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外伝1話

アールスローン戦記外伝 アールスローン真書 『反逆の兵士』

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4年前――

【 孤児院 】

子供たちが走り回っている マリが微笑んで子供たちを見ている 園内に鐘が鳴り マリが気付き見上げてから子供たちへ言う
「はーい 皆 お昼寝のお時間ですよー お部屋に戻りましょー?」
子供たちが返事をする
「はーいっ」
マリが子供たちを誘導している メルフェスが孤児院の外から見ていて微笑する 院長がマリの近くを通り掛って 外へ視線を向け気付いて言う
「メルフェス様」
マリが院長の声に振り返り 院長の視線の先を見る メルフェスが院長へ視線を向けてからマリを見る 院長が頭を下げる マリが慌ててそれに倣う

【 院内 】

マリが言う
「メルフェス・ラドム・カルメス様…?」
マリがハッとして言う
「た、確か 陛下の皇居宗主様ではっ!?」
副院長が微笑して頷いて言う
「ええ そうですね」
マリが呆気に取られて言う
「…え?で、でも 皇居宗主様は 政府の方で…」
副院長が頷いて言う
「そう 本来 政府のお方が寄付をされるのは 中層上層階級からの子供が保護される 教会や保育園への寄付だけですからね なので メルフェス様は お名前を伏せた上で この孤児院に寄付をして下されているのよ」
マリが微笑して言う
「お優しい方なのですね」
副院長が微笑して言う
「うっふふ そうね?」
マリが視線を遠くへ向ける マリの視線の先 院長とメルフェスが話をしている

【 通路 】

マリがのマーガレットの花束を手に 微笑しながら歩いて来て立ち止まり 通路上部に備え付けられている棚を見上げる 通路の途中の扉が開き 院長とメルフェスが出て来て 院長が言う
「本当に助かっております そして、もし可能であるのなら…」
メルフェスが言う
「はい 私に出来る限りの事は させて頂きます」
院長が言う
「別の孤児院への寄付をお願いするなど 失礼は重々承知なのですが 国防軍は現行 その名の通り国防への備えに余念が無いらしく 孤児院の方はどうしても…」
マリが2人の会話を横目にしてから 棚の上にある花瓶へ手を伸ばすが届かない マリが困り周囲を見るとおもちゃの箱がある メルフェスが言う
「特に今は その国防軍の総司令官が 歴代のハブロス家の者ではないですから あまり無理を言わない方が良いかもしれません そちらの孤児院の院長先生へも 私から伝えておきますが 今しばらくご辛抱を頂ければ きっと ハブロス家の者が総司令官へ返り咲くでしょう それまでは私も出来る限りの事は させて頂こうと思いますので」
マリが箱を取りに行く 院長が言う
「国防軍の管轄する 孤児院へ 政府の皇居宗主様であられる メルフェス様にお助けを頂けるとは 私どもも驚いていますが なにとぞ…」
マリが箱を置き その上に乗って花瓶へ手を伸ばす メルフェスが院長へ言う
「今は政府の者とは言え 幼い頃は 国防軍と孤児院に助けられた者です どうか これからも変わらずに お話を下さい 院長先生」
院長が微笑して言う
「有難う御座います マスター…」
マリがハッと反応すると 伸ばしていた手が花瓶に当たり 花瓶が落下する マリが驚き花瓶へ手を伸ばそうとするとバランスを崩し 箱から足を滑らせる マリが驚いて言う
「キャッ!」
マリが体を硬くして強く目を閉じる 一瞬の後 マリが目を開いて疑問した後 はっと気付いて顔を向けると メルフェスが微笑して言う
「ご無事かな?先生?」
マリが驚いてからハッと気付くと マリの体が抱き止められていて 落ちたはずの花瓶がメルフェスの片手に捕らえられている マリが呆気に取られてから慌てて体勢を直して言う
「ご、ごめんなさいっ」
マリが表情を困らせマーガレットの花束を思わず抱きしめる メルフェスが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「可憐な花ですね 貴方に とても良くお似合いだ」
マリが驚きマーガレットの花束を見る メルフェスが花瓶を見てから言う
「こちらでは 少し大きい様だが ご利用で?」
メルフェスが花瓶を向ける マリが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「あ…っ ごめんなさい 似たもので もう少し小さなものがあったのですが 見間違えてしまったみたいです」
院長がやって来て言う
「あぁ もうひとつの方は 明日の式典用に 今使ってしまっているのだよ」
マリが困って言う
「そ、そうだったのですか…」
院長が言う
「いつもより少し小さめの花束にしたら この花瓶では少々花が負けてしまってね あの花瓶が丁度良かったものだから」
マリが表情を落として言う
「そうでしたか… それなら…」
メルフェスが院長を見てからマリを見て微笑して言う
「豪華な花に豪華な花瓶では 互いに競い合ってしまうかもしれないが そちらの花であるなら… この花瓶であっても 仲良く出来るのではないかな?」
メルフェスがマリの手からマーガレットの花束を取り 花瓶に刺して手放す 花束と花瓶が程よく見える マリが呆気に取られて言う
「わぁ…」 
メルフェスがマリを見てから 両手で花瓶を向けて言う
「私は悪くないと思うが?」
メルフェスが微笑する マリが微笑んで言う
「はいっ ありがとうございます!」
マリが花瓶を受け取る メルフェスが軽く笑ってから院長へ向いて言う
「では 院長先生 私はこれで」
院長が頭を下げて言う
「はい、何卒 宜しくお願い致します メルフェス様」
マリが慌てて頭を下げる メルフェスが軽く会釈をしてから立ち去る 院長が立ち去る マリが院長を見送ってから メルフェスの後姿を見て 花瓶と花束を見てから言う
「お優しい方… 貴方たちの 王子様みたいね?」
マリがマーガレットの花に触れる 院長が部屋へ入り ドアの閉まる音がする マリがドアの方へ顔を向けてからふと気付いて言う
「あら…?」
マリがドアと倒れた箱の距離を見てから考えて言う
「あの時… メルフェス様は 近くにはいらっしゃらなかったのに… どうして?」
マリが花瓶を見て再びドアを見る その距離は一瞬では行けないほど離れている

1年後――

【 政府 懇談会場 】

マリが表情を困らせて言う
「ご、ごめんなさいっ 私 その…っ 本当は こちらへ来る予定だった方のっ 代役なので…っ」
青年が微笑して言う
「では、これこそ正に 運命と言うものなのでしょう?どうか その様な日に出会った この私との時間を」
マリが強く目を閉じて言う
「本当に …ごめんなさいっ!」
マリが逃げ出す 青年が呆気に取られてから悪笑んで言う
「あんな世間知らずな 高位富裕層娘が居るとは …これは絶対見逃せないな」
マリが周囲を見渡し逃げて行く

マリがテラスへ出て周囲を見渡して人気のない方へ向かい 息を吐いて言う
「はぁ… どうしよう まだ始まったばかりだと言うのに… ただ居るだけで良いって 聞いていたのに…」
マリが後方を振り返る テラスの入り口に先ほどの青年の姿が見える マリがハッとして更に奥へと向かおうとする 男性の声が届く
「それ以上先へは 行かれない方が良いですよ お嬢様」
マリがハッと驚き声のした上方へ顔を向けると 建物の上部に人影が見える マリがそれに気付くと同時に 足元が滑って低い手すりに背をぶつけ そのまま後ろへ落ちて行きそうになる マリが後ろへ視線を向ける 地面が遥か下に見える マリが悲鳴を上げる
「え…?キャァッ!」
マリが恐怖に強く目を瞑ると その手が掴まれ引き寄せられて 腕に抱かれる マリが恐怖に思わず相手の服を掴んでいて ハッとして顔を上げると 男性が言う
「失礼 警告のつもりが 脅かしてしまいました 怖い思いをさせてしまいましたね」
マリが慌てて視線を逸らして言う
「い、いえっ!私が…っ」
マリが視線を向けた先 床面にコケが生えている マリが苦笑して言う
「コケに足を滑らせてしまったのは 私自身ですから」
マリが言いながら視線を戻し ハッとして言う
「メルフェス様っ!?」
メルフェスが気付いて言う
「おや?貴女は…」

室内

メルフェスがグラスを片手に言う
「そうですか 保育園の方へご転職を… 通りで 政府の懇談会にいらっしゃる筈だ」
マリが両手でグラスを持って苦笑して言う
「はい… でも、まさか こう言った政府のパーティーへ 私が出席する事になるだなんて 思っても居なかったもので 困っていたんです」
メルフェスが言う
「先生ほど愛らしい方がいらっしゃるとなると 彼らも放っては置かないでしょうからね あの場所へ逃げて来られたのも 伺えます」
マリが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「い、いえっ!私なんて この会場にいらっしゃる ご婦人方に比べたら まったく… それに、本当に何も知らない 名前だけの富裕層なので どうしたら良いのか 分からなくて…」
メルフェスが苦笑して言う
「この懇談会の主旨通りのご予定ではないのでしたら このまま私と居ればやり過ごせますよ?私も役職だけの富裕層ですから」
メルフェスが飲み物を飲む マリが呆気にとられて言う
「そ、そんなっ メルフェス様は 御名誉ある 皇居宗主様で…っ」
メルフェスが苦笑して言う
「たまたま そうなってしまっただけです」
マリが呆気に取られる メルフェスが言う
「そう言えば 先生のお名前を 伺っていませんでしたね」
マリが慌てて言う
「はっ ご、ごめんなさいっ 2度も助けて頂いていたのにっ 私 た、大変失礼な事をっ」
マリがグラスをテーブルへ置いて畏まって言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスと申します メルフェス・ラドム・カルメス様」
メルフェスが軽く微笑して言う
「どうか そう 堅くならずに 保育園に居る時と同じと思っていて下さい マリーニ先生?」
マリが呆気に取られた後 微笑して言う
「有難う御座います」
メルフェスが微笑を返した後言う
「それにしても 4構想の女系高位富裕層のお名前を持ちながら 保育園の保育士とは 意外ですね?お望みさえすれば 政府の重役にでもなれますでしょうに」
マリが苦笑して言う
「私は… 幼い頃に 両親に捨てられて 最初は政府の教会の方に居たのですが なんだか溶け込めなくて… 孤児院の方で15歳までの時を過ごしていました その間に 富裕層ではない世界の方に 優しさを感じて… 私には そちらの世界の方が 合っている様な気がしたんです それで…」
メルフェスが言う
「なるほど 私も孤児院の出身ですから マリーニ先生のお気持ちは 良く分かる気がします」
マリが一瞬驚いてメルフェスを見た後微笑して言う
「それでも メルフェス様は 政府の高位職をこなされているのですから やっぱり 凄いです… あっ」
マリが気付く メルフェスが疑問する マリが言う
「わ、私っ そんな 凄いお方のお時間を 私なんかが繋ぎ止めてしまってっ」
マリが周囲を見る 周囲には婦人たちが横目に見ている メルフェスが苦笑して言う
「どうぞ お気になさらず …いえ、むしろ 私の方が助かっていますので」
マリが驚いて言う
「え…?」
メルフェスが言う
「私はこれらの懇談会の常連で…」
メルフェスがマリの耳元でこっそり言う
「実の所 ただの数合わせなのです」
マリが驚いてメルフェスを見る メルフェスが苦笑して言う
「ですから、いつもあの場所で 時間を潰しているのですよ 今日はマリーニ先生のお陰で ゆっくり室内で飲食も取られますし… こうして 懇談会の主旨とは離れて 会話を楽しめるのですから とても有意義です」
マリが呆気に取られた後軽く笑い出す メルフェスも軽く笑う

【 保育園 】

マリが驚いて言う
「えっ!?わ、私が ダンスパーティーにっ!?」
副園長が言う
「ええ マリ先生なら お得意なのではありませんかと?」
マリが慌てて顔を左右に振って言う
「わ、私っ ダンスなんて した事も無いですしっ そ、それにっ」
園長が苦笑して言う
「っはははっ 副園長先生 マリ先生が こう言った政府の催しを あまり好まれていないのは ご存知だろう?」
副園長が表情を困らせて言う
「そうは仰られても マリ先生が高位富裕層のお方である事は お名前を見れば一目で分かる事ですから 政府の管轄する保育園にお勤めである以上 これは お仕事の1つになってしまうのですよ」
マリが表情を困らせて言う
「は… はぁ…」
園長が言う
「マリ先生 こう言っては失礼かもしれないが 折角の催しではないですか?それこそ 素直に 素敵な方との出会いを楽しまれてはどうかな?先生なら 声を掛けて来られる男性方も 多いのではないですか?」
マリが視線を落として言う
「私は…」

【 政府 ダンスパーティー会場 】

マリが視線を落として居る 青年たちが顔を見合わせてから 青年1がやって来て言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様」
マリが驚いて顔を向ける 青年1が微笑して言う
「宜しかったら 僕と一曲」
マリが慌てて言う
「あっ ご、ごめんなさいっ 私…っ 踊れないのでっ」
青年1が言う
「ご心配には及びません 僕が 手取り足取り お教えしましょう」
マリが困って言う
「あ、あのっ 私… 駄目なんですっ その…っ とっても」
青年1がマリの手を引いて言う
「大丈夫です こう見えて 僕はとても 御教えするのが 上手だと言われますので さあっ」
マリが表情を困らせながら言う
「あっ キャァ!」
青年1がマリの腰へ手を回して言う
「さあ力を抜いて?僕のリードに合わせるだけで良いですから」
マリが青年1の腕の中を嫌悪して言う
「やっ 嫌っ 離してっ!」
青年2が現れて言う
「おっと マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスお嬢様が 嫌がってるじゃないか?そんな強引なリードじゃ お気に召さないと言ってるんだ 私と替わり給え」
青年1が怒って言う
「僕が誘ったんだっ 勝手に手を出さないでくれっ」
青年2が笑んで言う
「誘ったのではなくて 引き込んだだけだろう?さぁ 強引な彼とは違い 紳士的な私の下へどうぞ アーミレイテス様?」
青年2がマリの手を引く マリが力ずくに引かれつつ言う
「あ、あのっ 私 本当にっ」
青年3が現れて言う
「君たち 先ほどから ご婦人に対する作法がなっていないだろう?ねぇ?マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様?」
青年たちがマリを見る マリが表情を困らせて言う
「ご、ごめんなさい 私… その… 男性に触れるのが苦手で… ごめんなさいっ ダンスパーティーなんて 来ちゃいけないのにっ」
青年たちがマリの手や腕を掴んで言う
「そういわずに 僕と」 「いや、私と」
マリが青年たちに引かれ逃れようとすると スカートの裾を踏みバランスを崩して倒れそうになる マリが慌てて言う
「キャッ!」
青年たちが呆気に取られる マリが目を瞑ると体が支えられ マリが顔を上げるとメルフェスが苦笑して言う
「ご無事かな?先生?」
マリがホッとして言う
「メルフェス様…」
メルフェスが軽く首を傾げて言う
「お困りで?」
マリが気付き苦笑するとメルフェスがマリを起こした後 青年たちを一瞥する 青年たちがハッとして愛想笑いをして言う
「わ、私は 失礼致します カルメス様」 「ぼ、僕も失礼致します」 「どうぞ ごゆっくりっ」
青年たちが逃げて行く 

遠目に青年たちがマリを見ている マリが視線を逸らして言う
「あ、あの… また 助けて頂いて」
メルフェスが苦笑して言う
「礼には及びません 私もまた こうして室内に居られる時間を お手伝い頂けているのですから」
マリが一瞬呆気に取られた後軽く笑う メルフェスが微笑を返して言う
「拝見した所 もしや政府施設の保育園に居られる責務として いらしたのですか?」
マリが苦笑して言う
「はい… この前は 以前までこう言った催しに 参加していらした先生の 代役と言われていたのですが 今回は メルフェス様の仰ったように 副院長先生からハッキリ そうと言われてしまいました…」
メルフェスが苦笑して言う
「お互い大変ですね?」
メルフェスが飲み物を飲む マリが一瞬呆気に取られてからメルフェスへ向いて言う
「メルフェス様…も?」
メルフェスがマリを見て苦笑して言う
「ええ こんな事を 私はもう20年もやっていますよ」
マリが驚く メルフェスが苦笑して言う
「ですから 恐らくマリーニ先生も 今のまま保育園に居られるのなら 政府のこう言った催しからは逃れられません 特に 貴女のお名前は 彼らのような上位未満の富裕層の青年たちには とても魅力的ですからね」
マリが表情を落として言う
「私は…」
メルフェスが微笑して言う
「お嫌なら 国防軍の管轄する… 以前の様に孤児院へ戻られては?」
マリが苦笑して言う
「本当は 孤児院の保育士を続けたかったのですが… どうしても 自分と同じ境遇の 子供たちを見ている事が辛くて…」
メルフェスが言う
「そうでしたか …国防軍の管轄となると もう1つは 最下層の子供たちが集められている 下級教会のシスターとなりますが 確か マリーニ先生は」
マリが表情を困らせて言う
「はい…」
メルフェスが苦笑する マリがメルフェスを見て苦笑して言う
「ごめんなさい… 我侭だと言う事は 自分でも分かっているのですが…」
メルフェスが微笑して言う
「いや、ご自分の在るべき場所を探し求めて動かれると言うのは 十分勇気の必要とする事ですよ マリーニ先生は可憐なだけではなく お強くも在るご様子だ」
マリが一瞬呆気に取られた後 恥ずかし困って言う
「え…っ?いえっ わ、私はっ そんな…」
メルフェスが軽く笑って言う
「しかし、少々ご無理をなされるせいか 危うい事も多い様だが?」
マリが気付き苦笑して言う
「はい… 有難う御座います メルフェス様には いつも助けて頂いて 私、その…っ とっても そそっかしくて…っ」
メルフェスが苦笑して言う
「その様ですね?それに、もう少し お気を付けておられなければ 彼らもいつ 高嶺の花に手を伸ばそうとするか 分かりません」
メルフェスが青年たちを見る マリが気付いて表情を困らせて言う
「今の保育園は とても気に入っているのですが こう言った催しが こんなに頻繁にあるだなんて知らなくて」
メルフェスが言う
「政府はアールスローンの多くの 富裕層たちの集まりで賄われているようなものですから それら家同士の繋がりを強化する為にも 言ってしまえば こう言ったお見合いパーティーの様な催しは多いそうです …もちろん 他にも 政府として国を纏める為に行われる 厳粛な懇談会もありますが どちらも2ヶ月に一度は 行われます」
マリが視線を下げて言う
「そ… そうなのですか…」
メルフェスが言う
「国をまとめる為のそちらの懇談会に 保育士である マリーニ先生が呼ばれる事は無いですが 4構想の名を持つ高位富裕層の貴女であっては こちらの懇談会を辞退することは難しい 今後も ほぼ強制的に参加をさせられるでしょうね」
マリが表情を困らせて言う
「4構想の名前を持っていると言うって事だけで 国からも色々な補助を頂けて …でも、そのせいで 教会で過ごしていた時も 特別な扱いを受けて 他の子供たちからは 遠ざけられてしまって …孤児院では そう言う事は無かったのですが 私は… やっぱり 国防軍の管轄へ向かうべきなのかもしれません それに そうしていた方が 王子様にも もう一度近付けるのかもしれないし…」
メルフェスが疑問して言う
「王子様?」
マリがハッとして慌てて言う
「あっ ご、ごめんなさいっ 私…っ」
メルフェスが軽く笑って言う
「っはははっ いや、失礼 なるほど そう言う事でしたか」
マリがメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
「既に意中の方が いらしたのですね?通りで こう言った催しに お困りになる筈だ」
マリが頬を染めて視線を逸らす メルフェスが言う
「しかし、それなら 何も困る必要は無いでしょう?そちらのお方と ご婚約をされれば その後はどちらに居られても  この様な催しに呼び出される事は 一切無くなります」
マリが照れ困って言う
「で、でも… 私…っ その人とは ずっと会っていなくて…っ」
メルフェスが微笑して言う
「そちらの方が 今何処に居られるのかが 分からないと言う事ですか?それなら…」
マリが言う
「あ… いえっ 多分ですが 今も 国防軍に…」
メルフェスが言う
「国防軍…?なるほど 孤児院に居た頃に お知り合いになったと言う事ですね?」
マリが頬を染めて言う
「はい…っ」
メルフェスが言う
「国防軍の従軍規則がどのようになっているかは 詳しくは無いですが 政府の保育園に勤める保育士と結婚しては いけないという規則は無い筈です これを切欠に お尋ねになられてみては?」
マリが表情を困らせて言う
「あ…っ でも、私… その…っ 以前 彼に 声を掛けてもらった時に しっかりとお返事をする事が出来なくて …きっと 誤解をさせてしまったと思うんです だから 今更 言っても… 失礼なんじゃないかと思って …怒らせてしまうかも… それが… 怖いんです …とっても 優しい方だったので… 私にとっては ずっと 心の支えで…」
メルフェスが微笑して言う
「そうですか… しかし、もしかすれば 相手もまだ マリーニ先生の事を 思っているかもしれない そうだとしたら そちらを逃してしまうのでは 勿体無いでしょう?そこまで思いを募らせているのなら 今一度 お会いしてみては?」
マリが苦笑して言う
「はい… そう… ですね」
メルフェスが苦笑して言う
「応援していますよ マリーニ先生」

【 国防軍レギスト駐屯地 】

マリが高鳴る胸を押さえながら駐屯地を見て言う
「き… 来てはみたけど… どうしたら良いのかしら?えっと…?」
マリが正門を見る 正門に衛兵が2人立っている マリが身を隠して言う
「門の兵士さんに 呼び出してもらうだなんて…っ 駄目よねっ?保育園じゃないんだもの…っ」
マリが表情を困らせ 駐屯地を遠目に見る

【 保育園 】

マリが表情を困らせ小さく息を吐く ミナが言う
「マリ先生?」
マリがハッとして言う
「は、はいっ!?」
ミナが軽く笑って言う
「どうしたんです?そんな幸せそうに 溜息を吐かれて…?うふふっ」
マリが衝撃を受け頬を染めて慌てて言う
「えっ!?そ、そんなっ!?幸せそうだなんてっ 私… …え?」
マリが疑問してミナを見る 皆が微笑して言う
「まるで 恋人の事を思って 困っているみたいだから …違った?」
マリが衝撃を受けて慌てて言う
「えっ えぇっ!?ど、どうして分かったんですかっ!?ミナ先生っ!?」
ミナが軽く笑って言う
「分かりますよ マリ先生 とても素直でいらっしゃるから」
マリが困り苦笑して言う
「は… はぁ…」
ミナが微笑して言う
「もしかして 政府のお見合いパーティーで 素敵な殿方に出会って… だったりして?」
マリが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「いえ…」
ミナが言う
「あら 残念 マリ先生がご結婚をなされたら 次は再び私の方へ 出席のお誘いが来るのに」
マリが呆気にとられてから言う
「え?で、でも ミナ先生 お嫌だって 仰ってらしたのでは?」
ミナが軽く笑って言う
「だから マリ先生がそんなに幸せそうになられるメンバーへと そろそろ様変わりされたのかと思って うふふっ」
マリが苦笑して言う
「あ… そ、そうでしたか…」
マリが視線を落とす ミナが気付き苦笑して言う
「…ごめんなさい 仕方ないとは言え 嫌な仕事を譲ったのだから 今のは失礼だったわね…」
マリが気付き慌てて言う
「あっ い、いえっ!大丈夫ですっ」
ミナが苦笑して言う
「でも、やっぱり大変でしょう?いつも言い寄って来られる 下位富裕層の男性方とか 凄く強引だし 中位富裕層の方とかも しつこくて …特に ダンスへのお誘いなんかは 断るのが大変で」
マリが苦笑して言う
「そうですね… あ、でも いつも メルフェス様が助けて下さるから」
ミナが驚いて言う
「え!?」
マリが疑問して言う
「え…?」
ミナが苦笑して言う
「あ、そうね… やっぱり凄いのね マリ先生… 皇居宗主のカルメス様と お話が出来るのよね …マリ先生は 4構想のお名前だものね?」
マリが視線を泳がせて言う
「えっと… でも、それは… 多分関係なかったと… メルフェス様とは 私が名前を伝える以前から お話をさせて頂いていたので」
ミナが呆気に取られてから苦笑して言う
「それなら 本当にマリ先生は凄いわっ カルメス様とお近づきになろうとしている 高位富裕層のご婦人方は沢山居るけど カルメス様はどんな女性が言い寄って来ても 全く相手にして下さらないって 有名だもの  そのお方とお話が出来るだなんて」
マリが視線を落として言う
「そう… なのですか… 私は… 何も知らなくて… あ、で、でもっ メルフェス様は 本当は あの様な催しには ご参加したくはないそうで… 私もっ 同じなので それで 意気投合しているのだと 思います」
ミナが苦笑して言う
「ああ… そう言う事…」
マリが苦笑して言う
「はい」
ミナが気付いて言う
「あ… それじゃ さっきの方は?」
マリが呆気にとられて言う
「え?」
ミナが苦笑して言う
「ほら 幸せな溜息のお相手様っ …皇居宗主のカルメス様を差し置いて マリ先生に溜息を吐かせるだなんて 一体どんな王子様なの?」
マリが恥ずかしがりながら言う
「あ… そ、それは…」
マリが視線を泳がせ向けた先 マーガレットの花束が飾られている マリが微笑して言う
「私の… マーガレットの王子様」

【 国防軍レギスト駐屯地 】

マリが遠目に駐屯地を見てから ぎゅっと胸に当てた手を握って思い出す

【 回想 】

ミナが言う
「それで国防軍の駐屯地に…?」
マリが苦笑して言う
「はい… でも 呼び出してもらうだなんて出来ないですし… どうしたら良いのか分からなくて…」
ミナが考えて言う
「うーん そうねぇ…」
マリが表情を困らせて言う
「軍隊の就業時間を 教えてもらうだなんて事も… きっと出来ないと思いますし… 本当に 偶然出会えるのを 待つしかないのかなって…」
ミナが言う
「誰か 知り合いでも居ると良いのだけれど 相手は国防軍だものね… 政府の管轄する保育園の私たちでは 中々そう言う方に出会う事も少ないし… ちなみに 部署はどちらへ属してらっしゃるの?」
マリが表情を困らせて言う
「それも… 分からないんです…」
ミナが表情を困らせて言う
「うーん… ますます困っちゃったわね…」
マリが小さく溜息を吐く ミナが苦笑して言う
「それじゃ 思い切って」
マリが疑問する ミナが微笑して言う
「門の警備兵さんと お友達になってしまうとか?」
マリが衝撃を受けて言う
「えぇっ!?」
ミナが微笑して言う
「マリ先生なら 門の警備兵さんたちだって きっと お近づきになりたいと思う筈よ 大丈夫!私が保障するわっ」
マリが慌てて言う
「そ、そんなっ 私っ 絶対だめですっ 私なんてっ そそっかしくてっ 何をやっても駄目でっ そ、それに 王子様の事を知る為に 警備兵さんと お友達になるだなんてっ そんな事っ と… とっても失礼ですしっ」
ミナが苦笑して言う
「そうよね 失礼よね ごめんなさい…」
マリがハッとして言う
「あっ!い、いえっ!ミナ先生は 私の為にっ 考えて下されているのですからっ 私の方こそ ご、ごめんなさい…」
ミナが言う
「あぁ そう言えば マリ先生は その駐屯地の何処で 王子様を探してらしゃるの?」
マリが疑問して言う
「え?」
ミナが微笑して言う
「私の弟が 国防軍ではないけれど 政府警察の機動部隊を見に行って それこそ 金網にしがみ付いて覗いてたら 遠くの方にだけど 訓練をしているのが見えたって言ってたわ まぁ… マリ先生に そこまでしなさいとは言えないけれど」
マリが呆気にとられて言う
「わ、私は… 遠くから見ているだけです でも 訓練の号令の様なのは 聞こえてきます …あっ」
ミナが喜んで言う
「なんだ!それなら もっと近付いて!もっとマリ先生を 兵士さんたちに見てもらえれば きっと お友達になって!」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「ミ、ミナ先生っ」
ミナが笑う

【 回想終了 】

マリが頬を染めながら言う
「ち、違うわっ お友達になるんじゃなくてっ 訓練をしている兵士さんたちが 見えるかもしれないんだからっ そうしたらっ!もしかしたら!王子様もっ そこにっ!?」
マリが顔を上げ 金網に向かって走ると 石に躓き 金網にダイブする 門兵たちが衝撃を受ける マリが慌てて打ち付けた顔を押さえて言う
「い、痛…っ も、もうっ 私ったら…っ」
マリが表情を困らせつつ金網越しに中を見る 遠くにレギストの隊員たちが見える マリがハッとして隊員たちを見ながら言う
「王子様…っ どこ…?」
マリが一人一人の隊員を見る 隊員たちが腕立てをしている 隊員たちが立ち上がり敬礼して言う
「通常訓練の1 完了いたしましたーっ!」
マリが隊員たちを見る ハイケルが隊員たちへ言う
「了解 通常訓練の2に先んじて 駐屯地周回15週を与える」
隊員たちが衝撃を受け後方を見る 後方に腕立てをしている隊員が2人居る 隊員たちが顔を見合わせた後ヤケクソに言う
「はっ!了解しましたーっ!」
マリがハイケルを見てハッとして言う
「えっ?あれ… もしかしてっ ハイケル君っ!?」
隊員たちがハイケルの下から走って去る マリが呆気に取られて言う
「あ、あの感じっ 少し怖くて近寄り難くて でも… 懐かしい …あの感じ 間違いないわっ ハイケル君よ!ハイケル君が… ハイケル君が居たって事はっ!?」
マリが目を凝らして隊員たちを見る マリの目前を隊員たちが走り抜ける

