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33)バスタイムの誤解*(由岐視点)
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「ふふ、翔李さんがそうやって僕を気にかけてくれるのは嬉しいですけど、ユウキさんに怒られますよ」
「ユウキのことは……」
翔李さんはそう言いかけて、きゅっと唇を結んだ。間近で目が合うが、そのまま何も言わずに僕の分身をぬるぬると手で扱く。
「ユウキには、お別れを言ってきた。いっぱい……いっぱい謝って」
「え…………」
翔李さんは話しながら、ぬめる親指の腹でぐりぐりと鬼頭のあたりを弄ぶ。
「ちょっ、………ふ、……っ、翔李、さん……っ?」
ペニスを握る手が激しく上下して、僕はそこを伝って背筋に走る快楽にゾクンと腰を震わせた。
「気持ちいいか……?」
「いい、ですけど……っ、ちょっ」
「ユウキ、泣いてたよ。俺に、他に好きな人ができたって知って」
「えっ……? あ……、ちょっと待っ……、翔李さん……っ」
翔李さんの言葉に慌てて彼の顔を見ると、彼は涙目で笑っていた。高ぶったペニスにつられるように、心臓がどくんと高鳴る。
他に好きな人ができた……。
それはつまり、僕もまたユウキさんと同じように沢山謝られて、関係の終了をお願いされるということだろうか。
「なに、考えてる……?」
「えっ……」
「由岐、泣きそうな顔してる」
翔李さんは僕のものに触れる手を止めて、ジッと僕の顔を覗き込んだ。関係の終了を承知すれば、彼は二度とこうして僕の事など気にかけてくれなくなるかもしれない。だって僕達は、友達ですらない……。
「何か、あったのか?」
「…………いえ。今日言っていた話って、それだったんですか?」
「え……ああ、そう……だけど」
「……そうでしたか。それは、お疲れ様でした」
「なぁ由岐。俺にはお前みたいに、嫌なこと忘れるくらい頭を真っ白にしてやることは出来ないけど、俺で良ければ話ぐらいは聞くからな?」
「……っ、ふ……ッ」
これ以上、優しくしないで。お願い、お願いだから……。
泣いてしまいそうな自分に気がついて、僕は慌てて立ち上がる。シャワーを頭から被って、滲んだ涙を熱いお湯で排水口に流した。
「今度はその好きな人と上手くいくと良いですね。ちょっと喉が乾いたので、僕は先に上がります。ごゆっくり」
「は……? ちょっ、由岐……!?」
新しい涙が溢れる前に、僕は足早にバスルームを後にした。ふわふわのバスタオルに顔を埋めて、僕はあの日テツと笑いながら歩く翔李さんの顔を思い出す。
新しい好きな人は、彼だろうか……? それとも、別の……?
『翔李さん、愛しています』
『やめろよ、そういうの』
何にも考えていなかった時は、簡単にリップサービスが言えたのに。
ここまで来て、ようやく僕は自らの内にある感情を自覚した。自覚したら、もうあんな事なんて言えない。
皮肉なものだな、と自分でも思う。
仕事で疲れているからもう寝たい、と嘘をついた僕に、翔李さんは一言二言の労いの言葉をかけ、帰っていった。
一人ぼっちになった広いこの家で、僕は真っ暗のままの天井を何時間も見つめていた。
◆◇◆◇◆◇
「やっほーっ。久しぶりだね。俺とヤリたくなっちゃった?」
軽いノリで玄関に現れたのはテツだ。スマートフォンに彼の連絡先が残っていたのは幸いだった。
「ええまぁ、そんなところです」
「由岐君そんな見た目で夜はハードだから、今日は期待してるよーん」
白い歯を見せて僕に向かって無邪気に笑うテツは、いそいそと玄関で靴を脱いだ。そのまま着ていたシャツまで脱ぎだそうとする彼に、僕は一瞥をくれてから笑みを作る。
「ええ。ああ、その前に。ちょっとテツさんに聞きたいことがあるのですが」
「へ? 俺に?」
「岡田翔李さんはお元気ですか?」
「ショーリぃ? 由岐君、ショーリと知り合い?」
「ええまぁ」
あの日から、再び翔李さんと連絡を取ることはなかった。
正確には、翔李さんの連絡を僕が無視した。三度メールを無視したあたりから、翔李さんからの連絡は途絶え、そこから半月ほどが経過している。
「それで、翔李さんはお元気ですか?」
「んー、こないだスカイツリーのお土産貰ったときは、ちょっと元気ないかなーって気がしたんだけど、翔李は沢山歩いたから疲れただけだって言ってた。結局その後風邪引いて寝込んでたけど、今は多分元気なんじゃない? 俺、そっから会ってないんだよねー。俺、最近新しい彼氏が出来たから忙しくてさー」
翔李さんやテツの住んでいる地域を考えると、お土産はおそらくユウキさんと観光で東京を巡った際のものだろう。そう言えば僕も、小さなクッキーの缶を貰った気がする。
「へぇ。由岐君、ショーリのこと好きなんだ?」
「…………は?」
「だって、恋してる顔してるよ? 由岐君」
テツにそう言われて、僕は少し驚いた。テツはニヤニヤと笑みを浮かべて、脱ぎかけていた服を再び着た。
「俺は節操なしだけどさ、流石にダチのモノには手を出せないな。ショーリは大事な友達だから」
「友達……?」
「そうそう。ゲームしたり、飯食ったり」
「セックスは……?」
テツが体の関係なしに男と『友達』……?
