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〜〜リュウの少年とヒトの少女〜〜
白亜の増援
しおりを挟む「ど、どうも始めまして。ジークアって言います。あ、名前だけど分かる?」
できるだけ刺激しないように。少し身を屈めて視線を瑠美に合わせたジークアは、たじろぎつつ、優しい口調で自己紹介を始める。
「……な、何なの? そんな変なコスプレして誘拐するとか……意味分かんない」
(コスプレ? 異世界の文化的なヤツかな?)
当然だが、聞いた事のない単語だった。
「いや、よく分かんないだけど……そのコスプレってヤツじゃないよ」
とりあえず否定しておくジークアだが、彼の言葉に少女は更に目を鋭くする。
「は? 何言ってんの。それ被り物か何かでしょ?」
「? いや、生身だけど…」
瑠美は困惑を極めた。
明らかに人の形をしていない生き物が流暢に日本語を話しているという、この異様な状況に。
"おかしい"。
"有り得ない"。
"現実に在っていいものじゃない"。
先程から、こんな言葉で思考が溢れるほどだ。
まぁ、それは当たり前の事として、なら現実に在る物は何だという話になる。
彼女基準の常識での秤を基に明確な答えをフルに考えた結果、彼女はジークアたちをコスプレの変人集団だと決めつけた。
それ以外に考えられなかった。
「こんなの、取れば一発で…!!」
「ちょ、何やってんの?!」
いきなりジークアの頭を左右の側面から両手で掴んだと思えば、精一杯の力で引っ張り始める着ぐるみとでも思ったのだろうが、当然スポンと抜ける訳がない。
「え、うそ……せ、背中は!!」
今度は背後に周り、背中にチャックがないか確かめる。しかしそんなものは最初から存在しない。
「え、ま、待って。待って! なに、本物……
ってこと?」
「だ・か・ら! 初めからそう言って…」
ドオォォンッ!!
口論を始めそうになった空気を一瞬で消し飛ばす程に、その轟音は唐突なもので誰も予想などできなかった。
「ハーディス?!」
おまけにそれだけではなかった。外で出入り口を見張っていたハーディスがその身を軽々と紙のように宙を舞ったのだ。
そして。そのまま重力に従って勢いよく落下した彼は、地面との衝突により堪らず苦悶の声が漏れ出ている。
「グゥ、アァッ……みんな、敵だ!!」
それでも。ハーディスは身に負ったダメージを押し殺して敵の襲撃を伝える。
「ふーん。ここに在ったんだ」
緊張感のない女性の声が全員の耳に入る。
出入り口の方へ視線を向ければ其処に立っていた。バルセルクのリーダー『ベアヌス』が。
「あれ、ま、まさかベアヌス?!」
「……まぁ、予想はしてたがな。ほんとッ面倒臭せぇことになっちまったなァァッ!!」
右の拳に蒼白の雷を迸らせ、一気に駆けたかと思えば一切の容赦なく。敵であるベアヌスの顔面へ叩き込む。
が。顔と拳が接触することはなく、ベアヌスの無数のアームがゼウの拳を掴むことでそれを阻止していた
。
「単調過ぎるな。もう少し捻りを加えた方がいいぞ? あと悪いな。お得意の電気は通らないよう工夫してる」
「そう……かい!」
蒼白の雷が弾け飛ぶ。同時に一瞬ばかりの眩耀が生じる。
それは自然に起きた現象ではなく、ゼウが操作することで起きた事象だ。しかし、ただ弾け飛ぶだけでは何の意味もない。
僅かな隙を作れるかもしれないが、歴戦の兵士である彼女にその程度の小細工は通用しない。弾け飛ぶ瞬間に放たれた光。
それが重要なのだ。
「チィッ!」
眩耀の光は強烈なまでの刺激になる。ある程度離れていれば問題はないが、至近距離で直視してしまったベアヌスは一時的に視界を奪われてしまう。
その事実がベアヌスの神経を逆撫でし、彼女は苛立ち混じりの舌打ちを鳴らす
「今だ! 行けぇぇぇぇッ!!」
そう言いながら、雷を宿し迸らせた雷拳はアームのある腕を除いた身体中、主に腹部へと渾身の力で叩き込んでいく。
雷、電気の類は彼女には通用しない。
