あなたのお父様は!勇敢にもその魔王の島へ向かったのでしてよ!?貴方ご存じなくって!?」
リーザロッテの言葉にカイザJrが言う
「親父には天使様が付いてっから大丈夫なんだ!俺には付いてねぇから無理なんだよ!」
言い放ったカイザJrが あっと小さく声を上げ赤面して視線を逸らす ザッツロードたちが顔を見合わせる 皆がシュライツへ視線を向ける シュライツがオライオンの背に回ってぶんぶんと顔を横へ振る それを見たザッツロードがカイザJrへ視線を戻して言う
「あなたが天使を探していると言うお話は ヴィクトール皇帝陛下から伺いました その… あなたのお父上に付いている… と言うのは?本当なんですか?」
カイザJrが溜め息を吐いてから言う
「…俺だって信じちゃいなかった だが 親父は信じてる しかも それが本当みてぇに 親父がその天使様を見て その導きに従って行くと 必ず上手く行くんだ」
カイザJrの言葉を聞いたザッツロードの仲間たちが顔を見合わせる ザッツロードが再び問う
「確か貴方も天使を見たと…アバロン運河で」
ザッツロードがそこまで言うと カイザJrが頷いて言う
「アバロン運河でも見たけど その前に海上でも見てよ?そっちの天使様は親父が話してたのと同じ感じで 何も言わずに指差してよ… 俺もまさかと思ってその方位へ船を進めたら アバロン運河を北上する事になったんだ、で、そのまま行ったら別の天使様をみっけてよ …まぁ あん時は初めて天使様を見ちまったから 興奮しててどっちも同じ天使様だと思ったんだが」
カイザJrが言葉を切る ザッツロードたちがシュライツへ視線を向ける カイザJrが再び言う
「アバロン運河で見た天使様は なんっつーか 随分下っ端みたいな天使様でよー?あーははははっ」
カイザJrが大笑いする シュライツが怒って飛び掛ろうとする 慌てたザッツロードがシュライツのローブを掴む ローブが外れシュライツの白い翼が怒りのままに大きく開く シュライツは気付かずに 奇怪な声で怒りを音にしている カイザJrが目を丸くする ザッツロードたちが一瞬焦った後 苦笑する カイザJrがシュライツを指差して言う
「お、お前… あん時の…」
シュライツが自分のローブが外されている事に気付いて驚き 振り返ってローブを持つザッツロードを叱る ザッツロードが苦笑したまま頭を掻いて謝る カイザJrが椅子から立ち上がり シュライツを掴んで言う
「お、おい!天使!お前天使様か!?この際 下っ端の方でもかまわねぇ!俺もっ!親父みたいに導いてくれんのか!?」
シュライツが一瞬驚き 下っ端の言葉に怒る オライオンがザッツロードたちを掻き分けて来て言う
「ちょっと待てっ!こいつは俺の相棒だ!お前の相棒にはならねぇよ!」
カイザJrがオライオンに向き直って言う
「おめーには聞いてねぇよ!俺は天使様に聞いてんだ」
オライオンが怒って言う
「だから!こいつは俺の相棒で お前の天使様じゃねえって言ってんだ!」
カイザJrとオライオンが言い合いになる シュライツが不思議そうに眺め その間に近くのテーブルにあるチーズの塊を見つけ そちらへ向かって行く その間にもカイザJrとオライオンの言い合いが続く カイザJrが叫ぶ
「だからおめーには聞いてねぇって言ってんだ!」
オライオンが叫ぶ
「ならシュライツに聞けってんだ!おいっシュライツ!」
カイザJrとオライオンが同時にシュライツへ顔を向ける シュライツはテーブルのチーズの塊から いくつか切り落としてあるチーズ片を喜んで食べている オライオンが焦る カイザJrが疑問してシュライツの近くへ行って問う
「何だお前?チーズがそんなに好きなのか?」
カイザJrの問いにシュライツが嬉しそうに頷く カイザJrが大きなチーズの塊をナイフで切ってシュライツに与える シュライツがチーズを受け取って食べる カイザJrがにやりと笑って チーズの塊を片手にシュライツへ問う
「おいシュライツ!いや…下っ端天使様!俺と一緒に海に行くか!?」
シュライツが喜んで肯定する オライオンが叫ぶ
「あーー!!てめぇー!汚ねぇぞ!!」
オライオンがシュライツとカイザJrの下へ行こうとする リーザロッテがレイトとヴェインを呼ぶ
「レイト!ヴェイン!」
リーザロッテが指差す レイトとヴェインが言う
「「はっ!姫様っ!」」
2人が返事と共にオライオンを押さえる リーザロッテがカイザJrの下へ向かう ザッツロードが呆気に取られて見ている リーザロッテが言う
「例え下っ端でも 天使様がご一緒なら 私たちを魔王の島まで送って下さるのよね?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが驚き慌てて近くへ行って押さえようとするが 2人の会話が始まってしまう カイザJrが言う
「う~ん…そうだなぁ 天使様の交換条件に 魔王の島行きかぁ~」
カイザJrがチーズ片をシュライツに与えながら考える オライオンがレイトとヴェインに押さえられたまま叫ぶ
「天使様じゃねーっつってんだろ!シュライツ!おめーもそんな奴に餌付けられてんじゃねー!」
シュライツが与えられたチーズを喜んで食べている ザッツロードがどうしようかと困っている カイザJrが悩んでいる
「天使様のパワーと魔王のパワー…う~ん…」
リーザロッテが カイザJrの考えを後押しする様に言う
「現地にはあなたのお父様もいらっしゃるのでしょ!?なら、現地には下っ端では無い天使様もいらしてよ!?」
カイザJrがひらめいて言う
「お?…それもそうだなぁ?」
カイザJrの言葉にソニヤとラナが思わず声を上げる
「「それじゃ!」」
リーザロッテが2人の突然の参加に 頬を膨らせて言う
「貴方たち何もしないで ここだけシャシャリ出てくるなんてっ!」
ソニヤが照れてラナがそっぽを向く隣でセーリアが苦笑する カイザJrが言う
「おし、行ってやるよ!」
カイザJrの言葉にソニヤとラナとリーザロッテが同時に表情を明るめる それを横目に見てカイザJrが言う
「その代わり…」
カイザjrがにやりと笑む その言動にソニヤとラナが顔を見合わせソニヤが言う
「まさか…」
ラナが言う
「血は争わなくて良いのよ?」
リーザロッテが2人の様子に疑問する カイザJrが言う
「俺としては… やっぱり天使様には美人な女性姿を期待してたんだが… 残念ながらこの下っ端天使様は~ お前 男か?」
話の途中でシュライツの顔を覗き込んで問うカイザJr シュライツがチーズを食べながら頷く カイザJrががっかり肩を落としてから リーザロッテたちへ向き直って言う
「って事だ、だから その足りない部分って事で~ ちょっとそこの女性たちに?ご協力を頂こうかと…?」
レイトとヴェインが槍を手にカイザJrへ怒鳴る
「き、貴様!リーザ様には指一本触れさせん!!」「そんな羨ましい事をさせて堪まるか!外道め!」
カイザJrが2人の言動に驚き 両手で否定しながら言う
「ちょっ ちょっと待ったっ!?いくら俺だってそんな事言わねぇって… そりゃ それも良いけどよ… って 違う違う!」
再び近づいた2人の槍にカイザJrが慌てて否定してから 一度咳払いをして言う
「つまり あれだ!やっぱり魔王の島へ向かうだなんて 度胸の要る事するにはよ?それなりに~ 気合の入る言葉が欲しいなぁ~?なんてな?」
言いながらカイザJrがリーザロッテらへ視線を向ける ザッツロードと仲間たちが表情を引きつらせる ソニヤが言う
「やっぱり…」
リーザロッテが疑問しながら隣のラナへ問う
「ちょっと?どういう意味でして?」
ラナが溜め息を付いて言う
「海賊カイザ親子は 魔王の島へ向かう時に 女性の頼み声が無いと 行く気にならないそうよ」
リーザロッテが衝撃を受けて言う
「な!?なんて はしたない方々なの!?」
リーザロッテの言葉にカイザJrが怒って言う
「な!?い、言ったなぁ!?女からの「お願いっ!」コールは男のロマンなんだよ!…な!?」
カイザJrがザッツロードへ同意を問う ザッツロードが驚いて答えに困る リーザロッテがザッツロードを睨みつける ザッツロードが焦って言う
「え?えぇえ!?そ、そんな… ぼ、僕は何もっ…」
ザッツロードが後退る カイザJrがにやりと笑って言う
「ま、良いんだぜ~?べつに~?あんなおっかねぇ~所に行かないで済むんなら?」
ザッツロードが慌てて言う
「そ、それは困るよっ!」
カイザJrが笑んで言う
「なら…?」
ザッツロードが困った表情でソニヤへ頼む
「ソニヤ、頼むよ!世界を救うには彼の協力が必要なんだ!」
頼まれたソニヤが驚いて言う
「ちょっ ちょっと!?なんで私に頼むのよ!?」
ソニヤが焦る リーザロッテが1つ溜め息を付いて言う
「さっさとなさい?別に 死んでしまう訳では無いのだから、」
リーザロッテの言葉にソニヤが怒って言う
「な、ならリーザがやりなさいよ!?別に死ぬ訳じゃないんだから!」
リーザロッテが慌てて言う
「な!?何を仰るの!?そんな死ぬより恥ずかしい目にあっては 生きていけなくてよ!?」
リーザロッテの言葉にラナが言う
「あら 世界を守る為に喜んで犠牲になるのかと思ったけど?」
ラナの言葉にリーザロッテが言う
「なら貴方が犠牲になったらどうなの!?」
ラナが焦って言う
「い、嫌よ冗談じゃない や、やっぱり先代に続いて この役目はセーリアよ!」
セーリアが驚いて言う
「え!?」
皆の視線がセーリアへ向く セーリアが顔を赤くして手で覆って言う
「わ、私は出来ないわ!こ、今回はシャルなんてどうかしら?!」
隣のシャルロッテが悲鳴を上げる
「わ!?わわあわわ 私っ そ、そんな事 出来ないですっ ご、ごめんなさいっ」
皆の意見にザッツロードが苦笑しカイザJrが頭を抱えて言う
「あのよぉ~ 別に死なねぇーし 生きていけるし 犠牲にもならねぇーから… 全員で!な?」
カイザJrが途中から顔を上げてにやりと笑う ザッツロードが苦笑し 女性達が顔を見合わせる
ソニヤが捨てるように言う
「お願い」
ラナが無表情に言う
「お願い」
セーリアが苦笑したまま言う
「お、お願いします」
リーザロッテが膨れっ面で言う
「お願いするわ」
シャルロッテが恥ずかしそうに言う
「お、お願いっしますっ…」
カイザJrが呆れ顔で言う
「…もっとカワユく!あと名前も入れてくれる?はい、もう一回」
ソニヤが捨てるように言う
「お願い、カイザJr」
ラナが無表情に言う
「お願い カイザJr」
セーリアが苦笑したまま言う
「お、お願いします カイザJr」
リーザロッテが膨れっ面で言う
「お願いするって言ってるのよ カイザJr」
シャルロッテが恥ずかしそうに言う
「お、おおおお願いっしますっ…か、カイザJr」
カイザJrが呆れ顔で 頭を掻いて言う
「う~ん じゃぁ シャルちゃん合格」
シャルロッテが喜んで言う
「あ、ありがとうございますっ」
シャルロッテが恥ずかしがりながら喜んで抜ける 他の女性が怒る ザッツロードが苦笑している カイザJrが渋々言う
「後の人 ぜんっぜんダメ!もっと感情入れて!心からー!」
リーザロッテが怒ってテーブルを叩く
「こんな事している間にも 世界は悪魔力に脅かされているのよ!?貴方!!分かっていらっしゃるの!?」
一瞬押されたカイザJrが 溜め息を吐いて言う
「んじゃ行かな~い」
リーザロッテが怒る ザッツロードが落ち着かせようと言う
「ま、まぁまぁ…?まだ他のみんなの準備が終って無いと思いますから もう少し練習したらきっと…?」
リーザロッテがザッツロードの言葉に怒って言う
「私に こんな事を練習しろと仰るの!?」
ザッツロードが怒られて苦笑しながら一歩後退り言う
「えっ!?えっと…」
ザッツロードの通信機が着信する ザッツロードが助かったとばかりに通信機を取り出してリーザロッテから逃れる ザッツロードが通信に出て言う
「はい、こちらザッツロードと仲間たちです」
通信機のモニターにロキが映って言う
『こちらロキとヴェルアロンスライツァーとバッツスクロイツと …その他1名』 『ヴェルアロンロキスライグッス!』
通信機からロキとロスラグの声が聞こえる ザッツロードと仲間たちが驚く ザッツロードが言う
「あ、ロスラグが人の姿に戻ったって事は もしかして作業は終ったのかい!?」
ザッツロードの言葉に 通信機の中のロキが頷く ロスラグが映り込んで言う
『人の姿に戻ったんじゃなくて 人の姿に変身したんッス!ヘボ勇者!』
ザッツロードが苦笑する ソニヤがモニターを覗き込んで言う
「え~?もう戻っちゃったのぉ?犬の方が可愛かったのにー」
ソニヤの言葉にシャルロッテも言う
「あっ わ、私も ロスラグさんは先住民族の姿の方がっ す、素敵だと思いますっ」
2人の言葉にロスラグが表情を明るめて言う
『え!?まじッスか!?嬉しいッス!あ~でも~俺としてはこっちの姿も気に入ってるッスよ?んーでもーどっちも好きかなぁ~なんて?あははは… むぎゅっ!』
ロスラグが退かされてロキに戻る
『…こちらの作業は終了した 諸卿と合流しようと思うのだが そちらの状況報告を頼む』
ザッツロードが困って言う
「え?あ…えっとぉ~」
ロキの言葉にザッツロードがカイザJrへ視線を向ける カイザJrがぷいっと顔を背ける ザッツロードが苦笑のままモニターへ戻って言う
「出来るだけ…頑張ってもらえるように お願いしてみます…」
ロキがモニターの中で首を傾げて言う
『…どう言う意味だ?』 『ヘボ勇者は状況報告も出来ないッスか?』 『黙っていろ隊員A』 『まだ隊員Aッスか!?俺頑張ったのに…』
ロキの後ろの声が入る ザッツロードが困った様子で自分の後方を向く ソニヤがカイザJrへ怒って言う
「お願いって言ってるじゃない!カイザJr!!」
カイザJrが焦って言う
「怒ってどーするよ!?」
状況を確認したザッツロードがモニターへ顔を戻して言う
「ちょっと 今練習しているみたいなので もう少ししたら何とかなると思います た、たぶん…」
ザッツロードが視線を逸らして語尾を弱める モニターの中のロキが疑問しながらも言う
『…そうか 良く分からないが …では俺とヴェルアロンスライツァーとコレは』 『ヴェルアロンロキスライグッス!』 『ヴィルトンの港町で諸卿を待っている バッツスクロイツは大陸に残り CITCの制御を行うとの事だ』
ロキの言葉にザッツロードが頷いて言う
「分かりました、僕たちもなるべく早くヴィルトンの港町へ向かいます」
ロキが言う
『…了解』
通信を終えたザッツロードが振り返って言う
「ロキたちの方は作業が終って ヴィルトンの港町で待っているとの事です、バッツはCITCの制御をするために大陸に残ると… 僕たちが… 最後みたいです」
言い終えると共にザッツロードが苦笑する シャルロッテを除く女性陣がザッツロードから視線を逸らして顔を見合わせてからカイザJrへ向ける その迫力にカイザjrが後退って言う
「え…?いや、カワユく… お願いしたいんだけど な?な?」
カイザJrが恐れながら後退る ザッツロードが苦笑したまま言う
「ロキたちは多分アバロンに居ると思うんだ、だから… 急がないと… 彼らをとても待たせてしまうし」
シャルロッテを除く女性陣がザッツロードの言葉に肩の力を落として ソニヤが言う
「しょうがないわ…」
ラナが言う
「一番簡単な作業だった 私たちが待たせる事になるなんて…」
セーリアが言う
「私たちが足を引っ張ってしまう訳には行かないわ」
リーザロッテが言う
「この私が?足を引っ張るだなんて…」
女性陣が落ち込む シャルロッテが焦る カイザJrが焦りつつ言う
「え?いやぁ…そ、そんなに落ち込むのか?そんなに難しい事 頼んでねぇーつもりなんだけど?」
重い空気が室内に溜まる カイザJrがイライラと頭を掻いてから叫ぶ
「わーかった!連れてけば良いんだろ!?連れてけば!!…だから 皆してそんな暗い顔すんなってーの!葬式じゃあるまいし!」
カイザJrの言葉に皆が驚き顔を見合わせる ザッツロードが表情を明るめて言う
「ほ、本当かい!?カイザJrっ!?」
ザッツロードの言葉にカイザJrが溜め息を吐いて言う
「男に喜ばれても嬉しくねーからやめろ、とりあえず… 本当だから」
言い捨ててカイザJrが椅子から立ち上がる 女性陣が一気に喜んでソニヤが言う
「ありがとうっ!カイザJr!」
ラナが微笑して言う
「信じてたわっ!カイザJr!」
セーリアが笑顔で言う
「やっぱり頼りになるわ!カイザJr!」
リーザロッテが勝気に微笑んで言う
「もぅ…最初から分かっていたのよ?カイザJr?」
シャルロッテが思わず言う
「ほ、本当にっ 助かりますっ あ、ありがとうございますっ カイザJr!」
カイザJrが呆気に取られて女性陣を見て声を漏らす
「え…?え…?」
ザッツロードが苦笑している
甲板に飛び出したカイザJrがシュライツを小脇に叫ぶ
「てめぇーらー!!しゅっこーーだぁーーー!!おらおらおらぁあ!!もたもた してんじゃねぇえええ!!」
シュライツが面白そうに喜んでいる 女性陣が呆気にとられてソニヤが言う
「な…なに?」
ラナが言う
「急に やる気を出したわ」
セーリアが首を傾げて言う
「何か…良い事でもあったのかしら?」
リーザロッテが問う
「なに?まさかザッツロード王子のお願いにやる気が?」
シャルロッテが顔を赤くして言う
「そ、それはっ ちょ、ちょっと 危険な事ですぅ」
女性陣の感想を聞いて苦笑するザッツロードの隣でレイトが怒りに燃えている
「リーザ様にっ あんなに期待されていたとはっ」
隣でヴェインが悔しがっている
「あんな大勢の女性から 褒められるなどっ…」
ザッツロードが2人を落ち着かせながら言う
「ま、まぁまぁ?その… 皆も、自分達が カイザJrを褒めた事に 気付いていないみたいだし」
ザッツロードの隣でオライオンが怒る
「あいつ…っ!俺の相棒取りやがったっ!ぜってぇ~許さねぇ!!」
ザッツロードが困り苦笑で落ち着かせようと言う
「し、島へ着くまでの間だよ… き、きっと…」
オライオンがキッと振り返り言う
「島へ着くまでっ?着いたら返すのかっ!?」
ザッツロードがオライオンの強い視線に後退りながら言う
「え、えっと… た、たぶん…?」
【 ヴィルトンの港町 】
ザッツロードたちが甲板から町を見る 港に一番近い場所にある広場に人集りが出来ている ザッツロードが周囲を見渡しながら言う
「ロキとヴェルアロンスライツァーは… まだ来ては居ないみたいだ?」
仲間たちも辺りを見渡す リーザロッテが言う
「せっかく急がせたのに 向こうが遅れるだなんて」
船が船着場に着く カイザJrが近くへ来て言う
「同じ頃に向こうがアバロンを出たんなら 向こうの方が早いに決まってる もしかしたら待ちくたびれて どっかで飲んだくれてるんじゃねーのか?」
カイザJrの言葉にザッツロードが笑って言う
「あの2人に限って そんな事は無いと思うよ」
リーザロッテが頷いて言う
「そうよ、あの2人は海賊では無くってよ?2人とも優秀な兵士なのだから きっとすぐ近くで待機しているでしょうね?」
ソニヤが言う
「そうよ!魔王との決戦の前なんだし!」
言うと共に船を下りていくリーザロッテと仲間たち ザッツロードが言う
「2人を探してすぐにもどるから、出港の準備を頼むよ」
カイザJrが言う
「へいへい~」
ザッツロードと仲間が船を降りる 港に足をつけるとソニヤが言う
「所で さっき、あっちの広場で人集りが出来てたでしょ?もしかしたら 2人もあそこに居るんじゃない?」
ソニヤの言葉にラナが呆れた様子で言う
「あの2人は 誰かさんみたいな野次馬とは違うのよ?」
ソニヤがラナを振り返って言う
「誰が野次馬なのよ!?」
ラナが顔を逸らす ザッツロードとセーリアが苦笑してセーリアが言う
「でも、人が多いのなら 誰かに聞いてみると言うのにも 丁度良いんじゃないかしら?」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、僕もそう思うよ 行ってみよう」
ザッツロードたちが広場に辿り着く 人々が歓声を上げ大いに盛り上がっている ザッツロードが言う
「一体何があるのだろう?」
ソニヤが我慢できない様子で言う
「ねえ!ヴェルとロキの事を聞くのは後にして、ちょっとだけ覗いてみない!?ね!?ね!?」
ラナが呆れる ザッツロードとセーリアが苦笑して ザッツロードが言う
「うん、それじゃ ちょっとだけ見てみようか?」
セーリアが続けて言う
「カイザJrたちも待っているから 急がないといけないけれどね?」
2人の言葉に頷いたソニヤが喜んで走っていく ラナが恥ずかしがりながら言って後を追う
「し、仕方が無いからっ 私も…っ 行ってあげるわよ?」
ザッツロードとセーリアが顔を見合わせて笑い 2人も走って行く
ザッツロードたちが人集りを掻き分け前へ進み ザッツロードが青年に声をかける
「あの… 一体何があるんですか?」
声を掛けられた青年が 振り返って慌てて言う
「だ、誰でも良いッスから!早く あの2人を止めて欲しいッス!」
青年の顔を見たザッツロードが驚いて名を呼ぶ
「え?ロスラグ!?」
声を掛けられたロスラグも驚いてザッツロードを呼ぶ
「ヘ!?ヘボ勇者っ!!」
ロスラグの様子にザッツロードが問う
「一体どうしたんだい?なんで君が?」
ザッツロードの問いに ロスラグがどうしようかと慌ててから すぐに仕方ないと言った様子で 指を指して言う
「い、今は ヘボ勇者でも しょうがないッス!ロ、ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長がッ!!」
ロスラグがそこまで言った時 ソニヤがやっと人を掻き分けて前へ出て驚いて声を上げる
「ちょっ!?あの2人!一体 何やってんのよー!?」
ラナもやっと前へ出て驚く
「え…?あ、あの2人が…?」
セーリアもやっとたどり着き 目の前の光景に驚いて言葉を失う 全員が揃ったところでロスラグが叫ぶ
「ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長が け、喧嘩を仕掛けちゃったッスー!!」
皆が驚く そこへロキに殴り飛ばされた男が吹っ飛ばされてくる ザッツロードと仲間たちが驚く 男を追ってロキが近づいて来て ザッツロードとロスラグの前で男の襟首を締め上げる ロスラグが慌てて止める
「も、もう良いッスよ!ロキ隊長!やめてくださいッス!!」
ロスラグの悲鳴に近い声に ロキが少しの間止まり 締め上げていた男を手放す 尻餅を着いた男が慌てて逃げていく ロキが振り返るとヴェルアロンスライツァーに手放された男も逃げ出し周囲に座り込んでいた数人の男らも逃げ出していく 野次馬達が歓声を上げる ロスラグが息を吐いて落ち着く 状況が理解できないザッツロードと仲間たち そのザッツロードと仲間たちへ ロキとヴェルアロンスライツァーが視線を向ける ザッツロードたちが怯える ロキが切った唇の血を拭いながらザッツロードを見下ろして言う
「…諸卿を待っていた」
ザッツロードがビクッとする ラナがぽかーんと眺め ソニヤが呆気に取られた状態から怒って言う
「ふ… 普通に 待ってなさいよ!!」
出港した船の上 甲板で床に腰を下ろし ロキとヴェルアロンスライツァーが回復薬を一気飲みする ザッツロードとセーリアが苦笑する ソニヤが怒って言う
「これから魔王と戦おうって言うのに!何 無駄な体力使ってるのよ!?2人とも!!」
ヴェルアロンスライツァーが答える
「心配ない、ヴィルトンの港から島まで1日以上掛かる 体力の回復には十分だ」
ラナが呆れながら言う
「スプローニ国第二部隊の隊長と副隊長が 揃って町中で喧嘩だなんて」
ロキが返答する
「…ただの準備運動だ」
ザッツロードが問う
「一体どうして… 喧嘩なんてしていたんだい?」
ヴェルアロンスライツァーとロキが沈黙する セーリアがロスラグへ視線を向ける ロスラグが焦る ソニヤとラナがロスラグの焦りに気付いて近寄る ザッツロードが苦笑する ソニヤが言う
「ロスラグ?あなた理由を知ってるわよね?」
ラナが言う
「どうして この2人が 町中で喧嘩なんてしていたのか…」
2人が声を合わせる
「「言・い・な・さ・い!」」
ソニヤとラナに問われ ロスラグが後退って言う
「そ、それは… ッスね…」
ロスラグがロキとヴェルアロンスライツァーを見る 2人はそっぽを向いている ロスラグが視線をソニヤとラナへ戻す 2人が更に近づいて視線で尋問する ロスラグが更に後退る ロキとヴェルアロンスライツァーが立ち上がりヴェルアロンスライツァーが言う
「しばらく休ませて貰う」
続いてロキが言う
「…諸卿には関係の無い話だ」
2人が船室へ入って行く ロスラグが続こうとするが ソニヤとラナに道を塞がれる ロスラグが焦ると 2人に詰め寄られて観念して言う
「じ、実は… ヴィルトンの町でお前たちを待っている間に あの海賊の奴らの 話し声が聞こえて…」
皆がロスラグの話に聞き入る ロスラグがザッツロードたちを見渡してから 視線を逸らして話を続ける
「あいつら… スプローニ国のラグヴェルス陛下が 先住民族の犬を国民だって言った事を笑ってたッス… 最初は俺が それに怒って そいつらに怒鳴ったッス でも、怒鳴ってからあいつらが多人数だって事に気付いて… 俺は逃げようって思ったッスよ 丁度その時 別行動してたロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長が来て」
ロスラグの話を聞いていたソニヤが問う
「それで一緒になって喧嘩になったって事?」
ロスラグが顔を上げ 顔を横に振って言う
「ち、違うッス 最初ロキ隊長は 「コレが迷惑を掛けたな」って 俺を回収して立ち去ろうとしたッス けどその時 あいつらが… 言ったッス…」
ロスラグが視線を落とす ラナが首を傾げて問う
「何て?」
ロスラグが間を置いてから言う
「「先住民族だか何だか知らねぇが 犬ッコロと人間様を同等扱いするなんて ヘドが出るぜ」って…」
ザッツロードたちが顔を見合わせる ザッツロードが声を掛けようとする ロスラグが言う
「お、俺は 別にっ!あー言うのは慣れてたし… け、けど びっくりしたッス!その瞬間 あ、あのロキ隊長が その野郎をぶっ飛ばしてっ!」
驚くザッツロードたち ロスラグが慌てて言う
「スプローニ国では!他国での喧嘩は絶対ダメなんッス!何があっても 絶対なんッスよ!?スプローニ国憲法で決まってるんッス!…だから俺はロキ隊長を止めようとしたッス けどロキ隊長は… で、気がついたらっ ヴェルアロンスライツァー副隊長まであいつらと喧嘩になっちゃってたッス!俺1人で2人を止める事なんて無理ッスよ!いや、片方だけだって無理ッス!!」
ザッツロードたちが驚いていて ソニヤとラナが顔を見合わせ ソニヤが言う
「確かロキって…」
ラナが言う
「ものすごく スプローニ国憲法に詳しかったわよね」
ザッツロードが言う
「あのロキが… スプローニ国憲法まで破って…」
ソニヤとラナがザッツロードの言葉に頷いてロスラグへ視線を戻す ロスラグが笑って言う
「…俺、やっぱ後住民族も大好きッスよ!魔王になっちゃった先住民族の奴を楽にしてやったら… また皆で一緒に暮らすッス!」
ザッツロードたちが顔を見合わせ微笑む ロスラグがハッとしてザッツロードを指差して言う
「あ!でもヘボ勇者の事は やっぱり ちょっと嫌いなままッスからね!?」
ザッツロードが驚いて言う
「えぇええ!?そ、そんなぁ~」
ザッツロードが苦笑する 皆が笑う
ザッツロードが船室へ向かう 通路を歩き最初の扉の窓を覗くと リーザロッテと仲間たちが話をしているのが見える 次の扉を覗くと幾つかあるベッドでロキとヴェルアロンスライツァーが眠っている ロキのベッドの横でロスラグが床にしゃがんだまま眠っている ザッツロードが微笑して扉を開け中に入る ロスラグに毛布を掛けて 空いているベッドに腰を下ろし ベネテクト国でベーネットから預かった宝玉を眺める 宝玉をしまい ベッドに横になる
船が結界の島へ近づく
海上は荒れており 嵐の中 甲板に出ていたザッツロードたちが島を確認する ザッツロードが言う
「あれが…結界の島」
隣に居るソニヤが目を細めて言う
「ねえ!あそこに船が!」
言うと共に指差す 皆がその方向を見る ザッツロードが頷き 舵を操作するカイザJrの下へ走って行き カイザJrへ言う
「カイザJr!あそこに船が!」
ザッツロードの言葉にカイザJrが言う
「ああ!分かってるっ!親父のフェリペウス号だ!今 通信を繋ごうとしてんだが 嵐のせいで回線が安定しねぇ!」
カイザJrが通信機を確認しながら舵を切って言う
「…っく キツイゼ!潮の流れがメチャクチャだっ この先にはイケねぇよ!」
カイザJrの言葉にザッツロードが指を指して言う
「あの船のところまで行けないのかい!?」
ザッツロードの言動にカイザJrが悔しそうに言う
「ちくしょぉ!あのクソ親父!良い腕してやがるっ 一体どうやってあんなトコまで この潮の流れを見抜きやがった!?」
カイザJrが叫ぶと同時に 通信機からカイザの声が響く
『よ~お ジュニア!こんな馬鹿みてぇな所に 何処の馬鹿が来たかと思ったら 馬鹿息子のジュニアじゃね~か?』
カイザからの通信に驚いたカイザJrが言う
「クソ親父!?」
ザッツロードが気付いて言う
「カイザJr!?あの船のお父上と 回線が繋がったのかい!?」
ザッツロードの言葉にカイザJrが答える
「ああ!繋がった!おいっ!クソ親父!てめー どーやってそこまで行きやがった!?」
カイザJrの言葉にザッツロードが苦笑する 通信のカイザが笑って言う
『お~お~?なんっだよ?情けねぇな~ぁ?ジュニアは こんくれーでビビッてんのかぁ?あーははははは!』
カイザJrが怒鳴りながら舵を切る
「うるせぇー!さっさと教えろっていうんだよ!!」
急な旋回にザッツロードが驚く 通信のカイザの声が聞こえる
『しょうがねぇ~なぁ~?んじゃ特別にー スペシャルな海路図を 送ってやろうかぁ~?…どうしよっかなぁ~?』
カイザJrが言う
「おいっ!!余裕ねーえんだよ!早くしろって!!」
画面はカイザ 計器を操作しながら通信を続けて言う
「まぁまぁ、そう焦りなさんなって 今送ってやっから~ もうちょっとだけ パパ抜きでがんばりなさ~い?」
通信のカイザJrが叫ぶ
『気持ち悪ぃー言い方すんなっ!クソ親父!!』
画面はカイザJr 通信のデータ受信を確認して叫ぶ
「これか!?…な!?まじかよ!?この荒れた潮に乗ってけってのか!?あんた馬鹿だろ!?俺を殺す気か!!」
カイザJrの言葉にカイザが返す
『ま~ これ… じゃなきゃ~… なんて… だ… … …ははは… …』
通信に雑音が混ざり聞き取られない カイザJrが慌てて言う
「あ!?おいっ!!」
通信が切れる カイザJrが受信したデータを確認して悩む ザッツロードが覗き込んで言う
「通信は切れてしまったね 何か送ってもらったのだろ?どうなんだい?行けそうなのかい!?」
ザッツロードの言葉に カイザJrが受け取った海路図へ目を向けてから前方を向いて目を細める 高い波が来て慌てて舵を切る ザッツロードがしがみ付いて言う
「カイザJr!頼む!君だけが頼りなんだ!僕たちはあの島へ行かなくてはならない!」
カイザJrがザッツロードの言葉にもう一度海路図へ視線を向けて言う
「あ~!!だから言ってんだろ!!そういう言葉は!可愛い女の子に言わせろって!!」
カイザJrが言いながら思いっきり舵を切る 船が旋回する 島へ向かない方向に旋回した事にザッツロードが焦る カイザJrが叫ぶ
「あのクソ親父がこっちからだって 教えやがった!ちくしょぉお!行ってやるぜぇえ!!」
ザッツロードが表情を明るめて言う
「有難うカイザJr!島まで辿り着けたら 皆に君へお礼を言うように 僕からも頼んでおくから!」
ザッツロードの言葉にカイザJrが笑って言う
「おう!約束だからなぁ!?」
無事辿り着いたザッツロードたち 島は悪魔力の黒い霧に覆われている カイザの船の甲板へ向かって ザッツロードが叫ぶ
「カイザ!あなたと一緒に来た ヘクターは!?」
カイザが島を指差して答える
「あの馬鹿なら1人で島へ行ったっきり帰ってこねぇー!こっちはそろそろ物資が切れるんだ!お前らあの馬鹿と一緒に帰るんだったら 俺らは一足先に戻らせてもらうぞー?」
ザッツロードが島を見てからカイザへ向き直って言う
「伝えます!出来ればギリギリまで 居てもらえると心強いです!」
ザッツロードの言葉にカイザが間を置いてから返答する
「あ~ どぉ~しよっかなぁ~?」
ザッツロードが苦笑してカイザとの会話を終らせる ザッツロードが振り返ると仲間たちが待っている ヴェルアロンスライツァーが言う
「バッツスクロイツの話によれば まず我々で島の結界を解除し、結界の解除されたこの島へ ローレシアから聖魔力を照射する、そして悪魔力を中和した後に 魔王と戦えとの事だ」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にザッツロードが頷くと ロキがザッツロードの前へ来て機械を手渡して言う
「…結界を解除したら この機械で知らせる この機械の回線はとても強く 悪魔力の影響も受けないらしい 卿へ渡しておく」
ザッツロードがロキから機械を受け取る ザッツロードが仲間を見渡して言う
「結界を解除するには この結界を作っているプログラマーか 彼の使用していたモバイルPC もしくはヘクターを見つければ良い筈だ 魔王に見付からない様に気を付けて 手分けをして探そう!」
ザッツロードの言葉にヴェルアロンスライツァーがロスラグへ顔を向け付け加える
「悪魔力を中和してからでなければ 魔王を倒す事は出来ない」
ロスラグが頷いて言う
「了解ッス!」
ロキが銃を確認しながらリーザロッテらへ視線を向けて言う
「…諸卿も気を付ける事だ」
リーザロッテが頷いて ザッツロードへ視線を向けて言う
「ええ!貴方方もね?」
ザッツロードが軽く笑って言う
「はい!みんなも」
ザッツロードの視線を受けて仲間たちが軽く笑う ソニヤが言う
「まずは結界の解除でしょ?本番はその後よね?」
ラナが腕組みをして言う
「その油断で この島特有の魔物にやられましたー なんて止めて頂戴よ?」
ラナの言葉にソニヤが膨れる セーリアが苦笑して言う
「まぁまぁ、皆で気を付けるって事でね?」
セーリアの言葉にザッツロードが頷き言う
「よし!行こう!」
ザッツロードたちが船を下りて行く カイザJrがそれを見送るが 間を置いて叫ぶ
「あー!あいつら!俺への礼は!?」
1人で悔やんでいるカイザJrへカイザが隣の船から声を掛ける
「お~い!そこの おまえー なかなか良い腕じゃねーかー?やっぱ俺様の息子だもんなぁ~?とーぜんかぁ?あーはははは」
カイザJrが振り向いて叫ぶ
「おいっ!クソ親父!!あの海路図間違ってたじゃねーか!!」
カイザが言う
「あれぇ~?そぉだったぁ?」
ザッツロードとソニヤが組んで2人で行動している 黒い霧が立ち込める森の中を行く ソニヤが問う
「ねえザッツ、魔王と戦うのって やっぱり大変なのかな?」
ソニヤの問いにザッツロードが苦笑して言う
「それはもちろん あの大きさだしね?」
ソニヤが問う
「でも、この悪魔力さえ中和させちゃえば きっと後は 先代勇者達が 最初に戦った時と同じ感じでしょ?」
ザッツロードが考えながら答える
「先代勇者たちが 最初に戦った時か… たしか、宝玉の力で魔王の周囲の悪魔力を中和していたね 今回は先に悪魔力を中和させてしまうから もしかしたら先代の時よりも楽かもしれない」
ザッツロードの返答にソニヤが驚きの歓声を上げる
「そっか!そーよね!?今回は先代の時よりメンバーも多いし!先代と一緒に戦ったヴェルアロンスライツァーとロキも居るんだし?なんだー 心配して損しちゃった!」
ソニヤが笑顔で軽くおどける ザッツロードも微笑して言う
「それに、先に島へ入ったヘクターも 一緒に戦ってくれるんじゃないかな?」
ザッツロードの言葉に 更に喜ぶソニヤ
「ああ!ヘクターも居たんだった!な~んだ 案外これって楽な戦いなのね!」
ザッツロードが苦笑して言う
「けど、油断はいけないよ?」
ソニヤが笑顔で答える
「わかーてる!先代勇者の仲間の足を 引っ張ったりなんて出来ないもん!ザッツも気を付けなさいよ?」
ザッツロードが笑って言う
「ははは…ソニヤに言われちゃうと」
ソニヤが怒って言う
「ちょっと!それどー言う意味よ!?」
詰め寄るソニヤに両手でそれを押さえる姿でザッツロードが後退る
ザッツロードとソニヤが島の中心の洞窟へ辿り着く 洞窟の前にヘクターが居る ソニヤが指差して言う
「ザッツ!あの人!」
ザッツロードがソニヤの示す人を確認して言う
「うん、先代勇者の仲間、ヘクターだ!」
ザッツロードとソニヤがヘクターを呼びながら走っていく 名を呼ばれたヘクターが振り返ってザッツロードとソニヤを見て首を傾げて言う
「あぁ?誰だお前ら?」
ザッツロードとソニヤが顔を見合わせて笑ってから言う
「僕は3代目勇者のザッツロード7世です」
ソニヤが言う
「私はその3代目勇者の仲間で3代目魔法使いのソニヤよ」
ザッツロードが握手を求める ヘクターが軽く笑ってザッツロードの握手を受けて言う
「ああ、ヴィクトールから聞いてた、今回の勇者様は魔王を倒す気が無いんだってな?」
ザッツロードが苦笑して言う
「最初はそうでしたが、」
ヘクターが軽く笑って言う
「なんだ?気でも変わったのか?」
ソニヤが代わって言う
「それは!この島に悪魔力が大量にあるから 倒せないって事だったの!」
ザッツロードが頷いて言う
「その悪魔力を中和する事が出来る様になったんです、だから」
ヘクターがニッと笑って言う
「それなら倒せるって事か」
ザッツロードとソニヤが頷く ザッツロードが続ける
「ヘクター、そのためにも まずはこの島に今掛けられている結界を解除しなければいけないのです 貴方はこの結界を制御しているプログラマーの持っていた モバイルPCが 何処にあるか知っていますよね?」
ヘクターが腕組みをして問う
「それをどうしようって言うんだ? ぶっ壊しちまおうって言うのか?」
ザッツロードがすまなそうな顔をして言う
「最悪その方法も有り得ます ただ、可能な限り回収したいと言う事なので 僕たちの仲間のプログラマーに操作をしてもらおうかと」
ヘクターが少し不満そうな溜め息を吐いてから言う
「俺としちゃー…他の奴になんか触って欲しくねーんだけどよ まぁ、そんな事も言ってられねーよな?」
ザッツロードとソニヤが顔を見合わせてからザッツロードがヘクターへ言う
「お気持ちは良く分かります」
ザッツロードの言葉にヘクターが苦笑してから言う
「けどよ、ちょっと問題なんだ その、あいつが使ってたやつなんだが」
ヘクターが親指で自分の後方を指して言う
「この悪魔力のバリアの奥にあるんだよ、見えるんだが 近付けねーんだ」
ザッツロードとソニヤが驚き ヘクターの示す場所を確認する 洞窟の入り口にバリアが張られている その奥にモバイルPCが置かれており そのモニターに結界の期限がカウントダウンされている ヘクターが言う
「結界… とまでは言わねぇけど、ちょっとやそっとじゃ壊せねーんだよ 宝玉があれば何とかなるかもしれねーけど」
ヘクターの言葉を聞いてザッツロードが宝玉を取り出しソニヤへ手渡す
「ソニヤ、出来そうかい?」
ソニヤが頷いて宝玉を受け取って言う
「うん、やってみる!」
ソニヤが宝玉を片手に魔法の詠唱を開始する 魔法の詠唱が終わり宝玉が激しく光り魔法が放たれる 他の場所に居る仲間たちがその光りに気付き皆が向かう
バリアが消え ザッツロードとソニヤがその場を確認する ヘクターが先行してモバイルPCの下へ行き 地に膝を着けてモバイルPCを見る ザッツロードとソニヤが一度顔を見合わせてから ヘクターの傍へ行く モニターを眺めるヘクターが言う
「残り半年もあるぜ…?10年程度しか持たねぇとか 言ってたくせにな」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい…凄いプログラマーですね」
ヘクターが苦笑して言う
「…おうっ 世界一のプログラマーだからな!でもって… 俺の世界一の相棒だ」
ザッツロードとソニヤが顔を見合わせ再びヘクターへ視線を向け言葉に詰まる そこへ仲間たちが現れる ラナが言う
「ザッツ、ソニヤ さっき強い魔法を?」
ザッツロードとソニヤが振り向いて頷く ザッツロードが言う
「この洞窟の入り口に悪魔力によるバリアが張られていたのを 宝玉を使って解除したんだ」
セーリアがザッツロードたちの後ろを少し覗いて言う
「その洞窟の奥に 何か?」
ザッツロードとソニヤが頷きザッツロードが 遅れてやってきたシャルロッテを呼んで言う
「シャルロッテ、結界を作っているプログラマーのモバイルPCを発見したんだ、結界のプログラムの解除を頼めるかい?」
皆の視線がシャルロッテへ向く シャルロッテが一瞬焦ってから慌てて頷いて言う
「は、はいっ やってみますっ!」
ザッツロードが頷いて場所を示す シャルロッテが向かう ザッツロードの横にシャルロッテが来る ザッツロードとシャルロッテがヘクターの下へ行く ヘクターが立ち上がって場所を明け渡す シャルロッテが一度ヘクターを見てからモバイルPCの前に座り込んで モバイルPCをまじまじと見る ザッツロードが問う
「どうだい?シャルロッテ」
シャルロッテが一瞬焦って言う
「あっ!は、はいっ えっと ちょっと待って下さい かなり古い機種なのでっ えっとっ…」
言いながらキーボードのタイピングを始める モニターに新たなウィンドウが次々に開かれる 段々タイピングが早まる ウィンドウが次々に開かれ プログラムが高速で流れる シャルロッテがそれらを確認しながら言う
「すごい… このスペックでこんなに早い演算を… こんな公式見た事無い 一体…」
独り言を言いながら確認作業を続けるシャルロッテ ヘクターが問う
「お前はソルベキアのプログラマーだろ?あいつはガルバディアのプログラマーだったんだ、やっぱ色々違うのか?」
ヘクターの言葉にザッツロードとソニヤが顔を見合わせてから シャルロッテへ視線を送る シャルロッテがモバイルPCの操作をしながら言う
「本来はまったく違います、でもこの方はソルベキアの機械を使う為に 双方のプログラムの違いを 補うプログラムを作っています だから このプログラムで 元の表示に切り替えれば…」
言い終えると同時にエンターを押してモニターへ視線を送る ウィンドウに表示されていたプログラムが一転し ソルベキアのプログラムに切り替わる シャルロッテが頷いて言う
「大丈夫です!私 分かります!」
ザッツロードとソニヤが表情を明るめ ザッツロードが言う
「シャルロッテ、それでは 結界の解除を」
ザッツロードの言葉にシャルロッテが頷いて言う
「はい、すぐに出来ます!」
シャルロッテが今までより早いタイピングで解除プログラムを組む ザッツロードがロキから受け取っていた機械を取り出して確認してから ヘクターへ視線を向けて言う
「ヘクター、結界を解除したら 僕たちは魔王を倒します 是非、あなたにも」
ヘクターがザッツロードへ向いてニッと笑って言う
「あったりめーだ!あいつには、俺が誰よりもデカイ貸しを作ってあるんだ 返してもらうぜ!」
ヘクターが言い終えると共にシャルロッテの後姿へ視線を向ける その姿が一瞬デスの姿と重なる ヘクターが手を握り締める ザッツロードがそれを見ている シャルロッテの手が止まる シャルロッテがザッツロードへ顔を上げて言う
「出来ました!こ…ここここっこれでっ 解除されてますぅ!」
シャルロッテの口調が途中からいつもの口調に戻り モバイルPCから離れてオドオドする ヘクターがシャルロッテの変化に疑問する ソニヤが苦笑する ザッツロードが頷いて言う
「よし、これで…」
ザッツロードがロキから受け取っていた機械のボタンを押して周囲を見渡す ソニヤとシャルロッテも同様に周囲を見渡す ヘクターがザッツロードの様子を見てから洞窟から出る ザッツロードたちが顔を見合わせてヘクターに続く 洞窟の外で仲間たちが大陸の方を見ている ザッツロードより先に外へ出ていた ソニヤが指を指して言う
「ザッツ!見てあれ!」
ザッツロードがソニヤの指差す方向へ顔を向けて言う
「あれが聖魔力!?」
ロキの隣に居るロスラグが問う
「まさかっ あんな遠い所から ここまで あの光を飛ばすッスか!?」
大陸中の聖魔力がローレシアに集められ増幅されて 島へ降り注がれる 強力な光に思わずソニヤとラナが悲鳴を上げる
「「きゃぁ!」」
ザッツロードたちが眩い光に目を瞑る
間を置いてザッツロードが目を開く 周囲にあった黒い霧が消え 美しい緑に覆われた島の様子に様変わりしている 皆が驚きの声を上げる リーザロッテが問う
「悪魔力は…無くなったと言うの?」
ロスラグが空気の匂いを嗅いでいる それを無言で眺めるロキ ヴェルアロンスライツァーが周囲を見渡して言う
「悪魔力が無くなったのではなく 悪魔力と聖魔力がほぼ同量となったのだろう これが中和か…」
ソニヤとラナが周囲を見渡しソニヤが言う
「なんかー 普通の風景よね?」
ラナが言う
「きっと普通の風景が 両魔力の中和状態 と言う事なのよ」
ザッツロードが頷き 辺りを見渡してから仲間たちへ向き直る 仲間たちも同様に周囲を見渡す ザッツロードが軽く笑い 仲間たちも微笑を漏らす
地響きが起きる
ソニヤが怯えた声で言う
「な、何!?」
再び周囲に黒い霧が立ち込める セーリアが言う
「また悪魔力が!?」
シャルロッテが自分のモバイルPCを操作して言う
「強い悪魔力の塊が 近づいて来ます!あ、あっちですっ!」
シャルロッテが指差す ザッツロードたちが視線を向ける 皆の視線の先 巨大な黒いドラゴンが立ち上がり ザッツロードたちへ向き直る 体中から悪魔力の霧を吹き出している ヘクターが言う
「来やがったなぁ…!」
ヘクターが言い終えると共に剣を抜く ザッツロードたちが顔を見合わせ 皆が武器を構える オライオンがヘクターの横に立ち問う
「あれが魔王か!?親父!」
ヘクターが頷いて言う
「ああ!この日を待ってたぜ!邪魔するんじゃねーぞ!?」
オライオンが苦笑して言う
「親父こそ、相棒もいねぇんだから… 下がってろよ!」
オライオンが言うと共に走り出す ヘクターがニッと笑って言う
「あいつはこの島に居るんだ!俺には 世界一の相棒が付いてんだよ!」
言い終えると共に ヘクターが走り出す ザッツロードが驚き ソニヤが横に来て言う
「ザッツ!私たちも負けてられないわよ!?」
ソニヤの言葉にザッツロードが頷き言う
「うん!行こう!」
ザッツロードとソニヤが魔王へ向かって行く 仲間たちも続く
オライオンがシュライツの魔法を剣に受け 魔法剣にして魔王へ切りかかる その後ろからヘクターが単身魔王へ斬りかかる ロキが魔王へ銃を放つ ヴェルアロンスライツァーが過去と同様に ロキの銃弾を叩き込む形で魔王へ剣を振るう 魔王の表面には悪魔力のバリアが張られている 魔法剣はそのまま攻撃が届く ヘクターの剣は防がれる ロキとヴェルアロンスライツァーの攻撃は2人の連携でヴェルアロンスライツァーの剣が魔王に届く ヘクターが舌打ちをする
「…チィッ!」
その隣をオライオンが通り 過ぎ際に言う
「シュライツの魔力を借りろよ!」
ヘクターが過ぎ去ったオライオンの背に向かって叫ぶ
「んな事して堪るかーっ!!」
ヘクターの後ろにシュライツが来て奇声を上げる ヘクターが振り返って言う
「要らねぇーっ!」
シュライツがビクッと驚いた後に奇怪な声を上げて怒る ヘクターがうるさそうに耳を塞ぐ
ザッツロードがソニヤの魔力を受け魔法剣を振るう リーザロッテがレイトとヴェインへ攻撃を命じる
「レイト!ヴェイン!貴方たちの出番よ!魔王を討ち取りなさい!!」
2人が返事をして走り出す リーザロッテがシャルロッテへ叫ぶ
「シャル!レイトの援護よ!」
シャルロッテがタイピングをしながら返事をする
「はいっ!任せて!」
リーザロッテがロイへ言う
「ロイ!ロキの真似をして!ヴェインの援護を!」
ロイが両手に銃を構えて言う
「…あいつに俺の銃弾が見えるとは思えん」
リーザロッテが怒って言う
「いいの!やりなさいっ!!」
ロイが間を置いて返事をする
「…了解」
リーザロッテが他方で突っ立っているロスラグに気付いて叫ぶ
「そこの貴方!何をぼうっと突っ立っていらっしゃるの!?さっさと攻撃に移りなさいっ!!」
ロスラグが魔王を見上げて言う
「…あいつ …謝ってるッス」
リーザロッテが疑問して言う
「え?」
ロスラグの言葉に リーザロッテが疑問して 魔王へ視線を向ける 魔王が仲間たちを攻撃している 仲間たちが回避している リーザロッテがロスラグへ視線を戻して叫ぶ
「あっ!謝るぐらいなら!今すぐ攻撃を やめるように仰い!」
ロスラグがリーザロッテへ顔を向け 魔王を指差して言う
「ち、違うッス!あれはもう 抜け殻なんッス!空っぽの体を 悪魔力が動かしてるだけッスよ!」
リーザロッテが一瞬止まり 魔王を見て再びロスラグへ振り返り 魔王を指差して言う
「だ、だったら!貴方もさっさと行って あのデカ物を止めていらっしゃい!!」
ロスラグが一瞬止まり 顔を横に振って叫ぶ
「ち、違うッス!いや、それはっ俺も行くッスけど!あいつの魂が 何か言ってるんッスよ!」
リーザロッテが言う
「魂ですって?」
リーザロッテが疑問して 再び魔王を見てから言う
「では その魂は何と仰っているの?」
ロスラグが言う
「謝ってるッス」
ロスラグの言葉にリーザロッテが怒って言う
「だから!何を謝っているのか!?と訊いているのよ!!」
ロスラグが焦って言う
「う、上手く聞き取れないッスよ!ちょっと待って欲しいッス!」
ロスラグが魔王に向き直って集中する リーザロッテがそれを見て同様に魔王へ向く ロスラグが言う
「…え?…彼って誰ッスか?…プログラマー?…彼の相棒? 彼ばっかりじゃ分かんないッスよ!姿を目の前に想像するッス!」
ロスラグの言葉にリーザロッテが首を傾げて考える ロスラグが視線をヘクターへ向ける リーザロッテがその様子に言う
「あの大剣使いがどうかなさったの!?あの者はヘクターと仰るのよ!?」
ロスラグが頷いて言う
「分かったッス!ちゃんと伝えるッスよ!お前の事も!竜族の皆に伝えとくッスよ!!」
ロスラグが叫んでから 自分の武器を用意する リーザロッテが問う
「ちょ、ちょっと!こちらにも仰い!貴方を介してでなくては こちらは 何も分からないッスよ?!」
リーザロッテが言い終えると共に口を押さえて顔を赤くする ロスラグは気付かずに武器を用意し 左腕に付けている機械を操作しながら言う
