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41)東條院家の裏側?
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「珍しい苗字ですね。私は藤倉日和です。大海原君も、今日が三者面談なんですか?」
「そ。今、親待ち。けど、もしかしたら親が来られないかもしれなくて。とりあえずここで暇潰し中なんだ」
なるほど。それで私に話しかけてきたのか……。
大海原君はそう言いながらプリントを机に置くと、チラリと時計を見た。彼のプリントに書き込まれた面談の時間を覗き見ると、確かに三十分ほど過ぎてしまっている。
「三者面談というのは、親御さんが必ず来られるものなのですか?」
「あー、まぁ普通は親が来て、教師と本人の三者で面談だね。けど、基本的にココ、お坊ちゃん校だから。親が仕事って理由で、執事や教育係、家庭教師なんかが代理で来たりする事もあるよ」
「保護者の代理……」
「そう。だから、俺はてっきり藤倉さんが東條院の新しい家庭教師か何かなんだと思ったんだ」
大海原君は笑うと口端から白い八重歯が覗いて、なんだか大型犬を思わせる可愛らしさがあった。
「ふふっ。残念ながら、勉強に関してはむしろ私が詩月様から教わっている立場なんですよ」
「え、そうなの? 藤倉さん、大人っぽいから大学生くらいに見えるのに。働いてるなら、俺らより年下って訳じゃないんでしょう? なんでまた……」
「ええと、それは話すと長い事情がありまして」
愛玩奴隷であった過去を隠して彼に上手く事情を説明するには、どうしたら良いものか……。
そう思案していると、大海原君は興味津々そうな表情で私に言った。
「事情ねぇ。けど、苗字が違うってことは、藤倉さんも実は東條院家の隠し子って訳じゃないんだよね?」
「……え? いえ、私はだだの使用人で……」
「ふーん」
――――私は今、何かとんでもないことを聞いた気がする。
彼は今、藤倉さんも東條院家の隠し子……と、言わなかっただろうか……?
混乱で固まっている私の表情を見て、大海原君は分かりやすく『マズイ』という顔をした。
恐らくこれは、詩月様の……東條院家の公然の秘密。私はきっと、これを聞かなかったことにしなければならない……。
私の表情を読み取った大海原君は、焦ったように頭を下げた。
「あー……ごめん。知らなかったなら、今のは忘れて。コレ、学校では有名な話だったからさ。似たような事情があるのは、お互い様だし」
「えっ。それってつまり」
気まずそうにそう切り出した大海原君は、頭を掻きながら渋々口を開く。
「俺も東條院と一緒。けど、うちは母親が金目当ての元ホステスだからさ。父親に認知だけしてもらって、養育費出させて何とかこの学校に通ってる」
「ホステス……?」
私はホステスの意味が分からなかったが、なんとなく水商売の女性のことを指すのだろうなと思いながら話を聞いた。
「そ。お坊ちゃん学校だからこそ、色んな事情があるやつも多いんだよ。いわゆる、金持ちの悪習ってやつでさ。本妻の他にお妾さんがいたり、愛人がいたり。そんで、出生由来やらお家柄によるカーストがあったりしてさ。意外とドロドロ」
大海原君は苦々しい顔でそう言うと、彼はカバンの中から数冊の教科書やノートを取り出した。
だが、一番上にあった『数学Ⅲ』と書かれたノートには、ページが破かれた跡があった。裏表紙には靴跡があって、このノートが何者かによって踏まれたことが分かる。
「例えばこれ、見てよ。ひどいだろ? ノート買い替えたの、今年で三回目」
「――!? まさか詩月様も、学校でいじめられて……!?」
つい大きな声を上げながら立ち上がった私を、大海原君は笑って制した。
「しーっ。……この学園に東條院をいじめようなんていう馬鹿はいないよ。そんなことしようもんなら、いじめた側が即退学だっつーの」
彼はそう言って笑いながら、ノートの破れ目を指先でなぞる。
「東條院と俺が同じって言ったら、まぁ語弊があるよな。東條院は少なくとも、兄貴や使用人達には愛されてるみたいだし。同じクラスで似た境遇ってだけで俺なんかが勝手に仲間意識を持ったら失礼だったよな」
確かに、あのお屋敷は私が知る限り兄弟も使用人も仲はいいように見える。
ベッタリな仲良しではないにせよ、水湊様や律火様が詩月様と不仲だなんて話は聞いたことがなかった。
「俺の場合、いじめの相手は本妻の子とその仲間。だから俺の事は誰も助けてくれやしない」
