漫画の様にスラスラ読める小説をめざしたらネームになった物語の1つ。クライツオブハーツ

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11-2 魔王との闘い

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【 結界の島 】

ザッツロードは1人、結界のある島へやって来る 先日レーミヤから移動魔法を教わったばかりの為 着地に失敗し足を痛めて言う
「痛ったた… やっぱり初めて1人でやるのに この距離は難しかったかな…」
ザッツロードが回復魔法を掛け、立ち上がり調子を確認する うんと頷き森の中へ入って行く 現れる魔物を鋭く切り倒し 洞窟の前へ到着する 以前ヴィクトールが破壊したバリアはその後の調査の為 再生機能を停止処理されている それを示す看板にアバロン国の国印が入っている それを見てザッツロードが軽く微笑み 敬礼をしてから洞窟の中へ入る 洞窟の中を進むと 結界の場所に辿り着く ザッツロードが言う
「記憶転生の魔法…えっと…」
ザッツロードは荷物から本を取り出し確認して言う 
「よしっ!」
ザッツロードは言うと共に本を閉じ 結界を前に宝玉を取り出すとその力を利用して結界に自分の魔力を送る 結界は振動を起こすが壊れる事は無い ザッツロードはその結界が持つ記憶を取り出そうとしている 訳の分からない映像がザッツロードの脳内に流れ込む その中で知っているもの デネシア国より北西、ガルバディア国より西辺りの森の中から海を見る映像にザッツロードが言う
「あれはデネシア国の北西の森だ… 他のは…?これはドラゴン?これは…?こんな村は見た事が無い」
ザッツロードは魔力を送る事を止めると 結界を見上げて言う
「やっぱり精神が残っているんだ… あ、精霊様がいらっしゃる だっけ…?はは…」
ザッツロードは1人乾いた笑いをすると 荷物をまとめるその場を立ち去ろうとして 立ち止まり 結界に手を付いて言う
「結界の精霊様… もしそこに魔王を封じているのなら… 僕をそこへ入れて下さい 僕は… 勇者として戦わなければいけないのです …世界は悪魔力に脅かされています …このままでは」
ザッツロードが目を閉じて結界に頭を付ける 間を置いて目を開くと一つ溜め息を付いて苦笑して言う 
「また来ます…」
そう言ったザッツロードの耳に声が聞こえる
『近づくな… すぐに立ち去れ…』
ザッツロードが目を見開くと 離れた隙間を瞬時に埋め 叫ぶ
「誰だ!?誰か居るのか!?」
しかし それっきり声は聞こえない ザッツロードが呆気に取られて言う
「今のは… 一体…?」

【 テキスツ村 】

ザッツロードが移動魔法で テキスツ村のレーミヤの下へ飛ぶ レーミアが空を見上げると レーミヤの前にザッツロードが飛んで来て 飛行スピードを落とし少し高いところから着地する 足音を立てて着地したザッツロードに レーミヤが微笑みながら言う
「上出来じゃない 凄いわ~ たった5日間でマスターしちゃうなんて!」
レーミアが微笑してザッツロードへ近づく ザッツロードが少し照れながら言う
「いや~ やっぱり知っている場所と言うだけじゃなくて 知ってる人が居ると だいぶ楽だね?場所だけを念じて飛んだら 着地を失敗してしまって」
ザッツロードの言葉を レーミヤは笑顔で聞くと顔を横に振って言う
「場所の記憶だけで飛ぶ事は とても大変だから それでも成功させた事は 立派よ」
ザッツロードが苦笑して言う
「ありがとう レーミヤ」
ザッツロードとレーミヤが話していると レーミヤの後ろから咳払いが聞こえる ザッツロードが覗き込むと そこに居たミラが両手を腰に置き言う
「それで?レーミヤに移動魔法を教わって、私から記憶転生の魔法を教わって …何処で何を見て来たのかしら?」
ミラの疑いの眼差しに ザッツロードが両手を顔の前で違う違うと振って言う
「僕は何も…っ やましいものなんて 見て無いよ!?」
ミラが言う
「どーかしら?ザッツだって男だし?女性の部屋の壁へ記憶転生の魔法を使えば その女性の着替え中の姿だって見られる訳だし?」
ザッツロードが焦って言う
「そんな事っ」
レーミヤが微笑する ミラは疑いの目を強めるが 1つ溜め息を付いて言う
「それはそうと、最近ちょっと有名よ?ローレシアの第二王子様が ローレシア城の柱に手を付いて そのままずーーーっと動かなくなるんだって」
ザッツロードが言う
「あ、ああ… だって城の柱は 色々な物を見てるはずだし…」
会話を聞いていたレーミヤが笑って言う
「まぁまぁ、その辺にして それよりヴィクトール陛下からの連絡を 皆に知らせないと?さ、ラーニャの所へ行きましょ?きっと待ちくたびれてるわ」 
ザッツロードが言う
「ああ、そうだったレーミヤ 移動魔法をよろしく」
レーミヤが苦笑して言う
「あら?せっかくだもの、弟子の上達具合を確認したいわ?」
ザッツロードが言う
「え!?」
ザッツロードが焦る レーミヤが微笑む

【 キャリトール 】

ラーニャが空を見上げながら言って微笑む
「あー来た来たー」
しかし ラーニャが表情を歪めて言う
「え?ちょ、ちょっと!?」
移動魔法で向かってくるザッツロードたちが ラーニャ目掛けて飛んで来る ラーニャは後退ると ぎりぎりになって悲鳴を上げて逃げ出す
「きゃぁああー!!ちょっと!ちょっと!!」
レーミヤが叫ぶ
「ザッツ!手前よ!手前で止まる様に考えるの!!」
ザッツロードが焦って言う
「て、手前!?」
ドーンと魔力が弾ける音と共に ザッツロードたちが空中で一瞬止まると 次の瞬間浮遊魔力を失い地上へ落ちる 上空から落下したザッツロードたちは3人とも あちこちをぶつけ言う
「痛った~」 「痛たた…」
ザッツロードが仲間に謝りながら立ち上がって言う 
「ご、ごめん…」
レーミヤとミラは打ちつけた場所へ自分で回復魔法を掛けながら立ち上がる レーミヤが苦笑する ミラが呆れる ザッツロードも自身を回復しながら言う
「僕の移動魔法は 回復魔法もセットにしないとダメみたいだね?」
レーミヤが苦笑して言う
「も、もう少し練習したら 大丈夫だと思うから…」
ミラが言う
「私はその練習に加えないでもらうわ」
ラーニャが3人に近づき声を荒げる
「ちょっと!危ないじゃないっ!誰よ!?魔力レベル平均以下の人に 対人移動魔法教えたのー!」
ザッツロードが その言葉に若干気を落として言う
「あ… やっぱり僕の魔力って 平均以下…」
レーミヤが焦って言う
「そ、そんな事ないわっ ギリギリ平均ぐらいよ!?」
ザッツロードが言う
「ギ、ギリギリ …か これでもだいぶ 訓練したんだけどな… はは…」
レーミアが困り言葉を失い焦る ラーニャがその横で言う
「それより、早く教えてよ?ヴィクトール陛下からの連絡ー!」
レーミヤが焦って言う
「そ、そうだったわね!早く伝えないとね!」

ザッツロードたちはラーニャの家でレーミヤに届いた話を聞く レーミヤが話す
「ヴィクトール陛下や 各国の悪魔力調査隊の人たちが調べた所 宝玉を保管していた国には共通の事があるらしいの、その共通の事と言うのが お城の近くに人が近づく事を禁じられた祠(ほこら)があると言う事 ただの教会の祠だと思われていたものを 全て確認した所 各国に必ず1つ厳重なバリアで保護された祠があって そもそも宝玉はそこに祭られていたものだったらしいの それが魔王討伐にあたり取り外され 100年前の 勇者ザッツロードに貸し出された」
ラーニャが身を乗り出して言う 
「それで?その祠がなんなの?あ!まさかその祠から悪魔力が!?」
レーミヤが顔を横に振る
「調査隊の人たちもそう思ったらしいんだけど、計測したところ その祠にあるのは悪魔力でも聖魔力でもなかったらしいの」
ラーニャが力を失って言う
「じゃー別に良いんじゃない?」
レーミヤが言う
「そうなんだけど、どういう訳か その祠の周囲では魔物化する動物が異常に多いらしくて」
レーミヤとラーニャの会話にミラが加わって言う
「それで、ヴィクトール陛下からの連絡って そんな祠が見付かりましたよって 話だけ?」
ミラの言葉に レーミヤが思い出した様に言う
「あ、そうそう それで、ヴィクトール陛下が ミラに確認して欲しいって」
ミラが言う
「え?私?」
レーミヤが言う
「ええ、不思議な事に その祠と同じものが ソイッド村の近くで見付かったらしいの」
レーミヤの言葉にラーニャが言う
「なんでソイッド村に!?」
言いたかった言葉を先に言われたミラが 仕方なく視線だけをレーミヤへ向ける レーミヤが言う
「それが分からないから連絡をしたみたいよ?ミラ、何か知ってるかしら?」
逆に全員の視線を受けるとになった ミラが 困って言う
「え?し、知らないわ… 私は そんな祠があるって事すら 聞いた事も無い」
レーミヤが言う
「場所が記された地図も預かってるの これよ」
レーミヤがテーブルに地図を広げる 全員が見る ミラが手を口元へ置き考えて言う
「そういえば… 昔、小さな造船所があったって この場所は その奥だわ」
ザッツロードが言う
「行ってみよう!」
ザッツロードが言葉と共に地図から顔を上げると 仲間たちが一瞬驚いた後 すぐに微笑し レーミヤが言う
「そうね、さっそく行ってみましょ?」
ミラが言う
「それなら もちろん 今度はレーミヤの移動魔法で お願いするわ」
ミラの言葉にザッツロードが苦笑する

【 ソイッド村 】

ソイッド村へ到着したザッツロードたちは ミラの案内の下 昔の造船所への扉を開ける 中は造った船を海へ出す為大きな扉が朽ち 外からの光が差し込んでいる 薄暗い内部をラーニャの作り出した光の玉の明かりを頼りに進む 鉄製の扉を開け そこに続く階段を下る 先行するミラの後ろで ラーニャが周囲を見て言う
「なんか… 不気味…」
ザッツロードが言う
「怖いのかい?ラーニャ?」
ラーニャが言う
「こ、怖くなんかないわよ!」
レーミヤが微笑して言う
「ラーニャは お化けが怖いのよね?」
ラーニャが怒って言う
「ちょっレーミヤ!」
雑談の声が木霊する、先行するミラが振り返って言う
「お化けならまだ良いけど、ヴィクトール陛下が言っていたものがあるとしたら 大量の魔物が居るって事になるじゃない?そっちの方が問題よ」
ラーニャが軽く言う
「問題は問題かもしれないけどさ…?」
ザッツロードが不思議そうにラーニャを見て言う
「ラーニャは大量の魔物より お化けが怖いのかい?」
ザッツロードの問いに ラーニャが当然の表情で言う
「当たり前でしょ?魔物は魔法で倒せるけど、お化けは魔法で倒せないじゃない?」
ラーニャの答えを聞き ザッツロードも同じ表様で言う
「ああ そう言えばそうだね?」
ミラが驚いて言う
「え?そこで納得する?」
レーミヤが苦笑する

長い階段を下り終えたザッツロードたち 扉を開けると洞窟の壁が行く手に見える ザッツロードが一歩足を踏み出すと その近くを蛇が通る ザッツロードが言葉にならない言葉を発する
「!%&!@」
ザッツロードがその場で硬直する ザッツロードの足元を見たミラが言う
「あ、ヘビ…」
ラーニャがしゃがんで言う
「ちっちゃくて可愛い~」
ラーニャに続き レーミヤがしゃがんで確認する 蛇は小さい舌をぴょろぴょろ出している レーミヤが微笑して言う
「うふふ、ほんと、それに この蛇はこんなに小さいのに魔物化してないわ?これは悪魔力が発生していない良い証明ね」
しゃがんでいた2人が立ち上がり レーミヤが言う
「これなら安心して 祠の確認が出来るわね?」
ラーニャが言う
「そうね!これで 一安心!…って ザッツ?どうしたの?」
2人より先にザッツロードの異変に気付いていた ミラが ザッツロードを見ながら言う
「ザッツは 魔物よりお化けよりも 蛇が怖いみたいよ?」
ラーニャが言う
「え?あんなに小さいのに?」
レーミヤが苦笑して言う
「ザッツ?大丈夫?ザッツ?」
レーミヤが呼びかけるが ザッツロードは変わらず硬直している 蛇が去って行く

通路を行くザッツロードたち ラーニャが言う
「まさか勇者ザッツロードが 蛇に弱いなんてねー?」
ミラが言う
「ほんの5センチ程度の小さな蛇だったわ」
レーミヤが苦笑して言う
「まぁまぁ、誰にでも苦手なものがあるでしょうから…」
仲間たちが言う中 ザッツロードがいまだ青ざめた顔で額を拭いながら言う
「昔、夜風に当たろうとバルコニーへ出て 手すりに手を置いたら そこに へ、蛇が居て… それ以来 あれだけはダメなんだ…」
ザッツロードが言いながら思い出し さらに青ざめる レーミヤが苦笑し ミラが呆れ ラーニャが笑う

突き当たりに扉があり ザッツロードたちは立ち止まる ミラが言う
「これね」
ザッツロードが頷いて言う
「よし、それじゃ 開けるよ?」
ラーニャが言う
「ザッツ!ドアの取っ手にへびが!」
ザッツロードが硬直して言う
「!?!?#%$&’!?」
ラーニャが言う
「なーんちゃって!」
ザッツロードが硬直している ミラがその前に立ちドアを開けて言う
「さっさと行くわよ」
ラーニャがおどけて言う
「あれー?ザッツ?大丈夫だった?」
レーミヤが言う
「もうっラーニャったら!」
ラーニャが悪戯っぽく笑う
「えへへ~」
レーミヤが後ろからザッツロードの両肩を叩くと ザッツロードの硬直が解ける その間にミラが祭壇へ向かい様子を見ている ザッツロードが後ろから遅れて来ると ミラが言う
「封印されているみたい だいぶ古い封印よ それに…」
ミラが祭壇の上を軽く指でなぞり 埃が無い事を確かめて言う
「今も管理されているわ 一体誰が…」
ミラが言いながらザッツロードたちを振り返ると ザッツロードの後ろに居る村の長老の姿に驚いて 声を上げる
「長老様!?」
ラーニャが疑問し振り返って叫ぶ
「え?…きゃぁあああ!!!」
ラーニャが長老の姿を見て腰を抜かし指差して言う
「お、おば…おば…お化け…」
長老がラーニャを見て笑って言う
「ふぉっふぉっふぉ、魔法使いのお嬢さん、わしはまだ生きちょるぞ?」
ラーニャが目に涙を浮かべながら疑問する 
「…ふえ?」
ラーニャの横へやって来たミラが怒る
「ちょっと!長老様に失礼じゃない!」
ミラが怒るのを長老がたしなめて言う
「よいよい、お化けに間違われるほど わしはこの世界に生かさせて頂いておる これも精霊様のお陰、感謝せねばな?ふぉっふぉっふぉ」
ラーニャが立ち上がると ミラが長老へ問う
「長老様、何故こちらへ?この祭壇の存在を ご存知だったのですか?」
長老は頷きながら言う
「勿論知っておる、そして お前さんたちがここへ現れたと知らせを受け わしもここへ来たのじゃ」
ラーニャが皆へ問う
「知らせ?私たち誰かに見られたっけ?」
皆が顔を見合わせる 長老が笑って言う
「彼が知らせてくれたんじゃよ?お前さんたちも お会いしたじゃろう?」
長老の肩に 小さな蛇が現れる ザッツロードが悲鳴を上げ掛けて 硬直する
「ぬあーっ!? $?#%&!」
ラーニャが言う
「あー さっきの!ちっちゃくて可愛いの!」
ラーニャが指差すと 蛇がぴょろぴょろと舌を出す 長老が笑って言う
「ふぉっふぉっふぉ お嬢さんに好かれて 恥ずかしがっておるわ」
レーミヤがザッツロードの肩を叩きながら問う
「あの、それでこの祭壇の事なのですが」
ミラが言う
「そうです、長老様、この祭壇について 教えて頂けませんか?この祭壇… 今も結界の再生と 修復が成されています この管理は長老様が?」
ミラの言葉に長老が頷いて言う
「うむ、祭壇の結界を守る事、これこそが我らソイッド村の魔術師へ課せられた定め それと…」
長老は言いながら 祭壇に置かれている手紙を手に取り開く
「そろそろ約束の日なのでな?日時の確認をせんと… お主らが来なければ 忘れてしまう所だったかの?ふぉっふぉっふぉ」
ラーニャが問う
「約束って?」
ミラが言う
「長老様、私たちが聞いた話によると この祭壇には本来 宝玉が奉納されている筈だったそうです 100年前ローレシアの勇者が 宝玉を集め魔王を倒す事に使うまでは」
ミラの話を聞き長老は頷いて言う
「そう… 宝玉は100年前の 戦争の引き金でもある」
ザッツロードが言う
「勇者が魔王を倒した後に 起こったと言う戦争ですね?」
長老が頷き手紙を閉じてから言う
「うむ、ローレシアの勇者が使用して見せたため それまでは単なる飾りだと思われていた宝玉が 実は とても強力な魔力を持ったものだと言う事を 各国が知り、各国は宝玉を求め 卑劣な戦いを繰り広げたのじゃ」
長老が祭壇を見上げ続けて言う
「だが、伝え聞いた話によれば …それより以前から このソイッド村にあった宝玉は 何処かへと隠されておったそうじゃ そして、誰にも知られる事の無い様に どこにもその隠し場所を記す物を残さず 人々へ語り告がれる事も無かった」
長老の言葉にザッツロードが問う
「それより以前に隠された と言う事は… 100年前の勇者も この村の宝玉を手にしていないという事ですね?」
長老がザッツロードへ向き直り頷いて言う
「そうじゃ この村の宝玉は 100年以上昔に隠された為 100年前のローレシアの勇者様は勿論 現代の勇者様にも お渡しする事が不可能なのじゃ、お主方には村を救って頂いた 多大なるご恩があるのじゃが お力になれず申し訳ない」
ザッツロードたちが肩の力を落とす ラーニャが言う
「あーそうだ それは残念だけどさ?もう1つ、この祭壇について 聞かないといけないんじゃない?」
ラーニャの言葉にミラが言う
「そうだったわ、長老様、この祭壇の結界は?宝玉を奉納している祠は 他国にもあり、それらの祭壇からは 悪魔力は観測されていないそうです でも、この祭壇の結界は…」
ミラが言いながら祭壇へ手を向ける 長老が近づき言う
「そう、この結界は悪魔力を封じる結界じゃ わしが作った この村の古い手紙に従ってな」
ラーニャが言う
「古い手紙って さっきの その?」
ミラが言う
「その手紙に 祭壇へ結界を張る様にと?」
2人が顔を見合わせる 長老は笑って言う
「ふぉっふぉ、そうなんじゃよ、なんでじゃろうな?理由は分からぬが わしはその通りにしたまでなんじゃよ この祭壇から悪魔力が出ているかどうかなど わしは知らぬのじゃがな?」
ザッツロードが言う
「ちなみに 長老様 このソイッド村の周囲に魔物が 異常発生したりなどは?」
ザッツロードの問いに長老は微笑んで言う
「そんな事は一切無い、この村の周囲は 他のローレシア領土となんら変わりは無いですじゃ」
ラーニャがザッツロードを見上げて言う
「ねえザッツ?これってヴィクトール陛下に 言った方が良いんじゃない!?」
ラーニャの言葉に ミラも言う
「ええ、もしかしたら 観測から外れて 悪魔力が発生する事があるのかもしれない」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、すぐにアバロンへ向かおう」

【 アバロン国 】

ヴィクトールが言う
「では… ソイッド村にも祠があり、そして昔は宝玉があったと」
ヴィクトールの前に跪いているザッツロードと仲間たち ザッツロードが顔を上げ言う
「そのソイッド村の祠にある祭壇には 村の長老の力で悪魔力を遮断する結界が張られていました そのお陰かどうかは定かでは無いのですが、ソイッド村周囲では 魔物の量に異常は無いそうです」
ヴィクトールが言う
「そうか…」
ザッツロードの言葉を聞きヴィクトールは考える 会話が止まったのを見計らいミラが言う
「あの、ヴィクトール陛下 1つお伺いしたい事が」
ヴィクトールが視線を向けて言う
「うん?何だ?」
ザッツロードたちが驚く中 ミラが前へ出て問う
「ソイッド村の祠は 旧造船所の奥、地下深くの場所にありました とても外から見て分かるものではありませんし、地図やその他にも記載が無いはずです 村の者でも長老と一部の者しか知らなかった …その祠の存在を 何故ヴィクトール陛下が ご存知だったのですか?」
ミラの言葉にザッツロードと仲間たちが驚く ラーニャが言う
「…そうよね?なんでローレシアの人でも無い ヴィクトール陛下が あんな場所にあった祠を…?」
ミラとラーニャの言葉にヴィクトールが微笑む ザッツロードがその様子を不思議に思うと ヴィクトールが他方へ視線を向けて言う
「デス、ヘクター」
ラーニャが驚いて言う
「え!?」
ザッツロードたちが驚き ヴィクトールの視線の先を振り返ると そこに ヘクターが現れつつ言う
「おせーよ ヴィクトール!いつ呼んでくれるかって ずっと待ってたんだぜ?」
ザッツロードが驚いて言う
「デス!ヘクター!」
ヴィクトールに呼ばれ入室してきたヘクターとプログラマー ザッツロードが名を呼ぶと 呼ばれた2人がザッツロードたちへ視線を向け ヘクターが片手を上げて言う
「よう!ザッツ!ラーニャ、ミラ、レーミヤも!ひっさしぶりだなー!?」
ザッツロードたちがヘクターとプログラマーの下へ駆け寄る ラーニャがプログラマーの肩を突っ突きながら言う
「わ、わ、触れる!触れるー!」
プログラマーが言う
「実体だ、触れられるに決まっている」
ミラも驚いて
「わ… 初めて声を聞いた…」
ヘクターが苦笑して言う
「苦労したんだぜー!?言葉をしゃべれる様になるまで、なぁ?」
プログラマーが苦笑して言う
「…ああ、言葉を音にする事は 非常に面倒だ」
ヘクターへ向き言ったプログラマーの様子に レーミヤが両手を胸の前で握り締め言う
「すごいわ!よく頑張ったわね?デス!」
ザッツロードたちが頷いて肯定する プログラマーは表情を変えぬままその様子を眺めると 間を置いて言う
「…お前達も行って来た事だろう?幼少の頃に」
ラーニャが呆気に取られて言う
「あ、そっか?」
皆が笑う ヘクターがヴィクトールへ向いて言う
「で?祠はあったって?」
ザッツロードたちの様子に 微笑んでいたヴィクトールが頷いて言う
「ああ、デスの調べた通りだったそうだ 悪魔力を封じる結界も張られていたらしい 大したものだな?」
ザッツロードが驚いて言う
「それじゃ、ソイッド村に祠があると ヴィクトール陛下に伝えたのは!?」
ヘクターが言う
「ああ!デスだぜ?各国の祠に宝玉が 奉られてたってのを調べたのも デスだしな!」
ザッツロードの問いにヘクターが自慢げに答える プログラマーは表情を変えずに言う
「しかし、悪魔力の計測などは出来ない ソルベキアの機械は軟弱だからな 少しでも悪魔力に干渉すると すぐに汚染されてしまう」
プログラマーの言葉にザッツロードが首を傾げて言う
「それでは、悪魔力が観測されないと言ったのは?」
ザッツロードの問いにヴィクトールが答える 
「それはシュレイザー国だ」
ザッツロードが言葉を発しようとするが ラーニャが言う
「なんでシュレイザー国が?」
ヴィクトールが間を置いて答える
「…それが余り当てにならないのだが ソルベキアの機械を改良し 独自に作り出したそうだ 悪魔力を早期に発見するのに役立てたいと言っていたが…」
ヴィクトールの言葉を聞いた皆が黙る プログラマーが言う
「シュレイザー国がその様な機械を造れるとは とても信じ難い そして アバロンを含め どこの国も信用していないだろう」
ラーニャが顔を引きつらせながら言う 
「ちょっと… それって 可愛そうじゃない?」
ミラが空かさず言う
「でも あの王様の感じだと 誰も当てにしないって言うのも 分かる気がするわ」
ザッツロードも苦笑する ヴィクトールが言う
「あの祭壇から 悪魔力が発生している いないに関わらず ソイッド村の情報を得た今 私は各国へ結界を張る事を強く推奨するつもりだ 貴公たちの助力、感謝している」
ザッツロードが敬礼すると プログラマーとヘクターを除く仲間たちもそれに続く ザッツロードたちに続き 退室しようとしたヘクターを ヴィクトールが呼び止める
「ヘクター」
ヘクターが言う
「悪ぃ、すぐ行くからよ?デス、皆に タニアを紹介しといてくれ」
プログラマーが言う
「分かった」
ラーニャが疑問して言う
「タニアって?」
疑問するラーニャを無視してプログラマーが先行する ザッツロードたちは顔を見合わせてからデスに続く

