元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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37)過去の記憶

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「いいよ。ボクに答えられることなら。なに?」


 樫原さんが立ち上がって、ココアのお代わりを作り始めた。私はココアの中で小さく溶けていくマシュマロを見つめながら切り出す。


「みんなは……私以外のあのお屋敷にいた愛玩奴隷達は、どうしていますか? みんな、元気にしているでしょうか……」
「それって、児童養護施設に保護された子たちのこと?」
「はい。特にまだ小さい大毅だいきは、寒さに当たるとすぐに熱を出すんです。つむぎは……翔夜しょうやは……? みんな、無事なんでしょうか?」


 私はよほど必死な表情だったらしい。樫原さんは少し驚いたあと、私の傍に来て肩に手を置いてくれた。


「みんな元気だって聞いてるよ。今、あの子達は身元調査が行われている。親元に戻れる子は戻すし、戻れそうにない子は東條院グループと繋がりのある児童養護施設施設が、責任持って引き取り先を探すなりして成人するまで面倒を見てくれる。あんな山奥の屋敷で奴隷として飼われるより、よっぽどマトモで幸せな生活ができてると思うよ」
「良かった……」

 
 樫原さんのその言葉に、私は胸を撫で下ろした。
 
 あのお屋敷で最年長だった私は、彼らと寝食を共にして世話をするうち、彼らのことは仲間としてというより、もはや弟のような存在として大切に思ってきたところがあった。
 そんな彼らが今幸せに過ごしている。それは私にとって、何より嬉しい事だった。

 
「日和は自分の心配より仲間の心配をするんだね。なんというか……あのクズ男の元で育ったのに、奇跡みたいにいい子で拍子抜けしちゃう」
「クズ男……?」


 樫原さんの言う『クズ男』とは、土谷田様の事だろう。腹が立つ訳では無かったけれど、あまりの言われように私は笑ってしまった。
 一応少しはフォローをしておこうかな、と思う。


「確かに土谷田様は、とても良い主人とは言えないかもしれません。けれど、少なくとも私はあの方へ感謝をしています。あの方がいたから、私はこの歳まで一度も衣食住に困ったことがないんです。それにあの方は少年愛者であったにも関わらず、大きくなりすぎてしまった私を見捨てず、ここまで育てて下さいましたから」
「うーん。それ、本気で言ってるとしたら、日和はちょっとお人好し過ぎ」
「あはは。野の者とも山の者とも知れぬ私を雇って下さった皆さんも、十分お優しいですよ?」
「えーっと、念の為言っておくけど、ボク……キミの事、褒めてないよ?」


 樫原さんはそう言って笑いながら、私の髪をくしゃっと撫でてくれた。

 
「ま、このお屋敷にキミを連れてきたのはボクだしね。その責任分は面倒見るつもり」

 
 初めて会った時にも思ったけれど、彼や佐倉さんは話をしてみると意外と優しくて、案外面倒見がいい方たちなのかもしれない。

 私は奴隷達の中では最年長だったけれど、もし私よりも年上の者や兄などがいたら、こんな感じだったのかな。

 
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」
「はーい。ほんと、日和は真面目だね。まぁ、そういうのボクは嫌いじゃないけど」


 樫原さんはやれやれと言うようにそう言って、私に向かって笑った。
 窓の外は北風が吹き、今にも雪が混じりそうな寒さだ。けれど、その夜ココアで温まった私の心は、いつまでもホッコリと温かかった。




 
 安心したせいだろうか? それとも、環境が大きく変わったことによる疲れが出たのだろうか。

 その夜から私は高熱を出して寝込んだ。私が仕事に復帰できたのは、週末を挟んだ翌週のことだった。
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