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1章 最強のウィザード様

嗚呼、私のウィザードさま 「審査結果」

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控え室

ノックが響き マリアがドアを開けながら言う
「失礼します ウィザード様」

レイが顔を上げ微笑して言う
「マリア」

マリアが近くへ来ると レイが座っているソファで身を寄せて言う
「はい、マリア!」

マリアが苦笑してから言う
「あ、はい では… 失礼します」

マリアが思う
(きっと また… 抱き付かれちゃうだろうけど 立っていられない… ちょっと 疲れちゃった)

マリアがソファに座ると レイが微笑しマリアに抱き付く マリアが苦笑する レイが言う
「マリアも お疲れ様だな?」

マリアが苦笑して言う
「はい お疲れ様でした… 見て居ただけの私が 疲れちゃう位ですから ウィザード様たちは もっと疲れちゃってますよね?」

レイが苦笑して言う
「うん そうだな?特に俺なんか 認定審査なんて 受けるつもりも無いのに …けど 大灯魔台の効力はデカイから それを灯すなら 力は貸さなきゃな?」

マリアが微笑して言う
「ウィザード様… 私が最初の時 ウィザード様に お伺いしたの 覚えていますか?」

レイが言う
「ん?」

マリアが言う
「私が ”ウィザード様は 何でウィザード様になったんですか?”って聞いたら」

レイが微笑して言う
「それは もちろん ”マリアのウィザード様”になる為だよ!マリア!」

マリアが苦笑して言う
「覚えていらっしゃったんですね…?」

レイが言う
「覚えても何も それは今だって変わらない!」

マリアが苦笑して言う
「でも、それじゃ 可笑しいんじゃないですか?」

レイが言う
「え?何でだ?」

マリアが言う
「だって… ウィザード様は ちゃんと ”人々の為に” 魔法を使っているじゃないですか…?田畑に雨を降らせたり 灯魔儀式の属性を合わせる事で 自然環境を戻す事を考えたり 今回だって大灯魔台の効力を気にしたり それって その ”私のウィザード様になる為” なんかじゃないですよ?」

レイが一瞬呆気に取られた後 笑って言う
「あっはは 何言ってるんだよ マリア?それは全部 マリアの為だ」

マリアが言う
「え?」

レイが言う
「俺はマリアの為に やってるんだよ?だってそうしないと マリアと一緒に居る この世界を守れないだろ?」

マリアが驚いて言う
「こ、この世界をっ!?」

レイが言う
「そうだよ?マリアが居ないなら 俺はそんな事しないよ」

マリアが驚き言葉を失う レイが言う
「だから俺は マリアに会うまで 全然 何もやらなかったもん 素質も力も全部あったけど ウィザードにさえならなかった …マリアに会って マリアが”ウィザードさま”に お願いするから だから俺は マリアの力になれる ”ウィザードさま”に なろうと思った」

マリアが言葉を失っている レイがマリアを抱き締めて言う
「だから マリア 何でも言って!俺 マリアの為なら 何でもしてあげるよ!俺にとっては 神々にどう思われたって構わない 言っただろう?マリアの為が一番だよ!」

マリアが言う
「ウィザード様…」

レイが苦笑して言う
「けど 今はちょっと疲れちゃったな?やっぱ マリアの言う通り 修行が足りないのかな?」

マリアが苦笑して思う
(私の為… 嘘じゃなかったんだ…?いつも 私の為にって…?そっか… あんなに凄い灯魔儀式も ウィザード様にとっては そう言う概念なんだ …私たちとじゃ 規模が違い過ぎて 分からなかった)

マリアがレイを見る レイは目を閉じている マリアが苦笑して思う
(そう言えば 何かある度に ”マリアの為に マリアの為に”って… このウィザード様は 本当に それしか考えてないのかもしれない… 神様に選ばれる事も 考えない… それなら このままでも良いのかな?これからも一緒に 灯魔儀式をして… ”マリアの為に” って …もっと色々 お願いをしちゃおうかな?それで 一緒に…)

マリアが微笑すると 杖が床に落ちて軽い音が響く マリアがハッとすると 同時にレイが目を覚まして言う
「…ん?あ… 一瞬 寝ちゃったみたいだ」

マリアが床に落ちている杖を見ると 杖が浮き上がってレイの手に戻る マリアが微笑して言う
「それだけ 疲れているんですよ 少し休んでいても良いですよ?ちゃんと 起してあげますから」