僕が思わずこぼした言葉に、テツは笑った。
「ショーリとは、してなーいっ。かなり前に誘ったけどね、一応は。勃たなかったんだよね、あいつ」
「えっ?」
「あー違う違う。眠ってるときなら反応してたから、インポとかじゃ多分ないよ? あー、ほら。好きな人にしか反応しないってやつなんじゃない? ショーリ、真面目だし」
「好きな人にしか……?」
「そうそう。翔李、最近好きな人が出来たから、幼馴染とは別れたって言ってたし。まぁ当面はショーリと俺がセックスする事はなさそうー、みたいな」
そう言いながら、テツは入ってきたばかりの玄関で再び靴を履く。
「そういう訳だから、俺帰るわー。ショーリ、今年の正月休みは気まずいから帰省しないって言ってたから暇なんじゃない? そんなに気になるなら連絡してみたら? きっと良いことがあると思うよ」
「ちょっと待っ……。あのっ、えーっと。テツさん、呼び出したお詫びにご飯を食べていきませんか? 出前、お好きな物を頼んでくれて構わないので」
「……へ?」
「その代わり、ちょっとお願いがあります」
帰ろうとするテツを無理矢理引き止めた僕は、久しぶりに高揚する体を宥めながらテツの細い手首を掴んでリビングへと廊下を進んだ。
「ユウキのことは……」
翔李さんはそう言いかけて、きゅっと唇を結んだ。間近で目が合うが、そのまま何も言わずに僕の分身をぬるぬると手で扱く。
「ユウキには、お別れを言ってきた。いっぱい……いっぱい謝って」
「え…………」
翔李さんは話しながら、ぬめる親指の腹でぐりぐりと鬼頭のあたりを弄ぶ。
「ちょっ、………ふ、……っ、翔李、さん……っ?」
ペニスを握る手が激しく上下して、僕はそこを伝って背筋に走る快楽にゾクンと腰を震わせた。
「気持ちいいか……?」
「いい、ですけど……っ、ちょっ」
「ユウキ、泣いてたよ。俺に、他に好きな人ができたって知って」
「えっ……? あ……、ちょっと待っ……、翔李さん……っ」
翔李さんの言葉に慌てて彼の顔を見ると、彼は涙目で笑っていた。高ぶったペニスにつられるように、心臓がどくんと高鳴る。
他に好きな人ができた……。
それはつまり、僕もまたユウキさんと同じように沢山謝られて、関係の終了をお願いされるということだろうか。
「なに、考えてる……?」
「えっ……」
「由岐、泣きそうな顔してる」
翔李さんは僕のものに触れる手を止めて、ジッと僕の顔を覗き込んだ。関係の終了を承知すれば、彼は二度とこうして僕の事など気にかけてくれなくなるかもしれない。だって僕達は、友達ですらない……。
「何か、あったのか?」
「…………いえ。今日言っていた話って、それだったんですか?」
「え……ああ、そう……だけど」
「……そうでしたか。それは、お疲れ様でした」
「なぁ由岐。俺にはお前みたいに、嫌なこと忘れるくらい頭を真っ白にしてやることは出来ないけど、俺で良ければ話ぐらいは聞くからな?」
「……っ、ふ……ッ」
これ以上、優しくしないで。お願い、お願いだから……。
泣いてしまいそうな自分に気がついて、僕は慌てて立ち上がる。シャワーを頭から被って、滲んだ涙を熱いお湯で排水口に流した。
「今度はその好きな人と上手くいくと良いですね。ちょっと喉が乾いたので、僕は先に上がります。ごゆっくり」
「は……? ちょっ、由岐……!?」
新しい涙が溢れる前に、僕は足早にバスルームを後にした。ふわふわのバスタオルに顔を埋めて、僕はあの日テツと笑いながら歩く翔李さんの顔を思い出す。
新しい好きな人は、彼だろうか……? それとも、別の……?
