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77)愛情を、あなたに
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うっかりあらぬ妄想をしてしまいそうになった私は、騒ぐ心臓の音が律火様に聞こえていない事を祈った。
「はい。私も律火様がそうなった時には、精一杯……あっ、愛情……をお伝えして、お慰め出来るよう頑張ります。これからも、どうぞよろしくお願いします」
「……!」
愛玩奴隷の私が、主人に対して『愛情』なんて言葉を口にする日が来るなんて。
なんだがムズムズするし、どんどん赤くなっていく頬が熱い。
私は務めていつも通りの表情を装ったつもりだったけれど、律火様は私が口にした愛情という言葉に少し驚いた表情をしたのち、それを見抜くようにクスクスとお笑いになって、抱きしめる手を緩めて下さった。
あらぬ妄想をしてしまった事がバレた気がして、私は気まずさから少しだけ律火様から視線を逸らす。
「ありがとう。日和さんもそんな顔をするんだね。日和さんは本当に可愛いな」
「うう、申し訳ありません。私も一応男ですので、その……」
「ふふ。そうだったね」
やっぱりバレていた……恥ずかしい。
律火様は私の頬にじゃれるようなキスをして、耳のすぐ側で悪戯な声色で囁かれた。
「こんな事言ってるけど、ホントはね。日和さんがそれで安心出来るって言うのなら、いっそ手を出してしまおうかと思ったこともあるんだよ」
「えっ?」
「ふふふ。僕だって男だもの。可愛い日和さんを見て、堪らなくなったことはあるよ。だけどね、日和さんがいつか僕を好きになってくれて、ゴシュジンサマとしてではなく、僕個人に抱かれたいって思ってくれたら一番嬉しいなって思って我慢してる。だから日和さん。これからもいっぱい、僕と仲良くしてね」
「はい」
律火様は悪戯っ子のようにそう仰って、私の鼻の頭にもう一度軽いキスを落としてくださった。
「ああ……いけない。日付が変わりそう。そろそろ電気を消すよ」
律火様は私が頷くのを確認なさると、一度体を離して傍らのベッドサイドランプのスイッチを落とされた。
明かりは出入口の足元灯のみとなった寝室で、律火様はどうやら眠る体勢に入られたようで、小さく欠伸をなさった。
隣に人の温もりがありながら、お勤めを気にする必要のない夜。
幼い兄弟達とくっつきあって眠ったあの温もりを思い出す。
もっとも律火様から見たら、私はきっと弟側だけれど。
とても温かくて安心する。
私と眠っていたあの子たちも、こんな気持ちだったのかな。
そうだったら、良いな。
律火様の寝息を聞きながら、私は穏やかな気持ちで目を閉じた。
***
翌朝。
律火様と詩月様のお見送りを終えた私は、ふと上着のポケットに入れっぱなしだったスマートフォンを手に取った。
そう言えば、昨夜律火様の寝室に行く前にサイレントマナーモードにしたっきりだった事を思い出したからだ。
マナーモードを解除して画面を見ると、そこにはある人物からのメッセージが表示されていた。内容は、『今週末に会いたい』という意外な誘いだ。
「よっ。日和、あさからニヤけてんぞ。なんだ、女か?」
「あ、佐倉さん。おはようございます」
背後からからかうようにそう言った佐倉さんに返事を返した私は、いそいそとスマートフォンをポケットにしまう。
「すみません。部屋に戻るまではお仕事中ですよね」
「あ? ぷっ。なんだその、『家に帰るまでは遠足だ』みたいなの。お前の仕事の時間は終わってんだから、好きにスマホなり電話なりしたらいいじゃねーか。――――で? 相手は女か?」
「ふふふ、ご期待に添えず申し訳ないのですが、お相手は男の子です。私と一緒にあのお屋敷で働いていた愛玩奴隷仲間で」
「へー。日和ってまだあいつらと交流あったのか」
「はい。水湊様が内密にお屋敷の連絡先を児童養護施設に知らせてくれたようで、先日電話を貰って連絡先を交換しました」
「水湊様が? ――――律火様じゃなく?」
「……はい、ええと」
そう言えば、翔夜は『東條院様のお使いの人が来て』としか言っていなかった。
タイミング的に水湊様かと思い込んでしまったけれど、きちんと確認した訳ではない。
黙ってしまった私の髪を、佐倉さんが突然ワシャワシャと撫でた。
「まぁどっちでもいーか。良かったな。あいつら皆元気だったか?」
「はい、お陰様で。あの時は私……てっきり佐倉さんを人攫いかなにかだと思ってしまって。あの日私たちを助けてくれた皆さんに失礼な態度を取ってしまったこと、改めてお詫びいたします」
「はは。良いって良いって。あ、これから朝飯か? なら付き合えよ。お兄さんが特製カフェオレ淹れてやるから」
そう言って佐倉さんは私を伴い、食堂へ向かった。
佐倉さんはいつも私をこうして可愛がってくださって、もし自分に兄がいたらこんな感じだろうかと図々しくも想像してしまう。
朝食を食べながらその話をしたら、佐倉さんは、
「お前無自覚美人なんだから、気をつけろよ。日和に『お兄ちゃん』なんて呼ばれた日にゃ、いくら俺でも変な気ぃ起こしかねないぞ。知らんからな」
と少し顔を赤らめながら笑っていた。
「佐倉さんが信頼出来る方だと言うことは分かっていますから」
そう言って微笑みかけたら、佐倉さんは赤い顔のまま何故だかため息をついていた。