「あいつの使ってた宝玉は壊れちゃったッス だから新しい宝玉と防人が必要で 仕方なくヘクターの相棒を捕まえたんだって… それを謝ってたッス それから…」
用意を終えたロスラグが武器を構えて言う
「…彼も自分と同様に 悪魔力に支配されてしまった 彼も諸卿の力で …救って欲しいと」
リーザロッテが驚き問う
「え…?私たちの力で ヘクターの相棒を…救う?まさかっ!」
ロスラグが銃弾を剣に放ち 剣を魔法剣に変えて言う
「私も戦う このヴェルアロンロキスライグが かの者との約束を守る!」
ロスラグが言い放つと共に駆け出していく リーザロッテがロスラグを目で追ってから魔王を見上げて言う
「つまり… あの魔王を倒しても もう1人 …魔王が 居ると仰るのね」
オライオンの魔法剣の魔法が切れる 間もなく再びシュライツから魔法が放たれ オライオンの剣が魔法剣になる その剣を構え攻撃するオライオンの隣で ヘクターが剣を振るうが弾かれる オライオンが振り返って言う
「おいっ!頑固親父!いい加減シュライツの魔法を使うか 下がってるかしろ!気になって堪まんねぇよ!!」
ヘクターが顔を向けて叫ぶ
「うるせぇえ!戦ってる最中に他の事で気散らしてんじゃねぇえよ!俺はあいつのプログラムしか 受け取らねーって誓ったんだ!!じゃなかったら 殺されたって 他のサポートなんか受けねーんだよ!!」
ヘクターが叫ぶと共に 後方からザッツロードが叫ぶ
「オライオン!ヘクター!」
ザッツロードに続いて ソニヤが叫ぶ
「危ないっ!!」
オライオンとヘクターが魔王へ顔を向ける 魔王が黒い炎を吐く オライオンが思わず叫ぶ
「やっべぇ!」
ヘクターがその炎へ剣を振るう オライオンがダメージに備えて目を強く瞑るが 来ない衝撃に目を開く 自分の前に居るヘクターの剣で 炎が抑えられ消える オライオンが驚いてヘクターの剣を見る ヘクターが咄嗟に閉じていた目を開いて目の前の光景に驚く オライオンが呆気に取られて言う
「お、親父!?その剣…!?」
ヘクターの目に 自分の剣を覆う数字の羅列が見える ヘクターが驚いて言う
「これはっ…」
ヘクターがシャルロッテへ視線を向ける シャルロッテはレイトへ向いてプログラムを行っている ヘクターが洞窟へ視線を向ける
洞窟の中のモバイルPCが作動している
ヘクターが目を閉じて意識を集中させる ザッツロードとソニヤが走って来る ザッツロードが2人へ言う
「オライオン!ヘクター!大丈夫かい!?」
ソニヤが2人の無事に驚き問う
「え?!な、なんで無傷なの!?直撃だったじゃない!?」
オライオンが戸惑って言う
「あ、ああ そうだったんだけどよ…?」
オライオンが言うと共に 視線をヘクターへ向ける ザッツロードたちもオライオンと同様に疑問したまま ヘクターへ視線を向ける ヘクターがニッと笑って言う
「…おい オライオン!それから 3代目勇者と仲間、見とけよ?」
言うと共に剣を構える 疑問する3人へ ヘクターが言う
「これが世界一の大剣使いと 世界一のプログラマー …俺たちの力だ!」
言い終えると共にヘクターが駆け出す オライオンが思わず叫ぶ
「親父!」
ザッツロードとソニヤも掛ける声を飲み ヘクターを目で追う 皆の目前 ヘクターが地を蹴り 何も無い空間に現れる足場を次々に蹴り上がり 魔王の頭上まで駆け上がる ザッツロードが驚いて言う
「あれはっ!?プログラム!?」
ソニヤが驚いてシャルロッテへ視線を向ける ザッツロード以外の仲間たちも驚き見上げている 皆と共にヘクターを見上げていたシャルロッテが ソニヤの視線に気付いて 慌てて否定する
「わ、わわわ 私っ!あんなプログラム 出来ませんっ!!」
ヴェルアロンスライツァーとロキが見上げ ヴェルアロンスライツァーが言う
「あれは あの頃と変わらない」
ロキが言う
「…デスのプログラムだ」
ヘクターが剣を大きく振り上げて 魔王へ叩き込む
「うおぉおおお!!」
ヘクターの剣が魔王の前にある悪魔力のバリアに当たる ヘクターの剣から数字の羅列が広がり魔王のバリアを破壊する 地に足を付けたヘクターが再び剣を構えなおし 振り払うように魔王へ斬り付ける
「くらえーっ!!」
その剣の威力が数百倍の威力に増幅され 魔王の身体を切り裂く ソニヤが思わず声を上げる
「やったぁ!!」
驚きに口を押さえるセーリアの横で ラナが驚いて言う
「す、すごい…」
レイトとヴェインが見上げたままレイトが言う
「あれが アバロン国3番隊元隊長ヘクターの力」
ヴェインが言う
「そして その相棒の力でもある」
リーザロッテがレイトとヴェインの後ろに来て言う
「個々では無くってよ?その2人の合わさった力なのよ!」
ヴェルアロンスライツァーとロキの傍に ロスラグが来て静かに言う
「これで あいつは楽になるッス」
切り裂かれた魔王の体から悪魔力の霧が噴出し 魔王は霧になって消える
ザッツロードと仲間たちが辺りを見渡す ヘクターが体勢を戻し剣を眺める ザッツロードが間を置いてからヘクターの後ろへ行き声を掛ける
「ヘクター…」
ザッツロードが続ける言葉に困ると ヘクターがハッとして振り返る ザッツロードが呆気に取られる前で ヘクターが驚いた表情で言う
「デ… ス… ?!」
皆がヘクターの視線の先を見る ソニヤが声を上げる
「きゃ、きゃあ!…え!?」
ラナが驚いた表情で言う
「い…生きて たの…?」
皆が驚いて身を乗り出し そのまま止まってヘクターの動きに集中する ヘクターがゆっくりとデスへ近づいて目の前で立ち止まり 信じられない様子で震える手で触れようとする デスが軽く笑って言う
「待っていた ヘクター」
皆がデスの声に驚く ソニヤがゆっくり言う
「え… と… そ、そうよね…?あ、当たり前じゃない!?だ、だって?さ、さっきの プログラム そのプログラマーのサポートなんでしょ!?だ、だったら生きてて当然じゃない!?」
ソニヤの言葉に一度視線をソニヤへ向けるヘクター 再びデスへ戻し ヘクターの表情がゆっくり微笑へ変わっていく
「そ、…そっか?なんだよ… お前… 生きてたのかよ?俺は… 俺は…」
ヘクターが言いながらデスの腕へ触れようと手を伸ばす ロスラグの声が響く
「だめッスー!!だまされちゃダメッスよ!!」
ヴェルアロンスライツァーとロキが 驚いて後ろのロスラグへ振り返る ヘクターがビクッと手を震わせて声の方へ向こうとする オライオンの声が響く
「親父っ!!」
ロスラグへ向こうとしていたヘクターが視線をデスへ戻した瞬間 オライオンがヘクターを突き飛ばす その横を大剣が振り下ろされる 一連の事に驚いたザッツロードが改めて視線をデスへ向け叫ぶ
「あ!あれは!?ヘクター!?」
ザッツロードの視線の先 地に手を付いているヘクターを庇ってオライオンが剣を構え その前にもう1人のヘクターが剣を構えて立っている その体から悪魔力の霧が立ち込める シャルロッテが慌ててモバイルPCを操作し 確認して叫ぶ
「その人は!悪魔力に支配されています!あの魔王と同じです!」
ソニヤが驚いて言う
「そ、そんな!?どうして!?さっきまで昔のプログラマーの姿だったのに!」
ラナが言う
「ひょっとして、あれはプログラマーが作った ヘクターのプログラムなんじゃ?」
ラナの言葉にソニヤが驚いて視線を向ける セーリアが口を押さえて言う
「そ、それでは 姿だけでなく能力まで?!」
ザッツロードが剣を構えて言う
「だとしたら さっきの あの魔王を倒すほどの力を!?」
オライオンの後ろでヘクターが立ち上がって言う
「お、おい… 嘘だろ? …デスっ!?」
オライオンが剣を構えて言う
「親父は下がってろよ!姿が同じじゃ 見間違えそうだ!…シュライツ!」
オライオンに呼ばれたシュライツが オライオンの剣に炎を纏わせる オライオンが魔法剣を構える ヘクターが言う
「おいっ!?やめろ!俺の相棒に 剣向けんじゃねーっ!」
オライオンが剣を構えたまま 振り返って言う
「こいつはもう 親父の相棒じゃねーんだよ!悪魔力に身体を乗っ取られた …あの魔王と同じなんだ!」
言うと共にオライオンが駆け出し ヘクターの姿になったデスへ剣を振り下ろす ヘクターが叫ぶ
「デスッ!!」
デスがオライオンの剣を止める 止められたオライオンが驚く デスがヘクターの顔でニッと笑ってその剣を振り払う 弾かれたオライオンが体勢を立て直して言う
「くそっ!あいつ …親父と同じ位強ぇえ!」
ロスラグが皆の前へ出て ヘクターへ向けて言う
「ヘクター!戦わなきゃ駄目ッスよ! あの魔王だった竜族は 早く楽にして欲しいって 助けを求めてたんッス!そのプログラマーもきっと同じッスよ!!」
ロスラグの言葉にヘクターが叫ぶ
「俺にデスを殺せって言うのか!?んな事する位なら!!」
ロスラグが顔を横に振って言う
「殺すんじゃないッス!!そいつは…っ そいつはもう 生きてないッスよ!!」
ロスラグの言葉にヘクターが衝撃を受けて身動きを止める ロスラグが続けて叫ぶ
「そいつの魂も言ってるッスよ!助けて欲しいって… あんたに助けて欲しいって叫んでるッスよ!!」
ロスラグの両脇にヴェルアロンスライツァーとロキが立って ヴェルアロンスライツァーが言う
「ヘクターに その様な事は出来ない」
ロキが言う
「…ならばヘクターとデス、2人の仲間である 俺たちが行うべきだ」
2人が言うと共に駆け出す デスがオライオンへ剣を振り下ろす オライオンがギリギリその剣をかわし 自分の魔法剣を大きく振り上げる ヘクターが叫ぶ
「駄目だ!避けろオライオン!!」
オライオンが疑問して言う
「え!?」
オライオンの振り下ろした魔法剣をデスが払い 体勢を崩したオライオンに剣を突き刺そうとする ヘクターが再び叫ぶ
「オライオン!!」
オライオンの叫び声と同時にロキの銃声が響く デスが気付いてオライオンへ向けていた剣を引き その剣の側面でロキの銃弾を防ぐ 次に振り下ろされたヴェルアロンスライツァーの剣を後方へ身をかわして回避する ヘクターがやって来た2人の名を呼ぶ
「ロキ!ヴェル!」
2人がヘクターの前に立ってヴェルアロンスライツァーが言う
「貴殿は下がっていろ ヘクター」
ロキが言う
「…俺とヴェルが 代行する」
2人がデスへ武器を向ける デスが沈黙する 2人が一度目配せし再び武器を構え ヴェルアロンスライツァーがデスに斬りかかる ロキが側面へ移動して銃を撃つ ヘクターが一瞬止めようとして前に出かけた身を戻し 視線を落として手を握り締める オライオンがヘクターを見て 表情を哀しめ 再びデスへ大剣を向ける
ザッツロードが彼らを見ている 隣のソニヤがザッツロードを見上げて言う
「ザッツ!?私たち… 見てるだけで良いの!?」
ザッツロードがソニヤへ視線を向けて答える
「僕たちが行っては邪魔になってしまうよ ヴェルは彼との間を見極めて剣を振るっている ロキも僕たちが居ては 思うように銃を撃てないだろうし…」
ソニヤが視線を落として言い掛ける
「で、でも…」
ラナが隣へ来て言う
「私たちが割り込んで良い戦いでは 無いでしょうね」
リーザロッテが近くへ来て言う
「本当に、これで宜しいのかしら?彼は… あのプログラマーは ヘクターに止めを刺して頂きたかったのでしょう?」
リーザロッテの言葉にソニヤが怒って言う
「ヘクターの気持ちも考えなさいよ!彼はずっと あのプログラマーを助けようとしてたのよ!!」
リーザロッテがソニヤへ顔を向けて言う
「もちろん存じていてよ!でもそれはヘクターの気持ちでしょ?私は あのプログラマーの想いを申し上げているのよ!?」
レイトが頷いて言う
「私はリーザ様の仰る事が分かる、もし私が同様の状態に陥ったら」
ヴェインが続いて言う
「ああ、俺もだ リーザ様の仰る通りの結末を望むだろうな」
話を聞いていたロイが隣のシャルロッテの異変に気付き声を掛ける
「…シャル、どうかしたのか?」
ロイの言葉に皆が一番後ろに居たシャルロッテへ視線を向ける シャルロッテが首を傾げながらタイピングを再開して言う
「おかしい…さっきとは… あのプログラマーのプログラムが 変わってるんです、さっきまでは 自分をヘクターのプログラムと同期させる事だけを行っていたのに 今は…」
シャルロッテのモバイルPCに 結論が出る シャルロッテが慌ててモニターから顔を上げて叫ぶ
「だ、だめですっ!いいい、今すぐロキさんとヴェルさんを止めてください!あの2人までっ!乗っ取られちゃいますっ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
リーザロッテが言う
「何ですって!?」
ザッツロードとリーザロッテが ロキとヴェルアロンスライツァーへ視線を向ける 2人はデスへ武器を向けて間合いを取っている ザッツロードがシャルロッテへ顔を向けて問う
「一体、どういう!?」
ザッツロードの問いが終わらない内に シャルロッテが2人を指差して慌てながら言う
「あ、あああの2人のデータを デスさんは持ってるんですっ だから今!その過去のデータとの誤差を 修正していてっ 修正が終ったら 乗っ取られちゃいます!!」
ザッツロードが慌てて叫ぶ
「ロキ!ヴェル!彼と戦ってはいけない!!」
ザッツロードの言葉に デスへ攻撃を仕掛けていたヴェルアロンスライツァーとロキが振り返る 1人離れた場所に居たロスラグが怒りながらザッツロードへ叫ぶ
「なーっ!?ヘボ勇者ー!!何言ってるッスかー!!」
ザッツロードがロスラグを無視して叫ぶ
「デスは!君たちのデータを採取しているんだ!これ以上戦ってはいけない!」
ザッツロードの言葉を聞いて ヴェルアロンスライツァーとロキが後方へ回避する ヴェルアロンスライツァーが言う
「なるほど、それで反撃が止んだのだな」
ロキが言う
「…死して尚 その天才ぶりは変わらんらしい」
2人の言葉を聞いてオライオンが前へ出て言う
「なら、俺がやる!」
オライオンが言って構える ザッツロードが仲間たちへ言う
「僕たちも戦おう!先代勇者の仲間は 彼とは戦えない!」
ソニヤが言う
「うん!私たちで!」
ラナが言う
「現代勇者と仲間たちの出番ね!」
セーリアが言う
「同じ仲間だった 彼らで戦わせるなんて やっぱり良くないわ!」
ザッツロードの言葉に仲間たちが頷く
ザッツロードと仲間たちがデスの横へ立つ ザッツロードが剣を構えソニヤが魔法剣用の魔法を詠唱する ラナとセーリアが合同魔法の詠唱をする ヴェルアロンスライツァーとロキへ剣を向けていたデスが顔を向け沈黙する
オライオンがシュライツの魔法を受け取りデスへ攻撃を開始する デスが回避する 続いてザッツロードが攻撃する デスが回避する ラナとセーリアの合同魔法がデスへ向かう デスが自分の周囲に対魔法用バリアを張る ザッツロードとオライオンが剣を振るう 2人の剣をデスが回避する そこへロスラグの剣が襲い掛かり デスが剣で押さえる
ザッツロードたちの戦いを見ていたリーザロッテがイライラして言う
「なんって無様な戦い様ですの?!レイト!ヴェイン!彼らへ 貴方たち2人の槍術を ご覧に入れて差し上げなさい!」
リーザロッテの指示にレイトとヴェインが意気揚々と返事をして槍を構える シャルロッテが叫ぶ
「きゃぁああ!リ、リーザ!う、うううう後ろ!!」
シャルロッテの声に振り返ったリーザロッテがハッとして叫ぶ
「なっ!?なんて数の魔物っ!!作戦変更!魔物討伐を最優先よ!!」
リーザロッテの言葉に再びレイトとヴェインが返事をして魔物の群れへ飛び込む ロイが遅れて銃を構える リーザロッテがロイに気付いて叫ぶ
「ロイ!遅くってよっ!!さっさと行きなさい!」
リーザロッテの言葉にロイが言う
「…俺たちだけでは無理だ、援軍を要請する」
ロイが言い終えると共に魔物の群れへ向かって行く リーザロッテが焦って言う
「え、援軍なんて何処に…!?ちょっとそこー!」
リーザロッテがザッツロードたちへ叫ぶ ザッツロードがリーザロッテの声に気付いて振り返る その視界に魔物の群れが見え ザッツロードがロキたちへ叫ぶ
「ロキ!ヴェル!ヘクター!ここは僕らに任せて!リーザロッテ王女らの援護を!」
ザッツロードの言葉を聞いたロスラグが怒って言う
「あー!!ヘボ勇者!!ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長に 命令するんじゃねぇえッス!!」
ザッツロードがロスラグへ向いて言う
「君も行ってくれ!隊員A!!」
ザッツロードの言葉に ロスラグが怒って叫ぶ
「お前にだけは 言われたく無いッスー!!」
ロスラグが叫んだ後 仕方なく ロキとヴェルアロンスライツァーへ向いて言う
「…けど、今回は仕方ないッス そうッスよね?ロキ隊長、ヴェルアロンスライツァー副隊… 長っ!?」
ロスラグが言い終える前に ヴェルアロンスライツァーとロキがロスラグへ襲い掛かる ロスラグがギリギリ避けて叫ぶ
「なっ!?何するッスか!?ロキ隊長っ!ヴェルアロ…!わぁああ!!」
ヴェルアロンスライツァーとロキが ロスラグへ攻撃を再開する ロスラグが悲鳴を上げながら逃げる ザッツロードが気付いて言う
「ロキ!ヴェル!」
ソニヤが慌てて叫ぶ
「ザッツ!危ないっ!!」
ソニヤの声にザッツロードが前方へ顔を向け デスの剣を避ける ギリギリ回避したザッツロードに ヴェルアロンスライツァーの剣が振り下ろされる ラナが叫ぶ
「ザッツ!!」
ザッツロードが思わず目を閉じると 剣の弾かれる音に目を開く オライオンがヴェルアロンスライツァーの剣を防いでいて言う
「くっそー!先代勇者の仲間が 俺たちの敵になっちまった!!」
オライオンがヴェルアロンスライツァーの剣を払って 再び大剣を構える ザッツロードが周囲を確認して言う
「ロキとロスラグが居ない!」
ザッツロードが叫ぶと同時に デスとヴェルアロンスライツァーがザッツロードとオライオンへ向かって来る ザッツロードとオライオンが攻撃を回避した後 再び襲って来た剣を 剣で受け止める オライオンが言う
「ロスラグは!あいつは意外と強ーんだ!操られてるロキになんか 負けねーよ!」
言うと共にデスの剣を払い除けるオライオン ザッツロードが頷いて言う
「分かった!ロキはロスラグに任せよう!ラナ!セーリア!2人でヴェルの相手を!」
ラナとセーリアが頷いて言う
「分かったわ!」「やってみるわ!」
2人の返事に頷いたザッツロードがオライオンへ言う
「オライオン!君はリーザロッテ王女らの援護に行ってくれ」
ザッツロードの言葉にオライオンが驚き 怒って言う
「ばっ 馬鹿言うんじゃねぇよ!?俺以外に親父に勝てる奴なんて 居る訳ねぇだろ!」
ザッツロードが頷いて言う
「分かってる!ヘクターの力に魔法バリアまであるんだ、僕らだけでは無理だ だからオライオン、リーザロッテ王女たちと一緒にあの魔物を片付けて みんなで早く戻ってきてくれ それまで僕とソニヤで抑える!」
言い終えると共にザッツロードが距離を取って剣を構える オライオンが悩んでから頷いて言う
「わ…分かった!すぐ戻るから 何とか踏ん張れよ!!」
オライオンが叫んで立ち去ろうとする ヘクターが言う
「お前らも行け」
ザッツロードとオライオンが振り返る ヘクターが大剣を握り直して言う
「後は 俺がやる」
オライオンが叫ぶ
「けど!もしかしたら親父まで!」
ヘクターが軽く笑って言う
「もしそうなったら お前ら全員で俺を倒せよ?」
ヘクターの言葉にオライオンが驚き 表情を哀しくして言う
「親父…」
ヘクターが振り向かずに言う
「行け!」
オライオンが悔しそうな顔で言う
「ああ!もし親父まで操られたら 俺がぶっ倒してやるから 安心しろよな!!」
言い終わると共にオライオンが走り去る ヘクターがニッと笑う ザッツロードが言う
「すぐに戻ります!それまでっ!」
ザッツロードの言葉にヘクターが軽く言う
「それまでに 終らせといてやるよ のんびり行って来いよー?」
言い終えると共に ヘクターは大剣を肩に乗せ だらけて見せる ザッツロードが頷いて言う
「お願いします!」
ザッツロードが走り去る ソニヤが戸惑いながらもザッツロードに続く ヘクターがデスに向き直って言う
「自分と戦う日が来るなんてな?デス…お前の作った俺のプログラム 何処まで正確か… 俺自身が確かめてやるよ」
ヘクターがデスへ大剣を向ける
ザッツロードたちがリーザロッテの下に辿り着く リーザロッテが振り返って言う
「遅くてよっ!!休憩でもしてらしたのっ!?」
リーザロッテの言葉にソニヤが言い返す
「自分は戦わないくせに うるさいわよ!」
ソニヤの言葉にリーザロッテが怒って言う
「なんですってー!」
ザッツロードがソニヤへ言う
「ソニヤ!喧嘩は後にして魔法を頼む!」
ソニヤが怒りたい気持ちを我慢して魔法詠唱に入る リーザロッテがザッツロードへ言う
「ザッツロード王子!ここは任せるわ!」
リーザロッテの言葉にザッツロードが驚き振り返る リーザロッテが続けて言う
「あのプログラマーのモバイルPCが 洞窟の中にあるわ!あれを破壊すれば全て収まってよ!私とシャルで行くから 貴方方はこの魔物を何とかなさい!」
ザッツロードが頷いて言う
「出来るだけ 破壊はしないで下さい!」
ザッツロードの言葉にシャルロッテが言う
「は、はいっ 出来るだけっ やってみますっ!」
ザッツロードが剣を構えるソニヤの魔法がザッツロードの剣を魔法剣にする ザッツロードがレイトたちの下へ走って行く
無数の銃弾を避けながらロスラグが森の中を逃げ回る ロキがそれを追って銃を連射する ロスラグが走りながら左腕の機械を操作して透明な盾を作り それで銃弾を防ぎながら叫ぶ
「ロキ隊長!!目を覚まして下さいッス!!プログラムなんかに負けちゃだめッスよ!!」
ロスラグの盾に ロキの両手に持った銃の全弾が打ち込まれる 左腕の機械が容量を超えて爆発する ロスラグが悲鳴を上げて叫ぶ
「あー!!こ、壊れちゃったッス!!これじゃもう 避け切れないッスー!!」
ロスラグが怯えながらロキへ視線を向ける ロキが両手の銃の弾倉を交換してロスラグへ向ける ロスラグが慌てて逃げ出す ロキが追いかけて銃を放つ ロスラグが叫ぶ
「ロキ隊長!お願いッス!もうコレでもアレでも 何て呼ばれても良いッスから!目を覚まして下さいッスー!!」
ロスラグが逃げ回る ロキが銃を放つ ロスラグが行き止まりに追い込まれる ロスラグが焦って叫ぶ
「あー!!後方大ピンチッス!!常に後方には注意しろって 教わってたのに やっちまったッスー!!」
ロスラグが振り返る ロキが銃を構える ロスラグが叫ぶ
「ロキ隊長!嫌ッス!俺は、俺は… ロキ隊長に武器を向けるなんて 絶対出来ないッスよーー!!」
ロキが銃を発砲する ロスラグが咄嗟に犬の姿に戻って逃げる ロスラグが逃げながらロキを確認する ロキがロスラグを追って銃を放つ ロスラグが逃げ続ける ロキが追う
ロスラグが崖の切れ目を探して逃げるが やがて追い詰められる 追ってきたロキが銃を向ける ロスラグが怯えながら考える
『ロキ隊長を攻撃する位なら 俺がやられる方が100倍マシッス!けど…?けど その後どうなるッスか?あのヘボ勇者たちが ロキ隊長を殺すんスか!?あいつらがロキ隊長を!?』
ロスラグがロキを見上げる ロキが銃を向けたまま止まっている ロスラグが強く目を瞑って思う
『嫌ッス!あいつらにロキ隊長が殺されるなんて…っ あいつらに傷つけられる位なら!!』
ロスラグの耳にロキの銃の撃鉄が動く音が聞こえる ロスラグが走り出して思う
『ロキ隊長!ごめんなさいッス!!』
ロスラグがロキの首に噛み付く ロキが後方へ倒れる ロスラグがその力を強める ロキが正気に戻り痛みに悲鳴を上げる
「…ぐあっ」
『!』
ロスラグが慌てて離れる ロキが銃を手放し負傷した首筋を押さえる ロスラグが心配する
『ロキ隊長!!正気に戻ったッスか!?ロキ隊長!!ロキ隊長!!』
ロスラグが何度も名を呼ぶ ロキが言う
「…うるさい 何度も吠えるな」
ロキの言葉にロスラグが焦る
『あー!!そうだったッス!!今は言葉が通じないんだったッス!!でも良かったッス!ロキ隊長!目が覚めたッスね!?』
ロキが立ち上がり銃を拾いながら言う
「…何を言っているか分からん 黙っていろ」
ロスラグが悲しそうに視線を落とす
『わ… 分かりましたッス』
ロキが一度ロスラグを見下ろし 視線を逸らして言う
「…それと 助かった 礼を言う…」
ロスラグが驚いて顔を上げる ロキが続けて言う
「…死ぬほど 痛かったが…な」
ロスラグが慌てて謝る
『ご、ごご ごめんなさいッス!!ロキ隊長!い、痛かったッスよね?!ごめんなさいッス!!許して欲しいッス!!』
ロキが歩き出す ロスラグが慌てて付いて行きロキの顔を見上げて言う
『え!?ゆ、許せないぐらい痛かったッスか!?お、怒ってるッスか!?ロキ隊長!?ロキ隊長!!』
ロキが表情をしかめて言う
「…うるさいぞ 何を言っているか分からん」
ロスラグが焦る
『あー!!そうだったッス!!』
ロキとロスラグが歩いて行く
洞窟の中へやって来たリーザロッテとシャルロッテ シャルロッテが急いでモバイルPCを操作する リーザロッテが問う
「どうなの!?シャル!この機械を止められて!?」
シャルロッテがプログラムを確認して言う
「…駄目です 彼らのデータプログラムは 物凄く頑丈にプロテクトされていて 私ではこの防壁を破れません!」
リーザロッテが頷いて槍を構えて言う
「そう… それなら 仕方が無くってね?その機械を置いて退きなさいシャル!」
シャルロッテがリーザロッテを見上げて言う
「で、ででで でもっ こ、この機械には とても重要なデータや 役に立つプログラムが一杯でっ 壊してしまうのは も、勿体無いですっ!」
リーザロッテが怒って言う
「では どうしろと仰るの!?このままでは そのプログラムで ザッツロードの仲間や 私たちも やられてしまうかもしれなくてよ!?」
シャルロッテが叫ぶ
「す、少しだけっ ほ、ほほほんの少しだけ待って下さいっ 宝玉のデータや演算のプログラムをコピーしてからっ」
リーザロッテが一度 洞窟の出口へ視線を向けてから 再び戻して言う
「では 急ぎなさい!時間が無くってよ!?」
シャルロッテがタイピングをしながら頷いて言う
「はい!急ぎます!」
息を切らすザッツロードがソニヤから魔力を受け取り構える 後ろでソニヤが座り込んで言う
「も… もぉお無理~!一体どんだけ沸いてくるのよぉお!!」
ザッツロードが魔物を攻撃し 魔法剣の魔力が失われ 一度ソニヤを振り返り 視線を戻して言う
「ソニヤ!皆も頑張っているんだ 僕たちも 早く終らせて戻らないと!」
ソニヤがザッツロードの声に溜め息を付いて言う
「こっちは体力の限界だって言うのに~… リーザたちはまだなのぉ?」
ソニヤが言いながら立ち上がると 横にラナが来て言う
「そのリーザたちは何処へ行ったの?」
ラナの登場に驚いたソニヤが言う
「え?まさかヴェルを倒したの!?」
驚くソニヤにセーリアが来て言う
「ロキが正気に戻って 代わりに応戦してくれているわ」
セーリアの言葉に ザッツロードが振り返って問う
「ロキが?本当かい!?セーリア!」
ザッツロードの言葉にセーリアが頷いて言う
「ええ、ロスラグが助けてくれたそうよ」
セーリアが言い終えると 魔法詠唱を終らせたラナがザッツロードの剣へ魔法を放って言う
「私たちが手伝うから こっちを終らせて早く戻らないと」
セーリアが続けて言う
「ヘクターが…持たないわ」
セーリアの言葉にオライオンが驚いて振り返る 再び視線を前へ戻して叫ぶ
「シュライツ!これ以上もたもたしてられねー!飛ばすぜー!!」
シュライツが了承の声を上げる
ザッツロードたちが戻る ヴェルアロンスライツァーとロキと犬のロスラグが ヘクターの戦いを観戦している ザッツロードたちが来た事に気付いた2人と1匹が振り返る ソニヤが叫ぶ
「ちょっと!!何のん気に観戦してるのよ!?」
ソニヤの叫びにヴェルアロンスライツァーが答える
「ヘクターが 1人で戦わせて欲しいと」
ソニヤが続けて言う
「だったら こっちの支援に来てくれれば良いじゃない!?」
ソニヤの言葉にロキが答える
「…狩をしたせいで…弾切れだ」
ロキの隣の犬が焦った様子で吠える
「うっ わんっ わんっ!」『か、狩って言わないで欲しいッス!ロキ隊長!!』
ラナがヘクターの様子を見て言う
「ヘクターは体力の限界よ 対するデスは…」
セーリアが表情を哀しくして言う
「デスは… 悪魔力がある限り 疲れる事も無いわ」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「それでも ヘクターは最後まで戦うつもりだ」
ザッツロードがヘクターへ視線を向ける
ヘクターがデスの前で息を切らしている
ザッツロードがヴェルアロンスライツァーへ視線を戻して言う
「しかし、あの様子ではっ!」
ザッツロードたちの前で デスがヘクターへ大剣を振り下ろす ヘクターがそれを大剣で受け止めるがヘクターの剣が弾かれる オライオンが叫んで飛び込もうとする
「親父っ!」
オライオンが足を踏み出すと同時に ヘクターが叫ぶ
「来るな!邪魔するんじゃねー!」
ヘクターが叫びながら回避し 再び大剣を手にして構えるが体力が尽きて剣先を地に着けて荒い息をする デスが構える ヘクターが視線を上げて言う
「デス… そろそろ 終わりだぜ?お前のプログラムの評価も… っはは!決まったみてーだ!」
ヘクターが笑い 構えを解除して立つ デスが大剣を構え直し ヘクターへ向かって駆け出す オライオンが叫ぶ
「親父ー!!」
振り上げられたデスの大剣がヘクターを切り裂く しかし、その剣はヘクターの身体をすり抜け 数字の羅列になって消える デスの姿が元に戻り 勢いのままにヘクターの体にぶつかる デスの体にヘクターの大剣が突き刺さっている ザッツロードが声を出そうとして その言葉を飲み込み視線を逸らす ソニヤとラナが瞬きを忘れている セーリアが口へ手を当てる ヴェルアロンスライツァーとロキが肩を落とす ヘクターが言う
「デス… お前のプログラムは 完璧だよな… いつだって 俺以上に 俺の事分かっててよ… だから」
デスの体が後ろへ倒れる 剣が抜け その傷口から悪魔力の霧が噴出し 全ての悪魔力の霧が出て行った後 デスの身体をヘクターが受け止める ヘクターの大剣が地面に落ちる
ザッツロードたちが船の甲板に居る シャルロッテがデスのモバイルPCを持っていて言う
「この機械にある ヘクターさんのプログラムを探したんです、そしたら…」
シャルロッテが一度ヘクターへ視線を向ける ヘクターは甲板の床に座り込んでいる シャルロッテが再び視線を戻して続ける
「プログラムは途中で止まるように作られていたんです 凄い緻密な計算がされていて ヘクターさんの体力が切れるのと同時に 止まるように出来ていて…」
ソニヤが首を傾げて言う
「つまり、最初からヘクターと戦うつもりで そのプログラムが作ってあったって事?」
シャルロッテが顔を横に振って言う
「いえ、ヘクターさん本人と戦うからって訳ではなくて 本来はヘクターさんをサポートする為に 元となるヘクターさんのデータを取っていた訳なので」
シャルロッテの言葉にヘクターが立ち上がって続ける
「あいつは 俺の体力を越えちまうプログラムは作らねーんだ 限界を超えちまうと 俺に負担が掛かるからよ」
ヘクターの言葉に シャルロッテが頷いて言う
「はい、ヘクターさんの戦いを 止めさせる様に作られてました この停止コードはとても強力で… だから悪魔力の影響も 受け付けなかったみたいです」
ザッツロードがヘクターの移動に気付いて声を掛ける
「ヘクター?」
ヘクターが振り返らずに言う
「デスの計算通り、俺の体力は限界だ… 休ませて貰うぜ」
ヘクターが言い終えると共に 歩みを再開させて船室へ入って行く それを見送ったザッツロードがシャルロッテへ問う
「僕たちが知っている先代勇者達の記憶では 彼のモバイルPCも 彼が使用していた宝玉も 海岸近くにあったはずなんだけど」
シャルロッテがモバイルPCを見て言う
「まだ解析が 全然終っていないので 詳しくは分かりませんが デスさんはあの魔王に掴まって 皆さんから離されてから しばらくこの機械を使ってプログラムを続けていたみたいなんです 宝玉の力を増幅させるプログラムも組み直してありましたし、それからヘクターさんやロキさんやヴェルさん、皆さんのプログラムも少し追加してありました」
リーザロッテが腕組みをして言う
「あの悪魔力が立ち込める魔王の島で たった1人で 最後まで戦い続けるなんて…」
ザッツロードが頷いて言う
「本当に、世界一のプログラマーだね」
皆が悲しそうに微笑する 1人オライオンが険しい表情で言う
「『…だった』だろ?」
皆の視線がオライオンへ向く ザッツロードが声を掛ける
「オライオン…?」
オライオンがヘクターの大剣を持って言う
「『世界一の大剣使い』もそうだ、2人とも… もう居ねーんだ」
ザッツロードが疑問して言う
「オライオン、それは どう言う…」
オライオンが大剣を眺めて言う
「親父はもう戦わねー… アバロンの大剣使いのくせに… 相棒の亡骸抱いて 剣は置いて行った」
皆が視線を落とす シュライツがオライオンへ向く オライオンがシュライツへ向いて 一度苦笑してから言う
「これからは 俺たちが 頑張んねーとな?」
オライオンの言葉にシュライツが元気に声を上げる ザッツロードが苦笑して皆へ振り返り言う
「島の悪魔力の中和も、魔王の討伐も、ソイッド村の宝玉も、それから、彼のモバイルPCも… ヴィクトール陛下から頼まれた物は全て揃った、皆のお陰だよ、ありがとう」
皆が微笑む リーザロッテがそっぽを向いて言う
「別に 貴方の為にしたのではないのだから?御礼は必要無くってよ?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが苦笑する 離れたところでソニヤが言う
「素直に受け取っとけば良いのに」
ラナが答える
「あれがリーザの素直な受け取りなのよ」
セーリアが苦笑する ソニヤが呆れる ザッツロードが皆を見渡して言う
「皆も体力の限界だと思う 移動魔法で大陸へ戻るにしても 今は 僕たちも少し休もう」
皆が頷き 個々に散って行く
ザッツロードが船室へ入る 室内ではすでにヴェルアロンスライツァーとロキが眠りについている ロキのベッドの横に大きな犬が座りロキを見上げている ザッツロードが軽く笑って犬の横へ行く 気付いた犬が振り返る ザッツロードが腰を屈め犬を見下ろすと 犬が小さく唸る ザッツロードが苦笑して言う
「確か、宝玉を使えば元の姿に… ああ、人の姿に変身出来るんだったよね?」
言いながらザッツロードが宝玉を取り出し 確認してから犬へ視線を向ける 犬が宝玉を見てからロキへ視線を向け再び宝玉へ戻してからザッツロードを見上げる ザッツロードが微笑み 宝玉を犬へ向けて魔力を送る 宝玉が白く光る しかし何も起こらない ザッツロードが疑問して首を傾げて言う
「あ… あれ?」
犬が小さくほえる ザッツロードが苦笑して言う
「…もう一度」
言うと共に再び宝玉へ魔力を送る 宝玉が白く光る やはり何も起こらない ザッツロードが困った様子で言う
「あれ…?駄目みたいだ… なんでだろ?前回は ヴィクトール陛下に戻してもらったんだよね?」
ザッツロードが言って犬を見る 犬が頷く ザッツロードが首を傾げて考える 犬が小さく唸り普通の大きさで吠える
「ぅ~…わんっ!」
ザッツロードが驚き 犬も慌てる 眠っているロキが言う
「…うるさいぞ」
犬が焦ってロキへ向いて謝りたそうに鼻を鳴らす ザッツロードが謝罪の為に立ち上がりロキへ向いて言う
「あの、ごめんロキ ロスラグを戻してあげようと 思ったんだけ…ど…?」
しかしロキは眠っている ザッツロードがそれに気付いて首を傾げる ロキが寝返りを打って再び言う
「…何を 言っているのか… 分からん…」
ザッツロードが苦笑して言う
「っはは… 寝言… かな?」
言うと共に隣の犬へ視線を向ける 犬がうれしそうに尻尾を振っている ザッツロードが軽く笑って言う
「ロキも君と話をしたがっているみたいだし もう一度だけ試してみようか?」
ザッツロードの言葉に 犬が少し困った様子で声を出すが ザッツロードを見上げて了承する ザッツロードが微笑み 宝玉へ魔力を送る 宝玉が光ると共に犬の体が光り 間もなくロスラグが現れる ザッツロードが軽く笑って言う
「もしかして元の姿… いや、人の姿になりたくなかったのかい?」
ザッツロードの言葉に ロキへ向いていたロスラグがザッツロードを見てから 視線を逸らし 言い辛そうに言う
「その… 俺… ロキ隊長に 怪我させちゃったもんッスから…」
言葉を聞いたザッツロードが首を傾げて言う
「ロキを正気に戻す為に 仕方なかったんだろ?…むしろ感謝されると思うけど?」
ザッツロードの言葉にロスラグが一度視線を向け再び困った表情で言う
「け、けど… 俺はロキ隊長を傷付ける事なんて 絶対したくなかったんッス だから… しばらく反省してようかなって 思ってッスね…」
ロスラグの言葉にザッツロードが呆気に取られ 間を置いて苦笑してから言う
「ロスラグは優しいんだね?」
ザッツロードの言葉に ロスラグが驚き顔を赤くして慌てて言う
「お、お、俺たち先住民族は 狩以外で生き物を傷付けたらダメなんッスっ だからっ 仲間同士で傷付けるなんて ぜ、ぜぜぜっ 絶対っ 絶対ッスね…っ!?」
ロスラグの言動にザッツロードが苦笑して言う
「そうだね 不必要に命を傷付けるのは… 後住民族の僕たちだけだ…」
ザッツロードの言葉に ロスラグが驚いて止まる
「へ…?」
ザッツロードが移動してベッドに腰を下ろす ロスラグがその様子を目で追う ザッツロードが顔を上げ今も立っているロスラグを見上げて言う
「ロスラグ、君はどうしてそんなにロキやウェルの事を好きで居られるんだい?彼も僕たちも 後住民族は戦争やその他の事で 無意味に人を傷付けたり、他の生き物を傷付ける 君達先住民族から見たら…」
ザッツロードが途中からロスラグから視線を逸らして 床を見つめる ロスラグがザッツロードへ向けていた視線を 途中からロキへ移し 間を置いてから答える
「そうッスね… 後住民族の皆は いっぱい戦うし 一杯傷付けたりするッス でも… いっぱい戦って守ったりもするッス 大切な物を守るために戦って 大切な物を失って 泣いて… でも、また守る為に 立ち上がって戦うッスよ 俺たち先住民族は 失うのは仕方が無いって考えるッス 無くなっちゃうのは それは… そういう定めなんだって だから戦わないし、守らないし… 失った時は悲しくって立ち上がれなくなっちゃうッス」
ザッツロードが顔を上げてロスラグを見る ロスラグはロキを見下ろしていて微笑んでから ザッツロードへ向いて言う
「俺は ロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長みたいに強くなりたいッス 大切なものの為に戦ってっ 守って!失った時は… ちょっと落ち込んじゃうと思うッスけど…」
ロスラグが恥ずかしそうに頭を掻く ザッツロードが微笑んで言う
「なら、ロスラグは 先住民族の優しさと、後住民族の強さ その両方を持ってるんだね?」
ザッツロードの言葉にロスラグが顔を赤くして叫ぶ
「な…!?ま、ままま まだ!?まだ 持って無いッスよ!まだ 修行中ッス!!」
ロスラグが慌てて口を押さえ 眠っている2人を確認する ザッツロードも同様に確認してから微笑んで言う
「そうかな?きっと2人も認めてくれるよ 君は十分強いって たぶん2人に近い位」
ザッツロードの言葉にロスラグが軽く微笑んで2人を見て言う
「まだまだッスよ まだまだ… いや!俺はきっと ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長には 一生追い付けないと思うッス!…でも良いんッス 俺は ずっと2人を追っかけて行きたいッスよ!…だからっ!」
ロスラグが語尾を強める 聞き入っていたザッツロードが驚いて声を漏らす
「え!?」
ロスラグがロキの隣のベッドに潜り込んで言う
「俺も2人の後を追って寝るッス!ヘボ勇者もさっさと寝て 体力を回復するッスよ!」
ロスラグが早速眠りに着く ザッツロードが驚き呆気に取られたまま 間を置いて微笑む
一休みしたザッツロードたちが 甲板に集まっている ソニヤ、ラナ、セーリアの3人が移動魔法を確認し ソニヤが言う
「うん、3人で力を合わせれば 皆いっぺんにアバロンまで飛ばせそうよ!」
ソニヤの言葉にラナとセーリアが頷く ザッツロードが頷いてから周囲を見渡して言う
「うん、それでは、皆行こうか?」
ザッツロードの言葉に 周囲を見渡したリーザロッテが言う
「待ちなさい?ヘクターが居なくてよ?」
リーザロッテの言葉にオライオンが答える
「親父は この船で戻るつもりみてーだ、相棒も もう2度と 置いて行けねーだろうしな」
オライオンの言葉にロキとヴェルアロンスライツァーが視線を逸らす 一瞬表情を暗くしたザッツロードが 再び気を取り直して言う
「それじゃ、僕らだけで先にアバロンへ」
ザッツロードが言いかけると 話を聞いていたカイザJrが言う
「やれやれ、アバロンまでとは言わねぇけど、俺たちも船ごとヴィルトンまで飛ばして欲しいもんだぜ」
ザッツロードが苦笑して言う
「カイザJr、本当にありがとう、君が船を出してくれたお陰で 助かったよ」
ザッツロードの礼にカイザJrがぷいっと顔を逸らして言う
「だからっ そー言うのは 女の子に言ってもらいたいっての!」
カイザJrの言動にザッツロードが苦笑する そのザッツロードの後ろで女性たちが顔を見合わせ笑うと カイザJrの近くへ来て ソニヤが笑顔で言う
「ありがとっ!カイザJr!」
ラナが微笑んで言う
「助かったわ、カイザJr!」
セーリアが両手を胸に当てて言う
「やっぱり心強いわ!カイザJr」
リーザロッテが強気に言う
「最初から頼りにしてたのよ?カイザJr」
シャルロッテが恥ずかしがりながら言う
「わ、わわ私も 信じていましたっ!カイザJr」
皆の言葉に カイザJrが目を丸くして言葉を失った後 盛大に喜んで言う
「いやあ~~!まぁなんだ?いつだって頼っちゃって頂戴!なんちゃってな~~ぁ!?あーはははは」
オライオンの横に居たシュライツが カイザJrの前へ行って嬉しそうな声ではしゃぐ カイザJrが頷いて言う
「うんうん!いやぁ~下っ端天使様にも喜んでもらえるなら 俺も嬉しいぜ~~!え?チーズが?美味しかった?いやぁ~ なんのなんの~ あーはははは!」
ザッツロードがその様子に苦笑する
ソニヤ、ラナ、セーリアが移動魔法の詠唱を行い 皆がアバロンへ飛ぶ
【 アバロン帝国 】
上空に現れた皆が周囲の悪魔力の霧に声を上げる ソニヤが言う
「この霧!」
ラナが言う
「悪魔力の霧だわ」
セーリアが言う
「結界の島ほどでは無いけれど こんなに…っ」
ザッツロードが表情を険しくして言う
「城下町の門前に魔物の群れが!僕たちも戦おう!」
皆が頷く
ザッツロードたちが門前に降り立ち アバロン兵らが戦う魔物の群れへ攻撃を開始する 幾つかの群れを倒し さらに前の群れへ向かう ザッツロードがアバロン兵の指揮を執っている人物に気付いて名を呼ぶ
「バーネット陛下!」
呼ばれたバーネットが振り返って言う
「おう!戻ったな?!勇者様ご一行!」
ザッツロードたちがバーネットの下へ向かい言う
「僕らも戦います!」
ザッツロードの言葉にバーネットが魔物を倒しながら言う
「勿論だぜ!休んでる暇はねぇぞ~?!おらぁああ!!気合入れて突っ込めぇええ!!」
バーネットの指揮にアバロン兵とザッツロードたちが魔物の群れへ向かう
【 アバロン城 】
ザッツロードたちが玉座の間で待つ 間もなくバーネットが現れ玉座へ座る ザッツロードが一度正面の玉座を見てからバーネットへ問う
「バーネット陛下、ヴィクトール陛下は…?」
皆がザッツロードと同意見でバーネットへ視線を向ける バーネットが軽く笑って言う
「ああ、あいつは今ガルバディアに行ってる アバロン3番隊を引き連れてなぁ」
バーネットの言葉にオライオンが驚いて問う
「3番隊を!?まさかガルバディアを 襲うってーのかよ!?」
オライオンの言葉にバーネットが答える
「落ち着け、ガルバディアを 攻撃する訳じゃねぇよ、むしろ逆だ」
ザッツロードが問う
「逆…と言うと?」
ザッツロードの言葉にバーネットが口角を上げて言う
「過去の歴史の謝罪だってよ、ガルバディアへ溢れる悪魔力の処理をする為に行ったんだ お陰でアバロンの方もキツくてよ お前らが帰ってきてくれて助かったぜ」
バーネットが軽く溜め息を付く オライオンが詰め寄って問う
「あたりめーだろ!アバロン3番隊は アバロンの最強部隊だ!なんでそれを他国に使うんだよ!?しかもヴィクトール陛下まで!!」
オライオンの言葉にバーネットが怒り 鞭を床に叩き付けて叫ぶ
「んだと!?てめぇえ!!俺にこのアバロンを任されるのが 気に入らねぇえってーのかぁあ!?」
オライオンが焦って言う
「ち、ちちちちげぇーよ!そうじゃなくて!!」
オライオンがザッツロードを盾にする 盾にされたザッツロードが慌てる バーネットがザッツロードの前に立って凄んで言う
「どぉおなんた!?あぁあ!?」
ザッツロードが慌てて両手を自分の前で横に振って否定しながら言う
「ぼ、僕は何もっ!!き、きっと ヴィクトール皇帝陛下も バーネット第二皇帝陛下なら安心して アバロンを ま、任せると お、お思いになられたのだとっ!!」
ザッツロードの返答を聞いたバーネットが 軽く息を吐いて玉座へ戻って言う
「…まぁ、正直 俺はあんまり得意じゃねぇんだ、兵だってこのアバロンの民だからなぁ、そいつらを 戦場に出したかねぇんだよ」
ザッツロードが声を出さずに驚く 仲間たちも顔を見合わせて微笑する バーネットが玉座に身を静めながら続ける
「とは言え、今は他に雇える兵が居ねぇんだから 言ってらんねぇ …と、そこで 喜べ!丁度 良く帰ってきた お前らに指令だぜ?」
バーネットがにやりと笑ってザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが思わず言う
「…え?」
仲間たちも呆気に取られる バーネットが続けて言う
「バッツスクロイツの話によると 聖魔力を抜き出した魔力穴からの悪魔力は もうしばらく噴出するらしい、現在各国はその悪魔力の影響で増加してやがる魔物の対処に追われてる訳だが… 悪魔力が充満して動物が魔物化しちまうまでには 一定期間が掛かる、でもって 魔物化した後に同族で群れを作って他の生物を襲う 例外もあるがほとんど その順序は変わらねぇ …って事はだ?今回アバロンの周囲のそいつらは一掃されたんだ 次に群れを作って来やがるまでには しばらく時間が掛かるだろぉ?」
突然の指令にザッツロードが呆気に取られたまま 何とか返事を返す
「は、はい…?」
ザッツロードの返事を気にせずバーネットが続ける
「バッツスクロイツに命じて その各国の魔物の群れの様子が分かるプログラムを作らせた お陰で今回はアバロンに来る群れに先だって手を打てたんだ、次はガルバディアがやべぇって事も分かってる …でだ」
バーネットがザッツロードへ指差して言う
「今回、お前らにアバロン2番隊と4番隊の指揮権を与える 今すぐガルバディアへ向かい 先に防衛に当たっているヴィクトールと3番隊の援護に当たって来やがれ!」
過去に無い部隊指揮権の譲渡に戸惑い 理解できないザッツロードが呆気に取られて言う
「…え?ぼ、僕らに部隊の指揮権を!?」
バーネットがだるそうに言う
「そうだっつってんだろぉ?さっさと行って援護して来やがれ 魔物の群れがガルバディア城に到達するまで もうすぐだ、のんびりしてる時間はねぇんだよ 2番隊と4番隊には既に連絡してあるからよ おい!2番隊と4番隊の隊長は来てるか?」
バーネットの問いに衛兵が返事をして 両隊長を玉座の間へ通す ザッツロードたちが驚く 2人がザッツロードの下へ来て言う
「アバロン帝国2番隊隊長アルケイルです、勇者ザッツロード様と共に戦えるとの事 私も2番隊の隊員も喜んでいます」
アルケイルが敬礼する ザッツロードが焦って敬礼を返す アルケイルの隣に4番隊隊長が跪き言う
「同じく4番隊隊長のキリィです、魔王討伐の重任 お疲れ様で御座いました勇者ザッツロード様」
キリィが深々と敬礼する ザッツロードが焦って敬礼を返す ザッツロードの様子にバーネットが笑って言う
「はっはー、どぉしたよ?勇者殿?ローレシアでは部隊指揮を習わなかったのかぁ?それとも今更 勇者様扱いに慣れてねぇとでも言いやがるのかよ?」
バーネットの言葉にザッツロードが苦笑しながら頭を掻いて言う
「そ、そうですね どちらも…」
ザッツロードの返答にバーネットが軽く笑って言う
「なら、慣れてねぇってだけで 今のてめぇなら こなせる筈だ、ガルバディアの死守とヴィクトールの援護 頼んだぜぇ?」
バーネットの言葉にザッツロードが再び驚くが気を取り直し跪いて言う
「はい!バーネット第二皇帝陛下!ご命令の程、必ず成し遂げて参ります!」
バーネットが頷いて言う
「よし、期待してるぜ 勇者ザッツロード7世!」
ザッツロードが返事をし 2番隊4番隊の隊長と共にバーネットへ敬礼して立ち去る 仲間たちが呆気に取られながらもザッツロードに続いて玉座の間を後にする
玉座の間を出ると両部隊長がザッツロードへ言う
「それでは、我々はデネシア国を経由しガルバディア国へ向かいます」
「詳細はガルバディア城にてお伺い致します」
ザッツロードが2人に頷いて言う
「うん、僕らは移動魔法で先に向かい、ヴィクトール陛下と3番隊に連絡しておくよ」
両部隊長がザッツロードに敬礼し去って行く 間を置いてソニヤがザッツロードへ叫ぶ
「ちょ、ちょっと!どーするのよ!?」
ソニヤの言動にザッツロードが慌てて言う
「え?え…?」
ザッツロードが返答に困っていると リーザロッテが呆れて言う
「何を勝手に引き受けて 退散なさっていらっしゃるの?」
ザッツロードがリーザロッテへ向いて再び疑問の言葉を漏らす ラナが呆れて言う
「こちらの報告は一切しないで 新しい指示だけ貰って引き下がるなんて…」
ラナの言葉にザッツロードがそのままの表情で視線を向けて疑問する セーリアが苦笑したまま言う
「まぁまぁ?一応… 2番隊と4番隊の指揮権も頂いたのだし」
セーリアの言葉に救われたザッツロードが体勢を立て直して言う
「うん、それに 僕らが前回請け負った任務の内 バーネット陛下から頂いていたのは魔王討伐で、それを成し遂げた事は既に伝わっている訳だし」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが問う
「では、新たに与えられた任務については どうするおつもり?」
