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74)そのお誘いは突然に
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けれどその時、律火様付きの執事が部屋に戻ってきてしまい、私はつい口を噤む。
「あ……では、私はお風呂のご用意して参りますので、これで」
そう言ってそそくさと立ち去ろうとする私を呼び止めたのは、他ならぬ律火様だった。
「日和さん。お風呂の準備が終わったら、今夜は泊まりの準備をして僕の部屋に来て欲しいんだけど……いいかな」
「……!」
不意に出た、律火様からの夜のお誘い。
律火様は体調が悪くて屋敷にお戻りになったはずなのに、何故……?
もしかして、今宵は水湊様とのお約束が守られぬと知って落ち込んだ私を、要因を作った自分が代わりに慰めようとして下さっている……とか?
ご自身も頭痛でお辛いはずなのに。お優しい律火様ならば、十分有り得る話だ。
一瞬変に期待をしてドキッとしてしまったけれど、そう思い至った私は、今度は努めて冷静を装って口を開いた。
「律火様。お誘いは嬉しいのですが、今夜は律火様のお体に障ります。どうかまたの機会に」
そう申し出た私に、律火様は少しキョトンとした後クスリと微笑まれた。
「ふふ、違う違う。日和さんってさ、マッサージが得意なんでしょう?」
「あ、はい。独学ではありますが、一応。ですが、律火様が何故それを?」
「ふふ。兄さんが心配してくれてね、帰り際に『日和にマッサージを頼むといい。少しは頭痛が緩和されるかもしれない』って教えてくれたんだ」
「――――!」
水湊様が会社で律火様にそんな風に私のことを話して下さっていたと知って、私は現金にも嬉しさに頬が緩む。
「『日和のマッサージのおかげで、自分は長年悩まされていた頭痛が軽くなったから』って」
「そうだったのですね」
水湊様はあまり口数が多い方ではないので、マッサージ後の体調について聞いたのは初めてだったが、どうやら私はお役に立てていたらしい。
その事実が嬉しくて、私はついつい綻ぶ頬を抑えきれない。
「うん。それに日和さんにちょっと話したい事もあったし。そんな訳だからマッサージの後、そのまま添い寝をお願い出来る? 出来れば朝まで一緒にいて欲しいな」
「そういう事でしたら、そのお誘い是非お受けいたします。よろしくお願いします」
私が微笑んでそう言うと、律火様も釣られるように微笑みを返してくださった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。……ふふ。エッチなお誘いじゃなくてごめんね?」
律火様が少し茶目っけを出してそう微笑まれたので、私はどう返して良いか困ってしまう。
「あ……ええと。こちらこそ申し訳ありません」
最初のやり取りで、夜のお誘い=性的な誘い、と思い込んでいた自分が恥ずかしい。頬が勝手に赤くなるのを自覚して、私は頭を下げて表情を隠す。
すると律火様は妖艶に目を細められて、私の手を引き寄せる。吐息がかかるほど私の耳元に唇を寄せて、耳孔に吐息を吹き込むように囁かれた。
「日和さん、本当に可愛い。そっちのお誘いは、僕が元気になったらまた……ね」
「えっ……」
律火様はそう仰って、私から体を離していつものように微笑まれた。
「今夜は可愛い日和さんにいっぱいいーっぱい、癒されたい気分なんだ。マッサージ、楽しみにしてるから」
「――! は、はい……」
「うん。じゃあ、後で」
いつもほんわかとお優しい律火様。
そんな律火様の先程の妖艶な声音があまりに色っぽくて……。恥ずかしさも相まって、しばらくの間私は心臓の早鳴りが止まらなかった。
支度を終えてお尋ねした律火様の寝室は、先程私が用意したアロマがふわりと漂っていた。
いつも着せ替え人形のように様々なコスチュームを私に着せては、可愛い可愛いと一方的に私を撫で触ることが多い律火様。
そんな律火様のお体にこちらから触れるのは、何だか少しだけ緊張する。
湯上りのバスローブ越しに背中へ手を乗せると、硬くなった筋肉をゆっくりと解していく。
凝っていたのは水湊様と同じ肩甲骨とその周りの筋肉で、私は優しく二の腕を背中側へ持ち上げながら、背中に浮き上がる筋を指の腹で揉んだ。
「痛くはありませんか?」
「うん、とても気持ちいいよ。アロマや頭痛薬も効いて、今はだいぶ楽になってきた」
「ふふっ。それは良かったです。次は鎖骨に繋がる首の筋を解していきますね」
「ん……」
律火様と水湊様はあまり似ていないと思っていたけれど、律火様の背中の形やうなじ、腰付きや骨格が水湊様に良く似ている。
姿勢も似ているらしく、凝っている箇所もほぼ同じだ。
もしや、揉まれて気持ちの良い所も一緒だったりするのだろうか?
