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43)もっと仲良くしたいんだよね?

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 私がこの東條院家に来て、まもなく一ヶ月半が経とうとしていた。
 
 水湊様は相変わらずお忙しそうだったけれど、私はあれから佐倉さん、樫原さんに教わりながら、屋敷内の雑用をある程度こなせるようになった。
 
 当初は常に誰かと一緒に仕事をしていた私も、最近は簡単な給仕程度なら一人で任せて頂けるようになった事が嬉しい。


「日和さん。このマフィン、凄く美味しい」
「ありがとうございます。今日は角切りにした林檎をジャムにして混ぜてみました」

『この屋敷で働きながら、社会のことを学ぶように』


 そんな水湊様の言いつけの元、最近律火様は私に簡単な料理を教えてくれるようになった。
 
 食事の時間帯以外は厨房も使わせてもらえらようになったので、最近はインターネットで調べたレシピを色々と試させて貰ったりしている。

 一方、詩月様は私の勉強を見て下さっていた。
 
 詩月様曰く、私は科目により誤差はあるが小学卒業~中学校程度の学力は一応持っていたようで、今は詩月様が以前お使いになっていた中学の教科書を使わせて頂いて勉強をしている。
 
 元々本が好きだったことも幸いし、勉強は順調だ。
 
 勉強を見てもらう……とは言いつつも、分からないことは大体インターネットで調べられるので、それでも分からないところを学校から戻った詩月様に教えて頂く。
 
 数学や英語は調べても分からない部分も多いのだが、詩月様は聞けば面倒くさそうにしつつも的確に答えてくださる。詩月様は人に教えるのがとてもお上手なようだ。
 
 インターネットというものは便利だ。
 知りたいことはなんでも教えてくれるし、レシピも、地図も、勉強やニュース、それ以外も。
 
 知りたい情報は、大抵は無料で手に入る。

 一般的な生活の知恵はもちろん、ちょっと専門的な知識まで、知ろうと思えば調べられる。
 
 前の主人が私たちをスマートフォンやパソコンから遠ざけた理由が分かった気がした。これを悪用すれば、あの屋敷での生活に不満を持つ奴隷たちは、あの屋敷から逃げることができたかもしれないから。


「律火様、紅茶のおかわりはいかがですか? 詩月様へはコーラをお持ちしましょうか」
「ありがとう、いただくよ」
「僕もマフィンには紅茶でいいよ。あっミルクティーがいいな。ロイヤルミルクティー、砂糖多めで」
「かしこまりました」


 先月に体調を崩して寝込んだことで、私の勤務時間も当面は日中にするという取り決めがなされたそうだ。
 こんな私をそこまで気遣って下さる皆さんのお心がありがたい反面、スケジュールの関係で詩月様への夜のお勤めの初日だけが未だ訪れていない。


「詩月様。あの……今夜、お時間ありますか……?」


 私は詩月様の前にロイヤルミルクティーを置きながら、そっと表情を窺う。
 詩月様は先週までテスト週間だと聞いていた。それに伴い、二週間ほどお忙しそうになさっていたのだ。
 お誘いするのなら、テスト期間が終わった今日が最適のはず。

 お屋敷の雑用も無論立派な仕事ではある。
 けれど、私は愛玩奴隷だ。
 雑用しか出来ないのでは、前にいたお屋敷と変わらなくなってしまう。
 
 前の主人は完全に少年愛者であったが、このお屋敷の方々はとうやらそうではないようだ。
 
 愛玩奴隷である以上、私はそういった意味で主人に必要とされる事をやっぱり諦めきれない。


「時間はあるけど。また勉強で分かんないとこでもあった? 今日テストが終わったばっかだから、出来れば今夜は勉強したくない気分なんだけど」
「いえ、そうではなく……その」


 マフィンに添えた生クリームをフォークですくい上げた詩月様は、軽いため息とともにそう仰る。そう返されると私もどう繋げていいかわからなくなって、モジモジしながら視線を泳がせた。

 すると律火様がクスリと笑われて、私に向かって目配せをして下さった。

 
「日和さんはもっと、詩月としたいんだよね?」
「あっ……」

 律火様は時折、口下手な私にこうして助け舟を出して下さる。私は視線と軽い会釈で律火様にお礼を伝えつつ、手に持っていた紅茶のポットをテーブルに置いた。

 
「はい。勉強を見て頂いているお礼もしたいですし、出来れば一度くらい私を、し、寝所へ……お招き頂ければ……と」


 年上である兄二人とは違い、歳の近い詩月様にこういったことをねだるのはなんだか気恥かしい。けれども律火様がせっかく出してくださった助け舟だ。ここで勇気を出さなければ……。
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