アバロン城を出たプログラマーとザッツロードたち ラーニャが再び言う
「ねぇ、デス、タニアって何?」
プログラマーが背を向けたまま答える
「タニアは ヘクターの 結婚相手の名だ」
全員の足が止まり 皆が驚いて言う
「「「えぇええ!?」」」
ザッツロードたちが立ち止まったのに気付き プログラマーが立ち止まり振り返る そのプログラマーへザッツロードたちが押し掛け問う ラーニャが叫ぶ
「ちょ、ちょっと!デス!?ヘクターが!?まさかっ!?」
ザッツロードが言う
「け、結婚… したのかい!?」
ラーニャとザッツロードの問いに プログラマーが間を置いてから普通に答える
「結婚して 子供も居るが …それがどうかしたのか?」
ザッツロードたちが言葉を失う

ザッツロードたちはプログラマーに連れられ 一軒の家の前に立つ プログラマーがドアを叩くと 凛とした女性の声で返事がある ザッツロードたちが緊張すると ドアが開き 綺麗で可愛い女性(タニア)が顔を出して言う
「お帰りなさい デス …あら?ヘクターは?」
プログラマーが言う
「ヘクターはヴィクトール国王と話をしている ヘクターの客を連れて来た 勇者ザッツロードと その仲間たちだ」
プログラマーが視線を向ける それに合わせタニアが振り向いた先にザッツロードたちが居る ラーニャが思わず言う
「わ~ きれい…」
タニアの姿に見惚れるラーニャ 隣でザッツロードも見惚れる ミラが咳払いをしてからザッツロードの背を叩くと ザッツロードが痛がりながらもハッとして自己紹介する
「あ、初めまして ザッツロードです…」
ザッツロードが照れ隠しに頭を掻いてそう言うと 次々に仲間たちも名を言う 一通り言い終わると タニアがドアから出て 微笑んで言う
「初めまして、タニアです その節はヘクターがお世話になったそうで お話は伺っていました」
ラーニャがタニアの腹を見て言う
「あ、もしかして…」
その視線に気付いたタニアが自分の腹に手を当てて言う
「はい、お腹に赤ちゃんが居るんです、もうすぐ生まれる予定です」
ミラがプログラマーへ向いて言う
「子供が居るって… まだ生まれてない 子供の事ね?」
プログラマーが無表情に言う
「何か問題があるのか?」
2人の会話に ラーニャが声を上げる
「生まれる前なら 普通 もうすぐ生まれるー とかって 言わない?」
ラーニャの言葉に プログラマーが間を置いてからタニアへ視線を向ける タニアが言う
「ふふ、そうね、普通はそう言うかも 知れないわね?」
タニアの答えにプログラマーが間を置いてから言う
「…そうか では 私は十数年間生まれなかったが その間 私はずっと ”居なかった” と言う事か?」
ザッツロードたちが顔を引きつらせる タニアが苦笑する

ラーニャが言う
「それじゃ、ヘクターは今アバロンの3番隊隊長として 平和に過ごしてるって事ね?」
ヘクターが両手を頭の後ろに組み のんびり答える
「う~ん 魔物がやたら増えてっから 平和とは言い切れねーけど、 まぁそうかもな?」
レーミヤが微笑んで言う
「でも素敵ね?綺麗な奥さんも居るし 自分の祖国のアバロンを守りながら 幸せに暮らせる… もうすぐ赤ちゃんも生まれるし、これはやっぱり平和と言うんじゃないかしら?」
ヘクターとタニアが笑い合って言う
「ああ、なら やっぱ平和かもな?」「そうね?」
皆が微笑む ヘクターが続ける
「けど、悪魔力の増加は抑えねーと、その平和が長続きしなくなっちまうだろ?」
ザッツロードたちが頷く ザッツロードが言う
「うん、出来れば増加を防ぐより 根本を断ち切る事が出来る方が 好ましいね」
ザッツロードの言葉に皆が頷く プログラマーが言う
「ついでに 邪魔な居候が居なくなれば 完全な平和だ」
ザッツロードと仲間たちが疑問すると ヘクターが怒って言う
「だから!お前の事を 邪魔だなんて思った事ねーって いつも言ってるだろ!」
プログラマーが言う
「思わない お前が可笑しい」
プログラマーが言い終えると共にプイと顔を背ける ヘクターが不満そうに怒る その様子を見たザッツロードたちが 吹き出す ザッツロードが笑いながら言う
「あはは、変わらないなぁ 2人共」
ミラが言う
「ほんと、ちょっと和むわ」
レーミヤが言う
「デスがホログラムじゃなくても その会話は変わらないのね?」
ザッツロードたちの言葉に ヘクターが溜め息を吐いて言う
「皆も何とか言ってくれよ~ こいつ俺が結婚してから いっつも言うんだぜー?」
プログラマーが言う
「当然の事だ 結婚をしたと言うのに いまだに私を この家に留まらせる理由が 皆目検討が付かん」
プログラマーの言葉に 3人の魔力者が言葉を失う ラーニャが仲間たちへ視線を送りながら言う 
「う~ん難しい問題ね…?」
ミラとレーミヤが困った様子で苦笑する ザッツロードは不思議そうに首を傾げて言う
「僕は城で 色んな人と一緒に住んでいるから ヘクターとは 同じ意見かな?」
ヘクターがうんうんと頷いて言う
「ほらなー?同じ意見の奴が やっぱり居ただろ?デス?」
プログラマーが沈黙する 3人の魔力者が呆れる

ザッツロードが言いながら振り返る
「それじゃ、夕食ごちそうさま ヘクター」
ヘクターが言う
「おう!また来いよ?」
ヘクターとタニアが ザッツロードたちへ手を振っている プログラマーは腕組みをして見ている ザッツロードたちが立ち去る後ろで ドアを閉めながらヘクターとタニアが話している タニアが言う
「ヴィクトール陛下とお話?」
ヘクターが言う
「ああ、明日 ベネテクト国に…」
会話はドアが閉まるので聞こえなくなる

ラーニャが笑顔で言う
「美味しかったねー!タニアさんの手料理!」
ラーニャの言葉にザッツロードが頷いて言う
「うん、アバロンの料理だったね 美味しかった」
レーミヤが言う
「デスもヘクターも元気みたいだったし 本当、良かったわ」
レーミヤの言葉に皆が頷く ミラが冷静に言う 
「問題はあるみたいだけど… まぁ、あの2人なら何とかなるでしょ」
レーミヤとラーニャが苦笑する

【 ローレシア城 】

数日後ザッツロードが書物庫で本を読んでいる所へ ラーニャの声が響く
「ちょっとザッツ!大変!!」
廊下を走ってきたラーニャが入り口の扉に手を付いて息を切らせる ザッツロードが驚き 席を立ってラーニャの近くへ行って言う
「ラーニャ?そんなに慌てて 一体どうしたんだい?」
ザッツロードが屈んでラーニャへ声を掛ける ラーニャは整わない息のまま言う
「はぁ…はぁ…あ、アバロンがっ はぁ ソルベキアに 襲われたってっ!」
ザッツロードが驚いて言う
「なんだって!?」
ザッツロードが声を上げ 更に問う
「それで!?被害は!?アバロンにはヘクターもデスも …あ、あのヴィクトール陛下が居るんだっ ソルベキアと戦ったって…!」
ラーニャが表情を曇らせて言う
「それが… すごい 被害だって… 今も 戦ってるらしいのっ!ねえ ザッツ!助けに行こうよ!?」
ラーニャがザッツロードの腕を強く引く ザッツロードはハッとすると 間を置いてラーニャへ言う
「…ラーニャ、助けには… 行けないよ」
ラーニャがザッツロードの腕を何度も引いて声を荒げる 
「なんで!?なんでよ!!アバロンには!ヘクターやデスや ヴィクトール陛下が!私たちの仲間が居るじゃない!?」
ザッツロードは俯いたまま顔を横へ振って言う
「僕達がアバロンへ援護に行ったら 次は アバロンはソルベキアを襲撃する… それに、ソルベキアにだって 僕たちを助けてくれたスファルツ卿が居るだろ?僕たちは国ではなく、世界を守る為に戦わなければならない… だから 何処の国にも属す訳には行かないんだ …もちろん、このローレシアにも」
ラーニャが言う
「で、でも… ヘクターやデスや ヴィクトール陛下が… 殺されちゃったら…っ!?」
ラーニャがザッツロードの腕に抱きついて泣く ザッツロードは俯いたまま動かない ラーニャが掠れる声で言う
「なんで…?なんで国同士で戦うの…?皆… 仲間なのに…っ」
ラーニャが泣き続ける

数日後――

ザッツロードが自室で アバロン国のプログラマーからの通信を受けている ザッツロードが表情を明るくして言う
「良かった!それじゃ、君もヘクターも ヴィクトール陛下も 皆 無事なんだね!?」
通信機のプログラマーが言う
『無事だ、問題ない 城下は多少荒れたが アバロン国民が活気を持って修復している』
ザッツロードが椅子の背にもたれて ふうと息を吐いて言う
「良かった…」
プログラマーが言う
『ついでに言うと ヘクターの結婚相手の体内に居る 子供も無事だ』
ザッツロードが笑って言う
「それは何より!…でもデス?それを言うなら 『タニアさんのお腹の子も無事だ』って言わないと ラーニャに怒られるよ?」
プログラマーが沈黙した後 間を置いてから再び話す
『…それより重要な話だ まず、悪魔力の測定が 暫定では有るが可能になった そして、その測定を行った上で 今回のソルベキア国による無差別国家攻撃に ある法則が存在する事が分かった』
ザッツロードが身を乗り出し 真剣な表情をする
「法則?」
プログラマーが言う
『ああ、今回ソルベキア国から攻撃を受けたのは ソルベキアに一番近い国 ローゼント国からアバロン、ツヴァイザー、シュレイザーの4カ国だ そして、攻撃を受けていないのがローレシア、デネシア、ガルバディア、ベネテクト、スプローニ 重要なのがこちらの5カ国だ この5カ国に共通しているのが ソルベキアからの襲撃時に 悪魔力が少なかった国だ』
ザッツロードが驚いて言う
「それではっ!?」
プログラマーが続ける
『この襲撃を受けなかった国は 他国に比べ極端に悪魔力が低かった、理由として有力なのが 5カ国の中のベネテクトとスプローニ この両国は襲撃の前までに 例の宝玉が奉納されていた祠に結界を張った国だ アバロンは結界を張る前に ソルベキアの襲撃にあってしまった』
ザッツロードが言う
「ソルベキアの攻撃と 悪魔力に関係が…?」
プログラマーが言う
『私が思うに やはり祠からは悪魔力が排出されている だが 私の悪魔力の計測プログラムを 各国へ実証するには まだ時間を有する そこで、別の理由から祠へ結界を張らせる名目を作った アバロン国を襲ったソルベキア国のロボット兵を解体した所 このロボット兵は悪魔力を動力源として動いていた事が分かった このロボット兵を再び使われないためにも 悪魔力発生の可能性を有す祠へ結界を張っておく …多少強引ではあるが ソルベキアのロボット兵への脅威を 逆手に取る事で 上手く行くだろう』
ザッツロードが言う
「すごいよ デス!それでヴィクトール陛下には!?」
プログラマーが言う
『もちろん伝えた そして ヴィクトール国王は他国へ打診した だが、そこで問題が発生した』
ザッツロードが言う
「問題?」
プログラマーが言う
『悪魔力を発生させる可能性のある 祠を封鎖する事よりも 破壊してしまった方が 良いのではないかと言う意見だ ヴィクトール国王は回答に困っている ザッツロード、ローレシア国に 宝玉が奉られていた祠に関する資料は無いだろうか?』
ザッツロードが考えて言う
「宝玉が奉られていた祠の資料… 分かった 探してみるよ!」
プログラマーが言う
『…伝えておく』
プログラマーが通信を切ろうとする ザッツロードが慌てて言う
「あ、待ってくれ!デス!」
ザッツロードが椅子から立ち上がって呼び止める プログラマーが向き直り問いを待つ ザッツロードが言葉に困って言う
「あ… あの… え~と…」
プログラマーが沈黙して言葉を待つ ザッツロードが苦笑して言う
「また… 一緒に戦えると良いね?君やヘクターや… 皆と一緒に…」
プログラマーが間を置いて答える
『…伝えておく』
ザッツロードが苦笑して言う
「…うん」
ザッツロードが力なく椅子に戻る プログラマーが通信を切ろうとした動作を止め 間を置いてから言う
『今のヘクターが何と返答するのか 私には分かりかねる』
ザッツロードがプログラマーを見る プログラマーが言う
『だが… 私自身の答えなら ”いつでも お前たちに力を貸す” …以上だ』
ザッツロードが驚き目を見開いて言う
「デス…っ」
通信が切れる ザッツロードが微笑して言う
「…ありがとう」
ザッツロードが微笑んで椅子から立ち上がると 窓へ向かいバルコニーへ出る 風を受けて気持ち良さそうに両腕を広げてから 手すりに手を置いて 遠くを見ると 人の声に気付いて下を見る ローレシア城の入り口付近 門兵に止められている金髪に黒服の男と 門兵の会話が聞こえる 門兵の声は小さくて聞き取りにくいが 男の声は大きい その声に聞き覚えがある気がして ザッツロードは目を細める 顔が分かり 思わずその名を声にする
「バーネット陛下!?」
ザッツロードの記憶にあるバーネットの姿は黒髪だが 間違いなくバーネットだとザッツロードは確信する ちょうどその時ローレシア国の大臣フォリオッドが城内から現れバーネットへ挨拶をする バーネットの声が聞こえる
「”国王らしくない”国王で悪かったなぁ?」
ザッツロードが呆気に取られると バーネットはフォリオッドに案内され城内へ入って行く ザッツロードが笑い出して言う
「あはは… バーネット陛下も 相変わらずだなぁ?」
ザッツロードが そのまま外を眺めようとして あっと思い出すと 言いながら室内へ戻る
「あっ!祠の事を調べないと!」

ザッツロードはローレシア城の書物庫へ向かい 祠に関する書物を探す 年代とタイトルでそれらしき書物を数冊平積みにして運び テーブルで読み始める しばらく読んでいると書物庫のドアがノックされる ザッツロードがそちらへ振り向くと バーネットが言う
「よう、勇者様?それとも ザッツロード王子の方が良いのか?」
ザッツロードが驚いて言う
「バーネット陛下!?」
ザッツロードが名を呼ぶとバーネットが室内へ進み入り ザッツロードの隣のテーブルに腰掛け ザッツロードを見下ろす ザッツロードは微笑んで言う
「お久し振りです」
バーネットが苦笑して言う
「ああ、俺を覚えていたんだな?」
ザッツロードがバーネットの言葉に驚くと 声を強めて言う
「もちろんです!」
ザッツロードの言葉に バーネットがニヤッと笑い言う
「”国王らしくない”国王だから 勇者様の忙しい旅中でも 覚えていたのか?」
ザッツロードが先ほど聞いた言葉に思わず笑いが込み上げ声に出して笑う
「あはは…」
バーネットが一瞬呆気に取られ 悪戯っぽく笑い言う
「おい、否定しろよ!?」
ザッツロードが慌てて言う
「あ…っ し、失礼を…」
バーネットが軽くザッツロードの頭を叩き 2人が笑い合う ザッツロードが気を取り直して言う
「てっきり父上に御用なのかと 思っていました」
バーネットが不満そうに言う
「ああ、そうだったんだが… 断られた」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
ザッツロードが驚いていると バーネットが視線を上げて言う
「だが、そのまま帰るのもシャクだしなぁ…?少し勇者様と 話でもしようかと思ってよ?」
ザッツロードが力なく言う
「そうでしたか… 父上が…」
ザッツロードが一度俯くが バーネットへ顔を上げて言う
「私で宜しければ」
ザッツロードの言葉に バーネットが口角を上げて言う
「へぇ?息子の方が 礼儀が分かってるじゃねぇか?」
バーネットが笑うと ザッツロードが父の無礼に詫びる バーネットは顔を横へ振ってから言う
「…で、話って言うのは…だ 例の魔王の件だ お前達は その… 魔王とか言う奴を見たのか?」
バーネットが腕組みをして問う ザッツロードが答える
「いいえ 聖魔法の結界が張られていて そこから先へは行けなかったのです」
バーネットが言う
「結界?ああ、最近になって 祠に掛けとけとかって言い始めやがった あの結界か?」
バーネットが言いながら首を傾げる ザッツロードが視線を落として言う
「そうですね、実際には それよりも もっと強力なものだと思います」
バーネットが言う
「もっと強力だぁ?ぶっ壊そうとでも 試しやがったのか?」
ザッツロードがバーネットへ視線を上げて 少し驚いて言う
「あ… い、いいえ!ヴィクトール陛下が 聖魔法の結界を壊す理由とリスクを指摘されて…」
ザッツロードが言った後にハッとする バーネットは気にする様子は無く手をあごに当て考えて言う
「あ~…まぁ確かに 中に何があるかも 分からねぇんだもんなぁ…?が、もしやるとしたら 宝玉を使えば壊せそうなのか?」
バーネットが改めてザッツロードを見て問う ザッツロードが顔を横に振って言う
「いいえ、宝玉に蓄積されている魔力は、バーネット陛下からお預かりしたベネテクト国の宝玉の他 アバロンやソルベキア、ガルバディア、スプローニ、シュレイザー 6つは全て 聖魔力の宝玉なので あの結界を壊す事は出来ないんだそうです …あ、でも その代わり ガルバディアのウィザードなら もしかしたら壊せるかもしれないと…」
ザッツロードの言葉に バーネットが再び考え天上を見上げボソボソと言う
「ウィザードなら… あぁ、あいつか… あいつなら確かに… ん?6つ?何んで6つなんだ?」
ザッツロードが疑問して言う
「え?」
バーネットがザッツロードへ視線を戻し 顔を近づけて問う
「宝玉の数は、ローレシアの宝玉も入れて7つだろ?はっはー 自分の国の名を言い忘れんなよな?」
バーネットが軽く笑う ザッツロードは呆気に取られて言う
「え?いえ… ローレシアに宝玉はありません ですから… あの時 持っていた宝玉も 6つでした」
バーネットが呆気に取られて言う
「…あ?…そぉだったか?」
ザッツロードが苦笑して言う
「はい… 勇者の故郷の割りに 宝玉は無いんです」
バーネットが考えながら言う
「…ふーん そうなのか…?」
バーネットが天上を見上げ 考えている ザッツロードが言う
「それから… あの後、1人でもう一度行って 仲間の魔術師に教えてもらった ”記憶転生の魔法”というもので 結界の記憶を見てみたりもしたんですが 結局 あまり分からなくて …あ、でも」
ザッツロードの声にバーネットが視線を向ける ザッツロードもバーネットを見上げて言う
「声が… 聞こえたんです」
バーネットが言う
「声が?言葉かっ!?」
ザッツロードが言う
「はい」
バーネットが驚き 視線を強める ザッツロードが 思わず後ろへ下がりつつ言う
「あ…っ でも… 空耳かもしれないって 感じで…」
バーネットが言い寄る
「でも 聞こえたんだろっ!?」
ザッツロードが押されつつ言う
「はい…っ た、たぶん… でも その一言だけで… 後はまったく…」
ザッツロードが思わず身を引いていると バーネットは体勢を直し再び考えて言う
「ふん… ならぁ もし空耳じゃなかったとしたら 少なくとも人の言葉を話す奴が居たって事だ… どんな声だ?威嚇してきやがったのか?」
バーネットの問いに ザッツロードが呆気に取られて言う
「え…?」
ザッツロードが改めて考えると バーネットが その様子に問いを続ける
「声の感じは?男か?女か? …あ~ 性別なんて判らねぇか?んじゃ、その… 言葉の感じは?強く言われたのか?それとも…?」
ザッツロードが沈黙する バーネットは不思議に思って言う
「どうした…?」
ザッツロードが言う
「あ、すみません… 確かに そう言われてみれば…」
ザッツロードが言葉を続けようとした その時 ローレシアの衛兵が呼ぶ
「バーネット陛下!」
ザッツロードとバーネットが振り向くと 衛兵が続けて言う
「イシュラーン陛下が お会いになりたいとの事です」
バーネットが間を置いて言う
「…そうか、分かった」
バーネットはゆっくり部屋を出て行く中振り返って言う
「もう少し聞きたかったが しょうがねぇ、またな?」
バーネットが軽く手を上げると ザッツロードは返事をして敬礼する バーネットが居なくなりザッツロードは考えて言う
「…あの声 …結界の精霊様のものでは 無かったのかもしれない …だとしたら あの声は 結界の中に居る者が?それじゃ… 結界の中に居るのは 魔王では… …無い?」
ザッツロードが視線を強めて考えて言う
「魔王ではない のか?なら 一体?…よし!」
ザッツロードは立ち上がると自室へ向かい自室で装備を整えると 城の出入り口へ向かう 丁度その目に玉座の間の門が見える ザッツロードが独り言を言う
「…バーネット陛下 父上とのお話は 終ったのかな?」
ザッツロードは玉座の間の衛兵へ声を掛ける
「バーネット陛下は 父上とお話中か?」
衛兵が敬礼して答える
「バーネット陛下は 先ほどイシュラーン陛下と共に 地下室へ向かわれました!」
ザッツロードが一瞬呆気にとられてから言う
「地下室へ?…分かった ありがとう」
ザッツロードが地下室へ向かう階段へ近づくと そこに 地下室から上がって来たイシュラーンが現れる ザッツロードが近づいて言う
「あ、父上」
ザッツロードがイシュラーンを見上げて言う
「あの、父上 バーネット陛下は?」
ザッツロードの問いに イシュラーンは間を置いてから言う
「バーネット殿はベネテクト国へ帰られた 何か… 用があったのか?」
イシュラーンの問いに ザッツロードはうつむき言う
「そうでしたか… いえ、お話の途中でしたもので しかし、お帰りになられたのでしたら」
ザッツロードがそう言うと イシュラーンは頷き立ち去る 残されたザッツロードが残念そうな顔をしつつ その場を立ち去り言う 
「バーネット陛下にも お伝えしたかったけど… もしかしたら ご自身で気付かれるかもしれない バーネット陛下は ”意外”と頭が良さそうだからな…」
城を出た ザッツロードが思わず笑い出しそうになった時 ラーニャの声が届く
「ザッツー!」
ザッツロードが疑問して言う
「え?」
ザッツロードが見上げた空の上から ラーニャが降りて来る が 少々ザッツロードに近い ザッツロードが慌てて避ける
「わっ!?」
ザッツロードが後ろへ飛び退くと 先ほどまで居た場所に ラーニャが降りて言う
「おっと 危なかった~!やっぱりちょっと焦って移動魔法使うと 着地が難しいわよねー?」
ラーニャが1人 照れ隠しの笑いをすると ザッツロードが言う
「ラーニャ?今日は… どうかしたのかい?」
ラーニャは 自分を不思議そうに見下ろすザッツロードに 一瞬呆気に取られると 次の瞬間怒って言う
「…”どうかしたのかい?”じゃないでしょ!?何言ってるのよ!?」
ザッツロードが驚いて言う
「えっ?」
ザッツロードが詰め寄られ焦る ラーニャが更に言う
「”えっ?”て何?”えっ?”て!?…まさか、私を置いて行く気じゃなかったわよね!?」
ザッツロードが押されつつ焦って言う
「え!?いや、その…」
ラーニャが怒って言う
「冗談でしょ!?勇者の旅に 誰よりも早く同行して!?誰よりもずーーっと一緒に居たって言うのに!?その あたしを置いてく気!?」
ザッツロードが疑問しながら言う
「え!?え!?いや、…なんでラーニャが 僕が 結界の洞窟に行く予定だって 知ってるんだい?」
ザッツロードの言葉に ラーニャが目を丸くして怒って言う
「全員知ってるわよ!!世界中!!ぜーーーん い んっ!!」
ザッツロードが驚いて叫ぶ
「えぇえええー!?」
ラーニャがザッツロードの様子に 間を置いて疑問すると 顔をしかめて言う
「ザッツ…?…あなた知ってるわよね?ローレシアのイシュラーン陛下が 魔王の居場所として あの結界の洞窟を正式に指摘したって?」
ザッツロードが驚いて言う
「何だってっ!?」
ラーニャが呆気に取られて言う
「…え?なに?まさか… 本当に 知らなかったの?」
ザッツロードが沈黙する

