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7)大型犬がお好み?
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私の顔に律火様の作る影が落ちて、鼻同士が触れるほどの距離になる。
花のような香りの吐息が鼻腔をくすぐって、私が少しでも動いたら律火様の唇に触れてしまいそうだった。
私は律火様の意図がわからず硬直していた。
律火様はそんな私の様子をクスクスと笑われて、まるで口づけ代わりのように二本の指でちょんっと私の唇に触れる。
「舐めてくれる?」
「……っ!」
短くそうお命じになった律火様は、二本の指を私に差し出された。私は言われたとおりに口を開くと、舌を伸ばして二本の指をチロチロと舐めた。
ペニスを舐めろと言われるならばまだしも、指を舐めるように言われたのは初めてだった。
どう舐めたら律火様が喜んでくださるのかが分からなくて、私は律火様の表情をちらりと窺う。
すると律火様は私の口の中を悪戯に弄って、歯並びを前から奥へ、ゆっくりとなぞった。
「綺麗な歯並び」
「は、んぐ、……っ??」
意図が分からず、私は不自由な口でそう答える。
すると不意に手を引っ込められた律火様に、ぎゅっと抱きしめられて優しく頬を撫でられた。
「え、えっと……」
「ふふふ、やっぱりね。日和さんって、まるで大きなワンコみたい。奴隷志望なのに、スレてなくてとても可愛いね。それに抱き心地も手触りも最高。可愛がるにはピッタリ」
「……???」
奴隷である私を主人が犬と呼ぶのは分かる。けれど、抱き心地……とは?
「ああ、ごめんごめん。僕、綺麗なものや可愛い物に目がないんだ」
「か、可愛い……?」
「うん。大型犬は飼ったことがないけれど、いつかは欲しいなって思ってて」
律火様の言うワンコとは、純粋にペットとしての犬という意味だったらしい。
『可愛い』。それは私にとって、お世辞であっても嬉しい言葉だった。
少年愛者であった前の主人は、二次性徴の早かった私を恐らくあまり好ましくは思ってはいらっしゃらなかったから……。
”愛玩奴隷は、小さくて可愛い少年こそが好まれる”
私の中ではどうしても、そんなイメージが強い。
律火様は大きい方がお好み……。
もちろん律火様の気遣いの言葉である可能性もあるけれど、少なくとも私はその言葉に僅かに緊張を弛めた。
「そうでしょうか……。前の主人や樫原さんには『お前はとうが立っている』と言われましたが……」
「ふふふっ。そうなんだ? 彼らは見る目がないね。僕は日和さんのこと、とても気に入ったけどな」
そう仰った律火様の手が、私の心臓のあたりを優しく撫でている。いや、違う……。これは……。
「――ちょっと撫でただけで乳首が勃ってる。こんなに感度が良いのなら、日和さんは夜も可愛いんだろうな」
夜……という言葉に、私はドキリとした。
律火様が大きい方がお好みであれば、当然そういった意味での需要もある訳で……。
目線を上げると、先程詩月様のところで感じたのと同じ、支配階級の人間の視線。それと瞬時に目が合って、胸がざわついた。
おそらくだが、これは彼らが兄弟だからだけではない。
多分彼らは幼少期より、人の上に立つための教育を受けている。
私などとは格が違うのだ。
詩月様との時のように恥ずかしいことをさせられているわけでもないのに、私は再び緊張の汗が背中に滲むのを感じた。
それはさながら肉食獣と目があった小動物のようで、優しく胸元を撫でるその行為との乖離に、私は何やら薄ら寒いものを覚えてしまう。
その瞬間ズボン越しに股間をやわりと揉まれて、心臓を鷲掴みされたかのような衝撃が背筋を駆け抜ける。
本能的に逃げてしまいたくなった私が何とかその衝動を抑えていると、律火様はあっさりと手を離して何事もなかったように微笑まれた。
「日和さんのことは兄弟三人で相談して決めることになってるんだけど。あの気難しい詩月が日和さんをこの屋敷に雇い入れる事に賛成したって聞いているし。僕もあなたを屋敷に迎え入れること、賛成だな」
「…………!! で、では……!」
「うん。なんなら兄さんにも、僕からお願いしてあげてもいい」
「あ……ありがとうございます!」
「その代わり」
律火様が笑顔のまま提案してきた秘密のある条件に、私は再びコクリと頷いた。
今日『秘密の条件』を出されたのはこれが二回目だ。これはやはり、兄弟だからなのだろうか……。
***
「すごいな、キミ。あの律火様にも気に入られちゃうなんて」
「律火様は始終お優しかったですよ?」
「律火様が?! へ、へーえ……」
部屋の外で落ち合った樫原さんは、私の言葉になぜか微妙なリアクションをして、困ったように頭をかいた。
「あー、まぁ三人のうち二人に気に入られたんなら、キミがこの家に迎え入れられるのは決定だろうね。水湊坊っちゃまにもいずれ会ってもらうけど、もう夜だし、今夜は泊まっていくでしょう?」
「え……泊めて頂けるのですか?」