『翔李さん、愛しています』
『やめろよ、そういうの』
何にも考えていなかった時は、簡単にリップサービスが言えたのに。
ここまで来て、ようやく僕は自らの内にある感情を自覚した。自覚したら、もうあんな事なんて言えない。
皮肉なものだな、と自分でも思う。
仕事で疲れているからもう寝たい、と嘘をついた僕に、翔李さんは一言二言の労いの言葉をかけ、帰っていった。
一人ぼっちになった広いこの家で、僕は真っ暗のままの天井を何時間も見つめていた。
◆◇◆◇◆◇
「やっほーっ。久しぶりだね。俺とヤリたくなっちゃった?」
軽いノリで玄関に現れたのはテツだ。スマートフォンに彼の連絡先が残っていたのは幸いだった。
「ええまぁ、そんなところです」
「由岐君そんな見た目で夜はハードだから、今日は期待してるよーん」
白い歯を見せて僕に向かって無邪気に笑うテツは、いそいそと玄関で靴を脱いだ。そのまま着ていたシャツまで脱ぎだそうとする彼に、僕は一瞥をくれてから笑みを作る。
「ええ。ああ、その前に。ちょっとテツさんに聞きたいことがあるのですが」
「へ? 俺に?」
「岡田翔李さんはお元気ですか?」
「ショーリぃ? 由岐君、ショーリと知り合い?」
「ええまぁ」
あの日から、再び翔李さんと連絡を取ることはなかった。
正確には、翔李さんの連絡を僕が無視した。三度メールを無視したあたりから、翔李さんからの連絡は途絶え、そこから半月ほどが経過している。
「それで、翔李さんはお元気ですか?」
「んー、こないだスカイツリーのお土産貰ったときは、ちょっと元気ないかなーって気がしたんだけど、翔李は沢山歩いたから疲れただけだって言ってた。結局その後風邪引いて寝込んでたけど、今は多分元気なんじゃない? 俺、そっから会ってないんだよねー。俺、最近新しい彼氏が出来たから忙しくてさー」
翔李さんやテツの住んでいる地域を考えると、お土産はおそらくユウキさんと観光で東京を巡った際のものだろう。そう言えば僕も、小さなクッキーの缶を貰った気がする。
「へぇ。由岐君、ショーリのこと好きなんだ?」
「…………は?」
「だって、恋してる顔してるよ? 由岐君」
テツにそう言われて、僕は少し驚いた。テツはニヤニヤと笑みを浮かべて、脱ぎかけていた服を再び着た。
「俺は節操なしだけどさ、流石にダチのモノには手を出せないな。ショーリは大事な友達だから」
「友達……?」
「そうそう。ゲームしたり、飯食ったり」
「セックスは……?」
テツが体の関係なしに男と『友達』……?
僕が思わずこぼした言葉に、テツは笑った。
「ショーリとは、してなーいっ。かなり前に誘ったけどね、一応は。勃たなかったんだよね、あいつ」
「えっ?」
「あー違う違う。眠ってるときなら反応してたから、インポとかじゃ多分ないよ? あー、ほら。好きな人にしか反応しないってやつなんじゃない? ショーリ、真面目だし」
「好きな人にしか……?」
「そうそう。翔李、最近好きな人が出来たから、幼馴染とは別れたって言ってたし。まぁ当面はショーリと俺がセックスする事はなさそうー、みたいな」
そう言いながら、テツは入ってきたばかりの玄関で再び靴を履く。
「そういう訳だから、俺帰るわー。ショーリ、今年の正月休みは気まずいから帰省しないって言ってたから暇なんじゃない? そんなに気になるなら連絡してみたら? きっと良いことがあると思うよ」
「ちょっと待っ……。あのっ、えーっと。テツさん、呼び出したお詫びにご飯を食べていきませんか? 出前、お好きな物を頼んでくれて構わないので」
「……へ?」
「その代わり、ちょっとお願いがあります」
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