ザッツロードが声を荒げて玉座の間を突き進む
「父上っ!!」
衛兵たちが焦りの色を見せる中 ザッツロードはイシュラーンの目前まで行って言う
「父上!どういう事ですかっ!?あの島に!魔王が封印されていると 世界中に断言したと言うのはっ!?」
ザッツロードが声を荒げると イシュラーンの横で話をしていたらしい キルビーグがザッツロードを叱る
「ザッツ!父上に向かって 何と言う物言いだっ!?」
ザッツロードが怒りのままに言う
「兄上は黙っていて下さい!私は勇者ザッツロードとして 父上に問うているのです!」
2人がいがみ合うと イシュラーンが手を上げて それを制して言う
「良い、キルビーグ ザッツロードへ連絡が遅れた事は 私の失態だ」
キルビーグが言葉を押し殺す
「…っ」
キルビーグが一歩下がると イシュラーンがザッツロードへ向き直り言う
「勇者ザッツロードよ ローレシア国は かの場所に魔王が封じられていると確証した 従って… これより アバロン国のウィザードの助力を受け 結界を解き、魔王を倒してまいれ」
イシュラーンの言葉に ザッツロードが驚き沈黙する イシュラーンが続ける
「アバロン国へは 先ほど私から連絡を入れた アバロン国国王ヴィクトール殿が ウィザードの派遣を了承して下された」
ザッツロードが驚いて言う
「ヴィクトール陛下がっ!?」
イシュラーンが言う
「うむ、従って私から お前の供を請け負っている魔術師の村の代表と 占い師の村の代表である あの2人の魔力者らへ アバロン国のウィザードの迎え、ならびに その他の仲間の招集を依頼した」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?私の仲間たちに父上が… ですか?!」
ザッツロードが呆気に取られると イシュラーンが言う
「ザッツロード 今は緊急を有する事態なのだ ソルベキアがロボット兵を使い あの島を制圧すると 私に言って来た ソルベキアはアバロンへの急襲に成功した事で 気が大きくなっておる しかし、ロボット兵などの力で魔王が倒せるとは 私は到底思えない ロボット兵の動力は悪魔力、お前も知っておろう?悪魔力を持つ魔王相手に 悪魔力で戦っても討ち取る事は出来ぬと」
ザッツロードが返す言葉を失う イシュラーンはそれを了承と受け取り 話を進める
「宝玉の手配も済ませておる アバロンは勿論、ソルベキア、スプローニ、シュレイザー、だが残念な事にベネテクト国とガルバディア国には連絡が付かなかった」
ザッツロードが驚いて言う
「え?」
イシュラーンは構わず続ける
「しかし、宝玉の力を解放出来るのは 聖魔力を使える者のみだ お前の仲間でその条件に当てはまるのは お前を含め4人 宝玉の数は足りておるだろう?」
ザッツロードが間を置いて言う
「…はい」
ザッツロードは自分の持つベネテクト国の宝玉を想いながらも頷く イシュラーンが頷き言う
「うむ、では かの2国の宝玉は諦め すぐに洞窟へ向かうのだ 良いな!?」
ザッツロードはイシュラーンへ視線を向け返事をする
「はい!父上!」

ザッツロードが城の外へ出ると ラーニャがザッツロードへ向き直り言う
「さ、ザッツ!急いで結界の洞窟へ行こう!?もう皆集まってるかも知れないし 私が移動魔法やるよ!?」
ラーニャがそう言って呪文の詠唱を始める ザッツロードがローレシア城を見て考えている その間に移動魔法の詠唱が終わり2人はローレシア国から洞窟のある島へ飛ぶ

【 結界の洞窟 】

島の浜辺へ辿り着いたザッツロードとラーニャ ラーニャが周囲を見渡しながら言う  
「あれ?皆まだ着てないのかな?」
ザッツロードが洞窟のある方を向いて言う
「洞窟の近くへ もう行ってるのかも知れない 僕らも行ってみよう?」
ラーニャが頷いて言う
「そうね」
ザッツロードとラーニャが森の中へ入って行く 歩きながらラーニャが言う
「バーネット陛下に連絡付かなかったって… バーネット陛下はローレシアとも仲が悪いの?」
ザッツロードがラーニャへ向いて言う
「いや、そんな事は無いと思う 父上がどう思っているかは分からないけど 連絡を無視する様な仲ではない筈だよ …それに」
ラーニャが疑問して言う
「それに?」
ザッツロードが言う
「うん、実はさっき バーネット陛下が ローレシアに来ていたんだ」
ラーニャが驚いて言う
「え!?それってもしかして、この魔王退治の件で?」
ザッツロードが言う
「いや、…多分違うと思う 父上は最初バーネット陛下の謁見を断っていたみたいだし …今回 突然に魔王退治が決定されて世界中に通達される その前に バーネット陛下はローレシアを訪れていたのだから」
ラーニャが言う
「ふーん…でも偶然来るにしては ちょっと偶然過ぎない?」
ザッツロードが間を置いて言う
「…うん、そうだね けど、バーネット陛下はこの島の事を 余りご存じなかったみたいだから まったく違う件で訪れていたという可能性も あるとは思うけど…」
ラーニャが言う
「うーん…まぁどっちにしても、宝玉は預かってた訳だから 良かったよね?」
ザッツロードはベネテクト国の宝玉を取り出して眺めて言う
「…出来れば もう一度お話を したかったな…」
ラーニャがザッツロードを見上げ 静かに苦笑する

ザッツロードとラーニャが結界の洞窟の前へ辿り着くと そこには既に ヘクター、プログラマー、ウィザード、ロキ、ヴェルアロンスライツァーが待っている ザッツロードが言う
「皆!ヘクターも!」
ヘクターが笑んで言う
「よう!待ってたぜ!」
ザッツロードがヘクターの前に立つ ヘクターの隣にウィザードが居る ザッツロードは初めて見るウィザードの姿に言葉を失う ヘクターが言う
「ザッツ、こいつがガルバディアのウィザードだ でもって 俺ん家の居候でもある 2人目のデスだ!」
ザッツロードが疑問して言う
「え?居候?2人目!?」
ザッツロードが意味を理解出来ないで居ると プログラマーが言う
「彼はガルバディアの民である為、名前は私と同じで デスと呼んでいる そして、私もそっちのデスも 2人とも現在ヘクターの家に… 監禁されている」
ヘクターが衝撃を受け 怒って言う
「監禁じゃなくて 居候だろうが!」
ヘクターが怒りの視線をプログラマーへ向ける プログラマーがプイッと顔を背ける ザッツロードが呆気に取られてから苦笑し 気を取り直して ウィザードへ向き直り言う
「僕は勇者の末裔ザッツロード6世と申します デス、今日は宜しくお願いします」
ザッツロードが言いながら握手を求める ウィザードはザッツロードの顔を見てから 間を置いて握手をして言う
「ウィザードのデスだ 結界の解除… やれるだけやってみる」
ザッツロードが笑んで言う
「はい、ありがとうございます」
ザッツロードが ヘクターを見て言う
「ヘクター、まさか来てもらえるとは 思わなかったよ」
ヘクターは意外そうな顔をして問う
「あ?何でだよ?魔王と戦うんだろ?来るに決まってんじゃねーか!?」
ヘクターが言いながら右手のパンチを左手で受けて見せる 隣に居るプログラマーが言う
「本当は来たくなかった筈だ この数日で子供が生まれる予定だからな?」
ヘクターが焦って言う
「あ!おい!デス!」
プログラマーがプイッとそっぽを向く ザッツロードが心配そうな顔でヘクターへ言う
「そんな時に… 本当に良かったのかい?ヘクター」
ヘクターが言う
「あたりめーだ!さっさと終らせて、アバロンへ帰れば良いだけの話じゃねーか!?」
ザッツロードが苦笑して頷き言う
「うん、そうだね」
ザッツロードがロキとヴェルアロンスライツァーの元へ行って言う
「ロキ、ヴェルも 来てくれてありがとう」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「魔王との決戦、こちらこそ光栄だ」
ロキが言う
「…相手が魔王なら、俺も興味がある」
ザッツロードが頷くと 周囲を見渡してからレーミヤへ言う
「あれ?レーミヤ?ミラは…?」
ザッツロードの言葉にヴェルアロンスライツァーが答える
「彼女は確認したい事があり 己の村へ一度戻るとの事だ」
ザッツロードが思わず疑問する
「え!?」
ロキが続けて言う
「…なるべく早く合流すると言っていた 自分の事は気にしないでくれと 伝えて欲しいとも」
ザッツロードが呆気に取られつつ 改めて言う
「そっか… それじゃ、先に出発しよう …あっ そうだ その前に…」
ザッツロードが声を上げ 宝玉を取り出して言う
「ここで渡しておくよ ラーニャ、レーミヤ」
2人が宝玉を受け取り ラーニャが言う
「この魔力で魔王をやっつけるのね!」
レーミヤが宝玉を握り 力強く言う
「変わらず凄い聖魔力ね… きっといつもの 何十倍もの魔法が使えるわ」
ザッツロードが頷いて言う 
「ミラには後で渡すとして もう1つ… デス?君はどうだろう?」
ザッツロードが宝玉をウィザードへ向ける ウィザードが衝撃を受け顔を背けて言う
「…聖魔力は 私には毒だ」
ザッツロードが慌てて宝玉を遠ざけ詫びる
「あっ ご、ごめん」
ヘクターが横で笑って言う
「わざとか?ザッツ?」
ザッツロードが言う
「そんなっ まさかっ!本当に ごめん…」
ザッツロードが慌てると ヘクターが笑って言う
「冗~談だって、気にすんなよ?」
ザッツロードがウィザードへ向く ウィザードが言う
「私は気にしていない ただ近づけられるのが嫌いなだけだ それを持つお前が近づく事も 嫌いだ」
ザッツロードが焦って言う
「あ… そ、そうだね?はは…」
ザッツロードが苦笑を漏らすと 2つの宝玉をしまい 皆へ言う
「よし、行こう!」
ザッツロードの言葉に皆が頷く

洞窟を進み 結界の前まで来たザッツロードと仲間たち ヘクターが結界を見上げながら言う 
「へぇ~、こいつが結界か?…デス、出来そうか?」
ウィザードがヘクターの隣で結界を見上げながら先行して言う
「分からない だが、やってみる…」
ヘクターが笑んで言う
「おう、頑張れよ!」
ヘクターに後押しされ ウィザードが結界に近づく 片手づつ結界へ手を向ける 皆が見守る中ウィザードは体内に蓄積された魔力を両手に集中させ 結界へ向け放つ 皆が一瞬目を細める ウィザードが魔力の放出を続ける 皆の目が慣れそのまま様子を見守る 結界が揺れ始めやがて強い振動を始める ザッツロードが見つめていると その脳裏に声が響く
『来るな… 来てはいけない…っ』
ザッツロードが疑問の声を上げる
「え!?」
ラーニャがザッツロードの声に気付いて言う
「ん?どうしたの?ザッツ」
ザッツロードが言う
「今、声が…」
ザッツロードが周囲を見る ラーニャが疑問して言う
「声?」
ラーニャがザッツロードを真似て周囲を確認する レーミヤが2人の様子に気付くと ザッツロードの視線を追う ラーニャが言う
「私たち以外居ないよ?空耳?」
ザッツロードが言う
「…あの声は 以前のと同じ」
再び声が聞こえる
『来てはいけない…っ 立ち去るんだ…っ!』
ザッツロードが結界へ目を向ける 結界はウィザードの力に押され徐々に崩れ始めている ザッツロードがウィザードを見る すぐ近くのヘクターがよし!と言っている様子 ザッツロードが結界へ近づく 声が鮮明になる
『ダメだっ …結界を壊してはいけないっ!』
ザッツロードが思わず呼ぶ
「デス…ッ」
ウィザードが言う
「…出来そうだ」
ザッツロードが言う
「あの…」
ザッツロードが迷いながら手を向ける ウィザードは結界へ魔力を送り続ける ザッツロードが再び結界を見上げる 結界には無数のひびが入り崩壊は間近だと分かる ザッツロードが一歩下がり言う
「もう… 後戻りは出来ない」
ザッツロードが言ったのと同時に 結界が音を立てて崩壊する 後ろでは仲間たちが崩壊を歓迎する ザッツロードだけがその表情を曇らせる 消えた結界の奥に黒い闇 その闇がゆっくりと動く 闇は真っ黒い巨大なドラゴン 赤い瞳が闇に光ると ヘクターが叫ぶ
「あのドラゴンが魔王か!?」
ヘクターの言葉に皆が武器を手に身構える ザッツロードと武器を持たないウィザードだけが武器を手にせず ドラゴンを見る ドラゴンがその口をゆっくり開き よだれの滴る口が開かれると 次の瞬間猛烈な炎が放たれる ヘクターが叫びつつザッツロードを突き飛ばす 
「あぶねぇ!!」
ウィザードは自分の身をバリアで防ぐ ヘクターが瞬時にウィザードの影に隠れる ザッツロードが地面に身を打つ ラーニャとレーミヤが駆け寄って ラーニャが言う
「何やってるのよ!ザッツ!」
レーミヤが言う
「どうしたの!?しっかり!」
ザッツロードが2人に心配されながら 立ち上がると言う
「あれが… 魔王?」
ザッツロードの目に 仲間たちがドラゴン目掛け駆け出す姿が映る ヴェルアロンスライツァーとヘクターが剣を振りかざし ロキが銃を放ち ヴェルアロンスライツァーとヘクターがドラゴンへ振るう ロキの弾丸が 口を開いたドラゴンの前で止まる ロキがその異変に気付くと同時に ヴェルアロンスライツァーとヘクターが それぞれの剣をドラゴンの身に振り下ろす しかし2人の剣も ロキの弾丸と同じ場所で止まり ドラゴンの目が剣士の2人に向く ロキが叫ぶ
「ヴェル!ヘクター!」
ドラゴンの尾が2人を払い飛ばす 2人が悲鳴を上げる
「うっ!」「ぐあ!」
ヴェルアロンスライツァーとヘクターが側面の壁に身を打ち付ける ロキがドラゴンへ発砲するが目を向けたドラゴンの前で全弾が止まる ロキが表情を顰めて言う
「…クソッ」
ドラゴンがロキへ炎を放つ ロキはそれを横へ飛んで回避する ラーニャとレーミヤが魔法詠唱を終わらせ ラーニャが叫ぶ
「レーミヤ!」
レーミヤが了解の返事をする
「ええ!」
2人が魔法を同時に放つ オレンジの炎が2人から放たれドラゴンへ向かう ドラゴンが口を開き黒い炎を放つ オレンジと黒の炎がぶつかり相殺する 再びドラゴンが炎を放つ 魔法使いの2人は詠唱が間に合わずギリギリ避難する

ヘクターが後ろを見ないまま声を掛けつつ走る
「デス!」
プログラマーが視線を向けないまま言う
「行け!」
ヘクターがドラゴンへ向かって走り 何も無い空間に高く飛び上がる 蹴り上げた場所の空間には数字の羅列が垣間見える 次々に空間を登り ドラゴンの頭部まで辿り着き大剣を振り下ろしつつ叫ぶ
「うおぉおおお!!」
大きく振りかぶり ヘクターがドラゴンへ剣を振り下ろす ヘクターの大剣を無数の数字の羅列が覆う ドラゴンが口を開き炎を溜め放つ ウィザードがヘクターの横に現れヘクターの前にバリアを張りドラゴンの炎を防ぐ ヘクターの大剣がドラゴンの手前にある無色のバリアを切り裂き そのままドラゴンの口へ届く 悲鳴を上げるドラゴン ヘクターが地面へ降りると その両サイドをヴェルアロンスライツァーとロキが走り抜け ドラゴンへ攻撃をする ロキの弾丸がドラゴンの手前でそのスピードが遅まる その弾丸をヴェルアロンスライツァーが剣で斬り付けると 押し込まれた弾丸がドラゴンのバリアを破壊し 続いてヴェルアロンスライツァーの剣がドラゴンの身を斬る 再び上がるドラゴンの悲鳴 ヘクターとヴェルアロンスライツァーが声を合わせる
「「行ける!!」」
それを肯定し 双方の相棒が自分の相棒の後ろに付く ヘクターとヴェルアロンスライツァーが剣を構える ドラゴンが炎を吐き付ける ウィザードが剣士たちの間に降り ドラゴンの炎をバリアで消し去る ヘクターが隣のヴェルアロンスライツァーへ視線を向け言う
「遅れるなよ!?ヴェル!」
ヴェルアロンスライツァーが微笑し言う
「後ろの奴へ警告してくれ」
ロキが言う
「…余計なお世話だ」
ヘクターが軽く後ろへ顔をむけ 自分の後ろに居るであろうプログラマーへ声を掛ける
「行くぞ!?」
プログラマーが視線を向けないままモバイルPCを操作しつつ言う
「好きに動け」
ヘクターが口角を上げ ウィザードへ呼び掛ける
「デス!」
ウィザードが言う
「結界の破壊に魔力を消費したが 援護程度なら可能だ」
呼ばれたウィザードが体内の魔力を集結させる ヘクターが頷き 叫ぶ
「おっしゃあ!いっくぜー!野郎どもー!」
ヘクターが走り出しヴェルアロンスライツァーとロキが続く ザッツロードの両サイドをヘクターとヴェルアロンスライツァー、ロキが走り抜ける ザッツロードが俯き両手を握り締める
「分からない… これが魔王?」
ザッツロードの頭の中に声が響く
『…来てはいけない…!立ち去れ…!』
ザッツロードが顔を上げて言う
「…違うっ」
ザッツロードがドラゴンを見る 攻撃の方法を見出したヘクターたちが次々にドラゴンへ攻撃を行っている ドラゴンが悲鳴を上げながら炎を放つが 炎は全てウィザードに防がれる ドラゴンが暴れ始める 洞窟が揺れる 天井の岩盤が落ちる 皆が回避する プログラマーが上を見上げると その自分を目掛けて岩盤が落下する 岩盤が地面に落ちる 巻き上がる砂埃 砂埃から飛び出すヘクター ヘクターの肩にプログラマーが担がれている ヘクターが言う
「あぶねーあぶねー」
プログラマーがのんきに言う
「遅いぞヘクター」
ヘクターが衝撃を受け怒って叫ぶ
「自分で避けろっての!」
岩盤の落下が収まる 皆が再び武器を構える ザッツロードが皆を振り返り言う
「みんな!戦ってはダメだ!!」
ヘクターが驚いて言う
「あぁ!?」
ヘクターの声が響く 他の者が驚く ザッツロードが言う
「戦ってはいけない!彼は魔王じゃない!!」
ヘクターが言う
「んなっ 事言われたって… うおっ!」
言い掛けたヘクターの元へドラゴンの尾が打ち付けられ ヘクターはそれを避ける ザッツロードへ向けられていた皆の視線がドラゴンへ向けられる ドラゴンが暴れながら向かって来る 皆が再び武器を構える ヴェルアロンスライツァーがザッツロードの横で ドラゴンへ視線と武器を向けたまま言う 
「ザッツ、それは事実か!?」
ザッツロードがヴェルアロンスライツァーの横顔へ言う
「わ…分から ない でもっ」
2人目掛けドラゴンの手が振るわれる ヴェルアロンスライツァーが回避するザッツロードが遅れて回避する ザッツロードの腕にドラゴンの爪が触れ ザッツロードが苦痛に顔を歪めて言う
「うっ!!」
地面に膝を着くザッツロード その横にロキが立ち言う
「…たとえ魔王ではなくとも 今は戦わねば やられるぞ」
言いながら弾倉を変えたロキ ザッツロードが言う
「ロキっ…でもっ!」
ザッツロードが言い掛けるがロキは走り出し ヴェルアロンスライツァーの前方へ向け銃を発砲する ヴェルアロンスライツァーはロキの銃弾の助力と共にドラゴンを斬り付ける ザッツロードが声を上げる
「ロキ!ヴェル!…っ」
ドラゴンに受けた傷が痛み顔を歪める ザッツロードの怪我に回復魔法が掛けられる ザッツロードが驚き見上げる レーミヤが回復魔法を掛けながら言う
「ザッツ、あのドラゴンが魔王では無いとしても ドラゴンは私たちを敵と見ているわ それに」
レーミヤの横にミラが現れ言う
「凄い悪魔力ね」
ザッツロードが驚いて言う
「ミラ!」
ミラがザッツロードへ視線を向けて言う
「遅くなってごめんなさい あのドラゴンは魔王ではないって どうしてそう思うの?」
傷が回復すると共に立ち上がるザッツロードが レーミヤへ礼を言ってからミラへ言う
「ずっと声がしていたんだ、優しい声で 『来てはいけない、立ち去れ』 『結界を壊してはいけない』と」
ザッツロードたちの前で 詠唱を終えたラーニャが炎の魔法を放つ ラーニャの左手に握られた宝玉が激しく光り 放たれた炎の威力を数十倍に膨れさせる ドラゴンが炎を吐いてラーニャの魔法を防ごうとするが 宝玉の光りが強まると共にラーニャの放った炎が激しさを増しドラゴンに当たる ドラゴンが悲鳴を上げる それを見てラーニャが喜んで叫ぶ
「ちょっと!見た!?今の! やっぱり宝玉の魔力は凄いわ!!」
ザッツロードが言う
「ラーニャ、あのドラゴンは」
ザッツロードが言い掛けるが ラーニャが制して言う
「魔王じゃなくても!あの 悪魔力の塊みたいなドラゴンが 大陸に行ったらどうなると思ってるのよ?」
ザッツロードが言う
「そ、それは…」
ザッツロードが俯く ミラが言う
「たとえ警告を受けていたにしても もう遅いわ 結界は破壊してしまったし ドラゴンが現れてしまった ザッツ、今もその声はするの?」
ミラの言葉にザッツロードが顔を横に振る ミラが言う
「…決まりね」
ミラがドラゴンを見上げる 視線の先ではヘクターとヴェルアロンスライツァーが援護を受けつつ戦っている ミラと同じ様にそれを見たラーニャが気付いて言う
「…ねぇ?あのドラゴン …回復してる?」
ミラが驚いて言う
「え?」
ミラが改めて見る ヘクターたちに斬り付けられた傷がジュウジュウと音を立てながら塞がって行く レーミヤが声を上げる 
「ほんと、傷が塞がっていくわ!」
ザッツロードたちの近くに居たデスが言う
「周囲の悪魔力がドラゴンの傷を癒してしまう しかし、ラーニャが放った魔法で負わせた傷は再生していない 今、宝玉の聖魔力をヘクターへ与えるプログラムを作成している ヘクターとヴェルアロンスライツァー、ロキの体力が持ちそうに無い 意見がまとまったのなら お前たちも… さっさと加勢しろ!」
語尾を強めたところでプログラムミスをするデス 一瞬焦り すぐ元に戻る ラーニャが言う
「ザッツ!やろう!?」
レーミヤが言う
「もう引き下がれないわ!」
ミラが言う
「ずっと戦わず 仲間が戦うのを ただ眺めている気!?」
ラーニャ、レーミヤ、ミラがザッツロードへ詰め寄る ザッツロードが俯いていた顔を上げ言う
「分かった、もう後戻りは出来ない」
ザッツロードが宝玉をミラへ手渡す ミラは頷いて受け取る

宝玉を片手にラーニャとミラがドラゴンへ向いて ラーニャが言う
「ミラ!2人で力を合わせるのよっ!」
ミラが言う
「分かってるわっ」
ラーニャとミラが同時に詠唱を開始する レーミヤがザッツロードへ言う
「ザッツ!私は聖魔力をドラゴンの体に覆わせて なるべく悪魔力を吸収させ無い様にするわ、ザッツはヴェルとロキの攻撃に 聖魔力の支援をお願い」
ザッツロードが頷くとレーミヤがドラゴンへ向かう ザッツロードはもう1つの宝玉をプログラマーの横へ置く
「デス、ヘクターへ よろしく!」
デスが言う
「可能な限り急ぐ」

