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40)詩月様と、三者面談
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図書室は建物として校舎からは独立しており、西門からすぐの所に入口があるそうだ。詩月様曰く、元々近くにある付属大学と共用だったところを、去年から一般解放しているとの事。
「待つのは構いませんけれど、もし私の帰りをご心配頂いてるのでしたら私は一人で帰れますよ? 勿論、仕事用の交通系ICが自由に使えるからといって、逃げたりもいたしません」
「はぁ……。日和って、相変わらず思考回路が変だよね」
「えっ。も、申し訳ございません……」
それは佐倉さんや樫原さんにも頻繁に言われる言葉だ。私は『変わっているが、真面目』らしい。けれど自分がどう変わっているのかは私には分からないから、気をつけようもない訳で……。
落ち込みかけた私を一瞥した詩月様は、やれやれと言わんばかりに軽いため息を付かれた。
「せっかく来たんだから、届けてくれたお礼にこないだ言ってたコーラフロートご馳走してあげるって言ってんの。だから終わるまで待ってて」
「……えっ」
コーラフロートを飲みに行こうというお話は、先日の私の発熱騒ぎのせいで流れてしまったと思っていた。それだけに、このお申し出は素直に嬉しい。
「あ……ありがとうございます、承知しました。あの、詩月様。所で……三者……」
“三者面談とはなんですか?”
そう言葉を続けようとした私は、詩月様の表情を見て口を噤んだ。
それはいつも薄く笑みを浮かべられていることの多い詩月様が、遠くを眺めながら少し悲しそうな、それでいて苦々しそうな複雑なお顔をされていることに気が付いたから……。
「――なに?」
「いえ……。行ってらっしゃいませ」
「うん。じゃあ、後で」
詩月様を見送ってから、私は図書館へ移動して適当な席に座る。
スマートフォンで『三者面談』について調べると、出てきたのはこんな情報だった。
『三者面談。保護者、教師、生徒の三人で、将来の進路や学校での生活態度等を報告すること……』
「保護者…………」
詩月様の保護者。それは恐らく詩月様のご両親のはずだ。
そういえば、あのお屋敷にそういった人達が来たことはないし、お会いしたことは愚か、ご両親についてのお話を伺ったこともない。
上のお二人はともかく、詩月様はまだ学生だ。成人した兄二人が一緒に住んでいるとはいえ、ご両親と一緒に住まれないのには何か理由があるのだろうか?
「あの……」
思案をめぐらせていた私に背後から突然声をかけてきたのは、この学校の学生らしき少年だった。私より頭半分ほど背の低い黒髪の少年は、私と目が合うと、人懐っこい笑顔を浮かべて私の傍へと寄ってくる。
「もしや、東條院のお知り合いですか? お家の方……いや、家庭教師とか?」
「とんでもございません。私は東條院家の愛玩ど……」
そこまで口にしかけて、私は慌てて口を噤む。
『この屋敷で愛玩奴隷をしていたことは、外では決して口外しないこと』
これはお屋敷を出る際の約束事だった。
「……愛を込めて皆様のお世話をする、雑用係ですっ!」
「えーっと……『愛を込めた雑用係』って何? つまりは東條院家の使用人さんってことかな?」
怪訝な顔でそう言った少年に、私は慌てて言葉を重ねる。
「あっ……ええと、そうです。まだ見習いみたいなものですが……」
誤魔化すために咄嗟に出た言葉とはいえ、変なことを口走ってしまったことがとても恥ずかしい。
けれども彼は慌てる私を気にするふうでもなく、楽しそうに笑った。
「あは、顔真っ赤。見たことない人だなーとは思ったけど、見習いってことはやっぱり新人さんかぁ。俺はワタノハラです。東條院とは同じクラスなんだ」
「ワタノハラ君??」
「ワタノハラは大海原って書いて大海原って読むんだ。……ほら」