ザッツロードがリーザロッテへ向いて言う
「どう… と言われても?とりあえず、やってみるしか…」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが怒って言う
「それを どうやるのかと 伺っているのよ!?貴方は部隊を指揮した事が おありになって!?」
ザッツロードが驚いて言う
「え?いや… 私は無いですが リーザロッテ王女がお得意なので 私は それに倣(なら)おうかと」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが驚いて言う
「わ、私が!?な、何をおっしゃっているの!?私はそんな大事 出来なくてよ!?」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?いつもなさっているではありませんか!?」
リーザロッテが怒って言う
「仲間へ指示を送るのと 部隊を指揮するのは違ってよ!?あなたは綿密な策を練った 部隊編成が出来て!?」
ザッツロードが焦って言う
「え…いや…それは…」
ザッツロードがオライオンへ向いて言う
「オ、オライオン!君なら!」
オライオンが頭の後ろに両手を回して言う
「俺は3番隊の指揮なら取れっけど… 他は無理だぜ?2番隊とか4番隊とか~お堅い感じの部隊なんか特に無理だ」
オライオンの言葉にシュライツが肯定の奇声と共に頷いて見せる ザッツロードが驚いてロキへ向いて言う
「ロ、ロキ!君なら!」
ザッツロードの言葉にロキが隣のヴェルアロンスライツァーへ視線を向けて言う
「…俺は剣士の指揮を執った事は無い それならヴェルアロンスライツァーが適任だろう」
ザッツロードが言葉どおりにヴェルアロンスライツァーへ視線をずらす ヴェルアロンスライツァーが首を傾げて言う
「バーネット第二皇帝陛下は貴殿を任命されたのだ、私がそれを引き受ける事は出来かねる」
ザッツロードが焦って言う
「…バーネット陛下に期待して頂いたのに 失敗させる訳には… それなら、オライオン、ロキ、ヴェル、僕に指揮の執り方を教えてもらえないだろうか?」
名を呼ばれたメンバーが顔を見合わせ オライオンが言う
「俺は感覚で覚えたから 言葉で説明とか…無理だぜ」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「アバロンの部隊はローゼントの部隊との違いが大きい 大剣使いの部隊に長剣使いのものを使用するのは推奨しかねる」
ロキが考えて言う
「…俺が思うに アバロンの部隊は隣国ベネテクトの部隊と近い あのベネテクトのベーネット陛下のような指揮が執られる事が望ましいのだが」
ロキの言葉を聞いたソニヤが言う
「そういえばロキは前にベーネット陛下の指揮能力は凄いって言ってたわよね?」
ソニヤの言葉にラナが続ける
「そういえば 言ってたわね、指揮能力ってそんなに違う物なの?」
ラナの言葉にロキが頷く
「…たとえ同じ部隊を使ってでも指揮の執り方1つで勝つことも負ける事もある ベネテクトのベーネット陛下はスプローニとシュレイザー2国を相手にその半分以下の傭兵部隊で勝利したのだ その指揮能力の高さは言わずとも分かるだろう?」
ロスラグが驚いて言う
「自分達の倍以上の人数に向かって行くなんて… お、俺には出来ないッスよ!?」
リーザロッテが問う
「あら?貴方は自分の体の倍以上の魔王に立ち向かっていらしたじゃない?」
リーザロッテの言葉にロスラグが振り向いて言う
「そ、それは 竜族のあいつが助けてくれって言ってたッスし ロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長が一緒だったからッス!」
話を聞いていたレイトが言う
「うむ、自分の敬愛する隊長の下であれば 数や兵力に負けず立ち向かえるというのは 指揮官としての器量でもある」
ヴェインが続けて言う
「今回バーネット第二皇帝陛下がザッツロードへ部隊を任せたのも その点を配慮しての事かも知れんな」
ヴェインの言葉にロキが言う
「…そうであったとしても 結果的に失敗に終れば ザッツロードだけでなく 彼を推奨したバーネット第二皇帝の地位も 危険に晒されるだろう」
リーザロッテが腕組みをして言う
「そうね、何しろ用いる部隊はアバロン帝国の2番隊4番隊ですもの、両部隊が負けるような事になっては 第二皇帝なんてギリギリの称号はすぐに剥奪されるでしょうね?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが焦って言う
「そ、そんな大変な事を バーネット陛下は僕に!?」
ソニヤが不安気に言う
「ね、ねぇ?今からでも辞められないのかな?」
ラナが冷静に言う
「辞めるもなにも もう部隊はガルバディアへ向かってしまったのでしょう?」
セーリアが困りながら言う
「ま、まぁまぁ 部隊がガルバディア国まで辿り着くまで2~3日は掛かるわ、それまでに指揮を執れる方を探して習うとか…」
セーリアの言葉にリーザロッテが問う
「それで?どなたに教えを説いて頂くおつもり?」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「ではロキが推奨する ベーネット陛下に教えを説いた者へ 頼んではどうだろうか?」
ザッツロードが言う
「そ、そうか!ベーネット陛下も 誰かから指揮の執り方を教えて頂いたのだろうし それなら!」
リーザロッテが言う
「行くのなら急いだ方が宜しいのではなくて?時間は2~3日しか無くてよ?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが頷いて言う
「うん、急いで向かおう!」
仲間たちが少し呆れた様子で頷く
【 ベネテクト国 】
ベネテクト国の町へ移動魔法でやって来たザッツロードたち 人々に尋ねベーネットのもとへ向かう ザッツロードがベーネットへ説明して言う
「…と言う訳で お恥ずかしいお願いなのですが ベーネット陛下へ部隊指揮のご指導をされた方を 教えて頂きたく参りました」
ベーネットの前に跪き敬礼して言うザッツロード ベーネットが苦笑して言う
「それはまた、大変な目に会わされてしまっているようだね?心情を察するよ」
ベーネットの言葉にザッツロードが顔を上げ苦笑を返す それを見てベーネットが一度微笑み 改めて言う
「悪魔力の影響は 勿論このベネテクト国も受けている 故に私も余裕は無いのだが… 私の父の命で苦労を掛けさせられていると知った以上 無碍にも出来ない 指揮をするのが我がベネテクト国の友好国であるアバロン帝国の兵 と言う事もあるしね?」
ザッツロードが表情を明るめ敬礼を深くして礼を述べる
「お忙しい所 申し訳有りません」
ベーネットが頷いて言う
「うん ただ、残念な事に私にその部隊指揮の教えを説いた人物は 現在ベネテクト国に滞在していない そして、彼も今は君達に教えを説く事が難しい状態な筈だ」
ベーネットの言葉に ザッツロードが焦って顔を上げて言う
「そ、それでは…っ」
ベーネットがザッツロードの不安げな表情に微笑んで言う
「従って、私が伝授しよう、ザッツロード王子」
ベーネットの言葉にザッツロードとソニヤが同時に驚きの声を上げる
「「えぇええ!?」」
ザッツロードとソニヤの声にベーネットが笑って言う
「あっはははは、そんなに驚く事はないだろう?ザッツロード王子、君と私は地位も歳も そう変わらないと言うのに?」
ザッツロードが苦笑して言う
「…た、確かに年齢は同じぐらいだと思いますが 地位はベーネット陛下は国王で 私は第二王子ですし…」
ザッツロードの言葉にベーネットが軽く笑い首を傾げて言う
「まぁ、君は勇者ザッツロードでもあるからね、私よりもずっと上の存在かもしれないが?」
ザッツロードがベーネットの言葉を慌てて否定する
「い、いえっ!?そんな事は有りません!僕は勇者と言う称号を得てはいても… 実際にはただ仲間と共に旅をしているだけと言うか…」
ザッツロードが視線を落とす ベーネットが口角を上げて言う
「では、勇者として仲間を導く事に関しては十分だと言う事だね?」
ベーネットの問いにザッツロードが呆気に取られ 思わず声を漏らす
「…え?」
ザッツロードとベーネットの会話を聞いていた仲間たちが後ろでヒソヒソ話をする ラナが言う
「なんだか…ベーネット陛下って誰かに似てない?」
セーリアが苦笑して言う
「それはもちろん…」
ソニヤが言う
「親子なんだからバーネット陛下に似てるのは とーぜんじゃない?」
リーザロッテが言う
「容姿の問題ではなくてよ?」
ラナが頷いて言う
「ザッツを言い包める あの論舌も血筋なのかしら?」
セーリアが苦笑して言う
「ま、まぁ… 悪い様には 包められていないのだから…」
リーザロッテが言う
「どちらにも 包む事が出来るのかも 知れなくてよ?」
ソニヤが入って言う
「そ~言われてみると確かに… あれで鞭を持ってたら そのまんま~」
リーザロッテが言う
「だから容姿の問題ではなくってよ!?」
ベーネットがザッツロードへ言う
「期限は2~3日か… では早速始めようか?」
ザッツロードが焦りながら言う
「は、はいっ!宜しく御 鞭撻 を お願いします」
ザッツロードの言葉に ソニヤが驚いてリーザロッテへ視線を向ける リーザロッテが焦って言う
「その 鞭撻 ではなくってよ!」
シャルロッテが顔を赤くして言う
「そ、そそそっ そちらのっ 鞭撻だったらっ た、大変ですぅ~!」
レイトとヴェインが苦笑している その他のメンバーが呆れている
ザッツロードがベーネットから部隊指揮を教わっている 椅子に座り机に向かうザッツロード ベーネットがその横に立ちザッツロードへ問う
「では次、敵部隊に魔法を扱う者が確認された場合は?」
ザッツロードが本をめくりながら焦って答える
「え、えっと… 敵部隊の魔力者の大体の人数を確認し、2つの選択肢から良策を選び」
ベーネットが机を叩いて怒る
「違う!先程も言った筈だ!まずは先行する味方部隊に 魔力に対応する者が居るかどうかの確認だ!敵魔力者の数を確認している余裕など無い!」
ザッツロードが焦って謝る
「す、すみませんっ!そうでしたっ!!」
ベーネットが気を取り直して場所を移動しながら問う
「では、先行する部隊から 目前の敵部隊を撃破したと 連絡を受けた場合は?」
ザッツロードが慌てて本のページをめくり答える
「は、はい、その場合はっ 他の部隊の状況を確認し、他の部隊への振り分けを…」
ベーネットが再び机を叩いて怒る
「違う!先行部隊は振り分けてはいけない!…何度言ったら覚えやがるんだあ!?てめぇえはあぁあ!!」
ベーネットがハッとして口を押さえて背を向ける ザッツロードが一瞬 理解出来ずに間を置いてから顔を向ける 赤面したベーネットが言う
「…い、今のは …聞かなかった 事に…」
ザッツロードが苦笑して言う
「え?ああ、はは… いえ?気にしないで下さい 全然 違和感無かった ですから?」
ザッツロードの言葉にベーネットが机を叩き怒って言う
「んだと!?てめぇええ!!」
ザッツロードが驚き 怒られている理由が分からずに焦る 後方で仲間たちが苦笑している
【 ガルバディア国 】
ザッツロードと仲間たちが移動魔法でガルバディア国へ向かう ガルバディア城に辿り着いたザッツロードたち 城門に立つアバロン兵がザッツロードたちに気付いて声を掛ける
「勇者ザッツロード、ヴィクトール皇帝陛下が ガルバディア城内にて 貴殿方をお待ちだ」
ザッツロードが頷き礼を言って 仲間と共に城内へ向かう 玉座の間の手前にある広い空間に入る ソニヤが驚いて声を上げる
「え!?ザッツ見てあそこ!」
ザッツロードが顔を向ける アバロン3番隊と共に階段に腰を下ろしたヴィクトールが ザッツロードたちに気付き顔を上げ微笑む ザッツロードたちが驚いて駆け寄り ザッツロードが問う
「ヴィ、ヴィクトール皇帝陛下!一体何故こんな所に!?」
ザッツロードの問いにヴィクトールが笑って言う
「ああ、貴公も知っての通り アバロンはガルバディアとの友好に一度大きな傷を作ってしまっている 故に ガルバディア国王には歓迎して頂けなかったのだ …とは言え、外界の吹雪から身を守るため城を開放して頂けた、私自身は 十分な優遇を頂けていると思っている」
リーザロッテが前へ出て言う
「し、しかし 他国の… それも帝国の皇帝陛下を 通路に滞在させるだなんて 信じられませんわ」
リーザロッテの言葉にザッツロードが頷きヴィクトールへ向いて言う
「ヴィクトール皇帝陛下、我々はバーネット第二皇帝陛下から、ガルバディア国の防衛を命じられました、間もなくアバロン帝国2番隊及び4番隊が到着します ここは我々へ任せ どうかヴィクトール皇帝陛下はアバロンへお戻り下さい」
ヴィクトールが顔を横に振って言う
「貴公らの心遣いには感謝する、だが 私は戻る訳には行かない 私はアバロンの王として ガルバディアの王と約束をしたのだ 今度こそ、ガルバディアの危機を 我々の援護を持ってして共に乗り越えると」
ザッツロードが問う
「しかし、その援護を行うアバロンの者への この扱いは」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが言う
「ガルバディア国王は 我々を信じて下されてはいないのだ しかし ならばこそ 果たさねばならない」
ヴィクトールが立ち上がって言う
「バーネットから連絡を受けていた、貴公らの助力を歓迎する ガルバディアはこの危機を 戦うつもりが無いらしいのだ いかにアバロン最強の3番隊とはいえ 一個部隊でこのガルバディア全てを守るのは難しかった 貴公の指揮する部隊は間もなく到着する筈だ 何か策を考えてあるのなら 先に聞いておこう」
ヴィクトールの言葉に戸惑うザッツロード
「え… えっと…」
ソニヤが背中を突いて言う
「ほら!ザッツ!ベーネット陛下に教えてもらったでしょ!」
ラナが続けて言う
「さっきベネテクト国から移動魔法で飛んだ時、ガルバディアの周囲の地形も見えたじゃない」
セーリアが微笑んで言う
「あの地形の感じだと やっぱり最初の部隊編成はパターンBになるのかしら?」
リーザロッテが片手を腰に置いて言う
「西側には川があってよ?パターンBでは西側に無駄が出てしまうのではなくて?」
レイトが考える様子で言う
「しかし、今回の相手はこのガルバディア周囲に生きる原生生物 となると水の近くには相応の生き物が居る可能性も…」
ヴェインが言う
「全体の様子を確認するまでのパターンAから入るのも策だとベーネット陛下は仰っていた」
ロイが言う
「…それは最悪 何も分からない場合の策だ、今回は地形と気象情報は得ている」
シャルロッテが言う
「わ、わわわ 私のデータによるとっ この吹雪はっ ああ、あと3日は止まないとっ」
ロキが出入り口へ視線を向けて言う
「…敵の数が分からず、気象状況がこちらに不利な場合は 城を使いこちらの不利を減らすのも手だな」
ヴェルアロンスライツァーが目を閉じて考えて言う
「この城の防御力を考慮すると 武器を扱わない魔物程度なら十分に対応出来るだろう」
仲間たちの言葉へ視線を向けていたザッツロードへ ヴィクトールが顔を向けて問う
「それで、貴公はどの策を取るつもりなのだ?」
ヴィクトールの問いにザッツロードがギクッと身を震わせてから考える
ザッツロードの選んだ策にヴィクトールが頷いて言う
「そうか、確かにその策もあるかもしれない 私の知るものとは多少離れている気もするが バーネットが貴公らへ与えた部隊だ 私も貴公らへ一任しよう」
ソニヤがザッツロードへ問う
「ね、ねぇ?この際やっぱりヴィクトール陛下へお願いしちゃうって言うのも…」
ラナが腕組みをして言う
「確かに、2~3日で覚えた知識だけでは心配ではあるわよね」
リーザロッテが言う
「でも、いつかはザッツロード王子も 王族として部隊を率いて指揮を執る日が 来るかもしれなくてよ?」
レイトが考える姿で言う
「第二王子であれば 戦場へ赴く可能性も十分にありえる 少々強引ではあるが これがザッツロード王子の 初の舞台となるか…?」
ロキが言う
「…部隊指揮は回数をこなす事も重要だ その中には成功も失敗もあるだろう」
ヴェルアロンスライツァーが目を瞑って考えながら言う
「失敗の数だけ重みが増す…その重責に耐え切れなくなる者が多い事も事実だ」
皆の意見を聞いてソニヤがもう一度問う
「ねぇ?ザッツ、本当に良いの?」
ラナが言う
「まだ時間があるから 策を練りなおす事も可能よ」
ヴィクトールがザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが言う
「この策で、行きます」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが頷いて言う
「分かった、では偵察部隊から連絡が来るまで 待機しておいてくれ」
終戦
無事 魔物の群れを撃破したザッツロードたちとヴィクトール ガルバディア城の玉座の前に立ち ヴィクトールが敬礼する ザッツロードが後方へ跪きヴィクトールが言う
「ガルバディア国王、ガルバディア城周囲の魔物は全て撃破した 我々の調べによると 現在立ち込めている悪魔力が落ち着くまでに 恐らく後1、2回は群れを成した 魔物の襲撃があるものと予測されている 我々は次の襲撃を確認次第 再びこの地へ参る」
ヴィクトールの声が響く ザッツロードが顔を上げて玉座を見る 玉座には誰も居ない ザッツロードがヴィクトールを見上げる ヴィクトールが続ける
「…我らアバロンの民が 次の時も必ず このガルバディアを守る事を 約束する」
ヴィクトールが誰も居ない玉座へ言い終えると アバロン式の敬礼をして立ち去ろうとする ザッツロードも慌てて敬礼し 立ち上がりヴィクトールの後を追う 玉座の方から声がする
『…次は 不要だ』
ヴィクトールが立ち止まり ザッツロードが後ろを振り返る 玉座の前にホログラムのガルバディア国王が居る ザッツロードが驚く ザッツロードの横をヴィクトールが過ぎ ヴィクトールが問う
「不要とは?」
ヴィクトールの前で ガルバディア国王が言う
『そのままの意味だ ガルバディアの防衛は もはや必要ない』
ヴィクトールが表情をしかめる ザッツロードがヴィクトールの隣へ来て ガルバディア国王へ問う
「自国の兵のみで 防衛が可能だと言う事でしょうか?」
ザッツロードの言葉に ヴィクトールがザッツロードへ視線を向けて言う
「そうでは無いのだ、ザッツロード王子 ガルバディアにはもう…」
ヴィクトールの言葉をガルバディア国王が続ける
『我が国は 既にその幕を下ろした ガルバディアは 滅んだのだ』
ザッツロードが驚き ヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが一度目を閉じ再び開くと ガルバディア国王へ強い意志を向けて言う
「貴公はまだ生存している!ガルバディア国王 他にも ガルバディアの民がっ 貴公と共に このガルバディアの地に!」
ヴィクトールの言葉に ガルバディア国王が顔を横に振って言う
『残されたガルバディアの民は 私を含め たったの3人…』
ガルバディア国王が言うと ガルバディア国王の両脇に2人のガルバディア人のホログラムが現れる ザッツロードが驚く ヴィクトールが苦渋の表情を見せる ガルバディア国王が続ける
『…その我らも 遺伝子の複製を続けてきただけの存在 これ以上 生存する理由も無い …最後にお前との友好を 回復する事が出来た アバロン帝国皇帝ヴィクトール13世 ガルバディアとアバロンの絆は 再び お前の手により 紡がれた』
ガルバディア国王の言葉にヴィクトールが言う
「ならば!共に生きるべきだ!たとえ数人であろうとも!たとえ複製であろうとも!貴公らが生存する限り ガルバディア国は滅ばない!我らアバロンと共に ガルバディア国を再建するのだ!」
ヴィクトールの言葉に ガルバディア国王が微笑んで言う
『…フフ 変わらないな アバロンの王 …我々は複製であるが為に 変わる事は無い そして …お前達は アバロンの民である限り 変わる事が 無いのかも知れない …お前達の その強い想いが 我々の幻想を現実とする とても懐かしい …我らの力』
ガルバディア国王の言葉に ザッツロードとヴィクトールが表情を明るめる ザッツロードが思わず言葉を発する
「それでは!ガルバディア国王陛下!」
ガルバディア国王が軽く頷いて言う
『我々に残された時間は少ない… しかし、その我らにも 何かを成し遂げる事が 出来るのかもしれない …アバロンの王 ヴィクトール13世 ガルバディアは いつでもアバロンへ 力を貸そう』
ザッツロードがヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが頷き言う
「ガルバディア国王!我らの友好はもう2度と 閉ざされる事は無い この剣に誓う!」
ヴィクトールが言うと共に剣を引き抜き 片手に構える ガルバディア国王が頷くと ヴィクトールの持つ剣にプログラムによる数字の羅列が現れ雷が纏う
【 アバロン城 】
アバロン城玉座の間 ザッツロードがヴィクトールとバーネットの前で跪く ヴィクトールが言う
「勇者ザッツロード そして仲間たち、結界の島での働きと共に アバロン、ガルバディア 両国防衛への支援 ご苦労だった」
ザッツロードが敬礼する ヴィクトールが続ける
「貴公から預かった 結界の島から持ち帰ったソイッド村の宝玉は その聖魔力の大半を使い切ってはいるものの 宝玉としての機能は失われてはおらず 再び使用が可能との事だ 貴重な宝玉が 1つでも無事であった事は大きい そして、共に持ち帰られた 宝玉の防人となったプログラマーが使用していた機械も バッツスクロイツにより宝玉に関わる情報とプログラムを解析している状態だ 彼の知識を持ってしても 分かりかねる部分が多くあるそうだが、ガルバディア国王の助力を得る事により それらも近く解明されるだろう」
ヴィクトールの言葉にザッツロードたちが表情を明るめる ヴィクトールが微笑んで言う
「貴公らの働きは このアバロンはもちろん 今や世界を救う力となっている」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが敬礼して言う
「お褒めの言葉 光栄です ヴィクトール皇帝陛下」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが微笑んで頷く ザッツロードの仲間たちが顔を見合わせて微笑む バーネットがにやりと笑って言う
「…と、そ こ で だ!」
バーネットの言葉にザッツロードが驚いて顔を向けて言う
「え!?」
ザッツロードと共に仲間たちもバーネットへ視線を向ける バーネットが笑みを湛えたまま ザッツロードを見下ろして言う
「その優秀なお前たちに 引き続き指令を与えてやる …光栄だろぉ?」
バーネットの言動に ザッツロードが苦笑しながら頷く
「は、はい… 光栄です… バーネット第二皇帝陛下」
ザッツロードの仲間たちが呆れた表情で顔を見合わせる 遠くでヴィクトールが苦笑している バーネットが体勢を戻して言う
「優秀なお前らの仲間の 優秀なバッツスクロイツへ命じて 各国の悪魔力の濃度を把握するプログラムを作らせた 悪魔力が噴出しているのは 結界の島と共に、聖魔力を失った魔力穴からだ だから当初はそれらを中心に 周囲の悪魔力濃度が 高まるものだと思われていたんだが、確認した所 悪魔力の濃度が移動している事が分かった まぁ、理由は簡単だ、お前らも知っての通り 強い悪魔力はその成分が黒い霧状になる あの島を覆っていた悪魔力みてぇにな」
ザッツロードたちが表情を険しくする バーネットが続ける
「その悪魔力の霧が、風に乗ってこの大陸を移動しちまうんだそうだ 空の風やら海の風やら 魔力穴から噴出する悪魔力のその物にも影響を受けてな その結果 現在この大陸に充満している悪魔力の濃度は 南東に固まりその影響が強く出ている 既に大陸南東の国 シュレイザー国とスプローニ国へは警戒を強めさせているんだが この悪魔力の濃度は 相当な物になるらしい 恐らく結界が張られていた頃の あの島の濃度に近づくだろうって程だ」
バーネットの言葉にザッツロードが衝撃を受けて言う
「ではっ あの島に居た魔物ほどの 強い力を持った魔物の群れが シュレイザー国とスプローニ国に!?」
ヴェルアロンスライツァーとリーザロッテ、ロキ、ロスラグ、ロイが驚き ザッツロードの言葉にバーネットが続ける
「だろうな、悪魔力による魔物化の方も詳しく調べさせた所 今回の両国の悪魔力の濃度は 人さえも 魔物化しちまう可能性があるって話だ」
リーザロッテが思わず声を上げる
「そんな!シュレイザー国には お母様がいらっしゃるのに!!」
リーザロッテに皆の視線が向き バーネットが話を続ける
「先手は打ってある 悪魔力の濃度を出来るだけ正確に計らせ 魔物化が起きちまいそうな濃度の時には 宝玉の聖魔力を使って町に結界を張り 濃度が弱まるまでやり過ごす この結界のプログラムは あの先代勇者たちのプログラマーが作った物をそのまま逆利用している 島の悪魔力が外へ行くのを押さえた様に 今度は外からの悪魔力が町の中へ入らない様にしてるってぇ訳だ」
ザッツロードが焦って言う
「しかしそれでは!町を守っていられる時間は 宝玉に蓄積されている聖魔力が無くなるまでの僅かな間しか持ちません」
焦るザッツロードへバーネットが苦笑して言う
「安心しろ まぁ俺も最初はてめぇと同じ考えで締め上げたんだが、バッツスクロイツはあー見えて ちゃぁんと計算してやがった この強い悪魔力の影響は後半年ほどで収まる 宝玉の聖魔力は それを乗り切るのに十分な力が残されている」
バーネットの言葉にザッツロードを含めた皆が肩の力を抜く バーネットが続ける
「だが、問題もある その悪魔力の濃度が高い内に 野生の原生生物や 町の外に出ちまってた奴なんかは 魔物化しちまうんだ 折角悪魔力をやりすごしても 後に そいつらに町や城を潰されちまっては元も子もねぇ …と、そこで お前らの出番だ」
バーネットの言葉にザッツロードが頷いて言う
「はい!悪魔力によって魔物化した生物から 町や城を守る援護ですね!」
バーネットが頷いて言う
「ああ、他の国にもこれらの情報は送ってある 従って その国や他国の部隊と合同になる事もあるだろう そん時は てめぇらに指揮権が来る筈だ ガルバディアでの活躍は聞いてる 問題はねぇよなぁ?」
バーネットの問いにザッツロードが苦笑して言う
「あ…は…はい、たぶん」
ザッツロードの返答に バーネットが首を傾げて言う
「あぁ?!何だよその『たぶん』ってのは?ベーネットから部隊指揮戦術を 教わったんじゃねぇのかよ!?」
ザッツロードが驚いて言う
「えぇえ!?な、何故その事を バーネット陛下が?!」
バーネットが笑って言う
「何でも何もねぇだろ?あいつから連絡があったんだよ『勇者ザッツロード殿にあまり無理を言うな』ってな?それから 俺に教わった部隊指揮戦術を伝えておいたってよ?」
ザッツロードが驚きつつ何とか声にする
「…えっ?…えっ?!そ、それではっ ベーネット陛下に部隊指揮を指導した方 と言うのはっ!?」
バーネットが首を傾げて笑って言う
「俺に決まってんだろ?国を守るための部隊指揮戦術だぜ?国を維持した国王から 次の国王へ継がれるのが当然だ」
ザッツロードが言葉を失う ソニヤが仲間たちへ言う
「だからベーネット陛下の教え方が バーネット陛下っぽかったのね?」
セーリアが苦笑しながら言う
「教える側のベーネット陛下の言葉使いも 当時教えていたバーネット陛下と 同じになってしまったのでしょうね?」
ラナが首を傾げて言う
「それかベーネット陛下の本性も やっぱりあの感じなのかもしれないわ」
リーザロッテが力を入れて言う
「さあ、急いでシュレイザー国へ向かうわよ!」
バーネットが言う
「悪魔力の濃度が高い時に行っても戦えねぇ 詳しい状況をバッツスクロイツに確認して 必要な時に必要な場所へ行って戦って来やがれ 全てお前らの判断に任せる」
ザッツロードが敬礼して返事をする
「はい、分かりました!」
兵の案内を受けてバッツスクロイツの下へ向かうザッツロードたち ロスラグが言う
「バーネット陛下ってすっげー人使い荒いッスよねー 俺ら、さっきガルバディアから帰ったばっかりッスよー?」
ロスラグの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「まぁ、それだけ僕らを信頼して下さっていると言う事だから 光栄に思うべきだよ」
ザッツロードの言葉にソニヤが続ける
「でも ホントに次から次によ?バーネット陛下って もしかして 私たちが帰ってくる前から 次にやらせる事を考えてるのかな?」
リーザロッテが答える
「それは勿論そうに決まっていてよ?私たち以外の者への指示も 考えていらしてよ?」
ロキが言う
「…全体を見定め 的確に詳細な指示を出す、かのベーネット国王の指揮能力からしても その師であるバーネット第二皇帝の指揮能力の高さは歴然だ」
ソニヤが言う
「見た目は 全然そんな感じしないのにねー?」
ザッツロードが想像して言う
「た…確かに 少し豪快な感じだね でも とても明晰で的確な指示を送って下さる 凄い方だと思うよ」
ラナが言う
「そうよね、魔物の移動が分かるプログラムを作らせたり、悪魔力の濃度を調べるプログラムを作らせたり…次々新しい指示を考えられるんだから」
リーザロッテが考えながら言う
「次々考えられるんだから 次々指示も出せるのでしょうね?」
ロスラグが呆れた様子で言う
「次々やらせる すげー人使いの荒い人って事ッスー、」
ザッツロードたちが苦笑する 兵が立ち止まり軽く苦笑して扉を示す
「バッツスクロイツ殿はこちらで作業をなさっています」
ザッツロードが頷いて言う
「分かった、有難う」
兵が下がりザッツロードが扉をノックして声を掛ける
「バッツ、僕らだ、入っても良いかな?」
ザッツロードが言いながら扉の取っ手に手を乗せる その瞬間 扉が大きく開かれバッツスクロイツが飛び出して来て言う
「ザッツー!!もぉおー まじ助けて!!バーネっちの 人使いの荒さ 半端ないよぉおおーー!!」
バッツスクロイツがザッツロードの肩で泣く ザッツロードが苦笑する 兵を含め皆が苦笑の表情を作る ロスラグが言う
「やっぱりッス」
ザッツロードたちがバッツスクロイツの部屋に入る 周囲はコンピュータ類や紙資料が乱雑に置かれている バッツスクロイツが大きなモニターへ大陸地図を映し 紙資料を片手に説明する
「今 大陸を移動してる悪魔力の霧はー バーネっちにも伝えてある この南東の辺りに固まっちゃってるー これは先日結界の島へ強い聖魔力を送った時の反動と 丁度時期が重なった嵐の影響もあっ ちゃってねー 島からの反動までは計算に入れてたんだけど 気象情報ってのは盲点だったんだよねー」
バッツスクロイツが頭を掻きながら 紙資料をめくって言う
「こっちの大陸は 俺が住んでた世界とは違って 常に風が吹いてるもんだから 嵐やらナンやらと重なると凄い影響が出ちゃってさー 過去の資料も交えて計算すると大体…」
ザッツロードが苦笑している バッツスクロイツの話をロスラグが切って言う
「バッツ、そんな難しい話は良いッスよ!俺たちは魔物退治に行くだけッス!」
ロスラグの言葉にバッツスクロイツが資料から顔を上げて言う
「あらー?そーなの?俺はてっきりバーネっちが 説明途中で爆睡した部分の確認に来たのかと」
ザッツロードが苦笑して言う
「はは… いや、うん、ロスラグの言う通りなんだ、それで スプローニ国とシュレイザー国の」
ロキが現れて言う
「…スプローニ国の状況報告を頼む」
リーザロッテが割り込んで言う
「いいえ!お母様がいらっしゃるシュレイザー国が先だわ!」
ロスラグが割り込んで言う
「違うッス!ロキ隊長と俺と ついでにロイの故郷の スプローニ国が先ッス!」
ほぼ同時にヴェルアロンスライツァーが現れて言う
「いや、先にアンネローゼ様がご滞在の シュレイザー国の状況報告を依頼したい」
バッツスクロイツが呆気に取られて言う
「え…?…え?」
ザッツロードが困り苦笑で言う
「えっと… 両方の説明を頼むよ」
バッツスクロイツがモニターに悪魔力の分布映像を現して説明する
「今はどっちの国にも強い悪魔力が滞留してるから 町の中へ ばびゅーんと突っ込む分には問題ないけど 結界がされていない町の外へは出ちゃ駄目だぜ?でもって、先に悪魔力の滞留が薄れるのはシュレイザー国の方だ スプローニ国の方はその半日から1日後だと思う 魔物の群れの動きも分かるから 詳しく分かったら連絡するし、先に行くんだったら 行っちゃってもオーケーだけど?」
説明を聞いたヴェルアロンスライツァーが言う
「なるべく早く入国し、その国の部隊との連携を取っておいた方が良いだろう」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、それでは まずシュレイザー国へ向かおう バッツ、他にも何かあったら連絡を頼む」
バッツスクロイツが疲れた様子で言う
「それじゃー バーネっちに また新しいプログラム作れって脅されたら 助けに来てくれるー?」
ザッツロードがバッツスクロイツの言葉に苦笑して言う
「いやぁ…それは無理…かな?はは…」
バッツスクロイツが泣きながら言う
「もぉおー俺 過労死すんぜんーー!!…とー まぁ暇すぎて死にそうだった 昔に比べたら やり甲斐はあるけどねー?」
バッツスクロイツがにやりと笑う ロスラグが呆れて言う
「やっぱり バッツは 変な奴ッス」
【 シュレイザー国 】
シュレイザー城 玉座の間 玉座に座るアンネローゼの前に跪くザッツロードと後方のヴェルアロンスライツァーとリーザロッテ アンネローゼが言う
「アバロン帝国のバーネット第二皇帝陛下から連絡を受けています 勇者ザッツロードとお仲間の方々、そして リーザとヴェルアロンスライツァーも 良く来てくれました」
ザッツロードとヴェルアロンスライツァーが敬礼を深くする リーザロッテが言う
「お母様、シュレイザー国は私たちが死守いたしますわ どうか御安心下さい!」
リーザロッテの言葉にアンネローゼが微笑み頷いてから静かに言う
「このシュレイザー国は 古くから余り戦を得意としない国でした 現在でも他国から兵をお借りし、何とか凌いでいる状況です 貴方方が援護に来て下さると聞いて とても心強く思っていました 勇者ザッツロード殿はその部隊指揮能力も 優れたものをお持ちだとか どうか我が国の部隊を引き連れ 間もなく訪れるであろう修羅の時から このシュレイザー国をお守り下さい」
ザッツロードが人知れず冷や汗を掻きながら敬礼を深くして言う
「は、はい、おまか」
ザッツロードの言葉を制してリーザロッテが言う
「お任せ下さい お母様!彼の指揮能力に加え 私たちが付いておりますわ!」
リーザロッテの勢いにザッツロードが焦りつつ敬礼を維持する アンネローゼが微笑んで言う
「この国の民は その多くが先住民族です、したがって国兵も先住民族が多く 敵に近づいての攻撃が苦手な者が多いです 彼らには弓矢などを持たせ 後方支援を軸として 戦陣へ向かわせると良いと思われます そして、他国からの兵が到着次第 貴方方の下へ向かう様伝えます それまで何とか持ち堪えて下さい」
アンネローゼの言葉にザッツロードが返事をする
「はい、貴重な助言を有難う御座います」
玉座の間を後にしたザッツロードたち ソニヤが言う
「シュレイザー国は先住民族が多いのね?」
ロスラグが言う
「そうッスね、ネズミの先住民族は他の先住民族と比べて数が多いッスよ」
ラナが呆れ顔で言う
「さすがはネズミよね…」
セーリアが苦笑して言う
「そ、そうね…」
リーザロッテが怒って言う
「数が多ければ良いってものでは無くてよ!お母様も言ってらしたでしょ?シュレイザー国の兵は戦が苦手だって言うじゃない!」
ヴェインが言う
「まぁ…ネズミでは戦は苦手であろうな」
ヴェルアロンスライツァーが沈黙している ロキが気付いて声を掛ける
「…この様な国では アンネローゼ女王も 安堵(あんど)は出来まい」
ロキの言葉に皆の視線がロキへ向き そのロキの視線の先にいるヴェルアロンスライツァーへ行く リーザロッテが言う
「だからこそ 早く勇者の任務を終え お母様をツヴァイザー国へ戻せるよう ヴィクトール皇帝陛下へ打診しなければいけないわ!」
ソニヤが首を傾げて言う
「アンネローゼ女王はシュレイザー国の女王になったんでしょ?何でツヴァイザー国へ戻る必要があるのよ?」
ソニヤの言葉にリーザロッテが焦って言う
「お、お母様だってきっとヴィクトール皇帝陛下のご指示の下 仕方なくシュレイザー国の女王を引き受けたに決まってるわ!こんな自国の国防も出来ない国に お母様を御滞在させるなんて 私だって安堵できなくてよ!」
セーリアが言う
「そのお陰なのかしら?アンネローゼ女王は戦術にもお詳しい様子だったわね」
セーリアの言葉にヴェルアロンスライツァーが言う
「アンネローゼ様はローゼント国の王女であらされた頃から つね日頃、兵の為を思い 戦術の御指導をされていたのだ」
ザッツロードが感心して言う
「へぇー女性でありながら 兵のために戦術を学ばれるなんて 凄い方だね」
リーザロッテが微笑んで言う
「ええ!お母様は兵や民の為にたくさんの事を学ばれてよ!…だからこそ!こんな危険な国には御滞在して頂きたく無いのよ!」
ラナが呆れて言う
「だからこそ 滞在してるんじゃ無いの?」
リーザロッテがラナへ怒りラナが無視する 皆が苦笑する ヴェルアロンスライツァーが沈黙している それを無言で確認するロキ ロスラグが二人の様子に疑問する
宿にて 部屋で椅子に座り剣の手入れをしているザッツロードのもとにヴェルアロンスライツァーがやって来る ザッツロードが手を止めてヴェルアロンスライツァーへ問う
「ヴェル、どうかしたのかい?」
ヴェルアロンスライツァーがザッツロードを見下ろして言う
「ザッツ、すまないが 私は今ここで 貴殿らの部隊から脱退させて頂く」
突然の事にザッツロードが驚いて言う
「え!?そんな、どうして!?」
ヴェルアロンスライツァーがザッツロードへ視線を向けたまま言う
「…すまない」
ザッツロードが椅子から立ち上がり ヴェルアロンスライツァーを見上げて言う
「理由を教えてくれ、ヴェル!僕らはヴィクトール皇帝陛下の指示の下 共に世界を救うために戦っている仲間だ 君が抜けてしまっては 戦力が著しく低下してしまう!」
ヴェルアロンスライツァーがザッツロードから視線を逸らして言う
「確かに、貴殿らとの任務は この世界を救うという 偉大なものだ だが 私には… それ以上に行いたい事がある 再びその思いに駆られてしまった今 私は貴殿らと共に死闘を潜り抜ける自信が無い この様な状態で貴殿らと行動を共にしても 私は貴殿らの… いや、ロキの手を煩わせる事となるだろう」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にザッツロードが驚き問う
「ロキの…?」
ヴェルアロンスライツァーが頷いて言う
「彼は常に私をサポートしてくれているのだ 貴殿は彼と組んでの戦闘を行った事が無い為 理解しかねるかもしれないが 私はロキの銃に何度も命を救われている」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にザッツロードが呆気に取られ言葉に詰まる ヴェルアロンスライツァーが再びザッツロードへ視線を戻して言う
「この様な戦局で無理を言っている事は承知の上だ しかし、私は 貴殿らと共に このまま行動を共にする事は出来ない それもまた事実なのだ 迷惑を掛けすまないと思っている」
ザッツロードが間を置いて言う
「…そうか うん 分かった 今までの事感謝しているよ」
ザッツロードが言い終えると共に握手の手を差し出す ヴェルアロンスライツァーが一度目を閉じ 再びザッツロードへ視線を向けて 握手の手を取って言う
「貴殿らの無事を祈っている」
ザッツロードが微笑して言う
「うん、ありがとう ヴェルアロンスライツァー、君も どうか無事で」
握手の手を離しヴェルアロンスライツァーが微笑と共に返事をする
「ああ、可能な限り励む」
ヴェルアロンスライツァーの返事にザッツロードが苦笑する
翌日 ザッツロードが仲間たちにヴェルアロンスライツァーの脱退を告げる ソニヤとリーザロッテが叫ぶ
「えぇええ!?」「な、何ですって!?」
ソニヤとリーザロッテの反応に ザッツロードが苦笑する ソニヤがザッツロードへ掴みかかって言う
「なんでそんな急に!?しかも これから一番大変かもしれないって言うのに!!」
ソニヤの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「う、うん、僕も留まって欲しいと思ったんだけど 駄目だったんだ」
リーザロッテが問う
「『駄目だった』とは!?貴方の説得が足りなかったのではなくて!?」
ザッツロードがリーザロッテの言葉に困りながら言う
「あー… 確かに そうなのかも知れ無いですが」
リーザロッテが怒って言う
「何ですってっ!?」
ザッツロードが苦笑しつつ言葉に困る ロキが視線を逸らして言う
「…ザッツのせいでは無い、奴はそう言う男なのだ」
皆がロキへ視線を向ける ザッツロードが軽く笑って言う
「うん、ロキに迷惑を掛けられないって言ってたよ」
ロキとザッツロードの言葉に その他の仲間が顔を見合わせソニヤが言い掛ける
「ロキに迷惑って どう言う…?」
ソニヤの言葉を制してロキが声を上げる
「まったく迷惑な奴だった!これでやっと俺 個人の戦いが出来ると言うものだ!」
ロキの声にロスラグをはじめ皆も驚き呆気に取られる ロスラグが困った表情でロキを見上げてオロオロする ザッツロードが気を取り直して言う
「と、とにかく そう言う事で ヴェルは抜けてしまったんだ… だから これからはより一層、皆で協力しないと?」
ロキとロスラグ以外が溜め息を吐く セーリアが微笑と共に皆を励ます様に言う
「そうね?みんなで協力して ヴェルの抜けた穴を塞がないと」
オライオンが首を傾げて言う
「けどよー ヴェルの抜けた穴はデカイぜ?皆で塞ぐっていうより 誰か追加するくれーじゃねーと 埋められねーんじゃねーかな?」
オライオンの言葉にシュライツが肯定の奇声を発して頷く 皆がザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが困った表情で一度視線を落としてから言う
「確かにそうかもしれないね?でも今は その充ても無い訳だし 魔物の群れが来るまでの時間も無い バッツから連絡があったんだ、魔物の群れがこのシュレイザー城下町の周囲に集まり始めたって これからすぐにシュレイザー国の部隊を引き連れて向かわないと」
ザッツロードの言葉に皆が俯き掛けていた顔を上げる リーザロッテが気を引き締めて言う
「今はここに居る私たちで シュレイザー国部隊と共に このシュレイザー城下町を死守するのよ!よろしくって!?」
皆が了承して頷く
ザッツロードたちが城下町の門へ行く シュレイザー国の部隊と部隊長がザッツロードたちを待っている シュレイザー国1番部隊の隊長がザッツロードの下へ来て言う
「シュレイザー国1番部隊ピェケルです、先ほどスプローニ国、ベネテクト国、及びアバロン国の部隊から連絡があり、1時間後には合流できるとの事です それまで持ち堪えるようにと」
ピェケルの言葉にザッツロードが頷き各部隊への指示を送る
魔物の群れとの戦いが始まる 一定時間が経過すると スプローニ国の銃使い部隊、ベネテクト国の傭兵部隊、アバロン国3番隊が合流する
シュレイザー城城下町を襲いに来た魔物の群れを退治したザッツロードたち ザッツロードが各部隊の隊長らを前に言う
「みんな、本当に良く戦ってくれた 有難う、諸君のお陰でシュレイザー城と城下町は守られた」
ザッツロードの言葉に各部隊の部隊長が各々の国の敬礼で答える ザッツロードが微笑んで頷き言う
「シュレイザー国女王アンネローゼ様には 私の方から諸君の功績を伝えておく シュレイザー城下町で休むなりして疲れを癒してくれ では解散」
部隊長らが返事をして立ち去る ザッツロードの後ろにいる仲間たち ソニヤがやって来て軽く笑って言う
「ザッツ!もうすっかり慣れた感じじゃない?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いやぁ… やっぱり僕には向いて無いよ 緊張するし良い言葉とか見付からなくて… もっとお礼の気持ちを伝えたいんだけど」
ソニヤが笑って言う
「ザッツはザッツの言葉で言えば良いんだよ!ヴィクトール陛下の真似とかしなくても!」
ザッツロードが言う
「あ、あれ?分かったかい?」
ソニヤが笑って言う
「分かり過ぎ!」
ラナが腕組みをして続けて言う
「それに上手く真似で来ていないしね?」
ザッツロードが苦笑する 皆が微笑む リーザロッテが槍の柄で地を突いて言う
「さぁ!そんな事より お母様へ報告よ!」
ザッツロードが微笑んで言う
「はい、そうですね!」
ザッツロードたちが城へ入る 周囲が荒れている 皆が辺りを見渡し顔を見合わせて ソニヤが言う
「何だか あわただしい感じじゃない?」
ラナが首を傾げて言う
「何かあったのかしら?」
ラナの言葉に リーザロッテがハッとして叫ぶ
「お母様!?」
リーザロッテが駆け出す レイトとヴェインがリーザロッテを呼び慌てて後を追う
「「リーザ様!!」」
皆が一度顔を見合わせ 後を追う リーザロッテが玉座の間の入り口で一度立ち止まり 驚いた様子で再び走り出す レイトとヴェインに続きザッツロードたちもそのまま玉座の間へ走り込む
ザッツロードたちが立ち止まり 辺りを見渡して驚く 辺りにはシュレイザー国の兵が倒れている ザッツロードが呆気に取られて言う
「こ…これは!?」
ザッツロードが顔を上げて玉座を見る リーザロッテが玉座に座るアンネローゼの腕にすがっている アンネローゼが微笑みリーザロッテの頭を撫でている そのアンネローゼの横にヴェルアロンスライツァーが控えている ザッツロードがヴェルアロンスライツァーへ向かって走り 声を掛ける
「ヴェル!一体何が!?」
ヴェルアロンスライツァーがアンネローゼとリーザロッテへ向けていた視線をザッツロードへ向けて言う
「ザッツ、皆も無事であったか」
皆がザッツロードの後ろに立つ ヴェルアロンスライツァーが一度ロキとロスラグへ視線を向けてから 再びザッツロードへ戻して言う
「彼らは皆、先住民族の者なのだ 悪魔力に身を蝕まれていた だが、シュレイザー国の兵の姿であったが為 警備を抜け ここまで来てしまったらしい」
ヴェルアロンスライツァーの言葉に 皆が驚き ザッツロードが言う
「そんなっ 町には結界が張られていたのに どうして?」
ザッツロードの言葉にアンネローゼが言う
「悪魔力の影響は その生命体の身体の大きさによって変わります 小さい身体であるシュレイザー国の先住民族の者たちは きっと結界が張られるより以前に 悪魔力に蝕まれてしまっていたのでしょう… 彼らは皆 本日より以前からその行方が 分からなくなっていた者たちなのです」
アンネローゼの言葉を聞いてロキが言う
「…では今までの間を ネズミの姿で過ごし この混乱の中で人の姿へ変わり 戦闘行為を行ったという事か」
ロキの言葉にアンネローゼが付け加える
「最近はネズミの異常行動も確認されています この者たちは恐らく結界を張るために使われた宝玉の近くへ行った為に 偶然、人の姿になってしまったのでは無いかと… もっと宝玉の警備を強化して置くべきでした」
ザッツロードが問う
「宝玉の近くには それほど容易く近づく事が 可能な状態なのですか?」
ザッツロードの問いにアンネローゼが苦笑して言う
「彼らの移動を妨げる事が それほどに大変だと言う事なのです なにしろ相手は 壁を破り、小さな隙間を得意とする ネズミさんなので…」
ソニヤが苦笑して言う
「確かに、ネズミが相手じゃ ちょっと大変よね?」
ラナが腕組みをして言う
「これはシュレイザー国 特有の問題ね」
その頃アバロン帝国では…
ヴィクトールとバーネットが玉座に座り話し合っている 彼らの前方の出入り口の先を アバロン兵たちが何度も騒ぎながら右へ左へと横断する それには気付かない様子で バーネットが資料を見ながらヴィクトールへ問う
「悪魔力の影響を受けた先住民族ってぇのは 元々平和主義の先住民族とは違って攻撃的になりやがるのか?」
バーネットの視線の先 ヴィクトールが顔を上げて言う
「うん、少なくともシュレイザー国からの情報ではそうなっているね?先住民族のネズミたちが攻撃的になり 悪戯も多くする様になったとか」
バーネットが首を傾げ 再び資料に視線を戻しながら言う
「そりゃ、先住民族のネズミなのか 普通のネズミなのかの違いなんじゃねぇのか 大体ネズミの違いなんて…」
バーネットが言葉を途中で切って 出入り口へ向かって怒る
「うるせぇえぞ!!てめぇえらぁあ!!」
騒いでいたアバロン兵らがビクッと震え上がり 謝罪する
「も、申し訳有りません!!バーネット第二皇帝陛下!!」
バーネットがイライラしながら 玉座へ身を静める ヴィクトールが苦笑している バーネットが1つ息を吐いて 再び話し合いに戻ろうとする バーネットの玉座の肘掛へ1匹のネズミが登って来る アバロン兵らがそれに気付き慌てる バーネットが資料を片手にそのネズミに気付く ネズミが何か言いたげにバーネットへチュウチュウと声を上げる バーネットがしばらく考えた後 ネズミのしっぽをつまみ上げ アバロン兵らへ向けて言う
「おい、城内にネズミが居たぞ?始末しとけ」
ネズミが驚いて慌てる アバロン兵らがやって来て謝罪しながら受け取ろうとする 終始苦笑していたヴィクトールが立ち上がって言う
「バーネット、その様な扱いは失敬だ」
ヴィクトールが宝玉を取り出し力を送る 宝玉とネズミの身体が光り 次の瞬間チョッポクルスが現れ叫ぶ
「こ、こここ、この バ、バカーネット~~!!よ、余を し、始末するとは な、何事じゃぁ~~!!」
アバロン兵らが目を丸くする バーネットがニヤニヤ笑っている ヴィクトールが苦笑する
シュレイザー城玉座の間
ザッツロードがアンネローゼへ報告を終えて立ち上がり言う
「それでは、我々はスプローニ国へ向かいます」
アンネローゼが頷くとリーザロッテが言う
「お母様、どうかシュレイザー国の国兵にも十分に御注意下さい」
