元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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26)律火様のお誘い

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 黙って俯いた私を見て、律火様は少し考えるような仕草をされてから立ち上がった。


「そうだ。日和さん、今日は僕とデートをしない?」
「デート……ですか?」
「そう。実は兄さんに、近々誰かに日和さんの給与受取口座を開設する手伝いをさせるように言われていたんだけど。僕、今日暇なんだ。一緒に街に降りて、用を足すついでに何か日和さんの元気が出ることをしよう」
「…………!? い、いけません……!」


 私ごときのために、主人である律火様のお手をわずらわせる訳にはいかない。

 銀行口座の作り方は確かに私には良く分からないけれど、言葉の感じから、恐らくそれは律火様のお手を煩わせるような事柄ではない雑用のたぐいのはずだ。
 恐らくお優しい律火様のお心遣いであろうが、ここは辞退するべきだろう。

 慌ててそれを伝えようと開いた私の口を、律火様がフォークに刺さったウインナーで塞ぐ。


「むぐ……っ」


 パリッと焼けたウインナーの肉汁がじわりと口の中に広がって、私はつい反射的にそれを咀嚼そしゃくしてしまう。その様子を微笑みながら見ていた律火様は、私の口の端に付いた脂をナフキンで拭って下さった。


「えー、良いじゃない。あ。なら、僕が買い物に出るから、日和さんは荷物持ちとして僕に付き合ってくれる?」
「そ、それでしたら……まぁ」


 ウインナーを飲み込んだ私は、結局律火様に押し切られる形でデート……もとい、外出を了承することとなったのだった。






 朝から降っていた雪は、いつの間にか止んだらしい。

 朝食後佐倉さんの運転で律火様と一緒に車で街へ下りた私は、初めての判子を作ったり、役所へ行って住民票の写しを貰ったりした。
 その後も役所関係の書類に貼るという写真を撮ったり、銀行口座を作ったりと、私達は街のあちらこちらを回った。


「銀行口座を作るのって、こんなに大変なんですね……」


 半日がかりでようやく手に入れた銀行の通帳を眺めながら、私は深い溜息をついた。

 なんせ外出など全くしたことがなかったから、銀行口座は愚か、それを作るのに必要な身分証明書の入手方法すら私は知らなかった。
 作った通帳を大切に鞄に仕舞い込むと、私達は佐倉さんの待つ車へと向かう。


「うん。運転免許証が無いと通帳を作るのって意外と面倒だし、このあたりは郊外だから車がなかったら一日がかりだったと思うよ。たまたま佐倉の身体が空いていてよかったね」


 律火様はそう笑って車のドアを開けると、後部座席へ私を座らせてくださった。

 これらはきっとかなり煩わしい作業であっただろうに、律火様は始終ニコニコしながら私に丁寧に手続きの内容や必要性を説明して下さった。
 
 銀行だけではなく、住民票取得のために立ち寄った役所では、案内板を指し示しながらそれぞれの部署がどういった働きをしているのかを説明してくださって、私は興味津々だ。


「佐倉さんは勿論ですが、律火様が居てくださらなかったら、私一人では通帳を作る前に日が暮れていたと思います。せっかくのお休みにお手数をおかけして申し訳ありませんでした」


 私がそう言って深々と頭を下げると、律火様は両手を伸ばして私の頬に触れられた。そのままぷにぷに、と私の頬を摘むと、悪戯にウインクをしてみせる。


「そういう時は、『ありがとう』って言ってみて。日和さんに社会のことを教えるようにっていうのは兄さんからの頼みでもあるし、学校の勉強は詩月あたりに習えばいいけど、生活に必要な知識ってまた別でしょう? そういうのは多分、佐倉や僕あたりの役割だと思ったからさ。もし助かったって思ってくれたなら、僕は日和さんに『ありがとう』って言って欲しいな」


 そう言って優しく微笑まれた律火様の美しい笑顔に見惚れつつ、私はぺこりと頭を下げた。
 
「はい……、ありがとうございました!」
「ふふ、どういたしまして。……さ、通帳も作ったことだし。ここからは僕の用事に付き合ってくれる?」
「はい、どこへなりとも」


 私がそう答えると、律火様は佐倉さんに目配せをした。
 すると小さく頷いた佐倉さんが、市街地へ続く道へとハンドルを切る。

 やがて車は商店街に程近い小さなコインパーキングへと入り、佐倉さんは慣れた様子で車を停めた。


「律火様、どうぞお気をつけて……」
「うん。三時間以内には戻るから、佐倉は車で待ってて。さ、行こうか日和さん」
「はい」


 車から下りた私の手をやんわりと掴んだ律火様は、そのまま私と手を繋いで繁華街へと歩き出した。
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