レイが言う
「うん けど 折角 マリアが居るんだから 勿体無いだろ?」

マリアが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「ウィザード様…」

レイが言う
「それに 一応」

マリアが疑問する レイが杖を見て言う
「ウィザードにとっては 今は 寝て待っていられるような 時でもないしな?」

マリアが言う
「え?でも… ウィザード様は 神様に選ばれる事を 望んでは居ないのですよね?他のウィザード様たちは その為に この審査を受けていらっしゃるのに」

レイが言う
「うん それはそうだけどさ?けど、手は抜けないよ 下手をしたら この杖を失う事になるから」

マリアが疑問して言う
「杖を?」

レイが言う
「ウィザードとして不認定なら ウィザードの権利を失うんだから ”マリアのウィザード様”で居られる この杖を奪われてしまう」

マリアが驚いて思う
(―えっ!?)

レイが言う
「その待ち時間に 杖を落とすって ちょっと縁起悪いよな?ま、俺に不認定票入れる奴なんて 数人しか思い当たらないけど」

マリアが慌てて言う
「そんなっ!?その 数人って言うのはっ!?」

レイが言う
「巡礼者の中には まだ 俺たちが灯魔儀式をして居ない 灯魔台を持つ村の巡礼者たちもいるからな?そいつらは 早くやれよって 催促の意味合いで 俺に入れるだろ?ま、それでも 数的に5票も行かないだろうから 大丈夫だよ マリア」

マリアがホッとして思う
(良かった… 一瞬 焦っちゃった…)

マリアが気持ちを落ち着けて思う
(でも… やっぱり 言って置いた方が良いかな?私が ”お母さんのウィザード様”に 認定票を入れたって… ウィザード様… 怒るかな?)

マリアがレイを横目に見る レイが言う
「なぁ?マリア」

マリアが慌てて言う
「は、はいっ?」

レイがマリアへ向いて言う
「部屋に戻ったら 大灯魔台の灯魔儀式を 成功させたお祝いに 俺と一緒に お茶を飲んでくれる?俺ちゃんと頑張ったからさ?」

マリアが一瞬呆気に取られてから微笑して言う
「あ、はい それは もちろん!」

マリアが思う
(あぁ… 本当はマキとリナに大仕事を頼んでいたから その連絡とかお礼とか しようと思ってたんだけど …でも)

レイが微笑して言う
「やった!嬉しいな!マリアー」

マリアが苦笑して思う
(そう言えば ウィザード様って こんな事で喜んでくれる… 灯魔儀式も何も 全て私の為にって してくれていたのに… だったら マキとリナには悪いけど 今日くらいは ウィザード様を優先して…)

レイが言う
「それじゃ マリアは?」

マリアが呆気に取られて言う
「え?」

レイが微笑して言う
「マリアは何か無いのか?俺にお願いとか?」

マリアが考えながら言う
「お願い?私の…?」

マリアがふと気付いて言う
「あ、それなら ウィザード様!」

レイが微笑して言う
「うん!」

マリアが微笑して言う
「中央公園の灯魔儀式を やってもらえませんかっ!?」

レイが呆気に取られて言う
「は?」

マリアが衝撃を受けて言う
「あ…っ」

マリアが思う
(あ~っ 私ってばっ!…折角 良い感じの会話だったのにっ 灯魔儀式で疲れているウィザード様に お願いする事が また 灯魔儀式って…っ なんて言うか…っ 何かもっと…っ)

レイが噴き出して笑う
「ぷっ …あっははははっ!」

マリアが呆気に取られる レイが言う
「やっぱ マリアは マリアだよな?こんな時くらい もう少し 違う お願いしてくれるかと 思ったのにサ?」

マリアが呆気に取られつつ思う
(そ… そうなんです… 流石に 私も ちょっと そう 思いました…)

レイが苦笑して言う
「けど、その方が 俺たちらしいかもな?」

マリアが言う
「え?」

レイが言う
「分かった!マリアがそう言うなら 俺はそうするよ!」

マリアが言う
「あ… しかし ウィザード様は お疲れで…」

レイが言う
「うん けど 次の大灯魔台の灯魔儀式は 1週間後になるから… そうだな その前に ちょっと ゆっくりして 5日後位に!」

マリアが言う
「しかし その… 大灯魔台の灯魔儀式は 残り5箇所ある訳ですから その間にウィザード様へ 負担を掛ける訳には」

レイが言う
「大丈夫だって 俺にとっては マリアのお願いが優先だもん 俺は ”マリアのウィザード様” だからな?」

マリアが呆気に取られてから 苦笑して言う
「…はいっ!」

レイがマリアを抱き締める マリアが苦笑して思う
(結局 いつもの通り… でも やっぱり これで 良いのかも…?)

