【完】メスイキTrip！〜メスイキした瞬間フリ○んで異世界に飛ばされて魔王を目指す羽目になるとかちょっと意味が分からない〜

閑話２）フミタカとラング。

「フミタカ様……っ、フミタカ様ぁーーーーっ！」


　その日フミタカは、ごく親しい者たちに見守られながら静かに息を引き取った。
　フミタカが病に倒れてから、僅か半年後の出来事である。

　ラングが主と慕い、敬愛するフミタカが亡くなったのは、今から８年ほど前の事だった。
　当時できたばかりで駆け出しだった小さなギルドは、フミタカの死から１年と保たず、離散することとなった。

　あんなにフミタカを慕っていた転移者達は、上辺ばかりのお悔やみの言葉を告げて、各街へと散り散りになった。
　あちらの世界のゲイ族とはなんと薄情なのだ……。

　やるせない気持ちや深い悲しみを彼らにぶつけそうになったラングを踏みとどまらせたのは、彼の息子であるカヴァと新入りのルナであった。

　フミタカの息子であるカヴァは、当時まだ１７歳になったばかり。数ヶ月前に厨房見習いとしてギルドに来たばかりのルナに至っては、ようやく今年で１２歳だ。
　フミタカの今際の言葉は、ありきたりだが『みんなを頼む』だった。
　ラングはその言葉を守り、ギルドに残ったカヴァとルナを支えながら、この８年間ギルドの再興を目指して新たな転移者をスカウトすべく、各街へ情報収集へ赴いていた。





　ラングは若い頃、とある森で怪我をし動けなくなっていたところを、フミタカに偶然助けられた。
　フミタカが行きずりのラングを拾い、怪我で働けないラングを一ヶ月以上も側に置いてくれた理由が『極度の猫好きだから』だったことには驚いたが。


「ラング……君の耳や尻尾を撫でても良いかな？　君の尻尾は、あちらの世界にいる私の唯一の家族によく似ていてね」


　そう言っていつも優しく耳や尻尾を撫でてくれるフミタカの温かい手。それは今でもラングが忘れられない、フミタカとの大切な思い出の一つだった。


「フミタカ様のあちらのご家族は、私のような猫混じりなのですか？」
「いいや。あちらの世界の住人は全て、私のように獣が混じらぬ者たちだよ。彼は猫だ。けれど、他の人間よりよほど私の事を分かっている賢い子だった。私がある日突然こちらに飛ばされてしまったから、あの子が寂しい思いをしていないと良いのだけれど」


　茶虎模様の長い尻尾をもふもふと嬉しそうに撫でるフミタカに、ラングは苦笑した。


「そうですか……。それはフミタカ様こそお寂しかったでしょう。私で宜しければその……お慰め致しましょうか？」


　それはラングが出した、精一杯のお礼の提案のつもりだった。
　一宿一飯の恩どころか、好意で手当をしてもらい、一ヶ月以上もフミタカに食わせてもらったのだ。
　そのぐらいのお礼で済むとは思っていなかったが、何もしないでいるにはラングの方が申し訳なかったのだ。


「あはは、ラングは義理深いんだね。けど、遠慮しておくよ。こうしてたまに耳や尻尾を撫でさせてくれるだけで、私は十分慰められているから」


　フミタカはそう言って、生涯ラングにただ優しかった。
　怪我が完治してからも側に残りたいと言ったラングに仕事を与え、食事や優しさを与えてくれた。
　彼は、どんなときでも暖かな存在だった。


「フミタカ様…………お慕い申し上げています……」


　ラングがようやくその言葉を口にできたのは、フミタカが亡くなってゆうに１年が経った頃だった。