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6−③

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「わっ、待て、待て! 話せば分かる! 話せば……っ、待て……ああっ、イクっ、イクゥゥゥ!!!」


 翌日。

 ハッテンバーのチー・ママ、ヴァードGは、筋肉質の肉体を震わせて、あっさり俺の手の中に射精した。

 ーーーー所要時間、十数秒。

 まだ服すら脱いでいない俺は、思わぬ形で最短新記録を打ち出した。


 ……というのも、俺はハッテンバーの幸田に教わった魔法とやらを、ほんの少し試してみたのだ。
 意識を集中させると、指先にほんのり温もりが灯るような感覚があった。
 俺は好奇心満々で、その手を使って相手の性器を握った。

 目的を達成するのに必要だったのは、たったの三擦り半。
 いくら四天王中最弱の噂がある男っつったって、これはあんまりじゃなかろうか?
 

「ううう……分かっていたけど、噂通りアンタ強いな。ハナっから、俺なんかが敵う相手じゃねーよ」


 ヴァードGこと、羽鳥吾郎はとりごろうは、勝負のために用意されたベッドに大の字で寝そべった。


「勝負は勝負、俺も男だ。負けたんだから、掘るなりヤルなり、俺を好きにしろっ」
「いやそれ、ほぼ同じ意味だよね」
「なにぃ!? お前まさか、絞り取るパターンがお望みか! それなら……」
「えーと、1回シモの話から離れようか」


 俺は大きなため息を付きながら、ベッドの縁に腰を掛けて羽鳥を振り返った。


「はぁ!!?? この後に及んで、俺を見逃してくれるっつーのか!? アンタ……良いやつだな……!!」
「あー、もう。そもそも、なんで俺がお前とヤラにゃーいかんのだ。俺は元の世界に彼氏が待ってて、1日も早くあっちの世界に帰りたいんだよ!」


 俺がそう答えると、羽鳥は怪訝な表情を作って言った。


「は!? うーん、理解出来ないな……。だってお前はあと1人チー・ママを倒したら、魔王に会える訳だろう? もし負けたって、いずれかの街のチー・ママの席は確実だ。そうなりゃ魔王様ほどじゃないが、側室を侍らせてヤリ放題、くわえ込み放題なんだぞ!?」
「え、そうなのか? だとしても、俺は……」
「まぁ、聞けよ。あっちの世界じゃあ、俺達ゲイは所詮少数派だ。世間に大分認められてきた……なんて言ったって、まだまだ差別されることも多くて生きにくい」


 羽鳥はそう言って、ベッドサイドの棚から葉巻のようなものを取り出し、口に咥えて火を付けた。


「その点こっちの世界には、少なくとも差別はない。こっちの奴等はみんな、『ゲイ族はそういう特性を持った変わった民族だ』ぐらいに思ってる。まして、アンタは強い魔力があるんだろ? だったら、ゲイ族の王になれよ。王になれば立派な城に住んで、好きなだけ男を侍らせることも出来るし、人に蔑まれることもない」


 羽鳥はそう言って口元だけで笑みを作ったが、その目は寂しげだ。
 羽鳥の過去に、何があったのだろう。……いや、特に深堀りする気はないけど。


「……まぁ、考えておけよ。次の北の街のチー・ママは、俺と違って魔王に次いで強い魔力を持つとされている男だ。せいぜいメス顔にされないよう、頑張れよ」
「……………は?」


 俺は羽鳥のやたらと上から目線な言葉に、瞬間的にイラッとした。
 俺はバスタオルを羽織って、部屋の出口に向かう。
 そして振り向きざまに、怒りに任せて捨て台詞を吐いた。


「……黙れ、三擦り半」
「ぶっ……う、うっさいっ! それ、外で言うなよ! 絶っ対、言うなよっ!?」
「どうすっかな」


 なおも言い募ろうとする羽鳥み無視し、俺はニヤ付きながら扉を閉めた。イラッとさせられはするが、羽鳥は何となく憎めない男である。





「あれ? 忘れ物?」


 部屋を出ると、カヴァが壁に寄りかかって俺を待っていた。


「いや、もう終わったよ。勿論勝った。ルナは?」
「買い出しに行くって。どうせ鷹夜の事だから、明日には出立だろうからって」
「俺、めちゃくちゃ信用されてんな」


 俺はそう言って笑い、カヴァの隣の壁に寄りかかった。


「そうねぇ。四天王はあと1人。もうすぐ恋人の元へ帰れるわね。よかったじゃない」


 カヴァはニッコリ笑ってそう言ってくれたが、俺は上手く笑顔を返せずにふぅっとため息をついた。


「……なぁ。俺があっちの世界に帰ってしまったら、お前らは……」
「あーっ! 鷹夜様ぁ! もう勝ったんですか!? これから買い出しに出ようと思っていましたノニ。凄い凄い!!」


 俺の言葉は、遠くから駆けてきたルナの声に掻き消される。

 俺は今、何を言おうとしていた……?
 
 
 ルナの勝利を祝う楽しげな声を聞きながら、俺は自身の心が少しだけ分からなくなっていた。


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