そんなことはゼウ自身分かっており、二度見聞きしないと理解できないほど愚者ではない。
しかし電気を上手くコントロールすれば、筋力を上げることができる。
加えて、粒子操作で体内のユグジスを用いての身体能力の強化を施せば、マルチ効果が期待できる。
「がぁぁッ!!」
よって、繰り出される拳の威力は桁外れ。
いかに幹部であっても堪らず、ベアヌスは苦悶の声を上げた。
「ごめん!」
「ひゃあッ!!」
それを見て、ゼウの意図を察したジークアは両腕で瑠美の頭、膝の関節の下を支える抱え方……俗に言う
『お姫様抱っこ』で彼女を連れて出入り口まで駆け出し、それに続いてハーディス。
ニズグ、キュランの4名も一直線に同一方向へと走った。視界は奪われ、拳の嵐を受けてはいるがそれでも、耳で足音を察知し、何とか僅かな隙を見つけ出して逃れたほんの一瞬。
それを利用してベアヌスが足音の方へ向けてアームを花のように展開。
中央にある射出噴気口から殺傷力の高い光球弾を放とうとした。
「させるかよ!」
が、すぐにそのアームの手首を掴まれ、ゼウの雷拳を顔面の右頬に喰らう。
「ぐっ! 調子に…乗るなッ!!」
ベアヌスの叫びと共に放たれた光球。赤黒い無気味な色を妖しく輝かせるソレは、ゼウの命を奪い取ろうと迫るが、ゼウは拳に力を集中させる。
「ハァァァッッッッッッ!!!!!!」
そして、轟々しい怒号の声を吐き出し、それが拳気と波となって光球を消し去る。
「フン」
拳気の波はベアヌスに向かって来るが、それに別段慌てるような事はなく、彼女はアームじゃない方の手を軽く。まるで埃でも払うかの様な気安さで拳気を二つに引き裂き、胡散させてしまった。
「だから言った。舐めるな、と」
「バルセルク…それもリーダー相手に舐めてかかれねぇーよ、どアホが」
そこに油断などない。幹部と精鋭。土俵で物を言えば互角に戦い合える実力者なのだ。
油断も隙も、晒した瞬間から即座に命を刈り取られかねない。
「アーティス、開放」
故に全力を出す。その意思表示としてエネルギー状に己の体内へ収納していたアーティスを今この場に顕現させる。
「雷拳鎚『ゲラル・ウノス』!!」
顕現したソレはプラズマ状のエネルギー体。
形状は握り締めた拳から柄の部位が伸び、さながら鎚に似ている。
その名もゲラル・ウノス。
ゼウが誇る唯一無二のアーティスであり、その威力は空間に孔を穿つ程だとも言われている。
「荒ぶる雷霆!!」
眼前に姿を晒した自身のアーティスを掴み、技銘を叫ぶ。振り上げた雷拳鎚を地面に向けて叩きつけた瞬間に迸るのは、赤黒く雷の群れ。
禍々しく、まるで生きているかのうに標的めがけて這い駆ける姿は獰猛な生物そのもの。
喰らい付かれれば、間違いなくその身を消し炭にしてしまうことは明らかだろう。
「ハッ! もう忘れたのか? 随分お粗末な頭の出来をしているようだな」
「ああ。効かねぇよな。だが、間接的ならどうだ?」
理解し難い言葉に怪訝な顔を浮かべる。
すると自身へ向かっていた筈の赤黒の稲妻がどう言う訳か、当たる直前になって天井へと上昇。
稲妻とは、明確な実体を持たないプラズマによる事象だ。しかしこの世界における稲妻は普通のソレとは違い、物理的な破壊を可能にできる。
つまり。
「がぁぁッ!!」
稲妻によって砕かれた天井の瓦礫が、躊躇も慈悲もなく当然の帰結として降り注ぐ。
そうなれば下敷きになるのは明白で案の定、ベアヌスは天井の瓦礫に押されその身動きの一切を封じられてしまう。
「く、クソッタレがぁぁぁぁーーーーーッッ
!!!!!!!」
だが死ぬことはなく、憤怒を滲ませた咆哮を上げるベアヌスは、この無様な結果を齎した元凶のゼウを睨もうとするが既に其処に居なく。
僅かな間の時間で逃げ果せていた。
「ふぅー! ふぅー! ………退かすのは、無理か。………カミフ! 手を貸せ!」
怒りはある。今にも我を忘れてしまいそうな程。だが、それを抑えて冷静に状況を分析した結果、他者の手を借りる必要だと判断し、カミフへと通信で連絡を取ることに。
