【完】真面目で苦労人の長男に、アラサー男が一目惚れした話。

唯月漣

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番外編4)嫉妬と言う名の欲情スイッチ。*(前編)

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「僕、初めては奏さんとが良いなぁ」


 はにかんだ表情でそうねだる可愛い将貴の台詞に、俺は思わずニヤけそうになる顔を気合で引き締めた。
 付き合い始めてもうすぐ一年半経つ俺達。一体何の初めてかって? それは勿論、エッチ…………ではない。


「いいよ。じゃあ、誕生日プレゼントも兼ねて、オニイサンが馴染みの居酒屋で好きな酒を奢ってあげよう」
「わ。ありがとうございます、奏さん! 僕、楽しみにしてますね」


 将貴は照れたように笑って俺にそう言った。

 将貴の言う"初めて"。それは、『初めてのお酒』の事だった。

 今日の話題は、付き合い始めて二回目の将貴の誕生日プレゼントについて。
 二十歳の誕生日を間近に控えた将貴に「プレゼントは何がいい?」と聞いた俺に、将貴から返ってきたのが上記の答えだったと言う訳だ。

 十八歳で出会った将貴も、今年で二十歳。
 まだまだ子供だと思っていた将貴と、一緒に酒が飲める日が来るなんて。何だか感慨深い。


「じゃあ、馴染みの店を予約しておくよ。駅で待ち合わせようか」
「分かりました。それで、その日の夜はその……奏さんの家に泊まってもいいですか?」


 将貴が視線を斜め下に逸らせてそう言うときは、少し勇気を出して俺に甘える時だ。勿論俺はそれに二つ返事でオーケーを出す。


「いーよ。将貴が酔っ払ったら俺が優しく介抱してやるし、ホロ酔いで可愛くベッドに誘ってくれるなら、喜んで誘われてあげよう」


 茶目っ気を含んでわざとそう笑う俺に、将貴が少しだけ視線を上げて「誘いませんっ」と恥ずかしそうに俺を睨みながら呟いた。

 こんな可愛い恋人が、俺の側で笑っていてくれる。ささやかだけれど、とても幸せだ。






***





「きゃーっ、カワイイ~! 将貴君、お酒飲むの今日が初めてなの? あ、ならねぇ、コレ! 美味しいわよ~。店長ー! 九海山を冷やでお願いー!」


 キャッキャとはしゃぎながら馴染みの居酒屋で将貴に話しかけているのは、幼馴染の砂川舞だ。
 その隣には困惑しつつ笑顔を作る将貴。さらにその隣には、げっそりした表情でビールを持つ俺。

 確かに舞には、前々から『奏一郎の彼氏、私にも紹介してよ』としつこくねだられていた。
 彼女は自分が知らぬ間に俺に恋人が出来、なおかつその相手に遊眞だけが会ったことがあるというのが気に入らなかったのだろう。


「ごめんなー、奏一郎。俺がうっかり喋っちまったばっかりに」


 日本酒を運びながら申し訳なさそうに俺に侘びたのは、この店の店長である佐久間さんだ。

 「まったくですよ!」と怒りたいのは山々だったが、彼には大学時代から舞・遊眞と三人で散々お世話になってきた。
 「コレ、お詫びな」なんて言いながら焼き鳥の盛り合わせなんぞを出されてしまっては、俺も怒るに怒れない。


「舞っ、いい加減将貴から離れて……」
「やーだーっ。私も将貴君ともっとお話したいーっ! あっ、分かったぁっ! 奏一郎ってば、ヤキモチ妬いてんでしょぉー!? ねぇねぇ、そうなんでしょーっ!? ラブラブだねーっ」
「なっ!? ちょっ、舞! 声が大きい!!」


 完全にたちの悪い絡み酒状態の舞に俺は慌ててそう言って、手のひらで舞の口を塞ぐ。

 いくら最近はLGBTへの理解が進んできているとはいえ、将貴との関係を見知らぬ店内の客達に知られるのは流石に怖い。


「奏さん、僕は平気ですから……。それより、このタコわさ、美味しいですね」
「おぉ、分かるか? この店の隠れ名物なんだ。店長が生ダコから毎日作ってる自家製なんだよ。この冷奴にかかっているなめ茸も店長の手作りだから、オススメだぞ」
「そうそう。てーんちょー! 冷奴追加ー!」
「…………はぁ」


 俺はすっかり舞のペースになってしまった飲み会に溜息を付きながら、コップに半分ほど残ったビールを煽る。
 せっかくの誕生日デートではあったけれど、初めてのお酒を楽しそうに味わう将貴が笑ってくれているのならば、それもいいか。
 俺はそう思い直して、二人を席に残してトイレに立ったのだった。





***




 
 今思えば、酔いつぶれた舞を送るため、ほんの僅かでも将貴から目を離した俺も良くなかった。けれど、今の俺にはもはやそんな事を謙虚に振り返る心の余裕なんて全くなかった。


「そ、奏さん……? ちょっと、痛い……かもっ」


 俺は戸惑い気味の将貴の手首を掴んで、馴染みの居酒屋を後にした。
 様々な飲食店の看板がカラフルにネオンを光らせる中、俺は大通りから道をそれて、細い路地の間へ入った。
 路地を抜けると、その向こう側は途端に大人の雰囲気漂うスナックやパブ、風俗などの並ぶホテル街に姿を変える。
 
 一軒のお城風の建物の前で立ち止まった俺に、将貴が息を飲むのがわかった。


「ちょっ……! そ、奏さん……?!」


 将貴の戸惑いが、困惑に変わったのが分かる。俺に掴まれた手首を振り払おうとよじるが、もちろん離してやらない。


「俺とラブホに入るのは嫌か?」


 本当はこんな聞き方したくないのに、つい大人気ない聞き方をしてしまった。


「そんな事は言ってな……」
「じゃあ、オーケーってことだな」


 ついつい冷たくそう言い放った俺は、パネルの中から適当な部屋を選び出して将貴の手首を掴んだままホテル内の薄暗い廊下を進む。

 選んだ部屋の前に着いて乱暴にドアを開けると、将貴を抱きあげてベッドの上に放った。


「あっ、待って……靴……っ」


 柔らかなマットレスに弾む体を慌てて起こして、将貴は靴を脱ぐ。


「こんな状況なのに靴の心配? 随分と余裕なんだな」


 俺は低い声でそう言って、将貴の四肢をベッドに組み敷いた。


「あのっ、きっと誤解なんです! お願い、話を……んんんッ」


 なおも言い募ろうとする将貴の唇を、俺は無理矢理キスで塞いだ。
 珍しく抵抗を試みる将貴の腕を押さえつけて、服の上から性急に胸をまさくる。

 緊張と飲酒で汗ばんだ皮膚に貼り付いたシャツが鬱陶しくて、俺は早々に着ていたシャツとセーターを床に脱ぎ捨てた。


「俺が舞を送りに行ってる間、あいつと何を話したんだ?」
「やっ、……あの、自分も実はゲイなんだって言われて、ただ世間話とか、恋愛の話とか……。でも、彼は好きな人が居るから、友達になろうって言われただけでっ」
「ふーん、友達ねぇ。じゃーなんでそいつは俺がいた時に来なかったんだ? 俺だって将貴と付き合ってるし、バイだ」
「わ、分かんないよ……っ」


 そんなことを将貴に言ったってしょうがない。分かっているのに、俺は嫉妬で頭が一杯で、止まることができない。

 将貴の着ていたトレーナーを無理矢理たくし上げた俺は、冷えた指先で胸を飾る小さな粒をきゅっと摘んだ。将貴がビクリと竦むのを見ると、酒の酔いで熱くなった舌を押し当てる。
 ただそれだけなのに、それはまるで未成熟な果実のように固く尖って、いやらしく俺を誘う。


「あっ、やぁ……、まだシャワー……浴びてないっ」
「んっ、将貴の味がする……」


 俺はそう言って、わざとピチャピチャと舌で音を立てるように舐めた。その仕草はまるで獲物を前に興奮する獣のようで、そこに大人の余裕なんてものはない。
 乳首を貪る俺の頭へ恐る恐る両腕を回した将貴は、俺が執拗に吸い付いて軽く歯を立てる度、ビクビクと肩を震わせた。


「奏さん……そこばっかやだ……」


 そう言われて唇を離す。俺が将貴のそこばかりを執拗に舐めたせいで、尖る小さな先端はすっかり赤く熟れていた。


「男を誘ういやらしい乳首だよな。そこばっか嫌ってことは、こっちも弄って欲しいってことか?」
「あ……ちが……ッ」


 将貴の言葉尻を捕まえて、そんな意地悪を言いながら彼の股間をまさぐる。ズボンごしのそこは僅かに火照った芯を持っていて、俺の欲情スイッチをくすぐる。
 布越しに揉むようにして股間に触れられた将貴は、乱れ始めた呼吸で切なそうに眉根を寄せた。


「浮気なんて出来なくなるように、ここは俺だけのものだってこの体に教えてやらなきゃな」
「あっ、やっ」


 俺の手首を掴んで動きを止めようとする将貴に、俺は少しだけイライラする。それはまるで将貴に拒まれているようで、苛つきの中に悲しい気持ちが一筋、混ざった気がした。それを力でなんとか封じ込めて、俺はみっともなく一方的に欲望を押し付ける。


「俺より、若い男が良くなった?」
「えっ? ……ちょっ……」


 元々背もそこそこある上、誰がどう見ても真面目で好青年の将貴は、顔立ちも整っており、きっと普通にモテるだろう。
 そんな将貴が再びされるがままになってくれた事に少しだけ安堵しながら、俺は将貴のズボンをずり下ろす。


「ん、や……っ」


 ひやりとした外気に晒された熱は、それを包んでいた布から解き放たれた勢いで淫靡に揺れる。ようやく温まり始めた手でそれを傷つけないように掴むと、性急に上下に扱きながら口を開く。


「将貴……好きだよ」
「そう、さ……、んんっ」


 互いの口からハァハァと乱れた呼吸がこぼれて、それを塞ぐようにどちらからともなく口づける。熱い舌が絡まって、不意に将貴の手が俺の頬に添えられた。


「ん、将貴……っ、好きだ……っ、ずっとっ……」
「…………ゃ……です」
「え……」
「いや、です……っ」
「ま、将貴……?」


 唇を離した将貴は、睫毛すらも触れそうな間近から俺を真っ直ぐ見つめていた。


「えーっと……?」


 俺の醜い嫉妬心を見た将貴に、俺は本当に嫌われてしまったのだろうか。フリーズしている俺の頬を優しく指で撫でた将貴は、半身を起こして俺に向き直る。


「奏さんがいるのに、他の男がいい訳ないです。奏さんこそ、僕の奏さんを好きな気持ち、分かっていないんじゃないですか?」


 将貴は脱がされかけの服を脱いで、上半身を曝け出す。そのまま俺の手首をぐいっと引っ張ると、体勢を入れ替えて俺をベッドに押し倒した。
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