マリアが密かに微笑する


大灯魔台 控え出口

レイとマリアがやって来る アナウンスが言う
『長らくお待たせ致しました これより 各奉者様のお名前をお借りし お仕えするウィザード様への不認定票数を 発表させて頂きます』

マリアが視線を向ける 視線の先ウィザードがソニアを見る ソニアがウィザードを見上げ微笑している マリアが苦笑してから視線を戻す

アナウンスが言う
『不認定票数は200票で御座います それでは 発表をさせて頂きます 不認定票数 4票 ミレイ・クレシア奉者様』

マリアが視線を向ける 奉者2がホッとしてウィザード2を見上げる マリアが微笑する アナウンスが言う
『不認定票数 8票 エニ・ミメール奉者様 不認定票数 13票… 』

マリアが思う
(200票の内 100票は私の認定票で相殺してある… だから、あのウィザードさまの票から100票を除いた 残りの票数が 他のウィザード様より少なければ…)

マリアが視線を向ける アナウンスが言う
『不認定票数21票…』

マリアが目を瞑って思う
(ここまでの合計は46票 残りは54票っ ウィザード様に5票以下が入るとしても 次のウィザード様の票数が 約半分の25票に届かなかったら… きっと もう… どうか お願い…っ)

アナウンスが言う
『不認定票数 25票 リア・サイン奉者様 』

マリアが驚いて思う
(25票…っ!?それなら もしかしたらっ!?)

マリアが正面を見据える レイが困惑している アナウンスが言う
『不認定票数 26票 ソニア・ノーチス奉者様』

ウィザードとソニアが驚く マリアが驚いた後 表情を落として思う
(ダメだった… そんな… たった1票の差だったなんて…)

マリアが溜息を吐く アナウンスが言う
『従いまして この大灯魔台 灯魔儀式に置きます ウィザード認定審査の結果は 最も多くの不認定票数 103票を持ちまして マリア・ノーチス奉者様の ウィザード様であると決定致しました』

マリアが呆気に取られて言う
「…え?」

レイが言う
「俺が…?」

マリアがレイを見て言う
「な、何?何で?どうしてっ!?」

アナウンスが言う
『この結果を持ちまして ウィザードとして 不認定であると評価されました ウィザード様からは この場を持ちまして ウィザードの称号を剥奪致します』

マリアがウィザードを見て思う
(何!?どうして!?こんな結果に!?私は あのウィザードさまの事だけを 心配していたのにっ!?)

マリアがハッとして気付いて思う
(はっ でも 可笑しいわ だって あのウィザードさまへの認定票は お母さんだって入れた筈っ 他の奉者たちだって 自分のウィザード様に…っ!?それなら そもそも 不認定票数が100票以下のウィザード様に 不認定の票数が付く筈が無い!?それなのに 票数があったって事は …まさかっ!?)

マリアがレイを見て思う
(私が認定票を入れなかったからっ ウィザード様に 100票の不認定票がっ!?)

レイが気付いて言う
「…もしかして マリア 認定票を あのウィザードに入れたのか?俺じゃなくて あいつにっ?…何でっ!?」

マリアが驚きに言葉を失う レイが言う
「何でマリアが あいつにっ!?」

マリアが慌てて言う
「ち、違うんですっ 私っ!」

レイがハッとして視線を向ける マリアが驚きレイの視線の先を見ると 係員がやって来て言う
「ウィザード様 残念ですが 貴方から ウィザードの称号と共に力を …ウィザードの杖を回収させて頂きます」

レイが沈黙する
「…」

レイが係員へ向き直る マリアが困って言う
「え…っ?そ、そんな…っ」

マリアが焦って思う
(違うのっ!こんなつもりじゃっ!私は ただ あのウィザードさまを 守ろうとしただけなのっ!それなのに…っ!)

マリアが息を飲むと レイが杖を手放し 係員が受け取り礼をして去って行く

マリアが表情を焦らせて思う
(あっ!待って!持って行かないで!その杖は!ウィザード様の大切な…っ!)