【 政府懇談会場 】

メルフェスが軽く笑う マリが頬を染めつつ苦笑して言う
「本当に 私 昔から あわてんぼで そんな事ばかりなんです… ほんと… 4構想の名前なんて 合わないって 自分でも分かっているのに…」
メルフェスが苦笑して言う
「いや、確かに 政府関係者である貴女が 日々王子様を探し  国防軍の駐屯地を覗かれているとは 貴女を見る者は多くとも その誰も思いはしないでしょう やはり 勇気がおありですね マリーニ先生」
マリが呆気に取られてから表情を困らせて言う
「あ… いえ… そ、そうですよね 例え保育園の保育士であっても 政府の関係者である私が 国防軍の駐屯地を だなんて… そんな事をしては… 本当は いけないのですよね… ごめんなさい…」
メルフェスが苦笑して言う
「いえ、何も悪気があって 行っている訳ではないのですから… むしろ それ程に日々通っている貴女へ 警備の者が お付き合いのお誘い以前に 職務質問などを行わないと言う事も どうかと思いますが」
マリが苦笑して言う
「きっと… 私なんかが 例え何かをしたとしても 国防軍の方々には まったく支障が無いから… 放って置かれているんだと思います…」
メルフェスが言う
「なるほど… ただの国防軍ではなく 相手はレギストですからね マリーニ先生以外にも 数十年ぶりに再結成がなされた レギスト機動部隊の訓練様子を見ている者も 少なくはないのかもしれない」
マリが呆気にとられて言う
「レギスト 機動部隊…?」
メルフェスが微笑して言う
「国防軍17部隊の別名です 彼らは特別な時にのみ結成される 特殊な部隊なのですよ 平常時には それこそ レギストの名は 駐屯地名にのみ 使用されているようですが」
マリが呆気に取られた状態から苦笑して言う
「やっぱり私は… 本当なら メルフェス様とお話をしていて良い者では ないのですね… 政府の事だけでなく 元々お世話になっていた国防軍の事も 私は何も知らなくて…」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「直接自分の携わる職種以外の知識など それほど知る必要はありません 例え知っていようとも 担当の者には到底及ばない 話の種にでもなれば良いだけです どうか お気になさらずに?」
マリがメルフェスを見て微笑する メルフェスが言う
「それで 結局の所 王子様との再会の方は?」
マリがハッとして言う
「あっ はいっ… それが… 色々時間を変えて 行ってはみたのですが…」
メルフェスが少し考えてから言う
「王子様ではなくとも 幼馴染の方は お分かりになられたのですよね?その… レギストの隊員のお方」
マリが微笑して言う
「はいっ それだけでも 私はとっても嬉しかったですっ …ハイケル君が居るのなら きっと 王子様も… あの場所に…」
メルフェスが苦笑して言う
「同じ呼び出しと言っても すぐ目の前で訓練を行っている方であるのなら 門の警備兵へご自分の名を伝え 言伝を頼んでみては如何でしょう?貴女のお名前であるのなら それ位の事は行っても 失礼には当たりませんよ?」
マリが一瞬呆気に取られた後表情を困らせて言う
「あ… で、でも… ハイケル君とは 孤児院に居た時も お話した事はなかったですし… それに…」
マリが視線を泳がせる メルフェスが苦笑して言う
「そうですか… せめて王子様の部署が分かるのなら 出退勤の時間も分かり 外で待つ事も難しくはないでしょうが もし 機動部隊や警備部隊に属していらっしゃるとなれば それらの時間も変更になり より難しくなりますね」
マリが困って言う
「そう…ですね… やっぱり 勇気を出して メルフェス様に教わった様に ハイケル君と お話をした方が…」
マリが胸に手をあてぎゅっと握り締める 一度小さく震えて言う
「で、でも… もしかしたら… とっても ご迷惑かも… そんな凄いレギスト機動部隊に居るハイケル君に… 私が 高位富裕層の名で… その力で 私の我侭に使われたなんて 思われたら… 私… もし 2人に嫌われてしまったら…っ」
マリが泣きそうになる メルフェスが苦笑してマリの頬を伝う涙を拭って言う
「失礼… 私の心無い言葉のせいで 辛い思いをさせてしまいましたね どうかお許しを」
マリがハッとして慌てて言う
「あっ 嫌だ 私ったらっ ごめんなさいっ 私… 凄くそう言った事に 臆病で…っ」
マリが慌てて涙を拭う メルフェスが苦笑して言う
「孤児院へいらした方です 対人関係に臆病になってしまうのは 仕方がありません 私も同じですよ マリーニ先生」
マリがメルフェスを見上げ呆気に取られる メルフェスが微笑して言う
「この責任を取って 私も少し お手伝いをしましょう」
マリが驚いて言う
「え?」
メルフェスが言う
「宜しければ 私に御教え願えませんか?マリーニ先生の王子様のお名前を」
マリが呆気に取られる メルフェスが微笑して言う
「役職だけとは言え 政府内においては それなりの力を使えます 貴女のお探しの王子様が 例え国防軍の方であろうとも こっそりと その居場所を調べる事位は 実は大した事ではないのです」
マリが驚く メルフェスが苦笑して言う
「今まで意地悪をしていた訳ではないのですよ?ただ 余計な手は出さない方が良いと思い 言わずに居ただけですので」
マリが呆気に取られてから軽く笑う メルフェスが同じく笑う マリが微笑して言う
「有難う御座います メルフェス様」
メルフェスが言う
「しかし、調べるのは 居場所までですので 後はやはり」
マリが微笑んで言う
「はいっ 私も… 少しでも勇気を出せる様にっ 頑張ります!」
メルフェスが軽く笑って言う
「っははっ いつもの マリーニ先生に戻って下されて良かった」
マリが呆気にとられて言う
「えっ?」
メルフェスが微笑して言う
「勢いを付け過ぎて また 転ばれないように お気を付けて下さいね?先生」
マリが頬を染めて言う
「は、はい…っ」
メルフェスが微笑して言う
「それで 王子様のお名前は?」
マリがメルフェスを見て微笑して言う
「マスターグレイゼス」
メルフェスが驚く マリが苦笑して言う
「やっぱり 驚かれますよね?でも 子供の頃は… それこそ全く 何も分からずに 皆 普通に呼んでいるのに」
メルフェスが軽く目を伏せ息を吐いてから言う
「ええ… 驚きました… まさか 貴女の愛する方が 帝国の名を持つお方であったとは… ちなみに 別名の方は?」
マリが疑問して言う
「別名?」
メルフェスが苦笑して言う
「ええ 帝国の… マスターの名を嫌い ナノマシーンの除去を行って アールスローンの名を頂くのが もはや 常識と言われているでしょう?」
マリが言う
「あ…いえ… 私たちが子供の頃は まだ ナノマシーンの除去というものが それほど浸透していなくて… それに 費用もとてもお高いので 最下層の子供はもちろん 中層階級の子供であっても マスターの名を持つ子供は そのままで居る事の方が多いです… 増して 孤児院では 尚更…」
メルフェスが言う
「ああ… そうでしたか 申し訳ない 私の方が 知識不足であった様ですね 子供たちのお相手をなさっている 保育士の先生には 及びません」
マリが慌てて言う
「あっ い、いえっ!ごめんなさいっ」
メルフェスが微笑して言う
「いえ 貴女が謝る必要はありません …と、そのナノマシーンの除去費用ですが 私の古い知識においても 国防軍へ入隊された方であれば 支払えない金額ではないと思います もし、お探しの マスターグレイゼスが それを行っていたとしたら これはまた 名前で探す事さえ 難しくなってしまう… そうなった場合は やはり 最終手段として ハイケル隊員へ声を掛ける事になりそうですが」
マリが微笑して 頷いて言う
「はいっ その時は きっと出来ると思いますっ」
メルフェスが微笑して言う
「やはり お強い方だ」
マリとメルフェスが軽く笑う

【 保育園 】

マリが書類処理を終わらせ軽く息を吐いてから ふと視線を逸らし マーガレットの花束を見て微笑して言う
「もうすぐ… 会えるかしら…?王子様…」
マリがマーガレットの花束に軽く触れて微笑する 副園長が慌てて受話器へ言う
「は、はいっ!た、ただいまっ!すぐに お替り致しますのでっ!」
マリが疑問して副園長を見る 副園長が保留ボタンを押して慌てて言う
「マ、マリ先生っ!皇居宗主のっ メルフェス・ラドム・カルメス様から お、お電話がっ!」
マリが呆気に取られてから 表情を明るめて言う
「はいっ!」
マリが受話器を取り 保留ボタンを解除して言う
「お電話を替わりましたっ メルフェス様っ!」
受話器からメルフェスの声が聞こえる
『っははっ お元気そうで何よりです マリーニ先生』
マリがハッとして頬を染める 受話器からメルフェスの声が聞こえる
『それに この知らせを聞けば 更にお元気になられるでしょう 慌てる事の無い様に お気を付け下さい …王子様の居場所が 分かりました』
マリが喜びに表情をほころばせる 受話器からメルフェスの声が聞こえる
『マスターグレイゼスは 今もその名前のまま 国防軍レギスト駐屯地の情報部に所属しています そして軍階は中佐 情報部の主任を任されているそうです 若くとも 実力がおありの様だ …ただ、主任と言う重責の下 就業時間の方は固定されない様ですが 間違いなく 国防軍レギスト駐屯地には居られます これで ご安心なされたでしょう?』
マリが喜び一杯に言う
「はいっ!有難う御座いますっ!メルフェス様っ!」
受話器からメルフェスの声が聞こえる
『では 次にお会いする時には 良い知らせを聞ける事を楽しみにしています …いや、もうお会いする事も 無いのかも しれませんが…』
マリが驚く 受話器からメルフェスの声が聞こえる
『どうか 私の分も お幸せになって下さい マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス先生』
マリが思わず言う
「あ…っ」
電話が切れる マリが呆気に取られ受話器を見てから 視線を落とし マーガレットの花束を見て苦笑する

【 国防軍レギスト駐屯地 】

マリが遠くから駐屯地の建物を見上げ 微笑してから正門を見て言う
「きっと いつか会える… だって すぐそこに居るって 分かっているのだもの…」
マリが微笑し 駐屯地の建物を見上げる

季節が移り雪が舞い始める

マリが夜道に居て駐屯地の建物を見上げる 駐屯地の建物から室内灯の明かりが漏れている マリが微笑しフーと手に息を掛けて暖めてから立ち去る

【 政府懇談会場 】

マリがホールを歩きながら思い出す

【 回想 】

ミナが呆気にとられて言う
「それじゃ… 名前も部署も分かって 4ヶ月になるのに まだ 駐屯地の外で待っていらっしゃるの!?」
マリが苦笑して言う
「はい…」
ミナが苦笑して息を吐き言う
「折角カルメス様がお調べ下されて そこまで分かっているなら もう 門の警備兵さんに呼び出して頂くか 伝言をお預けしては如何かしら?」
マリが苦笑して言う
「それは そうかもしれないのですが… 彼は幼い頃 とっても不安で一杯だった私に 私の好きなお花の花束を持って 告白をしてくれたんです… その時 私… 今までに無いくらい嬉しくて… だから 今度は 私が 自分の足で彼の下へ行って あの時のお礼と 告白をしたいんです」
ミナが呆気に取られた後微笑して言う
「そう… それじゃ 警備兵さんに呼び出してもらったり 伝言を頼んだりは出来ない訳ね?」
マリが言う
「はい …それに あの場所に 王子様が居るんだと分かったら とっても安心出来て これなら 私、何日でも待っていられると思うんです!」
ミナが呆気に取られてから軽く笑って言う
「それでもう4ヶ月も待ってるんじゃ 本物ね… マリ先生がそんなに思いを寄せる王子様が どんな方なのか 私も気になって来ちゃったっ」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?えぇーっ!?」
ミナが笑って言う
「大丈夫!取ったりなんてしないわよ!マリ先生?」
マリがホッとする ミナが微笑して言う
「それにしても マリ先生が孤児院にいらして 同い年の方だって事は その王子様も マリ先生に告白をした頃は とっても小さな頃だったのでしょう?」
マリがはっとしてから苦笑して言う
「え… ええ… っと?まだ 5歳か6歳位の頃です」
ミナが言う
「そんな小さな頃に花束を持って好きな女の子に告白出来るだなんて とっても勇気のある男の子だったのね?…今のあの子達なんて 好きな子が居たら ただ ちょっかいだけ出して 逆に嫌われちゃってばかりいるのに それを考えたら マリ先生の王子様は 小さな頃から紳士的な王子様だったのでしょう?やっぱり 中位富裕層位のお方なのかしら?」
マリが呆気に取られてから顔を左右に振って言う
「い、いいえっ」
ミナが軽く笑って言う
「なんだ 高位富裕層のお方でしたの?そうなら 何も カルメス様へ頼んでまで お調べ頂かなくても」
マリが慌てて言う
「い、いいえ!か、彼は…っ 最下層の方です」
ミナが呆気に取られて言う
「え…?あ、あら… そうでしたの?まぁ… 素敵よね?4構想のお名前を持つマリ先生の王子様が 最下層の方であっただなんて… 素敵なラブストーリーになりそうだわっ」

【 回想終了 】

マリが苦笑して言う
「でも… これできっと ミナ先生が 私から王子様を取ってしまう心配は なくなったみたい …良かった …くすっ」
マリが小さく笑いを押さえてから 視線を普段メルフェスと居る場所へ向けハッとする メルフェスの前に豪華に着飾った高位富裕層の女性(A)が居て メルフェスへ話し掛けている マリが驚いた後視線を泳がせる 青年1がマリに気付き微笑して言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様?」
マリが驚いて声の方へ向く 青年1がメルフェスの様子を見てから言う
「宜しければ カルメス様ではなく 僕とお話を?」
マリが困って言う
「あ… い、いえっ す、少し待っていれば 良いと お、思うので…っ」
青年1が微笑して言う
「そうでしょうか?今カルメス様とお話をされているご婦人は 貴女と同じ階級の方ですし… お話は長引くかもしれませんよ?」
マリが驚いて言う
「えっ!?あ… で、でも…」
青年1が笑んで言う
「何時までもお返事を待たせていては 別の女性に取られてしまっても 仕方のない事かと…」
マリが困って言う
「そ、そんなっ」
青年1が更に言おうとした時 Aが叫ぶ
「何故ですのっ!?こんなに貴方への思いをお伝えしているのにっ 身分も知識もある私の 何処が貴方に似つかわしくないと仰って!?」
マリが驚いてAを見る 青年1が表情を顰めて舌打ちをする Aがメルフェスへ詰め寄って言う
「貴方が仰るのなら 私は何でも致しますわっ しとやかにしろと仰るのならその様に 強くあれと仰るのならその様に 私は 名誉ある貴方のお言葉の前でしたら どの様な事でもっ」
マリが我知らずに近付いて行く メルフェスがAへ話している声が聞こえる
「私が貴女へ望むものなど 何一つありません 唯1つ在るとするなら… 今すぐに 私の前から消えて頂きたい」
マリが驚いて立ち止まる Aが驚いた後怒って言う
「ならっ せめて教えて頂けてっ!?私の何が貴方に相応しくないと?先ほどまで しとやかにあった私も 今の様に情熱を持った私も どちらの私もカルメス様にはお見せ致しましたわっ この私が貴方に愛されないのでしたらっ もう このアールスローンに 貴方に愛される女性は 居られないのではありません事っ!?」
マリがメルフェスを見る メルフェスが他方を見て言う
「そうかもしれませんね…」
マリとAが驚く メルフェスがAへ向いて言う
「ただ 私に愛される女性が 居られないのではなく 私を愛せる女性が 居られないのです」
Aが呆気に取られた後慌てて言う
「ですからっ 私がこれほど 貴方を愛しているとっ」
メルフェスが言う
「貴女が愛しているのは 私の地位と名誉でしょう?その様な貴女は 誰よりも信用が出来ない まだ素直に それらを共有したいと仰って頂ける方が お話なども出来ますが 貴女のような方には 傍にさえ 居て欲しくは無いのですよ」
Aが言葉を飲んでから言う
「で、ではっ 次の機会には そちらのお話をさせて頂きに参りますわっ 私の貴方への愛が届くまで 私は何でも致しますからっ」
Aがぷいっと顔を背け立ち去る メルフェスが軽く息を吐き飲み物を飲もうとしてマリに気付く マリがはっとして言う
「あ…」
メルフェスが苦笑して言う
「失礼しました 見苦しい所を見せてしまいましたね …マリーニ先生?」
マリが苦笑して言う
「い、いいえっ 私の方こそっ 立ち聞きをしてしまったみたいで… ご、ごめんなさいっ …メルフェス様」
メルフェスが微笑して言う
「では、今回はお互い様と言う事で 宜しいでしょうか?」
マリが一瞬呆気に取られた後軽く笑って言う
「はいっ」
メルフェスが微笑する マリがメルフェスの近くへ行く

マリが視線を泳がせてから言い辛そうに言う
「あの… さっきの女性の方…」
メルフェスが疑問する マリが苦笑して言う
「また… いらっしゃるのでしょうか?その… 他の方が仰っていたのですが あの女性は 私と同じ階級の方であると…」
メルフェスが気付いて言う
「あぁ そうですね 階級が同じでは 彼女は 貴女と誰かの会話に 割り込んで来るかもしれません」
マリが視線を落とす メルフェスが苦笑して言う
「とは言え 皇居宗主の会話の邪魔をすると言う事は 言ってしまえば 陛下と言葉を交わす者を 虐げると言う事にもなりますので 彼女が 貴女と私の会話に 割り込んで来る事はありませんよ」
マリが気付きメルフェスを見る メルフェスが微笑する マリが微笑して視線を逸らして言う
「やっぱり 凄いのですね…」
メルフェスが苦笑して言う
「そうですね 皇居宗主と言う地位に関しては 凄いと思います」
マリが言う
「あ、い、いえっ その… メルフェス様は 陛下とお話をする事も 出来るのですよね?私は… いえ、アールスローンの殆どの人は 陛下のお声を耳にした事もないのに…」
メルフェスが考えてから言う
「…ええ そうですね 厳密に言えば 陛下のお声を 直接伺った事はありません」
マリが驚いて言う
「えっ?」
メルフェスが言う
「その代わり 陛下の代弁者とされているお方と お話をさせて頂き そのお言葉を元にして 政府並びに国防軍と共に アールスローン国をお守りする事となっています」
マリが言う
「陛下の代弁者…」
メルフェスが微笑して言う
「アールスローン国の女帝陛下は 恐れ多くも 神の巫女であらされますので 下々の我々では 直接お声を承る事は 許されないのです …それは 陛下の剣と盾 攻長と防長であっても同じです」
マリが言う
「あ… ではっ メルフェス様は 国家家臣とされる 攻長閣下や防長閣下と同じく 陛下の… 代弁者のお方と お話が出来るのですから それは… やっぱり とても凄い事ですよね?」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「まぁ… そうですね そもそも 皇居宗主というのは 攻長、防長と同じく 国家家臣の1人ですから」
マリが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
メルフェスが苦笑して言う
「皇居宗主とされつつも 普段 皇居にて 陛下のお傍に構えるのが 攻長と防長のみである為 あまり認識はされていませんが 元々 政府においての攻長は 国内の争いを収め 同じく防長は国外からの争いを収め そして、皇居宗主は 陛下のお言葉を携え それら国内外の争いの元となる物を 収めると言うのが 成り立ちなのです」
マリが顔を赤らめ慌てて言う
「ご、ごめんなさいっ わ、私っ 本当に 何も知らなくてっ!」
メルフェスが微笑して言う
「いえ、謝らなくても良いですよ マリーニ先生 貴女は元々政府の人間ではないのですから 政府の信仰するアールスローン真書の方は 読まれては居られないのでしょう?皇居宗主の事は アールスローン戦記には記されておりませんから」
マリが頭を下げ慌てて言う
「で、でもっ 私は…っ その 皇居宗主であられる メルフェス様に 何度も色々と助けて頂いてっ その上 こんなに沢山 お話をさせて頂いていたのに…っ わ、私っ とっても失礼な事を…っほ、本当にっ 本当に ごめんなさいっ!」
メルフェスが軽く笑って言う
「っははっ いえ、”本当に”お気になさらずに 以前も言いましたが 私は たまたまその地位と名誉を与えられてしまっただけで 本来であれば高位富裕層の地位も 皇居宗主の名誉も 持ち合わせてなど居なかったのですから」
マリが呆気に取られてメルフェスを見る メルフェスが気付いて言う
「ああ… しかし、政府の運営する 保育園の保育士であるなら 知識として 政府の信仰するアールスローン真書の方は 一読された方が宜しいかもしれませんね?先生?」
マリが慌てて言う
「は、はいっ!ちゃんと読んで置きますっ ごめんなさいっ!」

【 保育園 】

ミナの声が聞こえる
「…せんせ?…リ先生?マリ先生?」
マリが目を開きハッとして言う
「は、はいっ!?は… …?」
マリが疑問して周囲を見ると ミナが苦笑して言う
「マリ先生?大丈夫です?」
マリがハッとして言う
「あ、えっ!?わ、私…っ!?」
ミナが苦笑して言う
「居眠りをされてましてよ?マリ先生?」
マリがハッとして赤面して言う
「ご、ごめんなさいっ」
マリが思わず枕にしていたアールスローン真書を抱きしめる ミナが苦笑して言う
「あぁ… アールスローン真書なんて 読まれていらしたのね?それじゃ 居眠りをされてしまうのも無理はないわ?」
マリが自分の抱いているアールスローン真書を見て苦笑して言う
「あ… で、でもっ 政府の運営する 保育園の保育士である以上は… ちゃんと 読んでおかないと いけません ですから…」
ミナが疑問して言う
「え?でも アールスローン真書なんて昔 子供の頃 神父様が… あ、」
マリが微笑して言う
「あ… そう言えば 少しだけ 覚えています 私が教会に居た頃 神父様が 優しく読み聞かせて下されて」
ミナが言う
「ああ… そうだったわね マリ先生は 途中から 孤児院に… と言う事は アールスローン戦記の方を 読み聞かされていたのね?」
マリが微笑して言う
「はい ですので このアールスローン真書を読んでいても アールスローンの王女と言うのは ペジテのお姫様の事に思えるし 親兵攻長は 戦いの兵士 親兵防長は 守りの兵士 って勝手に置き換えてしまったりして …ふふっ」
ミナが言う
「なるほど そう言われてみればそうよね?どちらも言い方が違うだけで 結局は 同じアールスローンの歴史が 書かれているだけだもの」
マリが言う
「ミナ先生は 教会へ通われていらしたのでしたら アールスローン戦記の方は やはり 読まれてはいらっしゃらないのですか?」
ミナが言う
「いいえ、私は どちらも読んだわ 政府の方では アールスローン真書を読み聞かせた後 異端文章って事で アールスローン戦記との違いを教える授業があったの …でも、その授業のせいで 逆にアールスローン戦記の方が気になって読み始める人が多くて 今ではその授業は廃止されているけれどね?」
マリが言う
「そうだったのですか…」
ミナが言う
「そのせいもあって 今でも政府内では アールスローン真書が正しいかアールスローン戦記が正しいかって 子供みたいな抗争になったりするの それに 政府の側から国防軍へ移籍する人も多いし …でも その逆って言うのは殆ど聞かないから マリ先生みたいな方は とっても珍しいわ?」
マリが慌てて言う
「あ、いえ…っ わ、私の場合は…っ」
ミナが苦笑して言う
「分かるわよ 信仰を変えるつもりなんかじゃないのでしょ?今頃 アールスローン真書を読んでいるのだから」
マリが慌ててアールスローン真書を開いて言う
「あ、で、でもっ ちゃんと アールスローン真書の方も お勉強しますのでっ!」
ミナが苦笑して言う
「でも、いくら政府の保育園であっても アールスローン真書を読むのは 誰だって億劫なんだから ただ、子供たちの為に知識として読もうって事なら 子供用のアールスローン真書を読んでみたらどう?」
マリが衝撃を受けて言う
「えっ!?で、でも…っ!」
ミナが子供用アールスローン真書を取り出して言う
「気にする事ないわよ どうせ私たちが教える相手は 子供たちなんだから むしろ こっちを読んでおいた方が 丁度良いんじゃなくて?」
ミナが子供用アールスローン真書を広げる マリが苦笑して言う
「あ… は、はい…」
ミナが絵を指差して言う
「ほら、アールスローン国の王女様が ペジテのお姫様で 親兵攻長が 攻撃の兵士…」
マリが軽く笑って言う
「親兵防長様が 守りの兵士様で… ん?それじゃ」
ミナが疑問する マリがミナを見上げて言う
「皇居宗主様は…?」
ミナが苦笑して言う
「ああ、皇居宗主様は」
マリが言う
「アールスローン真書の方でも 中々登場していらっしゃらなくて…」
ミナが言う
「え?…ああ、そうね 皇居宗主様って呼び方は アールスローン真書の方でも載ってはいないわ それは アールスローンが平和になってから 変えられた名前だから」
マリが言う
「あ… そうなのですか…?」
ミナが言う
「ええ、今でこそ 皇居宗主様は 陛下のお言葉を預かる方として 宗主と呼ばれているけれど 少し前までは 陛下のお言葉を持って外国と交渉を行う外交長 もっとずっと前は …反逆の兵士」
マリが驚いて言う
「え…っ?」
ミナがアールスローン真書を開いて指差して言う
「ほら」
マリがミナの指差した絵を見る ミナが言う
「反逆の兵士は 元は外国の兵士だったのだけど 後には アールスローンの味方になるの それで、アールスローンの王女の言葉を携えて 自分の母国とアールスローンの架け橋となって 両国の戦いを終わらせるのよ だから 後の外交長 現代では 陛下のお言葉を携える 皇居宗主」
マリが呆気にとられて言う
「し… 知らなかった…」
ミナが言う
「当然よ この辺りのお話は アールスローン真書の最後の方 アールスローンの戦いが終わる頃のお話だもの マリ先生が読んでいる辺りじゃ まだまだ 反逆の兵士は 敵国の兵士のままよ?」
マリがアールスローン真書のページを見て衝撃を受ける ミナが軽く笑う マリが苦笑してから疑問して言う
「あ… でも アールスローンの戦いを終わらせた そんなに大切な方なのに アールスローン戦記の方には 登場しないだなんて…」
ミナが一瞬呆気に取られた後笑って言う
「え?嫌だ、何言ってるの?マリ先生?」
マリが疑問して言う
「え?」
ミナが言う
「ちゃんと 登場してるじゃない?ほら?アールスローンの王女は ペジテのお姫様 親兵攻長は 戦いの兵士 親兵防長は 守りの兵士 反逆の兵士は …悪魔の兵士」
マリが驚く

【 国防軍レギスト駐屯地 】

マリが駐屯地の建物を見上げているが 意識は考え事へ向いている

【 回想 】

マリが言う
「え… で、でもっ 悪魔の兵士は 攻撃の兵士様の別名じゃ!?」
ミナが言う
「そうとも言われるし 別の兵士だと言われる事もあるわ それは アールスローン戦記の元とされる物が2つあって その内容が異なるからなんですって 片方では攻撃の兵士と悪魔の兵士は同一人物で もう片方では別の人物… と、そんな風に 曖昧である事も理由の1つとして やっぱりアールスローン戦記は偽物だって言うのが アールスローン真書を信仰する政府の考えなのよ」
マリが呆気にとられて言う
「そ… そうだったのですか… 私は アールスローン戦記に関しては しっかりと知っているつもりだったのに… もう1つのアールスローン戦記があっただなんて」
ミナが苦笑して言う
「でもねぇ どちらのアールスローン戦記でも 兵士が不死身だなんて 可笑しいわよ 信仰をどうこう言うつもりはないけど それに関しては信じられないわね …マリ先生はどう思うの?」
マリが衝撃を受けて言う
「えっ!?あ、わ、私は…」
ミナが微笑して言う
「不死身の兵士が何度も戦って アールスローンを守ったって言うよりも 反逆の兵士が外交を担って アールスローンの争いを収めた って言う方が 信じられると思わない?」
マリが曖昧に言う
「は… はぁ…」
ミナが苦笑して言う
「まぁ どちらにしても 戦いが終わってくれたんだから 良いんだけれどね?」
マリが苦笑して言う
「あ… はい… そう ですね…?」

【 回想終了 】

マリが軽く息を吐いて言う
「ミナ先生が言う通り 不死身の兵士さんより 反逆の兵士さんの方が現実的… それに 現代の反逆の兵士さんである 皇居宗主のメルフェス様は あれほどお優しくて知識も豊富であられるのだから もし、今のアールスローンで争いが起きても きっと メルフェス様が…」
マリが微笑してからハッとして言う
「あっ だ、駄目よね?ここは国防軍レギスト駐屯地だもの 悪魔の兵士さんを否定するような事を言ったら きっと叱られてしまう …王子様にも 怒られてしまうかも?…ふふっ」
マリが可愛く照れ笑いしてから 駐屯地の建物へ視線を向け 衝撃を受けて言う
「えっ!?あ、あれっ!?真っ暗!?いつの間にっ!?嫌だ 今何時かしら…?キャッ!キャァ!」
マリが時計を見て慌てて言う
「どうしよう!?もう終電は終わっちゃってるっ!?もぅっ 私ったら…っ」

【 マリの部屋 外 】

マンションの前にタクシーが止まり マリが降りる

【 マリの部屋 】

マリが部屋に入りながら 領収書を見て言う
「電車の運賃の何倍かしら… 高位富裕層のIDカードじゃ 公共料金は全て国からの保証になってしまうのに… ごめんなさい… IDは忘れてしまいましたって 嘘を吐くべきだったのかも…」
マリが表情を落とし軽く息を吐いてから コートを掛け部屋へ進むと電気とTVが灯く TVでニュースが流れている マリが荷物を片付けていると TVの音声が聞こえる
『では、引き続き 本日発表された 国防軍からの公表について お伝えいたします 本日昼過ぎに行われた 政府と国防軍の合同公式会議において 国防軍総司令官 アーム・レビット・シュレイガー総司令官は 今まで国防軍が無条件で受け入れを行っていた アールスローン国外の国民の受け入れに対し 一定の基準を設ける事とし その基準は 政府の基準と同じものを採用するとの公表を行いました』
マリが疑問してTVを見る TVから音声が聞こえる
『この公表に対し 今夜遅く 政府長官補佐ルイル・エリーム・ライデリア補佐官は 国防軍が政府との共存意識を示したものとして 一定の理解を示しはするものの 国防軍が政府との合同協力協定を考えるのであれば 今回の公表以前に 今までの国防軍を持って その意志を示すべきであったとの 認識である事を 政府長長官ユラ・ロイム・攻長閣下との共同声明として発表致しました』
マリが言う
「国防軍は政府と仲良くなろうとしているのかしら?…そうよね 悪魔の兵士さんも 反逆の兵士さんも どちらも アールスローンを守る為に 戦ってくれたのだから これで」
マリが微笑した後 疑問して言う
「あ… あら?えっと 呼び方が違うだけで 悪魔の兵士は反逆の兵士と 同一人物だったかしら?…あ、でもっ 悪魔の兵士は 攻撃の兵士と同一人物だったり そうとなったら 親兵攻長様は…?」
マリが困って悩む TVから音声が流れる
『尚、国防軍は 政府からのこの発表に対しても 国防軍の公表を改めるつもりはなく 早ければ明日からでも 現在国防軍に従軍している 帝国のマスターの名を持つ 国防軍隊員を 全て除名処分するとの』
マリが驚き言う
「え…っ?」
マリが慌ててTVへ近付くTVから音声が流れる
『そして、政府と同じく 現行帝国のマスターの名を持つ者であっても ナノマシーンの除去を行い 正式にアールスローン国民として 改名する意志のある者に対しては それを示す契約書の提出と共に 従軍を許す考えてであるとの 追加公表がなされました』
マリが心配して言う
「そ、そんな…っ 王子様…っ 大丈夫かしら…っ!?」
マリがTVの前に立ち尽くす

