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33)詩月様とコーラ
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「律火様、あの……」
「ん? なぁに、日和さん」
徐々に下着の布を内側から持ち上げるそれに気付かぬはずはないのに、律火様は涼しい顔で私に向かって微笑まれる。
さも、『いやらしいことなんてしていません』とでも言わんばかりの爽やかな笑顔を向けられて、私も言葉に詰まってしまった。
「いえ……何でもございません」
「日和さんって、本当に可愛い。じゃ、続けるね?」
「はい……」
律火様の意図の分からぬその遊びは、結局小一時間ほど続いた。
私はセックスは愚か射精にも至らぬまま律火様の手の中で悶々と身を捩り、気がつけば律火様のベッドで翌朝を迎えることになったのだった。
***
「おはようございます」
「おー、おはよう日和。って、おい。なんかお前、疲れてないか?」
翌日の午後。
屋敷の通路で会った佐倉さんが、私の顔を見るなりそう言った。
「慣れない新生活で疲れが出たんじゃないのか? 別に仕事を教えるのは今日じゃなくても……」
「いえ。教えていただく身でそんなわがままは申しません。それに、私も楽しみにしていましたから」
私はそう言いつつ、飲み物を運ぶ途中らしい佐倉さんの手元を見やる。
「ところで、それは珈琲ですか?」
「はは。これ頼んだの、詩月様だぞ? 珈琲な訳あるかって」
この家に来てまだ数日だけれど、普通ならば執事がするような給仕を、詩月様に限っては佐倉さんや樫原さんがしている事を何度かお見かけした。
「詩月様は珈琲をお飲みにならないのですか?」
「飲まれない訳じゃないんだが、まぁプライベートで珈琲や紅茶を好んでお飲みになるようなタイプでは無いな」
「そうなんですか。あの……それ、宜しければ私が行きましょうか?」
理由は分からないが、忙しいであろう二人の側近がわざわざ離れにある詩月様のお部屋まで飲み物を届けるのは大変だろう。
まだできる仕事の少ない私が行くのが、妥当のように思えた。
「いや、とりあえず今日のところは俺が頼まれたんで大丈……っておい」
私は何故か渋る佐倉さんからトレーを取り上げて、ニッコリと笑ってみせた。
「いつもの離れにあるあのお部屋にいらっしゃるんですよね? 私にやらせて下さい」
「あー、いや……でも……」
佐倉さんはそんな歯切れの悪い返事をしていたが、そんなやり取りをする間に飲み物の氷はどんどん溶けていく。それに気が付いた佐倉さんは、諦めたようにため息をついた
「はぁ……まぁ一緒に行けばいいか。詩月様はお部屋じゃなく、この時間は書庫の方においでだと思う。場所を教えるから、一緒に来い」
「はい」
ああ、なるほど。
私は書庫の場所を知らないから、一度は断りかけていたのだろう。だが一度場所を教われば、次からは一人でも給仕が出来る。そう踏んで、あの返事だったのか。
私は一人で勝手にそう納得して、彼の後ろをついていく。
この屋敷は敷地内でいくつかの棟に分かれていて、渡り廊下で繋がっていた。
詩月様がいるという書庫は、母屋から見て北側の別館にあった。日光により本が傷まないよう、書庫は地下にあるのだそうだ。
書庫の前に着いた佐倉さんは、ドアを軽くノックしてから私を振り返る。
「じゃ、頼んだぞ」
私はコクリと頷いて、佐倉さんに軽く頭を下げた。
「詩月様、お飲み物をお持ちしました」
静かに部屋に入ると、私は机の上で本を読んでいたらしい詩月様の傍へ歩む。邪魔にならない場所へコーラの入ったグラスとコースターを置いた途端、詩月様がふと顔を上げられた。
「――あれ? 日和? 佐倉に頼んだと思ってたんだけど」
「佐倉さんなら、私にここの場所を教えるために先程まで一緒でしたけれど……もしや佐倉さんにご用事でしたか?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。もう、佐倉のやつ……」