レイが杖の行く末をじっと見つめている マリアがレイの姿に同じく杖へ視線を向けると驚いて思う
(え…?…何をするの?)

マリアの視線の先 杖が鉄の台に固定される マリアが驚いて目を見開く 鉄の台の上には 鉄の重石が吊り下げられている

マリアが驚いて思う
(まさかっ!?)

マリアが思わず踏み出して思う
(止めてっ!駄目ーっ!!)

一瞬の後 鉄の重石が落ち マリアの視線の先 激しい音と共に杖と杖にある魔石が粉々になる

マリアが驚き口元を押さえて思う
(う、嘘…っ!?)

マリアの横でレイが俯く マリアが言葉を失う

アナウンスが言う
『只今を持ちまして 本日の大灯魔台 灯魔儀式 及び ウィザード認定審査を終了致します』

マリアが言葉を失っている

レイが言う
「そっか…」

マリアが驚きレイを見る

レイが視線を向けないまま言う
「”マリアのウィザードさま”は あいつだったんだな?」

マリアが驚いて息を飲む

レイが苦笑して言う
「マリア 今まで勝手な事言って ごめん」

マリアが驚いて言う
「え…?」

マリアが呆気に取られて思う
(勝手な事なんて…っ ごめん なんて言わないでっ 違うのっ 違うんですっ ウィザード様っ!!)

マリアが口を開こうとするが口が動かない

マリアが強く目を閉じて思う
(駄目…っ 言葉が出ないっ)

レイが言う
「…それから」

マリアがハッとしてレイを見る

レイが微笑して言う
「ありがとう」

マリアが驚いて目を見開く レイが立ち去る

マリアがレイへ手を向けながら思う
(ち、違うの…っ!違うのにっ どうしたら…っ!?)

マリアが動かない足を動かそうとしながら思う
(待ってっ!行かないでっ!ウィザード様っ!…ウィザード様ーっ!!)

マリアが力を失い座り込むと レイが立ち去った先を見て言う
「私の… ウィザード様が…」

マリアの傍を 風が吹き抜ける


マリアの部屋

マリアがベッドを背にうずくまっている 携帯が鳴り 長く鳴り続けた後留守電になる ピー音の後 課長の声が聞こえる
『マリア君っ どうしたのかね!?君が9時に商談予定を入れていた エルイン商社の方が既にお見えになっているっ 代わりの者を用立てているが すぐに社へ!…いや、まずは 連絡を…!』

携帯からピー音が鳴り切れる

マリアが顔を上げ言う
「…会社に …課長に連絡しないと」

マリアがバックを引き寄せ漁って 携帯を取り出すと 一緒にレイの部屋の鍵が出て来て落ちる

マリアがハッとして鍵を見てから ゆっくり鍵に触れ言う
「それより ウィザード様に… ちゃんと 説明… しなきゃ… …だって 私のせいでっ」

マリアが鍵に触れていた手を震わせ 鍵を握ると同時に携帯が鳴る マリアが携帯を見て 手に取りながら思う
(課長に お詫びをしなきゃ… 商談を入れてたのに 急に…)

マリアがディスプレイを見て驚き 慌てて着信させて言う
「はいっ!マリア・ノーチスです!」

マリアが思う
(奉者協会からっ!ウィザード様っ!?)

マリアが話を聞き言葉を失ってから 驚いて言う
「え?何を…?私は…っ」

携帯から声が聞こえる
『つきましては 一度本部へお越し頂きまして そちらの手続きと共に ウィザード様がご利用であられた お部屋の鍵を』

マリアが言葉を失い 携帯を持っている手を脱力させる もう片方の手の下に鍵が鈍く光る


奉者協会

テーブルの上に鍵が置かれる マリアが鍵から手を離すと 係員が受け取って言う
「はい 確かに 鍵の返却をお受け致しました」

マリアが言う
「あ、あの… ウィザード様は?」

係員が疑問して言う
「はい?」

マリアが言う
「私の…っ マリア・ノーチスが仕えている ウィザード様は 今どちらにっ!?」

係員が一瞬間を置いてから微笑して言う
「あ、はい」

マリアがホッとする 係員が言う
「マリア・ノーチス奉者様は 本日より ご希望のウィザード様へ仕える事が 許可されました」

マリアが呆気に取られて言う
「え?ご希望のウィザード様へ …って?」

係員が言う
「はい 前例の無い事で有りました為に 最終決定までに 丸一日の時間を有してしまいましたが 予てよりの規定通りに マリア・ノーチス奉者様は ご自分が投じた 認定ウィザード様へ 仕える事が 正式に許可されました」

