元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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69)魔性の男?【前編】(佐倉視点)

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 襲来の知らせにより深夜に叩き起こされた俺達は、約半日ほど、通常業務そっちのけで対応に追われた。

 午後になりあの男がようやく帰って、水湊様へ連絡を入れた木葉このはは、ちゃっかり残りの業務を俺に押し付け仮眠を取りに行った。
 
 水湊様が藤倉日和を伴って帰宅されたのは、いよいよ俺に睡魔が押し寄せていた夕刻だった。

「お帰りなさいませ、水湊坊ちゃん」
「ん? 佐倉一人か」
「ええ。木葉は今、仮眠を取っています」
「そうか。疲れているところすまないんだが、日和を部屋へ運ぶのを手伝ってくれないか。さっきまでは起きていたんだが」
「……はぁ」


 そう言って水湊様が視線を送られたのは、水湊様がプライベートで乗られている高そうなスポーツカーの助手席だ。
 
 あの男から身を隠すため、水湊様に連れられて深夜屋敷を出たはずの日和は、高級車の助手席で、水湊様の上着にその身を包み、ぐっすりと眠っていた。
 
 水湊様がご自身のプライベート車で出かけたのは、社有車の全てにGPSが搭載されているからだろう。そこまでは分かる。
 だが日和は使用人なのだから、今は普通に揺り起こして自ら歩かせればいいのに。何故……。
 
 そう思いながらも、夜勤の最中拉致に近い形で丸一日外へ出た日和もまた、俺たち同様に疲れたのだろう。
 そう思い直した俺が日和を担ぐため、脇の下へ手を差し入れたその時。


「……っ!?」


 彼の首筋に付けられたばかりのキスマークを見つけた俺は、その鮮明な赤い痕を思わず二度見した。
 
 この状況を考えれば、コレを付けたのは当然水湊坊っちゃまという事になる訳で……。




  
 余談だが、ここの坊ちゃん達は生い立ちの関係でみなそれぞれが女嫌いだ。
 俺は水湊坊ちゃまが思春期の頃からこのお屋敷に勤めているが、三人ともが家柄良しで容姿端麗にも関わらず、一度たりとも浮いた話がない。
 
 なんなら色恋沙汰どころか、この屋敷に雇われる者たちは俺も含めほぼ全て男で統一されているし、屋敷内は俺たち従業員の家族……小さな子供や老女であっても、女人禁制だ。

 こうまで徹底しているのだから、坊っちゃま達の女嫌いは相当なものだと思う。
 
 三男の詩月様は、若さからか強い性欲を持て余すことが稀にあった。
 だがそれを満たすために部屋へ呼ばれるのはいわゆる男娼……つまり恋人ですらない、そういった欲望を後腐れなく処理するための男だった。
 決して褒められたことではないが、男の恋人を取っかえ引っ変えやるより、リスク管理としては正解だろうとの律火様のご判断だ。

 なので、同性もイケるらしい詩月様が面白がって藤倉日和に手をつけた……というのなら、まだ話が分からないでもない。
 
 律火様はそういった欲を外で処理されているのか、家の中でそれを見せる気配は無い。だが元々可愛いものやペットへのスキンシップがお好きな方なので、まぁ容姿の良い日和ならばキスマーク程度はありえなくもないかなー……と思える。
 ――――だが。
 
 水湊様が同性を性的対象としているなんて話は、俺の記憶にある限りはなかったはずだ。


 俺と水湊様に担がれてなお、すやすやと気持ちよさそうな寝息を立てる藤倉日和。
 好奇心からチラリと隣を見た俺は、優しい顔で藤倉日和を見つめている水湊様に視線に気づいてしまって、大慌てで視線をそらした。
 なんかこう、見ちゃいけないモノを見ちまった気分ってやつだ。
 
 確かに藤倉日和は、少年愛者であった土谷田が成人後も唯一コレクションとして側に置いていただけの事はあって、本当に美しい顔立ちをしている。
 
 立ち振る舞いはそこはかとなく上品だし、真面目だが謙虚でどこか世間知らずな所は、男の保護欲と劣情の両方を掻き立てるような、言葉にはし難い色っぽさを纏っていた。
 
 ――にも関わらず。
 積極的に男を誘惑して器用に世渡りする訳でもなく。どちらかと言うと彼は少し不器用そうに見えた。
 そして彼は主人である三人の坊っちゃま達への忠義に厚い。
 
 そんな勤勉で真面目、かつ控えめな性格であるため、藤倉日和は屋敷にやってきてほんの一ヶ月半で、既に屋敷に使えるほぼ全ての者達から好かれていた。
 
 妻と連れ添って五十数年らしい庭師の老爺じーさんでさえ、藤倉日和に微笑みかけられると惚れてしまいそうになると言うんだから末恐ろしい。
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