ザッツロードが魔力を集中させ ヴェルアロンスライツァーの剣へ放つ ヴェルアロンスライツァーの長剣が白く輝く 一瞬剣の変化に目を奪われるヴェルアロンスライツァー ザッツロードの声が後ろから聞こえる
「ヴェル!僕が 聖魔力を君の剣に送る!」
言葉を受け取りヴェルアロンスライツァーがそのままドラゴンを斬り付ける ドラゴンの悲鳴が今までよりも高くなる 体勢を立て直したヴェルアロンスライツァーがドラゴンへ向いたままザッツロードへ返事をする
「助かるっ」
ザッツロードの横に 銃と視線をドラゴンへ向けたままロキが立って言う
「…俺には送らないのか?」
ザッツロードが苦笑して言う
「君の放つ弾丸が見えるほど 僕の目は良くないんだよ…」
ロキが一瞬間を置いてから言う
「…俺は …あいつのサポートをやっている訳ではない あいつが勝手に 俺の力を盗んでいる …それだけだぞ?」
ザッツロードが呆気に取られながら返事をする
「え?…う、うん 分かった」
返事を聞いて戦いに戻って行くロキ ザッツロードが独り言を言う
「はは…最高のサポートをしてると 思うんだけどなぁ…?」
ザッツロードたちの攻撃が今までより格段に効力を増す ドラゴンがその動きを鈍らせる デスのプログラムが完成する デスが叫ぶ
「ヘクター!本気で行け!」
ヘクターが攻撃しながら言う
「俺は最初っから本気だーっ!」
今までより勢いを増すヘクター 皆が 改めて攻撃を行う やがてドラゴンが力尽きる 轟音と共にその身を地面へ打ち付ける 皆が表情を明るめ ミラとラーニャが叫ぶ
「…やった」「やったー!」
ミラとラーニャが手を取り合って跳ねながら喜ぶが すぐにハッとして離れる ヘクターがガッツポーズを取りながら後方のプログラマーのデスへ振り返る デスが微笑する ロキが言いながらヴェルアロンスライツァーの近くへ行く
「…終ったのか?」
ヴェルアロンスライツァーが答える
「恐らく…」
皆の後ろ プログラマーとの間に居たレーミヤがホッと胸を撫で下ろす ザッツロードが1人表情を堅くしてドラゴンの下へ向かう 苦しそうに開けたままの口から血を流しつつ荒い息をするドラゴン ザッツロードが近づくと視線を向ける ザッツロードはしばらくその目を見つめ 膝を付いてドラゴンの頬へ手を置き 静かに問う
「あなたが…僕に 語り掛けていたのですか?」
ドラゴンは荒い息を数回繰り返した後 呼吸を落ち着ける ザッツロードの頭に言葉が響く
『…げろ …逃げろ …早く…』
ザッツロードが言う
「え?」
言葉が響く
『… 早く…』
ドラゴンの目が閉じられる ザッツロードが異変に気付き 叫ぶ
「みんな!逃げるんだ!!早く!!」
ザッツロードの言葉に驚く仲間たち 遅れて周囲の異常に気付く ザッツロードがドラゴンから離れ逃げ出す 仲間たちも走り出す ヘクターが言う
「おいっ何が起きてんだ!?」
叫びながらヘクターがタイピングを続けるプログラマーを去り際に担ぎ上げる プログラマーはその瞬間に自分の横に置かれていた宝玉を手に取る ヘクターに担がれながらタイピングを続けるプログラマーが言う
「あのドラゴンから悪魔力が大量に流出している… 測定しきれないっ 」
洞窟を抜けたザッツロードたち 外へ出て洞窟を振り返る 黒い霧が洞窟から湧き上がる ミラが言う
「あれはっ!悪魔力!?このままでは!」
ラーニャが宝玉を片手に前へ出て言う
「防がなきゃ!!」
2人が宝玉へ力を送り 洞窟の出入り口へ放つ 同時に黒い霧となった悪魔力が 2人の作り出した聖魔力のバリアに阻まれ洞窟の出入り口で止まる レーミヤが言う
「持たないわ!」
レーミヤが宝玉に力を送り先の2人援護をする ザッツロードも遅れてそれに従う
「おい!デスっ お前も!」
ヘクターがプログラマーのデスを振り返る プログラマーのデスはタイピングを続けながら言う
「ただ闇雲に押さえても無駄だ 悪魔力の量は測りかねる 対してこちらは人の体力に限界がある 宝玉に蓄積されている聖魔力にも限りがある 双方の限界が… 無理だ 我々の持つ宝玉の聖魔力は 残り少ない」
ヘクターがプログラマーのデスへ掴み掛かる 
「なら どうする!?」
プログラマーのデスは変わらず続ける
「宝玉に蓄積された聖魔力の力を増幅させるプログラムを作っている 今、彼女らが用いている宝玉の魔力が途絶える前には間に合う …だが、間に合っても 残ったこの1つの宝玉の聖魔力だけでは 我々が逃げ出すまでに途絶えてしまう 完全な宝玉あったとしても… 恐らく十年程度だ」
ヘクターとデスの言葉を聞いて ヴェルアロンスライツァーが言う
「今回使用した宝玉は5つ どこかの国がもう1つ持っている筈だ」
ロキが続ける
「…しかし、それを使ったとしても たったの十年 前回の勇者の10分の1だな」
二人の言葉にヘクターがハッとして言う
「まさかっ100年前の勇者がした事ってコレかよ!?」
ロキとヴェルアロンスライツァーがヘクターの言葉を受け 驚き互いに顔を見合わせ ヴェルアロンスライツァーが言う
「断言はしかねる だが、それに近い事であった可能性はある」
ロキが言う
「…だとしたら、我々は無駄にその結界を破壊し 更に事態を悪化させた」
ヘクターが叫ぶ
「今はンな事言ってる場合じゃねーんだ!」
発端のヘクターが言って話を止めさせる 自分へ視線を向けた2人に続けて言う
「デスのプログラムが完成した頃には 良いも悪いもザッツたちが開放される、俺はデスに付き添うから お前らはザッツたちと一緒に そのどっかの宝玉を持って来るんだ!時間がねーぜ!…でもって!デス!」
ヘクターがウィザードを呼ぶ ウィザードがヘクターへ顔を向ける
「お前はこの事をヴィクトールに伝えてくれ 俺たちだけじゃ これ以上何んにも出来ねーって!」
ヘクターの言葉を聞き ウィザードのデスが言う
「ヴィクトールはアバロンの王だ 魔王に関する事ならばローレシアの王へ助言を求めるべきではないだろうか?」
ウィザードの言葉にヴェルアロンスライツァーとロキが頷き ヴェルアロンスライツァーが言う
「私もそう思う、今回の討伐宣言も 元を正せばローレシア国から発せられたものだ その責任はある筈」
ロキが続けて言う
「…そして ローレシア国は勇者の祖国だ、勇者としての責任もある」
ヘクターは顔を横に振って否定して言う
「駄目だ!ローレシアは当てにならねぇ!自国の失敗が他に漏れる事を恐れて 全部隠しちまうかもしれねーだろ!?その点 ヴィクトールなら大丈夫だ きっと全世界に通達して策を練ってくれる もちろんローレシアにも伝える筈だ!」
ヴェルアロンスライツァーが言いロキが頷く 
「確かに…」
話を聞いていたウィザードが頷いて言う
「では、私は先に… ヘクター、お前達はどうなる?」
移動魔法を使おうとしたウィザードが行動を止め ヘクターへ向き直る
「言っただろ!?俺はデスに付き添う」
ウィザードが言い掛ける
「それで、新しい宝玉を得た後 どうやってその宝玉の」
ミラの叫び声が響く
「ラーニャ!!」
全員の視線がラーニャに向けられる ラーニャが力尽き倒れる 残されたミラ、レーミヤ、ザッツロードへ負担が増す 急激な負担の増加にラーニャとさほど時間を空けずに魔法を放っていたミラが倒れる レーミヤとザッツロードが顔をしかめる ヘクターがデスへ呼び掛ける
「デス!」
デスが答える
「間に合う」
レーミヤが膝を折り ザッツロードが俯く 次の瞬間 プログラマーのデスの横に置かれていた宝玉の周囲に数字の羅列が纏わり宝玉が強く光る レーミヤとザッツロードが開放され 2人が地面に膝を着く ヴェルアロンスライツァーとロキが向かう 息を切らせるザッツロードの横に立つヴェルアロンスライツァーその後ろにロキ ザッツロードがヴェルアロンスライツァーを見上げて言う
「…はぁ…はぁ 聞こえて…はぁ …いたよ」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「そうか、行けそうか?」
ロキが続ける
「…行かぬ訳には」
ロキの言葉に ザッツロードが頷き整わない息のまま言う
「はぁ…はぁ…急が ないと…」
ザッツロードが立ち上がり 隣でレーミヤも立ち上がり言う
「ザッツ、力を貸して頂戴…私1人では 皆を連れて飛べないわ」
レーミヤの言葉にザッツロードが頷く 2人が移動魔法の詠唱を始める ヴェルアロンスライツァーとロキを含め 4人の周囲に移動魔法の魔力が纏わり付く ザッツロードの頭に声が響く 
『逃が さない…』
遅れてデスが叫ぶ
「別の悪魔力が!?…逃げろっ!!」
ヘクターがデスを抱えて走り出す ヴェルアロンスライツァーが地に倒れているラーニャを担ぎ ロキがミラを担ぎ 皆が一斉に逃げ出す後方で爆発が起きる 相棒を抱えている者は相棒を庇いながら地面に身を打ち付ける 遅れて走っていたザッツロードとレーミヤが吹き飛ばされ地面に滑り込む 再び後方から悪魔力の攻撃が襲い掛かる ウィザードがバリアを張り その攻撃から皆を守る レーミヤが言う
「移動魔法が出来ないっ 強い悪魔力が移動魔法を 遮断してしまうんだわ!」
ザッツロードも移動魔法の詠唱を試すが 聖魔力が薄れる ヘクターが声を荒げる
「クソッ!どうしたら!?」
ヘクターの後ろで ウィザードのデスが言う
「あれが2つめの悪魔力の正体か!?」
その声に 皆がウィザードの視線を追う ザッツロードが言う
「さっきのドラゴン!?」
ヘクターが顔を顰めて言う
「あの野郎!生きてやがったか!!」
ヘクターが剣を構え ヴェルアロンスライツァー、ロキが続く 意識を失っていたラーニャとミラが目を覚まし辺りを見渡しラーニャが叫ぶ
「ちょ、ちょっと!なにっ!?どうなってるの!?」
ミラが言う
「…まるで地獄絵図ね」
周囲を燃やす炎を見て悲鳴を上げるラーニャ ミラも言うと共に言葉を失う 彼女達の声を聞きヴェルアロンスライツァーが言う
「移動魔法も使えず、宝玉の聖魔力も悪魔力を抑える事に使われ 我らの力には出来ない」
ロキが言う
「…そして、その宝玉の聖魔力も残り僅か 正に万事休すだ」
ロキの言葉にラーニャが呆れて言う
「もお~!最悪じゃなーい!!」
この場においても変わらないラーニャの普段の物言いに ヴェルアロンスライツァーとロキが笑って ヴェルアロンスライツァーが言う
「その声を聞けて良かった」
ラーニャが疑問する
「え?」
ロキが言う
「…悪い気分のままで居るよりは… うるさいぐらいの方がましだな」
ラーニャが怒って言う
「うるさいって何よぉ!?」
再び笑うヴェルアロンスライツァーとロキ 武器を構え直してヴェルアロンスライツァーが言う
「期待はしないが、何か良い策を思い付いてくれる事を 期待する」
ロキが言う
「…それを矛盾と言う」
2人が軽く笑ってから ドラゴンへ向かって駆け出して行く ヘクターがザッツロードを振り返り苦笑と共に言う
「ま、何とかしてくれよな?」
怒るラーニャが言う
「ちょっと!なんで こんな時に3人とも笑ってるのぉ!?」
ミラが呆れて言って そっぽを向く
「あなたがTPOをわきまえないからよ」
ラーニャがミラへ向いて怒る
「はぁ!?私が一番焦ってるじゃない!?この状況に、一番 !合ってるでしょ?!」
レーミヤが苦笑する ザッツロードが呆気に取られ笑う 笑いながらザッツロードがふと思い付く
「…あ、そうだ…」
連絡機を取り出すザッツロード それを見たラーニャが言う
「ザッツ?…もぉ!ここからじゃソルベキア所か一番近いデネシアにだって届かないわよ!」
ザッツロードが言う
「うん、大陸には届かないけど… この島は 元々彼らが見つけたと言っていた まさか魔王の島だとは思ってもいなかったって …だったら 彼ら海賊は もしかしたら?」
通信機の作り出す映像に 1人の人物 カイザが映る
『よぉ~ 勇者様~生きてたかー!』
ラーニャとミラが声を合わせる 
「「カイザ!!」」
ザッツロードが通信機に向かって言う
「カイザ!君が居てくれて助かったよ!」
カイザがにやりと笑って言う
『そうだろ~?まぁ、このイカレタ海上を行けるのは この海賊カイザ様以外 だ れ も 居ないだろーなーぁ? あーははははは!』
通信機の中で大笑いするカイザ ザッツロードも微笑みながら言う
「カイザ!その『海賊カイザ様』に頼みがあるんだ!今すぐ結界の洞窟へ 僕達を助けに来て欲しい!」
ザッツロードに続き ラーニャとミラが続けて通信機に頼み込む 
「お願い!」
「あなただけが頼りよ!」
カイザが向こうから通信機を覗き込み にやりと笑う
『だはあーははははっ 良いね~ 勇者様と仲間の可愛い子ちゃんに 「お願い!あなただけが頼りよ!」だってよー!』
遠ざかったカイザの映像にザッツロードが詰め寄る 
「カイザ!来てくれるのかい!?」
カイザは再び通信機へ視線を戻し言う
『う~ん…実は今~ お前達のひじょーに近くに居る』
ラーニャとミラが目を輝かせてカイザの名を呼ぶ 
「「カイザァ!!」」
しかしカイザはう~んと悩む姿で言う
『でもなぁ?その辺すげー時化ってんだよなぁ… 危ないから止めちゃおっかな?』
ラーニャが怒る 続いてミラも怒る
「え?!」「ちょっと!?」
カイザがにやりと笑って言う
『1人たりねぇ~だろ?ほらっ!…お前たちの中に居る 一番の美人さんがよ?』
全員の視線がレーミヤへ注がれる
「え?わ、私?」
驚いて自分を指差すレーミヤにラーニャとミラが言う
「レーミヤ!今は緊急事態だから!一生に一度の不幸だと思って!」
「レーミヤ、今は我慢よ 世界を救う為に 小汚い海賊相手でも笑顔で!」
『おーい ちょっとぉ… 聞こえてるぞー?』
ラーニャとミラに後押しされ レーミヤが通信機の前に立つ 通信の映像の中のカイザが画面に近づく レーミヤが恥ずかしそうに言う
「え…えっと お願いします」
カイザが表情を落として言う
『…堅ぇ…もっと カワユく!』
レーミヤが言う
「え!?…え?」
レーミヤがラーニャとミラへ視線で助けを求める 二人が身振り手振りでアドバイスを送る レーミヤが顔を赤らめ両手を頬に当てながら画面を再び見て 意を決して言う
「お…お願いっカイザ…!」
カイザが画面に近づきにやける
『おおおーーー!!!』
レーミヤが恥ずかしさの余りうずくまる 
「いやぁっ!」
ザッツロードが画面に戻って言おうとする
「カイザ!」
しかし画面がチラ付き音声が途絶え不鮮明になる その不鮮明な画面の中でカイザが誰かに殴られている ザッツロードが必死に声を掛けるが 
「カイザ!?カイザ!聞こえるかい!?」
音声は消えたままで不鮮明な画面の中でカイザが殴られた頭を擦っている 振り返ったカイザが通信機に近づこうとした所で通信が途絶える
「カイザ!!」
ザッツロードが叫ぶが通信機はもう映像を映さない ザッツロードが仲間を振り返りながら言う
「来て…くれるよね?」
仲間を振り返ったザッツロード その場所では レーミヤが恥ずかしがり ラーニャがにやけ ミラが呆れている

ヘクター、ヴェルアロンスライツァー、ロキが剣を構える中へ ザッツロードが剣を手に加わる ヘクターがザッツロードへ視線を向け言う
「よう!なんか良い案は出たか?」
視線をドラゴンへ向けザッツロードが言う
「カイザが!…たぶん 助けに来てくれる」
ヘクターが衝撃を受け思わず剣を下ろし ザッツロードへ向いて問う 
「あぁ?なんだよ その『たぶん』って!?」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「いやぁ… 最後の確認が出来ないまま通信が途絶えてしまって… でも、効力はあったと思うから」
ヘクターが疑問して言う
「『効力』ぅ?」
ザッツロードの苦笑が引きつる ヴェルアロンスライツァーが話を聞いて視線を変えず言う
「カイザが?あの海賊が 我らを助けに参ると?」
ザッツロードが視線を変えず答える
「うん、海賊は海を知り尽くしているって言うから 何とか来てくれると思う」
ザッツロードの答えに ロキが問う
「…とは言え奴ら海賊は 自分らの身の安全を 第一に考えるとも言っていたが?」
ザッツロードの脳裏にレーミヤとカイザの通信時の映像が流れる 再び顔を引きつらせて言う
「た、たぶん 大丈夫だと思う … は、はは…」
沈黙が流れる ヘクターが剣を構え直して言う
「まぁしょうがねぇ!今はそのカイザって奴を当てにして 踏ん張るぜ!」
皆が頷く

ロキが銃を放ち ヴェルアロンスライツァーがその助力を使い斬り付ける ヘクターが攻撃するとその後へザッツロードが剣を突き刺す 4人の攻撃を受けてもドラゴンは悲鳴も上げる事無く襲い掛かる ヘクターが言う
「なんだよコイツ!さっきよりパワーアップしてんのか!?」
ヴェルアロンスライツァーがドラゴンへ視線を向けたまま言う
「パワーが上がっていると言うより こちらの攻撃に反応が無い」
ロキが続いて言う
「…まるで痛みを感じていない様だ」
ザッツロードが目を細めて言う
「あのドラゴン… 生命力が感じられない 悪魔力に操られているだけなのかもしれない」
ヘクターが言う
「なんてこった!屍相手かよ!?」
ドラゴンが皆へ向け尾を払う 全員が回避する ドラゴンが続けて口を開け炎を吐き出す ウィザードがバリアで防ぐ ドラゴンがウィザードへ目標を定め襲い掛かる ウィザードが対物バリアを張って防ぐ ドラゴンが対物バリアごとウィザードへの攻撃を続ける ウィザードが表情を歪ませ言う
「…クッ!」
ウィザードがバリアを解除し上空へ回避する ドラゴンがウィザードを捕まえようと手を伸ばす それをかわすウィザード 続いて襲い掛かってきたドラゴンの炎をバリアで防いだ所へドラゴンの尾が降りかかる ウィザードがハッとする ヘクターが声を上げる
「デスッ!」
ヘクターが声を上げるのと同時にウィザードがドラゴンの尾に弾かれ 地面に叩き付けられる ヘクターが驚き叫ぶ
「デスー!!」
ヘクターがウィザードの下へ駆け付ける ヘクターを目掛けドラゴンの攻撃が降りかかる ヴェルアロンスライツァーとロキが攻撃を仕掛けドラゴンの注意を逸らす ヘクターがウィザードを抱え呼びかける
「デス!!おいっ!大丈夫か!?デス!デス!!」
ヘクターがウィザードを抱き起こす ヘクターに遅れ来たザッツロードが回復魔法を使う そこへラーニャとミラが走って来て ラーニャが叫ぶ
「ヘクター!みんなー!」
ミラが続けて言う
「カイザが来たわ!!みんな!急いで!!」
ラーニャとミラが叫ぶ ヴェルアロンスライツァーとロキが振り返り 互いに頷き ドラゴンの攻撃を払い除けて退避する ザッツロードがヘクターへ言う
「ヘクター!船へ!」
ヘクターが意識の無いウィザードを抱き上げ 悔しそうに言う
「クソッ!逃げるっきゃねーのかよ!!」
ウィザードを抱いたヘクターとザッツロードが走る ヘクターが走りながらプログラマーを呼ぶ
「おいデス!逃げるぞ!もう良い!走れー!!」
プログラマーが舌打ちをすると共に 仕方なく作業を止め ヘクターに続き走る

