元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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60)寒空ドライブ

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「お二人はお付き合いが長くて、とっても仲良しだってことは分かりました」
「ちょ、違っ……!」
「ふふ。樫原さんと佐倉さんが良く気にかけてくださるので、私も毎日働きやすいです。お二人とも、いつもありがとうございます」
「うう……」
「そう? それは良かった」
 
 楽しそうに微笑む樫原さんは、驚いた様子の佐倉さんと顔を見合せたあと、そう答えた。
 佐倉さんは何故か不満げだけど、私から見たら彼らはなかなかにいいコンビだと思う。
 すると佐倉さんは少し困ったような顔で言った。


「ううーん。そう素直に礼を言われると罪悪感が。白状すると、実は俺、最初はてっきり日和が土谷田んとこの使用人だと思ったんだよ。お前、見た目デカいだろ?」
「あー、確かに。あの屋敷にいた他の子達は、皆小さい子ばかりだったもんねぇ」
「まぁな。だからほら、その、アレだ」
「???」
「あの時、お前の事情も聞かずに『外に出て働きゃ良いだろ』なんて冷たいこと言っちまって……その。悪かった」
「え……」


 気まずそうに頭を掻きながら佐倉さんがそう言うので、私は少し驚いた。そういえば、佐倉さんは以前『俺が十八の頃はもうとっくに働いて自活してた』と言っていたっけ。
 
 出会った日は心なしか冷たかった佐倉さんが、お屋敷に来て以降やたらと面倒見が良いのには、そんな訳があったのか……。

 私はお二人に感謝こそすれ、そんなことは全くもって気にしていなかった。

 
「いいえ、私こそむしろ。世の中という物を知らずに、幼いあの子達と一緒に保護してもらおうなどと思っていた自分が、今はとても恥ずかしいです。主人の顔色を窺うのではなく、主人のお役に立って対価としてお給料を頂く。そんな幸せを教えてくださって、お二人には感謝しているんです。本当にありがとうございます」
「そ、そうか……」
「ふふ。主人のお役に……ね」

 
 佐倉さんがなんとも言えない顔で私を見ている気がするけれど、樫原さんは意味深にそう呟いて笑った。
 そうこう話している間に休憩時間が終わりそうになったので、私は二人に会釈をし慌てて食事を済ませた。




  
 夜も更けて、まもなく仕事が終わるという頃。
 今宵は誰からもお呼びがかからなかったので、私はリネン室でリネンにアイロンをかけていた。
 お屋敷で家事を担当しているスタッフは別にいるけれど、彼らはいつも何かと忙しそうにしていた。この屋敷は何故か家事周りのスタッフを含め全て男性で、規模に対して人手が圧倒的に足りない気がする。

 新入りの私にいつも良くしてくださる彼らを、少しでも手伝えたらと思う。


「日和はいるか」
「……!?」


 突然ランドリールームのドアが開いて名前を呼ばれ、私は振り返った。


「おっ、お帰りなさいませ水湊様。申し訳ありません、ご帰宅に気が付かず、お出迎えをしそびれてしまって……」


 私は慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。そこに立っていたのは、水湊様だった。
 
 水湊様は今宵は帰宅時間が読めないので帰宅を待たなくて良いとお聞きしていた。ランドリールームは玄関からかなりの距離があり、窓も内線もないお部屋であるため、私は水湊様のご帰宅に気が付けなかったのだ。


「いや、すぐにまた出掛けるから構わない。日和、今からちょっと私に付き合ってくれないか」
「はい……?」
に捕まる前に逃げるぞ。急げ」
「……!?」


 水湊様に手を引かれて、私は慌ててアイロンのスイッチを切った。そのままずんずんと屋敷の中を進んだ水湊様は、地下の駐車場に向かわれる。

 いつもスタッフの皆さんがお使いになる白い高級そうな乗用車数台の横をすり抜けると、その奥の青い車の前で水湊様の足が止まる。


「これは……?」
「私の車だ。理由は後で説明する。早く乗ってくれ」


 そう仰った水湊様は、車のドアロックを解除するなり迷うことなく運転席へと体を滑らせた。私が慌てて助手席に乗り込むと同時に、水湊様は軽快なエンジン音と共にその車を滑るように発進させた。


「早くシートベルトを締めろ。それからスマートフォンを持っているなら、今すぐ電源を切っておけ」
「??! は、はいっ」


 いつもと様子が違う水湊様に困惑しながらも、私は慌ててスマートフォンの電源を落とした。
 車は屋敷の門を飛び出し、あっという間に郊外へ出る。

 樫原さんや佐倉さんは基本的に安全運転なのだけれど、水湊様の運転は少々荒っぽいようだ。というか、今日の水湊様は少し殺気立っているような気が……?
 
 それが私には少し意外で、けれども車内の空気は気安く話しかけられるようなものでもなく。
 私は黙って、車のライトに照らされる高速道路のセンターラインを眺めていた。
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