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76)愛されているということ
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「言っておくけど、僕は日和さんに魅力がないから抱かない訳じゃないんだよ。日和さんは人として十分魅力的で、みんなに愛されてる。だから僕に抱かれることで自分の存在価値を確認するような悲しい事は、出来ればして欲しくないんだ」
「あ……」
『自分の存在価値を確認するために主人に抱かれる』
ドキリとする言葉だった。
先日仲間達の言っていた『もう抱かれる必要はない』という言葉に、私は気持ちを切り替えることが出来なかった。
やはり愛玩奴隷としてお仕えする以上、叶うならばいつか主人の寝所に呼ばれたい。
一度は諦めたそんな夢を、私は捨てきれなかったのだ。
私は自分が安心するために、主人に抱かれたかった?
だとしたらそれはつまり、私は自分の安心を得るために主人を利用としていた、と言い換えることが出来るのではないか?
私はもしや、とんでもないことをご主人様達にさせようとしていたのでは……。
そう思い至って、私は律火様に慌てて向き直った。
「も、申し訳ありません……! 私は……!」
謝罪のためベッドを出ようとした私の手首を掴み、マイペースな口調でそれを止めたのは他ならぬ律火様だった。
「ストップ」
「でもっ……!」
「いいから、落ち着いて。この話にはまだ続きがあるんだ」
「続き、ですか?」
「うん。聞いてくれる?」
私はこくりと頷いて、腕を引かれるままに穏やかに微笑まれている律火様の腕の中に戻る。
「理屈ではそう思っていても、人間、頭で考えてることと心が思ってる事って必ずしも同じになる訳じゃないじゃない」
「それは……はい」
「知ってる? 子供の心ってね、固まる前のコンクリートみたいな物らしいよ」
「コンクリート……って、道路などを固めたりするアレですか?」
『子供』というワードで私が思い浮かべたのは、児童養護施設にいる仲間達の事だった。
「そう。子供って、どんな変な環境でも順応出来てしまったり、染まってしまいやすいんだ。けど一方で、柔らかいセメントに大きな石を無理やり埋め込まれたまま大人になってしまった子供は、どうなると思う?」
「……! それは……」
今は元気そうに振る舞っている彼らだけれど、目に見えない心の傷は計り知れない。
「――――きっとコンクリートが固まって、その石はその子供の心から取れなくなってしまいます」
新しい環境に順応しているように見える彼らを見て寂しい気持ちになっていた。けれど、それはきっと間違いだ。
彼らにはまだまだ、大人の……私のサポートが必要なはずだ。
そんなことを思っていると、律火様は私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「そうだよね。だから、十八年間『主人に抱かれる事が自分の価値』って石を心に埋め込まれて生きてきた日和さんにとって、この価値観はもはや洗脳に近いと思う」
「……えっ」
突然自分の名前が上がって、私は律火様の方を見た。私と目が合った律火様のお顔は、とても穏やかだ。
「だからね。僕は何とかして日和さんの石を取り除いて、穴を埋めてあげられたらいいなって思ってるんだ。そう簡単に治るようなものではない、って事は分かってるけれど」
「で、ですが」
「それに。セックス自体を悪いことだと言いたい訳じゃない。あれは人が人に、愛を伝えるための行為だもの」
「愛を伝えるための行為……」
「そう。だからね、日和さん。今後どうしても不安になってしまったら、僕のところにおいで。日和さんの存在価値を確認するためじゃない。僕から日和さんへの愛をたっぷり伝えてあげる。今夜のお礼も兼ねて、とびっきり甘やかして、慰めて。日和さんは僕に愛されてるんだって分からせてあげるから」
再びぎゅっと私を抱きしめてくださった律火様は、私の耳元に唇を寄せると小さな声でそう囁かれた。
普段から私をとても甘やかし、沢山可愛がってくださる律火様。
そんな律火様が『とびっきり』と仰るのだから、きっと何やら凄いことをして下さるのかもしれない。
「あ……」
『自分の存在価値を確認するために主人に抱かれる』
ドキリとする言葉だった。
先日仲間達の言っていた『もう抱かれる必要はない』という言葉に、私は気持ちを切り替えることが出来なかった。
やはり愛玩奴隷としてお仕えする以上、叶うならばいつか主人の寝所に呼ばれたい。
一度は諦めたそんな夢を、私は捨てきれなかったのだ。
私は自分が安心するために、主人に抱かれたかった?
だとしたらそれはつまり、私は自分の安心を得るために主人を利用としていた、と言い換えることが出来るのではないか?
私はもしや、とんでもないことをご主人様達にさせようとしていたのでは……。
そう思い至って、私は律火様に慌てて向き直った。
「も、申し訳ありません……! 私は……!」
謝罪のためベッドを出ようとした私の手首を掴み、マイペースな口調でそれを止めたのは他ならぬ律火様だった。
「ストップ」
「でもっ……!」
「いいから、落ち着いて。この話にはまだ続きがあるんだ」
「続き、ですか?」
「うん。聞いてくれる?」
私はこくりと頷いて、腕を引かれるままに穏やかに微笑まれている律火様の腕の中に戻る。
「理屈ではそう思っていても、人間、頭で考えてることと心が思ってる事って必ずしも同じになる訳じゃないじゃない」
「それは……はい」
「知ってる? 子供の心ってね、固まる前のコンクリートみたいな物らしいよ」
「コンクリート……って、道路などを固めたりするアレですか?」
『子供』というワードで私が思い浮かべたのは、児童養護施設にいる仲間達の事だった。
「そう。子供って、どんな変な環境でも順応出来てしまったり、染まってしまいやすいんだ。けど一方で、柔らかいセメントに大きな石を無理やり埋め込まれたまま大人になってしまった子供は、どうなると思う?」
「……! それは……」
今は元気そうに振る舞っている彼らだけれど、目に見えない心の傷は計り知れない。
「――――きっとコンクリートが固まって、その石はその子供の心から取れなくなってしまいます」
新しい環境に順応しているように見える彼らを見て寂しい気持ちになっていた。けれど、それはきっと間違いだ。
彼らにはまだまだ、大人の……私のサポートが必要なはずだ。
そんなことを思っていると、律火様は私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「そうだよね。だから、十八年間『主人に抱かれる事が自分の価値』って石を心に埋め込まれて生きてきた日和さんにとって、この価値観はもはや洗脳に近いと思う」
「……えっ」
突然自分の名前が上がって、私は律火様の方を見た。私と目が合った律火様のお顔は、とても穏やかだ。
「だからね。僕は何とかして日和さんの石を取り除いて、穴を埋めてあげられたらいいなって思ってるんだ。そう簡単に治るようなものではない、って事は分かってるけれど」
「で、ですが」
「それに。セックス自体を悪いことだと言いたい訳じゃない。あれは人が人に、愛を伝えるための行為だもの」
「愛を伝えるための行為……」
「そう。だからね、日和さん。今後どうしても不安になってしまったら、僕のところにおいで。日和さんの存在価値を確認するためじゃない。僕から日和さんへの愛をたっぷり伝えてあげる。今夜のお礼も兼ねて、とびっきり甘やかして、慰めて。日和さんは僕に愛されてるんだって分からせてあげるから」
再びぎゅっと私を抱きしめてくださった律火様は、私の耳元に唇を寄せると小さな声でそう囁かれた。
普段から私をとても甘やかし、沢山可愛がってくださる律火様。
そんな律火様が『とびっきり』と仰るのだから、きっと何やら凄いことをして下さるのかもしれない。
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