少しむくれたようにそんな呟きをしながら、詩月様は読みかけの本を机に伏せた。
「ん? なぁに、日和さん」
徐々に下着の布を内側から持ち上げるそれに気付かぬはずはないのに、律火様は涼しい顔で私に向かって微笑まれる。
さも、『いやらしいことなんてしていません』とでも言わんばかりの爽やかな笑顔を向けられて、私も言葉に詰まってしまった。
「いえ……何でもございません」
「日和さんって、本当に可愛い。じゃ、続けるね?」
「はい……」
律火様の意図の分からぬその遊びは、結局小一時間ほど続いた。
私はセックスは愚か射精にも至らぬまま律火様の手の中で悶々と身を捩り、気がつけば律火様のベッドで翌朝を迎えることになったのだった。
***
「おはようございます」
「おー、おはよう日和。って、おい。なんかお前、疲れてないか?」
翌日の午後。
屋敷の通路で会った佐倉さんが、私の顔を見るなりそう言った。
「慣れない新生活で疲れが出たんじゃないのか? 別に仕事を教えるのは今日じゃなくても……」
「いえ。教えていただく身でそんなわがままは申しません。それに、私も楽しみにしていましたから」
私はそう言いつつ、飲み物を運ぶ途中らしい佐倉さんの手元を見やる。
「ところで、それは珈琲ですか?」
「はは。これ頼んだの、詩月様だぞ? 珈琲な訳あるかって」
この家に来てまだ数日だけれど、普通ならば執事がするような給仕を、詩月様に限っては佐倉さんや樫原さんがしている事を何度かお見かけした。
「詩月様は珈琲をお飲みにならないのですか?」
「飲まれない訳じゃないんだが、まぁプライベートで珈琲や紅茶を好んでお飲みになるようなタイプでは無いな」
「そうなんですか。あの……それ、宜しければ私が行きましょうか?」
理由は分からないが、忙しいであろう二人の側近がわざわざ離れにある詩月様のお部屋まで飲み物を届けるのは大変だろう。
まだできる仕事の少ない私が行くのが、妥当のように思えた。
「いや、とりあえず今日のところは俺が頼まれたんで大丈……っておい」
私は何故か渋る佐倉さんからトレーを取り上げて、ニッコリと笑ってみせた。
「いつもの離れにあるあのお部屋にいらっしゃるんですよね? 私にやらせて下さい」
「あー、いや……でも……」
佐倉さんはそんな歯切れの悪い返事をしていたが、そんなやり取りをする間に飲み物の氷はどんどん溶けていく。それに気が付いた佐倉さんは、諦めたようにため息をついた
「はぁ……まぁ一緒に行けばいいか。詩月様はお部屋じゃなく、この時間は書庫の方においでだと思う。場所を教えるから、一緒に来い」
「はい」
ああ、なるほど。
私は書庫の場所を知らないから、一度は断りかけていたのだろう。だが一度場所を教われば、次からは一人でも給仕が出来る。そう踏んで、あの返事だったのか。
私は一人で勝手にそう納得して、彼の後ろをついていく。
この屋敷は敷地内でいくつかの棟に分かれていて、渡り廊下で繋がっていた。
詩月様がいるという書庫は、母屋から見て北側の別館にあった。日光により本が傷まないよう、書庫は地下にあるのだそうだ。
書庫の前に着いた佐倉さんは、ドアを軽くノックしてから私を振り返る。
「じゃ、頼んだぞ」
私はコクリと頷いて、佐倉さんに軽く頭を下げた。
「詩月様、お飲み物をお持ちしました」
静かに部屋に入ると、私は机の上で本を読んでいたらしい詩月様の傍へ歩む。邪魔にならない場所へコーラの入ったグラスとコースターを置いた途端、詩月様がふと顔を上げられた。
「――あれ? 日和? 佐倉に頼んだと思ってたんだけど」
「佐倉さんなら、私にここの場所を教えるために先程まで一緒でしたけれど……もしや佐倉さんにご用事でしたか?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。もう、佐倉のやつ……」
少しむくれたようにそんな呟きをしながら、詩月様は読みかけの本を机に伏せた。
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