元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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58)腐れ縁の二人

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「私にも生活がありますから、全て差し上げる事は出来ないんですけれど、良ければ活動資金に充てて下さい」

  
 手の中のお札を差し出した私の背後では、大海原君が


 「ゲッ、マジかよ……」


 なんて言っていたし、お金を受け取った女性もポカンとしていたけれど。
 

『初任給』というものは、社会人にとって特別なものらしい。

 自分をここまで育ててくれた人に感謝をしてプレゼントを贈ったり、食事を御馳走したりするものだとインターネットの記事で読んだ。
 
 ならば、私や仲間たちを拾って助けてくださった皆様に感謝をしつつ、今現在生活に困っている人達を助けている人たちへ感謝の気持ちで、できる範囲で活動を応援する。
 それが私らしくて、初任給の使い道としては正しいではないかと思ったのだ。

 
 一気に軽くなってしまったお財布をポケットにしまい込んだ私は、ざわめいている集団に背を向けた。
 代表らしき女性が『待って下さい、せめてお名前を』なんて言って私を呼び止めるけれど、立ち止まる気はない。


「信じらんねー。日和君って、実はイイトコのお坊ちゃんなのか?」
「いいえ、私は天涯孤独です。今後の最低限の生活費や貯蓄分を除き、あれは私が今自由に使えるお金の全てです」
「…………は!? ううーん……。そりゃあ日和君の稼いだお金だから、日和君の好きにしたらいいけどさ。良いのかよ?」
「良いんです。東條院家で拾って頂いていなければ、私や私の仲間達は今頃あの列に並んでいたかもしれないんです。私達は幸運でしたから、色んな人と出会いに感謝をしないと……。前のご主人様、仲間たち、東條院家の皆様……そして勿論、大海原君にも」


 そう言って微笑みかけると、大海原君は照れたような、そして僅かに驚いたような表情で少しだけ目を見開く。

 
「お、俺にも!? あ、いや、だからって……。うう。まぁ、出しちまったもんは仕方ない。せめて帰り道にはよ」
「??? ふふ、ありがとうございます」

 帰り道、一体何に気をつけろというのか。
 私にはよく分からなかったけれど、とりあえず彼が私の身を案じてくれているらしいことは分かる。
 大海原君にお礼を言って、私達はそれぞれ帰路についた。
 
 最寄りのバス停に着く頃にはすっかりあたりも暗くなっていて、屋敷に着くと夕食時になっていた。




***





 「……は!? それでお前、今日下ろした給料のほとんどをそこに寄付して来ちまったってのか!?」


 向かいあわせで夕食を摂っていた佐倉さんは、私の話を聞くなり呆れた顔でそう言った。


「ええ。必要なものは先に買い終えていましたし、私はこのお屋敷で働く限り食べるものにも住む場所にも困りません。それもこれも樫原さんや佐倉さん、東條院家の皆さんのおかげです。ですが皆さんが拾って下さらなければ、あそこに並んでいたのは私だったかもしれないんです。そう思うと他人事とは思えなくて」
「うーん……。前から思ってたけど、日和ってちょっとバカ……いや、真っ直ぐな性格過ぎるっつーか、なんつーか」
「あはは。今回は褒め言葉として受け取っておきますね」


 私に言わせれば、佐倉さんだってなかなかに真っ直ぐな性格をしていると思う。彼の言葉を聞いて私は、自分のことは案外自分では分からないのかもしれないなぁと思った。

 
「あっ、もちろん、雇用時に水湊様とお約束した貯蓄分はきちんと口座に残してありますよ? 初任給は特別なことに使うものだということなので、今回だけは特別で。来月からはきちんと計画的に使って、貯蓄にも励むつもりです」


 私は豆腐のお味噌汁をすすりながら、佐倉さんにそう念を押した。因みに今夜の東條院家の夕食は和食だ。

 佐倉さんが私に向かって深いため息をついて再び口を開きかけた時、食事のトレーを持った樫原さんが私の背後からやってきて、私の隣に座った。


「まぁまぁ。日和が自分の給料を何に使おうとも自由でしょ? 佐倉だって少し前までは全額家族のために使っちゃって、給料日前はここでの食事が命綱になってたじゃない」
「うぐ……。それとこれとは……」


 樫原さんの言葉に、佐倉さんはバツが悪そうな顔で視線を逸らし、誤魔化すようにお茶を飲んだ。


「……! 佐倉さんにはご家族がいらっしゃるのですか?」
「あ? そりゃあいるだろ」


 そう答えた瞬間に、佐倉さんは何故か「あ……悪い」と私に向かって謝るので、私は笑ってしまった。


「私から聞いたんですから、謝る必要はありません。奥様ですか?」
「いや、俺は独身だ」
「え……申し訳ありません」


 今度は私が謝り返して、なんだか変な空気になった。それを和らげてくれたのは樫原さんだった。
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