彼はそう言いながら、人懐っこい笑みを浮かべたまま私の隣に座った。カバンから何やらプリントを取り出して、記名部分を私に示す。
ふと記名の横を見ると、そのプリントには『三者面談用 進路調査表』の文字があった。
「待つのは構いませんけれど、もし私の帰りをご心配頂いてるのでしたら私は一人で帰れますよ? 勿論、仕事用の交通系ICが自由に使えるからといって、逃げたりもいたしません」
「はぁ……。日和って、相変わらず思考回路が変だよね」
「えっ。も、申し訳ございません……」
それは佐倉さんや樫原さんにも頻繁に言われる言葉だ。私は『変わっているが、真面目』らしい。けれど自分がどう変わっているのかは私には分からないから、気をつけようもない訳で……。
落ち込みかけた私を一瞥した詩月様は、やれやれと言わんばかりに軽いため息を付かれた。
「せっかく来たんだから、届けてくれたお礼にこないだ言ってたコーラフロートご馳走してあげるって言ってんの。だから終わるまで待ってて」
「……えっ」
コーラフロートを飲みに行こうというお話は、先日の私の発熱騒ぎのせいで流れてしまったと思っていた。それだけに、このお申し出は素直に嬉しい。
「あ……ありがとうございます、承知しました。あの、詩月様。所で……三者……」
“三者面談とはなんですか?”
そう言葉を続けようとした私は、詩月様の表情を見て口を噤んだ。
それはいつも薄く笑みを浮かべられていることの多い詩月様が、遠くを眺めながら少し悲しそうな、それでいて苦々しそうな複雑なお顔をされていることに気が付いたから……。
「――なに?」
「いえ……。行ってらっしゃいませ」
「うん。じゃあ、後で」
詩月様を見送ってから、私は図書館へ移動して適当な席に座る。
スマートフォンで『三者面談』について調べると、出てきたのはこんな情報だった。
『三者面談。保護者、教師、生徒の三人で、将来の進路や学校での生活態度等を報告すること……』
「保護者…………」
詩月様の保護者。それは恐らく詩月様のご両親のはずだ。
そういえば、あのお屋敷にそういった人達が来たことはないし、お会いしたことは愚か、ご両親についてのお話を伺ったこともない。
上のお二人はともかく、詩月様はまだ学生だ。成人した兄二人が一緒に住んでいるとはいえ、ご両親と一緒に住まれないのには何か理由があるのだろうか?
「あの……」
思案をめぐらせていた私に背後から突然声をかけてきたのは、この学校の学生らしき少年だった。私より頭半分ほど背の低い黒髪の少年は、私と目が合うと、人懐っこい笑顔を浮かべて私の傍へと寄ってくる。
「もしや、東條院のお知り合いですか? お家の方……いや、家庭教師とか?」
「とんでもございません。私は東條院家の愛玩ど……」
そこまで口にしかけて、私は慌てて口を噤む。
『この屋敷で愛玩奴隷をしていたことは、外では決して口外しないこと』
これはお屋敷を出る際の約束事だった。
「……愛を込めて皆様のお世話をする、雑用係ですっ!」
「えーっと……『愛を込めた雑用係』って何? つまりは東條院家の使用人さんってことかな?」
怪訝な顔でそう言った少年に、私は慌てて言葉を重ねる。
「あっ……ええと、そうです。まだ見習いみたいなものですが……」
誤魔化すために咄嗟に出た言葉とはいえ、変なことを口走ってしまったことがとても恥ずかしい。
けれども彼は慌てる私を気にするふうでもなく、楽しそうに笑った。
「あは、顔真っ赤。見たことない人だなーとは思ったけど、見習いってことはやっぱり新人さんかぁ。俺はワタノハラです。東條院とは同じクラスなんだ」
「ワタノハラ君??」
「ワタノハラは大海原って書いて大海原って読むんだ。……ほら」
彼はそう言いながら、人懐っこい笑みを浮かべたまま私の隣に座った。カバンから何やらプリントを取り出して、記名部分を私に示す。
ふと記名の横を見ると、そのプリントには『三者面談用 進路調査表』の文字があった。
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