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3)東の都『ゲイバー』と料理人①

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 最初の村を出て、俺はカヴァに道案内されながら街道沿いを半日ほど歩いた。
 この世界は日が3つも出ている割に、過ごしやすい気候だった。
 緑の多いこの世界では、森から街道へと吹く風が爽やかで気持ちがいい。昨日まで東京のコンクリートジャングルにいたなんて、嘘みたいだ。


「このペースなら、夕方にはゲイバーに着けるわよ」


 カヴァは荷物の入った袋を肩に背負い直しながら、俺に向かって明るい表情でそう言った。
 カヴァの言う通り、3つの日が揃って傾き始める頃、街道の奥にはまん丸とした屋根がいくつも並ぶ町並みが見えてきた。


「ゲイバーの街は、あの丸い屋根の建造物がトレードマークなの。2つが対になっていて、民家だと大体片方が居住空間、片方が寝室になっているわ。お店の場合は、片方が店舗で片方が倉庫なんて事もあるけどね。因みに真ん中には炊事用の小さな煙突穴が開いているわ」
「へーえ……。なんか、2つ連なったかまくらみたいだ……な……?」

 ……ちょっと待て。
 俺はかまくらと言いかけたその町並みに、もっと相応しい表現がある事に気がついた。

 ゲイバーのまんまるの屋根は、白だけでなく、ベージュや茶色、黒など、様々な色が存在している。
 そして、2つが対になって……。

 ……そう。尻だ。
 気づいてしまったか最後、俺にはもはやあの屋根が尻にしか見えない。
 右を向いても尻、左を向いても尻。
 デカイやつ、小振りなやつ、筋肉質なやつ、ぷりんぷりんの桃尻。
 そんでもって、真ん中の煙突の穴は…………。


 そこまで考えて、俺は思考を放棄した。
 うん。それは流石に、考えちゃ駄目なやつ!


「あのー……貴方が鷹夜様でしょウカ……?」


 俺が阿呆極まりない考えを振り払っていると、背後に人の気配がした。

 振り返ると同時に、その人物は鈴の転がるような可愛らしい声で俺の名を呼んだ。振り返った俺に向かって、彼はペコリと頭を下げて言った。


「鷹夜様、初めまシテ。私はルナと申しマス。鷹夜様が魔王城まで旅をされる間、カヴァと一緒に王都まで道案内兼、お料理の担当をさせていただきマス!」


 不思議なイントネーションの語尾で喋るルナという人物は、女性と見紛うほどくりくりとした大きな目の、可愛らしい人だった。
 頭に大きなリボンを付け、長いうさぎに似た耳を持つ彼は、かなり小柄で、全体的にふっくらと丸みを帯びた体つきをしている。
 アイドルのような露出の多いフリフリの衣装から伸びた肉付きの良い足には、可愛らしいリボン付きのヒールを履いている。

 ーーーーなぜそんなルナを、俺がひと目で男だと判断できたかって?

 答えは簡単。
 
 ルナは体毛が濃かったのである。
 膝丈のスカートの下からすらりと伸びる両足には、黒のニーソックスかと見紛うほどの、見事な濃ゆい脛毛。こんな剛毛は初めて見た。
 よく見ると、喉仏もくっきり盛り上がっている。
 うん、これは間違いなく男だ。


「た、鷹夜様……?」


 俺が感心しながらルナの脛毛を観察していると、ルナが頬を赤らめて俺に近付いてきた。


「あ、アノ、ソノ……」


 ルナがもじもじと頬を赤らめながら、上目遣いでこちらを見ている。一体なんだろう?
 すると、カヴァが俺の肩を指先でトンと叩いて、耳元に唇を寄せた。


「ルナが気に入ったなら、今夜貴方の寝室に仕えさせましょうか? なんて言ったって、貴方はゲイ族の魔王候補。一晩ぐらい、こっそり口利きしてあげるわよ」
「は、は………!?」


 改めて見ると、知り合ったばかりのルナが、俺の返答に期待するかのような顔でモジモジと俺を見つめていた。
 濃い脛毛にさえ目を瞑れば、ルナは比較的可愛らしい容姿ではあるが……。

 俺は一瞬湧き出てしまったスケベ心に、慌てて蓋をする。

 そうだ、待て待て! 俺には涼という、れっきとした恋人が居るんだ!!
 

「あー、いや。俺彼氏いるし、そういうのは大丈夫だから!」


 俺が慌ててそう答えると、心無しかルナは耳をシュンと萎れさせた。が、すぐに気を取り直したのか、明るい表情でこう言った。


「お2人とも、長旅でお疲れでショ? この先の宿にお部屋をご用意させて頂きまシタ! お食事もお風呂もベッドもご用意しておりますので、よろしければ今宵はそちらへお泊りくだサイ」


 そう言ってルナは、可愛らしいウサギのような尻尾を揺らしながら街中をぴょこぴょこと歩き出した。俺達はルナの後に続いて、色とりどりの尻がたくさん並ぶ町の中を歩く。
 

 ……ありがたい。

 正直、昨日は仕事の帰りに涼と落ち合い、食事にセックスまでやるガッツリコース。
 その後いきなり世界に飛ばされて、森や町を彷徨った挙げ句、ここまで半日の旅だ。
 今日の活動時間は、きっと24時間どころの話ではない。むしろ、寝てないのによくここまで元気だったなと思う。
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