マリアが言う
「認定ウィザード様って…?」

係員が微笑して言う
「先日の ウィザード認定審査の際 貴方が認定票を投じた ウィザード様です」

マリアが呆気に取られて言う
「そ、それじゃっ お母さんのっ!?」

マリアがハッとして口を押さえる

係員が微笑して言う
「そうですね ソニア・ノーチス奉者様が 既にお仕えしているウィザード様です 1人のウィザード様に2人の奉者様が仕えると言うのも 前例の無い 初めての事となりますので 奉者協会の方でも 議論されたようですが 親子で協力して仕えると言うのですから 良いのかもしれないですね?」

マリアが呆気に取られて言う
「そんな…」

マリアが思う
(私は そんなつもりじゃなくて…っ ただっ)

マリアがハッとして言う
「あのっ そうじゃなくてっ そのウィザードさまではなくてっ 私が仕えていたウィザード様ですっ!」

係員が呆気に取られた後言う
「…あ、はい そちらのウィザード様は 認定審査の決定により 既に ウィザードの称号は剥奪されましたので もう ”ウィザード様”ではありません 従いまして 今後は奉者も付きませんし 協会の方も 一切の関わりを持ちません」

マリアが言葉を失った後 脱力して言う
「そんな…」

マリアの脳裏にレイの言葉が思い出される

レイが微笑して言う
『俺は”マリアのウィザード様”だからな!』

マリアが顔を覆って言う
「ウィザード様…っ」


マリアの部屋

マリアがベッドを背にうずくまって テーブルに置かれている携帯を見つめている 携帯が鳴り 留守電が着信する 携帯からマキの声がする
『マキでーす!マリアー?どうしたのー?連絡無いって 課長が心配してるよー?あ、それから 月曜日の仕事の方は ちゃんとやって置いたから 心配しないでねー?リナが 凄い頼りになったよー!流っ石 リナ大先輩ー!にゃはははっ!マリア大先輩も 明日はちゃんと出社しなよー?あー?もしかして ウィザード様とー?』

マリアがハッとすると 携帯からピー音が鳴り 携帯が切れる マリアが息を吐いて視線を落とす ドアがノックされ ソニアが言う
「マリア 居るの?」

マリアが顔を向けて小さく言う
「お母さん…」

ソニアがドアの外から言う
「マリア… お母さん 全く知らなくて… 驚いちゃったわ それに…」

マリアが言葉を飲む ソニアが言う
「…どうして あんな事を?」

マリアが驚き目を丸くする ソニアが言う
「どんな理由があったにしても 自分の仕えるウィザード様へ 認定票を投じないだなんて… 奉者としても 人しても… お母さん どうかと思うな?」

マリアが表情を悲しめる ソニアが言う
「お母さんは マリアがとっても強くて とっても優しい子だって 知っているわよ?…だから 票の事を聞いた時は 信じられなかった …マリアだって あの場所に辿り着くまでに ずっと一緒に居たのなら 自分のウィザード様の事を 一番大切に思えるでしょう?…なのに どうして?」

マリアが言う
「違うのっ!お母さんっ!私っ!」

マリアが強く目を閉じて言う
「一番大切だったよ!だけどっ 私 知らなかった 気付かなかったのっ!ウィザード様に票を入れなかったら その分が 不認定票になっちゃうだなんてっ!本当に知らなかったの…っ」

ソニアが沈黙する マリアがドアを見て言う
「お母さんっ!?」

ソニアが言う
「その事を 知らなかったなんて 関係ないと思うな…?」

マリアが呆気に取られて言う
「え…?」

ソニアが苦笑して言う
「そんな事は関係ないの 私は 自分のウィザード様に ”認定票を投じない” なんて事は 絶対に出来ないわ」

マリアが疑問する ソニアが言う
「だって そんな事をしたら 彼の今までの努力や苦しみを 否定する事になるから 奉者は ”それ”を認定しているのよ」

マリアが驚いて言う
「今までの努力…?苦しみを…?」

ソニアが微笑して言う
「奉者は ウィザード様と 一心同体だもの 彼の苦しみは私の苦しみ 彼の喜びは私の喜び… その逆も …同じだって言ってくれたわ」

マリアが呆気に取られる ソニアが苦笑して言う
「まぁ それは 特別なウィザード様だけでしょうけど 少なくとも… 奉者はウィザード様のそれらを同じくして 誠心誠意お仕えすると言う事が 勤めなのだから 奉者の認定票が 別のウィザード様に渡る様な事は …今までは決して無かったのよ」