【 保育園 】

TVでニュースが流れている
『昨日行われた 国防軍総司令官 アーム・レビット・シュレイガー総司令官による 国防軍の公明により 現在その国防軍に従軍している 帝国のマスターの名を持つ隊員たちは 本日付でその大半の者が脱退処理を行い 残りの隊員たちに置いても 職務の引継ぎ等が終了次第 国防軍を脱退するとの…』
マリが表情を落として言う
「王子様も… あの駐屯地から 居なくなってしまうのかしら…?そうしたら… もう…」
マリが手を握り締める TVでニュースが流れる
『尚、それらの中に置いて 一部の隊員たちに置いては ナノマシーンの除去と共に アールスローン国民への改名を行い 引き続き国防軍への従軍を希望するとの情報も』
マリがTVを見る TVでニュースが流れる
『しかし、今回の突然すぎる 国防軍の公表と行動に 帝国のマスターの名を持つ者を支持する アールスローン国民によるデモンストレーションや ボイコットなどを行うとの情報もあり 現在政府警察では それらへ対する警戒を行っているとの発表が 先ほど行われました』
マリが呆気にとられて言う
「マスターの名を持つ者を支持する アールスローン国民… 私も 同じ… 私も 王子様のために 勇気を出してデモへ参加しようかしら…?」
ミナがやって来て言う
「こらこら マリ先生?聞こえてるわよ?」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?あっ!?ミナ先生っ!?」
ミナが苦笑して言う
「私たちは政府の保育園の保育士なんだから マスターの名を持つ者を支持する デモやボイコットへ参加したりなんかしちゃ駄目よ?」
マリが言う
「え…?でも、今回のデモやボイコットは 国防軍に対するものですから 政府の側に立つ私が参加しても 政府への反発にはならないのでは?」
ミナが言う
「そうは言っても 組織の中に マスターの名を持つ者を置かないって言うのは 政府も同じなのだから それに反発する事は 政府の考えにも反発する事になるのよ」
マリが驚いて言う
「え?政府も?…でもっ 政府は帝国の反逆の兵士である 皇居宗主様を支持しているのに?」
ミナが微笑して言う
「その現代の皇居宗主様であらされる メルフェス・ラドム・カルメス様だって アールスローンのお名前でしょ?」
マリが呆気にとられて言う
「あ…」
ミナが苦笑して言う
「カルメス様が 元々帝国の名を持つ方であったかどうかは知らないけれど どちらにしても 政府にマスターの名を持つ方は居ないわ だから 今回の一部の国民の反発に対しても 政府は通常通り 政府警察を導入するって言っているし 口では国防軍の公表を支持はしないって言ってるけど 本当は支持してるんじゃないのかしら?」
マリが表情を落として言う
「どうして政府も国防軍も マスターの名を持つ方を 追い出そうだなんてするのかしら… 例え名前を変えなくたって 帝国の名を持つ方が アールスローンの敵だなんて事はないのに」
ミナが言う
「そうは言っても もし本当に帝国との戦争でも起きたら 分からないじゃない?」
マリが困り怒って言う
「そんなっ」
ミナが言う
「私だって 別にマスターの名を持つ方が 全員帝国のスパイだなんて思わないわよ?でも、そうはならないとは言い切れないじゃない?それで 政府はマスターの名を持つ方を置かないんだから 国防軍もそうするって言うのは 今回は確かに急ではあったけど …納得かな?」
マリが困り怒って言う
「でもっ スパイをするのでしたら 最初からアールスローンのお名前にして 国防軍や政府へ入り込んだ方が良い筈ですし!ですから… 今更マスターを追い出そうだなんて する必要はっ!」
ミナが苦笑して言う
「うん… まぁ そうかもしれないけれど… 私も詳しくはないけれど 名前を変えると言う事は アールスローンへ身を捧げるという意味でも あるんじゃないかしら?政府の攻長閣下が アールスローンの刻印を身に受ける事と 同じみたいに …だから、マスターの名を持つ方は 素直にアールスローンの名前に変えたら良いのよ その方が私たちも安心じゃない?」
マリが俯いて言う
「でも…」
ミナが苦笑して言う
「子供たちと違って 国防軍に入隊したマスターたちなら ナノマシーンの除去費用ぐらい出せるでしょ?私としては どうしてそれくらいの事もしないで 国防軍を脱退しちゃうのかしらー?って そっちの方が不思議だと思うけど?」
マリが反応してTVへ向いて言う
「そう… 言われれば そうですね…」
マリの視線の先TVからニュースが流れる
『尚 マスターの名を持つ隊員の除名処分による 国防軍の隊員数の変化割合は 全体の2%程度である事から 今回の事による国防軍の国防能力の低下などの懸念は 一切ないとの発表が…』

【 政府昼食会 】

メルフェスが飲み物を軽く飲む マリがメルフェスを見付け足早に近付いて言う
「メルフェス様」
メルフェスがマリへ向き微笑して言う
「こんにちは マリーニ先生 今日も とてもお美しくあられますね」
マリが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「お褒めに預かり光栄で御座います」
メルフェスが微笑して言う
「とは言え、やはりご心配なのでしょう?少しお痩せになられた様だ」
マリが気付き苦笑して言う
「は… はい…」
メルフェスが苦笑して言う
「まだ 王子様とは 会われていらっしゃらないのでしょう?」
マリが視線を落として言う
「はい… その… すっかり安心していたら 急にこんな事になってしまって… もしかしたら 王子様も…」
メルフェスが言う
「彼も 多くのマスターたちと同様に 国防軍を脱退されたそうです」
マリが一度驚いた後 表情を落として言う
「そう…でしたか… ごめんなさい 折角 メルフェス様に 居場所を教えて頂いたのに」
メルフェスが苦笑して言う
「いいえ こちらこそ …最初から この様にして置けば 良かったですね」
メルフェスが二つ折りにされた小さな紙をマリへ向ける マリが疑問して言う
「これは…?」
メルフェスが言う
「マスターグレイゼスの ご自宅の住所です」
マリが驚く メルフェスが苦笑して言う
「女性の貴女に 男性のご自宅を案内するのは失礼かと 遠まわしな事をしていましたが 例え国防軍の駐屯地前とは言え 夜道に貴女を待たせるような事になり 返って危険へ晒してしまいました 謝罪いたします」
マリが慌てて言う
「い、いいえっ!そんなっ か、彼が駐屯地から出て来るのを 待っていたのはっ 私の勝手で…っ 部署も名前も分かっていたのなら 伝言をお願いすれば良かったのに…っ こちらこそっ 本当に ごめんなさいっ」
マリが頭を下げる メルフェスが苦笑して言う
「今度は 例え その住所の部屋を直接尋ねずとも 近くの飲食店にでも入り過ごしていれば 彼の帰宅を目にする事が出来るでしょう マリーニ先生が冬の寒空の下に立たされているなどと聞くよりは 私もその方が安心です」
マリが呆気に取られる メルフェスが間を置いて言う
「…それと、あまり 貴女を脅かすような事は 言いたくはないのですが 貴女が彼を愛し続けると言うのであれば なるべく早く その思いを伝えた方が良いでしょう」
マリが驚いて言う
「え… それは…?」
メルフェスが言う
「今までも… ではありましたが 高位富裕層の名を持つ 貴女を手に入れようと企む 下位富裕層の者たちが 最近その動きを強めています これまでは 私が貴女を気に入っているものと思われていたため 彼らもそれほど大きな動きを起こしませんでしたが そろそろ 貴女と私のお芝居に 気付かれて来てしまった様です」
マリの胸がズキッと痛む メルフェスが視線を逸らして言う
「貴女が想いを伝えれば マスターグレイゼスはきっと貴女を受け入れるでしょう そうしたら まずは彼との書類上の婚約だけでも済ませ 貴女を手に入れようと企む者たちから逃れて下さい …貴女の無事は私の願いでもある」
マリが驚きメルフェスを見る メルフェスが微笑する マリが一度視線を落としてから言う
「あ… あの…」
メルフェスが言う
「それまでは 私が貴女をお守りしましょう」
マリがメルフェスを見て 表情を落として言う
「どうして… メルフェス様は それほど私へ ご親切を下さるのですか?私は…」
メルフェスが苦笑して言う
「そうですね 偶然とは言え 高位富裕層の方とは存じなかった貴女と出会え そして、再びここでお会する事が出来ました 更に その貴女が地位や名誉を気にせず そして、マスターの名を持つ者を愛せる 強く優しい女性であると言う事を知りました 私にとって貴女は ペジテの姫に匹敵するほど 敬愛出来るお方だ」
マリが驚いて言う
「そ、そんなっ わ、私が ペジテのお姫様に 匹敵するだなんて…っ」
メルフェスが軽く笑って言う
「っははっ 貴女はそれほどのお方ですから どうか 安心してマスターグレイゼスへ告白をなさって下さい そして、早く私を安心させて下さい お姫様?」
マリが顔を赤らめて恥ずかしがる

【 喫茶店 】

マリが窓の外 アパートの玄関前を眺めつつ思い出す

【 回想 】

マリが苦笑して言う
「私もマスターの名を持つ子供の保育を受け持った事があるので その子達がアールスローンの子供たちより優れていると言う事を 知っています 例えば アールスローンの子供たちよりも 運動神経が卓越していたり 文字や言葉を覚えるのがとっても早かったり… それらは その子達の血中にあるナノマシーンが 能力の上昇を補佐している影響であると …でも、それが 大人になっても 変わらないのかどうかまでは 知らないのですが」
メルフェスが言う
「それらの能力は 成長しても同じですよ …ただ、子供の頃とは異なり マスターの名を隠すのと同様に それらの能力も隠すようになりますから マリ先生はもちろん 他の人々にも あまり意識をされなくなるのでしょうね」
マリが呆気に取られた後 視線を落として言う
「それでは… やっぱり 帝国の為にアールスローンの情報を得ようとする 帝国のスパイになってしまうと言う事も あるのでしょうか…?でも それなら ナノマシーンの除去を行ってでも 国防軍に従軍している方が もし、本当に帝国のスパイだったとしても その方が都合が良いと思うのですが… そんなに簡単なものではないのでしょうか?それこそ ミナ先生が言っていたみたいに 攻長閣下の刻印と同じ位 強い意志が無いと…」
メルフェスが言う
「確かに強い意志は必要でしょう ナノマシーンの除去には能力補佐の消滅だけではなく 記憶の混濁や喪失、それに本来持ち合わせている知能の低下をも 招く危険性があると言う報告があります そして、能力補佐を失っての能力も 個人差がありますが それまでの 3割から7割もの低下と言われます 国防軍に従軍している彼らは 恐らく隠してはいても 相応の能力を使用して任務に当たっている筈 …情報部ともなれば 尚更でしょう」
マリが驚く メルフェスが言う
「ただ、政府や国防軍が マスターの名を持つ者を危惧しているのは 彼らが帝国のスパイであるかと言う事以前に もっと大きな理由があります」
マリがメルフェスを見る メルフェスがマリを見て言う
「ナノマシーンを身に持つ者は 己の意志とは無縁に 帝国に操られてしまう危険性があるのです」
マリが驚いて言う
「あ… 操られ…っ!?」
メルフェスが言う
「ええ、ですから アールスローン国内の多くの情報を保有する 政府においては その危険性を持つマスターを 置く事が出来ないのですよ」
マリが俯き視線を泳がせて言う
「そんな…っ 自分の意志を離れて帝国に 操られてしまうだなんて…っ」
メルフェスが言う
「ナノマシーンを身に持つ者が マスターの名で呼ばれると言うのは 元々その危険性を他者へ示す為に用いられている事なのです そして 彼らは 万が一アールスローンが帝国と戦争を行うと言う事になれば 無条件で隔離処理を受け入れるとの契約の下 アールスローン国内への滞在を許されています …ですから」
メルフェスがマリを覗き込む マリがメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
「貴女がこれから マスターグレイゼスと共に生き続けるとなれば そう言った事態に遭遇すると言う事も有り得ますが 一時の辛抱です 国防軍のレギストや 政府の皇居宗主である私が 一刻も早く帝国との戦いを収めるでしょう そうすれば 隔離処理も解除され すぐに元の平和な状態へ戻られます」
マリが気付いて言う
「レギスト… レギストは特別な時に 再結成されるとっ!?それじゃっ!?」
メルフェスがマリの肩に手を置いて言う
「レギストが再結成をされても 必ず戦争が起きるとは限りません それを未然に防ぐ事が 元より私の使命です」
マリが呆気にとられて言う
「メルフェス様…」
メルフェスが微笑する

【 回想終了 】

マリが息を吐いて言う
「メルフェス様は… お1人で戦っておられるのかしら?アールスローンと帝国の架け橋として… アールスローンの人々やアールスローンに居るマスターたちを守る為に…」
マリが窓の外を見て言う
「お寂しく無いのかしら…?ご結婚もしていらっしゃらないし… レギストみたいに 沢山の兵士さんたちとも ご一緒じゃないのに…」
マリがふと気付いて言う
「あ、でも きっと 政府の方々が 一緒にいらっしゃるのよね?そうじゃなかったら… お1人で帝国と戦うだなんて事 出来る筈が無いもの…」
マリが微笑して言う
「私も 同じ… 早く 王子様と…」
マリが言葉の途中で目を見開いて言う
「王子様っ!」
マリが思わず立ち上がり走り出す

【 道端 】

グレイゼスが車を降り身震いして言う
「うぅ~ 寒いっ 今年はやけに冷えるなぁ やっぱ低気圧の流れが…」
グレイゼスが歩く グレイゼスの後方マリが走って来て途中で転ぶ グレイゼスが歩いて行く マリが立ち上がって言う
「待ってっ 王子様っ」
マリが走って向かう グレイゼスの携帯が鳴り グレイゼスが一瞬立ち止まって携帯を取り出して言う
「おっ 待ってたぜ ハイケル!…あぁ そうだったのか 悪い悪い 昨日は開店準備で疲れて そのまま店で寝ちまってさ」
マリが立ち止まって言う
「ハイケル君からお電話みたい… お、お電話が終わるまで 待たないと 失礼よね?ハイケル君は レギストの隊員さんだもの 大切なお電話かも しれないもの…」
グレイゼスはマリに気付かず 歩みを再開しながら言う
「ああ、そっちは調べてる レギストの再結成を公式発表したのは ずっと前なんだ それを理由にマスターを排除しようなんて どう考えてもタイミングが可笑しい レーベット大佐からも 一時離れるだけで すぐに戻って来いって 言われてるしな?少なくとも 大佐の仕切る 国防軍レギスト駐屯地のマスターは 皆同じさ!」
マリが距離を置いて追いながらホッとして微笑する グレイゼスが言う
「けどまぁ 一時とは言われたが その時間の方は… 残念ながら 俺の予想では もう少し掛かると思う だからって訳でもないが 丁度 喫茶店を始める資金が揃ったから 思い切って始めた訳だが これが結構面白そうで 俺やっぱり 情報部のマスターじゃなくて 喫茶店のマスターになっちまおうかなぁ?はははっ!」
マリが立ち止まり呆気に取られる 携帯からハイケルの怒鳴り声が聞こえる
『本気で言っているのかっ!?』
グレイゼスが思わず立ち止まって携帯を耳から離した後 苦笑して言う
「怒るなって… 大体、無理に戻ろうとする方が 大佐や俺らを支持してくれる お前たちにも迷惑が掛かる… マスターたちが考える事は皆同じなんだよ アールスローンの皆と ずっと一緒に居たいってな?」
携帯からハイケルの怒りを押し殺した声が聞こえる
『だったらっ!それを守る為に 仲間と共に戦えば良いだろうっ!?お前の部下である 情報部員の言葉を お前は聞いていなかったのかっ!?』
グレイゼスが苦笑して言う
「アリム君の言葉だろ?聞いてたさぁ~ だから 尚更 アリム君だけじゃない あの瞬間その場で国防軍総司令本部への襲撃作戦でも 命令しそうだったお前を 落ち着かせてやったんだろぉ?」
グレイゼスが歩みを再開させる マリが心配しながら続く 携帯からハイケルの怒りの声が聞こえる
『落ち着く必要は無いっ!今すぐに国防軍レギスト駐屯地へ戻って来い!情報部員と機動部隊を招集するっ!』
グレイゼスが衝撃を受け 立ち止まって慌てて言う
「あー!おいっ!ハイケルっ!お前が言うと嘘に聞こえないんだから やめてくれってっ!」
携帯からハイケルの怒りの声が聞こえる
『嘘は嫌いだっ!本気に決まって!』
グレイゼスが慌てて言う
「だぁあっ!こらこらっ!落ち着きたまえっ ハイケル君っ!こっちだって ちゃんと作戦は考えてある!」
携帯からハイケルの怒りを押し殺した声が聞こえる
『本当か…?嘘だったら…っ』
グレイゼスが慌てて言う
「本当に本当だって …とにかく まずは 今回の経緯を洗い出してからじゃないと 動くには危険だ 公式発表では国防軍独自の判断のような事を言っているが 政府が絡んでいる事は間違いないからな?」
マリが驚く グレイゼスが歩みを再開させながら言う
「ただ、政府の情報を覗こうと思うと やっぱり 情報部のセキュリティが無いと危険だから …それより なんとか 政府の情報を得られそうな人物へ コンタクトを取ろうと思ってる」
マリがハッとしてグレイゼスを追う グレイゼスが携帯に応対する様に言う
「…うん?メド?うーん それがなぁ~ やっぱり難しい訳だ 少し時間が掛かるって理由がそいつだ 何しろ 政府にはマスターは1人しか居ないからな?」
マリが呆気に取られて言う
「政府のマスター…?」
グレイゼスが続けて言う
「その人物に 俺の得意とする情報処理でコンタクトを取ろうとすると 逆に大変なんだわ セキュリティが半端なくって …恐らく 過去において相当 知能補佐能力に秀でたマスターが居たんだろうなぁ?帝国の名前の方は分からないが どう言う訳か その人物の名前は 現代の皇居宗主と同じ メルフェス・ラドム・カルメスなんだ」
マリが驚く グレイゼスが部屋の鍵を開けながら言う
「だから 情報でやり取りをするんじゃなくて 思い切って 直接本人に会っちまおうかってさぁ?んで、悪いんだが ハイケル その時はちょっと手を貸してくれないか?とは言っても 過去の皇居宗主様と違って 現代の皇居宗主は 身体補佐能力に秀でたマスターらしいから」
マリが目を見開いて立ち止まる グレイゼスがドアを開け部屋に入りながら言う
「いくら素早いお前でも 捕まえられないかもしれないが その時は…」
マリの目の前でドアが閉まる マリが呆気にとられて言う
「メルフェス様が… マスター…っ?」

【 保育園 】

マリが子供用アールスローン真書を開いたまま見つめている ミナがやって来て疑問して言う
「マリ先生?」
マリが振り向いて言う
「あ… ミナ先生…」
ミナが心配して言う
「一体どうなさったの?昨日は 今度こそ王子様に会えるって あんなに張り切っていたのに… …あ!…え?ま、まさか…っ」
マリが苦笑して言う
「いえ… 今度こそ会えました …あ、…会えただけで 話はしていないのですけど…」
ミナが呆気に取られて言う
「会えただけで 話はしてない…?」
ミナがホッと溜息を吐いて言う
「何だ ビックリさせないで?マリ先生?…てっきり 振られちゃったのかと思って 心配したじゃない?」
マリが気付き苦笑して言う
「あ… ごめんなさい… 心配して下さって 有難う御座います ミナ先生…」
ミナが席に座りながら言う
「それじゃ 一体何をそんなに悩んでいるの?やっと会えたんじゃない?早く声を掛けて ハッピーエンドにしてくれなきゃ 私に政府のパーティー招待権が戻って来ないんだから?…うふふっ」
マリが苦笑して言う
「参加メンバーは 私が初めて行った時と お変わり有りませんよ?」
ミナが言う
「うんー… それは聞いていたけど… やっぱり 全く行かないでいるとね?ちょっと懐かしくなっちゃってっ 特に気のある方じゃなくても ダンスをしたり 私に気の有りそうな方とお話しするのは やっぱり楽しかったかな~?…なんてね?」
マリが苦笑して言う
「ミナ先生… ミナ先生にその気が無いのに 相手のお気持ちを楽しむような事をしては その男性がお可愛そうじゃないですか?駄目ですよ?」
ミナが苦笑して言う
「うふふっ ごめんなさい …でも、お話しをしているうちに 私がその気になるかもしれないじゃない?」
マリが呆気にとられて言う
「え…?」
ミナが言う
「最初は好きでも何でもなかったのに お話をしている内に 気が合うわ!って思えたり ダンスをして楽しい!と思えるのは やっぱり その方の事が気に掛かり始めている証拠なのだし… あ、次のパーティーは丁度 そのダンスパーティーだったわね?マリ先生?王子様とはどうなの?次のパーティーの前に 婚約でも出来そう?」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?そ、そんなっ 急にっ …ま、まだ 声も掛けていないのですからっ」
ミナが苦笑して言う
「そうは言っても 過去には一度告白をされているのだし マリ先生は4構想のお名前をお持ちで それに… こんなにお可愛い女性なんだから 喜んでもらえるに決まってるわ!ね?今日こそ声を掛けて頂戴?…なんなら 私が一緒に行って…!」
マリが慌てて言う
「ま、待って下さいっ ミナ先生っ そんなに急がないで …ちゃんと私が1人で行ってっ 1人でちゃんと告白しますから…っ そ、それで えっと こ、婚約なんて言うのはっ や、やっぱり そんなに早くは無理ですからっ こ、今度のパーティーは…っ ごめんなさいっ 諦めてくださいっ 間に合わないですっ」
ミナが言う
「えー?残念…」
マリが困り視線を落として言う
「ご、ごめんなさい…」
ミナが苦笑して言う
「嘘よっ そんなに落ち込まないで?ちょっと 急かしてあげようと思っただけよ?マリ先生?」
マリが呆気にとられて言う
「え… え…?」
ミナが苦笑して言う
「それに 婚約なんて そんなに硬いものじゃないんだから もし 王子様と会っても すぐに結婚出来そうに無かったら とりあえず事情を話して 政府のパーティーを辞退する為にって 婚約届けにサインだけ お願いしちゃえば良いのよ?…それに、サインをしてもらえば もしかしたら その気になってくれるかもしれないしね?…うふふっ」
マリが慌てて言う
「ミ、ミナ先生っ 駄目ですっ」
ミナが軽く笑って言う
「まぁまぁ 後半のは冗談としても 政府のパーティーだけじゃなくて 高位富裕層の女性なら 偽の婚約は 身を守る為に良く使う手だから 王子様が駄目なら 誰か未婚の男性のお友達に お願いするって言うのも手なのよ?」
マリが表情を困らせて言う
「そ… そんな… 嘘で婚約届けにサインを頂くだなんて…」
ミナが苦笑して言う
「これ位 高位富裕層まで行かなくたって 富裕層の女性なら常識よ 私も 今度パーティーが面倒になったら 使おうと思ってるんだから?」
マリが視線を落として言う
「そう… なのですか… 私には…」
マリの視線の先 子供用アールスローン真書に 反逆の兵士の絵が描かれている

【 喫茶店 】

マリが窓の外を見ている 視線の先の駐車場には車が無い マリが時間を確認して軽く息を吐いてから 気付いて言う
「そう言えば…」
マリの脳裏に記憶が蘇る

グレイゼスが携帯に言う
『おっ 待ってたぜ ハイケル!…あぁ そうだったのか 悪い 昨日は開店準備で疲れて そのまま店で寝ちまってさ』

マリが軽く息を吐いて言う
「また お店で寝ちゃってるのかな…?王子様の喫茶店って どんなお店かしら…?」
マリが店内を軽く見てカウンターを見る カウンター内に店員が居て作業を行っている マリが視線を戻し苦笑して言う
「素敵… かも… ね?…くすっ」
マリが紅茶を飲んでから席を立つ

【 マリの部屋 外 】

マリが歩いて帰って来る

【 マリの部屋 】

マリがコートを掛け部屋へ進むと電気が付きTVが点る TVでニュースが流れている マリが荷物を片付けていると TVの音声が聞こえる
『…では次のニュースです 今朝早く マイルズ地区の高位富裕層 国防軍レギスト駐屯地総責任者サロス・アレクサー・レーベット大佐が お亡くなりになっているのが発見されました 死因は…』
マリがハッとして思い出す

グレイゼスが携帯に言う
『…レーベット大佐からも 一時離れるだけで すぐに戻って来いって 言われてるしな?少なくとも 大佐の仕切る 国防軍レギスト駐屯地のマスターは 皆同じさ!』

マリが驚いて言う
「レーベット大佐… まさかっ!?」
マリがTVへ向き直る TVでニュースが流れている
『…であり ご夫婦による無理心中であったものと 現在国防軍と共に政府警察が現場検証を続けていますが 昨日から続いて起きた この高位富裕層による無理心中及び 自殺に関して 政府警察は何らかの事件性があるものではないかと 現在それらの確認と共に 現場検証を続けているとの事です』
マリが力なく座り込み 強く祈って言う
「神様… どうか彼らをお守り下さい…」

【 喫茶店 】

マリが窓の外を見ている 駐車場に車は無い マリが視線を落として言う
「王子様… 大丈夫 よね…?」
マリが再び駐車場へ目を向けてから 痛む胸を押さえる

【 マリの部屋 】

マリがTVへ一度視線を向けてからノートPCへ向き直り操作をしている TVから音声が聞こえる
『…更に今入った情報です 先日からたて続きに起きている 高位富裕層による連続自殺事件に 新たな被害者が確認されました こちらも先日同様 マイルズ地区の高位富裕層である…』
マリがノートPCに表示されたニュースの写真に驚き一度視線を逸らしてから 表情を悲しめつつ画面をスクロールさせながら言う
「子供まで 道連れにするだなんて…っ」
マリが涙を拭う TVから音声が聞こえる
『尚 先日まで行われていた 国防軍と政府警察の合同現場検証は 本日から国防軍へ委託されることになったとの情報を 本日昼過ぎにお知らせ致しましたが 同じく本日夕方 政府皇居宗主メルフェス・ラドム・カルメス様からのご指示により…」
マリがハッとしてTVを見る TVでニュースが流れている
『これにより 政府は再び政府警察を導入し 国防軍と合同の現場検証を続ける事となりました この件に関し カルメス皇居宗主は 国防軍が事件前に行った 国防軍の従軍隊員の選定 共に 新たな国防軍の提携先として契約を行った 黒の楽団に付いての 詳しい情報提供を ランザー・ナビット・防長閣下を通じ 国防軍へ命じたとの事です 尚 このご命令が陛下のお言葉を元にしての ご命令であったかの確認は取られておりませんが 防長閣下と共に アーム・レビット・シュレイガー総司令官は 従う意向を…』
マリが言う
「従軍隊員の選定についての情報提供… やっぱり メルフェス様は 国防軍のマスターの皆を 守ってくれようとしているのかしら?…それに国防軍の提携契約をした 黒の楽団と言うのは…?」
マリがノートPCへ向き直り操作を行う ノートPCのモニターに映像が映り マリが読んで言う
「黒の楽団… メルシ国の管弦楽団… 元は メルシ国の動物と共にサーカスを行い その際に奏でる音楽が 動物との共鳴を…?」
マリが疑問した後苦笑して言う
「なんだ 動物と一緒に音楽を奏でる事が お好きな方々なのね?それなら 悪い人たちなんかじゃ 無いのかも?安心して… 良いのかしら?」

【 喫茶店 】

マリが携帯で情報を見ていて 窓の外を見て驚くと 立ち上がって急いで向かう 窓の外 駐車場に車が止められる

【 道端 】

マリが走っている その先 グレイゼスが車から降り電話をしながら歩く マリが立ち止まり一度息を飲み込んでから思い切って声を掛けようとする 同時にグレイゼスが電話へ言う
「お嬢様が見つかったぜ ハイケル」
マリが立ち止まり驚いて言う
「お嬢 様…?」
グレイゼスが足早に歩きながら携帯へ言う
「ああ、本当に良かった すぐにでも俺がお迎えに行きたい所だが… お前は今動けないだろう?だからそのまま 総司令官の気を引いておいてくれ レギストの動きはどの部隊よりも監視されてるから くれぐれも慎重にな?」
マリが迷いながらも追いかける グレイゼスが言う
「…うん?マスターたちの件?ああ、そっちは どうやら政府は関係していなかったらしい 断言は出来ないが… もしかしたら 国防軍の狙いは今回の事だったのかもしれない …それにしても お嬢様の居場所を探すのに こんなに時間が掛かっちまうなんて 国防軍レギスト駐屯地の情報部に居られれば 1日も掛からなかった筈なのにな?」
グレイゼスがドアの鍵を開けながら言う
「けど、俺たちが国防軍へ戻る事よりも 今回のこの事件を片付ける方が先だ …ともすれば …おっと?」
グレイゼスが鍵を落とす マリが思わず一歩進みグレイゼスを見る グレイゼスが鍵を拾い上げて言う
「いや、ハイケル 落ち着け 確かに総司令官を 暗殺 すれば」
マリが驚く グレイゼスが言う
「全てが元に戻るかもしれない だが 最悪その手を使うにしても 相手の手口を確認出来るまでは待つんだ いつも言ってるだろ?任務は…」
マリが驚いている 携帯からハイケルの怒りを押し殺した声が聞こえる
『確実に遂行させるっ』
グレイゼスが微笑して言う
「そうだ レーベット大佐のお言葉だ その為の作戦構築を万全に行えってな?…今の俺は 正直 マスターたちを国防軍へ戻す事を考えている余裕は無い 考えられるのは 黒の楽団の正体を暴く事 …そして 何としても 俺たちの大切なお嬢様を お守りする事だっ」
グレイゼスがドアを閉める マリが呆気に取られて言う
「王子様たちの 大切なお嬢様って… 誰?」
マリがぎゅっと胸に当てた手を握り 走って逃げる

【 保育園 】

ミナが呆気に取られて言う
「王子様に会いに行くのを止めるっ!?」
マリが表情を落として頷いて言う
「はい…」
ミナが表情を困らせて言う
「ど~してぇ?ここまで来て 止めるだなんて… 私だけじゃなくて 色々手を尽くして下さった カルメス様だって がっかりなさるわよ?」
マリが苦笑して言う
「そうですね… メルフェス様にも… 嫌われちゃいますね… こんな 弱虫な私じゃ… でも…」
マリが視線を落とす ミナが言う
「…どうかしたの?だって まだ声も掛けていないって?」
マリが苦笑して言う
「私なんかと違って 王子様はいつもお忙しくて… 同じ孤児院だった ハイケル君って言う レギストの隊員さんと お仕事のお話をしているんです でも、その… 内容が… とっても怖くて… それに…」
ミナが苦笑して言う
「王子様は 国防軍の方なのでしょ?だったら お仕事の内容は… それは仕方が無いわよ?増して 最下層の方ともなれば 受け持つ仕事は汚れ役が多い訳だし… その仕事内容が怖いのは …それに?」
マリが視線を泳がせて言う
「それに… もしかしたら 他に… 女の人が居るのかも」
ミナが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
マリが言う
「王子様が ”お嬢様”って… ”お嬢様を守る”って… 王子様が言う お嬢様って… 誰なのかしらって…」
マリがうずくまって言う
「もう駄目なんです 私っ 私 怖くて…っ」
ミナが表情を困らせて言う
「お… お嬢様を守る… かぁ… あ、で、でも ほら?別に… そう言う意味で言っているのじゃ ないのかもしれないじゃない?そもそも 電話の会話を盗み聞きするなんて 失礼でしょ?そんな事する位なら もう 思い切って正面から行っちゃいなさいよ?」
マリが表情を落として言う
「そうですよね 失礼ですよね… ごめんなさい… でも、それで… 正面から言って 王子様にも ごめんなさいって言われちゃったら?『俺はお嬢様の事が好きなんだ』 なんて言われちゃたら?それこそ 私… もうっ 何もなくなっちゃうっ」
マリが泣き出す ミナが苦笑して言う
「んもぉ~っ」
ミナがマリの肩を軽く叩いてあやしている

【 国防軍レギスト駐屯地 】

マリが通り掛り立ち止まって金網の向こうを見る 隊員たちが腕立てをしている 軍曹がハイケルの横に来て敬礼して言う
「通常訓練の1 完了いたしましたぁーっ!少佐ぁーっ!」
マリが軍曹を見る ハイケルが隊員たちへ視線を向けたまま言う
「了解 通常訓練の2に先んじて 駐屯地周回30週を与える」
軍曹が言う
「はっ!有難う御座いますっ!すぐにとり行って参ります!少佐ぁー!」
軍曹がハイケルの下から走って去る マリが呆気に取られて言う
「ハイケル君… 少佐さん だったのね…」
マリが苦笑して言う
「王子様は中佐さんで ハイケル君は少佐さんで… やっぱり2人とも 凄いんだ…」
マリの目前を軍曹が走り抜ける

