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42)友達になりたい
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「子供は親を選べません。自分に非がないのに、己の出自を理由にそんなことされるなんて、許されるわけがありません。一方的ないじめに黙って耐えなければならないなんて、絶対におかしいです……!」
物心付いたときから親がいない私は、両親の揃っている子供は私より幸せなのだと、なんとなく思ってしまっていた。理不尽なことからは親が守ってくれるし、無償の愛を受けられるものだ、と。
けれど、それは私の勝手な幻想だったようだ。
育てきれずに我が子を売る親がいるくらいなのだから、世の中はそんなに簡単なものではないということくらい、少し考えれば分かったはずなのに……。
「――――ありがとう。けど、仕方ないさ。家のゴタゴタなんで、親も教師も見て見ぬふりだよ。ずっと、誰も助けてくれなかった」
「誰も……」
「うん。正確には、東條院以外」
「……え?」
苦々しい顔をしていた私に向かって大海原君がそう爽やかに言うので、私は顔を上げて首を傾げた。
「この図書室、外部の人も利用出来るんだけどさ」
「ええ、それは先程詩月様に伺いました」
「それ。学校に掛け合ってくれたの、東條院なんだよ」
「えっ」
「東條院、去年生徒会で副会長だったんだけどさ」
成績が良いのは薄々感じていたものの、詩月様が生徒会をやっていらっしゃったのは少し意外だった。あの方は人のために積極的に何かをするというよりは、マイペースな一匹狼タイプだと思っていたから。
「ふふ。東條院って、冷たそうに見えて意外と面倒見良いんだよ。そして彼は、色んな事を本当によく見てる」
「それはなんとなく分かります」
「学校ってのは閉鎖的で、基本的に隠蔽体質なんだ。俺が虐められていようが、物を壊されようが、みんな見ないふり」
それが、図書館の開放とはどういう関係が? そう問いかけようとした私に、大海原君は言葉を続ける。
「けど、東條院はそれをおかしいって思ってくれた。けど、あいつが表立って俺を庇ったら、逆に反感を買いかねない。結局は東條院の見てないところで虐められるだけ。そうだろう?」
「……それで図書館を?」
「そう。一般の人が入ってくるこの図書室だけは、学校の隠蔽体質に囚われない一般の人達が常にいる。一般人が校内を出入りするから、防犯のためと称して監視カメラもついた。ここでは学校もいじめっ子も、無茶なことはできない。だからここは俺みたいなやつにとって、貴重な避難先なんだ。おかげて酷かったイジメも以前よりは大分マシになったよ。だから東條院には本当に感謝してる」
突然話しかけてきた彼に対する警戒心が、私の中で納得と共にゆっくりと溶けてゆく。
「ふふっ。大海原君は詩月様とお友達になりたいんですね? それで私に声をかけてくださった、と」
「あっ、いや。そこまで下心があった訳じゃなくて。俺は純粋に話相手が欲しくて、ついでにちょーっと東條院の家での話なんかが聞けたらなーって」
「詩月様はお屋敷ではあまり学校のお話をされないので、なんだか新鮮です」
「そうなのか。東條院は俺と似た境遇なのに、俺みたいに卑屈になったりしないし、人に媚びたりもしない。けど、俺らが反感を買わないように上手く助けてくれてさ。カッコいいんだよな、あのさり気なさが。だから俺、前からあいつに憧れてるっつーか、出来ればお近付きなりたいっつーか……」
ここに来てようやく大海原君は照れたように頭をかいて、年相応の甘えた表情で私を窺い見た。
「私でお役に立てるかは分かりませんけれど、そういう事なら微力ながらご協力させて頂きます」
「えっ、けど……――――」
「日和っ」
そんな話をしていると、背後から不意に声をかけられた。振り返ると、そこに立っていたのは噂の詩月様だ。
「詩月様。もう三者面談を終わられたのですか?」
「うん。それより、大海原。お母さん、面談室の方に直接来てたよ」
「げっ。マジかよ。サンキュ。じゃあな、藤倉さん」
「え! あっ、待って……!」
私は彼を呼び止めると、ポケットにあったメモ帳にスマートフォンの連絡先を書いて渡す。
「これ、私の連絡先です。大海原君、良かったら私とお友達になりませんか? 今度ゆっくりお話しましょう」
「え、良いのか?」
「はい」
私がそう言って微笑むと、彼は本当に嬉しそうに目を輝かせた。
「分かった、じゃあまた連絡する。東條院も、またな」
「うん。またね」
詩月様は美しい笑みで大海原君に軽く会釈をする。
お屋敷ではクールでマイペースな詩月様の、学校での意外な一面。それを知ることが出来たことが、なんだか嬉しかった。
「日和、何してんの。行くよ」
「はい」
自分の主人が外で人様に慕われている。そう思うと何となく、私まで誇らしい気持ちになるから不思議だ。
その日私は学校近くの詩月様行きつけの喫茶店で、コーラフロートをご馳走して頂いた。
「日和もパンケーキ、食べるでしょ?」
「え……ですが」
「いいから。僕だけ甘いの食べてたら、みっともないでしょ。付き合ってよ」
