元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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38)兄弟たちの晩餐(佐倉視点)

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「佐倉、ご苦労様。日和さんは?」
「まだ熱が完全には下がらなくて、さっき薬を飲ませたところです」
「そう……」


 夕食の手を止めて俺に心配そうにお聞きになったのは、この屋敷の次男である律火様だ。
 
 少し前の現場で保護をした藤倉日和を、木葉このはの口添えで新入りスタッフとして屋敷に迎え入れて数日。
 
 日和はずっと気を張って日々を過ごしていたようで、昨夜未明に高熱を出して倒れた。
 
 それを知ったお優しい律火様が俺に『たまに様子を見に行ってあげて』とお命じになったので、クソ忙しい業務の合間に、俺が新入りの風邪の看病をする羽目になっている。
 


律兄りつにいが使用人個人の体調を気にかけるの、珍しいね。そんなに日和が気に入った?」


 夕食に出されたサーモンの下のオニオンスライスを器用に避けながらそう言ったのは、三男の詩月様。


「ふふ、それはやきもち? 可愛い弟にやきもちを妬いてもらえるなんて、兄として光栄だな」


 律火様の軽口に、詩月様は心底面倒くさそうに顔をしかめた。


「律兄は警戒心が無さすぎるって言ってるの。いい人そうに見えたって、日和はあの男のところで奴隷達を取りまとめていたリーダー格の男だったんでしょう?」
「ええー、でもそんな日和さんをこの家に招き入れたのは樫原と水湊兄さんだよ? それに警戒なら、詩月が十分してくれてたじゃない」


 オニオンスライスを避け終えた詩月坊っちゃまがサーモンをフォークで突き刺して、イライラしたように律火様を睨む。けれど律火様は何処吹く風と言わんばかりに、コーンスープをスプーンでかき混ぜながら言った。

 
「日和さんが良い人だったから良かったものの、使用人の面接でお尻の穴まで調べるなんて、普通なら色んな意味で一発アウトだよ?」


 食事中の律火様の綺麗な口から『お尻の穴』などという言葉が飛び出すものだから、俺は気まずくなって詩月様の皿の上のカルパッチョに視線を落とす。

 うわー、鮮やかなオレンジ色サーモン、脂が乗っていて美味そうだなァ。ははは。


「だって。もしかしたら体内に何か隠し持ってるかもしれないでしょ? 毒物とか、通信機とか」
「ふっ……く、……っ」

 
 毒物はまだしも、お尻の穴に通信機は想像すると面白すぎる。俺は詩月様の言葉にうっかり吹き出しそうになって、慌てて己の太ももをつねった。


「佐倉……笑い声聞こえてる。大体佐倉も、僕の飲み物を日和に運ばせるって、どういうつもり?」
「……すみません。けど、初日の身体検査で、あいつは毒なんかは持ってなかったって……。あいつの持ち物も、全てお調べになったんですよね? 部屋の前までは俺も一緒でしたし、毒を入れる暇なんて……」
「そうだけど。それでも、どこかに隠し持ってる可能性もあるでしょ? あの時は本人に毒味してもらったけど、僕が飲み物をわざわざ佐倉に頼んだ意味とか、考えてないでしょ」


 ううう……。そりゃ俺だって若干そうかなーとは思ったけれど、日和はそんな裏表があるような器用なタイプには、俺にはとても見えない。だが、そんなことを言おうものなら大変なことになるのは、火を見るより明らかだった。
 詩月様のお人形のような美しい顔が怒ると、なかなかに迫力がある。こうなれば俺は「すいません」と俯きながら謝るしかない。
 
 すると見かねた律火様が助け舟を出してくださった。


「僕には、日和さんはそういった訓練を受けているようには思えなかったけどな。詩月は僕らを警戒が足りないように言うけれど、僕も日和さんが口の中に何か隠していないかも調べたよ。お腹の中は調べようがないけれど、初日以降日和さんは屋敷で出された物を素直に食べるし、僕らに対して何かを警戒する様子もなかったよ」
「口の中……」
「けど、初日に樫原が出した食事は食べなかったんでしょう?」

 スパイ映画なんかで、口の中に毒を隠していたスパイが、秘密がバレそうになった途端、それを飲んで死ぬ……なんて話はたまに見かけるが、まさか現実にそれを疑う人が身近に居ようとは……。

 そう思わないでもなかったが、詩月様は生い立ちの関係で、このお屋敷に来る前に何度もお命を狙われたことがあったと聞く。
 子供の頃にそんな経験をしていれば、神経質になるのは仕方がないのかもしれないと思い直した。


「じゃあ、詩月。日和さんを拷問でもしてみる? 彼が土谷田の策でこの屋敷に送り込まれたスパイだと、本気で思うの?」
「それは……でも、うーん。そうだなぁ」


 おいおい。マジかよ……。

 するとそこまでお二人のやり取りを黙って聞いていた水湊様が、ここでようやく口を開かれる。



「お前達。正体や本心が分からぬとは言え、藤倉日和は今現在、うちの契約社員だ。本人の望む職務内容がアレだから、合意のもとの行為にとやかく言うつもりは無い。だが、くれぐれも怪我などはさせないように」
「もちろん分かってるよ兄さん。僕は日和さんの事、割と気に入っているし。詩月だって、警戒してると言う割に仲良さそうじゃない。この屋敷で唯一歳の近い人な訳だし」
「天涯孤独の彼は詩月がの遊び相手にするにも、後腐れがなくていい。本人が望んでいる事でもあるしな」
「それはそうだけど……」


 詩月坊っちゃまは、兄二人とはまた違う、なかなかにをお持ちの方だ。
 
 人間不信だが好奇心の強い、女嫌いの詩月坊っちゃま。そのお相手を日和がしてくれるのならば、高い金を払って毎度口の固い男娼をあがなう必要がなくなる。
 俺たち使用人にとっては有難い話だった。


「二人とも、彼が黒か白か分からぬうちは、普通に接するように。彼が土谷田や彼の屋敷にいた奴隷達について貴重な情報を持っていることに違いはないしな」
「うん。詩月、日和さんのパソコンとスマホに情報共有ソフトやGPSも入れたんでしょ? 彼の部屋には監視カメラもついてる。なら、しばらくは兄さんの言うように様子を見よう?」
「むー。分かった……」

 兄二人にそう言われてしまえば、詩月坊っちゃまは黙って頷くより他なかった。



 三兄弟の晩餐が終わったのち、俺は熱に浮かされて寝込んでいる日和の部屋を再度訪れる。


「お前さんがヤツのスパイだったら、俺は人間不信になっちまうわ」

 
 冷却シートを替えてやりながら、解熱剤が効いてすやすやと眠る彼の未来を案じて、俺はため息をつくのだった。
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