【 政府ダンスパーティー 】

マリが視線を落として歩きながら言う
「私は… 結局 メルフェス様のお力をお借りしても… 1人では何も出来なくて… 王子様のすぐ近くまで行っても 声も掛けられなくて… 本当に 名前だけの高位富裕層… 陛下へ名前を返上して 1構想の最下層の者になってしまった方が 良いのかも…」
マリがダンスホールの音楽に顔を上げる 視線の先 人々が皆ダンスを踊っている マリが溜息を吐いて言う
「…そうよね ダンスも踊れないし…」
マリが視線を落とす 青年1が近くへ来て言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様 どうか 僕と一曲」
マリが青年1を見て苦笑して言う
「ごめんなさい 私、ダンスを踊った事が無いんです それに とっても運動が苦手で… きっと 貴方様のお足を踏んでしまいますので」
青年1が一瞬呆気に取られた後 微笑して言う
「ご心配には及びません そもそも ダンスと言うのは 男性が女性をエスコートするものですので もし貴女が上手く踊られなかったら それは 僕の失態と言う事になります どうぞ僕に 全てをお任せ下さい」
マリが呆気に取られた後 微笑して言う
「でも… そうしたら 私のせいで 貴方に恥を掻かせる事になりますから 私は…」
マリが視線をいつもメルフェスが居る方へ向け驚く 青年1が笑んで言う
「今日は カルメス様は ご欠席の様ですね?丁度良いではないですか?お陰で僕と踊れるのですから 貴女はいつも皇居宗主のカルメス様のお相手をして 他の者との時間を過ごせないで おられるのでしょう?」
マリが驚き慌てて言う
「い、いえっ メルフェス様に いつも助けて頂いているのは 私の方でっ!」
青年1が微笑して言う
「ご本人が居られない時位は 羽目を外しましょう?年齢の近い僕の方が 貴女も楽しい筈ですよ?さぁ?」
青年1がマリの腰に手を回す マリが表情を顰めて言う
「キャッ!い、嫌っ…」
青年1が言う
「最初は緊張しても すぐに慣れますよ 力を抜いて ダンスを楽しんで下さい」
マリが表情を困らせながらも思う
(ダンスを楽しむ… そうよね ミナ先生も ダンスがしたいって言っていたのを… 私のせいで 来られなかったのだから せめて 私が…っ)
マリがダンスをしようと試みる 青年1が微笑して言う
「そうです 力を抜いて 僕のリードのままに動いて下さい」
マリが表情を困らせつつ言う
「は、はい…っ」
マリが足元を見ながらおぼつかない様子で何とか合わせようとする マリがハッとすると体が傾き 青年1の足を踏む 青年1が痛みに息を飲む マリが慌てて言う
「キャッ キャァッ ごめんなさいっ!」
青年1が苦笑して言う
「い、いえ どうぞお気にせず さ、もっと ホールの中央で踊りましょう?」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?いえっ む、無理ですっ まだ 全然踊れないのにっ 人の目に付く場所へ向かうだなんてっ」
青年1が笑んで言う
「そう仰らずに 僕と貴女のダンスを 皆に見て頂くのです」
青年1がマリを引っ張ってホールの中央へ向かう マリが緊張して顔を左右に振って否定して言う
「む、無理ですっ わ、私っ 本当にっ!」
青年1が笑んで言う
「さぁ 気にせず 堂々と踊りましょう!ここは僕と貴女の舞台ですよ!」
青年1がマリの腰引き寄せ手を取って強引に推し進める マリが焦り困って必死に足元を見てアタフタして 次々に青年1の足を踏む マリがたまらず言う
「ご、ごめんなさいっ!本当にっ ごめんなさいっ 私 無理なんですっ」
周囲の人たちが失笑する 青年1が平静を装いつつ言う
「え… ええ… どうやら そうみたいですね… 正直言って 小等生の妹の方が上手いですよ …失礼します」
青年1が立ち去る マリが呆気にとられて言う
「あ… ご、ごめんなさい… 小等生以下… もう年齢上は大人の仲間入りをしているのに… やっぱり 私は… 何も…」
青年2が言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスお嬢様?お1人ですか?」
マリが青年2を見て苦笑して言う
「私をダンスに誘ったら 貴方も恥を掻いてしまいますよ?…ですから 私の事はもう…」
青年2が苦笑して言う
「貴女が気に病む事はありません 彼のダンスの才能が低かっただけですよ?きっと貴女は 彼のような強引なリードではなく 私の様な 優しいリードの方が合われる筈だ」
マリが言う
「…優しいリード?」
青年2が手を差し出して言う
「さぁ 参りましょう?アーミレイテス様?」
マリが苦笑して言う
「で、では… 少しだけ お願い致します…」
マリが青年2の手に手を乗せる 青年2が言う
「初めてなのでしたら ゆっくりやれば良いんですよ さ、ゆっくり」
マリが苦笑して言う
「は、はい そうですね ゆっくりなら…」
マリが緊張しながら青年2の足を踏まないように気を付けて踊ろうとするがやがて足を踏み始め 最後には重心の移動に耐え切れずヒールで青年2の足を踏み付ける 青年2が言う
「痛っ!」
マリが困り焦って言う
「ご、ごめんなさいっ!」
青年2が苦笑して言う
「い、いえ… 大丈夫です でも 少し疲れましたかね?休みましょうか?」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?あっ!は、はいっ ごめんなさい…っ」
青年2が立ち去る マリが周囲を見てからメルフェスの居場所を見て 視線を落として息を吐いてから テラスへ向かう

マリがテラスへ出て振り返る 部屋の中ではダンスが行われている マリが言う
「やっぱり 私の居る場所じゃないみたい… そうよね 元々 私は…」
マリがふと気付き 以前身を隠そうとしてメルフェスと会った場所を見る マリがそこへ近付き メルフェスが居た場所を見上げてから自分の居る場所を見る マリの脳裏に記憶が蘇る

【 回想 】

マリが上部を見上げ慌てて言う
「アイゼス君っ!動いちゃ駄目よっ すぐにっ!すぐにっ 院長先生を呼んで来るからっ そのままっ そのままよっ!?」
マリの視線の先 高い木の上に幼い子供(アイゼス)が居て言う
「マリ先生 大丈夫ー 僕いつもここに登ってるもん へっちゃらー」
アイゼスが立ち上がる マリが衝撃を受け慌てて言う
「キャッ!キャァ!お願い 動かないでっ!落ちちゃったら 大変なんだからっ!」
孤児院の鐘が鳴る マリが衝撃を受け アイゼスが言う
「あー お昼寝のじかんー」
アイゼスが高い木の上から飛び降りる マリが慌てて叫ぶ
「アイゼス君っ!」
アイゼスがマリの前に着地して走ってマリの横を過ぎながら言う
「マリ先生ー お昼寝の時間だよー?」
マリが呆気に取られて見送る

【 回想終了 】

マリが苦笑して言う
「アイゼス君と同じ… マスターアイゼス君… やっぱり メルフェス様は…」
マリの後方から ムーレイムの声が聞こえる
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様?」
マリが一瞬驚いて振り返ると ムーレイムが微笑して言う
「この様な寒空の下に居られては お風邪を召されてしまう 室内へ入られた方が良い」
マリが苦笑して言う
「…ご心配を頂き 有難う御座います でも…」
ムーレイムが軽く笑って言う
「アーミレイテス様ほど お美しいお方が居られては 若い彼らも声を掛けない訳には参りますまい しかし… 私も カルメス様ほどとは行かずとも 相応の者です カルメス様に代わり 若い彼らから 貴方をお守りしましょう アーミレイテス様」
マリが呆気に取られた後 微笑して向かいながら言う
「あ… 有難う御座います えっと… それでは お願いし…」
マリがふと胸騒ぎを覚え立ち止まる マリと共に向かおうとしていたムーレイムが疑問し 振り返って言う
「どうかなされましたか?アーミレイテス様?」
マリが言葉に困り視線を逸らして言う
「あの… えっと… 私…」
マリが胸に当てた手をぎゅっと握る ムーレイムが苦笑して言う
「私はもう 見ての通りの歳です 彼ら青年たちの様に 強引な事はしません ご安心を」
マリが反応し苦笑して言う
「あ、いえ… その… 私も 何だか分からないのですが… やっぱり 私は もう少しここに」
ムーレイムが言う
「そうですか?しかし… 残念です 折角 私の古い知り合いの ご息女様にお会い出来たと言うのに…」
マリが驚いて言う
「え…?それは どう言う意味です?」
ムーレイムがマリへ向き直って言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様 私は 貴女のお父様の友人です」
マリが驚いて目を丸くする ムーレイムが顔を逸らして言う
「ですから… 貴女のお父様のお話など… 私の知る事をお話したかったのですが ご都合が悪いのであっては 仕方がありません またの機会に」
ムーレイムが立ち去ろうとする マリが慌てて言う
「あっ あのっ!」
ムーレイムが立ち止まる マリが視線を泳がせつつ意を決して言う
「わ、私の父の事を知っているのですかっ!?私は…っ 両親の事も 家族の事も 何も知らなくてっ」
ムーレイムが言う
「知っていますとも 私は 貴女のお父様の古くからの友人だ もちろん 貴女のお母様や ご兄弟の事も」
マリが驚いて言う
「お母様や 兄弟…っ!?」
マリが慌てて言う
「お、お願いしますっ 教えてくださいっ」
ムーレイムが一度マリへ向いてから微笑して頷いて言う
「もちろん 喜んで …では 中へ?」
マリが言う
「はいっ」
ムーレイムに続きマリが室内へ向かう

室内に入るとムーレイムが更に進んで行く マリが疑問して言う
「あ、あの… どちらまで?」
ムーレイムが先の個室部屋を示して言う
「ここでは少々賑やかでしょう あちらでゆっくり 2人きりで お話をしましょう」
ムーレイムが進む マリが視線をめぐらせつつ ゆっくり進む マリが立ち止まって言う
「あ、あの… やっぱり ここでお話を聞かせて下さい …えっと ここは確かに賑やかですが 音楽の音も お話をするのに支障は無い大きさなので いつもここで大丈夫ですので」
ムーレイムが振り返って言う
「事は 貴女様の 特に個人的なお話です 2人きりになれる方が宜しい」
マリが困って言う
「それは… そうかもしれませんが…」
ムーレイムが言う
「ご家族の事を聞きたくは無いのですか?」
マリがムーレイムを見る ムーレイムが笑んで言う
「貴女のお父様は 高位富裕層の方で とても素晴らしい実業家であったが たまたま悪い融資先に当たってしまい それからは… 少々 人前ではお話出来ない事に… それでも ここで全てをお話しますか?」
マリが困って言う
「わ… 私の父は… きっと そんな人じゃ…」
ムーレイムが言う
「残念ながら 貴女のお父様は 世渡りに関しては素人だった 私は何度も止めるようにと警告をしたのだが それでも 下位富裕層であった 貴女のお母様を愛したが故に 最終的に貴女のお父様はご無理をなさって…」
メルフェスの声が聞こえる
「その様な いい加減な作り話を吹き込み 彼女に何をさせるおつもりかな?ムーレイム殿」
ムーレイムが衝撃を受け顔を向ける マリが一瞬呆気に取られた後振り返って言う
「メルフェス様!」
ムーレイムが慌てて言う
「きょ、今日は政府の緊急会議で 欠席されるのだったのではっ!?」
メルフェスが微笑して言う
「ええ、欠席をしても良かったのですが もしかしたら 私のそれを理由に 今まで アーミレイテス殿の情報を必死に調べていた貴方が 行動を起こされるかと思いましてね?失礼ながら 様子を伺わせて頂きました」
ムーレイムが後づ去る メルフェスが苦笑して言う
「それにしても あれだけお調べでありながら 結局何一つ真実を見つけ出せなかったご様子 貴方に政府の情報局局長は やはり任せられません 後ほど ユラ・ロイム・攻長へ伝えておきます」
ムーレイムが慌てて言う
「ど、どうか それだけはっ!カルメス様っ!私は 情報局から追い出されてはっ!」
メルフェスが言う
「情報局は現代に置いて 政府の最も重要とされる部署の1つですので 予てより 多くの者が 無能な貴方を追い出そうとしていたそうですよ?…貴方が上位富裕層の地位さえ持っていなければ とっくに除籍されていたのでしょう …素直にその場に甘んじて居れば良かったものの 高嶺の花に手を伸ばしましたね?」
ムーレイムが悔しがって言う
「く、くそぉっ!覚えていろっ!」
ムーレイムが逃げ去る マリが表情を困らせ一歩後づ去る メルフェスが言う
「彼の言葉に従わず 良く持ち堪えてくれました マリーニ先生 貴女は賢い方だ」
マリがメルフェスを見てから視線を落として言う
「あ… いえ… 私は あの方の言葉に惑わされて 危うく付いて行ってしまう所でした… しかしっ …メルフェス様から 以前 気を付けるようにと ご忠告を頂いていたので …きっと そのお陰だと思います 何となく… 付いて行っては いけないような気がして… … でも… 私…」
メルフェスがマリへ向いて言う
「貴女のお父様は 富裕層や実業家などではなく 一般の… 言ってしまえは 最下層の方でした」
マリが驚いてメルフェスを見上げる メルフェスが微笑して言う
「その地位故に 詳しい情報の方は残されていないのですが 貴女のお母様の方は逆に 貴女が受け継いでいるものと同じ 4構想の女系高位富裕層の一人娘の方でした そして」
マリがメルフェスへ向き直り見つめる メルフェスが言う
「貴女のお母様は ご両親や自身の持つそのご名誉よりも 貴女のお父様を選び 2人は駆け落ち同然に お母様の屋敷から逃げ出した しかし 不運な事に その途中で事故に会い 2人は帰らぬ人となってしまいました それでも、その時既にお母様のお腹の中に居た 貴女だけは 奇跡的にその命を繋ぎとめ その貴女を 娘を失った 貴女の祖父母が引き取り 3歳になるまでを育てていたそうです ただ、元々 貴女のお母様をお年を召してから得ていた事もあり ご両親に代わり貴女を育てていた祖父母も亡くなってしまった 貴女に4構想の名前と 高位富裕層の十分な財産を残して」
マリが目を見開く メルフェスが微笑して言う
「貴女が今まで過ごしていた間に使って来たお金は 全て その祖父母が貴女の名前で残していた財産です 例え高位富裕層であっても その者の財産が費えるまでは 国は一切補助はしません 貴女は間違いなく ご両親とご祖父母に愛され 守られてきたと言う事です マリーニ先生」
マリが涙を流す メルフェスが微笑して言う
「ですから どうかこれからは ご自分のお名前とその地位を大切になさって下さい もちろん 貴女のお母様と同じく どの様に生きるかは 貴女の自由です」
マリが微笑して言う
「はいっ!」

【 保育園 】

ミナが言う
「えぇ 知ってるわ ムーレイム様 あの人 まだ居たのね?」
マリが苦笑して言う
「あ、でも… メルフェス様が もう懇談会へは招待されない者になるって 言ってました …えっと、会場内で そんなに大きな事件などを 起こした訳ではなかったのですが 政府の迷惑条例に抵触するから… と?」
ミナが言う
「懇談会で見知った女性の事を調べて 虚偽偽りを述べるだけでも 十分迷惑条例に抵触するわよ …でも、これで安心ね あの方もう良い年だから そろそろ 高位富裕層の女性から 中位富裕層の女性へ 対象を変えるのじゃないかって噂だったの だから 私も ちょっと怖かったのよね」
マリが微笑して言う
「あ、それなら 安心ですね?良かった… メルフェス様にも 謝罪と共にお疲れ様でした と言って頂けて… 私も ほんの少しだけですけど… 何かのお役に立てたのかなって?」
ミナが笑んで言う
「ほんの少し所じゃないわ!とっても沢山よ!今までずっと 誰も手を打てなかった あの迷惑ムーレイム様を追い出してくれたのだから 私だけじゃなくて 会場に居た皆が マリ先生に感謝していた筈よ!」
マリが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「い、いえ… その… 私は ただ騙されていただけですから… ムーレイム様を追い出して下されたのは やっぱりメルフェス様で」
ミナが苦笑して言う
「そのカルメス様の やる気を出させてくれたのは マリ先生じゃない?ムーレイム様は勿論だけど カルメス様だって昔から居たのよ?でも 行動を起こしては下さらなかったもの …きっと マリ先生の為ね?うふふっ」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?そ、そんな事っ あ、ある筈が無いですっ メルフェス様はっ ただ… 王子様が迎えに来るまで わ、私を 守って下さるとっ」
ミナが笑って言う
「あっははっ それこそ 凄いじゃない?マリ先生の本命が来るまでの間を 守って下されるだなんて 相手は皇居宗主様よ?陛下の家臣の1人なんだからっ!」
マリが呆気にとられて言う
「あ…っ そ、そう… ですね…」
ミナが笑んで言う
「ねぇ?この際… 王子様じゃなくて 皇居宗主様へ 変更してしまってはどう?マリ先生?」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「な、何言ってるんですかっ ミナ先生っ!?」
ミナが笑って言う
「冗談よ マリ先生 落ち着いて?いくら何でも 20歳以上歳の離れているカルメス様とだなんて 本気で言う筈が無いじゃない?」
マリが呆気にとられて言う
「あ…」
ミナが苦笑して言う
「まぁ、それを言ったら それこそムーレイム様なんて30歳以上離れる事になるわね?うふふっ」
マリが苦笑する TVからニュースの音が聞こえる
『…して、ムーレイム局長は この度の迷惑事項のみに留まらず 情報局の情報を不正に引き出し 私欲の為に利用していたとの調べもついており 早ければ今日中にも ムーレイム局長は 政府情報局を 自主退職 もしくは 解雇処分となる可能性が示唆されているとの情報が…』
ミナが言う
「あら… 噂をすればね こんなに早く手続きが進むって事は 相当厄介に思われてたんでしょ マリ先生 お手柄だったわね?」
TVにムーレイムの映像が映る マリが表情を困らせ胸を押さえて言う
「…なんだか 怖い」
ミナが疑問して言う
「え?」
マリが表情を落として言う
「この方… 会場を後にする時 お… 覚えていろ… って…」
ミナが苦笑して言う
「何… そんなの ありきたりな捨て台詞じゃない?」
マリが心配そうに言う
「それは そうですけど… でも…」
マリが不安そうにTVを見る

【 喫茶店 】

マリがいつもの席に座り 窓の外を見て疑問して言う
「…あら?今日は もう車が…?」
駐車場にグレイゼスの車がある マリがアパートの玄関を見てハッとして言う
「そ、それじゃっ 王子様は もうっ お部屋に…っ!?ど、どうしよう…?」
マリが視線を下げて考える ウエイトレスがやって来て言う
「ご注文はお決まりでしょうか?」
マリが顔を上げて言う
「あ… えっと…」
ウエイトレスが微笑して言う
「お決まりではないようでしたら また参りますので」
マリが意を決して立ち上がって言う
「いえっ!私っ 決めましたっ!いつまでも迷ってちゃ 駄目なんでっ!」
ウエイトレスが呆気にとられて言う
「は…?」
マリが荷物を持って言う
「ごめんなさいっ 今日は ご注文の方は無しで!また来ますからっ!」
マリが立ち去る ウエイトレスが呆気に取られて言う
「あ… はい… またのお越しを…」

【 道端 】

マリが走っていると グレイゼスが車へ向かって歩いている マリが驚き思わず立ち止まる グレイゼスが車の鍵を開けて乗り込むとエンジンを掛ける マリが慌てて言う
「あっ ど、どうしようっ!?行っちゃうわっ!?で、でも 何か御用が有るのだろうし 呼び止めてしまっては…」
グレイゼスが車を発進させ マリがいない方の道へ向かって行く マリが慌てて言う
「あっ!王子様っ…」
マリが道行く車を見て ハッとして車道へ飛び出し叫ぶj
「止まってっ!」
タクシーが急停車する マリが言う
「お願いっ!あの車を追って下さいっ!」

タクシーが止まる マリが降りるとドライバーが苦笑して言う
「お嬢様?今度タクシーを止めるときは 車道へ飛び出さないようにお願いしますよ?高位富裕層の貴女に 怪我でもさせたら 私ゃ職を失ってしまいますよ?」
マリが苦笑して言う
「ご、ごめんなさい… 急いでいたもので つい… これからは ちゃんと気を付けます」
マリが視線を駐車場に止まっているグレイゼスの車へ向ける タクシードライバーが車を出しながら言う 
「ま、世間知らずな お嬢様らしいよな…」
タクシーが去る マリが苦笑してから グレイゼスの車へ向けていた視線で周囲を見渡し グレイゼスの店を見て言う
「喫茶店… きっと王子様の喫茶店だわ…」
マリがグレイゼスの店へ向かい 身を隠して店内を覗き込み ハッとして身を隠す 店内ではグレイゼスが作業を行っている マリが高鳴る胸を押さえて言う
「見つけちゃった…っ」
マリが息を整え 改めて店内を覗いてから微笑して言う
「喫茶店に お客さんとして入るのなら 大丈夫よね?何も… ご迷惑じゃないよね?」
マリが心を落ち着かせ 出入り口のドアを見てから視線を上げ店名に気付いて言う
「『喫茶店マリーシア』 マリーシアって… 女性の名前…」
マリが出入り口のドアに手を伸ばしつつ 手を震わせて言う
「もしかして… ”お嬢様”の お名前…?」
マリが強く目を瞑って顔を左右に振ってから言う
「そ、そんな事っ 聞いてみないと分からないんだからっ ここまで来たのだものっ!もうっ」
マリがドアに手を掛け 強い意志を持って正面を見ると 呆気に取られる マリの視線の先 準備中の札が掛けられている マリが間を置いて言う
「…えっと 神様?…もしかして これは 私に会っちゃ駄目って 警告をして下されているのかしら…?」

【 保育園 】

ミナが怒って言う
「それで 帰って来ちゃったのっ!?マリ先生っ!」
マリが苦笑して言う
「ご、ごめんなさい…」
ミナが呆れて言う
「もぉ~」
マリが苦笑して言う
「で、でも もう大丈夫ですから!お店もご自宅も分かっているんです!だから 今度はちゃんと 営業中の喫茶店にお邪魔します!間違いなく 今月中には!…だから ミナ先生」
ミナが疑問する マリが微笑して言う
「政府のパーティーへのご参加を 宜しくお願いします!」
ミナが苦笑して言う
「ええ!やっと戻ってきたわね?丁度今月は クリスマスパーティーがあるし!」
マリが衝撃を受けて言う
「えぇっ!?」
ミナが微笑して言う
「クリスマスの ダンスパーティーへ行くとなったら 一番豪華なドレスで行かないとね!久しぶりのパーティーが クリスマスだなんて 素敵だわ!」
マリが慌てて言う
「あ、あのっ こ、今月中とは言いましたが わ、私っ その…」
ミナが笑んで言う
「招待状が届くのは15日だから 遅くても10日前までにはお願いね?マリ先生?」
マリが衝撃を受けて言う
「えぇえーっ!?」

【 グレイゼスの店 】

雪が降り積もっている 人や車が急ぎ足で行きかう中 若い女の子が店の前 地面にうずくまり震えている 店の扉が開き グレイゼスが顔を出して天気を確認し 溜息を付いて店内へ戻ろうとして女の子に気付き疑問して言う
「おやおや?お嬢様?この様な雪空の下 如何なさいましたか?」
女の子がグレイゼスを見上げる グレイゼスが驚いて言う
「あ…っ 貴女は…っ!」
女の子が立ち上がり表情を困らせて言う
「ご… ごめんなさい お店の前で… 失礼しました」
女の子が立ち去ろうとする グレイゼスが呼び止めて言う
「あ、ああ~っ!待った!待ってっ!」
女の子が疑問して立ち止まる 道の反対車線にタクシーが止まり マリが降りると店へ視線を向け 目を見開く マリの視線の先 グレイゼスが女の子に微笑を向け 優しく肩へ手を置いて店内へ案内する マリが呆気にとられて言う
「まさか… マリーシアさんっ!?」
マリが急いで店へ向かいドアへ向かうと目の前でドアが閉まる マリが立ち止まりドアノブに手を掛けようとして止め 窓から中を覗く 店内では グレイゼスが女の子を暖炉の傍へ案内し 何かを語りかけてカウンターへ向かう マリがドアを見る ドアには準備中の札が掛かっている マリが胸に当てた手を握り締めて言う
「お店が開いたら… 入らないと… ミナ先生に約束したもの… …でも」
マリが店の中を覗く グレイゼスが女の子へカップを渡し微笑して話をする 女の子が一瞬驚いた後微笑して話をする マリが表情を落として店の前から立ち去る

翌日――

店内で女の子がハープを奏でている マリが店の外からそれを見て カウンターへ視線を向けると グレイゼスが作業を行っている マリが視線を泳がせてから再び店内を見ると 女の子の演奏を終えてグレイゼスへ向く グレイゼスが微笑し頷く 女の子が微笑を返す マリが視線を落として立ち去る

5日後――

店内で女の子がハープを奏でている マリが店の外からそれを見て カウンターへ視線を向けると グレイゼスが作業を行っている マリが店の壁に背を付けて言う
「これで5日間 ずっと… ただの従業員なら 一日中なんて 居る筈無いもの… もしかしたら 王子様は マリーシアさんと…?だって そうじゃなかったら…っ」
マリが店内を見る 店内では女の子とグレイゼスが微笑ましく語らっている マリが視線を戻し両手で顔を覆って言う
「王子様はっ ずっと私の心の支えだったのっ だから そのお礼を言わなきゃ …そうよ!勇気を出して マリーニ!今こそ 頑張るのよっ お礼を言うだけ!それだけで良いのっ」
マリが店内へ向き直ると その目に 女の子とグレイゼスが抱き合っている姿が映る マリが一歩後づ去って言う
「駄目… 私… お礼すら言えない… ごめんなさいっ!王子様っ お幸せにっ!」
マリが走り去る

店内

女の子が涙を拭って言う
「すみません マスター…」
グレイゼスが微笑して言う
「なーに 泣きたくなったら いつでも この胸に飛び込んで来なさい!」
女の子が軽く笑ってから言う
「私… あの日 このお店の名前を見て 思わず立ち止まってしまったんです それからしばらくお店の前に座り込んで… 名前だけでも お母様と一緒に居るんだって そんな気持ちで…」
グレイゼスが言う
「うん… この店の名前の候補は 実はもうひとつあったのだけれどね?そのお方とは もうずっと会っていなくて… 名前をお借りしても良いかの 確認も取られなかったから 諦めたんだ …それに~?どちらかと言えば こう言った店には 恋人よりも 母親的な名前の方が… 良いかなぁ?なんてね?」
女の子が言う
「それじゃ… マスターのお母様の お名前なんですか?」
グレイゼスが微笑して言う
「いや 私の… 恩師の奥様のお名前さ 実はこの店自体 元々その恩師が事業の一環として 飲食店に使っていた店舗を 安く譲って頂いて それを喫茶店に改装したんだ」
女の子が言う
「そうだったのですか… でも 何だか不思議 同じこのマイルス地区で お母様と同じお名前の方が居て… その方のお知り合いのマスターと 私が会うだなんて」
グレイゼスが微笑して言う
「きっと 私とアリシアの敬愛する マリーシア様の お導きかな?」
アリシアが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「はいっ」
グレイゼスが微笑を返してからふと窓の外を見て疑問する アリシアがグレイゼスの視線の先を見て言う
「…何か?」
グレイゼスが気を取り直して言う
「うん…?いや 気のせいか…?さてー!」
グレイゼスが店のドアへ向かう アリシアが微笑してハープの下へ向かう