『ふむ。何やら危機的状況と見る。相分かった』
承諾の言葉を返し、向こう側にいるカミフは通信を切る。
未だ怒りは消えないが、ここで暴れても無意味だ。
カミフが来るまでは、大人しく待つことに専念するしかないと、ベアヌスは思慮する。
そして、同時に思った。
"この借りは必ず返す"……と。
※
「野暮用ができた。これにて失礼する」
アレス幹部のカミフと、イージス精鋭のスキュー、ルガの3者による戦いは、数ではカミフの分が悪かったもののそれを造作もないと切って捨てられる程の実力でカミフは2人を圧倒していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ま、まだだ!」
所々傷ができ、肩で息をするルガとスキュー。それでも負けられないとばかりに戦意を込めた声を張り上げるが、それをカミフは鼻で笑う。
「ハッ。其の様では無理がある。ここで仕留めたかったが、こちらの方が重要なのでな」
通信では場所を言わなかったベアヌスだが、その必要性は皆無だ。通信の発信源を既に特定しているので
、カミフは問題なく向かうことができる。
行動を邪魔するであろう2人の精鋭は疲労困憊。障害として立ち塞がることはできはしない。
ならば、ここから去ることなど容易い。
「では、これにて。次からは是非死際の断末魔を聞かせてもらう」
ザッ!
カミフが踵を返そうとした瞬間。振り返り様に何かが斬られたような音が耳朶に届き、次の瞬間には、視界が反転した。
????
何が起きたのか。少なくとも数秒は理解できなかったカミフだが、あくまで数秒。その後は容易に理解することができた。
自身の首が、胴体から離れた。
何者かが斬ったのだ。
つい今まで戦っていたスキューとルガではない。
そんなことはカミフでも分かる。
その存在を気付かれずに近くまで来て、首を落とすという暗殺者めいた高度な技量を持たないことは、戦えばよく分かる。
そもそも、二人はかなり消耗している。
なら、別の誰かということになるのだが、誰かは分からない。
首だけになっては周囲の確認は到底できない
意外にもその何者かが分かった。
何者かが、否、カミフの首を斬り落とした張本人がカミフの髪をくしゃりと掴み、自分の視線へと持っていく。
「君の身柄はイージスが拘束する。異論は認めない」
とりわけ目を引くのは、美しい青みがかった銀髪。それを腰の少し上まで伸ばし、蒼銀の鎧装飾を両肩、胸部に取り付けていた。
更にその下は白亜の色彩を有したダイバースーツのように身体にぴったりとフィットした防護スーツ。
セイネのものとよく似てはいるが、色や黄色のラインが翼を描くデザインになっている点を考慮すれば、全くの別物と言っていいだろう。
そして、その顔はかなり美しいものだった。
目、鼻、口、眉毛、これらが揃っている整った顔つきはマーヒュ属のハーフメルで間違いない筈。
そして容易に自分の首を落として見せたのだから、精鋭だろうと当たりをつけたカミフ。
しかし同時に疑問が生じた。
この精鋭の顔に全く見覚えがないのだ。
イージスの精鋭たちの顔、情報は全員分…それこそ一人も余さずに頭の中に入っている。
なのに、自らのデータベースに該当する情報がない
。
「なんと唐突な……無念。ここまでか……」
だが、その事について深く考える余裕はない。視界の端に警告文が表示されている。
『危険・警告。現活動状態では生命維持に支障あり。直ちにスリープモードの実行を』
ハーフメルの身体は半分が金属。それはつまり、機械的とも言える部位を持っており、電子工学技術による自己改造が容易なのだ。
この視界に映る状態異常を記した警告文の表示も、その一つだ。
危険、とは言ってもコアが無事である限り完全な死は訪れないのがハーフメルの生物としての強味だ。
この女は、拘束すると言った。
ならコアの状態で保管されるか、あるいは治療された上で牢に繋がれるのか。
いずれにしても抗う力が無いカミフはその意識を深い闇に落としていく他に何もできなかった。
※
