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59)佐倉さんの過去
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「佐倉は年の離れた妹達の面倒を見てるんだよね」
「えっ、そうなんですか?」
樫原さんの言葉に、佐倉さんは味噌汁をすすりながら視線を上げた。
「ん? ああ、日和には言ってなかったな。俺、弟が一人、妹が二人いて。まぁ面倒見てるっつっても、去年一番下の妹がようやく今年卒業で就職も決まったから、今は気楽なもんだよ」
「え……!?」
佐倉さんの正確な年齢は聞いたことがないけれど、見た目で判断するなら三十代後半~四十歳前半くらいに見える。けれど大学を出たばかりの妹さんがいるということは、意外と見た目よりも若かったりするのだろうか。
私の表情を見て察したらしい佐倉さんは、軽く笑って再び口を開いた。
「ぷっ、日和。お前、考えてること顔に出すぎ。妹二人は死んだ親父の再婚相手の連れ子なんだ。俺とは歳も離れてるし、血は繋がってない。俺が十六ん時に親父が再婚して、俺が十八のとき夫婦揃って事故で逝っちまったんだよ。俺と実の弟はもう高校生だったが、妹らはまだ小さかった」
「あ……」
佐倉さんはなんでもない事のように言っているけれど、十八歳と言えば私と同じ年齢だ。
私と同じ年齢で親を失う。それはとっても大変なことだったんじゃないだろうか。私の言わんとすることを汲むように、佐倉さんは話を続ける。
「一介の男子高校生二人がまだ小さい妹を二人かかえた訳だから、当時は途方に暮れたよ。一時は施設に入れることも考えたんだが、両親の葬式が終わったあと弟が『俺は絶対妹達と離れたくない』って言ってなー。俺が迷ってるうちに、ついには弟が学校を辞めて働くと言い出した。弟はあの時まだ十六だぞ? 高校くらい出なきゃ、世の中ろくな仕事にもつけやしない。――んで、気が付いたら俺があいつらを食わせてくために、なりふり構わず働いてたって訳だな」
「……それはさぞご苦労をされたことでしょう」
「んー? まぁそれなりになー」
ケロリとそう話しながら焼き鯖を頬張る佐倉さんに、私はなんと声をかけるべきか思い悩む。すると隣で食事を摂っていた樫原さんがさりげなく口を開いた。
「昔は十八歳はまだ未成年扱いだったからねぇ。金侍が義理の母親と一緒に暮らしたの、二年だけなんだよ? 実の弟はともかく、連れ子の妹二人は普通に施設に預けちゃうことだって出来たのに。ちゃんと面倒見るあたり、金侍らしいよね。けど、ボクにはきっと出来ない。だからほんと、金侍のそういうところ、凄いと思う」
樫原さんがそう言うと、佐倉さんは少し驚いたような照れたような表情で視線を逸らした。そんな中、私はふと聞き慣れない言葉に引っかかる。
「金侍……?」
「あ、ごめん。つい癖で。佐倉の下の名前、金侍っていうんだ」
そういえば、少し前にも樫原さんが佐倉さんを『金侍』と名前で呼んでいたことがあった。
屋敷内ではあまり親しげにしている様子のない二人だけれど、プライベートでは実は仲良しだったりするんだろうか。
「下のお名前……。お二人は長いお付き合いなのですか?」
「まぁねー。弟と妹二人抱えて、なり振り構わず仕事探してた金侍を街で拾ってこの仕事に誘ったの、そもそもボクだし」
「拾った……?」
「そ。日和と一緒だよ。金侍が『仕事を探しています、何でもしますからどうかお願いします』っていうからさー」
「おい、待て木葉っ。俺はそこまでは言ってないぞ……」
「このは……?」
「あ。ボク、樫原木葉って名前なの。で、こいつは……」
「ちょ、いいだろっ。そんな昔の話、何も日和にしなくたって……」
楽しそうに語ろうとする樫原さんを止めた佐倉さんは、なぜだか少し焦り気味だ。
「そう? ボクに言わせたら、君たちって凄くよく似てると思うんだけどなぁ。まぁ、そんな訳でボクと金侍は腐れ縁の仲良しなんだよ。勿論仕事中は節度も守るし名字で呼ぶけど」
「仲良しはヤメロ……仲良しは」
