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番外編)欲望のバレンタイン2(由岐視点)
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僕を引き取ってくれた旦那さんたちは、みんな僕を可愛いとか好きだと思ってくれたから、お風呂やベットに誘ってくれて、色々と触ってくれたり舐めてくれたりしていたのだろう。
同じように僕は、翔李さんを可愛い、好きだと思うから、気持ちよくなってほしくてああしているわけで……。
でも、恋人として付き合っているのだから、少なくとも今の翔李さんは僕を好きだと思ってくれているはずだ。……けれども、なぜだか僕は自分がされるところを上手く想像できない。
翔李さんが僕に触れたいと思ってくれるならば、それは嬉しいとは思う。
けれど、翔李さんに押し倒されたい、挿入されたいという欲求は多分僕にはない。
これは僕が変なのだろうか……?
「さ! こっから少しずつ生クリームを入れていくから、めっちゃ混ぜてね! ここ頑張らないと、チョコレート分離するから。いい? いっくよー」
「えっ!? ちょっ……待っ……!」
テツの言葉に、僕は慌ててゴムベラを泡立て器に持ち替えた。
茶色のボウルの中にチョロチョロと注がれる純白の生クリームは、マーブル模様を描きながら茶色の渦に飲み込まれていく。
「いい感じ、いい感じ♪」
白い歯を見せながら笑うテツを少しうらめしく睨みながらも、チョコレートが徐々に混ざって艷やかな光沢を放ち始めたのを見ると、僕は安心したように小さく息を吐いた。
出来上がったチョコレートをラップを敷き詰めたバットに流し込んだテツは、それを手際よく冷蔵庫にしまってから僕を振り返る。
「はいっ、じゃあコレが冷えるまで三十分休憩ね!」
「あ、ありがとうございます。じゃあその間に僕は洗い物を……」
そう言って汚れたボウルに手をかけようとした僕の手を掴んだテツは、そのままニッと笑って言った。
「由岐くんはきっとさ、精神的にはタチなんだと思うよ。そんで、翔李は精神的にネコ」
「精神的に……?」
「そう。ゲイの世界って、割と見た目や体格で役割が決められてしまいがちなんだけどさ」
「そういうものなんですか?」
…………言われてみたら、世の中はそういうものなのかもしれない。
確かに、一夜限りの相手を求めていた時期には、当たり前のように僕はネコ側を求められた。
あの頃の僕は寂しさを紛らわすために相手を探し、所詮愛のない一夜限りの相手と割り切ってセックスをしていた。
その際にはどちら側をやりたいという考えは僕にはあまりなくて、挿入するもされるも所詮役割の違いという程度の認識だった。そんな僕だったので、あの頃は相手の希望に合わせることが多かったと思う。
「まぁね。でも、そもそも男同士って時点で俺達はスタンダードから外れてる訳だからさ。そういうのに捕らわれないの、由岐君らしくて俺はいいと思うな」
「僕らしい……」
「そ。ショーリのこと、これからも大事にしてやってよね」
テツはそう笑って、エプロンで手を拭いた。気が付くと、シンクの中にあった洗い物は全てピカピカになって、水切りカゴの中に並んでいた。
◆◇◆◇◆◇
「ちょっとお聞きしたいんですけど」
「ん? 改まって何だよ?」
「翔李さんって、僕とセックスするときに僕に挿入したいと思ったこと、あります?」
「ぶぶっ……!!? ゲホッ、ゲホッ!」
ソファでココアを飲んでいた翔李さんは、僕の言葉に豪快にココアを吹き出した。
慌てて側にあったティッシュの箱から数枚のティッシュを抜き取って口元にあてがうと、背後にいた僕を振り返った。
「な、な、なんだよ急に!? ゲホッ、誰かになにか言われたのか?」
「あー……いえ。単なる素朴な疑問です」
僕はそう誤魔化しながら、翔李さんの咽が治まるのを待つ。
やがて落ち着いたらしい翔李さんは、少し考え込むような仕草をして口を開いた。
「うーん……ユウキのときみたいに好きなやつに強く望まれたら、出来ないことはない……とは思う」
「へぇ……!」
少し目を丸くしてそう答えた僕に対して、翔李さんは慌てて言葉を続ける。
「あ、けど……っ! ……したいと思ったことがあるかどうかって話なら、答えは『ない』……だと思う」
そう答えた翔李さんは、なぜだか耳まで真っ赤だ。
「……なるほど。それを聞いて少し安心しました」
「え……。まさか由岐、俺に襲われると思ったことがあるのか?」
「ふふふっ、いいえ全く。そういう話とはまた別件です」
「???」
僕の質問の意図が分からず、翔李さんは怪訝な表情でココアをローテーブルの上に置いた。
翔李さんは、精神的ネコ……か。テツは案外、勘が鋭い男なのかもしれない。
そんなタイミングで、僕は冷蔵庫から丁寧にラッピングした包みを取り出して翔李さんの前に差し出した。
「翔李さん。少し早いですけど、これバレンタインのチョコレートです。よかったらどうぞ」
「え……!? ま、まさか手作り!?」
「ええ。初めて作りましたけど、味は保証します」
初めてながら、完成した生チョコレートを試食したテツに太鼓判を貰ったので、味の方は大丈夫だと思う。
「凄いな……これ開けても……?」
「もちろんです」
包みを開けた翔李さんは、規則正しく並ぶ生チョコレートを一口含んだ瞬間に『うまっ!』と呟いた。その言葉に僕はあたたかな気持ちになって、二つ目を食べようとしている翔李さんの頬に触れる。
「因みに僕は今夜、翔李さんと楽しいことがしたいなーって思ってるんですけど、付き合って頂けます?」
「ん、んぐ……っ」
再びむせそうになった翔李さんは、かろうじて踏みとどまったらしい。
赤い顔でコクリと頷きながら、彼は膝の上にあったチョコレートをテーブルの上に置いた。
同じように僕は、翔李さんを可愛い、好きだと思うから、気持ちよくなってほしくてああしているわけで……。
でも、恋人として付き合っているのだから、少なくとも今の翔李さんは僕を好きだと思ってくれているはずだ。……けれども、なぜだか僕は自分がされるところを上手く想像できない。
翔李さんが僕に触れたいと思ってくれるならば、それは嬉しいとは思う。
けれど、翔李さんに押し倒されたい、挿入されたいという欲求は多分僕にはない。
これは僕が変なのだろうか……?
