元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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86)失敗から得たモノ(律火視点)

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「あら嫌だ。お返事がないから中でお倒れにでもなっているのかと思って」
「クローゼットの中に座り込んで、どうなさったんですか? 何かお探しでしたら、私達がお手伝い致しますよ」


 クスクス笑う彼女達を、僕は睨み返す事すら出来なかった。


「さぁさぁ。東條院家の次男ともあろうお方が、床にお座りになるなんていけませんわ」
「やはりお顔の色がお悪いようです。今夜はもう寝室へ行きましょう」

  
 いつまでも床にへたり込んでいる僕の腕を、メイド達が掴む。だけど無理やり立たされそうになった僕を、突然庇う者がいた。


「はい、ストーップ」
「えっ……」
「ねぇ、君達。使用人の立場で、施錠してある主人の部屋に許可なく入るのって、おかしくない?」


 突然どこからか現れたその男は、飄々とした態度で僕と彼女たちの間に割って入った。

 彼女達の手をサラリと払い除けた彼の手には、いつの間にかマスターキーが握られている。
 

「律火さんはもう大人なんだから、プライバシーは守らないと。そう思わない?」
「わ、私達はただ、律火坊っちゃまが体調がお悪そうでしたので心配して……」
「あっそう。じゃーこっから先はボクが引き受けるよ。キミ達はもう下がって」
「ですが……!」
「うん? 何か不満?? 何ならキミ達がさっき律火さんにしてたこと、ボクから水湊坊っちゃまに報告しといてもいいんだけど?」
「それは……! いえ……かしこまりました」
「うん。最初からそう素直に答えればいいんだよ♪」
 
 
 僕には彼が何者かは分からないけれど、彼女達は彼が誰だか分かっているようだった。
 
 彼女達が僕の部屋を後にすると、彼は部屋の鍵を閉めて、人差し指でクルクルとマスターキーを回しながら僕の方へ向き直った。


「ふぅ、ギリギリセーフ。あ、コレ返しておくね。これからは自分で保管した方がいいよ」


 マスターキーを僕に手渡したその男は、考えの読めないタレ目でニッコリと笑った。
 
 
「え、ええと……あなたは?」


 色々なことがいっぺんに起こり過ぎて、状況把握が追いつかない。

 
「あ、申し遅れました。ボクは樫原木葉っていいます。あー……あなたの兄である水湊坊っちゃまの側近、って言えば分かりやすいかな? 今夜は主人に頼まれて、貴方を迎えにあがりました」
「……えっ」


 彼はおもむろに床に膝をつくと、へたりこんだままの僕と視線の高さを合わせて言った。

 
「ねぇ律火さん。この家を出て、貴方の兄である水湊坊っちゃまと一緒に暮らす気はない?」
「……!」


『貴方の兄である水湊坊っちゃま』
 ……今彼は確かにそう言わなかったか?


「ぼ……僕の兄は、水湊さん、と言うのですか?」
「そうだよ。あなたが東條院家に引き取られたあの日からずっと、律火さんのお兄さんは貴方のことを気にかけてた。良かったらこんな家なんて出て、ボクと一緒に来ない?」
「け、けど……」
 

 困惑する僕を前に、樫原さんはニコリと笑顔を作った。

  
「そうは言っても、いきなりボクを信用しろっていうのは無理だろうからさ。まずはコレと交換に、一度僕の主人に……貴方のお兄さんに会ってみない?」
「……!!」


 そう言って彼がポケットから取り出したのは、僕が探していたコインロッカーの鍵だった。
 
 単なるスペアであるはずの僕を助けてくれた兄の目的が分からない。
 
 けれどこの鍵を僕に返してくれるということは、少なくとも彼らは東條院魁斗の手先ではなさそうだ。
  
 樫原さんの話によると、兄には僕の他にもう一人、僕と同じく出自に訳ありの弟がいるのだという。
 
 それを聞いた僕は、兄だけでなく僕と同じ境遇の人物がもう一人いたことに、興味を持った。


「表面上は『兄弟三人でひとつ屋根の下親睦を深め、未来の東條院家を盛り立てていく』のが目的ってことになってる」
「表面上?」
「そう。だけど水湊坊っちゃまはキミの味方だよ。いずれは一番下の弟も味方に引き入れて、兄弟三人である事をしようとしてる。この同居話はその第一歩。律火さんもこのまま一生アイツに飼い殺されたい訳じゃないんでしょ?」


 突然現れた男の言葉に、僕はこくりと頷いた。それを見た男……樫原さんは、白い歯を見せて二ッと笑う。


「まっ。水湊坊ちゃまに会ってみて、気が乗らなかったらこの話は断ってくれて構わないからさ」


 タレ目で飄々とした男の言葉は、風のように軽かった。

 けれども時折彼の目の奥に光っていたのは、恐らく底知れぬ野望のような何かで。

 兄が本当に僕の味方かどうかは正直まだ分からない。けれど、試しに一度だけ兄に会ってみても良いのかもしれない。

 
 そう思ってからは、早かった。




 
 ――――兄と密会したあの日。

 僕は兄弟同居の誘いを、二つ返事で了承したのだった。
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