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16)目覚め。①

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三日三晩ベッドでカヴァに魔力を注ぎ続けた俺は、どうやら魔力切れでいつの間にか気を失っていたらしい。

 途切れ途切れにある記憶の中で、ルナやラング、碧君が替わるがわる看病をしてくれたような気がする。

 ぼんやりと目を開けると、そこにはラングの姿があった。


「うん? 鷹夜さん……お目覚めですか?」


 穏やかな声でそう問われて、俺は目を擦りながらゆっくりとベッドの上の体を起こした。


「エッ!? たっ、鷹夜様ァッ! お目覚めになったのでスカ!?」


 ルナがパタパタと駆け寄ってきて、ベッドの反対側から心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「うわぁぁァン! 鷹夜様がなかなか目を覚まさないので心配しましたよォォ!!!」


 ルナは俺と目が合うなり、大泣きしながらすがりついてくる。俺は大きなリボンのついたルナの頭を優しく撫でてやってから、俺は部屋の中をキョロキョロ見渡した。


「ありがとう、2人とも…………そうだ、カヴァは?!」


 隣に寝ていたはずのカヴァの姿を探して、俺はベッドから立ち上がる。全裸の体に自分の上着を脱いでかけてくれたラングは、何かを答えようと口を開きかけた。


「カヴァは…………」


 その時、不意に部屋のドアが開いて、扉の影から見慣れた人物が現れる。

 ピンク色の髪をお団子に結い上げ、トカゲのような長い尻尾に、奇抜なメイク、そしてピンヒール。
 俺が絶対に助けたかった、その人物は……。


「鷹夜っ……!!」


 カヴァは俺と目が合うなり、手に持っていた花瓶を放り投げて俺にタックル…………もとい、抱きついてきた。


「うぉっ、危なっ!」


 そんな色気の無いリアクションをしてしまった俺だったが、胸の中でボロボロと泣きじゃくるカヴァを見たら、怒る気なんてすぐに削がれてしまった。


「ごめんなさい……鷹夜っ、アタシっ、アタシ…………っ!」


 抱きしめ返したカヴァの体は、僅かに痩せた気がする。けれど、涙に潤む瞳は以前の穏やかな濃茶色にしっかりと戻っていて、俺はほっと胸を撫でおろした。


「見ての通りお互い無事なんだから、もう泣くなよ」
「で、でも……っ!」


 なおも言い募ろうとするカヴァの背中をぽんぽんと撫でながら、俺は笑った。


「ところで俺はどの位眠っていたんだ?」
「鷹夜さんが気を失ってからは一週間が経ちました。カヴァが目を覚ましたのは5日目の事です」


 カヴァの代わりにそう答えたのはラングで、ルナはコップに水を注いで俺のところへ持ってきてくれた。俺は一週間寝たきりだったってことか……。


「鷹夜様、コレどうぞデス」
「ああ。ありがとう、ルナ。因みにあの事件は…………ごふっ!!??」


 ルナから受け取った水を何気なく口に含んだ俺は、その独特な味に思わず吹き出した。


「なっ、ななっ……コレはっ!?」
「それは碧様から差し入れで戴いた、貴重なゼンリツ泉の湧き水デス」
「だからっ! 俺に! 変なものを黙って飲ますなぁっ!!」
「あれー?! お口に合いませんでしタカ?」
「ていうか、そもそも前立腺は俺の中で飲み物じゃねぇ!!!」
「えーっ。本当なら魔王様だけが口に出来る、超貴重なお品ですノニ」
「何度も言うけど、そういう問題じゃねぇっつーの!!!」


 ルナとそんなやり取りをしていたら、ラングとカヴァがクスクスと笑った。


「アタシのせいで、当面の間あちらの世界に帰れなくなってしまってゴメンなさい。責任を取って、あの魔石に鷹夜が帰れる位の魔力が貯まるまで、アナタの身柄はうちのギルドで引き受けようと思うんだけど、いいかしら?」