リーザロッテの言葉にアンネローゼが苦笑して頷いて言う
「そうですね、十分に確認をさせる様にします」
アンネローゼの返答を聞いたリーザロッテが 心配の残る様子で表情を渋らせる それを見てロキが言う
「…心配ない、万が一このシュレイザー国の先住民族である国兵が 全て悪魔力にその身を乗っ取られたとしても アンネローゼ女王への危害は その全てが防がれる」
ロキの言葉にリーザロッテが疑問の視線をロキへ向け ロキの視線に導かれてアンネローゼの隣に控えるヴェルアロンスライツァーへ向く リーザロッテと共にヴェルアロンスライツァーへ視線を向けたザッツロードと仲間たち ソニアがハッとして言う
「え?ちょっ?そうよ!?そもそも 何でヴェルが そこに居たのよ!?」
ザッツロードがソニヤの言葉に気付かされて今更驚いて言う
「あっ そ、そう言えばっ!?」
ロキが溜め息を吐いて視線を逸らす 隣でロスラグが分からない様子でロキとヴェルアロンスライツァーを交互に見る ラナが思い出して言う
「そう言えば… 先代勇者たちが ヴェルを最初に仲間に誘った時」
セーリアが続いて思い出し 微笑んで言う
「そういえば、そうだったわね?」
ラナとセーリアの言葉に ロスラグが問う
「え?なんッスか!?ヴェルアロンスライツァー副隊長が なんなんッスか!?」
リーザロッテが周囲の状態に驚き ロキへ問う
「え?ちょっと?そこの あ、貴方!どう言う事か説明なさいっ!」
リーザロッテの問いに 少し間を置き ロキが一歩前へ出て アンネローゼへ向けて言う
「…アンネローゼ女王、金輪際その兵を 他の場所へ向かわせる事は推奨しかねる …その兵には たとえ世界一の銃使いを相棒に用意しても まったく戦力にならない 足手まといだ 唯一 まともに戦わせる事が出来るのが俺だが 二度と御免だ 覚えておくと良い」
ロキの言葉にザッツロードと仲間たちが呆気に取られる ソニヤが怒って言う
「ちょ!ちょっとロキ!!何よその言い方!!ずっと一緒に戦ってきた仲間なのに!何ってひどい事言うの!?」
ラナが呆気に取られたまま言葉を溢す
「あ… 足手まといっ!?」
ザッツロードも驚きに言葉を失う リーザロッテも言葉を失って驚いている アンネローゼがくすっと笑って言う
「分かりました、覚えて置く事にします」
アンネローゼの微笑と優しい声色にリーザロッテが驚いてアンネローゼへ向く ロキが背を向け出口へ向かって歩き出す 皆がロキの姿を目で追う ヴェルアロンスライツァーがロキを呼ぶ
「ロキ」
ロキが立ち止まる 皆がヴェルアロンスライツァーへ向く ヴェルアロンスライツァーが微笑んで言う
「ありがとう」
皆がヴェルアロンスライツァーの言葉に驚く ロキが僅かに顔をヴェルアロンスライツァーへ向けてから 再び出口へ向かい歩みを再開させる ロスラグが驚いていた状態からハッとして慌ててロキとヴェルアロンスライツァーを交互に見てからロキの後を追って言う
「ロ、ロキ隊長!待って下さいッスー!」
ロスラグの姿が見えなくなり やっとザッツロードたちの硬直が解ける ザッツロードが慌てて敬礼して言う
「そ、それでは 我々も これでっ!?」
ザッツロードの様子にアンネローゼが微笑み頷いて言う
「貴方方の御活躍を ヴェルアロンスライツァーと共に お祈りさせていただきます」
ザッツロードたちが城から出ると 城門の外でロスラグがロキへ叫んでいる
「ロキ隊長!なんでヴェルアロンスライツァー副隊長の事 あんな風に言ったッスか!?ヴェルアロンスライツァー副隊長は足手まといなんかじゃ無いッス!ヘボ勇者よりずっとずっと役に立つ強い剣士ッス!…そ、そりゃ 時々ちょっと ボーっと考え事してる事は あったッスけど…」
ロキがロスラグを見下ろして言う
「…コレ程度に気付かれる程であったとは …もはや話にならんな」
ロスラグが言う
「コ、『コレ』はそろそろ卒業したいッス!…後 何の話にならないのかも 説明して欲しいッスよー!ロキ隊長!」
ロキがザッツロードたちに気付き 組んでいた腕を下ろして向き直る ロスラグがロキの行動でザッツロードたちに気付き ロキへ詰め寄るのを止める ザッツロードたちが近くへ来ると ロキが言う
「…スプローニ国へは連絡を入れておいた 諸卿の来城を歓迎するとの事だ」
ザッツロードが軽く微笑み頷いて言う
「分かった ありがとう」
ロキが顔を逸らして言う
「…礼には及ばん、スプローニ国は俺の故郷だ そのスプローニ国への助力 諸卿へはスプローニ国国王ラグヴェルスと共に 俺も感謝している」
ザッツロードが苦笑して言う
「あ… そ、そうだったね?スプローニ国はロキやロイやロスラグの故郷だ …うん、一緒に頑張ろう!」
【 スプローニ城 】
玉座の間 スプローニ国王の前に跪くザッツロードとロキ、ロイ、ロスラグ スプローニ国王が言う
「アバロン帝国ヴィクトール13世皇帝陛下より連絡を受けお待ちしていた 勇者ザッツロード殿、そして勇敢なるお仲間の方々よ、諸卿の助力痛み入る 共に 第二部隊、第三部隊隊長 及び第二部隊隊員 お前達も、祖国の危機に よくぞ戻って来てくれた」
ザッツロード、ロキ、ロイが礼を深くする 遅れてロスラグが慌てて頭を下げる スプローニ国王が続ける
「先だってアバロン帝国から 我がスプローニ国周囲の魔物の状況について 情報を受け取っている 詳しくは第一部隊隊長から確認して欲しい 魔王との戦いを潜り抜けてきた諸卿の力 期待している 我が国の兵と共に どうかこのスプローニ国の地と民を守り抜いて頂きたい」
スプローニ国王の言葉に ザッツロードが顔を上げ答える
「はい!ラグウェルス国王陛下、お任せ下さい!」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王が頷き言う
「うむ、この国の存亡は諸卿に掛かっている 頼んだぞ」
玉座の間を出たザッツロードたち ソニヤが慌ててザッツロードへ言う
「ねぇ!?ねぇ!?ねぇ!?何だか すっごい期待されて無かった!?しかも ザッツってば あんなに自信持って返事するなんて!だ、大丈夫なの~?!」
ラナが呆れて言う
「あれは勇者ザッツロード殿へのお世辞でしょ?いくら何でも自国の存亡を 他国の王子には託さないわよ」
ソニヤがラナへ振り向いて言う
「え!?そ、そうなの?な、な~んだ~ そっかぁ~」
ソニヤが笑って照れる ザッツロードも微笑んで言う
「それだけ期待して下さっていると言う事だよ?」
セーリアが苦笑して言う
「その期待に対して、ザッツも自信を持ったお返事をしたのだから、頑張らないとね?」
セーリアの言葉にザッツロードが衝撃を受け苦笑して言う
「え?あ、う、うん、そうだね」
ロキが言う
「…国王への虚偽はスプローニ国法律七千六百八十九条八十二項王族への偽り事禁止令にて 第一級の重罪だ 確認次第… 射殺の許可が出ている」
言いながらロキが銃を手に持つ 後ろでロイが同様に銃を手に持つ ザッツロードが焦って言う
「も、もちろん成功させるよ!?虚偽は言っていないからっ!!」
皆が呆れる
【 スプローニ国 城下町 】
皆が各々自由に過ごす ザッツロードがスプローニ国の地図を片手に考えている ロスラグが走って来て扉を開ける 皆が振り向く ロスラグが皆を見て ザッツロードへ視線を向け 一度逸らして悩んでから再びザッツロードへ向け走って来る ザッツロードがその様子をポカーンと目で追う ロスラグがザッツロードの前に立って言いたい事があり、言おうかどうかと悩んでいる様子にザッツロードが問う
「どうかしたのかい?隊員A?」
ザッツロードの言葉にロスラグがビクッと驚く 一瞬間を置いてザッツロードがあっと気付いた様子で言う
「あ、ごめん この呼び方は…」
ザッツロードが表情を困らせる ロスラグがザッツロードを見て 一度目を強く瞑ってから言う
「良いッス!そんな事は どうでも良いッスよ!ヘボ勇者!それよりっ その… た、助けて欲しいッス!」
ロスラグの言葉にザッツロードと皆が驚いてロスラグへ視線を向け ザッツロードが言う
「た… 助けるって?…ロスラグ、君何か?」
ザッツロードの言葉にロスラグが顔を横に振って言う
「俺じゃ無いッス!その… ロキ隊長が…」
ザッツロードが立ち上がって言う
「ロキが!?」
ロスラグの後方でソニヤが言う
「もしかして また喧嘩!?」
ロスラグが慌てて振り返って叫ぶ
「ち、違うッスよ!ロキ隊長は そんな喧嘩っ早い人じゃ無いッス!」
ソニヤが力を抜いて言う
「な~んだ~」
ザッツロードが続けて問う
「それじゃ、ロキが?どうしたんだい?」
ロスラグがザッツロードへ視線を戻して言う
「そ、その… とっても… 元気が 無いッス…」
ザッツロードが首を傾げて言う
「元気が…?」
ソニヤが呆れた様子で言う
「元気が無いって?むしろ、ロキが元気な方が 想像付かないけど~?」
ソニヤの言葉に ソニアの近くに居るラナが想像して苦笑して言う
「確かに あのロキが元気って 想像付かないわ?」
セーリアが苦笑している ロスラグが怒って言う
「皆には分からなくっても!俺には分かるッスよ!とってもっ!…寂しそうなんッス」
ロスラグの言葉にザッツロードが肩の力を抜いて言う
「ああ、それはきっと ヴェルが抜けてしまったからじゃないのかな?」
話を聞いていたレイトが言う
「確かに、死別ではなくとも 相棒を失うのは悲しい事だ」
レイトの言葉にリーザロッテが問う
「そうかしら?むしろロキの方が ヴェルア何とかを 追い払いたがっていたのではなくって?」
ロスラグが言う
「ヴェルアロンスライツァー副隊長ッス」
ザッツロードが考える ソニヤが言う
「そうそう!あれ酷かったよね!アンネローゼ女王様の御前だって言うのに?」
ヴェインが目を瞑り頷いて言う
「あのような物言いは 他国の王に対しても許されざる事だ」
ロスラグが皆の意見に困った様子で言う
「そ、それは… 俺もビックリしたッスけど …で、でもっ ロキ隊長を悪く言うのはっ 止めて欲しいッス!」
ラナが呆れた様子で言う
「そうは言っても 戦力にならないだの 足手まといだのって… 相棒に言われたヴェルの方ががよっぽど 元気を無くしそうよね?」
シャルロッテがモバイルPCのモニターから顔を覗かせながら言う
「わ、私のデータによればっ 他者からの指摘よりっ 苦楽を共にしてきた 相棒からの叱責は 精神的ダメージ 30%増量ですぅ~」
ザッツロードが皆の意見を聞いて考えながら言う
「でも、そのヴェルは元気を無くす事も、精神的ダメージを受けている様子も 僕には見えなかったんだ」
リーザロッテが反応して視線を上げ 思い出している様子からザッツロードへ言う
「そう言われてみれば そうだったわね?むしろ微笑んで 御礼を言ってらしたのでは なかったかしら?」
レイトも思い出す様子で言う
「アンネローゼ女王陛下も 無礼なロキへ対し 美しい微笑とお優しいお声で 答えて下されていた」
ヴェインが少し怒って言う
「アンネローゼ女王陛下もヴェルアロンスライツァーも 何故ロキへ対し あのような態度が取られたというのだ?俺には理解しかねる!」
皆の意見を聞きながらロイが黙っている ザッツロードがロイに気付いて顔を向けて言う
「ロイ、君はどう思う?」
ザッツロードの言葉に皆の視線がロイへ向く リーザロッテが問う
「そうね?貴方はロキと同じスプローニ国の兵だし 感じも似ていてよ?少しは彼の気持ちが分かって?」
皆の視線を確認したロイが間を置いて言う
「…俺には お前達が何故ロキを責めているのかが 分かりかねる」
皆が驚き ザッツロードが問う
「それは どう言う意味だい?」
リーザロッテが続けて問う
「それでは、貴方はロキの言った言葉が お母様やヴェルア何とかに 失礼では無かったとおっしゃるの!?」
ロスラグが言う
「ヴェルアロンスライツァー副隊長ッス…」
ロイが間を置いて言う
「…確かに国王へ対し 無礼な単語を用いた部分はあったかもしれない だが、それらは 内容の意味合いを強める事へ対しては 有用な選択であったと俺は思う」
ザッツロードが首を傾げて言う
「内容の意味合い… ヴェルが役に立たない事や 足手まといになると言う事を 強調したって事かい?」
ザッツロードの言葉にロイが言う
「…そうだ」
ソニヤがロイを指差して焦って叫ぶ
「な、ならっ!尚更 ロキはひどいじゃない!?」
シャルロッテがモバイルPCのモニターから顔を覗かせ焦りながら言う
「わ、私のデータによればっ 苦楽を共にしてきた相棒からの 叱責の強調はっ 更に20%の精神的ダメージの増加がっ」
皆がロイへ身を乗り出す ロイが顔を背ける セーリアが苦笑したまま静かに言う
「それだけ強調して、アンネローゼ女王陛下の傍に ヴェルを置いてあげて下さいって お願いをしたのよね?」
皆の視線がロイに向かったまま驚く ロイが言う
「…ヴェルアロンスライツァーは騎士だ アンネローゼ女王陛下の命とあれば 何時いかなる時でも どこへでも その命のままに赴くだろう しかしそれはヴェルアロンスライツァー本人の想いとはかけ離れている 従って 何処へ向かわせても まったく役に立たない兵である事を 先だって伝えておけば アンネローゼ女王も 彼を派遣する事はしない」
ソニヤが言う
「そ、それじゃ… ロキはヴェルの為に…?」
ザッツロードが苦笑して言う
「ヴェルやアンネローゼ女王陛下は その意味が分かっていたから 微笑んで居たんだね?」
ラナが呆れて言う
「つまり、分かっていなかったのは 仲間の私たちの方だった… って事ね…」
レイトが深く考えて言う
「なるほど… ヴェルアロンスライツァーもアンネローゼ女王陛下も どちらも自分の想いだけでは 行動を決められない立場の人間だ」
ヴェインがレイトへ視線を向けて言う
「だからこそ わざとヴェルアロンスライツァーに非を与え 他の道を断ったと言う訳か」
ソニヤが溜め息を吐いて音を上げる
「もぉ~ 王様や兵士ってめんどくさいのね~?」
ラナがセーリアへ振り返って問う
「セーリアは気付いていたの?」
セーリアが苦笑して言う
「私も本当の意味はさっきまで分からなかったわ、でもロキはいつもヴェルの事を気に掛けていたから きっと何か理由があるんじゃ無いか って思っていたの」
ザッツロードが微笑んで言う
「そうだね、僕たちも もっとロキの事を信用していたら セーリアみたいに気付けたかもしれない」
リーザロッテが怒って言う
「信用していたからこそ 余計に驚く事だってあってよ!!」
ザッツロードがリーザロッテの怒りに焦って言う
「そ、そうですねっ あは…」
ザッツロードの前に居たロスラグが顔を上げて叫ぶ
「うぅ~… 俺はっ!ロキ隊長の事っ!誰よりも信じて 誰よりも分かりたいって思ってるッス!でも分かんなかったッス!俺は駄目な部下ッス!いつまでも『隊員A』で『コレ』な理由も分かったッスよーっ!!」
ロスラグが言い終えると共に部屋から飛び出して行く ザッツロードが慌てて声を掛ける
「あ!ロスラグ!」
ロスラグの姿があっという間に見えなくなり ザッツロードが向けていた手を下す ソニヤが苦笑して言う
「そんな事言ったら 私たちだってずっと『勇者ザッツロードの仲間たち』で終わりよね?」
ザッツロードが皆の視線を受け苦笑する ザッツロードが間を置いて出入り口へ向かう ソニヤが問う
「ザッツ、どこ行くの?」
皆の視線がザッツロードへ向く ザッツロードが振り向いて言う
「うん、ロキに謝ってこようかと思って それにロスラグも心配だし」
ソニヤが少し考えて言う
「あ~… なら?あたしも謝った方が良いかな…?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いや、皆も分かったって伝えとくよ、僕とロスラグだけで十分だと思う」
ソニヤが苦笑する ラナが軽く息を吐いて言う
「まぁ、ロキもクールだから 余りお詫びだのなんだのって 言われるのは好きじゃ無いかもね?」
ラナの言葉にザッツロードが頷き部屋を出て行く
通路を歩いていくと ロスラグがドアを叩いている
「ロキ隊長!ロキ隊長!?居ないッスかー!?ロキ隊長!」
ロスラグが言い終えると共に 扉の匂いを嗅ぎ 周囲の匂いを嗅いでから走り去る ザッツロードが呆気に取られ 慌てて後を追う
ロスラグを追いかけて宿の外へ
町を抜け森の中へ入る 辿り着いた先 ロキが膝を着き墓を見ている ロスラグが近くへ走って行く ザッツロードが手前の木で立ち止まり様子を見る ロスラグがロキの横で叫ぶ
「ロキ隊長!ごめんなさいッス!俺 何にも分かんなくってっ ロキ隊長がヴェルアロンスライツァー副隊長に酷い事言うなんて ビックリして 俺 何にも分からなかったッスよー!」
慌てて言うロスラグに ゆっくり顔を向けたロキが問う
「…『分からなかった』のなら 卿は何を謝罪している?」
ロスラグがハッとして慌てて言う
「あー そ、そうッスよね!えっとっ?その…っ へ、ヘボ勇者たちに聞いたッス!ロキ隊長はヴェルアロンスライツァー副隊長のために あんな風に言ったってっ お、俺馬鹿だから あんな難しい事は分からなかったッス!だから、ごめんなさいッス!今は 分かったッスよ!」
ロキが視線を墓へ戻して言う
「…そうか」
ロキが黙り ロスラグがオロオロしていた状態から落ち着いて黙る 間を置いて ロスラグが言う
「そ、それで… ヘボ勇者の仲間が言ってたッス ロキ隊長がヴェルアロンスライツァー副隊長の事 いつも心配してるのを知ってたから… だから、ロキ隊長が あの時シュレイザー国で ヴェルアロンスライツァー副隊長にあんな風に言ったのには 何か理由があるんじゃ無いかって 思ってたって… お、俺だってロキ隊長が ヴェルアロンスライツァー副隊長に 本気で言ったとは思わなかったッスよ?でも 分からなくって…」
ロスラグが視線を落とす ロキが言う
「…卿は分からなくて良い おかしいのは 俺やあいつや… 後住民族だ 卿の様に 思うがままに口に出来れば… 面倒な事を考える必要も無い」
ロスラグが驚いてロキへ視線を向ける ロキは墓を見ている ロスラグが慌てて言う
「お、俺はっ ただ馬鹿なだけッス!先住民族は皆 難しい事分からなくてっ だから思ったまま言うんッス!後住民族の人は みんな頭の良い人ばっかりッス!先住民族の皆は、俺も!そう思ってるッスよ!」
ロキが間を置いて言う
「…後住民族は頭が良いか …なら俺は その中でも頭の悪い方だ」
ロスラグが驚いて言う
「なー!?ロキ隊長は!めちゃくちゃ頭が良いッスよ!ヴェルアロンスライツァー副隊長も!お、俺は2人みたいになりたいって思ってたッス!だ、だから名前だって…っ!」
ロスラグがハッとして黙る ロキがロスラグへ視線を向ける ロスラグが悩んでから言う
「…だから名前も 2人の名前を入れたッス…」
ロキが間を置いて静かに笑う ロスラグが驚く ロキが視線を逸らして言う
「…よく あいつと卿の事について話をしていた 卿の本当の名前は何と言うのかと …卿が先住民族であったと分かった日は 特に盛り上がった」
ロスラグが驚いて言う
「ほ、ほんとッスか!?俺の事を2人で話してくれてたなんて …お、俺 嬉しいッス!」
ロキが言う
「…だが奴との議論は どれも皆 結論に辿り着く事無く終った …兵とは国を守る者なのか 王を守る者なのか 俺と奴、どちらが強いのか 卿の本当の名前は何か…」
ロスラグが黙ってロキを見つめる ロキが言う
「…しかし、卿になら 俺たちが分からなかった それら全ての答えが 出せるのでは無いかと 俺は思う」
ロスラグが驚いて慌てて言う
「えぇえ!?お、俺はっ そんな!?」
ロキがロスラグを見つめる ロスラグが焦りながら彼方此方(あちこち)へ視線を巡らせた後 ロキへちらちら視線を向けつつ答える
「え、えっと… お、俺は…っ 兵は… 国も王様も!先住民族も後住民族も!他の国まで 含めて みんな!『みんなを守る者』だと思うッス!ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長がそうしてるッス!で、でもって ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長は 2人とも強いッス!でも『2人で一緒に戦ってる時』が 一番強いッス!」
ロキが苦笑して言う
「…ふっ そうか もっと早く 卿を取り入れての 論議にするべきだったな そうすれば 今度は失わずに 済んだのかもしれない」
ロキの言葉にロスラグが首を傾け、次に慌てて言う
「うー… えっとぉ…?ロキ隊長?ごめんなさいッス 俺、ロキ隊長の言っている事が分からないッス もうちょっと簡単に言って欲しいッス!」
ロキが苦笑して墓へ視線を向けて静かに言う
「…簡単にか …そうだな なら、ここには 昔、俺が飼っていた犬が埋められている」
ロキの言葉にロスラグがハッとして犬の墓へ視線を向ける ロキが続ける
「…このスプローニ国では 昔から犬にも人の言葉が分かると 言われていた 今思えば お前達先住民族の事だったのかもしれない …まだ子犬だった 俺も幼く その言葉を素直に信じ 町の外へ出るなと伝えただけで 放って置いた お陰で いつの間にか 町の外へ出て 悪魔力に侵され 魔物になってしまった」
ロキが言い終えると共に苦笑する ロスラグが表情を哀しめる ロキが犬の墓へ触れて言う
「…俺の手で射殺した」
木の陰に隠れているザッツロードが発しそうになった言葉を慌てて飲み込む ロキが続ける
「…俺の手で始末し、ここへ埋めた 俺の過失で1つの命を奪ってしまった …その時から 俺はもう2度と自分の過ちで 何かを失う事の無い様 この墓に誓い 行動して来た …だが、」
ロスラグがロキを見詰める ロキが犬の墓を見ながら言う
「…俺の言葉は今回も 俺から大切なものを失わせた お前の様に 常に本心で話ていれば 今度は失わずに済んだのかもしれない」
ロスラグが考えて言う
「ロキ隊長は 本当は ヴェルアロンスライツァー副隊長を 失いたくなかったッスか?」
ロキが間を置いて言う
「…そうかもな 奴は俺の相棒だった …そう 認めた事は無いが …いや、認めていた のかもしれない」
ロスラグが疑問するロキが苦笑して言う
「…分からない 自分の想いすら …だから俺は お前の言う後住民族の 頭の良い者では無い きっと お前なら… 何も考えなくとも 自分の想いなど分かるのだろう?」
ロスラグがロキを見つめて首を傾げてから言う
「俺は… 俺はロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長の事が大好きッス!だから一緒に居たいって思うッス!でもヴェルアロンスライツァー副隊長は アンネローゼ女王様の事が大好きなんッスよね?だから居なくなっちゃったッス ロキ隊長はヴェルアロンスライツァー副隊長のために あの難しい言葉で ヴェルアロンスライツァー副隊長を後押ししたッス!だから… えっと…?…ロキ隊長は間違って無いッス!」
ロキがロスラグへ向いて問う
「…それで、お前は?奴が居なくなって寂しいか?」
ロスラグがロキの視線に 真っ向から頷いて言う
「寂しいッス!すっごく寂しいッス!でも 俺にはロキ隊長が居るッス!あの ヘボ勇者たちも 一応居るッス!だから平気ッス!でも… 耐えられなくなったら シュレイザー国に行って またヴェルアロンスライツァー副隊長に会うッス!」
ロスラグが笑顔になる ロキが呆気に取られた後 軽く笑って言う
「…そうか、…そうだな?それも悪く無い… こいつとは違って 奴にはまた会えるか?」
ロキが言いながら犬の墓を軽く撫でる ロスラグが少し悲しそうな顔をしてから 気を取り直して言う
「そうッスよ!たまには 一緒に戦おうって 誘いに行ったら良いッス!」
ロスラグの言葉に ロキが止まる ロスラグが疑問する ロキが言う
「…『二度と御免』だと言ってしまったが?」
ロスラグがハッとして焦って言う
「あ… いやっ!それはっ!え、ええっとッスね!?」
ロスラグが焦る ロキが沈黙する ロスラグが強く気合を入れて言う
「ロ… ロキ隊長はっ!もっと素直になれば良いッス!!ヴェルアロンスライツァー副隊長に 素直に 一緒に戦いたい って言ったら良いッスよ!!」
ロキがロスラグを見上げて呆気に取られている ロスラグがハッとして焦る ロキが笑って言う
「っはははは… 素直にか…?そうかもな?…ならば 言おう!」
ロスラグが疑問する ロキが立ち上がり ロスラグの胸倉を掴んで叫ぶ
「てめぇえは 良い加減!本当の名前を言いやがれ!ふざけた名前 付けやがって!自分と奴の名を呼ぶみたいで 呼び辛いんだよ!!馬鹿犬がぁあ!!」
ロスラグが驚き言葉を失う ロキが手を離し腕組みをしてぷいっと顔を背ける ロスラグが慌てて謝って言う
「そ、そうだったッスか!?ご、ごめんなさいッス!ロキ隊長!お、俺 気付かなかったッス!ごめんなさいッス!許して欲しいッス!」
木に隠れているザッツロードが驚いている ロキが言う
「ついでにそこの 勇者A!!」
ザッツロードが驚いて飛び出し慌てて言う
「は、はいー!?」
ロスラグがザッツロードの存在に驚き指差して叫ぶ
「あー!!ヘボ勇者!!いつの間に居たッスかー!?」
ロキがザッツロードの前まで行き 銃口を突き付けて言う
「スプローニ国憲法九千八百六十四条八十九項 機密情報盗聴容疑にて第二級拷問刑に処する」
ザッツロードが焦って言う
「えー!!ご、ごめんなさいッス!ロキ隊長!俺 気付かなかったッス!ごめんなさいッス!許して欲しいッス!」
ザッツロードの言動にロスラグが指差して叫ぶ
「あー!!何俺の台詞パクってるッスか!?きっとスプローニ国法に引っかかってるッス!何条の何項かで 銃殺刑ッスよー!」
「我々が別の世界からやって来た後住民族だという話も信じがたいが…」
続けてロキが言う
「…『コレ』が先住民族の…犬か?」
ロキの言葉に ロスラグが言う
「コ、『コレ』って言わないで欲しいッス!ロキ隊長っ」
ロキが少し考えてから言う
「…では …犬か?」
ロスラグが困った様子で言う
「い、犬は~ 別の犬の先住民族たちも一緒になっちゃうッス」
2人の会話にヴェルアロンスライツァーがロキへ言う
「その言い方では『隊員A』の一族へ失敬であろう?我々を『人間』と呼ぶようなものだ」
ロキが言う
「…そうだな では… やはり『コレ』か」
ヴェルアロンスライツァーとロキの会話にロスラグが落ち込んで言う
「『コレ』でも『隊員A』でもなく名前で呼んで欲しいッス~」
彼らの会話を見ていたザッツロードが皆へ振り向いて言う
「とりあえず、そういう事で 僕たちは魔王になってしまった竜族のドラゴンを倒す事が役目だ そして 先代勇者たちの記憶を見る限り その戦いは難しいものになると思う 誰か一緒に行って貰えるかな?」
ザッツロードの言葉に皆が表情を強め ソニヤが言う
「もちろん!私は行くわ!」
ソニヤに続いてラナも頷いて言う
「私もよ、先代の記憶があるからこそ 出来る事もあるでしょうし」
2人の言葉にセーリアも頷く オライオンが近くへ来て言う
「俺は、その先代の記憶ってやつは無いけど 行くぜ!?2代目勇者の仲間だった アバロンの大剣使いヘクターの息子だもんな!シュライツ、お前も行くだろ?」
オライオンの後ろでシュライツが喜んで奇声を発する ザッツロードたちの会話を聞いていたヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせロスラグの両サイドから前へ出てヴェルアロンスライツァーが言う
「私も行こう、15年前の責任を果たさねばならない」
続けてロキが言う
「…俺も行く、魔王との決闘を 終らせねばならない」
ヴェルアロンスライツァーとロキの言葉に ザッツロードが一瞬驚いてから 微笑んで言う
「ありがとう、ヴェルアロンスライツァー、ロキ、2人が居てくれると とっても心強いよ」
ザッツロードの言葉にソニヤが怒る
「ちょっと それ!?私たちだけじゃ 心強くないって事!?」
ザッツロードが少し後ずさって言う
「いや… そんな事ないけど、やっぱり魔力を武器に移して戦うのが一番だし また…僕1人に2人とか3人分の魔力とか渡されても困るし… はは…」
ザッツロードたちの会話を聞いていたリーザロッテが一歩前へ出て言う
「当然、私も行くわ!」
レイトとヴェインが驚いて言う
「「姫様っ!!」」
ザッツロードも驚いて言う
「え!?い、いや… リーザロッテ王女を あの島へ お連れするなんて」
リーザロッテが一瞬驚き 怒って言う
「別に!あなたに連れて行って頂かなくても結構でしてよ?私たちは私たちだけで 魔王の島へ向かうという事でもね?」
レイトが焦って言う
「ひ、姫様っ!いくらなんでも 魔王の島へ向かわれるのは!」
リーザロッテがレイトへ振り返って言う
「バーネット第二皇帝陛下は 『勇者様』へご依頼を下さったわ?つまり、この私へのご依頼でもあってでしょ?」
ヴェインが焦って言う
「あれは …ザッツロードの方の勇者と言う意味だと」
リーザロッテがヴェインへ向いて言う
「では何?バーネット第二皇帝陛下は 私を勇者として認めていらしゃらないって事?それなら尚更だわ!!」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「リーザロッテ王女、今回は… 我々に任せて下さい、リーザロッテ王女の身に何かあっては アンネローゼ女王や、ツヴァイザー国の民に申し訳が立ちません」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが怒って言う
「それはそっちも同じでしょう?ザッツロード王子!あなたの身に何かあってもローレシアの民やキルビーグ陛下は悲しまれないとでも仰るの?」
ザッツロードが微笑して言う
「はい」
リーザロッテが驚いて言う
「え!?」
ザッツロードの返事にリーザロッテが驚き 皆も驚く ソニヤが焦って言う
「な、何言ってんのよザッツ…」
ザッツロードが苦笑して言う
「私は3代目勇者ザッツロードです、ローレシアでは 勇者ザッツロードは魔王を倒して世界を救うのが役目 先代勇者ザッツロード6世が失敗したという事で ローレシアの民は活気を失ってしまっているんです 私は、3代目勇者としても、ローレシア国第二王子としても なんとしても今回の任務を成し遂げなければならないのです ですから」
リーザロッテがザッツロードの頬を叩く ザッツロードと皆が驚く リーザロッテが叫ぶ
「あなたは何も分かっていないわ!自国の王や王子を失って悲しまない民は居ないのよ!?私はっ ツヴァイザーで民の悲しむ顔を見たわ!活気を失うのは 国王や王子の失態じゃない!自分たちの王や王子を失う事への悲しみなのよ!」
リーザロッテが槍の柄を床に叩き付けて言う
「私は行くわ!貴方が馬鹿な真似をして ローレシアの民を悲しませる様な事の無いように!私はツヴァイザーやローレシア… いいえ!世界中の民のために戦うのでしてよ!貴方を助ける為じゃないのだから 勘違いなさらないで頂戴ね!」
皆が呆気に取られる リーザロッテが後ろの仲間たちへ向き直り レイトとヴェインを見て言う
「貴方たちは!ツヴァイザーの民のために!王女である私を守るのよ!?分かっているでしょうね!?」
レイトとヴェインが驚き顔を見合わせ 敬礼して言う
「は、はいっ!勿論です!」「は、はっ!自分も勿論…っ」
リーザロッテが頷き ロイを指差して言う
「ロイ!貴方は!スプローニ国の為に戦うのよ!」
ロイが少し間を置いて答える
「…俺は いつだってそうしている」
リーザロッテが頷いて言う
「そう、なら良いのよ …シャル!」
続いてシャルロッテを指差して言う シャルロッテが焦って言う
「はっ はいぃ!!」
リーザロッテが言う
「あなたは…そうね、」
少し考えたリーザロッテが頷いて言う
「私の様になる事が目標だ って言ってたわよね?だったら勿論!付いて来るのよ!?」
シャルロッテが焦りながら言う
「えっ!?えぇええっと は、はいぃ!!」
リーザロッテが頷き 再びザッツロードへ向き直して言う
「そういう事だから、止めたって無駄よ?」
ザッツロードが呆気に取られたまま返事をする
「…あ…は、はい 分かりました、それでは… えっと…なるべく安全な所に居て下さいね…?」
リーザロッテが怒る
「ちょっと!それでは分かっていらっしゃらないでしょう!?」
ロスラグが自分の前に居るヴェルアロンスライツァーとロキを見上げてから前へ出て言う
「お、俺も行くッス!」
皆の視線がロスラグへ向く ヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせヴェルアロンスライツァーが言う
「貴殿を連れて行く訳にはいかない」
続けてロキが言う
「…卿は先住民族 悪魔力に関することは後住民族の我々の役目だ」
2人の言葉にロスラグが言う
「そ、それはおかしいッスよ!だって魔王は竜族の奴なんッスよ!?それに、この世界に関する事だったら 先住民族の俺だって行って戦うべきッス!」
ロスラグの言葉を聞いたヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせてからザッツロードへ向ける 無言の問いかけにザッツロードが困る ロスラグが言う
「俺!絶対行くッスからね!止めたって置いてったって 付いてくッスよ!?」
ロスラグの言葉にヴェルアロンスライツァーとロキが溜め息を吐いてからヴェルアロンスライツァーが言う
「止めて置いてかれた上で どの様に付いて来るのかは 理解しかねるが…」
ロキが言う
「…来るなら 精々安全な場所で 眺めていろ」
ロスラグが泣きながら叫ぶ
「見学しに行くんじゃ 無いッスっよー!」
ザッツロードが苦笑して言う
「それじゃぁ… みんな来てくれるって事で …ありがとう」
ザッツロードの言葉にリーザロッテがそっぽを向き ヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせ苦笑し 他が微笑む
【 ヴィルトンの港町 】
ザッツロードとリーザロッテ共に双方の仲間がヴィルトンの港町に居る リーザロッテがザッツロードへ向いて言う
「作戦が決行されるまでに その海賊のカイザって方を探すのでしてね?」
ザッツロードが振り返り答える
「はい、僕らを結界の島へ連れて行く 事が出来るのは その海賊カイザって人らしくて、発見したら ヴィクトール皇帝陛下とバーネット第二皇帝陛下のお名前を伝えれば きっと協力を約束してくれるだろうとの事です」
ザッツロードの言葉にレイトが言う
「それにしても 何故 両皇帝陛下のお知り合いが海賊なのか…?」
ヴェインが考えながら言う
「海賊が皇帝の友達… とでも言うのか?」
シャルロッテがオドオド言う
「ほ、ほんとはっ 海賊と言う名のっ ス、スパイと言う事もっ 考えられますぅ」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「いや~… 彼は 普通の海賊ですよ?たぶん」
リーザロッテが溜め息を吐いて言う
「普通の海賊って…」
ソニヤとラナが顔を見合わせ ソニヤが言う
「チョット女好きでだらしないのよね?」
ラナが言う
「チョットと言うか だいぶでしょ?」
オライオンが辺りを見渡して言う
「んで、見た目はどんな奴なんだ?手分けして探すんだろ?」
オライオンの言葉にセーリアが苦笑して言う
「見た目は…私たちが知っているのは15年前の姿だし…」
セーリアの言葉を聞いたリーザロッテが言う
「それなら名前で探すしかないわね?全員ばらばらになって探して、見つけたら通信で呼びかければ良いわ」
リーザロッテの言葉にソニヤが言う
「通信は、ソルベキアが一気に通信回線を取り止めちゃったから 繋がらないんじゃないの?」
ソニヤの言葉にシャルロッテが言う
「わ、私がっ ザッツロード王子の通信機に 回線を繋いでおきましたのでっ だ、大丈夫ですっ」
シャルロッテの言葉にザッツロードが驚いて言う
「え?いつの間に…」
シャルロッテが焦って言う
「あっ か、勝手にやっちゃいましたっ ご、ごめんなさいっ」
ザッツロードが自分の通信機を確認しながら顔を横に振って言う
「いや、ありがとう、助かるよ」
ザッツロードの礼に照れながらシャルロッテが続ける
「あ、あのっ それから 皆さんの通信機ともっ 回線を繋いであるのでっ こ、ここには居ないヴェルアロンスライツァーさんやロキさんとも お話出来ますっ」
ザッツロードが驚く
「それは凄い!」
リーザロッテが会話に気付いて言う
「そういえば、その2人と… ロスラグだったかしら?あの先住民族はどうしたの?人探しなら人員は多い方が良いのではなくて?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが答える
「ロスラグはスプローニ国に居る先住民族たちと一緒に 新しい魔力穴を作る事に協力しているそうです、ヴェルアロンスライツァーとロキはその護衛で」
ソニヤとリーザロッテが驚いて声を合わせる
「「あの2人がロスラグの護衛!?」ですって!?」
ソニヤとリーザロッテが顔を見合わせる ザッツロードが苦笑して言う
「ロスラグは とっても喜んでましたよ ははは…っ」
ザッツロードの過去の記憶が流れる ヴィクトールとバーネットの前に居るロスラグとヴェルアロンスライツァーとロキ 彼らとは別に柱の後ろに居るザッツロード ヴィクトールが言う
「…そうか、では先住民族が人の姿になるには 宝玉の聖魔力を使わねばならないのだな?」
バーネットが首をかしげながら言う
「俺がドラゴンになる時と逆って事か?」
ロスラグが頷いて言う
「バーネット第二皇帝陛下の場合は 元が人の姿だからドラゴンの姿へ変身するのに 聖魔力が必要なんッス 俺たち先住民族は元が動物の姿だから、人の姿に変身するのに聖魔力が必要なんッス!」
ヴィクトールが片手に持った宝玉を眺めながら言う
「うん、現在多くの宝玉が国外へ貸し出されている状態だ 貴公らを人の姿に変える作業が出来る国は このアバロン以外には無いだろう 貴公はもちろん他の先住民族の者にも 作業が終了したらアバロンへ来るよう伝えてくれ」
ロスラグが頷いて言う
「分かったっス!」
ヴィクトールが頷きヴィクトールとバーネットが立ち去ろうとする それを呼び止めるロスラグ
「あぁ~っそ、それとッスね…っ」
振り返ったヴィクトールがロスラグへ向き直り微笑んで言う
「何だ?我々に出来る事があるのなら 遠慮無く言ってくれ」
ロスラグが頭を掻きながら言い辛そうに言う
「あの~ 俺たち先住民族って 基本的に元の姿で戦ったりしないんッス ああっ む、昔は狩とかしてたみたいッスけど 今はしないし… だから~ その姿の時に 魔物とかに会うと困っちゃうんッス 他にも 先住民族だって気付かない人とかにも…」
ロスラグの言葉を聞いてバーネットが笑う
「はっはー 普通の犬と間違われて ペットにされちまったりしてな?」
バーネットの言葉に苦笑したヴィクトールが言う
「バーネット、失敬だ」
ロスラグが顔を横に振って言う
「いや、それよくあるッス!でもって~そのまま居心地良くって ペットになっちゃう奴らも 居るんッスけどー はははっ…あ、いや、だからッスね!」
話に流されたロスラグが慌てて両手を自分の前で横に振る ヴィクトールが微笑んで言う
「分かった それなら護衛を付けていれば 問題ないだろう」
ヴィクトールの言葉にロスラグが喜び 慌てて礼を言う ヴィクトールが頷き言う
「ロキ、ヴェルアロンスライツァー 聞いての通りだ、彼の護衛を頼む」
ヴェルアロンスライツァーとロキが驚き顔を見合わせてから ロスラグへ視線を向ける 2人の視線を受けたロスラグが驚く
「え?え?…ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長が お、俺の ご…ご…ご!?」
ヴィクトールが微笑んで言う
「2人共よろしく頼む、彼は我々後住民族の大切な協力者だ 十分、丁重にな?」
ヴィクトールへ顔を向けていたヴェルアロンスライツァーとロキが ヴィクトールへ跪き敬礼する ロスラグが慌ててそれに倣う
ザッツロードの記憶が終わり ザッツロードから話を聞いていた仲間たちが驚いて顔を見合わせる ラナが考えながら言う
「ロキとヴェルアロンスライツァー… あの2人が揃って 犬の護衛…」
ソニヤが言う
「なんか…想像すると~ 凄い事になるんだけど…?」
ソニヤとリーザロッテが想像する その後ろでザッツロードとセーリア、シャルロッテが苦笑している 想像し終えたソニヤがザッツロードへ言う
「ねえ!ザッツ!折角通信繋いでもらったんだから 早速確認してみない?」
ザッツロードが苦笑して言う
「向こうも忙しいだろうし 邪魔をしてはいけないよ」
ソニヤが怒って言う
「邪魔じゃなくて確認だったらぁ~」
セーリアが苦笑しながら言う
「それじゃ、海賊カイザが見付かってからって事で ね?」
ソニヤが残念そうに諦める リーザロッテがザッツロードへ言う
「それじゃ、私たちは町の東側へ行くわ そっちは逆よ?」
ザッツロードが頷いて言う
「はい、僕らは西側を探します」
オライオンがザッツロードへ向いて言う
「なら俺らは あの辺探してみるわ~」
オライオンが言いながら指差す ザッツロードが頷いて言う
「うん、それじゃ 見付かったらお互い連絡をすると言う事で」
オライオンが頷いて言う
「おう」
オライオンとシュライツが町の北側へ歩いて行く それを確認したザッツロードが振り返り言う
「僕らも手分けをして探そう」
ソニヤ、ラナ、セーリアが了承と共に去って行くザッツロードがそれを見送り歩き出す
町の人に話を聞くザッツロード 町の人が答える
「カイザか~最近どうしてるんだろうな?ジュニアの方はお宝見付けたって言ってたけどな?」
「カイザね~スカルの方なら見かけたけどなぁ?」
「カイザ?…お前 あいつの知り合いか?だったら…船の修理代 代わりに払ってもらおうか?」
町の人から話を聞き終えたザッツロードが首を傾げる 歩いて行くとラナに会う ザッツロードが声を掛ける
「ラナ、どうだい?カイザの情報はあったかい?」
ラナが顔を横に振る
「誰に聞いても最近は見ていないって 海に出てるのかもしれないわね」
ラナの言葉を聞いてザッツロードが考えながら言う
「そうか… 海に出てしまっているとしたら困るね」
ラナと合流したザッツロード 歩いていくとセーリアに会う ラナが問う
「セーリア、そっちはどう?」
二人に気付いたセーリアが向き直って言う
「数日前まで居たって話を聞いたわ」
セーリアの言葉にザッツロードが言う
「それじゃあ、ラナの言っていた通り 今は海に出てしまっているのかもしれないね」
セーリアを加え3人で歩いていくとソニヤに会う ソニヤが気付いて言う
「ザッツ、皆!どう?」
ソニヤの問いにセーリアが顔を横に振る ソニヤが肩を落として言う
「そお~ こっちもダメ、借金の取立てから逃げたんじゃないか~とか言うのだけ」
ソニヤの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「それは近いことを僕も言われたよ はは…」
最初の場所へ戻ってきたザッツロードたち セーリアが辺りを見渡して言う
「リーザロッテ王女やオライオンはまだみたいね?」
セーリアと同様に周囲を見渡したザッツロードが頷いて言う
「そうだね、もしかしたら 通信で知らせ合うまで 戻って来ないのかもしれない」
ザッツロードが言いながら通信機を取り出す それを見たソニヤが言う
「え!?こっちから連絡するの!?」
ソニヤの言葉に疑問するザッツロード
「え?ダメなのかい?」
ソニヤが顔を膨らして言う
「別に…ダメじゃないけど~」
ザッツロードが軽く笑って通信機を操作しようとする その時通信が入る 驚くザッツロードと仲間たちザッツロードが通信の相手を確認して 通信を繋ぎながら言う
「リーザロッテ王女だ …はい、こちら」
通信を繋いだ瞬間にリーザロッテの声が響く
『ちょっと!早く来なさい!!』
驚くザッツロード改めて通信を行う
「え?あ、あの リーザロッテ王女?一体…」
リーザロッテが叫ぶ
『良いから!すぐに来なさい!北東の広場まで来たら分かるわ!早く!!』
通信が切られる ザッツロードが驚いたまま仲間へ視線を送る ソニヤとラナが顔を見合わせ ソニヤが言う
「北東の… 確かオライオンが行ったのって」
ラナが言う
「北…と言うより この町の感じだと北東になりそうね」
ソニヤとラナに続きセーリアが言う
「まさか…ね?」
北東の広場へ向かったザッツロードたち 人集りを見つけて中へ入る 人を掻き分けて前へ出ると オライオンの叫び声が聞こえる
「取り消せっつってんだ!このデカ物!!」
オライオンが巨人族へ向かって怒っている 巨人族の男がにやりと笑って言う
「取り消す必要はねぇ~んだよ 俺の親父は アバロンの大剣使いヘクターを ボッコボコにしたんだ~」
オライオンが怒って言う
「んな訳ねぇええ!!」
巨人族の言葉を否定して叫ぶオライオン ザッツロードたちが苦笑して ソニヤが言う
「やっぱり…」
ラナが言う
「予想通りって言うか~」
セーリアが言う
「血は争えないわね」
苦笑するザッツロードたちの下にリーザロッテたちがやって来てリーザロッテが言う
「何をボサッとなさっているの!?早く止めなさい!」
リーザロッテの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「いや… たぶん 止められないと…」
ザッツロードに続きラナが言う
「止められるとしたら…」
ラナに続きセーリアが言う
「またあの人が来てくれると良いのだけど」
ザッツロードたちの返答にリーザロッテが怒る 丁度その時一発の銃声が響く リーザロッテらと周囲の野次馬がその方向へ視線を向ける ザッツロードが苦笑する スカルが叫ぶ
「おい!アルバレロジュニア!てめぇ 作業サボって何やってやがる!」
オライオンと向き合っていた巨人族の男が顔を上げ 名を呼ぶ
「ス、スカル船長!」
スカルが銃をしまい アルバレロジュニアとオライオンの下に来る スカルがオライオンを見て言う
「…あん?お前… アバロン3番隊元隊長ヘクターのガキじゃねぇのか?」
スカルの言葉にオライオンが頷いて言う
「俺はオライオン!アバロン3番隊元隊長ヘクターの息子だ!」
オライオンの言葉を聞いたスカルが笑って言う
「あっはははは!大方、このアルバレロジュニアに お前の親父の無様な負け話でも聞かされたんだろ?でもって そんな訳ねーとか?」
スカルの言葉にオライオンが頷きアルバレロジュニヤを指差して言う
「こんなデカ物に!俺の親父が負ける訳ねぇえ!!」
オライオンが叫び声を スカルが耳を塞ぎながら聞き 溜め息を吐いて言う
「それが 負けちまったんだよな~ 見事に無様によ?俺も~見てたから?知ってるんだわ」
オライオンがスカルの言葉に怒って剣を抜こうとする スカルがいち早く銃をオライオンの目前へ向ける スカルが続ける
「けどま、息子同士でリベンジって~のも 悪くねぇ… どうだい?オライオン?」
スカルの提案にオライオンが強く言う
「リベンジだかオレンジだか知らねーけど やる!俺とシュライツが居れば怖いモン無しだぜ!」
オライオンの言葉に オライオンの後ろに居るシュライツが奇怪な声と共に同意を表す スカルがそれを見て笑う
「あははははーっ!こいつぁ良い!気に入ったぜ …おいライザ!」
スカルが呼ぶと 一人の魔法使いが現れてスカルの下へ行く スカルが銃でアルバレロジュニアを指してライザへ言う
「アルバレロジュニアとヘクターの息子の決闘だ 手ぇ貸してやってくれ」
ライザがオライオンとシュライツを見て言う
「う~ん…勝てる気しないんだけど?」
スカルが笑って言う
「良いんだよ、この勝負は 勝ち負けは関係~ねぇ やる事に、…意味があるんだよ」
オライオンとアルバレロジュニアが首を傾げる
オライオンとシュライツ アルバレロジュニアとライザの決闘が行われる オライオンとシュライツが勝利する 地面に両手を着くアルバレロジュニア スカルがオライオンの横に立って言う
「どうだい?ヘクターの息子よ、気分は収まったか?」
オライオンが剣を鞘へ収めスカルへ向いて言う
「…何か、思ったより気分良くねーって感じだ、勝てるのは 分かってたし」
オライオンの返答にスカルが笑って言う
「そりゃ~な?お前が最高の相棒と 一緒に居るからだ だが もし?その最高の相棒を失って 1人になっちまったら… お前はどうする?」
スカルの言葉にオライオンが疑問する スカルが1つ息を吐いて周囲へ視線を逸らす その視線の先にザッツロードたちを見つける オライオンがそれに気付いてザッツロードへ声を掛ける
「あれ?お前らも居たのか?」
オライオンに言われザッツロードたちが近くへ来る ザッツロードたちの姿を見たスカルが言う
「止めに入らなかったんだな?お前ら仲間だろ?それとも~ こいつが勝つって 分かってたからか?」
スカルの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「いえ、どっちが勝つかって言うより… 止めても止められないだろうと思って」
ザッツロードの返答にスカルが軽く笑って言う
「まったく、懐かしい風景だぜ~ 最近のあいつは あの頃みたいな元気が無くってよ 見てて痛々しい、ありゃ~イケねぇ…」
スカルの言葉にザッツロードが驚き言う
「あいつとは… もしや!?」
スカルがザッツロードとオライオンを見て言う
「一昨日も来て 嫌がるカイザの奴に無理言って 船出させてたぜ?ヘクターがよ?」
スカルの言葉にザッツロードたちが驚く オライオンがスカルへ掴みかかって言う
「親父が!?親父が来てたのか!?」
オライオンの勢いに驚いたスカルが 平静を取り戻しオライオンの手を払いながら言う
「ああ、しょっちゅう来ちゃー カイザの奴に突っかかって 俺を相棒の所へ連れてけー!の一点張りだその度にカイザの奴が 俺を代わりに行かせようとしやがるから こっちも堪ったモンじゃねぇよ …それもあんな顔して言われちゃぁな ありゃイケねぇ~」
話を聞いていたザッツロードが問う
「貴方を代わりに行かせようと と言う事は 貴方も結界の島の場所を知っているのですか!?」
スカルが頷いて言う
「ああ、知ってるさ って~か、今じゃこの港で知らねぇ船乗りは居ねぇ 恐ろしい魔王の島だぜ?当然だろ?でもってぇ~ あの辺りはいっつも時化ってやがるから 誰も近づけねぇ~ってモンだ」
話を聞いていたリーザロッテが言う
「しかし、海賊カイザなら近づけるのでしょう?貴方も彼の知り合いの海賊なら 同様の事が出来るのではなくて?」
リーザロッテの言葉にスカルが笑って言う
「あっははははー、海賊か~俺がね~?」
スカルの言葉にザッツロードたちが驚く ザッツロードが問う
