【完】大きな俺は小さな彼に今宵もアブノーマルに抱かれる

唯月漣

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24)涙と君と優しい意地悪*

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「仕方ありませんね。今日だけ、特別ですよ」
「こんな……ごめ……っ、うう、……っふ」


 感情が一度堰を切ってしまえば、あとはもう決壊するだけだ。俺はポロポロと涙を溢しながら、しがみついていた由岐を抱きしめた。
 しばらくされるがままになってくれていた由岐は、俺がようやく泣き止み始めたところを見計らったように口を開いた。


「ふふ。翔李さんのお尻はエッチになっちゃったんですもんね。ほとんど慣らさなくても僕が挿入れるくらい。ああ、前にも欲しいですよね。頭が真っ白になるように」
「うう、あ……ッ、待っ…………ぁ………ッッッ!!」
「駄目です。これは約束ですから」


 由岐の手で、ブジーがゆっくりと抜かれていく。安堵した瞬間再びずぷりと中を突かれて、俺は声にならない悲鳴を上げた。
 よしよしと宥めるように優しく腰を揺すられると、後ろからと前から同じ弱みのある一点が挟まれるようにして刺激される。



「あ゛あ゛あ゛、それっ、……や……ッ、ぁ」


 前立腺の気持ち良さは、射精の絶頂などとは比べ物にならない。快楽という名の暴力に晒されて、けれども前を塞がれているため出口はない。
 精子の代わりに涙と唾液が顔中を濡らし、高く上げられた両足は快楽に痺れてブルブルと震えた。
 限界まで勃起した性器は、その尿道をも圧迫してブジーを締め付けて苦しい。助けを求めるように由岐を見ると、すぐに目が合って、鼻先に優しいキスをされた。


「ぐちゃぐちゃの翔李さん、可愛すぎます。イキたいですか?」
「いっ、イギだいっ……イギだいっ……ううう……、ッ」
「じゃあ、もっと名前を呼んでくれたらブジーを抜いてあげます」
「あ…………、かなでっ、イギだい゛っ、か……な、ぁ……でっ、イギだい゛っ、かな……でぇ……っ」


 俺が嗚咽に混じって名前を呼ぶと、由岐は体を起こして、愛おしそうに俺の膝に口付けを落とした。優しい手付きでペニスを持つ由岐の表情は、その容姿も手伝って、天使のように優しかった。


「あっ、や、……あ゛ぁっ……」
「すみません、少しだけ動きます」


 ゆっくりとブジーが尿道から抜けていく。そそり勃つそこからなんとも言えない奇妙な感覚が俺の背筋に駆け抜ける。
 それと同時に、由岐は俺の中に埋め込んだ熱棒をズンと深く穿った。下半身に満ちていた行き場のない快楽は、突かれた途端に射精という出口へ向かって一直線に集まっていく。


「あっ、ああーーっ、いい、かなでっ、気持ちっ、良…………ぃッ」
「ふふ……っ、翔李さん……。僕も気持ちいいです。どうにかなってしまいそうなくらい」
「あっ、ああっ、かなでっ……、かなでっ、ぁ……ッッッ!!」


 ドクン、と鼓動が高鳴った。それは胸の内側から心臓が破裂するんじゃないかと思えるほどで、その刹那俺は全身が痙攣するほどの強烈な快楽を伴って、二人の腹の間へと吐精した。

 ビュクビュクと勢い良く吐き出されたそれは、射精を終えてなおヒクヒクと淫靡に震えている。
 射精した直後のはずなのに、由岐のものを咥え込んだままの俺の内側には、まだ熱が燻っているようだ。


「や……っ、俺おかしい……っ、こんなの……っ、おかしいよ……っ、んんっふ、ぁ」


 射精を終えた俺の胎内を、再び由岐が滾る熱い楔で深く抉る。体の奥深い部分に生まれる快楽は、ペニスを置き去りにして俺を快楽という階段の上へ上へと押し上げていく。由岐は腰を動かしながら、戸惑う俺の額にコツンと額を合わせるようにして言った。


