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14)試される想い。①

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地上へ戻って早々、俺は碧君にカヴァの眠る部屋へと呼び出された。
 寝台で眠るカヴァは、全身にびっしょりと脂汗をかき、眉をしかめて苦しそうだ。カヴァの両手首には相変わらず手枷が付けられており、鎖の先はベッドの上部に固定されている。


「カヴァさんは今、僕の魔力で無理矢理眠らせた状態です。けれど、恐らく眠らせておける限界は近い。まもなく目を覚ましてしまうでしょう。目を覚ませば再び激しく発情し、射精を繰り返して生命力を削られてしまいます。もし目を覚ましても自害されないよう、拘束は解かないほうが良いでしょう」
「ああ。それでどうやったら俺は、カヴァを助けられる?」


 俺はできる限り冷静に、碧君にそう問うた。


「…………カヴァさんは、現在エスジ結蝶の鱗粉を過剰投与され、中毒症状を起こしてトリップ状態に陥っています。今のカヴァさんは、寝具がただ体に触れるだけでも、強い性の衝動を催してしまう状態なのです」
「つまりは、布が擦れただけでも感じちまう……ってことか?」
「平たく言えばそういう事になります。鱗粉が適正量だった場合、ここまで酷いことにはならないのですが」


 そう言って、碧君は懐から真新しい媚薬の小瓶をとりだした。


「本来、媚薬の適正量は一晩で数滴。カヴァさんがどの程度媚薬を飲まされたのかは分かりませんが、彼の瞳には中毒症状を示す強い緋色が表れていましたから、ほぼひと瓶使われたと思って間違いなさそうです」
「緋色の瞳……そういうことか!」


 地下から助け出したとき、カヴァの瞳は真っ赤だった。みんなはそれを知っていて、カヴァを見てあんな反応をしていたのか……。


「結蝶の媚薬はとても強力です。そもそもあれは、魔力を持つ者のための媚薬兼、麻薬のようなものなのです。魔力ある者であれば、媚薬を使うことで、性的興奮を感じた時に出る体液へ流出する魔力が濃くなる。けれど、それが魔力を持たない者であるならば、話は大きく変わってくる」
「ど、どうなるんだ……?」
「魔力を持たぬ者が媚薬を使われれば、限界まで射精した後に体液に流出するのは、生命力……つまり命なのです」
「なんだって!?」
「勿論、普通ならば流出する生命力はごく僅かで、すぐに生命に支障が出るようなことはめったにありません。けれど、過剰投与によって狂わされた身体での射精は、その限りではない」
「っ、まさか……!」


 魔力の代わりに濃い生命力が体液と共に流出し続けたら、カヴァはどうなるか……。
 ーーそんなこと、碧君に聞かずとも、分かりきったことだった。


「けどっ! なんとか出来るんだろ!?」
「ーーーーええ。僕達魔力の強いものならば、カヴァさんを助けられるかもしれない方法が、1つだけあります」


 ベッドで今にも目を覚ましそうなカヴァに視線を落としながら、碧君は真剣な表情で目を閉じた。


「俺にできる事なら、何でもやる」


 それは俺の、決意にも似た宣言だった。
 碧君はそこから揺らがぬ俺の意思を感じ取ったのか、はぁと小さくため息をついてから、再び口を開いた。


「…………鷹夜さんの身体に先程の快楽石の魔力を宿し、鷹夜さんがずっと側でカヴァさんの体に魔力を注ぎ続ければ、あるいはカヴァさんは助かるかもしれません。常にカヴァさんの体内に鷹夜さんの魔力があれば、体液にはカヴァさんの生命力よりも先に鷹夜さんの魔力が流出するはずです。それでカヴァさんの生命力の流出を少しでも抑えることができれば、カヴァさんは助かるかもしれません。……あくまでも、理論上は」
「…………なるほど」

 
 お安い御用、と言いかけた俺の言葉をあっさりと遮ったのは、碧君だ。


「ただし。これは賭けみたいな方法なんです。魔王以外の人間があの石の魔力をその身に宿すこと自体、前例がありません。カヴァさんの飲まされた薬の効果がいつ切れるとも分かりませんし、カヴァさんの生命力や鷹夜さんの潜在魔力量にも大きく左右されます。最悪、2人が共倒れになる可能性だって……」


 碧君は心配そうにそう言って、下唇を噛んだ。


「申し訳ありませんが、僕にはあの石の魔力を鷹夜さんへ移す役割があって、カヴァさんへ魔力を与えるお手伝いはできません。他の街への協力を募り、各街のチー・ママを呼び出すには圧倒的に時間が足りない。そして、僕は……側室を持たない。この件は僕が引き継いだだなんて言っておきながら、カヴァさんを救うには結局鷹夜さんお1人の魔力に頼らざるを得ないのです」
「それでもやる。カヴァの命がかかってんだろ?」


 俺の出した答えを聞いた碧君は、真剣な表情で俺を見つめた。


「本気ですか? 今あの石の魔力を使ってしまえば、あちらの世界には帰れなくなりますよ?」
「2度と帰れなくなるって訳じゃないんだろ? だったら、俺はカヴァの命の方が大事だ」


 そう即答した俺に、碧君はやれやれと言ったふうに肩を竦めた。


「正直言うと、鷹夜さんならそう言うような気がしていました。僕がカヴァさんを抱く事はできませんが、僕もできる限りのバックアップはさせて頂きます」
「ああ、ありがとう……碧君」
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