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11)初めての朝
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愛玩奴隷の朝は早い。
朝は主人より早く起きて支度をし、朝食の給仕と片付け。
昼前までには掃除や洗濯をして、午後は少し勉強を……なんて思っていたはずなのに。
心身ともに疲れきっていた私が起きたのは、なんと昼近くだった。
初日から大寝坊……やってしまった。
真っ青になりながら大慌てで身支度を整えて部屋から出た私は、広い廊下の真ん中で立ち尽くした。
昨夜は樫原さんが案内してくれたのでなんとかなったが、改めて明るくなってから見てみると屋敷はかなり広い。
昨日訪れた部屋に行くことは辛うじて出来るかもしれないが、そもそもこれからどこに向かえばいいのかが分からない。下手に歩き回って迷っても困る。
『何かあったら内線四番を押して』
私は樫原さんのその言葉を思い出して、部屋に戻って内線四番を押した。樫原さんが電話口に出るなり大慌てで謝る私に、彼は笑いながら電話の向こうで何やらパソコンを操作しているようだ。
「えーっと。日和は昨日は夜勤扱いになってるよ。因みに今日も夜勤扱いになってるから、夕方までは別に休んでて良いんじゃない?」
「……!? ですが、私のお休みは土日だけだったのでは……?」
私は壁に貼られたカレンダーを確認するが、今日はまだ平日だ。仕事をすっぽかしてしまった事に間違いはないはずなのに、休み……とは?
「あー。昨日の水湊様との面接が夜遅かったんで、勤務時間の調整が入ったんだと思うよ」
「えーっと……???」
「簡単に言うと、日和の仕事が始まるのは今日は早くても夕方から。だからそれまでは、休んでていいってこと。社員の労働時間は基本的に一日八時間って、労働基準法で決まってるからね」
「は、八時間……!?」
前のお屋敷では、睡眠時間や風呂、食事等の時間を除き、私達の自由時間は寝る前の一時間程度だった。
その間主人からお呼びがかかればプレイルームへ、かからぬ者はそのまま自分のベッドで眠るのだ。
私の驚き方に樫原さんは苦笑いをして「食事のための休憩が一時間あるから、実質拘束時間は九時間になるけどね」と付け加えた。
「では、それ以外は好きに過ごして構わないのですか?」
「うん。暇なら屋敷の中でも見て回ったら? 案内が必要なら佐倉にでも行かせるけど。どうする?」
樫原さんはあくびをしながら、「今日はボクも夜からの勤務なんでね」と付け加えた。
佐倉さんとは確か、昨日屋敷で会ったオールバックの人だったはず。
彼は私がこの屋敷で働くことを、あまりよく思っていなさそうな感じだった。
そんな彼と二人っきりで屋敷を案内してもらうのはちょっと勇気がいる。
「あ……いえ。でしたら、お屋敷の見取り図などはありますか? 敷地内を散策してもよろしければ、一人で見て回ろうと思います」
「正直そーしてくれると助かる。見取り図、日和の携帯に送っておくね」
「私の携帯……?」
「窓際のデスクに支給品のスマホ、ない?」
樫原さんに言われて確認すると、いつの間にかデスクの上には小さなノートパソコンと、黒いスマートフォンが置かれていた。
数年前、前の主人のお気に入りの一人が主人の目を盗んでスマートフォンに触れ、ひどい折檻を受けていた事を思い出す。
白い肌が青痣だらけになるまで鞭打たれ、数日間地下牢に繋がれた彼は、その後どうなったのだっただろうか……。
「日和……? おーいっ、見つけたー?」
「…………っ! あっ、はい」
私は回想を無理矢理打ち切って、慌てて樫原さんに返事を返す。
恐る恐るスマートフォンを手に取ってみるが、画面に触れてもそれは真っ暗なままだ。
「スマホの使い方は分かる?」
「いいえ……」
「そっか。なら取り敢えず、右の側面にある電源ボタンを長押ししてみてくれる?」
樫原さんに言われるまま、私は電源ボタンらしき場所に触れた。すると小さな振動とともにパッと画面に明かりが点って、何やら文字が表示される。
続いていくつかの謎のマークが並ぶ画面に切り替わると、小さく感嘆の声を漏らした私に樫原さんが笑った。
「そのスマートフォンにはGPSが入っているんだ。屋敷の見取り図はさっき送っておいたから多分メールボックスに入っているけど、迷ったらボクか佐倉に電話をかけてね。番号は電話帳に入ってるはず」
「メールボックス……電話帳……? ええと」
「庭や屋敷の中は自由に見て回って構わないけど、ドアの閉まっている部屋の中には勝手に入っちゃ駄目」
「承知しました」
「あ、あと日和のぶんの食事は食堂の奥の冷蔵庫に入っているはずだよ。律火様とお会いした部屋の反対隣が側近や屋敷のスタッフの食堂になってる」
「ありがとうございます」
「はーい、じゃあね」
樫原さんがそう答えると、電話はプツリと切れた。
食事というワードを聞いた途端、私のお腹はキュルリと空腹を訴える。
昨日から丸一日以上食べ物を口にしていない胃袋は、緊張から解き放たれてようやく自分の役目を思い出してくれたようだった。
私は食堂で遅い朝食を済ませた後、屋敷内の散策に残り半日を費やしたのだった。
朝は主人より早く起きて支度をし、朝食の給仕と片付け。
昼前までには掃除や洗濯をして、午後は少し勉強を……なんて思っていたはずなのに。
心身ともに疲れきっていた私が起きたのは、なんと昼近くだった。
初日から大寝坊……やってしまった。
真っ青になりながら大慌てで身支度を整えて部屋から出た私は、広い廊下の真ん中で立ち尽くした。
昨夜は樫原さんが案内してくれたのでなんとかなったが、改めて明るくなってから見てみると屋敷はかなり広い。
昨日訪れた部屋に行くことは辛うじて出来るかもしれないが、そもそもこれからどこに向かえばいいのかが分からない。下手に歩き回って迷っても困る。
『何かあったら内線四番を押して』
私は樫原さんのその言葉を思い出して、部屋に戻って内線四番を押した。樫原さんが電話口に出るなり大慌てで謝る私に、彼は笑いながら電話の向こうで何やらパソコンを操作しているようだ。
「えーっと。日和は昨日は夜勤扱いになってるよ。因みに今日も夜勤扱いになってるから、夕方までは別に休んでて良いんじゃない?」
「……!? ですが、私のお休みは土日だけだったのでは……?」
私は壁に貼られたカレンダーを確認するが、今日はまだ平日だ。仕事をすっぽかしてしまった事に間違いはないはずなのに、休み……とは?
