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68)私の願いは
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「も、申し訳ございません……」
『あざとい』という言葉が褒め言葉では無いことは勿論分かる。
水湊様が寝顔を見せて下さったり、プライベートなお話をして下さったことが嬉しくて、私は少し調子に乗ってしまったかもしれない。
「あ、あのっ。本当に他意はなかったのです。今のお話はどうぞお忘れくだ……」
「まぁ、短時間程度の休憩なら見つかる心配もないか。日和の必死さに免じて、今日のところは誘われてやってもいい」
「――――へっ?」
「残りの時間は日和と一緒に寝ることにする、と言っている」
予想外の返答にポカンとしている私をよそに、車はするりと道を外れてそのホテルへと入った。
エロティックな内装を見た私が『恋人達が休憩に使う安ホテル』の意味を知って、大慌したのはまた別の話なのだけれど……。
その後水湊様は疲れた様子でシャワーお浴びられたあと、私を抱き枕にして本当に眠ってしまわれた。
寝顔どころか耳元で聞こえる水湊様の寝息に、私の心臓はドキドキと早鳴った。けれど、それと同時に伝わる体温の温かさが嬉しくて、私は思わず頬が緩む。
このホテルは外見に似合わず防音がしっかりとしているらしく、波の音は全く聞こえない。けれども水湊様は私を腕の中に収めて、ぐっすりと深い眠りに着いているご様子だ。
今水湊様が眠れているのは、私が側に居るから……? なんて……。
今日だけは、少しだけ。
そう自惚れてもいいのかな……。
「お休みなさいませ、水湊様」
そう小さく呟いて、私も目を閉じた。
水湊様と律火様の間に過去に何があったのかは分からない。けれど、私を抱きしめて眠って下さるお二人の仕草は本当にそっくりで。
お優しいところもまた、そっくりだ。
水湊様は『利害の一致』と仰っていたけれど、本当に律火様と詩月様も同じお考えなのだろうか。
私には、とてもそうは思えない。何か誤解がある気がするのだけれど……。
――――数時間後。
「――より、日和。起きてくれ」
「……んんっ……」
水湊様の掠れたバリトンボイスで目覚めた私は、自分が思いの外ぐっすり眠ってしまっていたことに気がついた。
「そろそろ屋敷に戻る。支度をしてくれ」
「――! か、かしこまりました」
目を開けた瞬間どアップの水湊様の整ったお顔があって、寝起きの気怠げなその艶っぽさにドキリとしてしまう。
「お眠りになれましたか?」
「ああ。おかげで気分がいい。こんなにぐっすり眠れたのは数年ぶりだな」
「それは何よりです。私も水湊様のお側で寝られて幸せでした」
「……」
そう言って起き上がろうとした私をベッドに縫い留めたのは、他ならぬ水湊様の両腕だった。
水湊様の両腕が私に絡み、ピッタリと密着した肌を温もりが伝う。
「本当にそう思っているか?」
「――?? はい、もちろんです。マッサージも良いですが、愛玩奴隷である以上、こうして主人のお側に置いて頂けて、お役に立てることが何よりの幸せですから」
「そんなことがお前の『何よりの幸せ』なのか……」
そう答えられた水湊様は、不意にお顔を私の胸元に埋めるようにされた。かと思うと、ツンと熱い感覚が私の皮膚を伝う。
「ならばこのキスマークが消える前に、日和をまた寝所に誘う。睡眠が大事であることもそうだが、私と一緒にあの家で過ごしたいと言ってくれたお前という存在に、興味が湧いた」
「あ、ありがとうございま……」
「――もっとも。次は添い寝だけで済ませる、とは限らないがな」
「えっ?」
悪戯にそう笑った水湊様は、再び私を抱き寄せた。
性的なことをされた訳でもないのに、何故だかドキドキと心臓が騒いで、体がほんのりと火照る。水湊様の大きな手が私の背を撫でて、そのまま下へ滑った。腰の近くのゾクリとする一点を探り当てると、煽るように指の先でくすぐっていく。
「次は楽しい夜にしよう。お仕置きではなく、日和を沢山愛玩する夜に。なんと言っても、お前は愛玩奴隷なのだから」
そう仰った水湊様は、いつものクールな笑みを浮かべながらするりと腕を解いて私を解放した。何事も無かったように起きて身支度をされる水湊様に、私も慌てて体を起こす。
車に戻る頃には水湊様はいつもの水湊様に戻っていて、まるで夢でも見たんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。
けれど、ミラーに映る私の首元には、襟に隠れるようにひっそりと赤いキスマークが覗く。