【 政府 クリスマスパーティー 】

メルフェスが軽く驚く メルフェスの視線の先 華やかなドレスに身を包んだマリが礼をして言う
「こんばんは メルフェス様」
メルフェスが気を取り直して言う
「あ… 失礼 あまりの美しさに 思わず見惚れてしまいました …こんばんは マリーニ先生」
マリが苦笑して言う
「くすっ メルフェス様にそう仰って頂けて 光栄です …でも、実はこのドレス 同僚の先生からお借りしたものなんです 私は 本当は今日のパーティーに来る予定ではなくて… 元々 クリスマスパーティーに合う 華やかなドレスなども 持ち合わせてはいなかったもので」
メルフェスが言う
「そうでしたか しかし、そうとは言われても とてもお似合いです ドレス自体も確かに美しいですが 何より マリーニ先生の端から持ち合わせている 可憐さとの調和が素晴らしい この会場に居る どのご婦人よりも 貴女は魅力的です」
マリが呆気に取られた後軽く笑って言う
「メルフェス様 そんなにお褒めを頂いても 私は…」
メルフェスが苦笑して言う
「っははっ どうかご安心を 貴女を王子様から引き離してしまおう等とは 思っては居ませんよ 本当です」
マリが一瞬驚き苦笑して視線を落として言う
「王子様とは…」
メルフェスが疑問して言う
「うん?どうかなさいましたか?先生?」
マリが顔を上げ微笑して言う
「振られちゃいましたっ!」
メルフェスが驚いて言う
「え…っ?」
マリが言う
「私がぐずぐずしている間に 可愛い女の子と お幸せになっていたみたいで… でも、私が悪いんです 王子様はしっかりと 私に告白してくれたのに 私がその時にちゃんと お返事が出来なかったから… だから しょうがないんですっ!」
マリが涙の潤む瞳を隠して笑う メルフェスが表情を落とし視線を逸らして言う
「そうでしたか… まさか そのような事になっていたとは知らず 申し訳ない事を」
マリが慌てて言う
「あっ いえっ!良いんですっ メルフェス様には とってもお世話になりましたから ちゃんとご報告をするつもりで 今日は来たんですっ」
マリが微笑する メルフェスが苦笑して言う
「そうでしたか 有難う御座います 私も気になっていたので ご報告を頂けて助かりますが… やはりお強く在りますね マリーニ先生 …しかし、そうとあられても 無理に強がる必要はありませんよ 貴女をお守りする者は 彼の他にもいくらでも居ります」
マリが驚きメルフェスを見る メルフェスが苦笑して言う
「今後は これらの政府の催しに それなりに ご参加をなさいますか?もちろん すぐにとは行かないでしょうから 私も変わらずお手伝いを致しますが」
マリが苦笑して言う
「あ… 有難う御座います そうですね… 今は正直 何も考えられなくて… 1つ気になっている事といえば 私が王子様と婚約をする事で このパーティーに出席する事を楽しみにしていた 同僚の先生… このドレスの持ち主の方に 今日だけじゃなく 今後のパーティーの参加も お譲り出来ない事が申し訳なくて… その先生にも 私 とっても沢山応援をして頂いたので… もちろんっ メルフェス様にも!ですから お二人には 私 何とお詫びをしたら良いのか…」
マリが視線を落とす メルフェスが考えて言う
「うーん… 私へのお詫びなどは 気にする必要はありませんが… その同僚の先生への お詫びとお礼を と言う事でしたら マリーニ先生さえ宜しければ パーティーの参加資格を そちらの先生へ お譲りする事は可能ですね?」
マリが驚いて言う
「え?本当ですかっ!?メルフェス様っ!?」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「ええ それこそ 以前そちらの先生が マリーニ先生へ仰っていらしたでしょう?…偽の婚約を してしまえば良いと」
マリが呆気に取られる メルフェスが微笑して言う
「マリーニ先生が しばらくお休みをするのにも 丁度良いかもしれません 外面のみならず内面まで美しい先生にとっては そう言った偽の書類作成と言うのは 心苦しい事かもしれませんが… 元を正せば これらの催しへ強制参加をさせる政府も どうかと思いますし」
マリが苦笑して言う
「有難う御座います メルフェス様 そうですね… それで ミナ先生へ喜んでもらえるのなら 私は構いません でも… 残念ながら 私には そちらにご協力して頂ける 男性の友人が居ませんので」
メルフェスが一瞬疑問してから軽く笑って言う
「うん?…ははっ 何を仰います?お手伝いを致しますと 申し上げているではありませんか?」
マリが驚いて言う
「えっ!?」
メルフェスが言う
「婚約破棄の権限は もちろん マリーニ先生へお預けします 貴女のお好きな時に 破棄の申請を行って下さい …と言う事で 如何ですか?先生?」
マリが呆気にとられて言う
「そ、そんな…っ メルフェス様に そのような事を お願いするだなんてっ わ、私はっ そんな…っ」
メルフェスが言う
「実は 私もこれから 少々忙しくなりそうでして… こう言った催しに 参加する時間も無くなるだろうと 貴女の事を心配していたのです」
マリが驚く メルフェスが苦笑して言う
「ですから 今日は美しい貴女を目に出来た事は 嬉しくもあると共に これからの事を案じていました …とは言え 私が勝手を言っている ばかりですので 書類上のみとは言え お嫌であるのなら 遠慮なく そうと仰って下さい」
マリが慌てて言う
「嫌でなどっ ある筈が有りませんっ しかし…っ メルフェス様は 皇居宗主様でっ わ、私なんかと 嘘であっても 婚約をされてはっ」
メルフェスが苦笑して言う
「恐らく 誰も本物だとは思わないでしょうね マリーニ先生と私では 親子ほど歳が離れているのですから 私が貴女を利用していると思われるか もしくは 娘の様に可愛がっているとでも 思われるでしょう」
マリが視線を巡らせ周囲を見る ダンスをしている人々の中に 青年たちが見え隠れする マリがハッとして視線を逸らしメルフェスへ向く メルフェスが微笑して言う
「すぐに答えを出されなくても結構ですよ 気を取り直して 2ヵ月後からは 彼らと共にダンスを楽しんでみると言うのも…」
マリが苦笑して言う
「私は彼らやミナ先生の様に 優雅にダンスを踊る事も出来ないですし… それに 彼らもまた 私に足を踏まれてしまうのを嫌がって もう 誘っては下さらないのでは無いでしょうか…?」
メルフェスが苦笑して言う
「彼らはきっと 何度でも貴女をお誘いしますよ そちらの心配はご不要です」
マリが視線を落として言う
「やっぱり 高位富裕層の地位なのですね…」
メルフェスが言う
「残念ながら そちらは致し方ない事です …とは言え 貴女には十分女性としての魅力がありますから 例え高位富裕層の地位を買われようとも 無下に扱われる事はないでしょう」
マリが苦笑して言う
「メルフェス様… 嘘の婚約に お手伝いを頂いても宜しいでしょうか?私… やっぱり 普通の保育士になりたいと思います」
メルフェスが微笑して言う
「はい 私も その方が貴女には良いと思います 貴女に政府の重役は似合いません この世界は 嘘と偽りの世界ですから」
マリがメルフェスへ向いて言う
「有難う御座います メルフェス様…」
メルフェスが微笑して言う
「いいえ どう致しまして マリーニ先生」
マリとメルフェスが微笑み合ってから 2人がダンスホールへ目を向ける メルフェスが飲み物を飲む マリが苦笑して言う
「私にも もう少しでも運動神経が有ったら… あんな風に楽しそうに踊れるのでしょうね …お母様は お上手だったのかしら…?」
メルフェスが苦笑して言う
「マリーニ先生は 踊れないのではなく 踊りたくあられないのでは?以前 少々拝見しましたが 体が逃げていらした様です」
マリが苦笑して言う
「あ… はい… その… とても緊張してしまって… 私は メルフェス様もご存知の様に 慌てて転んでばかりしているので… きっと お相手にご迷惑を掛けてしまうと …そ、それから 私…」
メルフェスが言う
「ああ、そう言えば 男性に触れられるのが お嫌だと言って 断っておられましたね?」
マリが困って言う
「はい… そうなのです その… 多分慣れていないせいで 怖いと言う思いが強いのかもしれないですが… あ、でも…」
マリがふと思い出してから 微笑して言う
「何度かメルフェス様に助けて頂いた… その時は 彼らとは違って そう言った感覚は なかったのですが…」
メルフェスが疑問してマリを見る マリがハッとして慌てて言う
「あっ!い、いえっ!わ、私っ 何を言って…っ そ、そのっ!」
メルフェスが笑って言う
「あっはははっ マリーニ先生 それはつまり…」
マリが赤面して言う
「ち、違うんですっ 私っ そのっ あのっ!?」
メルフェスが苦笑して言う
「私を 異性として認識していない と言う事でしょう?」
マリが衝撃を受けて言う
「え?…えぇえっ!?」
メルフェスが苦笑して言う
「そこまでハッキリと言われてしまうと 少々寂しくもありますが 仕方がありませんね」
マリが慌てて言う
「そ、そんなっ 失礼な事っ 私はっ あのっ」
メルフェスがグラスを置いて言う
「しかし、そうであるのなら 丁度良い」
マリが疑問する メルフェスが微笑して言う
「折角のクリスマスパーティーです 一曲 踊りますか?」
マリが衝撃を受けて言う
「えっ!?あっ いえっ!ですからっ 私、踊れなくて…っ そ、それに 万が一メルフェス様のお足を 踏んでしまったりなんてしたらっ 大変で!」
メルフェスが言う
「ご安心を …いえ、むしろ 間に合うようなら 踏んでみて下さい」
マリが驚いて言う
「え?」
メルフェスが微笑して言う
「逃げ足の速さは 若い彼らの10倍はあるでしょう」
マリが驚く メルフェスが微笑し 手を差し伸べて言う
「その私が 貴女と踊られるのなら光栄です マリーニ先生 …私と踊って下さいますか?」
マリがメルフェスの手に手を置いて言う
「はい… メルフェス様」
マリがメルフェスに近付く メルフェスが言う
「足元を見る必要は有りませんよ」
マリが軽く驚く メルフェスがマリの手を取り体を支えて言う
「ただ音楽を聴いて その音に合わせていれば良いだけです」
マリがメルフェスを見上げたまま 音楽を聴き リードに任されたまま動くと次第に慣れて来て マリが微笑する メルフェスが微笑して言う
「どうですか?特に難しい事は無いでしょう?」
マリが微笑して言う
「はいっ それに 何だか とっても 楽しいっ」
マリが楽しそうに踊る 周囲の人々が呆気に取られ見つめ始める マリがメルフェスに支えられ可憐に舞い続ける 一曲が終わると 周囲から拍手が沸き起こる マリが夢見心地からハッと我に返り 慌てて言う
「え?え?わ、私っ!?」
メルフェスが微笑し 跪いてマリの手に軽く口付けをする マリが驚き呆気に取られる 周囲の拍手が鳴り続ける

マリがテラスへ飛び出して来ると 上がる息を抑えて言う
「わ、私 気付かないうちに ホールの中央でっ み、皆さんの前でっ」
メルフェスが軽く笑って言う
「実に素晴らしかったです とても素人だとは思えませんでした」
メルフェスがテラスの手すりに背を預ける マリが微笑して言う
「メルフェス様が とっても お上手だったんです ですから 私は メルフェス様のリードのままに」
メルフェスが言う
「そんな筈は有りませんよ 元より私は庶民の出ですから ダンスの経験も能力も 以前マリーニ先生をお誘いした 彼らより低いでしょう」
マリが驚いて言う
「えっ!?」
メルフェスが苦笑して言う
「私はただ 貴女のダンスを軽く補佐して ついでに 貴女に足を踏まれないように 上手く逃げていただけです むしろ 私の方が先生のリードに 合わせていたと言えるでしょう お陰でとても楽しめました 何より ダンスを踊る貴女はとても 美しく愛らしくあられた」
マリが赤面して言う
「そ、そんな事っ あ、ある筈がっ メルフェス様お優し過ぎて わ、私はっ」
メルフェスが軽く笑って言う
「申し訳ない 貴女を困らせたくは無いのですが どうやら素直に言葉を並べると 困らせてしまうようですね?」
マリが苦笑してメルフェスの横に立つ 風が吹く メルフェスがマリへ言う
「寒くは無いですか?」
マリが微笑して言う
「今は少し 熱い位で…」
メルフェスが微笑して言う
「そうですか では 少し涼んでから 戻りましょう」
マリが言う
「はい」
メルフェスが微笑してから部屋の中を見る マリが間を置いて言う
「…あの メルフェス様」
メルフェスが言う
「はい?マリーニ先生」
マリが微笑してから視線を逸らして言う
「あの… どうして 今まで ご結婚をされなかったのですか?その… お1人では 寂しくはなかったのですか?皇居宗主様のお仕事は とっても大切で でも、とっても大変なお仕事だと思います だとしたら…」
メルフェスが言う
「そうですね… 貴女のような女性が 20年ほど昔にいらしたのなら 結婚していたかもしれませんね」
マリがメルフェスを見る メルフェスが言う
「いや、しかし …やはり していなかったかもしれない… 私はマリーニ先生と違い 強くは在られないので 守るべきものを 増やしたくはないのです …その意味では 今の政府は丁度良いです」
マリが呆気に取られて言う
「それは… どう言う?」
メルフェスが言う
「過去の政府には 私と志を同じくする仲間がいました ですから 私は彼と共に アールスローンを守りたいと願っていました しかし…」
マリが表情を落として言う
「その お仲間の方は…?」
メルフェスが言う
「亡くなってしまいました それも もしかしたら 私が…」
マリが疑問して言う
「え…?」
メルフェスが言う
「ああ… そうですね 貴女にも伝えておいた方が良い 偽の婚約届けは明日にでも貴女の下へ届けさせますが …私と会うのは 今日でお仕舞いにしましょう」
マリが驚く メルフェスがマリを見て言う
「既にお気付のものと思われますが 私は マスターの名を持つ者です そして 過去において ナノマシーンの洗脳を受け 操られた事がある」
マリが驚きに言葉を失っている メルフェスが言う
「その上、もしかすると それが原因で 私は… 私の大切なその仲間を 殺めてしまったのかもしれないのです」
マリが言う
「そんな…っ!?」
メルフェスが言う
「良くも悪くも 私には その時の記憶がありません …ですから 今まで私は 常に自分へ言い逃れをして生きてきました 彼を殺したのは 自分ではないと…」
マリが慌てて言う
「そ、それを 確認する方法は無いのですか?メルフェス様がやったのでは ないとっ」
メルフェスが言う
「もしかしたら… 彼の子息が その証拠となるものを 持っているかもしれない …しかし、私は その彼へ 連絡をする事も出来ないのです 答えを出すのが恐ろしくて…」
マリが呆気に取られる メルフェスが苦笑して言う
「マリーニ先生なら きっと 確認をなさるのでしょうね?その勇気が 私にもあれば… こんなに長く悩む事も無かったでしょう」
マリが言う
「メルフェス様…」
メルフェスが背を預けていた状態を解除して言う
「そろそろ戻りましょう これ以上 お話をして 貴女のお体を 冷やさせる訳にはいきません」
メルフェスが歩き出す マリが一瞬何かを言おうとして止めてから言う
「…はい」
マリがメルフェスに続く

マリとメルフェスが部屋の一角にいる 青年たちがマリを見ている マリが視線に気付き目をそらして飲み物を飲む メルフェスが苦笑して言う
「貴女のダンスのお相手になりたいと 狙っている様ですね?…もしかしたら 彼らも勇気を出して 私の前で貴女を誘いに来るかもしれません」
マリが驚いて言う
「えっ!?しかし…?」
マリがメルフェスを見る メルフェスが言う
「クリスマスの夜は特別で 階級による制限は解除されるのです …とは言え 実際にそれを行う勇気のある者は 居ないのですが 過去にはそれを行って 成功を収めた者も その逆となった者も居たとか 貴女が視線を合わせれば それらの合図ともなりえますよ」
マリが慌てて視線を泳がせ困る メルフェスが軽く笑う
「ご安心を もし間違って その様な事になってしまっても 私が何もしなければ 彼らが処分を受ける事はありません」
マリが苦笑して言う
「あ… そうなのですか?それなら… 良かった メルフェス様のお陰で 苦手意識のあったダンスも 楽しい思い出になりそうですし それに 今日は皆様とても素敵なので 私 もっと見ていたくて」
メルフェスが言う
「心置きなく ご覧になっておくと良いでしょう …とは言え この会場に居る多くの者と同様に 私も 貴女のダンスをもう一度 拝見したいと思いますが」
マリが苦笑して言う
「私は やっぱり駄目です 踊っている間は楽しいですが 曲が終わると 居ても立っても居られなくなってしまって…」
メルフェスが軽く笑って言う
「一曲終わるごとに テラスへ涼みに向かわれますか?」
マリが軽く笑う メルフェスが微笑する マリがダンスホールへ目を向けると 青年1と目が合ってしまう マリがハッとして慌てて逸らして頬を染める 青年1が微笑しマリの近くへ来て言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様」
マリが慌てて言う
「は、はいっ!?」
青年1が言う
「お誘いを頂き光栄で御座います」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?えっ!?わ、私がっ!?」
メルフェスが笑いを堪えている マリがメルフェスを見て慌てて言う
「メルフェス様っ!?」
青年1がメルフェスへ向いて言う
「今宵はクリスマス どうか私めに マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様のお相手を 勤めさせて頂きたいと存じます メルフェス・ラドム・カルメス様」
メルフェスが言う
「ああ 彼女が望むとあれば 好きにすれば良い」
青年1が言う
「メルフェス・ラドム・カルメス様に ご許可を頂きました さぁ マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様 どうか 私と一曲」
マリが困りつつ言う
「は… はい…」
マリがメルフェスを見る メルフェスが苦笑する マリが苦笑して青年1に引かれるまま ダンスホールへ向かう 青年1がマリへ向き直って言う
「先ほどは驚きました たった一ヶ月で あれほど上達なされるとは さすが高位富裕層のアーミレイテス様です」
マリが苦笑して言う
「あ… いえ さっきのは… メルフェス様のお陰なので 私は 何も…」
青年1が微笑して言う
「そこまでご謙遜なさるとは いじらしい… さぁ 今度は私と」
マリが困りつつ言う
「い、いえ…っ きっと 私 また 貴方のお足を踏んでしまうと思うので… じょ、上手に逃げて下さいね?」
青年1が疑問してから 苦笑して言う
「え…?あ、はい 分かりました お心遣い感謝いたします アーミレイテス様 では…」
青年1がマリの腰へ手を回しマリの手を取る マリが一瞬表情を顰めてから顔を左右に振って言う
「さ、さっきみたいに…っ」
青年1が微笑して言う
「ええ 先ほどの様に お願いしますよ?」
青年1がダンスを始める マリが慌てる

マリが何度も謝って言う
「ご、ごめんなさいっ!本当にっ ごめんなさいっ!」
マリがメルフェスの下へ逃げて行く 青年1が痛みと羞恥心に耐えている 周囲で失笑が聞こえる マリがメルフェスの横へ来て 胸に手を当て息を吐いて言う
「や、やっぱり 私…」
メルフェスが苦笑して言う
「テラスへ涼みに向かわれますか?先生?」
マリが慌てて言う
「メルフェス様っ!?」
メルフェスが笑う マリが恥ずかし困って言う
「わ、私… 彼を誘ってなんて居なかったのに… ただ ちょっと 目が合ってしまった だけだったのに…」
メルフェスが苦笑して言う
「その上で視線を逸らして 慌ててらっしゃれば 十分誘っていると取られてしまいますよ?それは ダンスパーティーではなくとも 同じかと」
マリが困り視線を落として言う
「そ… そうなのでしょうか?ごめんなさい… 彼にも 私、とても悪い事を…」
メルフェスが苦笑する マリが慌てて言う
「あ、あのっ 彼に処分はしないで下さいね?私がっ 私が 悪いのでっ」
メルフェスが言う
「大丈夫です 処分はしません …それに、わざわざその様な事などしなくとも 彼自身がこの場所に居た堪れないでしょうからね?」
青年1がホールを出て行く マリが困って言う
「…私のせいで ごめんなさい…」
メルフェスが言う
「いや、むしろ 今日の事は彼のためにもなるでしょう 彼が今後 政府の幹部になるかどうかは分かりませんが 例えならずとも 規定上の無礼講に 文字通り踊らされるようでは 長生きは出来ません 何時の日か 彼が貴女へ 感謝する時が来るかもしれません」
マリが苦笑して言う
「そうですか… 有難う御座います メルフェス様 そう言って頂けるなら 少し気が楽になります …でも しばらくは私 彼に恨まれちゃいますね?」
メルフェスが苦笑して言う
「それは 残念ながら そうかもしれませんね?」
マリが苦笑する マリがダンスホールを見る 青年たちがマリと視線を合わせそうになって 慌てて逸らす マリが呆気に取られた後苦笑し ダンスを眺めながら寂しそうに微笑して思う
(今日が終われば… もう ダンスを見る事も 踊る事も 無くなるのね… メルフェス様と会う事も…?)
マリがちらりとメルフェスを見てから 視線を落として思う
(メルフェス様は マスターの名を持つ方で… もしかしたら… …でも 私は…)
マリがメルフェスを見て言う
「あ、あの…」
エントランスで騒音がする 皆と共に マリがエントランスへ顔を向ける エントランスにムーレイムが居て 銃を乱射して会場へ駆け込んで来る 会場内の人々が悲鳴を上げる マリがハッとすると 次の瞬間 マリの体が抱き上げられ 上階の通路まで飛び上がる マリが呆気に取られて言う
「あっ」
マリの足が地に付き メルフェスが言う
「失礼」
マリがメルフェスを見る メルフェスが会場へ視線を向けつつ携帯に言う
「会場内に武器を所持した者が1名乱入した 直ちに警備部隊を会場内へ向かわせろ」
メルフェスが携帯を切り マリの姿を自分の背に隠して言う
「大丈夫です すぐに警備の者が 取り押さえてくれますので こちらで少々ご辛抱を」
マリが言う
「は、はいっ」
マリがメルフェスの背後から会場内の様子を見る ムーレイムが銃を乱射して 人々が逃げ惑う 銃弾が物に当たる エントランスから警備隊員たちが駆け込んで来て ムーレイムを床へ押さえ付ける 会場内に居た人々がムーレイムを見下ろす マリがホッとしてから自分の居る場所と地上階の高さを見てから メルフェスを見上げる メルフェスが言う
「どうやら収まったようです」
マリがハッとして言う
「え?」
メルフェスがマリへ微笑して言う
「彼の身柄は しばらく拘留される事になりますので ご安心を」
マリが呆気に取られてから 会場内へ視線を向ける ムーレイムが警備隊員たちに連行されている ムーレイムが周囲を見て誰かを探している マリが心配して言う
「やっぱり… 私を恨んで こんな事を…」
メルフェスが苦笑して言う
「もしくは 彼を処罰した私であったかもしれませんが これでもう大丈夫です 次に何かを行おうものなら 指名手配犯とされます 如何に彼とは言え そこまで愚かな事はしないでしょう」
マリがホッとして言う
「有難う御座います… 安心しました」
メルフェスが手を差し出して言う
「では 下へ戻りましょう」
マリが微笑して言う
「はい」
マリが手を添えると メルフェスが階段へ向かって歩き出す マリが疑問する メルフェスが言う
「…それと、戻りましたら 私ともう一度ダンスをお願いしても宜しいでしょうか?この様な事が起き 場が静まってしまった時には 上位階級の者こそが その場を盛り上げなければいけません もし 先ほどの事でご気分が乗られない様でしたら 他のご婦人を誘いますので…」
マリが慌てて言う
「あっ!い、いえっ!私は大丈夫です!それに… 私も 4構想の名を持つ 高位富裕層ですからっ 場を盛り上げる その… お手伝いをしないとっ」
メルフェスが顔を向け微笑して言う
「やはりお強く在られますね マリーニ先生」
マリが微笑して言う
「あ… い、いえ…」
メルフェスとマリが階段を下りる マリが視線を泳がせて言う
「あ、あの…」
メルフェスがマリを見て言う
「はい?」
マリがメルフェスを見上げて言う
「…先ほどは 有難う御座いました 私を… 安全な場所へ 避難させて頂いて」
メルフェスが苦笑して言う
「ああ… あれは正直申しまして 私の失態です 普段でしたら物陰にでも隠れてやり過ごすのですが 貴女にもしもの事があってはと 咄嗟に… 失礼致しました どうか 御内密に…」
マリが呆気に取られてから苦笑して言う
「はい …以前の孤児院に居た子供たちの中にも 似た能力を持った子が居ました …ふふっ 今頃 きっとメルフェス様の様に 普段は物陰に隠れて やり過ごしているのかもしれません」
メルフェスが苦笑して言う
「恐らく そうでしょうね 気付かれれば 遠ざけられるか 利用されるかの どちらかになりますから …可能な限り 能力も名も伏せていますよ」
マリとメルフェスが会場の中に入る マリが言う
「政府内… でも?」
メルフェスが言う
「政府の重役たちなら知っています それでありながら 政府内にマスターは居ないと言っています 彼らは連携して 政府の秘密を隠している訳です」
マリとメルフェスが向き合ってダンスを始める マリがメルフェスへ顔を向けて言う
「では やっぱり 政府のその重役の方々は メルフェス様のお仲間と言う事では?」
メルフェスが苦笑して言う
「私の仲間ではなくとも 彼らは仲間でしょうね 私はその彼らに飼われているだけの …カゴの中の鳥と言った所です」
マリが表情を落として言う
「そ、そんな…っ」
メルフェスが言う
「帝国と対話を行うには 帝国のナノマシーンの助力が無ければ不可能ですので 皇居宗主は その為に政府にとって必要なのです」
マリが表情を悲しめる メルフェスが微笑して言う
「その様なお顔は なされないで下さい マリーニ先生」
マリがメルフェスを見て言う
「でも…っ」
メルフェスが苦笑して言う
「お陰で私は 本来であるなら 最下層のマスターでありながらも 政府の国家家臣としての名誉と 高位富裕層の地位を与えられている訳です」
マリが言う
「そのどちらも メルフェス様のご本意では あられないのでは?」
メルフェスが苦笑して言う
「そうですね… しかし 皇居宗主は代々その様なマスターたちによって 受け継がれています メルフェス・ラドム・カルメスの名前と共に」
マリが驚く メルフェスが微笑して言う
「アールスローン真書の反逆の兵士が アールスローン戦記の悪魔の兵士と 同じだと言うお話は ご存知ですか?先生」
マリが言う
「あ、はいっ」
メルフェスが言う
「書物における 反逆の兵士と悪魔の兵士が 同一人物であったかは分かりませんが その2つが同じとされるのは どちらも不死身であるからです」
マリが呆気に取られる メルフェスが苦笑して言う
「とは言え 政府の反逆の兵士が不死身であるのは 名前だけですがね?」
マリが苦笑して言う
「名前だけの不死身… 不死身の兵士とは そう言う事だったのですね?」
メルフェスが微笑して言う
「はい …しかし、国防軍の悪魔の兵士は どう言う訳か 姿形まで同じ兵士が 蘇っておられました そちらに関しては 私も驚きましたが」
マリが驚いて言う
「え…?」
メルフェスが苦笑して言う
「とても不思議で不可解ではありますが 私は深入りするつもりはありません 彼は 私や私の仲間だった者にとっての 恩人です そして 今頃はきっと… どこかでご隠居生活でも なさっておられるのでしょう ご年齢から察して 例え今戦争が起きようとも 彼が戦われる事は無いと思われますが… それに 呼び名とは異なり とてもお優しい方でした 言動は人形の様な方でしたが」
マリが呆気にとられて言う
「悪魔の… 兵士…」
メルフェスが微笑して言う
「私が彼に会ったのは もうずっと昔の事です… ですから もしかすれば 私が現世代の皇居宗主になったのと同じく 悪魔の兵士もまた 別の人物が 現れるのかもしれませんが…?」
マリが言う
「以前の皇居宗主様と お会いになられた事は…?」
メルフェスが言う
「いえ ありません 生憎 同じアールスローンの名前を名乗っていた事以外の詳細を 調べる術も 私には無いのですが それでも あまり思わしくない事に携わっていた様子で… ともすれば それが理由で皇居宗主の任から 下ろされたのかもしれません …しかし、私は私なりに この任を勤めていくつもりです」
マリがメルフェスを見上げる 曲調が変わる マリとメルフェスが気付き メルフェスが微笑して言う
「堅いお話はこの辺りにして ダンスを楽しみましょう マリーニ先生」
マリが微笑して言う
「はいっ メルフェス様」

【 保育園 】

婚約届けにサインをする マリがペンを上げると 女性秘書が微笑して言う
「確かに お預かり致します マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様」
女性秘書が書類をホルダーに入れ 姿勢を正す 後方に2人の護衛が居る マリが言う
「よ、宜しくお願いします…」
女性秘書が言う
「はい 間違いなく 処理は本日中に済まされますので ご安心下さい それでは 失礼致します」
女性秘書が礼を終え立ち去ろうとする マリが慌てて言う
「あ、あの…っ」
女性秘書が足を止め 向き直って言う
「はい マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「あ、えっとっ そのっ メルフェス様は…?きょ、今日も お忙しいのでしょうか?あ、でもっ わ、私は 何も… 知らないのですが…っ」
女性秘書が一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「はい カルメス様は 以前とは異なり とても お忙しそうです」
マリが呆気にとられて言う
「以前とは異なり…?」
女性秘書が微笑して言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様との ご婚約が決まりました事で ご公務への意欲が沸かれたのかもしれませんね?」
マリが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?い、いえっ!?わ、わわっ 私との事でっ メルフェス様が な、なんて事はっ け、決して…っ!」
女性秘書が軽く笑った後 微笑して言う
「例え 偽の婚約であっても 私どもも 嬉しく思っています マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様」
マリが呆気に取られて言う
「え…?」
女性秘書が言う
「カルメス様は いつもお1人で 何処かお寂しそうであられましたから… 皇居宗主の重責の下 逃れる事は出来ないとは言え 常に監視のある政府の中に置いて マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス様の御存在は カルメス様にとっては 心の休まる場所であられたのでしょう」
マリが呆気に取られる 女性秘書が微笑して言う
「もし、何か御座いましたら ご連絡を下さい 私どもにお手伝いできる事が有りましたら 及ばずながら ご協力させて頂きますので」
女性秘書が名刺を差し出す マリが驚き受け取って見る 女性秘書が言う
「そちらは 私への連絡先になります 必要と有りませば 私からカルメス様へお伝え致しますので どうぞお気軽に」
マリが言う
「あ、はいっ 有難う御座います!」
女性秘書が微笑し言う
「それでは 失礼致します」
女性秘書が頭を下げ護衛と共に立ち去る マリが見送る

【 皇居 】

御簾の両脇に 政府長長官ユラ・ロイム・攻長と 国防軍長ランザー・ラビット・防長が立っている 御簾の前にメルフェスが跪いていて言う
「『ペジテの姫を 我が下へ… 我ら帝国は 長きに渡り アールスローンの勝手を 許して来た その恩 忘れては居るまい?ペジテの姫を… 我が下へ さすれば お前たちに 三度の平穏を… さもなくば…』」
ユラとランザーが渋い表情で顔を見合わせ メルフェスを見る メルフェスが間を置いて正気に戻り 立ち上がって言う
「皇帝のお怒りも そろそろ限界のご様子だ 答えを出さなければ 帝国はアールスローンの地へ 粛正に訪れる」
ユラが言う
「国防軍の統括はどうなっているんだ?悪魔の兵士は?」
ランザーが言う
「悪魔の兵士は見つかっていない 過去の悪魔の兵士と言われた エルム・ヴォール・ラゼルは健在ではあるが その所有者である ヴォール・ラゼル・ハブロスは 悪魔の兵士は 次の世代へ変わったと」
ユラが表情を顰めて言う
「では やはり 歴代の国防軍総司令官である ハブロス家の者でなければ アールスローン戦記に記された 悪魔の兵士を見付け出す事は 出来ないのではないのか?」
ランザーが怒って言う
「何を言うっ それを言うならば 政府の方はどうなんだっ!?反逆の兵士はっ!?」
メルフェスがランザーを横目に見る ユラが苦笑して言う
「反逆の兵士なら 今 お前の目の前に居るだろう?」
ランザーが自分とユラの間に居るメルフェスを見てから ユラへ言う
「ならばっ その反逆の兵士を使って 帝国と戦えば良かろうっ!?」
メルフェスが言う
「反逆の兵士は 両国の和平を取り次ぐ者 …ならば 両国の戦いを取り次ぐ者は 悪魔の兵士なのでは?」
ユラがランザーへ向いて言う
「どうなんだ?アールスローン戦記の原本になら その答えが記されているのではないのか?」
ランザーが表情を顰める ユラが言う
「やはり ハブロス家の者に 国防軍長の座を明け渡すしかないのだろう?」
ランザーが怒って言う
「黙れっ!アールスローン戦記の原本などっ そのような物は存在しないと!悪魔の兵士は ただ 国防軍のマスタートップシークレットであるだけだっ!その場所さえ見付け出せればっ!」
ユラが言う
「アールスローン戦記の原本は 存在しないのではなく 前国防軍総司令官であった ヴォール・アーケスト・ハブロスが 受け継いでいなかっただけなのだろう?」
ランザーが言う
「そのヴォール・アーケスト・ハブロス前総司令官は それこそ 国防軍の全てや ハブロス家の隅々まで探した上で アールスローン戦記の原本は存在しないと そう言ったのだ!そこまでしての 言葉であるのならっ あの言葉は正しい筈だっ!」
メルフェスが言う
「しかし、悪魔の兵士は存在する そして 恐らくアールスローン戦記の原本も同じく 何故なら 私は その存在を示す言葉を耳にした事がある それは ハブロス家の者たちと共に悪魔の兵士 エルム少佐ご本人からも」
ランザーが呆気に取られる ユラが言う
「決まりだな」
ユラが立ち去る ランザーが慌てて言う
「待てっ!どう言う意味だっ!?」
メルフェスが視線を下げてからユラに続く ランザーが慌てて言う
「おいっ!待てと言っているっ!」
ランザーが視線を巡らせてから 言う
「くそぉっ!」
ランザーが走って御所を出て行く

