元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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80)暴かれた出自(律火視点)

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「どうしてみんな、僕に謝るの? お祖母様は何も悪くない。そうでしょう?」


 お祖母様は僕の言葉に困ったような表情をしてから、どこか思い詰めたような様子で口を開いた。

  
「律っちゃん、良く聞いてね。私は多分もう長くない。私が死んだら、あなたは恐らく東條院の本家に引き取られる事になるわ。そうなればきっと、あなたは厳しい道を歩むことになる」
「僕が、東條院の本家に?」
「そう」


 名家である東條院家とはいえど、父は分家の末席の出だ。
 幼少期、本家には盆正月に挨拶に行く程度だったし、そもそも両親はとうに離婚して、僕はこうして母方の祖母に引き取られている。
 
 因みに母親側の親族はと言えば、祖母は早くに夫を亡くしていたし、僕が顔を知っているのは祖母とそのきょうだい程度で、その他の親戚付き合いは僕が知る限り殆どない。
 
 これは当時、母が父との結婚を一族に大反対されていたにも関わらず、それを押し切って父と結婚したからなのだそうだ。
 
 だが祖母だけは、自身が祖父との結婚を母親に反対された経験から、ひっそり母と連絡を取り続けていたらしかった。
 
 だからそんな境遇の僕を引き取りたいと言い出す母方の親戚などいるはずもない。
 
 お祖母様にもしもの事があれば、僕は児童養護施設に行くことになるのだと思っていた。
 
 そんな僕に、何故今更東條院家が……?
 
 突然降って湧いた話に僕の頭は疑問だらけだ。
 ――――けれど。


「……僕が子供である以上、保護者は必要だよ。大丈夫。誰に引き取られる事になっても、きっと上手くやるから。お祖母様は何にも心配しないで」

 
 すっかり弱ったお祖母様に自分の心配をさせる事の方が僕には辛くて。
 僕は精一杯笑顔を作って、病床に伏せるお祖母様の手をそっと握った。
 
 お祖母様は僕の手に自分の手を重ねると、少し考えるような仕草をした後、言葉を選びながら慎重に話を始めた。

 
「上手くやる……か。東條院家は貴方が思うような普通の家ではないわ。律ちゃん……いいえ、律火。まだ子供の貴方にこんな話、私だってしたくない。けれど、貴方は己の出自と東條院家について、私が生きているうちに教えておかなくちゃいけないわよね。今から私がする話をよく聞いていてね」
「はい」
 

 いつも穏やかな祖母は、珍しく真剣な顔をしていた。そんな祖母に倣って、僕は病院のベッドサイドにあった丸椅子の上で背筋を伸ばす。


「そもそも本家にはね、貴方の異母兄弟がいるの」
「イボ兄弟……??」
「異母兄弟。簡単に言うと貴方には、貴方と半分だけ血が繋がっている兄弟がいるってこと」


 この時僕は単純に、父とその再婚相手が僕を引き取りたいと申し出ているのだと思った。

 
「半分だけ……。お父様が本家のどなたかと再婚をなさって、本家にお戻りになったの?」

 
 だがお祖母様は力無く首を横に振った。

  
「――――いいえ、違うわ」
「えっ……。じゃあ一体、誰が僕を……」


 僕の疑問に祖母は溜息をつき、苦虫を噛み潰したような表情で言った。

 
「東條院家の前当主、東條院グループの現会長である東條院魁斗よ」
「前当主……? 何故そんな方が僕を」 
「……。あなたの中には分家の出である父親ではなく、東條院の……東條院魁斗の血が流れているからよ」
「……!!」


 刹那、僕の背筋に冷たい針のようなものが一筋、電流のような衝撃となって走る。
 組み上がってはいけないパズルが、脳内でじわじわと組み上がっていくような感覚だった。
 
 幼少期。
 唐突に始まった両親の喧嘩。
 母の謝罪、その頃を境に僕への態度が変わった父。
 離婚。そして、母の自殺。
 あの日以来、僕が無意識に考えないようにしていた事。 
 そして、脳内で組み上がってしまったパズルの答え合わせを、僕はせずにはいられなかった。
 

「――――つまり。僕がお父様の本当の子供じゃなかったから、二人は離婚して、お母様は自殺してしまったということ?」


 僕の言葉に一瞬ビクリと肩を震わせたお祖母様は、僕の目を見てポロポロと涙を零した。

 
「……ごめんなさい。言えなかったの……。だって貴方は何も悪くないし、こんなにいい子なのに。言えなかった……隠していてごめんなさい」
「…………泣かないで、お祖母様」


 謝りながらも、僕の言葉を否定をしないお祖母様。
 つまりは、そういう事だ。
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