佐倉さんは私の視線を受けると、力無くそこだけ否定して、味噌汁を啜った。それが少しだけ可愛らしく見えて、私は少し表情を緩める。
「えっ、そうなんですか?」
樫原さんの言葉に、佐倉さんは味噌汁をすすりながら視線を上げた。
「ん? ああ、日和には言ってなかったな。俺、弟が一人、妹が二人いて。まぁ面倒見てるっつっても、去年一番下の妹がようやく今年卒業で就職も決まったから、今は気楽なもんだよ」
「え……!?」
佐倉さんの正確な年齢は聞いたことがないけれど、見た目で判断するなら三十代後半~四十歳前半くらいに見える。けれど大学を出たばかりの妹さんがいるということは、意外と見た目よりも若かったりするのだろうか。
私の表情を見て察したらしい佐倉さんは、軽く笑って再び口を開いた。
「ぷっ、日和。お前、考えてること顔に出すぎ。妹二人は死んだ親父の再婚相手の連れ子なんだ。俺とは歳も離れてるし、血は繋がってない。俺が十六ん時に親父が再婚して、俺が十八のとき夫婦揃って事故で逝っちまったんだよ。俺と実の弟はもう高校生だったが、妹らはまだ小さかった」
「あ……」
佐倉さんはなんでもない事のように言っているけれど、十八歳と言えば私と同じ年齢だ。
私と同じ年齢で親を失う。それはとっても大変なことだったんじゃないだろうか。私の言わんとすることを汲むように、佐倉さんは話を続ける。
「一介の男子高校生二人がまだ小さい妹を二人かかえた訳だから、当時は途方に暮れたよ。一時は施設に入れることも考えたんだが、両親の葬式が終わったあと弟が『俺は絶対妹達と離れたくない』って言ってなー。俺が迷ってるうちに、ついには弟が学校を辞めて働くと言い出した。弟はあの時まだ十六だぞ? 高校くらい出なきゃ、世の中ろくな仕事にもつけやしない。――んで、気が付いたら俺があいつらを食わせてくために、なりふり構わず働いてたって訳だな」
「……それはさぞご苦労をされたことでしょう」
「んー? まぁそれなりになー」
ケロリとそう話しながら焼き鯖を頬張る佐倉さんに、私はなんと声をかけるべきか思い悩む。すると隣で食事を摂っていた樫原さんがさりげなく口を開いた。
「昔は十八歳はまだ未成年扱いだったからねぇ。金侍が義理の母親と一緒に暮らしたの、二年だけなんだよ? 実の弟はともかく、連れ子の妹二人は普通に施設に預けちゃうことだって出来たのに。ちゃんと面倒見るあたり、金侍らしいよね。けど、ボクにはきっと出来ない。だからほんと、金侍のそういうところ、凄いと思う」
樫原さんがそう言うと、佐倉さんは少し驚いたような照れたような表情で視線を逸らした。そんな中、私はふと聞き慣れない言葉に引っかかる。
「金侍……?」
「あ、ごめん。つい癖で。佐倉の下の名前、金侍っていうんだ」
そういえば、少し前にも樫原さんが佐倉さんを『金侍』と名前で呼んでいたことがあった。
屋敷内ではあまり親しげにしている様子のない二人だけれど、プライベートでは実は仲良しだったりするんだろうか。
「下のお名前……。お二人は長いお付き合いなのですか?」
「まぁねー。弟と妹二人抱えて、なり振り構わず仕事探してた金侍を街で拾ってこの仕事に誘ったの、そもそもボクだし」
「拾った……?」
「そ。日和と一緒だよ。金侍が『仕事を探しています、何でもしますからどうかお願いします』っていうからさー」
「おい、待て木葉っ。俺はそこまでは言ってないぞ……」
「このは……?」
「あ。ボク、樫原木葉って名前なの。で、こいつは……」
「ちょ、いいだろっ。そんな昔の話、何も日和にしなくたって……」
楽しそうに語ろうとする樫原さんを止めた佐倉さんは、なぜだか少し焦り気味だ。
「そう? ボクに言わせたら、君たちって凄くよく似てると思うんだけどなぁ。まぁ、そんな訳でボクと金侍は腐れ縁の仲良しなんだよ。勿論仕事中は節度も守るし名字で呼ぶけど」
「仲良しはヤメロ……仲良しは」
佐倉さんは私の視線を受けると、力無くそこだけ否定して、味噌汁を啜った。それが少しだけ可愛らしく見えて、私は少し表情を緩める。
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