「おかしくなっていいんです。翔李さんの体がそうなるように、僕がしたんですから」
「うう……っ、でもッ……」
「ね……このまま後ろだけでイケますか……? 女の子みたいに」
「やっ、分かんな……ッ」
「なら、試してみましょう。朝までまだ、たっぷり時間はあります」
「ちょ、んんんーーーーッ……!」


 俺の言葉をキスで塞いで、由岐は何度も何度も俺の中を犯した。

 俺は記憶が飛ぶくらい何度も中と外で絶頂を迎えて、もう二度と射精が出来なくなるんじゃないかと思うぐらい、由岐の手や玩具でイキまくった。


「翔李さん……? 翔李さん……? ーーーー流石に寝ちゃったかな?」


 気を失う直前、遠くで由岐の声が聞こえた。答えようと思ったけれど、唇が重くて動かせない。


「翔李さん、愛しています。願わくばずっと、僕の腕の中に居てくれたらいいのに」


 ああ…………。やめてくれ、本当に……、無理、なんだ…………そういうの。




◆◇◆◇◆◇





 遠くでカタカタとキーボードが心地よい音を奏でていた。それは不思議と俺をリラックスさせる音で、俺は穏やかな気持ちでぼんやりと薄く目を開けた。


「あれ……? ここは?」


 俺はゆっくりと体を起こすが、自室の安ベッドのスプリングが軋む音が今日はしない。そこで俺は気が付いた。

 ああそうだ、ここは由岐の家だ……。

 ゆっくりと蘇る記憶と同時に、腰の気怠さや乾いた涙で張り付いた瞼の特有の感覚までもが思い出される。


「由岐?」


 俺がそう呼ぶと、遠くで鳴っていたキーボードのタイピング音がピタリと止んだ。見慣れた小柄な彼が、少し離れたテーブルから歩み寄ってくる。


「起きたんですね。少しはスッキリしましたか?」


 心配そうに俺の顔を覗き込む由岐は、手を伸ばして俺の目元に触れると、乾いた涙の跡を指の腹でなぞる。


「…………何があったか聞かないのか?」


 由岐のただ優しいその仕草に、なぜだか今日はもやもやする。きっとそれは、顔にも出ている。そんな俺の態度に気を悪くするでもなく、由岐は優しく俺をハグする。


「翔李さんが聞いてほしければ聞きますけど?」


 鼓膜を揺らす由岐の声が心地良くて、すぐ側からふわりと由岐の甘い香りが鼻孔をくすぐる。それだけでなんだか堪らなくなってしまって、俺は由岐に縋り付いた。


「俺……っ、失恋してなかったんだっ。ユウキに裏切られてなかった、誤解だったんだ。なのに、俺はちゃんと本人に確認もせずにユウキを裏切り者と決め付けて切り捨てた。勝手にユウキを裏切って、由岐に抱かれて……っ。それなのに昨日だって、由岐の腕の中で……っ、嫌なこと、忘れようって……! 俺っ、最低だ」


 佐々木にも母さんにも、こんなこと言えない。本当なら由岐にだって、言うはずじゃなかった。
 けれどもあまりに由岐のハグが心地良くて、俺は懺悔をするように言葉を絞り出した。泣きすぎて、瞼に涙が染みる。もう泣きたくないのに、それでも涙は次々に込み上がってきて、まっさらな由岐のシャツに染み込んでいった。


「僕に……僕にできる事はありますか?」
「………………えっ?」
「翔李さんが僕以外の他者に対して最低な事をしたかどうかに、僕は興味がありません。ですが、翔李さんにそこまで可愛い泣き顔を見せられたら、味方になってあげたいなという気持ち位は僕にだって湧きますよ?」


 由岐が口にしたのは、とても意外な言葉だった。体を離して由岐の顔を見ると、由岐は相変わらず優しく微笑んで、琥珀色の瞳で真っ直ぐに俺を見つめていた。
 

「また泣かせてほしい夜があれば、泣かせてあげます。優しい腕が欲しければ、抱きしめてあげます」
「な、んで……?」


 俺達は、ただのセフレ。
 由岐は俺をユウキから寝取った訳でもないし、責任を感じる必要も勿論無い。
 ーーーーなのに。

 由岐は困惑した表情の俺の頬の涙にキスをして、ふわりと微笑んだ。
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