マリアが視線を落として言う
「私は…」

ソニアが言う
「…それで 貴方本当に お母さんの仕えている ウィザード様に お仕えするつもりなの?」

マリアが困惑して言う
「あ… えっと…」

ソニアが言う
「さっき家に電話があって 貴方が以前から勤めていた会社の 課長さんから 『急ぎの仕事があって 携帯に連絡したけど 繋がらなくて どうしたのか』って …貴方 奉者をしながら そっちのお仕事も続けていたのね?」

マリアが言う
「う、うん…」

ソニアが言う
「そう… それじゃ 分かっちゃったわ?」

マリアが言う
「え?」

ソニアが言う
「本当に ウィザード様にお仕えるつもりなら まずは一度 お母さんに声を掛けて頂戴 …お休みなさい マリア」

マリアが言う
「…うん、お休みなさい お母さん…」

ソニアが去って行く


会社

マリアが頭を下げて言う
「昨日は 無断欠勤を致しまして!真に申し訳有りませんでした!課長っ!」

マリアが強く目を閉じて思う
(絶対 怒られるっ!)

一瞬間を置いて マリアが疑問して思う
(…って あれ?)

マリアが顔を上げると

課長が溜息を付いて言う
「はぁ… 本来なら 大いに声を荒げたい所だが… マリア君 今 うちの部署には 君しか居ないんだ」

マリアが言う
「え?」

課長が言う
「従って 昨日の事などは もう良い 今はとにかく しっかりと仕事をこなしてくれ」

マリアが呆気に取られつつ言う
「あ、は、はいっ 分かりました 本当に すみませんでした…っ」

マリアが疑問しつつ席へ戻ってから 軽く息を吐いて言う
「ふぅ… 怒られなかった… 何でだろう?」

マリアが思う
(別に 怒られたかった訳じゃないけど… 何だか肩透かしって言うか…?何かあったのかな?)

マリアが言う
「ねぇ マキ 何かあったの?…あれ?」

マリアが周囲を見渡して言う
「マキ…?」

マリアがカレンダーを見て思う
(マキの公休日は 今日じゃないのに… 来てないみたい?臨時休暇… かな?)

マリアが疑問してから課長を見る 課長が表情を困らせ頭を掻いて溜息を吐く マリアが疑問する

――…

マリアが書類を確認して軽く息を吐いて言う
「月曜日の確認は これで終了!」

マリアが微笑して思う
(やっぱり リナの仕事は完璧だなぁ… 無理をお願いしたけど 本当に助かっちゃった…)

マリアが書類の山を持って来て言う
「後はこれ… 課長が急に これ全部に目を通せだなんて… 昨日の罰かな?…でも やらない訳には行かないし 取り合えず一通り…」

マリアが書類を見ながら疑問して ぱらぱらと全体を確認してから驚いて思う
(ん?…あれ?この書類って 全部?…まさかっ!?)


マリアが驚いて言う
「た、退職っ!?」

課長が息を吐いて言う
「うむ…」

マリアが慌てて言う
「マキが退職だなんてっ!?一体どうしてっ!?」

課長が言う
「聞けるものなら 私が聞きたい …リナ君が急な寿退社で 唯でさえ 人手不足だった所 マキ君は 毎年の収穫期の長期休暇を終えたと思ったら 次は、退職願いだっ マリア君!ここで 君まで 辞める等とは 言わないでくれよっ!?」

マリアが困惑しつつ言う
「は、はい…」

マリアが視線を落として思う
(マキ… 急にどうしたんだろう?私 何も聞いてない… それだけ急だったって事?)