「よお。待せたな」
通路を走り抜き、なんとかロビーへ辿り着いた潜入班一同。なんて事のないゼウの声に振り返ってみれば、確かに彼はいた。
両脚からバチバチと電気の火花が飛び散っているところを見るに、両脚に電気エネルギーを集中させ脚力を強化。
かなりの速さでもって追いついたのだろう。
でなければ、こんなにすぐには合流できない。
「ゼウ隊長! よかった…何処か怪我は…」
「馬鹿野郎。俺を誰だと思ってんだ? この、ゼウ・ザンダーが易々とくたばっちまうタマに見えるか?」
心配げに聞いて来たジークアだが、そんなものはいらないとばかりにニカっと笑うゼウ。
それより、一番重要なのは人間の娘である瑠美だ。
「娘っ子はどうだ?」
「無事です。けど念の為、ニズグに検査して貰ってます」
チラッとジークアの後ろを見れば特に暴れる様子もなく、大人しくニズグのスキャウパーによる身体チェックを受けている瑠美の姿があった。
ただ…その顔は不安一色だった。
「……はぁぁ。コレかけてやれ」
そう言って、ゼウは身に纏っているコートを脱ぐとジークアに差し出す。
「隊長……ありがとうございます!」
「いや、お前が言うなよ。お前に貸したんじゃねぇんだから」
「まぁ、そうですけど……なんかあの女の子、裸じゃダメみたいな感じだったんで。何か着るものはないかなって思ってたところに丁度…」
「ああ。そーいうことか。しっかし、アレだな。裸がダメってのは妙なモンだ」
再確認するようだが、ハーフメルに裸に対する羞恥の概念は存在しない。
彼等にとって服とは、あらゆる攻撃・様々な過酷極まる環境の猛威から身を守る為だけに着るものなのだ
。
人間で言うところのファッションに似た概念もなくはないが、結局は"機能性が重視される"。
状況によっては裸でいることに対する注意を受ける場合もあるが、そういった場合と言うのは大抵、敵性存在による攻撃があった時と、過酷な環境下に晒されている時に限られる。
そもそもハーフメルの着る服装は基本的に自らの皮膚組織の一部によって出来た、謂わば第二の皮膚だ。
作る工程は簡単。任意で身体の皮膚組織を体外へと排出(この時に痛みは生じない)。
その後、様々な加工を施し、服として完成を果たす
。
基本的にこんな感じなので、身体の一部という感覚があるのか。そういった感性だからこそ、人間と違い羞恥の概念がないのかもしれない。
「これ、着てみて」
「…………ありがとう」
ジークアから差し出されたコートに驚きつつ、礼を言った上で瑠美はソレを受け取る。
くるりと翻すように羽織ると、やはりサイズ的に大きすぎたのか。
かなりダボついてはいるものの、裸を隠すという役割は果たしている。
「礼ならあの人に。顔は怖いかもしれないけど、優しいから」
「おい。誰の顔がだ、ゴラ」
文句を言いつつ、しかし自覚してるのかそれ以上は特に言うこともなく、呆れたようにそっぽを向く。
「あ、ありがと……」
正直なところ、未だジークアたちを信じられないのは否定できない。
とは言え、今のところ自分をどうこうする気は無い
ようだ。なら余計な刺激はせず、今は大人しくする以外に選択肢はないと判断した瑠美はここは素直に相手からの思いやりに感謝を示すべきと思い、その趣旨の言葉を口にする。
振り向くとはなかった。が、それでも拳を握り、親指を立てる仕草…彼女のよく知るグッジョブのサインを送る後ろ姿から、『気にするな』と言ったのか。
確実性のない曖昧な解釈だが、いちいち本人に確認するのもどうかと思った為、少女はひとまずそれを胸の奥にしまい込む。
「先攻精鋭部隊ファブラの皆様! ご無事ですかァァ
ァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッッッッッ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うぉッ?!」
「ッッ?!! ??」
「「うぁぁッ!!?」」
「な、なな何ですか?!!」
「……うるせぇのが来やがったな」
