2 / 48
1−②
しおりを挟む 使い魔の背を撫でながら、ラルフは再び語り出す。
最初に向かったのは、海が見える村。魚の漁のために朝早く起きて、船に乗っていく村人たちはたくましく見えたこと、次の目的地は両親が支援している孤児院のある山奥の村。
そこでは子どもたちと村人たちが一緒に畑仕事をしたり、料理をしたりと生きるためのことを教えていた。
「一回だけ、旅の途中で両親にあったよ。ついこの前なんだけどね」
「びっくりしてたんじゃない?」
「うん。思いっきり抱きしめられた」
そのことを思い出したのか、ラルフの目がやさしく細められる。
両親たちとゆっくり話したのはとても久しぶりのことで、とても楽しかったと微笑む姿を見て、アシュリンの心が和む。
とはいえ、普段あまり話さないから、なにから話せばいいのかわからなかったとラルフは後頭部をかいた。
「にゃんでも話せばいいにゃー。親子にゃんだから」
今までずっと黙って歩いていたノワールがアシュリンの足元から、ラルフに声をかけた。彼はノワールに視線を落として目を丸くし、じっとノワールを見つめる。
「会話が続かにゃくても、いいにゃ。ただ『会話したい』という気持ちが大事にゃ」
ノワールはぴょんとアシュリンの肩に跳んだ。そして目線をラルフに移し、ぷにぷにの肉球を見せた。
思わず、ツンと肉球をつつくラルフ。シャー! と怒られたので、肩をすくめる。
「会話したい気持ち、かぁ」
「ラルフが旅に出て、きっとさびしいだろうしね。でも、お互いなにを話せばいいのかわからないみたいな感じなのかも?」
「それはあるかも。……そうだね、今度会ったら、ちょっといろいろ話してみるよ」
アシュリンとノワールはこくりとうなずいた。
きっと、次に会うときにはたくさんの会話を楽しめるだろう、と考えながらワクワクと胸が躍った。だって、それは素敵なことだと思うから。
アシュリンがにまにまと口元を動かしていると、ラルフとルプトゥムが視線を交わしてくすりと笑い声を上げる。
「アシュリンたちのことも話していい?」
「いいよー」
『もちろんです!』
黙っていた本がいきなりしゃべりだした。
本はアシュリンとラルフを囲うようにくるくると動き回り、どこか興奮したように声を張り上げる。
『ボーイ・ミーツ・ガール! 青春ですね!』
「なにそれ?」
「少年が少女に出会うこと……だっけ?」
「それじゃあラルフが主人公になっちゃわない?」
人差し指を口元に添え、ムムムとうなるアシュリンにラルフは本に視線を送る。本はくるくると回り続けていた。
『自分の人生、自分が主人公ですよ!』
「それはそうかもしれないけどー……」
むぅ、と唇をとがらせるアシュリンをたしなめるように、ノワールが肉球を頬に押し付ける。
「それぞれの人生があるんだにゃー」
「にゃー」
ぷにぷにの肉球に頬をゆるませるアシュリン。気持ちを持ち直したのか、ノワールの鳴き真似をした。
最初に向かったのは、海が見える村。魚の漁のために朝早く起きて、船に乗っていく村人たちはたくましく見えたこと、次の目的地は両親が支援している孤児院のある山奥の村。
そこでは子どもたちと村人たちが一緒に畑仕事をしたり、料理をしたりと生きるためのことを教えていた。
「一回だけ、旅の途中で両親にあったよ。ついこの前なんだけどね」
「びっくりしてたんじゃない?」
「うん。思いっきり抱きしめられた」
そのことを思い出したのか、ラルフの目がやさしく細められる。
両親たちとゆっくり話したのはとても久しぶりのことで、とても楽しかったと微笑む姿を見て、アシュリンの心が和む。
とはいえ、普段あまり話さないから、なにから話せばいいのかわからなかったとラルフは後頭部をかいた。
「にゃんでも話せばいいにゃー。親子にゃんだから」
今までずっと黙って歩いていたノワールがアシュリンの足元から、ラルフに声をかけた。彼はノワールに視線を落として目を丸くし、じっとノワールを見つめる。
「会話が続かにゃくても、いいにゃ。ただ『会話したい』という気持ちが大事にゃ」
ノワールはぴょんとアシュリンの肩に跳んだ。そして目線をラルフに移し、ぷにぷにの肉球を見せた。
思わず、ツンと肉球をつつくラルフ。シャー! と怒られたので、肩をすくめる。
「会話したい気持ち、かぁ」
「ラルフが旅に出て、きっとさびしいだろうしね。でも、お互いなにを話せばいいのかわからないみたいな感じなのかも?」
「それはあるかも。……そうだね、今度会ったら、ちょっといろいろ話してみるよ」
アシュリンとノワールはこくりとうなずいた。
きっと、次に会うときにはたくさんの会話を楽しめるだろう、と考えながらワクワクと胸が躍った。だって、それは素敵なことだと思うから。
アシュリンがにまにまと口元を動かしていると、ラルフとルプトゥムが視線を交わしてくすりと笑い声を上げる。
「アシュリンたちのことも話していい?」
「いいよー」
『もちろんです!』
黙っていた本がいきなりしゃべりだした。
本はアシュリンとラルフを囲うようにくるくると動き回り、どこか興奮したように声を張り上げる。
『ボーイ・ミーツ・ガール! 青春ですね!』
「なにそれ?」
「少年が少女に出会うこと……だっけ?」
「それじゃあラルフが主人公になっちゃわない?」
人差し指を口元に添え、ムムムとうなるアシュリンにラルフは本に視線を送る。本はくるくると回り続けていた。
『自分の人生、自分が主人公ですよ!』
「それはそうかもしれないけどー……」
むぅ、と唇をとがらせるアシュリンをたしなめるように、ノワールが肉球を頬に押し付ける。
「それぞれの人生があるんだにゃー」
「にゃー」
ぷにぷにの肉球に頬をゆるませるアシュリン。気持ちを持ち直したのか、ノワールの鳴き真似をした。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件
某千尋
BL
新しい一年に胸を躍らせる裕也には陰キャだった前世の記憶がある。
前世とは正反対の人生を謳歌する裕也は、新しくクラスメイトになった前世の自分そっくりな男、高林が気になってしまって放っておけない。
ついつい高林の世話を焼いてしまって距離が近くなるうち、どうやら高林の様子がおかしいことに気づき始めるが……?
陰キャの皮を被った攻め×前世持ち早とちり陽キャ。
僕に翼があったなら
まりの
BL
僕は気がつけば大きな鳥の巣にいた。これって生まれ変わった? 全てを忘れて鳥として育てられ、とりあえず旅に出る。だけどなんでみんな追いかけて来るの? 派手な魔法も剣での活劇もございませんがたぶん、おそらくファンタジー。注:主人公は鳥に育てられたので実際より精神年齢が低いです★自サイトからの移植です

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる