元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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2)新たな主を求めて

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「お待ち下さい……! 幼い頃より私はこのお屋敷の愛玩奴隷なのです。旦那様が海外へ高飛びなさったとおっしゃるなら、再び私を闇オークションにかけ、新しい主人を探して下さいませんか!?」
「はぁ? お前、何言ってんだ。せっかく奴隷生活から抜け出せるってーのに」


 私に話しかけられたオールバックの男性は呆れ顔でそう言って、ふところから煙草を取り出して咥え、火をつけた。
 背を向けて部屋の外へ去ろうとするその人のスーツの裾を、私は慌てて掴む。


「お願いです、どうか見捨てないで下さいっ。どんな主人でも、誠実にお仕えしますから……!」
「しつけえなぁ。そもそも、闇オークション自体がガッツリ違法なんだよ。それに関わったから、お前らのは高飛びする羽目になったんだろーが」
「そんな……!」
「大体。お前、もう十八歳なんだろ? 俺が十八の頃はもうとっくに働いて自活してたぞ? 健康なんだから、外に出て働けばいいだろ、働けば」


 彼は心底面倒臭そうな顔でそう言って、ため息とともに口から煙を吐いた。
 私は顔に煙を吐きかけられて怯んでしまいそうになる己を叱咤しったして立ち上がると、彼の前に立ちはだかってもう一度彼を引き止める。


「働けば……って。一体どうやって職を探すというのです? 私には家は愚か、明日からの食事を買うお金だってないのに」
「知らねーよ。そんなの、自分でなんとか……」
「ではせめて! 一時的に働ける仕事をご紹介いただけませんか?」
「ちょ……アンタ、何言って……」
「夜のお務めや体を売る仕事でも構いませんし、家事や雑用くらいならば出来ると思います。私に出来ることであれば何でもやりますから、どうか……っ」


 戸惑い気味の彼になおすがって、私は必死にそう言い募る。

 ここでこの人に見捨てられたら、きっと私は野垂れ死に決定だ。

 明日からの生活……なんなら、今後の人生がかかっている。必死にもなるというものだ。


「あーもうっ、うるせえ! 離せ! しつけえ!」
「……ストーップ!」


 そんな私達の会話に突然割り入ってきたのは、飄々ひょうひょうとした背の高い別の男性だった。
 
 考えの読めない細いタレ目のその人は、厳つめの他の黒服達とは少し雰囲気が違っていた。


「ねぇキミ。そんなに新しいご主人様が欲しいの? 自ら進んで、まだ奴隷でいたいってこと?」


 タレ目の男性は興味津々というように、私を頭のてっぺんから足の先まで覗き込んでそう聞いた。


「……ええ。私は愛玩奴隷としての生き方しか知りません。ですから出来れば再び私を愛玩奴隷として……、それが無理なら掃除夫でも、雑用係でも何でも構いません。住み込みで雇って下さる方を、どうかご紹介頂けないでしょうか……!」
「ふーん。キミ、変わってるね。ちなみにキミは、何ができるの?」
「ええと。執事の真似事と、料理以外の家事は一応ひと通り……。勿論夜のお務めは……変わったプレイなども含め、多分ひと通りは耐えられるかと……」
「ふーん……」


 冷めた相槌を打たれて『夜のお務め』『変わったプレイ』という言葉の場違いさに気づいた私は、恥ずかしさに少しだけ俯いた。

 タレ目の彼はそんな私を値踏みするように覗き込み、立ち尽くす私の周りをぐるりと一周回って、ふむふむと何やら頷いている。


「確かに愛玩少年と言うには少しは立っているケド、あの男のコレクションだけあって、体や顔立ちは悪くないねぇ……」
「…………!!」
「んー。キミの再就職先、ウチの坊っちゃま達に聞くだけ聞いてあげてもいいけど。どうする?」
「ちょっ、樫原かしはら!?」


 オールバックの男性に樫原と呼ばれたタレ目の彼は、私の顎を掴んでクイッと持ち上げる。
 彼は私と視線を合わせながら、試すような表情でニヤリと笑った。

 その『坊っちゃま達』がどのような方たちかは私には分からない。けれど、こんな真冬に山奥にあるこの御屋敷に身一つで放り出されるよりは、よっぽどマシなのではと思う。

 内心ドキドキしながらも、私は彼に向かって真剣な表情で答えた。


「ありがとうございます。是非、お願いします!」


 私の言葉を聞いたタレ目の男性……樫原さんは「OK」と短く答えて、スマートフォンでどこかへ電話をかけ始めた。

 隣で私たちのやり取りを見ていたオールバックの男性は、深いため息を付きながら私の肩へ手を置く。


「あーあ。お前、馬鹿だな。可哀想に」
「可哀想? 何がでしょうか……?」


 意味がわからず、私は首を傾げながらそう答える。けれどもオールバックの男はそれ以上何も言わず、少し離れた場所へ行って煙草の続きを吸い始めた。


佐倉さくら、勝手に逃がさないでね?」
「へいへい」
「さて、そこのキミ。話はついたから、ボクの車に乗って」
「…………! は、はい。ありがとうございます!」


 そう促されて、ほっと胸を撫で下ろすと同時に、私はドキドキと高鳴っている心臓を認識する。

 新しい世界へ踏み出す恐怖心と緊張、そして僅かな高揚感を胸の内に抱え、私は屋敷の外に続くドアへと向かう樫原さんの後に続いた。
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