元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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31)愛玩の意味

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「私にはもう、愛玩奴隷としての価値はないのかもしれません。ですが私は、路頭に迷いそうになっていた所を救っていただいた恩返しがしたいのです。律火様がもしお嫌でなければ、私を大人に……いえ、せめて口でのご奉仕だけでもお許し頂ければ……」


 そう言ってひざまずいた私を制して、律火様は口を開かれた。


「ごめんね。そういうことなら、それはやめておくよ」
「あ…………」


 こんな私を可愛いと言ってくださった律火様へ抱いた、淡い期待。
 瞬間、それは私の中でハラハラと音を立てて砕け散った。


「……そうですか。奴隷の分際で、図々しいことを申し上げました。どうかお許しください」


 お優しい律火様に付け込もうとしてしまった自分が悪いのだから、私には泣く権利などないのに。悔しさと悲しさで視界が滲むのは、私にはどうしようも出来ない。


「違うよ……そうじゃない。さっきの話、兄さんにもしたんでしょう?」
「はい……」
「それを知った上で兄さんが日和さんを抱かなかったんだったら、それはあの人も多かれ少なかれ、僕と同じ考えに至ったんじゃないかなって思う」
「…………同じお考え?」
  

 首を傾げた私の側に、ふわりと律火様の香りが香った。
 金木犀きんもくせいのようなその甘い香りが私を優しく包み込んで、数秒遅れで私は自分が抱きしめられていることに気が付く。


「律火、さま……?」


 触れ合った耳や首筋から、じんわりと伝う律火様の体温。優しく背中を撫でられて、強張っていた体の力が抜けていくのが分かった。


「リラックスしていてね」


 左耳の穴に吐息を吹き込むように、律火様の優しく甘い声が鼓膜を揺らす。


「その顔……なにか勘違いしてるでしょ? 僕はね、日和さんはこんなに可愛いんだから、もっと、愛玩……愛されて可愛がられるべきだって思うんだ」


 パクリと耳朶を甘噛みされて、僅かに肩が強ばる。けれども柔らかな薄いそれを味わうように食まれて、私はその心地よさに目を閉じた。


「『愛玩』って言葉はね。確かに『おもちゃとして慰みものにする』って意味もある。けどね」
「……ん、……っ」


 律火様に舌先で耳の内側のくぼみをチロリと舐められて、背筋にゾクリと疼きが走る。
 
 漏れそうな吐息をなんとか堪えると、その仕草に微笑まれた律火様が尖らせた舌先で、耳の中心にある小さな穴をチロチロとくすぐった。


「ひっ…………ん、っ……んんん」


 勝手に漏れ出る声を手で必死に抑えて、眉根を寄せながら込み上がるくすぐったい感覚に耐える。
 喘ぐ声を抑える事は出来ても、くすぐったい時に反射的に出てしまう声を抑えるのは、また別の難しさがあるようだ。


「愛玩には、『大切にして、可愛がること』って意味もあるんだ。……ふふ。耳、こうして舐められるの、好き? もし少しでも声が出せるなら、聴きたいな。日和さんの気持ちいい声」
「で、です、が……ぁ……っ」


 唇を塞いでいた手を掴まれて、私は声を漏らさぬよう慌てて唇を噛んだ。


 律火様はちらりとその様子に視線を送られたけれど、たしなめる事はせず、そのまま再び右耳の内側に舌を這わせる。

 くちゅくちゅと粘質な水音がダイレクトに鼓膜を刺激して、私の内側へと甘く伝う。
 
 その卑猥な音だけでもとろけてしまいそうなのに、律火様の手は優しく首や脇、腹や剥き出しの太腿を撫でて、時折まさぐるように私の体を探った。


「日和さんの肌。すべすべで、絹のように手触りがいいね。触れられて気持ちいいところ、あったら教えて」


 囁くような甘い声で言われて、耳の中に熱い吐息を吹き込まれる。その熱さにゾクゾクとした色気を感じ、私は無意識に身をよじった。
 けれど、逃さないとでも言うように反対の手で頭を固定されて、耳軟骨を甘噛みされる。
 私はどんな顔をしてよいか分からなくて、思わず固く目を瞑ったけれど。

 耳から入る甘い吐息や濡れた音。
 そして柔らかな唇の感触や体温は、目を瞑ることによって逆に私の中で鮮明な快楽の火種となって、内側からゆらゆらと私の欲情をあぶった。
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