「そんな……」
ここは外観も美しく生徒たちも品のあるお家柄の家の子達ばかりが通うはずのお坊ちゃま校。
だが、その内実は、見た目通りでは無いらしい。
「そ。今、親待ち。けど、もしかしたら親が来られないかもしれなくて。とりあえずここで暇潰し中なんだ」
なるほど。それで私に話しかけてきたのか……。
大海原君はそう言いながらプリントを机に置くと、チラリと時計を見た。彼のプリントに書き込まれた面談の時間を覗き見ると、確かに三十分ほど過ぎてしまっている。
「三者面談というのは、親御さんが必ず来られるものなのですか?」
「あー、まぁ普通は親が来て、教師と本人の三者で面談だね。けど、基本的にココ、お坊ちゃん校だから。親が仕事って理由で、執事や教育係、家庭教師なんかが代理で来たりする事もあるよ」
「保護者の代理……」
「そう。だから、俺はてっきり藤倉さんが東條院の新しい家庭教師か何かなんだと思ったんだ」
大海原君は笑うと口端から白い八重歯が覗いて、なんだか大型犬を思わせる可愛らしさがあった。
「ふふっ。残念ながら、勉強に関してはむしろ私が詩月様から教わっている立場なんですよ」
「え、そうなの? 藤倉さん、大人っぽいから大学生くらいに見えるのに。働いてるなら、俺らより年下って訳じゃないんでしょう? なんでまた……」
「ええと、それは話すと長い事情がありまして」
愛玩奴隷であった過去を隠して彼に上手く事情を説明するには、どうしたら良いものか……。
そう思案していると、大海原君は興味津々そうな表情で私に言った。
「事情ねぇ。けど、苗字が違うってことは、藤倉さんも実は東條院家の隠し子って訳じゃないんだよね?」
「……え? いえ、私はだだの使用人で……」
「ふーん」
――――私は今、何かとんでもないことを聞いた気がする。
彼は今、藤倉さんも東條院家の隠し子……と、言わなかっただろうか……?
混乱で固まっている私の表情を見て、大海原君は分かりやすく『マズイ』という顔をした。
恐らくこれは、詩月様の……東條院家の公然の秘密。私はきっと、これを聞かなかったことにしなければならない……。
私の表情を読み取った大海原君は、焦ったように頭を下げた。
「あー……ごめん。知らなかったなら、今のは忘れて。コレ、学校では有名な話だったからさ。似たような事情があるのは、お互い様だし」
「えっ。それってつまり」
気まずそうにそう切り出した大海原君は、頭を掻きながら渋々口を開く。
「俺も東條院と一緒。けど、うちは母親が金目当ての元ホステスだからさ。父親に認知だけしてもらって、養育費出させて何とかこの学校に通ってる」
「ホステス……?」
私はホステスの意味が分からなかったが、なんとなく水商売の女性のことを指すのだろうなと思いながら話を聞いた。
「そ。お坊ちゃん学校だからこそ、色んな事情があるやつも多いんだよ。いわゆる、金持ちの悪習ってやつでさ。本妻の他にお妾さんがいたり、愛人がいたり。そんで、出生由来やらお家柄によるカーストがあったりしてさ。意外とドロドロ」
大海原君は苦々しい顔でそう言うと、彼はカバンの中から数冊の教科書やノートを取り出した。
だが、一番上にあった『数学Ⅲ』と書かれたノートには、ページが破かれた跡があった。裏表紙には靴跡があって、このノートが何者かによって踏まれたことが分かる。
「例えばこれ、見てよ。ひどいだろ? ノート買い替えたの、今年で三回目」
「――!? まさか詩月様も、学校でいじめられて……!?」
つい大きな声を上げながら立ち上がった私を、大海原君は笑って制した。
「しーっ。……この学園に東條院をいじめようなんていう馬鹿はいないよ。そんなことしようもんなら、いじめた側が即退学だっつーの」
彼はそう言って笑いながら、ノートの破れ目を指先でなぞる。
「東條院と俺が同じって言ったら、まぁ語弊があるよな。東條院は少なくとも、兄貴や使用人達には愛されてるみたいだし。同じクラスで似た境遇ってだけで俺なんかが勝手に仲間意識を持ったら失礼だったよな」
確かに、あのお屋敷は私が知る限り兄弟も使用人も仲はいいように見える。
ベッタリな仲良しではないにせよ、水湊様や律火様が詩月様と不仲だなんて話は聞いたことがなかった。
「俺の場合、いじめの相手は本妻の子とその仲間。だから俺の事は誰も助けてくれやしない」
「そんな……」
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