「??? はぁ……」
学校を出てからの詩月様は、私のよく知るクールでマイペースな彼に戻っていた。
詩月様のオススメでコーラフロートと一緒に頂いた、アイスクリームの乗ったパンケーキ。それは、ほんのり甘くて、とても優しい味がした。
物心付いたときから親がいない私は、両親の揃っている子供は私より幸せなのだと、なんとなく思ってしまっていた。理不尽なことからは親が守ってくれるし、無償の愛を受けられるものだ、と。
けれど、それは私の勝手な幻想だったようだ。
育てきれずに我が子を売る親がいるくらいなのだから、世の中はそんなに簡単なものではないということくらい、少し考えれば分かったはずなのに……。
「――――ありがとう。けど、仕方ないさ。家のゴタゴタなんで、親も教師も見て見ぬふりだよ。ずっと、誰も助けてくれなかった」
「誰も……」
「うん。正確には、東條院以外」
「……え?」
苦々しい顔をしていた私に向かって大海原君がそう爽やかに言うので、私は顔を上げて首を傾げた。
「この図書室、外部の人も利用出来るんだけどさ」
「ええ、それは先程詩月様に伺いました」
「それ。学校に掛け合ってくれたの、東條院なんだよ」
「えっ」
「東條院、去年生徒会で副会長だったんだけどさ」
成績が良いのは薄々感じていたものの、詩月様が生徒会をやっていらっしゃったのは少し意外だった。あの方は人のために積極的に何かをするというよりは、マイペースな一匹狼タイプだと思っていたから。
「ふふ。東條院って、冷たそうに見えて意外と面倒見良いんだよ。そして彼は、色んな事を本当によく見てる」
「それはなんとなく分かります」
「学校ってのは閉鎖的で、基本的に隠蔽体質なんだ。俺が虐められていようが、物を壊されようが、みんな見ないふり」
それが、図書館の開放とはどういう関係が? そう問いかけようとした私に、大海原君は言葉を続ける。
「けど、東條院はそれをおかしいって思ってくれた。けど、あいつが表立って俺を庇ったら、逆に反感を買いかねない。結局は東條院の見てないところで虐められるだけ。そうだろう?」
「……それで図書館を?」
「そう。一般の人が入ってくるこの図書室だけは、学校の隠蔽体質に囚われない一般の人達が常にいる。一般人が校内を出入りするから、防犯のためと称して監視カメラもついた。ここでは学校もいじめっ子も、無茶なことはできない。だからここは俺みたいなやつにとって、貴重な避難先なんだ。おかげて酷かったイジメも以前よりは大分マシになったよ。だから東條院には本当に感謝してる」
突然話しかけてきた彼に対する警戒心が、私の中で納得と共にゆっくりと溶けてゆく。
「ふふっ。大海原君は詩月様とお友達になりたいんですね? それで私に声をかけてくださった、と」
「あっ、いや。そこまで下心があった訳じゃなくて。俺は純粋に話相手が欲しくて、ついでにちょーっと東條院の家での話なんかが聞けたらなーって」
「詩月様はお屋敷ではあまり学校のお話をされないので、なんだか新鮮です」
「そうなのか。東條院は俺と似た境遇なのに、俺みたいに卑屈になったりしないし、人に媚びたりもしない。けど、俺らが反感を買わないように上手く助けてくれてさ。カッコいいんだよな、あのさり気なさが。だから俺、前からあいつに憧れてるっつーか、出来ればお近付きなりたいっつーか……」
ここに来てようやく大海原君は照れたように頭をかいて、年相応の甘えた表情で私を窺い見た。
「私でお役に立てるかは分かりませんけれど、そういう事なら微力ながらご協力させて頂きます」
「えっ、けど……――――」
「日和っ」
そんな話をしていると、背後から不意に声をかけられた。振り返ると、そこに立っていたのは噂の詩月様だ。
「詩月様。もう三者面談を終わられたのですか?」
「うん。それより、大海原。お母さん、面談室の方に直接来てたよ」
「げっ。マジかよ。サンキュ。じゃあな、藤倉さん」
「え! あっ、待って……!」
私は彼を呼び止めると、ポケットにあったメモ帳にスマートフォンの連絡先を書いて渡す。
「これ、私の連絡先です。大海原君、良かったら私とお友達になりませんか? 今度ゆっくりお話しましょう」
「え、良いのか?」
「はい」
私がそう言って微笑むと、彼は本当に嬉しそうに目を輝かせた。
「分かった、じゃあまた連絡する。東條院も、またな」
「うん。またね」
詩月様は美しい笑みで大海原君に軽く会釈をする。
お屋敷ではクールでマイペースな詩月様の、学校での意外な一面。それを知ることが出来たことが、なんだか嬉しかった。
「日和、何してんの。行くよ」
「はい」
自分の主人が外で人様に慕われている。そう思うと何となく、私まで誇らしい気持ちになるから不思議だ。
その日私は学校近くの詩月様行きつけの喫茶店で、コーラフロートをご馳走して頂いた。
「日和もパンケーキ、食べるでしょ?」
「え……ですが」
「いいから。僕だけ甘いの食べてたら、みっともないでしょ。付き合ってよ」
「??? はぁ……」
学校を出てからの詩月様は、私のよく知るクールでマイペースな彼に戻っていた。
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