【 政府重役会議 】

ユラが言う
「現状の国防軍であっては 帝国とは戦えない だが、今まで我らの皇居宗主が 繋ぎ止めていた帝国との和平は 間もなくその時を終えようとしている この事態を どう乗り越えるか」
ユラの横の席にメルフェスが座っている 重役たちが周囲と語らいざわめく 重役1が言う
「現状の国防軍では と言う事は 現状の国防軍の 何が 帝国との戦いを行った過去と異なると言うのか?」
メルフェスが言う
「戦力、統括力、情報収集力 …全て でしょうね」
重役たちがざわめく ユラが息を吐き着席する 重役2が言う
「では 国防軍がそれほどに落ちた そちらの理由は何かね?やはり前任のヴォール・アーケスト・ハブロス前総司令官かね?」
重役3が言う
「それを言うなら そのハブロス前総司令官と共に 帝国との和平条約へ向かった アミレス前長官にも責任はあるのではないか?」
重役1が言う
「帝国との和平条約が問題であったと言うのなら その責任は 共に向かった メイリス前警察長にも 非はある」
メルフェスが言う
「帝国との和平条約は成功を収めました 後に起きた事に関しましては 何も申し上げられませんが あの和平条約に問題は無かった …そして今は それらや過去の事に囚われるのではなく 今後の事を話し合うべきでしょう?」
ユラが言う
「カルメス皇居宗主の言う通りだ 今は今後の政府と国防軍がどうするべきかを 決めなければならない」
重役2が言う
「だが、力の無い国防軍では 帝国は倒せない そして、我ら政府の力である 皇居宗主でも これ以上は押さえられないとなってしまっては 一体何が出来るというのかね?」
重役3が言う
「では 皇帝がお望みの ペジテの姫を用意するしかないのではないか?」
皆が重役3を見る 重役5が言う
「アールスローンを守る為の生贄か」
ユラが言う
「口が過ぎるのではないか?ラムス殿」
重役5が言う
「失礼 …だが それしかない ペジテの姫 我らアールスローンの女帝陛下は 行方不明のままだ 帝国の皇帝が望むというのであれば 我ら政府の切り札である 偽のペジテの姫を使うしかあるまい?」
重役1が言う
「だが 切り札とは言え その効力はさしたるものにはならない 偽のペジテの姫を演じ切れる者は稀だ どうせすぐに精神を狂わせ お優しい帝国の皇帝に返品されるのがオチだ」
重役2が苦笑して言う
「カルメス皇居宗主 帝国の皇帝は 一体どの様なお方なのかね?優しいのか恐ろしいのか 分かりかねる」
メルフェスが言う
「そうですね 優しくもあり恐ろしくもあるお方ですが ただ1つ言える事は皇帝の御心以上に 帝国が所持する力は恐ろしい …従って なるべく その帝国と皇帝を 怒らせない方が宜しいでしょうね」
重役1が言う
「年齢や… そもそも姿などは分かるのか?」
メルフェスが言う
「分かりません 私はただ 皇帝の言葉を 貴方方へ伝えているだけですので」
重役3が言う
「だが、帝国へ向かい交渉をする時には 直接 皇帝へ会って 会話を行っているのだろう?それとも またそこでも代弁者を挟むのか?」
メルフェスが言う
「いいえ むしろ 帝国内では 言葉などは不要です …と、今は 皇帝の事を議論する時でも 無いと思いますが?」
重役たちが息を吐く ユラが言う
「話を戻すが」
重役重役5が言う
「では 国防軍が力を有するにしろ 我々政府が何らかの策を有するにしろ 今すぐにとは行かない 何をするにしても時間が無いだろう?」
ユラが言う
「私もその意見には同感だ 従って」
重役1が言う
「時間を稼ぐか?」
重役3が言う
「その方法は?」
皆が悩む 重役5が言う
「その程度の時間稼ぎにはなるか?」
重役6が言う
「偽のペジテの姫を用意する それしかない そしてそれを行うとなれば 我々 国民管理局の仕事となる」
メルフェスが僅かに表情を顰めて言う
「ならばせめて その後に行うべき策を決めてからにしては如何か?」
ユラが言う
「時間稼ぎが出来るのであれば その間に国防軍を強化する …まずは 国防軍長 防長と総司令官の変更だ」
メルフェスが言う
「ハブロス家の者に?」
ユラが言う
「それしかないだろう」
重役1が言う
「だが、折角国防軍の長が力を落とした この瞬間をみすみす逃してしまうのは惜しいな」
重役2が言う
「上手くすれば 政府が国防軍を操れる事とも なるのではないかね?」
メルフェスが言う
「それを行っている間に アールスローンは帝国のものとなるのでしょうね」
重役たちがメルフェスを見る ユラが言う
「落ち着きたまえ カルメス皇居宗主 …いや マスター?」
メルフェスがユラを見る ユラが言う
「平静を乱され 貴方が帝国に操られる事の無い様に」
重役たちが笑う  メルフェスがムッとして視線を逸らす ユラが言う
「それでは 私が ハブロス家の者と交渉を行って来る 恐らくその結果として 国防軍の長が変わる事となるだろう 後は 力を取り戻した国防軍と共に 我々政府がアールスローンの為に死力を尽くす …だが、我々政府のお陰で ハブロス家の者が国防軍長へ返り咲く事が出来るとなれば それで諸君の望みも叶うだろう?」
重役たちが笑む メルフェスがユラを見る ユラが言う
「そのために ともすれば ここに居られる諸君にも 手を貸してもらうことになるかもしれないが その時は宜しく頼む」
重役6が言う
「では 私は 皆に先んじて 死力を尽くさせてもらいましょう 偽りのペジテの姫を 作り上げる為に」
メルフェスが息を吐き視線を逸らす

【 ハブロス家 】

屋敷前に高級車が止まり ドアが開けられるとユラが降りる レミックが礼をして言う
「お待ちしておりました 政府長ユラ・ロイム・攻長閣下 ハブロス家当主に代わり アース・メイヴン・ハブロスが 出迎えに上がっております」
アースがやって来て言う
「攻長閣下 ご連絡を有難う御座います」
ユラが微笑して言う
「こちらこそ 私の新たな相方となる防長に 直々に出迎えを頂けるとは」
アースが苦笑して言う
「生憎 防長となるのは 私ではないかもしれませんが 貴方とは長官と総司令官と言う立場において 良き相方となられる事を願います」
ユラが言う
「なるほど 国防軍の再編成へ力を尽くす為 貴方が総司令官になるおつもりか… しかし そうであるのなら尚更 私と話の合いそうな貴方には 組織に置いての最上位である 防長となって頂きたいのだが?」
アースが苦笑して言う
「国防軍は生憎 防長の権限によって 直接部隊を動かす事は出来ません 国防軍の全ては 総司令官に一任されてしまうのです そして、私の弟は 組織を掌握するのには 少々難がありますもので」
ユラが言う
「そうですか… それでは致し方ないのかもしれないが」
アースが微笑して言う
「政府に置いての第一第二 両権力を有する 攻長兼長官であられる貴方様に この様な場所では申し訳がありません 詳しいお話の方は中で…」
ユラが微笑して言う
「そうですね では」
アースが向かおうとすると ユラの携帯が鳴る ユラが言う
「…と、失礼 すぐに済みますので」
アースが微笑して言う
「どうぞ」
ユラが携帯を耳に当てる 携帯から僅かに声が聞こえる
『カルメス皇居宗主が屋敷へと戻りました 異常ありません』
ユラが言う
「よし、通常通り 見張りを行え」
携帯から僅かに声が聞こえる
『畏まりました』
ユラが携帯を切りアースへ向き直り苦笑して言う
「その政府の第三権力者である 反逆の兵士を見守るのも 攻長や長官の勤めでして」
アースが苦笑して言う
「こちらの防長も 国防軍における第三権力者 悪魔の兵士を 守るのが勤めです …同じですね?」
アースが視線を他方へ向けて言う
「とは言え 今はその悪魔の兵士の方が 防長を見守っている状態ですが」
アースの視線の先 エルムβが不満そうに視線を向ける アースが言う
「あれが本物の人形であってくれたら どれ程気楽であるか」
ユラがエルムβを見て疑問して言う
「あちらの警備の方が何か?」
アースが微笑して言う
「…いえ 失礼 どうかお聞き流しを 先ほどのは ”もう用済みの悪魔の兵士”の お話ですから」
エルムβが言う
「『悪かったな』」
アースが笑いを抑える ユラが疑問する 

【 政府 国民管理局 】

重役6が施設内に入って来る 局員たちが立ち上がって言う
「お帰りなさいませ 局長」
局員たちが礼をする 重役6が言う
「うむ 今すぐ 未婚の高位富裕層の女性を リストアップしてくれ」
局員が言う
「未婚の高位富裕層の女性… ですか?」
重役6が言う
「ああ、なるべく若い方が良い 陛下と同じく20代の者だ」
局員がPCを操作してから言う
「20代で限定すると難しいですね… 10代か もしくは30代以降であればいらっしゃいますが 20代は最も婚姻率が高いですからね…」
重役6が言う
「30代の離婚者などは持っての外だ 美しく清楚で まるでペジテの姫を思わせるような方を探してくれ」
局員が言う
「局長 名前だけのリストで どうやってそんな詳しい事を 調べるんですか?」
局員たちが笑う 重役6が苦笑して言う
「更に言うのなら 両親が居ないと良いな?可愛い娘を奪われると有れば 高位富裕層の親ならば 有りとあらゆる手段を取るだろう …と そこまで都合の良い者は居ないだろうが」
局員がPCを操作して気付いて言う
「うん?いえ、局長 1名ですが その条件でヒットしました」
重役6が言う
「なんとっ では 決定だな?」
局員が詳細を確認してから言う
「あ、しかし 未婚ではありますが 婚約されてますね」
重役6が言う
「婚約であっても 結婚ではないだろう?それで構わん 出力しろ」
局員がリストの確認を続けつつ言う
「はい 分かりまし… ん?ああっ!局長っ!」
重役6が言う
「なんだね?」
局員が重役6を見上げて言う
「婚約は婚約でも お相手は皇居宗主様ですよ!?」
重役6が衝撃を受けて言う
「何っ!?」
局員が苦笑して言う
「これはマズイでしょう…?そもそも こんな条件で探し出した この方に一体何の御用なんですか?局長が?」
重役6が衝撃を受け誤魔化して言う
「あぁっ いやぁ… うん、まぁ 政府を代表して 少々お頼み事があるだけだ …よし、その方は保留で 両親健在にしてリストを絞り直せ」
局員が言う
「はーい」
局員が作業を行う

【 カルメス邸 】

シェイムが言う
「上位富裕層とは言え 高位富裕層には遠く及ばない メイリス家の私が高位富裕層の… まして皇居宗主であられる 貴方様へのお目通りが これほど容易く許可されるとは驚きました …メルフェス・ラドム・カルメス皇居宗主」
シェイムの視線の先 メルフェスがデスクの椅子に座っていて言う
「いつか この日が来るであろうとは 思っていたからな シェイム・トルゥース・メイリス殿」
シェイムが言う
「それは どう言う意味で?」
メルフェスが言う
「ソロン・フレイス・メイリス元警察長の子息である 貴方には 是非とも会って確認したい事が有った」
シェイムが言う
「それは こちらの事ですか?」
シェイムがメモリースティックを見せる メルフェスが視線を細めて言う
「やはり あの時も… フレイス殿は 戦闘記録レコーダーを使用していたか」
シェイムが言う
「お話が早くて助かります」
メルフェスが言う
「…では 早速 答えを聞かせてもらいたい 彼を …貴方の父 ソロン・フレイス・メイリスを殺したのは 私か?」
シェイムが拳銃を取り出し メルフェスへ向ける メルフェスが言う
「それが 答えか」
シェイムが言う
「貴方の能力は知っています カルメス皇居宗主 …いえ マスターシュレイゼス」
メルフェスが目を伏せ息を吐く シェイムが言う
「常人の私が撃つ銃では 貴方を殺める事は出来ない 無駄な事をするつもりはありません ですが 貴方に少しでも 貴方を信じた ソロン・フレイス・メイリスへ 私の父へ 悔いる思いがあるのなら 教えて下さい」
メルフェスがシェイムを見る シェイムが言う
「マスターブレイゼス と言うのは 誰です?」
メルフェスが言う
「マスターブレイゼス?」
シェイムが言う
「ご存知ないとでも?」
メルフェスが言う
「すまない…」
シェイムが言う
「そんな筈は無いでしょう?マスターブレイゼスは メルフェス・ラドム・カルメス …貴方の 以前の皇居宗主の名前です」
メルフェスが一瞬驚いてから目を伏せて言う
「…そうなのか 生憎 私は何も知らされてはいない」
シェイムが言う
「貴方は政府の皇居宗主でしょう?知らされていない筈が無い 政府の重役の誰もが知る 政府のマスタートップシークレットに関する者です 何処まで白を切るつもりですか?」
メルフェスが言う
「貴方の言う通り 私は 政府内に唯一置かれているマスターの名を持つ者だ 政府のトップシークレットなど 閲覧を許される筈が無い マスタートップシークレットともなれば尚更だ」
シェイムがメルフェスへ銃を向けたまま黙る メルフェスが言う
「他に聞きたい事は?」
シェイムが言う
「例えあったとしても その様にかわされてしまうのであっては 意味が無いでしょう?…そうですね この銃も 構えている必要も無かった」
シェイムが肩の力を抜く メルフェスが言う
「いや」
シェイムが疑問する メルフェスがシェイムへ向いて言う
「シェイム・トルゥース・メイリス殿 貴方は 貴方の父上様の仇を 取りに来たのだろう?」
シェイムが言う
「…父が言っていました ”メルフェスは 私が信頼を置ける 最後の友人である”と …例えマスターの名を持つ者であっても 貴方を… 信じる と」
メルフェスが表情を落として言う
「私はもう十分に生きた フレイスを殺したのは自分ではないと 言い逃れを続けながら… だが もっと早くに答えを聞いておくべきだった ナノマシーンによる洗脳は やはり実在する しかし 今更 除去など行うつもりは無い その様な事をしても 自分が行った過去を 消し去る事などは出来ないのだからな」
シェイムが僅かに驚く メルフェスがシェイムへ向いて言う
「さぁ 撃ってくれ」
シェイムが驚いて言う
「え…?」
メルフェスが苦笑して言う
「かわしたりなどしない 貴方の父上様の仇を取ってくれ 私の願いでもある」
シェイムが呆気に取られてから表情を怒らせ 銃を構え直して言う
「芝居を続けるつもりかっ 貴方には自分の犯した罪を償おうと言う思いも無いのかっ!ならば 父の仇 食らうが良いっ!マスターシュレイゼスっ!」
シェイムが銃を構え見つめる メルフェスが目を閉じる シェイムが銃を構えたまま表情を強張らせ 銃を持つ手が震える メルフェスが目を開き シェイムを見てから 銃を見て苦笑して言う
「撃たないのか?」
シェイムがハッとして表情を強める メルフェスが苦笑して言う
「そうだな いくら仇討ちとは言え 皇居宗主を手に掛けたとなれば 極刑に架される」
シェイムが言う
「そんな事っ!元より覚悟の上っ!」
シェイムが引き金に掛けた指を僅かに動かす メルフェスが言う
「そうは行かない」
シェイムがハッとする メルフェスが席を立ちながら言う
「貴方はフレイスの息子だ 私のせいで そのような事になっては あの世で彼に会わせる顔が無い」
次の瞬間 シェイムの手から銃が奪われ シェイムがそれに気付くと すぐ横にメルフェスが居て言う
「すまなかった…」
シェイムが驚くと メルフェスが銃を自分の頭へ向け 引き金を引く シェイムが目を見開く 銃声が鳴る シェイムが目を見開いたまま息を切らせる メルフェスが呆気に取られて言う
「…何故?」
メルフェスの銃を持った手が シェイムに掲げられ 硝煙の上がる銃口が天上へ向けられている シェイムが脱力して言う
「良かった… 間に合わないかと思いました …あれが マスターの力…」
メルフェスが呆気に取られシェイムを見る シェイムがメルフェスへ向き直って表情を落として言う
「申し訳ありません カルメス皇居宗主 私は… 嘘を述べました」
メルフェスが疑問する シェイムが言う
「先ほどのは 嘘です… 貴方は 父を… ソロン・フレイス・メイリスを 殺してなどはいません」
メルフェスが驚いて言う
「それは 本当か?」
シェイムがメモリースティックを向けて言う
「はい、それ所か 貴方は父を助けようとしてくれました 政府の重役たちによって マスターブレイゼスの洗脳を受けながらも 最後まで… 貴方と志を共にした ソロン・フレイス・メイリスの為に… 私は 父と共に戦って下さった 貴方に 心から感謝をしています マスターシュレイゼス」
メルフェスが呆気に取られる

【 政府 国民管理局 】

局員1が言う
「よし、これで完了!」
局員2がモニターを覗き込んで言う
「どれどれ!?見せてくれよ!おおー!」
局員1が言う
「お前なら どの御令嬢が良い?」
局員2が笑みを浮かべながら言う
「うぅ~んそうだなぁ この辺りの 如何にも女王様ってな淑女に使われるのも悪くないが やっぱり… この子かな!?守ってあげたいって感じだ!」
局員1が言う
「あ、やっぱりそう思うか?俺も もし 結婚するならこの子だなぁ~?」
局員2が言う
「あれ?でも 結局 両親健在所か 未婚既婚の条件さえ外しての検索になったんじゃなかったのか?」
局員1がPC操作をしながら言う
「ああ、その辺りの事より 年齢の幅を狭めてくれってさ 何でも 血液検査なんかによる年齢確認に引っかかるとマズイらしくて それで20代前半の未婚者で絞ったら その条件に合うのはたったの2人になっちゃったんだ けど、最低でも5人はリストアップしろって事で 既婚者も入れて この状態だ」
局員2が言う
「ふ~ん… てっきり 局長が政府の重役の誰かに 自分の息子の嫁候補でも上げてくれって事で 探してるのかと思ったけど 既婚者も入るんじゃ違ったみたいだな?」
局員1が言う
「ああ、俺も 写真を添付しろって言われた時は そんな事かと思ったけど… にしても こんな条件で探し出した この御令嬢たちに 一体何させようって言うんだろうな?」
局員1と2がモニターを見る モニターには5人の女性の写真 その中にマリが居る PCからディスクが排出される

【 カルメス邸 】

ノートPCにメモリースティックが付いている メルフェスが目を閉じ片手で頭を押さえている シェイムが言う
「思い出されましたか?」
メルフェスが目を開いて言う
「薄っすらとだが… それでも時間を掛ければ もっと鮮明に思い出せそうだ…」
シェイムが言う
「この記録にある音声から 現場に居た者として割り出せた重要人物は アミレス前長官と現在の長官兼攻長であり 政府研究局の前局長であった ユラ・ロイム・ライデリアだけです 戦闘記録レコーダーは 証拠としては有能ですが やはり音声のみに限られる情報には限界があります」
メルフェスが目を細めて言う
「後は… そうだ確かに 彼も居た 現国防軍総司令官」
シェイムが目を細めて言う
「アーム・レビット・シュレイガー総司令官」
メルフェスが言う
「他には… すまない だが、もう少し時間を掛ければ 人物は分からずとも マスタートップシークレットのその場所を 思い出せそうな気がする」
シェイムが言う
「私は何としても 政府に潜む 真の悪を突き止めたいと思っています 父や祖父が果たせなかった その思いをっ」
メルフェスが言う
「だが、その政府とは言え アールスローンを守る為に 動いている事は確かだ 帝国を倒す力さえあれば 彼らも 国防軍への関与や アールスローンを守るための生贄など…」
シェイムが言う
「確かに そうかもしれません しかし それだけの事であるのなら尚更 全てを秘密裏に ごく限られた者の考えのみで 事を進めていくのが 正しいのでしょうか?」
メルフェスがシェイムを見る シェイムが言う
「政府が本当に 国防軍と手を組み アールスローンを守ろうと考えるのなら その方法は きっとある筈ですっ」
メルフェスが苦笑して言う
「流石親子だな 彼と同じ事を言う」
シェイムが言う
「その為に 貴方と父は 政府のマスタートップシークレットへ向かったのでしょう?」
メルフェスが言う
「ああ… だが その結果がこれだ」
メルフェスがノートPCにつけられているメモリースティックへ視線を向ける シェイムが言う
「父が殺された後 アミレス長官がどうなったかは ご存知ですか?」
メルフェスが言う
「私が確認を出来たのは 公式発表だけだが …違うと?」
シェイムが言う
「政府の精神医療施設へ入院していると言う公式発表は 間違いでは有りません しかし、その詳細に関しては極秘扱い そして、何とか手に入れた情報によると アミレス殿の治療は 政府の研究局によって行われていると …つまり彼は ナノマシーンの実験台にされているのです」
メルフェスが驚いて言う
「彼は誰よりも 帝国の力をっ ナノマシーンを恐れていた者だ その彼の身に ナノマシーンを取り入れようとでもっ?」
シェイムが言う
「はい ナノマシーンの補佐能力は どの様な犠牲を払ってでも手に入れる価値があります …とは言え 過去の実験はことごとく失敗に終わり やはり帝国のナノマシーンは 帝国の人間にしか 機能しないと言う結果でしたが」
メルフェスが言う
「その実験を再び行っていると言うのかっ?」
シェイムが言う
「貴方と父が向かったマスタートップシークレットにあった装置は 既にナノマシーンを体内に取り入れている 帝国のマスターの名を持つ者を操る装置でした しかし、その装置と共に アールスローンの者へのナノマシーンの取り入れを完成させれば 政府は強力な力を手に入れられる… 彼らが実験を続ける理由には十分です」
メルフェスが言う
「傍目にはそう見え様とも ナノマシーンは帝国の力だ その帝国を倒す力になど なる筈が無い」
シェイムが言う
「やはり そう思われますか?」
メルフェスが言う
「もちろんだ 私は皇居宗主として 帝国へは何度も行っている 帝国がその気になれば この国など…っ!」
メルフェスが視線を逸らして言う
「…失礼 言葉が過ぎた様だ」
シェイムが苦笑して言う
「やはり 不思議だ」
メルフェスが疑問してシェイムを見る シェイムが言う
「父が言っていました 帝国も その力を持つマスターたちも 我々が及ばない力を持っているのに 何故か彼らは 我々を襲っては来ない それ所か仲間となって協力してくれる… とても不思議だと …マスターシュレイゼス どうか、教えて下さい 帝国は一体 何を 望んでいるのですか?」
メルフェスがシェイムを見て 間を置いて苦笑して言う
「共に在り続ける事だ」
シェイムが微笑して言う
「私に力を貸して下さい マスターシュレイゼス アールスローンと帝国 その2つが 共に在り続ける為に!」

【 ハブロス家 】

ユラが言う
「アーム・レビット・シュレイガー総司令官へは 国防軍と政府が共に手を取り合い協力出来るようにと… その為に 政府の力の一部をお譲りしたのですが… まさかそれを シュレイガー総司令官の私腹を肥やす為の力として 使われてしまうとは… 私を含め政府の重役たちも 今は頭を抱えている状態です この様な事が 少しでも早く終わりを迎えてくれるのなら 我々政府は可能な限り尽力を致します」
アースが言う
「政府の皆様のお気持ちは 容易にお察しが出来ます 元はメルシ国の彼ら音楽家たちが 自分たちの愛する動物たちとの意思疎通に使用していた力… しかし、その威力を高める事で 意志の疎通を越え 洗脳能力さえ持ってしまうとは 恐ろしい力ですね」
ユラが言う
「我々はその力を研究し、万が一帝国との戦いが起きた際には アールスローン国内に居る マスターの名を持つ彼らが 帝国に操られる事の無いようにと… 帝国による操りの力から 彼らを解放する為に研究を続けていました それさえ完成すれば政府に置いても マスターの名を持ちつつ 我々の仲間となってくれる彼らを 受け入れられるだろうと …その様に考えていたのです」
アースが微笑して言う
「流石は 国民を守る政府ですね 帝国のマスターの名を持つ者であろうとも 同じアールスローンの仲間として 受け入れたい… と?」
ユラが微笑して言う
「もちろんです」
エルムβが言う
「『嘘だな』」
ユラが衝撃を受ける アースが部屋の出入り口横に居るエルムβへ 怒りを押し殺してから 苦笑して言う
「う、うんっ …どうか お気になさらず あれは上手く出来ていますが 実は人形でして」
ユラが苦笑して言う
「に、人形…?あ、ああ… なるほど?…お、面白い人形ですね?」
アースが苦笑して言う
「え、ええ… その 先ほどのは 周囲に異常なしと言う 隠語でして」
エルムβが言う
「『嘘だな』」
ユラが衝撃を受ける アースが怒りを押し殺す

屋敷前から高級車が去る

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラゼルが笑う
「ほっほっほ…」
アースが怒って言う
「祖父上っ!笑っておられる場合では御座いませんっ!ともすれば 折角のユラ・ロイム・攻長からの誘いが 破談する所で御座いましたっ!祖父上の悪魔の兵士である このエルム少佐のせいで!」
アースがエルムを睨み付ける エルムが言う
「問題ない」
ラゼルが紅茶を一口飲む アースがラゼルを見てからエルムへ立ち向かって行って言う
「何処が”問題ない”んだっ!?これは ハブロス家が失った 国防軍長の座を 取り戻せる絶好のチャンスなんだぞっ!?それが 貴方の身も蓋も無い言葉で ぶち壊しにされる所だったんだっ!」
エルムが言う
「問題ない」
アースが衝撃を受け怒りを押し殺す ラゼルが軽く息を吐いて言う
「メイヴィン」
アースがラゼルへ向く ラゼルが言う
「ユラ・ロイム・攻長は お前たちの父 ヴォール・アーケスト・ハブロスの仇でもあるのだ… そうとありながら お前がその ユラ・ロイム・攻長の力を得て 国防軍の総司令官へ就任すると言うのは どうだろうか?」
アースがラゼルへ向き直り視線を細めて言う
「父の仇であるからこそっ 今度は 私が奴を 利用してやろうと言うのです!」
ラゼルが表情を落とす エルムが言う
「愚かだな」
アースが一瞬驚きムッとしてエルムへ向いて言う
「何が愚かであると?」
エルムが言う
「奴の助力で 総司令官になるのでは 意味が無い」
アースが言う
「では 他の方法があるとでも言うのかっ!?」
エルムが言う
「ハブロス家の者が 国防軍長へ戻る事は 容易だ しかし それだけでは 不足だ その為に」
ラゼルが言う
「少佐」
エルムがラゼルへ視線を向ける アースがラゼルへ向く ラゼルが苦笑して言う
「もう良いであります メイヴィンが国防軍の総司令官になろうと その為の行動を開始すると言うのであれば 自分は…」
エルムが視線を細めて言う
「君は そう言う所が甘いんだ 軍曹 ここで引き下がれば ヴォール・アーケスト・ハブロスの犠牲は 無駄になる」
ラゼルが苦笑して言う
「自分は そのアークの様な事を 繰り返したくは無いので在ります」
エルムが言う
「問題ない 次は君が待機命令を下そうとも 私は出動する」
ラゼルが苦笑する アースが呆気に取られる

【 政府重役会議 】

重役6が言う
「偽のペジテの姫として 候補に上がった御令嬢は こちらの5名です」
スクリーンに5人の写真と名前が映される 重役2と重役5に続きメルフェスが驚く 重役2が慌てて言う
「どう言う事だね!?その上から2番目の娘は 私の孫の妻だ その様な事 私にわざわざ言わせずとも 国民管理局なら分かっているだろうねっ!?」
重役5が言う
「こちらも同じだ!一番下に表示されている娘は 私の義理の娘と言う事になる 次期 政府納税局の局長になる 私の息子の妻だっ 知らなかったとは言わさんぞっ!?」
重役6が言う
「勿論それらの事は確認しております しかし この度の アールスローン国を守る名誉ある 偽ペジテの姫には その謝恩が十二分に用意されます そちらをどの様にご考慮されるされるのか… その辺りの事が 私には把握が出来ませんでした為に お二方に関係する こちらの2名の御令嬢と共に」
重役6がメルフェスを見る メルフェスが視線を細める 重役6が言う
「カルメス皇居宗主が 何用かで ご利用されておられるのでしょう?こちらの ご婚約相手様も リストに上げさせて頂きました」
重役たちがメルフェスを見る 一歩遅れてユラが横目にメルフェスを見てから スクリーンに視線を戻して言う
「偽とは言え ペジテの姫… 我らの女帝陛下の代役だ 相応の者であらなければならない」
重役たちがスクリーンを見てから 重役1が重役6を見て言う
「写真と名前だけではなく その他の確認はされているのだろうな?」
重役6が言う
「もちろん まず 陛下の代役として このリストにあるご令嬢は 20代前半の高位富裕層で絞りました 次に考える所は こちらのご令嬢方のご両親と言う事で こちらの2名は 国防軍の関係者となります」
スクリーンの写真が強調される 重役3が言う
「国防軍の者に借りを作る訳には行くまい?」
重役1が言う
「同感だ その2名は省くべきだろう どうだろうか?」
重役1が周囲を見渡す 重役たちが頷く ユラが言う
「その2名は省いてくれ」
重役6が頷きスクリーンから2名が消える 重役6が言う
「と、言う事で 結果的に」
重役3が言う
「ここに居る 重役3名の関係者と なってしまう訳か」
重役6が苦笑して言う
「私が最初に ご説明申し上げた理由が これで お分かりになられたかと」
ユラが言う
「では どうだろうか?その説明にあった通り 名誉ある御公務には相応の謝礼が その家族へと支払われる …だが その時点で家族ではない となれば そうは行かないが?」
ユラが横目にメルフェスを見る メルフェスがユラを見返す ユラが苦笑してからスクリーンを見て言う
「更に言うのなら この3名の内 2名は既婚者と言う事になる では 決定で良いだろうか?」
重役たちが失笑する メルフェスが息を吐き視線を逸らして目を閉じる 重役1が言う
「しかし…」
重役たちが反応して重役1を見る 重役1が言う
「偽のペジテの姫を帝国へお連れするのは 当然 カルメス皇居宗主と言う事になる まさか… とは思うが カルメス皇居宗主が そちらの御婚約者を 利用しているのではなく 本気で ご結婚を考えておられたりなどしたら… まさか そのまま 帝国本国へ駆け落ちなどされてしまったりしては 大変ですな?」
重役たちが静まり返る ユラが哂って言う
「っははははっ!それは面白い!反逆の兵士が アールスローンで花嫁を得て 帝国へ御帰還か?」
ユラがメルフェスを見る メルフェスが閉じていた目を開いて言う
「それも悪くはないかもしれない 少なくとも お優しい皇帝陛下は 反逆の兵士をお許し下される」
重役たちが驚く ユラが言う
「本気で言っているのか?」 
メルフェスが言う
「さぁ… どうだろうか?それよりも アールスローンを守る為に ただアールスローンの者を 生贄にするなどと言う事しか考えられない 貴方方を一掃して 新たな政府の重役たちと共に 別の手段を講じると言う方が 行方不明の女帝陛下も 帝国の皇帝陛下も 喜ばれるかもしれない」
メルフェスが重役たちを見る 重役たちの数人が怯む メルフェスがそのメンバーを見てからユラを見る ユラが苦笑して言う
「…分かった カルメス皇居宗主 貴方の婚約者には 触れないで置こう 我々政府唯一のマスターである貴方と婚約した アールスローンの者と言う事は 言い換えれば 帝国とアールスローンの和平を思わせる これは喜ばしい事だ 政府の長として 素直に祝福させて頂こう」
重役2が言う
「結婚式には 是非とも 呼んで頂きたいものだね?」
ユラが苦笑して言う
「もちろん 私も呼んで頂こうか?」
メルフェスが視線を逸らして言う
「…考慮させて頂きます」
重役たちが苦笑する

重役数人とメルフェスが会議室を出て行く 間を置いて会議室のドアが閉められ ユラが振り返って言う
「そろそろ 皇居宗主の入れ替えを 考えた方が良さそうだ」
重役たちがユラを見る 重役2が言う
「先ほどは 背筋がヒヤッとしたね 年寄りには応えるよ」
重役5が言う
「お年を召して居られずとも 彼の力を知る者なら 隠しようも無く 息を飲んでしまったのは仕方が無い」
ユラが苦笑して言う
「それは当然 彼は 国防軍の一個部隊の銃撃を かわしきれるほどの瞬発力を持っている あのスピードでは 剃刀一枚を持たせるだけで 一瞬にして我々全員の首を切り裂く事も 可能だろう」
重役1が苦笑して言う
「攻長閣下 どうか お言葉の上だけでも その様な事は仰らないで頂きたい 私は恐ろしくてたまりません」
ユラが言う
「では それほどに恐ろしくも 魅力的な力について 報告を貰いたいのだが?」
重役1が言う
「結論から言いますと アミレス前長官は お亡くなりになりました」
重役2,5が息を吐き 重役5が言う
「やはり ナノマシーンを血中に取り入れる事が出来るのは 帝国の人間だけなのか」
重役2が言う
「その者を 操る機械の方は どうなっているのかね?」
重役1が言う
「そちらの装置も やはり我々アールスローンの科学者の力では 手を付ける事は出来ません 元々あの装置は マスターブレイゼスが作り上げたものです 彼と同じく ナノマシーンの知能補佐能力を持った マスターでなければ 改良も解析も不可能でしょう」
重役5が言う
「だが装置を利用すれば 装置に使われている マスターブレイゼスの意識との接触が出来る筈だ そうとなれば 当然その知能も」
重役1が言う
「と言う事で 前回の失敗も考慮した上で 今度は知能補佐能力を持ったマスターを1名の状態で 装置を起動させた所 …再び マスターブレイゼス様に お会いする事が出来ました」
重役2が言う
「うん?それは良い知らせじゃないかね 何故 今まで報告を怠っていたのかね?」
重役1が言う
「いえ、報告は…」
ユラが言う
「報告は私が受けていた 如何に知能補佐能力を持ったマスターへ マスターブレイゼスの洗脳を行ったとしても そのマスターは 本来持ち合わせている能力を マスターブレイゼスと同等まで上げる事は出来なかったと …それでは装置の改良も解析も不可能だろう」
重役1が言う
「洗脳では出来損ないのコピーにしかなりません …しかし マスターブレイゼスの肉体は滅ぼうとも 彼の血中にあったナノマシーンは 今も健在 そして、ナノマシーンは 宿主への能力補佐と言う 本来の役割のみにならず 長く寄生する事で その者が持ち合わせた記憶の断片…すなわち 知識をも 持ち合わせています」
ユラが言う
「ならば 行うべき事は分かっているだろう?そちらの作業を急がせてくれ 我々が求めるのは 世紀の天才科学者であった マスターブレイゼスの復活だ」
重役2が言う
「世紀の殺人者でもあったがね?」
重役たちが笑う メルフェスの席の前 テーブルの下に小さな盗聴器が取り付けられている