全員が浜辺へ辿り着く カイザの海賊船がすぐ近くまで来ている ザッツロードとヴェルアロンスライツァー、ロキ、ヘクターが後ろを振り返る プログラマーのデスがプログラムを再開させる しかし宝玉の光りが弱まる デスが言う
「聖魔力が …尽きた」
宝玉の光りが完全に消える ドラゴンと共に悪魔力の霧がザッツロードたちの前に広がる 船の方を向いていたラーニャがその黒い影に気付いて振り返り悲鳴を上げる
「きゃぁああ!」
ミラが言う
「間に合わないわ」
皆がドラゴンを見上げる ウィザードを抱いたままヘクターが言う
「ちくしょうっ!もう少しだってのに!!」
ヘクターがザッツロードへウィザードを押し付けながら言う
「ザッツ!俺が奴を引き付ける!その間にコイツを連れて逃げてくれ!」
ザッツロードが驚いて顔を横に振る
「そんな事は出来ないよ!残るなら 僕が!」
ヘクターが強く言う
「お前じゃ力不足だろ!!」
ザッツロードが言う
「うっ…け、けど!!」
ザッツロードが唇を噛み締めながら俯く ヘクターが更に近づき言う
「頼む!コイツとデスを守ってくれ!」
ザッツロードが ハッとして言う
「ヘクター…ッ」
ザッツロードが迷いながらも ウィザードを受け取ろうとする そこへデスが言う
「ヘクター、お前が残るのなら 当然、私も残る」
ヘクターが驚いてデスへ振り返る 一瞬、間を置いてヘクターが叫ぶ
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!残ったらお前まで死んじまうじゃねーか!!」
ヘクターの言葉を聞いて ザッツロードの手が止まる
「やっぱり 僕も残る たとえ力になれなくても 僕には 残らなければいけない 責任がある」
ヘクターがザッツロードへ向いて声を上げる
「あぁ!?お前まで!馬鹿言ってんじゃっ」
ヘクターの言葉を制して ヘクターへ強い眼差しを向けたザッツロードが言う 
「君たちを置いては!絶対に行けないよ!」
言葉を失うヘクター デスが言う
「残ろうが残るまいが 大した差は無いだろう 宝玉の力が無い今 たとえ船で島を脱出しようとも 奴が追ってくれば 大陸まで逃げ切る事すら難しい」
プログラマーのデスの言葉を聞き ヘクターが言う
「…へっ どっちにしても逃げ切れねぇなら …戦うか?」
ヘクターの言葉に ザッツロードが微笑み言う
「うん、今僕達に出来る事をやろう 最後まで…」
話を聞いていた仲間たち ラーニャが言う
「もぉお!ガルバディアの宝玉さえ持って来てたら!!」
ミラが言う
「悔やんでも仕方ないわ」
横に立ったミラが言う その横に立ったヴェルアロンスライツァーとロキが続ける
「たとえあったとしても 稼げる時間は十年余り」
「…十年か…長いのか短いのか…」
プログラマーのデスが言う
「たとえ数日でも 時間があれば出来る事はあった筈だ」
デスの言葉を聞いたラーニャが驚いて言う
「えぇ!?デスがそーゆう事言う様になったなんて」
ミラが続ける
「月日の流れって凄いわね」
ヘクターが一瞬哀しそうな顔をする それに気付いたレーミヤが言う
「ヘクター…」
レーミヤの声にヘクターがハッとして顔を上げ 表情を明るくして言う
「…んっ!?なんだ?」
わざと明るく振舞って居る事が分かり レーミヤは悲しそうに言う
「…あなたが居てくれて とても助かったけど …ごめんなさい」
誤魔化すヘクター
「…え?何の事だよ?」
デスが言う
「こうなると分かっていれば アバロンに残る事が出来た」
ラーニャが気付いて言う
「あ!そっか!タニアさんと赤ちゃんが!」
思わず言ったラーニャがハッとして口を押さえる ミラがラーニャに言う 
「…ばかっ!」
間を置いてからヘクターが笑う
「ははっ!しょうがねーって!その為にも最後まで出来る事やらねーとだろ!」
船が近づき甲板から叫ぶカイザの声が聞こえる
「おーい!!これ以上行けねぇー!泳いで来やがれー!」
カイザの声を聞いたラーニャが言う
「駄目!駄目だよ!!死んで良い筈なんか無い!ヘクター!!タニアさんと赤ちゃんに会いたいでしょ!!?皆だってっ 死にたくなんかないでしょ!?」
ラーニャの言葉にヘクターが叫ぶ
「…それはそうだ …けど しかたねーだろっ!?宝玉がねぇーんじゃ 打つ手なしなんだよ!!」
ヘクター声に怯むラーニャ 船から声が届く
「その宝玉のお届けだー!受け取りやがれぇーー!!」
皆が驚いて船へ視線を向ける その船からヘクターを目掛けて宝玉が投げ飛ばされてくる 直球猛スピードで飛ばされてきた宝玉をヘクターが体を張って受け止める 何とか止めた手の中にある宝玉を見たヘクターが目を丸くする
「なっ!?な…んで!?」
驚き固まるヘクター そのヘクターの手から宝玉が奪われる 驚いて相手を振り返るヘクター デスが宝玉を片手に言う
「早く避難しろ」
言うと共にプログラマーのデスは地面に座り宝玉を横に置いてタイピングを開始する 宝玉に数字の羅列が纏わり宝玉が激しく光る 悪魔力の霧と悪魔力に操られているドラゴンが仰け反る その光りに目を細めながらヘクターが言う
「デスッ!?お前 まさかこれに気付いて!?」
デスが言う
「強い聖魔力の塊が近づいているのは分かっていた しかし 間に合うのか それが宝玉であるのかまでは 確信が無かった …だが、プログラムだけは作っておいた」
皆が驚く ザッツロードが言う
「こんな奇跡を信じてプログラムを作っておいてくれるなんて…デス、君には驚かされてばかりだよ」
ザッツロードの言葉にプログラマーのデスが視線を変えずに言う
「驚く事は無い、私は常に 120%の可能性を考えて行動している」
呆気に取られるザッツロード 間を置いてザッツロードと魔法使い達が笑う 船からカイザが叫ぶ
「おおーーい!早くしろおぉお!こっちが持たねぇー!」
ザッツロードがカイザを振り向き 皆へ視線を戻して言う
「さあ みんな!急ごう!」
皆が頷き船を目指して走り始める ヘクターがプログラマーのデスを呼ぶ
「デス!いくぞ!」
ヘクターの声に プログラマーのデスが頷き手を止め モバイルPCを地面に置く 全員が海に飛び込み船から降ろされている網に捕まる それを確認したカイザが船員へ向け声を上げる
「取り舵いっぱーい!!全速前進!!いそげぇーー!!」
船が向きを変え動き始める 皆が振り返って島を見る 強い光りを放つ宝玉に黒い霧が抑えられている その中をドラゴンの影がもがきザッツロードたちへ向かって来る
「あいつ!まさか島から出られるのか!?」
ヘクターが声を上げる ヘクターの隣で網にしがみ付いているプログラマーのデスが答える
「結界がある限り あの魔王が外へ出る事はない」
ザッツロードが船の上へ顔を向けて叫ぶ
「カイザ!急いでくれ!!」
カイザが言う
「やってるよ!俺たちだってこんな所には 一秒だって居たくねぇー!」
船の速度が上がる 網にしがみ付いているのが苦しくなる
「お前ら!自力で上がって来い 今はそっちに動力使ってる余裕がねーんだ!」
カイザの声を受け ザッツロードたちが網を登り始める 魔力使いたちに続きヴェルアロンスライツァー、ロキが登り ザッツロードがヘクターに手を貸して言う
「ヘクター、大丈夫かい!?」
ザッツロードの言葉にウィザードを抱えているヘクターが上を見上げて言う
「おうっ!何とかなる デス!引っ付いてるか!?」
「なんとか な…」
ヘクターが自分の後ろに続くプログラマーを見下ろす プログラマーが見上げて返事をする ヘクターが頷いて網を登る 皆が網を上り終え船の後方から島へ目を向ける 浜辺まで来たドラゴンが船を目掛けて炎を吐き出す 黒い炎が悪魔力を纏い船の後方へ届く カイザが叫ぶ
「ああーー!!俺の船に何しやがる!!」
カイザが声を上げる 詠唱を終えてザッツロードと魔法使い達がいっせいにマジックバリアを張る 船にとどき掛けていたドラゴンの黒い炎が弾かれる ヘクターの声が上がる 
「よっしゃぁあ!」
炎を弾かれたドラゴンがその手を振りかざす ヘクターが叫ぶ
「やべぇえ!みんな伏せろ!!」
ヘクターの声にマジックバリアを張っていたザッツロードと魔法使い達の行動が遅れる ラーニャが悲鳴を上げる
「うそっ!?」
ラーニャが声を上げる中 ラーニャをヴェルアロンスライツァーが庇い ミラをロキが庇い レーミヤをカイザが庇い ザッツロードをヘクターが庇う 皆が伏せると共に ドラゴンの手がギリギリ船の後方 伏せたザッツロードたちの頭上を過ぎる 思わず閉じていた目を開く それと同時にヘクターの声が響く
「デスッ!!」
ドラゴンの手にプログラマーが握られている 再びドラゴンが空いている手を船へ向ける ヘクターが剣を抜いて叫びつつ 船から飛び出す
「この野郎ぉ!!」
プログラマーの声が届く
「ヘクター!来るな!」
ザッツロードが叫んで手を伸ばす  
「駄目だヘクター!!間に合わない!!」
ザッツロードの手は届かず ヘクターが船から離れる ラーニャとミラが同時に叫ぶ
「「ヘクター!!」」
叫んだラーニャとミラの横に人が走って来る それと共に ヒュッと鞭の音が響く ドラゴン目掛け飛び掛っていたヘクターの体に鞭が巻き付き その鞭に引かれヘクターの身体が船へ引き戻され 鞭の操作のままに甲板に叩き付けられる 甲板に身体を打ち付け声を詰まらせるヘクター それでも無理やり立ち上がり 再び向かおうとする そのヘクターの身体をヴェルアロンスライツァーとロキが2人掛りで押さえ付ける ヘクターが声を上げて暴れる
「離せええ!!」
しかし、2人に両腕を押さえられ動けない ヘクターが叫び続ける
「離せ!離せっつてんだ!ちくしょぉおお!!デスーー!!」
ヘクターの声が響く中 スピードを増した船が 島から遠ざかって行く 島が見えなくなると暴れていたヘクターが力を失って言う
「…デス お…俺が 傍に 居たのに…」
ヴェルアロンスライツァーとロキがヘクターを離すと ヘクターがその場に崩れる ザッツロードがヘクターの横へ行って言う
「ヘクター ごめん 僕を庇ったせいで」
島のあった方を見つめていたヘクターがザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが思わず一度視線を外し 再びヘクターへ戻して言う
「僕のせいだ… ごめん ヘクター…」
間を置いてヘクターが再び島へ視線を向けて言う
「…げぇよ… ちげぇ…俺が 俺が欲張って… 皆 守ろうとしたから…」
ザッツロードが驚き疑問する
「え?」
ザッツロードがヘクターを見つめ少し首を傾げる ヘクターが息を吐き俯いて言う
「全部だ…全部守りかった… 相棒のデスも…ガキの頃に離されて 再会した兄貴も… タニアと生まれてくる子供と平和に暮らす為の 世界を救える勇者様も 全部守っちまおうって… 欲張った挙句に… 相棒のデスは島に置き去りにしちまって 兄貴は意識が戻らねぇ…」
ザッツロードがヘクターへ問う 
「あ、兄貴って…?」
バーネットがやって来て言う
「あのガルバディアのウィザードは ヘクターの双子の兄貴らしい、はっはー…信じられねぇよな?」
バーネットがザッツロードの後ろに立っている 振り返ったザッツロードが驚いて声を上げる 
「バ、バーネット陛下!?」
バーネットが苦笑して近づき言う
「奴は今 魔力使い共が船室で治療している 意識は相変わらず戻らねぇ …が、一応体温があるって事は生きてんじゃねーか?」
バーネットが言いながらヘクターの横に屈む
「あのプログラマーも 宝玉の近くにいりゃぁ ドラゴンや悪魔力から身を守って ついでに 何とか生き残る事が出来るかも知れねぇ… てめぇが助けに行かなくて 誰が行くんだぁ?ヘクター?」
バーネットの言葉にヘクターが顔を上げ バーネットを見上げ 力なく言う
「俺が…助けに…」
バーネットが苦笑して言う
「なんなら 俺が行くかぁ?」
ヘクターが立ち上がって叫ぶ
「俺がっ!俺が行く!!」
バーネットが笑って言う
「はっはー、んなら いつまでもグダグダしてんじゃねぇよ、シャキっとしやがれってんだ!それとも一発食らうか?」
バーネットが鞭を床に叩き付ける ヘクターとザッツロードがすくみ上がる ヘクターが苦笑して言う
「い、いや、遠慮しとくぜ …今食らったら 俺が死にそうだ」
バーネットがにやりと笑って言う
「そぉか?そりゃ残念だなぁ?ははははは!」
ザッツロードが顔を引きつらせつつ苦笑する ヘクターが気を取り戻して言う
「あに… ウィザードのデスは、船室だって?」
ヘクターの問いにバーネットが頷いて言う
「ああ、行ってやれよ 魔力使い共に礼も言っときやがれよ?皆死にそうなツラしながら 回復魔法やってたんだからなぁ?」
バーネットの言葉に頷いてヘクターが船室へ走って行く ふぅと一息吐いたバーネットにザッツロードが声を掛ける
「バーネット陛下… あの… 宝玉はバーネット陛下が?」
バーネットが振り返って言う
「あん?ああ、あれなぁ!役に立ったみてぇで良かったぜぇ… 苦労の甲斐がありやがったってもんだぁ まぁ、だいぶ偶然も重なったけどよ」
バーネットの返答にザッツロードが微笑む
「本当に…助かりました 有難う御座います!!」
言いながら頭を下げるザッツロード バーネットがニッと笑う
「おうよ!お陰で大変な目に会いやがった あの瞬間だけは 本気で殺されやがるかと思ったぜ?」
バーネットの返答にザッツロードが苦笑する
「殺されるだなんて… ベネテクト国はガルバディア国とも仲が悪いんですか?」
ザッツロードの問いに バーネットは笑みを止め 首を傾げて問う
「あん?何でそこでガルバディアが出て来やがるんだぁ?…それから ガルバディア国『とも』って言うんじゃねぇよ!ベネテクトがあちこちに敵作ってるみてぇじゃねぇか!?ああん?」
バーネットの言葉に笑うザッツロード 
「あはは…え?だって…あの宝玉はガルバディア国の物では?」
バーネットが言う
「ちげぇよ!…って、てめぇら ガルバディアの宝玉は持って行きやがらなかったのか?」
束の間沈黙が流れる ザッツロードが頷く
「はい 時間が 無かったので」
バーネットが問う
「時間?何の時間だぁ?」
バーネットが首を傾げる ザッツロードが慌てて言う
「何って!ソルベキアがロボット兵を あの島へ送る と…」
ザッツロードが語尾を弱めて考える バーネットが更に首を傾げて言う
「ソルベキアが?…俺の知る限り んな話はねぇと思うが…?まぁ」
バーネットが怒りに片眉を震わせながら言う
「ベネテクト国は~ …つい最近出来たばかりの小っちぇえ国だしなぁ?由緒正しきローレシア国様に?無視されたってぇ… 殺され掛けたってぇ… 文句は~…」
言葉を切ったバーネットが ザッツロードの胸倉を掴み上げ叫ぶ
「あるに決まってんだろがぁああ!!」
ザッツロードが驚く
「え!?え!?おわっ!!」
バーネットが怒って叫ぶ
「おいってめぇええ!!てめぇえのクソ親父に 俺は ぶっ殺されかけたんだぞぉおお!!」
ザッツロードが衝撃を受け驚いて言う
「えええ!?ちょ、ちょっと待って下さいバーネット陛下っ」
バーネットが凄んで言う
「代わりに打たせろ…」
ザッツロードが疑問する
「え?」
バーネットが叫ぶ
「てめぇの親父の代わりに 一発 殴らせろっつってんだ この野郎がぁああ!!」
ザッツロードが悲鳴を上げる
「えぇええ!?」
バーネットの鞭の音が響く

ザッツロードが床に打ち付けた腰を擦りながら船室へ入ってくる 入ってすぐにあるテーブルに聖魔力の失われた宝玉が4つ置かれている それを見たザッツロードはそこへ自分の持っていた宝玉を置き その先にある階段を降りる と そこに並べられているベッドに皆が眠っている 一番端に備えられているベッドに寝かされているウィザード その横で回復魔法を掛けつつ眠ってしまったレーミヤ、反対側でヘクターがウィザードの手を握りながら見つめている ザッツロードがヘクターの横に立つと ヘクターが視線を変えずに言う
「…コイツ、すげー体温低くてよ、けど…これ位あれば いつも通りだから… きっと大丈夫だ…」
言葉を聞いたザッツロードが微笑み言う
「良かった…」
ザッツロードが言うと ヘクターが頷き言う
「礼を言いたかったんだけどな…皆寝ちまってる」
ヘクターの言葉を聞きながら ザッツロードがレーミヤに毛布を掛け 言う
「うん、皆 疲れてるんだ… ヘクター、君もだろ?」
ザッツロードの言葉を聞いて ヘクターが苦笑しながら頷いて言う
「けど… 眠れそうにねぇ… 目ぇ閉じるとあいつの姿が 見えるんだ… こっちのデスにはよ、触れるけど …向こうのデスには …また 触れなくなっちまったな…」
目を細めるヘクター ザッツロードも苦しそうな顔をする しかし気を持ち直し ヘクターの肩を叩く
「また君が迎えに行くんだろ?ヘクター?ソイッド村からガルバディアへ 助けに行ったあの時みたいに」
ザッツロードの言葉を聞き 一度ザッツロードへ視線を向けたヘクターが 視線を戻して言う
「… …ああ、そうだな また助けに行くぜ 今回も 必ず…」
言い終えると共に ヘクターが眠りに落ちる ザッツロードは一瞬驚くが 苦笑し ヘクターへ毛布を掛ける 立ち上がったザッツロードが辺りを見渡す ヴェルアロンスライツァー、ロキ、ミラ、ラーニャ、ヘクター、レーミヤ 皆が眠りに着いている ふぅと息を吐いたザッツロード 空いているベッドに腰を掛けて考える
「僕たちは… 僕は… 」
ザッツロードが頭を抱え窓の外を見る 窓の外は暗く何も見えない

ザッツロードは立ち上がり船室を出る


15年後――

【 ローレシア城 】

地下 機械制御操作室 大きな部屋に最新のソルベキア国のコンピュータを所狭しと揃えた部屋の中で ローレシア国第二王子ザッツロード7世(以下ザッツロード)は ソルベキアのプログラマーによって操作された機械を使い 先代勇者の旅を体感していた 全てのプログラムが終了し 無数の配線が成されたヘッドギアを外されるザッツロード ソルベキア国の研究者が問う
「ザッツロード王子、いかがでしたか?」
重そうなヘッドギアを外され 肩が凝っている様子でザッツロードが答える
「うん、先代勇者ザッツロード6世の旅を まるで自分が行っている様に 見る事が出来たよ」
ソルベキア国の研究者は満足そうに頷き言う
「それは何よりで」
ソルベキア国の研究者が去って行く そこへ 現代の魔法使いソニヤ、魔術師ラナ、占い師セーリアが現れ ソニヤが言う
「やっぱりガルバディアのウィザードに続いて強い魔力を使いこなせるのは キャリトールの魔法使いなのよ!」
ラナが言う
「何言ってるの?一番最初に結界を抑えるバリアを放てなくなったのは その魔法使いだったわ?先代も現代も世界で2番目に強い魔力使いは魔術師の方よ」
セーリアが苦笑して言う
「まぁまぁ、魔法使いも魔術師も2人で協力して戦っていたじゃない?2つの力が合わされば 一番強いでしょ?」
数時間前と変わらぬ仲間の様子に ザッツロードが微笑して言う
「皆も先代の魔法使いや魔術師や占い師の記憶を見たんだよね?どうだった?」
ザッツロードの問いに 言い争っていたソニヤとラナがザッツロードへ振り向いて ソニヤが言う
「どうって… 一言で言われても」
ラナが続いて言う
「何に関して どうだったか?って聞いてもらえないと範囲が大きすぎるわ」
二人に言われ 頭を掻きながら謝罪するザッツロード 
「ああ、ごめん…」
その様子を見た2人が一度顔を合わせてから笑い出す 2人が笑う様子に微笑して理由を問うザッツロード
「え…?あは、何で笑うんだい?」
ソニヤが笑いのまま言う
「だって~ザッツの感じ、まるで先代勇者ザッツロード6世とソックリなんだもん」
ラナが続いて言う
「勇者様は 相変わらず仲間の魔力使いに 謝ってばかりね?」
2人の指摘に再び苦笑するザッツロード そこへセーリアが言う
「さ、お話はそこまでにして、本題に入らないと フォリオッド大臣様がずっとお待ちよ?」
セーリアの言葉を聞いて ザッツロードとソニヤとラナが彼女の示す方へ視線を向ける 今か今かと待っていたフォリオッドが1つ咳払いをする ザッツロードが苦笑して言う
「ああ、すまないフォリオッド 先代勇者の旅は一通り見させてもらったよ 僕らの役目は その先代勇者と仲間たちが開いてしまった結界から現れた 魔王を倒す事…と言う事になるのだろうか?」
ザッツロードと仲間たちの視線を受け フォリオッドが言う
「勿論、魔王を倒して頂けたら最高の結果となりますが、しかし、魔王は悪魔力がある限りその動きを止めることは無いと言われています、よってザッツロード王子やお仲間の方々には もうすぐ消滅してしまうといわれている 魔王の島への結界の再生 これこそが何よりも急ぎ執り行わねばならぬ事 どうか再び各国へ返還された宝玉を集めその偉業を成し遂げて下さいませ」
フォリオッドの話を聞き ソニヤが言う
「結界の再生よりも、やっぱり勇者様には 魔王討伐!の方が合ってると思うんだけどなぁ~?」
ラナが呆れて言う
「その討伐が出来ないから 結界を再生させるんじゃない」
ソニヤが続けて言う
「それは分かってるけどさ?15年前と今では科学の進歩が全然違うんだし?ソルベキアのロボット兵でも借りてさ?いっきに魔王へ襲い掛かれば倒せるかもしれないじゃない?」
ラナがいう
「そのソルベキアのロボット兵の動力は悪魔力よ?魔王に逆利用されたら それこそ世界のおしまいだわ!」
ソニヤが納得して言う
「あ~そっかぁ」
2人の会話が終ると ザッツロードが頷いてから言う
「うん、初代勇者ザッツロード1世の様に 魔王を倒して更に悪魔力を封印出来る事が一番望ましいけど 今やらなければいけない事は 僕の叔父である先代勇者ザッツロード6世が開いてしまった封印の結界の再生だ これはローレシア国が責任を持って行わねばなら無い事だし ザッツロードの名を継いだ僕の役目だ」
ザッツロードの言葉に頷く仲間たち ラナが言う
「その勇者の仲間だった魔法使いや魔術師、占い師の責任と役目でもあるわ」
ラナの言葉に ソニヤとセーリアも頷く フォリオッドが言う
「各国もローレシアの勇者へ力を貸してくれるはずです 共に その宝玉を得て 一刻も早く悪魔力を封じる 結界の再生を行って下さい」
ザッツロードと仲間たちが頷き 機械室を出て行く

ローレシア城を出た所で ソニヤがザッツロードへ問う
「ねぇザッツ!最初はどこの国へ行くの?」
ラナが言う
「やっぱり初代勇者が仲間にしたと言う アバロンが無難かしら?」
ザッツロードが考える セーリアが言う
「ローレシアから北へ向かってガルバディア国へ …となると 先代の勇者様と同じね?」
3人に問われザッツロードが言う
「それじゃ… 今回は 初代勇者の仲間でもあり、皆と同じく先代勇者の仲間であった 大剣使いの国 アバロンへ行こうか?」

【 アバロン国 】

アバロン城へやって来たザッツロードと仲間たち 賑う城下町を通り 城へと向かう 開放されている玉座の間の前まで止められる事も無く進み 衛兵へ名乗り 国王への謁見を要求する 少し待つと 謁見が許される 名を呼ばれ通されるザッツロードたち アバロン国国王ヴィクトール13世の前に跪き ザッツロードが言う
「ローレシア国第二王子ザッツロード7世です」
ザッツロードがそう言って敬礼する ヴィクトールが頷き言う
「噂は聞いていた、ローレシア国の3代目勇者 ザッツロードが旅に出たと それで、旅の目的は何だろうか?」
ヴィクトールの問いに ザッツロードは顔を上げ答える
「はい、私は先代勇者ザッツロード6世が行った大事の責任を果たす為 世界各国に保管されている宝玉を集め、その力を使い 今壊れようとしている魔王の島への結界を 修復すべく旅に出ました どうか、このアバロン国に保管されている宝玉を 私に貸し与えて頂きたく存じます」
ザッツロードが言い終えると共に頭を下げる ヴィクトールが言う
「先代勇者の大事の責任を果たす事が 結界の修復? …それだけの為に ローレシア国は再び勇者を選任したと言う事か?」
ヴィクトールの言葉に間を置いてからザッツロードは返答する
「お恥ずかしい事ですが …ヴィクトール陛下の仰る通りになります」
ヴィクトールが少し首を傾げて言う
「では もう魔王を倒そうと言う考えは無いのだな?」
ザッツロードはヴィクトールの言葉に一瞬驚き 間を置いて答える
「…ローレシア国一代目勇者同様 魔王を倒し、悪魔力を封じる事が出来れば… 一番だと思います、しかし 魔王の島の 悪魔力の量はとても計りかねません」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが間を空けずに言う
「魔王を倒す事は不可能であると?」
ザッツロードが驚いて言う
「え…?そ…それは」
ザッツロードへ視線を向け強く言い放ったヴィクトールの言葉に ザッツロードが思わず声を漏らし沈黙する しばらくの沈黙の後ヴィクトールが言う
「貴公の話は分かった、そして 残念だが我が国の宝玉は 現在、他の者へ託されている」
ヴィクトールの言葉にザッツロードの後ろに控えていたソニヤが声を上げる 
「えぇええ!?」
ハッと口を押さえて小さくなるソニヤ 隣のラナが無言で叱る ザッツロードへ視線を戻したヴィクトールが続けて言う
「更に、貴公へ託す予定であった兵が 先日旅に出てしまった 折角 来て貰ったのだが 現在 我がアバロン国が貴公へ託す事が出来るものは 何も無いのだ」
言葉を聞いたザッツロードが思わず沈黙する ヴィクトールが目を細め言う
「申し訳ないが、これが事実だ 理解願いたい 3代目勇者ザッツロード殿」
ザッツロードが何とか返事をする
「…はい」
伝令の兵が玉座の間の入り口に立って言う
「ヴィクトール陛下、お客様が…」
伝令の言葉に ザッツロードへ視線を向けていたヴィクトールが ハッと視線を兵へ向け言う
「分かった、すぐに向かう」
伝令の兵が返事と共に立ち去ると ヴィクトールが玉座から立ち上がり言う
「話は以上だ 私は失礼させてもらう」
ザッツロードが返事をする
「はい、有難う御座いました」
ザッツロードが言い終わる前にヴィクトールは歩き出し ザッツロードの横を過ぎ 玉座の間を後にする ザッツロードは下げていた顔を上げ ヴィクトールが出て行った方を見る