「貴方は海賊ではないのですか?」
ザッツロードの言葉にスカルが苦笑して言う
「お前らソルベキアの海賊討伐令を知らねぇのか?まぁ、陸に住んでる連中にゃー かんけーねぇ話だもんなぁ?」
ザッツロードたちが顔を見合わせる ザッツロードの無言の問いにリーザロッテが顔を横に振る その様子を見ていたスカルが溜め息を吐いて言う
「まぁ、そういう事だ、今は大人しく様子見中… じゃ、そういう事で!」
スカルが立ち去る ザッツロードが呼び止める
「待って下さいスカル!」
スカルがザッツロードらを振り返って言う
「悪いが、俺たちは船を出してやれねぇ ソルベキアの連中より 何より あの海域に行くって事が それだけの事だって話だ… じゃあな!」
スカルが立ち去る ザッツロードたちが顔を見合わせて リーザロッテが言う
「やはり 海賊カイザを探すしかない様ね」
レイトが言う
「しかしその者は ヘクターと言う者と一昨日港を出てしまったとの事 一度出た船が戻るのはいつになるのか…」
ヴェインが続けて言う
「おまけに行き先は 例の結界の島であるかもしれない」
シャルロッテがオドオド言う
「ぶ、無事にっ 戻ってきて頂けると 良いですが…」
ソニヤが怒って言う
「ちょっと!それどお~言う意味よ!?」
シャルロッテが驚いて言う
「ご、ごめんなさいっ」
ラナが腕組みをして言う
「本当に結界の島へ行ったのなら 何か方法を見つけたとか?」
ラナの言葉にソニヤが問う
「方法って何のよ?」
ラナが言う
「決まってるじゃない!ヘクターって言ったら先代勇者たちの仲間よ?私たちと同じ様に悪魔力に対応する事を調べているのでしょう?」
オライオンが顔を横に振って言う
「いや、親父は 相棒のプログラマーを助ける事しか考えて無いぜ?」
リーザロッテが少し怒って言う
「そんな!無責任な!」
ザッツロードが視線を落として言う
「いえ、彼はそうであっても仕方ないです それに、悪魔力へ対応する方法は僕たちが発見したではありませんか?」
途中から微笑を向けて言うザッツロード リーザロッテがそっぽを向いて言う
「ま、まぁそうよね!私たちが良案を得たのだから 良いわ 許してあげる!」
ザッツロードが苦笑する
【 アバロン城 】
玉座の間 ヴィクトールの前に跪くザッツロードが言う
「…と言う事で 海賊カイザは一昨日海へ出てしまったと」
ヴィクトールが言う
「実は、貴公らをヴィルトンへ向かわせて直ぐ その知らせを受けていたのだ 無駄足をさせてすまなかった」
ヴィクトールの言葉に少し驚くザッツロード 間を置いて言う
「…それと、聞いた所によると カイザと一緒に先代勇者の仲間であった アバロンの大剣使いヘクターの姿も確認されているとの事です もしかしたら 彼らの行き先は」
ヴィクトールが頷いて言う
「ああ、ヘクターが カイザと共に 結界の島へ向かってしまったとの事だ」
ザッツロードと仲間たちが驚きヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが少し言い辛そうに言う
「貴公らも知っての通り、あの島に現在張られている結界は ヘクターの相棒だったプログラマーの作ったプログラムと彼自身の意思で守られている バッツスクロイツの話によると 島の悪魔力を中和させるには その結界を解除させなければならないそうだ」
話を聞いていたリーザロッテが皆から一歩前へ出て言う
「しかし、ヴィクトール皇帝陛下、結界を張ったプログラマーの捜索は5年前に そのヘクターとヴェルアロンスライツァーらで行い 発見出来なかったと伺いましたわ」
リーザロッテの言葉にザッツロードが付け加える
「その時、プログラマーが使っていたモバイルPCから結界の期限を確認したと」
ヴィクトールが頷き言う
「そう、彼の発見は出来なかった しかし、ローレシアの研究結果である 宝玉の力を維持する為には人の意思が必要である という情報は どうやら間違えではないらしいのだ そうなると」
ヴィクトールの言葉にソニヤが声を上げる
「そのプログラマーは 生きているのね!?」
ソニヤの言葉にヴィクトールが頷いて言う
「その可能性が 有力とされる」
皆の表情が明るくなる オライオンが苦笑して両手を頭の後ろに回して言う
「まーったく!だったら親父も もう少しだけ待って 俺たちと一緒に行けば良いのによ~」
オライオンの言葉に皆が笑う ヴィクトールだけが笑わず表情を暗くする その様子に気付いてザッツロードが問う
「ヴィクトール皇帝陛下?何か問題でも?」
ザッツロードの言葉に皆が再びヴィクトールへ視線を向ける ヴィクトールが静かに言う
「あの島には悪魔力が蓄積されている、そして 過去、竜族の者が結界の防人として残った結果 その竜族が現在貴公らへ討伐を命じてある かの魔王に成り果ててしまった」
ザッツロードがハッとして言う
「で、では そのプログラマーも…!?」
ザッツロードの言葉に仲間たちから息を飲む声が聞こえる ヴィクトールが顔を横に振って言う
「…そうと決められている訳ではない ただ、可能性は高い …それをヘクターへ伝えた所 彼が飛び出して行ってしまったのだ 他に伝える方法が無かったとは言え 少々軽率であったかもしれないな」
ザッツロードたちが視線を落とす リーザロッテが問う
「ヴィクトール皇帝陛下、それで、海賊カイザとは接触出来ず その者の友人であるスカルと言う元海賊へ 交渉をしたのですが それも 叶いませんでした その者の話では あの海域へ行ける船乗りは 居ないのではないかとの事です これでは魔王退治が出来ません」
リーザロッテの言葉に皆の視線がヴィクトールへ向く ヴィクトールが少し考えてから言う
「ああ、カイザがヘクターと共に島へ向かってしまった事を受け 次の案として名の挙がる者が居るのだが…」
言葉を止めるヴィクトールを疑問して 仲間たちが顔を見合わせる ザッツロードが言う
「私たちを島へ送れる船乗りが居るのでしたら 我々で再び その者を捜索して参ります!」
ザッツロードの打診にヴィクトールが顔を横に振って言う
「いや、居場所は分かっている ただ 1つ問題があってな」
ザッツロードが再び問う
「問題とは?」
リーザロッテが声を上げる
「何か問題があるのでしたら 私たちが解決致しますわ!」
リーザロッテの言葉にザッツロードがヴィクトールへ向いて頷いて同意を示して言う
「私たちに出来る事でしたら 何でもします!どうかその問題を教えてください」
ザッツロードが真剣な眼差しでヴィクトールを見上げる ヴィクトールが一度息を吐いて言い辛そうに言う
「…では 貴公らは… …天使 という者の存在を信じるか?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「…え?…天使?」
沈黙が流れる ヴィクトールが溜め息を吐いて言う
「正直、私には信じ難い 先住民族や北の国までは信じられたが… 」
ソニヤが首を傾げて言う
「…まさか…天使様に連れて行ってもらうって言うんじゃ…」
ヴィクトールが顔を横に振って言う
「いや、そうではない …ただ その存在を信じ 探している男が居るのだ その者なら貴公らを あの島へ 連れて行けると思うのだが」
ラナが呆れた声で小声で言う
「…別の島へ連れて行かれなければ良いんだけど」
隣のシャルロッテが同じく呆れた表情で言う
「て、天国って島だったら… 困りますねっ?」
彼女らの内緒話にヴィクトールが咳払いを送る ラナとシャルロッテが焦る ヴィクトールが言う
「まぁ… 今回は世界を救う為の航海と言う事になる 彼も恐らく分かってくれるであろう」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが言う
「もし、我々を島へ連れて行く交換条件に その… 天使様を探してくれと言われたら…?」
途中から苦笑して問うザッツロードへ ヴィクトールが言い辛そうに言う
「当人曰く… 貴公らにも参戦してもらった 我らアバロンとソルベキアの戦い その折 彼はアバロン運河からその存在を確認したと言うのだ…」
ザッツロードが驚き仲間たちが顔を見合わせる レイトとヴェインが話す
「戦場で天国へ召す者を探していたのであろうか?」
「俺の聞いた話では 戦場に居る天使はヴァルキリーと言うらしい 戦場で天国へ連れ去る者を探すのだとか…」
2人の会話にリーザロッテが身を震わせ言う
「そ、それではっ 折角見つけても捕まえられないじゃないっ!」
セーリアが苦笑する横でソニヤが言う
「天使を捕まえるだなんて…出来る気がしないわ」
話を聞いていたオライオンが首を傾げて言う
「あの戦いの時ー 俺らは丁度 アバロン運河に近いところに居たけどよー 空に飛んでるのっつったら ドラゴンになってたバーネット第二皇帝陛下かシュライツだけだったぜ?」
オライオンの言葉に皆の視線がオライオンへ集まり 次に隣に浮かぶシュライツへ向く リーザロッテが腕組みをして言う
「あなたも天使みたいに浮かんでいらっしゃるのだから 私たちより天使の近くに居たのではなくて?」
リーザロッテの言葉にシュライツがビクッと身を震わせ 強く顔を横に振って否定する そのローブの下から白い羽が落ち それに気付いたセーリアが拾い不思議そうに眺めてからシュライツへ渡して言う
「はい、これ、落ちたわよ?羽飾りかしら?」
セーリアの言葉にオライオンが振り返って言う
「ああ、こいつ抜け羽激しくてよー」
オライオンが苦笑しながらそれを受け取って シュライツの前でひらひらさせる シュライツが照れる その様子を眺めていたソニヤとラナ、リーザロッテが顔を見合わせて 3人でシュライツを囲む オライオンが驚く シュライツが疑問する ソニヤが言う
「オライオン、今さ~?」
続いてリーザロッテが言う
「戦いの最中 貴方方は丁度アバロン運河の近くに居らしたと仰ったわよね?」
オライオンが首を傾げて言う
「ああ、居たぜ?だから知ってるんだ、アバロン運河の空には 何も居なかったって」
ラナが呆れて言う
「その何も居ないアバロン運河の上空には 貴方の相棒が浮いていたり したんじゃないの?」
ラナの言葉にオライオンが頷いて言う
「ああ、そうだな!シュライツだけが居たぜ?」
オライオンの言葉を聞いた3人が頷き合って 3人で一気にシュライツのローブを取り外す シュライツが驚いて悲鳴を上げてオライオンの背に隠れる 皆がシュライツの背にある白い翼に驚く シュライツが怒る オライオンが困った表情で言う
「あー 何するんだよ?驚いてるじゃねーか」
ザッツロードが驚いた表情のままヴィクトールへ言う
「あ…あの… ヴィクトール皇帝陛下 …天使が居ました」
ヴィクトールが苦笑して言う
「あ、ああ… その様だな?私も …信じる事にしよう」
シュライツがロープでぐるぐる巻きにされ悲鳴を上げている オライオンが慌てて言う
「俺の相棒に 何するんだー!」
ソニヤ、ラナ、リーザロッテが当然な顔をしてシュライツを囲って立っている セーリアとシャルロッテが苦笑している ザッツロードがその状況を確認し 視線をヴィクトールへ戻して問う
「それで ヴィクトール皇帝陛下、その、我々を島へ連れて行く事が出来る 船乗りというのは 今何処に…?」
ヴィクトールがザッツロードの後方に居る彼らの様子を確認しつつ ザッツロードへ顔を向けて言う
「ああ その者の名はカイザJr、言うまでも無く海賊カイザの息子だ 今はシュレイザー国の港に船を泊めていると連絡を受けている 貴公らがこれから向かってくれると言うのであれば 私の方から留まっておく様 伝えておこう」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが敬礼して言う
「ありがとうございます!直ぐに向かいます!」
ヴィクトールが頷いて言う
「うん… それは良いが、あれを手土産にすると言うのは… どうなのだろうか?」
ヴィクトールが苦笑する ザッツロードが一度振り返り 苦笑しながら言う
「あ…いや… た、多分大丈夫かと?」
ザッツロードの後ろから シュライツの悲鳴とオライオンの声が聞こえる
玉座の間を出たザッツロードたち ソニヤがザッツロードへ飛びついて言う
「ねぇザッツ!カイザJrはヴィクトール陛下が港に足止めして置いてくれるんだしさ?ロキとヴェルに連絡取ってみようよー!」
ソニヤのはしゃぎ様に セーリアが苦笑しながら言う
「ソニヤったら ロスラグの姿が見たいのよね?」
セーリアに指摘されたソニヤが一瞬焦り 両手を自分の前で横に振って言う
「え!?ほ、ほら、だってっ 先住民族の姿は!確認しておいた方が い、良いでしょ!?皆も!」
ザッツロードが苦笑して言う
「先住民族では無いけれど 先住民族と同じ様に姿を変えた バーネット第二皇帝陛下の姿は見たのだから 何となく分かる気もするけど…」
ザッツロードの返答にソニヤが焦り言い訳を続ける
「あ、あああ、あれはドラゴンだったじゃない!?ロスラグは犬なのよ!?」
ラナが腕組みをしてそっぽを向いて言う
「犬の方が尚更 想像付くわよね?」
ソニヤがラナへ向いて怒る ザッツロードが苦笑して言う
「まぁ、向こうの進行状態を ちょっと確認しておくのは良いかもしれないね?」
ソニヤが表情を明るめる ザッツロードが笑って通信機を取り出して操作する
皆がザッツロードの通信機に注目する 間も無くしてロキが通信に出る
『…こちらロキとヴェルアロンスライツァー …と …その他 だ』 『ッ!?ぅわんっ!』
ロキの言葉にザッツロードが苦笑する ロキの声に続き通信の向こうで不満そうな犬の鳴き声が入る ザッツロードが表情を戻して言う
「こちらザッツロードと仲間たちです、ロキ、そちらの状況はどうだろう?」
ザッツロードの問いに ロキが表情を変えないまま 間を置いて声調を変えずに答える
『…スプローニ国第二部隊 隊長、副隊長 両隊長が 日々健康的に 犬の散歩へ励んでいる』 『わんわんっ!』
ザッツロードが苦笑して言う
「あ… はは… それは良い事だね?」
ザッツロードが表情を引きつらせる ラナが呆れて言う
「ロキ 相当怒ってるわ」
ラナの横でセーリアが苦笑する ザッツロードが気を取り直して言う
「そ、それで、魔力穴は もう掘り始めているのかな?」
ロキが頷いて言う
『…すでに3箇所を終えている 我々の他にも同作業を行っている部隊がある 恐らく今日、明日中にも終了すると思われる』
ロキの報告にザッツロードが表情を明るめ言う
「それでは問題なく終了しそうだね?」
ロキが答える
『…問題ない、バッツスクロイツの方も順調だそうだ、そちらはどうだ?』
ロキの言葉にザッツロードが後方を振り返る ロープを外されたシュライツがオライオンの背に隠れながら自分を縛ったリーザロッテらを怒っている リーザロッテがそっぽを向いている ザッツロードが通信機へ向き直って言う
「う、うん、大丈夫だと思うよ」
ロキが言う
『…そうか こちらも終了次第合流する』
ロキが言い終えると共に通信を切ろうとする ソニヤが声を上げる ザッツロードが慌ててロキを止める
「あ!待ってくれ!ロキ!」
ロキが疑問する ザッツロードが苦笑して言う
「あの… 仲間がロスラグの姿を確認しておきたいって言うんだけど」
ソニヤが身を乗り出して通信機を覗き込む 通信機の中のロキが沈黙した後に言う
『…普通の犬だが?』 『!? わ、わんっわんっ!』
ザッツロードが苦笑する ソニヤが声を上げる
「いいのー!見せて見せてー!」
ソニヤの頼みに ロキが仕方なさそうに後方を確認して移動する ザッツロードの周囲に仲間たちが集まり通信機を覗き込む ザッツロードが苦笑する 通信機からロキの声が聞こえる
『…コレで良いか?』
通信機に可愛い小型犬が映る ザッツロードと仲間たちが驚く ソニヤが歓声を上げる
「可愛い~!!」
ザッツロードも驚いて言う
「ほ、ホントだ…」
画面が切り替わり ロキが通信機を 犬の散歩途中の女性の足下で 苦笑する女性のもと 小型犬の姿を通信機に映している ロキの後ろでヴェルアロンスライツァーが 大きな犬を横に従えた状態で言う
「ロキ、それは隊員Aではない そして 恐らく、先住民族でもない 通常の犬と思われる」
ロスラグが吠える
「わん!わん!わんっ!…くぅ~ん…」(俺はこっちッス!そっちじゃないッス!ロキ隊長っ!…ひどいッスよ~…)
画面が切り替わり ザッツロードが苦笑している ソニヤが声を上げる
「違う犬映してどーすんのよ!」
ザッツロードの仲間たちが苦笑する 通信機から再びロキの声がする
『…コレだった』 『わんっ!わわんっ!わんぅ!』
通信機に大きな犬が映る ザッツロードたちがおおーと声を上げる ラナが言う
「犬と言うより 狼に近い感じね」
ラナの言葉にロスラグが喜んで尻尾を振って吠える
『わんっ!』(そうなんッス!)
ザッツロードが苦笑して言う
「でも、本人達も犬って言ってたよね?」
ザッツロードの言葉にロスラグが怒って吠える
『わわんっ!う~~っわんっ!』(うるさいッス!ヘボ勇者は黙ってろッス!)
通信機にロキとヴェルアロンスライツァーが映り言う
『…以上だ では作業に戻る』
ザッツロードが表情を戻して言う
「あ、うん、よろしく 一応、そちらも気を付けて」
ロキが言う
『…了解』
通信が切れる ザッツロードが皆へ視線を向けて言う
「向こうもバッツも順調みたいだし、僕達も行こう」
皆が頷く リーザロッテが言う
「私たちが足を引っ張る訳には行かないわ 急ぎましょ?」
ソニヤがシュライツを振り返ってから言う
「でも、本当に 天使様を見つけてこなきゃダメって 言われたら?」
リーザロッテがソニヤと同様にシュライツを見てから言う
「あれを差しあげたら良ろしいのではなくて?」
シュライツが怒る ザッツロードが苦笑してから言う
「いや、その時は… 世界の危機だって事で 交渉してみましょう?」
ザッツロードの言葉を聞いて リーザロッテが腕組みをして言う
「まぁ、そうね?あれは背中に羽があるってだけで とても天使様とは思えないし?」
リーザロッテの言葉を聞いたヴェインが隣のレイトへ問う
「…ではリーザ様は何故あの者を縛り上げたのだ?」
レイトが苦笑しながら言う
「う…うむ… ちょっと試しただけ ではないか?好奇心…とか」
話を聞いていたシャルロッテが頬を赤くしながら言う
「ちょ、ちょっと… 危険な好奇心な気もしますぅ~」
リーザロッテが3人へ視線を向ける 3人が焦る 近くに居たロイが沈黙する
【 シュレイザー国 】
シュレイザー城下町へやってきたザッツロードたち 周囲を見渡してザッツロードが言う
「早速、港の方へ向かってカイザJrを探そう」
ザッツロードの言葉に皆が頷く ソニヤが城を見上げて言う
「ねぇ?あのシュレイザー国の元国王様も先住民族だったのよね?」
ザッツロードがソニヤへ振り向いて言う
「うん、そうだね 歴代のシュレイザー国の国王様もそうだったみたいだし」
ラナが問う
「なら あの元国王様も 今頃どこかで魔力穴を掘っているのかしら?ネズミの姿になって?」
ザッツロードが苦笑しその両脇でソニヤとラナが想像している ザッツロードが言う
「いや… たぶん指揮を執ってるんじゃ無いかな?元とは言え国王様だった訳だし」
ソニヤが呆れた様子で言う
「そう言われてみると ネズミが王様だったなんて なんだか変な感じよね?」
ラナが腕組みをして言う
「ネズミと言ってもただのネズミではなくて 先住民族よ?それより あの感じで指揮を執られたら ちゃんと魔力穴が掘られるのか その方が心配よ」
ザッツロードが苦笑したまま言う
「どっちも元国王様に 失礼だよ まぁ分からなくは無いけど…」
セーリアが苦笑する その横でリーザロッテが呆れて言う
「あなたも 失礼でしてよ?」
ザッツロードたちが港へ行く カイザの海賊船に近い形の船を見つけてソニヤが指差して言う
「ねえ!あの船!」
ザッツロードがソニヤの指差す船を見て頷いて言う
「うん、カイザの海賊船にそっくりだ 行ってみよう!」
ザッツロードたちが走って船へ向かう 甲板へ上がるザッツロードたち 甲板では海賊達が昼間から酒を飲み交わし話をしている
「おい~?まだ出港しねぇ~のかぁ~?もう飲めねぇ~よ~」
「アバロン帝国の皇帝さんから 出港停止食らっちまってんだ 何でも頼みごとがあるだとかよ~?」
「皇帝さん直々のご命令じゃぁ~ しょうがねぇ~…」
「いつから海賊は 皇帝さんのペットに成り下がったんだぁ?…まぁ ソルベキアに掴まっちまうよかぁマシかぁ?」
「どっちもゴメンだぜぇ」
ザッツロードが苦笑を表情にして周囲を見渡す ザッツロードに気付いた海賊が声を掛けて来る
「おいお前、勝手に乗船するんじゃねえよ?」
ザッツロードがその海賊へ言う
「あ、すみません、そのアバロンのヴィクトール皇帝陛下から 連絡が入っていると思うのですが」
ザッツロードに続いて上がって来たリーザロッテが言う
「カイザJrと仰る方は どちらの方でして?私たちは彼に用があってよ?」
リーザロッテの言葉に海賊達が笑って言う
「ああ、ジュニアなら船室に居るぜ?最も いくらお嬢さんが色気使ったってぇ あのジュニアの気は引けねぇと思うけどな?」
海賊達が笑う リーザロッテが怒って言う
「失礼ね!誰が色気などで気を引いたりなんか!」
続いて甲板へ上がって来たソニヤが笑って言う
「リーザの色気じゃ~ 足りないわよね~?」
リーザロッテが振り返って言う
「なんですって!?あなたに言われたくなくってよ!?」
リーザロッテの言葉にソニヤが怒る
「それ!どぉおーいう意味よ!?」
ソニヤとリーザロッテがいがみ合う その横を皆が通り過ぎラナが言う
「置いてくわよ」
ソニヤとリーザロッテがハッとして追いかける
扉をノックをして船室へ入るザッツロード 中に居る人物に声をかける
「あ、あの あなたがカイザJrですか?」
出入り口へ背を向けて椅子に座っているカイザJrが 顔だけを向けて返事をする
「あ~?もしかして あんたらがアバロンの皇帝さんの使いか?ま~ちくたびれたって~の…」
ザッツロードが軽く笑って言う
「すみません あの、僕たちは」
言いながら船室へ入って行くザッツロードたち カイザJrがザッツロードの言葉を遮るように手を振って言う
「ああ、聞いてる、魔王の島へ連れてけって話だろ?」
ザッツロードが表情を明るめて言う
「それでは!?」
カイザJrがザッツロードたちへ向いて言う
「悪いけど パス!」
ザッツロードとソニヤが声を上げる
「「えぇえ!?」」
カイザJrが耳を塞ぐ仕草をして見せる ザッツロードがカイザJrへ近づいて言う
「そ、そんなっ 世界を救うためなんです!お願いします!」
カイザJrが呆れた顔をして言う
「あのなぁ~?あんな所行ったら 世界が終る前に俺たちが終っちまうっつーの!」
リーザロッテが近くへ行って勢いをつけて言う
「それで世界が救われるのなら!喜んでその犠牲になるべきよ!」
リーザロッテの気迫に一瞬押されたカイザJrが怒って言う
「じょーだんじゃねぇ!世界が助かったって俺らが助からなかったら意味ねぇーっての!」
リーザロッテが怒って言う
「なんですってぇ!」
カイザJrへ掴みかかろうとするのをザッツロードが止める リーザロッテが言う
「あなたのお父様は!勇敢にもその魔王の島へ向かったのでしてよ!?貴方ご存じなくって!?」
リーザロッテの言葉にカイザJrが言う
「親父には天使様が付いてっから大丈夫なんだ!俺には付いてねぇから無理なんだよ!」
言い放ったカイザJrが あっと小さく声を上げ赤面して視線を逸らす ザッツロードたちが顔を見合わせる 皆がシュライツへ視線を向ける シュライツがオライオンの背に回ってぶんぶんと顔を横へ振る それを見たザッツロードがカイザJrへ視線を戻して言う
「あなたが天使を探していると言うお話は ヴィクトール皇帝陛下から伺いました その… あなたのお父上に付いている… と言うのは?本当なんですか?」
カイザJrが溜め息を吐いてから言う
「…俺だって信じちゃいなかった だが 親父は信じてる しかも それが本当みてぇに 親父がその天使様を見て その導きに従って行くと 必ず上手く行くんだ」
カイザJrの言葉を聞いたザッツロードの仲間たちが顔を見合わせる ザッツロードが再び問う
「確か貴方も天使を見たと…アバロン運河で」
ザッツロードがそこまで言うと カイザJrが頷いて言う
「アバロン運河でも見たけど その前に海上でも見てよ?そっちの天使様は親父が話してたのと同じ感じで 何も言わずに指差してよ… 俺もまさかと思ってその方位へ船を進めたら アバロン運河を北上する事になったんだ、で、そのまま行ったら別の天使様をみっけてよ …まぁ あん時は初めて天使様を見ちまったから 興奮しててどっちも同じ天使様だと思ったんだが」
カイザJrが言葉を切る ザッツロードたちがシュライツへ視線を向ける カイザJrが再び言う
「アバロン運河で見た天使様は なんっつーか 随分下っ端みたいな天使様でよー?あーははははっ」
カイザJrが大笑いする シュライツが怒って飛び掛ろうとする 慌てたザッツロードがシュライツのローブを掴む ローブが外れシュライツの白い翼が怒りのままに大きく開く シュライツは気付かずに 奇怪な声で怒りを音にしている カイザJrが目を丸くする ザッツロードたちが一瞬焦った後 苦笑する カイザJrがシュライツを指差して言う
「お、お前… あん時の…」
シュライツが自分のローブが外されている事に気付いて驚き 振り返ってローブを持つザッツロードを叱る ザッツロードが苦笑したまま頭を掻いて謝る カイザJrが椅子から立ち上がり シュライツを掴んで言う
「お、おい!天使!お前天使様か!?この際 下っ端の方でもかまわねぇ!俺もっ!親父みたいに導いてくれんのか!?」
シュライツが一瞬驚き 下っ端の言葉に怒る オライオンがザッツロードたちを掻き分けて来て言う
「ちょっと待てっ!こいつは俺の相棒だ!お前の相棒にはならねぇよ!」
カイザJrがオライオンに向き直って言う
「おめーには聞いてねぇよ!俺は天使様に聞いてんだ」
オライオンが怒って言う
「だから!こいつは俺の相棒で お前の天使様じゃねえって言ってんだ!」
カイザJrとオライオンが言い合いになる シュライツが不思議そうに眺め その間に近くのテーブルにあるチーズの塊を見つけ そちらへ向かって行く その間にもカイザJrとオライオンの言い合いが続く カイザJrが叫ぶ
「だからおめーには聞いてねぇって言ってんだ!」
オライオンが叫ぶ
「ならシュライツに聞けってんだ!おいっシュライツ!」
カイザJrとオライオンが同時にシュライツへ顔を向ける シュライツはテーブルのチーズの塊から いくつか切り落としてあるチーズ片を喜んで食べている オライオンが焦る カイザJrが疑問してシュライツの近くへ行って問う
「何だお前?チーズがそんなに好きなのか?」
カイザJrの問いにシュライツが嬉しそうに頷く カイザJrが大きなチーズの塊をナイフで切ってシュライツに与える シュライツがチーズを受け取って食べる カイザJrがにやりと笑って チーズの塊を片手にシュライツへ問う
「おいシュライツ!いや…下っ端天使様!俺と一緒に海に行くか!?」
シュライツが喜んで肯定する オライオンが叫ぶ
「あーー!!てめぇー!汚ねぇぞ!!」
オライオンがシュライツとカイザJrの下へ行こうとする リーザロッテがレイトとヴェインを呼ぶ
「レイト!ヴェイン!」
リーザロッテが指差す レイトとヴェインが言う
「「はっ!姫様っ!」」
2人が返事と共にオライオンを押さえる リーザロッテがカイザJrの下へ向かう ザッツロードが呆気に取られて見ている リーザロッテが言う
「例え下っ端でも 天使様がご一緒なら 私たちを魔王の島まで送って下さるのよね?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが驚き慌てて近くへ行って押さえようとするが 2人の会話が始まってしまう カイザJrが言う
「う~ん…そうだなぁ 天使様の交換条件に 魔王の島行きかぁ~」
カイザJrがチーズ片をシュライツに与えながら考える オライオンがレイトとヴェインに押さえられたまま叫ぶ
「天使様じゃねーっつってんだろ!シュライツ!おめーもそんな奴に餌付けられてんじゃねー!」
シュライツが与えられたチーズを喜んで食べている ザッツロードがどうしようかと困っている カイザJrが悩んでいる
「天使様のパワーと魔王のパワー…う~ん…」
リーザロッテが カイザJrの考えを後押しする様に言う
「現地にはあなたのお父様もいらっしゃるのでしょ!?なら、現地には下っ端では無い天使様もいらしてよ!?」
カイザJrがひらめいて言う
「お?…それもそうだなぁ?」
カイザJrの言葉にソニヤとラナが思わず声を上げる
「「それじゃ!」」
リーザロッテが2人の突然の参加に 頬を膨らせて言う
「貴方たち何もしないで ここだけシャシャリ出てくるなんてっ!」
ソニヤが照れてラナがそっぽを向く隣でセーリアが苦笑する カイザJrが言う
「おし、行ってやるよ!」
カイザJrの言葉にソニヤとラナとリーザロッテが同時に表情を明るめる それを横目に見てカイザJrが言う
「その代わり…」
カイザjrがにやりと笑む その言動にソニヤとラナが顔を見合わせソニヤが言う
「まさか…」
ラナが言う
「血は争わなくて良いのよ?」
リーザロッテが2人の様子に疑問する カイザJrが言う
「俺としては… やっぱり天使様には美人な女性姿を期待してたんだが… 残念ながらこの下っ端天使様は~ お前 男か?」
話の途中でシュライツの顔を覗き込んで問うカイザJr シュライツがチーズを食べながら頷く カイザJrががっかり肩を落としてから リーザロッテたちへ向き直って言う
「って事だ、だから その足りない部分って事で~ ちょっとそこの女性たちに?ご協力を頂こうかと…?」
レイトとヴェインが槍を手にカイザJrへ怒鳴る
「き、貴様!リーザ様には指一本触れさせん!!」「そんな羨ましい事をさせて堪まるか!外道め!」
カイザJrが2人の言動に驚き 両手で否定しながら言う
「ちょっ ちょっと待ったっ!?いくら俺だってそんな事言わねぇって… そりゃ それも良いけどよ… って 違う違う!」
再び近づいた2人の槍にカイザJrが慌てて否定してから 一度咳払いをして言う
「つまり あれだ!やっぱり魔王の島へ向かうだなんて 度胸の要る事するにはよ?それなりに~ 気合の入る言葉が欲しいなぁ~?なんてな?」
言いながらカイザJrがリーザロッテらへ視線を向ける ザッツロードと仲間たちが表情を引きつらせる ソニヤが言う
「やっぱり…」
リーザロッテが疑問しながら隣のラナへ問う
「ちょっと?どういう意味でして?」
ラナが溜め息を付いて言う
「海賊カイザ親子は 魔王の島へ向かう時に 女性の頼み声が無いと 行く気にならないそうよ」
リーザロッテが衝撃を受けて言う
「な!?なんて はしたない方々なの!?」
リーザロッテの言葉にカイザJrが怒って言う
「な!?い、言ったなぁ!?女からの「お願いっ!」コールは男のロマンなんだよ!…な!?」
カイザJrがザッツロードへ同意を問う ザッツロードが驚いて答えに困る リーザロッテがザッツロードを睨みつける ザッツロードが焦って言う
「え?えぇえ!?そ、そんな… ぼ、僕は何もっ…」
ザッツロードが後退る カイザJrがにやりと笑って言う
「ま、良いんだぜ~?べつに~?あんなおっかねぇ~所に行かないで済むんなら?」
ザッツロードが慌てて言う
「そ、それは困るよっ!」
カイザJrが笑んで言う
「なら…?」
ザッツロードが困った表情でソニヤへ頼む
「ソニヤ、頼むよ!世界を救うには彼の協力が必要なんだ!」
頼まれたソニヤが驚いて言う
「ちょっ ちょっと!?なんで私に頼むのよ!?」
ソニヤが焦る リーザロッテが1つ溜め息を付いて言う
「さっさとなさい?別に 死んでしまう訳では無いのだから、」
リーザロッテの言葉にソニヤが怒って言う
「な、ならリーザがやりなさいよ!?別に死ぬ訳じゃないんだから!」
リーザロッテが慌てて言う
「な!?何を仰るの!?そんな死ぬより恥ずかしい目にあっては 生きていけなくてよ!?」
リーザロッテの言葉にラナが言う
「あら 世界を守る為に喜んで犠牲になるのかと思ったけど?」
ラナの言葉にリーザロッテが言う
「なら貴方が犠牲になったらどうなの!?」
ラナが焦って言う
「い、嫌よ冗談じゃない や、やっぱり先代に続いて この役目はセーリアよ!」
セーリアが驚いて言う
「え!?」
皆の視線がセーリアへ向く セーリアが顔を赤くして手で覆って言う
「わ、私は出来ないわ!こ、今回はシャルなんてどうかしら?!」
隣のシャルロッテが悲鳴を上げる
「わ!?わわあわわ 私っ そ、そんな事 出来ないですっ ご、ごめんなさいっ」
皆の意見にザッツロードが苦笑しカイザJrが頭を抱えて言う
「あのよぉ~ 別に死なねぇーし 生きていけるし 犠牲にもならねぇーから… 全員で!な?」
カイザJrが途中から顔を上げてにやりと笑う ザッツロードが苦笑し 女性達が顔を見合わせる
ソニヤが捨てるように言う
「お願い」
ラナが無表情に言う
「お願い」
セーリアが苦笑したまま言う
「お、お願いします」
リーザロッテが膨れっ面で言う
「お願いするわ」
シャルロッテが恥ずかしそうに言う
「お、お願いっしますっ…」
カイザJrが呆れ顔で言う
「…もっとカワユく!あと名前も入れてくれる?はい、もう一回」
ソニヤが捨てるように言う
「お願い、カイザJr」
ラナが無表情に言う
「お願い カイザJr」
セーリアが苦笑したまま言う
「お、お願いします カイザJr」
リーザロッテが膨れっ面で言う
「お願いするって言ってるのよ カイザJr」
シャルロッテが恥ずかしそうに言う
「お、おおおお願いっしますっ…か、カイザJr」
カイザJrが呆れ顔で 頭を掻いて言う
「う~ん じゃぁ シャルちゃん合格」
シャルロッテが喜んで言う
「あ、ありがとうございますっ」
シャルロッテが恥ずかしがりながら喜んで抜ける 他の女性が怒る ザッツロードが苦笑している カイザJrが渋々言う
「後の人 ぜんっぜんダメ!もっと感情入れて!心からー!」
リーザロッテが怒ってテーブルを叩く
「こんな事している間にも 世界は悪魔力に脅かされているのよ!?貴方!!分かっていらっしゃるの!?」
一瞬押されたカイザJrが 溜め息を吐いて言う
「んじゃ行かな~い」
リーザロッテが怒る ザッツロードが落ち着かせようと言う
「ま、まぁまぁ…?まだ他のみんなの準備が終って無いと思いますから もう少し練習したらきっと…?」
リーザロッテがザッツロードの言葉に怒って言う
「私に こんな事を練習しろと仰るの!?」
ザッツロードが怒られて苦笑しながら一歩後退り言う
「えっ!?えっと…」
ザッツロードの通信機が着信する ザッツロードが助かったとばかりに通信機を取り出してリーザロッテから逃れる ザッツロードが通信に出て言う
「はい、こちらザッツロードと仲間たちです」
通信機のモニターにロキが映って言う
『こちらロキとヴェルアロンスライツァーとバッツスクロイツと …その他1名』 『ヴェルアロンロキスライグッス!』
通信機からロキとロスラグの声が聞こえる ザッツロードと仲間たちが驚く ザッツロードが言う
「あ、ロスラグが人の姿に戻ったって事は もしかして作業は終ったのかい!?」
ザッツロードの言葉に 通信機の中のロキが頷く ロスラグが映り込んで言う
『人の姿に戻ったんじゃなくて 人の姿に変身したんッス!ヘボ勇者!』
ザッツロードが苦笑する ソニヤがモニターを覗き込んで言う
「え~?もう戻っちゃったのぉ?犬の方が可愛かったのにー」
ソニヤの言葉にシャルロッテも言う
「あっ わ、私も ロスラグさんは先住民族の姿の方がっ す、素敵だと思いますっ」
2人の言葉にロスラグが表情を明るめて言う
『え!?まじッスか!?嬉しいッス!あ~でも~俺としてはこっちの姿も気に入ってるッスよ?んーでもーどっちも好きかなぁ~なんて?あははは… むぎゅっ!』
ロスラグが退かされてロキに戻る
『…こちらの作業は終了した 諸卿と合流しようと思うのだが そちらの状況報告を頼む』
ザッツロードが困って言う
「え?あ…えっとぉ~」
ロキの言葉にザッツロードがカイザJrへ視線を向ける カイザJrがぷいっと顔を背ける ザッツロードが苦笑のままモニターへ戻って言う
「出来るだけ…頑張ってもらえるように お願いしてみます…」
ロキがモニターの中で首を傾げて言う
『…どう言う意味だ?』 『ヘボ勇者は状況報告も出来ないッスか?』 『黙っていろ隊員A』 『まだ隊員Aッスか!?俺頑張ったのに…』
ロキの後ろの声が入る ザッツロードが困った様子で自分の後方を向く ソニヤがカイザJrへ怒って言う
「お願いって言ってるじゃない!カイザJr!!」
カイザJrが焦って言う
「怒ってどーするよ!?」
状況を確認したザッツロードがモニターへ顔を戻して言う
「ちょっと 今練習しているみたいなので もう少ししたら何とかなると思います た、たぶん…」
ザッツロードが視線を逸らして語尾を弱める モニターの中のロキが疑問しながらも言う
『…そうか 良く分からないが …では俺とヴェルアロンスライツァーとコレは』 『ヴェルアロンロキスライグッス!』 『ヴィルトンの港町で諸卿を待っている バッツスクロイツは大陸に残り CITCの制御を行うとの事だ』
ロキの言葉にザッツロードが頷いて言う
「分かりました、僕たちもなるべく早くヴィルトンの港町へ向かいます」
ロキが言う
『…了解』
通信を終えたザッツロードが振り返って言う
「ロキたちの方は作業が終って ヴィルトンの港町で待っているとの事です、バッツはCITCの制御をするために大陸に残ると… 僕たちが… 最後みたいです」
言い終えると共にザッツロードが苦笑する シャルロッテを除く女性陣がザッツロードから視線を逸らして顔を見合わせてからカイザJrへ向ける その迫力にカイザjrが後退って言う
「え…?いや、カワユく… お願いしたいんだけど な?な?」
カイザJrが恐れながら後退る ザッツロードが苦笑したまま言う
「ロキたちは多分アバロンに居ると思うんだ、だから… 急がないと… 彼らをとても待たせてしまうし」
シャルロッテを除く女性陣がザッツロードの言葉に肩の力を落として ソニヤが言う
「しょうがないわ…」
ラナが言う
「一番簡単な作業だった 私たちが待たせる事になるなんて…」
セーリアが言う
「私たちが足を引っ張ってしまう訳には行かないわ」
リーザロッテが言う
「この私が?足を引っ張るだなんて…」
女性陣が落ち込む シャルロッテが焦る カイザJrが焦りつつ言う
「え?いやぁ…そ、そんなに落ち込むのか?そんなに難しい事 頼んでねぇーつもりなんだけど?」
重い空気が室内に溜まる カイザJrがイライラと頭を掻いてから叫ぶ
「わーかった!連れてけば良いんだろ!?連れてけば!!…だから 皆してそんな暗い顔すんなってーの!葬式じゃあるまいし!」
カイザJrの言葉に皆が驚き顔を見合わせる ザッツロードが表情を明るめて言う
「ほ、本当かい!?カイザJrっ!?」
ザッツロードの言葉にカイザJrが溜め息を吐いて言う
「男に喜ばれても嬉しくねーからやめろ、とりあえず… 本当だから」
言い捨ててカイザJrが椅子から立ち上がる 女性陣が一気に喜んでソニヤが言う
「ありがとうっ!カイザJr!」
ラナが微笑して言う
「信じてたわっ!カイザJr!」
セーリアが笑顔で言う
「やっぱり頼りになるわ!カイザJr!」
リーザロッテが勝気に微笑んで言う
「もぅ…最初から分かっていたのよ?カイザJr?」
シャルロッテが思わず言う
「ほ、本当にっ 助かりますっ あ、ありがとうございますっ カイザJr!」
カイザJrが呆気に取られて女性陣を見て声を漏らす
「え…?え…?」
ザッツロードが苦笑している
甲板に飛び出したカイザJrがシュライツを小脇に叫ぶ
「てめぇーらー!!しゅっこーーだぁーーー!!おらおらおらぁあ!!もたもた してんじゃねぇえええ!!」
シュライツが面白そうに喜んでいる 女性陣が呆気にとられてソニヤが言う
「な…なに?」
ラナが言う
「急に やる気を出したわ」
セーリアが首を傾げて言う
「何か…良い事でもあったのかしら?」
リーザロッテが問う
「なに?まさかザッツロード王子のお願いにやる気が?」
シャルロッテが顔を赤くして言う
「そ、それはっ ちょ、ちょっと 危険な事ですぅ」
女性陣の感想を聞いて苦笑するザッツロードの隣でレイトが怒りに燃えている
「リーザ様にっ あんなに期待されていたとはっ」
隣でヴェインが悔しがっている
「あんな大勢の女性から 褒められるなどっ…」
ザッツロードが2人を落ち着かせながら言う
「ま、まぁまぁ?その… 皆も、自分達が カイザJrを褒めた事に 気付いていないみたいだし」
ザッツロードの隣でオライオンが怒る
「あいつ…っ!俺の相棒取りやがったっ!ぜってぇ~許さねぇ!!」
ザッツロードが困り苦笑で落ち着かせようと言う
「し、島へ着くまでの間だよ… き、きっと…」
オライオンがキッと振り返り言う
「島へ着くまでっ?着いたら返すのかっ!?」
ザッツロードがオライオンの強い視線に後退りながら言う
「え、えっと… た、たぶん…?」
【 ヴィルトンの港町 】
ザッツロードたちが甲板から町を見る 港に一番近い場所にある広場に人集りが出来ている ザッツロードが周囲を見渡しながら言う
「ロキとヴェルアロンスライツァーは… まだ来ては居ないみたいだ?」
仲間たちも辺りを見渡す リーザロッテが言う
「せっかく急がせたのに 向こうが遅れるだなんて」
船が船着場に着く カイザJrが近くへ来て言う
「同じ頃に向こうがアバロンを出たんなら 向こうの方が早いに決まってる もしかしたら待ちくたびれて どっかで飲んだくれてるんじゃねーのか?」
カイザJrの言葉にザッツロードが笑って言う
「あの2人に限って そんな事は無いと思うよ」
リーザロッテが頷いて言う
「そうよ、あの2人は海賊では無くってよ?2人とも優秀な兵士なのだから きっとすぐ近くで待機しているでしょうね?」
ソニヤが言う
「そうよ!魔王との決戦の前なんだし!」
言うと共に船を下りていくリーザロッテと仲間たち ザッツロードが言う
「2人を探してすぐにもどるから、出港の準備を頼むよ」
カイザJrが言う
「へいへい~」
ザッツロードと仲間が船を降りる 港に足をつけるとソニヤが言う
「所で さっき、あっちの広場で人集りが出来てたでしょ?もしかしたら 2人もあそこに居るんじゃない?」
ソニヤの言葉にラナが呆れた様子で言う
「あの2人は 誰かさんみたいな野次馬とは違うのよ?」
ソニヤがラナを振り返って言う
「誰が野次馬なのよ!?」
ラナが顔を逸らす ザッツロードとセーリアが苦笑してセーリアが言う
「でも、人が多いのなら 誰かに聞いてみると言うのにも 丁度良いんじゃないかしら?」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、僕もそう思うよ 行ってみよう」
ザッツロードたちが広場に辿り着く 人々が歓声を上げ大いに盛り上がっている ザッツロードが言う
「一体何があるのだろう?」
ソニヤが我慢できない様子で言う
「ねえ!ヴェルとロキの事を聞くのは後にして、ちょっとだけ覗いてみない!?ね!?ね!?」
ラナが呆れる ザッツロードとセーリアが苦笑して ザッツロードが言う
「うん、それじゃ ちょっとだけ見てみようか?」
セーリアが続けて言う
「カイザJrたちも待っているから 急がないといけないけれどね?」
2人の言葉に頷いたソニヤが喜んで走っていく ラナが恥ずかしがりながら言って後を追う
「し、仕方が無いからっ 私も…っ 行ってあげるわよ?」
ザッツロードとセーリアが顔を見合わせて笑い 2人も走って行く
ザッツロードたちが人集りを掻き分け前へ進み ザッツロードが青年に声をかける
「あの… 一体何があるんですか?」
声を掛けられた青年が 振り返って慌てて言う
「だ、誰でも良いッスから!早く あの2人を止めて欲しいッス!」
青年の顔を見たザッツロードが驚いて名を呼ぶ
「え?ロスラグ!?」
声を掛けられたロスラグも驚いてザッツロードを呼ぶ
「ヘ!?ヘボ勇者っ!!」
ロスラグの様子にザッツロードが問う
「一体どうしたんだい?なんで君が?」
ザッツロードの問いに ロスラグがどうしようかと慌ててから すぐに仕方ないと言った様子で 指を指して言う
「い、今は ヘボ勇者でも しょうがないッス!ロ、ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長がッ!!」
ロスラグがそこまで言った時 ソニヤがやっと人を掻き分けて前へ出て驚いて声を上げる
「ちょっ!?あの2人!一体 何やってんのよー!?」
ラナもやっと前へ出て驚く
「え…?あ、あの2人が…?」
セーリアもやっとたどり着き 目の前の光景に驚いて言葉を失う 全員が揃ったところでロスラグが叫ぶ
「ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長が け、喧嘩を仕掛けちゃったッスー!!」
皆が驚く そこへロキに殴り飛ばされた男が吹っ飛ばされてくる ザッツロードと仲間たちが驚く 男を追ってロキが近づいて来て ザッツロードとロスラグの前で男の襟首を締め上げる ロスラグが慌てて止める
「も、もう良いッスよ!ロキ隊長!やめてくださいッス!!」
ロスラグの悲鳴に近い声に ロキが少しの間止まり 締め上げていた男を手放す 尻餅を着いた男が慌てて逃げていく ロキが振り返るとヴェルアロンスライツァーに手放された男も逃げ出し周囲に座り込んでいた数人の男らも逃げ出していく 野次馬達が歓声を上げる ロスラグが息を吐いて落ち着く 状況が理解できないザッツロードと仲間たち そのザッツロードと仲間たちへ ロキとヴェルアロンスライツァーが視線を向ける ザッツロードたちが怯える ロキが切った唇の血を拭いながらザッツロードを見下ろして言う
「…諸卿を待っていた」
ザッツロードがビクッとする ラナがぽかーんと眺め ソニヤが呆気に取られた状態から怒って言う
「ふ… 普通に 待ってなさいよ!!」
出港した船の上 甲板で床に腰を下ろし ロキとヴェルアロンスライツァーが回復薬を一気飲みする ザッツロードとセーリアが苦笑する ソニヤが怒って言う
「これから魔王と戦おうって言うのに!何 無駄な体力使ってるのよ!?2人とも!!」
ヴェルアロンスライツァーが答える
「心配ない、ヴィルトンの港から島まで1日以上掛かる 体力の回復には十分だ」
ラナが呆れながら言う
「スプローニ国第二部隊の隊長と副隊長が 揃って町中で喧嘩だなんて」
ロキが返答する
「…ただの準備運動だ」
ザッツロードが問う
「一体どうして… 喧嘩なんてしていたんだい?」
ヴェルアロンスライツァーとロキが沈黙する セーリアがロスラグへ視線を向ける ロスラグが焦る ソニヤとラナがロスラグの焦りに気付いて近寄る ザッツロードが苦笑する ソニヤが言う
「ロスラグ?あなた理由を知ってるわよね?」
ラナが言う
「どうして この2人が 町中で喧嘩なんてしていたのか…」
2人が声を合わせる
「「言・い・な・さ・い!」」
ソニヤとラナに問われ ロスラグが後退って言う
「そ、それは… ッスね…」
ロスラグがロキとヴェルアロンスライツァーを見る 2人はそっぽを向いている ロスラグが視線をソニヤとラナへ戻す 2人が更に近づいて視線で尋問する ロスラグが更に後退る ロキとヴェルアロンスライツァーが立ち上がりヴェルアロンスライツァーが言う
「しばらく休ませて貰う」
続いてロキが言う
「…諸卿には関係の無い話だ」
2人が船室へ入って行く ロスラグが続こうとするが ソニヤとラナに道を塞がれる ロスラグが焦ると 2人に詰め寄られて観念して言う
「じ、実は… ヴィルトンの町でお前たちを待っている間に あの海賊の奴らの 話し声が聞こえて…」
皆がロスラグの話に聞き入る ロスラグがザッツロードたちを見渡してから 視線を逸らして話を続ける
「あいつら… スプローニ国のラグヴェルス陛下が 先住民族の犬を国民だって言った事を笑ってたッス… 最初は俺が それに怒って そいつらに怒鳴ったッス でも、怒鳴ってからあいつらが多人数だって事に気付いて… 俺は逃げようって思ったッスよ 丁度その時 別行動してたロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長が来て」
ロスラグの話を聞いていたソニヤが問う
「それで一緒になって喧嘩になったって事?」
ロスラグが顔を上げ 顔を横に振って言う
「ち、違うッス 最初ロキ隊長は 「コレが迷惑を掛けたな」って 俺を回収して立ち去ろうとしたッス けどその時 あいつらが… 言ったッス…」
ロスラグが視線を落とす ラナが首を傾げて問う
「何て?」
ロスラグが間を置いてから言う
「「先住民族だか何だか知らねぇが 犬ッコロと人間様を同等扱いするなんて ヘドが出るぜ」って…」
ザッツロードたちが顔を見合わせる ザッツロードが声を掛けようとする ロスラグが言う
「お、俺は 別にっ!あー言うのは慣れてたし… け、けど びっくりしたッス!その瞬間 あ、あのロキ隊長が その野郎をぶっ飛ばしてっ!」
驚くザッツロードたち ロスラグが慌てて言う
「スプローニ国では!他国での喧嘩は絶対ダメなんッス!何があっても 絶対なんッスよ!?スプローニ国憲法で決まってるんッス!…だから俺はロキ隊長を止めようとしたッス けどロキ隊長は… で、気がついたらっ ヴェルアロンスライツァー副隊長まであいつらと喧嘩になっちゃってたッス!俺1人で2人を止める事なんて無理ッスよ!いや、片方だけだって無理ッス!!」
ザッツロードたちが驚いていて ソニヤとラナが顔を見合わせ ソニヤが言う
「確かロキって…」
ラナが言う
「ものすごく スプローニ国憲法に詳しかったわよね」
ザッツロードが言う
「あのロキが… スプローニ国憲法まで破って…」
ソニヤとラナがザッツロードの言葉に頷いてロスラグへ視線を戻す ロスラグが笑って言う
「…俺、やっぱ後住民族も大好きッスよ!魔王になっちゃった先住民族の奴を楽にしてやったら… また皆で一緒に暮らすッス!」
ザッツロードたちが顔を見合わせ微笑む ロスラグがハッとしてザッツロードを指差して言う
「あ!でもヘボ勇者の事は やっぱり ちょっと嫌いなままッスからね!?」
ザッツロードが驚いて言う
「えぇええ!?そ、そんなぁ~」
ザッツロードが苦笑する 皆が笑う
