【完】死にたがりの少年は、拾われて初めて愛される幸せを知る。

唯月漣

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第一章 常春と真冬編

14)俺の望み。*

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 俺達はいつもの駅で降り立って、ラーメン屋には戻らず、そのまま歓楽街まで足を伸ばした。

 沈みかけた夕日が、街のあちらこちらにぼんやりと影を落としはじめ、それに反比例するかのように、歓楽街は客引きやネオンの光でにわかに活気づき始める。

 俺は手近なラブホテルの前で立ち止まると、常春を振り返って言った。


「ここでいい?」
「え……ああ。……なあ、本当にするのか?」
「やめとく? ここまで来て?」


 俺は焦ったような常春の顔が可笑しくて、わざと意地悪を言った。

 常春は困ったように頭をかいていたが、数秒の後覚悟が決まったのか、俺の手を引いてホテルのフロントへ大股で歩き出した。






 部屋に入り、俺はもどかしさを堪えてシャワーを浴びる。

 おかしい。
 こんなこと、何度もやっているはずなのに……。

 部屋で待っているのが常春だと思っただけで、俺はいつになくソワソワしていた。いつもより念入りに後ろを洗い、裸のまま部屋へと戻る。


「常春。準備しておくから、シャワー浴びてきて」


 俺がそう声をかけると、常春は俺の裸体にチラリと視線を送って、慌ててすぐに逸した。


「あ、ああ……」


 常春はのそりと立ち上がると、バスルームに消える。


「さて……と」


 俺は床に置きっぱなしになっていた自分のカバンから小さなチューブを取り出して、準備を始める。

 程なくして腰にタオルを巻いてバスルームから出てきた常春は、ベッドの縁に座っていた俺のところへまっすぐに向かってくる。


「つねは、……ん……っ」


 名前を呼びかけた俺の唇は、常春のそれによって塞がれる。常春は俺の唇をペロリとなぞるように舐めると、緩んだ唇の隙間から舌を入れる。


「んん……」


 よく考えたら、常春に深いキスをされるのすら、俺は初めてだった。

 甘美な蜜を纏う常春の舌は、俺の口腔内を優しく探るように蠢いた。
 俺はその舌を捉えて、味わうように吸い絡める。俺はチロチロと常春の舌の裏側をくすぐって、あふれる蜜を舐めとった。

 角度を変えてもう一度口付け、今度は常春の下唇を己の唇で食み、唇の柔らかさを楽しむ。常春は応えるように俺の上唇に舌を這わせて、唇が離れると、そのまま俺の鼻先に軽くキスを落とした。


「常春、愛してる」


 それは、先程唇を塞がれて言えなかった言葉だった。
 今まで幾度となく別の男たちに言ってきた、"空虚"だったその言葉。


「俺も……真冬が好きだ。愛してる……」


 けれどもそれは今、初めて意味をなしたかのように、ずしりと俺の胸に響いた。


「……ははっ。同じ言葉でもこんなに違うもんなんだな」
「うん?」


 甘くじわりと胸の中に広がる、重たい温もりある言葉。
 自嘲気味にそう言った俺の台詞に小首を傾げた常春は、そのまま誘われるように俺の細い首筋に顔を近づけた。

 常春は吸い寄せられるように俺の喉仏の膨らみに口付けると、そこから舌を滑らせて鎖骨の窪みに舌を這わせる。

 宝物に触れるように常春が優しく俺の身体を撫でると、それだけで甘美な快楽が背筋を痺れさせ、俺を混乱させた。

 愛なんて戯言だと思っていた。なのに。
 好きな人に触れられる事が、こんなにも気持ちいいなんて……。


「真冬の身体、綺麗だな」


 常春は優しい手付きで俺の胸元を撫でると、うっとりと目を細める。


「っ……、綺麗な訳ないでしょ。傷だらけじゃん……」


 俺は常春を誘うようにベッドの中心に移動して、両腕を伸ばしてハグをねだる。誘われるままにベッドに上がった常春は、腰に巻いたタオルを床に捨てて、俺を腕の中にそっと包むようにして言った。


「真冬は綺麗だよ。例えば、ここ」


 常春はそう言って、既に固く尖った俺の胸の飾りを、軽く摘むようにして刺激する。常春はそのまま尖りの周りをくるくるとなぞるように撫でて、もう一度先端をきゅっと摘んだ。


「……っあぁっ……」


 ゾクゾクとした快楽に俺が小さく息を呑むと、常春は反対の飾りに顔を近づけた。
 常春の髪が胸元に触れて、一瞬のくすぐったさを感じる。少しだけザラついた常春の唇が触れたかと思うと、すぐに中心が温かなぬめりに包まれるのを感じた。
 柔らかくぬめる常春の舌が、固く尖った俺の飾りをチロチロと舐める。



「あ……それ、気持ちいい……」


 俺が小さな声でそう漏らすと、常春は唇を離してくすりと笑った。


「へぇ、素直なんだな」
「……っ。『いやっ! ダメっ!』って言われる方が萌えるタイプ?」


 俺は照れ隠しにそう問うが、見透かされているのだろう。常春は笑って答えた。


「いいや。真冬は素直な方が可愛い」
「っ……。あッ……」


 常春はそう言って、俺の乳首を指で弾く。笑顔のままの常春に再び乳首に舌を這わされれば、俺の口からは吐息のように甘い声が漏れた。

 そのまま常春に両方の乳首を摘まれ、感触を楽しむかのように捏ねられる。ゾクゾクと走る快楽と共に、じんわりとした熱が俺の下半身を熱くしていく。


「んん、ねぇ……常春、キスして」


 常春は俺にねだられるままに口付けて、そのままもう一度首元に舌を這わせる。常春の舌が俺の首元の一点に差し掛かったとき、常春は何かに気付いた。


「……この傷は?」
「ん? ああ……。昔母親の連れてきた男に初めて犯された時、死にたくなって、剃刀で切ったんだ」
「!!」


 常春は一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに優しい顔になって、その古傷をペロペロと舐める。


「他に傷は?」
「え? ……あ。ふ、太もも……内側……。俺を性欲処理に使ってた先輩が、煙草を良く押し付けてきて……」
 

 俺がそう言うと、常春は体を移動させて俺の太ももを持ち上げ、古い火傷の跡にキスをする。一つ一つの跡を慈しむように啄んで、常春は言葉を続けた。


「それから?」
「あっ……。そ、それから……母親に死ねって言われる度に、両腕を剃刀で切って……」


 俺が答えると、常春は両腕のグロテスクなリストカット跡を、躊躇いなく舐める。剃刀で何度も深く刻まれて、ボコボコになってしまった両腕の内側を、線の一本一本までなぞるように舌を這わせた。


「それだけ?」
「んん……っ。この間、手錠で繋がれて、鞭で背中を叩かれて……」


 そう言うと、常春は俺をうつ伏せに寝かせて、背中の裂傷の跡を優しく撫でた。常春はそのまま背筋をなぞる様に指を滑らせると、腰から続く双丘をやんわりと掴んだ。

 じんわりと尻に伝わる常春の体温に、俺はドキリとした。


「ここも、だろ? ……舐めてもいいか?」


 常春は俺の丸みを帯びた二つの丘を優しく撫でながら、その狭間に息づく色濃い部分に指で触れた。


「いい、けど……っ」


 過去に他の男に幾度となくされてきたはずのその行為だったが、それをするのが常春だというだけで、何故だが耐え難いほど恥ずかしい。


 俺は枕を引き寄せて顔を埋めると、赤面した表情が常春にバレないようにしながらそう答えた。
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