ジークアに瑠美、他のファブラのメンバーが突然の叫び声に驚く中でゼウは冷静を保ち、それどころか迷惑だと言わんばかりに露骨に嫌そうな顔を張り付かせている。
するとそれに続いて幾多の足音がフロントロビー内に響き渡り、重厚な鎧を纏い、槍型のアーティスを構えたハーフメルの集団が次々と入って来る。
そして彼等の先頭に……カミフを屠った白亜の鎧と
スーツを身に纏った女性が立っていた。
「うん。見る限りご無事ですね!!」
「今更増援かよ。事前に言って欲しかったんだが」
「はは……それは大変失礼をしました。しかし上層部も色々立て込んでいて、部隊の編成やら諸々に時間が掛かってしまったんです。何分、員数不足ですから」
「はん! んなのが理由になるか。無駄に重てぇ腰下ろしてふんぞり返ってる癖によく言うぜ」
「み、耳が痛いですね……」
辛辣な言葉がゼウの口から飛び出す。
そんな彼に女性は苦笑混じりにそう返した。
「みんな!」
すると鎧集団をかき分け、陽動班だったルガとスキュー。更には同じく陽動に回っていたルグル、セイネ
、フレスベルの5人が姿を見せた。
「よかった……無事、とは言えないみたいだけど…」
生きてはいた。しかし、あまりにボロボロで、セイネに至っては腕がなくなっていた。
これでは、純粋に喜ぶことなどできない。
「はは、なぁ~に気にすることないさ。生きて次に行ければ上等。それだけでも十分な儲けもんさ」
この中で一番の重傷者であるセイネは、カラカラと
笑ってそう言う。この世界では『再生技術』による治療が確立されており、欠損した四肢や臓器は一部を除いては復元可能な為、身体の一部喪失はそれほど悲観的なものではない。
とは言え、ダメージは相当なものだ。
いかに再生技術とは言え、それは万能なものではない。身体に与えられたダメージの度合いや何かしらの病的疾患を抱えていた場合、再生技術による治療を受けられない可能性があった。
幸い、セイネのダメージはそこまでの域には達していないが……下手を打てば、そうなっていたかもしれ
ない。
「そうだ。何事も生きたもん勝ちだ。そんで大切なもんを守れれば大勝利だ」
だから、気にするな。
口には出していないが、それでもそんな意図を表すかのようにジークアの頭をポンポンと叩き、ニカッと
。歯を見せつけるような笑顔を向ける。
ジークアは、ソレに対して『はい』と力強く頷いて答えた。
「その出入り口の先にベアヌスがいる。動きは封じたが……ぜってぇ抜かるなよ?」
「ええ。かの強襲部隊の幹部なんです。警戒に度が過ぎても足りませんよ」
女性はつい今し方の大声ではなく、至って普通の声音で、冷静に真剣味を帯びて断言する。
開口一番とこの時では随分落差があるが、おそらく
これが彼女の個性なのだろう。
女性はゼウへ一礼した後部下の数名を残し、他を引き連れてベアヌスの下へとこの場を後にした。
「ゼウ隊長。あの人、精鋭なんですか?」
ルガがゼウにそんな質問を投げかけた。
と言うのもゼウ、セイネ、ハーディスを除けば、他のメンバーはルガを含め、誰もあの女性の事を知らないのだ。
イージスに所属している精鋭の数は50。この全員をルガは忘れずに記憶しているが、その中にあの女性と合致するものが全くないのだ。
新しい精鋭なら必ず就任式があり、その際は全精鋭が参列を義務付けられる為、知らなかったという事はない筈。おまけに新入精鋭の情報が添付された報告書も渡されるのだから、忘れている訳ではないし、そこまで彼女は物忘れが激しい性分ではない。
なら、何者なのか?と考えても納得の行く回答は得られなかったので、親しげに話した様子から知っているかもと思いゼウに質問したのだ。
そうして返って来たのは……意外な物だった。
「ああ。お前らは初めてだったな。奴は『フレイア』
。イージスの上層部…天上議会『カオス』の一員だ」
応援ありがとうございます!
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