アバロン城を後にしたザッツロードと仲間たち ソニヤが言う
「あれがヴィクトール陛下!?何だか 先代魔法使いラーニャの記憶にあるのとは 全然違う感じ!」
ラナが言う
「私もそう感じたわ、先代魔術師ミラの記憶にあったヴィクトール陛下は もっとお優しくて親身になって下さる方だったわ」
ソニヤに続きラナが少し怒った様に言う ザッツロードがそれを聞きながら言う
「うん…僕もそう感じたよ、でも もしかしたら… ヴィクトール陛下は僕達に期待して下さっていたのかもしれない」
ソニヤが言う
「期待!?」
ソニヤがザッツロードへ問う その横でセーリアが言う
「そうね、私もそう思うわ ヴィクトール陛下は 今回の勇者も魔王を倒すため 旅に出ると思っていた様子だったし」
ザッツロードがセーリアの言葉に頷き言う
「だとしたら、期待を踏みにじってしまったのは僕達の方だ…」
少し落ち込むように視線を落とすザッツロード それを見てラナが言う
「だけど、もし私たちの目的がヴィクトール陛下の望むものであったとして それでもアバロン国の宝玉も兵も無しよ?そう考えると 期待していたとは言い切れないじゃない?」
ソニヤが言う
「あ~そっかぁ」
ラナの言葉にソニヤが納得する 2人の言葉を聞きザッツロードは視線を上げ微笑して言う
「それもそうだね、どちらにしても結果は同じだったんだ アバロンの宝玉と兵は諦めよう」
ザッツロードの言葉にソニヤとラナが頷く と、その時セーリアが言う
「あら、あの人…」
セーリアの言葉にザッツロードたちが彼女の視線の先を見る ソニヤが声を上げる
「あー!ヘクター!」
指を刺しながら名を呼んだソニヤ 呼ばれた男がその声に気付いて振り返り 指差されている事に少し驚く ラナが慌ててソニヤを制して言う
「ちょっと!私たちは先代の記憶を知っているから彼を知ってるけど 向こうは私たちの事知らないのよ!」
ラナに言われて ソニヤが慌てて口を手で押さえる しかし既に遅いため ザッツロードが代わって謝る
「すみません、有名なアバロン国3番隊のヘクター隊長に 仲間が興奮してしまったみたいで」
すまなそうな顔でザッツロードが謝ると 相手のヘクター(偽)は共に居たもう1人の人物へ視線を向けて微笑んでいる 視線をザッツロードへ戻し ヘクター(偽)が言う
「おう!ありがとな そう言って貰えると嬉しいんだけどよ!俺はその ヘクター隊長じゃないぜ?」
ザッツロードが思わず言う
「え!?」
ザッツロードたちが皆驚く ヘクター(偽)がニコニコ笑って言う
「ははは、ふつー分かるだろ?ヘクター隊長は 俺たちの年代から見れば 親父位の歳だぜ?俺ってそんなに老けて見えるか?」
ヘクター(偽)の言葉を受け ザッツロードたちが顔を見合わせる ソニヤが言う
「あ~そうだ、そうだよ!私たちが知ってるヘクターって」
ラナが続ける
「15年前の姿ね… うかつだったわ」
ヘクター(偽)が笑って言う
「15年前か~ 俺もそのちょっと前ぐらいの頃 アバロンでよくヘクター隊長見てたなぁ かっこ良かったよなぁ~!」
ヘクター(偽)の言葉を聞いて微笑むザッツロードたち セーリアが彼の腰に備えられている大剣を見て言う
「あなたもアバロンの大剣使いなのですね?」
セーリアに言われ ヘクター(偽)はハッと腰の剣へ手を置いて言う
「え?あ、ああ、まぁ…そんな所だぜ?はは…」
ヘクター(偽)の顔を見ていたソニヤが言う
「もしかして~ ヘクターの息子だったりして?」
ヘクター(偽)が衝撃を受けて言う
「へ!?お、俺が?!」
ラナが言う
「まさか…そんな偶然なんて…」
ラナが否定しようとするが 記憶の中にあるヘクターに余りにも似ているので否定しきれずヘクター(偽)を見上げる ザッツロードも気付かない内に見つめている ヘクター(偽)が両手を前で左右へ振って否定する
「いやいやいや、俺はヘクター隊長の息子じゃねーよ!?そんなに似てるか?ま、まぁそう言って貰えると嬉し…ってあれ?さっきも言ったっけ?はは…」
ザッツロードたちとヘクター(偽)が話をしていると 連れのデス(偽)が辺りを見渡し ヘクター(偽)へ小声で言う
「フォーリっ… いや… エドの連中が…」
ヘクター(偽)がハッとして周囲を見て表情を変え言う
「あ、わりぃ、その~俺たち… そそ!旅の途中なんだ!だから行くわ!じゃぁな?」
言うと共に立ち去ろうとするヘクター(偽) ソニヤが思わず呼び止める
「え?ちょっと ヘクター!」
ヘクター(偽)が再び呼び止められ振り返る ソニヤが止めたけどどうしよう?と無言で仲間たちへ視線を向ける セーリアがふと笑って言う
「旅の途中という事は これからどちらかへ?」
ヘクター(偽)がう~んと少し考えてから言う
「あんま決めてねーんだけど… とりあえずベネテクトとかかなぁ?」
ソニヤとラナが顔をあわせザッツロードへ視線を向ける ザッツロードがその視線に驚いていると セーリアが言う
「ベネテクトへ向かわれるのですか?私たちもベネテクトには用があるのです、もし宜しかったらご一緒出来ませんか?私たちローレシア領域から来たのですが、アバロン領域の魔物に驚いてしまって… そのアバロンの大剣使いさんとご一緒して頂けると とても心強いのですが」
笑顔で言われ ヘクター(偽)がたじろぐ セーリアの後ろでソニヤとラナも笑顔を向ける ザッツロードが苦笑している ヘクター(偽)は困惑しながら連れへ顔を向けて問う 連れが少し焦りながら小声で何か言い ヘクター(偽)が頷いて言う
「分かった!一緒に行くぜ!」
ソニヤが喜んで言う
「やったぁー!」
すぐにヘクター(偽)が続けて言う
「 け ど !行くならこいつも一緒だ、」
言いながら連れのデス(偽)を示して続ける
「でもって、こいつは全っ然戦えねぇ それでも俺と一緒に行く事になるけど …構わねぇか?」
ヘクター(偽)の言葉にザッツロードたちが顔を見合わせる 少し間を置いてザッツロードが言う
「うん、僕らは特に構わないけど でも… 戦えない人を旅に連れて行くのは 少し危険なのでは?それとも 彼の護衛を頼まれての旅なのかい?」
ザッツロードの言葉にヘクター(偽)は少し考えてから言う
「あ~ まぁ… そんな所かな?ああ、お前らに迷惑は掛けねぇよ?俺が守り切るからさ!」
ザッツロードたちは先代のヘクターの記憶を思い出し ソニヤが言う
「ますます ヘクターみたいね?」
セーリアが言う
「ほんと、こんな偶然ってあるのかしら」
ラナが言う
「運命… かもしれないわね?」
ヘクター(偽)が疑問して言う
「え?」
ザッツロードが構わず続ける
「それじゃ、宜しく!僕はザッツロード、ソニヤとラナとセーリアだ、君達は?」
ザッツロードに自己紹介され ヘクター(偽)が一瞬たじろぐ しかし気を取り直して言う
「あ…あぁ、俺は… うん、ヘクターだ」
ソニヤが驚いて言う
「えぇえ!?」
ヘクター(偽)が言う
「いや、アバロンじゃ… 今流行りだぜ?ほら、お前らも知ってただろ!?ヘクター隊長 だから、俺もヘクターなんだよ、うん!」
ソニヤが納得して言う
「あ~なるほどぉ」
ザッツロードが苦笑しながら更に問う
「分かった、宜しくヘクター、それで、そちらの方は?」
ザッツロードに言われ振り返るヘクター(偽) 振り返った勢いのままに言う
「ああ、こいつはテス…」
ソニヤが驚いて言う
「え?!デス?!」
ヘクター(偽)がハッとして言う
「え?あ、ああ!そう!そう!…デスだ!」
セーリアが不思議そうな顔で言う
「ガルバディアの方…?」
言いながらデスの目を覗き込む デス(偽)が目を逸らす ヘクター(偽)が言う
「いや、ガルバディアの民じゃねぇよ?でもデスなんだよ!うん、はは…」
ソニヤがポカーンとした表情で言う
「へぇ~すごい偶然…」
続いてラナが首を傾げながら言う
「なんだか変な感じだけど、まぁアバロンの大剣使いなら 実力はあるんじゃない?」
ラナの言葉に頷くザッツロード ヘクター(偽)が辺りを見渡し言う
「あ、なぁ?行くんなら行こうぜ?え~と、ほら、あんま ノロノロしてんの俺好きじゃねぇーんだわ?」
ヘクター(偽)の言葉に頷き ザッツロードが言う
「そうだね、僕達も急がないと」
ザッツロードと仲間たちが頷く

【 ベネテクト国(道中) 】

ヘクター(偽)とデス(偽)を仲間にしたザッツロードたちはベネテクト国へ向かう 道中 ヘクター(偽)が驚いて言う
「ええ!?まぢかよ!?あんたらが勇者ザッツロードと仲間たち!?」
ザッツロードが苦笑して言う
「見えない…かな?」
ザッツロードの言葉にヘクター(偽)が視線をザッツロードへ向けて言う
「あ、いや ンな事はねぇけど… なんっつーか想像してたのと ちょっと ちげぇなって言うか…?もっとゴッツイ兄ちゃんなのかと思ってたぜ」
ソニヤとラナがごついザッツロードを想像して笑う ザッツロードは苦笑に汗を含ませ言う
「まぁ…、そう言う訳で 各国へ宝玉を求めて旅をしているんだ、ヘクターたちは何処へ行くんだい?」
問われたヘクター(偽)が微笑して言う
「あー… まぁ特にどっか行こうって決めてる訳じゃねぇーんだけど、俺は修行の旅に出るつもりだったんだ」
ソニヤが問う
「『つもり』って?」
ヘクター(偽)が一瞬焦るが 普通に戻って言う
「俺はー そのつもりだったんだけど、たまたま訳あってテス…いや、デスも一緒になったもんだから… まぁどっちにしろ修行の旅にはなるんだけどな?」
会話を聞いていたラナがデス(偽)を見ながら言う
「どんな事情があるにしろ、まったく戦えない一般の人を連れて 修行の旅だなんて 自信過剰なのか… 馬鹿なのか?って感じよね?」
ラナの言葉にデス(偽)が言う
「私は別に… あのまま分かれても 良いと思っていたのだが」
ヘクター(偽)が怒って言う
「だめに決まってんだろ!?良いか!?今度 勝手に死のうとなんかしたら 絶対ぇ許さねーからな!!」
ヘクターの言葉に 驚くザッツロードたち 沈黙が流れる ソニヤが言う
「死のうとって…自…殺とか?」
ヘクター(偽)が溜め息を吐いて言う
「ああ、まったく… あ、そうだ、戦闘中のコイツの護衛は、俺がやるから気にしなくて良いんだけどさ、もし…それ以外で、コイツがまた死のうとかしてたら わりぃけど止めてやってくれねぇか?」
ヘクター(偽)がザッツロードたちへ視線を向けて言う ザッツロードが驚きそれに答えて言う
「え!?ああ!それはもちろん!止めるよ!…ね?みんな!」
ラナがあわてて言う
「え?あ、も、もちろん!」
セーリアが少し慌てて言う
「え、ええ!もちろんよ!」
ラナがそっぽを向いて言う
「まぁ…目の前で死なれるのも嫌だし」
ヘクター(偽)が微笑んで言う
「助かるぜ、あ!デス、お前も 皆が止めてくれるからって また 勝手に死のうとなんかすんなよ?」
デス(偽)が呆れた様子で言う
「…お陰で する気も無くなった」
デス(偽)が顔を背ける それを見ながらザッツロードたちが顔を合わせる ソニヤが言う
「そう言えば、先代のデスも 最初は死のうと してなかったっけ?」
セーリアが苦笑して言う
「死のうと…と言う訳では無いと思うけど」
ラナがいう
「まぁ、それでも良い って感じはあったわよね?」
ザッツロードが苦笑する ソニヤが言う
「やっぱり名前が悪いんじゃないの?ウィザードのデスもプログラマーのデスも…一般人のデスも!」
ソニヤの言葉にラナが言う
「それを言ってしまったら ガルバディアの人は 皆って事になるけど… 今の所 そうらしいわね」

【 ベネテクト国 】

ベネテクト城へ向かうザッツロードたち ソニヤが言う
「そういえばー ベネテクトのお城は完成したのかな?」
ソニヤの言葉にザッツロードが言う
「いや、確か15、6年前に国王のバーネット2世が破壊して 再度 建築中になってしまったから 少なくても後… 3、4年は掛かるはずだよ」
ソニヤが驚いて言う
「え?!また壊しちゃったの?!」
ラナが呆れて言う
「ベネテクト国に お城が完成する日は来るのかしら?」 
ベネテクト城へ辿り着いたザッツロードたち 人気の無い辺りを見渡してソニヤが言う
「あれー?全然人が居ないよ?」
ラナが続ける
「建設途中…ではあるみたいだけど 誰も居ないだなんて」
ザッツロードも辺りを見渡してから言う
「それじゃ、あの場所へ行ってみようか?」
ザッツロードの言葉にソニヤが振り返って言う
「地下にあるバーネット陛下のお部屋ね?!」
ザッツロードが微笑んで頷く ザッツロードたちは自分達の知る先代勇者たちの記憶を頼りに ベネテクト城地下の部屋へ向かい そこにある扉をノックし、ザッツロードが言う
「バーネット陛下!いらっしゃいますか?私はローレシア国の第二王子ザッツロードです」
ザッツロードが声を掛けてしばらく待つが 応答は無い ソニヤが言う
「居ないのかしら?」
ソニヤが言いながらドアの取っ手へ手を伸ばす ラナが慌てて言う
「ちょっと!勝手に駄目よっ」
ラナが慌てて止める しかし声より先に取っ手を引いたソニヤが言う
「あ…鍵が掛かってるわ」
扉は開かない ザッツロードがもう一度声を掛け ノックをするが返事はない ザッツロードが皆へ振り返って言う
「居ないみたいだ…どうしよう?」
皆が考える セーリアが言う
「近くの町へ行ってみましょう?町の人が知ってるかもしれないわ」
皆が頷き ベネテクト城の近郊の町へ向かう

【 ベネテクト国(近郊の町) 】

町に辿り着いたザッツロードたちは町の人に話を聞いて驚き ザッツロードが言う
「バーネット陛下がお亡くなりに!?」
セーリアが声を上げる
「そんなっ!どうして!?」
ソニヤとラナがセーリアの発言に驚く 町の人が2人の問いに答える
「バーネット陛下は息子のベーネット王子に殺されてしまったらしい… まぁ、バーネット陛下も最近は少し様子がおかしかったからな やっぱりベネテクトは隣国のアバロンと上手く行かないと 傾いてしまうのかも知れない… その点!新国王のベーネット陛下は 早速アバロンと上手くやってるみたいだし、今度こそベネテクトも安泰だろう!」
笑顔で締めくくる町の人へ デス(偽)が問う
「それで?その新国王はどこに居るんだ?」
ザッツロードがハッとして言う
「そ、そうだった 現ベネテクト国王の えっと… ベーネット陛下はどちらに?」
ザッツロードの言葉に町の人が一軒の宿を指差して言う
「今はあちらにいらっしゃるよ、もうすぐ出てくると思う そうしたら… 俺たち町のみんなからの贈り物を渡すんだぜ!? あ、これベーネット陛下には内緒な!」
町の人が笑顔でそう言うと去って行く ザッツロードが待ち人の指差した宿を見上げる ラナが声を掛ける
「さ、行きましょ?早く宝玉を頂かないと また他の人に渡ってしまうかも知れないじゃない?」
ザッツロードが頷いて言う
「あ、うん、そうだね」
皆で宿へ向かう

宿主へ名乗り、ベーネットの泊まっている部屋を聞いたザッツロードたち ザッツロードは教えられた部屋をノックして声を掛ける
「ベーネット陛下、私はローレシア国第二王子のザッツロードと申します、どうか 少しお時間を頂けないでしょうか?」
間もなく扉が開き ベーネットが現れ言う
「ローレシアの第二王子 …私に何か用だろうか?」
ザッツロードはその場に膝を着き 敬礼して言う
「お寛ぎの所申し訳有りません、私はローレシア国の3代目勇者として 魔王の島の結界を再生させるべく各国に保管されている宝玉をお借りしようと 旅をしております どうかベネテクト国に保管されている宝玉を 私にお貸し頂けませんでしょうか?」
ザッツロードの言葉を聞いたベーネットがしばらく考えて言う
「宝玉?…すまないが、私には 分からないな」
ソニヤが思わず声を上げる
「えぇえ!?」
ザッツロードも声を音にしないまでも驚きの表情を作る しばしの沈黙 ベーネットが言う
「…用件はそれだけだろうか?だとしたら、私は君達の役には立てそうに無い 失礼するよ」
扉を閉めようとしたベーネットをソニヤが止める
「ま、待って!」
思わず止めたソニヤが ザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが戸惑いながら何とか言葉を言う
「あ、あのっ…ち、地下の部屋に」
ベーネットが疑問して言う
「…地下の部屋?」
ザッツロードの言葉を復唱するベーネット ザッツロードの後ろからラナが言う
「ベネテクト城の地下にある バーネット陛下のお部屋にあるかもしれません」
続いてセーリアが言う
「失礼ながら、先ほど伺ったのですが お部屋の扉に鍵か掛けられており、声を掛けてもお返事はありませんでした」
ソニヤが慌てて言う
「あの扉の鍵を開けてもらえませんか!?私、隠し扉の場所覚えてるし!」
ラナとセーリアが同時に振り返ってソニヤを無言で叱る ソニヤが慌てて口を押さえる ザッツロードたちの話を聞いてベーネットが考え言う
「その宝玉と言うのは…ローレシア国からベネテクト国が預かっていたと言う事だろうか?」
ザッツロードが慌てて言う
「あ~ いや、その」
ベーネットの言葉に悩むザッツロード ベーネットがザッツロードを見つめて言う
「すまないが 私は少し忙しいのだ、これからすぐにアバロンへ向かわなければならなくてね 父から王の座を奪ってしまった以上 私は今、この国の為に出来る事を 全力でやらなければならないのだ」
ベーネットの言葉に ザッツロードが一度視線を落とすが その視線を上げて言う
「私も!この世界の為 3代目勇者としてやらなければいけない事があるんです、その為に宝玉が必要なんです ベーネット陛下、どうかベネテクト城の地下にあるお部屋の鍵を私に預けて頂けませんでしょうか?もちろん、宝玉以外の物には 絶対に手を触れません!お願いします!」
ザッツロードの言葉に驚くベーネット ザッツロードの仲間たちも その大胆なお願いに驚く ベーネットがしばらく考えて言う
「…ザッツロード王子、君の気持ちは分かった 世界の為 か… 小さなベネテクト国一国の為に 私は必死になっていたが もっと大きな視野を持つ事も 大切かもしれないな」
ザッツロードがハッとして 慌てて言う
「え!?あ、いや…生意気言ってしまって …失礼しました」
頭を下げるザッツロードにベーネットは微笑んで言う
「いや、大切な事に気付かされた気分だ それで、その宝玉があるかもしれないと言う 地下部屋の鍵なのだが あいにく私は あの部屋の入り口の鍵を持っていないのだよ」
再びソニヤの声が響く
「えぇええ!?」
ベーネットは微笑んで続ける
「従って、破壊してくれて構わない」
今度はソニヤとザッツロードの声が重なる 
「「えぇええ!?」」
その反応にベーネットが笑う
「あっははははっ …いや、失礼 しかし事実なのだ、私も共に行こう 君達が警備の者に不審者と思われては大変だからね?」

ベーネットと共に宿を出たザッツロードたち そこには町中の人々がベーネットの外出を待っている その様子に驚くベーネット
「これは…?一体…?」
驚くベーネットの下に町の代表が近づき言う
「ベーネット新国王陛下、城下の町々をツヴァイザー国の者よりお守り頂き 本当に有難う御座いました」
「これは我々からの心ばかりのお礼です どうかお受け取り下さい」
町の代表がベネテクト国の紋章が入った重厚なマントを手渡す 驚くベーネット 町の人々が跪く ベーネットはそれを受け取り身に纏い 言う
「有難う諸君 私は… 必ず このベネテクト国と そこに住まう民を守り、そして 慈愛に満ちた美しい国を 諸君と共に造っていくと約束する!」
ベーネットの言葉に 町の人々と彼らを取り囲むように居た兵たちが喝采を上げる

町の人々に見送られ 町を出たベーネットとザッツロードたち セーリアの移動魔法でベネテクト城へ向かう ベネテクト城に辿り着いたベーネットとザッツロードたち、ザッツロードが問う
「ベーネット陛下、ツヴァイザー国と戦っておられたんですか?」
ザッツロードの問いに 地下室へ向かって歩きながらベーネットが答える
「ああ、私がベネテクトの前王バーネット2世を殺害したと聞き付けたツヴァイザーが 時を空けずして攻め込んできたのだ、運良くアバロンの部隊に助けられ 更に助力を得た上で ベネテクト国内の3つの町を守り抜いた… 今日はその礼にアバロンへ上がる予定なのだ」
話を聞いていたソニヤが問う
「その… ベーネット陛下が バーネット陛下を殺害したって… 本当なの?」
ベーネットが沈黙する ラナが慌てて言う
「ばかっ!」
ラナがソニヤの頭を殴る 殴られた頭を押さえながらソニヤがラナを振り返る 丁度地下室の扉の前に立ったベーネットが答える
「…本当だ、父は デネシアの奴隷を扱(こ)き使って 城の再建を急がせていた 私は… その父の奴隷たちへの扱いが許せなかったのだ… 毎日彼らを怯えさせ重労を架している その姿を幼い頃からずっと見ていた そして 私がいつか王位を譲られる日が来たら 絶対にその様な事をしない王になりたいと 思っていたのだが…」
扉に手を置きそこまで言ったベーネットが その手を握って続ける
「私は その日まで待つ事が 出来なかった…」
ベーネットの脳裏にバーネット殺害時の映像が思い出される 話を聞いていたソニヤが何か言い掛け言葉を飲む ベーネットが気を取り直して振り返り言う
「さて、この部屋で良かっただろうか?」
ザッツロードがハッとして頷く
「はい、この部屋だと思います」
ザッツロードが言うのに続いて ラナが一歩前へ出て言う
「重厚な扉みたいですが、私が全力で魔力を放てば壊せると思います、ベーネット陛下 どうか私たちの後ろまでお下がり下さい」
ラナの言葉にベーネットが笑って言う
「いや、そんな手間を掛けなくとも この扉は破壊出来るんだ そこの柱の影まで下がってくれ」
ソニヤが疑問する 
「え?」
そのソニヤの背を軽く押してベーネットが共に柱の影まで行く 皆が柱の陰に隠れると ベーネットが柱の近くの壁を数箇所叩く
「たしか…この辺りだったと思うのだが…?」
ザッツロードたちが不思議そうに眺めていると ベーネットの叩いた数回目のレンガがレンガ1つ分奥に押し込まれる それと共にベーネットが両耳を塞いで壁側へ身を寄せる
ザッツロードがベーネットのその行動に疑問の声を上げる
「え?」
のと同時に 激しい爆音が轟き ザッツロードたちが隠れている柱以外の通路が爆発した炎に焼かれる しばらく間を置いて ベーネットがザッツロードたちを振り返り 苦笑して言う
「すまない、先に説明しておくべきだったな?」
ベーネットの視線の先 ザッツロードたちが驚き腰を抜かしている

