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13)私の所持品
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「日和、いる?」
夕食を終えて部屋に戻ってすぐに、詩月様が私の部屋を訪ねていらした。私は慌てて詩月様を部屋へお通しし、部屋に一つだけある椅子を勧めた。
「ご足労頂いて申し訳ありません。お呼び頂ければ、私がお部屋まで参りましたのに」
「いいよ。僕が日和の部屋を見てみたかったの。夜勤者の仮眠室を片付けたんだね。荷物はこれだけ?」
「ええ」
私の荷物は数枚の衣類と小さな日記帳。
前の主人に幼い頃頂いた数冊の本と、それを入れてきたビニールのバッグだけだった。
ビニールのバッグは屋敷を出る際に佐倉さんに貰ったものだから、厳密には元々の私の持ち物ではない。
「ええー? 日和の私物、ほとんどないじゃん」
椅子にお座りになった詩月様は、私の部屋の中をキョロキョロと見渡しながらそう仰った。
「ええと、お茶などお出し出来れば良かったのですが、あいにく用意がなく。今日はその……」
まさか主人に『どういったご用件ですか?』などと聞く訳にもいかず、私は所在無げにドアの前に立った。
「あ、お茶は要らないよ。用事はこれ」
数秒の沈黙に、詩月様は私の言いたいことを汲み取ってくれたらしい。
詩月様は立ち上がって、おもむろに机の上のノートパソコンを開いた。
迷わず起動ボタンを押した詩月様は、慣れた手付きで何やらキーボードを操作していらっしゃる。
やがて画面にはいくつかの小さな四角い模様が現れて、詩月様は私に向かって手招きをなさった。
「取り敢えず初期設定と最低限のソフトは入れておいたよ。調べ物をしたいときはここ、こっちは使用人用の業務日誌ソフトと連絡ツール。外出するときなんかに地図を見たいときはコレね」
詩月様は画面を指さしながらそう説明して下さり、私は慌ててメモを取った。すると詩月様は私がメモを取りやすいように休み休み説明をして下さって、一つ一つのソフトを立ち上げて簡単な使い方までレクチャーして下さる。
「地図はここを押すとストリートビューが出るから、スマートフォンのGPSと併せて使うといいよ。休日の外出は自由だけど、連絡が取れないと困るから。スマートフォンは体から離さないでね? 取り敢えず、説明はこんなものかな」
「はい、ありがとうございます。……ですが」
一通りの説明を受けた私は、説明半ばから思っていたことを恐る恐る切り出した。
「樫原さんにも申し上げたのですが、いくら逃げる可能性がないとはいえ、奴隷の私がインターネットや地図などを拝見して、自由に外出をして良いものでしょうか。ここは一階で窓も自由に開きます。樫原さんに、土日は外出をしても構わないとも言われましたし、こんな……」
私がそう言うと、詩月様は「ぷっ……」と小さく吹き出し、楽しそうに笑われた。
「それって『鉄格子の嵌った窓の無い地下牢に繋いでほしい』っていうマゾヒスティックなおねだり? それとも、逃亡したところを捕まえて、お仕置きしてほしいとかいう、プレイのお誘い?」
「えっ……?」
詩月様は茶目っ気たっぷりの上目遣いでそう言って、私の腰を抱き寄せられた。
「そうじゃないんだったら。肉体的拘束をしないと逃げるような奴隷、僕なら要らないけどな。だって、ちゃんとした忠誠心のある奴隷は繋がなくても逃げないもん」
「…………!」
「そうでしょう?」
詩月様の手が、不意に私の右臀部の膨らみをぎゅっと掴まれた。親指を尻の間に滑り込ませ、布越しにその間へ指の先を突き立てる。
「…………ッ」
唐突に行われたその行為にビクリと跳ねた体は、そのまま緊張を心臓へと伝える。くにくにとその部分にめり込んでいく親指は、僅かな痛みを私に伝えた。
「ふふっ、いい顔。痛くても恥ずかしくても、日和はちゃんと耐えるんだね」
「…………ぁ……っ」
思わず漏れそうになる声を、ぐっと唇を噛むことで耐える。すると不意に詩月様がパッと手を離した。
「……残念だけど、今日は僕の番じゃないからここまで。続きはまた来週……ね。待ってるよ」