ザッツロードが船室へ向かう 通路を歩き最初の扉の窓を覗くと リーザロッテと仲間たちが話をしているのが見える 次の扉を覗くと幾つかあるベッドでロキとヴェルアロンスライツァーが眠っている ロキのベッドの横でロスラグが床にしゃがんだまま眠っている ザッツロードが微笑して扉を開け中に入る ロスラグに毛布を掛けて 空いているベッドに腰を下ろし ベネテクト国でベーネットから預かった宝玉を眺める 宝玉をしまい ベッドに横になる
船が結界の島へ近づく
海上は荒れており 嵐の中 甲板に出ていたザッツロードたちが島を確認する ザッツロードが言う
「あれが…結界の島」
隣に居るソニヤが目を細めて言う
「ねえ!あそこに船が!」
言うと共に指差す 皆がその方向を見る ザッツロードが頷き 舵を操作するカイザJrの下へ走って行き カイザJrへ言う
「カイザJr!あそこに船が!」
ザッツロードの言葉にカイザJrが言う
「ああ!分かってるっ!親父のフェリペウス号だ!今 通信を繋ごうとしてんだが 嵐のせいで回線が安定しねぇ!」
カイザJrが通信機を確認しながら舵を切って言う
「…っく キツイゼ!潮の流れがメチャクチャだっ この先にはイケねぇよ!」
カイザJrの言葉にザッツロードが指を指して言う
「あの船のところまで行けないのかい!?」
ザッツロードの言動にカイザJrが悔しそうに言う
「ちくしょぉ!あのクソ親父!良い腕してやがるっ 一体どうやってあんなトコまで この潮の流れを見抜きやがった!?」
カイザJrが叫ぶと同時に 通信機からカイザの声が響く
『よ~お ジュニア!こんな馬鹿みてぇな所に 何処の馬鹿が来たかと思ったら 馬鹿息子のジュニアじゃね~か?』
カイザからの通信に驚いたカイザJrが言う
「クソ親父!?」
ザッツロードが気付いて言う
「カイザJr!?あの船のお父上と 回線が繋がったのかい!?」
ザッツロードの言葉にカイザJrが答える
「ああ!繋がった!おいっ!クソ親父!てめー どーやってそこまで行きやがった!?」
カイザJrの言葉にザッツロードが苦笑する 通信のカイザが笑って言う
『お~お~?なんっだよ?情けねぇな~ぁ?ジュニアは こんくれーでビビッてんのかぁ?あーははははは!』
カイザJrが怒鳴りながら舵を切る
「うるせぇー!さっさと教えろっていうんだよ!!」
急な旋回にザッツロードが驚く 通信のカイザの声が聞こえる
『しょうがねぇ~なぁ~?んじゃ特別にー スペシャルな海路図を 送ってやろうかぁ~?…どうしよっかなぁ~?』
カイザJrが言う
「おいっ!!余裕ねーえんだよ!早くしろって!!」
画面はカイザ 計器を操作しながら通信を続けて言う
「まぁまぁ、そう焦りなさんなって 今送ってやっから~ もうちょっとだけ パパ抜きでがんばりなさ~い?」
通信のカイザJrが叫ぶ
『気持ち悪ぃー言い方すんなっ!クソ親父!!』
画面はカイザJr 通信のデータ受信を確認して叫ぶ
「これか!?…な!?まじかよ!?この荒れた潮に乗ってけってのか!?あんた馬鹿だろ!?俺を殺す気か!!」
カイザJrの言葉にカイザが返す
『ま~ これ… じゃなきゃ~… なんて… だ… … …ははは… …』
通信に雑音が混ざり聞き取られない カイザJrが慌てて言う
「あ!?おいっ!!」
通信が切れる カイザJrが受信したデータを確認して悩む ザッツロードが覗き込んで言う
「通信は切れてしまったね 何か送ってもらったのだろ?どうなんだい?行けそうなのかい!?」
ザッツロードの言葉に カイザJrが受け取った海路図へ目を向けてから前方を向いて目を細める 高い波が来て慌てて舵を切る ザッツロードがしがみ付いて言う
「カイザJr!頼む!君だけが頼りなんだ!僕たちはあの島へ行かなくてはならない!」
カイザJrがザッツロードの言葉にもう一度海路図へ視線を向けて言う
「あ~!!だから言ってんだろ!!そういう言葉は!可愛い女の子に言わせろって!!」
カイザJrが言いながら思いっきり舵を切る 船が旋回する 島へ向かない方向に旋回した事にザッツロードが焦る カイザJrが叫ぶ
「あのクソ親父がこっちからだって 教えやがった!ちくしょぉお!行ってやるぜぇえ!!」
ザッツロードが表情を明るめて言う
「有難うカイザJr!島まで辿り着けたら 皆に君へお礼を言うように 僕からも頼んでおくから!」
ザッツロードの言葉にカイザJrが笑って言う
「おう!約束だからなぁ!?」
無事辿り着いたザッツロードたち 島は悪魔力の黒い霧に覆われている カイザの船の甲板へ向かって ザッツロードが叫ぶ
「カイザ!あなたと一緒に来た ヘクターは!?」
カイザが島を指差して答える
「あの馬鹿なら1人で島へ行ったっきり帰ってこねぇー!こっちはそろそろ物資が切れるんだ!お前らあの馬鹿と一緒に帰るんだったら 俺らは一足先に戻らせてもらうぞー?」
ザッツロードが島を見てからカイザへ向き直って言う
「伝えます!出来ればギリギリまで 居てもらえると心強いです!」
ザッツロードの言葉にカイザが間を置いてから返答する
「あ~ どぉ~しよっかなぁ~?」
ザッツロードが苦笑してカイザとの会話を終らせる ザッツロードが振り返ると仲間たちが待っている ヴェルアロンスライツァーが言う
「バッツスクロイツの話によれば まず我々で島の結界を解除し、結界の解除されたこの島へ ローレシアから聖魔力を照射する、そして悪魔力を中和した後に 魔王と戦えとの事だ」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にザッツロードが頷くと ロキがザッツロードの前へ来て機械を手渡して言う
「…結界を解除したら この機械で知らせる この機械の回線はとても強く 悪魔力の影響も受けないらしい 卿へ渡しておく」
ザッツロードがロキから機械を受け取る ザッツロードが仲間を見渡して言う
「結界を解除するには この結界を作っているプログラマーか 彼の使用していたモバイルPC もしくはヘクターを見つければ良い筈だ 魔王に見付からない様に気を付けて 手分けをして探そう!」
ザッツロードの言葉にヴェルアロンスライツァーがロスラグへ顔を向け付け加える
「悪魔力を中和してからでなければ 魔王を倒す事は出来ない」
ロスラグが頷いて言う
「了解ッス!」
ロキが銃を確認しながらリーザロッテらへ視線を向けて言う
「…諸卿も気を付ける事だ」
リーザロッテが頷いて ザッツロードへ視線を向けて言う
「ええ!貴方方もね?」
ザッツロードが軽く笑って言う
「はい!みんなも」
ザッツロードの視線を受けて仲間たちが軽く笑う ソニヤが言う
「まずは結界の解除でしょ?本番はその後よね?」
ラナが腕組みをして言う
「その油断で この島特有の魔物にやられましたー なんて止めて頂戴よ?」
ラナの言葉にソニヤが膨れる セーリアが苦笑して言う
「まぁまぁ、皆で気を付けるって事でね?」
セーリアの言葉にザッツロードが頷き言う
「よし!行こう!」
ザッツロードたちが船を下りて行く カイザJrがそれを見送るが 間を置いて叫ぶ
「あー!あいつら!俺への礼は!?」
1人で悔やんでいるカイザJrへカイザが隣の船から声を掛ける
「お~い!そこの おまえー なかなか良い腕じゃねーかー?やっぱ俺様の息子だもんなぁ~?とーぜんかぁ?あーはははは」
カイザJrが振り向いて叫ぶ
「おいっ!クソ親父!!あの海路図間違ってたじゃねーか!!」
カイザが言う
「あれぇ~?そぉだったぁ?」
ザッツロードとソニヤが組んで2人で行動している 黒い霧が立ち込める森の中を行く ソニヤが問う
「ねえザッツ、魔王と戦うのって やっぱり大変なのかな?」
ソニヤの問いにザッツロードが苦笑して言う
「それはもちろん あの大きさだしね?」
ソニヤが問う
「でも、この悪魔力さえ中和させちゃえば きっと後は 先代勇者達が 最初に戦った時と同じ感じでしょ?」
ザッツロードが考えながら答える
「先代勇者たちが 最初に戦った時か… たしか、宝玉の力で魔王の周囲の悪魔力を中和していたね 今回は先に悪魔力を中和させてしまうから もしかしたら先代の時よりも楽かもしれない」
ザッツロードの返答にソニヤが驚きの歓声を上げる
「そっか!そーよね!?今回は先代の時よりメンバーも多いし!先代と一緒に戦ったヴェルアロンスライツァーとロキも居るんだし?なんだー 心配して損しちゃった!」
ソニヤが笑顔で軽くおどける ザッツロードも微笑して言う
「それに、先に島へ入ったヘクターも 一緒に戦ってくれるんじゃないかな?」
ザッツロードの言葉に 更に喜ぶソニヤ
「ああ!ヘクターも居たんだった!な~んだ 案外これって楽な戦いなのね!」
ザッツロードが苦笑して言う
「けど、油断はいけないよ?」
ソニヤが笑顔で答える
「わかーてる!先代勇者の仲間の足を 引っ張ったりなんて出来ないもん!ザッツも気を付けなさいよ?」
ザッツロードが笑って言う
「ははは…ソニヤに言われちゃうと」
ソニヤが怒って言う
「ちょっと!それどー言う意味よ!?」
詰め寄るソニヤに両手でそれを押さえる姿でザッツロードが後退る
ザッツロードとソニヤが島の中心の洞窟へ辿り着く 洞窟の前にヘクターが居る ソニヤが指差して言う
「ザッツ!あの人!」
ザッツロードがソニヤの示す人を確認して言う
「うん、先代勇者の仲間、ヘクターだ!」
ザッツロードとソニヤがヘクターを呼びながら走っていく 名を呼ばれたヘクターが振り返ってザッツロードとソニヤを見て首を傾げて言う
「あぁ?誰だお前ら?」
ザッツロードとソニヤが顔を見合わせて笑ってから言う
「僕は3代目勇者のザッツロード7世です」
ソニヤが言う
「私はその3代目勇者の仲間で3代目魔法使いのソニヤよ」
ザッツロードが握手を求める ヘクターが軽く笑ってザッツロードの握手を受けて言う
「ああ、ヴィクトールから聞いてた、今回の勇者様は魔王を倒す気が無いんだってな?」
ザッツロードが苦笑して言う
「最初はそうでしたが、」
ヘクターが軽く笑って言う
「なんだ?気でも変わったのか?」
ソニヤが代わって言う
「それは!この島に悪魔力が大量にあるから 倒せないって事だったの!」
ザッツロードが頷いて言う
「その悪魔力を中和する事が出来る様になったんです、だから」
ヘクターがニッと笑って言う
「それなら倒せるって事か」
ザッツロードとソニヤが頷く ザッツロードが続ける
「ヘクター、そのためにも まずはこの島に今掛けられている結界を解除しなければいけないのです 貴方はこの結界を制御しているプログラマーの持っていた モバイルPCが 何処にあるか知っていますよね?」
ヘクターが腕組みをして問う
「それをどうしようって言うんだ? ぶっ壊しちまおうって言うのか?」
ザッツロードがすまなそうな顔をして言う
「最悪その方法も有り得ます ただ、可能な限り回収したいと言う事なので 僕たちの仲間のプログラマーに操作をしてもらおうかと」
ヘクターが少し不満そうな溜め息を吐いてから言う
「俺としちゃー…他の奴になんか触って欲しくねーんだけどよ まぁ、そんな事も言ってられねーよな?」
ザッツロードとソニヤが顔を見合わせてからザッツロードがヘクターへ言う
「お気持ちは良く分かります」
ザッツロードの言葉にヘクターが苦笑してから言う
「けどよ、ちょっと問題なんだ その、あいつが使ってたやつなんだが」
ヘクターが親指で自分の後方を指して言う
「この悪魔力のバリアの奥にあるんだよ、見えるんだが 近付けねーんだ」
ザッツロードとソニヤが驚き ヘクターの示す場所を確認する 洞窟の入り口にバリアが張られている その奥にモバイルPCが置かれており そのモニターに結界の期限がカウントダウンされている ヘクターが言う
「結界… とまでは言わねぇけど、ちょっとやそっとじゃ壊せねーんだよ 宝玉があれば何とかなるかもしれねーけど」
ヘクターの言葉を聞いてザッツロードが宝玉を取り出しソニヤへ手渡す
「ソニヤ、出来そうかい?」
ソニヤが頷いて宝玉を受け取って言う
「うん、やってみる!」
ソニヤが宝玉を片手に魔法の詠唱を開始する 魔法の詠唱が終わり宝玉が激しく光り魔法が放たれる 他の場所に居る仲間たちがその光りに気付き皆が向かう
バリアが消え ザッツロードとソニヤがその場を確認する ヘクターが先行してモバイルPCの下へ行き 地に膝を着けてモバイルPCを見る ザッツロードとソニヤが一度顔を見合わせてから ヘクターの傍へ行く モニターを眺めるヘクターが言う
「残り半年もあるぜ…?10年程度しか持たねぇとか 言ってたくせにな」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい…凄いプログラマーですね」
ヘクターが苦笑して言う
「…おうっ 世界一のプログラマーだからな!でもって… 俺の世界一の相棒だ」
ザッツロードとソニヤが顔を見合わせ再びヘクターへ視線を向け言葉に詰まる そこへ仲間たちが現れる ラナが言う
「ザッツ、ソニヤ さっき強い魔法を?」
ザッツロードとソニヤが振り向いて頷く ザッツロードが言う
「この洞窟の入り口に悪魔力によるバリアが張られていたのを 宝玉を使って解除したんだ」
セーリアがザッツロードたちの後ろを少し覗いて言う
「その洞窟の奥に 何か?」
ザッツロードとソニヤが頷きザッツロードが 遅れてやってきたシャルロッテを呼んで言う
「シャルロッテ、結界を作っているプログラマーのモバイルPCを発見したんだ、結界のプログラムの解除を頼めるかい?」
皆の視線がシャルロッテへ向く シャルロッテが一瞬焦ってから慌てて頷いて言う
「は、はいっ やってみますっ!」
ザッツロードが頷いて場所を示す シャルロッテが向かう ザッツロードの横にシャルロッテが来る ザッツロードとシャルロッテがヘクターの下へ行く ヘクターが立ち上がって場所を明け渡す シャルロッテが一度ヘクターを見てからモバイルPCの前に座り込んで モバイルPCをまじまじと見る ザッツロードが問う
「どうだい?シャルロッテ」
シャルロッテが一瞬焦って言う
「あっ!は、はいっ えっと ちょっと待って下さい かなり古い機種なのでっ えっとっ…」
言いながらキーボードのタイピングを始める モニターに新たなウィンドウが次々に開かれる 段々タイピングが早まる ウィンドウが次々に開かれ プログラムが高速で流れる シャルロッテがそれらを確認しながら言う
「すごい… このスペックでこんなに早い演算を… こんな公式見た事無い 一体…」
独り言を言いながら確認作業を続けるシャルロッテ ヘクターが問う
「お前はソルベキアのプログラマーだろ?あいつはガルバディアのプログラマーだったんだ、やっぱ色々違うのか?」
ヘクターの言葉にザッツロードとソニヤが顔を見合わせてから シャルロッテへ視線を送る シャルロッテがモバイルPCの操作をしながら言う
「本来はまったく違います、でもこの方はソルベキアの機械を使う為に 双方のプログラムの違いを 補うプログラムを作っています だから このプログラムで 元の表示に切り替えれば…」
言い終えると同時にエンターを押してモニターへ視線を送る ウィンドウに表示されていたプログラムが一転し ソルベキアのプログラムに切り替わる シャルロッテが頷いて言う
「大丈夫です!私 分かります!」
ザッツロードとソニヤが表情を明るめ ザッツロードが言う
「シャルロッテ、それでは 結界の解除を」
ザッツロードの言葉にシャルロッテが頷いて言う
「はい、すぐに出来ます!」
シャルロッテが今までより早いタイピングで解除プログラムを組む ザッツロードがロキから受け取っていた機械を取り出して確認してから ヘクターへ視線を向けて言う
「ヘクター、結界を解除したら 僕たちは魔王を倒します 是非、あなたにも」
ヘクターがザッツロードへ向いてニッと笑って言う
「あったりめーだ!あいつには、俺が誰よりもデカイ貸しを作ってあるんだ 返してもらうぜ!」
ヘクターが言い終えると共にシャルロッテの後姿へ視線を向ける その姿が一瞬デスの姿と重なる ヘクターが手を握り締める ザッツロードがそれを見ている シャルロッテの手が止まる シャルロッテがザッツロードへ顔を上げて言う
「出来ました!こ…ここここっこれでっ 解除されてますぅ!」
シャルロッテの口調が途中からいつもの口調に戻り モバイルPCから離れてオドオドする ヘクターがシャルロッテの変化に疑問する ソニヤが苦笑する ザッツロードが頷いて言う
「よし、これで…」
ザッツロードがロキから受け取っていた機械のボタンを押して周囲を見渡す ソニヤとシャルロッテも同様に周囲を見渡す ヘクターがザッツロードの様子を見てから洞窟から出る ザッツロードたちが顔を見合わせてヘクターに続く 洞窟の外で仲間たちが大陸の方を見ている ザッツロードより先に外へ出ていた ソニヤが指を指して言う
「ザッツ!見てあれ!」
ザッツロードがソニヤの指差す方向へ顔を向けて言う
「あれが聖魔力!?」
ロキの隣に居るロスラグが問う
「まさかっ あんな遠い所から ここまで あの光を飛ばすッスか!?」
大陸中の聖魔力がローレシアに集められ増幅されて 島へ降り注がれる 強力な光に思わずソニヤとラナが悲鳴を上げる
「「きゃぁ!」」
ザッツロードたちが眩い光に目を瞑る
間を置いてザッツロードが目を開く 周囲にあった黒い霧が消え 美しい緑に覆われた島の様子に様変わりしている 皆が驚きの声を上げる リーザロッテが問う
「悪魔力は…無くなったと言うの?」
ロスラグが空気の匂いを嗅いでいる それを無言で眺めるロキ ヴェルアロンスライツァーが周囲を見渡して言う
「悪魔力が無くなったのではなく 悪魔力と聖魔力がほぼ同量となったのだろう これが中和か…」
ソニヤとラナが周囲を見渡しソニヤが言う
「なんかー 普通の風景よね?」
ラナが言う
「きっと普通の風景が 両魔力の中和状態 と言う事なのよ」
ザッツロードが頷き 辺りを見渡してから仲間たちへ向き直る 仲間たちも同様に周囲を見渡す ザッツロードが軽く笑い 仲間たちも微笑を漏らす
地響きが起きる
ソニヤが怯えた声で言う
「な、何!?」
再び周囲に黒い霧が立ち込める セーリアが言う
「また悪魔力が!?」
シャルロッテが自分のモバイルPCを操作して言う
「強い悪魔力の塊が 近づいて来ます!あ、あっちですっ!」
シャルロッテが指差す ザッツロードたちが視線を向ける 皆の視線の先 巨大な黒いドラゴンが立ち上がり ザッツロードたちへ向き直る 体中から悪魔力の霧を吹き出している ヘクターが言う
「来やがったなぁ…!」
ヘクターが言い終えると共に剣を抜く ザッツロードたちが顔を見合わせ 皆が武器を構える オライオンがヘクターの横に立ち問う
「あれが魔王か!?親父!」
ヘクターが頷いて言う
「ああ!この日を待ってたぜ!邪魔するんじゃねーぞ!?」
オライオンが苦笑して言う
「親父こそ、相棒もいねぇんだから… 下がってろよ!」
オライオンが言うと共に走り出す ヘクターがニッと笑って言う
「あいつはこの島に居るんだ!俺には 世界一の相棒が付いてんだよ!」
言い終えると共に ヘクターが走り出す ザッツロードが驚き ソニヤが横に来て言う
「ザッツ!私たちも負けてられないわよ!?」
ソニヤの言葉にザッツロードが頷き言う
「うん!行こう!」
ザッツロードとソニヤが魔王へ向かって行く 仲間たちも続く
オライオンがシュライツの魔法を剣に受け 魔法剣にして魔王へ切りかかる その後ろからヘクターが単身魔王へ斬りかかる ロキが魔王へ銃を放つ ヴェルアロンスライツァーが過去と同様に ロキの銃弾を叩き込む形で魔王へ剣を振るう 魔王の表面には悪魔力のバリアが張られている 魔法剣はそのまま攻撃が届く ヘクターの剣は防がれる ロキとヴェルアロンスライツァーの攻撃は2人の連携でヴェルアロンスライツァーの剣が魔王に届く ヘクターが舌打ちをする
「…チィッ!」
その隣をオライオンが通り 過ぎ際に言う
「シュライツの魔力を借りろよ!」
ヘクターが過ぎ去ったオライオンの背に向かって叫ぶ
「んな事して堪るかーっ!!」
ヘクターの後ろにシュライツが来て奇声を上げる ヘクターが振り返って言う
「要らねぇーっ!」
シュライツがビクッと驚いた後に奇怪な声を上げて怒る ヘクターがうるさそうに耳を塞ぐ
ザッツロードがソニヤの魔力を受け魔法剣を振るう リーザロッテがレイトとヴェインへ攻撃を命じる
「レイト!ヴェイン!貴方たちの出番よ!魔王を討ち取りなさい!!」
2人が返事をして走り出す リーザロッテがシャルロッテへ叫ぶ
「シャル!レイトの援護よ!」
シャルロッテがタイピングをしながら返事をする
「はいっ!任せて!」
リーザロッテがロイへ言う
「ロイ!ロキの真似をして!ヴェインの援護を!」
ロイが両手に銃を構えて言う
「…あいつに俺の銃弾が見えるとは思えん」
リーザロッテが怒って言う
「いいの!やりなさいっ!!」
ロイが間を置いて返事をする
「…了解」
リーザロッテが他方で突っ立っているロスラグに気付いて叫ぶ
「そこの貴方!何をぼうっと突っ立っていらっしゃるの!?さっさと攻撃に移りなさいっ!!」
ロスラグが魔王を見上げて言う
「…あいつ …謝ってるッス」
リーザロッテが疑問して言う
「え?」
ロスラグの言葉に リーザロッテが疑問して 魔王へ視線を向ける 魔王が仲間たちを攻撃している 仲間たちが回避している リーザロッテがロスラグへ視線を戻して叫ぶ
「あっ!謝るぐらいなら!今すぐ攻撃を やめるように仰い!」
ロスラグがリーザロッテへ顔を向け 魔王を指差して言う
「ち、違うッス!あれはもう 抜け殻なんッス!空っぽの体を 悪魔力が動かしてるだけッスよ!」
リーザロッテが一瞬止まり 魔王を見て再びロスラグへ振り返り 魔王を指差して言う
「だ、だったら!貴方もさっさと行って あのデカ物を止めていらっしゃい!!」
ロスラグが一瞬止まり 顔を横に振って叫ぶ
「ち、違うッス!いや、それはっ俺も行くッスけど!あいつの魂が 何か言ってるんッスよ!」
リーザロッテが言う
「魂ですって?」
リーザロッテが疑問して 再び魔王を見てから言う
「では その魂は何と仰っているの?」
ロスラグが言う
「謝ってるッス」
ロスラグの言葉にリーザロッテが怒って言う
「だから!何を謝っているのか!?と訊いているのよ!!」
ロスラグが焦って言う
「う、上手く聞き取れないッスよ!ちょっと待って欲しいッス!」
ロスラグが魔王に向き直って集中する リーザロッテがそれを見て同様に魔王へ向く ロスラグが言う
「…え?…彼って誰ッスか?…プログラマー?…彼の相棒? 彼ばっかりじゃ分かんないッスよ!姿を目の前に想像するッス!」
ロスラグの言葉にリーザロッテが首を傾げて考える ロスラグが視線をヘクターへ向ける リーザロッテがその様子に言う
「あの大剣使いがどうかなさったの!?あの者はヘクターと仰るのよ!?」
ロスラグが頷いて言う
「分かったッス!ちゃんと伝えるッスよ!お前の事も!竜族の皆に伝えとくッスよ!!」
ロスラグが叫んでから 自分の武器を用意する リーザロッテが問う
「ちょ、ちょっと!こちらにも仰い!貴方を介してでなくては こちらは 何も分からないッスよ?!」
リーザロッテが言い終えると共に口を押さえて顔を赤くする ロスラグは気付かずに武器を用意し 左腕に付けている機械を操作しながら言う
「あいつの使ってた宝玉は壊れちゃったッス だから新しい宝玉と防人が必要で 仕方なくヘクターの相棒を捕まえたんだって… それを謝ってたッス それから…」
用意を終えたロスラグが武器を構えて言う
「…彼も自分と同様に 悪魔力に支配されてしまった 彼も諸卿の力で …救って欲しいと」
リーザロッテが驚き問う
「え…?私たちの力で ヘクターの相棒を…救う?まさかっ!」
ロスラグが銃弾を剣に放ち 剣を魔法剣に変えて言う
「私も戦う このヴェルアロンロキスライグが かの者との約束を守る!」
ロスラグが言い放つと共に駆け出していく リーザロッテがロスラグを目で追ってから魔王を見上げて言う
「つまり… あの魔王を倒しても もう1人 …魔王が 居ると仰るのね」
オライオンの魔法剣の魔法が切れる 間もなく再びシュライツから魔法が放たれ オライオンの剣が魔法剣になる その剣を構え攻撃するオライオンの隣で ヘクターが剣を振るうが弾かれる オライオンが振り返って言う
「おいっ!頑固親父!いい加減シュライツの魔法を使うか 下がってるかしろ!気になって堪まんねぇよ!!」
ヘクターが顔を向けて叫ぶ
「うるせぇえ!戦ってる最中に他の事で気散らしてんじゃねぇえよ!俺はあいつのプログラムしか 受け取らねーって誓ったんだ!!じゃなかったら 殺されたって 他のサポートなんか受けねーんだよ!!」
ヘクターが叫ぶと共に 後方からザッツロードが叫ぶ
「オライオン!ヘクター!」
ザッツロードに続いて ソニヤが叫ぶ
「危ないっ!!」
オライオンとヘクターが魔王へ顔を向ける 魔王が黒い炎を吐く オライオンが思わず叫ぶ
「やっべぇ!」
ヘクターがその炎へ剣を振るう オライオンがダメージに備えて目を強く瞑るが 来ない衝撃に目を開く 自分の前に居るヘクターの剣で 炎が抑えられ消える オライオンが驚いてヘクターの剣を見る ヘクターが咄嗟に閉じていた目を開いて目の前の光景に驚く オライオンが呆気に取られて言う
「お、親父!?その剣…!?」
ヘクターの目に 自分の剣を覆う数字の羅列が見える ヘクターが驚いて言う
「これはっ…」
ヘクターがシャルロッテへ視線を向ける シャルロッテはレイトへ向いてプログラムを行っている ヘクターが洞窟へ視線を向ける
洞窟の中のモバイルPCが作動している
ヘクターが目を閉じて意識を集中させる ザッツロードとソニヤが走って来る ザッツロードが2人へ言う
「オライオン!ヘクター!大丈夫かい!?」
ソニヤが2人の無事に驚き問う
「え?!な、なんで無傷なの!?直撃だったじゃない!?」
オライオンが戸惑って言う
「あ、ああ そうだったんだけどよ…?」
オライオンが言うと共に 視線をヘクターへ向ける ザッツロードたちもオライオンと同様に疑問したまま ヘクターへ視線を向ける ヘクターがニッと笑って言う
「…おい オライオン!それから 3代目勇者と仲間、見とけよ?」
言うと共に剣を構える 疑問する3人へ ヘクターが言う
「これが世界一の大剣使いと 世界一のプログラマー …俺たちの力だ!」
言い終えると共にヘクターが駆け出す オライオンが思わず叫ぶ
「親父!」
ザッツロードとソニヤも掛ける声を飲み ヘクターを目で追う 皆の目前 ヘクターが地を蹴り 何も無い空間に現れる足場を次々に蹴り上がり 魔王の頭上まで駆け上がる ザッツロードが驚いて言う
「あれはっ!?プログラム!?」
ソニヤが驚いてシャルロッテへ視線を向ける ザッツロード以外の仲間たちも驚き見上げている 皆と共にヘクターを見上げていたシャルロッテが ソニヤの視線に気付いて 慌てて否定する
「わ、わわわ 私っ!あんなプログラム 出来ませんっ!!」
ヴェルアロンスライツァーとロキが見上げ ヴェルアロンスライツァーが言う
「あれは あの頃と変わらない」
ロキが言う
「…デスのプログラムだ」
ヘクターが剣を大きく振り上げて 魔王へ叩き込む
「うおぉおおお!!」
ヘクターの剣が魔王の前にある悪魔力のバリアに当たる ヘクターの剣から数字の羅列が広がり魔王のバリアを破壊する 地に足を付けたヘクターが再び剣を構えなおし 振り払うように魔王へ斬り付ける
「くらえーっ!!」
その剣の威力が数百倍の威力に増幅され 魔王の身体を切り裂く ソニヤが思わず声を上げる
「やったぁ!!」
驚きに口を押さえるセーリアの横で ラナが驚いて言う
「す、すごい…」
レイトとヴェインが見上げたままレイトが言う
「あれが アバロン国3番隊元隊長ヘクターの力」
ヴェインが言う
「そして その相棒の力でもある」
リーザロッテがレイトとヴェインの後ろに来て言う
「個々では無くってよ?その2人の合わさった力なのよ!」
ヴェルアロンスライツァーとロキの傍に ロスラグが来て静かに言う
「これで あいつは楽になるッス」
切り裂かれた魔王の体から悪魔力の霧が噴出し 魔王は霧になって消える
ザッツロードと仲間たちが辺りを見渡す ヘクターが体勢を戻し剣を眺める ザッツロードが間を置いてからヘクターの後ろへ行き声を掛ける
「ヘクター…」
ザッツロードが続ける言葉に困ると ヘクターがハッとして振り返る ザッツロードが呆気に取られる前で ヘクターが驚いた表情で言う
「デ… ス… ?!」
皆がヘクターの視線の先を見る ソニヤが声を上げる
「きゃ、きゃあ!…え!?」
ラナが驚いた表情で言う
「い…生きて たの…?」
皆が驚いて身を乗り出し そのまま止まってヘクターの動きに集中する ヘクターがゆっくりとデスへ近づいて目の前で立ち止まり 信じられない様子で震える手で触れようとする デスが軽く笑って言う
「待っていた ヘクター」
皆がデスの声に驚く ソニヤがゆっくり言う
「え… と… そ、そうよね…?あ、当たり前じゃない!?だ、だって?さ、さっきの プログラム そのプログラマーのサポートなんでしょ!?だ、だったら生きてて当然じゃない!?」
ソニヤの言葉に一度視線をソニヤへ向けるヘクター 再びデスへ戻し ヘクターの表情がゆっくり微笑へ変わっていく
「そ、…そっか?なんだよ… お前… 生きてたのかよ?俺は… 俺は…」
ヘクターが言いながらデスの腕へ触れようと手を伸ばす ロスラグの声が響く
「だめッスー!!だまされちゃダメッスよ!!」
ヴェルアロンスライツァーとロキが 驚いて後ろのロスラグへ振り返る ヘクターがビクッと手を震わせて声の方へ向こうとする オライオンの声が響く
「親父っ!!」
ロスラグへ向こうとしていたヘクターが視線をデスへ戻した瞬間 オライオンがヘクターを突き飛ばす その横を大剣が振り下ろされる 一連の事に驚いたザッツロードが改めて視線をデスへ向け叫ぶ
「あ!あれは!?ヘクター!?」
ザッツロードの視線の先 地に手を付いているヘクターを庇ってオライオンが剣を構え その前にもう1人のヘクターが剣を構えて立っている その体から悪魔力の霧が立ち込める シャルロッテが慌ててモバイルPCを操作し 確認して叫ぶ
「その人は!悪魔力に支配されています!あの魔王と同じです!」
ソニヤが驚いて言う
「そ、そんな!?どうして!?さっきまで昔のプログラマーの姿だったのに!」
ラナが言う
「ひょっとして、あれはプログラマーが作った ヘクターのプログラムなんじゃ?」
ラナの言葉にソニヤが驚いて視線を向ける セーリアが口を押さえて言う
「そ、それでは 姿だけでなく能力まで?!」
ザッツロードが剣を構えて言う
「だとしたら さっきの あの魔王を倒すほどの力を!?」
オライオンの後ろでヘクターが立ち上がって言う
「お、おい… 嘘だろ? …デスっ!?」
オライオンが剣を構えて言う
「親父は下がってろよ!姿が同じじゃ 見間違えそうだ!…シュライツ!」
オライオンに呼ばれたシュライツが オライオンの剣に炎を纏わせる オライオンが魔法剣を構える ヘクターが言う
「おいっ!?やめろ!俺の相棒に 剣向けんじゃねーっ!」
オライオンが剣を構えたまま 振り返って言う
「こいつはもう 親父の相棒じゃねーんだよ!悪魔力に身体を乗っ取られた …あの魔王と同じなんだ!」
言うと共にオライオンが駆け出し ヘクターの姿になったデスへ剣を振り下ろす ヘクターが叫ぶ
「デスッ!!」
デスがオライオンの剣を止める 止められたオライオンが驚く デスがヘクターの顔でニッと笑ってその剣を振り払う 弾かれたオライオンが体勢を立て直して言う
「くそっ!あいつ …親父と同じ位強ぇえ!」
ロスラグが皆の前へ出て ヘクターへ向けて言う
「ヘクター!戦わなきゃ駄目ッスよ! あの魔王だった竜族は 早く楽にして欲しいって 助けを求めてたんッス!そのプログラマーもきっと同じッスよ!!」
ロスラグの言葉にヘクターが叫ぶ
「俺にデスを殺せって言うのか!?んな事する位なら!!」
ロスラグが顔を横に振って言う
「殺すんじゃないッス!!そいつは…っ そいつはもう 生きてないッスよ!!」
ロスラグの言葉にヘクターが衝撃を受けて身動きを止める ロスラグが続けて叫ぶ
「そいつの魂も言ってるッスよ!助けて欲しいって… あんたに助けて欲しいって叫んでるッスよ!!」
ロスラグの両脇にヴェルアロンスライツァーとロキが立って ヴェルアロンスライツァーが言う
「ヘクターに その様な事は出来ない」
ロキが言う
「…ならばヘクターとデス、2人の仲間である 俺たちが行うべきだ」
2人が言うと共に駆け出す デスがオライオンへ剣を振り下ろす オライオンがギリギリその剣をかわし 自分の魔法剣を大きく振り上げる ヘクターが叫ぶ
「駄目だ!避けろオライオン!!」
オライオンが疑問して言う
「え!?」
オライオンの振り下ろした魔法剣をデスが払い 体勢を崩したオライオンに剣を突き刺そうとする ヘクターが再び叫ぶ
「オライオン!!」
オライオンの叫び声と同時にロキの銃声が響く デスが気付いてオライオンへ向けていた剣を引き その剣の側面でロキの銃弾を防ぐ 次に振り下ろされたヴェルアロンスライツァーの剣を後方へ身をかわして回避する ヘクターがやって来た2人の名を呼ぶ
「ロキ!ヴェル!」
2人がヘクターの前に立ってヴェルアロンスライツァーが言う
「貴殿は下がっていろ ヘクター」
ロキが言う
「…俺とヴェルが 代行する」
2人がデスへ武器を向ける デスが沈黙する 2人が一度目配せし再び武器を構え ヴェルアロンスライツァーがデスに斬りかかる ロキが側面へ移動して銃を撃つ ヘクターが一瞬止めようとして前に出かけた身を戻し 視線を落として手を握り締める オライオンがヘクターを見て 表情を哀しめ 再びデスへ大剣を向ける
ザッツロードが彼らを見ている 隣のソニヤがザッツロードを見上げて言う
「ザッツ!?私たち… 見てるだけで良いの!?」
ザッツロードがソニヤへ視線を向けて答える
「僕たちが行っては邪魔になってしまうよ ヴェルは彼との間を見極めて剣を振るっている ロキも僕たちが居ては 思うように銃を撃てないだろうし…」
ソニヤが視線を落として言い掛ける
「で、でも…」
ラナが隣へ来て言う
「私たちが割り込んで良い戦いでは 無いでしょうね」
リーザロッテが近くへ来て言う
「本当に、これで宜しいのかしら?彼は… あのプログラマーは ヘクターに止めを刺して頂きたかったのでしょう?」
リーザロッテの言葉にソニヤが怒って言う
「ヘクターの気持ちも考えなさいよ!彼はずっと あのプログラマーを助けようとしてたのよ!!」
リーザロッテがソニヤへ顔を向けて言う
「もちろん存じていてよ!でもそれはヘクターの気持ちでしょ?私は あのプログラマーの想いを申し上げているのよ!?」
レイトが頷いて言う
「私はリーザ様の仰る事が分かる、もし私が同様の状態に陥ったら」
ヴェインが続いて言う
「ああ、俺もだ リーザ様の仰る通りの結末を望むだろうな」
話を聞いていたロイが隣のシャルロッテの異変に気付き声を掛ける
「…シャル、どうかしたのか?」
ロイの言葉に皆が一番後ろに居たシャルロッテへ視線を向ける シャルロッテが首を傾げながらタイピングを再開して言う
「おかしい…さっきとは… あのプログラマーのプログラムが 変わってるんです、さっきまでは 自分をヘクターのプログラムと同期させる事だけを行っていたのに 今は…」
シャルロッテのモバイルPCに 結論が出る シャルロッテが慌ててモニターから顔を上げて叫ぶ
「だ、だめですっ!いいい、今すぐロキさんとヴェルさんを止めてください!あの2人までっ!乗っ取られちゃいますっ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
リーザロッテが言う
「何ですって!?」
ザッツロードとリーザロッテが ロキとヴェルアロンスライツァーへ視線を向ける 2人はデスへ武器を向けて間合いを取っている ザッツロードがシャルロッテへ顔を向けて問う
「一体、どういう!?」
ザッツロードの問いが終わらない内に シャルロッテが2人を指差して慌てながら言う
「あ、あああの2人のデータを デスさんは持ってるんですっ だから今!その過去のデータとの誤差を 修正していてっ 修正が終ったら 乗っ取られちゃいます!!」
ザッツロードが慌てて叫ぶ
「ロキ!ヴェル!彼と戦ってはいけない!!」
ザッツロードの言葉に デスへ攻撃を仕掛けていたヴェルアロンスライツァーとロキが振り返る 1人離れた場所に居たロスラグが怒りながらザッツロードへ叫ぶ
「なーっ!?ヘボ勇者ー!!何言ってるッスかー!!」
ザッツロードがロスラグを無視して叫ぶ
「デスは!君たちのデータを採取しているんだ!これ以上戦ってはいけない!」
ザッツロードの言葉を聞いて ヴェルアロンスライツァーとロキが後方へ回避する ヴェルアロンスライツァーが言う
「なるほど、それで反撃が止んだのだな」
ロキが言う
「…死して尚 その天才ぶりは変わらんらしい」
2人の言葉を聞いてオライオンが前へ出て言う
「なら、俺がやる!」
オライオンが言って構える ザッツロードが仲間たちへ言う
「僕たちも戦おう!先代勇者の仲間は 彼とは戦えない!」
ソニヤが言う
「うん!私たちで!」
ラナが言う
「現代勇者と仲間たちの出番ね!」
セーリアが言う
「同じ仲間だった 彼らで戦わせるなんて やっぱり良くないわ!」
ザッツロードの言葉に仲間たちが頷く
ザッツロードと仲間たちがデスの横へ立つ ザッツロードが剣を構えソニヤが魔法剣用の魔法を詠唱する ラナとセーリアが合同魔法の詠唱をする ヴェルアロンスライツァーとロキへ剣を向けていたデスが顔を向け沈黙する
オライオンがシュライツの魔法を受け取りデスへ攻撃を開始する デスが回避する 続いてザッツロードが攻撃する デスが回避する ラナとセーリアの合同魔法がデスへ向かう デスが自分の周囲に対魔法用バリアを張る ザッツロードとオライオンが剣を振るう 2人の剣をデスが回避する そこへロスラグの剣が襲い掛かり デスが剣で押さえる
ザッツロードたちの戦いを見ていたリーザロッテがイライラして言う
「なんって無様な戦い様ですの?!レイト!ヴェイン!彼らへ 貴方たち2人の槍術を ご覧に入れて差し上げなさい!」
リーザロッテの指示にレイトとヴェインが意気揚々と返事をして槍を構える シャルロッテが叫ぶ
「きゃぁああ!リ、リーザ!う、うううう後ろ!!」
シャルロッテの声に振り返ったリーザロッテがハッとして叫ぶ
「なっ!?なんて数の魔物っ!!作戦変更!魔物討伐を最優先よ!!」
リーザロッテの言葉に再びレイトとヴェインが返事をして魔物の群れへ飛び込む ロイが遅れて銃を構える リーザロッテがロイに気付いて叫ぶ
「ロイ!遅くってよっ!!さっさと行きなさい!」
リーザロッテの言葉にロイが言う
「…俺たちだけでは無理だ、援軍を要請する」
ロイが言い終えると共に魔物の群れへ向かって行く リーザロッテが焦って言う
「え、援軍なんて何処に…!?ちょっとそこー!」
リーザロッテがザッツロードたちへ叫ぶ ザッツロードがリーザロッテの声に気付いて振り返る その視界に魔物の群れが見え ザッツロードがロキたちへ叫ぶ
「ロキ!ヴェル!ヘクター!ここは僕らに任せて!リーザロッテ王女らの援護を!」
ザッツロードの言葉を聞いたロスラグが怒って言う
「あー!!ヘボ勇者!!ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長に 命令するんじゃねぇえッス!!」
ザッツロードがロスラグへ向いて言う
「君も行ってくれ!隊員A!!」
ザッツロードの言葉に ロスラグが怒って叫ぶ
「お前にだけは 言われたく無いッスー!!」
ロスラグが叫んだ後 仕方なく ロキとヴェルアロンスライツァーへ向いて言う
「…けど、今回は仕方ないッス そうッスよね?ロキ隊長、ヴェルアロンスライツァー副隊… 長っ!?」
ロスラグが言い終える前に ヴェルアロンスライツァーとロキがロスラグへ襲い掛かる ロスラグがギリギリ避けて叫ぶ
「なっ!?何するッスか!?ロキ隊長っ!ヴェルアロ…!わぁああ!!」
ヴェルアロンスライツァーとロキが ロスラグへ攻撃を再開する ロスラグが悲鳴を上げながら逃げる ザッツロードが気付いて言う
「ロキ!ヴェル!」
ソニヤが慌てて叫ぶ
「ザッツ!危ないっ!!」
ソニヤの声にザッツロードが前方へ顔を向け デスの剣を避ける ギリギリ回避したザッツロードに ヴェルアロンスライツァーの剣が振り下ろされる ラナが叫ぶ
「ザッツ!!」
ザッツロードが思わず目を閉じると 剣の弾かれる音に目を開く オライオンがヴェルアロンスライツァーの剣を防いでいて言う
「くっそー!先代勇者の仲間が 俺たちの敵になっちまった!!」
オライオンがヴェルアロンスライツァーの剣を払って 再び大剣を構える ザッツロードが周囲を確認して言う
「ロキとロスラグが居ない!」
ザッツロードが叫ぶと同時に デスとヴェルアロンスライツァーがザッツロードとオライオンへ向かって来る ザッツロードとオライオンが攻撃を回避した後 再び襲って来た剣を 剣で受け止める オライオンが言う
「ロスラグは!あいつは意外と強ーんだ!操られてるロキになんか 負けねーよ!」
言うと共にデスの剣を払い除けるオライオン ザッツロードが頷いて言う
「分かった!ロキはロスラグに任せよう!ラナ!セーリア!2人でヴェルの相手を!」
ラナとセーリアが頷いて言う
「分かったわ!」「やってみるわ!」
2人の返事に頷いたザッツロードがオライオンへ言う
「オライオン!君はリーザロッテ王女らの援護に行ってくれ」
ザッツロードの言葉にオライオンが驚き 怒って言う
「ばっ 馬鹿言うんじゃねぇよ!?俺以外に親父に勝てる奴なんて 居る訳ねぇだろ!」
ザッツロードが頷いて言う
「分かってる!ヘクターの力に魔法バリアまであるんだ、僕らだけでは無理だ だからオライオン、リーザロッテ王女たちと一緒にあの魔物を片付けて みんなで早く戻ってきてくれ それまで僕とソニヤで抑える!」
言い終えると共にザッツロードが距離を取って剣を構える オライオンが悩んでから頷いて言う
「わ…分かった!すぐ戻るから 何とか踏ん張れよ!!」
オライオンが叫んで立ち去ろうとする ヘクターが言う
「お前らも行け」
ザッツロードとオライオンが振り返る ヘクターが大剣を握り直して言う
「後は 俺がやる」
オライオンが叫ぶ
「けど!もしかしたら親父まで!」
ヘクターが軽く笑って言う
「もしそうなったら お前ら全員で俺を倒せよ?」
ヘクターの言葉にオライオンが驚き 表情を哀しくして言う
「親父…」
ヘクターが振り向かずに言う
「行け!」
オライオンが悔しそうな顔で言う
「ああ!もし親父まで操られたら 俺がぶっ倒してやるから 安心しろよな!!」
言い終わると共にオライオンが走り去る ヘクターがニッと笑う ザッツロードが言う
「すぐに戻ります!それまでっ!」
ザッツロードの言葉にヘクターが軽く言う
「それまでに 終らせといてやるよ のんびり行って来いよー?」
言い終えると共に ヘクターは大剣を肩に乗せ だらけて見せる ザッツロードが頷いて言う
「お願いします!」
ザッツロードが走り去る ソニヤが戸惑いながらもザッツロードに続く ヘクターがデスに向き直って言う
「自分と戦う日が来るなんてな?デス…お前の作った俺のプログラム 何処まで正確か… 俺自身が確かめてやるよ」
ヘクターがデスへ大剣を向ける
ザッツロードたちがリーザロッテの下に辿り着く リーザロッテが振り返って言う
「遅くてよっ!!休憩でもしてらしたのっ!?」
リーザロッテの言葉にソニヤが言い返す
「自分は戦わないくせに うるさいわよ!」
ソニヤの言葉にリーザロッテが怒って言う
「なんですってー!」
ザッツロードがソニヤへ言う
「ソニヤ!喧嘩は後にして魔法を頼む!」
ソニヤが怒りたい気持ちを我慢して魔法詠唱に入る リーザロッテがザッツロードへ言う
「ザッツロード王子!ここは任せるわ!」
リーザロッテの言葉にザッツロードが驚き振り返る リーザロッテが続けて言う
「あのプログラマーのモバイルPCが 洞窟の中にあるわ!あれを破壊すれば全て収まってよ!私とシャルで行くから 貴方方はこの魔物を何とかなさい!」
ザッツロードが頷いて言う
「出来るだけ 破壊はしないで下さい!」
ザッツロードの言葉にシャルロッテが言う
「は、はいっ 出来るだけっ やってみますっ!」
ザッツロードが剣を構えるソニヤの魔法がザッツロードの剣を魔法剣にする ザッツロードがレイトたちの下へ走って行く
無数の銃弾を避けながらロスラグが森の中を逃げ回る ロキがそれを追って銃を連射する ロスラグが走りながら左腕の機械を操作して透明な盾を作り それで銃弾を防ぎながら叫ぶ
「ロキ隊長!!目を覚まして下さいッス!!プログラムなんかに負けちゃだめッスよ!!」
ロスラグの盾に ロキの両手に持った銃の全弾が打ち込まれる 左腕の機械が容量を超えて爆発する ロスラグが悲鳴を上げて叫ぶ
「あー!!こ、壊れちゃったッス!!これじゃもう 避け切れないッスー!!」
ロスラグが怯えながらロキへ視線を向ける ロキが両手の銃の弾倉を交換してロスラグへ向ける ロスラグが慌てて逃げ出す ロキが追いかけて銃を放つ ロスラグが叫ぶ
「ロキ隊長!お願いッス!もうコレでもアレでも 何て呼ばれても良いッスから!目を覚まして下さいッスー!!」
ロスラグが逃げ回る ロキが銃を放つ ロスラグが行き止まりに追い込まれる ロスラグが焦って叫ぶ
「あー!!後方大ピンチッス!!常に後方には注意しろって 教わってたのに やっちまったッスー!!」
ロスラグが振り返る ロキが銃を構える ロスラグが叫ぶ
「ロキ隊長!嫌ッス!俺は、俺は… ロキ隊長に武器を向けるなんて 絶対出来ないッスよーー!!」
ロキが銃を発砲する ロスラグが咄嗟に犬の姿に戻って逃げる ロスラグが逃げながらロキを確認する ロキがロスラグを追って銃を放つ ロスラグが逃げ続ける ロキが追う
ロスラグが崖の切れ目を探して逃げるが やがて追い詰められる 追ってきたロキが銃を向ける ロスラグが怯えながら考える
『ロキ隊長を攻撃する位なら 俺がやられる方が100倍マシッス!けど…?けど その後どうなるッスか?あのヘボ勇者たちが ロキ隊長を殺すんスか!?あいつらがロキ隊長を!?』
ロスラグがロキを見上げる ロキが銃を向けたまま止まっている ロスラグが強く目を瞑って思う
『嫌ッス!あいつらにロキ隊長が殺されるなんて…っ あいつらに傷つけられる位なら!!』
ロスラグの耳にロキの銃の撃鉄が動く音が聞こえる ロスラグが走り出して思う
『ロキ隊長!ごめんなさいッス!!』
ロスラグがロキの首に噛み付く ロキが後方へ倒れる ロスラグがその力を強める ロキが正気に戻り痛みに悲鳴を上げる
「…ぐあっ」
『!』
ロスラグが慌てて離れる ロキが銃を手放し負傷した首筋を押さえる ロスラグが心配する
『ロキ隊長!!正気に戻ったッスか!?ロキ隊長!!ロキ隊長!!』
ロスラグが何度も名を呼ぶ ロキが言う
「…うるさい 何度も吠えるな」
ロキの言葉にロスラグが焦る
『あー!!そうだったッス!!今は言葉が通じないんだったッス!!でも良かったッス!ロキ隊長!目が覚めたッスね!?』
ロキが立ち上がり銃を拾いながら言う
「…何を言っているか分からん 黙っていろ」
ロスラグが悲しそうに視線を落とす
『わ… 分かりましたッス』
ロキが一度ロスラグを見下ろし 視線を逸らして言う
「…それと 助かった 礼を言う…」
ロスラグが驚いて顔を上げる ロキが続けて言う
「…死ぬほど 痛かったが…な」
ロスラグが慌てて謝る
『ご、ごご ごめんなさいッス!!ロキ隊長!い、痛かったッスよね?!ごめんなさいッス!!許して欲しいッス!!』
ロキが歩き出す ロスラグが慌てて付いて行きロキの顔を見上げて言う
『え!?ゆ、許せないぐらい痛かったッスか!?お、怒ってるッスか!?ロキ隊長!?ロキ隊長!!』
ロキが表情をしかめて言う
「…うるさいぞ 何を言っているか分からん」
ロスラグが焦る
『あー!!そうだったッス!!』
ロキとロスラグが歩いて行く
洞窟の中へやって来たリーザロッテとシャルロッテ シャルロッテが急いでモバイルPCを操作する リーザロッテが問う
「どうなの!?シャル!この機械を止められて!?」
シャルロッテがプログラムを確認して言う
「…駄目です 彼らのデータプログラムは 物凄く頑丈にプロテクトされていて 私ではこの防壁を破れません!」
リーザロッテが頷いて槍を構えて言う
「そう… それなら 仕方が無くってね?その機械を置いて退きなさいシャル!」
シャルロッテがリーザロッテを見上げて言う
「で、ででで でもっ こ、この機械には とても重要なデータや 役に立つプログラムが一杯でっ 壊してしまうのは も、勿体無いですっ!」
リーザロッテが怒って言う
「では どうしろと仰るの!?このままでは そのプログラムで ザッツロードの仲間や 私たちも やられてしまうかもしれなくてよ!?」
シャルロッテが叫ぶ
「す、少しだけっ ほ、ほほほんの少しだけ待って下さいっ 宝玉のデータや演算のプログラムをコピーしてからっ」
リーザロッテが一度 洞窟の出口へ視線を向けてから 再び戻して言う
「では 急ぎなさい!時間が無くってよ!?」
シャルロッテがタイピングをしながら頷いて言う
「はい!急ぎます!」
息を切らすザッツロードがソニヤから魔力を受け取り構える 後ろでソニヤが座り込んで言う
「も… もぉお無理~!一体どんだけ沸いてくるのよぉお!!」
ザッツロードが魔物を攻撃し 魔法剣の魔力が失われ 一度ソニヤを振り返り 視線を戻して言う
「ソニヤ!皆も頑張っているんだ 僕たちも 早く終らせて戻らないと!」
ソニヤがザッツロードの声に溜め息を付いて言う
「こっちは体力の限界だって言うのに~… リーザたちはまだなのぉ?」
ソニヤが言いながら立ち上がると 横にラナが来て言う
「そのリーザたちは何処へ行ったの?」
ラナの登場に驚いたソニヤが言う
「え?まさかヴェルを倒したの!?」
驚くソニヤにセーリアが来て言う
「ロキが正気に戻って 代わりに応戦してくれているわ」
セーリアの言葉に ザッツロードが振り返って問う
「ロキが?本当かい!?セーリア!」
ザッツロードの言葉にセーリアが頷いて言う
「ええ、ロスラグが助けてくれたそうよ」
セーリアが言い終えると 魔法詠唱を終らせたラナがザッツロードの剣へ魔法を放って言う
「私たちが手伝うから こっちを終らせて早く戻らないと」
セーリアが続けて言う
「ヘクターが…持たないわ」
セーリアの言葉にオライオンが驚いて振り返る 再び視線を前へ戻して叫ぶ
「シュライツ!これ以上もたもたしてられねー!飛ばすぜー!!」
シュライツが了承の声を上げる
ザッツロードたちが戻る ヴェルアロンスライツァーとロキと犬のロスラグが ヘクターの戦いを観戦している ザッツロードたちが来た事に気付いた2人と1匹が振り返る ソニヤが叫ぶ