硝煙が残る通路を進み地下部屋へ入るベーネットとザッツロードたち 扉を入ってすぐにある部屋はザッツロードたちが先代の記憶で見た映像と変わらず 狭い部屋に豪華では無いが重厚な机と椅子が置かれ 壁にはバーネット1世の肖像画とその他の絵が飾られている 入って来た扉のあった場所から正面と左手に扉がある ソニヤが左手の扉を指差して言い掛ける
「ベーネット陛下、そっちの部屋…」
しかし途中で言葉を止めて言い直す
「あ、でも 宝物庫だから また鍵が」
ソニヤの言葉にザッツロードたちが先ほどの爆発を思い出し顔を引きつらせる そこへベーネットが言う
「こちらの部屋か?それなら私が鍵を持っている 爆破の必要は無い」
言いながらベーネットが鍵を開ける ザッツロードたちがホッと胸を撫で下ろす 間もなく鍵の開く音がする ベーネットが扉を開けると ソニアが扉に近づき言う
「この宝物庫の右側の壁に…」
言いながら指を刺す ベーネットが首を傾げて言う
「宝物庫?この部屋は…」
言いながら部屋の扉を大きく開く
「私の部屋なのだが?」
部屋を見たソニヤが驚いて言う
「あれー!?」
ベーネットがその様子を眺めて言う
「うん…?あぁ、もしかしたら 私が生まれる前までは宝物庫だったのかもしれない 今は別の場所に移されているのだ しかし…その場所で 私は宝玉と呼ばれそうな宝を 見た事はないな」
ベーネットの言葉を聞いてザッツロードたちが顔を見合わせる ミラが思い付いた様に言う
「ベーネット陛下、その新しい宝物庫にも 隠し扉があって …その扉の存在を忘れていらしたり なんて事は…?」
ミラの言葉にベーネットが顔を横に振って微笑し言う
「君達は色々面白い事を言うな?歳は私とそれ程変わらない筈なのに この部屋が宝物庫だったのではないか、とか… 隠し扉が、など まるで昔のベネテクト国を知っているかの様だ」
ザッツロードたちが苦笑する ベーネットが続ける
「ちなみに、この部屋の隠し扉と言うのは?私は知らないのだが 聞かされていなかったのなら 今もそこに忘れられていると言う可能性も あるだろう?」
ベーネットが言いながら部屋へ入る ソニヤがそれに続き壁を指差す
「確か、そこの右から5番目辺りのレンガが」
ベーネットが言う
「この辺りか?」
ソニヤの指示に従いベーネットが壁のレンガを押すと 隣の壁が開く ソニヤが声を上げる
「あったぁー!宝玉!」
ベーネットが一瞬驚き 微笑して宝玉を手に取って言う
「これが宝玉か…では、君たちにお返ししよう」
ベーネットが言いながらソニヤへ手渡す ソニヤは受け取りながら言う
「あ~いや、返すって言うか…あたしたちが 借りるって感じで…」
おどおどと言うソニヤにベーネットが微笑んで言う
「そうなのか?では それで構わない」
ベーネットとソニヤが ベーネットの部屋から出てザッツロードたちの下へ戻る ソニヤが宝玉をザッツロードへ手渡す その間にベーネットが部屋を眺めている その視線の先が部屋に置かれている机と椅子へ向けられ止まる 宝玉を受け取ったザッツロードがベーネットへ礼を言おうと視線を向け ベーネットの様子に気付き言葉を飲む 少し間を置き 俯いたベーネットが 気を取り直しザッツロードたちへ顔を向けて言う
「さて、宝玉も無事見付かった これでもう ここへの用は無いだろう?私も アバロンへ向かわねば」
言いながら部屋の出口へ向かうベーネット ザッツロードたちがそれに続く 部屋を出た所でベーネットが室内を返り見る ラナが言う
「扉が無くなってしまって…このままでは物騒なんじゃない?」
その言葉にベーネットが軽く笑って言う
「ああ、しばらくこの部屋は 封印することにしよう」
セーリアが問う
「封印?」
ベーネットが頷いて側面の壁のレンガを押す ザッツロードたちの近くで物音がする ザッツロードたちが驚いて辺りを見渡すと 扉のあった場所へ大量の土砂が落ちる 出入り口が塞がった事を確認してベーネットが振り返って言う
「これでしばらく 私を含め 誰も入る事が出来ない いつか…いや、もう開かれる事は 無いかもな」
言ったベーネットがその場を後にする ザッツロードたちもそれに続く 城の門を出たベーネットとザッツロードたち ベーネットがザッツロードたちを振り返って言う
「ここでお別れだ、ザッツロード王子 世界を救う偉業 きっと成し遂げてくれ」
ザッツロードが敬礼して言う
「はい、有難う御座います、ベーネット陛下」
ベーネットは頷き 魔法アイテムを片手に持ち移動魔法を唱え 程なくして姿を消す

【 ベネテクト国→スプローニ国 】

ベネテクト国を後にしたザッツロードたち、次なる宝玉を保管する国スプローニ国へ向かう 道中 皆を振り返りソニヤが言う 
「バーネット陛下の件は残念だったけど…ベーネット陛下も良い人だったわね?」
その言葉にザッツロードが頷いて言う
「うん、ベネテクト国の人々にとても期待されて… 僕とそれ程歳が違わないのに すごく凛々しく見えたよ」
ソニヤが苦笑して言う
「ザッツも国印が刻まれたマントを纏ったら ソコソコ良くなるんじゃないの?」
ザッツロードが苦笑する ミラが呆れながら言う
「そういう問題じゃなくて… まぁザッツは第二王子様だから ちょっと気合が足りないのよ …たまに少し出るみたいだけど?」
ザッツロードが衝撃を受け 苦笑して言う
「う…『たまに』か… はは… もう少し持続出来る様に 頑張るよ…」
ソニヤとラナの言葉に落ち込みながら ザッツロードが2人から歩く速度を下げて遠ざかる 苦笑するセーリアが過ぎ その後ろを歩くヘクター(偽)とデス(偽)の所で落ち着く ヘクター(偽)が言う
「なぁ?宝玉ってよー?確か前の勇者の時に その魔力を使い切っちまったんじゃ無かったか?たった15年で復活すんのかよ?」
ザッツロードが答える
「完全ではないのだけど、その15年分の魔力を増幅する技術が出来たんだ それに…」
ザッツロードが言い掛けた所で 続きをデス(偽)が言う
「先代勇者が魔王の島に張った結界が …もう持たないらしい」
ザッツロードが驚いて言う
「え?!…どうしてその事を知ってるんだい?一般には発表されていないのに?!」
デス(偽)が少し間を置いてから答える
「以前… 少し機密を知る者に会い 聞いたんだ それと、犠牲にな… いや、何でもない」
デス(偽)が一度ザッツロードを見上げ 目を逸らして言葉を濁す ヘクター(偽)が首を傾げる ザッツロードが少し驚いて問う
「その『機密を知る者』と言うのは?」
ザッツロードに問われ デス(偽)が視線を逸らす ソニヤの悲鳴が響く
「きゃぁ!なに!?コイツ!!」
皆の視線がソニヤの前に現れたロボット兵に注がれる 故障したソルベキアのロボット兵が その通常の戦闘プログラムから外れ奇妙な動きをしている やがてそのロボット兵がソニヤに気付き 襲い掛かって来る ソニヤが悲鳴を上げる
「いやぁあ!来ないでー!!」
魔法の詠唱が間に合わないスピードで ロボット兵がソニヤへ襲い掛かる ザッツロードとヘクター(偽)が急いで剣を抜き助けに向かうが 間に合わない ザッツロードが叫ぶ
「ソニヤー!」
ロボット兵の攻撃を アンドロイドが防ぎなぎ払う ザッツロードたちが驚いてそのアンドロイドを見る そこへバッツスクロイツが現れ言う
「大丈ー夫かい?お嬢ーさん?」
ザッツロードたちがバッツスクロイツを見る バッツスクロイツが皆の視線に気付くとニッと笑い アンドロイドへ命令を送る
「デス、そいつぶっ壊して良いぜ、AIイカレちまってるんだ… かわいそーだけど 楽にしてやれ」
バッツスクロイツがそう言って手を振ると アンドロイドがロボット兵を攻撃 ロボット兵はあっけなくやられ その動きを止める ザッツロードたちが驚異的な力と速さに目を奪われている間に バッツスクロイツが地面に座り込んでいるソニヤへ手を差し伸べる ソニヤがそれに気付いて手を取って言う
「あ、ありが…とう…」
バッツスクロイツが笑んで言う
「いやいや、レディに優しくするのはとーぜん、」
ラナが疑問して言う
「『れでぃ』?」
バッツスクロイツがラナへ振り返って言う
「あれー?こっちじゃー 女の子の事『レディ』って 言わないのー?」
ソニヤが言う
「『こっち』ってどっちよ?」
バッツスクロイツが初めて知った様子で 空を見上げて言う
「へぇー… やっぱー ちょーっち 違ったりー?するんだー?」
独り言を言うバッツスクロイツの下へザッツロードたちが集まり ザッツロードが言う
「仲間を助けてくれて有難う!本当に 危ない所だった」
ザッツロードの言葉に 振り返ったバッツスクロイツが笑顔で言う
「だな!レディに先行させるなんてー あんた、ジェントルメンじゃないぜ?」
ザッツロードが問う
「じぇ…『じぇんとるめん』?」
疑問し顔を引きつらせるザッツロード バッツスクロイツがその様子に気付いて 再び空を見上げて言う
「あぁー ジェントルマンも言わないーっかぁ… あ、あれだ、代名詞は気を付けないとー …だな?」
再び独り言を言うバッツスクロイツに ザッツロードたちが疑問する セーリアが呆気に取られて言う
「…変な人 ね」
思わず言ったセーリアに ザッツロードたちが驚いてから苦笑する そんなザッツロードたちに気付かぬまま視線を戻したバッツスクロイツが言う
「さて、んじゃ 俺たちーはこれで!気を付けろよ?この辺けっこー マシーンの残骸があるーって 感じだから!」
片手をひらひらさせ バッツスクロイツはアンドロイドと共にその場を立ち去る ザッツロードが言いかける
「あ…」
思わず片手で追おうとしたザッツロード 向けていた手を戻し首を傾けて言う
「『ましーん』って… 何だろう…?」
ザッツロードの仲間たちが ザッツロードの後ろで同じ様に首を傾げる

【 スプローニ国 】

スプローニ城へ向かうザッツロードたち 城下町に人々の歓声が上がる 声のした方を向いてラナが言う
「何かしら 随分にぎやかね」
足を止めるザッツロードたち しかしザッツロードが言う
「分からないけど、とりあえず 先にお城へ行って宝玉を預かろう?確認はその後で」
ザッツロードの言葉にセーリアが頷く
「そうね、宝玉を預かる事が最優先だわ」
ザッツロード、セーリア、デス、ヘクターが先行し ソニヤが慌てて言う
「あ!ちょっと 待ってよぉ~」
ソニヤとラナが追いかける スプローニ城へ入るザッツロードたちその隣を大剣使いと黒いローブで全身を纏った人物が通り過ぎる それを目で追うソニヤ 皆が先に行き置いてかれそうになって ラナに呼ばれる
「置いてくわよ」
ソニヤが言う
「あ、もぉお~ 待ってったらぁ~」
ソニヤが慌てて追いかける 玉座の間入り口で衛兵に名乗るザッツロード 衛兵が問う
「うん?今回の勇者様はアバロンの大剣使いとは別行動なんだな?」
兵の言葉に疑問するザッツロード
「え?」
もう1人の兵が「おいっ…」とザッツロードと話した兵を叱る様に声を掛け 首を横に振る その様子に会話をしていた兵があっと声を漏らすと 改めて言う
「いや、なんでもない 聞かなかった事にしてくれ」
言い終えると共に王へ来客を告げる
「ローレシア国第二王子、ザッツロード殿とお仲間の方々です!」
「通せ!」
「はっ!」
兵に手で合図をされ ザッツロードたちが玉座の間へ進み入る 玉座に座るスプローニ国王の前へ跪くザッツロードが言う
「ローレシア国第二王子、ザッツロードです スプローニ国国王ラグヴェルス陛下、お目通り有難う御座います」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王が頷いて言う
「うむ、我がスプローニ国へよくぞ参られた ザッツロード王子… それとも 勇者ザッツロード殿とお呼びするべきだろうか?」
敬礼するザッツロード スプローニ国王が再び頷いて言う
「そなたがこの場所に来た理由は、言わずとも分かる しかし、時既に遅しだ 我が国の宝玉は アバロン国の大剣使いオライオン殿に託した」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?アバロンの…!?」
スプローニ国王が三度頷いて言う
「わしも悩んだ…しかし、オライオン殿であれ、勇者ザッツロード殿であれ、わしから見ればどちらも先代勇者とその仲間の血族 わしはそなたらが行うであろう事を 信じている」
ザッツロードが一瞬呆気に取られた後言う
「ラグヴェルス陛下… 有難う御座います!」
頭を下げるザッツロードへ スプローニ国王が続ける
「世界には 先代勇者ザッツロードとその仲間たちの行いが 間違いであったのでは無いかと疑う者も居る、しかし 魔王と強大な悪魔力を相手に戦い抜いた彼らを わしは誇りに思っておる だが、彼らは…今も島に残された仲間の事を想い嘆いておる 現代の勇者ザッツロード殿、どうか再び アバロン国の大剣使いオライオン殿と共に彼らを その苦しみから解放してやって欲しい」
スプローニ国王の言葉に ザッツロードは考えてから顔を上げ問う
「島に残されたと言うのは… ガルバディア国のプログラマーの事ですね?」
ザッツロードの問いにスプローニ国王が頷く ザッツロードが続ける
「ラグヴェルス陛下、ソルベキア国の調査の者が言うには その… 現在あの島に 生命反応は 無い… との事です 残念ですが 恐らく、そのプログラマーは もう…」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王は静かに息を吐いて言う
「周囲を悪魔力に覆われ 日の光りも差し込まぬ結界の中で 15年の年月を生き抜ける者は… 到底居ないだろう その事は彼らも分かっている筈、それでも 共に戦った仲間の身体や魂があの島には今もある筈だ たとえ骨や塵になっていたとしても… その一片でもこの大陸に帰してやれれば それで良い」
スプローニ国王の言葉に ザッツロードは頷き敬礼して言う
「はい!私は先代勇者の仲間を あの島から きっと救い出します!」
ザッツロードの言葉を聞いて スプローニ国王が深く頷く
「彼らに代わり、わしから頼ませてもらおう 勇者ザッツロード、どうかよろしく頼む」
ザッツロードが言う
「はい!ラグヴェルス陛下!」

王との謁見をすませたザッツロードと仲間たちがスプローニ城から外へ向かう ソニヤがザッツロードを振り返って言う
「スプローニのラグヴェルス陛下は 変わってなかったね?」
ザッツロードが微笑して言う
「うん、スプローニのラグヴェルス陛下は 前回の時も勇者と仲間たちを信じてくれて… 結果的に失敗してしまったのにも拘らず また僕達に期待してくれた… その期待に今度こそ答えたい」
ザッツロードの言葉に仲間たちが頷く ザッツロードたちから離れて歩いていたヘクター(偽)とデス(偽) ヘクター(偽)が遠くを見て言う
「あ?あれ!アバロンの大剣使いじゃねーか!」
ヘクター(偽)の言葉にザッツロードたちが ヘクター(偽)の視線の先を見る 彼らの視線の先では オライオン&シュライツvsロスラグ の戦いが行われている ラナが言う
「ねえ、あの大剣使い ラグヴェルス陛下が言っていた アバロンのオライオンって人じゃない?」
ラナに続きソニヤが言う
「あー!そーだよ!あたし、さっきあの人お城の前で見たもん!」
ザッツロードが言う
「行ってみよう!」
ザッツロードの言葉に皆が頷いて走り出す 

オライオンとロスラグが激しく戦っている ロスラグの発砲した銃弾をオライオンが大剣の側面で防ぎ更にそこへ振るわれる長剣を身を翻(ひるがえ)してかわす その様子を見てソニヤ、ラナ、セーリアが言う
「見てあの人!銃と長剣を!」
「両方使うなんて…」
「なんて器用な方なのかしら…」
ザッツロードたちの前でロスラグが見事に片手づつに持った銃と剣 両方の武器を使いこなす オライオンとロスラグの間合いが広がり 両者が一度間を置いて オライオンが言う
「お前、口だけじゃなくて中々やるじゃねーか!」
ロスラグが言う
「『口だけ』は余計だ!今からでもかまわん!命が惜しければ 大人しくその宝玉を渡せ!」
ロスラグが言って長剣をオライオンへ向ける ロスラグの言葉にザッツロードたちが驚き ソニヤが言う
「え!?あの人も宝玉を狙ってるの!?」
セーリアが言う
「一体 彼の先代は誰かしら?」
ラナが言う
「長剣使いの…ヴェルアロンスライツァー?それとも銃使いのロキ?」
ザッツロードが続けて言う
「もしかして… その両方だったり?」
仲間たちが驚いてザッツロードを向いてから 互いに顔を見合わせ ソニヤが言う
「た、確かに 両 方…?」
彼らの戦いが再開される オライオンが言う
「悪ぃけど!あんま遊んでる暇ねーから 相棒の力も使わせてもらうぜ?!」
オライオンが言うと今までオライオンの後方に離れていた 黒いローブのシュライツが空に浮かび上がる それを見てラナが言う
「まさかっ あのローブの人!」
ソニヤが言う
「ガルバディアのウィザード!?」
シュライツが両手に炎を灯しオライオンの大剣へ放つ オライオンの大剣がそれを受け 大剣に炎が灯る それを見たロスラグが言う
「…アバロンの魔法剣士とは卿の事か!だが俺も負けんっ!」
ロスラグが左腕に取り付けている機械を操作し プログラムで出来た透明な盾を左腕に装着する オライオンの魔法剣を盾で防ぎつつロスラグが剣を振るう オライオンへ振るわれたロスラグの剣をシュライツがソードバリアを張って防ぐ そのまま戦いが続くが両者一歩も譲らない やがて息を切らした2人が地に膝を付き オライオンが言う
「はぁ、はぁ、…お前、器用な奴だな はぁ」
ロスラグが言う
「…はぁ、はぁ、卿こそ 本気の俺をここまで追い詰めるとは… 流石は アバロン国3番隊隊長ヘクターの息子 と言う所か…」
言い終えたロスラグが立ち上がり言う
「…卿になら 宝玉を預けられる、認めよう 行くが良い!」
オライオンも言いながら立ち上がる
「お?まじか?良かったぁ~」
オライオンがロスラグと握手して言う
「お互い宝玉を集めて いつか落ち合おうぜ!」
ロスラグが呆気に取られて言う
「…なるほど、それも良いか… よし!分かった!」
握手を終えたオライオンがシュライツと共にスプローニ国を後にする その後姿を見送ったロスラグが ザッツロードたちへ振り返って言う
「…それで?諸卿は俺に用か?さっきっから ずーーっと見てたッスね?!チョー気になってたッス!」
ロスラグが長剣と銃を収納し腕の機械を操作してプログラムを終了させる ザッツロードたちがロスラグの傍へ行って自己紹介する
「あの、僕はローレシア国の第二王子ザッツロード7世です、後ろにいるのが―」
ザッツロードの言葉を制しロスラグが凄い形相で怒り 瞬時に剣と銃を向けて言う
「ローレシアのザッツロ… !まさかっ お前か!…じゃなかった 貴殿か!勇者ザッツロードと言うのは!!」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え!?え!?い、一体…っ」
ロスラグが怒って言う
「貴殿が勇者ザッツロードなのか?と訊いている!答えよ!勇者ザッツロード!!」
ロスラグの行動に終始驚いていたザッツロードと仲間たち ソニヤが言う
「勇者ザッツロード~って 呼びながらザッツロードか?って質問してるよ?あの人」
ラナが呆れて言う
「…聞いているこっちの頭がおかしくなりそうだわ」
ザッツロードが焦りながら言う
「あの、はい、僕が3代目の勇者ザッツロードですが…あなたは?」
ザッツロードの言葉にロスラグが目を見開き 次に強く瞑り全身の力を上昇させながら言う
「俺は…私はっ!この日を待っていたぞ!勇者ザッツロード!我が師 スプローニ国第二部隊ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長の仇!彼らに代わりに このヴェルアロンロキスライグが取ってくれるっ!!」
ザッツロードが衝撃を受け焦って言う
「へ?ええ?いや、ちょっと待ってくれっ」
ロスラグが叫ぶ
「問答無用!いざっ参る!!」
言うと共にロスラグがザッツロードへ攻撃を開始する 遅れたザッツロードが呆気に取られる ロスラグの剣をヘクター(偽)が防ぐ ザッツロードがハッとして言う
「ヘクターっ!?」
ヘクター(偽)が言う
「ザッツ!早く剣を抜け!コイツ 言っても分かりそうにねぇよ!」
ザッツロードが慌てて言う
「で、でも」
体勢を整えたロスラグが再び攻撃を開始する ロスラグの銃弾を大剣の側面でふせぐヘクター(偽) 続けて振り下ろされた長剣の攻撃を後方に回避 しかし ロスラグが言う
「甘いっ!」
ロスラグが長剣の特性であるその長さを生かし 続け様に突き攻撃を行う 咄嗟に避けたヘクター(偽)の腕を傷つける ヘクター(偽)が悲鳴を上げる
「クッ!」
ザッツロードが焦って言う
「ヘクター!…仕方ないっ」
ザッツロードが言うと共に剣を抜いてロスラグへ斬り付ける ロスラグが銃を放つ 一瞬焦るザッツロード その銃弾がバリアに弾かれる ロスラグが視線をバリアを放ったラナへ向け 次の瞬間ラナへ長剣を振るう そこへソニヤの放った炎がロスラグへ向けられる それに気付いたロスラグが回避 ザッツロードたちから一度離れ 再び体勢を整える
ロスラグが自分の前に並んだザッツロードたちを見て チッと舌打ちをしてから左腕の機械を操作して剣に銃弾を打ち込む 剣に炎が灯されゴウゴウと燃える ザッツロードたちが目を奪われる ニッと笑ったロスラグが剣を振りかざしながら言う
「これでも食らえー!」
ロスラグが剣を振るうと 炎がザッツロードたち目掛けて襲い掛かる 焦るザッツロードとヘクター(偽) ミラがマジックバリアを張る そのマジックバリアを切り裂きロスラグがザッツロードへ斬り付ける ザッツロードが剣で防御 ロスラグへ襲い掛かろうとするヘクター(偽)ロスラグが銃をヘクター(偽)へ発砲 ソニヤの炎をロスラグが透明な盾で防ぐ ロスラグがザッツロード目掛けて攻撃を続ける セーリアがザッツロードへ先読みの魔法を放つ それを受けてザッツロードの回避率が上昇 しばらく戦いを続けて 再び両者の間合いが開く ザッツロードの後ろでソニヤが言う
「ちょっと!あいつ変だけど強いよ!」
ロスラグが怒って 剣で示して言う
「『変だけど』は余計だ!そこの魔術師!」
ソニヤが怒って言い返す
「あたしは魔法使いよ!!」
ヘクター(偽)が言う
「けど、まじで 変だけど厄介な相手だぜ、どうする?」
ザッツロードがヘクター(偽)へ少し顔を向けて返事をしようとすると ロスラグが銃口をヘクター(偽)へ向けて言う
「おい!そこも!『変だけど』はお互い様だ!偽者大剣使い!」
ヘクター(偽)が焦って言う
「て、てめーっ!」
少し顔を向けていたザッツロードが しっかりヘクター(偽)へ顔を向けて問う
「え?偽者って…?」
ザッツロードの問いに ヘクター(偽)が焦って言う
「え!?いや、あのっ…」
ロスラグが衝撃を受けて言う
「あー!!お前ら!俺を無視して 話してんじゃねーッス!」
言いながらロスラグが左手の機械を操作して 銃を剣に放つ 再び剣に炎が灯る ザッツロードの仲間たちが戦闘態勢に戻り ロスラグへ向く ロスラグが剣を握り締めザッツロードへ視線を向ける その剣の炎が弱まって消える それに気付いて視線を剣へ向け ハッとして言う
「あーっ!チャージが… な、ならば 実力のみ!」
ロスラグが武器を構え直す ヘクター(偽)がロスラグへ武器を構えて言う
「い、今はそれ所じゃねぇーだろっ!」
ヘクター(偽)の言動に ザッツロードも剣を構え直して言う
「あ、うん、そうだね!」
ロスラグが剣を向けて言う
「勇者ザッツロードよ!このヴェルアロンロキスライグが成敗してくれる!!だあああ!!」
ロスラグが言うと共にザッツロード目掛け突撃する ザッツロードが構える 剣を振り上げるロスラグ その剣が振り下ろされる前に ロスラグの剣と銃が横から押さえられる 皆が驚き ロスラグを押さえる人物へ視線が行く ヴェルアロンスライツァーが言う
「何事かと来てみれば やはり貴殿だったか」
ロキが続けて言う
「…卿は何をしている?」
ロスラグが自分を抑えるヴェルアロンスライツァーとロキに驚いて言う
「ロキ隊長!ヴェルアロンスライツァー副隊長!」
3人の様子を見てソニヤが言う
「…え?なに?どうなってるの?」
ラナも戦闘態勢を解除して言う
「あの2人」
セーリアが横に来て言う
「先代勇者と同行した ローゼント国のヴェルアロンスライツァーとスプローニ国のロキだわ」
ザッツロードとヘクター(偽)も武器を下ろして顔を見合わせる ロスラグがもがきながら言う
「は、離して下さいッス!ロキ隊長!ヴェルアロンスライツァー副隊長!こいつら 例の勇者ッスよ!また宝玉を狙って来やがったッスよ!」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「それで、何故貴殿が応戦している」
ロキが呆れて言う
「…応戦では無く 卿が一方的に迷惑を掛けたのだろう」
ロスラグが言う
「お、俺はっ…」
ヴェルアロンスライツァーとロキがザッツロードたちへ振り向いて ヴェルアロンスライツァーが言う
「隊員が迷惑を掛けた、謝ろう」
ロキが言う
「…コレの事は気にせず 行ってくれて構わない」
ロスラグが言う
「『コレ』って言わないで欲しいッス ロキ隊長、ヴェルアロンスライツァー副隊長も 俺の事は名前で呼んで欲しいッス!」
ロスラグがもがきながら言う ヴェルアロンスライツァーがロスラグへ顔を向けて言う
「ならば貴殿は 我らへ己の名を教える事だ」
ロスラグが言う
「ヴェルアロンロキスライグッスよ!いっつも言ってるじゃないッスか!」
ロキが言う
「…本名とは思えん」
ロキが顔を背ける ヴェルアロンスライツァーが無表情に間を置いてから言う
「分かった、隊員A 大人しく訓練へ戻れ」
ロスラグが衝撃を受けて言う
「『隊員A』になっちゃったッスか!?せめてロスラグって呼んで下さいッス~」
ロスラグが半泣きでもがくが2人に片腕ずつ掴まれ連行されて行く ザッツロードがハッと我に返って呼び止める
「あ、待って下さい!ロキ、ヴェルアロンスライツァー!」
ザッツロードに呼ばれ 2人が足を止める ロスラグがザッツロードを睨み付けて言う
「おいっお前!ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長を 呼び捨てにすんじゃねえッス!」
ザッツロードがロスラグを押さえる2人に近づく ロキとヴェルアロンスライツァーが互いに顔を見合わせてから ロスラグを離し ザッツロードへ向き直りヴェルアロンスライツァーが言う
「私とロキに何か用だろうか?勇者ザッツロード」
ザッツロードがヴェルアロンスライツァーへ顔を向け問う
「あ…あの、僕たちは宝玉を集め魔王の島へ向かい 結界の修復を行うつもりです …えっと、急な相談なのですが、先代勇者ザッツロードと共に戦って下さった あなた方2人の助力を頂けると…」
ザッツロードが語尾を弱めて2人へ視線を向ける ソニヤが駆けつけて続ける
「そうよ!今回も力を貸して欲しいの!ね?良いでしょ!?」
ラナが走って来てソニヤへ言う
「ちょっと!礼儀をわきまえなさい」
セーリアもやって来て言う
「私たちが知らない魔王の事も 良くご存知なのでは と思います、どうか世界の為に 今一度勇者ザッツロードに力を貸して頂けないでしょうか?」
ザッツロードたちの言葉を聞いて ロスラグが叫ぶ
「だーれがローレシアのヘボ勇者になんかに 手を貸すモンかッス!さっさと国へ帰れッス!」
ソニヤが怒って言う
「あんたになんか頼んで無いわよ!」
ヴェルアロンスライツァーとロキがザッツロードから一度視線を外し ヴェルアロンスライツァーが言う
「申し訳ないが、貴殿からのお誘い 私は引き受けかねる」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にソニヤが声を上げる
「そんなっ!」
ソニアに続きラナがロキを見上げて言う
「ロキ、このスプローニ国のある 世界を守るため、もう一度勇者に力を貸して貰いたいの」
ロキは無言で顔を横に振る ラナが驚いて言う
「そんなっどうして?!」
ロキが答える
「…たとえ世界が救われても 帰るべき国を失っては意味が無い 俺は、スプローニ国を守る兵だ」
ロキの言葉を聞いてソニヤが叫ぶ
「なんでまたそっちに行っちゃってんのよ!?前は 世界が救われないと国も無くなっちゃう って言ったじゃない!?」
ソニヤの言葉を聞いたヴェルアロンスライツァーとロキが一瞬驚き ロキが言う
「…確かに、以前の時はそうだった だが、今は この国が危険に晒されている、俺はそれを知った上で 国を離れる事は出来ない」
ロキの言葉を聞いたセーリアがヴェルアロンスライツァーを見上げて問う
「あなたも このスプローニ国を守る為に?」
ヴェルアロンスライツァーがセーリアへ向き直って言う
「スプローニ国に危険が迫ったとあれば このヴェルアロンスライツァー、全力を持って 恩義あるスプローニ国を守らせてもらう だが、それとは別に 私にはやらねばならぬ事もある 私にとってそれは 世界を救う事以上に値する」
ソニヤが驚いて言う
「世界を救う事以上!?」
ラナも声に出さないまでも同じ位驚く 話を聞いていたザッツロードが頷いて言う
「分かりました、ロキ、ヴェルアロンスライツァー、先代勇者への助力、当人に代わり 礼を言わせて貰います」
敬礼して言ったザッツロード ヴェルアロンスライツァーが軽い敬礼で返し ロキが無言で受け取る ヴェルアロンスライツァーが言う
「3代目勇者ザッツロード殿、貴殿の活躍を願う」
ロキが言う
「…精々励む事だ」
2人が立ち去り それをロスラグが追う ザッツロードが少し残念そうに微笑してから仲間へ振り返り言う
「残念だったけど しょうが無い、さぁ、シュレイザー国へ向かおうか?」
ザッツロードの言葉にソニヤ、ラナ、セーリアが頷く ザッツロードがヘクター(偽)とデス(偽)へ目を向けて言う 
「そう言えば…」
ヘクター(偽)がザッツロードの視線に 焦って言う
「あ!あのよ…?えっとぉ~」
隣のデス(偽)へ視線を向けてから 改めてザッツロードへ視線を戻して言う
「わりぃ!あのさ!?俺ら… この辺で抜けるわ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
皆も驚き ソニヤが詰め寄って言う
「何で?そんな急に!?」
ヘクター(偽)が焦りながら後ろのデス(偽)の元まで下がりつつ言う
「あ~ほら、俺もーこの国で?ちょと修行するってのも 良いかなぁ~なんて?…って事で!」
ラナが声を掛ける
「ちょっと!?ヘクター!?」
ヘクター(偽)はデス(偽)の手を取り逃げる様に走り去っていく ザッツロードが慌てて言う
「あっ!ヘクター!デス!」
ザッツロードが声を掛けるが 2人は振り返る事無く遠ざかって行く ザッツロードが言う 
「ちゃんと… お礼言おうと思ったんだけどな…?」
残されたザッツロードが頭を掻く