「あー。昨日の水湊様との面接が夜遅かったんで、勤務時間の調整が入ったんだと思うよ」
「えーっと……???」
「簡単に言うと、日和の仕事が始まるのは今日は早くても夕方から。だからそれまでは、休んでていいってこと。社員の労働時間は基本的に一日八時間って、労働基準法で決まってるからね」
「は、八時間……!?」
前のお屋敷では、睡眠時間や風呂、食事等の時間を除き、私達の自由時間は寝る前の一時間程度だった。
その間主人からお呼びがかかればプレイルームへ、かからぬ者はそのまま自分のベッドで眠るのだ。
私の驚き方に樫原さんは苦笑いをして「食事のための休憩が一時間あるから、実質拘束時間は九時間になるけどね」と付け加えた。
「では、それ以外は好きに過ごして構わないのですか?」
「うん。暇なら屋敷の中でも見て回ったら? 案内が必要なら佐倉にでも行かせるけど。どうする?」
樫原さんはあくびをしながら、「今日はボクも夜からの勤務なんでね」と付け加えた。
佐倉さんとは確か、昨日屋敷で会ったオールバックの人だったはず。
彼は私がこの屋敷で働くことを、あまりよく思っていなさそうな感じだった。
そんな彼と二人っきりで屋敷を案内してもらうのはちょっと勇気がいる。
「あ……いえ。でしたら、お屋敷の見取り図などはありますか? 敷地内を散策してもよろしければ、一人で見て回ろうと思います」
「正直そーしてくれると助かる。見取り図、日和の携帯に送っておくね」
「私の携帯……?」
「窓際のデスクに支給品のスマホ、ない?」
樫原さんに言われて確認すると、いつの間にかデスクの上には小さなノートパソコンと、黒いスマートフォンが置かれていた。
数年前、前の主人のお気に入りの一人が主人の目を盗んでスマートフォンに触れ、ひどい折檻を受けていた事を思い出す。
白い肌が青痣だらけになるまで鞭打たれ、数日間地下牢に繋がれた彼は、その後どうなったのだっただろうか……。
「日和……? おーいっ、見つけたー?」
「…………っ! あっ、はい」
私は回想を無理矢理打ち切って、慌てて樫原さんに返事を返す。
恐る恐るスマートフォンを手に取ってみるが、画面に触れてもそれは真っ暗なままだ。
「スマホの使い方は分かる?」
「いいえ……」
「そっか。なら取り敢えず、右の側面にある電源ボタンを長押ししてみてくれる?」
樫原さんに言われるまま、私は電源ボタンらしき場所に触れた。すると小さな振動とともにパッと画面に明かりが点って、何やら文字が表示される。
続いていくつかの謎のマークが並ぶ画面に切り替わると、小さく感嘆の声を漏らした私に樫原さんが笑った。
「そのスマートフォンにはGPSが入っているんだ。屋敷の見取り図はさっき送っておいたから多分メールボックスに入っているけど、迷ったらボクか佐倉に電話をかけてね。番号は電話帳に入ってるはず」
「メールボックス……電話帳……? ええと」
「庭や屋敷の中は自由に見て回って構わないけど、ドアの閉まっている部屋の中には勝手に入っちゃ駄目」
「承知しました」
「あ、あと日和のぶんの食事は食堂の奥の冷蔵庫に入っているはずだよ。律火様とお会いした部屋の反対隣が側近や屋敷のスタッフの食堂になってる」
「ありがとうございます」
「はーい、じゃあね」
樫原さんがそう答えると、電話はプツリと切れた。
食事というワードを聞いた途端、私のお腹はキュルリと空腹を訴える。
昨日から丸一日以上食べ物を口にしていない胃袋は、緊張から解き放たれてようやく自分の役目を思い出してくれたようだった。
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