「うん、許可は貰ってるよ。使用人用の空き部屋に案内するからついてきて」
樫原さんに言われるがまま廊下をついていくと、渡り廊下を経て、少し簡素な作りの別の建物へと案内された。
花のような香りの吐息が鼻腔をくすぐって、私が少しでも動いたら律火様の唇に触れてしまいそうだった。
私は律火様の意図がわからず硬直していた。
律火様はそんな私の様子をクスクスと笑われて、まるで口づけ代わりのように二本の指でちょんっと私の唇に触れる。
「舐めてくれる?」
「……っ!」
短くそうお命じになった律火様は、二本の指を私に差し出された。私は言われたとおりに口を開くと、舌を伸ばして二本の指をチロチロと舐めた。
ペニスを舐めろと言われるならばまだしも、指を舐めるように言われたのは初めてだった。
どう舐めたら律火様が喜んでくださるのかが分からなくて、私は律火様の表情をちらりと窺う。
すると律火様は私の口の中を悪戯に弄って、歯並びを前から奥へ、ゆっくりとなぞった。
「綺麗な歯並び」
「は、んぐ、……っ??」
意図が分からず、私は不自由な口でそう答える。
すると不意に手を引っ込められた律火様に、ぎゅっと抱きしめられて優しく頬を撫でられた。
「え、えっと……」
「ふふふ、やっぱりね。日和さんって、まるで大きなワンコみたい。奴隷志望なのに、スレてなくてとても可愛いね。それに抱き心地も手触りも最高。可愛がるにはピッタリ」
「……???」
奴隷である私を主人が犬と呼ぶのは分かる。けれど、抱き心地……とは?
「ああ、ごめんごめん。僕、綺麗なものや可愛い物に目がないんだ」
「か、可愛い……?」
「うん。大型犬は飼ったことがないけれど、いつかは欲しいなって思ってて」
律火様の言うワンコとは、純粋にペットとしての犬という意味だったらしい。
『可愛い』。それは私にとって、お世辞であっても嬉しい言葉だった。
少年愛者であった前の主人は、二次性徴の早かった私を恐らくあまり好ましくは思ってはいらっしゃらなかったから……。
”愛玩奴隷は、小さくて可愛い少年こそが好まれる”
私の中ではどうしても、そんなイメージが強い。
律火様は大きい方がお好み……。
もちろん律火様の気遣いの言葉である可能性もあるけれど、少なくとも私はその言葉に僅かに緊張を弛めた。
「そうでしょうか……。前の主人や樫原さんには『お前はとうが立っている』と言われましたが……」
「ふふふっ。そうなんだ? 彼らは見る目がないね。僕は日和さんのこと、とても気に入ったけどな」
そう仰った律火様の手が、私の心臓のあたりを優しく撫でている。いや、違う……。これは……。
「――ちょっと撫でただけで乳首が勃ってる。こんなに感度が良いのなら、日和さんは夜も可愛いんだろうな」
夜……という言葉に、私はドキリとした。
律火様が大きい方がお好みであれば、当然そういった意味での需要もある訳で……。
目線を上げると、先程詩月様のところで感じたのと同じ、支配階級の人間の視線。それと瞬時に目が合って、胸がざわついた。
おそらくだが、これは彼らが兄弟だからだけではない。
多分彼らは幼少期より、人の上に立つための教育を受けている。
私などとは格が違うのだ。
詩月様との時のように恥ずかしいことをさせられているわけでもないのに、私は再び緊張の汗が背中に滲むのを感じた。
それはさながら肉食獣と目があった小動物のようで、優しく胸元を撫でるその行為との乖離に、私は何やら薄ら寒いものを覚えてしまう。
その瞬間ズボン越しに股間をやわりと揉まれて、心臓を鷲掴みされたかのような衝撃が背筋を駆け抜ける。
本能的に逃げてしまいたくなった私が何とかその衝動を抑えていると、律火様はあっさりと手を離して何事もなかったように微笑まれた。
「日和さんのことは兄弟三人で相談して決めることになってるんだけど。あの気難しい詩月が日和さんをこの屋敷に雇い入れる事に賛成したって聞いているし。僕もあなたを屋敷に迎え入れること、賛成だな」
「…………!! で、では……!」
「うん。なんなら兄さんにも、僕からお願いしてあげてもいい」
「あ……ありがとうございます!」
「その代わり」
律火様が笑顔のまま提案してきた秘密のある条件に、私は再びコクリと頷いた。
今日『秘密の条件』を出されたのはこれが二回目だ。これはやはり、兄弟だからなのだろうか……。
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部屋の外で落ち合った樫原さんは、私の言葉になぜか微妙なリアクションをして、困ったように頭をかいた。
「あー、まぁ三人のうち二人に気に入られたんなら、キミがこの家に迎え入れられるのは決定だろうね。水湊坊っちゃまにもいずれ会ってもらうけど、もう夜だし、今夜は泊まっていくでしょう?」
「え……泊めて頂けるのですか?」
「うん、許可は貰ってるよ。使用人用の空き部屋に案内するからついてきて」
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