このキスマークが消える前に、水湊様と……。
私は何度も指で赤い痕をなぞりながら、無意識に緩んでしまう表情を水湊様に悟られぬよう、ひたすら窓の外を見ていた。
『あざとい』という言葉が褒め言葉では無いことは勿論分かる。
水湊様が寝顔を見せて下さったり、プライベートなお話をして下さったことが嬉しくて、私は少し調子に乗ってしまったかもしれない。
「あ、あのっ。本当に他意はなかったのです。今のお話はどうぞお忘れくだ……」
「まぁ、短時間程度の休憩なら見つかる心配もないか。日和の必死さに免じて、今日のところは誘われてやってもいい」
「――――へっ?」
「残りの時間は日和と一緒に寝ることにする、と言っている」
予想外の返答にポカンとしている私をよそに、車はするりと道を外れてそのホテルへと入った。
エロティックな内装を見た私が『恋人達が休憩に使う安ホテル』の意味を知って、大慌したのはまた別の話なのだけれど……。
その後水湊様は疲れた様子でシャワーお浴びられたあと、私を抱き枕にして本当に眠ってしまわれた。
寝顔どころか耳元で聞こえる水湊様の寝息に、私の心臓はドキドキと早鳴った。けれど、それと同時に伝わる体温の温かさが嬉しくて、私は思わず頬が緩む。
このホテルは外見に似合わず防音がしっかりとしているらしく、波の音は全く聞こえない。けれども水湊様は私を腕の中に収めて、ぐっすりと深い眠りに着いているご様子だ。
今水湊様が眠れているのは、私が側に居るから……? なんて……。
今日だけは、少しだけ。
そう自惚れてもいいのかな……。
「お休みなさいませ、水湊様」
そう小さく呟いて、私も目を閉じた。
水湊様と律火様の間に過去に何があったのかは分からない。けれど、私を抱きしめて眠って下さるお二人の仕草は本当にそっくりで。
お優しいところもまた、そっくりだ。
水湊様は『利害の一致』と仰っていたけれど、本当に律火様と詩月様も同じお考えなのだろうか。
私には、とてもそうは思えない。何か誤解がある気がするのだけれど……。
――――数時間後。
「――より、日和。起きてくれ」
「……んんっ……」
水湊様の掠れたバリトンボイスで目覚めた私は、自分が思いの外ぐっすり眠ってしまっていたことに気がついた。
「そろそろ屋敷に戻る。支度をしてくれ」
「――! か、かしこまりました」
目を開けた瞬間どアップの水湊様の整ったお顔があって、寝起きの気怠げなその艶っぽさにドキリとしてしまう。
「お眠りになれましたか?」
「ああ。おかげで気分がいい。こんなにぐっすり眠れたのは数年ぶりだな」
「それは何よりです。私も水湊様のお側で寝られて幸せでした」
「……」
そう言って起き上がろうとした私をベッドに縫い留めたのは、他ならぬ水湊様の両腕だった。
水湊様の両腕が私に絡み、ピッタリと密着した肌を温もりが伝う。
「本当にそう思っているか?」
「――?? はい、もちろんです。マッサージも良いですが、愛玩奴隷である以上、こうして主人のお側に置いて頂けて、お役に立てることが何よりの幸せですから」
「そんなことがお前の『何よりの幸せ』なのか……」
そう答えられた水湊様は、不意にお顔を私の胸元に埋めるようにされた。かと思うと、ツンと熱い感覚が私の皮膚を伝う。
「ならばこのキスマークが消える前に、日和をまた寝所に誘う。睡眠が大事であることもそうだが、私と一緒にあの家で過ごしたいと言ってくれたお前という存在に、興味が湧いた」
「あ、ありがとうございま……」
「――もっとも。次は添い寝だけで済ませる、とは限らないがな」
「えっ?」
悪戯にそう笑った水湊様は、再び私を抱き寄せた。
性的なことをされた訳でもないのに、何故だかドキドキと心臓が騒いで、体がほんのりと火照る。水湊様の大きな手が私の背を撫でて、そのまま下へ滑った。腰の近くのゾクリとする一点を探り当てると、煽るように指の先でくすぐっていく。
「次は楽しい夜にしよう。お仕置きではなく、日和を沢山愛玩する夜に。なんと言っても、お前は愛玩奴隷なのだから」
そう仰った水湊様は、いつものクールな笑みを浮かべながらするりと腕を解いて私を解放した。何事も無かったように起きて身支度をされる水湊様に、私も慌てて体を起こす。
車に戻る頃には水湊様はいつもの水湊様に戻っていて、まるで夢でも見たんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。
けれど、ミラーに映る私の首元には、襟に隠れるようにひっそりと赤いキスマークが覗く。
このキスマークが消える前に、水湊様と……。
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