【 カルメス邸 】

ノートPCにメモリースティックがつけられている スピーカーから ユラの声が聞こえる
『ならば 行うべき事は分かっているだろう?そちらの作業を急がせてくれ 我々が求めるのは 世紀の天才科学者であった マスターブレイゼスの復活だ』
重役2が言う
『世紀の殺人者でもあったがね?』
重役たちが笑う メルフェスが目を細める シェイムがメルフェスへ言う
「先手を打ちましょう マスターブレイゼスは 国防軍とマスターたちが協力して討ち取った者 政府のやり方は間違っています」
メルフェスがシェイムへ向いて言う
「シェイム殿は マスターブレイゼスが何者であったのかを ご存知なのか?」
シェイムが言う
「政府のトリプルトップシークレットです 当時警察長であった父が調べ上げました その資料はこちらです」
シェイムがディスクをメルフェスへ向ける メルフェスが受け取りディスクを見る シェイムが苦笑して言う
「父は貴方と親しくなる以前に 親友との縁を失っていたので それを貴方へお渡しする事を あのマスタートップシークレットへ向かう前日まで 躊躇っていました」
メルフェスが苦笑して言う
「彼は良く言っていた 自分は臆病者であると 私には信じ難い言葉だったが こう言う事だったか」
シェイムが微笑して言う
「父が今も生きていれば 自分の手で貴方へ お渡ししていた筈です」
メルフェスが言う
「分かった 確認をさせてもらう」
シェイムが立ち上がって言う
「では 私は彼らの先手を取るべく 行動を開始します」
メルフェスが言う
「無理はするな 何かあれば すぐに連絡を」
シェイムが微笑して言う
「はい 私は父とは違い 武力は持ち合わせていないので 直接向かう事はしません ご安心を」
メルフェスが微笑して頷く

【 メイリス家 】

ラミリツが膝を抱えてソファに座っている 目前のテーブルにノートPCが置かれていてメモリースティックが付けられている スピーカーからフレイスの声がする
『アミレス長官っ!ライデリア局長っ!これはどう言う事だっ!?政府のマスタートップシークレットはっ マスターを守る為の装置であるとっ!』
ユラの声が聞こえる
『守っているとも 帝国の洗脳以前に 別の洗脳を与えてやれば良いだけだ それも… 我々政府最強の力 世紀の天才科学者 マスターブレイゼスの洗脳を』
フレイスの声がする
『マスターブレイゼスの!?奴はっ とっくに死んでいる筈っ!』
メルフェスの声がする
『私が 死んだ だと?』
フレイスの声がする
『メルフェスっ!?』
メルフェスがの声がする
『そうだ… 私は 私の仲間である筈の マスターの名を持つ奴らに 裏切られ 殺された…』
ルイルの声が聞こえる
『マスターブレイゼス 国防軍もマスターたちも 皆貴方を裏切りました しかし 我々政府は 常に貴方と共にあります!再び我々に力を貸して下さい!我々と共に 国防軍やマスターたちの故郷 帝国を倒すのですっ!』
メルフェスの声がする
『帝国を倒す…か?このアールスローンが?…クックック そうか 良いだろう だが、その前に 国防軍を…』
ルイルの声が聞こえる
『帝国を倒すとなれば 国防軍の力は必須!奴らの力を 我々政府のものに致しましょう!マスターブレイゼス!貴方なら その為の』
フレイスの声がする
『やめろっ!ライデリア局長!貴方は何も分かっていないっ!アールスローンを守るには 帝国と戦うのでも 国防軍と戦うのでも無い!…アミレス長官!貴方は知っているだろう!?…メルフェスっ!意識を取り戻してくれっ!お前はマスターブレイゼスじゃない お前の名は マスターシュレイゼスだ!』
ドアが開かれ シェイムがラミリツへ向かいながら言う
「エーメレス メルフェス様が協力して下さる事になった これで我々が」
ラミリツが身を縮めて言う
「兄上は… 怖くはないの?」
シェイムがラミリツの横に立って言う
「怖い?何が怖いんだ?皇居宗主にして マスターである メルフェス様が 父上の時と同様に 我々へ力を貸して下される事になったんだ これで今まで以上に 動きが取られる様になる 恐れる所か 私は安堵さえしている」
ラミリツがノートPCへ視線を向けて言う
「政府の連中に 操られるかもしれない…」
シェイムがノートPCを一瞥してから苦笑して言う
「その時は 父上の時と同様に メルフェス様の別名をお呼びすれば良いだけだ メルフェス様の持つナノマシーンが その呼び名に覚醒すれば 洗脳からは開放される」
ノートPCからメルフェスの声が聞こえる
『フ レイス…』
フレイスの声が聞こえる
『シュレイゼス!そうだっ!お前の宿主を守れっ!お前の名は マスターシュレイゼスだっ!』
ユラの声が聞こえる
『どうなっているっ!?何故洗脳がっ!?』
ルイルの声が聞こえる
『ナノマシーンは宿主とは別の意識を持つとも言われています ともすれば それ故に自身への呼び名によって 洗脳から覚醒してしまうのかもしれません 兄上 奴を黙らせて下さいっ もう一度装置を起動させます!』
ユラの声が聞こえる
『よし!総員!メイリス警察長を狙え!…撃てー!』
銃声が聞こえる ラミリツが目を細めて言う
「けど… 政府はこの時 一度失敗してるんだ… 今度は名前を呼んだ位じゃ 駄目かもしれない」
シェイムが言う
「装置の改造は出来ていないと言う事が分かっている そうであるなら 尚更 今の内に手を打たなければならない」
執事がやって来て言う
「旦那様 政府の者たちが動き出しました マスターの名を持つ者へ 接触を試みる模様です」
シェイムが言う
「よし 引き続き政府のそれらの動きを監視し 必要とあれば警備の者を置け 人員が足りなければ追加をして 十分に余裕を持たせて置くんだ」
執事が言う
「畏まりました」
ラミリツが言う
「兄上 そんな指示を出して良いの?唯でさえ 警察長の任を解かれて 政府への反逆の汚名まで着せられたせいで メイリス家の事業はボロボロで 財政は困難なのに」
シェイムが微笑して言う
「そちらに関しても 恐れる事は無い エーメレス メルフェス様が 事業提携と言う形で 政府とのやり取りに掛かる費用を 全て受け持って下さる事になった これで 傍目には 高位富裕層のカルメス皇居宗主と 上位富裕層のメイリス家が 事業の懇談において 互いに連絡を取り合っているものと 見せ掛ける事も出来る」
ラミリツが視線を逸らして言う
「兄上は 父上と同じで あいつを信じるんだ?…アールスローンの敵である 帝国の人間なのに」
シェイムが言う
「エーメレス メイリス家の信条を忘れたのか?」
ラミリツが不満そうに言う
「忘れる訳 無いけど…」
シェイムが苦笑して言う
「”悪しきを制し正義を貫け” 政府のやり方は間違っている それを制するのは 元警察長の父や 警機隊長であった祖父 代々政府警察を担ってきた メイリス家の信念だ」
ラミリツが言う
「今はその どっちでもないけど…」
シェイムが言う
「エーメレス」
ラミリツが立ち上がって言う
「訓練して来る」
ラミリツが立ち去る シェイムが苦笑してからノートPCへ視線を向ける スピーカーからフレイスの声が聞こえる
『もう良い… シュレイゼス お前だけで逃げてくれ』
メルフェスの声が聞こえる
『それは 出来ないっ』
フレイスの声が聞こえる
『お前1人なら ナノマシーンの補佐を抑えられても 逃げ切れるはずだ 私を連れては お前までやられてしまう』
ユラの声が聞こえる
『出力を上げろっ!どうあっても奴らを逃がすな!』
銃声が聞こえる フレイスの声が聞こえる
『行ってくれ!シュレイゼスっ!間に合わなくなるぞっ!』
メルフェスの声が聞こえる
『お前を置いて 逃げるなど 出来 ないっ …う…あ あぁあーっ!』
フレイスの声が聞こえる
『シュレイゼスっ!』
メルフェスの声が聞こえる
『すまない… フレイス…』
フレイスの声が聞こえる
『シュレイゼス!シュレイゼス!』
ユラの声が聞こえる
『意識を失ったか… 同じだな?これなら洗脳による精神崩壊の方も 免れないだろう… ハブロス総司令官の様に』
フレイスの声がする
『洗脳による精神崩壊…?まさかっ!アークに!?ヴォール・アーケスト・ハブロス総司令官へ 洗脳を行ったのかっ!?』
ユラの声が聞こえる
『政府で国防軍のマスタートップシークレットを預かっていると伝えたら のこのこと付いて来てたぞ?っははははっ!あれが 国防軍の総司令官とは聞いて呆れる …だが お陰で あの装置はナノマシーンを持たない アールスローンの者に対しては 効果が無いと言う結果を得る事が出来た 更に言うなら その場でナノマシーンを注入してやっても 精神を崩壊させるだけで 何の役にも立たない者へなってしまうともな?…今度のは どうなるのか 楽しみだ』
フレイスの声が聞こえる
『おのれっ!』
ユラの声が聞こえる
『貴方で実験を行うのは少々危険だ 従って貴方にはこの場でご殉職を頂こう …折角だ 貴方の親友であった 国防軍の者たちに送ってもらうが良い では お疲れ様でした メイリス警察長』
フレイスの声がする
『…メルフェス 謝るのは私の方だ 私は心の何処かで 最後まで貴方を信じきれずに居た 私は臆病で… だが 貴方は最後まで私の仲間で居てくれた 有難う マスターシュレイゼス どうか 無事で居てくれ アークの様には… アーク 最後に もう一度会って… もう一度 理由を聞きたかった…』
銃声が聞こえる シェイムが一度目を閉じてから 言う
「…父上 メルフェス様は… マスターシュレイゼスは ご無事でした そして 今一度 我々と共に 戦って下さると… どうか我々を 見守って居て下さいっ」
シェイムがノートPCを見て意を決する

【 グレイゼスの店 】

来客鈴が鳴る グレイゼスが言う
「いらっしゃいませ」
客1が店内を見渡しグレイゼスを見てから微笑する グレイゼスが席を示して言う
「どうぞ カウンター席でも 奥の席も空いておりますので」
客1がカウンター席へ向かい席へ座ると グレイゼスを見て微笑して言う
「マスター?」
グレイゼスが言う
「はい?」
客1が微笑して言う
「マスターが 喫茶店のマスターとは… っふふ それで隠れているおつもりか?」
グレイゼスが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「別に隠れている訳ではないですが… ご注文はお決まりで?」
客1が言う
「喫茶店とは そもそも連絡手段が発達する以前の… 情報交換を行う場であったとか… それ故に… ですか?」
グレイゼスが苦笑して言う
「単にコーヒー好きが 高じただけですよ それこそ上手いコーヒーを淹れる情報でもあれば 交換したいですがね?」
客1が言う
「面白い 中々知能が高そうだ もしや マスターは知能補佐能力に秀でた方で いらっしゃるのか?」
グレイゼスが困り苦笑して言う
「はぁ~ そうかもしれませんし そうではないのかもしれない… その程度にしか活用出来ない 出来損ないですよ?私は」
客1が言う
「いや… 十分に活用出来る筈だ なにせ あの国防軍レギスト駐屯地の 情報部主任を務められていたお方だ」
グレイゼスが軽く笑ってから言う
「あっはははっ 何だ そこまでご存知でしたか?通りで お話がお上手な筈だ… それで?ご注文は?」
客1が言う
「知能補佐能力に優れた マスターを1名」
グレイゼスが苦笑して言う
「生憎 そちらは売り物じゃないんで …ここは 喫茶店ですよ?政府のお客さん?」
客1が微笑する グレイゼスが微笑を返す 次の瞬間 客1が銃を向ける グレイゼスが瞬時にトレーで銃を横に払い除け逃げる 客1が体勢を立て直し 銃を撃ち追い掛ける グレイゼスが逃げる途中でコーヒーポットを取って曲がる 客1が曲がった先へ向かおうとすると コーヒーポットが投げ付けられ 客1が叫ぶ
「熱ぃーーっ!」
グレイゼスが一瞬笑んだ後 裏口のドアを開けた先 客1の仲間が銃を向けて構えている グレイゼスが驚き 苦笑して言う
「あらら~… まさか こんなに本格的だったとはねぇ… やっぱ あいつに護衛でも 頼んでおくべきだったか …けど今のあいつじゃ 俺の事なんて 守ってくれないかもなぁ?」
客1が後ろからやって来て言う
「大人しくしてもらおうか マスター… マスターグレイゼス」
客1がグレイゼスへ銃を向ける グレイゼスが微笑して言う
「俺の淹れた コーヒーのお味は 如何だったかな?お客さん?」
客1が一瞬止まった後 苦笑して言う
「…生憎 提供が早過ぎて 味わう暇が無かった」
グレイゼスが微笑して言う
「そりゃ 当然… あのコーヒーは 味わうんじゃなくて 嗅ぐわう為に置いてるんでねぇ?」
客1が疑問して言う
「嗅ぐわ…う…?」
客1の目が睡魔に襲われる グレイゼスが微笑し 客1の背後に回り 客1の銃を奪い客1を人質にして言う
「おっとっ!はいはい~ そちらの皆さん?動かない 動かない~」
客1が眠りに落ちる グレイゼスが言う
「こちらのお客さんの 眠りを妨げないように 速やかに退散してくれないかね~?」
客1の仲間たちが顔を見合わせ 僅かに銃を下げる グレイゼスが微笑して言う
「あ~ 良かった~ お話の通じる 紳士的な方々だった様だ それじゃ そう言う事で…」
客1の仲間が無線に言う
「知能補佐能力を持ったマスターを発見した 直ちに応援を」
グレイゼスが衝撃を受けて言う
「何ぃーっ!?応援呼んだぁー!?」
客1の仲間たちが武器を構え直す グレイゼスが慌てて言う
「いやいやっ!冷静に話し合おう諸君!こっちには 君たちの仲間である 人質が居るのだよ!?仲間を増やした所で 何の解決にもならないでしょっ!?そう言う時は 仲間の増援ではなくて 現状の説明と 対処方法の要求をっ!」
客1の仲間が無線に言う
「客役の仲間を1名 人質に取られた 対処方法を」
グレイゼスが言う
「そうそう それで良いー そうじゃないと 指示を送るサポート側も… って 違うっ!つい いつもの癖でっ!」
客1が目を覚まして言う
「うん…?」
グレイゼスが衝撃を受けて言う
「あぁー!しまったっ その間に 俺が救助要請を送る予定が あんまりに幼稚な作戦のお前たちへ 指導している間に 睡眠効果が切れちまったよっ!…おまけに アンタもしかして」
客1が状況を理解すると グレイゼスのみぞおちに肘鉄を食らわせる グレイゼスが腹を押さえてうずくまり言う
「ぐっ… やっぱ 体術の持ち主… ま、そうじゃなくても 俺じゃ 対処… 出来ない… よ… な…」
グレイゼスが意識を失って倒れる

グレイゼスが目を覚ます 視界に天上が見える グレイゼスがソファに寝かされていて 通常の店内が見える グレイゼスがホッとして起き上がると 言う
「痛っ…」
グレイゼスが殴られた腹を一度押さえてから 気を取り直して立ち上がり 店内を見渡して 店の窓の外を見る 窓の外で人影が隠れる グレイゼスが苦笑して言う
「てっきり あいつがマスターの俺を狙ってる 政府の連中かと思っていたが…」
店のドアが開く 人影が隠れる 店のドアが閉まる 人影が戻ると気付く 店の花壇の淵にコーヒーが置かれている 店内でグレイゼスが微笑して言う
「何処の誰だか知らないが… ありがとさん」

【 カルメス邸 】

シェイムが言う
「メルフェス様のご指示通り 優先して警備を付けていた 喫茶店のマスターの下に 政府の手先が現れたとの事です」
メルフェスが一瞬驚いて言う
「それでっ 彼は?」
シェイムが微笑して言う
「もちろん ご無事です」
メルフェスが苦笑して言う
「そうか それは何より」
シェイムが言う
「それに、知能補佐能力を持ったマスターであるからなのか もしくは 国防軍上がりの方であるからなのか こちら側の警備の者が 応援を要請する間の時間稼ぎと その間の身の守りが完璧であったと」
メルフェスが苦笑して言う
「彼は国防軍の情報部にて主任を務めていた者だ 実戦を知らなければ 如何に知能補佐を行えたとしても 精神の方が持つものではないでしょう …能力の確定がされている以上 次は人員を強化して来るかもしれない 今後は元の警備を徹底しなければ」
シェイムが微笑して言う
「ご安心を 既にそちらの手配は 行ってあります」
メルフェスが微笑して言う
「元政府警察長の方も 負けてはいないな?」
シィエムが苦笑して言う
「お褒めに預かりまして光栄です… しかし私は 父とは違って臆病者ではないと 自負していますので 今度は思い切って 警備の者を店内へも配備させる様にしました」
メルフェスが一瞬驚いて言う
「それはっ …少々大胆過ぎるのではないか?武装した者が 店内に居ては 気付かれると言う可能性も…?」
シェイムが言う
「場所は喫茶店です 常連客として堂々としていれば どちらにも怪しまれる事は無いでしょう?」
メルフェスが言う
「それはそうかもしれないが…」
メルフェスがコーヒーを一口飲む シェイムがそれを見て苦笑して言う
「それに… どうやら 喫茶店のマスターには 事件以前に我々の警備には気付かれていた様子で 意識を取り戻した彼に お礼のコーヒーを頂いたそうです」
メルフェスが呆気に取られる シェイムが軽く笑って言う
「そのコーヒーが とても美味しかったとの事で 私が店内への配備を命じる以前に 個人的にお客として入店していました」

マスターの店の店内に 警備の者が居る マスターがちらりと見て微笑する 警備の者が新聞に顔を隠して誤魔化す

シェイムが言う
「引き続き 国防軍上がりのマスターたちへ優先して警備を当て 対処をさせています 共に 国防軍に関連しないマスターたちにおいても 政府が利用している 国民管理局のデータを監視させ 政府の手の者が動くより前に 警備へ向かわせるように手配して在ります」
メルフェスが軽く笑って言う
「手際が良いな」
シェイムが微笑して言う
「警察長であった父に 幼い頃から教えを受けておりましたので これらの手配は得意です」
メルフェスが言う
「フレイスは 武勇にも秀でていた筈だが?」
シェイムが苦笑して言う
「そちらは 弟が引き継いでいます …しかし、どうやら 臆病風の方も 引き継いでしまった様子で 折角継がされた武力も その力を発揮させる事は難しい様子です」
メルフェスが言う
「確か 大分歳の離れた弟殿だった筈だ 彼から話を聞いた時から 今となれば …13歳辺りか 武力に怯えるのはまだ仕方が無い」
シェイムが言う
「父は 私を警察長に 弟を警機隊長にと 考えていたらしいので いつかその地位に返り咲ける様 邁進いたします」
メルフェスが微笑して言う
「なるほどな… しかし、貴方方であるのなら もっと上へ辿り着けるかもしれない」
シェイムが疑問して言う
「もっと上 …と仰いますと?」
メルフェスが言う
「現行の政府の悪を征すると言う事は 政府の長を罰すると言う事になる それを成功させ 更には 政府その物を正して行くとなれば それはもう 政府警察の粋を越える事になる それでも行うと言うのならば 政府長の部下である 政府警察長の地位であっては難しい」
シェイムが考えながら言う
「確かに… 我々が目指す所は そう言った事になるとは思いますが 私が考えます所では 現行の政府の長を罰する事が出来れば 政府の長には新たな者が付く事となり それが誰になるかは 私には分かり兼ねる所ではありますが 私は… 我々は引き続き その地位に就く者の監視を行い 制するべき悪があれば 今回の様に動くべきかと」
メルフェスが言う
「現行の政府の長が落ちれば 次の長となるものは 私には想像が付く 順番は定かではないが その次やその次も当てがある だが それらの者が政府の長となるのでは 政府の悪は潰る事はない …私には それも分かっている」
シェイムが視線を強める メルフェスが目を伏せて言う
「従って… 私は今まで何も行っては来なかった 貴方の言った フレイスの願いを 私は見過ごし続ける事しか出来無かった …だが もし、貴方方が フレイスの… 彼と同じ思いを抱き続けると言うのなら …それは 既に 行える状態なのかもしれない」
シェイムが呆気に取られた後疑問して言う
「メルフェス様… そちらは?」
メルフェスが立ち上がって言う
「最も 全ては この作戦が成功してからでなければ 始まらないな?」
シェイムが言う
「もしや マスタートップシークレットの場所を?」
メルフェスが言う
「ああ、思い出した …あの時の全てをっ」
シェイムが立ち上がって言う
「ではっ 私も共に向かいます」
メルフェスが言う
「いや、私が1人で向かう」
シェイムが言う
「それは危険です!もし、万が一の時は 私がメルフェス様をお呼びしなければっ」
メルフェスが言う
「シィエム殿 貴方を連れて行く事は出来ない 貴方は大切なフレイスの息子だ 今回は完全な奇襲となる分 国防軍の1部隊などが構えている事は無いだろうが… 何が起きるかは行ってみなければ分からない」
シェイムが言う
「私の身に何があっても メイリス家にはフレイスの息子が居ます 貴方さえ無事であれば!」
メルフェスが苦笑して言う
「彼のみならず 彼の息子さえ守れなかったとなれば 私はもう…」
シェイムが言う
「私はメイリス家の長男とは言え 養子です ソロン・フレイス・メイリスの息子は ラミリツ・エーメレス・メイリスが唯1人です ですからっ!」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「シェイム殿… そのような事 フレイスが聞いたら悲しむ… いや、彼の友人である 私も同じだ それに その様な思いから 自分は臆病者ではないのだと言っていたのなら 尚更 私は貴方を連れて行くことは出来ない …恐れは弱さではなく 人に与えられた 生き延びる為の力だ」
シェイムが驚く メルフェスが微笑して言う
「お陰で私は今までを生き延びて来られた もし私が恐れを抱かずに彼の分まで目標を遂行しようと 強く在り続けていたのなら 私はとっくにマスタートップシークレットに関わった重役たちを 彼の仇として討ち取っていただろう …だが、それでは何も始まらない それでは… 彼の死を 無駄にしてしまうだけだ そして、記憶を封じ 怯え続けていたお陰で 今は フレイスの遺志を継いだ 貴方と共に戦える… 今度こそ 彼やメイリス家の貴方方の信念を 貫こう」
メルフェスがシェイムの手を取り その手にレコーダーの受信装置を置く シェイムが呆気に取られて言う
「これは…っ」
メルフェスが苦笑して言う
「臆病なフレイスに渡されていた物だ 私を監視していなければ また突然に 私が帝国へ寝返ったのだと勘違いして 自分は親友と共に逃げ出してしまうと… 帝国との和平条約を取次ぎに行ったあの後に …もっとも 当時はアールスローン国内で ナノマシーンを他者に操られるような事は無いだろうと また帝国へ向かうその日まで 預かっていたのだが 今回はアールスローン国内であっても 役立つかもしれないな?」
シェイムが苦笑して言う
「では… 父と同じく 私も臆病になって 貴方を監視していますので どうかご安心を」
メルフェスが頷いて言う
「ああ、それならば安心だ」

【 政府 マスタートップシークレット 施設入り口 】

施設の入り口にメルフェスが降り立つ 警備兵2人が驚き慌てるとメルフェスが言う
「皇居宗主 メルフェス・ラドム・カルメスだ 認証を」
警備兵が顔を見合わせる メルフェスがIDを取り出して言う
「どうした?政府長官や政府攻長と同じく 政府皇居宗主の命令だ 認証を済ませ 速やかに施設の入り口を開放しろ」

【 カルメス邸 】

シェイムがイヤホンを付け集中している イヤホンに警備兵の声が聞こえる
『は、はい… 失礼致しました カルメス皇居宗主 直ちに…』
シェイムが視線を細める

【 政府 マスタートップシークレット 施設入り口 】

施設の扉が開かれる メルフェスが言う
「お勤めご苦労」
メルフェスが施設へ進み入る 警備兵たちが敬礼して見送った後 顔を見合わせる 施設の扉が閉まる メルフェスが通路を進む イヤホンからシェイムの声が聞こえる
『メルフェス様 警備のID認証の情報から ユラ・ロイム・攻長へ伝わるのは 遅くとも3分掛かりません』
メルフェスが言う
「少し急ぐか…」
メルフェスが能力補佐を使って瞬時に移動する

【 政府 マスタートップシークレット 】

メルフェスが扉を見上げてから 生態識別センサーを見て パネルに手の平をつける モニターにメルフェスの名前が表示され扉が開き 内部に装置が見える メルフェスが目を細め 能力補佐を使って瞬時に移動する

【 政府本部 長官室 】

ユラがデスクの椅子に座り資料を見ていると内線電話が鳴る ユラがボタンを押すと 秘書の声が聞こえる
『攻長閣下 アース・メイヴン・ハブロス様がお見えになりました 第1応接室へお通し致します』
ユラが言う
「分かった すぐに向かう」
ユラが立ち上がって言う
「しばらく頼んだぞ?ルイル」
ルイルが言う
「どちらの役をですか?兄上?」
ユラが歩きながら言う
「必要とあれば どちらもだ 私はハブロス殿と話を進めておく 我々政府の駒となる 国防軍総司令官の入れ替えに付いてな?」
ユラが笑う ルイルが言う
「私はそんな事よりも 早く研究局へ戻りたいのですが…」
ユラが言う
「国防軍を傘下に収めるまでは 仕方が無い 今は我慢して 政府の攻長や長官の任を果たせ」
ルイルが苦笑して言う
「はい 兄上」
ユラが部屋を出る

【 政府本部 応接室1 】

アースが念を押して言う
「良いかっ?エルム少佐っ!今度は 絶・対・にっ! 余計な事を 言うなっ!」
エルムβが言う
「『無理だな』」
アースが衝撃を受けてから気を取り直して言う
「特に 前回のような 『嘘だな』 と言う言葉は 言うんじゃないっ 命令だっ!」
エルムβが言う
「『無理だな』」
アースが怒って言う
「『無理だな』も言うんじゃないっ!命令…っ」
エルムβが言う
「『無理だな』」
アースが衝撃を受け 怒りを押し殺してから言う
「ならばっ!部屋の外で警備をしろっ!命令だっ!」
エルムβが間を置く アースが脱力して言う
「『無理だな』か… もう良い 分かっ…」
エルムβが言う
「『そうだな』」
アースが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
エルムβが部屋を出て行く アースが呆気に取られて言う
「エルム少佐が… 私の命令を 聞いた…?」
エルムβがドアを閉める アースが疑問して言う
「いや、しかし エルム少佐は 命令を受託した時には 『了解』 と言う筈だ… と言う事は?」

【 政府本部 応接室1 室外 】

エルムβがドアを閉め 左右を確認してから目を細めて言う
「『ターゲットを確認』」
エルムβの視線の先 ユラが歩いて向かって来る

ユラの携帯が鳴る ユラが疑問して立ち止まり携帯を着信させて言う
「私だ」
携帯から部下の声が聞こえる
『攻長閣下っ 大変です!マスタートップシークレットに カルメス皇居宗主が!』
ユラが驚いて言う
「何っ!?奴の記憶が 戻ったのかっ!?」
携帯から部下の声が聞こえる
『分かりませんっ!しかし 間違いなく マスタートップシークレットへの認証を済ませています!』
ユラが言う
「分かったっ!すぐに向かうっ!兵を集めろっ!それから 政府本部の正面へ 緊急車両を回せっ」
ユラが走り去って行く

エルムβが目を細めて言う
「『ターゲットの逃走を確認』」

【 政府本部 外 】

ユラが走りながら携帯に言う
「応接室へ待たせている ハブロス殿へ 急用が出来たと伝えておけ!後日改めて連絡をすると!」
ユラの前に緊急車両が到着し ユラが乗るとすぐに出され 政府本部の出入り口を出て行く それを見ていたエルムが 寄り掛かっていた壁から背を離し 車道へ歩いて行く タクシーがギリギリで止まり ドライバーが叫ぶ
「こらー!危ないだろう!死にたいのかー!?」
エルムが視線を向けないで言う
「問題ない 何度でも蘇る」
ドライバーが呆気にとられて言う
「はぁ…?」
エルムがタクシーの後部座席に乗り込み言う
「だが お前はそうは行かない あの緊急車両を追え …”命令だ”」
エルムがM82をドライバーの後頭部へ向ける ドライバーが衝撃を受け慌てて叫ぶ
「ぎゃぁあっ!わ、分かったーっ!御命令の通りにー!」
タクシーが緊急車両を追う

【 政府本部 応接室1 室外 】

秘書が言う
「ご足労を頂きました所 真に申し訳御座いません 後日 改めて 連絡を差し上げるとの事に御座います」
ドアが開かれ アースが言う
「急な用が入ったのでは 仕方がありません 御連絡をお待ちしていますと お伝え下さい」
秘書が頭を下げている アースが外へ出て振り向くと エルムβが居る アースがエルムβを見てから 疑問して言う
「攻長閣下は 長官室に在席しているとの 話だったのだが…?」
エルムβが言う
「『接近を確認した』」
アースが反応して言う
「うん?攻長閣下を お見かけしたのか?」
エルムβが言う
「『接近を確認した』」
アースが言う
「それなのに 急に会談を中止したとは…?そもそも用件は 政府や国防軍に関する話だ これを差し置いての急用など…」
エルムβが沈黙している アースが怪しんで言う
「…何か知っているな?エルム少佐?」
エルムβが沈黙している アースがハッとして言う
「あっ!まさかっ!」
アースがエルムβの頬をつねって言う
「攻長閣下へ また余計な言葉を 言ったんじゃないだろうなっ!?『嘘だな』 とか 『不要だ』 とか 『値しない』 とか!」
エルムβが言う
「『言っていない』」
アースが言う
「本当かっ!?」
エルムβが言う
「『言っていない』」
アースが言う
「本当だなっ!?」
エルムβが言う
「『言っていない』」
アースが首を傾げて言う
「では… 一体何があったのか…?」
エルムβが黙る アースが疑問しながら歩き出す アースとエルムβが立ち去る