食事を終えた私は、一旦自室に戻る。今夜こそ水湊様がお戻りになるかもしれない。
メールの返信をしたら、夜のお勤めに備えて、仮眠を取る事にしよう。
「はい。私も律火様がそうなった時には、精一杯……あっ、愛情……をお伝えして、お慰め出来るよう頑張ります。これからも、どうぞよろしくお願いします」
「……!」
愛玩奴隷の私が、主人に対して『愛情』なんて言葉を口にする日が来るなんて。
なんだがムズムズするし、どんどん赤くなっていく頬が熱い。
私は務めていつも通りの表情を装ったつもりだったけれど、律火様は私が口にした愛情という言葉に少し驚いた表情をしたのち、それを見抜くようにクスクスとお笑いになって、抱きしめる手を緩めて下さった。
あらぬ妄想をしてしまった事がバレた気がして、私は気まずさから少しだけ律火様から視線を逸らす。
「ありがとう。日和さんもそんな顔をするんだね。日和さんは本当に可愛いな」
「うう、申し訳ありません。私も一応男ですので、その……」
「ふふ。そうだったね」
やっぱりバレていた……恥ずかしい。
律火様は私の頬にじゃれるようなキスをして、耳のすぐ側で悪戯な声色で囁かれた。
「こんな事言ってるけど、ホントはね。日和さんがそれで安心出来るって言うのなら、いっそ手を出してしまおうかと思ったこともあるんだよ」
「えっ?」
「ふふふ。僕だって男だもの。可愛い日和さんを見て、堪らなくなったことはあるよ。だけどね、日和さんがいつか僕を好きになってくれて、ゴシュジンサマとしてではなく、僕個人に抱かれたいって思ってくれたら一番嬉しいなって思って我慢してる。だから日和さん。これからもいっぱい、僕と仲良くしてね」
「はい」
律火様は悪戯っ子のようにそう仰って、私の鼻の頭にもう一度軽いキスを落としてくださった。
「ああ……いけない。日付が変わりそう。そろそろ電気を消すよ」
律火様は私が頷くのを確認なさると、一度体を離して傍らのベッドサイドランプのスイッチを落とされた。
明かりは出入口の足元灯のみとなった寝室で、律火様はどうやら眠る体勢に入られたようで、小さく欠伸をなさった。
隣に人の温もりがありながら、お勤めを気にする必要のない夜。
幼い兄弟達とくっつきあって眠ったあの温もりを思い出す。
もっとも律火様から見たら、私はきっと弟側だけれど。
とても温かくて安心する。
私と眠っていたあの子たちも、こんな気持ちだったのかな。
そうだったら、良いな。
律火様の寝息を聞きながら、私は穏やかな気持ちで目を閉じた。
***
翌朝。
律火様と詩月様のお見送りを終えた私は、ふと上着のポケットに入れっぱなしだったスマートフォンを手に取った。
そう言えば、昨夜律火様の寝室に行く前にサイレントマナーモードにしたっきりだった事を思い出したからだ。
マナーモードを解除して画面を見ると、そこにはある人物からのメッセージが表示されていた。内容は、『今週末に会いたい』という意外な誘いだ。
「よっ。日和、あさからニヤけてんぞ。なんだ、女か?」
「あ、佐倉さん。おはようございます」
背後からからかうようにそう言った佐倉さんに返事を返した私は、いそいそとスマートフォンをポケットにしまう。
「すみません。部屋に戻るまではお仕事中ですよね」
「あ? ぷっ。なんだその、『家に帰るまでは遠足だ』みたいなの。お前の仕事の時間は終わってんだから、好きにスマホなり電話なりしたらいいじゃねーか。――――で? 相手は女か?」
「ふふふ、ご期待に添えず申し訳ないのですが、お相手は男の子です。私と一緒にあのお屋敷で働いていた愛玩奴隷仲間で」
「へー。日和ってまだあいつらと交流あったのか」
「はい。水湊様が内密にお屋敷の連絡先を児童養護施設に知らせてくれたようで、先日電話を貰って連絡先を交換しました」
「水湊様が? ――――律火様じゃなく?」
「……はい、ええと」
そう言えば、翔夜は『東條院様のお使いの人が来て』としか言っていなかった。
タイミング的に水湊様かと思い込んでしまったけれど、きちんと確認した訳ではない。
黙ってしまった私の髪を、佐倉さんが突然ワシャワシャと撫でた。
「まぁどっちでもいーか。良かったな。あいつら皆元気だったか?」
「はい、お陰様で。あの時は私……てっきり佐倉さんを人攫いかなにかだと思ってしまって。あの日私たちを助けてくれた皆さんに失礼な態度を取ってしまったこと、改めてお詫びいたします」
「はは。良いって良いって。あ、これから朝飯か? なら付き合えよ。お兄さんが特製カフェオレ淹れてやるから」
そう言って佐倉さんは私を伴い、食堂へ向かった。
佐倉さんはいつも私をこうして可愛がってくださって、もし自分に兄がいたらこんな感じだろうかと図々しくも想像してしまう。
朝食を食べながらその話をしたら、佐倉さんは、
「お前無自覚美人なんだから、気をつけろよ。日和に『お兄ちゃん』なんて呼ばれた日にゃ、いくら俺でも変な気ぃ起こしかねないぞ。知らんからな」
と少し顔を赤らめながら笑っていた。
「佐倉さんが信頼出来る方だと言うことは分かっていますから」
そう言って微笑みかけたら、佐倉さんは赤い顔のまま何故だかため息をついていた。
食事を終えた私は、一旦自室に戻る。今夜こそ水湊様がお戻りになるかもしれない。
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