詩月様がそう言い残して部屋を出ていかれたすぐ後、私は佐倉さんからの内線で、水湊様のご帰宅を知った。
夕食を終えて部屋に戻ってすぐに、詩月様が私の部屋を訪ねていらした。私は慌てて詩月様を部屋へお通しし、部屋に一つだけある椅子を勧めた。
「ご足労頂いて申し訳ありません。お呼び頂ければ、私がお部屋まで参りましたのに」
「いいよ。僕が日和の部屋を見てみたかったの。夜勤者の仮眠室を片付けたんだね。荷物はこれだけ?」
「ええ」
私の荷物は数枚の衣類と小さな日記帳。
前の主人に幼い頃頂いた数冊の本と、それを入れてきたビニールのバッグだけだった。
ビニールのバッグは屋敷を出る際に佐倉さんに貰ったものだから、厳密には元々の私の持ち物ではない。
「ええー? 日和の私物、ほとんどないじゃん」
椅子にお座りになった詩月様は、私の部屋の中をキョロキョロと見渡しながらそう仰った。
「ええと、お茶などお出し出来れば良かったのですが、あいにく用意がなく。今日はその……」
まさか主人に『どういったご用件ですか?』などと聞く訳にもいかず、私は所在無げにドアの前に立った。
「あ、お茶は要らないよ。用事はこれ」
数秒の沈黙に、詩月様は私の言いたいことを汲み取ってくれたらしい。
詩月様は立ち上がって、おもむろに机の上のノートパソコンを開いた。
迷わず起動ボタンを押した詩月様は、慣れた手付きで何やらキーボードを操作していらっしゃる。
やがて画面にはいくつかの小さな四角い模様が現れて、詩月様は私に向かって手招きをなさった。
「取り敢えず初期設定と最低限のソフトは入れておいたよ。調べ物をしたいときはここ、こっちは使用人用の業務日誌ソフトと連絡ツール。外出するときなんかに地図を見たいときはコレね」
詩月様は画面を指さしながらそう説明して下さり、私は慌ててメモを取った。すると詩月様は私がメモを取りやすいように休み休み説明をして下さって、一つ一つのソフトを立ち上げて簡単な使い方までレクチャーして下さる。
「地図はここを押すとストリートビューが出るから、スマートフォンのGPSと併せて使うといいよ。休日の外出は自由だけど、連絡が取れないと困るから。スマートフォンは体から離さないでね? 取り敢えず、説明はこんなものかな」
「はい、ありがとうございます。……ですが」
一通りの説明を受けた私は、説明半ばから思っていたことを恐る恐る切り出した。
「樫原さんにも申し上げたのですが、いくら逃げる可能性がないとはいえ、奴隷の私がインターネットや地図などを拝見して、自由に外出をして良いものでしょうか。ここは一階で窓も自由に開きます。樫原さんに、土日は外出をしても構わないとも言われましたし、こんな……」
私がそう言うと、詩月様は「ぷっ……」と小さく吹き出し、楽しそうに笑われた。
「それって『鉄格子の嵌った窓の無い地下牢に繋いでほしい』っていうマゾヒスティックなおねだり? それとも、逃亡したところを捕まえて、お仕置きしてほしいとかいう、プレイのお誘い?」
「えっ……?」
詩月様は茶目っ気たっぷりの上目遣いでそう言って、私の腰を抱き寄せられた。
「そうじゃないんだったら。肉体的拘束をしないと逃げるような奴隷、僕なら要らないけどな。だって、ちゃんとした忠誠心のある奴隷は繋がなくても逃げないもん」
「…………!」
「そうでしょう?」
詩月様の手が、不意に私の右臀部の膨らみをぎゅっと掴まれた。親指を尻の間に滑り込ませ、布越しにその間へ指の先を突き立てる。
「…………ッ」
唐突に行われたその行為にビクリと跳ねた体は、そのまま緊張を心臓へと伝える。くにくにとその部分にめり込んでいく親指は、僅かな痛みを私に伝えた。
「ふふっ、いい顔。痛くても恥ずかしくても、日和はちゃんと耐えるんだね」
「…………ぁ……っ」
思わず漏れそうになる声を、ぐっと唇を噛むことで耐える。すると不意に詩月様がパッと手を離した。
「……残念だけど、今日は僕の番じゃないからここまで。続きはまた来週……ね。待ってるよ」
詩月様がそう言い残して部屋を出ていかれたすぐ後、私は佐倉さんからの内線で、水湊様のご帰宅を知った。
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