ソニヤが困った様子で言う
「え~!どうしよー!?」
ザッツロードが振り返り言う
「どうかしたのかい?ソニヤ?」
ソニヤが怒って言う
「どうかしたのかい?じゃないわよ!ヘクターが抜けちゃったじゃない!」
ザッツロードが呆気に取られつつ言う
「え…?いや、しょうがないよ、ヘクターたちにも用があるんだろうし」
ソニヤに言うザッツロード ザッツロードの横に来てラナが言う
「しょうがない…と言うか、あのヘクターたちって最初から何だか様子がおかしかったのよね」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?そうだったかい?」
ラナが驚いて言う
「まさか!?気付いてなかったって訳じゃ…」
驚くラナの横へセーリアが来て言う
「ま、まぁ…今はそれよりも なんとかシュレイザー国まで行って 宝玉を得ないと」
セーリアに顔を向けてザッツロードが頷き言う
「うん、ヘクターたちが抜けてしまって大変かもしれないけど みんなで力を合わせれば きっと何とかなるはずだよ」
ザッツロードが言うと共に歩き始める ソニヤが呆れて言う
「もぉ~何でそんなに楽観的なんだろ?先代勇者はもっと心配してたじゃな~い」
ラナが言う
「ザッツは先代じゃなくて現代の勇者様よ」
言いながらラナがザッツロードを追う セーリアも微笑み それに続く

【 スプローニ国→シュレイザー国 】

スプローニ国を出たザッツロードたち シュレイザー国へ向かう 道中 ザッツロードたちはソルベキア国のロボット兵と戦う ミラとソニヤが同時に魔法詠唱を行い ミラが言う
「ザッツ!ロボット兵には通常の魔法が通じないわ 私たちが魔力をあなたの剣に送るから!」
ソニヤが続けて言う
「受け取んなさいよ~!?」
ミラとソニヤがザッツロードの持つ剣へ炎の魔法を灯す ザッツロードが慌てて言う
「っ!ふ、2人分の魔法は大きすぎるよっ!」
ザッツロードが剣に受け取った魔力の大きさに顔を歪ませる ザッツロードにロボット兵が襲い掛かる セーリアが叫ぶ
「ザッツ!危ないわ!」
ザッツロードが自分に襲い掛かるロボット兵へ視線を向け 魔力の強すぎる剣を必死に振りかざす ザッツロードの魔法剣でロボット兵が吹き飛ばされる 残りのロボット兵がザッツロードと仲間たちに襲い掛かる ザッツロードが剣を振るいロボット兵たちを引き付けて言う
「僕が引き付ける!その間に皆逃げるんだ!」
ソニヤが叫ぶ
「そんな事 出来る訳無いじゃない!」
ソニアが皆から離れたザッツロードの下へ向かう ラナが叫んでソニヤの後を追おうとする 
「ソニヤ!」
その手をセーリアが掴んで言う
「ラナ!私たちで助けを呼びに行きましょ!」
ラナが振り返って叫ぶ 
「助けって何処に!?」
その間にセーリアが移動魔法の詠唱を開始している ラナがザッツロードたちへ向けて叫ぶ
「ザッツ!ソニヤ!すぐ戻るから!必ず待ってなさいよ!」
ラナが言っている間に移動魔法が終了し2人が消える 2人が消えるのとほぼ同時にソニヤの魔法詠唱が終了し ザッツロードの剣に放たれる ザッツロードがロボット兵と戦う

3体のロボット兵のうち 1体を倒した頃 セーリアたちがアンドロイドとバッツスクロイツを連れて帰って来る ラナがバッツの腕を掴んで叫ぶ
「あれよ!お願い!早く助けてあげて」
バッツスクロイツがのん気に言って アンドロイドへザッツロードたちを指差す 
「オーケーオーケー!よし、デス、サクッっとやっちまってくれ」
アンドロイドがロボット兵たちへ視線を向け 武器を持って飛び掛る あっという間に2体のロボット兵が倒される 呆気に取られるザッツロードとソニヤ その前でアンドロイドが武器を片付けバッツスクロイツの近くへ戻る ラナとセーリアがホッと胸を撫で下ろす ザッツロードとソニヤがやって来てザッツロードが言う
「先日に引き続き、助かりました」
バッツスクロイツへ微笑と共に言うザッツロード バッツスクロイツが笑顔で答える
「ああ!デンジャラスな所だったな?だから言っただろー?この辺マシーンの残骸が多いから気をつけろーって?」
ザッツロードが頷いて言う
「はい、すみません、折角警告を頂いていたのに」
ザッツロードの謝罪を笑顔で受け取るバッツスクロイツ それを見てザッツロードが皆へ問う
「ところで…?一体どうやって彼らを?」
ザッツロードの問いにバッツスクロイツが答える
「いやーびっくりしたってぇー?道端で休憩ーしてたら?このレディたちが 超俺目掛けて空から飛んで来るーんだから!デスが止めなかったら?俺に直撃だったーっての!」
バッツスクロイツの言葉にセーリアが顔を赤くして両手で覆って言う
「ご、ごめんなさい、焦っていたものだから つい…」
ラナが苦笑しながらフォローする
「まぁ、あの状況じゃしょうがないわよ、咄嗟に彼らの事思い出せただけでも大したものだわ」
ザッツロードも微笑んで言う
「うん、本当に セーリアの機転が無かったら 僕たちはあのままロボット兵にやられてた ありがとう、セーリア、ラナも」
ラナが苦笑して言う
「私は…何も…」
視線を下げるラナにセーリアが言う
「ラナが必死にお願いしてくれたのよ?私だけだったら 連れて来られなかったかも知れないわ」
セーリアの言葉を聞いてバッツスクロイツが笑って言う
「そうそう!そっちのレディの 涙の訴えーに コロッとねー?」
バッツスクロイツの言葉にラナが顔を赤くして怒る 
「ちょっ!」
バッツスクロイツがにやにや笑う 皆が笑う ひと段落して ザッツロードが改めてバッツスクロイツへ向いて言う
「2度も助けてもらって 本当に有難う 僕はザッツロード こちらがソニヤ、ラナ、セーリア 君達は?」
ザッツロードの言葉に バッツスクロイツが笑顔で自分を親指で指して名乗る
「俺はバッツ、こっちはデスだ」
ソニヤとラナが声を合わせて驚く 
「「デスー!?」」
バッツスクロイツがそれに驚く 
「え?」
バッツスクロイツが改めて言う
「あ~ 正式にはDemonic Subaltern Uhlan試作0号機なんだよ、だから頭とってDeSU デスって事なんだけどー…」
バッツスクロイツが得意げに言ってザッツロードたちを見る ザッツロードたちがポカーンとしている それに気付いたバッツスクロイツが空笑いしながら言う
「えーっと、ちょっちこっちの世界じゃ難しかったかな?あぁ、ついでに俺は バッツスクロイツってのが本名だけど、まー バッツで良いから?」
バッツスクロイツが片手をひらひらさせて言う ザッツロードたちが何とか平常心に戻り ソニヤがアンドロイドのデスを見上げながら言う
「えーっと、それじゃバッツ?このロボット兵はソルベキアのロボット兵なの?随分形が違うけど」
ソニヤの問いに 一度ソニヤへ視線を向けたバッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げて言う
「いや、違うぜレディ、コイツはそのロボット兵ってのとは違う 俺はー そのソルベキアって国は 知らないんだけど その国が造ったって言うあのロボット達の事ならある程度は分かってる あいつらは動力エネルギーが空気中の電子だろ?けど、デスは俺たちと同じ、水や食料をエネルギーに変換してるんだ だからエネルギー変換用のシステムが小型化出来て、より人間に近いサイズに出来る …それとソートプロセッサーをAIと分離してないなんて、俺から見るとナンセンス!これじゃいつまでたっても…」
バッツスクロイツがペラペラ話す ザッツロードたちは理解出来ず 顔を引きつらせる それに気付いてバッツスクロイツが話を止めて言う
「あぁー ゴメンゴメン、メカの話になるとつい」
言いながら頭を掻くバッツスクロイツ ザッツロードが改めて問う
「とりあえず、ソルベキアのロボット兵とは違うって事と、とても強いって事は分かったよ」
バッツスクロイツが頷きながら言う 
「おーけー!それで十分だ」
ザッツロードがバッツスクロイツの正面から言う
「それで、何度も助けてもらっておいてこんな事言うのも難だけど どうか1つ 頼まれて欲しいんだ シュレイザー国まで 僕らと一緒に来てもらえないだろうか?」
ザッツロードの言葉を特に驚く事無く聞くバッツスクロイツが ザッツロードの仲間たちへ一度視線を巡らせてから言う
「もーちろん、この先も危険だって分かってるーのに?そこへレディたちと アンタ1人を行かせるーなんて事、出来ないーってね?」
ザッツロードの仲間たちが喜ぶ ザッツロードも表情を明るめてから言う
「助かるよ!これで安心だ」
ザッツロードの言葉にバッツスクロイツがうんうんと頷く

【 シュレイザー国 】

城下町へ入ったザッツロードたち バッツスクロイツが初めて見るその風景に歓声を上げる
「すげー!見ろよデス!あれ船だぜ!?木造で!ホントに海の上に浮いてるなんてー すげー感動だ!それにあの家!家も木で出来てるぜ!?ウッドハウスってまじで!超ナチュラルって感じー?」
この世界で普通の事に驚き感激するバッツスクロイツを ザッツロードたちが不思議そうに眺める
「ねぇザッツ、バッツって…なんか変」
ソニヤの言葉に苦笑しながら答えるザッツロード 
「あ…はは… ま、まぁ良いんじゃないかな?船を見るのが初めての人は 居るだろうし…」
ラナが言って首を傾げる 
「船を見るのが初めてなのは分かるとして…木で造られた家が無い国なんて それこそ無いはずよ」
セーリアが同じく苦笑しながら言う
「ま、まぁまぁ、シュレイザー城へ行きましょ?ね?」

【 シュレイザー城 】

ザッツロードたちがシュレイザー城へ向かう 城内へ入り玉座の間の前へ辿り着くと中からオライオンの声がする
「あんたが持ってたって何の役にも立たないだろ!俺に渡せって!」
続いてシュレイザー国王の声が続く 
「い、嫌じゃ~ 宝玉は わ、渡さんぞぉ~」
ザッツロードたちが顔を見合わせ入り口前の衛兵へ名乗る
「私はローレシア国第二王子のザッツロード7世です、シュレイザー国王陛下へ謁見をお願いします」
ザッツロードの言葉を聞いた衛兵が シュレイザー国王へ進言する
「ローレシア国第二王子ザッツロード7世殿です!」
その言葉に シュレイザー国王が答える
「あぁあ~~ な、何という事だ ま、また勇者殿がぁ~… と、通せ~~」
玉座の間へ通されたザッツロードたち 中へ入ると シュレイザー国王の前に居るオライオンが振り返る ザッツロードがオライオンの隣に跪く、隣のオライオンがザッツロードへ向く ザッツロードがシュレイザー国王へ敬礼して言う
「ローレシア国第二王子ザッツロード7世です」
ザッツロードの言葉を聞いたオライオンが言う
「ローレシアのザッツロード… もしかして勇者ザッツロードか!?」
オライオンの言葉にザッツロードが顔を向けて言う
「ああ、君がアバロン国の大剣使いだね?名前は…確かオライオンだったかな?」
二人の前でシュレイザー国王が玉座で身を縮めながら言う
「ど、どっちにも渡さん~~ わ、渡さんぞぉ~~」
それを聞いたザッツロードが驚いて言う
「え?!シュ、シュレイザー国国王陛下、私は魔王の島の結界を再生させる為、その宝玉をお借りしたく」
ザッツロードがそこまで言うと シュレイザー国王が顔を横に振って言う
「い、嫌じゃ~~ ど、どうせまた失敗するのであろ~~? そ、そうに決まっておる~~!」
言いながら宝玉を両手で握り締めて 玉座に縮まる ザッツロードが焦って言う
「いいえ!宝玉が無ければ 結界が壊れて悪魔力が世界に溢れてしまいます シュレイザー国国王陛下!どうかその宝玉を私にお貸し下さい その宝玉の力が必要なのです!」
ザッツロードが言うと 今まで縮まっていたシュレイザー国王が 顔をザッツロードへ向けて言う
「そ、それは困る… し、しかし~~ お、おい、 そっちの~~ ボウボウ頭!お、お前も宝玉で ま、魔王の島へ い、行くと言うておったな? ど、どっちが し、失敗しないのだ~~?」
シュレイザー国王の言葉にザッツロードが隣のオライオンへ振り向く オライオンがその視線に気付いて言う
「あ?ボウボウ頭って… 俺の事か?」
ザッツロードが苦笑し シュレイザー国王が頷く オライオンが言う
「俺が魔王をぶっ倒す!!」
その言葉にザッツロードが驚いて言う
「な!?魔王は倒せないよ!?」
オライオンが疑問して言う
「あ?」
ザッツロードが説明する
「魔王は悪魔力に操られているんだ、悪魔力がある限り 魔王はその動きを止める事が無いんだよ」
ザッツロードの言葉を聞いてオライオンがニヤッと笑って言う
「なら!その悪魔力を止めれば良いんだろ?」
オライオンの言葉にザッツロードが首を傾げて言う
「止めるって!?今のところ結界で防ぐしか無いはずだよ!?」
オライオンが言う
「あ?結界で?んな事したら また犠牲になる奴とか出んじゃねーか?!親父が言ってたぜ?10年しか持たない筈だった結界が10年以上持ってるのは 親父の相棒のプログラマーが 凄いプログラムで結界を守ってるんだって」
ザッツロードが驚いて言う
「それは本当かい!?」
シュレイザー国王が慌てて言う
「お、おい~~!?よ、余を無視して~~ ふ、2人で話すでない~~っ」
シュレイザー国王の言葉を無視して ザッツロードが驚いてオライオンに詰め寄る オライオンが得意げに言う
「ああ!だから、親父はそのプログラマーを助ける為に旅に出たんだ!俺も親父の手助けをする為に旅に出た!まずは魔王の島に居る親父の相棒を助けて、今度こそ魔王の奴を倒してやるんだ!…って事で」
そこまで言ったオライオンがシュレイザー国王へ向き直って言う
「シュレイザー国王!その宝玉は俺がもらってくぜ!」
勢い良く言われ ビクリッと身を震わせるジュレイザー国王 オライオンとザッツロードを交互に見てから言う
「わ、分かった ほ、宝玉を~~ か、貸してやる、 で、で? ど、どっちが~~ ほ、本当に成し遂げるんじゃ?だ、だいたい~~ な、なんで アバロンのボウボウと勇者が べ、別々になっちょるんじゃ?」
シュレイザー国王が2人を交互に指差しながら問う ザッツロードとオライオンが顔を見合わせる その様子にシュレイザー国王が問う
「ふ、2人に分かれておったら~~ ど、どっちに預けたらよいか~~ わ、わ、分からんっ」
顔を見合わせていたザッツロードがオライオンへ言う
「オライオン、悪魔力を止める手があるのかい?宝玉に蓄積された聖魔力は前回より少ないんだ、とても悪魔力を止めるなんて」
言われたオライオンは 一度ザッツロードから視線を落とし 再び戻してから言う
「出来るかどうかは分からねーけど、親父の相棒のプログラマーを助けるには まず、あの島に入らなきゃいけねー その為に宝玉が必要なんだ」
オライオンの言葉にザッツロードが驚いて問う
「あの島に入るのに 宝玉が必要なのかい?」
ザッツロードの言葉にオライオンが驚く
「あ!?何言ってるんだよ?魔王の島の悪魔力はすげー濃度が高くなっちまったから 宝玉が無ければ 島に近付く事だって出来ねーんだぜ!?」
オライオンが言いながらシュレイザー国王を振り向く シュレイザー国王がうんうんと頷く
「よ、余とて~~ し、知っておるわ~~!だ、だから~~ あの島の調査は~~ ぜ~~んぜん はかどらないんじゃ~~」
シュレイザー国王の言葉にザッツロードが驚き 視線を落として言う
「そんな重要な事… 何故 父上は教えて下さらなかったのだろう…」
独り言を言うザッツロード それをオライオンとシュレイザー国王が見下ろし オライオンがシュレイザー国王へ言う
「シュレイザー国王!これで分かっただろ!?俺に預けるべきだって!」
ザッツロードが慌てて言う
「ま、待ってくれオライオン!」
オライオンは立ち上がってシュレイザー国王へ詰め寄る シュレイザー国王は後退りながらも言う
「わ、分かった~~ ボ、ボウボウ! お、お前に あ、預けてやるわ!」
ザッツロードが慌てて声を掛けるが 
「シュレイザー国王!?」
ザッツロードの目の前でシュレイザー国王からオライオンへ宝玉が渡される 受け取った宝玉を見つめオライオンがうんと1つ頷いて ザッツロードへ向きニッと笑って言う
「俺に任せとけって 3代目勇者!」
自信を持って言うオライオンへシュレイザー国王が言う
「おい~~っボ、ボウボウ~~!お、終ったら ちゃ、ちゃんと~~ 返すのだぞ~~?ぞ?」
シュレイザー国王の言葉に 振り返ったオライオンが頷いて言う
「ああ!ちゃんと返してやるよ!」
シュレイザー国王が言う
「そ、そうか~~、うんうん、それなら さ、さっさと~~ 行って参れ~~~、ほ、ほれっほれっ」
シュレイザー国王がオライオンを手で払う オライオンは苦笑しながらも出入り口へ向き ザッツロードへ声を掛けると共に走り出す
「じゃあなー!」
ザッツロードが慌てて言う
「オライオン!待ってくれ!あ、シュレイザー国王陛下 失礼致します!…オライオン!」
シュレイザー国王への挨拶もそこそこにザッツロードが走ってオライオンを追いかける ザッツロードの仲間たちが驚く中 ザッツロードとオライオンが両サイドを走り抜けて行く ソニヤが慌てて言う
「ちょ、ザッツ!待って!」
仲間たちも急いでその後を追う

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