元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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57)初めてのお給料

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「良かったね、日和。あ……分かってると思うけど、それは単なる明細書であって、給料はキミの口座に入ってるからね? 現金が必要な時は、コンビニに下ろしに行かないとダメだよ」


 車を駐車場に戻してきたらしい樫原さんが背後から現れて、私をそう揶揄からかう。
 そんな樫原さんをよそに、椎名さんは給与明細を開封するよう私に指示すると、中に書かれた項目を一つずつそれが何を指し、何故金額が加算・天引きされているのかを丁寧に説明してくださった。これはおそらく水湊様の指示だろう。きっと世間知らずな私へ気を使って下さったのだと思う。

 雇用保険、所得税に、私が住み込みで使わせて頂いているお部屋の家賃、毎日屋敷で提供される食事の費用等……。来月からは、厚生年金に健康保険料。
 それらを全て引いた金額が、私の取り分になるとの事だ。引かれた金額が何に使われるのかについては、少し前に律火様から社会の仕組みとして教えて頂いた。

 私がやっていることは、前にいたお屋敷と大差はない。むしろ、生活の環境は格段に良くなったように思う。
 皆さんにこんなに良くしていただいた上、お金まで頂けるなんて……。


「お給料、ありがとうございます」
「はい。では、私はこれで」


 椎名さんはとてもクールな人だ。淡々と私にそう答えた後水湊様に頭を下げると、あっさり屋敷を出ていく。その姿を見送った私は、給料明細を大切にポケットにしまってその夜の仕事を終えた。





 その週の週末。
 私は大海原君に誘われて、街へ降りた。

 
「給料が出たんなら、街で遊ぼうぜ」


と、彼の方から誘ってくれたのだ。
 詩月様の学校の最寄り駅で待ち合わせをした私達は、ファストフード店で食事をとってから繁華街へと向かう。


「えっと。日和君、今日は欲しい物があるんだよな?」
「ええ。付き合って頂いてすみません」


 大海原君とはあれ以来休日にメールのやり取りをする間柄になって、彼は私のことを親しみを込めて『日和君』と呼んでくれていた。
 
 今日の買い物。
 以前いた屋敷から少しは持ち出してきたものの、職業柄汚してしまいがちな下着の替え、制服の中に着るシャツや靴下。
 出来れば私服なども少しほしい。
 部屋で飲むお茶やカップも欲しかったし、読みたい本などもあった。

 それらを主人に乞わずとも自分のお金で買うことが出来るのは嬉しくもあり、不思議な感覚でもあった。

 大海原君は私と違って金銭感覚がしっかりしているようで、物の値段の相場を知らない私に何かとアドバイスをしてくれた。
 おかげで私は思っていたよりずっと安い金額で必要なものを揃えることが出来て、初めて出来た友人のありがたみが身にしみる。

 そうして買い物をひと通り終えた私達が、駅の近くにある大きな公園を通りがかった時のことだった。

 寒空の下に、なにやら人だかりができているようだ。

 簡易テントの下でなにやらお揃いのジャンパーを着たご婦人方が調理を行い、食事を振る舞っていた。
 それに並ぶ沢山の男性達は、温かい料理の入った器とおにぎりを受け取って美味しそうに食べている。

 
「あれは……? お祭りか何かでしょうか?」
「あー、あれはホームレスの炊き出しだな」
「炊き出し……?」


 そう言われて見てみれば、看板には確かに『NPO法人○○、生活困窮者向け。300食配布中』と書かれている。


「ホームレス……生活困窮者……」
「日和君、あんまジロジロ見るもんじゃないよ。行こうぜ」


 そう声をかけてくる大海原君を制して、私はその集団に吸い寄せられるように近付いた。列に並ぶ人々はみな疲れた顔をして、寒さに耐えながら自分の番が来るのを待っている。

 私もあのとき、樫原さん達に拾ってもらえなかったら。
 東條院家の皆さんに、雇ってもらえなかったら……。

 あの列に並んでいたのは、私だったかもしれない。そう思うと、体が勝手に動いた。



「えっ……あ、おい!」


 大海原君が慌てて後を追いかけて来たけれど、私の心は決まっていた。今日買ったばかりのお財布から、お札を掴む。
 テントの前に立ち、この炊き出しを取り仕切っているらしい初老の女性に向かって声をかけた。
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