【 政府 マスタートップシークレット 】

メルフェスが装置のパネルへ手を付ける 装置が起動し メルフェスが装置に表示された文字を見て目を細めて言う
「マスターブレイゼスが マスターの名を持つ者へ残すとした メッセージが表示された」
イヤホンにシェイムの声が聞こえる
『メッセージの内容は?』
メルフェスが間を置いて言う
「『私を信じて欲しい』 …と」
イヤホンにシェイムの声が聞こえる
『…罠かもしれません 他には?』
メルフェスが言う
「後は操作方法が」
イヤホンにシェイムの声が聞こえる
『操作方法?それは… …っ!』
メルフェスが言い掛ける
「それは」
イヤホンにシェイムの声が聞こえる
『メルフェス様っ 政府本部から緊急車両が出たとの連絡がっ 恐らく ユラ・ロイム・攻長です!警備の兵だけでなく 警機へも連絡が入ったとの事ですっ!時間がありません!装置の爆破を 急いで下さい!』
メルフェスが言う
「そちらは間に合う だが… このメッセージが正しければ 政府によるナノマシーンの実験を 全て停止させる事が可能かもしれない」
イヤホンにシェイムの声が聞こえる
『しかしっ マスターブレイゼスは 過去にメルフェス様をっ!』
メルフェスがメッセージの言葉を見て目を細める イヤホンにシェイムの声が聞こえる
『メルフェス様っ!』
ユラの声が聞こえる
「そこまでだ カルメス皇居宗主」
メルフェスが顔を上げ 出入り口に立っているユラを見る 警備の兵が続々と集まる

【 カルメス邸 】

シェイムが慌てて言う
「メルフェス様っ!」
イヤホンにユラの声が聞こえる
『記憶が戻ったのか… この場所へ来られたのだからな?』
イヤホンにメルフェスの声が聞こえる
『ああ 全て思い出した』
イヤホンにユラの声が聞こえる
『その上で 私の下へではなく この場所へ来たと言うのは?やはり 貴方を操る事の出来る この装置を破壊しようと?』
イヤホンにメルフェスの声が聞こえる
『フレイスの仇を取るのは その後でも良いと思ってな この装置は 私だけでなく アールスローンに住まう全てのマスターたちにとって 脅威に』

【 政府 マスタートップシークレット 施設外部 】

通信イヤホンのチャンネルが変えられる 通信イヤホンからメルフェスの声が聞こえる
『脅威になる それを破壊する間位なら 彼も待っていてくれる筈だ』
エルムがイヤホンを装着し M90をセットして タクシーのボンネットの上に腰掛けている ドライバーが怯えている イヤホンからユラの声が聞こえる
『残念だが そうはさせない カルメス皇居宗主 貴方には そろそろ…』
エルムがマスタートップシークレットの出入り口へ視線を向ける

【 政府 マスタートップシークレット 】

警備兵たちがメルフェスへ銃を構える メルフェスが軽く息を吐いて言う
「私に銃は利かない… いや 間に合わない それは知っているだろう?」
ユラが言う
「もちろん …だが、貴方のその能力を 弱める事が出来る… この装置を使えばっ」
ユラが研究局局員へ視線を向ける 局員たちがスイッチを入れる メルフェスが視線を強め 装置のパネルの横に置いていた手の指を押し付ける 指の下にあった針がメルフェスの指に刺さる モニターにメッセージが表示される メルフェスが驚く

【 カルメス邸 】

イヤホンにメルフェスの悲鳴が聞こえる
『ぐ…あぁあーっ!』
シェイムが慌てて言う
「メルフェス様っ!」
メルフェスが密かに言う
『…大丈夫だ』
シェイムが呆気に取られて言う
「…えっ?」
イヤホンにメルフェスの悲鳴が聞こえる
『あぁーっ やめろーっ!』
シェイムが思わず立ち上がる イヤホンにユラの声が聞こえる
『かまわんっ!以前と同様に 出力を最大まで上げろ!』
イヤホンにメルフェスの悲鳴が聞こえる
『あぁあーーっ…』
シェイムが目を見開き叫ぶ
「メルフェス様っ!?」
シェイムが慌てて走り 部屋を飛び出して行く

【 政府 マスタートップシークレット 】

メルフェスが倒れている 警備兵が様子を伺い 振り返って言う
「意識を失ったようです」
ユラが言う
「出力を下げる前に 手足を拘束しろ」
警備兵が言う
「はっ」
警備兵たちがメルフェスを拘束する ユラが頷き言う
「よし 装置を止めて良い」
局員たちが頷き装置のスイッチを切る ユラが軽く息を吐いて言う
「…意外と呆気なかったな」
局員たちが装置を確認して言う
「攻長閣下 装置に爆薬が取り付けられています」
ユラがハッとして慌てて言う
「なに!?解除は可能か!?慎重に行え!」
局員たちが言う
「はいっ」
ユラがホッとして言う
「危ない所だった… だかこれで カルメス皇居宗主の野望は潰えた… これ以上は 何もなかったと考えて良いものか?…そうだな マスターとは言え 知能補佐の能力を持っている訳では無いんだ 深読みする必要も…」
ルイルが来て言う
「兄上っ!?」
ユラが振り返って言う
「ああ、心配を掛けたな 装置は無事だ カルメス皇居宗主を 捕らえる事にも成功した」
ルイルがホッとして言う
「そうでしたか 知らせを聞いた時には焦りました この装置にもしもの事があったら 折角のマスター狩りも 無意味になりますから」
ユラが言う
「そちらは上手く行っていないと聞いたが?」
ルイルが苦笑して言う
「流石と言いましょうか どちらの能力者とあっても マスターを捕らえる事は難しいのでしょう 我々がマスターを狙っているという情報も 既に彼らへは伝わっている様子で 先手を打たれている状態です」
ユラが言う
「そうか… まぁ 致し方ない カルメス皇居宗主もこの装置の下に 自ら来てくれたお陰で 捕らえる事が叶ったと言うものだ 屋敷の見張りに付けていた警備らは 彼が屋敷を出た事にさえ 気付いてはいなかった」
ルイルが言う
「兄上 彼はどうするおつもりで?」
ユラが言う
「どうすると言われてもな 我々政府の秘密を知り過ぎているマスターだ 生かしておく訳には行かない」
ルイルが言う
「では その前に…?」
ユラが苦笑して言う
「ああ、構わないが くれぐれも手足の拘束は外すなよ?逃げられたら 次は捕まえられないぞ」
ルイルが苦笑して言う
「分かってます しかし、実験が成功すれば その必要も無くなります 彼とは違い …マスターブレイゼスは 身体補佐能力ではなく 知能補佐能力に優れたマスターですから」
ユラが微笑して言う
「そうだったな …よし カルメス皇居宗主を 実験室へ連れて行け」
警備兵たちが言う
「はいっ」
警備兵たちがメルフェスを運ぶ ルイルとユラが続く

【 政府 マスタートップシークレット 施設外部 】

シェイムの頭に銃口が突きつけられる シェイムが地に着けられている顔を起き上がらせ 視線を強めて言う
「離せっ!私はっ!」
エルムがシェイムを踏み付けていて言う
「作戦の途中だ 邪魔をするな」
シェイムが言う
「何っ!?」
エルムが言う
「マスターシュレイゼスが お前へ伝えた言葉を 忘れたか?」
シェイムが驚いて言う
「な、何故その名を…っ!?お前は一体 何者だっ!?」
エルムが言う
「私は 悪魔の兵士だ」
シェイムが驚いて言う
「え…っ?」
エルムが視線を変えて言う
「”もう用済みの悪魔の兵士” …だ」
シェイムが衝撃を受けて言う
「…よ …用済みの?」
エルムとシェイムのイヤホンに ルイルの声が聞こえる
『よし 実験を開始する』
エルムとシェイムが施設の出入り口へ顔を向け シェイムが意を決して向かおうとするとエルムに踏み付けられ シェイムが言う
「ぐっ!は、離せっ!メルフェス様ーっ!」

【 政府 マスタートップシークレット 】

メルフェスが意識を失っている様子で実験椅子に拘束されている ルイルがナノマシーンの注入された注射器を手に持ち見る ユラが振り向いて言う
「それが マスターブレイゼスのナノマシーンか」
ルイルが言う
「これの他に 装置に使っている分と 後1回… 無駄遣いはしたくないですが これで成功さえしてくれれば…」
ルイルがメルフェスの腕に注射針を刺し ナノマシーンの入った液を押し入れる ルイルとユラがメルフェスを見る メルフェスが僅かに苦しんで言う
「う…っ」
ユラが言う
「元々ナノマシーンを使いこなしていたマスターだ これで駄目なら…」
ルイルが言う
「失敗であれば その理由を解明する為の 実験体にはなってくれます」
ユラが言う
「そうだな」
メルフェスが意識を取り戻した様子でゆっくり目を開いて 辺りを視線で見渡す ユラが言う
「意識を取り戻した」
ルイルが言う
「さぁ… どうだっ!?」
メルフェスが視線を細めて言う
「お前たちは… 誰だ… …ここは 私の…」
ユラが驚く ルイルが喜んで言う
「マスターブレイゼスっ!分かりますかっ!?そうです!ここは 貴方の実験室です!」
メルフェスが言う
「では お前たちは 誰だ 何故 ここに居る?」
ルイルが言う
「私たちは 貴方を復活させる為に ここに居ります!貴方は他のマスターや 国防軍に裏切られ 殺されてしまったのです!ですから 我々が 貴方のナノマシーンを 新たな体に!」
メルフェスが自分の体を見て言う
「そうか… では お前たちは 私の道具と言う事か 無知で無能なアールスローンの民よ お前たちは 私の命に従え」
ユラが不満げに言う
「ルイル… 大丈夫なのか?」
ルイルが言う
「これこそ マスターブレイゼス!彼は己の天才さ故に 我々アールスローンの者を卑下していたと!兄上 大丈夫です!アールスローンに住まうマスターたちの中に この様なものは居ません!」
メルフェスが言う
「何をしている?作業を終えたのなら さっさと私を開放しろ その程度の事も 分からないのか?…屑がっ」
ユラが表情を顰め銃を向ける ルイルが慌てて言う
「兄上っ!?」
ユラが言う
「念の為だ …拘束を解け」
ユラが周囲の者に視線を向ける 警備兵たちがメルフェスの拘束を解く ユラや皆がメルフェスを見る メルフェスが気だるそうに立ち上がると 周囲を見渡して言う
「さて… まずは何をしてやるか…」
ルイルが言う
「マスターブレイゼス 聞いて下さいっ 貴方が作られた マスターを操るあの機械には 欠陥があります!」
メルフェスが視線を細めて言う
「何だと…?」
ルイルが言う
「嘘ではありませんっ!あの装置で洗脳されたマスターは 己の名を呼ばれるだけで 洗脳が解かれてしまうのです!」
メルフェスが苦笑して言う
「ふっ… 愚かな それは欠陥などではない 最初から そのように作っておいたのだ …貴様ら 愚かなアールスローンの民に 私の仲間であるマスターたちが 操られる事の無い様にとな?」
ルイルが言う
「マスターブレイゼス マスターたちは 貴方を仲間だとは思っていません!だから 貴方は殺されてしまったのです!貴方のナノマシーンは それを覚えている筈です!」
メルフェスが記憶を呼び覚ますように軽く頭を押さえる ルイルに続きユラが見つめる メルフェスが言う
「…そうだ 私は 裏切られた …仲間だと信じていた 奴らにっ …クッ」
メルフェスが表情を怒らせ歩き出す ユラが慌てて言う
「何処へ行くっ!?」
メルフェスが歩きながら言う
「装置を改良する 私を裏切れば… どうなるのかを 知らしめてくれるっ!」
ユラが向けていた銃を下ろす ルイルが言う
「兄上!実験は大成功です!行きましょう!」
ルイルが走って向かう ユラが息を吐いてから言う
「成功は成功かもしれないが… 扱い辛そうだな」
ユラが向かう 警備兵たちが続く

【 政府 マスタートップシークレット 施設外 】

シェイムが必死に言う
「シュレイゼスっ!マスターシュレイゼス!応答をっ!…くそっ お前が邪魔をしたせいで!メルフェス様がっ!」
シェイムが振り返ってエルムへ凄む エルムが言う
「問題ない」
シェイムが一瞬呆気に取られてから怒って言う
「何処が 問題ない と言うのだっ!メルフェス様の身に マスターブレイゼスのナノマシーンが取り入れられ!洗脳所か名を呼ばれても 覚醒が出来なくなってしまった!」
エルムが言う
「問題ない」
シェイムが呆気に取られてから 怒って言う
「これの何処が 問題ないと言うんだっ!答えろっ!」
エルムがシェイムへ向いて言う
「本当に意識や体を支配されているのなら お前の騒がしい通信にはすぐに気付き 無線機を取り外す」
シェイムが驚いて言う
「な…っ そ、それでは!?」
エルムが言う
「僅かではあるが 発声にブレがある それを隠す為 言葉の抑揚を強めている …マスターシュレイゼス 上出来だ そのまま作戦を遂行しろ」
シェイムが呆気に取られる

【 政府 マスタートップシークレット 】

マスタートップシークレットの入り口 生態識別パネルへ手を付いていたメルフェスが 密かに口角を上げる 扉が開く ユラとルイルが後方に居る メルフェスが振り返らずに言う
「お前たちは そこに居ろ 私の装置に触れるな」
メルフェスが進み入る ユラが不満そうに言う
「1人で行かせて 大丈夫かなのか?」
ルイルが苦笑して言う
「心配ありません 兄上 装置へ取り付けられていた爆薬は外しました それに あの装置のシステムを 知能補佐能力を持ったマスターならともかくとして その他の者が操作した所で 装置の改良はもちろん 逆にメチャクチャな操作をして おかしくしてしまおう等と言う事も出来ません 私とて マスターブレイゼス程ではなくとも 頭は回ります 素人が考えそうな事位 考え付きますよ?」
ユラが不満そうに言う
「あれが演技だとしたら 普段のカルメス皇居宗主からは想像出来ないが… まぁ 演技ならもちろん 装置を狂わせる事も出来ないと言うのなら 奴に逃げられる心配はあっても 装置を壊される心配は もう無いか」
ルイルが言う
「そう言う事です」
ユラとルイルが視線を向ける 視線の先 メルフェスが装置の操作パネルに手を付いてから 操作盤を僅かに操作して言う
「完了だ」
ユラとルイルが驚き ルイルが言う
「も、もう…っ?」
メルフェスが出入り口へ向かいながら言う
「お前たちは これで何を得るつもりだ?…全てを牛耳る力か?私を蘇らせ 私に… マスターブレイゼスに 何をさせたかったのか?」
ユラが微笑して言う
「力… そうだな?我々の望みは  武力 財力 権力 全てだ!演技はお仕舞いか?カルメス皇居宗主 惜しかったな?嘘でも 操作の時間はもう少し長くするべきだった 途中までは 私も半信半疑だったが」
メルフェスが微笑して言う
「それなら結構 全ては嘘だったが 逆に操作時間の方は 嘘ではない」
ユラが驚いた後 苦笑して言う
「言い逃れか?見苦しいぞ 知能補佐能力ではないマスターのお前では あの装置は操作出来ない筈だ …まさか まだ 爆薬でも隠し持っていたと?」
メルフェスが言う
「そうではない 力をお借りしたのだ …我らマスターの仲間である マスターブレイゼスの力を」
周囲に警報が鳴り アナウンスが響く
『自壊システム作動 自壊システム作動  マスタートップシークレットは自壊します 施設内に居る者は 直ちに施設から避難して下さい 自壊システム作動 自壊システム作動  マスタートップシークレットは自壊します 施設内に居る者は 直ちに施設から避難して下さい 』
ユラとルイルが驚き 警備兵たちが慌てて顔を見合わせる メルフェスが言う
「早く避難をするのだな?最も?私とは異なり 鈍間なお前たちで 間に合うと良いのだが?っはははっ!」
ユラが驚く ルイルが装置へ駆け向かい 操作をしてから言う
「駄目ですっ 兄上っ こちらからの一切の入力を受け付けません!」
ユラが怒って言う
「おのれぇえっ!」
ユラがメルフェスへ次々と銃撃する メルフェスが最小限の動きで回避して言う
「当たらないと言っているだろう?お前は 止まって見えるものに 当たる事があるのか?」
ユラが呆気に取られて言う
「と、止まって 見える… だと…っ!?」
アナウンスが響く
『自壊システム作動 自壊システム作動  マスタートップシークレットの自壊まで 残り20秒 自壊システム作動 自壊システム作動  マスタートップシークレットの自壊まで 残り18秒 17 16…』
警備兵たちが驚き 慌てて逃げ出す ユラが驚く ルイルが悔やんでから逃げ出して言う
「兄上っ!急いで下さいっ!」
ユラが驚きメルフェスを見る メルフェスが苦笑して言う
「危なくなったら拾ってやる それまでは 自分の足で精一杯逃げるのだな?」
ユラが言う
「くっ!覚えていろっ!」
ユラが逃げる メルフェスが軽く笑って言う
「いつかも聞いた台詞だが その誰かとは違い お前の事は忘れる筈が無い… フレイスの仇だ しっかりと罪を償わせてやる」
アナウンスが響く
『10秒前 8 7 6…』
メルフェスが能力を使って移動する

【 政府 マスタートップシークレット 施設外 】

施設外に警機隊員たちが待ち構えている エルムが遠目に見て言う
「警機の1部隊が到着した 現在設備出入り口前を包囲している 作戦の成功は見えている よって 我々は先んじて撤退する」
無線イヤホンにメルフェスの声が聞こえる
『了解です …エルム少佐』
シェイムが驚いて言う
「エルム少佐…?何処かで聞い…た…?なぁあっ!?エ、エルム少佐っ!?まさかっ!?」
シェイムが慌てて振り返る シェイムの向けた視線の先にエルムは居なく エルムが車に乗っていて言う
「乗れ お前もここに居ては 達成ランクの低下をもたらす」
シェイムが呆気に取られて言う
「た… 達成ランクの低下?…あっ いやっ そうではなくてっ!」
エルムが車のエンジンを掛ける シェイムが慌てて言う
「何故貴方がこの車にっ!?」
エルムが言う
「お前を拘束している間に 待機させていたタクシーが撤退した 代わりにこちらを使用する」
シェイムが運転席へ駆け寄って来て言う
「この車は私の車ですっ!」
エルムが言う
「問題ない 早く乗車しろ シェイム・トルゥース・メイリス」
シェイムが慌てて助手席へ乗り込んで言う
「問題は山積していますがっ …まず貴方は 何故ここにっ!?」
エルムが言う
「出動しておきながら 作戦に参加出来なかった 奴は… ヴォール・アーケスト・ハブロスの仇でもある」
シェイムが驚く エルムが言う
「従って 別の作戦を構築する」
車が急発進する シェイムが慌てる

爆発が起きる

ルイルが地面に下ろされる メルフェスが後方を振り返ると 施設が炎上している 警機隊員たちが呆気に取られつつも慌てて武器を構え直す メルフェスが視線をユラへ向けて言う
「今日の出来事は 全て音声にて記録してある 過去も同じく… 後日 お会いしよう ユラ・ロイム・攻長」
メルフェスが微笑すると警機隊員たちの前を堂々と立ち去る 警機隊員たちが困惑する

【 街道 】

車道の路肩に車が止まっている 運転席に座っているシェイムがマスタートップシークレットの炎上を遠目に見ている 後部座席でエルムが寛いでいると メルフェスの声が聞こえる
「お待たせを致しました エルム少佐 シェイム殿」
シェイムが慌てて振り向くと 運転席の窓越しに メルフェスが微笑する シェイムが言う
「メルフェス様っ お体はっ!?」
メルフェスが言う
「大丈夫だ マスターブレイゼスのナノマシーンを注入される以前に それを無効化するデータを 取り入れていたのだ 彼から残されたメッセージを信じて」
シェイムが呆気に取られてから苦笑して言う
「ご無茶な事を… それがもし マスターブレイゼスの罠であったなら」
エルムが言う
「終わりだな」
シェイムが衝撃を受ける メルフェスが軽く笑って言う
「はははっ お変わりありませんね?エルム少佐?」
エルムが横目にメルフェスを見て言う
「お前は老けたな マスターシュレイゼス」
メルフェスが苦笑して言う
「私が少佐にお会いしたのは 31年も昔です 老けるのは当然でしょう?…むしろ あの頃と全くお変わりない エルム少佐の方が やはり不思議ですが?」
エルムが視線を逸らして言う
「新しい人形が 用意出来たと報告を受け 古い者から入れ替えていたら 私も入れ替わっていた」
シェイムが衝撃を受けて言う
「え…っ?」
シェイムが怯える メルフェスが苦笑して言う
「は… 肌寒いお話ですね?そちらは… ご冗談で?」
エルムが間を置いて視線を向けて言う
「…そうだな」
シェイムがホッとする メルフェスが苦笑する メルフェスが車に乗る 車が発車する

【 カルメス邸 近くの道 】

車が止まり メルフェスとエルムが降りる メルフェスがシェイムへ向いて言う
「では また明日」
シェイムが言う
「はい 準備を整えておきます」
メルフェスが頷くと車が発車する メルフェスがエルムを見て微笑して言う
「エルム少佐 ご協力を感謝致します」
エルムが言う
「私は何もしていない 礼は不要だ」
メルフェスが苦笑して言う
「シェイム殿をお守り頂きました」
エルムが言う
「奴の戦力では 施設の門前にて警備兵に阻まれ  どの道 お前の下へは辿り着けなかった 結果 作戦に支障は無かった」
メルフェスが言う
「しかし、そのシェイム殿が無事であり 彼が私を呼び続けてくれたお陰で 私は演技を続ける事が出来ました 私は やはり臆病です 1人では 何も出来ません 貴方とは違って」
エルムが言う
「私は 1人で作戦を遂行した事は無い」
メルフェスが呆気に取られて言う
「え?」
高級車が一台到着する メルフェスが顔を向ける エルムが数歩高級車へ向かってから立ち止まって言う
「マスターシュレイゼス 元国防軍の従軍者として 礼を言う 国防軍在席であった マスターたちの警護を行っているのは お前たちだろう」
メルフェスが微笑して言う
「国防軍の方で有ろうと無かろうと マスターの名を持つ者は 同じくマスターの名を持つ 私の仲間です お礼は不要です エルム少佐」
エルムが言う
「そうだな」
メルフェスが軽く笑んで言う
「しかし、エルム少佐からそう仰って頂けた事は とても嬉しく思います 引き続き どうかそちらは我々へ お任せ下さい」
エルムが言う
「問題ない」
エルムが高級車へ向かう メルフェスが微笑して言う
「有難う御座います」
執事がドアを開ける エルムが言う
「お前たちの作戦を 優先させる …従って マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスの警護は 引き続き 私が行う」
メルフェスが軽く驚いて言う
「彼女には 以前から警護の者を…」
エルムが言う
「政府警察機動部隊に置いても 国防軍レギスト機動部隊と 競合出来る部隊が存在する 政府警察特殊機動部隊 通称 メイリス部隊 元はメイリス隊長が結成した部隊だった」
メルフェスが驚く エルムが言う
「現行は その隊長が変えられた故か 戦力は当時の半分以下だ それでも 通常の警護などでは 5秒と持たない」
メルフェスが慌てて言う
「彼女はっ!?」
エルムが言う
「問題ない 次に襲撃を受ければ お前へ連絡を行う」
エルムが高級車に乗り込む ドアが閉められ執事がメルフェスへ礼をしてから車に乗り込み発車する メルフェスが見送りホッと微笑して言う
「有難う御座います エルム少佐… 共に ラゼル様」
メルフェスが立ち去る

【 車内 】

エルムが言う
「わざわざ来ていながら 何故 挨拶をしなかった?軍曹」
ラゼルが微笑して言う
「自分は お元気そうな マスターシュレイゼス殿を見られただけで 満足であります 少佐」
エルムが言う
「足が痛むのだな」
ラゼルが衝撃を受け苦笑して言う
「ほっほっほっ 流石少佐であります 自分の嘘は すぐに気付かれてしまうのであります」
エルムが言う
「君を知る者ならば 誰であっても分かる事だ」
ラゼルが苦笑して言う
「そうではあられても その自分の下へ マスターシュレイゼス殿をお連れになられなかった事は 少佐ならではの お心遣いであられます 有難う御座います 少佐」
エルムが言う
「何の話だ?」
ラゼルが笑う
「ほっほっほ…」
エルムが言う
「車から降りる事も億劫であるのなら その君が 私のデコイの迎えになど 行く必要は無い 何度言えば実行するつもりだ?軍曹」
ラゼルが微笑して言う
「少佐は自分をお守り下されているのに 自分は少佐と共に戦う事は もう出来ないのであります そうとあれば せめて 少佐のお迎えだけは 自分が行きたいのであります」
エルムが言う
「デコイはその名の通り 囮だ 君が迎えをするなら 本体である私だけで十分だ」
ラゼルが微笑して言う
「自分の我侭であります どうかお許し下さい 少佐」
エルムが顔を逸らして言う
「ふん…っ」
ラゼルが軽く笑う エルムが言う
「それで?昨日壊れたデコイの代わりは どうなっている?この車は その帰路の途中だ 君の護衛に付けている そいつの他に もう一体のデコイは 現在 我々と同じく この車内に居る …筈なのだが?」
エルムが周囲を伺う ラゼルの横にエルムβが1体居る エルムがそれを確認して更に周囲を見渡し疑問する ラゼルが笑ってから言う
「ほっほっほ 自分は少佐と もう50年以上を共にしておりますが 少佐のその様なお顔を拝見するのは 初めてであります」
エルムが表情少なく首をかしげて言う
「不可解な状態だ 確かに 新たなデコイの視界は確保されている だが その他の感覚が著しく低い 視界の情報から この車内にいる事は明確だ その視界情報から 更に割り出される その位置は…」
エルムが顔を向け 視線を下げる ラゼルの膝の上に エルムによく似た小さな人形が抱かれている ラゼルが笑って言う
「流石は少佐であります 伊達に60年以上 ご自分の他 10体のご自分と 共に在られただけの事はあります」
エルムが視線を細めて言う
「単純にして 明確な説明を 要求する 先行して こいつは何だ?軍曹」
ラゼルが微笑してエルムの人形を抱き上げて言う
「はっ 少佐  まず こちらが何かと言う ご質問に対しまして… 一言で言ってしまいますと こちらは少佐をモデルとした 人形であります」
エルムが言う
「それで?」
ラゼルが苦笑して言う
「自分は昔から 少佐やその周囲に居る者が 少佐や少佐の小隊隊員たちを 人形と呼ぶのが とても嫌いであります しかし、アークを始めとして 孫のメイヴィンでさえ 自分の頼みを 聞いてはくれないのであります 従って 一度 本物の少佐の人形 と言うものを作ってみてはどうかと…」
エルムが言う
「それで?」
ラゼルが苦笑して言う
「とは言いましても 自分もまさか その本物の人形に 少佐の意識をお繋ぎしようなどというつもりは 一切無かったでのあります 少佐の小隊隊員たちとの 違いが分かりますように 自分の部屋にでも そっと置いておこうかと…」
エルムが言う
「それで?」
ラゼルが楽しそうに エルムの人形を弄びながら言う
「想像していた以上に 実に良い出来であります!少佐のお持ちの 愛らしさと冷徹さ それで居て 何とも 1人に置くには お可哀想に思える この悲壮感がまた…」
エルムが僅かに表情を顰めてから言う
「軍曹 意識が繋がれている以上 私はそいつが 何をされているのかを 実体感として把握している 従って …無用に触れるな」
ラゼルが苦笑して言う
「申し訳ありません 少佐」
エルムが言う
「それで?」
ラゼルが言う
「国防軍からマスターが一掃されてしまったお陰で マスタートップシークレットの維持にも 少々影響が出ているとの事で 一時的に マスタートップシークレットの管理権を 自分が受け持つ形へ変更して参りました これで 自分が個人的に繋ぎ置いていたマスターの彼らを 再び担当へ当てる事が出来るのであります 以降の心配はございませんので ご安心下さい 少佐」
エルムが言う
「了解 手間を掛けさせたな 軍曹 礼を言う」
ラゼルが苦笑して言う
「少佐からお礼など… 自分は既に 少佐へは お返ししきれないほどの ご恩を頂いておりますので 自分に出来る事がありましたら 何なりとであります 少佐」
エルムが言う
「了解 では 軍曹」
ラゼルが言う
「はっ 少佐」
エルムが言う
「説明の最中 抜け落ちた 重要箇所の補填を 頼みたい …何故 本物の人形に 私の意識が繋がれている?」
ラゼルが苦笑して言う
「そちらは 抜け落ちた訳ではないのでありますが 順序的に後になってしまっただけでありまして」
エルムが言う
「それで?」
ラゼルが苦笑して言う
「はっ それでは先んじて結論を申しますと マスターの名を持つ管理担当の者が脱退していた為 改めて 少佐の小隊隊員となられる者を目覚めさせるのに 2、3日の時間が掛かってしまいますが 恙無く完了出来るとの事であります」
エルムが言う
「了解 では 2、3日後には 壊れたデコイの代わりに 新たなデコイを用意出来ると言う事だな」
ラゼルが言う
「はっ そうでありますっ少佐」
エルムが言う
「では最後に 単純にして 明確な説明を要求する …この現状は 何だ?何故 その2、3日を待たずに 私の意識を それへ繋いだ?こいつを君の部屋へ置く事で 本体の私を 屋敷から追い出したいと考えたのか?そうならそうと…」
ラゼルが苦笑して言う
「少佐 自分が少佐を追い出したいなどと 考える筈が在りません 少佐は自分の上官にして 書類の上でも 意識の上においても 自分の息子と同等であります そして 更に申します所 この人形に少佐の意識をお繋ぎしたのは 少佐がお寂しくないようにと… 自分はそう考え 指示を出したのであります」
エルムが僅かに目を細めて言う
「私が 寂しくないように とは何だ?」
ラゼルが微笑して言う
「少佐は とても 寂しがり屋であります それは当然 少佐が制御を受けらておられる感覚の中において 喪失を感じる部分は 唯一その制御が外されている 感覚であります ですから自分は…」
エルムが言う
「何の話だ?」
ラゼルが苦笑して言う
「それに 少佐は いつも仰るではありませんか?”音が1つでも足りなければ 曲が完成しない” と」
エルムが言う
「何の話だ?」
ラゼルが笑って言う
「ほっほっほ 少佐は 寂しがり屋なだけでなく、意地っ張りでもあります」
エルムが言う
「何の話だ …だが 礼を言う 軍曹」
ラゼルが驚いてから微笑して言う
「少佐… はっ!どういたしましてであります!」
エルムがラゼルに抱かれていた人形を取って言う
「作戦を開始する」
ラゼルが衝撃を受けて言う
「はぇっ!?」

【 マリの部屋 前 】

雨の中 マリが傘をさし マンション前に帰って来て 気が付いて言う
「あら?」
マリの視線の先 エルムの人形が座っている マリが近付いて言う
「あらあら… 可愛いお人形さん 小さな鉄砲を持って 一体何と戦うのかしら?うふふっ」
マリがエルムの人形を抱き上げて言う
「誰かの落し物かしら?雨の中じゃ 濡れちゃって可哀想なのに…」
マリが周囲を見渡してから エルムの人形を見て微笑して言う
「小さな兵士さん?私のお部屋で 雨宿りしましょうか?」
マリがエルムの人形を持って部屋へ向かう エルムβが身を隠してそれを確認して言う
「『作戦成功』」

【 車内 】

エルムが言う
「作戦成功だ これで警備を強化出来る 上出来だ 軍曹」
ラゼルが苦笑して言う
「流石少佐であります」
高級車がハブロス家の敷地に入って行く


to be… アールスローン戦記外伝 アールスローン真書
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