「さ! こっから少しずつ生クリームを入れていくから、めっちゃ混ぜてね! ここ頑張らないと、チョコレート分離するから。いい? いっくよー」
「えっ!? ちょっ……待っ……!」
テツの言葉に、僕は慌ててゴムベラを泡立て器に持ち替えた。
茶色のボウルの中にチョロチョロと注がれる純白の生クリームは、マーブル模様を描きながら茶色の渦に飲み込まれていく。
「いい感じ、いい感じ♪」
白い歯を見せながら笑うテツを少しうらめしく睨みながらも、チョコレートが徐々に混ざって艷やかな光沢を放ち始めたのを見ると、僕は安心したように小さく息を吐いた。
出来上がったチョコレートをラップを敷き詰めたバットに流し込んだテツは、それを手際よく冷蔵庫にしまってから僕を振り返る。
「はいっ、じゃあコレが冷えるまで三十分休憩ね!」
「あ、ありがとうございます。じゃあその間に僕は洗い物を……」
そう言って汚れたボウルに手をかけようとした僕の手を掴んだテツは、そのままニッと笑って言った。
「由岐くんはきっとさ、精神的にはタチなんだと思うよ。そんで、翔李は精神的にネコ」
「精神的に……?」
「そう。ゲイの世界って、割と見た目や体格で役割が決められてしまいがちなんだけどさ」
「そういうものなんですか?」
…………言われてみたら、世の中はそういうものなのかもしれない。
確かに、一夜限りの相手を求めていた時期には、当たり前のように僕はネコ側を求められた。
あの頃の僕は寂しさを紛らわすために相手を探し、所詮愛のない一夜限りの相手と割り切ってセックスをしていた。
その際にはどちら側をやりたいという考えは僕にはあまりなくて、挿入するもされるも所詮役割の違いという程度の認識だった。そんな僕だったので、あの頃は相手の希望に合わせることが多かったと思う。
「まぁね。でも、そもそも男同士って時点で俺達はスタンダードから外れてる訳だからさ。そういうのに捕らわれないの、由岐君らしくて俺はいいと思うな」
「僕らしい……」
「そ。ショーリのこと、これからも大事にしてやってよね」
テツはそう笑って、エプロンで手を拭いた。気が付くと、シンクの中にあった洗い物は全てピカピカになって、水切りカゴの中に並んでいた。
◆◇◆◇◆◇
「ちょっとお聞きしたいんですけど」
「ん? 改まって何だよ?」
「翔李さんって、僕とセックスするときに僕に挿入したいと思ったこと、あります?」
「ぶぶっ……!!? ゲホッ、ゲホッ!」
ソファでココアを飲んでいた翔李さんは、僕の言葉に豪快にココアを吹き出した。
慌てて側にあったティッシュの箱から数枚のティッシュを抜き取って口元にあてがうと、背後にいた僕を振り返った。
「な、な、なんだよ急に!? ゲホッ、誰かになにか言われたのか?」
「あー……いえ。単なる素朴な疑問です」
僕はそう誤魔化しながら、翔李さんの咽が治まるのを待つ。
やがて落ち着いたらしい翔李さんは、少し考え込むような仕草をして口を開いた。
「うーん……ユウキのときみたいに好きなやつに強く望まれたら、出来ないことはない……とは思う」
「へぇ……!」
少し目を丸くしてそう答えた僕に対して、翔李さんは慌てて言葉を続ける。
「あ、けど……っ! ……したいと思ったことがあるかどうかって話なら、答えは『ない』……だと思う」
そう答えた翔李さんは、なぜだか耳まで真っ赤だ。
「……なるほど。それを聞いて少し安心しました」
「え……。まさか由岐、俺に襲われると思ったことがあるのか?」
「ふふふっ、いいえ全く。そういう話とはまた別件です」
「???」
僕の質問の意図が分からず、翔李さんは怪訝な表情でココアをローテーブルの上に置いた。
翔李さんは、精神的ネコ……か。テツは案外、勘が鋭い男なのかもしれない。
そんなタイミングで、僕は冷蔵庫から丁寧にラッピングした包みを取り出して翔李さんの前に差し出した。
「翔李さん。少し早いですけど、これバレンタインのチョコレートです。よかったらどうぞ」
「え……!? ま、まさか手作り!?」
「ええ。初めて作りましたけど、味は保証します」
初めてながら、完成した生チョコレートを試食したテツに太鼓判を貰ったので、味の方は大丈夫だと思う。
「凄いな……これ開けても……?」
「もちろんです」
包みを開けた翔李さんは、規則正しく並ぶ生チョコレートを一口含んだ瞬間に『うまっ!』と呟いた。その言葉に僕はあたたかな気持ちになって、二つ目を食べようとしている翔李さんの頬に触れる。
「因みに僕は今夜、翔李さんと楽しいことがしたいなーって思ってるんですけど、付き合って頂けます?」
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