「ちょっと!!何のん気に観戦してるのよ!?」
ソニヤの叫びにヴェルアロンスライツァーが答える
「ヘクターが 1人で戦わせて欲しいと」
ソニヤが続けて言う
「だったら こっちの支援に来てくれれば良いじゃない!?」
ソニヤの言葉にロキが答える
「…狩をしたせいで…弾切れだ」
ロキの隣の犬が焦った様子で吠える
「うっ わんっ わんっ!」『か、狩って言わないで欲しいッス!ロキ隊長!!』
ラナがヘクターの様子を見て言う
「ヘクターは体力の限界よ 対するデスは…」
セーリアが表情を哀しくして言う
「デスは… 悪魔力がある限り 疲れる事も無いわ」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「それでも ヘクターは最後まで戦うつもりだ」
ザッツロードがヘクターへ視線を向ける
ヘクターがデスの前で息を切らしている
ザッツロードがヴェルアロンスライツァーへ視線を戻して言う
「しかし、あの様子ではっ!」
ザッツロードたちの前で デスがヘクターへ大剣を振り下ろす ヘクターがそれを大剣で受け止めるがヘクターの剣が弾かれる オライオンが叫んで飛び込もうとする
「親父っ!」
オライオンが足を踏み出すと同時に ヘクターが叫ぶ
「来るな!邪魔するんじゃねー!」
ヘクターが叫びながら回避し 再び大剣を手にして構えるが体力が尽きて剣先を地に着けて荒い息をする デスが構える ヘクターが視線を上げて言う
「デス… そろそろ 終わりだぜ?お前のプログラムの評価も… っはは!決まったみてーだ!」
ヘクターが笑い 構えを解除して立つ デスが大剣を構え直し ヘクターへ向かって駆け出す オライオンが叫ぶ
「親父ー!!」
振り上げられたデスの大剣がヘクターを切り裂く しかし、その剣はヘクターの身体をすり抜け 数字の羅列になって消える デスの姿が元に戻り 勢いのままにヘクターの体にぶつかる デスの体にヘクターの大剣が突き刺さっている ザッツロードが声を出そうとして その言葉を飲み込み視線を逸らす ソニヤとラナが瞬きを忘れている セーリアが口へ手を当てる ヴェルアロンスライツァーとロキが肩を落とす ヘクターが言う
「デス… お前のプログラムは 完璧だよな… いつだって 俺以上に 俺の事分かっててよ… だから」
デスの体が後ろへ倒れる 剣が抜け その傷口から悪魔力の霧が噴出し 全ての悪魔力の霧が出て行った後 デスの身体をヘクターが受け止める ヘクターの大剣が地面に落ちる
ザッツロードたちが船の甲板に居る シャルロッテがデスのモバイルPCを持っていて言う
「この機械にある ヘクターさんのプログラムを探したんです、そしたら…」
シャルロッテが一度ヘクターへ視線を向ける ヘクターは甲板の床に座り込んでいる シャルロッテが再び視線を戻して続ける
「プログラムは途中で止まるように作られていたんです 凄い緻密な計算がされていて ヘクターさんの体力が切れるのと同時に 止まるように出来ていて…」
ソニヤが首を傾げて言う
「つまり、最初からヘクターと戦うつもりで そのプログラムが作ってあったって事?」
シャルロッテが顔を横に振って言う
「いえ、ヘクターさん本人と戦うからって訳ではなくて 本来はヘクターさんをサポートする為に 元となるヘクターさんのデータを取っていた訳なので」
シャルロッテの言葉にヘクターが立ち上がって続ける
「あいつは 俺の体力を越えちまうプログラムは作らねーんだ 限界を超えちまうと 俺に負担が掛かるからよ」
ヘクターの言葉に シャルロッテが頷いて言う
「はい、ヘクターさんの戦いを 止めさせる様に作られてました この停止コードはとても強力で… だから悪魔力の影響も 受け付けなかったみたいです」
ザッツロードがヘクターの移動に気付いて声を掛ける
「ヘクター?」
ヘクターが振り返らずに言う
「デスの計算通り、俺の体力は限界だ… 休ませて貰うぜ」
ヘクターが言い終えると共に 歩みを再開させて船室へ入って行く それを見送ったザッツロードがシャルロッテへ問う
「僕たちが知っている先代勇者達の記憶では 彼のモバイルPCも 彼が使用していた宝玉も 海岸近くにあったはずなんだけど」
シャルロッテがモバイルPCを見て言う
「まだ解析が 全然終っていないので 詳しくは分かりませんが デスさんはあの魔王に掴まって 皆さんから離されてから しばらくこの機械を使ってプログラムを続けていたみたいなんです 宝玉の力を増幅させるプログラムも組み直してありましたし、それからヘクターさんやロキさんやヴェルさん、皆さんのプログラムも少し追加してありました」
リーザロッテが腕組みをして言う
「あの悪魔力が立ち込める魔王の島で たった1人で 最後まで戦い続けるなんて…」
ザッツロードが頷いて言う
「本当に、世界一のプログラマーだね」
皆が悲しそうに微笑する 1人オライオンが険しい表情で言う
「『…だった』だろ?」
皆の視線がオライオンへ向く ザッツロードが声を掛ける
「オライオン…?」
オライオンがヘクターの大剣を持って言う
「『世界一の大剣使い』もそうだ、2人とも… もう居ねーんだ」
ザッツロードが疑問して言う
「オライオン、それは どう言う…」
オライオンが大剣を眺めて言う
「親父はもう戦わねー… アバロンの大剣使いのくせに… 相棒の亡骸抱いて 剣は置いて行った」
皆が視線を落とす シュライツがオライオンへ向く オライオンがシュライツへ向いて 一度苦笑してから言う
「これからは 俺たちが 頑張んねーとな?」
オライオンの言葉にシュライツが元気に声を上げる ザッツロードが苦笑して皆へ振り返り言う
「島の悪魔力の中和も、魔王の討伐も、ソイッド村の宝玉も、それから、彼のモバイルPCも… ヴィクトール陛下から頼まれた物は全て揃った、皆のお陰だよ、ありがとう」
皆が微笑む リーザロッテがそっぽを向いて言う
「別に 貴方の為にしたのではないのだから?御礼は必要無くってよ?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが苦笑する 離れたところでソニヤが言う
「素直に受け取っとけば良いのに」
ラナが答える
「あれがリーザの素直な受け取りなのよ」
セーリアが苦笑する ソニヤが呆れる ザッツロードが皆を見渡して言う
「皆も体力の限界だと思う 移動魔法で大陸へ戻るにしても 今は 僕たちも少し休もう」
皆が頷き 個々に散って行く
ザッツロードが船室へ入る 室内ではすでにヴェルアロンスライツァーとロキが眠りについている ロキのベッドの横に大きな犬が座りロキを見上げている ザッツロードが軽く笑って犬の横へ行く 気付いた犬が振り返る ザッツロードが腰を屈め犬を見下ろすと 犬が小さく唸る ザッツロードが苦笑して言う
「確か、宝玉を使えば元の姿に… ああ、人の姿に変身出来るんだったよね?」
言いながらザッツロードが宝玉を取り出し 確認してから犬へ視線を向ける 犬が宝玉を見てからロキへ視線を向け再び宝玉へ戻してからザッツロードを見上げる ザッツロードが微笑み 宝玉を犬へ向けて魔力を送る 宝玉が白く光る しかし何も起こらない ザッツロードが疑問して首を傾げて言う
「あ… あれ?」
犬が小さくほえる ザッツロードが苦笑して言う
「…もう一度」
言うと共に再び宝玉へ魔力を送る 宝玉が白く光る やはり何も起こらない ザッツロードが困った様子で言う
「あれ…?駄目みたいだ… なんでだろ?前回は ヴィクトール陛下に戻してもらったんだよね?」
ザッツロードが言って犬を見る 犬が頷く ザッツロードが首を傾げて考える 犬が小さく唸り普通の大きさで吠える
「ぅ~…わんっ!」
ザッツロードが驚き 犬も慌てる 眠っているロキが言う
「…うるさいぞ」
犬が焦ってロキへ向いて謝りたそうに鼻を鳴らす ザッツロードが謝罪の為に立ち上がりロキへ向いて言う
「あの、ごめんロキ ロスラグを戻してあげようと 思ったんだけ…ど…?」
しかしロキは眠っている ザッツロードがそれに気付いて首を傾げる ロキが寝返りを打って再び言う
「…何を 言っているのか… 分からん…」
ザッツロードが苦笑して言う
「っはは… 寝言… かな?」
言うと共に隣の犬へ視線を向ける 犬がうれしそうに尻尾を振っている ザッツロードが軽く笑って言う
「ロキも君と話をしたがっているみたいだし もう一度だけ試してみようか?」
ザッツロードの言葉に 犬が少し困った様子で声を出すが ザッツロードを見上げて了承する ザッツロードが微笑み 宝玉へ魔力を送る 宝玉が光ると共に犬の体が光り 間もなくロスラグが現れる ザッツロードが軽く笑って言う
「もしかして元の姿… いや、人の姿になりたくなかったのかい?」
ザッツロードの言葉に ロキへ向いていたロスラグがザッツロードを見てから 視線を逸らし 言い辛そうに言う
「その… 俺… ロキ隊長に 怪我させちゃったもんッスから…」
言葉を聞いたザッツロードが首を傾げて言う
「ロキを正気に戻す為に 仕方なかったんだろ?…むしろ感謝されると思うけど?」
ザッツロードの言葉にロスラグが一度視線を向け再び困った表情で言う
「け、けど… 俺はロキ隊長を傷付ける事なんて 絶対したくなかったんッス だから… しばらく反省してようかなって 思ってッスね…」
ロスラグの言葉にザッツロードが呆気に取られ 間を置いて苦笑してから言う
「ロスラグは優しいんだね?」
ザッツロードの言葉に ロスラグが驚き顔を赤くして慌てて言う
「お、お、俺たち先住民族は 狩以外で生き物を傷付けたらダメなんッスっ だからっ 仲間同士で傷付けるなんて ぜ、ぜぜぜっ 絶対っ 絶対ッスね…っ!?」
ロスラグの言動にザッツロードが苦笑して言う
「そうだね 不必要に命を傷付けるのは… 後住民族の僕たちだけだ…」
ザッツロードの言葉に ロスラグが驚いて止まる
「へ…?」
ザッツロードが移動してベッドに腰を下ろす ロスラグがその様子を目で追う ザッツロードが顔を上げ今も立っているロスラグを見上げて言う
「ロスラグ、君はどうしてそんなにロキやウェルの事を好きで居られるんだい?彼も僕たちも 後住民族は戦争やその他の事で 無意味に人を傷付けたり、他の生き物を傷付ける 君達先住民族から見たら…」
ザッツロードが途中からロスラグから視線を逸らして 床を見つめる ロスラグがザッツロードへ向けていた視線を 途中からロキへ移し 間を置いてから答える
「そうッスね… 後住民族の皆は いっぱい戦うし 一杯傷付けたりするッス でも… いっぱい戦って守ったりもするッス 大切な物を守るために戦って 大切な物を失って 泣いて… でも、また守る為に 立ち上がって戦うッスよ 俺たち先住民族は 失うのは仕方が無いって考えるッス 無くなっちゃうのは それは… そういう定めなんだって だから戦わないし、守らないし… 失った時は悲しくって立ち上がれなくなっちゃうッス」
ザッツロードが顔を上げてロスラグを見る ロスラグはロキを見下ろしていて微笑んでから ザッツロードへ向いて言う
「俺は ロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長みたいに強くなりたいッス 大切なものの為に戦ってっ 守って!失った時は… ちょっと落ち込んじゃうと思うッスけど…」
ロスラグが恥ずかしそうに頭を掻く ザッツロードが微笑んで言う
「なら、ロスラグは 先住民族の優しさと、後住民族の強さ その両方を持ってるんだね?」
ザッツロードの言葉にロスラグが顔を赤くして叫ぶ
「な…!?ま、ままま まだ!?まだ 持って無いッスよ!まだ 修行中ッス!!」
ロスラグが慌てて口を押さえ 眠っている2人を確認する ザッツロードも同様に確認してから微笑んで言う
「そうかな?きっと2人も認めてくれるよ 君は十分強いって たぶん2人に近い位」
ザッツロードの言葉にロスラグが軽く微笑んで2人を見て言う
「まだまだッスよ まだまだ… いや!俺はきっと ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長には 一生追い付けないと思うッス!…でも良いんッス 俺は ずっと2人を追っかけて行きたいッスよ!…だからっ!」
ロスラグが語尾を強める 聞き入っていたザッツロードが驚いて声を漏らす
「え!?」
ロスラグがロキの隣のベッドに潜り込んで言う
「俺も2人の後を追って寝るッス!ヘボ勇者もさっさと寝て 体力を回復するッスよ!」
ロスラグが早速眠りに着く ザッツロードが驚き呆気に取られたまま 間を置いて微笑む
一休みしたザッツロードたちが 甲板に集まっている ソニヤ、ラナ、セーリアの3人が移動魔法を確認し ソニヤが言う
「うん、3人で力を合わせれば 皆いっぺんにアバロンまで飛ばせそうよ!」
ソニヤの言葉にラナとセーリアが頷く ザッツロードが頷いてから周囲を見渡して言う
「うん、それでは、皆行こうか?」
ザッツロードの言葉に 周囲を見渡したリーザロッテが言う
「待ちなさい?ヘクターが居なくてよ?」
リーザロッテの言葉にオライオンが答える
「親父は この船で戻るつもりみてーだ、相棒も もう2度と 置いて行けねーだろうしな」
オライオンの言葉にロキとヴェルアロンスライツァーが視線を逸らす 一瞬表情を暗くしたザッツロードが 再び気を取り直して言う
「それじゃ、僕らだけで先にアバロンへ」
ザッツロードが言いかけると 話を聞いていたカイザJrが言う
「やれやれ、アバロンまでとは言わねぇけど、俺たちも船ごとヴィルトンまで飛ばして欲しいもんだぜ」
ザッツロードが苦笑して言う
「カイザJr、本当にありがとう、君が船を出してくれたお陰で 助かったよ」
ザッツロードの礼にカイザJrがぷいっと顔を逸らして言う
「だからっ そー言うのは 女の子に言ってもらいたいっての!」
カイザJrの言動にザッツロードが苦笑する そのザッツロードの後ろで女性たちが顔を見合わせ笑うと カイザJrの近くへ来て ソニヤが笑顔で言う
「ありがとっ!カイザJr!」
ラナが微笑んで言う
「助かったわ、カイザJr!」
セーリアが両手を胸に当てて言う
「やっぱり心強いわ!カイザJr」
リーザロッテが強気に言う
「最初から頼りにしてたのよ?カイザJr」
シャルロッテが恥ずかしがりながら言う
「わ、わわ私も 信じていましたっ!カイザJr」
皆の言葉に カイザJrが目を丸くして言葉を失った後 盛大に喜んで言う
「いやあ~~!まぁなんだ?いつだって頼っちゃって頂戴!なんちゃってな~~ぁ!?あーはははは」
オライオンの横に居たシュライツが カイザJrの前へ行って嬉しそうな声ではしゃぐ カイザJrが頷いて言う
「うんうん!いやぁ~下っ端天使様にも喜んでもらえるなら 俺も嬉しいぜ~~!え?チーズが?美味しかった?いやぁ~ なんのなんの~ あーはははは!」
ザッツロードがその様子に苦笑する
ソニヤ、ラナ、セーリアが移動魔法の詠唱を行い 皆がアバロンへ飛ぶ
【 アバロン帝国 】
上空に現れた皆が周囲の悪魔力の霧に声を上げる ソニヤが言う
「この霧!」
ラナが言う
「悪魔力の霧だわ」
セーリアが言う
「結界の島ほどでは無いけれど こんなに…っ」
ザッツロードが表情を険しくして言う
「城下町の門前に魔物の群れが!僕たちも戦おう!」
皆が頷く
ザッツロードたちが門前に降り立ち アバロン兵らが戦う魔物の群れへ攻撃を開始する 幾つかの群れを倒し さらに前の群れへ向かう ザッツロードがアバロン兵の指揮を執っている人物に気付いて名を呼ぶ
「バーネット陛下!」
呼ばれたバーネットが振り返って言う
「おう!戻ったな?!勇者様ご一行!」
ザッツロードたちがバーネットの下へ向かい言う
「僕らも戦います!」
ザッツロードの言葉にバーネットが魔物を倒しながら言う
「勿論だぜ!休んでる暇はねぇぞ~?!おらぁああ!!気合入れて突っ込めぇええ!!」
バーネットの指揮にアバロン兵とザッツロードたちが魔物の群れへ向かう
【 アバロン城 】
ザッツロードたちが玉座の間で待つ 間もなくバーネットが現れ玉座へ座る ザッツロードが一度正面の玉座を見てからバーネットへ問う
「バーネット陛下、ヴィクトール陛下は…?」
皆がザッツロードと同意見でバーネットへ視線を向ける バーネットが軽く笑って言う
「ああ、あいつは今ガルバディアに行ってる アバロン3番隊を引き連れてなぁ」
バーネットの言葉にオライオンが驚いて問う
「3番隊を!?まさかガルバディアを 襲うってーのかよ!?」
オライオンの言葉にバーネットが答える
「落ち着け、ガルバディアを 攻撃する訳じゃねぇよ、むしろ逆だ」
ザッツロードが問う
「逆…と言うと?」
ザッツロードの言葉にバーネットが口角を上げて言う
「過去の歴史の謝罪だってよ、ガルバディアへ溢れる悪魔力の処理をする為に行ったんだ お陰でアバロンの方もキツくてよ お前らが帰ってきてくれて助かったぜ」
バーネットが軽く溜め息を付く オライオンが詰め寄って問う
「あたりめーだろ!アバロン3番隊は アバロンの最強部隊だ!なんでそれを他国に使うんだよ!?しかもヴィクトール陛下まで!!」
オライオンの言葉にバーネットが怒り 鞭を床に叩き付けて叫ぶ
「んだと!?てめぇえ!!俺にこのアバロンを任されるのが 気に入らねぇえってーのかぁあ!?」
オライオンが焦って言う
「ち、ちちちちげぇーよ!そうじゃなくて!!」
オライオンがザッツロードを盾にする 盾にされたザッツロードが慌てる バーネットがザッツロードの前に立って凄んで言う
「どぉおなんた!?あぁあ!?」
ザッツロードが慌てて両手を自分の前で横に振って否定しながら言う
「ぼ、僕は何もっ!!き、きっと ヴィクトール皇帝陛下も バーネット第二皇帝陛下なら安心して アバロンを ま、任せると お、お思いになられたのだとっ!!」
ザッツロードの返答を聞いたバーネットが 軽く息を吐いて玉座へ戻って言う
「…まぁ、正直 俺はあんまり得意じゃねぇんだ、兵だってこのアバロンの民だからなぁ、そいつらを 戦場に出したかねぇんだよ」
ザッツロードが声を出さずに驚く 仲間たちも顔を見合わせて微笑する バーネットが玉座に身を静めながら続ける
「とは言え、今は他に雇える兵が居ねぇんだから 言ってらんねぇ …と、そこで 喜べ!丁度 良く帰ってきた お前らに指令だぜ?」
バーネットがにやりと笑ってザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが思わず言う
「…え?」
仲間たちも呆気に取られる バーネットが続けて言う
「バッツスクロイツの話によると 聖魔力を抜き出した魔力穴からの悪魔力は もうしばらく噴出するらしい、現在各国はその悪魔力の影響で増加してやがる魔物の対処に追われてる訳だが… 悪魔力が充満して動物が魔物化しちまうまでには 一定期間が掛かる、でもって 魔物化した後に同族で群れを作って他の生物を襲う 例外もあるがほとんど その順序は変わらねぇ …って事はだ?今回アバロンの周囲のそいつらは一掃されたんだ 次に群れを作って来やがるまでには しばらく時間が掛かるだろぉ?」
突然の指令にザッツロードが呆気に取られたまま 何とか返事を返す
「は、はい…?」
ザッツロードの返事を気にせずバーネットが続ける
「バッツスクロイツに命じて その各国の魔物の群れの様子が分かるプログラムを作らせた お陰で今回はアバロンに来る群れに先だって手を打てたんだ、次はガルバディアがやべぇって事も分かってる …でだ」
バーネットがザッツロードへ指差して言う
「今回、お前らにアバロン2番隊と4番隊の指揮権を与える 今すぐガルバディアへ向かい 先に防衛に当たっているヴィクトールと3番隊の援護に当たって来やがれ!」
過去に無い部隊指揮権の譲渡に戸惑い 理解できないザッツロードが呆気に取られて言う
「…え?ぼ、僕らに部隊の指揮権を!?」
バーネットがだるそうに言う
「そうだっつってんだろぉ?さっさと行って援護して来やがれ 魔物の群れがガルバディア城に到達するまで もうすぐだ、のんびりしてる時間はねぇんだよ 2番隊と4番隊には既に連絡してあるからよ おい!2番隊と4番隊の隊長は来てるか?」
バーネットの問いに衛兵が返事をして 両隊長を玉座の間へ通す ザッツロードたちが驚く 2人がザッツロードの下へ来て言う
「アバロン帝国2番隊隊長アルケイルです、勇者ザッツロード様と共に戦えるとの事 私も2番隊の隊員も喜んでいます」
アルケイルが敬礼する ザッツロードが焦って敬礼を返す アルケイルの隣に4番隊隊長が跪き言う
「同じく4番隊隊長のキリィです、魔王討伐の重任 お疲れ様で御座いました勇者ザッツロード様」
キリィが深々と敬礼する ザッツロードが焦って敬礼を返す ザッツロードの様子にバーネットが笑って言う
「はっはー、どぉしたよ?勇者殿?ローレシアでは部隊指揮を習わなかったのかぁ?それとも今更 勇者様扱いに慣れてねぇとでも言いやがるのかよ?」
バーネットの言葉にザッツロードが苦笑しながら頭を掻いて言う
「そ、そうですね どちらも…」
ザッツロードの返答にバーネットが軽く笑って言う
「なら、慣れてねぇってだけで 今のてめぇなら こなせる筈だ、ガルバディアの死守とヴィクトールの援護 頼んだぜぇ?」
バーネットの言葉にザッツロードが再び驚くが気を取り直し跪いて言う
「はい!バーネット第二皇帝陛下!ご命令の程、必ず成し遂げて参ります!」
バーネットが頷いて言う
「よし、期待してるぜ 勇者ザッツロード7世!」
ザッツロードが返事をし 2番隊4番隊の隊長と共にバーネットへ敬礼して立ち去る 仲間たちが呆気に取られながらもザッツロードに続いて玉座の間を後にする
玉座の間を出ると両部隊長がザッツロードへ言う
「それでは、我々はデネシア国を経由しガルバディア国へ向かいます」
「詳細はガルバディア城にてお伺い致します」
ザッツロードが2人に頷いて言う
「うん、僕らは移動魔法で先に向かい、ヴィクトール陛下と3番隊に連絡しておくよ」
両部隊長がザッツロードに敬礼し去って行く 間を置いてソニヤがザッツロードへ叫ぶ
「ちょ、ちょっと!どーするのよ!?」
ソニヤの言動にザッツロードが慌てて言う
「え?え…?」
ザッツロードが返答に困っていると リーザロッテが呆れて言う
「何を勝手に引き受けて 退散なさっていらっしゃるの?」
ザッツロードがリーザロッテへ向いて再び疑問の言葉を漏らす ラナが呆れて言う
「こちらの報告は一切しないで 新しい指示だけ貰って引き下がるなんて…」
ラナの言葉にザッツロードがそのままの表情で視線を向けて疑問する セーリアが苦笑したまま言う
「まぁまぁ?一応… 2番隊と4番隊の指揮権も頂いたのだし」
セーリアの言葉に救われたザッツロードが体勢を立て直して言う
「うん、それに 僕らが前回請け負った任務の内 バーネット陛下から頂いていたのは魔王討伐で、それを成し遂げた事は既に伝わっている訳だし」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが問う
「では、新たに与えられた任務については どうするおつもり?」
ザッツロードがリーザロッテへ向いて言う
「どう… と言われても?とりあえず、やってみるしか…」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが怒って言う
「それを どうやるのかと 伺っているのよ!?貴方は部隊を指揮した事が おありになって!?」
ザッツロードが驚いて言う
「え?いや… 私は無いですが リーザロッテ王女がお得意なので 私は それに倣(なら)おうかと」
ザッツロードの言葉にリーザロッテが驚いて言う
「わ、私が!?な、何をおっしゃっているの!?私はそんな大事 出来なくてよ!?」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?いつもなさっているではありませんか!?」
リーザロッテが怒って言う
「仲間へ指示を送るのと 部隊を指揮するのは違ってよ!?あなたは綿密な策を練った 部隊編成が出来て!?」
ザッツロードが焦って言う
「え…いや…それは…」
ザッツロードがオライオンへ向いて言う
「オ、オライオン!君なら!」
オライオンが頭の後ろに両手を回して言う
「俺は3番隊の指揮なら取れっけど… 他は無理だぜ?2番隊とか4番隊とか~お堅い感じの部隊なんか特に無理だ」
オライオンの言葉にシュライツが肯定の奇声と共に頷いて見せる ザッツロードが驚いてロキへ向いて言う
「ロ、ロキ!君なら!」
ザッツロードの言葉にロキが隣のヴェルアロンスライツァーへ視線を向けて言う
「…俺は剣士の指揮を執った事は無い それならヴェルアロンスライツァーが適任だろう」
ザッツロードが言葉どおりにヴェルアロンスライツァーへ視線をずらす ヴェルアロンスライツァーが首を傾げて言う
「バーネット第二皇帝陛下は貴殿を任命されたのだ、私がそれを引き受ける事は出来かねる」
ザッツロードが焦って言う
「…バーネット陛下に期待して頂いたのに 失敗させる訳には… それなら、オライオン、ロキ、ヴェル、僕に指揮の執り方を教えてもらえないだろうか?」
名を呼ばれたメンバーが顔を見合わせ オライオンが言う
「俺は感覚で覚えたから 言葉で説明とか…無理だぜ」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「アバロンの部隊はローゼントの部隊との違いが大きい 大剣使いの部隊に長剣使いのものを使用するのは推奨しかねる」
ロキが考えて言う
「…俺が思うに アバロンの部隊は隣国ベネテクトの部隊と近い あのベネテクトのベーネット陛下のような指揮が執られる事が望ましいのだが」
ロキの言葉を聞いたソニヤが言う
「そういえばロキは前にベーネット陛下の指揮能力は凄いって言ってたわよね?」
ソニヤの言葉にラナが続ける
「そういえば 言ってたわね、指揮能力ってそんなに違う物なの?」
ラナの言葉にロキが頷く
「…たとえ同じ部隊を使ってでも指揮の執り方1つで勝つことも負ける事もある ベネテクトのベーネット陛下はスプローニとシュレイザー2国を相手にその半分以下の傭兵部隊で勝利したのだ その指揮能力の高さは言わずとも分かるだろう?」
ロスラグが驚いて言う
「自分達の倍以上の人数に向かって行くなんて… お、俺には出来ないッスよ!?」
リーザロッテが問う
「あら?貴方は自分の体の倍以上の魔王に立ち向かっていらしたじゃない?」
リーザロッテの言葉にロスラグが振り向いて言う
「そ、それは 竜族のあいつが助けてくれって言ってたッスし ロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長が一緒だったからッス!」
話を聞いていたレイトが言う
「うむ、自分の敬愛する隊長の下であれば 数や兵力に負けず立ち向かえるというのは 指揮官としての器量でもある」
ヴェインが続けて言う
「今回バーネット第二皇帝陛下がザッツロードへ部隊を任せたのも その点を配慮しての事かも知れんな」
ヴェインの言葉にロキが言う
「…そうであったとしても 結果的に失敗に終れば ザッツロードだけでなく 彼を推奨したバーネット第二皇帝の地位も 危険に晒されるだろう」
リーザロッテが腕組みをして言う
「そうね、何しろ用いる部隊はアバロン帝国の2番隊4番隊ですもの、両部隊が負けるような事になっては 第二皇帝なんてギリギリの称号はすぐに剥奪されるでしょうね?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが焦って言う
「そ、そんな大変な事を バーネット陛下は僕に!?」
ソニヤが不安気に言う
「ね、ねぇ?今からでも辞められないのかな?」
ラナが冷静に言う
「辞めるもなにも もう部隊はガルバディアへ向かってしまったのでしょう?」
セーリアが困りながら言う
「ま、まぁまぁ 部隊がガルバディア国まで辿り着くまで2~3日は掛かるわ、それまでに指揮を執れる方を探して習うとか…」
セーリアの言葉にリーザロッテが問う
「それで?どなたに教えを説いて頂くおつもり?」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「ではロキが推奨する ベーネット陛下に教えを説いた者へ 頼んではどうだろうか?」
ザッツロードが言う
「そ、そうか!ベーネット陛下も 誰かから指揮の執り方を教えて頂いたのだろうし それなら!」
リーザロッテが言う
「行くのなら急いだ方が宜しいのではなくて?時間は2~3日しか無くてよ?」
リーザロッテの言葉にザッツロードが頷いて言う
「うん、急いで向かおう!」
仲間たちが少し呆れた様子で頷く
【 ベネテクト国 】
ベネテクト国の町へ移動魔法でやって来たザッツロードたち 人々に尋ねベーネットのもとへ向かう ザッツロードがベーネットへ説明して言う
「…と言う訳で お恥ずかしいお願いなのですが ベーネット陛下へ部隊指揮のご指導をされた方を 教えて頂きたく参りました」
ベーネットの前に跪き敬礼して言うザッツロード ベーネットが苦笑して言う
「それはまた、大変な目に会わされてしまっているようだね?心情を察するよ」
ベーネットの言葉にザッツロードが顔を上げ苦笑を返す それを見てベーネットが一度微笑み 改めて言う
「悪魔力の影響は 勿論このベネテクト国も受けている 故に私も余裕は無いのだが… 私の父の命で苦労を掛けさせられていると知った以上 無碍にも出来ない 指揮をするのが我がベネテクト国の友好国であるアバロン帝国の兵 と言う事もあるしね?」
ザッツロードが表情を明るめ敬礼を深くして礼を述べる
「お忙しい所 申し訳有りません」
ベーネットが頷いて言う
「うん ただ、残念な事に私にその部隊指揮の教えを説いた人物は 現在ベネテクト国に滞在していない そして、彼も今は君達に教えを説く事が難しい状態な筈だ」
ベーネットの言葉に ザッツロードが焦って顔を上げて言う
「そ、それでは…っ」
ベーネットがザッツロードの不安げな表情に微笑んで言う
「従って、私が伝授しよう、ザッツロード王子」
ベーネットの言葉にザッツロードとソニヤが同時に驚きの声を上げる
「「えぇええ!?」」
ザッツロードとソニヤの声にベーネットが笑って言う
「あっはははは、そんなに驚く事はないだろう?ザッツロード王子、君と私は地位も歳も そう変わらないと言うのに?」
ザッツロードが苦笑して言う
「…た、確かに年齢は同じぐらいだと思いますが 地位はベーネット陛下は国王で 私は第二王子ですし…」
ザッツロードの言葉にベーネットが軽く笑い首を傾げて言う
「まぁ、君は勇者ザッツロードでもあるからね、私よりもずっと上の存在かもしれないが?」
ザッツロードがベーネットの言葉を慌てて否定する
「い、いえっ!?そんな事は有りません!僕は勇者と言う称号を得てはいても… 実際にはただ仲間と共に旅をしているだけと言うか…」
ザッツロードが視線を落とす ベーネットが口角を上げて言う
「では、勇者として仲間を導く事に関しては十分だと言う事だね?」
ベーネットの問いにザッツロードが呆気に取られ 思わず声を漏らす
「…え?」
ザッツロードとベーネットの会話を聞いていた仲間たちが後ろでヒソヒソ話をする ラナが言う
「なんだか…ベーネット陛下って誰かに似てない?」
セーリアが苦笑して言う
「それはもちろん…」
ソニヤが言う
「親子なんだからバーネット陛下に似てるのは とーぜんじゃない?」
リーザロッテが言う
「容姿の問題ではなくてよ?」
ラナが頷いて言う
「ザッツを言い包める あの論舌も血筋なのかしら?」
セーリアが苦笑して言う
「ま、まぁ… 悪い様には 包められていないのだから…」
リーザロッテが言う
「どちらにも 包む事が出来るのかも 知れなくてよ?」
ソニヤが入って言う
「そ~言われてみると確かに… あれで鞭を持ってたら そのまんま~」
リーザロッテが言う
「だから容姿の問題ではなくってよ!?」
ベーネットがザッツロードへ言う
「期限は2~3日か… では早速始めようか?」
ザッツロードが焦りながら言う
「は、はいっ!宜しく御 鞭撻 を お願いします」
ザッツロードの言葉に ソニヤが驚いてリーザロッテへ視線を向ける リーザロッテが焦って言う
「その 鞭撻 ではなくってよ!」
シャルロッテが顔を赤くして言う
「そ、そそそっ そちらのっ 鞭撻だったらっ た、大変ですぅ~!」
レイトとヴェインが苦笑している その他のメンバーが呆れている
ザッツロードがベーネットから部隊指揮を教わっている 椅子に座り机に向かうザッツロード ベーネットがその横に立ちザッツロードへ問う
「では次、敵部隊に魔法を扱う者が確認された場合は?」
ザッツロードが本をめくりながら焦って答える
「え、えっと… 敵部隊の魔力者の大体の人数を確認し、2つの選択肢から良策を選び」
ベーネットが机を叩いて怒る
「違う!先程も言った筈だ!まずは先行する味方部隊に 魔力に対応する者が居るかどうかの確認だ!敵魔力者の数を確認している余裕など無い!」
ザッツロードが焦って謝る
「す、すみませんっ!そうでしたっ!!」
ベーネットが気を取り直して場所を移動しながら問う
「では、先行する部隊から 目前の敵部隊を撃破したと 連絡を受けた場合は?」
ザッツロードが慌てて本のページをめくり答える
「は、はい、その場合はっ 他の部隊の状況を確認し、他の部隊への振り分けを…」
ベーネットが再び机を叩いて怒る
「違う!先行部隊は振り分けてはいけない!…何度言ったら覚えやがるんだあ!?てめぇえはあぁあ!!」
ベーネットがハッとして口を押さえて背を向ける ザッツロードが一瞬 理解出来ずに間を置いてから顔を向ける 赤面したベーネットが言う
「…い、今のは …聞かなかった 事に…」
ザッツロードが苦笑して言う
「え?ああ、はは… いえ?気にしないで下さい 全然 違和感無かった ですから?」
ザッツロードの言葉にベーネットが机を叩き怒って言う
「んだと!?てめぇええ!!」
ザッツロードが驚き 怒られている理由が分からずに焦る 後方で仲間たちが苦笑している
【 ガルバディア国 】
ザッツロードと仲間たちが移動魔法でガルバディア国へ向かう ガルバディア城に辿り着いたザッツロードたち 城門に立つアバロン兵がザッツロードたちに気付いて声を掛ける
「勇者ザッツロード、ヴィクトール皇帝陛下が ガルバディア城内にて 貴殿方をお待ちだ」
ザッツロードが頷き礼を言って 仲間と共に城内へ向かう 玉座の間の手前にある広い空間に入る ソニヤが驚いて声を上げる
「え!?ザッツ見てあそこ!」
ザッツロードが顔を向ける アバロン3番隊と共に階段に腰を下ろしたヴィクトールが ザッツロードたちに気付き顔を上げ微笑む ザッツロードたちが驚いて駆け寄り ザッツロードが問う
「ヴィ、ヴィクトール皇帝陛下!一体何故こんな所に!?」
ザッツロードの問いにヴィクトールが笑って言う
「ああ、貴公も知っての通り アバロンはガルバディアとの友好に一度大きな傷を作ってしまっている 故に ガルバディア国王には歓迎して頂けなかったのだ …とは言え、外界の吹雪から身を守るため城を開放して頂けた、私自身は 十分な優遇を頂けていると思っている」
リーザロッテが前へ出て言う
「し、しかし 他国の… それも帝国の皇帝陛下を 通路に滞在させるだなんて 信じられませんわ」
リーザロッテの言葉にザッツロードが頷きヴィクトールへ向いて言う
「ヴィクトール皇帝陛下、我々はバーネット第二皇帝陛下から、ガルバディア国の防衛を命じられました、間もなくアバロン帝国2番隊及び4番隊が到着します ここは我々へ任せ どうかヴィクトール皇帝陛下はアバロンへお戻り下さい」
ヴィクトールが顔を横に振って言う
「貴公らの心遣いには感謝する、だが 私は戻る訳には行かない 私はアバロンの王として ガルバディアの王と約束をしたのだ 今度こそ、ガルバディアの危機を 我々の援護を持ってして共に乗り越えると」
ザッツロードが問う
「しかし、その援護を行うアバロンの者への この扱いは」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが言う
「ガルバディア国王は 我々を信じて下されてはいないのだ しかし ならばこそ 果たさねばならない」
ヴィクトールが立ち上がって言う
「バーネットから連絡を受けていた、貴公らの助力を歓迎する ガルバディアはこの危機を 戦うつもりが無いらしいのだ いかにアバロン最強の3番隊とはいえ 一個部隊でこのガルバディア全てを守るのは難しかった 貴公の指揮する部隊は間もなく到着する筈だ 何か策を考えてあるのなら 先に聞いておこう」
ヴィクトールの言葉に戸惑うザッツロード
「え… えっと…」
ソニヤが背中を突いて言う
「ほら!ザッツ!ベーネット陛下に教えてもらったでしょ!」
ラナが続けて言う
「さっきベネテクト国から移動魔法で飛んだ時、ガルバディアの周囲の地形も見えたじゃない」
セーリアが微笑んで言う
「あの地形の感じだと やっぱり最初の部隊編成はパターンBになるのかしら?」
リーザロッテが片手を腰に置いて言う
「西側には川があってよ?パターンBでは西側に無駄が出てしまうのではなくて?」
レイトが考える様子で言う
「しかし、今回の相手はこのガルバディア周囲に生きる原生生物 となると水の近くには相応の生き物が居る可能性も…」
ヴェインが言う
「全体の様子を確認するまでのパターンAから入るのも策だとベーネット陛下は仰っていた」
ロイが言う
「…それは最悪 何も分からない場合の策だ、今回は地形と気象情報は得ている」
シャルロッテが言う
「わ、わわわ 私のデータによるとっ この吹雪はっ ああ、あと3日は止まないとっ」
ロキが出入り口へ視線を向けて言う
「…敵の数が分からず、気象状況がこちらに不利な場合は 城を使いこちらの不利を減らすのも手だな」
ヴェルアロンスライツァーが目を閉じて考えて言う
「この城の防御力を考慮すると 武器を扱わない魔物程度なら十分に対応出来るだろう」
仲間たちの言葉へ視線を向けていたザッツロードへ ヴィクトールが顔を向けて問う
「それで、貴公はどの策を取るつもりなのだ?」
ヴィクトールの問いにザッツロードがギクッと身を震わせてから考える
ザッツロードの選んだ策にヴィクトールが頷いて言う
「そうか、確かにその策もあるかもしれない 私の知るものとは多少離れている気もするが バーネットが貴公らへ与えた部隊だ 私も貴公らへ一任しよう」
ソニヤがザッツロードへ問う
「ね、ねぇ?この際やっぱりヴィクトール陛下へお願いしちゃうって言うのも…」
ラナが腕組みをして言う
「確かに、2~3日で覚えた知識だけでは心配ではあるわよね」
リーザロッテが言う
「でも、いつかはザッツロード王子も 王族として部隊を率いて指揮を執る日が 来るかもしれなくてよ?」
レイトが考える姿で言う
「第二王子であれば 戦場へ赴く可能性も十分にありえる 少々強引ではあるが これがザッツロード王子の 初の舞台となるか…?」
ロキが言う
「…部隊指揮は回数をこなす事も重要だ その中には成功も失敗もあるだろう」
ヴェルアロンスライツァーが目を瞑って考えながら言う
「失敗の数だけ重みが増す…その重責に耐え切れなくなる者が多い事も事実だ」
皆の意見を聞いてソニヤがもう一度問う
「ねぇ?ザッツ、本当に良いの?」
ラナが言う
「まだ時間があるから 策を練りなおす事も可能よ」
ヴィクトールがザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが言う
「この策で、行きます」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが頷いて言う
「分かった、では偵察部隊から連絡が来るまで 待機しておいてくれ」
終戦
無事 魔物の群れを撃破したザッツロードたちとヴィクトール ガルバディア城の玉座の前に立ち ヴィクトールが敬礼する ザッツロードが後方へ跪きヴィクトールが言う
「ガルバディア国王、ガルバディア城周囲の魔物は全て撃破した 我々の調べによると 現在立ち込めている悪魔力が落ち着くまでに 恐らく後1、2回は群れを成した 魔物の襲撃があるものと予測されている 我々は次の襲撃を確認次第 再びこの地へ参る」
ヴィクトールの声が響く ザッツロードが顔を上げて玉座を見る 玉座には誰も居ない ザッツロードがヴィクトールを見上げる ヴィクトールが続ける
「…我らアバロンの民が 次の時も必ず このガルバディアを守る事を 約束する」
ヴィクトールが誰も居ない玉座へ言い終えると アバロン式の敬礼をして立ち去ろうとする ザッツロードも慌てて敬礼し 立ち上がりヴィクトールの後を追う 玉座の方から声がする
『…次は 不要だ』
ヴィクトールが立ち止まり ザッツロードが後ろを振り返る 玉座の前にホログラムのガルバディア国王が居る ザッツロードが驚く ザッツロードの横をヴィクトールが過ぎ ヴィクトールが問う
「不要とは?」
ヴィクトールの前で ガルバディア国王が言う
『そのままの意味だ ガルバディアの防衛は もはや必要ない』
ヴィクトールが表情をしかめる ザッツロードがヴィクトールの隣へ来て ガルバディア国王へ問う
「自国の兵のみで 防衛が可能だと言う事でしょうか?」
ザッツロードの言葉に ヴィクトールがザッツロードへ視線を向けて言う
「そうでは無いのだ、ザッツロード王子 ガルバディアにはもう…」
ヴィクトールの言葉をガルバディア国王が続ける
『我が国は 既にその幕を下ろした ガルバディアは 滅んだのだ』
ザッツロードが驚き ヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが一度目を閉じ再び開くと ガルバディア国王へ強い意志を向けて言う
「貴公はまだ生存している!ガルバディア国王 他にも ガルバディアの民がっ 貴公と共に このガルバディアの地に!」
ヴィクトールの言葉に ガルバディア国王が顔を横に振って言う
『残されたガルバディアの民は 私を含め たったの3人…』
ガルバディア国王が言うと ガルバディア国王の両脇に2人のガルバディア人のホログラムが現れる ザッツロードが驚く ヴィクトールが苦渋の表情を見せる ガルバディア国王が続ける
『…その我らも 遺伝子の複製を続けてきただけの存在 これ以上 生存する理由も無い …最後にお前との友好を 回復する事が出来た アバロン帝国皇帝ヴィクトール13世 ガルバディアとアバロンの絆は 再び お前の手により 紡がれた』
ガルバディア国王の言葉にヴィクトールが言う
「ならば!共に生きるべきだ!たとえ数人であろうとも!たとえ複製であろうとも!貴公らが生存する限り ガルバディア国は滅ばない!我らアバロンと共に ガルバディア国を再建するのだ!」
ヴィクトールの言葉に ガルバディア国王が微笑んで言う
『…フフ 変わらないな アバロンの王 …我々は複製であるが為に 変わる事は無い そして …お前達は アバロンの民である限り 変わる事が 無いのかも知れない …お前達の その強い想いが 我々の幻想を現実とする とても懐かしい …我らの力』
ガルバディア国王の言葉に ザッツロードとヴィクトールが表情を明るめる ザッツロードが思わず言葉を発する
「それでは!ガルバディア国王陛下!」
ガルバディア国王が軽く頷いて言う
『我々に残された時間は少ない… しかし、その我らにも 何かを成し遂げる事が 出来るのかもしれない …アバロンの王 ヴィクトール13世 ガルバディアは いつでもアバロンへ 力を貸そう』
ザッツロードがヴィクトールへ顔を向ける ヴィクトールが頷き言う
「ガルバディア国王!我らの友好はもう2度と 閉ざされる事は無い この剣に誓う!」
ヴィクトールが言うと共に剣を引き抜き 片手に構える ガルバディア国王が頷くと ヴィクトールの持つ剣にプログラムによる数字の羅列が現れ雷が纏う
【 アバロン城 】
アバロン城玉座の間 ザッツロードがヴィクトールとバーネットの前で跪く ヴィクトールが言う
「勇者ザッツロード そして仲間たち、結界の島での働きと共に アバロン、ガルバディア 両国防衛への支援 ご苦労だった」
ザッツロードが敬礼する ヴィクトールが続ける
「貴公から預かった 結界の島から持ち帰ったソイッド村の宝玉は その聖魔力の大半を使い切ってはいるものの 宝玉としての機能は失われてはおらず 再び使用が可能との事だ 貴重な宝玉が 1つでも無事であった事は大きい そして、共に持ち帰られた 宝玉の防人となったプログラマーが使用していた機械も バッツスクロイツにより宝玉に関わる情報とプログラムを解析している状態だ 彼の知識を持ってしても 分かりかねる部分が多くあるそうだが、ガルバディア国王の助力を得る事により それらも近く解明されるだろう」
ヴィクトールの言葉にザッツロードたちが表情を明るめる ヴィクトールが微笑んで言う
「貴公らの働きは このアバロンはもちろん 今や世界を救う力となっている」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが敬礼して言う
「お褒めの言葉 光栄です ヴィクトール皇帝陛下」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが微笑んで頷く ザッツロードの仲間たちが顔を見合わせて微笑む バーネットがにやりと笑って言う
「…と、そ こ で だ!」
バーネットの言葉にザッツロードが驚いて顔を向けて言う
「え!?」
ザッツロードと共に仲間たちもバーネットへ視線を向ける バーネットが笑みを湛えたまま ザッツロードを見下ろして言う
「その優秀なお前たちに 引き続き指令を与えてやる …光栄だろぉ?」
バーネットの言動に ザッツロードが苦笑しながら頷く
「は、はい… 光栄です… バーネット第二皇帝陛下」
ザッツロードの仲間たちが呆れた表情で顔を見合わせる 遠くでヴィクトールが苦笑している バーネットが体勢を戻して言う
「優秀なお前らの仲間の 優秀なバッツスクロイツへ命じて 各国の悪魔力の濃度を把握するプログラムを作らせた 悪魔力が噴出しているのは 結界の島と共に、聖魔力を失った魔力穴からだ だから当初はそれらを中心に 周囲の悪魔力濃度が 高まるものだと思われていたんだが、確認した所 悪魔力の濃度が移動している事が分かった まぁ、理由は簡単だ、お前らも知っての通り 強い悪魔力はその成分が黒い霧状になる あの島を覆っていた悪魔力みてぇにな」
ザッツロードたちが表情を険しくする バーネットが続ける
「その悪魔力の霧が、風に乗ってこの大陸を移動しちまうんだそうだ 空の風やら海の風やら 魔力穴から噴出する悪魔力のその物にも影響を受けてな その結果 現在この大陸に充満している悪魔力の濃度は 南東に固まりその影響が強く出ている 既に大陸南東の国 シュレイザー国とスプローニ国へは警戒を強めさせているんだが この悪魔力の濃度は 相当な物になるらしい 恐らく結界が張られていた頃の あの島の濃度に近づくだろうって程だ」
バーネットの言葉にザッツロードが衝撃を受けて言う
「ではっ あの島に居た魔物ほどの 強い力を持った魔物の群れが シュレイザー国とスプローニ国に!?」
ヴェルアロンスライツァーとリーザロッテ、ロキ、ロスラグ、ロイが驚き ザッツロードの言葉にバーネットが続ける
「だろうな、悪魔力による魔物化の方も詳しく調べさせた所 今回の両国の悪魔力の濃度は 人さえも 魔物化しちまう可能性があるって話だ」
リーザロッテが思わず声を上げる
「そんな!シュレイザー国には お母様がいらっしゃるのに!!」
リーザロッテに皆の視線が向き バーネットが話を続ける
「先手は打ってある 悪魔力の濃度を出来るだけ正確に計らせ 魔物化が起きちまいそうな濃度の時には 宝玉の聖魔力を使って町に結界を張り 濃度が弱まるまでやり過ごす この結界のプログラムは あの先代勇者たちのプログラマーが作った物をそのまま逆利用している 島の悪魔力が外へ行くのを押さえた様に 今度は外からの悪魔力が町の中へ入らない様にしてるってぇ訳だ」
ザッツロードが焦って言う
「しかしそれでは!町を守っていられる時間は 宝玉に蓄積されている聖魔力が無くなるまでの僅かな間しか持ちません」
焦るザッツロードへバーネットが苦笑して言う
「安心しろ まぁ俺も最初はてめぇと同じ考えで締め上げたんだが、バッツスクロイツはあー見えて ちゃぁんと計算してやがった この強い悪魔力の影響は後半年ほどで収まる 宝玉の聖魔力は それを乗り切るのに十分な力が残されている」
バーネットの言葉にザッツロードを含めた皆が肩の力を抜く バーネットが続ける
「だが、問題もある その悪魔力の濃度が高い内に 野生の原生生物や 町の外に出ちまってた奴なんかは 魔物化しちまうんだ 折角悪魔力をやりすごしても 後に そいつらに町や城を潰されちまっては元も子もねぇ …と、そこで お前らの出番だ」
バーネットの言葉にザッツロードが頷いて言う
「はい!悪魔力によって魔物化した生物から 町や城を守る援護ですね!」
バーネットが頷いて言う
「ああ、他の国にもこれらの情報は送ってある 従って その国や他国の部隊と合同になる事もあるだろう そん時は てめぇらに指揮権が来る筈だ ガルバディアでの活躍は聞いてる 問題はねぇよなぁ?」
バーネットの問いにザッツロードが苦笑して言う
「あ…は…はい、たぶん」
ザッツロードの返答に バーネットが首を傾げて言う
「あぁ?!何だよその『たぶん』ってのは?ベーネットから部隊指揮戦術を 教わったんじゃねぇのかよ!?」
ザッツロードが驚いて言う
「えぇえ!?な、何故その事を バーネット陛下が?!」
バーネットが笑って言う
「何でも何もねぇだろ?あいつから連絡があったんだよ『勇者ザッツロード殿にあまり無理を言うな』ってな?それから 俺に教わった部隊指揮戦術を伝えておいたってよ?」
ザッツロードが驚きつつ何とか声にする
「…えっ?…えっ?!そ、それではっ ベーネット陛下に部隊指揮を指導した方 と言うのはっ!?」
バーネットが首を傾げて笑って言う
「俺に決まってんだろ?国を守るための部隊指揮戦術だぜ?国を維持した国王から 次の国王へ継がれるのが当然だ」
ザッツロードが言葉を失う ソニヤが仲間たちへ言う
「だからベーネット陛下の教え方が バーネット陛下っぽかったのね?」
セーリアが苦笑しながら言う
「教える側のベーネット陛下の言葉使いも 当時教えていたバーネット陛下と 同じになってしまったのでしょうね?」
ラナが首を傾げて言う