「あ……では、私はお風呂のご用意して参りますので、これで」
そう言ってそそくさと立ち去ろうとする私を呼び止めたのは、他ならぬ律火様だった。
「日和さん。お風呂の準備が終わったら、今夜は泊まりの準備をして僕の部屋に来て欲しいんだけど……いいかな」
「……!」
不意に出た、律火様からの夜のお誘い。
律火様は体調が悪くて屋敷にお戻りになったはずなのに、何故……?
もしかして、今宵は水湊様とのお約束が守られぬと知って落ち込んだ私を、要因を作った自分が代わりに慰めようとして下さっている……とか?
ご自身も頭痛でお辛いはずなのに。お優しい律火様ならば、十分有り得る話だ。
一瞬変に期待をしてドキッとしてしまったけれど、そう思い至った私は、今度は努めて冷静を装って口を開いた。
「律火様。お誘いは嬉しいのですが、今夜は律火様のお体に障ります。どうかまたの機会に」
そう申し出た私に、律火様は少しキョトンとした後クスリと微笑まれた。
「ふふ、違う違う。日和さんってさ、マッサージが得意なんでしょう?」
「あ、はい。独学ではありますが、一応。ですが、律火様が何故それを?」
「ふふ。兄さんが心配してくれてね、帰り際に『日和にマッサージを頼むといい。少しは頭痛が緩和されるかもしれない』って教えてくれたんだ」
「――――!」
水湊様が会社で律火様にそんな風に私のことを話して下さっていたと知って、私は現金にも嬉しさに頬が緩む。
「『日和のマッサージのおかげで、自分は長年悩まされていた頭痛が軽くなったから』って」
「そうだったのですね」
水湊様はあまり口数が多い方ではないので、マッサージ後の体調について聞いたのは初めてだったが、どうやら私はお役に立てていたらしい。
その事実が嬉しくて、私はついつい綻ぶ頬を抑えきれない。
「うん。それに日和さんにちょっと話したい事もあったし。そんな訳だからマッサージの後、そのまま添い寝をお願い出来る? 出来れば朝まで一緒にいて欲しいな」
「そういう事でしたら、そのお誘い是非お受けいたします。よろしくお願いします」
私が微笑んでそう言うと、律火様も釣られるように微笑みを返してくださった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。……ふふ。エッチなお誘いじゃなくてごめんね?」
律火様が少し茶目っけを出してそう微笑まれたので、私はどう返して良いか困ってしまう。
「あ……ええと。こちらこそ申し訳ありません」
最初のやり取りで、夜のお誘い=性的な誘い、と思い込んでいた自分が恥ずかしい。頬が勝手に赤くなるのを自覚して、私は頭を下げて表情を隠す。
すると律火様は妖艶に目を細められて、私の手を引き寄せる。吐息がかかるほど私の耳元に唇を寄せて、耳孔に吐息を吹き込むように囁かれた。
「日和さん、本当に可愛い。そっちのお誘いは、僕が元気になったらまた……ね」
「えっ……」
律火様はそう仰って、私から体を離していつものように微笑まれた。
「今夜は可愛い日和さんにいっぱいいーっぱい、癒されたい気分なんだ。マッサージ、楽しみにしてるから」
「――! は、はい……」
「うん。じゃあ、後で」
いつもほんわかとお優しい律火様。
そんな律火様の先程の妖艶な声音があまりに色っぽくて……。恥ずかしさも相まって、しばらくの間私は心臓の早鳴りが止まらなかった。
支度を終えてお尋ねした律火様の寝室は、先程私が用意したアロマがふわりと漂っていた。
いつも着せ替え人形のように様々なコスチュームを私に着せては、可愛い可愛いと一方的に私を撫で触ることが多い律火様。
そんな律火様のお体にこちらから触れるのは、何だか少しだけ緊張する。
湯上りのバスローブ越しに背中へ手を乗せると、硬くなった筋肉をゆっくりと解していく。
凝っていたのは水湊様と同じ肩甲骨とその周りの筋肉で、私は優しく二の腕を背中側へ持ち上げながら、背中に浮き上がる筋を指の腹で揉んだ。
「痛くはありませんか?」
「うん、とても気持ちいいよ。アロマや頭痛薬も効いて、今はだいぶ楽になってきた」
「ふふっ。それは良かったです。次は鎖骨に繋がる首の筋を解していきますね」
「ん……」
律火様と水湊様はあまり似ていないと思っていたけれど、律火様の背中の形やうなじ、腰付きや骨格が水湊様に良く似ている。
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