 カヴァはそう言って一度俺から離れると、その場に跪づいて俺の手をとった。
 カヴァの手の中には小さなギルドタグがキラリと光っていて、その仕草がまるでプロポーズのようで、俺は何だか気恥ずかしい。


「もちろんだよ。乗りかかった船だ。もうしばらく、よろしく頼む」
「ええ。歓迎するわ、鷹夜!」
「鷹夜様ぁー! ルナは嬉しいデス!」
「歓迎しますよ、鷹夜さん」


 涼とも別れてしまったし、3人にこれだけ歓迎してもらえるなら、あちらの世界に帰るのは当面先でもまぁいいか。俺は現金にも、そう思ってしまったのだった。





◇◆◇◆◇◆





 その後俺達は碧君に謁見し、快楽石に魔力が貯まるまでの数年間はギルドで転移者の保護及び、旅をしながら脱落者の救済に励もうと思っている事を報告した。

 俺が眠っていた間に、王都に巣食っていた闇ギルドのメンバーは全て捕縛されたらしい。
 各街のチー・ママへ通達が出たそうだから、他の街の闇ギルドメンバーが捕まるのも、時間の問題だろう。
 地下の幽閉施設から保護された元魔王候補者数十名は、当面の間碧君の保護下に置かれ、体力及び魔力の回復に専念すると言う事だった。
 その後のことは本人と相談して決めるそうだが、希望があれば俺達のギルドを紹介してくれるらしい。

 碧君に魔王としての協力を約束してもらった俺達は、明日の出発を前に、街の中を観光していた。


「王都には、ゲイ族の歴代魔王様の銅像があるんです」


 そう言って向かったのは、魔王城の裏側に位置する広場だった。式典や祭典の際に使われるというこの広場は、タマブラーンの観光名所らしい。


「初代魔王様は、在位50年。初代魔王様は一晩に何度抜いてもなお魔力が尽きない、伝説のエクスカリバーをその股間にお持ちだった、と言われています」
「伝説のエクスカリバー」


 俺は目の前の少年像を台座の下から見上げながら、誇張されているとしか思えない立派なズボンの膨らみをしげしげと見つめた。

 ……うーんと、取り敢えずアーサー王に謝ろうか?
 何度抜いてもって、どんだけ絶倫だったんだよ。
 そんな毎度のツッコミを内心に秘めつつ、俺はふとあることが気になった。


「ちょっと待った。在位50年!? 精通してすぐにこちらへ飛ばされてきたと仮定して、そいつはそこから50年現役だったのか?」


 それにしては、銅像の男は高校生くらいにみえる。よく見れば、歴代魔王像はどれも若い。


「魔王様は魔力を得れば得るほど、徐々に肉体的に一番精力が強かった時に戻ると言われていマス。チン・ギン料理にゼンリツ泉の神水、側室達からの魔力提供……碧様の仰っていた快楽石だって、元は魔王様ご自身が使われるためにあったものなのデス」

 そういえば碧君も、中学生みたいななりで実年齢は40歳を超えているって言っていたような……。そうか、あれは碧君が一番性的に充実していたときの肉体の年齢だったのか……。
 

「勿論魔王様ご自身の魔力も相当な物なんだけど、本来魔王様はご自身の魔力を下々のために使う事など有り得ないの。碧様は元来のご性格がお優しいのでしょうね」


 銅像の前を歩きながらそう語るカヴァは、銅像の最後尾にある碧君の銅像を申し訳なさそうな顔で見上げた。


「ねぇ鷹夜。今夜、アタシと2人っきりでデートしない?」


 不意に振り返ったカヴァが、茶目っ気の交じる笑みでそう言った。


「良いけど。何で2人っきり?」
「ふふ。貴方とどうしても、行きたいところがあるの」


 俺たちのやり取りを聞いていたラングとルナが、カヴァの意図を汲み取ったらしく、アッと僅かに驚いた顔をした。


「な、なんだよ……?」


 俺は怪訝な顔で2人を見たが、2人は楽しそうに目をそらすばかりで教えてくれそうもない。


「今夜には分かるわ」


 カヴァはそう言って、上機嫌に微笑みながら尻尾を揺らした。
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