昼休み

マリアが携帯で呼び出し音を鳴らしているが着信されない マリアが表情を落として携帯を切って言う
「マキ… 出ないな…」

マリアが息を吐いてから 手作り弁当を取り出し 周囲を見てから思う
(寂しい… 以前は リナとマキが… 少なくとも、どちらかとは一緒だったのに… これじゃ まるで 休暇の日に 中央公園で1人で食べてた時と同じ…)

マリアがハッとしてから 表情を落として言う
「もう… あそこで1人で食べる事も 無いんだ…」

マリアが弁当を食べようとして やはり箸を止め 息を吐く
「はぁ…」


マリアの部屋

マリアが椅子に座り カレンダーを見て言う
「あ… 明日は 私、公休日だった …どうしよう?」

マリアが表情を落として思う
(いつもだったら ウィザード様と 灯魔台の灯魔儀式へ向かう日… でも…)

マリアがカレンダーを手に取って思う
(しばらくは 6つの大灯魔台の灯魔儀式に参加するから 少なくともそれが終わるまでの6週間は 灯魔儀式には行かない予定だった… …それなら 私 どうしたかな?久し振りに 自分の休暇を…)

マリアの脳裏に記憶が蘇る

レイがマリアへ向いて言う
『部屋に戻ったら 大灯魔台の灯魔儀式を 成功させたお祝いに 俺と一緒に お茶を飲んでくれる?俺ちゃんと頑張ったからさ?』

マリアが一瞬呆気に取られてから微笑して言う
『あ、はい それは もちろん!』

レイが微笑して言う
『やった!嬉しいな!マリアー』

マリアが苦笑して言う
「たまには 用事の無い状態で ウィザード様のお部屋に行ったら ウィザード様… きっと喜んでくれただろうな… 美味しい紅茶もご馳走してくれるし… ううんっ!たまには私が!…あっ」

マリアが息を吐いて思う
(何か してあげたら良かった… 私 何もしてあげなかった気がする …そう言えば 一度早起きして朝食を作りに行ったっけ?…そうは言っても その元は 私のせいで倒れさせちゃって… それなのに やっぱり ウィザード様は)

マリアが思い出す

レイが言う
『大丈夫だって 俺にとっては マリアのお願いが優先だもん 俺は ”マリアのウィザード様” だからな?』

マリアが苦笑して言う
「”私のウィザード様”だったのに…」

マリアが頭を抱え涙を堪える


玄関

ソニアが帰って来て言う
「ただいまー」

マリアが部屋から出て来て言う
「お帰りなさい お母さん」

ソニアが言う
「マリア 会社には連絡をしたの?課長さん とっても心配していらしたみたいだけど?」

マリアが言う
「うん、今日は 会社に行って来たから」

ソニアが言う
「そう… それなら良いのだけど」

ソニアが廊下を進む マリアが言う
「あ、お母さん あのねっ」

ソニアが言う
「うん?何?」

マリアが言う
「私、一度 お母さんのウィザード様に お会いしたいの」

ソニアが立ち止まる

マリアが言う
「長年連れ添った お母さんが居るんだもん もう1人の奉者なんて 要らないって分かってる …けど 私どうしても あのウィザードさまに会って お礼を言わないと…」

ソニアが言う
「お礼を?」

マリアが言う
「うん… こんな形で お会い出来る機会を得てしまったけど それでもっ やっぱり 14年前のお礼を!」

マリアが思う
(間違いとは言え この目的の為に 私はウィザード様に 酷い事をしてしまった… だから これを終わらせて 私も 奉者を辞めよう… …だって 私は…)

ソニアが一瞬驚いた後 息を吐いて言う
「14年前と言うのは あの大灯魔台の灯魔儀式が 失敗に終わった時の事でしょう?今回の成功で 過去の事として 収められると思っていた所だから …もう 蒸し返さなくても 良いでしょう?」

マリアが言う
「でも…」

ソニアが言う
「そうね?一度 貴方と話をしたいって 仰っていらしたわ?」

マリアが言う
「え?」

ソニアが言う
「でもね 私からすれば…」

マリアが言う
「お母さん?」

ソニアが苦笑して言う
「何でもないわ ウィザード様は貴方が自分の奉者になる事を お許し下さっているのだから 貴方が来ると言うのなら 止めるものは何も無いから」

マリアが言う
「…ありがとう それじゃ 明日にでも お邪魔して良いかな?お母さんは 明日は行くの?」

ソニアが言う
「ええ 朝は6時には出るから 一緒に行くなら 間に合わせてね?」

マリアが言う
「え?明日も6時なの?」

ソニアが言う
「ええ そうよ」

マリアが言う
「う、うん… 分かった」

ソニアが立ち去る

マリアが思う
(明日も6時か… どうしてかな?お母さんのウィザードさまは 大灯魔台の灯魔儀式を続けるはずなのに だったら 明日は何も…?)

マリアが疑問した後立ち去る


続く
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