「それかベーネット陛下の本性も やっぱりあの感じなのかもしれないわ」
リーザロッテが力を入れて言う
「さあ、急いでシュレイザー国へ向かうわよ!」
バーネットが言う
「悪魔力の濃度が高い時に行っても戦えねぇ 詳しい状況をバッツスクロイツに確認して 必要な時に必要な場所へ行って戦って来やがれ 全てお前らの判断に任せる」
ザッツロードが敬礼して返事をする
「はい、分かりました!」
兵の案内を受けてバッツスクロイツの下へ向かうザッツロードたち ロスラグが言う
「バーネット陛下ってすっげー人使い荒いッスよねー 俺ら、さっきガルバディアから帰ったばっかりッスよー?」
ロスラグの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「まぁ、それだけ僕らを信頼して下さっていると言う事だから 光栄に思うべきだよ」
ザッツロードの言葉にソニヤが続ける
「でも ホントに次から次によ?バーネット陛下って もしかして 私たちが帰ってくる前から 次にやらせる事を考えてるのかな?」
リーザロッテが答える
「それは勿論そうに決まっていてよ?私たち以外の者への指示も 考えていらしてよ?」
ロキが言う
「…全体を見定め 的確に詳細な指示を出す、かのベーネット国王の指揮能力からしても その師であるバーネット第二皇帝の指揮能力の高さは歴然だ」
ソニヤが言う
「見た目は 全然そんな感じしないのにねー?」
ザッツロードが想像して言う
「た…確かに 少し豪快な感じだね でも とても明晰で的確な指示を送って下さる 凄い方だと思うよ」
ラナが言う
「そうよね、魔物の移動が分かるプログラムを作らせたり、悪魔力の濃度を調べるプログラムを作らせたり…次々新しい指示を考えられるんだから」
リーザロッテが考えながら言う
「次々考えられるんだから 次々指示も出せるのでしょうね?」
ロスラグが呆れた様子で言う
「次々やらせる すげー人使いの荒い人って事ッスー、」
ザッツロードたちが苦笑する 兵が立ち止まり軽く苦笑して扉を示す
「バッツスクロイツ殿はこちらで作業をなさっています」
ザッツロードが頷いて言う
「分かった、有難う」
兵が下がりザッツロードが扉をノックして声を掛ける
「バッツ、僕らだ、入っても良いかな?」
ザッツロードが言いながら扉の取っ手に手を乗せる その瞬間 扉が大きく開かれバッツスクロイツが飛び出して来て言う
「ザッツー!!もぉおー まじ助けて!!バーネっちの 人使いの荒さ 半端ないよぉおおーー!!」
バッツスクロイツがザッツロードの肩で泣く ザッツロードが苦笑する 兵を含め皆が苦笑の表情を作る ロスラグが言う
「やっぱりッス」
ザッツロードたちがバッツスクロイツの部屋に入る 周囲はコンピュータ類や紙資料が乱雑に置かれている バッツスクロイツが大きなモニターへ大陸地図を映し 紙資料を片手に説明する
「今 大陸を移動してる悪魔力の霧はー バーネっちにも伝えてある この南東の辺りに固まっちゃってるー これは先日結界の島へ強い聖魔力を送った時の反動と 丁度時期が重なった嵐の影響もあっ ちゃってねー 島からの反動までは計算に入れてたんだけど 気象情報ってのは盲点だったんだよねー」
バッツスクロイツが頭を掻きながら 紙資料をめくって言う
「こっちの大陸は 俺が住んでた世界とは違って 常に風が吹いてるもんだから 嵐やらナンやらと重なると凄い影響が出ちゃってさー 過去の資料も交えて計算すると大体…」
ザッツロードが苦笑している バッツスクロイツの話をロスラグが切って言う
「バッツ、そんな難しい話は良いッスよ!俺たちは魔物退治に行くだけッス!」
ロスラグの言葉にバッツスクロイツが資料から顔を上げて言う
「あらー?そーなの?俺はてっきりバーネっちが 説明途中で爆睡した部分の確認に来たのかと」
ザッツロードが苦笑して言う
「はは… いや、うん、ロスラグの言う通りなんだ、それで スプローニ国とシュレイザー国の」
ロキが現れて言う
「…スプローニ国の状況報告を頼む」
リーザロッテが割り込んで言う
「いいえ!お母様がいらっしゃるシュレイザー国が先だわ!」
ロスラグが割り込んで言う
「違うッス!ロキ隊長と俺と ついでにロイの故郷の スプローニ国が先ッス!」
ほぼ同時にヴェルアロンスライツァーが現れて言う
「いや、先にアンネローゼ様がご滞在の シュレイザー国の状況報告を依頼したい」
バッツスクロイツが呆気に取られて言う
「え…?…え?」
ザッツロードが困り苦笑で言う
「えっと… 両方の説明を頼むよ」
バッツスクロイツがモニターに悪魔力の分布映像を現して説明する
「今はどっちの国にも強い悪魔力が滞留してるから 町の中へ ばびゅーんと突っ込む分には問題ないけど 結界がされていない町の外へは出ちゃ駄目だぜ?でもって、先に悪魔力の滞留が薄れるのはシュレイザー国の方だ スプローニ国の方はその半日から1日後だと思う 魔物の群れの動きも分かるから 詳しく分かったら連絡するし、先に行くんだったら 行っちゃってもオーケーだけど?」
説明を聞いたヴェルアロンスライツァーが言う
「なるべく早く入国し、その国の部隊との連携を取っておいた方が良いだろう」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、それでは まずシュレイザー国へ向かおう バッツ、他にも何かあったら連絡を頼む」
バッツスクロイツが疲れた様子で言う
「それじゃー バーネっちに また新しいプログラム作れって脅されたら 助けに来てくれるー?」
ザッツロードがバッツスクロイツの言葉に苦笑して言う
「いやぁ…それは無理…かな?はは…」
バッツスクロイツが泣きながら言う
「もぉおー俺 過労死すんぜんーー!!…とー まぁ暇すぎて死にそうだった 昔に比べたら やり甲斐はあるけどねー?」
バッツスクロイツがにやりと笑う ロスラグが呆れて言う
「やっぱり バッツは 変な奴ッス」
【 シュレイザー国 】
シュレイザー城 玉座の間 玉座に座るアンネローゼの前に跪くザッツロードと後方のヴェルアロンスライツァーとリーザロッテ アンネローゼが言う
「アバロン帝国のバーネット第二皇帝陛下から連絡を受けています 勇者ザッツロードとお仲間の方々、そして リーザとヴェルアロンスライツァーも 良く来てくれました」
ザッツロードとヴェルアロンスライツァーが敬礼を深くする リーザロッテが言う
「お母様、シュレイザー国は私たちが死守いたしますわ どうか御安心下さい!」
リーザロッテの言葉にアンネローゼが微笑み頷いてから静かに言う
「このシュレイザー国は 古くから余り戦を得意としない国でした 現在でも他国から兵をお借りし、何とか凌いでいる状況です 貴方方が援護に来て下さると聞いて とても心強く思っていました 勇者ザッツロード殿はその部隊指揮能力も 優れたものをお持ちだとか どうか我が国の部隊を引き連れ 間もなく訪れるであろう修羅の時から このシュレイザー国をお守り下さい」
ザッツロードが人知れず冷や汗を掻きながら敬礼を深くして言う
「は、はい、おまか」
ザッツロードの言葉を制してリーザロッテが言う
「お任せ下さい お母様!彼の指揮能力に加え 私たちが付いておりますわ!」
リーザロッテの勢いにザッツロードが焦りつつ敬礼を維持する アンネローゼが微笑んで言う
「この国の民は その多くが先住民族です、したがって国兵も先住民族が多く 敵に近づいての攻撃が苦手な者が多いです 彼らには弓矢などを持たせ 後方支援を軸として 戦陣へ向かわせると良いと思われます そして、他国からの兵が到着次第 貴方方の下へ向かう様伝えます それまで何とか持ち堪えて下さい」
アンネローゼの言葉にザッツロードが返事をする
「はい、貴重な助言を有難う御座います」
玉座の間を後にしたザッツロードたち ソニヤが言う
「シュレイザー国は先住民族が多いのね?」
ロスラグが言う
「そうッスね、ネズミの先住民族は他の先住民族と比べて数が多いッスよ」
ラナが呆れ顔で言う
「さすがはネズミよね…」
セーリアが苦笑して言う
「そ、そうね…」
リーザロッテが怒って言う
「数が多ければ良いってものでは無くてよ!お母様も言ってらしたでしょ?シュレイザー国の兵は戦が苦手だって言うじゃない!」
ヴェインが言う
「まぁ…ネズミでは戦は苦手であろうな」
ヴェルアロンスライツァーが沈黙している ロキが気付いて声を掛ける
「…この様な国では アンネローゼ女王も 安堵(あんど)は出来まい」
ロキの言葉に皆の視線がロキへ向き そのロキの視線の先にいるヴェルアロンスライツァーへ行く リーザロッテが言う
「だからこそ 早く勇者の任務を終え お母様をツヴァイザー国へ戻せるよう ヴィクトール皇帝陛下へ打診しなければいけないわ!」
ソニヤが首を傾げて言う
「アンネローゼ女王はシュレイザー国の女王になったんでしょ?何でツヴァイザー国へ戻る必要があるのよ?」
ソニヤの言葉にリーザロッテが焦って言う
「お、お母様だってきっとヴィクトール皇帝陛下のご指示の下 仕方なくシュレイザー国の女王を引き受けたに決まってるわ!こんな自国の国防も出来ない国に お母様を御滞在させるなんて 私だって安堵できなくてよ!」
セーリアが言う
「そのお陰なのかしら?アンネローゼ女王は戦術にもお詳しい様子だったわね」
セーリアの言葉にヴェルアロンスライツァーが言う
「アンネローゼ様はローゼント国の王女であらされた頃から つね日頃、兵の為を思い 戦術の御指導をされていたのだ」
ザッツロードが感心して言う
「へぇー女性でありながら 兵のために戦術を学ばれるなんて 凄い方だね」
リーザロッテが微笑んで言う
「ええ!お母様は兵や民の為にたくさんの事を学ばれてよ!…だからこそ!こんな危険な国には御滞在して頂きたく無いのよ!」
ラナが呆れて言う
「だからこそ 滞在してるんじゃ無いの?」
リーザロッテがラナへ怒りラナが無視する 皆が苦笑する ヴェルアロンスライツァーが沈黙している それを無言で確認するロキ ロスラグが二人の様子に疑問する
宿にて 部屋で椅子に座り剣の手入れをしているザッツロードのもとにヴェルアロンスライツァーがやって来る ザッツロードが手を止めてヴェルアロンスライツァーへ問う
「ヴェル、どうかしたのかい?」
ヴェルアロンスライツァーがザッツロードを見下ろして言う
「ザッツ、すまないが 私は今ここで 貴殿らの部隊から脱退させて頂く」
突然の事にザッツロードが驚いて言う
「え!?そんな、どうして!?」
ヴェルアロンスライツァーがザッツロードへ視線を向けたまま言う
「…すまない」
ザッツロードが椅子から立ち上がり ヴェルアロンスライツァーを見上げて言う
「理由を教えてくれ、ヴェル!僕らはヴィクトール皇帝陛下の指示の下 共に世界を救うために戦っている仲間だ 君が抜けてしまっては 戦力が著しく低下してしまう!」
ヴェルアロンスライツァーがザッツロードから視線を逸らして言う
「確かに、貴殿らとの任務は この世界を救うという 偉大なものだ だが 私には… それ以上に行いたい事がある 再びその思いに駆られてしまった今 私は貴殿らと共に死闘を潜り抜ける自信が無い この様な状態で貴殿らと行動を共にしても 私は貴殿らの… いや、ロキの手を煩わせる事となるだろう」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にザッツロードが驚き問う
「ロキの…?」
ヴェルアロンスライツァーが頷いて言う
「彼は常に私をサポートしてくれているのだ 貴殿は彼と組んでの戦闘を行った事が無い為 理解しかねるかもしれないが 私はロキの銃に何度も命を救われている」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にザッツロードが呆気に取られ言葉に詰まる ヴェルアロンスライツァーが再びザッツロードへ視線を戻して言う
「この様な戦局で無理を言っている事は承知の上だ しかし、私は 貴殿らと共に このまま行動を共にする事は出来ない それもまた事実なのだ 迷惑を掛けすまないと思っている」
ザッツロードが間を置いて言う
「…そうか うん 分かった 今までの事感謝しているよ」
ザッツロードが言い終えると共に握手の手を差し出す ヴェルアロンスライツァーが一度目を閉じ 再びザッツロードへ視線を向けて 握手の手を取って言う
「貴殿らの無事を祈っている」
ザッツロードが微笑して言う
「うん、ありがとう ヴェルアロンスライツァー、君も どうか無事で」
握手の手を離しヴェルアロンスライツァーが微笑と共に返事をする
「ああ、可能な限り励む」
ヴェルアロンスライツァーの返事にザッツロードが苦笑する
翌日 ザッツロードが仲間たちにヴェルアロンスライツァーの脱退を告げる ソニヤとリーザロッテが叫ぶ
「えぇええ!?」「な、何ですって!?」
ソニヤとリーザロッテの反応に ザッツロードが苦笑する ソニヤがザッツロードへ掴みかかって言う
「なんでそんな急に!?しかも これから一番大変かもしれないって言うのに!!」
ソニヤの言葉にザッツロードが苦笑して言う
「う、うん、僕も留まって欲しいと思ったんだけど 駄目だったんだ」
リーザロッテが問う
「『駄目だった』とは!?貴方の説得が足りなかったのではなくて!?」
ザッツロードがリーザロッテの言葉に困りながら言う
「あー… 確かに そうなのかも知れ無いですが」
リーザロッテが怒って言う
「何ですってっ!?」
ザッツロードが苦笑しつつ言葉に困る ロキが視線を逸らして言う
「…ザッツのせいでは無い、奴はそう言う男なのだ」
皆がロキへ視線を向ける ザッツロードが軽く笑って言う
「うん、ロキに迷惑を掛けられないって言ってたよ」
ロキとザッツロードの言葉に その他の仲間が顔を見合わせソニヤが言い掛ける
「ロキに迷惑って どう言う…?」
ソニヤの言葉を制してロキが声を上げる
「まったく迷惑な奴だった!これでやっと俺 個人の戦いが出来ると言うものだ!」
ロキの声にロスラグをはじめ皆も驚き呆気に取られる ロスラグが困った表情でロキを見上げてオロオロする ザッツロードが気を取り直して言う
「と、とにかく そう言う事で ヴェルは抜けてしまったんだ… だから これからはより一層、皆で協力しないと?」
ロキとロスラグ以外が溜め息を吐く セーリアが微笑と共に皆を励ます様に言う
「そうね?みんなで協力して ヴェルの抜けた穴を塞がないと」
オライオンが首を傾げて言う
「けどよー ヴェルの抜けた穴はデカイぜ?皆で塞ぐっていうより 誰か追加するくれーじゃねーと 埋められねーんじゃねーかな?」
オライオンの言葉にシュライツが肯定の奇声を発して頷く 皆がザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが困った表情で一度視線を落としてから言う
「確かにそうかもしれないね?でも今は その充ても無い訳だし 魔物の群れが来るまでの時間も無い バッツから連絡があったんだ、魔物の群れがこのシュレイザー城下町の周囲に集まり始めたって これからすぐにシュレイザー国の部隊を引き連れて向かわないと」
ザッツロードの言葉に皆が俯き掛けていた顔を上げる リーザロッテが気を引き締めて言う
「今はここに居る私たちで シュレイザー国部隊と共に このシュレイザー城下町を死守するのよ!よろしくって!?」
皆が了承して頷く
ザッツロードたちが城下町の門へ行く シュレイザー国の部隊と部隊長がザッツロードたちを待っている シュレイザー国1番部隊の隊長がザッツロードの下へ来て言う
「シュレイザー国1番部隊ピェケルです、先ほどスプローニ国、ベネテクト国、及びアバロン国の部隊から連絡があり、1時間後には合流できるとの事です それまで持ち堪えるようにと」
ピェケルの言葉にザッツロードが頷き各部隊への指示を送る
魔物の群れとの戦いが始まる 一定時間が経過すると スプローニ国の銃使い部隊、ベネテクト国の傭兵部隊、アバロン国3番隊が合流する
シュレイザー城城下町を襲いに来た魔物の群れを退治したザッツロードたち ザッツロードが各部隊の隊長らを前に言う
「みんな、本当に良く戦ってくれた 有難う、諸君のお陰でシュレイザー城と城下町は守られた」
ザッツロードの言葉に各部隊の部隊長が各々の国の敬礼で答える ザッツロードが微笑んで頷き言う
「シュレイザー国女王アンネローゼ様には 私の方から諸君の功績を伝えておく シュレイザー城下町で休むなりして疲れを癒してくれ では解散」
部隊長らが返事をして立ち去る ザッツロードの後ろにいる仲間たち ソニヤがやって来て軽く笑って言う
「ザッツ!もうすっかり慣れた感じじゃない?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いやぁ… やっぱり僕には向いて無いよ 緊張するし良い言葉とか見付からなくて… もっとお礼の気持ちを伝えたいんだけど」
ソニヤが笑って言う
「ザッツはザッツの言葉で言えば良いんだよ!ヴィクトール陛下の真似とかしなくても!」
ザッツロードが言う
「あ、あれ?分かったかい?」
ソニヤが笑って言う
「分かり過ぎ!」
ラナが腕組みをして続けて言う
「それに上手く真似で来ていないしね?」
ザッツロードが苦笑する 皆が微笑む リーザロッテが槍の柄で地を突いて言う
「さぁ!そんな事より お母様へ報告よ!」
ザッツロードが微笑んで言う
「はい、そうですね!」
ザッツロードたちが城へ入る 周囲が荒れている 皆が辺りを見渡し顔を見合わせて ソニヤが言う
「何だか あわただしい感じじゃない?」
ラナが首を傾げて言う
「何かあったのかしら?」
ラナの言葉に リーザロッテがハッとして叫ぶ
「お母様!?」
リーザロッテが駆け出す レイトとヴェインがリーザロッテを呼び慌てて後を追う
「「リーザ様!!」」
皆が一度顔を見合わせ 後を追う リーザロッテが玉座の間の入り口で一度立ち止まり 驚いた様子で再び走り出す レイトとヴェインに続きザッツロードたちもそのまま玉座の間へ走り込む
ザッツロードたちが立ち止まり 辺りを見渡して驚く 辺りにはシュレイザー国の兵が倒れている ザッツロードが呆気に取られて言う
「こ…これは!?」
ザッツロードが顔を上げて玉座を見る リーザロッテが玉座に座るアンネローゼの腕にすがっている アンネローゼが微笑みリーザロッテの頭を撫でている そのアンネローゼの横にヴェルアロンスライツァーが控えている ザッツロードがヴェルアロンスライツァーへ向かって走り 声を掛ける
「ヴェル!一体何が!?」
ヴェルアロンスライツァーがアンネローゼとリーザロッテへ向けていた視線をザッツロードへ向けて言う
「ザッツ、皆も無事であったか」
皆がザッツロードの後ろに立つ ヴェルアロンスライツァーが一度ロキとロスラグへ視線を向けてから 再びザッツロードへ戻して言う
「彼らは皆、先住民族の者なのだ 悪魔力に身を蝕まれていた だが、シュレイザー国の兵の姿であったが為 警備を抜け ここまで来てしまったらしい」
ヴェルアロンスライツァーの言葉に 皆が驚き ザッツロードが言う
「そんなっ 町には結界が張られていたのに どうして?」
ザッツロードの言葉にアンネローゼが言う
「悪魔力の影響は その生命体の身体の大きさによって変わります 小さい身体であるシュレイザー国の先住民族の者たちは きっと結界が張られるより以前に 悪魔力に蝕まれてしまっていたのでしょう… 彼らは皆 本日より以前からその行方が 分からなくなっていた者たちなのです」
アンネローゼの言葉を聞いてロキが言う
「…では今までの間を ネズミの姿で過ごし この混乱の中で人の姿へ変わり 戦闘行為を行ったという事か」
ロキの言葉にアンネローゼが付け加える
「最近はネズミの異常行動も確認されています この者たちは恐らく結界を張るために使われた宝玉の近くへ行った為に 偶然、人の姿になってしまったのでは無いかと… もっと宝玉の警備を強化して置くべきでした」
ザッツロードが問う
「宝玉の近くには それほど容易く近づく事が 可能な状態なのですか?」
ザッツロードの問いにアンネローゼが苦笑して言う
「彼らの移動を妨げる事が それほどに大変だと言う事なのです なにしろ相手は 壁を破り、小さな隙間を得意とする ネズミさんなので…」
ソニヤが苦笑して言う
「確かに、ネズミが相手じゃ ちょっと大変よね?」
ラナが腕組みをして言う
「これはシュレイザー国 特有の問題ね」
その頃アバロン帝国では…
ヴィクトールとバーネットが玉座に座り話し合っている 彼らの前方の出入り口の先を アバロン兵たちが何度も騒ぎながら右へ左へと横断する それには気付かない様子で バーネットが資料を見ながらヴィクトールへ問う
「悪魔力の影響を受けた先住民族ってぇのは 元々平和主義の先住民族とは違って攻撃的になりやがるのか?」
バーネットの視線の先 ヴィクトールが顔を上げて言う
「うん、少なくともシュレイザー国からの情報ではそうなっているね?先住民族のネズミたちが攻撃的になり 悪戯も多くする様になったとか」
バーネットが首を傾げ 再び資料に視線を戻しながら言う
「そりゃ、先住民族のネズミなのか 普通のネズミなのかの違いなんじゃねぇのか 大体ネズミの違いなんて…」
バーネットが言葉を途中で切って 出入り口へ向かって怒る
「うるせぇえぞ!!てめぇえらぁあ!!」
騒いでいたアバロン兵らがビクッと震え上がり 謝罪する
「も、申し訳有りません!!バーネット第二皇帝陛下!!」
バーネットがイライラしながら 玉座へ身を静める ヴィクトールが苦笑している バーネットが1つ息を吐いて 再び話し合いに戻ろうとする バーネットの玉座の肘掛へ1匹のネズミが登って来る アバロン兵らがそれに気付き慌てる バーネットが資料を片手にそのネズミに気付く ネズミが何か言いたげにバーネットへチュウチュウと声を上げる バーネットがしばらく考えた後 ネズミのしっぽをつまみ上げ アバロン兵らへ向けて言う
「おい、城内にネズミが居たぞ?始末しとけ」
ネズミが驚いて慌てる アバロン兵らがやって来て謝罪しながら受け取ろうとする 終始苦笑していたヴィクトールが立ち上がって言う
「バーネット、その様な扱いは失敬だ」
ヴィクトールが宝玉を取り出し力を送る 宝玉とネズミの身体が光り 次の瞬間チョッポクルスが現れ叫ぶ
「こ、こここ、この バ、バカーネット~~!!よ、余を し、始末するとは な、何事じゃぁ~~!!」
アバロン兵らが目を丸くする バーネットがニヤニヤ笑っている ヴィクトールが苦笑する
シュレイザー城玉座の間
ザッツロードがアンネローゼへ報告を終えて立ち上がり言う
「それでは、我々はスプローニ国へ向かいます」
アンネローゼが頷くとリーザロッテが言う
「お母様、どうかシュレイザー国の国兵にも十分に御注意下さい」
リーザロッテの言葉にアンネローゼが苦笑して頷いて言う
「そうですね、十分に確認をさせる様にします」
アンネローゼの返答を聞いたリーザロッテが 心配の残る様子で表情を渋らせる それを見てロキが言う
「…心配ない、万が一このシュレイザー国の先住民族である国兵が 全て悪魔力にその身を乗っ取られたとしても アンネローゼ女王への危害は その全てが防がれる」
ロキの言葉にリーザロッテが疑問の視線をロキへ向け ロキの視線に導かれてアンネローゼの隣に控えるヴェルアロンスライツァーへ向く リーザロッテと共にヴェルアロンスライツァーへ視線を向けたザッツロードと仲間たち ソニアがハッとして言う
「え?ちょっ?そうよ!?そもそも 何でヴェルが そこに居たのよ!?」
ザッツロードがソニヤの言葉に気付かされて今更驚いて言う
「あっ そ、そう言えばっ!?」
ロキが溜め息を吐いて視線を逸らす 隣でロスラグが分からない様子でロキとヴェルアロンスライツァーを交互に見る ラナが思い出して言う
「そう言えば… 先代勇者たちが ヴェルを最初に仲間に誘った時」
セーリアが続いて思い出し 微笑んで言う
「そういえば、そうだったわね?」
ラナとセーリアの言葉に ロスラグが問う
「え?なんッスか!?ヴェルアロンスライツァー副隊長が なんなんッスか!?」
リーザロッテが周囲の状態に驚き ロキへ問う
「え?ちょっと?そこの あ、貴方!どう言う事か説明なさいっ!」
リーザロッテの問いに 少し間を置き ロキが一歩前へ出て アンネローゼへ向けて言う
「…アンネローゼ女王、金輪際その兵を 他の場所へ向かわせる事は推奨しかねる …その兵には たとえ世界一の銃使いを相棒に用意しても まったく戦力にならない 足手まといだ 唯一 まともに戦わせる事が出来るのが俺だが 二度と御免だ 覚えておくと良い」
ロキの言葉にザッツロードと仲間たちが呆気に取られる ソニヤが怒って言う
「ちょ!ちょっとロキ!!何よその言い方!!ずっと一緒に戦ってきた仲間なのに!何ってひどい事言うの!?」
ラナが呆気に取られたまま言葉を溢す
「あ… 足手まといっ!?」
ザッツロードも驚きに言葉を失う リーザロッテも言葉を失って驚いている アンネローゼがくすっと笑って言う
「分かりました、覚えて置く事にします」
アンネローゼの微笑と優しい声色にリーザロッテが驚いてアンネローゼへ向く ロキが背を向け出口へ向かって歩き出す 皆がロキの姿を目で追う ヴェルアロンスライツァーがロキを呼ぶ
「ロキ」
ロキが立ち止まる 皆がヴェルアロンスライツァーへ向く ヴェルアロンスライツァーが微笑んで言う
「ありがとう」
皆がヴェルアロンスライツァーの言葉に驚く ロキが僅かに顔をヴェルアロンスライツァーへ向けてから 再び出口へ向かい歩みを再開させる ロスラグが驚いていた状態からハッとして慌ててロキとヴェルアロンスライツァーを交互に見てからロキの後を追って言う
「ロ、ロキ隊長!待って下さいッスー!」
ロスラグの姿が見えなくなり やっとザッツロードたちの硬直が解ける ザッツロードが慌てて敬礼して言う
「そ、それでは 我々も これでっ!?」
ザッツロードの様子にアンネローゼが微笑み頷いて言う
「貴方方の御活躍を ヴェルアロンスライツァーと共に お祈りさせていただきます」
ザッツロードたちが城から出ると 城門の外でロスラグがロキへ叫んでいる
「ロキ隊長!なんでヴェルアロンスライツァー副隊長の事 あんな風に言ったッスか!?ヴェルアロンスライツァー副隊長は足手まといなんかじゃ無いッス!ヘボ勇者よりずっとずっと役に立つ強い剣士ッス!…そ、そりゃ 時々ちょっと ボーっと考え事してる事は あったッスけど…」
ロキがロスラグを見下ろして言う
「…コレ程度に気付かれる程であったとは …もはや話にならんな」
ロスラグが言う
「コ、『コレ』はそろそろ卒業したいッス!…後 何の話にならないのかも 説明して欲しいッスよー!ロキ隊長!」
ロキがザッツロードたちに気付き 組んでいた腕を下ろして向き直る ロスラグがロキの行動でザッツロードたちに気付き ロキへ詰め寄るのを止める ザッツロードたちが近くへ来ると ロキが言う
「…スプローニ国へは連絡を入れておいた 諸卿の来城を歓迎するとの事だ」
ザッツロードが軽く微笑み頷いて言う
「分かった ありがとう」
ロキが顔を逸らして言う
「…礼には及ばん、スプローニ国は俺の故郷だ そのスプローニ国への助力 諸卿へはスプローニ国国王ラグヴェルスと共に 俺も感謝している」
ザッツロードが苦笑して言う
「あ… そ、そうだったね?スプローニ国はロキやロイやロスラグの故郷だ …うん、一緒に頑張ろう!」
【 スプローニ城 】
玉座の間 スプローニ国王の前に跪くザッツロードとロキ、ロイ、ロスラグ スプローニ国王が言う
「アバロン帝国ヴィクトール13世皇帝陛下より連絡を受けお待ちしていた 勇者ザッツロード殿、そして勇敢なるお仲間の方々よ、諸卿の助力痛み入る 共に 第二部隊、第三部隊隊長 及び第二部隊隊員 お前達も、祖国の危機に よくぞ戻って来てくれた」
ザッツロード、ロキ、ロイが礼を深くする 遅れてロスラグが慌てて頭を下げる スプローニ国王が続ける
「先だってアバロン帝国から 我がスプローニ国周囲の魔物の状況について 情報を受け取っている 詳しくは第一部隊隊長から確認して欲しい 魔王との戦いを潜り抜けてきた諸卿の力 期待している 我が国の兵と共に どうかこのスプローニ国の地と民を守り抜いて頂きたい」
スプローニ国王の言葉に ザッツロードが顔を上げ答える
「はい!ラグウェルス国王陛下、お任せ下さい!」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王が頷き言う
「うむ、この国の存亡は諸卿に掛かっている 頼んだぞ」
玉座の間を出たザッツロードたち ソニヤが慌ててザッツロードへ言う
「ねぇ!?ねぇ!?ねぇ!?何だか すっごい期待されて無かった!?しかも ザッツってば あんなに自信持って返事するなんて!だ、大丈夫なの~?!」
ラナが呆れて言う
「あれは勇者ザッツロード殿へのお世辞でしょ?いくら何でも自国の存亡を 他国の王子には託さないわよ」
ソニヤがラナへ振り向いて言う
「え!?そ、そうなの?な、な~んだ~ そっかぁ~」
ソニヤが笑って照れる ザッツロードも微笑んで言う
「それだけ期待して下さっていると言う事だよ?」
セーリアが苦笑して言う
「その期待に対して、ザッツも自信を持ったお返事をしたのだから、頑張らないとね?」
セーリアの言葉にザッツロードが衝撃を受け苦笑して言う
「え?あ、う、うん、そうだね」
ロキが言う
「…国王への虚偽はスプローニ国法律七千六百八十九条八十二項王族への偽り事禁止令にて 第一級の重罪だ 確認次第… 射殺の許可が出ている」
言いながらロキが銃を手に持つ 後ろでロイが同様に銃を手に持つ ザッツロードが焦って言う
「も、もちろん成功させるよ!?虚偽は言っていないからっ!!」
皆が呆れる
【 スプローニ国 城下町 】
皆が各々自由に過ごす ザッツロードがスプローニ国の地図を片手に考えている ロスラグが走って来て扉を開ける 皆が振り向く ロスラグが皆を見て ザッツロードへ視線を向け 一度逸らして悩んでから再びザッツロードへ向け走って来る ザッツロードがその様子をポカーンと目で追う ロスラグがザッツロードの前に立って言いたい事があり、言おうかどうかと悩んでいる様子にザッツロードが問う
「どうかしたのかい?隊員A?」
ザッツロードの言葉にロスラグがビクッと驚く 一瞬間を置いてザッツロードがあっと気付いた様子で言う
「あ、ごめん この呼び方は…」
ザッツロードが表情を困らせる ロスラグがザッツロードを見て 一度目を強く瞑ってから言う
「良いッス!そんな事は どうでも良いッスよ!ヘボ勇者!それよりっ その… た、助けて欲しいッス!」
ロスラグの言葉にザッツロードと皆が驚いてロスラグへ視線を向け ザッツロードが言う
「た… 助けるって?…ロスラグ、君何か?」
ザッツロードの言葉にロスラグが顔を横に振って言う
「俺じゃ無いッス!その… ロキ隊長が…」
ザッツロードが立ち上がって言う
「ロキが!?」
ロスラグの後方でソニヤが言う
「もしかして また喧嘩!?」
ロスラグが慌てて振り返って叫ぶ
「ち、違うッスよ!ロキ隊長は そんな喧嘩っ早い人じゃ無いッス!」
ソニヤが力を抜いて言う
「な~んだ~」
ザッツロードが続けて問う
「それじゃ、ロキが?どうしたんだい?」
ロスラグがザッツロードへ視線を戻して言う
「そ、その… とっても… 元気が 無いッス…」
ザッツロードが首を傾げて言う
「元気が…?」
ソニヤが呆れた様子で言う
「元気が無いって?むしろ、ロキが元気な方が 想像付かないけど~?」
ソニヤの言葉に ソニアの近くに居るラナが想像して苦笑して言う
「確かに あのロキが元気って 想像付かないわ?」
セーリアが苦笑している ロスラグが怒って言う
「皆には分からなくっても!俺には分かるッスよ!とってもっ!…寂しそうなんッス」
ロスラグの言葉にザッツロードが肩の力を抜いて言う
「ああ、それはきっと ヴェルが抜けてしまったからじゃないのかな?」
話を聞いていたレイトが言う
「確かに、死別ではなくとも 相棒を失うのは悲しい事だ」
レイトの言葉にリーザロッテが問う
「そうかしら?むしろロキの方が ヴェルア何とかを 追い払いたがっていたのではなくって?」
ロスラグが言う
「ヴェルアロンスライツァー副隊長ッス」
ザッツロードが考える ソニヤが言う
「そうそう!あれ酷かったよね!アンネローゼ女王様の御前だって言うのに?」
ヴェインが目を瞑り頷いて言う
「あのような物言いは 他国の王に対しても許されざる事だ」
ロスラグが皆の意見に困った様子で言う
「そ、それは… 俺もビックリしたッスけど …で、でもっ ロキ隊長を悪く言うのはっ 止めて欲しいッス!」
ラナが呆れた様子で言う
「そうは言っても 戦力にならないだの 足手まといだのって… 相棒に言われたヴェルの方ががよっぽど 元気を無くしそうよね?」
シャルロッテがモバイルPCのモニターから顔を覗かせながら言う
「わ、私のデータによればっ 他者からの指摘よりっ 苦楽を共にしてきた 相棒からの叱責は 精神的ダメージ 30%増量ですぅ~」
ザッツロードが皆の意見を聞いて考えながら言う
「でも、そのヴェルは元気を無くす事も、精神的ダメージを受けている様子も 僕には見えなかったんだ」
リーザロッテが反応して視線を上げ 思い出している様子からザッツロードへ言う
「そう言われてみれば そうだったわね?むしろ微笑んで 御礼を言ってらしたのでは なかったかしら?」
レイトも思い出す様子で言う
「アンネローゼ女王陛下も 無礼なロキへ対し 美しい微笑とお優しいお声で 答えて下されていた」
ヴェインが少し怒って言う
「アンネローゼ女王陛下もヴェルアロンスライツァーも 何故ロキへ対し あのような態度が取られたというのだ?俺には理解しかねる!」
皆の意見を聞きながらロイが黙っている ザッツロードがロイに気付いて顔を向けて言う
「ロイ、君はどう思う?」
ザッツロードの言葉に皆の視線がロイへ向く リーザロッテが問う
「そうね?貴方はロキと同じスプローニ国の兵だし 感じも似ていてよ?少しは彼の気持ちが分かって?」
皆の視線を確認したロイが間を置いて言う
「…俺には お前達が何故ロキを責めているのかが 分かりかねる」
皆が驚き ザッツロードが問う
「それは どう言う意味だい?」
リーザロッテが続けて問う
「それでは、貴方はロキの言った言葉が お母様やヴェルア何とかに 失礼では無かったとおっしゃるの!?」
ロスラグが言う
「ヴェルアロンスライツァー副隊長ッス…」
ロイが間を置いて言う
「…確かに国王へ対し 無礼な単語を用いた部分はあったかもしれない だが、それらは 内容の意味合いを強める事へ対しては 有用な選択であったと俺は思う」
ザッツロードが首を傾げて言う
「内容の意味合い… ヴェルが役に立たない事や 足手まといになると言う事を 強調したって事かい?」
ザッツロードの言葉にロイが言う
「…そうだ」
ソニヤがロイを指差して焦って叫ぶ
「な、ならっ!尚更 ロキはひどいじゃない!?」
シャルロッテがモバイルPCのモニターから顔を覗かせ焦りながら言う
「わ、私のデータによればっ 苦楽を共にしてきた相棒からの 叱責の強調はっ 更に20%の精神的ダメージの増加がっ」
皆がロイへ身を乗り出す ロイが顔を背ける セーリアが苦笑したまま静かに言う
「それだけ強調して、アンネローゼ女王陛下の傍に ヴェルを置いてあげて下さいって お願いをしたのよね?」
皆の視線がロイに向かったまま驚く ロイが言う
「…ヴェルアロンスライツァーは騎士だ アンネローゼ女王陛下の命とあれば 何時いかなる時でも どこへでも その命のままに赴くだろう しかしそれはヴェルアロンスライツァー本人の想いとはかけ離れている 従って 何処へ向かわせても まったく役に立たない兵である事を 先だって伝えておけば アンネローゼ女王も 彼を派遣する事はしない」
ソニヤが言う
「そ、それじゃ… ロキはヴェルの為に…?」
ザッツロードが苦笑して言う
「ヴェルやアンネローゼ女王陛下は その意味が分かっていたから 微笑んで居たんだね?」
ラナが呆れて言う
「つまり、分かっていなかったのは 仲間の私たちの方だった… って事ね…」
レイトが深く考えて言う
「なるほど… ヴェルアロンスライツァーもアンネローゼ女王陛下も どちらも自分の想いだけでは 行動を決められない立場の人間だ」
ヴェインがレイトへ視線を向けて言う
「だからこそ わざとヴェルアロンスライツァーに非を与え 他の道を断ったと言う訳か」
ソニヤが溜め息を吐いて音を上げる
「もぉ~ 王様や兵士ってめんどくさいのね~?」
ラナがセーリアへ振り返って問う
「セーリアは気付いていたの?」
セーリアが苦笑して言う
「私も本当の意味はさっきまで分からなかったわ、でもロキはいつもヴェルの事を気に掛けていたから きっと何か理由があるんじゃ無いか って思っていたの」
ザッツロードが微笑んで言う
「そうだね、僕たちも もっとロキの事を信用していたら セーリアみたいに気付けたかもしれない」
リーザロッテが怒って言う
「信用していたからこそ 余計に驚く事だってあってよ!!」
ザッツロードがリーザロッテの怒りに焦って言う
「そ、そうですねっ あは…」
ザッツロードの前に居たロスラグが顔を上げて叫ぶ
「うぅ~… 俺はっ!ロキ隊長の事っ!誰よりも信じて 誰よりも分かりたいって思ってるッス!でも分かんなかったッス!俺は駄目な部下ッス!いつまでも『隊員A』で『コレ』な理由も分かったッスよーっ!!」
ロスラグが言い終えると共に部屋から飛び出して行く ザッツロードが慌てて声を掛ける
「あ!ロスラグ!」
ロスラグの姿があっという間に見えなくなり ザッツロードが向けていた手を下す ソニヤが苦笑して言う
「そんな事言ったら 私たちだってずっと『勇者ザッツロードの仲間たち』で終わりよね?」
ザッツロードが皆の視線を受け苦笑する ザッツロードが間を置いて出入り口へ向かう ソニヤが問う
「ザッツ、どこ行くの?」
皆の視線がザッツロードへ向く ザッツロードが振り向いて言う
「うん、ロキに謝ってこようかと思って それにロスラグも心配だし」
ソニヤが少し考えて言う
「あ~… なら?あたしも謝った方が良いかな…?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いや、皆も分かったって伝えとくよ、僕とロスラグだけで十分だと思う」
ソニヤが苦笑する ラナが軽く息を吐いて言う
「まぁ、ロキもクールだから 余りお詫びだのなんだのって 言われるのは好きじゃ無いかもね?」
ラナの言葉にザッツロードが頷き部屋を出て行く
通路を歩いていくと ロスラグがドアを叩いている
「ロキ隊長!ロキ隊長!?居ないッスかー!?ロキ隊長!」
ロスラグが言い終えると共に 扉の匂いを嗅ぎ 周囲の匂いを嗅いでから走り去る ザッツロードが呆気に取られ 慌てて後を追う
ロスラグを追いかけて宿の外へ
町を抜け森の中へ入る 辿り着いた先 ロキが膝を着き墓を見ている ロスラグが近くへ走って行く ザッツロードが手前の木で立ち止まり様子を見る ロスラグがロキの横で叫ぶ
「ロキ隊長!ごめんなさいッス!俺 何にも分かんなくってっ ロキ隊長がヴェルアロンスライツァー副隊長に酷い事言うなんて ビックリして 俺 何にも分からなかったッスよー!」
慌てて言うロスラグに ゆっくり顔を向けたロキが問う
「…『分からなかった』のなら 卿は何を謝罪している?」
ロスラグがハッとして慌てて言う
「あー そ、そうッスよね!えっとっ?その…っ へ、ヘボ勇者たちに聞いたッス!ロキ隊長はヴェルアロンスライツァー副隊長のために あんな風に言ったってっ お、俺馬鹿だから あんな難しい事は分からなかったッス!だから、ごめんなさいッス!今は 分かったッスよ!」
ロキが視線を墓へ戻して言う
「…そうか」
ロキが黙り ロスラグがオロオロしていた状態から落ち着いて黙る 間を置いて ロスラグが言う
「そ、それで… ヘボ勇者の仲間が言ってたッス ロキ隊長がヴェルアロンスライツァー副隊長の事 いつも心配してるのを知ってたから… だから、ロキ隊長が あの時シュレイザー国で ヴェルアロンスライツァー副隊長にあんな風に言ったのには 何か理由があるんじゃ無いかって 思ってたって… お、俺だってロキ隊長が ヴェルアロンスライツァー副隊長に 本気で言ったとは思わなかったッスよ?でも 分からなくって…」
ロスラグが視線を落とす ロキが言う
「…卿は分からなくて良い おかしいのは 俺やあいつや… 後住民族だ 卿の様に 思うがままに口に出来れば… 面倒な事を考える必要も無い」
ロスラグが驚いてロキへ視線を向ける ロキは墓を見ている ロスラグが慌てて言う
「お、俺はっ ただ馬鹿なだけッス!先住民族は皆 難しい事分からなくてっ だから思ったまま言うんッス!後住民族の人は みんな頭の良い人ばっかりッス!先住民族の皆は、俺も!そう思ってるッスよ!」
ロキが間を置いて言う
「…後住民族は頭が良いか …なら俺は その中でも頭の悪い方だ」
ロスラグが驚いて言う
「なー!?ロキ隊長は!めちゃくちゃ頭が良いッスよ!ヴェルアロンスライツァー副隊長も!お、俺は2人みたいになりたいって思ってたッス!だ、だから名前だって…っ!」
ロスラグがハッとして黙る ロキがロスラグへ視線を向ける ロスラグが悩んでから言う
「…だから名前も 2人の名前を入れたッス…」
ロキが間を置いて静かに笑う ロスラグが驚く ロキが視線を逸らして言う
「…よく あいつと卿の事について話をしていた 卿の本当の名前は何と言うのかと …卿が先住民族であったと分かった日は 特に盛り上がった」
ロスラグが驚いて言う
「ほ、ほんとッスか!?俺の事を2人で話してくれてたなんて …お、俺 嬉しいッス!」
ロキが言う
「…だが奴との議論は どれも皆 結論に辿り着く事無く終った …兵とは国を守る者なのか 王を守る者なのか 俺と奴、どちらが強いのか 卿の本当の名前は何か…」
ロスラグが黙ってロキを見つめる ロキが言う
「…しかし、卿になら 俺たちが分からなかった それら全ての答えが 出せるのでは無いかと 俺は思う」
ロスラグが驚いて慌てて言う
「えぇえ!?お、俺はっ そんな!?」
ロキがロスラグを見つめる ロスラグが焦りながら彼方此方(あちこち)へ視線を巡らせた後 ロキへちらちら視線を向けつつ答える
「え、えっと… お、俺は…っ 兵は… 国も王様も!先住民族も後住民族も!他の国まで 含めて みんな!『みんなを守る者』だと思うッス!ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長がそうしてるッス!で、でもって ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長は 2人とも強いッス!でも『2人で一緒に戦ってる時』が 一番強いッス!」
ロキが苦笑して言う
「…ふっ そうか もっと早く 卿を取り入れての 論議にするべきだったな そうすれば 今度は失わずに 済んだのかもしれない」
ロキの言葉にロスラグが首を傾け、次に慌てて言う
「うー… えっとぉ…?ロキ隊長?ごめんなさいッス 俺、ロキ隊長の言っている事が分からないッス もうちょっと簡単に言って欲しいッス!」
ロキが苦笑して墓へ視線を向けて静かに言う
「…簡単にか …そうだな なら、ここには 昔、俺が飼っていた犬が埋められている」
ロキの言葉にロスラグがハッとして犬の墓へ視線を向ける ロキが続ける
「…このスプローニ国では 昔から犬にも人の言葉が分かると 言われていた 今思えば お前達先住民族の事だったのかもしれない …まだ子犬だった 俺も幼く その言葉を素直に信じ 町の外へ出るなと伝えただけで 放って置いた お陰で いつの間にか 町の外へ出て 悪魔力に侵され 魔物になってしまった」
ロキが言い終えると共に苦笑する ロスラグが表情を哀しめる ロキが犬の墓へ触れて言う
「…俺の手で射殺した」
木の陰に隠れているザッツロードが発しそうになった言葉を慌てて飲み込む ロキが続ける
「…俺の手で始末し、ここへ埋めた 俺の過失で1つの命を奪ってしまった …その時から 俺はもう2度と自分の過ちで 何かを失う事の無い様 この墓に誓い 行動して来た …だが、」
ロスラグがロキを見詰める ロキが犬の墓を見ながら言う
「…俺の言葉は今回も 俺から大切なものを失わせた お前の様に 常に本心で話ていれば 今度は失わずに済んだのかもしれない」
ロスラグが考えて言う
「ロキ隊長は 本当は ヴェルアロンスライツァー副隊長を 失いたくなかったッスか?」
ロキが間を置いて言う
「…そうかもな 奴は俺の相棒だった …そう 認めた事は無いが …いや、認めていた のかもしれない」
ロスラグが疑問するロキが苦笑して言う
「…分からない 自分の想いすら …だから俺は お前の言う後住民族の 頭の良い者では無い きっと お前なら… 何も考えなくとも 自分の想いなど分かるのだろう?」
ロスラグがロキを見つめて首を傾げてから言う
「俺は… 俺はロキ隊長やヴェルアロンスライツァー副隊長の事が大好きッス!だから一緒に居たいって思うッス!でもヴェルアロンスライツァー副隊長は アンネローゼ女王様の事が大好きなんッスよね?だから居なくなっちゃったッス ロキ隊長はヴェルアロンスライツァー副隊長のために あの難しい言葉で ヴェルアロンスライツァー副隊長を後押ししたッス!だから… えっと…?…ロキ隊長は間違って無いッス!」
ロキがロスラグへ向いて問う
「…それで、お前は?奴が居なくなって寂しいか?」
ロスラグがロキの視線に 真っ向から頷いて言う
「寂しいッス!すっごく寂しいッス!でも 俺にはロキ隊長が居るッス!あの ヘボ勇者たちも 一応居るッス!だから平気ッス!でも… 耐えられなくなったら シュレイザー国に行って またヴェルアロンスライツァー副隊長に会うッス!」
ロスラグが笑顔になる ロキが呆気に取られた後 軽く笑って言う
「…そうか、…そうだな?それも悪く無い… こいつとは違って 奴にはまた会えるか?」
ロキが言いながら犬の墓を軽く撫でる ロスラグが少し悲しそうな顔をしてから 気を取り直して言う
「そうッスよ!たまには 一緒に戦おうって 誘いに行ったら良いッス!」
ロスラグの言葉に ロキが止まる ロスラグが疑問する ロキが言う
「…『二度と御免』だと言ってしまったが?」
ロスラグがハッとして焦って言う
「あ… いやっ!それはっ!え、ええっとッスね!?」
ロスラグが焦る ロキが沈黙する ロスラグが強く気合を入れて言う
「ロ… ロキ隊長はっ!もっと素直になれば良いッス!!ヴェルアロンスライツァー副隊長に 素直に 一緒に戦いたい って言ったら良いッスよ!!」
ロキがロスラグを見上げて呆気に取られている ロスラグがハッとして焦る ロキが笑って言う
「っはははは… 素直にか…?そうかもな?…ならば 言おう!」
ロスラグが疑問する ロキが立ち上がり ロスラグの胸倉を掴んで叫ぶ
「てめぇえは 良い加減!本当の名前を言いやがれ!ふざけた名前 付けやがって!自分と奴の名を呼ぶみたいで 呼び辛いんだよ!!馬鹿犬がぁあ!!」
ロスラグが驚き言葉を失う ロキが手を離し腕組みをしてぷいっと顔を背ける ロスラグが慌てて謝って言う
「そ、そうだったッスか!?ご、ごめんなさいッス!ロキ隊長!お、俺 気付かなかったッス!ごめんなさいッス!許して欲しいッス!」
木に隠れているザッツロードが驚いている ロキが言う
「ついでにそこの 勇者A!!」
ザッツロードが驚いて飛び出し慌てて言う
「は、はいー!?」
ロスラグがザッツロードの存在に驚き指差して叫ぶ
「あー!!ヘボ勇者!!いつの間に居たッスかー!?」
ロキがザッツロードの前まで行き 銃口を突き付けて言う
「スプローニ国憲法九千八百六十四条八十九項 機密情報盗聴容疑にて第二級拷問刑に処する」
ザッツロードが焦って言う
「えー!!ご、ごめんなさいッス!ロキ隊長!俺 気付かなかったッス!ごめんなさいッス!許して欲しいッス!」
ザッツロードの言動にロスラグが指差して叫ぶ
「あー!!何俺の台詞パクってるッスか!?きっとスプローニ国法に引っかかってるッス!何条の何項かで 銃殺刑ッスよー!」
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読むだけでも時間の掛かる作品ですが、少しでも楽しんで頂けると幸いです。
※作中、「了解」や「流石」と言う言葉は、本来目上の方へ用いる言葉ではありませんが、本作の中ではストーリーのリズムを優先して用いています。一応の設定としては国防軍の中では軍階は在っても仲間として使用を了承している。と言う設定であり、礼儀や階級を重んじる政府は許されないので記載を控える様にしています。…が、つまりはフィクションと言う事で、ゆるく見逃して頂けると助かります。。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
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15歳の春。
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こうして俺は仕方なく隊長となった。
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もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
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「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
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(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
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* 挿絵も作者本人が描いております。
* 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。
* 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。
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