元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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15)マッサージはお得意?

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 気合を入れ、動きやすいように私は上着を脱いだ。更にワイシャツの袖口のボタンを外し、袖を肘の辺りまでまくりあげる。


「失礼します」


 ゆっくりとベッドに膝をついた私は、水湊様の肩の筋肉に掌をのせた。




 
 前の主人はまだ青さの残る少年たちを好まれる方であったため、主人より背が高くなってしまった私に夜伽の声がかかることはほとんど無かった。
 
 むしろ、そういった意味で主人と夜を共にしたことは、全く無いに等しい。

 けれど、それでも私は体型を崩さぬために多少なりの筋トレを続けていた。
 
 そのため筋力を必要とするマッサージのようなことは、他の少年達に比べ得意だったと思う。
 
 実際前の主人からも、夜伽ではなくマッサージのために寝室へ呼ばれることは何度もあった。
 
 またか……と僅かに落胆しつつも、とうが立った後も主人に捨てられず、未だ必要とされているという点で、私は幸福だ。
 私はそう自らに言い聞かせて、必死に笑顔を作っていたものだ。


 

  
 そんなほろ苦い思い出で共に得たマッサージの腕が、まさかこんな所で役に立とうとは……。
 
 自嘲しながら、そんな内心を水湊様に悟られぬよう、私はふわりと穏やかな笑顔を浮かべた。


「では……。痛いところがございましたら、仰って下さい」


 そう声をかけて、私は水湊様の固く凝った広背筋へ、ゆっくりと掌で圧をかける。

 凝り固まった肩の筋肉を親指の腹で揉み上げると、そこにつながる肩から首までの筋を辿っていく。

 凝り固まって初めはなかなか指の入らなかった筋肉に、少しずつ繊維へ逆らう方向で力をかけた。

 こういった場合、一気に解すと翌日に揉み返しに苦しむことになると以前本で学んだ。
 
 初回は筋繊維を傷めないよう表面から。そうして徐々に深い場所へと時間をかけてアプローチしていくのが、マッサージの基本だった。

 ここまで上半身が広範囲に凝っていたら、恐らく水湊様には頭痛などの自覚症状もあったのではないだろうか。

 連日深夜にしか屋敷に戻られないらしい水湊様の仕事が多忙を極めていることは、私ですら容易に想像できた。


「あの……もしや、首や肩に日常的に痛みがありませんか?」
「分かるのか。……マッサージ、上手いんだな。なかなか良い」
「ありがとうございます」

 
 先程は少し複雑な気持ちになったけれど、気持ちよさそうに寝そべる水湊様を見ていたら嬉しくて自然に頬が緩む。
 前の主人はあまり人を褒めるタイプではなかったこともあり、主人に褒めて頂ける事がこんなにも嬉しい。
 
 油断すると表情に喜びがだだ漏れになってしまいそうだ。そんな自分を律しながら、今度は背中から続く腰の方へマッサージを施す。
 
 その間水湊様はうとうとと気持ち良さそうに微睡まどろまれては、「上手いな」「気持ち良い」と褒めてくださった。
 私はそれがとても嬉しくて、気付けば夢中になって施術をしていた。




  
 一時間ほどマッサージをして汗ばんだ私に、水湊様は水を手渡してくださる。お礼を言って一気飲みした私を見ていた水湊様は、再びバスローブを纏いながら口を開いた。


「少しは緊張が解けたか?」
「……え」


 水湊様の言葉に、ドキリとする。


『どうが立っているか、見てやる』


 そういえば、この部屋に私が呼び出されたのはそもそもそういう理由だったことを思い出す。
 
 主人に褒められた事で気を良くし、うっかり奉仕に夢中になっていた自分が恥ずかしい。


「最初より表情が柔らかくなったようだ」
「……はい」
「日和、こちらへ」


 その言葉にコクリと頷いた私は、恐る恐るベッドに座る水湊様の前に立った。


「服を全て脱ぎなさい」


 そう言われて、ピクリと私の肩が跳ねる。
 騒ぐ心臓を諌めながら、私はゆっくりとシャツのボタンを外していった。

 新しい主人の前で服を脱ぐのはこれが二度目。

 一度目は、詩月様。
 二度目は、水湊様だ。

 この間詩月様に注意を受けたので、今日はズボンを下ろすとき思い切って下着も一緒に脱いだ。

 先程薄く汗をかいてしまった体を、夜半の空気がヒヤリと撫でる。


「あ、あの……」
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